(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態にかかる誘導加熱装置1(熱処理装置)及び誘導加熱方法(熱処理方法)について、
図1及び
図2を参照して説明する。各図において説明のため、適宜構成を拡大、縮小または省略して示している。
【0010】
図1は本実施形態に係る誘導加熱装置1の全体構成を概略的に示す斜視図、
図2は断面図である。誘導加熱装置1は、積層鋼板であるワークW1に高周波加熱で焼鈍を行う装置であり、ワークW1を軸方向に押さえて支持する支持部11(加圧部)と、ワークW1の被処理部Aを誘導加熱する誘導加熱コイル12と、を備えている。
【0011】
図3に示すように、処理対象物の一例としてのワークW1は厚さ0.3〜0.4mm程度の鋼板13が軸方向に複数枚(例えば140枚)積層された積層鋼板である。ワークW1は全体として高さ50mm程度の円筒形状を成す。
【0012】
各鋼板13は、例えばモータのステータコアに用いられる電磁鋼板であり、中心に孔部14を有し複数の溝15が形成された円形の板状に打ち抜き加工されている。各電磁鋼板13は、外側直径d1=250〜300mm、内側直径d2=150〜200mmとした。溝15はそれぞれ各鋼板13の内側縁に径方向に沿って形成され、周方向に複数の溝15が配されている。各鋼板13の表面には絶縁層がコーティングされている。
【0013】
本実施形態ではこのワークW1の内側面を被処理部Aとし、孔部14においてワークW1の内側面に対向するように誘導加熱コイル12を配した。
【0014】
各鋼板13の外周の複数箇所には、外側に突出したタブ16が一体に形成され、各タブには軸状の固定部材が積層方向に挿通される取付孔が形成されている。
【0015】
支持部11は、ワークW1の下方を支持する第1プレート21(支持材)と、ワークW1の上側に配される第2プレート22(支持材)と、一対のプレート21,22を接続する複数の支持軸23と、支持軸23の両端を締め付け固定する締付部材としてのナット24と、支持軸23に装着されたばね部材としての皿ばね25及びカラー26と、を備えている。
【0016】
第1プレート21及び第2プレート22は例えばSUS等からなる板状部材であって、ワークW1よりも大径の円環状に構成されている。プレート21,22には、支持軸23が挿通される挿通孔21a,22aが120°間隔でそれぞれ3つずつ形成されている。
【0017】
支持軸23は例えば両端に雄ねじが形成されたSUS製の両ボルトであって、第1プレート21と第2プレート22に形成された挿通孔21a,22aに挿通された状態で、その両端がSUS製のナット24によって締め付け固定される。
【0018】
上側の第1プレート21とナット24との間には、皿ばね25と金属カラー26が装着されている。皿ばね25及び金属カラー26は、例えばワークW1の外周の3箇所に120°間隔で設けられた支持軸23の軸周りにそれぞれ装着した。
【0019】
皿ばね25は例えば軸方向に複数(
図1,2では4個)積層して介装され、上側の第1プレート21を低圧かつ定圧で第2プレート22側に押圧する加圧し、ワークW1を積層方向に定圧で加圧する機能を果たす。皿ばね25を装着することでワークW1が膨張しても均等な荷重をかけられる。
【0020】
誘導加熱コイル12は銅などの材質から例えば矩形の中空形状に形成されている。この中空部分12aは冷却液が流通する通路となる。誘導加熱コイル12の一部はワークW1の内周部分に対向配置されて加熱導体部17を構成する。誘導加熱コイル12の両端はリード線や導電板を介して電力供給手段としての高周波電源に接続されている。加熱導体部17の裏側にはコアが配置される。
【0021】
加熱導体部17はワークW1の孔部内において螺旋状に複数回巻き回され、ワークW1と同軸の円筒形を成している。なお、ワークW1の各電磁鋼板13の磁気特性に影響するのは内周側であって外周側は磁気特性への影響が少ない。一方で、加熱温度が高すぎると鋼板13の絶縁層が損傷するため、鋼板同士が接触して磁気損失が大きくなるいわゆるスティッキングの要因になる。このため、この実施形態では、加熱温度が高くなりすぎず、過加熱を防止し、かつ、磁気特性に影響する内径側を有効に熱処理するために、加熱導体部17はワークW1の内周側の被処理部Aに対向配置することとし、外周側には配置しない。被処理部Aと加熱導体部17の表面との間のギャップ寸法G1=4〜6mmで所定値に維持される。
【0022】
コアは、ケイ素鋼板、ポリアイアンコア、フェロトロン等の高透磁率を有する材質からなり、加熱導体部17の裏側すなわち被処理部Aと反対側に配置され、加熱導体部17の両側部及び後方の壁部を一体に備える断面コ字形状に形成されている。
【0023】
以下、本実施形態にかかる誘導加熱方法(熱処理方法)について
図1乃至
図4を参照して説明する。本実施形態の誘導加熱方法は、支持部11でワークW1を低圧かつ定圧で押さえ支持しながら誘導加熱焼鈍を施す。
【0024】
積層方向における両端は優先的に加熱されるため、プレート21,22とワークW1の両端との間にダミーワークWdを配置した。ダミーワークWdは例えばワークW1と同様の外形を有する円環状であって、所定の厚みに構成されている。さらに、ダミーワークWdの上下においてプレート21,22との間にそれぞれ断熱材19を配置した。断熱材19は例えばヘミサル等の材質から円環状に構成され、プレート21,22とワークW1及びダミーワークWdとの間を断熱する機能を果たす。
【0025】
ワークW1が支持部11によって定圧加圧されて支持され、被処理部Aに加熱導体部17を対向させた状態で、高周波電源をON状態とすると、高周波電流が、リード線や導電板を介して加熱導体部17に流れ、導電板、リード線、を順に経て、高周波電源に戻る。
【0026】
加熱導体部17において高周波電流は図中に矢印で示すように一端側から他端側向かって経て流れ、加熱導体部17の表面に誘導電流が発生し、対向配置される被処理部Aが誘導加熱される。
【0027】
押さえ圧については電磁鋼板13の熱膨張は押さえ込めないため、加圧力が高すぎるとかえって波打ったような変形を起こすことがある。したがって、加熱前には均等な微小荷重をかけ、熱膨張によって厚みが変わっても同等の荷重で押さえ続けることが望ましい。
【0028】
加熱温度については、鋼板の絶縁被覆を破損しない範囲で設定することが望ましい。すなわち、鋼板同士が接触して磁気損失が大きくなるいわゆるスティッキングが起きないようにした。
【0029】
これらの条件を満たすように処理条件を設定する。処理条件は、例えば電力20〜50kWが望ましい。最高到達温度は550〜750°℃の範囲が望ましく、より好ましくは600〜700℃の範囲に設定する。なお、ここでは最高到達温度650°とし、加熱雰囲気0.1%O2以下とした。また加熱時間は10min以下とするのが望ましく、本実施形態では300sec加熱とした。皿ばね25による積層方向の押さえ圧力は0.1〜0.5MPa以下とするのが望ましく、より好ましくは、0.1〜0.2MPaの範囲に設定する。焼鈍中に鋼板13が膨張しても同圧力を維持する。
【0030】
加熱工程の後に、ワークW1を冷却液で冷却し、終了する。
【0031】
本実施形態の処理条件として、最高到達温度650°、加熱時間300sec加熱、押さえ圧力0.2MPaとした場合、厚み50mmでの変化量平均0.3mm(最大0.41mm)、外径264mmでの変化量平均8μm(最大22μm)、内径162mmでの変化量平均1μm(最大2μm)、真円度での変化量平均2.3μm(最大5μm)となった。
【0032】
比較例として、電力25〜30kW、最高到達温度700°、加熱時間300s、加熱雰囲気0.1%O2以下とするとともに、押さえ機構としては皿ばねによる低い定圧押さえではなく、ボルト締めによって固定トルク5N/mとし、焼鈍中の鋼板膨張時の制御を行わない場合には、厚み50mmでの変化量平均1mm(最大2.5mm)、外径264mmでの変化量平均0.1mm(最大0.3mm)、内径162mmでの変化量平均0.03mm(最大0.1mm)となった。
【0033】
すなわち、本実施形態の処理条件で誘導加熱処理を施したワークW1は、固定トルクを制御して加熱した比較例と比べて形状変化が小さいことがわかる。
【0034】
図4は本実施形態に係る誘導加熱焼鈍処理を施したワークW1をステータとして組み込んだモータのモータベンチ試験結果を示すグラフである。グラフの縦軸はモータベンチにて無負荷引摺り損を測定したものである。
【0035】
本実施形態に係る誘導加熱処理を行ったワークW1の他、比較対象として焼鈍処理を施さないワーク(生コア)W0と、炉でのベース焼鈍を行ったワークW2、2MPaで加圧しながら誘導加熱処理を行ったワークW3、0.1MPaで加圧しながら誘導加熱処理を行ったワークW4、を組み込んだモータの試験結果をそれぞれ示す。
図4によれば、低加圧の条件で処理を行ったワークW1,W4で損失低減効果が見られ、高加圧で誘導加熱処理を行ったワークW3では損失が増加している。
【0036】
本実施形態にかかる誘導加熱装置及び誘導加熱方法によれば、以下のような効果が得られる。すなわち、低い定圧で加圧した状態で低温短時間での高周波誘導加熱焼鈍処理によって、積層鋼板の形状変化を抑えつつ、プレス打ち抜き後の磁気損失が改善できる。例えば炉では目標温度800℃で数時間の処理時間を要するが、上記本実施形態では650℃、300sec程度の誘導加熱処理で損失低減を実現可能であるため、短時間の処理で高い生産性を維持しつつ、磁気損失が少なく、変形の少ないワークを得ることができる。
【0037】
加熱温度を低く設定したことにより、電磁鋼板13の絶縁層の損傷を回避し、いわゆるスティッキングを防止できる。また、皿ばね25を利用して低い定圧で加圧したことにより、熱膨張の影響を抑え、変形を小さく抑えることができる。
【0038】
なお、本発明は上記各実施形態に限られるものではなく、各構成は適宜変形実施可能である。また、前記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種々の発明を形成できる。例えば、処理条件や、各構成要素の形状、材質、寸法などは上記実施形態で例示したものに限られず、適宜変更可能である。
【0039】
例えば、上記実施形態においてはモータのステータとして用いられる電磁鋼板をワークとしたが、これに限られるものではなく、他の各種鋼板をワークとして適用可能である。また被処理部についても、処理対象のワークの形状や磁気特性に影響する部位に応じて適宜その位置や形状を変更して実施可能である。例えばステータではなくロータをワークとした場合にはステータに対向する外周部分を被処理部に設定することで、上記実施形態と同様に加熱温度を上げすぎずに磁気特性を向上する温度範囲を設定しやすい。
【0040】
また、スティッキングを防止するために、誘導加熱装置10を収容するチャンバを用いて窒素雰囲気下で加熱処理することとしてもよい。
【0041】
例えば加圧部として皿ばねに代えて圧力センサとプレス機を組み合わせて用いることも可能であり、この場合には特に量産設備として適用可能となる。
【0042】
また、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を組合せてもよい。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
(1)
電磁鋼板が複数積層された積層鋼板の熱処理装置であって、
前記積層鋼板を積層方向に加圧する加圧部と、
前記積層鋼板における被処理部に対向配置され誘導加熱処理を行う加熱導体部と、を備え、
前記誘導加熱処理において前記積層鋼板を加圧する圧力は0.1〜0.5MPaであることを特徴とする積層鋼板の熱処理装置。
(2)
前記被処理部の到達温度は550〜750℃であることを特徴とする(1)記載の積層鋼板の熱処理装置。
(3)
前記加圧部は、
前記積層鋼板の積層方向両側に配される一対の支持材と、
前記一対の支持材間を接続する支持軸と、
前記支持軸に装着され前記ワークを前記積層方向に定荷重で加圧するばね材と、を備えたことを特徴とする(2)記載の積層鋼板の熱処理装置。
(4)
前記誘導加熱処理の加熱時間は600sec以下であることを特徴とする(3)記載の積層鋼板の熱処理装置。
(5)
前記電磁鋼板はプレス打抜加工されたモータ用コアであって、ステータまたはロータの対向面側に前記加熱導体部が対向配置されることを特徴とする(3)記載の積層鋼板の熱処理装置。
(6)
電磁鋼板が複数積層された積層鋼板の熱処理方法であって、
前記積層鋼板を積層方向において加圧し、
前記積層鋼板における被処理部に対向配置され誘導加熱処理を行い、
前記誘導加熱処理において前記積層鋼板を加圧する圧力は0.1〜0.5MPaであることを特徴とする積層鋼板の熱処理方法。
(7)
前記被処理部の到達温度は550〜750℃であることを特徴とする(6)記載の積層鋼板の熱処理方法。