特許第6226777号(P6226777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6226777プラズマ処理装置の異常放電予知方法及び装置、並びに異常放電予知機能付きプラズマ処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226777
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置の異常放電予知方法及び装置、並びに異常放電予知機能付きプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/00 20060101AFI20171030BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20171030BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   H05H1/00 A
   H01L21/302 101G
   H01L21/302 101R
   H01L21/302 101C
   H05H1/46 L
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-43679(P2014-43679)
(22)【出願日】2014年3月6日
(65)【公開番号】特開2015-170437(P2015-170437A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】511265154
【氏名又は名称】SPPテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】特許業務法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 竜介
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−244146(JP,A)
【文献】 特開平11−233293(JP,A)
【文献】 特開2008−117850(JP,A)
【文献】 特開2007−250755(JP,A)
【文献】 特開2008−311338(JP,A)
【文献】 特開2003−173973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00−1/54
H01L 21/3065
H01L 21/205
C23C 16/50−16/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、該チャンバ内に配置された試料台と、高周波電源と、可動部の位置によってインピーダンスが変化する可変インピーダンス素子を具備するインピーダンス整合器とを備え、前記試料台は、金属製の試料台本体と、該試料台本体上に形成された誘電層とを具備し、前記チャンバ内に所定の処理ガスを供給してプラズマ化させると共に、前記高周波電源から前記インピーダンス整合器を介して前記試料台本体に高周波電力を印加することで、前記誘電層上に載置された被処理基板にプラズマ処理を施すプラズマ処理装置の異常放電を予知する方法であって、
調査用被処理基板に前記プラズマ処理装置でプラズマ処理を施した際に、前記調査用被処理基板の下面で異常放電が発生した場合の前記インピーダンス整合器と前記試料台本体との間を通電する電流値を予め測定する第1ステップと、
前記第1ステップで測定した電流値に基づき、異常放電を予知するためのしきい値を予め決定し、記憶する第2ステップと、
前記インピーダンス整合器が具備する前記可変インピーダンス素子の可動部の位置と、前記インピーダンス整合器のインピーダンスとの対応関係を予め記憶する第3ステップと、
異常放電の予知対象である被処理基板に前記プラズマ処理装置でプラズマ処理を施している際に、前記高周波電源から印加する電力値を取得すると共に、前記インピーダンス整合器から前記可変インピーダンス素子の可動部の位置を取得し、該取得した電力値及び可動部の位置と前記第3ステップで記憶した対応関係とに基づき、前記インピーダンス整合器と前記試料台本体との間を通電する電流の予測値を算出する第4ステップと、
前記第4ステップで算出した予測値が前記第2ステップで記憶したしきい値を超えた場合、前記予知対象である被処理基板の下面に異常放電が発生するおそれがあると判断する第5ステップと、
を含むことを特徴とするプラズマ処理装置の異常放電予知方法。
【請求項2】
前記第5ステップにおいて異常放電が発生するおそれがあると判断した場合、前記高周波電源からの高周波電力の印加を停止させる第6ステップを更に含むことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置の異常放電予知方法。
【請求項3】
前記プラズマ処理装置は、誘導結合プラズマ処理装置であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置の異常放電予知方法。
【請求項4】
チャンバと、該チャンバ内に配置された試料台と、高周波電源と、可動部の位置によってインピーダンスが変化する可変インピーダンス素子を具備するインピーダンス整合器とを備え、前記試料台は、金属製の試料台本体と、該試料台本体上に形成された誘電層とを具備し、前記チャンバ内に所定の処理ガスを供給してプラズマ化させると共に、前記高周波電源から前記インピーダンス整合器を介して前記試料台本体に高周波電力を印加することで、前記誘電層上に載置された被処理基板にプラズマ処理を施すプラズマ処理装置の異常放電を予知する装置であって、
前記高周波電源及び前記インピーダンス整合器に接続された取得部と、記憶部と、演算制御部とを備え、
前記記憶部には、調査用被処理基板に前記プラズマ処理装置でプラズマ処理を施した際に、前記調査用被処理基板の下面で異常放電が発生した場合において測定された前記インピーダンス整合器と前記試料台本体との間を通電する電流値に基づき決定された異常放電を予知するためのしきい値、並びに、前記インピーダンス整合器が具備する前記可変インピーダンス素子の可動部の位置と、前記インピーダンス整合器のインピーダンスとの対応関係が予め記憶されており、
前記取得部は、異常放電の予知対象である被処理基板に前記プラズマ処理装置でプラズマ処理を施している際に、前記高周波電源から印加する電力値を取得すると共に、前記インピーダンス整合器から前記可変インピーダンス素子の可動部の位置を取得し、
前記演算制御部は、前記取得部が取得した電力値及び可動部の位置と、前記記憶部に記憶された対応関係とに基づき、前記インピーダンス整合器と前記試料台本体との間を通電する電流の予測値を算出し、該算出した予測値が前記記憶部に記憶されたしきい値を超えた場合、前記予知対象である被処理基板の下面に異常放電が発生するおそれがあると判断することを特徴とするプラズマ処理装置の異常放電予知装置。
【請求項5】
前記演算制御部は、前記高周波電源に接続され、異常放電が発生するおそれがあると判断した場合、前記高周波電源からの高周波電力の印加を停止させることを特徴とする請求項4に記載のプラズマ処理装置の異常放電予知装置。
【請求項6】
前記プラズマ処理装置は、誘導結合プラズマ処理装置であることを特徴とする請求項4又は5に記載のプラズマ処理装置の異常放電予知装置。
【請求項7】
請求項4から6の何れかに記載の異常放電予知装置と、前記プラズマ処理装置とを備えることを特徴とする異常放電予知機能付きプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置の異常放電予知方法及び装置、並びに異常放電予知機能付きプラズマ処理装置に関する。特に、本発明は、プラズマ処理を施す被処理基板の下面での異常放電の発生を精度良く予知し、被処理基板等の損傷を未然に防止し得るプラズマ処理装置の異常放電予知方法及び装置、並びに異常放電予知機能付きプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、チャンバと、該チャンバ内に配置された試料台と、高周波電源と、可動部の位置によってインピーダンスが変化する可変インピーダンス素子を具備するインピーダンス整合器とを備え、前記試料台が、金属製の試料台本体と、該試料台本体上に形成された誘電層とを具備するプラズマ処理装置が知られている。
上記の構成を有するプラズマ処理装置においては、チャンバ内に所定の処理ガスを供給してプラズマ化させると共に、高周波電源からインピーダンス整合器を介して試料台本体に高周波電力を印加することで、プラズマと試料台との間に電位差が生じる。この電位差により、プラズマ中のイオンが試料台に向けて移動し、試料台の誘電層上に載置された被処理基板に衝突することで、被処理基板にエッチング等のプラズマ処理が施される。
【0003】
なお、いわゆる誘導結合プラズマ処理装置の場合、コイル状のアンテナを備えており、このアンテナにインピーダンス整合器を介して高周波電力を印加することで、チャンバ内に供給された処理ガスをプラズマ化している。
また、プラズマ処理装置の試料台には、誘電層及び試料台本体を貫通する貫通孔が設けられているのが一般的であり、この貫通孔を通じて被処理基板の下面にガス(例えばHeガス)を供給することで被処理基板を所望する温度に維持している。
【0004】
ここで、例えば、プラズマ処理の設定条件によっては、プラズマ処理装置に異常放電が発生する場合のあることが知られている。具体的には、試料台本体に印加する高周波電力や、アンテナに供給する高周波電力を大きくし過ぎると、被処理基板の下面から前記Heガスを供給するための貫通孔を通って放電が生じることが知られている。このような異常放電が生じると、被処理基板や該基板が載置される試料台表面が損傷するため、問題である。
【0005】
このため、従来は、過去に異常放電が発生したときのプラズマ処理の設定条件(試料台本体に印加する電力値やアンテナに供給する電力値など)を記録しておき、被処理基板にプラズマ処理を施す際の設定条件が、この記録した異常放電が発生する設定条件に合致しないようにプラズマ処理装置を運転していた。
具体的には、例えば、アンテナに供給する電力値が1000Wで、なお且つ試料台本体に供給する電力値が1300Wのときに異常放電が生じたことがあれば、アンテナに供給する電力値を1000Wに設定する場合には、試料台本体に供給する電力値を少なくとも1300W未満に制限してプラズマ処理装置を運転していた。
また、例えば、アンテナに供給する電力値が1500Wで、なお且つ試料台本体に供給する電力値が500Wのときに異常放電が生じたことがあれば、アンテナに供給する電力値を1500Wに設定する場合には、試料台本体に供給する電力値を少なくとも500W未満に制限してプラズマ処理装置を運転していた。
【0006】
このように、従来は過去の経験則のみに基づいてプラズマ処理装置の設定条件を決定していたに過ぎない。このため、例えば、これまでにない新たな設定条件のプラズマ処理を施そうとした場合に、その設定条件で異常放電が発生するか否かを精度良く判断することができなかった。
例えば、過去にアンテナに供給する電力値を1200Wに設定した例が無い(従って、過去に異常放電が発生した例も無い)場合、アンテナに供給する電力値を1200Wに設定しようとすると、試料台本体に供給する電力値をどの程度まで高めることができるのか(どの程度まで高めても異常放電が発生しないのか)について精度の良い判断ができなかった。その結果、異常放電の発生を確実に防止するという観点からは、十分に余裕をもった運転を行わざるを得なかった。
例えば、上記の例に当てはめると、アンテナに供給する電力値を1200Wに設定する場合であっても、これよりも高電力値である1500Wに設定する場合と同様に、試料台本体に供給する電力値を少なくとも500W未満に制限してプラズマ処理装置を運転するということになる。これにより、プラズマ処理の効率低下や、新たな設定条件構築に際しての自由度の低下を引き起こすという問題があった。また、異常放電が発生する設定条件であるか否かについて、発生するまでの余裕代の大小も含めて精度良く判断することができないため、常に異常放電発生のリスクを抱えているという問題もあった。
【0007】
このため、プラズマ処理装置の異常放電の発生、特にプラズマ処理を施す被処理基板の下面での異常放電の発生を精度良く予知することが望まれている。
【0008】
従来、プラズマ処理装置の異常放電に関する技術として、例えば特許文献1に記載の技術が提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、異常放電の発生を抑制するためにインピーダンス調整部のインピーダンスを調整するものであって、異常放電の発生を予知するものではない(特許文献1の請求項1、段落0007)。また、特許文献1に記載の技術が対象としている異常放電は、下部電極(金属製の試料台本体)と処理容器(チャンバ)の壁部との間のプラズマの発生であり、被処理基板の下面での異常放電の発生ではない(特許文献1の段落0004、0005)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−244146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、斯かる従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、プラズマ処理を施す被処理基板の下面での異常放電の発生を精度良く予知し、被処理基板等の損傷を未然に防止し得るプラズマ処理装置の異常放電予知方法及び装置、並びに異常放電予知機能付きプラズマ処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を行い、以下の知見を得た。
(A)被処理基板の下面での異常放電は、被処理基板と、高周波電力が印加される試料台本体との電位差が大きくなれば発生し易いと考えられる。
(B)被処理基板と試料台本体との電位差は、試料台本体上に形成された誘電層の静電容量と、インピーダンス整合器と試料台本体を流れる電流値の大きさによって決まる。具体的には、誘電層の静電容量は一定であるため、被処理基板と試料台本体との電位差は、インピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流値に比例する。従い、被処理基板の下面での異常放電は、インピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流値が大きくなれば発生し易いと考えられる。
(C)被処理基板の下面で異常放電が発生した場合のインピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流値を実際に測定したところ、少なくとも同種の処理ガスを用いて同種の被処理基板にプラズマ処理を施す限りにおいて、試料台本体に印加する電力値等を変化させたとしても、ほぼ一定の電流値以上で異常放電が発生することが分かった。従い、上記一定の電流値に基づき異常放電を予知するためのしきい値を決定(例えば、上記一定の電流値よりも若干小さい電流値をしきい値として決定)すれば、異常放電の予知対象である被処理基板にプラズマ処理を施している際のインピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流値を予測することで、この予測値がしきい値を超えた場合に異常放電が発生するおそれがあると判断することが可能である。
【0012】
本発明は、上記の本発明者らの知見に基づき完成されたものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、チャンバと、該チャンバ内に配置された試料台と、高周波電源と、可動部の位置によってインピーダンスが変化する可変インピーダンス素子を具備するインピーダンス整合器とを備え、前記試料台は、金属製の試料台本体と、該試料台本体上に形成された誘電層とを具備し、前記チャンバ内に所定の処理ガスを供給してプラズマ化させると共に、前記高周波電源から前記インピーダンス整合器を介して前記試料台本体に高周波電力を印加することで、前記誘電層上に載置された被処理基板にプラズマ処理を施すプラズマ処理装置の異常放電を予知する方法であって、以下の第1〜第5ステップとを含むことを特徴とするプラズマ処理装置の異常放電予知方法を提供する。
(1)第1ステップ
調査用被処理基板に前記プラズマ処理装置でプラズマ処理を施した際に、前記調査用被処理基板の下面で異常放電が発生した場合の前記インピーダンス整合器と前記試料台本体との間を通電する電流値を予め測定する。
(2)第2ステップ
前記第1ステップで測定した電流値に基づき、異常放電を予知するためのしきい値を予め決定し、記憶する。
(3)第3ステップ
前記インピーダンス整合器が具備する前記可変インピーダンス素子の可動部の位置と、前記インピーダンス整合器のインピーダンスとの対応関係を予め記憶する。
(4)第4ステップ
異常放電の予知対象である被処理基板に前記プラズマ処理装置でプラズマ処理を施している際に、前記高周波電源から印加する電力値を取得すると共に、前記インピーダンス整合器から前記可変インピーダンス素子の可動部の位置を取得し、該取得した電力値及び可動部の位置と前記第3ステップで記憶した対応関係とに基づき、前記インピーダンス整合器と前記試料台本体との間を通電する電流の予測値を算出する。
(5)第5ステップ
前記第4ステップで算出した予測値が前記第2ステップで記憶したしきい値を超えた場合、前記予知対象である被処理基板の下面に異常放電が発生するおそれがあると判断する。
【0013】
本発明に係る方法によれば、第1ステップにおいて、調査用被処理基板の下面で異常放電が発生した場合のインピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流値が予め測定される。具体的には、例えば、複数枚の調査用被処理基板を用意し、各調査用被処理基板毎に試料台本体に印加する電力値等の設定条件を種々変化させてプラズマ処理を実行する。この際、例えば、変流器(CT、Current Transformer)を用いて、インピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流値を測定する。そして、各調査用被処理基板毎に、異常放電が発生した場合の電流値を検出する。
【0014】
次に、本発明に係る方法によれば、第2ステップにおいて、第1ステップで測定した電流値に基づき、異常放電を予知するためのしきい値が予め決定され、記憶される。具体的には、例えば、第1ステップで各調査用被処理基板毎に検出した電流値(異常放電が発生した場合の電流値)のうち、いずれの電流値よりも小さい値が、異常放電を予知するためのしきい値として決定され、記憶される。
【0015】
次に、本発明に係る方法によれば、第3ステップにおいて、インピーダンス整合器が具備する可変インピーダンス素子の可動部の位置と、インピーダンス整合器のインピーダンスとの対応関係が予め記憶される。
本発明における「可変インピーダンス素子」とは、可動部の位置に応じてキャパシタンスが変化する可変コンデンサや、可動部の位置に応じてインダクタンスが変化する可変インダクタ等、可動部の位置に応じてインピーダンスを変更可能な素子である。従い、インピーダンス整合器が具備する可変インピーダンス素子の可動部の位置を変更すれば、可変インピーダンス素子のインピーダンス、ひいてはインピーダンス整合器のインピーダンスが変化することになる。
第3ステップにおいては、可変インピーダンス素子の可動部の位置を変更したときにインピーダンス整合器のインピーダンスがどのように変化するのか、すなわち、両者の対応関係が例えばテーブル形式で記憶される。なお、インピーダンス整合器のインピーダンスは、インピーダンスアナライザやネットワークアナライザ等を用いて測定することが可能である。
【0016】
次に、本発明に係る方法によれば、第4ステップにおいて、異常放電の予知対象である被処理基板にプラズマ処理装置でプラズマ処理を施している際に、高周波電源から印加する電力値が取得されると共に、インピーダンス整合器から可変インピーダンス素子の可動部の位置が取得される。そして、取得した電力値及び可動部の位置と、第3ステップで記憶した対応関係(インピーダンス整合器が具備する可変インピーダンス素子の可動部の位置と、インピーダンス整合器のインピーダンスとの対応関係)とに基づき、インピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流の予測値が算出される。
具体的には、まず最初に、取得した可動部の位置と前記対応関係とに基づき、可動部の位置を取得した時点でのインピーダンス整合器のインピーダンスが算出される。
次に、算出したインピーダンスと、取得した電力値とに基づき、電流の予測値が算出される。より具体的には、例えば、算出したインピーダンスの抵抗成分(実数成分)をR、取得した電力値をPとすると、電流の予測値Irmsは、以下の式(1)で算出される。
rms=P1/2/R ・・・(1)
【0017】
最後に、本発明に係る方法によれば、第5ステップにおいて、第4ステップで算出した予測値が第2ステップで記憶したしきい値を超えた場合、予知対象である被処理基板の下面に異常放電が発生するおそれがあると判断される。
すなわち、第2ステップで記憶したしきい値は、第1ステップで測定した電流値(調査用被処理基板の下面で異常放電が発生した場合の電流値)に基づき決定されたものである(例えば、上記の電流値よりも小さい値とされている)ため、このしきい値を超えてもただちに異常放電は発生しないと考えられる一方、まもなく発生するおそれがあると判断できる、すなわち予知することが可能である。
【0018】
以上のように、本発明に係る方法によれば、プラズマ処理を施す被処理基板の下面での異常放電の発生を精度良く予知することができ、異常放電を予知した場合には高周波電源からの高周波電力の印加を停止させる、或いは、高周波電力の電力値を維持又は低下させるなどして、被処理基板等の損傷を未然に防止することが可能である。
【0019】
なお、本発明に係る方法における第1〜第5ステップは、必ずしもこの順番に実行する必要がない。ただし、第2ステップは、第1ステップの後に実行する必要がある。また、第5ステップは、第4ステップの後に実行する必要がある。さらに、第4及び第5ステップは、第1〜第3ステップの後に実行する必要がある。
すなわち、本発明に係る方法には、第1〜第5ステップをこの順番に実行する場合と、第3、第1、第2、第4及び第5ステップをこの順番に実行する場合と、第1、第3、第2、第4及び第5ステップをこの順番に実行する場合とが含まれる。
【0020】
また、本発明に係る方法では、前述のように、インピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流の予測値を、異常放電が発生した場合に実際に測定した電流値に基づき決定したしきい値(以下、本段落において、電流しきい値という)と比較し、予測値が電流しきい値を超えた場合に異常放電が発生するおそれがあると判断している。本発明に係る方法には、電流の予測値を電流しきい値と直接比較する場合が当然含まれるものの、必ずしもこれに限られるものではない。
例えば、電流の予測値から、電流と一定の相関関係を有するパラメータ(例えば、被処理基板と試料台本体との電位差)の予測値を算出する。すなわち、電流の予測値を上記相関関係に基づきパラメータ予測値に換算する。一方、異常放電が発生した場合に実際に測定した電流値を上記相関関係に基づき上記パラメータに換算し、このパラメータに基づき、異常放電を予知するためのしきい値(以下、本段落において、パラメータしきい値という)を決定する。そして、上記パラメータの予測値を、決定したパラメータしきい値と比較する場合が考えられる。
この場合は、電流の予測値を電流しきい値と直接比較しないものの、両者を一定の相関関係で換算したもの同士を比較しているため、間接的には電流の予測値を電流しきい値と比較していることになる。本発明に係る方法には、このように間接的に電流の予測値を電流しきい値と比較して、予測値が電流しきい値を超えた場合に異常放電が発生するおそれがあると判断する場合が含まれる。
【0021】
さらに、本発明に係る方法における異常放電を予知するためのしきい値は、必ずしも1つに限られるものではなく、値の異なるしきい値を複数用いてもよい。しきい値を複数設けることで、異常放電が発生するまでの余裕代の大小を判断し易くなる。
例えば、2つのしきい値を用い、電流の予測値が小さい方のしきい値を超えた場合には、異常放電が発生するおそれがあるものの、未だもう少し電流の増加を許容できる余裕がある(異常放電が発生するまでの余裕代が大きい)と判断する一方、大きい方のしきい値を超えた場合には、ほとんど電流を増加できない(異常放電が発生するまでの余裕代が小さい)と判断することが可能である。
そして、例えば、小さい方のしきい値を超えた場合には、単に警報を出力するに留め、必要に応じて作業者がマニュアルで高周波電源の印加を停止したり、あるいは、インピーダンス整合器が具備する可変インピーダンス素子の可動部の移動速度を低下させる一方、大きい方のしきい値を超えた場合には、プラズマ処理装置が自動的に高周波電源の印加を停止するといった運転方法を採用することも可能である。
【0022】
本発明に係る方法は、前記第5ステップにおいて異常放電が発生するおそれがあると判断した場合、前記高周波電源からの高周波電力の印加を停止させる第6ステップを更に含むことが好ましい。
【0023】
斯かる好ましい構成によれば、高周波電力の印加を停止させるため、異常放電による被処理基板等の損傷を確実に防止することが可能である。
【0024】
本発明に係る方法を適用するプラズマ装置としては、誘導結合プラズマ処理装置を例示できる。
【0025】
また、前記課題を解決するため、本発明は、チャンバと、該チャンバ内に配置された試料台と、高周波電源と、可動部の位置によってインピーダンスが変化する可変インピーダンス素子を具備するインピーダンス整合器とを備え、前記試料台は、金属製の試料台本体と、該試料台本体上に形成された誘電層とを具備し、前記チャンバ内に所定の処理ガスを供給してプラズマ化させると共に、前記高周波電源から前記インピーダンス整合器を介して前記試料台本体に高周波電力を印加することで、前記誘電層上に載置された被処理基板にプラズマ処理を施すプラズマ処理装置の異常放電を予知する装置であって、前記高周波電源及び前記インピーダンス整合器に接続された取得部と、記憶部と、演算制御部とを備え、前記記憶部には、調査用被処理基板に前記プラズマ処理装置でプラズマ処理を施した際に、前記調査用被処理基板の下面で異常放電が発生した場合において測定された前記インピーダンス整合器と前記試料台本体との間を通電する電流値に基づき決定された異常放電を予知するためのしきい値、並びに、前記インピーダンス整合器が具備する前記可変インピーダンス素子の可動部の位置と、前記インピーダンス整合器のインピーダンスとの対応関係が予め記憶されており、前記取得部は、異常放電の予知対象である被処理基板に前記プラズマ処理装置でプラズマ処理を施している際に、前記高周波電源から印加する電力値を取得すると共に、前記インピーダンス整合器から前記可変インピーダンス素子の可動部の位置を取得し、前記演算制御部は、前記取得部が取得した電力値及び可動部の位置と、前記記憶部に記憶された対応関係とに基づき、前記インピーダンス整合器と前記試料台本体との間を通電する電流の予測値を算出し、該算出した予測値が前記記憶部に記憶されたしきい値を超えた場合、前記予知対象である被処理基板の下面に異常放電が発生するおそれがあると判断することを特徴とするプラズマ処理装置の異常放電予知装置としても提供される。
【0026】
本発明に係る装置において、前記演算制御部は、前記高周波電源に接続され、異常放電が発生するおそれがあると判断した場合、前記高周波電源からの高周波電力の印加を停止させることが好ましい。
【0027】
本発明に係る装置を適用するプラズマ装置としては、誘導結合プラズマ処理装置を例示できる。
【0028】
さらに、前記課題を解決するため、本発明は、前記異常放電予知装置と、前記プラズマ処理装置とを備えることを特徴とする異常放電予知機能付きプラズマ処理装置としても提供される。
【発明の効果】
【0029】
以上に説明したように、本発明によれば、プラズマ処理を施す被処理基板の下面での異常放電の発生を精度良く予知することができ、異常放電を予知した場合には高周波電源からの高周波電力の印加を停止させる、或いは、高周波電力の電力値を維持又は低下させるなどして、被処理基板や該基板が載置される試料台表面の損傷を未然に防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る異常放電予知機能付きプラズマ処理装置の概略構成を模式的に示す一部断面図である。
図2図2は、図1に示すインピーダンス整合器の内部構成例を示す図である。
図3図3は、異常放電の予知対象である被処理基板と同種の調査用被処理基板に図1に示すプラズマ処理装置でプラズマ処理を施した際に、前記調査用被処理基板の下面で異常放電が発生した場合のインピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流値の測定結果例を示す図である。
図4図4は、図1に示す記憶部に記憶される、インピーダンス整合器が具備する可変インピーダンス素子の可動部の位置と、インピーダンス整合器のインピーダンスとの対応関係の例を示す図である。
図5図5は、図1に示す異常放電予知装置が行う異常放電の予知手順を示すフロー図である。
図6図6は、図1に示す演算制御部が算出する、インピーダンス整合器と試料台本体との間を通電する電流の予測値の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る異常放電予知機能付きプラズマ処理装置の概略構成を模式的に示す一部断面図である。図2は、図1に示すインピーダンス整合器14の内部構成例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る異常放電予知機能付きプラズマ処理装置100は、プラズマ処理装置1と、異常放電予知装置2とを備えている。
【0032】
本実施形態のプラズマ処理装置1は、チャンバ11と、チャンバ11内に配置された試料台12と、高周波電源13と、可動部の位置によってインピーダンスが変化する可変インピーダンス素子を具備するインピーダンス整合器14とを備えている。
インピーダンス整合器14は、高周波電源13のインピーダンスと試料台12(後述の試料台本体121)のインピーダンスとを整合させるものである。
試料台12は、金属製(例えば、アルミニウム製)の試料台本体121と、試料台本体121上に形成された誘電層(例えば、セラミック)122とを具備し、チャンバ11内に所定の処理ガス(Ar等)を供給してプラズマ化させると共に、高周波電源13からインピーダンス整合器14を介して試料台本体121に高周波電力を印加することで、誘電層122上に載置された被処理基板Sにプラズマ処理を施すものである。
【0033】
本実施形態のプラズマ処理装置1は、いわゆる誘導結合プラズマ処理装置である。このため、プラズマ処理装置1は、前述した構成に加え、コイル状のアンテナ17と、このアンテナ17に高周波電力を印加するための高周波電源15と、高周波電源15のインピーダンスとアンテナ17のインピーダンスとを整合させるためのインピーダンス整合器16とを備えている。アンテナ17にインピーダンス整合器16を介して高周波電力を印加することで、チャンバ11内に供給された処理ガスをプラズマ化している。
また、プラズマ処理装置1の試料台12には、誘電層122及び試料台本体121を貫通する貫通孔123が設けられており、この貫通孔123を通じて被処理基板Sの下面にHeガスを供給することで被処理基板Sを所望する温度に維持している。なお、この貫通孔123には、被処理基板Sを昇降させるためのリフトピン124が挿通されている。
【0034】
図2(a)に示すように、本実施形態のインピーダンス整合器14は、可動部の位置によってインピーダンスが変化する可変インピーダンス素子として、可動部の位置に応じてインダクタンスが変化する可変インダクタ141、142を備えている。
可変インダクタ141は、可動部の位置(0〜100%)に応じて5〜26μHの範囲でインダクタンスが変化し、可変インダクタ142は、可動部の位置(0〜100%)に応じて5〜25μHの範囲でインダクタンスが変化するものである。図2(a)に示すインピーダンス整合器14の構成は、高周波電源13から印加される高周波電力の周波数が例えば380kHz、2MHzの場合に好ましく用いられる。
ただし、本発明はこれに限るものではなく、図2(b)に示すように、可動部の位置によってインピーダンスが変化する可変インピーダンス素子として、可動部の位置に応じてキャパシタンスが変化する可変コンデンサ141A、142Aを備えたインピーダンス整合器14Aを用いることも可能である。可変コンデンサ141Aは、可動部の位置(0〜100%)に応じて60〜500pFの範囲でキャパシタンスが変化し、可変コンデンサ142Aは、可動部の位置(0〜100%)に応じて70〜1400pFの範囲でキャパシタンスが変化するものである。図2(b)に示すインピーダンス整合器14Aの構成は、高周波電源13から印加される高周波電力の周波数が例えば13.56MHzの場合に好ましく用いられる。
なお、本実施形態の可変インピーダンス素子(可変インダクタ141、142、可変コンデンサ141A、142A)の可動部は、インピーダンス整合器14、14Aが具備するモーター(図示せず)の駆動によって移動し、例えば、0%の位置から100%の位置に移動するのに、1.5秒程度の時間を要する。すなわち、モーターによって機械的に可動部を移動させることでインピーダンスを変化させる構成であるため、インピーダンスの変化に比較的長い時間を要する。このため、後述する異常放電予知装置2で異常放電の発生を予知した後に、瞬時にインピーダンスが変化しない(インピーダンス整合器14と試料台本体121との間を通電する電流値が瞬時に増加しない)ため、被処理基板S等の損傷を未然に防止し易いという利点がある。
【0035】
本実施形態の異常放電予知装置2は、上記の構成を有するプラズマ処理装置1の異常放電を予知する装置であり、高周波電源13及びインピーダンス整合器14に接続された取得部21と、記憶部22と、演算制御部23とを備えている。本実施形態の異常放電予知装置2が備える演算制御部23は、好ましい構成として、高周波電源13に接続されている。異常放電予知装置2は、パーソナルコンピュータや、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)や、これらの組み合わせ等から構成される。
【0036】
異常放電予知装置2の記憶部22には、異常放電の予知対象である被処理基板Sと同種(同じサイズ、同じ電気的特性)の調査用被処理基板にプラズマ処理装置1でプラズマ処理を施した際に、前記調査用被処理基板の下面で異常放電が発生した場合において測定されたインピーダンス整合器14と試料台本体121との間を通電する電流値に基づき決定された異常放電を予知するためのしきい値が予め記憶されている。
【0037】
電流値は、図1に示すように、インピーダンス整合器14と試料台本体121とを接続する導線を変流器3で囲繞することで測定可能である。なお、変流器3は、電流値の測定値に基づきしきい値を決定した後に取り外せばよい。
図3は、異常放電の予知対象である被処理基板Sと同種の調査用被処理基板(8インチ、Siウェハ)にプラズマ処理装置1でプラズマ処理を施した際に、前記調査用被処理基板の下面で異常放電が発生した場合のインピーダンス整合器14と試料台本体121との間を通電する電流値の測定結果例を示す図である。
図3に示すように、少なくとも同種の処理ガス(Ar)を用いて同種の被処理基板にプラズマ処理を施す限りにおいて、試料台本体121に印加する電力値(高周波電源13から印加する電力値)やアンテナ17に印加する電力値(高周波電源15から印加する電力値)を変化させたとしても、ほぼ一定の電流値(図3に示す例では、8.150A)以上で異常放電が発生することが分かる。
従い、上記一定の電流値に基づき異常放電を予知するためのしきい値を決定すれば、異常放電の予知対象である被処理基板Sにプラズマ処理を施している際のインピーダンス整合器14と試料台本体121との間を通電する電流値を予測することで、この予測値がしきい値を超えた場合に異常放電が発生するおそれがあると判断することが可能である。図3に示す例では、例えば、上記一定の電流値よりも小さい(例えば上記一定の電流値の90%程度の)電流値である7Aがしきい値として決定され、記憶部22に記憶される。
【0038】
異常放電予知装置2の記憶部22には、異常放電の予知対象である被処理基板Sにプラズマ処理を施している際のインピーダンス整合器14と試料台本体121との間を通電する電流値を予測するのに供するため、インピーダンス整合器14が具備する可変インピーダンス素子141、142の可動部の位置と、インピーダンス整合器14のインピーダンスとの対応関係も予め記憶されている。
図4は、記憶部22に記憶される、インピーダンス整合器14が具備する可変インピーダンス素子141、142の可動部の位置と、インピーダンス整合器14のインピーダンス(インピーダンスの抵抗成分(実数成分))との対応関係の例を示す図である。インピーダンス整合器14のインピーダンスは、インピーダンスアナライザやネットワークアナライザ等を用いて測定することが可能であるため、可変インピーダンス素子141、142の可動部の位置を適宜変えて(図4に示す例では、5%ピッチで位置を変更している)、各位置でのインピーダンス整合器14のインピーダンスを測定することで、対応関係を求めることが可能である。
【0039】
以上に説明したように、記憶部22には、異常放電を予知するためのしきい値、及び、可変インピーダンス素子141、142の可動部の位置と、インピーダンス整合器14のインピーダンスとの対応関係が予め記憶される。記憶部22にこれらの情報が予め記憶された状態で、異常放電予知装置2は、異常放電の予知対象である被処理基板Sにプラズマ処理を施している際に当該被処理基板Sの異常放電を予知する。
以下、図5を適宜参照しつつ、異常放電予知装置2による被処理基板Sの異常放電の予知手順について説明する。
【0040】
図5は、異常放電予知装置2が行う異常放電の予知手順を示すフロー図である。
前述のように、異常放電予知装置2の記憶部22には、異常放電を予知するためのしきい値、及び、可変インピーダンス素子141、142の可動部の位置と、インピーダンス整合器14のインピーダンスとの対応関係が予め記憶される(図5のS1)。
【0041】
次に、異常放電予知装置2の取得部21は、異常放電の予知対象である被処理基板Sにプラズマ処理装置1でプラズマ処理を施している際に、高周波電源13から印加する電力値を取得すると共に、インピーダンス整合器14から可変インピーダンス素子141、142の可動部の位置を取得する(図5のS2)。
【0042】
演算制御部23は、取得部21が取得した電力値及び可動部の位置と、記憶部22に記憶された対応関係とに基づき、インピーダンス整合器14と試料台本体121との間を通電する電流の予測値を算出する(図5のS3、S4)。
具体的には、まず最初に、演算制御部23は、取得部21が取得した可動部の位置と、記憶部22に記憶された対応関係(図4参照)とに基づき、可動部の位置を取得した時点でのインピーダンス整合器14のインピーダンスを算出する(図5のS3)。
例えば、図4に示す例で説明すれば、取得部21が取得した可動部の位置が、可変インピーダンス素子141について30%、可変インピーダンス素子142について25%であったとすれば、演算制御部23は、インピーダンス整合器14のインピーダンス(インピーダンスの抵抗成分(実数成分))が18.9Ωであると算出することになる。
なお、取得部21が取得した可動部の位置は、記憶部22に記憶された位置と完全に合致するとは限らない。記憶部22には、通常、可動部の離散的な位置(図4に示す例では5%ピッチ毎の位置)しか記憶されておらず、取得部21が取得した可動部の位置(すなわち、インピーダンスが整合する可動部の位置)が、この記憶された離散的な位置に合致するとは限らないからである。双方の位置が合致しない場合、演算制御部23は、記憶部22に記憶された位置の中で、取得部21が取得した可動部の位置に最も近い位置を選択し、この選択した位置に対応するインピーダンス整合器14のインピーダンスを算出すればよい。あるいは、記憶部22に記憶された位置及びこれに対応付けられたインピーダンスを内挿し、取得部21が取得した可動部の位置に対応するインピーダンスを新たに算出することも可能である。
【0043】
次に、演算制御部23は、算出したインピーダンスと、取得部21が取得した電力値とに基づき、電流の予測値を算出する(図5のS4)。例えば、算出したインピーダンスの抵抗成分(実数成分)をR、取得した電力値をPとすると、電流の予測値Irmsは、以下の式(1)で算出される。
rms=P1/2/R ・・・(1)
前述した図3には、インピーダンス整合器14と試料台本体121との間を通電する電流値の実際の測定値に加え、上記の式(1)で算出した予測値(計算値)も図示している。図3から分かるように、上記の式(1)で算出した予測値は、比較的良い精度で測定値と一致している。従って、実際に電流値を測定しなくても、上記の予測値を用いることで、精度良く異常放電を予知することが可能である。
【0044】
図6は、演算制御部23が算出する、インピーダンス整合器14と試料台本体121との間を通電する電流の予測値の例を示す図である。具体的には、図6に示す例は、取得部21が取得した電力値が2000Wであり、取得部21が取得した可動部の位置が記憶部22に記憶された位置(図4参照)と合致する場合を示している。
図6に示すように、例えば、取得部21が取得した可動部の位置が、可変インピーダンス素子141について45%、可変インピーダンス素子142について85%であったとすれば、演算制御部23は、電流予測値が6.89Aであると算出する。また、可変インピーダンス素子141について45%、可変インピーダンス素子142について80%であったとすれば、演算制御部23は、電流予測値が7.08Aであると算出する。図6では、記憶部22に記憶されたしきい値(本実施形態では7A)以下である電流予測値にハッチングを施している。
【0045】
次に、演算制御部23は、上記のようにして算出した電流予測値が、記憶部22に記憶されたしきい値を超えるか否かを評価する(図5のS5)。
例えば、電流予測値が6.89Aの場合には、しきい値である7Aを超えていないため(図5のS5の「No」)、演算制御部23は、まだ被処理基板Sの下面に異常放電が発生するおそれがないと判断し、高周波電源13からの高周波電力の印加を継続させる(図5のS6)。そして、取得部21による電力値及び可動部の位置の取得(図5のS2)に戻って、前述と同様の動作(図5のS3〜S5)を繰り返す。
一方、例えば、電流予測値が7.08Aの場合には、しきい値である7Aを超えているため(図5のS5の「Yes」)、演算制御部23は、まだ被処理基板Sの下面に異常放電が発生するおそれがあると判断し、高周波電源13からの高周波電力の印加を停止させる(図5のS7)。これにより、異常放電による被処理基板S等の損傷を確実に防止することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1・・・異常放電予知装置
2・・・プラズマ処理装置
3・・・変流器
11・・・チャンバ
12・・・試料台
13・・・高周波電源
14・・・インピーダンス整合器
21・・・取得部
22・・・記憶部
23・・・演算制御部
100・・・異常放電予知機能付きプラズマ処理装置
121・・・試料台本体
122・・・誘電層
S・・・被処理基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6