【実施例】
【0017】
この出没式筆記具は、軸筒10と、該軸筒10内に進退可能に設けられるとともに前端側に筆記部22a(
図7参照)を有する中芯ユニット20と、軸筒10内にて前記筆記部22aの周囲を覆うシール筒30と、該シール筒30の前端開口部を閉鎖する蓋部材40と、長手方向の中央寄り部分を閉鎖状態の蓋部材40に対し前方側から接触するとともに両端側部分を軸筒後方へ延設して中芯ユニット20に係止したベルト状部材50と、前進した際の中芯ユニット20を軸筒10に係止し且つこの係止状態を径内方向への押圧により解除可能な係脱機構60とを備え、中芯ユニット20の前進に伴い蓋部材40を前方へ回動して開放し筆記部22aをシール筒30及び軸筒10から前方へ突出し、中芯ユニット20の後退に伴い筆記部22aをシール筒30及び軸筒10へ没入して蓋部材40を逆方向へ回動して閉鎖する。
【0018】
軸筒10は、長尺円筒状の部材であり、単一の筒状部材から形成してもよいし、複数の筒状部材を接続することで構成してもよい。
この軸筒10の前端側には、筆記部22aを出没させるための先細筒状の先口部11が設けられ、該先口部11よりも後側の内壁面には、後述する二つのベルト状部材50,50を、それぞれ前方斜め径外方向へ導く傾斜状ガイド部12,12と、傾斜状ガイド部12,12に沿って前進した際のベルト状部材50,50をそれぞれ当接させるための被当接部13,13とを有する。
また、軸筒10の後部寄りの周壁には、中芯ユニット20を軸筒10に係脱する係脱機構60を構成するようにして、ガイド部14、被係止部15、及び操作部16等が設けられる。また、軸筒10内の前端側には、シール筒30前端側の当接突起33に当接されるガイド凹部18aが設けられる。
【0019】
傾斜状ガイド部12は、前方へ向かって径外方向へ傾斜した突起面を有する三角形状のカムであり、
図3(b)及び
図8に示すように、軸筒中心を通る仮想平面を挟むようにして対称に二つ設けられる。これら二つの傾斜状ガイド部12,12は、図示例によれば、頂部側を後方へ向けた平面視略V字状に配設される。
【0020】
二つの被当接部13,13は、それぞれ、二つの傾斜状ガイド部12,12の前端部に交差して径外方向へ延びるとともに、軸筒10の内面から突出する突起である(
図8(a)参照)。
なお、傾斜状ガイド部12,12及び被当接部13,13の径内方向への突出量は、前進した際の筆記部22aに干渉しないように適宜に設定されている。
【0021】
また、ガイド部14は、図示例によれば、軸筒10の周壁を貫通して軸筒軸方向へ連続する長孔であり(
図1及び
図2参照)、後述する被押圧部25bを軸筒軸方向へ導く。
被係止部15は、軸筒10の周壁上において、ガイド部14から前方側に若干離れた位置に設けられた貫通孔であり、後述する被押圧部25b(詳細には係止突起25b1)を係止する。
【0022】
操作部16は、軸筒10の周壁に、該周壁を径方向へ貫通する有端環状(図示例によれば、開口を前方へ向けた平面視略凹字状又は略U字状)の切込み16aを設けることで、該切込み16aの内側部分を弾性的に撓ませて凹ませるように構成される。操作部16の表面は、軸筒10外周面における当該操作部16以外の部分と略面一となるように位置する。
切込み16aの後端部側は、図示した好ましい一例によれば、前述した被係止部15に連通しているが、他例としては、切込み16aと被係止部15を間隔を置いて別々に設けることも可能である。
【0023】
なお、
図3及び
図8中の符号17は、前後方向へ連続する長穴状のガイド部である。このガイド部17は、後述する中芯ユニット20の被ガイド突起21b4(
図8参照)と嵌り合って、中芯ユニット20を前後方向へ所定量進退可能であって回転不能に保持する。
また、
図3中の符号17aは、当該出没式筆記具の製造段階において、後述する被ガイド突起21b4(
図8参照)をガイド部17に嵌め合せる際に、周方向の位置決め等に用いられる切欠部である。
【0024】
また、
図3及び
図8中の符号18は、後述するシール筒30とベルト状部材50の進退を案内するガイド凸部である。このガイド凸部18は、軸筒10の内周面から突出し軸筒軸方向へ伸びる二本のリブから形成され、これらリブ間の内面にガイド凹部18aを有する。
このガイド凸部18の軸筒周方向の外面は、後述するベルト状部材50の切欠部51a(
図4参照)に遊嵌してベルト状部材50の進退を案内する。
また、ガイド凹部18aは、前記二本のリブとこれらリブ間の段部によって平面視凹状(
図3(a)参照)に形成され、後述するシール筒30の当接突起33に嵌り合って、シール筒30の前方への移動及び周方向の回動を規制する。
【0025】
中芯ユニット20は、
図7に示すように、保持筒21と、該保持筒21の前部側に挿入されるチップ22と、保持筒21の後部側に挿入される中綿23と、該中綿23の後部側を覆うようにして保持筒21に接続される尾栓24と、保持筒21の外周面に装着されて軸筒10に係脱する係脱部材25とから一体的に構成される。そして、この中芯ユニット20は、チップ22(筆記部)にインクを供給するインク供給構造として機能する。
【0026】
保持筒21は、図示例によれば、小径筒部21aと、該小径筒部21aの後側に接続された大径筒部21bとからなる段付き筒状に形成される。
【0027】
小径筒部21aは、チップ22の後部側を挿入可能な長尺円筒状に形成される。この小径筒部21aの前端側には、その前後部分よりも若干大径の円筒状突部21a1が設けられる。この円筒状突部21a1は、環状に装着されるシール筒30の内面に摺接して該シール筒30内の気密性を維持するとともにシール筒30に相対し所定量進退するように保持される。
また、小径筒部21aの後端寄りには、後述するベルト状部材50に嵌り合う複数(図示例によれば二つ)の係合突起21a2,21a2が設けられ、小径筒部21aと大径筒部21bの間には段部21a3が形成される。
【0028】
係合突起21a2は、斜め後方を向くようにして径外方向へ突出する突起であり、図示例によれば、小径筒部21aの径方向の両側に略対称に二つ設けられる。
【0029】
段部21a3は、後述するベルト状部材50の後端側が乗越え可能となるように、後方斜め径外方向へ向く傾斜面状であって環状に形成される。
【0030】
また、小径筒部21aの周囲には、
図1に示すように、スプリング26(付勢手段)が環状に装着される。このスプリング26は、圧縮コイルバネであり、その後端側が、小径筒部21aにおける係合突起21a2よりも前側のバネ受け部21a4によって受けられる。バネ受け部21a4は、スプリング26の後端座部の内周面に嵌り合うとともに同後端座部を後方から受けるように形成され、図示例によれば、周方向に連続する断面階段状を呈する。
【0031】
また、大径筒部21bにおける軸方向の中央寄りには、後述する係脱部材25が前後方向へ移動しないように嵌め合せられる環状凹部21b1と、同係脱部材25が周方向へ回らないように係止される凸部21b2とが設けられる。
環状凹部21b1は、前後の環状リブ間に形成された環状の凹部であり、後述する係脱部材25を前後移動不能に保持する。
凸部21b2は、係脱部材25に対し凹凸状に嵌り合って、該係脱部材25を回転不能に保持する。
【0032】
また、
図7中、大径筒部21b前端側の符号21b3は、筆記部22aの突出状態で、軸筒10内で径内方向へ突出する被当接部19に当接することで、中芯ユニット20の前方への移動を規制する規制突起であり、径方向の両側に設けられる。
また、
図8中、符号21b4は、軸筒10周壁のガイド部17に嵌り合うガイド突起であり、図示例によれば径方向の片側のみに設けられる。
【0033】
また、
図7及び
図8中、符号21b5は、被ガイド突起21b4(
図8参照)の突出方向に対し、略直交する後方に貫通する長孔状の貫通部であり、径方向の両側に設けられる。
この貫通部21b5は、当該出没式筆記具の製造段階において、保持筒21を軸筒10に挿入する際に、保持筒21後端側の径内方向への弾性変形を容易にする。すなわち、保持筒21を軸筒10に挿入し組み付ける際、被ガイド突起21b4が、軸筒10の後端縁を乗越えてガイド部17に嵌り合う。この際、保持筒21の後端側は、径内方向へ弾性変形するため、この弾性変形を、貫通部21b5が容易にする。
なお、前記弾性変形は、軸筒10に保持筒21が挿入された後に、保持筒21の後端に尾栓24が挿入され嵌り合うことで抑制される。
【0034】
また、チップ22は、多数の合成樹脂繊維を軸状に収束してなり、その前端部寄りに、後側の部分よりも一回り程太い筆記部22aを有する。該筆記部22aは、例えば砲弾状や斜めカット状等、当該出没式筆記具の用途に応じた適宜形状に形成され、チップ22の後部側が保持筒21に挿入された状態で、保持筒21の前端部から前方へ突出する。
【0035】
中綿23は、円筒状の薄肉フィルム内に収容された多数の合成樹脂繊維にインクを含浸させてなり、保持筒21の後端側に挿入される。保持筒21内において、この中綿23の前端側には、前記チップ22の後端側が差し込まれる。したがって、中綿23内の前記インクは、毛細管力によってチップ22の前端側へ導かれることになる。
【0036】
尾栓24は、有底筒状の部材であり、保持筒21及び中綿23等が軸筒10に装着された後に、中綿23の後端側を覆うようにして、保持筒21の後端部に圧入接続される。
図7中の符号24aは、保持筒21内周面の突起(図示せず)に乗り越え嵌合されて抜止めとなる環状突起である。
この尾栓24は、軸筒10の後端から後方へ突出し、ノック操作部として機能する。
なお、中綿23を内在する保持筒21内の空間は、保持筒21の後部側内周面に形成される環状突起21b6と、尾栓24の先端側外周面24bとの全周にわたる圧接により気密に保持される(
図7参照)。
【0037】
係脱部材25は、弾性的に撓み可能な金属材料から形成され、保持筒21外周に嵌め合せられる環状係止部25aと、該環状係止部25aから後方斜め径外方向へ突出するとともに径内方向へ弾性的に撓み可能な被押圧部25bとから構成される(
図7参照)。
【0038】
環状係止部25aは、弾性的に拡径されて、保持筒21の環状凹部21b1に嵌め合せられるように有端環状に形成される。そして、この環状係止部25aの周方向の両端側には、保持筒21外周の凸部21b2に嵌り合って回り止めとなる係止孔25a1が設けられる(
図7参照)。
【0039】
被押圧部25bは、軸筒10内を前進した際に軸筒10の周壁における操作部16以外の部分に係止されるとともに、この係止状態を操作部16に押圧されて解除するように設けられている。
詳細に説明すれば、この被押圧部25bは、軸筒10周壁の被係止部15に係脱可能な係止突起25b1と、係止突起25b1よりも前側で操作部16に近接又は接触する被押圧面25b2と、係止突起25b1及び被押圧面25b2の周方向の両側に張り出す鍔部25b3とを有する(
図7参照)。
【0040】
係止突起25b1は、例えば、係脱部材25を構成する平板状原材を、プレス加工等により断面略三角形状に曲げ形成され、軸筒10の被係止部15に係止された状態で、軸筒10の外周面よりも径外方向へ突出しない高さを有する。
【0041】
被押圧面25b2は、
図10(f)に示すように、係止突起25b1が被係止部15に係止された状態で、操作部16の裏側に近接又は接触するように配置されている。
【0042】
鍔部25b3は、軸筒10の内周面に当接することで、係止突起25b1が軸筒10の外周面から径外方向へ突出しないようにしている。したがって、この鍔部25b3の外面から係止突起25b1突端までの寸法は、軸筒10周壁の肉厚よりも小さく設定される。
【0043】
また、シール筒30は、筆記部22aを突出した保持筒21の前端側の周囲を覆う略円筒状の部材であり、保持筒21に対し環状に装着される。
このシール筒30の後端側内周面には、保持筒21の前端側外周面(詳細には
図7に示す円筒状突部21a1)に摺接して、該シール筒30から保持筒21にわたる内部の気密性を保持する環状突起31が設けられる(
図5参照)。
シール筒30の後端側外周面には、保持筒21を後方へ付勢するスプリング26(
図1参照)の前端を受ける段部32が設けられる。
また、シール筒30の前端側外周面における径方向の両側には、当接突起33(
図1及び
図5等参照)が設けられる。この当接突起33は、軸筒10内のガイド凹部18aに当接して、シール筒30の前方への移動を規制する。
また、シール筒30の前端側外周面には、蓋部材40を装着するための嵌合突起34が設けられる。
【0044】
蓋部材40は、前記嵌合突起34に嵌合される嵌合片部41と、該嵌合片部に対し交差状に成形された蓋本体部42と、嵌合片部41と蓋本体部42を接続する接続部43(付勢手段)とを具備し、接続部43を弾性的に撓ませて蓋本体部42を回動させる。この蓋部材40は、弾性的に撓むことが可能な合成樹脂材料(例えば、ポリプロピレン等)によって一体成形される。
【0045】
蓋本体部42は、シール筒30の前端開口部の内縁に嵌脱可能な円盤状に形成される。
この蓋本体部42の内面(
図5によれば左端面)には、中心寄りに位置する隆起部42aと、該隆起部42aの周囲に位置する突起42bとが設けられる。
隆起部42aは、蓋部材40の閉鎖状態で、シール筒30内に突出する凸曲面状に形成される。この隆起部42aは、万が一、蓋本体部42がシール筒30に食い込んで開放し難くなった場合等に、前進する筆記部22aを受けて蓋本体部42の開放を容易にする。
突起42bは、周方向に間隔を置いて複数設けられ、蓋部材40の閉鎖状態においてシール筒30前端側内縁に近接又は接触して蓋部材40をセンタリングし、閉鎖状態の蓋部材40が、搬送や使用時の振動等によって径方向へがたつき、シール性が損なわれてしまうようなことを防ぐ。
【0046】
接続部43(付勢手段)は、蓋本体部42を略全開状態にて嵌合片部41に接続する略L字状に形成され、弾性的に撓むことでシール筒30の前端開口部を閉鎖し、逆方向への復元により同前端開口部を開放する。
この接続部43は、蓋本体部42をシール筒30に対し回動可能に支持するとともに開放方向へ付勢する構造であればよく、他例としては、蓋本体部42とシール筒30との間に、蓋本体部42をシール筒30に対し回動させる軸部と、蓋本体部42を開放方向へ付勢する付勢手段(例えば、捩じりバネや板バネ等)を設けた態様とすることも可能である。
【0047】
また、蓋部材の外面(
図5によれば右端面)には、後述するベルト状部材50に対し径方向へ係脱可能な係脱片42cと、径外方向へ撓んだ際のベルト状部材50に対しその径外方向側に位置する規制突部42dとが具備される。
係脱片42cは、
図6(b)に示すように、径方向の両端側に凹部42c1,42c1を有する突片状に形成され、蓋本体部42の中央よりに配置される。凹部42c1,42c1には、後述するベルト状部材50が係脱される。
規制突部42dは、蓋本体部42の径方向の端部側から、径方向に突出して前方へも突出する略L字状の突起であり(
図6(b)参照)、蓋部材40がベルト部52を超えて開放方向へ回動するのを阻む。この規制突部42dは、径方向の両側に対称に位置するように二つ設けられる。
【0048】
また、ベルト状部材50は、
図4に示すように、中芯ユニット20の前端側に環状に遊挿される筒部51と、該筒部51の前端から突出する二つのベルト部52,52と、筒部51の後端から後方へ突出して中芯ユニット20に係止される二つの係止片部53,53とを具備し、弾性的に撓むことが可能な合成樹脂材料(例えば、ポリプロピレン等)によって一体成形されている。
【0049】
筒部51は、保持筒21の前端側(詳細には小径筒部21a)及びスプリング26を遊挿可能な略円筒状の部材であり、その周壁に、切欠部51aを有する。この切欠部51aは、径方向の両側に対称に設けられ、軸筒10内面のガイド凸部18(
図3及び
図8(a)等参照)に遊嵌して、ベルト状部材50が周方向へ回転することなく前後方向へスムーズに進退するようにガイドする。
【0050】
二つのベルト部52,52は、軸筒中心部の両側に位置するように間隔を置いて略平行に設けられる。
各ベルト部52は、長手方向の中央寄り部分を閉鎖状態の蓋部材40(詳細には蓋本体部42)に対し前方側から接触させるとともに、両端側部分をシール筒30外周面に沿って軸筒後方へ延設した略U字状に形成され、その後端部は筒部51に接続されている。
このベルト部52は、径方向へ弾性的に撓むことが可能であり、外力を受けない状態では、
図4に示すように、軸心に対し略平行な初期位置となり、中芯ユニット20と共に前進した際には、軸筒10内の傾斜状ガイド部12に摺接されて径外方向へ撓み、後退した際には径内方向へ復元する。
このベルト部52の前端部は、全閉状態の蓋部材40の前面に接触した初期位置において(
図1及び
図8(a)参照)、蓋部材40における係脱片42cの凹部42c1(
図6(b)参照)に対し、径外方向側から凹凸状に嵌り合う。
【0051】
係止片部53,53は、軸筒中心部の両側に位置するように間隔を置いて設けられる(
図4参照)。
各係止片部53には、保持筒21の係合突起21a2に対し前後スライド可能に嵌り合う長孔状のスライド係合孔53aが設けられる。
【0052】
また、係脱機構60は、上述した係脱部材25や、軸筒10周壁のガイド部14、被係止部15、操作部16等によって構成される機構であり、中芯ユニット20が前進した際に、被押圧部25bの係止突起25b1を、軸筒10側の被係止部15に係止させ、この係止状態を、操作部16に対する押圧操作によって解除する。
【0053】
次に、上記構成の出没式筆記具について、その特徴的な作用効果を詳細に説明する。
先ず、筆記部22aを没入させた初期位置では、
図8(a)に示すように、中芯ユニット20が、被ガイド突起21b4をガイド部17の後端縁に当接又は近接させるように位置する。そして、この状態において、シール筒30は、スプリング26によって前方へ付勢され、当接突起33を軸筒10内周面のガイド凹部18aに当接させる。また、ベルト状部材50は、その前端側の各ベルト部52を、閉鎖状態の蓋部材40の前面に当接させて係脱片42cに係止している。
【0054】
また、前記初期状態において、ベルト状部材50後端側の係止片部53は、スライド係合孔53aを傾斜状の係合突起21a2に係合させることで、
図8(a)等に示すように、径内方向側へ撓んで段部21a3に近接している。すなわち、ベルト状部材50と保持筒21との間には、スプリング26による弾発力が作用するため、この弾発力により、係止片部53が、係合突起21a2の後端傾斜面に押圧されて軸筒中心側へ撓み、該係止片部53の後端が段部21a3に近接する。なお、他例としては、前記初期状態において、係止片部53の後端を段部21a3に接触させることも可能である。
【0055】
次に、
図8(b)に示すように、尾栓24に対するノック操作により、中芯ユニット20に前方への押圧力が加わると、中芯ユニット20は、スプリング26を圧縮させながら、シール筒30との間隔を狭めるようにして前進する。この前進の際、中芯ユニット20の段部21a3がベルト状部材50の後端(詳細には係止片部53後端)に当接して、ベルト状部材50が一体的に前進する。また、この前進は、係止突起25b1とガイド部14との嵌り合いや、被ガイド突起21b4とガイド部17との嵌り合い等によってガイドされる。
そして、この前進に伴い、ベルト状部材50の前端のベルト部52も前進するため、蓋部材40が徐々に開放してゆく。この際の蓋部材40の開放は、基本的には接続部43(
図5参照)の復元力によるが、仮に蓋部材40がシール筒30内に食い込んで開き難い場合であっても、凹部42c1(
図6参照)とベルト部52とが係合し、蓋部材40前面の係脱片42cがベルト部52により前方へ引っ張られるため、スムーズに行われる。
【0056】
図9(c)に示すように、中芯ユニット20が更に前進すると、ベルト状部材50前端のベルト部52が、軸筒10内面の傾斜状ガイド部12に当接する。そして、中芯ユニット20が前進すると、ベルト部52は傾斜状ガイド部12に沿って径外方向へ撓んで係脱片42cから外れる。そして、蓋部材40は、開放方向の復元力により、前記ベルト部52の撓みに伴って、徐々に開放してゆく。
なお、
図9〜
図10では、蓋部材40を明確に示すために、一方のベルト部52を省略している。
【0057】
次に、ベルト状部材50がベルト部52を被当接部13に当接させて前進不能になるとともに、蓋部材40が弾性的な復元力により略全開すると(
図10(e)参照)、ベルト状部材50後端の係止片部53が、段部21a3の傾斜面に沿って拡径し、該段部21a3を後方へ乗り越えるようにして、中芯ユニット20のみが軸筒10に相対し前進し、筆記部22aが、シール筒30前端の開口部から前方へ突出する。
なお、蓋部材40の全開状態では、
図10(e)に示すように、該蓋部材40両側のL字状の規制突部42dが、ベルト部52の内面に当接するため、該蓋部材40がベルト部52よりも径外方向へ回り込んで閉鎖不能になるようなことを防ぐことができる。
【0058】
そして、
図10(f)に示すように、更に中芯ユニット20が前進すると、該中芯ユニット20は、前進不能状態のベルト状部材50における両係止片部53,53間に入り込むようにして前進し、筆記部22aを軸筒10前端から突出させる。
この突出状態は、係脱機構60を構成する被押圧部25bの係止突起25b1が、軸筒10側の被係止部15に係止されることで維持される。
【0059】
前記突出状態から、筆記部22aを没入させる際には、軸筒10周壁の操作部16を径内方向へ押圧して撓ませればよい。つまり、操作部16が径内方向へ撓むと、該操作部16が被押圧部25bに当接して該被押圧部25bを径内方向へ押圧し撓ませる。したがって、被押圧部25bの係止突起25b1が被係止部15から外れて、スプリング26の弾発力により、中芯ユニット20の後退が始まる。この後退は、上記説明と逆の動作により行われる。
【0060】
すなわち、係脱部材25が軸筒10から外れると、先ず、中芯ユニット20(詳細には、保持筒21、チップ22、中綿23、尾栓24及び係脱部材25)のみが、スプリング26の弾発力により、両係止片部53,53の間を後方へスライドし(
図10(f)(e)参照)、筆記部22aが軸筒10内へ没入してゆく。
【0061】
そして、中芯ユニット20の後退が進み、
図10(e)に示すように、係止片部53が段部21a3よりも前側で係合突起21a2に掛けられた状態に位置すると、その後は、
図9(d)に示すように、ベルト状部材50も係合突起21a2に引っ張られて一体的に後退する。このベルト状部材50の後退は、
図10(e)に示すように、筆記部22aがシール筒30内に没入しかけた位置から開始する。
【0062】
この後のベルト状部材50の後退中は、
図9(d)〜(c)に示すように、ベルト部52が、傾斜状ガイド部12に沿って軸筒中心方向へ復元しながら蓋部材40の前面を後方へ押して、蓋部材40を閉鎖させてゆく。
【0063】
さらに、中芯ユニット20及びベルト状部材50が後退すると、
図8(b)に示すように、ベルト部52前端が傾斜状ガイド部12から離れ、二つのベルト部52,52が略平行になって係脱片42c両側に係止され、蓋部材40を後方へ押圧する。
【0064】
そして、前記後退の後、
図8(a)に示すように、筆記部22aがシール筒30内に完全に没入し、蓋部材40が全閉し、該蓋部材40の前面にベルト部52が掛けられ、被押圧部25bがガイド部14内の後端寄りに位置し、初期状態となる。
【0065】
よって、上記実施例によれば、閉鎖状態の蓋部材40をベルト状部材50によって付勢し、シール筒30内の密閉性を向上でき、その上、蓋部材40に対するベルト状部材50の係脱、蓋部材40の開閉回動、筆記部22aの進退等を、好適なタイミングでスムーズに行うことができる。
【0066】
しかも、筆記部22aの突出状態では、軸筒10の周壁を押圧する操作により筆記部22aを容易に没入させることができる上、操作部16や被押圧部25b等が軸筒10の周壁よりも径外方向へ突出しない構造であるため、操作部16や被押圧部25b等に対し机や手、指等の物が当接して、意図せずに筆記部22aが没入してしまうような誤操作を防ぐことができる。
【0067】
よって、筆記部収納時のシール性、出没時の動作性及び操作性の良好な出没式筆記具を提供することができる。
【0068】
なお、上記実施例によれば、シール筒30に対し別部材の蓋部材40を組付けたが、これらシール筒30と蓋部材40を一体の部材とすることも可能である。
【0069】
また、上記実施例によれば、ベルト状部材50の前端側に二つのベルト部52,52を有するようにしたが、他例としては、ベルト部52を単数にした態様や、ベルト部52を周方向に三つ以上設けた態様とすることも可能である。
【0070】
また、上記実施例によれば、ベルト部52が傾斜状ガイド部12の一側面に摺接して撓む態様としたが、他例としては、ベルト部52が傾斜状ガイド部12に対し凹凸状に嵌り合って前進しながら撓む態様等とすることも可能である。
【0071】
また、上記実施例では、被係止部15を軸筒10周壁を貫通するように形成したが、この被係止部15は、係止突起25b1と係脱可能な構成であればよく、この被係止部15の他例としては、軸筒10の内周面に設けた凹部等とすることも可能である。
同様に、ガイド部14,17も、軸筒10の内周面に設けた溝等とすることが可能である。
【0072】
また、上記実施例では、軸筒10周壁の切込み16aの内側部分を弾性的に凹むことが可能な操作部16としたが、他例としては、軸筒10の周壁の一部を弾性体(例えばエラストマー樹脂)等により構成し、この弾性体を弾性的に凹むことが可能な操作部とすることも可能である。
【0073】
また、上記実施例では、操作部16の表面を、軸筒10外周面における操作部16以外の部分と略面一に配置したが、他例としては、操作部16の表面を、軸筒10外周面における操作部16以外の部分よりも凹ませた態様とすることも可能である。
【0074】
また、上記実施例では、操作部16及び被押圧部25bを、軸筒10の周壁に一箇所だけ設けたが、他例としては、これら操作部16及び被押圧部25bを、軸筒10周壁の周方向及び/又は軸方向に複数設けて、より操作性を向上することも可能である。