(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226773
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】スプロケット
(51)【国際特許分類】
F16H 55/30 20060101AFI20171030BHJP
F16H 7/06 20060101ALI20171030BHJP
F16G 13/02 20060101ALI20171030BHJP
F16G 13/04 20060101ALI20171030BHJP
F16G 13/06 20060101ALI20171030BHJP
F16H 55/08 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
F16H55/30 C
F16H7/06
F16G13/02 E
F16G13/04
F16G13/06 Z
F16H55/08 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-33229(P2014-33229)
(22)【出願日】2014年2月24日
(65)【公開番号】特開2015-158232(P2015-158232A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2016年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100092200
【弁理士】
【氏名又は名称】大城 重信
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】横山 正則
(72)【発明者】
【氏名】樺井 毅
【審査官】
岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−107617(JP,A)
【文献】
特開2009−275788(JP,A)
【文献】
特開2006−170362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/30
F16G 13/02
F16G 13/04
F16G 13/06
F16H 7/06
F16H 55/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーンが噛み合う複数の歯を備え、前記複数の歯の間に、所定の半径及び所定の角度範囲の歯底部円弧を有するスプロケットであって、
前記歯底部円弧の半径が、噛み合うチェーンのローラまたはブシュの直径に対して、
Rb>0.505*Φr+0.069*Φr1/3
Rb:歯底部円弧半径
Φr:噛み合うチェーンのローラまたはブシュの直径
の関係を有することを特徴とする記載のスプロケット。
【請求項2】
前記歯底部円弧半径の中心が、
Ri=0.505*Φr+0.069*Φr1/3
Ri:標準スプロケットの歯底部円弧半径
Φr:噛み合うチェーンのローラまたはブシュの直径
で表される歯底部円弧半径を持つ標準スプロケットの歯底部円弧半径の中心よりも外周側に位置することを特徴とする請求項1に記載のスプロケット。
【請求項3】
前記スプロケットの歯底円直径が、
前記標準スプロケットの歯底円直径以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスプロケット。
【請求項4】
前記歯底部円弧半径Rbと標準スプロケットの歯底部円弧半径Riとの差が、前記歯底円直径と標準スプロケットの歯底円直径との差の半分よりも大きいことを特徴とする請求項3に記載のスプロケット。
【請求項5】
前記歯底部円弧の角度範囲が、標準スプロケットの歯底部円弧の角度範囲と等しいことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のスプロケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンが噛み合う複数の歯を備え、前記複数の歯の間に、歯底を中心として、所定の曲率半径及び所定の角度範囲の円筒面の一部で構成される歯底部を有するスプロケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、標準スプロケットとして、ISO 606:1994(E)にスプロケットの歯形(以下、ISO歯形という)が規定されている。
ISO歯形は、
図6に示すように、チェーンピッチをp、ピッチ円直径をDpΦ、ローラ(ブシュチェーンの場合は、ブシュ:以下同様)直径をΦr、歯底部円弧半径をRb、歯面半径をRs、歯底円直径をDbΦ、スプロケットの歯数をzとすると、これらの関係は、次の式で規定されている。
【0003】
DpΦ=p/sin(180°/z)
DbΦ=DpΦ−Φr
Rb(min)=0.505Φr
Rb(max)=0.505Φr+0.069(Φr)
1/3
Rs(min)=0.008Φr(z
2+180)
Rs(max)=0.12Φr(z+2)
【0004】
上記式から明らかなように、ISO歯形においては、歯510の歯底部511はローラの半径(Φr/2)よりわずかに大きい歯底部円弧半径Rbの円弧で形成されている。
また、歯底円直径DbΦはピッチ円直径DpΦとローラ直径Φrとの差に等しく形成されており、歯底円直径DbΦはピッチ円直径DpΦと歯底部円弧半径Rbの2倍との差にほぼ等しく形成されている。
【0005】
この標準的なスプロケット500は、
図7(a)で示すように、ローラチェーン520を巻き掛けた際に各ローラ521が歯底部511の中心に着座するように規定されているものである。
ローラ521はスプロケット500の歯底部511に順次噛み合うため、ローラチェーン520は多角形運動を生じて上下動(脈動)して振動し、騒音の発生要因となり、また、この多角形運動はローラチェーン520の進行方向の速度変動も発生させる。
このような、振動や騒音、速度変動等を低減するために、前述した標準的なスプロケット520の規格と異なる諸元のスプロケットを用いたものが公知である(例えば、特許文献1乃至6等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−30501号公報
【特許文献2】特開2005−249166号公報
【特許文献3】特開2006−170362号公報
【特許文献4】特開2007−107617号公報
【特許文献5】特開2008−164045号公報
【特許文献6】特開2009−275788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、公知のスプロケットは、多角形運動によるローラチェーンの速度変動を減少させて振動を低減する効果はあるものの、チェーンの伸びに起因して、ローラがスプロケットに最初に当接する位置や、着座した際の着座位置が変化することの影響については考慮されていない。
実際にチェーンは、張力による伸び、経時変化による伸びや摺動部の摩耗等によってピッチが大きくなり、その際、
図7(b)で示すように、ローラ521がスプロケット500に当接する位置513が変化して、歯底部511以外の歯側面512の高い位置と当接して、大きな衝撃を発生するという問題があった。
この問題は、標準的なスプロケット500のみならず、標準以外の前述の公知のスプロケットによっても同様に発生するものであり、このことで、噛合音が大きくなるという問題があった。
また、このような衝撃は、チェーンやスプロケットの噛合部の摩耗の原因となるとともに、チェーンの他の摺動部にも大きな力を及ぼし、摩耗の原因となり、それぞれの寿命を低減させる要因となっていた。
【0008】
さらに、経時変化による伸びや摺動部の摩耗等によってチェーンのピッチがさらに大きくなった場合、チェーンがスプロケットに巻き掛けられた部分で、ローラが歯底部以外の歯側面の高い位置に着座したままの状態となる。
このような状態となると、チェーンとスプロケットとの噛合の強度が低下したり、噛合音が増大したり、歯やローラの摩耗が増大し、さらには、歯飛び等の要因となるという問題があった。
【0009】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、チェーンの伸びに伴う騒音や振動、各部の摩耗を低減するとともに、チェーンとスプロケットとの噛合の強度の低下を抑制し、チェーンの寿命を向上するスプロケットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るスプロケットは、チェーンが噛み合う複数の歯を備え、前記複数の歯の間に、所定の半径及び所定の角度範囲の歯底部円弧を有するスプロケットであって、前記歯底部円弧の半径が、噛み合うチェーンのローラまたはブシュの直径に対して、Rb>0.505*Φr+0.069*Φr
1/3(Rb:歯底部円弧半径、Φr:噛み合うチェーンのローラまたはブシュの直径)の関係を有することにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0011】
本請求項1に係る発明のスプロケットによれば、歯底部円弧の半径が、Rb>0.505*Φr+0.069*Φr
1/3(Rb:歯底部円弧半径、Φr:噛み合うチェーンのローラまたはブシュの直径)の関係を有する、すなわち、歯底部円弧半径を標準的なスプロケットの歯底部円弧半径の最大値よりさらに大きくすることにより、張力、経時変化による伸びや摺動部の摩耗等によってチェーンのピッチが大きくなった場合でも、ローラあるいはブシュが噛み合う際に歯側面とは当接せず歯底部と当接し、歯底部に着座することが可能となり、騒音や振動、各部の摩耗を低減し、チェーンとスプロケットとの噛合の強度の低下を抑制し、チェーンの寿命を向上することができる。
【0012】
本請求項2に記載の構成によれば、歯底部円弧半径の中心が、標準スプロケットの歯底部円弧半径の中心よりも外周側に位置することにより、歯底部円弧半径を大きくした際にもスプロケットの歯底円直径が小さくなることを抑制し、チェーンのピッチの伸びが少ない場合の着座位置の変化を抑制することが可能となるため、さらに、騒音や振動、各部の摩耗を低減し、チェーンとスプロケットとの噛合の強度の低下を抑制し、チェーンの寿命を向上することができる。
本請求項3に記載の構成によれば、スプロケットの歯底円直径が、標準スプロケットの歯底円直径以上であることにより、チェーンに伸びがない状態での着座位置をあらかじめ逆方向にずらすことができ、チェーンのピッチがさらに大きくなった場合でも着座位置の変化を抑制することが可能となる。
本請求項4に記載の構成によれば、歯底部円弧半径Rbと標準スプロケットの歯底部円弧半径Riとの差が、歯底円直径と標準スプロケットの歯底円直径との差の半分よりも大きいことにより、チェーンに伸びがない状態での着座位置をあらかじめ逆方向にずらしつつ、チェーンが伸びてピッチがさらに大きくなった場合の着座位置の対応余裕を大きく取ることができ、より大きなチェーンの伸びに対応することが可能となる
本請求項5に記載の構成によれば、歯底部円弧の角度範囲が、標準スプロケットの歯底部円弧の角度範囲と等しいことにより、歯側面の形状を標準スプロケットと同等とすることができ、ローラまたはブシュが噛み合う際に歯側面と当接した場合でも、標準スプロケットと同等の動作とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態であるスプロケットの諸元図。
【
図2】本発明の第1実施形態であるスプロケットの一部側断面図。
【
図3】本発明の第1実施形態であるスプロケットの特性グラフ。
【
図5】本発明の第2実施形態であるスプロケットの諸元図。
【
図7】標準スプロケットにチェーンを係合させた説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、チェーンが噛み合う複数の歯を備え、複数の歯の間に、所定の半径及び所定の角度範囲の歯底部円弧を有するスプロケットであって、歯底部円弧の半径が、噛み合うチェーンのローラまたはブシュの直径に対して、Rb>0.505*Φr+0.069*Φr
1/3(Rb:歯底部円弧半径、Φr:噛み合うチェーンのローラまたはブシュの直径)の関係を有し、チェーンの伸びに伴う騒音や振動、各部の摩耗を低減するとともに、チェーンとスプロケットとの噛合の強度の低下を抑制し、チェーンの寿命を向上するものであれば、その具体的な実施態様は如何なるものであっても何ら構わない。
【実施例1】
【0015】
本発明の第1実施形態であるスプロケット100は、ローラ直径:Φr
1=4.49mmのローラチェーン120と噛み合うものであり、
図1に示すように、以下の諸元を持つ。
ピッチ円直径:DpΦ
1=48.60mm
歯底部円弧半径:Rb
1=2.72mm
歯底部円弧角度:θ
1=125.3°
歯底円直径:DbΦ
1=44.11mm
スプロケットの歯数:z
1=19枚
なお、「ローラ」、「ローラチェーン」は「ブシュ」、「ブシュチェーン」であってもよい(以下、同様。)。
【0016】
ローラチェーン120が全く伸びていない場合、
図2(a)に示すように、ローラチェーン120の全てのローラ121は、標準スプロケット500の場合と同様に、スプロケット100の歯底部111のほぼ中心に噛み合う。
張力による伸び、経時変化による伸びや摺動部の摩耗等によってローラチェーン120のピッチが大きくなった場合、
図2(b)に示すように、ローラ121とスプロケット100とが当接する位置113が変化するが、歯底部円弧半径Rb
1が大きく設定されていることによりローラ121が歯底部111から外れて歯側面112と当接することがなく、チェーンの伸びに伴う騒音や振動、各部の摩耗を低減するとともに、チェーンとスプロケットとの噛合の強度の低下を抑制し、チェーンの寿命が向上する。
【0017】
図3に、本実施形態のスプロケット100を用いた場合(a)と、標準スプロケットを用いた場合(b)の応力解析の比較結果を示す。
本実施形態のスプロケットを用いた場合、明らかにピーク応力の発生が抑制されており、このことで、騒音や振動を低減される。
なお、比較に用いた標準スプロケット500は、
図4に示すように、
ピッチ円直径:DpΦ=48.60mm
歯底部円弧半径:Ri=2.32mm
歯底部円弧角度:θ=125.3°
歯底円直径:DbΦ=44.11mm
スプロケットの歯数:z=19枚
の諸元を持つものである。
【実施例2】
【0018】
本発明の第2実施形態であるスプロケットは、前述の第1実施形態と同様にローラ直径:Φr
1=4.49mmのローラチェーンと噛み合うものであり、
図5に示すように、以下の諸元を持つ。
ピッチ円直径:DpΦ
2=48.60mm
歯底部円弧半径:Rb
2=2.72mm
歯底部円弧角度:θ
2=125.3°
歯底円直径:DbΦ
2=44.26mm
スプロケットの歯数:z
2=19枚
【0019】
本実施形態のスプロケットは、標準のスプロケットの歯底部円弧半径:Ri=2.32mm、歯底円直径:DbΦ=44.11mmに対して、
DbΦ
2=44.26>DbΦ=44.11 ・・・式1
Rb
2−Ri=0.4>(DbΦ
2−DbΦ)/2=0.075 ・・・式2
の関係を有している。
このことで、全くローラチェーンに伸びのない状態では、式1の関係があるため、ローラとスプロケットとが当接する位置が第1実施形態の場合と逆方向にずれるが、歯底部円弧半径Rb
2が式2の関係で大きく設定されていることによりローラが歯底部211から外れ歯側面212と当接することはない。
【0020】
そして、ローラチェーンがわずかに伸びた際には、ローラチェーンの全てのローラは、スプロケットの歯底部211のほぼ中心に噛み合い、ローラチェーンがさらに伸びた際には、ローラとスプロケットとが当接する位置が第1実施形態の場合と同様に変化する。
このとき、式1の関係を有することで、伸びのない状態でローラとスプロケットとの当接する位置が逆方向にずれているため、第1実施形態よりもさらにローラチェーンが伸びても、ローラとスプロケットとが当接する位置を歯底部211に保つことができる。
【符号の説明】
【0021】
100、 500 ・・・ スプロケット
110、210、520 ・・・ 歯
111、211、511 ・・・ 歯底部
112、212、512 ・・・ 歯側面
113、 513 ・・・ 当接する位置
120、 520 ・・・ ローラチェーン
121、 521 ・・・ ローラ