【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を行い、以下の知見を得た。
(A)被処理基板の下面での異常放電は、被処理基板と、高周波電力が印加される試料台本体との電位差が大きくなれば発生し易いと考えられる。
(B)被処理基板と試料台本体との電位差は、試料台本体上に形成された誘電層の静電容量と、インピーダンス整合器と試料台本体を流れる電流値の大きさによって決まる。具体的には、誘電層の静電容量は一定であるため、被処理基板と試料台本体との電位差は、インピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流値に比例する。従い、被処理基板の下面での異常放電は、インピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流値が大きくなれば発生し易いと考えられる。
(C)被処理基板の下面で異常放電が発生した場合のインピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流値を実際に測定したところ、少なくとも同種の処理ガスを用いて同種の被処理基板にプラズマ処理を施す限りにおいて、試料台本体に印加する電力値等を変化させたとしても、ほぼ一定の電流値以上で異常放電が発生することが分かった。従い、上記一定の電流値に基づき異常放電を予知するためのしきい値を決定(例えば、上記一定の電流値よりも若干小さい電流値をしきい値として決定)すれば、異常放電の予知対象である被処理基板にプラズマ処理を施している際のインピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流値を予測することで、この予測値がしきい値を超えた場合に異常放電が発生するおそれがあると判断することが可能である。
【0012】
本発明は、上記の本発明者らの知見に基づき完成されたものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、チャンバと、該チャンバ内に配置された試料台と、高周波電源と、可動部の位置によってインピーダンスが変化する可変インピーダンス素子を具備するインピーダンス整合器とを備え、前記試料台は、金属製の試料台本体と、該試料台本体上に形成された誘電層とを具備し、前記チャンバ内に所定の処理ガスを供給してプラズマ化させると共に、前記高周波電源から前記インピーダンス整合器を介して前記試料台本体に高周波電力を印加することで、前記誘電層上に載置された被処理基板にプラズマ処理を施すプラズマ処理装置の異常放電を予知する方法であって、以下の第1〜第5ステップとを含むことを特徴とするプラズマ処理装置の異常放電予知方法を提供する。
(1)第1ステップ
調査用被処理基板に前記プラズマ処理装置でプラズマ処理を施した際に、前記調査用被処理基板の下面で異常放電が発生した場合の前記インピーダンス整合器と前記試料台本体との間を通電する電流値を予め測定する。
(2)第2ステップ
前記第1ステップで測定した電流値に基づき、異常放電を予知するためのしきい値を予め決定し、記憶する。
(3)第3ステップ
前記インピーダンス整合器が具備する前記可変インピーダンス素子の可動部の位置と、前記インピーダンス整合器のインピーダンスとの対応関係を予め記憶する。
(4)第4ステップ
異常放電の予知対象である被処理基板に前記プラズマ処理装置でプラズマ処理を施している際に、前記高周波電源から印加する電力値を取得すると共に、前記インピーダンス整合器から前記可変インピーダンス素子の可動部の位置を取得し、該取得した電力値及び可動部の位置と前記第3ステップで記憶した対応関係とに基づき、前記インピーダンス整合器と前記試料台本体との間を通電する電流の予測値を算出する。
(5)第5ステップ
前記第4ステップで算出した予測値が前記第2ステップで記憶したしきい値を超えた場合、前記予知対象である被処理基板の下面に異常放電が発生するおそれがあると判断する。
【0013】
本発明に係る方法によれば、第1ステップにおいて、調査用被処理基板の下面で異常放電が発生した場合のインピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流値が予め測定される。具体的には、例えば、複数枚の調査用被処理基板を用意し、各調査用被処理基板毎に試料台本体に印加する電力値等の設定条件を種々変化させてプラズマ処理を実行する。この際、例えば、変流器(CT、Current Transformer)を用いて、インピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流値を測定する。そして、各調査用被処理基板毎に、異常放電が発生した場合の電流値を検出する。
【0014】
次に、本発明に係る方法によれば、第2ステップにおいて、第1ステップで測定した電流値に基づき、異常放電を予知するためのしきい値が予め決定され、記憶される。具体的には、例えば、第1ステップで各調査用被処理基板毎に検出した電流値(異常放電が発生した場合の電流値)のうち、いずれの電流値よりも小さい値が、異常放電を予知するためのしきい値として決定され、記憶される。
【0015】
次に、本発明に係る方法によれば、第3ステップにおいて、インピーダンス整合器が具備する可変インピーダンス素子の可動部の位置と、インピーダンス整合器のインピーダンスとの対応関係が予め記憶される。
本発明における「可変インピーダンス素子」とは、可動部の位置に応じてキャパシタンスが変化する可変コンデンサや、可動部の位置に応じてインダクタンスが変化する可変インダクタ等、可動部の位置に応じてインピーダンスを変更可能な素子である。従い、インピーダンス整合器が具備する可変インピーダンス素子の可動部の位置を変更すれば、可変インピーダンス素子のインピーダンス、ひいてはインピーダンス整合器のインピーダンスが変化することになる。
第3ステップにおいては、可変インピーダンス素子の可動部の位置を変更したときにインピーダンス整合器のインピーダンスがどのように変化するのか、すなわち、両者の対応関係が例えばテーブル形式で記憶される。なお、インピーダンス整合器のインピーダンスは、インピーダンスアナライザやネットワークアナライザ等を用いて測定することが可能である。
【0016】
次に、本発明に係る方法によれば、第4ステップにおいて、異常放電の予知対象である被処理基板にプラズマ処理装置でプラズマ処理を施している際に、高周波電源から印加する電力値が取得されると共に、インピーダンス整合器から可変インピーダンス素子の可動部の位置が取得される。そして、取得した電力値及び可動部の位置と、第3ステップで記憶した対応関係(インピーダンス整合器が具備する可変インピーダンス素子の可動部の位置と、インピーダンス整合器のインピーダンスとの対応関係)とに基づき、インピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流の予測値が算出される。
具体的には、まず最初に、取得した可動部の位置と前記対応関係とに基づき、可動部の位置を取得した時点でのインピーダンス整合器のインピーダンスが算出される。
次に、算出したインピーダンスと、取得した電力値とに基づき、電流の予測値が算出される。より具体的には、例えば、算出したインピーダンスの抵抗成分(実数成分)をR、取得した電力値をPとすると、電流の予測値I
rmsは、以下の式(1)で算出される。
I
rms=P
1/2/R ・・・(1)
【0017】
最後に、本発明に係る方法によれば、第5ステップにおいて、第4ステップで算出した予測値が第2ステップで記憶したしきい値を超えた場合、予知対象である被処理基板の下面に異常放電が発生するおそれがあると判断される。
すなわち、第2ステップで記憶したしきい値は、第1ステップで測定した電流値(調査用被処理基板の下面で異常放電が発生した場合の電流値)に基づき決定されたものである(例えば、上記の電流値よりも小さい値とされている)ため、このしきい値を超えてもただちに異常放電は発生しないと考えられる一方、まもなく発生するおそれがあると判断できる、すなわち予知することが可能である。
【0018】
以上のように、本発明に係る方法によれば、プラズマ処理を施す被処理基板の下面での異常放電の発生を精度良く予知することができ、異常放電を予知した場合には高周波電源からの高周波電力の印加を停止させる、或いは、高周波電力の電力値を維持又は低下させるなどして、被処理基板等の損傷を未然に防止することが可能である。
【0019】
なお、本発明に係る方法における第1〜第5ステップは、必ずしもこの順番に実行する必要がない。ただし、第2ステップは、第1ステップの後に実行する必要がある。また、第5ステップは、第4ステップの後に実行する必要がある。さらに、第4及び第5ステップは、第1〜第3ステップの後に実行する必要がある。
すなわち、本発明に係る方法には、第1〜第5ステップをこの順番に実行する場合と、第3、第1、第2、第4及び第5ステップをこの順番に実行する場合と、第1、第3、第2、第4及び第5ステップをこの順番に実行する場合とが含まれる。
【0020】
また、本発明に係る方法では、前述のように、インピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流の予測値を、異常放電が発生した場合に実際に測定した電流値に基づき決定したしきい値(以下、本段落において、電流しきい値という)と比較し、予測値が電流しきい値を超えた場合に異常放電が発生するおそれがあると判断している。本発明に係る方法には、電流の予測値を電流しきい値と直接比較する場合が当然含まれるものの、必ずしもこれに限られるものではない。
例えば、電流の予測値から、電流と一定の相関関係を有するパラメータ(例えば、被処理基板と試料台本体との電位差)の予測値を算出する。すなわち、電流の予測値を上記相関関係に基づきパラメータ予測値に換算する。一方、異常放電が発生した場合に実際に測定した電流値を上記相関関係に基づき上記パラメータに換算し、このパラメータに基づき、異常放電を予知するためのしきい値(以下、本段落において、パラメータしきい値という)を決定する。そして、上記パラメータの予測値を、決定したパラメータしきい値と比較する場合が考えられる。
この場合は、電流の予測値を電流しきい値と直接比較しないものの、両者を一定の相関関係で換算したもの同士を比較しているため、間接的には電流の予測値を電流しきい値と比較していることになる。本発明に係る方法には、このように間接的に電流の予測値を電流しきい値と比較して、予測値が電流しきい値を超えた場合に異常放電が発生するおそれがあると判断する場合が含まれる。
【0021】
さらに、本発明に係る方法における異常放電を予知するためのしきい値は、必ずしも1つに限られるものではなく、値の異なるしきい値を複数用いてもよい。しきい値を複数設けることで、異常放電が発生するまでの余裕代の大小を判断し易くなる。
例えば、2つのしきい値を用い、電流の予測値が小さい方のしきい値を超えた場合には、異常放電が発生するおそれがあるものの、未だもう少し電流の増加を許容できる余裕がある(異常放電が発生するまでの余裕代が大きい)と判断する一方、大きい方のしきい値を超えた場合には、ほとんど電流を増加できない(異常放電が発生するまでの余裕代が小さい)と判断することが可能である。
そして、例えば、小さい方のしきい値を超えた場合には、単に警報を出力するに留め、必要に応じて作業者がマニュアルで高周波電源の印加を停止したり、あるいは、インピーダンス整合器が具備する可変インピーダンス素子の可動部の移動速度を低下させる一方、大きい方のしきい値を超えた場合には、プラズマ処理装置が自動的に高周波電源の印加を停止するといった運転方法を採用することも可能である。
【0022】
本発明に係る方法は、前記第5ステップにおいて異常放電が発生するおそれがあると判断した場合、前記高周波電源からの高周波電力の印加を停止させる第6ステップを更に含むことが好ましい。
【0023】
斯かる好ましい構成によれば、高周波電力の印加を停止させるため、異常放電による被処理基板等の損傷を確実に防止することが可能である。
【0024】
本発明に係る方法を適用するプラズマ装置としては、誘導結合プラズマ処理装置を例示できる。
【0025】
また、前記課題を解決するため、本発明は、チャンバと、該チャンバ内に配置された試料台と、高周波電源と、可動部の位置によってインピーダンスが変化する可変インピーダンス素子を具備するインピーダンス整合器とを備え、前記試料台は、金属製の試料台本体と、該試料台本体上に形成された誘電層とを具備し、前記チャンバ内に所定の処理ガスを供給してプラズマ化させると共に、前記高周波電源から前記インピーダンス整合器を介して前記試料台本体に高周波電力を印加することで、前記誘電層上に載置された被処理基板にプラズマ処理を施すプラズマ処理装置の異常放電を予知する装置であって、前記高周波電源及び前記インピーダンス整合器に接続された取得部と、記憶部と、演算制御部とを備え、前記記憶部には、調査用被処理基板に前記プラズマ処理装置でプラズマ処理を施した際に、前記調査用被処理基板の下面で異常放電が発生した場合において測定された前記インピーダンス整合器と前記試料台本体との間を通電する電流値に基づき決定された異常放電を予知するためのしきい値、並びに、前記インピーダンス整合器が具備する前記可変インピーダンス素子の可動部の位置と、前記インピーダンス整合器のインピーダンスとの対応関係が予め記憶されており、前記取得部は、異常放電の予知対象である被処理基板に前記プラズマ処理装置でプラズマ処理を施している際に、前記高周波電源から印加する電力値を取得すると共に、前記インピーダンス整合器から前記可変インピーダンス素子の可動部の位置を取得し、前記演算制御部は、前記取得部が取得した電力値及び可動部の位置と、前記記憶部に記憶された対応関係とに基づき、前記インピーダンス整合器と前記試料台本体との間を通電する電流の予測値を算出し、該算出した予測値が前記記憶部に記憶されたしきい値を超えた場合、前記予知対象である被処理基板の下面に異常放電が発生するおそれがあると判断することを特徴とするプラズマ処理装置の異常放電予知装置としても提供される。
【0026】
本発明に係る装置において、前記演算制御部は、前記高周波電源に接続され、異常放電が発生するおそれがあると判断した場合、前記高周波電源からの高周波電力の印加を停止させることが好ましい。
【0027】
本発明に係る装置を適用するプラズマ装置としては、誘導結合プラズマ処理装置を例示できる。
【0028】
さらに、前記課題を解決するため、本発明は、前記異常放電予知装置と、前記プラズマ処理装置とを備えることを特徴とする異常放電予知機能付きプラズマ処理装置としても提供される。