特許第6226794号(P6226794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6226794-かご形誘導電動機 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226794
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】かご形誘導電動機
(51)【国際特許分類】
   H02K 17/16 20060101AFI20171030BHJP
   H02K 17/18 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   H02K17/16 A
   H02K17/18
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-63103(P2014-63103)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-186404(P2015-186404A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】池上 雅人
(72)【発明者】
【氏名】古庄 健太郎
【審査官】 田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−252144(JP,A)
【文献】 特開2009−278701(JP,A)
【文献】 特開2009−278783(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0316380(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 17/00−17/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層鋼板で構成され複数のスロットが形成されたロータを有するかご形誘導電動機であって、
スロット内には導体が鋳込まれ、
スロット内周側には、鋳込み導体よりも抵抗値の低い導体が配置され、
スロット外周側には、鋳込み導体よりも抵抗値の高い導体が配置され、
前記抵抗値の低い導体は銅線であり、
前記銅線は、前記ロータの積層鋼板内にある部分については絶縁被覆を有し、前記ロータの端面から突出する部分については絶縁被覆を有しないことを特徴とするかご形誘導電動機。
【請求項2】
前記抵抗値の高い導体は線材または棒材であることを特徴とする請求項1に記載のかご形誘導電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かご形誘導電動機の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
かご形誘導電動機は、スロット内に導体が鋳込まれたロータを備えている。スロット内にアルミニウムを埋め込むアルミダイキャストでロータを製造するものが主流であるが(例えば特許文献1)、近年では、電動機の効率向上のため、アルミニウムよりも導電率の高い銅のダイキャストでロータを製造したかご形誘導電動機も実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−9483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロータのスロット内の導体を変えると、電動機の効率が低下したり、あるいは始動特性が悪化したりするおそれがある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、かご形誘導電動機の効率と始動特性を改善する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、積層鋼板で構成され複数のスロットが形成されたロータを有するかご形誘導電動機である。スロット内には導体が鋳込まれ、スロット内周側には、鋳込み導体よりも抵抗値の低い導体の線材が配置され、スロット外周側には、鋳込み導体よりも抵抗値の高い導体が配置される。抵抗値の低い導体は銅線であり、銅線は、ロータの積層鋼板内にある部分については絶縁被覆を有し、ロータの端面から突出する部分については絶縁被覆を有しない。
【0007】
この態様によると、抵抗値の低い導体の使用によってかご形誘導電動機の効率が向上するとともに、抵抗値の高い導体によってかご形誘導電動機の始動特性を改善することができる。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、かご形誘導電動機の効率と始動特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】かご形誘導電動機の断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るかご形誘導電動機のロータおよび回転軸の断面図である。
図3図2のロータの一部の拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、かご形誘導電動機10を、中心軸を含む鉛直面で切断したときの断面図である。
【0012】
ステータ34は、同一形状に型抜きされた多数の薄板状(例えば、厚さ0.5mm)の電磁鋼板を積層して形成される。ステータ34は、フレーム30の内周に、例えば焼き嵌めによって嵌合される。ステータ34に形成された複数のスロットには銅線のコイル38が巻回されている。
【0013】
ロータ36も、同一の円形状に型抜きされた多数の薄板状の電磁鋼板を積層して形成される。ロータ36には、中央に回転軸12を挿通するための円形穴が形成されるとともに、その外周側には、径方向に延びる複数の同一形状のスロット36aが等間隔に形成されている(図3を参照)。ロータ36の円形穴は、回転軸12に締まり嵌めによって固定される。
【0014】
フレーム30は、例えばアルミダイキャスト製、鋳鉄製または鋼板製であり、ロータおよびステータの重量を支持するとともに、ロータおよびステータ等で発生する熱を電動機外部に放熱する役割を有する。放熱性能を高めるために、回転軸と平行な方向に延びる多数の放熱フィン40がフレーム30の外周に設置される。
【0015】
回転軸12は、フレーム30から内径側に延び出す両側のフランジ14、15にそれぞれ軸受16、17を介して回転自在に支持されている。フランジ14、15は、フレーム30と一体形成されてもよいし、別々に形成された後でフレーム30に固定されてもよい。
【0016】
回転軸12の後端側には、ファン18が配置される。ファン18のさらに外側にはファンカバー32が配置される。
【0017】
従来の誘導電動機では、ロータ36に形成されたスロット36a内に、アルミニウムまたは銅などの鋳込み導体がダイキャスト鋳造により鋳込まれている。ロータ36の両端面には、スロット内の導体と一体構造となる短絡環37が形成される。
【0018】
これに対し、本発明の一実施形態に係るかご形誘導電動機では、スロット36a内に、鋳込み導体よりも抵抗値の低い導体と、鋳込み導体よりも抵抗値の高い導体とが配置される。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態に係るかご形誘導電動機のロータ36および回転軸12の断面図、図3は、ロータ36の一部の拡大平面図である。
【0020】
図3に示すように、ロータ36のスロット36aの内周側に、鋳込み導体よりも抵抗値の低い導体(以下、低抵抗導体とも呼ぶ)の線材56または棒材58が配置される。また、ロータ36のスロット36aの外周側に、鋳込み導体よりも抵抗値の高い導体(以下、高抵抗導体とも呼ぶ)の線材50または棒材51が配置される。
【0021】
低抵抗導体および高抵抗導体の線材または棒材をスロット36a内に配置した後、スロット内にできる空隙に、溶融した鋳込み導体52がダイキャストマシンによって鋳込まれる。こうすることで、スロット内での低抵抗導体および高抵抗導体の移動が防止される。
【0022】
なお、図3では一部スロットのみに低抵抗導体、鋳込み導体および高抵抗導体が収められた様子が描かれているが、実際には全てのスロットに同様にこれらの導体が配置される。全てのスロットに低抵抗導体の線材56または棒材58のいずれかが配置されてもよいし、一部のスロットに低抵抗導体の線材56が、残りのスロットに低抵抗導体の棒材58が配置されてもよい。
【0023】
図2に示すように、スロット内に配置される低抵抗導体の線材56(または棒材58)および高抵抗導体の線材50(または棒材51)は、ロータ36の軸方向長さよりもやや長く予め切断しておき、各スロット内に挿入するとよい。スロット内への溶融した鋳込み導体の導入は、線材または棒材の挿入後に従来のダイキャストマシンを使用して行うことができる。こうすることで、ロータの製造コストの増加を抑えることができる。
【0024】
鋳込み導体がアルミニウムである場合、低抵抗導体は例えば銅であり、高抵抗導体は例えば高抵抗アルミニウム、マグネシウム、亜鉛である。
【0025】
上記のように、スロットの外周側に、鋳込み導体よりも抵抗値の高い導体を配置すると、かご形誘導電動機の始動時に電流が集中するスロットの外周側の抵抗が大きくなるので、かご形誘導電動機の始動特性を改善することができる。しかしながら、抵抗の上昇によって、かご形誘導電動機の効率は低下してしまう。
【0026】
本実施形態では、スロットの内周側に、鋳込み導体よりも抵抗値の低い導体の線材または棒材を配置している。これによって、スロット内に流れる電流が増加するので、高抵抗導体の配置によるかご形誘導電動機の効率の低下を抑制することができる。
【0027】
スロットの外周側に配置する高抵抗導体の線材または棒材の大きさは、始動電流の改善と電動機の効率低下とのトレードオフになるので、両者のバランスを見ながら適宜選択される。
【0028】
低抵抗導体として銅を選択する場合、線材56として市販の銅線を使用してもよい。市販の銅線を使用することの利点としては、安価に入手可能であり、ステータコイルとしても使われているので、一般的な銅ダイキャストに比べてロータの製造コストを抑制できる、線径が豊富である、比較的柔らかくスロット内に挿通しやすい、などがある。
【0029】
銅線のうち、スロットへの挿入後にロータの積層鋼板内にある部分については、エナメル等の絶縁被覆が施された状態のまま使用することが好ましい。これにより、銅線間が絶縁された状態を保つので、ロータに発生する磁界と平行な成分を有する迷走電流が流れにくくなるため、損失を抑制できる。
【0030】
なお、銅線のうちスロットへの挿入後にロータの端面から突出する部分については、銅線の延びる方向によらず電流が流れるように、予め絶縁被覆を除去しておくことが好ましい。
【0031】
実施の形態では、鋳込み導体がアルミニウムの場合、スロット内周側にアルミニウムよりも抵抗値の低い銅の線材または棒材、スロット外周側にアルミニウムよりも抵抗値の高い高抵抗アルミニウムの線材または棒材を配置することを述べた。本発明は、鋳込み導体がアルミニウム以外の場合でも適用することができる。例えば銅ダイキャストの場合には、スロット内周側に銅よりも抵抗値の低い材料の線材または棒材、スロット外周側に銅よりも抵抗値の高い材料の線材または棒材を配置すればよい。
【0032】
本発明のかご形誘導電動機のロータは、既存のアルミダイキャストマシンを使用して製造することに限定されず、新規に設計されたダイキャストマシンを用いてロータを製造してもよい。また、導体を鋳込む方法はダイキャストに限定されず、例えば鋳造であってもよい。
【0033】
以上、本発明の実施の形態について説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0034】
10 誘導電動機、 34 ステータ、 36 ロータ、 36a スロット、 50 高抵抗導体の線材、 51 高抵抗導体の棒材、 52 鋳込み導体、 56 低抵抗導体の線材、 58 低抵抗導体の棒材。
図1
図2
図3