(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車輪速度と車体速度とから推定されたスリップ量に関連したパラメータと、車両の駆動源の回転数である駆動源回転数と車輪回転数とから推定された推定ギア比を用いて算出された推定駆動トルクとに基いて要求駆動トルクを算出し、当該要求駆動トルクに基いて車輪の駆動力を制御する車両用制御装置であって、
車両の駆動源を制御する駆動源制御装置と、
車輪に付与されるブレーキ力を制御する車両用ブレーキ制御装置と、を備え、
前記駆動源制御装置は、前記推定駆動トルクを算出して前記車両用ブレーキ制御装置に出力するように構成され、
前記車両用ブレーキ制御装置は、
前記駆動源制御装置から出力されてくる前記推定駆動トルクを受信する受信手段と、
前記推定駆動トルクの減少方向への変化を制限する制限処理手段と、
前記制限処理手段で制限された制限駆動トルクを用いて前記要求駆動トルクを算出する要求駆動トルク算出手段と、
前記要求駆動トルクに基いて前記駆動力を制御するブレーキ制御手段と、を備え、
前記ブレーキ制御手段は、前記要求駆動トルク算出手段で算出した前記要求駆動トルクに基いて、前記ブレーキ力を制御することで、前記車輪の駆動力を制御するように構成されていることを特徴とする車両用制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、駆動トルクの算出に用いるギア比を、エンジン回転数と車輪回転数から算出する場合には、車輪の振動により車輪回転数が変動すると、変動する車輪回転数に基いて算出されるギア比が変動するとともに、変動するギア比に基いて算出される駆動トルクも変動してしまうといった問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、駆動トルクが車輪の振動によって変動するのを抑えることができる車両用制御装置および車両用ブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明は、車輪速度と車体速度とから推定されたスリップ量に関連したパラメータと、車両の駆動源の回転数である駆動源回転数と車輪回転数とから推定された推定ギア比を用いて算出された推定駆動トルクとに基いて要求駆動トルクを算出し、当該要求駆動トルクに基いて車輪の駆動力を制御する車両用制御装置であって、
車両の駆動源を制御する駆動源制御装置と、車輪に付与されるブレーキ力を制御する車両用ブレーキ制御装置と、を備え、前記駆動源制御装置は、前記推定駆動トルクを算出して前記車両用ブレーキ制御装置に出力するように構成され、前記車両用ブレーキ制御装置は、前記駆動源制御装置から出力されてくる前記推定駆動トルクを受信する受信手段と、前記推定駆動トルクの減少方向への変化を制限する制限処理手段と、前記制限処理手段で制限された制限駆動トルクを用いて前記要求駆動トルクを算出する要求駆動トルク算出手段と、前記要求駆動トルクに基いて前記駆動力を制御する
ブレーキ制御手段と、を備え
、前記ブレーキ制御手段は、前記要求駆動トルク算出手段で算出した前記要求駆動トルクに基いて、前記ブレーキ力を制御することで、前記車輪の駆動力を制御するように構成されていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、制限処理手段によって推定駆動トルクの減少方向への変化が制限されるので、車輪に振動が発生した場合であっても、駆動トルクの変動を抑制することができる。
【0009】
これによれば、駆動源制御装置で算出する駆動トルク(推定駆動トルク)が車輪の振動によって変動した場合であっても、車両用ブレーキ制御装置によって駆動トルクの変動を抑えることができる。
また、適切な駆動トルク(要求駆動トルク)に基いて、ブレーキ制御を良好に行うことができる。
【0010】
また、前記した構成において、前記車両用ブレーキ制御装置は、前記要求駆動トルク算出手段で算出した前記要求駆動トルクを前記駆動源制御装置に送信する送信手段を備え、前記駆動源制御装置は、
前記要求駆動トルクに基いて前記駆動力を制御する駆動力制御
部を有し、前記駆動力制御
部は、前記車両用ブレーキ制御装置から送信されてくる前記要求駆動トルクに基いて、駆動源の駆動力を制御することで、前記車輪の駆動力を制御するように構成されていてもよい。
【0011】
これによれば、車両用ブレーキ制御装置によって算出した適切な駆動トルク(要求駆動トルク)を、車両用ブレーキ制御装置から駆動源制御装置に提供することができる。
【0014】
また、本発明に係る車両用ブレーキ制御装置は、車輪に付与されるブレーキ力を制御する車両用ブレーキ制御装置であって、車輪速度と車体速度とから推定されたスリップ量に関連したパラメータと、車両の駆動源の回転数である駆動源回転数と車輪回転数とから推定された推定ギア比を用いて算出された推定駆動トルクとに基いて要求駆動トルクを算出し、当該要求駆動トルクに基いて、車輪の駆動力を制御可能であり、前記推定駆動トルクの減少方向への変化を制限する制限処理手段と、前記制限処理手段で制限された制限駆動トルクを用いて前記要求駆動トルクを算出する要求駆動トルク算出手段と、前記要求駆動トルクに基いて前記駆動力を制御する
ブレーキ制御手段
と、前記ブレーキ制御手段に対して前記要求駆動トルクを出力する出力手段と、を備え
、前記ブレーキ制御手段は、前記要求駆動トルクに基いて、前記ブレーキ力を制御することで、前記車輪の駆動力を制御するように構成されていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、制限処理手段によって推定駆動トルクの減少方向への変化が制限されるので、車輪に振動が発生した場合であっても、駆動トルクの変動を抑制することができる。
また、適切な駆動トルク(要求駆動トルク)に基いて、ブレーキ制御を良好に行うことができる。
【0016】
また、前記した構成において、車両の駆動源を制御する駆動源制御装置から出力されてくる前記推定駆動トルクを受信する受信手段を備え、前記出力手段は、前記要求駆動トルクを前記駆動源制御装置に設けられ
た駆動力制御
部に送信する送信手段であってもよい。
【0017】
これによれば、駆動源制御装置で算出する駆動トルク(推定駆動トルク)が車輪の振動によって変動した場合であっても、車両用ブレーキ制御装置によって駆動トルクの変動を抑えることができるので、車両用ブレーキ制御装置によって算出した適切な駆動トルク(要求駆動トルク)を、車両用ブレーキ制御装置から駆動源制御装置に提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、駆動トルクが車輪の振動によって変動するのを抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両用制御装置CCは、駆動源制御装置の一例としてのECU200と、車両用ブレーキ制御装置の一例としての車両用ブレーキ液圧制御装置Aとを備えている。車両CRは、駆動源としてエンジンEG(内燃機関)を備えている。
【0023】
ECU200は、エンジンEGの制御を含めた車両全体の制御を行う制御装置であり、通信線により車両用ブレーキ液圧制御装置Aの制御部100に接続されており、制御部100に対して相互に信号の送受信を行うことが可能となっている。また、ECU200には、車輪Wの車輪角速度を検出する車輪角速度センサ91と、エンジンEGのエンジントルクを検出するトルクセンサ92と、エンジンEGの回転数を検出するエンジン回転数センサ93とが接続されている。
【0024】
ECU200は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)および入出力回路を備えており、制御部100、車輪角速度センサ91、トルクセンサ92およびエンジン回転数センサ93からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各演算処理を行うことによって制御を実行する。
【0025】
車両用ブレーキ液圧制御装置Aは、車両CRの各車輪Wに付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御するためのものであり、油路(液圧路)や各種部品が設けられた液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部100とを主に備えている。
【0026】
制御部100には、車輪角速度センサ91が接続されている。制御部100は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えており、ECU200、車輪角速度センサ91および後述する圧力センサ8(
図2参照)からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各演算処理を行うことによって制御を実行する。
【0027】
ホイールシリンダHは、マスタシリンダMCおよび車両用ブレーキ液圧制御装置Aにより発生されたブレーキ液圧を各車輪Wに設けられた車輪ブレーキFR,FL,RR,RLの作動力に変換する液圧装置であり、それぞれ配管を介して車両用ブレーキ液圧制御装置Aの液圧ユニット10に接続されている。
【0028】
図2に示すように、液圧ユニット10は、運転者がブレーキペダルBPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源であるマスタシリンダMCと、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLとの間に配置されている。液圧ユニット10は、ブレーキ液が流通する油路を有する基体であるポンプボディ10a、油路上に複数配置された入口弁1、出口弁2などから構成されている。
【0029】
マスタシリンダMCの二つの出力ポートM1,M2はポンプボディ10aの入口ポート12Aに接続され、ポンプボディ10aの出口ポート12Bは各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに接続されている。そして、通常時はポンプボディ10a内の入口ポート12Aから出口ポート12Bまでが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルBPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0030】
また、出力ポートM1から始まる油路は前輪左側の車輪ブレーキFLと後輪右側の車輪ブレーキRRに通じており、出力ポートM2から始まる油路は前輪右側の車輪ブレーキFRと後輪左側の車輪ブレーキRLに通じている。なお、以下では、出力ポートM1から始まる油路を「第一系統」と称し、出力ポートM2から始まる油路を「第二系統」と称する。
【0031】
液圧ユニット10には、その第一系統に各車輪ブレーキFL,RRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられており、同様に、その第二系統に各車輪ブレーキRL,FRに対応して二つの制御弁手段Vが設けられている。また、液圧ユニット10には、第一系統および第二系統のそれぞれに、リザーバ3、ポンプ4、オリフィス5a、調圧弁(レギュレータ)R、吸入弁7が設けられている。さらに、液圧ユニット10には、第一系統のポンプ4と第二系統のポンプ4とを駆動するための共通のモータ9が設けられている。このモータ9は、回転数制御可能なモータである。また、本実施形態では、第二系統にのみ圧力センサ8が設けられている。
【0032】
なお、以下では、マスタシリンダMCの出力ポートM1,M2から各調圧弁Rに至る油路を「出力液圧路A1」と称し、第一系統の調圧弁Rから車輪ブレーキFL,RRに至る油路および第二系統の調圧弁Rから車輪ブレーキRL,FRに至る油路をそれぞれ「車輪液圧路B」と称する。また、出力液圧路A1からポンプ4に至る油路を「吸入液圧路C」と称し、ポンプ4から車輪液圧路Bに至る油路を「吐出液圧路D」と称し、さらに、車輪液圧路Bから吸入液圧路Cに至る油路を「開放路E」と称する。
【0033】
制御弁手段Vは、マスタシリンダMCまたはポンプ4側から車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側(詳細には、ホイールシリンダH側)への液圧の行き来を制御する弁であり、ホイールシリンダHの圧力を増加、保持または低下させることができる。そのため、制御弁手段Vは、入口弁1、出口弁2およびチェック弁1aを備えて構成されている。
【0034】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMCとの間、すなわち車輪液圧路Bに設けられた常開型の電磁弁である。入口弁1は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMCから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁1は、車輪Wがロックしそうになったときに制御部100により閉塞されることで、ブレーキペダルBPから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに伝達するブレーキ液圧を遮断する。
【0035】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間、すなわち車輪液圧路Bと開放路Eとの間に介設された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Wがロックしそうになったときに制御部100により開放されることで、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに作用するブレーキ液圧を各リザーバ3に逃がす。
【0036】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入のみを許容する一方向弁であり、ブレーキペダルBPからの入力が解除された場合に、入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0037】
リザーバ3は、開放路Eに設けられており、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液圧を吸収する機能を有している。また、リザーバ3とポンプ4との間には、リザーバ3側からポンプ4側へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁3aが介設されている。
【0038】
ポンプ4は、出力液圧路A1に通じる吸入液圧路Cと車輪液圧路Bに通じる吐出液圧路Dとの間に介設されており、リザーバ3に貯留されているブレーキ液を吸入して吐出液圧路Dに吐出する機能を有している。これにより、リザーバ3により吸収されたブレーキ液をマスタシリンダMCに戻すことができるとともに、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合でもブレーキ液圧を発生して車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに制動力を発生することができる。
なお、ポンプ4のブレーキ液の吐出量は、モータ9の回転数に依存しており、例えば、モータ9の回転数が大きくなると、ポンプ4によるブレーキ液の吐出量も大きくなる。
【0039】
オリフィス5aは、ポンプ4から吐出されたブレーキ液の圧力の脈動および後述する調圧弁Rが作動することにより発生する脈動を減衰させている。
【0040】
調圧弁Rは、通常時に開いていることで、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する。また、調圧弁Rは、ポンプ4が発生したブレーキ液圧によりホイールシリンダH側の圧力を増加するときには、ブレーキ液の流れを遮断しつつ、吐出液圧路D、車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側の圧力を設定値以下に調節する機能を有している。そのため、調圧弁Rは、切換弁6およびチェック弁6aを備えて構成されている。
【0041】
切換弁6は、マスタシリンダMCに通じる出力液圧路A1と各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに通じる車輪液圧路Bとの間に介設された常開型のリニアソレノイド弁である。詳細は図示しないが、切換弁6の弁体は、付与される電流に応じた電磁力によって車輪液圧路BおよびホイールシリンダH側へ付勢されており、車輪液圧路Bの圧力が出力液圧路A1の圧力より所定値(この所定値は、付与される電流による)以上高くなった場合には、車輪液圧路Bから出力液圧路A1へ向けてブレーキ液が逃げることで、車輪液圧路B側の圧力が所定圧に調整される。
【0042】
チェック弁6aは、各切換弁6に並列に接続されている。このチェック弁6aは、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する一方向弁である。
【0043】
吸入弁7は、吸入液圧路Cに設けられた常閉型の電磁弁であり、吸入液圧路Cを開放する状態または遮断する状態に切り換えるものである。吸入弁7は、切換弁6が閉じるとき、すなわち、運転者がブレーキペダルBPを操作しない場合において各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRにブレーキ液圧を作用させるときに制御部100により開放(開弁)される。
【0044】
圧力センサ8は、第二系統の出力液圧路A1のブレーキ液圧を検出、すなわち、マスタシリンダ圧を検出するものであり、その検出結果は制御部100に入力される。
【0045】
次に、ECU200と制御部100の詳細について説明する。
図3に示すように、ECU200は、制御部100、車輪角速度センサ91、トルクセンサ92およびエンジン回転数センサ93から入力された信号に基いて、エンジンEGの駆動力を制御する機能を有している。詳しくは、ECU200は、車両CRの発進時や加速時における車輪Wの空転を抑制するためのトラクション制御を実行可能であり、当該トラクション制御において、エンジンEGの駆動力を低下させることで、各車輪Wの駆動力を一律に低下させている。
【0046】
具体的に、ECU200は、エンジントルク推定部210と、車輪回転数算出部220と、推定ギア比算出部230と、推定駆動トルク算出部240と、駆動力制御手段の一例としての駆動力制御部250とを備えている。
【0047】
エンジントルク推定部210は、トルクセンサ92からの信号に基いてエンジントルクを推定する機能を有している。そして、エンジントルク推定部210は、エンジントルクを推定すると、推定したエンジントルクを推定駆動トルク算出部240に出力する。
【0048】
車輪回転数算出部220は、各車輪角速度センサ91からの信号に基いて各車輪Wの車輪回転数(車輪の回転速度)を算出する機能を有している。そして、車輪回転数算出部220は、駆動輪(例えば前輪駆動であれば前輪)の平均車輪回転数を算出するとともに、算出した平均車輪回転数を推定ギア比算出部230に出力する。
【0049】
推定ギア比算出部230は、エンジン回転数センサ93から出力されてくるエンジン回転数と、車輪回転数算出部220から出力されてくる駆動輪の平均車輪回転数とに基いて、駆動輪のギア比(以下、「推定ギア比」ともいう。)を算出する機能を有している。詳しくは、推定ギア比算出部230は、エンジン回転数を駆動輪の平均車輪回転数で割ることで、駆動輪の推定ギア比を算出している。そして、推定ギア比算出部230は、駆動輪の推定ギア比を算出すると、算出した推定ギア比を推定駆動トルク算出部240に出力するように構成されている。
【0050】
推定駆動トルク算出部240は、エンジントルク推定部210から出力されてくるエンジントルクと、推定ギア比算出部230から出力されてくる駆動輪の推定ギア比とに基いて、駆動輪の推定駆動トルクを算出する機能を有している。詳しくは、推定駆動トルク算出部240は、エンジントルクと駆動輪の推定ギア比とを乗算することで、駆動輪の推定駆動トルクを算出している。そして、推定駆動トルク算出部240は、駆動輪の推定駆動トルクを算出すると、算出した推定駆動トルクを制御部100に送信する。
【0051】
駆動力制御部250は、制御部100から送信されてくる信号(後述する要求駆動トルク)に基いて、エンジンEGの駆動力を制御することで、駆動輪の駆動力を制御する機能を有している。具体的に、駆動力制御部250は、制御部100から送信されてくる要求駆動トルクに基いて、エンジンEGの駆動力が要求駆動トルクに追従するように駆動力を制限する。
【0052】
制御部100は、車輪角速度センサ91やECU200から入力された信号に基づき、液圧ユニット10内の制御弁手段V、調圧弁R(切換弁6)および吸入弁7の開閉動作ならびにモータ9の動作を制御することで、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの動作を制御する機能を有している。詳しくは、制御部100は、車両CRの発進時や加速時における駆動輪の空転を抑制するためのトラクション制御を実行可能であり、当該トラクション制御において、駆動輪の車輪ブレーキで発生するブレーキ力を制御することで、駆動輪の駆動力を制御している。
【0053】
制御部100は、車輪速度算出手段110と、車体速度算出手段120と、スリップ量算出手段130と、受信手段140と、制限処理手段150と、送信手段160と、駆動力制御手段の一例としてのブレーキ制御手段170と、要求駆動トルク算出手段180とを備えている。
【0054】
車輪速度算出手段110は、各車輪角速度センサ91からの信号に基いて各車輪Wの車輪速度を算出する機能を有している。そして、車輪速度算出手段110は、各車輪Wの車輪速度を算出すると、算出した各車輪速度を車体速度算出手段120とスリップ量算出手段130とに出力する。
【0055】
車体速度算出手段120は、車輪速度算出手段110から出力されてくる各車輪速度に基いて車体速度を算出する機能を有している。車体速度の算出方法は、様々な方法を利用できるが、一例を挙げるとすると、例えば、原則として前輪の車輪速度を車体速度とし、前輪の車輪速度の加速度または減速度の大きさが所定の上限値の大きさを超えた場合には、車体速度の加速度または減速度が上限値になるように、車体速度を換算する方法が挙げられる。なお、車両に前後方向の加速度を検出する加速度センサが設けられる場合には、車体速度は、前後方向の加速度に基いて算出してもよい。
【0056】
そして、車体速度算出手段120は、車体速度を算出すると、算出した車体速度をスリップ量算出手段130に出力する。
【0057】
スリップ量算出手段130は、車輪速度算出手段110から出力されてくる各車輪速度と、車体速度算出手段120から出力されてくる車体速度とに基いて、各車輪Wのスリップ量を算出(推定)する機能を有している。なお、各車輪Wのスリップ量は、車輪Wごとに、車体速度から車輪速度を引くことで算出することができる。そして、スリップ量算出手段130は、各車輪Wのスリップ量を算出すると、算出した各スリップ量を要求駆動トルク算出手段180とブレーキ制御手段170に出力する。
【0058】
受信手段140は、ECU200の推定駆動トルク算出部240から出力されてくる推定駆動トルクを受信する機能を有している。そして、受信手段140は、推定駆動トルクを受信すると、受信した推定駆動トルクを制限処理手段150に出力する。
【0059】
制限処理手段150は、受信手段140から出力されてくる推定駆動トルクが継時的に変化する場合には、推定駆動トルクの減少方向への変化を制限するフィルタ処理(制限処理)を実行する機能を有している。具体的に、制限処理手段150は、受信手段140から推定駆動トルクを最初に受け取った時点においては、推定駆動トルクの今回値をそのまま制限駆動トルクの今回値として算出する。その後、制限処理手段150は、制限駆動トルクの前回値から所定値を引いた値と推定駆動トルクの今回値とを比較し、値が大きい方を制限駆動トルクとして算出する。
【0060】
そして、制限処理手段150は、制限駆動トルクを算出すると、算出した制限駆動トルクを要求駆動トルク算出手段180に出力する。
【0061】
要求駆動トルク算出手段180は、スリップ量算出手段130から出力されてくる各車輪Wのスリップ量のうち駆動輪のスリップ量と、制限処理手段150から出力されてくる制限駆動トルクとに基いて要求駆動トルク(制御量)を算出する機能を有している。詳しくは、要求駆動トルク算出手段180は、例えば、スリップ量が所定値以上の場合に、制限駆動トルク(推定駆動トルク)とスリップ量とから目標となるスリップ量に対応した要求駆動トルクを算出する。そして、要求駆動トルク算出手段180は、要求駆動トルクを算出すると、算出した要求駆動トルクを送信手段160とブレーキ制御手段170に出力する。つまり、本実施形態において、要求駆動トルク算出手段180は、ブレーキ側(制御部100側)の駆動力制御手段であるブレーキ制御手段170に要求駆動トルクを出力する出力手段として機能している。
【0062】
送信手段160は、要求駆動トルク算出手段180から出力されてくる要求駆動トルクを、ECU200の駆動力制御部250に送信する機能を有している。つまり、本実施形態において、送信手段160は、エンジンEG側(ECU200側)の駆動力制御手段である駆動力制御部250に要求駆動トルクを出力する出力手段として機能している。そして、このような送信手段160を備える制御部100は、ECU200に要求駆動トルクを送信することで、ECU200を介してエンジンEGの駆動力を制御して、駆動輪の駆動力を制御している。
【0063】
ブレーキ制御手段170は、スリップ量算出手段130から出力されてくる各車輪Wのスリップ量のうち駆動輪のスリップ量と、要求駆動トルク算出手段180から出力されてくる要求駆動トルクに基いて、液圧ユニット10を制御することで、駆動輪の車輪ブレーキで発生するブレーキ力を制御して、駆動輪の駆動力を制御する機能を有している。具体的に、ブレーキ制御手段170は、駆動輪のスリップ量がマイナスの閾値以下であるか否かを判断し、閾値以下であると判断した場合、つまり駆動輪が所定量以上空転している場合には、液圧ユニット10を制御して、対応するホイールシリンダHの圧力を所定のブレーキ圧まで増加することで、駆動輪の駆動力(推定駆動トルク)を要求駆動トルクまで低下させて、駆動輪の空転を抑える制御を行っている。なお、ホイールシリンダHの圧力を増加させる制御は公知であるが、簡単に説明すると、この増加制御において、ブレーキ制御手段170は、モータ9の駆動、吸入弁7の開放、ホイールシリンダH内のブレーキ圧を前記所定のブレーキ圧にするための調圧弁Rに対する指示電流値の出力を行う。
【0064】
次に、ECU200および制御部100による制限駆動トルクの算出方法について詳細に説明する。
車輪Wに振動が発生することで、車輪角速度センサ91からECU200の車輪回転数算出部220に出力される車輪角速度の信号が振動すると、
図4(a)に示すように、車輪回転数算出部220で算出される車輪回転数も振動する。また、このように車輪回転数が振動すると、
図4(b),(c)に示すように、推定ギア比算出部230で算出される推定ギア比や、推定駆動トルク算出部240で算出される推定駆動トルクも、同じように振動する。
【0065】
推定駆動トルク算出部240で算出された推定駆動トルクが、制御部100の受信手段140を介して制限処理手段150に出力されると、
図5に示すように、当該制限処理手段150によって、振動する推定駆動トルクTEがフィルタ処理されることで制限駆動トルクTLとして算出される。詳しくは、制限処理手段150は、受信手段140から推定駆動トルクを受け取った時点(時刻t1)においては、推定駆動トルクTEの今回値をそのまま制限駆動トルクTLとして算出する。
【0066】
その後、制限処理手段150は、制限駆動トルクTLの前回値から所定値T1を引いた値と推定駆動トルクTEの今回値(例えば時刻t2の値)とを比較し、値が大きい方を制限駆動トルクTLとして算出する。これにより、車輪Wに振動が発生した場合であっても、制限駆動トルクTLの振動が抑えられ、ひいてはトラクション制御を行う駆動力制御部250やブレーキ制御手段170で利用する要求駆動トルクの振動が抑えられるので、トラクション制御を良好に行うことができる。
【0067】
なお、車輪Wの振動は、車輪速度算出手段110で車輪速度を算出する場合にも影響するので、車輪速度算出手段110において、制限処理手段150と同じようなフィルタ処理を車輪角速度や車輪速度に対して行ってもよい。
【0068】
以上、本実施形態によれば、前述した効果に加え、以下のような効果を得ることができる。
【0069】
車両用ブレーキ液圧制御装置Aの制御部100に制限処理手段150を設けたので、例えばECUに制限処理手段を設ける構成に比べ、ECUの構成を簡易化することができる。また、車両用ブレーキ液圧制御装置A側の制限処理手段150で制限された制限駆動トルクを用いて算出される要求駆動トルクがECU200に送信されるので、車両用ブレーキ液圧制御装置Aによって算出した適切な要求駆動トルクをECU200で有効に利用することができる。
【0070】
制限処理手段150で制限された制限駆動トルクを用いて算出される要求駆動トルクに基いてブレーキ制御を行うので、ブレーキ制御を良好に行うことができる。
【0071】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
前記実施形態では、車輪の駆動力の制御の一例としてトラクション制御を例示したが、本発明はこれに限定されず、トラクション制御以外であっても、車輪の駆動力の制御であれば、どのような制御であってもよい。
【0072】
前記実施形態では、車両用制御装置をエンジン制御装置(ECU200)と車両用ブレーキ制御装置(車両用ブレーキ液圧制御装置A)とで構成したが、本発明はこれに限定されず、例えば車両用ブレーキ制御装置のみで構成してもよい。また、車両用ブレーキ制御装置は、前記実施形態のような車両用ブレーキ液圧制御装置Aに限定されず、例えばブレーキ液を利用せずに電動モータによりブレーキ力を発生させる電動ブレーキ装置を制御するための制御装置であってもよい。
【0073】
前記実施形態では、スリップ量に関連するパラメータをスリップ量としたが、本発明はこれに限定されず、パラメータは、例えば、スリップ量を車体速度で割った値(スリップ率)であってもよい。
【0074】
前記実施形態では、駆動源としてエンジンEGを例示したが、本発明はこれに限定されず、駆動源は、例えば電気自動車やハイブリッド自動車に設けられる電動モータであってもよい。なお、この場合、駆動源制御装置は、電動モータを制御する制御装置であればよい。
【0075】
前記実施形態では、車両用ブレーキ制御装置(車両用ブレーキ液圧制御装置A)に制限処理手段150を設けたが、本発明はこれに限定されず、駆動源制御装置に制限処理手段を設けてもよい。