(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
免疫炎症性疾患が関節リウマチ、自己免疫性肝炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性水疱症、自己免疫性副腎皮質炎、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少性紫斑病、巨赤血球性貧血、自己免疫性萎縮性胃炎、自己免疫性好中球減少症、自己免疫性精巣炎、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性レセプター病、自己免疫不妊、慢性活動型肝炎、糸球体腎炎、間質性肺腺維症、多発性硬化症、パジュット症、オステオポローシス、多発性骨髄腫、ブドウ膜炎、急性及び慢性脊椎炎、痛風性関節炎、炎症性腸疾患、成人呼吸促進症候群(ARDS)、乾癬、クローン病、バセドウ病、若年性糖尿病、アジソン病、重症筋無力症、水晶体性ブドウ膜炎、全身性エリテマトーデス、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎、過敏症、ぜん息、筋肉変性、悪液質、全身性強皮症、限局性強皮症、シェーグレン症候群、ベーチェット病、ライター症候群、I型及びII型糖尿病、骨吸収疾患、移植片vs.宿主反応、虚血性再灌流外傷、アテローム硬化症、脳トラウマ、多発生硬化症、大脳マラリア、敗血症、敗血性ショック、トキシックショック症候群、発熱、及び染色によるマルギアス(malgias)、再生不良性貧血、溶血性貧血、突発性血小板減少症、グッドパスチャー症候群、ギラン・バレー症候群、橋本病、天疱瘡、IgA腎症、花粉症、抗リン脂質抗体症候群、多発性筋炎、ウェゲナー肉腫、結節性動脈炎、混合性結合組織病、または線維筋痛症である、請求項32に記載の治療剤又は予防剤。
癌が膵臓癌、前立腺癌、乳癌、皮膚癌、消化管の癌、肺癌、肝細胞癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、卵管癌、膣癌、肝臓癌、胆管癌、膀胱癌、尿管の癌、甲状腺癌、副腎癌、腎臓癌、その他の腺組織の癌、脂肪肉腫、平滑筋肉腫、黄紋筋肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫、線維肉腫、悪性末梢神経腫瘍、消化管間質系腫瘍、類腱腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、白血病、リンパ腫、骨髄腫、又はその他の実質臓器の腫瘍である、請求項32に記載の治療剤または予防剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、その目的は、抗体Fc領域のアミノ酸を改変することにより、安定性を向上させたポリペプチドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、改変型Fc領域の創出においては、抗体の安定性を維持しながら機能が増強されたもの、あるいは、機能増強に伴って低下した安定性を回復させたものであることが望ましいと考えた。
本発明者らは鋭意研究を行った結果、抗体のFc領域を有するポリペプチドであって、該Fc領域のループ部位における少なくとも一つのアミノ酸を改変する事で、親ポリペプチドと比較して、安定性が向上したポリペプチドを取得することに成功した。
さらに、ループ部位のアミノ酸の改変を複数組み合わせることで、親ポリペプチドと比較して、熱安定性を向上させつつFcγRへの結合活性が維持又は増強したポリペプチド、及び熱安定性を向上させつつFcγRへの結合活性が減少したポリペプチドを取得することに成功した。さらには、熱安定性を向上させつつFcγRへの結合活性を調整するだけでなく、会合体含有量が減少したポリペプチドを取得することに成功した。
【0010】
すなわち本発明は、以下に関する。
〔1〕 抗体のFc領域を有するポリペプチドであって、該Fc領域のループ部位における少なくとも一つのアミノ酸が改変され、親ポリペプチドと比較して安定性が向上したポリペプチド。
〔2〕 前記安定性が熱変性中点(Tm)を指標として評価あるいは判断される、〔1〕に記載のポリペプチド。
〔3〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング236番目、EUナンバリング237番目、EUナンバリング238番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング247番目、EUナンバリング250番目、EUナンバリング265番目、EUナンバリング266番目、EUナンバリング267番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング269番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング271番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、EUナンバリング300番目、EUナンバリング307番目、EUナンバリング309番目、EUナンバリング315番目、EUナンバリング324番目、EUナンバリング325番目、EUナンバリング326番目、EUナンバリング327番目、EUナンバリング329番目、EUナンバリング330番目、EUナンバリング333番目、EUナンバリング335番目、EUナンバリング337番目、EUナンバリング360番目、EUナンバリング385番目、EUナンバリング386番目、EUナンバリング387番目、EUナンバリング389番目、EUナンバリング428番目、及びEUナンバリング433番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されている、〔1〕または〔2〕に記載のポリペプチド。
〔4〕 さらに、親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が維持又は増強した、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔5〕 さらに、親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が減少した、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔6〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング266番目、EUナンバリング267番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング269番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、EUナンバリング300番目、EUナンバリング324番目、EUナンバリング325番目、EUナンバリング326番目、及びEUナンバリング330番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されている、〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔7〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング266番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング269番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング300番目、EUナンバリング324番目、EUナンバリング326番目、及びEUナンバリング330番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されている、〔1〕〜〔4〕、〔6〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔8〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のIleへの置換、EUナンバリング266番目のアミノ酸のIleへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のGlnへの置換、EUナンバリング269番目のアミノ酸のAspへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のGluへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMet又はLeuへの置換、EUナンバリング300番目のアミノ酸のGluへの置換、EUナンバリング324番目のアミノ酸のHisへの置換、EUナンバリング326番目のアミノ酸のSer又はAlaへの置換、及びEUナンバリング330番目のアミノ酸のHis又はTyrへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔1〕〜〔4〕、〔6〕、〔7〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔9〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング267番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されている、〔1〕〜〔3〕、〔5〕、〔6〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔10〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング267番目のアミノ酸のProへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のMet又はLysへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPheへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のGly、His又はMetのいずれかへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔1〕〜〔3〕、〔5〕、〔6〕、〔9〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔11〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング295番目、EUナンバリング326番目、及びEUナンバリング330番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されている、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔12〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMet又はLeuへの置換、EUナンバリング326番目のアミノ酸のSer又はAlaへの置換、及びEUナンバリング330番目のアミノ酸のHis又はTyrへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔1〕〜〔4〕、〔11〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔13〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されている、〔1〕〜〔3〕、〔5〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔14〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLys又はSerへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のLys又はHisへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPhe又はAspへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔1〕〜〔3〕、〔5〕、〔13〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔15〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸配列において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されている、〔1〕〜〔3〕、〔5〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔16〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPheへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔1〕〜〔3〕、〔5〕、〔15〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔17〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸配列において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されている、〔1〕〜〔3〕、〔5〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔18〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔1〕〜〔3〕、〔5〕、〔17〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔19〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されている、〔1〕〜〔3〕、〔5〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔20〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPheへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔1〕〜〔3〕、〔5〕、〔19〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔21〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変部位が、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されている、〔1〕〜〔3〕、〔5〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔22〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔1〕〜〔3〕、〔5〕、〔21〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔23〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング247番目、EUナンバリング250番目、EUナンバリング307番目、EUナンバリング309番目、EUナンバリング315番目、EUナンバリング360番目、EUナンバリング385番目、EUナンバリング386番目、EUナンバリング387番目、EUナンバリング389番目、EUナンバリング428番目、及びEUナンバリング433番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されている、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔24〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング247番目のアミノ酸のValへの置換、EUナンバリング250番目のアミノ酸のPhe、Ile、Met、Val、Trp、又はTyrのいずれかへの置換、EUナンバリング307番目のアミノ酸のAla、Gln、又はProのいずれかへの置換、EUナンバリング309番目のアミノ酸のAla、Arg、又はProのいずれかへの置換、EUナンバリング315番目のアミノ酸のAlaへの置換、EUナンバリング360番目のアミノ酸のHisへの置換、EUナンバリング385番目のアミノ酸のAspへの置換、EUナンバリング386番目のアミノ酸のProへの置換、EUナンバリング387番目のアミノ酸のGluへの置換、EUナンバリング389番目のアミノ酸のSerへの置換、EUナンバリング428番目のアミノ酸のHis、Trp、Tyr、またはPheのいずれかへの置換、及びEUナンバリング433番目のアミノ酸のLysへの置換からなる群より選択される少なくも一つ以上のアミノ酸改変である、〔1〕〜〔4〕、〔23〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔25〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング298番目又はEUナンバリング309番目のアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されている、〔1〕〜〔3〕、〔5〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔26〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング309番目のアミノ酸のAspへの置換からなる群より選択される、少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔1〕〜〔3〕、〔5〕、〔25〕のいずれか一項に記載のポリペプチド。
〔27〕 抗体のFc領域を有するポリペプチドにおいて、該Fc領域のループ部位に少なくとも一つのアミノ酸改変を加えることにより、親ポリペプチドと比較して安定性を向上させる方法。
〔28〕 前記安定性を熱変性中点(Tm)を指標として評価あるいは判断する、〔27〕に記載の方法。
〔29〕 以下の工程を含む、抗体のFc領域を有し、該Fc領域のループ部位における少なくとも一つのアミノ酸が改変され、親ポリペプチドと比較して安定性が向上したポリペプチドの製造方法;
(a)抗体のFc領域を有するポリペプチドにおいて、該Fc領域のループ部位に少なくとも一つのアミノ酸改変を加える工程、
(b)前記工程(a)で改変されたポリペプチドの安定性を測定する工程、および
(c)親ポリペプチドと比較して、安定性が向上したポリペプチドを選択する工程。
〔30〕 以下の工程を含む、抗体のFc領域を有し、該Fc領域のループ部位における少なくとも一つのアミノ酸が改変され、親ポリペプチドと比較して安定性が向上したポリペプチドの製造方法;
(a)親ポリペプチドと比較して、安定性が向上するように、当該ポリペプチドをコードする核酸を改変する工程、
(b)宿主細胞に当該改変された核酸を導入し発現するように培養する工程、
(c)宿主細胞培養物から当該ポリペプチドを回収する工程。
〔31〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング236番目、EUナンバリング237番目、EUナンバリング238番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング247番目、EUナンバリング250番目、EUナンバリング265番目、EUナンバリング266番目、EUナンバリング267番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング269番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング271番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、EUナンバリング300番目、EUナンバリング307番目、EUナンバリング309番目、EUナンバリング315番目、EUナンバリング324番目、EUナンバリング325番目、EUナンバリング326番目、EUナンバリング327番目、EUナンバリング329番目、EUナンバリング330番目、EUナンバリング333番目、EUナンバリング335番目、EUナンバリング337番目、EUナンバリング360番目、EUナンバリング385番目、EUナンバリング386番目、EUナンバリング387番目、EUナンバリング389番目、EUナンバリング428番目、及びEUナンバリング433番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異を導入する、〔27〕〜〔30〕のいずれか一項に記載の方法。
〔32〕 さらに親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性を維持又は増強するように改変する工程を含む、〔27〕〜〔31〕のいずれか一項に記載の方法。
〔33〕 さらに、親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が減少するように改変する工程を含む、〔27〕〜〔31〕のいずれか一項に記載の方法。
〔34〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング266番目、EUナンバリング267番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング269番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、EUナンバリング300番目、EUナンバリング324番目、EUナンバリング325番目、EUナンバリング326番目、及びEUナンバリング330番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異を導入する、〔27〕〜〔33〕のいずれか一項に記載の方法。
〔35〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング266番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング269番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング300番目、EUナンバリング324番目、EUナンバリング326番目、及びEUナンバリング330番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異を導入する、〔27〕〜〔32〕、〔34〕のいずれか一項に記載の方法。
〔36〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のIleへの置換、EUナンバリング266番目のアミノ酸のIleへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のGlnへの置換、EUナンバリング269番目のアミノ酸のAspへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のGluへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMet又はLeuへの置換、EUナンバリング300番目のアミノ酸のGluへの置換、EUナンバリング324番目のアミノ酸のHisへの置換、EUナンバリング326番目のアミノ酸のSer又はAlaへの置換、及びEUナンバリング330番目のアミノ酸のHis又はTyrへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔27〕〜〔32〕、〔34〕、〔35〕のいずれか一項に記載の方法。
〔37〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング267番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異を導入する、〔27〕〜〔31〕、〔33〕、〔34〕のいずれか一項に記載の方法。
〔38〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング267番目のアミノ酸のProへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のMet又はLysへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPheへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のGly、His又はMetのいずれかへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔27〕〜〔31〕、〔33〕、〔34〕、〔37〕のいずれか一項に記載の方法。
〔39〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング295番目、EUナンバリング326番目、及びEUナンバリング330番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異を導入する、〔27〕〜〔32〕のいずれか一項に記載の方法。
〔40〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング295番目のMet又はLeuへの置換、EUナンバリング326番目のSer又はAlaへの置換、及びEUナンバリング330番目のHis又はTyrへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔27〕〜〔32〕、〔39〕のいずれか一項に記載の方法。
〔41〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目又はEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異を導入する、〔27〕〜〔31〕、〔33〕のいずれか一項に記載の方法。
〔42〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLys又はSerへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のLys又はHisへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPhe又はAspへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔27〕〜〔31〕、〔33〕、〔41〕のいずれか一項に記載の方法。
〔43〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異を導入する、〔27〕〜〔31〕、〔33〕のいずれか一項に記載の方法。
〔44〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPheへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔27〕〜〔31〕、〔33〕、〔43〕のいずれか一項に記載の方法。
〔45〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異を導入する、〔27〕〜〔31〕、〔33〕のいずれか一項に記載の方法。
〔46〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔27〕〜〔31〕、〔33〕、〔45〕のいずれか一項に記載の方法。
〔47〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異を導入する、〔27〕〜〔31〕、〔33〕のいずれか一項に記載の方法。
〔48〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPheへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔27〕〜〔31〕、〔33〕、〔47〕のいずれか一項に記載の方法。
〔49〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異を導入する、〔27〕〜〔31〕、〔33〕のいずれか一項に記載の方法。
〔50〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔27〕〜〔31〕、〔33〕、〔49〕のいずれか一項に記載の方法。
〔51〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング247番目、EUナンバリング250番目、EUナンバリング307番目、EUナンバリング309番目、EUナンバリング315番目、EUナンバリング360番目、EUナンバリング385番目、EUナンバリング386番目、EUナンバリング387番目、EUナンバリング389番目、EUナンバリング428番目、及びEUナンバリング433番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異を導入する、〔27〕〜〔32〕のいずれか一項に記載の方法。
〔52〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング247番目のアミノ酸のValへの置換、EUナンバリング250番目のアミノ酸のPhe、Ile、Met、Val、Trp、又はTyrのいずれかへの置換、EUナンバリング307番目のアミノ酸のAla、Gln、又はProのいずれかへの置換、EUナンバリング309番目のアミノ酸のAla、Arg、又はProのいずれかへの置換、EUナンバリング315番目のアミノ酸のAlaへの置換、EUナンバリング360番目のアミノ酸のHisへの置換、EUナンバリング385番目のアミノ酸のAspへの置換、EUナンバリング386番目のアミノ酸のProへの置換、EUナンバリング387番目のアミノ酸のGluへの置換、EUナンバリング389番目のアミノ酸のSerへの置換、EUナンバリング428番目のアミノ酸のHis、Trp、Tyr、またはPheのいずれかへの置換、及びEUナンバリング433番目のアミノ酸のLysへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔27〕〜〔32〕、〔51〕のいずれか一項に記載の方法。
〔53〕 前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング298番目又はEUナンバリング309番目のアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異を導入する、〔27〕〜〔31〕、〔33〕のいずれか一項に記載の方法。
〔54〕 前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング309番目のアミノ酸のAspへの置換からなる群より選択される、少なくとも一つ以上のアミノ酸改変である、〔27〕〜〔31〕、〔33〕、〔53〕のいずれか一項に記載の方法。
〔55〕 前記改変が、ヒトIgGのFc領域を有するポリペプチドにおける改変である、〔27〕〜〔54〕のいずれか一項に記載の方法。
〔56〕 抗体のFc領域を有するポリペプチドであって、Fc領域のループ部位の少なくとも一つのアミノ酸が改変され、親ポリペプチドと比較して安定性が向上したポリペプチドをコードする核酸。
〔57〕 〔56〕に記載の核酸を含むベクター。
〔58〕 〔57〕に記載のベクターにより形質転換された宿主細胞。
〔59〕 〔1〕〜〔26〕のいずれかに記載のポリペプチド、または〔27〕〜〔55〕のいずれかに記載の方法により作製されたポリペプチドを含有する医薬組成物。
〔60〕 〔59〕に記載の医薬組成物を含有する免疫炎症性疾患または癌の治療剤又は予防剤。
〔61〕 免疫炎症性疾患が関節リウマチ、自己免疫性肝炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性水疱症、自己免疫性副腎皮質炎、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少性紫斑病、巨赤血球性貧血、自己免疫性萎縮性胃炎、自己免疫性好中球減少症、自己免疫性精巣炎、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性レセプター病、自己免疫不妊、慢性活動型肝炎、糸球体腎炎、間質性肺腺維症、多発性硬化症、パジュット症、オステオポローシス、多発性骨髄腫、ブドウ膜炎、急性及び慢性脊椎炎、痛風性関節炎、炎症性腸疾患、成人呼吸促進症候群(ARDS)、乾癬、クローン病、バセドウ病、若年性糖尿病、アジソン病、重症筋無力症、水晶体性ブドウ膜炎、全身性エリテマトーデス、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎、過敏症、ぜん息、筋肉変性、悪液質、全身性強皮症、限局性強皮症、シェーグレン症候群、ベーチェット病、ライター症候群、I型及びII型糖尿病、骨吸収疾患、移植片vs.宿主反応、虚血性再灌流外傷、アテローム硬化症、脳トラウマ、多発生硬化症、大脳マラリア、敗血症、敗血性ショック、トキシックショック症候群、発熱、及び染色によるマルギアス(malgias)、再生不良性貧血、溶血性貧血、突発性血小板減少症、グッドパスチャー症候群、ギラン・バレー症候群、橋本病、天疱瘡、IgA腎症、花粉症、抗リン脂質抗体症候群、多発性筋炎、ウェゲナー肉腫、結節性動脈炎、混合性結合組織病、または線維筋痛症である、〔60〕に記載の治療剤又は予防剤。
〔62〕 癌が膵臓癌、前立腺癌、乳癌、皮膚癌、消化管の癌、肺癌、肝細胞癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、卵管癌、膣癌、肝臓癌、胆管癌、膀胱癌、尿管の癌、甲状腺癌、副腎癌、腎臓癌、その他の腺組織の癌、脂肪肉腫、平滑筋肉腫、黄紋筋肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫、線維肉腫、悪性末梢神経腫瘍、消化管間質系腫瘍、類腱腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、白血病、リンパ腫、骨髄腫、又はその他の実質臓器の腫瘍である、〔60〕に記載の治療剤または予防剤。
〔63〕 〔1〕〜〔26〕のいずれかに記載のポリペプチド、または〔27〕〜〔55〕のいずれかに記載の方法により作製されたポリペプチドを対象に投与する工程を含む、免疫炎症性疾患または癌を治療又は予防する方法。
〔64〕 免疫炎症性疾患または癌の治療又は予防において使用するための、〔1〕〜〔26〕のいずれかに記載のポリペプチド、または〔27〕〜〔55〕のいずれかに記載の方法により作製されたポリペプチド。
〔65〕 免疫炎症性疾患または癌の治療剤又は予防剤の製造における、〔1〕〜〔26〕のいずれかに記載のポリペプチド、または〔27〕〜〔55〕のいずれかに記載の方法により作製されたポリペプチドの使用。
〔66〕 〔1〕〜〔26〕のいずれかに記載のポリペプチド、または〔27〕〜〔55〕のいずれかに記載の方法により作製されたポリペプチドを使用する工程を含む、免疫炎症性疾患または癌の治療剤又は予防剤を製造する方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、抗体Fc領域のループ部位にアミノ酸置換を導入することで親ポリペプチドと比較して安定性が向上した該Fc領域を有するポリペプチドを提供する。
さらに本発明は、抗体Fc領域のループ部位にアミノ酸置換を導入することで親ポリペプチドと比較して、該Fc領域を有するポリペプチドの安定性を向上させる方法を提供する。さらに本発明は、抗体Fc領域のループ部位にアミノ酸置換を導入することで親ポリペプチドと比較して安定性が向上した該Fc領域を有するポリペプチドの製造方法を提供する。
【0013】
本発明におけるポリペプチドとは、通常、10アミノ酸程度以上の長さを有するペプチド、およびタンパク質を指す。また、通常、生物由来のポリペプチドであるが、特に限定されず、例えば、人工的に設計された配列からなるポリペプチドであってもよい。また、天然ポリペプチド、あるいは合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれであってもよい。また、ポリペプチドは抗体であってもよい。本発明のポリペプチドの好ましい例として、ヒトIgGを挙げることができる。抗体としてヒトIgGを用いる場合、その定常領域の種類は限定されず、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのアイソタイプ(サブクラス)のヒトIgGを用いることが可能である。
【0014】
本明細書で「親ポリペプチド」とは、本発明の抗体のFc領域を有するポリペプチドの作製の基礎あるいは基準となるポリペプチドを意味する。即ち、抗体のFc領域を有するポリペプチドであって、該Fc領域における少なくとも一つのアミノ酸が改変される前のポリペプチドであることができる。本発明における親ポリペプチドは、例えば、天然型IgGのFc領域を有するポリペプチドであってもよく、また天然型IgGに本発明のアミノ酸改変以外の改変が加えられたIgGのFc領域を有するポリプチドであってもよい。
【0015】
天然型IgGとは天然に見出されるIgGと同一のアミノ酸配列を包含し、免疫グロブリンガンマ遺伝子により実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドを意味する。例えば天然型ヒトIgGとは天然型ヒトIgG1、天然型ヒトIgG2、天然型ヒトIgG3、天然型ヒトIgG4などを意味する。天然型IgGにはそれから自然に生じる変異体等も含まれる。
天然型IgGのFc領域とは、天然に見出されるIgGを起源とするFc領域と同一のアミノ酸配列を包含するFc領域を意味する。天然型IgGのFc領域は
図3(配列番号:11〜14)に示しているが、例えば天然型ヒトIgG1を起源とするFc領域、天然型ヒトIgG2を起源とするFc領域、天然型ヒトIgG3を起源とするFc領域、天然型ヒトIgG4を起源とするFc領域を意味する。天然型IgGのFc領域にはそれから自然に生じる変異体等も含まれる。
【0016】
本発明のアミノ酸位置はKabatにしたがって規定される(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health, Bethesda, Md., 1987年および1991年)。本明細書において、抗体のFc領域のアミノ酸の改変部位はKabatのアミノ酸位置に準じたEUナンバリングにしたがって表される。
【0017】
本発明においては、αへリックスやβシートをつなぐ部分をループと呼び、その長さや構造に決まりはない。本発明においては、CH2ドメインのβシートとβシートをつなぐ部分をループ、ループ部位、ループ部分、あるいはループ構造とよぶ。本発明において改変に供される具体的なループ部位のアミノ酸位置は、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング236番目、EUナンバリング237番目、EUナンバリング238番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング247番目、EUナンバリング250番目、EUナンバリング265番目、EUナンバリング266番目、EUナンバリング267番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング269番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング271番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、EUナンバリング300番目、EUナンバリング307番目、EUナンバリング309番目、EUナンバリング315番目、EUナンバリング324番目、EUナンバリング325番目、EUナンバリング326番目、EUナンバリング327番目、EUナンバリング329番目、EUナンバリング330番目、EUナンバリング333番目、EUナンバリング335番目、EUナンバリング337番目、EUナンバリング360番目、EUナンバリング385番目、EUナンバリング386番目、EUナンバリング387番目、EUナンバリング389番目、EUナンバリング428番目、及びEUナンバリング433番目からなる群より選択される。
【0018】
「Fc領域」は、抗体分子中の、ヒンジ部若しくはその一部、CH2、CH3ドメインからなるフラグメントを含む領域のことをいう。IgGクラスのFc領域は、KabatのEU ナンバリング(本明細書ではEU INDEXとも呼ばれる)(
図3参照)で、例えば226番目のシステインからC末端、あるいは230番目のプロリンからC末端までを意味するが、これに限定されない。
Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体等をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、プロテインAカラムに吸着された画分を再溶出することによって好適に取得され得る。かかる蛋白質分解酵素としてはpH等の酵素の反応条件を適切に設定することにより制限的にFabやF(ab')2を生じるように全長抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、ペプシンやパパイン等が例示できる。
【0019】
本発明のポリペプチドとして、親ポリペプチドと比較して安定性が向上したFc領域を有するポリペプチドが挙げられる。親ポリペプチドと比較して安定性が向上したFc領域を有するポリペプチドの好ましい態様として、例えば該Fc領域のループ部位において少なくとも一つのアミノ酸が改変されているポリペプチドが挙げられる。
【0020】
本発明は、抗体(例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4))のFc領域のループ部位に対して、該IgGのEUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング236番目、EUナンバリング237番目、EUナンバリング238番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング247番目、EUナンバリング250番目、EUナンバリング265番目、EUナンバリング266番目、EUナンバリング267番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング269番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング271番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、EUナンバリング300番目、EUナンバリング307番目、EUナンバリング309番目、EUナンバリング315番目、EUナンバリング324番目、EUナンバリング325番目、EUナンバリング326番目、EUナンバリング327番目、EUナンバリング329番目、EUナンバリング330番目、EUナンバリング333番目、EUナンバリング335番目、EUナンバリング337番目、EUナンバリング360番目、EUナンバリング385番目、EUナンバリング386番目、EUナンバリング387番目、EUナンバリング389番目、EUナンバリング428番目、及びEUナンバリング433番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸の改変が導入されているFc領域を含む抗体Fc領域を提供する。例えばヒトIgGに上記改変を導入することにより、親ポリペプチドと比較して安定性が向上したポリペプチドを提供することが可能である。
【0021】
さらに、本発明は、抗体(例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4))のFc領域のループ部位に対して、該IgGのEUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング266番目、EUナンバリング267番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング269番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、EUナンバリング300番目、EUナンバリング324番目、EUナンバリング325番目、EUナンバリング326番目、及びEUナンバリング330番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されているFc領域を含む抗体Fc領域を提供する。
【0022】
本明細書において、「安定性」とは、例えばポリペプチドの熱力学的な安定性を意味するが、これに制限されない。ポリペプチドの熱力学的な安定性は、例えばCH2領域の熱変性中点(Tm)などを指標として評価や判断をすることができる。即ち本発明のポリペプチドは、熱変性中点(Tm)を指標として評価あるいは判断することが好ましい。TmはCD(circular dichroism;円二色性)、DSC(differential scanning calorimetry;示査走査型熱量計)、DSF(differential scanning fluorometry;示査走査型蛍光定量法)により測定することが可能である。
【0023】
熱安定性評価を実施する際に用いられる上述の手法は、IgGの形のサンプルを測定に供した場合にCH2、CH3、ならびにFabの3領域の熱安定性を独立して評価することが可能である。Fc領域のCH2とCH3ではCH2のほうが熱安定性が低いことから、CH2の熱安定性を向上させることがFc領域の熱安定性向上につながると考えられる。
【0024】
また、IgGは高度に制御された立体構造を保っており、各領域の立体構造や物理学的安定性が相互に影響する。つまり、ある領域に導入した改変が他の領域にも影響を及ぼし、IgG全体の立体構造や物理学的安定性を変化させる場合がある。このため、改変導入の効果を評価するにあたっては、IgGの形で評価を実施することが望ましい。以上の理由から、本明細書ではIgGの形で作製した改変抗体のCH2領域の熱安定性評価を実施した。
【0025】
CDは、昇温にともなう平均残基モル楕円率(θ)の変化を観測することにより、Tmを算出する。CDの測定機器としては、例えば円二色性分散計(日本分光)があげられる。適当な一波長(例えば208 nmや222 nm)において温度を上昇させながらCDスペクトルを測定すると、ある温度でθが上昇し、それ以降の温度では一定の値となる。このとき、低温時のθと高温時のθの中点の値をとる温度をTmとする。測定には、例えば、クエン酸、トリス、リン酸溶液などで調製されたタンパク質溶液を用いることが可能であり、数百μg/mLの濃度で測定に用いることができる。
【0026】
DSCは、昇温にともなう熱量変化を観測することにより、Tmを算出する。DSCの測定機器としては、MicroCal VP-DSC、Micro Cal Capillary DSC(いずれもGE Healthcare)があげられる。測定セルにタンパク質溶液ならびに緩衝液を封入し、温度を上昇させながらセル間の温度差を測定すると、ある温度を境に吸熱反応へと変化する。このときの温度をTmとする。測定には、例えば、クエン酸緩衝液、TBS、PBS、ヒスチジン緩衝液などで調製されたタンパク質溶液を用いることが可能であり、数十μg/mLから数百μg/mLの濃度で測定に用いることができる。
【0027】
DSFは、疎水性残基に特異的に結合する蛍光試薬(例えばSYPRO Orange)を用いて、昇温にともなう疎水性残基の露出を観測することにより、Tmを算出する。タンパク質溶液と蛍光試薬を適当な割合で混合し、RT-PCR装置により温度を上昇させながら蛍光強度を測定すると、ある温度で蛍光強度の上昇が観測される。このときの温度をTmとする。DSFの測定機器としては、例えばRotor-Gene Q(QIAGEN)、CFX96リアルタイムPCR解析システム(Bio-Rad)があげられる。測定には、例えば、PBS、ヒスチジン緩衝液などで調製されたタンパク質溶液を用いることが可能であり、数十μg/mLから数百μg/mLの濃度で測定に用いることができる。
【0028】
本明細書において、ポリペプチドの安定性が向上しているとは、例えば上記の測定方法に基づいて求めた対照となる親ポリペプチドのFc領域中のCH2領域のTmに比較して被検ポリペプチドのFc領域中のCH2領域のTmが0.1度以上、好ましくは0.2度以上、0.3度以上、0.4度以上、0.5度以上、1度以上、2度以上、3度以上、4度以上、5度以上、10度以上、20度以上向上していることをいう。
【0029】
さらに本発明のポリペプチドは、親ポリペプチドと比較して安定性が向上しているだけでなく、親ポリペプチドと比較してFcγ受容体(本明細書ではFcγレセプターまたはFcγRと記載することもある)への結合活性が維持又は増強したFc領域を有するポリペプチドであってもよい。本発明において親ポリペプチドと比較して安定性が向上しているだけでなく、親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が維持又は増強したFc領域を有するポリペプチドとして、例えば後述の実施例に示されるTS1-TS8、TS20-TS27、TS44-TS50、TS52-TS55、またはTS57-TS67のいずれかに記載のアミノ酸部位を有するポリペプチドが挙げられる。
【0030】
(TS1-TS8)
親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が維持または増強するポリペプチドとしては、例えば前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング266番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング269番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング300番目、EUナンバリング324番目、EUナンバリング326番目、及びEUナンバリング330番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されているポリペプチドが挙げられる。
【0031】
当該態様における好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変部位が、EUナンバリング234番目、EUナンバリング266番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング269番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング300番目、EUナンバリング324番目、EUナンバリング326番目、及びEUナンバリング330番目であるポリペプチドが挙げられる。
【0032】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のIleへの置換、EUナンバリング266番目のアミノ酸のIleへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のGlnへの置換、EUナンバリング269番目のアミノ酸のAspへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のGluへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMet又はLeuへの置換、EUナンバリング300番目のアミノ酸のGluへの置換、EUナンバリング324番目のアミノ酸のHisへの置換、EUナンバリング326番目のアミノ酸のSer又はAlaへの置換、及びEUナンバリング330番目のアミノ酸のHis又はTyrへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変であるポリペプチドが挙げられる。
【0033】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドは、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のIleへの置換、EUナンバリング266番目のアミノ酸のIleへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のGlnへの置換、EUナンバリング269番目のアミノ酸のAspへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のGluへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMet又はLeuへの置換、EUナンバリング300番目のアミノ酸のGluへの置換、EUナンバリング324番目のアミノ酸のHisへの置換、EUナンバリング326番目のアミノ酸のSer又はAlaへの置換、及びEUナンバリング330番目のアミノ酸のHis又はTyrへの置換であるポリペプチドである。
【0034】
(TS20-TS27)
親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が維持または増強するポリペプチドとしては、例えば前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング295番目、EUナンバリング326番目及びEUナンバリング330番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されているポリペプチドが挙げられる。
【0035】
当該態様における好ましいポリペプチドは、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変部位が、EUナンバリング295番目、EUナンバリング326番目及びEUナンバリング330番目であるポリペプチドである。
【0036】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMet又はLeuへの置換、EUナンバリング326番目のアミノ酸のSer又はAlaへの置換、及びEUナンバリング330番目のアミノ酸のHis又はTyrへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変であるポリペプチドが挙げられる。
【0037】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドは、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMet又はLeuへの置換、EUナンバリング326番目のアミノ酸のSer又はAlaへの置換、及びEUナンバリング330番目のアミノ酸のHis又はTyrへの置換であるポリペプチドである。
【0038】
(TS44〜TS50、TS52〜TS55、TS57〜TS67)
親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が維持または増強するポリペプチドとしては、例えば前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング247番目、EUナンバリング250番目、EUナンバリング307番目、EUナンバリング309番目、EUナンバリング315番目、EUナンバリング360番目、EUナンバリング385番目、EUナンバリング386番目、EUナンバリング387番目、EUナンバリング389番目、EUナンバリング428番目、及びEUナンバリング433番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されているポリペプチドが挙げられる。
【0039】
当該態様における好ましいポリペプチドは、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変部位が、EUナンバリング247番目、EUナンバリング250番目、EUナンバリング307番目、EUナンバリング309番目、EUナンバリング315番目、EUナンバリング360番目、EUナンバリング385番目、EUナンバリング386番目、EUナンバリング387番目、EUナンバリング389番目、EUナンバリング428番目、及びEUナンバリング433番目であるポリペプチドである。
【0040】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング247番目のアミノ酸のValへの置換、EUナンバリング250番目のアミノ酸のPhe、Ile、Met、Val、Trp、又はTyrのいずれかへの置換、EUナンバリング307番目のアミノ酸のAla、Gln、又はProのいずれかへの置換、EUナンバリング309番目のアミノ酸のAla、Arg、又はProのいずれかへの置換、EUナンバリング315番目のアミノ酸のAlaへの置換、EUナンバリング360番目のアミノ酸のHisへの置換、EUナンバリング385番目のアミノ酸のAspへの置換、EUナンバリング386番目のアミノ酸のProへの置換、EUナンバリング387番目のアミノ酸のGluへの置換、EUナンバリング389番目のアミノ酸のSerへの置換、EUナンバリング428番目のアミノ酸のHis、Trp、Tyr、またはPheのいずれかへの置換、及びEUナンバリング433番目のアミノ酸のLysへの置換からなる群より選択される少なくも一つ以上のアミノ酸改変であるポリペプチドが挙げられる。
【0041】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドは、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング247番目のアミノ酸のValへの置換、EUナンバリング250番目のアミノ酸のPhe、Ile、Met、Val、Trp、又はTyrのいずれかへの置換、EUナンバリング307番目のアミノ酸のAla、Gln、又はProのいずれかへの置換、EUナンバリング309番目のアミノ酸のAla、Arg、又はProのいずれかへの置換、EUナンバリング315番目のアミノ酸のAlaへの置換、EUナンバリング360番目のアミノ酸のHisへの置換、EUナンバリング385番目のアミノ酸のAspへの置換、EUナンバリング386番目のアミノ酸のProへの置換、EUナンバリング387番目のアミノ酸のGluへの置換、EUナンバリング389番目のアミノ酸のSerへの置換、EUナンバリング428番目のアミノ酸のHis、Trp、Tyr、又はPheのいずれかへの置換、及びEUナンバリング433番目のアミノ酸のLysへの置換であるポリペプチドである。
【0042】
例えば該ポリペプチドが抗体である場合、該抗体は好ましくはエフェクター機能が重要である癌抗体としての利用が挙げられる。
【0043】
さらに本発明のポリペプチドは、親ポリペプチドと比較して安定性が向上しているだけでなく、親ポリペプチドと比較してFcγ受容体への結合活性が減少したFc領域を有するポリペプチドであってもよい。本発明において親ポリペプチドと比較して安定性が向上しているだけでなく、親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が減少したFc領域を有するポリペプチドとして、例えば後述の実施例に示されるTS9-TS19、TS28-TS43、TS51、又はTS56のアミノ酸改変部位を有するポリペプチドが挙げられる。
【0044】
(TS9-TS19)
親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が減少するポリペプチドとしては、例えば前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング267番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されているポリペプチドが挙げられる。
【0045】
当該態様における好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変部位が、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング267番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目であるポリペプチドである。
【0046】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変がEUナンバリング234番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング267番目のアミノ酸のProへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のMet又はLysへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPheへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のGly、His又はMetのいずれかへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変であるポリペプチドが挙げられる。
【0047】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドは、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング267番目のアミノ酸のProへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のMet又はLysへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPheへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のGly、His又はMetのいずれかへの置換であるポリペプチドである。
【0048】
(TS28-TS34)
親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が減少するポリペプチドとしては、例えば前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されているポリペプチドが挙げられる。
【0049】
当該態様における好ましいポリペプチドは、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変部位が、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目であるポリペプチドである。
【0050】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLys又はSerへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のLys又はHisへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPhe又はAspへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変であるポリペプチドが挙げられる。
【0051】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドは、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLys又はSerへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のLys又はHisへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPhe又はAspへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換であるポリペプチドである。
【0052】
(TS28、TS29、TS36、TS37)
親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が減少するポリペプチドとしては、例えば前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されているポリペプチドが挙げられる。
【0053】
当該態様における好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変部位が、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目であるポリペプチドである。
【0054】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPheへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変であるポリペプチドが挙げられる。
【0055】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドは、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPheへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換であるポリペプチドである。
【0056】
(TS30、TS31、TS38、TS39)
親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が減少するポリペプチドとしては、例えば前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されているポリペプチドが挙げられる。
【0057】
当該態様における好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変部位が、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目及びEUナンバリング325番目であるポリペプチドである。
【0058】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変であるポリペプチドが挙げられる。
【0059】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドは、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング239番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換であるポリペプチドである。
【0060】
(TS32、TS33、TS40、TS41)
親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が減少するポリペプチドとしては、例えば前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されているポリペプチドが挙げられる。
【0061】
当該態様における好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変部位が、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目であるポリペプチドである。
【0062】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPheへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変であるポリペプチドが挙げられる。
【0063】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドは、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング268番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング270番目のアミノ酸のPheへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換であるポリペプチドである。
【0064】
(TS34、TS35、TS42、TS43)
親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が減少するポリペプチドとしては、例えば前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目からなる群より選択されるアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されているポリペプチドが挙げられる。
【0065】
当該態様における好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変部位が、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング325番目であるポリペプチドである。
【0066】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換からなる群より選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸改変であるポリペプチドが挙げられる。
【0067】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング234番目のアミノ酸のLysへの置換、EUナンバリング235番目のアミノ酸のLys又はArgへの置換、EUナンバリング295番目のアミノ酸のMetへの置換、EUナンバリング296番目のアミノ酸のGlyへの置換、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング325番目のアミノ酸のHis又はGlyへの置換であるポリペプチドである。
【0068】
(TS51、TS56)
親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性が減少するポリペプチドとしては、例えば前記Fc領域のループ部位における、EUナンバリング298番目、及びEUナンバリング309番目のアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸変異が導入されているポリペプチドを挙げることができる。
【0069】
当該態様における好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング298番目、EUナンバリング309番目であるポリペプチドが挙げられる。
【0070】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング309番目のアミノ酸のAspへの置換からなる群より選択される、少なくとも一つ以上のアミノ酸改変であるポリペプチドが挙げられる。
【0071】
当該態様におけるさらに好ましいポリペプチドとしては、前記Fc領域のループ部位におけるアミノ酸改変が、EUナンバリング298番目のアミノ酸のGlyへの置換、及びEUナンバリング309番目のアミノ酸のAspへの置換であるポリペプチドが挙げられる。
【0072】
例えば該ポリペプチドが抗体である場合、該抗体は好ましくは中和抗体としての利用が挙げられる。
【0073】
Fcγ受容体とは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合し得る受容体をいい、実質的にFcγ受容体遺伝子にコードされるタンパク質のファミリーのいかなるメンバーをも意味する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131(H型)およびR131(R型)を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);およびアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)、並びにいかなる未発見のヒトFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明のFcγRには、上記のヒト由来のものだけでなく、マウス、ラット、ウサギおよびサル由来のものが含まれるが、これらに限定されず、いかなる生物由来でもよい。マウスFcγR類には、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)およびFcγRIII-2(CD16-2)、並びにいかなる未発見のマウスFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されない。本発明におけるFcγ受容体の好適な例としてはヒトFcγI(CD64)、FcγIIA(CD32)、FcγIIB(CD32)、FcγIIIA(CD16)及び/又はFcγIIIB(CD16)が挙げられる。
【0074】
FcγIのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:1(NM_000566.3)及び2(NP_000557.1)に、
FcγIIAのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:3(BC020823.1)及び4(AAH20823.1)に、
FcγIIBのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:5(BC146678.1)及び6(AAI46679.1)に、
FcγIIIAのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:7(BC033678.1)及び8(AAH33678.1)に、及び
FcγIIIBのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:9(BC128562.1)及び10(AAI28563.1)に記載されている(カッコ内はRefSeq登録番号を示す)。
尚、FcγRIIaには、FcγRIIaの131番目のアミノ酸がヒスチジン(H型)あるいはアルギニン(R型)に置換された2種類の遺伝子多型が存在する(J. Exp. Med, 172, 19-25, 1990)。
【0075】
本発明において、本発明のポリペプチド又はFc領域の各種FcγRに対する結合活性が減少した、あるいは、結合活性が維持あるいは増強したかどうかは、例えば本実施例に示されるようにして判断することができる。即ち、表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用した相互作用解析機器であるBIACOREを用いて、ポリペプチド(抗体)をセンサーチップ上に固定化あるいはProteinA、抗原ペプチド等でキャプチャーしたセンサーチップに対して各種FcγRをアナライトとして流すことで得られる解離定数(KD)の値が低下した、あるいは増加したかどうか、ポリペプチド(抗体)をセンサーチップ上に固定化あるいはProteinA、抗原ペプチド等でキャプチャーしたセンサーチップに対して各種FcγRをアナライトとして流した前後でのセンサーグラムの値の変化量が低下した、あるいは増加したかどうかで判断可能である。
【0076】
具体的には、Fc領域のFcγ受容体に対する結合活性はELISAやFACS(fluorescence activated cell sorting)の他、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって測定することができる(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
【0077】
ALPHAスクリーンは、ドナーとアクセプターの2つのビーズを使用するALPHAテクノロジーによって下記の原理に基づいて実施される。ドナービーズに結合した分子が、アクセプタービーズに結合した分子と生物学的に相互作用し、2つのビーズが近接した状態の時にのみ、発光シグナルが検出される。レーザーによって励起されたドナービーズ内のフォトセンシタイザーは、周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素はドナービーズ周辺に拡散し、近接しているアクセプタービーズに到達するとビーズ内の化学発光反応を引き起こし、最終的に光が放出される。ドナービーズに結合した分子とアクセプタービーズに結合した分子が相互作用しないときは、ドナービーズの産生する一重項酸素がアクセプタービーズに到達しないため、化学発光反応は起きない。
【0078】
例えば、ドナービーズにビオチン標識されたポリペプチド会合体が結合し、アクセプタービーズにはグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)でタグ化されたFcγ受容体が結合する。競合する変異Fc領域を有するポリペプチド会合体の非存在下では、野生型Fc領域を有するポリペプチド会合体とFcγ受容体とは相互作用し520-620 nmのシグナルを生ずる。タグ化されていない変異Fc領域を有するポリペプチド会合体は、野生型Fc領域を有するポリペプチド会合体とFcγ受容体間の相互作用と競合する。競合の結果表れる蛍光の減少を定量することによって相対的な結合親和性が決定され得る。
【0079】
抗体等のポリペプチド会合体をSulfo-NHS-ビオチン等を用いてビオチン化することは公知である。Fcγ受容体をGSTでタグ化する方法としては、Fcγ受容体をコードするポリヌクレオチドとGSTをコードするポリヌクレオチドをインフレームで融合した融合遺伝子を発現可能なベクターに保持した細胞等において発現し、グルタチオンカラムを用いて精製する方法等が適宜採用され得る。得られたシグナルは例えばGRAPHPAD PRISM(GraphPad社、San Diego)等のソフトウエアを用いて非線形回帰解析を利用する一部位競合(one-site competition)モデルに適合させることにより好適に解析される。
【0080】
相互作用を観察する物質の一方(リガンド)をセンサーチップの金薄膜上に固定し、センサーチップの裏側から金薄膜とガラスの境界面で全反射するように光を当てると、反射光の一部に反射強度が低下した部分(SPRシグナル)が形成される。相互作用を観察する物質の他方(アナライト)をセンサーチップの表面に流しリガンドとアナライトが結合すると、固定化されているリガンド分子の質量が増加し、センサーチップ表面の溶媒の屈折率が変化する。この屈折率の変化により、SPRシグナルの位置がシフトする(逆に結合が解離するとシグナルの位置は戻る)。Biacoreシステムは上記のシフトする量、すなわちセンサーチップ表面での質量変化を縦軸にとり、質量の時間変化を測定データとして表示する(センサーグラム)。センサーグラムからセンサーチップ表面に捕捉したリガンドに対するアナライトの結合量が求められる。また、センサーグラムのカーブからカイネティクス:結合速度定数(ka)と解離速度定数(kd)が、当該定数の比から解離定数(KD)が求められる。BIACORE法では阻害測定法も好適に用いられる。阻害測定法の例はProc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010において記載されている。
【0081】
本発明においてFcγRに対する結合活性が減少したポリペプチド(FcγRへの結合活性が減少したポリペプチド)とは、親ポリペプチドと親ポリペプチドのFc領域に少なくとも一つのアミノ酸改変を含むポリペプチド(ポリペプチド変異体ともいう)の量を本質的に同じにしてアッセイを行った時に、少なくとも一種のFcγRに対して親ポリペプチドよりも本質的により弱い結合親和性で結合するものをいう。
【0082】
例えば、上記の測定法で測定した結合量において、親ポリペプチドの各FcγRに対する結合量を100とした場合のポリペプチド変異体の各FcγRに対する結合量(以下、結合量比という)が、好ましくは80以下、好ましくは50以下、40以下、30以下、20以下、特に好ましくは10以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.1以下に低下しているものを言う。
【0083】
本発明においてFcγRに対する結合活性が増強したポリペプチド(FcγRへの結合活性が増強したポリペプチド)とは、親ポリペプチドの量とポリペプチド変異体の量を本質的に同じにしてアッセイを行った時に、少なくとも一種のFcγRに対して親ポリペプチドよりも本質的により強い結合親和性でFcγRと結合するものをいう。
例えば、上記の測定法で測定した結合量において、親ポリペプチドの各FcγRに対する結合量を100とした場合のポリペプチド変異体の各FcγRに対する結合量(以下、結合量比という)が、好ましくは120以上、150以上、200以上、300以上に向上しているものを言う。
【0084】
FcγRに対する結合活性が維持した(維持された)ポリペプチド(Fcγrへの結合活性が維持した(維持された)ポリペプチド)とは、親ポリペプチドと親ポリペプチドのFc領域に少なくとも一つのアミノ酸改変を含むポリペプチド(ポリペプチド変異体ともいう)の量を本質的に同じにしてアッセイを行った時に、親ポリペプチドと本質的に変化のない、同等の結合親和性でFcγRと結合するものをいう。
例えば、上記の測定法で測定した結合量において、親ポリペプチドの各FcγRに対する結合量を100とした場合のポリペプチド変異体の各FcγRに対する結合量(以下、結合量比という)が、好ましくは80以上かつ120以下であるものを言う。
【0085】
本発明は、本発明の上記改変を含むポリペプチド(例えばヒトIgG)に対して、さらに別のFc領域に対して改変を加えることが可能である。
例えば、別のFc領域に対する改変として、ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)に対して、EUナンバリング238番目のProをAspに置換する改変および/またEUナンバリング328番目のLeuをGluに置換する改変を挙げることができる。ヒトIgGにEUナンバリング238番目のProをAspに置換した改変および/またEUナンバリング328番目のLeuをGluに置換した改変を導入することにより、親ポリペプチドと比較して、FcγRI、FcγRIIIaおよびFcγRIIaのR型、H型のいずれの遺伝子多型に対しても結合活性が維持あるいは減少し、かつFcγRIIbに対する結合活性が増強したポリペプチドを提供することが可能である。
【0086】
EUナンバリング238番目のProをAspに置換した改変および/またEUナンバリング328番目のLeuをGluに置換した改変を含むヒトIgGに対して、さらに別のFc領域に対する改変を加えることが可能である。ここで改変とは、アミノ酸の置換、欠損、付加、挿入のいずれか、又はそれらの組み合わせを意味する。また、これらの改変に加え、更に付加的な改変を含むことができる。付加的な改変は、たとえば、アミノ酸の置換、欠損、あるいは修飾のいずれか、あるいはそれらの組み合わせから選択することができる。例えば、FcγRI、FcγRIIa(H型)、FcγRIIa(R型)、FcγRIIIaのいずれかに対する結合活性をさらに低減する改変を加えることも可能である。
【0087】
これらの中でも、FcγRIIbに対する結合活性を低減することなく、FcγRI、FcγRIIa(H型)、FcγRIIa(R型)、FcγRIIIaのいずれかに対する結合活性のみを低減する改変が好ましく、このような改変として好ましいアミノ酸置換は、例えばEUナンバリング237番目のGlyのTrpへの置換、EUナンバリング237番目のGlyのPheへの置換、EUナンバリング238番目のProのPheへの置換、EUナンバリング325番目のAsnのMetへの置換、EUナンバリング267番目のSerのIleへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのAspへの置換、EUナンバリング267番目のSerのValへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのTrpへの置換、EUナンバリング267番目のSerのGlnへの置換、EUナンバリング267番目のSerのMetへの置換、EUナンバリング236番目のGlyのAspへの置換、EUナンバリング327番目のAlaのAsnへの置換、EUナンバリング325番目のAsnのSerへの置換、EUナンバリング235番目のLeuのTyrへの置換、EUナンバリング266番目のValのMetへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのTyrへの置換、EUナンバリング235番目のLeuのTrpへの置換、EUナンバリング235番目のLeuのPheへの置換、EUナンバリング239番目のSerのGlyへの置換、EUナンバリング327番目のAlaのGluへの置換、EUナンバリング327番目のAlaのGlyへの置換、EUナンバリング238番目のProのLeuへの置換、EUナンバリング239番目のSerのLeuへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのThrへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのSerへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのMetへの置換、EUナンバリング331番目のProのTrpへの置換、EUナンバリング331番目のProのTyrへの置換、EUナンバリング331番目のProのPheへの置換、EUナンバリング327番目のAlaのAspへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのPheへの置換した改変、EUナンバリング271番目のProのLeuへの置換、EUナンバリング267番目のSerのGluへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのAlaへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのIleへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのGlnへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのValへの置換、EUナンバリング326番目のLysのTrpへの置換、EUナンバリング334番目のLysのArgへの置換、EUナンバリング268番目のHisのGlyへの置換、EUナンバリング268番目のHisのAsnへの置換、EUナンバリング324番目のSerのValへの置換、EUナンバリング266番目のValのLeuへの置換、EUナンバリング271番目のProのGlyへの置換、EUナンバリング332番目のIleのPheへの置換、EUナンバリング324番目のSerのIleへの置換、EUナンバリング333番目のGluのProへの置換、EUナンバリング300番目のTyrのAspへの置換、EUナンバリング337番目のSerのAspへの置換、EUナンバリング300番目のTyrのGlnへの置換、EUナンバリング335番目のThrのAspへの置換、EUナンバリング239番目のSerのAsnへの置換、EUナンバリング326番目のLysのLeuへの置換、EUナンバリング326番目のLysのIleへの置換、EUナンバリング239番目のSerのGluへの置換、EUナンバリング326番目のLysのPheへの置換、EUナンバリング326番目のLysのValへの置換、EUナンバリング326番目のLysのTyrへの置換、EUナンバリング267番目のSerのAspへの置換、EUナンバリング326番目のLysのProへの置換、EUナンバリング326番目のLysのHisに置換した改変、EUナンバリング334番目のLysのAlaへの置換、EUナンバリング334番目のLysのTrpへの置換、EUナンバリング268番目のHisのGlnへの置換、EUナンバリング326番目のLysのGlnへの置換、EUナンバリング326番目のLysのGluへの置換、EUナンバリング326番目のLysのMetへの置換、EUナンバリング266番目のValのIleへの置換、EUナンバリング334番目のLysのGluへの置換、EUナンバリング300番目のTyrのGluへの置換、EUナンバリング334番目のLysのMetへの置換、EUナンバリング334番目のLysのValへの置換、EUナンバリング334番目のLysのThrへの置換、EUナンバリング334番目のLysのSerへの置換、EUナンバリング334番目のLysのHisへの置換、EUナンバリング334番目のLysのPheへの置換、EUナンバリング334番目のLysのGlnへの置換、EUナンバリング334番目のLysのProへの置換、EUナンバリング334番目のLysのTyrへの置換、EUナンバリング334番目のLysのIleへの置換、EUナンバリング295番目のGlnのLeuへの置換、EUナンバリング334番目のLysのLeuへの置換、EUナンバリング334番目のLysのAsnへの置換、EUナンバリング268番目のHisのAlaへの置換、EUナンバリング239番目のSerのAspへの置換、EUナンバリング267番目のSerのAlaへの置換、が挙げられる。
【0088】
更に、これらの改変の中でも、FcγRIIbに対する結合活性を低減することなく、FcγRIIa(R型)に対する結合活性を低減する改変が好ましく、このような改変として好ましいアミノ酸置換は、例えばEUナンバリング237番目のGlyのTrpへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのAspへの置換、EUナンバリング236番目のGlyのAspへの置換、EUナンバリング327番目のAlaのAsnへの置換、EUナンバリング327番目のAlaのGlyへの置換、EUナンバリング239番目のSerのLeuへの置換、EUナンバリング331番目のProのTrpへの置換した改変、EUナンバリング331番目のProのTyrへの置換、EUナンバリング331番目のProのPheへの置換した改変、EUナンバリング271番目のProのLeuへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのGlnへの置換、EUナンバリング300番目のTyrのAspへの置換、EUナンバリング239番目のSerのAsnへの置換が挙げられる。
【0089】
さらに、EUナンバリング238番目のProのAspへの置換および/またはEUナンバリング328番目のLeuのGluへの置換を含むヒトIgGに対して、別のFc領域に対する改変を加えることで、FcγRIIbに対する結合活性を増強する改変を加えることも可能である。これらの改変の中でも、FcγRI、FcγRIIa(H型)、FcγRIIa(R型)、FcγRIIIaのいずれかに対する結合活性を増強することなく、FcγRIIbに対する結合活性のみを増強する改変が好ましく、このような改変として好ましいアミノ酸置換は、例えばEUナンバリング237番目のGlyのTrpへの置換、EUナンバリング237番目のGlyのPheへの置換、EUナンバリング238番目のProのPheへの置換、EUナンバリング325番目のAsnのMetへの置換、EUナンバリング267番目のSerのIleへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのAspへの置換、EUナンバリング267番目のSerのValへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのTrpへの置換、EUナンバリング267番目のSerのGlnへの置換、EUナンバリング267番目のSerのMetへの置換、EUナンバリング236番目のGlyのAspへの置換、EUナンバリング327番目のAlaのAsnへの置換、EUナンバリング325番目のAsnのSerへの置換、EUナンバリング235番目のLeuのTyrへの置換、EUナンバリング266番目のValのMetへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのTyrへの置換、EUナンバリング235番目のLeuのTrpへの置換、EUナンバリング235番目のLeuのPheへの置換、EUナンバリング239番目のSerのGlyへの置換、EUナンバリング327番目のAlaのGluへの置換、EUナンバリング327番目のAlaのGlyへの置換、EUナンバリング238番目のProのLeuへの置換、EUナンバリング239番目のSerのLeuへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのThrへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのSerへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのMetへの置換、EUナンバリング331番目のProのTrpへの置換、EUナンバリング331番目のProのTyrへの置換、EUナンバリング331番目のProのPheへの置換、EUナンバリング327番目のAlaのAspへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのPheへの置換、EUナンバリング271番目のProのLeuへの置換、EUナンバリング267番目のSerのGluへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのAlaへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのIleへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのGlnへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのValへの置換、EUナンバリング326番目のLysのTrpへの置換、EUナンバリング334番目のLysのArgへの置換、EUナンバリング268番目のHisのGlyへの置換、EUナンバリング268番目のHisのAsnへの置換、EUナンバリング324番目のSerのValへの置換、EUナンバリング266番目のValのLeuへの置換、EUナンバリング271番目のProのGlyへの置換、EUナンバリング332番目のIleのPheへの置換、EUナンバリング324番目のSerのIleへの置換、EUナンバリング333番目のGluのProへの置換、EUナンバリング300番目のTyrのAspへの置換、EUナンバリング337番目のSerのAspへの置換、EUナンバリング300番目のTyrのGlnへの置換、EUナンバリング335番目のThrのAspへの置換、EUナンバリング239番目のSerのAsnへの置換、EUナンバリング326番目のLysのLeuへの置換、EUナンバリング326番目のLysのIleへの置換、EUナンバリング239番目のSerのGluへの置換、EUナンバリング326番目のLysのPheへの置換、EUナンバリング326番目のLysのValへの置換、EUナンバリング326番目のLysのTyrへの置換、EUナンバリング267番目のSerのAspへの置換、EUナンバリング326番目のLysのProへの置換、EUナンバリング326番目のLysのHisへの置換、EUナンバリング334番目のLysのAlaへの置換、EUナンバリング334番目のLysのTrpへの置換、EUナンバリング268番目のHisのGlnへの置換、EUナンバリング326番目のLysのGlnへの置換、EUナンバリング326番目のLysのGluへの置換、EUナンバリング326番目のLysのMetへの置換、EUナンバリング266番目のValのIleへの置換、EUナンバリング334番目のLysのGluへの置換、EUナンバリング300番目のTyrのGluへの置換、EUナンバリング334番目のLysのMetへの置換、EUナンバリング334番目のLysのValへの置換、EUナンバリング334番目のLysのThrへの置換、EUナンバリング334番目のLysのSerへの置換、EUナンバリング334番目のLysのHisへの置換、EUナンバリング334番目のLysのPheへの置換、EUナンバリング334番目のLysのGlnへの置換、EUナンバリング334番目のLysのProへの置換、EUナンバリング334番目のLysのTyrへの置換、EUナンバリング334番目のLysのIleへの置換、EUナンバリング295番目のGlnのLeuへの置換、EUナンバリング334番目のLysのLeuへの置換、EUナンバリング334番目のLysのAsnへの置換、EUナンバリング268番目のHisのAlaへの置換、EUナンバリング239番目のSerのAspへの置換、EUナンバリング267番目のSerのAlaへの置換、が挙げられる。
【0090】
更に、これらの改変の中でも、FcγRIIbに対する結合活性を低減することなく、FcγRIIa(R型)に対する結合活性を低減する改変が好ましく、このような改変として好ましいアミノ酸置換は、例えばEUナンバリング237番目のGlyのTrpへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのAspへの置換、EUナンバリング236番目のGlyのAspへの置換、EUナンバリング327番目のAlaのAsnへの置換、EUナンバリング327番目のAlaのGlyへの置換、EUナンバリング239番目のSerのLeuへの置換、EUナンバリング331番目のProのTrpへの置換、EUナンバリング331番目のProのTyrへの置換、EUナンバリング331番目のProのPheへの置換、EUナンバリング271番目のProのLeuへの置換、EUナンバリング328番目のLeuのGlnへの置換、EUナンバリング300番目のTyrのAspへの置換、EUナンバリング239番目のSerのAsnへの置換、が挙げられる。
【0091】
また抗体のFc領域部分に、例えばFcRnに対する結合活性を向上させるアミノ酸置換(J Immunol. 2006 Jan 1;176(1):346-56、J Biol Chem. 2006 Aug 18;281(33):23514-24.、Int Immunol. 2006 Dec;18(12):1759-69.、Nat Biotechnol. 2010 Feb;28(2):157-9.、WO/2006/019447、WO/2006/053301、WO/2009/086320)、抗体のヘテロジェニティーや安定性を向上させるためのアミノ酸置換(WO/2009/041613)を加えてもよい。
【0092】
また本発明のアミノ酸の改変に以下の改変を適宜加えることができる。
抗体の血漿中滞留性を制御するために、本発明のアミノ酸の改変と抗体の等電点の値(pI値)を改変させるためのアミノ酸の改変を組み合わせることが可能である。定常領域の改変については、例えば、公知の文献(J. Immunol. 2006, 176(1):346-356やNat. Biotechnol. 1997 15(7):637-640等)に記載のEUナンバリング250位や428位等のアミノ酸の改変が挙げられる。また、可変領域の改変としてWO2007/114319やWO2009/041643に記載のアミノ酸の改変が挙げられる。改変されるアミノ酸は、抗原結合活性を有するポリペプチドの表面に露出しているアミノ酸が好ましい。例えば、本発明のポリペプチドが重鎖定常領域を有する場合、重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリング196位のアミノ酸の置換が挙げられる。重鎖定常領域がIgG4の場合、例えば196番目のリジンをグルタミンに置換することでpI値を低くし、血漿中滞留性を高めることが可能である。また、血漿中滞留性はFcRnに対する結合力を改変することによっても制御可能である。FcRnに対する結合力改変のためのアミノ酸改変としては、例えば、公知の文献(The Journal of Biological Chemistry vol.276, No.9 6591-6604, 2001やMolecular Cell, Vol.7, 867-877, 2001)に記載の抗体重鎖定常領域のアミノ酸の置換が挙げられる。
【0093】
酸性条件下における安定性向上のための改変
例えば、本発明のポリペプチドがIgG4重鎖定常領域を有する場合、酸性条件下におけるIgG4のhalf-molecule化を抑え安定な4鎖構造(H2L2構造)を維持することが好ましい。そのため、4鎖構造の維持に重要な役割を果たしているEUナンバリング409位のアミノ酸であるアルギニン(Immunology 2002, 105, 9-19)を、酸性条件下においても安定な4鎖構造を維持するIgG1タイプのリジンに置換することが好ましい。このような改変を本発明のアミノ酸の改変と組合わせて用いることができる。
【0094】
ヘテロジェニティー低減のための改変
本発明のアミノ酸の改変とWO2009/041613に記載の方法を組合わせることが可能である。具体的には、例えば本発明のポリペプチドがIgG1重鎖定常領域を有する場合、IgG1重鎖定常領域のC末端の2アミノ酸、すなわちEUナンバリング446番目のグリシン及び447番目のリジンを欠損させる改変を本発明の実施例に基づくアミノ酸の改変と組み合わせ、ヘテロジェニティーの低減を図ることが可能である。
【0095】
脱アミド化反応抑制のための改変
本発明のアミノ酸の改変と脱アミド化反応の抑制のためのアミノ酸の改変を組合わせることが可能である。脱アミド化反応は、特にアスパラギン(N)とグリシン(G)が隣接した部位(・・・NG・・・)において起こりやすいことが報告されている(Geigerら J. Bio. Chem. 1987; 262:785-794)。本発明のポリペプチドにアスパラギンとグリシンが隣接した部位が存在する場合には、当該アミノ酸配列を改変することにより脱アミド化反応を抑制することができる。具体的には例えば、アスパラギンとグリシンどちらか一方若しくは両方のアミノ酸配列を他のアミノ酸に置換する。より具体的には例えば、アスパラギンをアスパラギン酸に置換する。
【0096】
本発明のポリペプチドの好ましい例として、IgG抗体を挙げることができる。抗体としてIgG抗体を用いる場合、そのFc領域の種類は限定されず、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのアイソタイプ(サブクラス)のIgGを用いることが可能である。本発明のIgG抗体は、好ましくはヒトIgGであり、さらに好ましくはヒトIgG1又はヒトIgG4であり、ヒトIgG1及びヒトIgG4の重鎖Fc領域のアミノ酸配列は公知である。ヒトIgG1Fc領域としては、遺伝子多型による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されているが、本発明においてはそのいずれであっても良い。
【0097】
<置換>
例えば以下の(a)〜(c)のような点について改変する事を目的として、アミノ酸残基を別のアミノ酸残基に置換することができる;
(a) シート構造、若しくは、らせん構造の領域におけるポリペプチドの背骨構造、
(b) 標的部位における電荷若しくは疎水性、または
(c)側鎖の大きさ。
【0098】
アミノ酸残基は一般の側鎖の特性に基づいて以下のグループに分類される:
(1) 疎水性: ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2) 中性親水性: cys、ser、thr、asn、gln;
(3) 酸性: asp、glu;
(4) 塩基性: his、lys、arg;
(5) 鎖の配向に影響する残基: gly、pro;及び
(6) 芳香族性: trp、tyr、phe。
【0099】
これらの各グループ内でのアミノ酸残基の置換は保存的置換と呼ばれ、一方、他グループ間同士でのアミノ酸残基の置換は非保存的置換と呼ばれる。本発明における置換は、保存的置換であってもよく、非保存的置換であってもよく、また保存的置換と非保存的置換の組合せであってもよい。
【0100】
アミノ酸配列の改変は、当分野において公知の種々の方法により調製される。これらの方法には、次のものに限定されるわけではないが、部位特異的変異誘導法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, and Nakagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors.Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer,W, Drutsa,V, Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ(1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection.Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)、PCR変異法、カセット変異法等の方法により行うことができる。
【0101】
本発明のアミノ酸の修飾には、翻訳後修飾が含まれる。具体的な翻訳後修飾として、糖鎖の付加あるいは欠損を示すことができる。たとえば、配列番号:11に記載のアミノ酸配列からなるIgG1 Fc領域において、EUナンバリングの297番目のアミノ酸残基は、糖鎖で修飾されたものであることができる。修飾される糖鎖構造は限定されない。一般的に、真核細胞で発現される抗体は、Fc領域に糖鎖修飾を含む。したがって、以下のような細胞で発現される抗体は、通常、何らかの糖鎖で修飾される。
・哺乳動物の抗体産生細胞
・抗体をコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換された真核細胞
【0102】
ここに示した真核細胞には、酵母や動物細胞が含まれる。たとえばCHO細胞やHEK293H細胞は、抗体をコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換するための代表的な動物細胞である。他方、本発明のFc領域には、当該位置に糖鎖修飾が無いものも含まれる。Fc領域が糖鎖で修飾されていない抗体は、抗体をコードする遺伝子を大腸菌などの原核細胞で発現させて得ることができる。
より具体的には、例えばFc領域の糖鎖にシアル酸を付加したものであってもよい(MAbs. 2010 Sep-Oct;2(5):519-27.)。
【0103】
<抗体>
さらに、本発明は上述のいずれかに記載のアミノ酸配列が改変されたFc領域を有する抗体を提供する。
【0104】
本発明における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、所望の生物学的活性を示す限り、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、抗体変異体、抗体断片、多特異性抗体(例えば、二特異性抗体(二重特異性抗体という場合もある))、キメラ抗体、ヒト化抗体等、如何なる抗体も含まれる。
本発明の抗体は、抗原の種類、抗体の由来などは限定されず、いかなる抗体でもよい。抗体の由来としては、特に限定されないが、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体などを挙げることができる。
【0105】
抗体を作製する方法は当業者によく知られているが、例えばモノクローナル抗体の場合ハイブリドーマ法(Kohler and Milstein, Nature 256:495 (1975))、組換え方法(米国特許第4,816,567号)により製造してもよい。また、ファージ抗体ライブラリーから単離してもよい(Clackson et al., Nature 352:624-628 (1991) ; Marks et al., J.Mol.Biol. 222:581-597 (1991))。本発明においてモノクローナル抗体にはヒト化抗体やキメラ抗体が含まれる。
また、抗体遺伝子を取得する方法としてBernasconiら(Science (2002) 298, 2199-2202)またはWO2008/081008に記載のようなB細胞クローニング(それぞれの抗体のコード配列の同定およびクローニング、その単離、およびそれぞれの抗体(特に、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)の作製のための発現ベクター構築のための使用等)の手法が、上記のほか適宜使用され得る。
【0106】
さらに、本発明の抗体は糖鎖が改変されていてもよい。糖鎖が改変された抗体の例としては、例えば、グリコシル化が修飾された抗体(WO99/54342など)、糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(WO00/61739、WO02/31140、WO2006/067847、WO2006/067913など)、バイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体(WO02/79255など)などを挙げることができる。
【0107】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。具体的には、ヒト以外の動物、たとえばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウスの抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、たとえばOverlap Extension PCRが公知である。さらに、ヒトのFR領域にマウスのCDRを移植した可変領域のアミノ酸を設計し、そのアミノ酸の遺伝子合成を行うことも可能である。遺伝子合成を受託している会社の例として、ライフテクノロジー、GenScriptなどが挙げられる。
【0108】
3つのCDRと4つのFRが連結された抗体可変領域をコードするDNAとヒト抗体Fc領域をコードするDNAとをインフレームで融合するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト化抗体発現用ベクターが作成できる。該組込みベクターを宿主に導入して組換え細胞を樹立した後に、該組換え細胞を培養し、該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、該ヒト化抗体が該培養細胞の培養物中に産生される(欧州特許公開EP 239400、国際公開WO1996/002576参照)。
【0109】
再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように必要に応じ、FRのアミノ酸残基を置換することもできる。たとえば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。
【0110】
ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物(国際公開WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫動物とし、DNA免疫により所望のヒト抗体が取得され得る。
【0111】
さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体のV領域が一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列を決定した後、当該V領域配列を所望のヒト抗体C領域の配列とインフレームで融合させた後に適当な発現ベクターに挿入することによって発現ベクターが作製され得る。当該発現ベクターを上記に挙げたような好適な発現細胞中に導入し、該ヒト抗体をコードする遺伝子を発現させることにより当該ヒト抗体が取得される。これらの方法は既に公知である(国際公開WO1992/001047、WO1992/020791、WO1993/006213、WO1993/011236、WO1993/019172、WO1995/001438、WO1995/015388参照)。
【0112】
本明細書において抗原は特に限定されず、どのような抗原でもよい。抗原の例としては、例えば、リガンド(サイトカイン、ケモカインなど)、受容体、癌抗原、MHC抗原、分化抗原、免疫グロブリンおよび免疫グロブリンを一部に含む免疫複合体が好適に挙げられる。
【0113】
サイトカインの例としては、インターロイキン1〜18、コロニー刺激因子(G−CSF、M−CSF、GM−CSFなど)、インターフェロン(IFN−α、IFN−β、IFN−γ、など)、成長因子(EGF、FGF、IGF、NGF、PDGF、TGF、HGFなど)、腫瘍壊死因子(TNF−α、TNF−β)、リンホトキシン、エリスロポエチン、レプチン、SCF、TPO、MCAF、BMPを挙げることができる。
【0114】
ケモカインの例としては、CCL1〜CCL28などのCCケモカイン、CXCL1〜CXCL17などのCXCケモカイン、XCL1〜XCL2などのCケモカイン、CX3CL1などのCX3Cケモカインを挙げることができる。
【0115】
受容体の例としては、例えば、造血因子受容体ファミリー、サイトカイン受容体ファミリー、チロシンキナーゼ型受容体ファミリー、セリン/スレオニンキナーゼ型受容体ファミリー、TNF受容体ファミリー、Gタンパク質共役型受容体ファミリー、GPIアンカー型受容体ファミリー、チロシンホスファターゼ型受容体ファミリー、接着因子ファミリー、ホルモン受容体ファミリー、等の受容体ファミリーに属する受容体などを挙げることができる。これら受容体ファミリーに属する受容体、及びその特徴に関しては、多数の文献、例えば、Cooke BA., King RJB., van der Molen HJ. ed. New Comprehesive Biochemistry Vol.18B "Hormones and their Actions Part II"pp.1-46 (1988) Elsevier Science Publishers BV.、Patthy(Cell (1990) 61 (1), 13-14)、Ullrichら(Cell (1990) 61 (2), 203-212)、Massague(eにはアキュート・アクセント記号が付く)(Cell (1992) 69 (6), 1067-1070)、Miyajimaら(Annu. Rev. Immunol. (1992) 10, 295-331)、Tagaら(FASEB J. (1992) 6, 3387-3396)、Fantlら(Annu. Rev. Biochem. (1993), 62, 453-481)、Smithら(Cell (1994) 76 (6) 959-962)、Flower DR. Biochim. Biophys. Acta, Flower(Biochim. Biophys. Acta (1999) 1422 (3) 207-234等に記載されている。
【0116】
上記受容体ファミリーに属する具体的な受容体としては、例えば、ヒト又はマウスエリスロポエチン(EPO)受容体(Blood (1990) 76 (1), 31-35、Cell (1989) 57 (2), 277-285)、ヒト又はマウス顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)受容体(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1990) 87 (22), 8702-8706、mG-CSFR、Cell (1990) 61 (2), 341-350)、ヒト又はマウストロンボポイエチン(TPO)受容体(Proc Natl Acad Sci U S A. (1992) 89 (12), 5640-5644、EMBO J. (1993) 12(7), 2645-53)、ヒト又はマウスインスリン受容体(Nature (1985) 313 (6005), 756-761)、ヒト又はマウスFlt-3リガンド受容体(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1994) 91 (2), 459-463)、ヒト又はマウス血小板由来増殖因子(PDGF)受容体(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1988) 85 (10) 3435-3439)、ヒト又はマウスインターフェロン(IFN)-α、β受容体(Cell (1990) 60 (2), 225-234.及びCell (1994) 77 (3), 391-400)、ヒト又はマウスレプチン受容体、ヒト又はマウス成長ホルモン(GH)受容体、ヒト又はマウスインターロイキン(IL)-10受容体、ヒト又はマウスインスリン様増殖因子(IGF)-I受容体、ヒト又はマウス白血病抑制因子(LIF)受容体、ヒト又はマウス毛様体神経栄養因子(CNTF)受容体等が好適に例示される。
【0117】
癌抗原は細胞の悪性化に伴って発現する抗原であり、腫瘍特異性抗原とも呼ばれる。又、細胞が癌化した際に細胞表面やタンパク質分子上に現れる異常な糖鎖も癌抗原であり、癌糖鎖抗原とも呼ばれる。癌抗原の例としては、例えば、上記の受容体としてGPIアンカー型受容体ファミリーに属するが肝癌を初めとする幾つかの癌において発現しているGPC3(Int J Cancer. (2003) 103 (4), 455-65)、肺癌を初めとする複数の癌で発現するEpCAM(Proc Natl Acad Sci U S A. (1989) 86 (1), 27-31)、CA19-9、CA15-3、シリアルSSEA-1(SLX)等が好適に挙げられる。
【0118】
MHC抗原は、主にMHC class I抗原とMHC class II抗原に分類され、MHC class I抗原には、HLA-A、-B、-C、-E、-F、-G、-Hが含まれ、MHC class II抗原には、HLA-DR、-DQ、-DPが含まれる。
【0119】
分化抗原には、CD1、CD2、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15s、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD23、CD25、CD28、CD29、CD30、CD32、CD33、CD34、CD35、CD38、CD40、CD41a、CD41b、CD42a、CD42b、CD43、CD44、CD45、CD45RO、CD48、CD49a、CD49b、CD49c、CD49d、CD49e、CD49f、CD51、CD54、CD55、CD56、CD57、CD58、CD61、CD62E、CD62L、CD62P、CD64、CD69、CD71、CD73、CD95、CD102、CD106、CD122、CD126、CDw130が含まれ得る。
【0120】
免疫グロブリンにはIgA、IgM、IgD、IgG、IgEが含まれる。また免疫複合体は少なくとも免疫グロブリンのいずれかの成分を含む。
【0121】
本発明の抗体を構成する可変領域は、任意の抗原を認識する可変領域であることが出来る。抗体可変領域を構成するアミノ酸配列は、その抗原結合活性が維持される限り、1または複数のアミノ酸残基の改変が許容される。可変領域のアミノ酸配列を改変する場合、改変される部位や改変されるアミノ酸の数は特に限定されない。例えば、CDRおよび/またはFRに存在するアミノ酸を適宜、改変することができる。可変領域のアミノ酸を改変する場合、特に限定されないが、結合活性が維持されていることが好ましく、例えば、改変前と比較して50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは100%以上の結合活性を有していることが好ましい。又、アミノ酸改変により結合活性が上昇していてもよく、例えば結合活性が改変前と比較して2倍、5倍、10倍以上になっていてもよい。
【0122】
本発明の抗体における抗原結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はKD(解離定数)を用いることが可能であるが、抗原が膜型抗原の場合は見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)を用いることが可能である。KD(解離定数)、および、見かけのKD(見かけの解離定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等を用いることが可能である。
【0123】
また本発明の抗体における抗原結合活性を比較する他の指標として、例えば、抗原が可溶型抗原の場合はk
d(解離速度定数)を用いることが可能であり、抗原が膜型抗原の場合は見かけのk
d(Apparent dissociation rate constant:見かけの解離速度定数)を用いることが可能である。k
d(解離速度定数)、および、見かけのk
d(見かけの解離速度定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、フローサイトメーター等を用いることが可能である。
【0124】
本発明の抗体において、アミノ酸配列の改変とは、アミノ酸残基の置換、付加、欠損、および修飾の少なくとも1つであることができる。改変される部位や改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一般的には、50アミノ酸以内、好ましくは30アミノ酸以内、より好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内)である。あるいは、アミノ酸配列全体のうち、例えば20%以下、具体的には10%以下(例えば、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1%以下)のアミノ酸残基の改変は許容される。すなわち、改変前のアミノ酸配列と、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%以上)の相同性(同一性)を有するアミノ酸配列を含む抗体も、本発明の抗体に含まれる。
【0125】
例えば、可変領域のN末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である。したがって、本発明の抗体には、その重鎖のN末端がグルタミンの場合には、それがピログルタミン酸に修飾された可変領域も含まれる。
【0126】
本発明の抗体の可変領域は、任意の配列であってよく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体、および、これらの非ヒト抗体をヒト化したヒト化抗体、および、ヒト抗体など、どのような由来の抗体の可変領域でもよい。「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体のCDRへ移植したものである。CDRを同定するための方法は公知である(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (1987), National Institute of Health, Bethesda, Md.; Chothia et al., Nature (1989) 342: 877)。また、その一般的な遺伝子組換え手法も公知である(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。また、これらの抗体の可変領域に対して、抗原への結合、薬物動態、安定性、抗原性を改善するために、様々なアミノ酸置換を導入したものであってもよい。本発明の抗体の可変領域は抗原に対する結合にpH依存性を有することで、抗原に対して繰り返し結合することができてもよい(WO/2009/125825)。
【0127】
抗体の軽鎖定常領域にはκ鎖とλ鎖タイプの定常領域が存在しているが、いずれの軽鎖定常領域であってもよい。さらに、本発明において軽鎖定常領域は、アミノ酸の置換、欠損、付加および/または挿入などの改変が行われた軽鎖定常領域であってもよい。
【0128】
本発明の抗体の重鎖Fc領域としては、例えばヒトIgG抗体の重鎖Fc領域を用いることができ、好ましくはヒトIgG1抗体、ヒトIgG4抗体の重鎖Fc領域である。
【0129】
また、本発明のポリペプチドは、他のタンパク質、生理活性ペプチドなどと結合させてFc融合タンパク質分子とすることが可能である。
他のタンパク質、生理活性ペプチドとしては、例えば受容体、接着分子、リガンド、酵素が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0130】
本発明のFc融合タンパク質分子の好ましい例として、標的に結合するレセプタータンパク質にFcドメインを融合したタンパク質が挙げられ、例えば、TNFR-Fc融合タンパク、IL1R-Fc融合タンパク、VEGFR-Fc融合タンパク、CTLA4-Fc融合タンパク等(Nat Med. 2003 Jan;9(1):47-52、BioDrugs. 2006;20(3):151-60.)が挙げられる。また、本発明のポリペプチドに融合させるタンパク質は標的分子に結合する限り如何なる分子であってもよく、例えばscFv分子(WO2005/037989)、単ドメイン抗体分子(WO2004/058821, WO2003/002609)、抗体様分子(Current Opinion in Biotechnology 2006, 17:653-658、Current Opinion in Biotechnology 2007, 18:1-10、Current Opinion in Structural Biology 1997, 7:463-469、Protein Science 2006, 15:14-27)、例えば、DARPins(WO2002/020565)、Affibody(WO1995/001937)、Avimer(WO2004/044011, WO2005/040229)、Adnectin(WO2002/032925)等が挙げられる。また、抗体およびFc融合タンパク質分子は、複数種類の標的分子あるいはエピトープに結合する多重特異性抗体であってもよい。
【0131】
また本発明の抗体には、抗体の修飾物も含まれる。抗体の修飾物の例としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)や細胞障害性物質等の各種分子と結合させた抗体を挙げることができる。このような抗体修飾物は、本発明の抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0132】
さらに、本発明の抗体は二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体とは、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体をいうが、当該エピトープは異なる分子中に存在していてもよいし、同一の分子中に存在していてもよい。
【0133】
本発明のポリペプチドは当業者に公知の方法により製造することができる。例えば、抗体は以下の方法で作製することができるが、これに限定されるものではない。
【0134】
抗体の重鎖をコードするDNAであって、Fc領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換された重鎖をコードするDNA、および抗体の軽鎖をコードするDNAを発現させる。Fc領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換された重鎖をコードするDNAは、例えば、天然型の重鎖をコードするDNAのFc領域部分を取得し、該Fc領域中の特定のアミノ酸をコードするコドンが目的の他のアミノ酸をコードするよう、適宜置換を導入することによって得ることが出来る。
【0135】
また、あらかじめ、天然型重鎖のFc領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換されたタンパク質をコードするDNAを設計し、該DNAを化学的に合成することによって、Fc領域中の1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換された重鎖をコードするDNAを得ることも可能である。アミノ酸の置換部位、置換の種類としては、特に限定されるものではない。また置換に限られず、欠損、付加、挿入のいずれか、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0136】
また、Fc領域中において1又は複数のアミノ酸残基が目的の他のアミノ酸に置換された重鎖をコードするDNAは、部分DNAに分けて製造することができる。部分DNAの組み合わせとしては、例えば、可変領域をコードするDNAとFc領域をコードするDNA、あるいはFab領域をコードするDNAとFc領域をコードするDNAなどが挙げられるが、これら組み合わせに限定されるものではない。軽鎖をコードするDNAもまた、同様に部分DNAに分けて製造することができる。
【0137】
上記DNAを発現させる方法としては、以下の方法が挙げられる。例えば、重鎖可変領域をコードするDNAを、重鎖Fc領域をコードするDNAとともに発現ベクターに組み込み重鎖発現ベクターを構築する。同様に、軽鎖可変領域をコードするDNAを、軽鎖Fc領域をコードするDNAとともに発現ベクターに組み込み軽鎖発現ベクターを構築する。これらの重鎖、軽鎖の遺伝子を単一のベクターに組み込むことも出来る。
【0138】
目的とする抗体をコードするDNAを発現ベクターへ組み込む際、発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。その際には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。
【0139】
ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などを用いることができる。
【0140】
本発明のポリペプチドを生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター(Wardら, Nature (1989) 341, 544-546;FASEB J. (1992) 6, 2422-2427、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、araBプロモーター(Betterら, Science (1988) 240, 1041-1043、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(Pharmacia社製)、「QIAexpress system」(QIAGEN社製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
【0141】
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。ポリペプチド分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4397、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えばリポフェクチン法、リン酸カルシウム法、DEAE-Dextran法を用いて行うことができる。
【0142】
大腸菌発現ベクターの他、例えば、本発明のポリペプチドを製造するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen社製)や、pEGF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(GIBCO BRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」(Invitrogen社製)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
【0143】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、MMTV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、CAGプロモーター(Gene. (1991) 108, 193、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、形質転換細胞を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0144】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0145】
抗体の回収は、例えば、形質転換した細胞を培養した後、分子形質転換した細胞の細胞内又は培養液より分離することによって行うことが出来る。抗体の分離、精製には、遠心分離、硫安分画、塩析、限外濾過、1q、FcRn、プロテインA、プロテインGカラム、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどの方法を適宜組み合わせて行うことができる。
【0146】
また本発明は、親ポリペプチドに比べて、安定性が向上したポリペプチドを作成するための、該ポリペプチドを改変する方法を提供する。即ち本発明は、抗体のFc領域を有するポリペプチドにおいて、該Fc領域のループ部位に少なくとも一つのアミノ酸改変を加えることにより親ポリペプチドと比較して安定性を向上させる方法に関する。本方法においては、安定性を評価あるいは診断する指標として、熱変性中点(Tm)を用いることが好ましい。
【0147】
また本発明は、親ポリペプチドと比較して安定性が向上したポリペプチドの製造方法を提供する。
本発明の製造方法の一態様として、例えば抗体のFc領域を有し、該Fc領域のループ部位における少なくとも一つのアミノ酸が改変され、親ポリペプチドと比較して安定性が向上したポリペプチドの製造方法を提供する。
例えば以下の工程を含む製造方法を挙げることができる;
(a)抗体のFc領域を有するポリペプチドにおいて、該Fc領域のループ部位に少なくとも一つのアミノ酸改変を加える工程、
(b)前記工程(a)で改変されたポリペプチドの安定性を測定する工程、および
(c)親ポリペプチドと比較して、安定性が向上したポリペプチドを選択する工程。
【0148】
好ましい態様としては、抗体のFc領域を有し、該Fc領域のループ部位における少なくとも一つのアミノ酸が改変され、親ポリペプチドと比較して安定性が向上したポリペプチドの製造方法であって、以下の工程を含む製造方法が挙げられる;
(a)親ポリペプチドと比較して、安定性が向上するように、当該ポリペプチドをコードする核酸を改変する工程、
(b)宿主細胞に当該核酸を導入し発現するように培養する工程、
(c)宿主細胞培養物から当該ポリペプチドを回収する工程。
【0149】
さらに当該製造方法によって製造されるポリペプチド(抗体)及びFc融合タンパク質分子も本発明に含まれる。
【0150】
上記の方法における好ましい態様としては、例えば抗体(例えばヒトIgG)のFc領域を有するポリペプチドにおいて、EUナンバリング234番目、EUナンバリング235番目、EUナンバリング236番目、EUナンバリング237番目、EUナンバリング238番目、EUナンバリング239番目、EUナンバリング247番目、EUナンバリング250番目、EUナンバリング265番目、EUナンバリング266番目、EUナンバリング267番目、EUナンバリング268番目、EUナンバリング269番目、EUナンバリング270番目、EUナンバリング271番目、EUナンバリング295番目、EUナンバリング296番目、EUナンバリング298番目、EUナンバリング300番目、EUナンバリング307番目、EUナンバリング309番目、EUナンバリング315番目、EUナンバリング324番目、EUナンバリング325番目、EUナンバリング326番目、EUナンバリング327番目、EUナンバリング329番目、EUナンバリング330番目、EUナンバリング333番目、EUナンバリング335番目、EUナンバリング337番目、EUナンバリング360番目、EUナンバリング385番目、EUナンバリング386番目、EUナンバリング387番目、EUナンバリング389番目、EUナンバリング428番目、及びEUナンバリング433番目からなる群より選択されるFc領域のループ部位のアミノ酸部位において、少なくとも一つ以上のアミノ酸が改変されるように当該ポリペプチドをコードする核酸を改変する。
【0151】
上記の方法または製造方法(以下、単に「方法」と記載する場合がある)においては、さらに、FcγRに対する結合活性を減少させるようにすることが好ましい。親ポリペプチドと比較してFcγRへの結合活性を維持又は増強するように改変するには、例えば後述の実施例に示されるTS1-TS8、TS20-TS27、TS44-TS50、TS52-TS55、TS57-TS67のアミノ酸改変部位を改変する工程が含まれていてよい。
【0152】
あるいは上記方法において、さらにFcγRに対する結合活性を維持又は増強させるようにすることが好ましい。親ポリペプチドと比較して、FcγRへの結合活性を減少させるように改変するのは、例えば後述の実施例に示されるTS9-19、TS28-43、TS51、TS56のアミノ酸改変部位を改変する工程が含まれていてよい。
TS1〜TS67の改変部位については上述の通りである。
【0153】
上記の方法においては、例えば抗体(例えばヒトIgG)のFc領域を有するポリペプチドにおけるアミノ酸改変を行うことが好ましい。
【0154】
さらに本発明は、抗体のFc領域を有するポリペプチドにおける、Fc領域のループ部位の少なくとも一つのアミノ酸が改変され、親ポリペプチドと比較して、安定性が向上したポリペプチドをコードする核酸を提供する。本発明の該核酸はDNA、RNAなど、如何なる形態でもよい。
【0155】
さらに本発明は、上記本発明の核酸を含むベクターを提供する。ベクターの種類はベクターが導入される宿主細胞に応じて当業者が適宜選択することができ、例えば上述のベクターを用いることができる。
【0156】
さらに本発明は、上記本発明のベクターにより形質転換された宿主細胞に関する。宿主細胞は当業者が適宜選択することができ、例えば上述の宿主細胞を用いることができる。
【0157】
<医薬組成物>
本発明は、本発明のポリペプチド又はFc融合タンパク質分子を含有する医薬組成物を提供する。
本発明の医薬組成物は、本発明の上記ポリペプチド又はFc融合タンパク質分子に加えて医薬的に許容し得る担体を導入し、公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として挙げることができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
【0158】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0159】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80
(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0160】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0161】
投与は好ましくは非経口投与であり、投与剤型としては具体的には、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の投与例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などが挙げられ、全身または局部的に投与することができる。
【0162】
また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。抗体または抗体をコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物の投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000 mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが、これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量、投与方法は、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0163】
本発明においては、上記本発明のポリペプチドを含有する医薬組成物は、例えば、免疫炎症性疾患、癌などの治療剤又は予防剤の有効成分として有用である。「免疫炎症性疾患」は、次のものを包含するが、但しそれらだけには限定されない:関節リウマチ、自己免疫性肝炎、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性水疱症、自己免疫性副腎皮質炎、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少性紫斑病、巨赤血球性貧血、自己免疫性萎縮性胃炎、自己免疫性好中球減少症、自己免疫性精巣炎、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性レセプター病、自己免疫不妊、慢性活動型肝炎、糸球体腎炎、間質性肺腺維症、多発性硬化症、パジュット症、オステオポローシス、多発性骨髄腫、ブドウ膜炎、急性及び慢性脊椎炎、痛風性関節炎、炎症性腸疾患、成人呼吸促進症候群(ARDS)、乾癬、クローン病、バセドウ病、若年性糖尿病、アジソン病、重症筋無力症、水晶体性ブドウ膜炎、全身性エリテマトーデス、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎、過敏症、ぜん息、筋肉変性、悪液質、全身性強皮症、限局性強皮症、シェーグレン症候群、ベーチェット病、ライター症候群、I型及びII型糖尿病、骨吸収疾患、移植片vs.宿主反応、虚血性再灌流外傷、アテローム硬化症、脳トラウマ、多発生硬化症、大脳マラリア、敗血症、敗血性ショック、トキシックショック症候群、発熱、及び染色によるマルギアス(malgias)、再生不良性貧血、溶血性貧血、突発性血小板減少症、グッドパスチャー症候群、ギラン・バレー症候群、橋本病、天疱瘡、IgA腎症、花粉症、抗リン脂質抗体症候群、多発性筋炎、ウェゲナー肉腫、結節性動脈炎、混合性結合組織病、線維筋痛症。
【0164】
また本発明において「癌」とは、典型的には制御されない細胞増殖により特徴づけられる哺乳動物の生理学的状態を意味し、又はかかる生理学的状態を言う。本発明において、癌の種類は、特に限定されるものではないが、次のものが挙げられる。癌腫(上皮癌)としては、膵臓癌、前立腺癌、乳癌、皮膚癌、消化管の癌、肺癌、肝細胞癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、卵管癌、膣癌、肝臓癌、胆管癌、膀胱癌、尿管の癌、甲状腺癌、副腎癌、腎臓癌、又はその他の腺組織の癌が挙げられる。肉腫(非上皮癌)としては、脂肪肉腫、平滑筋肉腫、黄紋筋肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫、線維肉腫、悪性末梢神経腫瘍、消化管間質系腫瘍、類腱腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、白血病、リンパ腫、骨髄腫、その他の実質臓器の腫瘍、例えばメラノーマ又は脳腫瘍が挙げられる。
【0165】
なお本明細書で用いられているアミノ酸の3文字表記と1文字表記の対応は以下の通りである。
アラニン:Ala:A
アルギニン:Arg:R
アスパラギン:Asn:N
アスパラギン酸:Asp:D
システイン:Cys:C
グルタミン:Gln:Q
グルタミン酸:Glu:E
グリシン:Gly:G
ヒスチジン:His:H
イソロイシン:Ile:I
ロイシン:Leu:L
リジン:Lys:K
メチオニン:Met:M
フェニルアラニン:Phe:F
プロリン:Pro:P
セリン:Ser:S
スレオニン:Thr:T
トリプトファン:Trp:W
チロシン:Tyr:Y
バリン:Val:V
【0166】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0167】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。本実施例においては、Fc領域において改変を行ったアミノ酸部位はEUナンバリングシステム(Sequences of proteins of immunological interest,NIH Publication No.91-3242を参照)に従った。
【0168】
〔実施例1〕CH2ドメインループ領域の改変による熱安定性向上
一般的に、βシート構造はアミノ酸改変による構造変化が生じやすいこと、改変による熱安定性の低下が生じやすいことが知られている(Biochemistry 1994;33:5510-5517、Nature 1994;367:660-663)。そこで、本発明ではFc領域のループ部分を改変することによる熱安定性の向上を試みた。
【0169】
Fc領域B3(配列番号:16)のCH2ドメインのループ部分であるL234-S239、D265-P271、Q295、Y296、S298、Y300、S324-S337のアミノ酸を、元のアミノ酸とシステインを除く18種類のアミノ酸にそれぞれ置換し、Fc変異体を作製した(
図4)。これをFc variantという。このFc variantを用いて、Anti-GPC3抗体を作製した。H鎖として、可変領域GpH7(配列番号:17)、Fc領域としてFc variant、L鎖として、可変領域GpL16(配列番号:18)、定常領域k0(配列番号:19)からなる抗体(以降GpH7-Fc variant/GpL16-k0として記述する)を、参考実施例1の方法に従って作製した。
【0170】
作製した抗体を参考実施例2の方法に従って、熱変性中点(Tm)を評価した。なお、以下では特別に断らない限り、TmとはIgGの形のサンプルを測定に供した際のCH2領域のTmを指す。得られたTmのデータを
図1に示した。
変異を導入していないB3(GpH7-B3/GpL16-k0:GpH7(配列番号:17)、B3(配列番号:16)、GpL16(配列番号:18)、k0(配列番号:19))のTmは約68℃であり、この値よりも高いTmを示した変異体を表1−1および表1−2にまとめた。
【0171】
【表1-1】
表1−2は表1−1の続きの表である。
【0172】
【表1-2】
【0173】
〔実施例2〕熱安定性を向上させる新規Fc領域IgG1の作製と評価
実施例1のデータと構造情報(Nature 2000 ; 406 : 267-273)に基づいて熱安定性の向上する効果が特に優れていると考えられる改変を幾つか選択した。選択した単独の改変、または複数の改変を、Anti-GPC3抗体(GpH7-G1d/GpL16-k0:GpH7(配列番号:17)、G1d(配列番号:15)、GpL16(配列番号:18)、k0(配列番号:19)、Anti-IL6R抗体(MH0-G1d/ML0-k0:GpH7(配列番号:17)、G1d(配列番号:15)、ML0(配列番号:21)、k0(配列番号:19)のH鎖に対して導入し、表2に示したTS1〜TS19(配列番号:26〜44)を作製した。同時に、ジスルフィド結合導入によるIgGの形での熱安定性改善効果を評価するため、先行論文において報告されているm01ならびにm02の改変(J Biol Chem. 2009;284:14203-14210)をanti-IL6RのH鎖に導入し、TSm01ならびにTSm02の改変体を作製した(配列番号:24、25)。各抗体の発現と精製は参考例1で記した方法で実施した。
【0174】
【表2】
【0175】
調製した抗体を用いて、参考例2に示した方法でTmを比較した。Tmの測定結果を表3に示した。
【表3】
【0176】
なお、本結果中では未評価の検体に関しては「n.t.」(not tested)、Tmの検出が困難であった検体に関しては「n.d.」(not detected)の記載を行った。
【0177】
TS1〜TS19の改変のうち、TS1〜3ならびにTS5〜19はH鎖の配列がanti-GPC3ならびにanti-IL6Rのいずれであった場合もTmの向上が観察された。一方、TS4はいずれのH鎖の配列でもTmが低下した。TS4に導入したQ295Mの改変は単独で約2℃のTm向上効果が認められていたが(TS3)、同時にY300Eの改変を導入するとむしろTmが低下することが明らかとなった。構造情報によると、Q295とY300は同一ループ上で対合する位置に存在する。Q295Mの改変はY300に対してはアミノ酸側鎖の相互作用を増強する可能性がある。しかしながら、Q295MとY300Eの改変を同時に導入すると、アミノ酸側鎖間の相互作用が消失したと推察された。
【0178】
このように、構造上お互いが悪影響を与える改変以外は、Tmの向上する改変同士を組み合わせると、さらにTmが向上することが明らかとなった。以上のことから、構造情報をもとにしたTmの向上する改変の組み合わせは、ここに示されたTS1-3、TS5-19以外にも複数作製することが可能である。
【0179】
同時に評価を実施したTSm01ならびにTSm02は、先行論文(J Biol Chem. 2009;284:14203-14210)においてCH2ドメインのみを発現し、Tmを評価した結果、約10〜20℃のTm改善効果が認められていた。しかし、本検討でIgGの形でTmの評価を実施したところ、TSm01では複数の熱変性点が検出され、CH2ドメインの熱変性を明確にとらえることが困難であった。このことは、TSm01が構造的にヘテロである可能性が高いことを示唆している。
【0180】
また、TSm02はIgG1と比較してTmが約4℃しか上昇しなかった。このことから、ジスルフィド結合導入によるIgGの形でのTm向上の効果は小さく、本発明者らの見出した改変のほうがTmを向上させる効果が高いことが明らかとなった。
【0181】
本検討に用いたanti-GPC3抗体はFabのTmが74.7℃である。このため、anti-GPC3のH鎖に改変を導入したTS13からTS19に関してはCH2とFabの蛍光遷移曲線が重なり、正確なTmの算出が困難であることが推察された。このことから、改変残基の組み合わせによる更なるTm向上効果を評価するにあたりanti-GPC3のH鎖を用いることは不適と考え、以降の検討にはanti-IL6RのH鎖を用いた。
【0182】
〔実施例3〕新規Fc領域のhuman Fcγ receptorに対する結合の評価
抗体のFc領域の改変には、エフェクター機能であるADCC活性などの機能を増強させたFc領域、またはエフェクター機能であるADCC活性などの機能を低下させたFc領域が報告されている(参考文献:current opinion,2009,20,685-691)。エフェクター機能を増強させた抗体は主にがん抗体に、エフェクター機能を低下させた抗体は中和抗体、Enbrel、OrencisなどのReceptor-Fc fusionなどに有用だと考えられ、それぞれの目的において使い分けることが重要である。
【0183】
本検討において改変導入を行ったCH2ドメインは、エフェクター機能に影響を与えるいくつかのhunam Fcγ receptor(以下hFcgRsと示す)との相互作用に関与することが知られている。そこで、実施例2で作製したanti-IL6RのH鎖を用いたTS1〜TS19の、hFcgRsに対する結合を参考例3に記した方法で測定した。測定結果は、G1の各hFcgRsに対する結合を100とした場合の各抗体の各hFcgRsに対する結合を算出し、表4にまとめた。
【0184】
【表4】
【0185】
その結果、TS1〜TS8のhFcgRsへの結合はG1のそれと同等であったが、TS9〜19はG1と比較してhFcgRsへの結合が弱かった。
【0186】
〔実施例4〕hFcgRsへの結合を維持した改変を組み合わせた新規Fc領域の作製と評価
安定性向上を目的とした改変を導入するにあたり、エフェクター機能が重要であるがん抗体においては、hFcgRsに対する結合を維持していることは重要である。実施例3においてhFcgRsへの結合を維持しているTS1〜TS8の改変を組み合わせ、表5に示したTS20〜TS27の改変体を新たに作製した(配列番号:45〜52)。各抗体の発現と精製は参考例1で記した方法で実施した。調製した抗体は参考例2に示した方法でTmを評価し、結果を表6に示した。
【0187】
【表5】
【0188】
【表6】
【0189】
さらに、hFcgRsに対する結合を参考例3に記した方法で測定した。G1の各hFcgRsに対する結合を100とした場合の各抗体の各hFcgRsに対する結合を算出して表7に示した。
【0190】
【表7】
【0191】
改変を組み合わせることにより、TS20〜TS27の全改変体においてhFcgRsへの結合能を維持したままTmが向上した。Tm改善効果が最も大きかった改変体はTS20とTS24であり、G1よりもTmが約3℃向上した。
【0192】
〔実施例5〕hFcgRsへの結合が低下した改変を組み合わせた新規Fc領域の作製と評価
安定性向上を目的とした改変を導入するにあたり、中和抗体においてエフェクター機能はできる限り低下していたほうが望ましい。実施例3においてhFcgRsへの結合が低下したTS9〜TS19の改変を組み合わせ、表8に示したTS28〜TS43の改変体を新たに作製した(配列番号:53〜68)。各抗体の発現と精製は参考例1で記した方法で実施した。調製した抗体は参考例2に示した方法でTmを評価し、結果を表9に示した。
【0193】
【表8】
【0194】
【表9】
【0195】
さらに、hFcgRsに対する結合を参考例3に記した方法で測定した。G1の各hFcgRsに対する結合を100とした場合の各抗体の各hFcgRsに対する結合を算出して表10に示した。
【0196】
【表10】
【0197】
改変を組み合わせることにより、TS28〜TS43の全改変体においてTmが13℃以上上昇し改善した。さらに、FcgRsへの結合能も改変を組み合わせることで大幅な低下が認められた。
【0198】
〔実施例6〕熱安定性を向上させた新規Fc領域IgG1の会合体含有量の評価
会合体は保存安定性や免疫原性に影響を与えるため、熱安定性を向上させる改変は、できる限り会合体含有量を増加させないことが望ましい。そこで、複数改変を組み合わせたTS20〜TS43、ならびに、TSm01とTSm02の会合体含有量を参考例4に示した方法で評価した。測定のクロマトグラムは
図2に、会合体含有量は表11に示した。
【0199】
【表11】
【0200】
hFcgRsへの結合能を維持していたTS20〜TS27の会合体含有量はG1と同程度であり、これらの熱安定性向上改変は会合体含有量に大きな影響を与えないことが明らかとなった。一方、hFcgRsへの結合能が大幅に低下したTS28〜TS43の会合体量は、TS29, 33, 35においてやや増加したものの、それ以外の改変体の会合体量はG1とほぼ同程度であった。これに対し、ジスルフィド結合導入改変体であるTSm01ならびにTSm02の会合体含有量は、それぞれG1の約5倍、ならびに約3倍と大幅な増加が認められた。
【0201】
以上の結果から、本発明者らが本検討で見出した改変は、物性を維持しながら熱安定性を向上させた初めての改変であることが示された。
【0202】
〔実施例7〕熱安定性を向上させる新規Fc領域IgG1の作製と評価
CH2ドメインに変異を導入することにより、Tmが向上することが上記より明らかとなった。そこで、実施例1において改変導入の検討を実施していない領域に関しても、Tmが向上する変異があるかを検討し、表12に示したTS44〜TS67の改変体を新たに作製した(配列番号:69〜92)。各抗体の発現と精製は参考例1に記した方法で実施し、結果を表13に示した。さらに、hFcgRsに対する結合を参考例3に記した方法で測定した。G1の各hFcgRsに対する結合を100とした場合の各抗体の各hFcgRsに対する結合を算出して表14に示した。
【0203】
【表12】
【0204】
【表13】
【0205】
【表14】
【0206】
本検討で最もTm向上効果が認められた改変体はTS48で、約5℃程度の向上が認められ、それ以外の改変体もTmの向上を示した。hFcgRsへの結合能は、TS51, TS56はhFcgRsに対する結合が若干低下し、TS51, TS56以外はhFcgRsに対する結合を維持していた。
【0207】
〔参考実施例1〕抗体の発現ベクターの作製および抗体の発現と精製
アミノ酸置換の導入はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)、PCR、等またはIn fusion Advantage PCR cloning kit (TAKARA)等を用いて当業者公知の方法で行い、発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。作製したプラスミドをヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)、またはFreeStyle293細胞(Invitrogen社)に、一過性に導入し、抗体の発現を行った。得られた培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(GEヘルスケア)を用いて当業者公知の方法で、抗体を精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
【0208】
〔参考実施例2〕示査走査型蛍光定量法による改変抗体の熱変性中点(Tm)評価
本検討では、Rotor-Gene Q(QIAGEN)を用いた示査走査型蛍光定量法を用いて抗体の熱変性中点(Tm)を測定することにより熱安定性を評価した。なお、本手法は、抗体の熱安定性評価法として広く知られている示査走査型熱量計を用いたTm評価と良好な相関を示すことが既に報告されている(Journal of Pharmaceutical Science 2010 ; 4 : 1707-1720)。
【0209】
5000倍濃度のSYPRO orange(Molecular Probes)をPBS(Sigma)により希釈後、抗体溶液と混和することにより測定サンプルを調製した。各サンプルを20μLずつ測定用チューブにセットし、30℃から99℃まで温度を上昇させた。0.4℃昇温して約6秒静止後に蛍光強度を470 nm(励起波長)/555 nm(蛍光波長)において検出した。
データはRotor-Gene Q Series Software(QIAGEN)を用いて蛍光遷移が認められた温度を算出し、この値をTmとした。
【0210】
〔参考実施例3〕hFcgRsに対する結合の評価
Biacore T100(GE Healthcare)を用いて、抗体とhFcgRs(hFcgRIa, hFcgRIIa(R), hFcgRIIa(H), hFcgRIIb, hFcgRIIIa(F), hFcgRIIIa(V))との相互作用解析を行った。ランニングバッファーにはHBS-EP+ (GE Healthcare)を用い、測定温度は25℃とした。アミンカップリング法によりProtein A (Invitrogen) を固定化し、そこへ目的の抗体をキャプチャーさせた。抗体をキャプチャーさせたところへ、ランニングバッファーで希釈したhFcγRを流速30μL/minでhFcgRIaは5分間、それ以外のhFcγRは流速5μL/minで1分間相互作用させ、抗体に対する結合量を測定し、抗体間で比較した。ただし、hFcγRの結合量はキャプチャーした抗体の量に依存するため、各抗体のキャプチャー量がhFcgRIaは200 RU (resonance unit)、それ以外のhFcgRsは1000 RU (resonance unit)となるように、FcgRの結合量を補正した。また、10 mM glycine-HCl、pH1.5を流速30μL/minで30秒間反応させることで、チップにキャプチャーした抗体を洗浄し、チップを再生して繰り返し用いた。
【0211】
〔参考実施例4〕会合体含有量の評価
Alliance system(Waters)を用いたSEC分析により、精製抗体中の会合体含有量を評価した。移動相には300 mMの塩化ナトリウムを含む50 mMリン酸緩衝液, pH7.0(伊勢久)を、分析カラムにはG3000SW
XL(TOSOH)を用い、215 nmの波長で測定を行った。Empower2(Waters)を用いてデータ解析を実施し、単量体よりも高分子量側に溶出した成分を一括して会合体としてその含有量を算出した。