特許第6226869号(P6226869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226869
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】酵素法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20171030BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20171030BHJP
   G01N 27/02 20060101ALI20171030BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20171030BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20171030BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALN20171030BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20171030BHJP
【FI】
   C12Q1/68 ZZNA
   G01N33/50 P
   G01N27/02 D
   G01N27/00 J
   G01N27/00 Z
   C12M1/00 A
   !C12Q1/34
   !C12N15/00 A
【請求項の数】19
【全頁数】81
(21)【出願番号】特願2014-536328(P2014-536328)
(86)(22)【出願日】2012年10月18日
(65)【公表番号】特表2014-534812(P2014-534812A)
(43)【公表日】2014年12月25日
(86)【国際出願番号】GB2012052579
(87)【国際公開番号】WO2013057495
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2015年10月19日
(31)【優先権主張番号】61/549,998
(32)【優先日】2011年10月21日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/599,244
(32)【優先日】2012年2月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511252899
【氏名又は名称】オックスフォード ナノポール テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】モイズィー,ラス
(72)【発明者】
【氏名】ヘロン,アンドリュー ジョン
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/102120(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/067559(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/004265(WO,A1)
【文献】 Biochem. Soc. Trans., 2011 Jan., vol.39, p.140-144
【文献】 Biochem. Soc. Trans., 2009, vol.37, p.74-78
【文献】 Nat. Struct. Mol. Biol., 2007, vol.14, p.647-652
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的ポリヌクレオチドを特性決定する方法であって、
(a)標的ポリヌクレオチドを膜貫通ポアおよびHel308ヘリカーゼに接触させて、ヘリカーゼがポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御し、標的ポリヌクレオチド中のヌクレオチドがポアと相互作用するようにするステップ;および
(b)1つまたは複数の相互作用の間に標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特性を測定し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
1つまたは複数の特性が、(i)標的ポリヌクレオチドの長さ、(ii)標的ポリヌクレオチドの同一性、(iii)標的ポリヌクレオチドの配列、(iv)標的ポリヌクレオチドの二次構造および(v)標的ポリヌクレオチドがメチル化によって、酸化によって、損傷によって、1つもしくは複数のタンパク質で、または1つもしくは複数の標識、タグもしくはスペーサーで修飾されているか否か、から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特性が電気的測定および/または光学的測定によって測定され、電気的測定が電流測定、インピーダンス測定、トンネル測定または電界効果トランジスタ(FET)測定である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
(a)標的ポリヌクレオチドを膜貫通ポアおよびHel308ヘリカーゼに接触させて、ヘリカーゼがポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御し、標的ポリヌクレオチド中のヌクレオチドがポアと相互作用するようにするステップ;および
(b)1つまたは複数の相互作用の間にポアを通過する電流を測定して、標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特性を測定し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するステップ
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ポアに電圧を印加して、ポアとヘリカーゼとの複合体を形成するステップをさらに含み、前記ポリヌクレオチドの少なくとも一部が2本鎖である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ポアが、膜貫通タンパク質ポアまたはソリッドステートポアであり、膜貫通タンパク質ポアが、α−ヘモリジン(hemolysin)、ロイコシジン(leukocidin)、スメグマ菌(Mycobacterium smegmatis)ポリン(porin)A(MspA)、外膜ポリン(porin)F(OmpF)、外膜ポリン(porin)G(OmpG)、外膜ホスホリパーゼA、ナイセリア(Neisseria)オートトランスポーターリポタンパク質(NalP)およびWZAから選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
膜貫通タンパク質が、(a)配列番号2に示す8個の同一のサブユニットから形成されている、または(b)7個のサブユニットの1つもしくは複数が配列全体にわたるアミノ酸同一性に基づいて配列番号2に対して少なくとも90%の相同性を有し、ポアを形成する能力を保持しているその変種である、または(c)配列番号4に示す7個の同一サブユニットから形成されているα−ヘモリジンである、または(d)7個のサブユニットの1つまたは複数が配列全体にわたるアミノ酸同一性に基づいて配列番号4に対して少なくとも90%の相同性を有し、ポアを形成する能力を保持しているその変種である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
Hel308ヘリカーゼが、アミノ酸モチーフQ−X1−X2−G−R−A−G−R(配列番号8)を含み、X1はC、MまたはLであり、X2は任意のアミノ酸残基である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
X2が、A、F、M、C、V、L、I、S、TまたはPである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
Hel308ヘリカーゼが、表4もしくは5に示すヘリカーゼの内の1つもしくはその変種である、またはHel308ヘリカーゼが、(a)配列番号10、13、16、19、22、25、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55および58のいずれか1つに示す配列、もしくは(b)配列全体にわたるアミノ酸同一性に基づいて配列番号10、13、16、19、22、25、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55および58のいずれか1つに示す配列に対して少なくとも90%の相同性を有し、ヘリカーゼ活性を保持しているその変種、もしくは(c)アミノ酸同一性に基づいて配列番号10の残基20から211もしくは20から727に対して少なくとも90%の相同性を有し、ヘリカーゼ活性を保持している配列を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
Hel308ヘリカーゼが標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合できる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも0.3Mまたは少なくとも1.0Mの塩濃度を用いて実行される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
塩がKClである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのセンサーの形成方法であって、
ここで、センサーは、膜貫通ポアとHel308ヘリカーゼとの複合体であり、前記方法は、(a)標的ポリヌクレオチドの存在下でポアとヘリカーゼとを接触させ、次いで、ポアに電位を印加するステップまたは(b)ポアをヘリカーゼに共有結合的に付着するステップによって、膜貫通ポアとHel308ヘリカーゼとの複合体を形成し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのセンサーを形成するステップを含む、方法。
【請求項15】
複合体が、(a)標的ポリヌクレオチドの存在下でポアとヘリカーゼとを接触させるステップおよび(b)ポアに電位を印加するステップによって形成され、前記電位が、電圧電位または化学電位である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
複合体が、ポアをヘリカーゼに共有結合的に付着するステップによって形成される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
膜貫通ポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御するためのHel308ヘリカーゼの使用。
【請求項18】
(a)膜貫通ポアおよび(b)Hel308ヘリカーゼを含む、標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのキット。
【請求項19】
試料中の標的ポリヌクレオチドを特性決定するための分析装置であって、
複数の膜貫通ポア;
複数のHel308ヘリカーゼ;
複数のポアを支持でき、前記ポアおよびヘリカーゼを用いてポリヌクレオチド特性決定を実施するために作動可能であるセンサーデバイス;
特性決定を実施するための材料を保持するための少なくとも1つのリザーバー;
前記少なくとも1つのリザーバーから前記センサーデバイスに材料を制御可能に供給するように構成された流体系;ならびに
各試料を受けるための複数の容器
を含み、前記流体系が前記容器から前記センサーデバイスに前記試料を選択的に供給するように構成されている、分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的ポリヌクレオチドを特性決定する新規方法に関する。方法は、ポアおよびHel308ヘリカーゼまたは標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合できる分子モーターを用いる。ヘリカーゼまたは分子モーターは、ポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御する。
【背景技術】
【0002】
迅速で安価なポリヌクレオチド(例えばDNAまたはRNA)配列決定および同定技術が、幅広い応用にわたって現在必要である。既存の技術は、主にそれらが、大量のポリヌクレオチドを生成するための増幅技術に依存し、シグナル検出のために多量の専門的な蛍光化学物質を必要とするために、遅く高価である。
【0003】
膜貫通ポア(ナノポア)は、ポリマーおよび種々の小分子のための直接的、電気的バイオセンサーとして大きな将来性を有する。特に、将来性のあるDNA配列決定技術としてナノポアが近年注目されている。
【0004】
電位がナノポア全体に印加される場合、ヌクレオチドなどの分析物が一定時間バレルに一過的に存在する場合に電流が変化する。ヌクレオチドのナノポア検出は、既知のサインおよび持続時間での電流変化をもたらす。「鎖配列決定」法では、1本のポリヌクレオチド鎖がポアを通り、ヌクレオチドのアイデンティティが得られる。鎖配列決定は、ポアを通るポリヌクレオチドの移動を制御するためのヌクレオチドハンドリングタンパク質の使用を含み得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはHel308ヘリカーゼが、特に電圧などの電位が印加されている場合に、ポアを通るポリヌクレオチドの移動を制御できることを実証した。ヘリカーゼは、印加された電圧から生じる場と反対にまたはそれに沿って制御された段階的な様式で標的ポリヌクレオチドを移動させることができる。驚くべきことに、ヘリカーゼは、ポリヌクレオチドを特性決定するために、特に、鎖配列決定を用いてその配列を決定するために有利である高塩濃度で機能できる。これは、下により詳細に考察される。
【0006】
したがって、本発明は、
(a)標的ポリヌクレオチドを膜貫通ポアおよびHel308ヘリカーゼに接触させて、ヘリカーゼがポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御し、標的ポリヌクレオチド中のヌクレオチドがポアと相互作用するようにするステップ;および
(b)1つまたは複数の相互作用の間に標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特性を測定し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するステップ
を含む、標的ポリヌクレオチドを特性決定する方法を提供する。
【0007】
本発明は、
− ポアとHel308ヘリカーゼとの複合体を形成し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのセンサーを形成するステップを含む、標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのセンサーの形成方法、
− ポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御するためのHel308ヘリカーゼの使用、
− (a)ポアおよび(b)Hel308ヘリカーゼを含む標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのキット、ならびに
− 複数のポアおよび複数のHel308ヘリカーゼを含む、試料中の標的ポリヌクレオチドを特性決定するための分析装置も提供する。
【0008】
本発明者らは、特に電圧などの電位が印加されている場合にも、標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合できる分子モーターがポアを通るポリヌクレオチドの移動を制御できることを実証した。モーターは、印加された電圧から生じる場と反対にまたはそれ沿って制御された段階的な様式で標的ポリヌクレオチドを移動させることができる。驚くべきことに、モーターが本発明の方法において用いられる場合に、モーターはナノポアを通る標的ポリヌクレオチドの鎖全体の移動を制御できる。これはポリヌクレオチドを特性決定するために、特に、鎖配列決定を用いてその配列を決定するために有利である。
【0009】
このように本発明は、
(a)標的ポリヌクレオチドを膜貫通ポアおよび分子モーターに接触させて、標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合きる分子モーターがポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御し、標的ポリヌクレオチド中のヌクレオチドがポアと相互作用するようにするステップ、および
(b)1つまたは複数の相互作用の間に標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特性を測定し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するステップ
を含む、標的ポリヌクレオチドを特性決定する方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】a)ナノポアを通るDNAの移動を制御するためのヘリカーゼの使用の模式的例を示す図である。1)コレステロール(cholesterol)タグ(c)を含有するアニールされたプライマー(b)を有するssDNA基質(a)が二重層(d)のcis側に添加される。コレステロールタグが二重層に結合し、二重層表面に基質を濃縮する。2)cisコンパートメントに添加されたヘリカーゼ(e)はDNAに結合する。二価金属イオンおよびNTP基質の存在下でヘリカーゼは、DNAに沿って移動する。3)印加された電圧下でDNA基質は、DNA上のリーダーセクションを介してナノポア(f)によって捕捉される。DNAは、DNAに結合したヘリカーゼがポアの先端に接触し、さらなる未制御なDNA移行を防ぐまで印加された電位の力の下でポアを通じて引かれる。このプロセスの際にdsDNAセクション(プライマーなど)は除去される。DNAに沿った3’から5’方向へのヘリカーゼの移動は、挿入されたDNAを印加される場と反対にポアの外側に引く。4)ヘリカーゼは、DNAをナノポアの外側に引き、cisコンパートメントへ戻す。ナノポアを通るDNAの最後のセクションは5’−リーダーである。5)ヘリカーゼがDNAをナノポアの外側へ移動させると、それはcisコンパートメントに戻って外れる。b)実施例において用いられるDNA基質設計を示す図である(a=50Tリーダー(b)を有するDNAの400塩基長鎖、c=プライマー、d=コレステロールタグ)。
図2】ヘリカーゼはDNAを制御された様式でナノポアを通して移動させることができ、DNAがナノポアを通って移動するときに電流に段階的変化を生じさせることを示す図である。例示的ヘリカーゼ−DNA事象(上セクションに小矢印で示す)(180mV、400mM KCl、Hepes pH8.0、0.15nM 400塩基長DNA、100nM Hel308Mbu、1mM DTT、1mM ATP、1mM MgCl)。上)Hel308 400塩基長DNA事象の電流(y軸、pA)対捕捉時間(x軸、秒)のセクション。オープンポア電流は約180pA(Aと標識される)である。DNAは印加された電位の力(+180mV)の下でナノポアによって捕捉される。付着している酵素を有するDNAは長期遮断(この条件では約60pA)を生じ、酵素がポアを通してDNAを移動させるときの電流における段階的変化を示す。中央)中央のセクションは、DNA事象(1)の1つの拡大図であり、DNA−酵素捕捉、DNAがポアを通って引かれるときの段階的電流変化、およびナノポアを抜ける前の特徴的な長いポリTレベルでの終了を示す。下)DNAがナノポアを通って移動するときの電流における段階的変化の拡大図。
図3】ヘリカーゼは、DNA移動を制御し、DNAがナノポアを通るときに電流遷移の一貫したパターンを生じる(図3aおよび3bについて、y軸=電流(pA)、x軸=時間(秒))。ポリTレベルで終了する4つの典型的DNA事象由来の最後の約80電流遷移の例。4つの例(3aに2つ、3bに2つ)は、電流遷移の一貫したパターンが観察されたことを例示する。
図4】塩濃度の増加は、ポア電流を増加させ、より広いDNA識別範囲(範囲=DNA電流遷移での最小電流から最大電流)をもたらすことを示す図である。例示的ヘリカーゼ−DNA事象(図4a〜cについて、y軸=電流(pA)、x軸=時間(秒)、180mV、Hepes pH8.0、0.15nM 400塩基長DNA配列番号59および60、100nM Hel308Mbu、1mM DTT、1mM ATP、1mM MgCl)、400mM、1Mおよび2M KClにおいて、図4および4cに示されている。上トレースは、ポリTレベルで終了する完全事象を(Aによって示されるI−オープンと共に)示し、下トレースは、150pAの一定y軸電流スケールでの各事象の最後の10秒間の拡大セクションを示す。400mM KClから2M KClへの塩濃度の増加は、オープンポア電流における約350%の増加(I−オープン、約180pAから約850pA)および識別範囲における約200%の増加(約25pAから約75pA)をもたらす。図4dは、塩濃度の関数としてのDNA識別範囲のプロットである(y軸=範囲(pA)、x軸=塩(mM))。
図5】ヘリカーゼ(a)は、DNA(b)の移動を少なくとも2種のモードの操作で制御できることを示す図である。ヘリカーゼは、DNAに沿って3’−5’方向に移動するが、ナノポア(c)中でのDNAの方向(DNAのどちらの端が捕捉されているかに依存する)は、酵素が印加された場と反対にナノポアの外側へDNAを移動させるため(図5b)、または印加された場に沿ってナノポア内へDNAを移動させるためのいずれでも用いられ得ることを意味する(図5a)。図5b)DNAの5’末端が捕捉されている場合、ヘリカーゼは電圧によって印加された場の方向とは反対に作動し、挿入されたDNAをナノポアの外側にDNAがcisチャンバーに戻って放されるまで引く。右は、印加された場と反対に5’に下がるHel308からの例示的DNA−ヘリカーゼ事象である(y軸=電流(pA)、x軸=時間(秒))。図5a)DNAが3’を下にナノポアに捕捉される場合、酵素はDNAを場の方向にナノポア中へ、ポアを通って完全に移行され、二重層のtrans側へ放すまで移動させる。右は、印加された場で3’に下がるHel308からの例示的DNA−ヘリカーゼ事象である(y軸=電流(pA)、x軸=時間(秒))。電流トレースは、DNAの5’下方向と3’下方向との間で変化する。
図6】酵素活性を検査するための蛍光アッセイを示す図である。a)通例の蛍光基質がハイブリダイズされたdsDNAを置換するヘリカーゼ(a)の能力をアッセイするために用いられた。1)蛍光基質鎖(最終100nM)は3’ssDNAオーバーハング、およびハイブリダイズされたdsDNAの40塩基セクションを有する。主要な上部鎖(b)は、カルボキシフルオレセイン塩基(c)を5’末端に有し、ハイブリダイズされた相補物(d)はブラックホールクエンチャー(BHQ−1)塩基(e)を3’末端に有する。ハイブリダイズされると、フルオレセイン由来の蛍光は局在BHQ−1によって消光され、基質は基本的に非蛍光性である。蛍光基質(d)の短い鎖に相補的である捕捉鎖(f)1μMがアッセイに含まれる。2)ATP(1mM)およびMgCl(5mM)の存在下で、基質に添加されたヘリカーゼ(100nM)は、蛍光基質の3’テールに結合し、主要な鎖に沿って移動し、示すとおり相補鎖を置換する。3)BHQ−1を有する相補鎖が完全に置換されると、主要な鎖上のフルオレセインが蛍光を発する。4)過剰量の捕捉鎖が相補的DNAに優先的にアニールし、初期基質の再アニールおよび蛍光の消失を防ぐ。b)400mMから2Mのさまざまな濃度のKCl(x軸、mM)を含有する緩衝溶液(10mM Hepes pH8.0、1mM ATP、5mM MgCl、100nM蛍光基質DNA、1μM捕捉DNA)における活性の初期速度のグラフ(y軸、相対活性)。
図7】さまざまなHel308ヘリカーゼを用いるヘリカーゼ制御DNA事象の例を示す図である(図7a〜cについて、y軸=電流(pA)、x軸=時間(分)、180mV、Hepes pH8.0、0.15nM 400塩基長DNA配列番号59および60、100nM Hel308、1mM DTT、1mM ATP、1mM MgCl):Hel308Mhu(a)、Hel308Mok(b)およびHel308Mma(c)。これらは、ポリTレベルで終了するMspAナノポアを通る制御されたDNA移動の典型例を表す。
図8】ヘリカーゼ内部結合活性を検査するための蛍光アッセイを示す図である。A)天然3’末端を欠失しているDNAに結合し、次いでハイブリダイズされたdsDNAを置換するヘリカーゼの能力をアッセイするために通例の蛍光基質を用いた。蛍光基質鎖(最終50nM)は、3’ssDNAオーバーハングおよびハイブリダイズされたdsDNAの40塩基セクションを有する。主要な上部鎖(a)は、4個の連続した非DNA由来トリエチレングリコールスペーサー(「スペーサー9」基と称される、bと標識される)で3’末端または内部、オーバーハングとdsDNAとの間の接合部(陰性対照として)のいずれかで修飾される。さらに主要な上部鎖は、カルボキシフルオレセイン塩基(c)を5’末端に有し、ハイブリダイズされた相補物(d)はブラックホールクエンチャー(BHQ−1)塩基(e)を3’末端に有する。ハイブリダイズされると、フルオレセインからの蛍光は局在BHQ−1によって消光され、基質は基本的に非蛍光性である。蛍光基質の短い鎖(d)に相補的である捕捉鎖(1μM、f)がアッセイに含まれる。B)ATP(1mM)およびMgCl(1mM)の存在下で、3’−末端「スペーサー9」基を含有する基質に添加されたHel308ヘリカーゼ相同体(20nM、g)は、蛍光基質のssDNAオーバーハングに結合でき、主要な鎖に沿って移動し、相補鎖を置換する。C)BHQ−1を有する相補鎖が完全に置換されると主要な鎖上のフルオレセインが蛍光を発する。D)過剰量の捕捉鎖が相補的DNAに優先的にアニールし、初期基質の再アニールおよび蛍光の消失を防ぐ。
図9】Hel308−調節dsDNA代謝回転の相対速度を、400mM NaCl、10mM Hepes、pH8.0、1mM ATP、1mM MgCl、50nM蛍光基質DNA、1μM捕捉DNA中で、3’−非修飾DNAおよび3’−「スペーサー9」DNAと比較して示すグラフである(y軸=相対「3’−Sp9」活性(%wrt天然3’)、x軸=a(Mbu)、b(Csy)、c(Tga)、d(Mma)、e(Mhu)、f(Min)、g(Mig)、h(Mmaz)、i(Mac)、j(Mok)、k(Mth)、l(Mba)、m(Mzh))。
図10】実施例5において使用されるナノポアを通るDNA移動を制御するためのヘリカーゼの使用の模式図である。A)付着しているコレステロール(cholesterol)タグを有するアニールされたプライマー(配列番号69(yと標識される))を有するDNA基質(配列番号67(wと標識される)および68(xと標識される))は二重層のcis側に添加される。コレステロールタグ(zと標識される)が二重層に結合し、二重層表面に基質を濃縮する。cisコンパートメントに添加されたヘリカーゼ(1と標識される)は配列番号67の4bpリーダーに結合する。B)印加された電圧下でDNA基質は、DNA上の5’リーダーセクションを介してナノポアによって捕捉され、配列番号69が外れる。C)印加された場の力の下でDNAは、結合したヘリカーゼ(1)がポアの先端に接触し、さらなる未制御な移行を防ぐまでポア内に引かれる。このプロセスではアンチセンス鎖配列番号68はDNA鎖から外れる。D)二価金属イオンおよびNTP基質の存在下でポアの先端のヘリカーゼ(1)は、DNAに沿って移動し、ポアを通るDNAの移行を制御する。DNAに沿った3’から5’方向へのヘリカーゼの移動は、挿入されたDNAを印加される場と反対にポアの外側に引く。cis側(この場合には3’)に曝された1本鎖DNAは、末端ヌクレオチドまたは内部ヌクレオチドのいずれかに結合するさらなるヘリカーゼ(2〜4)に利用可能である。E)ポアのヘリカーゼ(1)がDNAから離れる場合、DNA上の次のヘリカーゼ(2)がポアに達するまでDNAは場によってポアの中に引かれる。ポアのヘリカーゼは、DNAをナノポアの外側へ引き、cisコンパートメントへ戻す。ナノポアを通るDNAの最後のセクションは5’−リーダーである。F)ヘリカーゼはDNAをナノポアの外側へ移動させると、cisコンパートメントに戻って外れる。矢印はDNAの移動方向を示す。
図11】900塩基長のナノポアにおけるDNAの領域の位置(y軸)が、各ヘリカーゼ事象の際に、Hel308ヘリカーゼ相同体MbuがMspAポア(x軸)を通るDNA鎖の移行を制御する場合にどのように変化したかを示すデータプロットである(y軸=900塩基長における位置、x軸=インデックス)。A〜Cは、鎖のほぼ最初から鎖の最後までの(ポリTリーダーを介して抜ける)DNA鎖全体の典型的移行事象の例を示し、事象Dは不完全DNA移行(酵素脱離は、DNAが鎖の末端まで作られなかったことを意味する)の例を示す。ずれ(例えば、点線円によって強調される大きなずれなど)は、配列が鎖中の以前のポイントに戻っていることを示し、酵素脱離の結果である。酵素が脱離すると、DNAは、鎖沿いのさらなる別の酵素がポアに接触するまで場の力の下でナノポア内へ引き戻され、次いでヘリカーゼ移動が継続する。
図12】900塩基長の位置が、Hel308ヘリカーゼ相同体TgaがMspAポアを通るDNA鎖の移行を制御する場合にどのように変化したかを示すデータプロットである(y軸=900塩基長における位置、x軸=インデックス)。事象A〜Dは、DNA鎖全体の移行を示す。
図13】Hel308Mbuヘリカーゼ(配列番号10)の酵素前進性をHel308Mokヘリカーゼ(配列番号29)のそれと比較するために用いた蛍光アッセイを示す図である。通例の蛍光基質がハイブリダイズされたdsDNAを置換するヘリカーゼの能力をアッセイするために用いられた。蛍光基質(最終50nM)は3’ssDNAオーバーハングならびにハイブリダイズされたdsDNA(セクションA、配列番号70)の80(a1)および33塩基対セクション(a2)を有する。主要な下部「テンプレート」鎖(1)は、5’および3’末端でそれぞれカルボキシフルオレセイン(FAM)(4)およびブラックホールクエンチャー(BHQ−1)(5)塩基で標識されている3’オーバーハングおよび33nt蛍光プローブ(3、配列番号72)に隣接して、80nt「ブロッカー」鎖(2、配列番号71)にハイブリダイズされる。ハイブリダイズされると、FAMはBHQ−1から離れ、基質は基本的に蛍光を発する。セクションBに示すとおり、ATP(1mM)およびMgCl(10mM)の存在下(ATPおよびMgCl2の添加は7および8でそれぞれ示される)でヘリカーゼ(6、20nM)は、基質の3’オーバーハング(配列番号70)に結合し、下鎖に沿って移動し80ntブロッカー鎖(配列番号71)を置換し始める。前進性の場合、ヘリカーゼは、蛍光プローブも置換する(セクションC、配列番号72、カルボキシフルオレセイン(FAM)で5’末端で、ブラックホールクエンチャー(BHQ−1)で3’末端で標識されている)。蛍光プローブは、その5’および3’末端が自己相補的であり、それにより一度置換されると動力学的に安定なヘアピンを形成しプローブのテンプレート鎖(セクションD)への再アニールを防ぐように設計される。ヘアピン産物の形成により、FAMはBHQ−1の近傍に運ばれ、その蛍光は消光される。80塩基長「ブロッカー」(配列番号71)および蛍光(配列番号72、カルボキシフルオレセイン(FAM)でその5’末端、ブラックホールクエンチャー(BHQ−1)でその3’末端で標識されている)鎖を置換できる前進性酵素は、したがって、蛍光の経時的な減少をもたらす。しかし酵素が80nt未満の前進性を有する場合は、蛍光鎖(配列番号72、カルボキシフルオレセイン(FAM)でその5’末端で、ブラックホールクエンチャー(BHQ−1)でその3’末端で標識されている)を置換することができず、したがって「ブロッカー」鎖(配列番号71)は主要な下部鎖に再アニールする(セクションE)。
図14】制御目的にも用いられた追加的な通例の蛍光基質を示す図である。陰性対照として用いられる基質は、図3に記載のものと同一であったが、3’オーバーハング(セクションA、(配列番号71(1と標識される)、72(2と標識される)(カルボキシフルオレセイン(FAM)(3)でその5’末端で、ブラックホールクエンチャー(BHQ−1)(4)でその3’末端で標識されている)および73(5と標識される、80bpセクション(a1)および33bpセクション(a2)からなる))を欠失していた。図3に記載のものに類似しているが80塩基対セクション(配列番号72(2と標識される)(カルボキシフルオレセイン(FAM)(3)でその5’末端で、ブラックホールクエンチャー(BHQ−1)(4)でその3’末端で標識されている)および74(6と標識される、28bpセクション(a3)からなる))を欠失している基質が活性だが前進性である必要はないヘリカーゼの陽性対照として用いられた(セクションB)。
図15】緩衝溶液(400mM NaCl、10mM Hepes pH8.0、1mM ATP、10mM MgCl、50nM 蛍光基質DNA(配列番号70、71および72(カルボキシフルオレセイン(FAM)でその5’末端で、ブラックホールクエンチャー(BHQ−1)でその3’末端で標識されている)中での図13に示す前進性基質に対してHel308Mbuヘリカーゼ(配列番号10、白丸)およびHel308Mokヘリカーゼ(配列番号29、黒三角)を検査した場合の時間依存性蛍光変化のグラフである(y軸=蛍光(任意単位)、x軸=時間(分))。Hel308Mokによって提示された蛍光の減少は、Hel308Mbu(配列番号10)と比較してこれらの複合体の前進性の増大を示す。
図16】緩衝溶液(400mM NaCl、10mM Hepes pH8.0、1mM ATP、10mM MgCl、50nM蛍光基質DNA(配列番号72(カルボキシフルオレセイン(FAM)でその5’末端で、ブラックホールクエンチャー(BHQ−1)でその3’末端で標識されている)および74)中で陽性対照前進性基質(図14、セクションBに示すとおり、配列番号72(カルボキシフルオレセイン(FAM)でその5’末端で、ブラックホールクエンチャー(BHQ−1)でその3’末端で標識されている)および74)に対して、Hel308Mbuヘリカーゼ(配列番号10、白丸)およびHel308Mokヘリカーゼ(配列番号29、黒三角)を検査した場合の時間依存性蛍光変化のグラフである(y軸=蛍光(任意単位)、x軸=時間(分))。この陽性対照は、両試料に対する蛍光減少によって示されたとおり、両方のヘリカーゼが実際に活性であることを実証した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
配列表の記載
配列番号1は、MS−B1変異MspA単量体をコードするコドン最適化ポリヌクレチド配列を示す。この変異体は、シグナル配列を欠失しており、次の変異:D90N、D91N、D93N、D118R、D134RおよびE139Kを含む。
【0012】
配列番号2は、MspA単量体のMS−B1変異体の成熟形態のアミノ酸配列を示す。この変異体は、シグナル配列を欠失しており、以下の変異:D90N、D91N、D93N、D118R、D134RおよびE139Kを含む。
【0013】
配列番号3は、α−ヘモリジン−E111N/K147N(α−HL−NN;Stoddartら、PNAS、2009;106(19):7702-7707)の1つのサブユニットをコードするポリヌクレオチド配列を示す。
【0014】
配列番号4は、α−HL−NNの1つのサブユニットのアミノ酸配列を示す。
【0015】
配列番号5から7は、MspB、CおよびDのアミノ酸配列を示す。
【0016】
配列番号8は、Hel308モチーフのアミノ酸配列を示す。
【0017】
配列番号9は、拡張Hel308モチーフのアミノ酸配列を示す。
【0018】
配列番号10から58は、Hel308ヘリカーゼおよび表5におけるモチーフのアミノ酸配列を示す。
【0019】
配列番号59から74は、実施例で用いられた配列を示す。
【0020】
配列番号75は、57ページ以降の配列比較でのHel308Dthの配列を示す。
【0021】
配列番号76は、57ページ以降の配列比較でのHel308Mmarの配列を示す。
【0022】
配列番号77は、57ページ以降の配列比較でのHel308Nthの配列を示す。
【0023】
配列番号78は、57ページ以降の配列比較での共通配列を示す。
【0024】
発明の詳細な記載
本開示の生成物および方法のさまざまな応用が当技術分野における具体的な必要性に適合され得ることは理解される。本明細書で用いられる用語は本発明の詳細な実施形態を記載する目的のためのみであり、限定されることを意図しないことも理解される。
【0025】
付加的に、本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる場合、単数形「a」、「an」および「the」は、内容が他を明確に記す場合を除いて複数の参照物を含む。したがって、例えば「1つのポア(a pore)」を参照することは2つ以上のそのようなポアを含み、「1つのヘリカーゼ(a helicase)」を参照することは2つ以上そのようなヘリカーゼを含み、「1つのポリヌクレオチド(a polynucleotide)」を参照することは2つ以上のそのようなポリヌクレオチドを含むなど。
【0026】
本明細書に引用する全ての刊行物、特許および特許出願は(上記または下記に関わらず)それら全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
本発明のHel308法
本発明は、標的ポリヌクレオチドを特性決定するための方法を提供する。方法は、標的ポリヌクレオチドを膜貫通ポアおよびHel308ヘリカーゼと接触させて、ヘリカーゼがポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御し、標的ポリヌクレオチド中のヌクレオチドがポアと相互作用するようにするステップを含む。次いで、標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特性を、当技術分野において公知の標準的方法を用いて測定する。ステップ(a)および(b)は、好ましくはポアに電位が印加されて実行される。下により詳細に考察されるとおり、印加された電位は、ポアとヘリカーゼとの複合体の形成を典型的には生じる。印加された電位は、電圧電位であってよい。代替的に印加された電位は、化学電位であってよい。この一例は、脂質膜全体に塩勾配を用いている。塩勾配は、Holdenら、J Am Chem Soc. 2007 Jul 11;129(27):8650-5に開示されている。
【0028】
いくつかの場合では、1つまたは複数の相互作用の間にポアを通過する電流が、標的ポリヌクレオチドの配列を決定するために用いられる。これは鎖配列決定である。
【0029】
本方法は、いくつかの利点を有する。第一に、本発明者らは驚くべきことに、Hel308ヘリカーゼが驚くべき高い耐塩性を有し、それにより本発明の方法が高塩濃度で実行され得ることを示した。鎖配列決定の内容では、標的ポリヌクレオチドを捕捉および移行するためならびにポリヌクレオチドがポアを通るときに生じる配列依存性電流変化を測定するために電圧オフセットを印加するための導電性溶液を作製するために、塩などの電荷担体が必要である。測定シグナルが塩の濃度に依存することから、得られるシグナルの振幅を増大させるために高塩濃度を用いることは有利である。高塩濃度は、高い信号対雑音比を提供し、通常の電流変動のバックグラウンドに対してヌクレオチドの存在を示す電流が同定されるようにする。鎖配列決定のために、100mMを超える塩濃度は理想的であり、1M以上の塩濃度は好ましい。本発明者らは、Hel308ヘリカーゼが例えば2Mの高い塩濃度で有効に機能することを驚くべきことに示した。
【0030】
第二に、電圧が印加されるとHel308ヘリカーゼは、標的ポリヌクレオチドを2方向に(すなわち印加された電圧から生じる場に沿ってまたは反対に)驚くべきことに移動させ得る。したがって、本発明の方法は、2つの好ましいモードの内の1つで実行し得る。標的ポリヌクレオチドがポアを通って移動する方向(すなわち場の方向または反対)に依存して異なるシグナルが得られる。これは下でより詳細に考察される。
【0031】
第三に、Hel308ヘリカーゼは、ポアを通る標的ポリヌクレオチドを典型的には一度に1ヌクレオチドを移動させる。したがって、Hel308ヘリカーゼは単一塩基ラチェットのように機能できる。標的ポリヌクレオチド中のヌクレオチドの全てではないが、実質的に全てがポアを用いて同定され得ることから、当然ながらこれは標的ポリヌクレオチドを配列決定する場合に有利である。
【0032】
第四に、Hel308ヘリカーゼは、1本鎖ポリヌクレオチドおよび2本鎖ポリヌクレオチドの移動を制御できる。これは、種々の異なる標的ポリヌクレオチドが本発明により特性付けられ得ることを意味する。
【0033】
第五に、Hel308ヘリカーゼは、印加された電圧から生じる場に非常に耐性があると考えられる。本発明者らは、「アンジッピング」条件下のポリヌクレオチドの非常に小さな移動を観察している。これは、印加された電圧から生じる場と反対にポリヌクレオチドが移動する場合に望まれない「逆」移動由来の複雑化要因がないことを意味することから重要である。
【0034】
第六に、Hel308ヘリカーゼは、生成が容易で、扱いが容易である。したがってそれらの使用は、配列決定の簡単でより費用のかからない方法に寄与する。
【0035】
本発明の方法は、標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのものである。核酸などのポリヌクレオチドは、2個以上のヌクレオチドを含む巨大分子である。ポリヌクレオチドまたは核酸は、任意のヌクレオチドの任意の組合せを含み得る。ヌクレオチドは、天然に存在するものまたは人工的であってよい。標的ポリヌクレオチド中の1つまたは複数のヌクレオチドは、酸化またはメチル化し得る。標的ポリヌクレオチド中の1つまたは複数のヌクレオチドは、損傷をうけ得る。標的ポリヌクレオチド中の1つまたは複数のヌクレオチドは、例えば標識またはタグで修飾し得る。標的ポリヌクレオチドは、1つまたは複数のスペーサーを含み得る。
【0036】
ヌクレオチドは、典型的には、核酸塩基、糖および少なくとも1つのリン酸基を含有する。核酸塩基は典型的には複素環である。核酸塩基は、これだけに限らないがプリンおよびピリミジンならびにより具体的にはアデニン、グアニン、チミン、ウラシルおよびシトシンを含む。糖は典型的には五炭糖である。ヌクレオチド糖は、これだけに限らないがリボースおよびデオキシリボースを含む。ヌクレオチドは、典型的にはリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドである。ヌクレオチドは典型的には一リン酸、二リン酸または三リン酸を含有する。リン酸は、ヌクレオチドの5’または3’側に付着できる。
【0037】
ヌクレオチドは、これだけに限らないがアデノシン一リン酸(AMP)、グアノシン一リン酸(GMP)、チミジン一リン酸(TMP)、ウリジン一リン酸(UMP)、シチジン一リン酸(CMP)、環状アデノシン一リン酸(cAMP)、環状グアノシン一リン酸(cGMP)、デオキシアデノシン一リン酸(dAMP)、デオキシグアノシン一リン酸(dGMP)、デオキシチミジン一リン酸(dTMP)、デオキシウリジン一リン酸(dUMP)およびデオキシシチジン一リン酸(dCMP)を含む。ヌクレオチドは、好ましくはAMP、TMP、GMP、CMP、UMP、dAMP、dTMP、dGMPまたはdCMPから選択される。
【0038】
ヌクレオチドは、塩基を持たない場合がある(すなわち核酸塩基を欠失している)。
【0039】
ポリヌクレオチドは、1本鎖または2本鎖であってよい。ポリヌクレオチドの少なくとも一部は、好ましくは2本鎖である。
【0040】
ポリヌクレオチドは、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)などの核酸であってよい。標的ポリヌクレオチドは、DNAの1本鎖にハイブリダイズしたRNAの1本鎖を含む場合がある。ポリヌクレオチドは、ペプチド核酸(PNA)、グリセロール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、ロックド核酸(LNA)またはヌクレオチド側鎖を有する他の合成ポリマーなどの当技術分野において公知の任意の合成核酸であってよい。
【0041】
標的ポリヌクレオチドの全体または部分だけは、本方法を用いて特性付けられ得る。標的ポリヌクレオチドは、任意の長さであってよい。例えばポリヌクレオチドは、長さ少なくとも10、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも300、少なくとも400または少なくとも500ヌクレオチド対であってよい。ポリヌクレオチドは、1000ヌクレオチド対以上、長さ5000ヌクレオチド対以上または長さ100000ヌクレオチド対以上であってよい。
【0042】
標的ポリヌクレオチドは、任意の好適な試料中に存在する。本発明は、標的ポリヌクレオチドを含有することが公知であるまたは含有すると考えられる試料について典型的には実行される。代替的に本発明は、1つまたは複数の標的ポリヌクレオチドの同一性を確認するために試料中でのその存在が公知であるまたは期待される試料について実行し得る。
【0043】
試料は生物学的試料であってよい。本発明は、任意の生物または微生物から得られたまたは抽出された試料についてin vitroで実行されてよい。生物または微生物は典型的には始生代のもの、原核性または真核性であり、典型的には五界:植物界、動物界、菌界、モネラ界および原生生物界に属する。本発明は、任意のウイルスから得られたまたは抽出された試料についてin vitroで実行されてよい。試料は、好ましくは液体試料である。試料は典型的には、患者の体液を含む。試料は尿、リンパ液、唾液、粘液または羊水であってよいが、好ましくは血液、血漿または血清である。典型的には試料は、ヒト由来であるが、代替的に、ウマ、ウシ、ヒツジまたはブタなどの商業的に飼育される動物由来などの別の哺乳動物由来であってもよく、代替的にネコまたはイヌなどの愛玩動物であってもよい。代替的に植物由来の試料は、穀類、マメ、果実または野菜などの商品作物(例えばコムギ、オオムギ、カラスムギ、セイヨウアブラナ、トウモロコシ、ダイズ、イネ、バナナ、リンゴ、トマト、ジャガイモ、ブドウ、タバコ、マメ、レンズマメ、サトウキビ、ココア、ワタ)から典型的には得られる。
【0044】
試料は、非生物学的試料であってよい。非生物学的試料は、好ましくは液体試料である。非生物学的試料の例は、手術用液(surgical fluids)、水(飲料水、海水または河川水など)および検査室検査のための試薬を含む。
【0045】
試料は、典型的にはアッセイされる前に例えば遠心分離によってまたは、不要の分子または細胞(赤血球細胞など)をろ過して除く膜を通すことによって処理される。試料は採取されてから直ちに測定されてよい。試料は、典型的にはアッセイの前に好ましくは−70℃より低くで、保存されてもよい。
【0046】
膜貫通ポアは、水和イオンが印加された電位によって膜の一方の側から膜の他方の側へ流れるように駆動されるようにする構造である。
【0047】
任意の膜が本発明により用いられ得る。好適な膜は、当技術分野において周知である。膜は、好ましくは両親媒性層である。両親媒性層は、親水性および親油性特性の両方を有するリン脂質などの両親媒性分子から形成される層である。両親媒性層は、単層または二重層であってよい。
【0048】
膜は、好ましくは脂質二重層である。脂質二重層は細胞膜のモデルであり、さまざまな実験研究のための優れたプラットフォームとして役立つ。例えば、脂質二重層は、単一チャネル記録による膜タンパク質のin vitro調査のために用いられ得る。代替的に脂質二重層は、さまざまな物質の存在を検出するためのバイオセンサーとして用いられ得る。脂質二重層は、任意の脂質二重層であってよい。好適な脂質二重層は、これだけに限らないが平面状脂質二重層、支持された二重層またはリポソームを含む。脂質二重層は好ましくは平面状脂質二重層である。好適な脂質二重層は、国際出願第PCT/GB08/000563号(WO2008/102121として公開)、国際出願第PCT/GB08/004127号(WO2009/077734として公開)および国際出願第PCT/GB2006/001057号(WO2006/100484として公開)に開示されている。
【0049】
脂質二重層を形成するための方法は、当技術分野において公知である。好適な方法は実施例に開示する。脂質二重層は、脂質単層が水溶液/空気界面にその界面に垂直である開口部のいずれかの端を通って運ばれる、モンタルおよびミューラーの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.、1972;69:3561-3566)によって一般的には形成される。
【0050】
モンタルおよびミューラーの方法は、タンパク質ポア挿入のために好適である良質な脂質二重層を形成する対費用効果が高くて比較的簡単な方法であることから一般的である。二重層形成の他の一般的方法は、チップディッピング、ペインティング二重層およびリポソーム二重層のパッチクランピングを含む。
【0051】
好ましい実施形態では、脂質二重層は国際出願第PCT/GB08/004127号(WO2009/077734として公開)に記載のとおり形成される。
【0052】
別の好ましい実施形態では、膜は、ソリッドステート層である。ソリッドステート層は生物由来ではない。換言すると、ソリッドステート層は、生物または細胞などの生物学的環境由来でなく、またはそれから単離されず、生物学的に入手可能な構造の合成的に製造されたバージョンでもない。ソリッドステート層は、これだけに限らないがミクロ電子材料、Si、A1およびSiOなどの絶縁材料、ポリアミドなどの有機および無機ポリマー、Teflon(登録商標)などのプラスチックまたは2要素添加硬化シリコンゴム(two-component addition-cure silicone rubber)などのエラストマーならびにガラスを含む有機材料ならびに無機材料の両方から形成され得る。ソリッドステート層は、グラフェン(graphene)などの一原子層からまたは数原子厚だけである層から形成され得る。好適なグラフェン(graphene)層は、国際出願第PCT/US2008/010637号(WO2009/035647として公開)に開示されている。
【0053】
方法は、(i)ポアを含む人工二重層、(ii)ポアを含む単離された天然に存在する脂質二重層、または(iii)挿入されたポアを有する細胞を用いて典型的には実行される。方法は、人工脂質二重層を用いて好ましくは実行される。二重層は、ポアに加えて他の膜貫通タンパク質および/または膜内タンパク質ならびに他の分子を含んでもよい。好適な装置および条件は、下に考察される。本発明の方法は、典型的にはin vitroで実行される。
【0054】
ポリヌクレオチドは、膜にカップリングされ得る。これは、任意の公知の方法を用いてされ得る。膜が脂質二重層などの両親媒性層である場合は(下に詳細に考察されるとおり)、ポリヌクレオチドは、膜に存在するポリペプチドまたは膜に存在する疎水性アンカーを介して膜に好ましくはカップリングされる。疎水性アンカーは、好ましくは脂質、脂肪酸、ステロール、カーボンナノチューブまたはアミノ酸である。
【0055】
ポリヌクレオチドは膜に直接カップリングされ得る。ポリヌクレオチドは好ましくは膜にリンカーを介してカップリングされる。好ましいリンカーは、これだけに限らないがポリヌクレオチド、ポリエチレングリコール(PEG)およびポリペプチドなどのポリマーを含む。ポリヌクレオチドが膜に直接カップリングされる場合、膜とヘリカーゼとの間の距離のためにポリヌクレオチドの末端まで特性決定が継続できないことから、いくらかのデータが失われる。リンカーが用いられる場合、ポリヌクレオチドは完了まで処理され得る。リンカーが用いられる場合、リンカーはポリヌクレオチドの任意の位置に付着され得る。リンカーは、テールポリマーでポリヌクレオチドに好ましくは付着される。
【0056】
カップリングは、安定または一過的であってよい。ある種の応用に関してカップリングの一過的な性質は好ましい。安定カップリング分子がポリヌクレオチドの5’末端または3’末端のいずれかに直接付着された場合、二重層とヘリカーゼ活性部位との間の距離のためにポリヌクレオチドの末端まで特性決定が継続できないことから、いくらかのデータが失われる。カップリングが一過的である場合、カップリングされた端は無作為に二重層から遊離し、ポリヌクレオチドは完了まで処理され得る。安定なまたは一過的連結を膜と形成する化学基は、下により詳細に考察される。ポリヌクレオチドは、コレステロール(cholesterol)または脂肪酸アシル鎖を用いて両親媒性層または脂質二重層に一過的にカップリングされ得る。ヘキサデカン酸などの長さ6から30までの炭素原子を有する任意の脂肪酸アシル鎖は用いられ得る。
【0057】
好ましい実施形態では、ポリヌクレオチドは、脂質二重層にカップリングされる。合成脂質二重層へのポリヌクレオチドのカップリングは、種々の異なるテザーリング戦略で既に実行されている。これらを下の表1に要約する。
【0058】
【表1】
【0059】
ポリヌクレオチドは、合成反応において修飾ホスホラミダイトを用いて官能基化されることができ、チオール、コレステロール、脂質およびビオチン基などの反応基の付加に容易に適合される。これらのさまざまな付着化学物質は、ポリヌクレオチドに一連の付着選択肢をもたらす。さまざまな各修飾基は、わずかに異なる方法でポリヌクレオチドを繋ぎ止め、カップリングは常に永久的ではなく、二重層へのさまざまな残存時間をポリヌクレオチドにもたらす。一過的カップリングの有利点は、上に考察される。
【0060】
ポリヌクレオチドのカップリングは、反応基がポリヌクレオチドに付加され得る限り多数の他の手段によっても達成され得る。DNAのいずれかの端への反応基の付加は既に報告されている。チオール基はポリヌクレオチドキナーゼおよびATPγSを用いてssDNAの5’に付加され得る(Grant,G.P.およびP.Z.Qin (2007) "A facile method for attaching nitroxide spin labels at the 5' terminus of nucleic acids." Nucleic Acids Res 35(10):e77)。ビオチン、チオールおよびフルオロフォア(fluorophore)などの化学基のより多様な選択は、修飾オリゴヌクレオチドをssDNAの3’に組み込むためにターミナルトランスフェラーゼを用いて付加し得る(Kumar,A.,P.Tchenら、(1988)."Nonradioactive labeling of synthetic oligonucleotide probes with terminal deoxynucleotidyl transferase." Anal Biochem 169(2):376-82)。
【0061】
代替的に反応基は、二重層に既にカップリングされたものに相補的なDNAの短片の付加のために考慮される場合があり、付着はハイブリダイゼーションを介して達成し得る。ssDNAの短片のライゲーションは、T4RNAリガーゼIを用いて報告されている(Troutt,A.B.,M.G.McHeyzer-Williamsら、(1992)."Ligation-anchored PCR: a simple amplification technique with single-sided specificity." Proc Natl Acad Sci U S A 89(20):9823-5)。代替的にssDNAまたはdsDNAのいずれかは、天然dsDNAにライゲーションされることができ、次いで2本鎖は熱的または化学的変性によって分離された。天然dsDNAについて、ssDNAの1片を二重鎖の1つもしくは両方の端に、またはdsDNAを1つまたは両方の端へのいずれかで付加できる。次いで、二重鎖が融解される際に、ssDNAが5’末端、3’末端もしくは両端でのライゲーションもしくは修飾のために用いられ、dsDNAがライゲーションのために用いられた場合、各一重鎖は5’または3’修飾のいずれかを有する。ポリヌクレオチドが合成鎖である場合、カップリング化学はポリペプチドの化学合成の際に組み込まれ得る。例えばポリヌクレオチドは、反応基が付着されたプライマーを用いて合成され得る。
【0062】
ゲノムDNAのセクションの増幅のための一般的技術は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いている。本明細書では、2個の合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いてDNAの同じセクションの多数の複製物が作製される場合があり、各複製物について二重鎖中の各鎖の5’は合成ポリヌクレオチドである。コレステロール、チオール、ビオチンまたは脂質などの反応基を有するアンチセンスプライマーを用いるステップによって、増幅された標的DNAの各複製物は、カップリングのための反応基を含有する。
【0063】
膜貫通ポアは、好ましくは膜貫通タンパク質ポアである。膜貫通タンパク質ポアは、分析物などの水和イオンが膜の一方の側から膜の他方の側へ流れるようにするポリペプチドまたはポリペプチドの集積物である。本発明では膜貫通タンパク質ポアは、水和イオンが印加された電位によって膜の一方の側から他方へ流れるように駆動されるようにするポアを形成できる。膜貫通タンパク質ポアは、ヌクレオチドなどの分析物が膜(脂質二重層など)の一方の側から他方へ流れるように好ましくはする。膜貫通タンパク質ポアは、DNAまたはRNAなどのポリヌクレオチドがポアを通って移動されることを可能にする。
【0064】
膜貫通タンパク質ポアは、単量体またはオリゴマーであってよい。ポアは、いくつかの反復サブユニット(6、7または8サブユニット)から好ましくは作られる。ポアはより好ましくは七量体または八量体ポアである。
【0065】
膜貫通タンパク質ポアは、イオンが通って流れることができるバレルまたはチャネルを典型的には含む。ポアのサブユニットは、典型的には中央軸を取り囲み、膜貫通βバレルもしくはチャネルまたは膜貫通αヘリックス束もしくはチャネルに鎖を供する。
【0066】
膜貫通タンパク質ポアのバレルまたはチャネルは、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸などの分析物との相互作用を促進するアミノ酸を典型的には含む。これらのアミノ酸は、バレルまたはチャネルの狭窄部付近に好ましくは位置する。膜貫通タンパク質ポアは、アルギニン、リシンもしくはヒスチジンなどの1つもしくは複数の正に荷電したアミノ酸またはチロシンもしくはトリプトファンなどの芳香族アミノ酸を典型的には含む。これらのアミノ酸は、ポアとヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸との間の相互作用を典型的には促進する。
【0067】
本発明による使用のための膜貫通タンパク質ポアは、β−バレルポアまたはα−ヘリックス束ポアから生じ得る。β−バレルポアは、β−鎖から形成されるバレルまたはチャネルを含む。好適なβ−バレルポアは、これだけに限らないが、α−ヘモリジン(hemolysin)、炭疽毒素およびロイコシジン(leukocidin)などのβ−毒素、スメグマ菌(Mycobacterium smegmatis)ポリン(porin)(Msp)、例えばMspA、外膜ポリン(porin)F(OmpF)、外膜ポリン(porin)G(OmpG)、外膜ホスホリパーゼAおよびナイセリア(Neisseria)オートトランスポーターリポタンパク質(NalP)などの細菌の外膜タンパク質/ポリン(porin)を含む。α−ヘリックス束ポアは、α−ヘリックスから形成されたバレルまたはチャネルを含む。好適なα−ヘリックス束ポアは、これだけに限らないが内膜タンパク質ならびに、WZAおよびClyA毒などのα外膜タンパク質を含む。膜貫通ポアは、Msp由来またはα−ヘモリジン(α−HL)由来である場合がある。
【0068】
膜貫通タンパク質ポアは、好ましくはMspに由来し、好ましくはMspAに由来する。そのようなポアはオリゴマーであり、典型的にはMsp由来の7、8、9または10個の単量体を含む。ポアは、同一の単量体を含むMsp由来のホモオリゴマーポアであってよい。代替的にポアは、少なくとも1個の他とは異なる単量体を含むMsp由来のヘテロオリゴマーポアであってもよい。好ましくはポアは、MspAまたはその相同体もしくはパラログ由来である。
【0069】
Msp由来の単量体は、配列番号2に示す配列またはその変種を含む。配列番号2はMspA単量体のMS−(B1)8変異体である。それは次の変異:D90N、D91N、D93N、D118R、D134RおよびE139Kを含む。配列番号2の変種は、配列番号2のものから変化し、ポアを形成する能力を保持しているアミノ酸配列を有するポリペプチドである。ポアを形成する変種の能力は、当技術分野において公知の任意の方法を用いてアッセイし得る。例えば変種は、他の適切なサブユニットと共に脂質二重層に挿入されることができ、ポアを形成するためにオリゴマー化するその能力を測定し得る。サブユニットを脂質二重層などの膜に挿入するための方法は、当技術分野において公知である。例えばサブユニットは、脂質二重層に拡散し、脂質二重層に結合するステップおよび機能的状態に会合するステップによって挿入されるように脂質二重層を含有する溶液中に精製された形態で懸濁し得る。代替的にサブユニットは、M.A.Holden,H.Bayley.J.Am.Chem.Soc.2005、127、6502-6503および国際出願第PCT/GB2006/001057号(WO2006/100484として公開)に記載の「ピックアンドプレース」法を用いて膜に直接挿入し得る。
【0070】
配列番号2のアミノ酸配列の全長にわたって変種は、アミノ酸同一性に基づいてその配列に好ましくは少なくとも50%相同である。より好ましくは変種は、配列全体にわたって配列番号2のアミノ酸配列にアミノ酸同一性に基づいて少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%およびより好ましくは少なくとも95%、97%または99%相同である。少なくとも80%、例えば少なくとも85%、90%または95%のアミノ酸同一性が100以上(例えば125、150、175もしくは200またはそれ以上)のストレッチの連続アミノ酸にわたってある場合がある(「高い相同性」)。
【0071】
相同性を決定するために当技術分野における標準的方法が用いられ得る。例えばUWGCGパッケージは、相同性を算出するために用いられ得るBESTFITプログラム(例えばその初期設定で用いられる)を提供する(Devereuxら、(1984) Nucleic Acids Research 12、387-395頁)。PILEUPおよびBLASTアルゴリズムは、相同性を算出するためまたは配列を列挙するために(等価残基または対応する配列を同定するステップなど(典型的にはその初期設定で))用いられ得る、例えばAltschul S.F.(1993)J Mol Evol 36:290-300;Altschul,S.Fら、(1990) J Mol Biol 215:403-10に記載のとおり。BLAST分析を実施するためのソフトウエアは、the National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて公開で入手可能である。
【0072】
配列番号2は、MspA単量体のMS−(B1)8変異体である。変種は、MspAと比較してMspB、CまたはD単量体中の任意の変異を含み得る。MspB、CおよびDの成熟形態は配列番号5から7に示される。詳細には変種は、MspBに存在する次の置換:A138Pを含む場合がある。変種は、MspCに存在する次の置換:A96G、N102EおよびA138Pの1つまたは複数を含む場合がある。変種はMspDに存在する次の置換:G1の欠失、L2V、E5Q、L8V、D13G、W21A、D22E、K47T、I49H、I68V、D91G、A96Q、N102D、S103T、V104I、S136KおよびG141Aの1つまたは複数を含む場合がある。変種は、MspB、CおよびD由来の1つまたは複数の変異および置換の組合せを含み得る。変種は、好ましくは変異L88Nを含む。配列番号2の変種は、MS−B1の全変異に加えて変異L88Nを有し、MS−B2と称される。本発明において用いられるポアは、好ましくはMS−(B2)8である。
【0073】
アミノ酸置換は、上に考察したものに加えて配列番号2のアミノ酸配列に作出し得る(例えば1、2、3、4、5、10、20または30置換まで)。保存的置換は、アミノ酸を同様の化学構造、同様の化学的特性または同様の側鎖容積を有する他のアミノ酸で置き換える。導入されるアミノ酸は、それらが置き換えるアミノ酸と同様の極性、親水性、疎水性、塩基性度、酸性度、中性度または電荷を有してよい。代替的に保存的置換は、既存の芳香族または脂肪族アミノ酸の代わりに芳香族または脂肪族である別のアミノ酸を導入する場合がある。保存的アミノ酸変更は、当技術分野において周知であり、下の表2に定義のとおり20種の主なアミノ酸の特性に従って選択し得る。アミノ酸が同様の極性を有する場合、これは表3におけるアミノ酸側鎖についてのハイドロパシースケールを参照することによっても決定し得る。
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
配列番号2のアミノ酸配列の1つまたは複数のアミノ酸残基は、上に記載のポリペプチドから追加的に欠失し得る。1、2、3、4、5、10、20または30残基までまたはそれ以上を欠失し得る。
【0077】
変種は、配列番号2の断片を含み得る。そのような断片は、ポア形成活性を保持する。断片は、長さ少なくとも50、100、150または200アミノ酸であってよい。そのような断片は、ポアを生成するために用いられ得る。断片は、配列番号2のポア形成ドメインを好ましくは含む。断片は、配列番号2の残基88、90、91、105、118および134の1つを含まなければならない。典型的には断片は、配列番号2の残基88、90、91、105、118および134の全てを含む。
【0078】
1つまたは複数のアミノ酸は、上に記載のポリペプチドに代替的または追加的に付加し得る。伸長は、配列番号2のアミノ酸配列またはそのポリペプチド変種もしくは断片のアミノ末端またはカルボキシ末端に与えられ得る。伸長は極めて短い(例えば長さ1から10アミノ酸)場合がある。代替的に伸長はより長くても(例えば50または100アミノ酸まで)よい。担体タンパク質は、本発明によるアミノ酸配列に融合し得る。他の融合タンパク質は、下により詳細に考察される。
【0079】
上に考察したとおり変種は、配列番号2から変更され、ポアを形成する能力を保持しているアミノ酸配列を有するポリペプチドである。変種は、ポア形成に関与する配列番号2の領域を典型的には含有する。β−バレルを含有するMspのポア形成能力は、各サブユニットのβシートによって与えられる。配列番号2の変種は、β−シートを形成する配列番号2中の領域を典型的には含む。1つまたは複数の修飾が、得られる変種がポアを形成する能力を保持する限り、β−シートを形成する配列番号2の領域に作出され得る。配列番号2の変種は、置換、付加または欠失などの1つまたは複数の修飾をα−ヘリックスおよび/またはループ領域内に好ましくは含む。
【0080】
Msp由来の単量体は、それらの同定または精製を支援するために、例えばヒスチジン残基(histタグ)、アスパラギン酸残基(aspタグ)、ストレプトアビジンタグもしくはフラッグタグの付加によって、または(細胞からのそれらの分泌を促進するためのシグナル配列の付加によってポリペプチドが天然でそのような配列を含有しない場合に)修飾し得る。遺伝子タグを導入するための別法は、ポア上の天然のまたは操作された位置にタグを化学的に反応させることである。この例は、ポアの外側に操作されたシステインにゲルシフト試薬を反応させることである。これは、ヘモリジンヘテロ−オリゴマーを分離するステップのための方法として実証されている(Chem Biol.1997 Jul;4(7):497-505)。
【0081】
Msp由来の単量体は、明示標識(revealing label)で標識し得る。明示標識は、ポアが検出されるようにする任意の好適な標識であってよい。好適な標識は、これだけに限らないが蛍光分子、放射性同位元素(例えば125I、35S)、酵素、抗体、抗原、ポリヌクレオチドおよびリガンド(ビオチンなど)を含む。
【0082】
Msp由来の単量体は、D−アミノ酸を用いても生成し得る。例えばMsp由来の単量体は、L−アミノ酸とD−アミノ酸との混合物を含み得る。これは、そのようなタンパク質またはペプチドを生成するための当技術分野における従来法である。
【0083】
Msp由来の単量体は、ヌクレオチド識別を促進するために1つまたは複数の特異的修飾を含有する。Msp由来の単量体は、他の非特異的な修飾をそれらがポア形成を干渉しない限り含有できる。多数の非特異的側鎖修飾が当技術分野において公知であり、Msp由来の単量体の側鎖に作出し得る。そのような修飾は、例えばアルデヒドとの反応に続くNaBHでの還元によるアミノ酸の還元的アルキル化、メチルアセトイミデート(methylacetimidate)でのアミジン化または無水酢酸でのアシル化を含む。
【0084】
Msp由来の単量体は、当技術分野において公知の標準的方法を用いて生成し得る。Msp由来の単量体は、合成的にまたは組換え手段によって作出し得る。例えばポアはin vitro翻訳および転写(IVTT)によって合成し得る。ポアを生成するための好適な方法は、国際出願第PCT/GB09/001690号(WO2010/004273として公開)、第PCT/GB09/001679号(WO2010/004265として公開)または第PCT/GB10/000133号(WO2010/086603として公開)に考察されている。ポアを膜に挿入するための方法は考察されている。
【0085】
膜貫通タンパク質ポアは、好ましくはα−ヘモリジン(α−HL)由来でもある。野生型α−HLポアは、7個の同一単量体またはサブユニットから形成される(すなわち七量体である)。α−ヘモリジン−NNの1個の単量体またはサブユニットの配列は配列番号4に示されている。膜貫通タンパク質ポアは、配列番号4に示す配列またはその変種をそれぞれ含む7個の単量体を好ましくは含む。配列番号4のアミノ酸1、7から21、31から34、45から51、63から66、72、92から97、104から111、124から136、149から153、160から164、173から206、210から213、217、218、223から228、236から242、262から265、272から274、287から290および294はループ領域を形成する。配列番号4の残基113および147はα−HLのバレルまたはチャネルの狭窄の一部を形成する。
【0086】
そのような実施形態では、配列番号4に示す配列またはその変種をそれぞれ含む7個のタンパク質または単量体を含むポアは、本発明の方法において好ましくは用いられる。7個のタンパク質は、同じ(ホモ七量体)または異なっていて(ヘテロ七量体)よい。
【0087】
配列番号4の変種は、配列番号4のものから変化したアミノ酸配列を有し、ポア形成能力を保持しているタンパク質である。ポアを形成する変種の能力は、当技術分野において公知の任意の方法を用いてアッセイし得る。例えば変種は、他の適切なサブユニットと共に脂質二重層に挿入されることができ、ポアを形成するためにオリゴマー化するその能力を決定し得る。サブユニットを脂質二重層などの膜に挿入するための方法は当技術分野において公知である。好適な方法は上に考察されている。
【0088】
変種は、ヘリカーゼへの共有結合付着または相互作用を促進する修飾を含み得る。変種は、ヘリカーゼへの付着を促進する1つまたは複数の反応性システイン残基を好ましくは含む。例えば変種は、配列番号4の位置8、9、17、18、19、44、45、50、51、237、239および287ならびに/またはアミノ末端もしくはカルボキシ末端の1つまたは複数にシステインを含み得る。好ましい変種は、配列番号4の位置8、9、17、237、239および287の残基のシステインでの置換を含む(A8C、T9C、N17C、K237C、S239CまたはE287C)。変種は、好ましくは国際出願第PCT/GB09/001690号(WO2010/004273として公開)、第PCT/GB09/001679号(WO2010/004265として公開)、または第PCT/GB10/000133号(WO2010/086603として公開)に記載の変種のいずれか1つである。
【0089】
変種は、ヌクレオチドとの任意の相互作用を促進する修飾も含み得る。
【0090】
変種は、生物(例えば細菌ブドウ球菌(Staphylococcus))によって天然で発現される天然に存在する変種であってよい。代替的に変種は、大腸菌(Escherichia coli)などの細菌によってin vitroでまたは組換え的に発現されてもよい。変種は、組換え技術によって生成される天然に存在しない変種も含む。配列番号4のアミノ酸配列の全長にわたって変種は、アミノ酸同一性に基づいてその配列に好ましくは少なくとも50%相同である。より好ましくは変種ポリペプチドは、配列全体にわたって配列番号4のアミノ酸配列にアミノ酸同一性に基づいて少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%およびより好ましくは少なくとも95%、97%または99%相同である。少なくとも80%、例えば少なくとも85%、90%または95%のアミノ酸同一性が200以上(例えば230、250、270もしくは280またはそれ以上)のストレッチの連続アミノ酸にわたってある場合がある(「高い相同性」)。相同性は上に考察のとおり決定し得る。
【0091】
アミノ酸置換は、上に考察したものに加えて配列番号4のアミノ酸配列に作出し得る(例えば1、2、3、4、5、10、20または30置換まで)。保存的置換は、上に考察の通り作出し得る。
【0092】
配列番号4のアミノ酸配列の1つまたは複数のアミノ酸残基は、上に記載のポリペプチドから追加的に欠失され得る。1、2、3、4、5、10、20または30残基までまたはそれ以上を欠失し得る。
【0093】
変種は、配列番号4の断片であり得る。そのような断片はポア形成能力を保持する。断片は、長さ少なくとも50、100、200または250アミノ酸であってよい。断片は、配列番号4のポア形成ドメインを好ましくは含む。断片は典型的には配列番号4の残基119、121、135、113および139を含む。
【0094】
1つまたは複数のアミノ酸は、上に記載のポリペプチドに代替的にまたは追加的に付加し得る。伸長は、配列番号4のアミノ酸配列またはその変種もしくは断片のアミノ末端またはカルボキシ末端に与えられ得る。伸長は極めて短い(例えば長さ1から10アミノ酸)場合がある。代替的に伸長は、より長くても(例えば50または100アミノ酸まで)良い。担体タンパク質は、ポアまたは変種に融合されてもよい。
【0095】
上に考察したとおり、配列番号4の変種は、配列番号4のものから変更され、ポアを形成する能力を保持しているアミノ酸配列を有するサブユニットである。変種は、ポア形成に関与する配列番号4の領域を典型的には含有する。β−バレルを含有するα−HLのポア形成能力は、各サブユニットのβシートによって与えられる。配列番号4の変種は、β鎖を形成する配列番号4の領域を典型的には含む。β鎖を形成する配列番号4のアミノ酸は上に考察されている。1つまたは複数の修飾は、得られる変種がポアを形成する能力を保持する限りβ−鎖を形成する配列番号4の領域に作出し得る。配列番号4のβ鎖領域に作られ得る具体的な修飾は、上に考察されている。
【0096】
配列番号4の変種は、置換、付加または欠失などの1つまたは複数の修飾をα−ヘリックスおよび/またはループ領域内に好ましくは含む。α−ヘリックスおよびループを形成するアミノ酸は、上に考察されている。
【0097】
変種は、上に考察のとおり、その同定または精製を支援するために修飾し得る。
【0098】
α−HL由来のポアは、Msp由来のポアに関連して上に考察のとおり作出し得る。
【0099】
いくつかの実施形態では膜貫通タンパク質ポアは、化学的に修飾される。ポアは、任意の方法および任意の部位で化学的に修飾し得る。膜貫通タンパク質ポアは、1つもしくは複数のシステインへの分子の付着(システイン連結)、1つもしくは複数のリシンへの分子の付着、1つもしくは複数の非天然アミノ酸への分子の付着、エピトープの酵素修飾または末端の修飾によって好ましくは化学的に修飾される。そのような修飾を実行するための好適な方法は、当技術分野において周知である。膜貫通タンパク質ポアは、任意の分子の付着によって化学的に修飾され得る。例えばポアは、色素またはフルオロフォアの付着によって化学的に修飾し得る。
【0100】
ポア中の任意の数の単量体は、化学的に修飾し得る。1つまたは複数(2、3、4、5、6、7、8、9または10個など)の単量体は、上に考察のとおり好ましくは化学的に修飾される。
【0101】
システイン残基の反応性は、隣接残基の修飾によって増強し得る。例えば近接アルギニン、ヒスチジンまたはリシン残基の塩基性基は、システインチオール基のpKaをより反応性のS基のものに変化させる。システイン残基の反応性は、dTNBなどのチオール保護基によって保護し得る。これらは、リンカーが付着する前にポアの1つまたは複数のシステイン残基と反応できる。
【0102】
(ポアが化学的に修飾される)分子は、国際出願第PCT/GB09/001690号(WO2010/004273として公開)、第PCT/GB09/001679号(WO2010/004265として公開)または第PCT/GB10/000133号(WO2010/086603として公開)に開示のとおりポアに直接付着し得るか、またはリンカーを介して付着し得る。
【0103】
本発明に従って、任意のHel308ヘリカーゼを使用し得る。Hel308ヘリカーゼはski2様ヘリカーゼとしても公知であり、2つの用語は互換的に用いられ得る。
【0104】
Hel308ヘリカーゼは、アミノ酸モチーフQ−X1−X2−G−R−A−G−R(本明細書以下でHel308モチーフと称する;配列番号8)を典型的には含む。Hel308モチーフは、典型的にはヘリカーゼモチーフVIの部分である(Tuteja and Tuteja、Eur.J.Biochem.271 1849-1863(2004))。X1は、C、MまたはLであってよい。X1は、好ましくはCである。X2は、任意のアミノ酸残基であってよい。X2は、典型的には疎水性または中性残基である。X2は、A、F、M、C、V、L、I、S、T、PまたはRであってよい。X2は、好ましくはA、F、M、C、V、L、I、S、TまたはPである。X2は、より好ましくはA、MまたはLである。X2は、最も好ましくはAまたはMである。
【0105】
Hel308ヘリカーゼは、好ましくはモチーフQ−X1−X2−G−R−A−G−R−P(本明細書以下で伸張されたHel308モチーフと称される;配列番号9)を含み、式中X1およびX2は上に記載のとおり。
【0106】
最も好ましいHel308モチーフおよび伸張されたHel308モチーフは、下の表5に示される。Hel308ヘリカーゼは、これらの好ましいモチーフのいずれをも含み得る。
【0107】
Hel308ヘリカーゼは、好ましくは下の表4に示すヘリカーゼの1つまたはその変種である。
【0108】
【表4】
【0109】
Hel308ヘリカーゼは、より好ましくは下の表5に示すヘリカーゼの1つまたはその変種である。Hel308ヘリカーゼは、より好ましくは表5に示すヘリカーゼの1つの配列、すなわち配列番号10、13、16、19、22、25、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55および58の1つまたはその変種を含む。
【0110】
【表5】
【0111】
Hel308ヘリカーゼは、より好ましくは(a)Hel308Mbuの配列(すなわち、配列番号10)もしくはその変種、(b)Hel308Pfuの配列(すなわち、配列番号13)もしくはその変種、(c)Hel308Mokの配列(すなわち、配列番号29)もしくはその変種、(d)Hel308Mmaの配列(すなわち、配列番号45)もしくはその変種、(e)Hel308Facの配列(すなわち、配列番号48)もしくはその変種または(f)Hel308Mhuの配列(すなわち配列番号52)もしくはその変種を含む。Hel308ヘリカーゼは、より好ましくは配列番号10に示す配列またはその変種を含む。
【0112】
Hel308ヘリカーゼは、より好ましくは(a)Hel308Tgaの配列(すなわち、配列番号33)もしくはその変種、(b)Hel308Csyの配列(すなわち、配列番号22)もしくはその変種、または(c)Hel308Mhuの配列(すなわち配列番号52)もしくはその変種を含む。Hel308ヘリカーゼは、最も好ましくは配列番号33に示す配列もしくはその変種を含む。
【0113】
Hel308ヘリカーゼの変種は、野生型ヘリカーゼの配列から変化しているアミノ酸配列を有し、ポリヌクレオチド結合活性を保持している酵素である。特に、配列番号10、13、16、19、22、25、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55および58の任意の1つの変種は、配列番号10、13、16、19、22、25、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55および58の任意の1つから変化しているアミノ酸配列を有し、ポリヌクレオチド結合活性を保持している酵素である。配列番号10または33の変種は配列番号10または33の配列から変化しているアミノ酸配列を有し、ポリヌクレオチド結合活性を保持している酵素である。変種はヘリカーゼ活性を保持している。変種は、下に考察する2つのモードの少なくとも1つで作動しなければならない。好ましくは、変種は両方のモードで作動する。変種は、ヘリカーゼをコードするポリヌクレオチドの操作を促進するならびに/または高塩濃度および/もしくは室温でのその活性を促進する修飾を含む場合がある。変種は、上で考察したHel308モチーフまたは伸張されたHel308モチーフの外の領域において野生型ヘリカーゼとは典型的には異なる。しかし変種は、これらのモチーフ(複数可)内に修飾を含む場合がある。
【0114】
配列番号10または33などの配列番号10、13、16、19、22、25、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55および58の任意の1つのアミノ酸配列全長にわたって、変種は好ましくは、アミノ酸同一性に基づいてその配列に対して少なくとも30%相同である。より好ましくは、変種ポリペプチドは、配列番号10または33などの配列番号10、13、16、19、22、25、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55および58の任意の1つのアミノ酸配列に対して、配列全長にわたるアミノ酸同一性に基づいて、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%およびより好ましくは少なくとも95%、97%または99%相同であってよい。少なくとも70%、例えば少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%のアミノ酸同一性が150以上のストレッチ、例えば200、300、400、500、600、700、800、900または1000以上の連続するアミノ酸にわたってあり得る(「高い相同性」)。相同性は上に記載のとおり決定される。変種は配列番号2および4を参照して上に考察したいずれの方法においても野生型配列と異なっていてよい。
【0115】
配列番号10、13、16、19、22、25、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55および58の任意の1つの変種は、関連する野生型配列のHel308モチーフまたは伸張されたHel308モチーフを好ましくは含む。例えば配列番号10の変種は、好ましくは配列番号10のHel308モチーフ(QMAGRAGR;配列番号11)または配列番号10の伸張されたHel308モチーフ(QMAGRAGRP;配列番号12)を含む。配列番号10、13、16、19、22、25、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55および58のそれぞれのHel308モチーフおよび伸張されたHel308モチーフは、表5に示される。しかし、配列番号10、13、16、19、22、25、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55および58の任意の1つの変種は、異なる野生型配列由来のHel308モチーフまたは伸張されたHel308モチーフを含む場合がある。例えば、配列番号10の変種は、配列番号13のHel308モチーフ(QMLGRAGR;配列番号14)または配列番号13の伸張されたHel308モチーフ(QMLGRAGRP;配列番号15)を含む場合がある。配列番号10、13、16、19、22、25、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55および58の任意の1つの変種は、表5に示す好ましいモチーフの任意の1つを含む場合がある。配列番号10、13、16、19、22、25、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55および58の任意の1つの変種は、関連する野生型配列のHel308モチーフまたは伸張されたHel308モチーフ内に修飾も含む場合がある。X1およびX2での好適な修飾は、2つのモチーフを定義する際に上に考察されている。
【0116】
配列番号10の変種は、配列番号10の最初の19アミノ酸を欠失しているおよび/または配列番号10の最後の33アミノ酸を欠失している場合がある。配列番号10の変種は、配列番号10のアミノ酸20から211または20から727にアミノ酸同一性に基づいて少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%またはより好ましくは少なくとも95%、少なくとも97%もしくは少なくとも99%相同である配列を好ましくは含む。
【0117】
ヘリカーゼは、ポアに共有結合的に付着されていてもよい。ヘリカーゼは、好ましくはポアに共有結合的に付着されていない。ポアおよびヘリカーゼへの電圧の印加は、典型的には標的ポリヌクレオチドを配列決定できるセンサーの形成を生じる。これは、下により詳細に考察される。
【0118】
本明細書に記載の任意のタンパク質、すなわち膜貫通タンパク質ポアまたはHel308ヘリカーゼは、それらの同定または精製を支援するために、例えばヒスチジン残基(hisタグ)、アスパラギン酸残基(aspタグ)、ストレプトアビジンタグ、フラッグタグ、SUMOタグ、GSTタグもしくはMBPタグの付加によって、または、それらの細胞からの分泌を促進するために(ポリペプチドが天然でそのような配列を含有していない場合に)シグナル配列の付加によって修飾され得る。遺伝子タグを導入するための別法は、ポアまたはヘリカーゼ上の天然のまたは操作された位置にタグを化学的に反応させることである。この例は、ポアの外側の操作されたシステインにゲルシフト試薬を反応させることである。これは、ヘモリジンヘテロ−オリゴマーを分離するステップのための方法として実証されている(Chem Biol.1997 Jul;4(7):497-505)。
【0119】
ポアおよび/またはヘリカーゼは明示標識(revealing label)で標識し得る。明示標識は、ポアが検出されるようにする任意の好適な標識であってよい。好適な標識は、これだけに限らないが蛍光分子、放射性同位元素(例えば125I、35S)、酵素、抗体、抗原、ポリヌクレオチドおよびリガンド(ビオチンなど)を含む。
【0120】
タンパク質は、合成的にまたは組換え手段によって作出し得る。例えばポアおよび/またはヘリカーゼは、in vitro翻訳および転写(IVTT)によって合成し得る。ポアおよび/またはヘリカーゼのアミノ酸配列は、天然に存在しないアミノ酸を含むようにまたはタンパク質の安定性を増大させるように修飾し得る。タンパク質が合成的手段によって生成される場合、そのようなアミノ酸は、生成の際に導入され得る。ポアおよび/またはヘリカーゼは、合成的にまたは組換え生成のいずれかに続いて変更し得る。
【0121】
ポアおよび/またはヘリカーゼは、D−アミノ酸を用いても生成し得る。例えばポアまたはヘリカーゼは、L−アミノ酸とD−アミノ酸との混合物を含み得る。これは、そのようなタンパク質またはペプチドを生成するための当技術分野における従来法である。
【0122】
ポアおよび/またはヘリカーゼは、他の非特異的修飾もそれらがポア形成またはヘリカーゼ機能を干渉しない限り含有できる。多数の非特異的側鎖修飾は当技術分野において公知であり、タンパク質(複数可)の側鎖に作出し得る。そのような修飾は、例えばアルデヒドとの反応に続くNaBHでの還元によるアミノ酸の還元的アルキル化、メチルアセトイミデート(methylacetimidate)でのアミジン化または無水酢酸でのアシル化を含む。
【0123】
ポアおよびヘリカーゼは、当技術分野において公知の標準的方法を用いて生成し得る。ポアまたはヘリカーゼをコードするポリヌクレオチド配列は、当技術分野における標準的方法を用いて得られ、複製し得る。ポアまたはヘリカーゼをコードするポリヌクレオチド配列は、当技術分野における標準的技術を用いて細菌宿主細胞において発現し得る。ポアおよび/またはヘリカーゼは、組換え発現ベクターからのポリペプチドの原位置での発現によって細胞において生成し得る。場合により発現ベクターは、ポリペプチドの発現を制御するために誘導性プロモーターを保持する。これらの方法は、Sambrook,J.and Russell,D.(2001).Molecular Cloning:A Laboratory Manual、3rd Edition.Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NYに記載されている。
【0124】
ポアおよび/またはヘリカーゼは、大規模に生成することができ、タンパク質生成生物または組換え発現からの任意のタンパク質液体クロマトグラフィー系による精製が続く。典型的なタンパク質液体クロマトグラフィー系は、FPLC、AKTA systems、Bio−Cad system、Bio−Rad BioLogic systemおよびGilson HPLC systemを含む。
【0125】
本発明の方法は、標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特性を測定するステップを含む。方法は、標的ポリヌクレオチドの2つ、3つ、4つまたは5つ以上の特性を測定するステップを含み得る。1つまたは複数の特性は、好ましくは(i)標的ポリヌクレオチドの長さ、(ii)標的ポリヌクレオチドの同一性、(iii)標的ポリヌクレオチドの配列、(iv)標的ポリヌクレオチドの二次構造および(v)標的ポリヌクレオチドが修飾されているか否か、から選択される。(i)から(v)の任意の組合せは本発明により測定し得る。
【0126】
(i)に関して、ポリヌクレオチドの長さは、標的ポリヌクレオチドとポアとの間の相互作用の数を用いて測定できる。
【0127】
(ii)に関して、ポリヌクレオチドの同一性は、多数の方法において測定し得る。ポリヌクレオチドの同一性は、標的ポリヌクレオチドの配列の測定を伴ってまたは標的ポリヌクレオチドの配列の測定を伴わずに測定され得る。前者は、簡単であり、ポリヌクレオチドは配列決定され、それにより同定される。後者は、いくつかの方法で行い得る。例えばポリヌクレオチド中の具体的なモチーフの存在は(ポリヌクレオチドの残りの配列を測定するステップを伴わずに)測定し得る。代替的に、方法における具体的な電気的および/または光学的シグナルの測定は、標的ポリヌクレオチドを具体的な供給源由来であるとして同定できる。
【0128】
(iii)に関して、ポリヌクレオチドの配列は、以前記載されたとおり決定し得る。好適な配列決定方法、詳細には電気的測定を用いるものは、Stoddart Dら、Proc Natl Acad Sci、12;106(19):7702-7、Lieberman KRら、J Am Chem Soc.2010;132(50):17961-72および国際出願第WO2000/28312号に記載されている。
【0129】
(iv)に関して、二次構造は、種々の方法において測定し得る。例えば方法が電気的測定を含む場合、二次構造は残存時間における変化またはポアを通って流れる電流における変化を用いて測定し得る。これは、1本鎖と2本鎖のポリヌクレオチドの領域を区別できるようにする。
【0130】
(v)に関して、任意の修飾の存在または非存在を測定し得る。方法は、好ましくは標的ポリヌクレオチドが、メチル化によって、酸化によって、損傷によって、1つまたは複数のタンパク質でまたは1つまたは複数の標識、タグもしくはスペーサーで修飾されているかどうかを決定するステップを含む。具体的な修飾は、下に記載の方法を用いて測定し得るポアとの特異的な相互作用を生じる。例えばメチルシトシン(methylcyotsine)は、各ヌクレオチドとのその相互作用の際にポアを通って流れる電流に基づいてシトシンから区別し得る。
【0131】
種々の異なる種類の測定が作出されてよい。これは、非限定的に:電気的測定および光学的測定を含む。可能性のある電気的測定は、電流測定:インピーダンス測定、トンネル測定(Ivanov APら、Nano Lett.2011 Jan 12;11(1):279-85)およびFET測定(国際出願第WO2005/124888号)を含む。光学的測定は、電気的測定(Soni GVら、Rev Sci Instrum. 2010 Jan;81(1):014301)と組み合わされ得る。測定は、ポアを通って流れるイオン電流の測定などの膜貫通電流測定であってよい。
【0132】
電気的測定は、Stoddart Dら、Proc Natl Acad Sci、12;106(19):7702-7、Lieberman KRら、J Am Chem Soc.2010;132(50):17961-72および国際出願第WO−2000/28312号に記載の標準的単一チャネル記録機器を用いて作出し得る。代替的に電気的測定は、例えば国際出願第WO−2009/077734号および国際出願第WO−2011/067559号に記載のマルチチャネル系を用いても作出し得る。
【0133】
好ましい実施形態では方法は、
(a)標的ポリヌクレオチドを膜貫通ポアおよびHel308ヘリカーゼに接触させて、ヘリカーゼがポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御し、標的ポリヌクレオチド中のヌクレオチドがポアと相互作用するようにするステップ;および
(b)1つまたは複数の相互作用の間にポアを通って流れる電流を測定して、標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特性を測定し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するステップ
を含む。
【0134】
本方法は、ポアが膜に挿入されている膜/ポア系を調べるのに好適である任意の装置を用いて実行し得る。本方法は、膜貫通ポアセンシングに好適である任意の装置を用いて実行し得る。例えば装置は、水性溶液および、チャンバーを2つのセクションに分離する障壁を含むチャンバーを含む。障壁はポアを含有する膜が形成される開口部を有する。
【0135】
本方法は、国際出願第PCT/GB08/000562号(WO2008/102120)に記載の装置を用いて実行し得る。
【0136】
本方法は、ヌクレオチド(複数可)との1つまたは複数の相互作用の間にポアを通過する電流を測定するステップを含み得る。したがって装置は、電位を印加でき、膜およびポアを通る電気シグナルを測定できる電気回路も含む。方法は、パッチクランプまたは電圧クランプを用いても実行し得る。方法は、電圧クランプの使用を好ましくは含む。
【0137】
本発明の方法は、ヌクレオチドとの1つまたは複数の相互作用の際にポアを通過する電流の測定を含み得る。膜貫通タンパク質ポアを通るイオン電流を測定するための好適な条件は、当技術分野において公知であり、実施例で開示される。方法は、膜およびポア全体に印加される電圧と共に典型的には実行される。用いられる電圧は典型的には、+2Vから−2Vまで、典型的には−400mVから+400mVまでである。好ましくは用いられる電圧は、−400mV、−300mV、−200mV、−150mV、−100mV、−50mV、−20mVおよび0mVから選択される下限値および+10mV、+20mV、+50mV、+100mV、+150mV、+200mV、+300mVおよび+400mVから独立に選択される上限値を含む範囲内である。用いられる電圧は、より好ましくは100mVから240mVまでの範囲内、最も好ましくは120mVから220mVまでの範囲内である。印加される電位を増加させることによってポアによるさまざまなヌクレオチド間の識別を向上させることは可能である。
【0138】
本方法は、金属塩(例えばアルカリ金属塩)、ハロゲン化塩(例えばアルカリ金属塩化物塩などの塩化物塩)などの任意の電荷担体の存在下で典型的には実行される。電荷担体は、イオン液体または有機塩、例えばテトラメチル塩化アンモニウム、トリメチルフェニル塩化アンモニウム、フェニルトリメチル塩化アンモニウムもしくは1−エチル−3メチルイミダゾリウムクロリド(1-ethyl-3-methyl imidazolium chloride)を含み得る。上に考察した例示的装置では、塩はチャンバー中の水性溶液中に存在する。塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)または塩化セシウム(CsCl)が典型的には用いられる。KClが好ましい。塩濃度は飽和であってよい。塩濃度は、3M以下があり得、典型的には0.1から2.5Mまで、0.3から1.9Mまで、0.5から1.8Mまで、0.7から1.7Mまで、0.9から1.6Mまでまたは1Mから1.4Mまでである。塩濃度は、好ましくは150mMから1Mまでである。上に考察したとおりHel308ヘリカーゼは、高塩濃度下で驚くべきことに作用する。方法は、少なくとも0.4M、少なくとも0.5M、少なくとも0.6M、少なくとも0.8M、少なくとも1.0M、少なくとも1.5M、少なくとも2.0M、少なくとも2.5Mまたは少なくとも3.0Mなどの少なくとも0.3Mの塩濃度を用いて好ましくは実行される。高塩濃度は、高い信号対雑音比を提供し、通常の電流変動のバックグラウンドに対してヌクレオチドの存在を示す電流が同定されることを可能にする。
【0139】
本方法は、緩衝剤の存在下で典型的には実行される。上に考察した例示的装置では、緩衝剤はチャンバー中の水性溶液に存在する。任意の緩衝剤が本発明の方法において用いられ得る。典型的には、緩衝剤はHEPESである。別の好適な緩衝剤はTris−HCl緩衝剤である。方法は、4.0から12.0まで、4.5から10.0まで、5.0から9.0まで、5.5から8.8まで、6.0から8.7までまたは7.0から8.8までまたは7.5から8.5までのpHで典型的には実行される。用いられるpHは好ましくは約7.5である。
【0140】
本方法は、0Cから100Cまで、15Cから95Cまで、16Cから90Cまで、17Cから85Cまで、18Cから80Cまで、19Cから70Cまでまたは20Cから60Cまでで実行し得る。方法は典型的には室温で実行される。方法は、約37℃などの酵素機能を支持する温度で場合により実行される。
【0141】
本方法は、遊離ヌクレオチドまたは遊離ヌクレオチド類似物およびヘリカーゼの作用を促進する酵素補因子の存在下で典型的には実行される。遊離ヌクレオチドは、上に考察した個々のヌクレオチドの任意の1つまたは複数であってよい。遊離ヌクレオチドは、これだけに限らないがアデノシン一リン酸(AMP)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)、グアノシン一リン酸(GMP)、グアノシン二リン酸(GDP)、グアノシン三リン酸(GTP)、チミジン一リン酸(TMP)、チミジン二リン酸(TDP)、チミジン三リン酸(TTP)、ウリジン一リン酸(UMP)、ウリジン二リン酸(UDP)、ウリジン三リン酸(UTP)、シチジン一リン酸(CMP)、シチジン二リン酸(CDP)、シチジン三リン酸(CTP)、環状アデノシン一リン酸(cAMP)、環状グアノシン一リン酸(cGMP)、デオキシアデノシン一リン酸(dAMP)、デオキシアデノシン二リン酸(dADP)、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシグアノシン一リン酸(dGMP)、デオキシグアノシン二リン酸(dGDP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、デオキシチミジン一リン酸(dTMP)、デオキシチミジン二リン酸(dTDP)、デオキシチミジン三リン酸(dTTP)、デオキシウリジン一リン酸(dUMP)、デオキシウリジン二リン酸(dUDP)、デオキシウリジン三リン酸(dUTP)、デオキシシチジン一リン酸(dCMP)、デオキシシチジン二リン酸(dCDP)およびデオキシチジン三リン酸(dCTP)を含む。遊離ヌクレオチドは、好ましくはAMP、TMP、GMP、CMP、UMP、dAMP、dTMP、dGMPまたはdCMPから選択される。遊離ヌクレオチドは、好ましくはアデノシン三リン酸(ATP)である。酵素補因子は、ヘリカーゼを機能させる因子である。酵素補因子は、好ましくは二価金属カチオンである。二価金属カチオンは好ましくはMg2+、Mn2+、Ca2+またはCo2+である。酵素補因子は、最も好ましくはMg2+である。
【0142】
標的ポリヌクレオチドは、Hel308ヘリカーゼおよびポアと任意の順序で接触し得る。標的ポリヌクレオチドがHel308ヘリカーゼおよびポアと接触される場合、標的ポリヌクレオチドは最初にヘリカーゼと複合体を形成することは好ましい。ポアに電圧が印加される場合、標的ポリヌクレオチド/ヘリカーゼ複合体は次いでポアと複合体を形成し、ポアを通るポリヌクレオチドの移動を制御する。
【0143】
上に考察したとおり、Hel308ヘリカーゼは、ナノポアに関して2つのモードで作動できる。第一に、本方法は、印加された電圧から生じる場に沿ってポアを通って標的配列を移動させるようにHel308ヘリカーゼを用いて好ましくは実行される。このモードでは、DNAの3’末端が最初にナノポアに捕捉され、標的配列が最終的に二重層のtrans側に移行するまで場に沿ってナノポアを通るように、酵素はDNAをナノポア中に移動させる。代替的に、本方法は、印加された電圧から生じる場とは反対に酵素が標的配列をポアを通して移動させるように好ましくは実行される。このモードでは、DNAの5’末端が最初にナノポアに捕捉され、酵素は、標的配列が最終的に二重層のcis側に戻って放されるまで印加された場とは反対にナノポアの外側へ引かれるようにDNAをナノポアを通して移動させる。
【0144】
本発明の方法は、MspA由来のポアおよび配列番号8もしくは10に示す配列またはその変種を含むヘリカーゼを最も好ましくは含む。MspAならびに配列番号8および10を参照して上に考察した任意の実施形態は、組合せで用いられ得る。
【0145】
他の方法
本発明は、標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのセンサーの形成方法も提供する。本方法は、ポアとHel308ヘリカーゼとの複合体を形成するステップを含む。複合体は、ポアとヘリカーゼとを標的ポリヌクレオチドの存在下で接触させ、次いで、ポアに電位を印加するステップによって形成し得る。印加される電位は、上に記載のとおり化学電位または電圧電位であってよい。代替的に複合体は、ポアをヘリカーゼに共有結合的に付着するステップによっても形成し得る。共有結合付着のための方法は、当技術分野において公知であり、例えば国際出願第PCT/GB09/001679号(WO2010/004265として公開)および第PCT/GB10/000133号(WO2010/086603として公開)において開示されている。複合体は、標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのセンサーである。方法は、Msp由来のポアとHel308ヘリカーゼとの複合体を形成するステップを好ましくは含む。本発明の方法を参照して上に考察した任意の実施形態は、この方法に等しく適用される。
【0146】
キット
本発明は、標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのキットも提供する。キットは、(a)ポアおよび(b)Hel308ヘリカーゼを含む。本発明の方法に関連して上に考察された任意の実施形態は、キットに等しく適用する。
【0147】
キットは、脂質二重層を形成するために必要なリン脂質などの膜の構成成分をさらに含んでよい。
【0148】
本発明のキットは、上に述べた任意の実施形態が実行されるようにする1つまたは複数の他の試薬または器具を追加的に含んでよい。そのような試薬または器具は、次の:好適な緩衝剤(複数可)(水性溶液)、対象から試料を得るための手段(容器もしくは、針を含む器具など)、ポリヌクレオチドを増幅および/もしくは発現するための手段、上に定義の膜または電圧もしくはパッチクランプ装置、の1つまたは複数を含む。試薬は、液体試料が試薬を再懸濁するように乾燥状態でキット中に存在する場合がある。キットは、キットが本発明の方法において用いられ得るようにする説明書、またはいずれの患者に方法が用いられ得るかに関する詳細も場合により含む場合がある。キットは、場合によりヌクレオチドを含み得る。
【0149】
装置
本発明は、標的ポリヌクレオチドを特性決定するための装置も提供する。装置は、複数のポアおよび複数のHel308ヘリカーゼを含む。装置は、本発明の方法を実行するための説明書を好ましくはさらに含む。装置は、アレイまたはチップなどのポリヌクレオチド分析のための任意の従来装置であってよい。本発明の方法に関連して上に考察された任意の実施形態は、本発明の装置に等しく適用可能である。
【0150】
装置は、本発明の方法を実行するために好ましくはセットアップされている。
【0151】
装置は、
膜および複数のポアを支持でき、ポアおよびヘリカーゼを用いてポリヌクレオチド特性決定を実施するために作動可能であるセンサーデバイス;
特性決定を実施するための材料を保持するための少なくとも1つのリザーバー;
少なくとも1つのリザーバーからセンサーデバイスに材料を制御可能に供給するように構成された流体系;および
各試料を受けるための複数の容器を好ましくは含み、
流体系は、容器からセンサーデバイスに試料を選択的に供給するように構成されている。装置は、国際出願第PCT/GB08/004127号(WO2009/077734として公開)、第PCT/GB10/000789号(WO2010/122293として公開)、国際出願第PCT/GB10/002206号(未公開)または国際出願第PCT/US99/25679号(WO00/28312として公開)において記載の任意のものであってよい。
【0152】
内部結合分子モーター
分子モーターは、ポリマー(特に、ポリヌクレオチド)のナノポアを通る移行を制御するための手段として一般に用いられている。驚くべきことに、本発明者らは、標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで(すなわち5’末端または3’末端ヌクレオチド以外の位置で)結合できる分子モーターが、分子モーターがナノポアを通るポリヌクレオチドの移行を制御することから、ポリヌクレオチドの読み取り長さの増大を提供できることを見いだした。分子モーターの制御下でナノポアを通ってポリヌクレオチド全体を移行する能力は、その配列などのポリヌクレオチドの特性を改善された確度でおよび公知の方法を超える速度で推定できるようにする。鎖長が長くなるにつれてこれはより重要になり、分子モーターは前進性の改善を必要とする。本発明において用いられる分子モーターは、500ヌクレオチド以上、例えば1000ヌクレオチド、5000、10000または20000以上の標的ポリヌクレオチドの移行を制御することにおいて特に有効である。
【0153】
したがって、本発明は、
(a)標的ポリヌクレオチドを膜貫通ポアおよび分子モーターに接触させて、標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合できる分子モーターがポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御し、標的ポリヌクレオチド中のヌクレオチドがポアと相互作用するようにするステップ、および
(b)1つまたは複数の相互作用の間に標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特性を測定し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するステップ
を含む、標的ポリヌクレオチドを特性決定する方法を提供する。
【0154】
本発明のHel308法との関連において上に考察した任意の実施形態は、本発明のこの方法に等しく適用される。
【0155】
ポリヌクレオチド、特に、500ヌクレオチド以上のものを配列決定することにおいて生じる問題は、ポリヌクレオチドの移行を制御する分子モーターがポリヌクレオチドから離される場合があることである。これは、ポリヌクレオチドが印加された場の方向に急速かつ制御されない様式でポアを通って引かれるようにする。本発明において用いられる分子モーターの多く場合は、比較的短い距離でポリヌクレオチドに結合し、それによりさらなる分子モーターがポアと会合する前にポアを通って引かれ得るポリヌクレオチドの長さは比較的短い。
【0156】
内部ヌクレオチドは、標的ポリヌクレオチド中の末端ヌクレオチドではないヌクレオチドである。例えばそれは、3’末端ヌクレオチドまたは5’末端ヌクレオチドではない。環状ポリヌクレオチド中の全てのヌクレオチドは内部ヌクレオチドである。
【0157】
一般的に内部ヌクレオチドに結合できる分子モーターは、末端ヌクレオチドにも結合できるが、いくつかの分子モーターが内部ヌクレオチドに結合する傾向は他より大きい。本発明における使用のために好適な分子モーターは、典型的にはポリヌクレオチドへのその結合の少なくとも10%が内部ヌクレオチドへの結合である。典型的にはその結合の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも50%が内部ヌクレオチドへの結合である。末端ヌクレオチドでの結合は、両方の末端ヌクレオチドおよび隣接する内部ヌクレオチドへの結合を同時に含み得る。本発明の目的のためにこれは、内部ヌクレオチドでの標的ポリヌクレオチドへの結合ではない。換言すると本発明において用いられる分子モーターは、1つまたは複数の隣接する内部ヌクレオチドとの組合せで末端ヌクレオチドに結合できるだけではない。分子モーターは、末端ヌクレオチドに同時に結合することなく内部ヌクレオチドに結合できなければならない。
【0158】
内部ヌクレオチドに結合できる分子モーターは、2個以上の内部ヌクレオチドに結合できる。典型的には分子モーターは、少なくとも2個の内部ヌクレオチドに、例えば少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも10個または少なくとも15個の内部ヌクレオチドに結合する。典型的には分子モーターは、少なくとも2個の隣接する内部ヌクレオチドに、例えば少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも10個または少なくとも15個の隣接する内部ヌクレオチドに結合する。少なくとも2個の内部ヌクレオチドは隣接していても隣接しなくてもよい。
【0159】
ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合する分子モーターの能力は、比較アッセイを実行することによって決定し得る。制御ポリヌクレオチドAに結合するモーターの能力は、同じポリヌクレオチドだが末端ヌクレオチドにブロッキング基が付着しているもの(ポリヌクレオチドB)へ結合する能力と比較される。ブロッキング基は、B鎖の末端ヌクレオチドでのいかなる結合も妨げ、それにより分子モーターの内部結合だけを可能にする。この種類のアッセイの例は、実施例4に開示されている。
【0160】
好適な分子モーターは当技術分野において周知であり、典型的には、これだけに限らないが、ポリメラーゼなどの1および2本鎖トランスロカーゼ、ヘリカーゼ、トポイソメラーゼ、リガーゼおよびエキソヌクレアーゼなどのヌクレアーゼを含む。好ましくは、分子モーターは、ヘリカーゼ、例えばHel308ヘリカーゼである。内部ヌクレオチドで結合できるHel308ヘリカーゼの例は、これだけに限らないが、Hel308Tga、Hel308MhuおよびHel308Csyを含む。それにより分子モーターは、(a)Hel308Tga(すなわち配列番号33)もしくはその変種の配列または(b)Hel308Csy(すなわち配列番号22)もしくはその変種の配列または(c)Hel308Mhu(すなわち配列番号52)の配列もしくはその変種を好ましくは含む。典型的には変種は、その配列全体にわたるアミノ酸同一性に基づいて配列番号33、22または52に対して少なくとも40%の相同性を有し、ヘリカーゼ活性を保持している。さらに可能性のある変種は、上に考察されている。
【0161】
本発明において用いられる分子モーターは、上で考察した任意の方法によって作出でき、上で考察したとおり修飾または標識し得る。分子モーターは、本明細書に記載の方法においてまたは本明細書に記載の装置の部分として用い得る。本発明は、ポアと(標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合できる)分子モーターとの複合体を形成すし、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するセンサーを形成するステップを含む標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのセンサーの形成方法をさらに提供する。本発明は、ポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御するために標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合できる分子モーターの使用も提供する。本発明は、(a)ポアおよび(b)標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合できる分子モーター、を含む標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのキットも提供する。本発明は、複数のポアおよび、標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合できる複数の分子モーターを含む、試料中の標的ポリヌクレオチドを特性決定するための分析装置も提供する。
【0162】
次の実施例は本発明を例示する。
実施例
【実施例1】
【0163】
本実施例は、ナノポアを通るインタクトなDNA鎖の移動を制御するためのHel308ヘリカーゼ(Hel308MBu)の使用を例示する。本実施例全般に使用される一般的な方法および基質を図1に示し、図の解説に記載する。
【0164】
材料および方法
PhiX174の約400bp断片を増幅するためにプライマーを設計した。これらのプライマーの各5’末端は、50ヌクレオチド非相補性領域(ホモポリマーストレッチまたは10ヌクレオチドホモポリマーセクションの反復単位のいずれか)を含んでいた。これらは、ナノポアを通る鎖の移行を制御するためおよび移行の方向性を決定するための識別子として役立つ。付加的に順方向プライマーの5’末端を、2'−O−メチル−ウラシル(mU)ヌクレオチド4個を含むように「キャップ」し、逆方向プライマーの5’末端を化学的にリン酸化した。その結果、これらのプライマー修飾は、ラムダエキソヌクレアーゼを用いる主にアンチセンス鎖だけの制御された消化を可能にする。mUキャッピングがセンス鎖をヌクレアーゼ消化から保護する一方で、アンチセンス鎖の5'のPO4はそれを促進する。したがって、ラムダエキソヌクレアーゼとのインキュベーション後に、二重鎖のセンス鎖だけがインタクトで、1本鎖DNA(ssDNA)として残る。次いで、作製されたssDNAを既に記載のとおりPAGE精製した。
【0165】
本明細書に記載の全ての実験において用いたDNA基質設計を図6に示す。DNA基質は、ナノポアによる捕捉を補助するための50T 5’−リーダーを有するPhiX由来のssDNAの400塩基セクションからなる(配列番号59)。50Tリーダー直後のこの鎖にアニールするのは、二重層の表面上のDNAを濃縮し、捕捉効率を改善する3’コレステロールタグを含有するプライマー(配列番号60)である。
【0166】
緩衝溶液:400mM〜2M KCl、10mM Hepes pH8.0、1mM ATP、1mM MgCl、1mM DTT
ナノポア:大腸菌(E.coli)MS(B2)8 MspA ONLP3271MS−(L88N/D90N/D91N/D93N/D118R/D134R/E139K)8
酵素:Hel308Mbu(ONLP3302、約7.7μM)12.5μl−>最終100nM
【0167】
1,2−ジフィタノイル−グリセロ−3−ホスホコリン脂質(Avanti Polar Lipids)二重層に挿入された単一のMspAナノポアから電気計測値を得た。二重層は、モンタル−ミューラー技術によって開口部直径約100μm、厚さ20μmのPTFEフィルム(Delrin chambers注文生産)で形成され、2個の1mL緩衝溶液に分けた。全ての実験は、上記の緩衝溶液中で実行した。単一チャネル電流を1440Aデジタイザーを備えたAxopatch 200B amplifiers(Molecular Devices)で測定した。Ag/AgCl電極を緩衝溶液に繋ぎ、cisコンパートメント(ナノポアおよび酵素/DNAの両方が添加されている)をAxopatch headstageのアースに繋ぎ、transコンパートメントをheadstageの探査電極に繋ぐ。二重層中での単一ポアを達成した後、DNAポリヌクレオチドおよびヘリカーゼを緩衝液100μLに加え、5分間予備インキュベートした(DNA=1.5nM、酵素=1μM)。MspAナノポアでのヘリカーゼDNA複合体の捕捉を開始するためにこの予備インキュベーション混合物を電気生理学チャンバーのcisコンパートメント中の緩衝液900μLに添加した(DNA=0.15μM、酵素=0.1μMの最終濃度をもたらす)。ヘリカーゼATPase活性を必要に応じてcisコンパートメントへの二価金属(1mM MgCl)およびNTP(1mM ATP)の添加によって開始させた。実験を+180mVの一定電位で実行した。
【0168】
結果および考察
図1に示すヘリカーゼ−DNA基質のMspAナノポアへの添加は、図2に示す特性的電流遮断を生じる。ヘリカーゼ結合を含まないDNAは、ナノポアと一過的に相互作用し、電流に短い遮断(<<1秒間)を生じる。ヘリカーゼ結合を有し、活性な(すなわち、ATPase作用の下でDNA鎖に沿って移動する)DNAは、図2に示す電流における段階的変化を含む長い特性的な遮断レベルを生じる。ナノポア中のさまざまなDNAモチーフは、独特の電流遮断レベルを生じさせる。
【0169】
所与の基質に関して本発明者らは、DNA配列を反映する電流移行の特性的パターンを観察する(図3の例)。
【0170】
図1に示す実行では、鎖に沿った無作為な位置でDNAがヘリカーゼに捕捉されることから、DNA鎖は無作為な開始点から配列決定される。しかし、酵素が解離しない限り、鎖は50Tリーダーで同じように全て終了する(図1)。図2に示すとおり本発明者らは、長い残存時間ポリTレベルでの電流移行終末を伴って大部分の鎖に同じ特性的な終末を観察する(図3)。
【0171】
耐塩性
この種のナノポア鎖配列決定実験は、イオン性塩を必要とする。DNAを捕捉および移行させるため、およびDNAがナノポアを通るときに生じる配列依存性電流変化を測定するために電圧オフセットを印加するための導電性溶液を作製するためにイオン性塩が必要である。測定シグナルがイオンの濃度に依存することから、得られるシグナルの振幅を増大させるために高濃度イオン性塩を用いることは有利である。ナノポア配列決定のために、100mM KClを超える塩濃度は理想的であり、1M KCl以上の塩濃度は好ましい。
【0172】
しかし、多数の酵素(いくつかのヘリカーゼおよびDNAモータータンパク質を含む)は、高塩濃度条件を許容しない。高塩濃度条件下で、酵素は、アンフォールドするか構造的完全性を失うかのいずれかであるか、または適正に機能できない。公知および研究されたヘリカーゼについての最新文献は、ほとんど全てのヘリカーゼがおよそ100mM KCl/NaClを超える塩濃度で機能できず、400mM KCl以上の条件で正確な活性を示す報告されたヘリカーゼはないことを示す。耐塩性種由来の類似酵素の有望な好塩性変種が存在するが、それらを標準的発現系(例えば大腸菌(E.coli))において発現および精製することは非常に困難である。
【0173】
本発明者らは驚くべきことに、本実施例においてMbu由来のHel308が非常に高いレベルのKClまでの耐塩性を示すことを示す。本発明者らは、400mM KClから2M KClの塩濃度において酵素が機能性を保持することを、蛍光実験またはナノポア実験のいずれかで見いだしている(図4)。図4は、400mM KCl、1M KClおよび2M KCl塩条件で図1に記載したものと同じ系を用いて実行したHel308Mbu DNA事象を示す。本発明者らは、塩濃度範囲にわたって同様の移動を観察している。本発明者らは、塩濃度が増加するにつれて、固定電圧でナノポアを通る電流(I−オープン)が増大することを観察している。これは、溶液の伝導性の増大および印加された場の下でナノポアを流れて通るイオンの数の増加を反映する。さらに、本発明者らは、DNA事象の電流レベルにおける識別の最小から最大範囲の拡大も観察している(図4拡大図および下右プロットを参照されたい)。本発明者らは、塩濃度が400mM KClから2M KClに増加する場合のDNA識別範囲における約200%の拡大を観察している(下の表6)。
【0174】
【表6】
【0175】
操作の順方向および逆方向モード
大部分のヘリカーゼは、1本鎖ポリヌクレオチド基質に沿って単一方向様式で移動し、各NTPase代謝回転について特定数の塩基を移動する。図1は挿入されたDNAをナノポアの外へ引くこの移動の使用を例示するが、ヘリカーゼ移動は、制御されたやり方でナノポアを通るDNAを供給する他の様式に利用され得る。図5は、操作の基本的な「順方向」および「逆方向」モードを例示する。順方向モードではDNAは、印加された場の力の下でDNAが移動するのと同じ方向にヘリカーゼによってポアへ供給される。Hel308Mbu(3’−5’ヘリカーゼである)に関して、これはヘリカーゼがナノポアの先端に接触するまでナノポア中のDNAの3’末端の捕捉を必要とし、次いで印加された電位からの場でのヘリカーゼの制御下でDNAはナノポアに供給され、最終的に二重層のtrans側に出る。逆方向モードは、DNAの5’末端の捕捉を必要とし、その後ヘリカーゼは印加された電位からの場と反対に挿入されたDNAをナノポアの反対に引くために進み、最終的にそれを二重層のこのcis側に放す。図5は、Hel308Mbuを用いる操作のこれら2つのモードおよび典型例DNA事象を示す。
【実施例2】
【0176】
本実施例は、酵素活性を検査するための蛍光アッセイを用いるHel308ヘリカーゼ(Hel308MBu)の耐塩性を例示する。
【0177】
通例の蛍光基質を、ハイブリダイズされたdsDNAを置換するヘリカーゼの能力をアッセイするために用いた(図6A)。図6Aの1)に示すとおり、蛍光基質鎖(最終100nM)は、3’ssDNAオーバーハングおよびハイブリダイズされたdsDNAの40塩基セクションを有する。主要な上部鎖は5’末端にカルボキシフルオレセイン塩基を有し、ハイブリダイズされた相補物は3’末端にブラックホールクエンチャー(BHQ−1)塩基を有する。ハイブリダイズされると、フルオレセイン由来の蛍光は局在BHQ−1によって消光され、基質は基本的に非蛍光性である。蛍光基質の短い鎖に相補的である捕捉鎖1μMがアッセイに含まれる。2)に示されるとおりATP(1mM)およびMgCl(5mM)の存在下で基質に添加されたヘリカーゼ(100nM)は、蛍光基質の3’テールに結合し、主要な鎖に沿って移動し、示すとおり相補鎖を置換する。3)に示すとおり、BHQ−1を有する相補鎖が完全に置換されると、主要な鎖上のフルオレセインは蛍光を発する。4)に示すとおり、過剰量の捕捉鎖が相補的DNAに優先的にアニールし、初期基質の再アニールおよび蛍光の消失を防ぐ。
【0178】
基質DNA:5’FAM−配列番号61および配列番号62−BHQ1−3’、FAM=カルボキシフルオレセインおよびBHQ1=ブラックホールクエンチャー−1
【0179】
捕捉DNA:配列番号62
【0180】
図6中のグラフは、400mMから2MのKClのさまざまな濃度を含有する緩衝溶液(10mM Hepes pH8.0、1mM ATP、5mM MgCl、100nM蛍光基質DNA、1μM捕捉DNA)中での活性の初期速度を示す。ヘリカーゼは2Mで作動する。
【実施例3】
【0181】
本実施例では、3種の異なるHel308ヘリカーゼ、すなわちHel308Mhu(配列番号52)、Hel308Mok(配列番号29)およびHel308Mma(配列番号45)を用いた。全ての実験は、実施例1に既に記載のとおりの同じ実験条件下で実施した(ポア=MspA B2、DNA=400塩基長 配列番号59および60、緩衝液=400mM KCl、10mM Hepes pH8.0、1mM dtt、1mM ATP、0.1mM MgCl)。結果を図7に示す。
【実施例4】
【0182】
本実施例は、蛍光アッセイを用いて多数のHel308ヘリカーゼの内部結合能力を測定する。
【0183】
通例の蛍光基質を使用して、天然の3’末端を欠失しているDNAで開始するヘリカーゼの能力をアッセイし、続いてハイブリダイズされたdsDNAを置換させた(図8)。図8のセクションAに示すとおり、蛍光基質鎖(最終50nM)は、3’ssDNAオーバーハング、およびハイブリダイズされたdsDNAの40塩基セクションを有する。主要な上部鎖を4個の連続する「スペーサー9」基で、3’末端または、オーバーハングとdsDNAとの間の接合部で(陰性対照として)内部的に、のいずれかで修飾する。さらに主要な上部鎖は、5’末端にカルボキシフルオレセイン塩基を有し、ハイブリダイズされた相補物は3’末端にブラックホールクエンチャー(BHQ−1)塩基を有する。ハイブリダイズされると、フルオレセイン由来の蛍光は局在BHQ−1によって消光され、基質は基本的に非蛍光性である。蛍光基質の短い鎖に相補的である捕捉鎖(1μM)がアッセイに含まれる。ATP(1mM)およびMgCl(1mM)の存在下で、3’−末端「スペーサー9」基を含有する基質に添加されたHel308ヘリカーゼ相同体(20nM)は、蛍光基質のssDNAオーバーハングに結合でき、主要な鎖に沿って移動し、セクションBに示すとおり相補鎖を置換する。BHQ−1を有する相補鎖が完全に置換されると(セクションC)主要な鎖上のフルオレセインは蛍光を発する。過剰量の捕捉鎖が相補的DNAに優先的にアニールし、初期基質の再アニールおよび蛍光の消失を防ぐ(セクションD)。
【0184】
基質DNA:5’FAMを有する配列番号63;5’FAMおよび3’スペーサー((スペーサー9))を有する配列番号63;配列番号:64(5’FAMを有する)およびスペーサー((スペーサー9))によって分離された65;ならびに3’BHQ1を有する配列番号62。
【0185】
捕捉DNA:配列番号66
【0186】
Hel308Mbu、Hel308Csy、Hel308Tga、Hel308Mma、Hel308Mhu、Hel308Min、Hel308Mig、Hel308Mmaz、Hel308Mac、Hel308Mok、Hel308Mth、Hel308MbaおよびHel308Mzhを含むいくつかの異なるHel308ヘリカーゼ相同体を中央結合能力について調べた。図9中のグラフは、Hel308−調節dsDNA代謝回転の相対速度を、400mM NaCl、10mM Hepes、pH8.0、1mM ATP、1mM MgCl、50nM蛍光基質DNA、1μM捕捉DNA中での3’−未修飾DNAおよび3’−「スペーサー9」DNAと比較して示す。Hel308Csy、Hel308Tga、Hel308Mma、Hel308MhuおよびHel308Minを含むいくつかのHel308相同体は、Hel308−調節dsDNA代謝回転より20%大きな相対速度を有することを観察した。
【実施例5】
【0187】
本実施例は、2つのHel308ヘリカーゼ、Hel308MBuおよびHel308Tgaの使用と、インタクトな長いDNA鎖(900塩基長)のナノポアを通る移動を制御するそれらの能力を比較する。本実施例全体を通じて使用された一般的方法および基質は、図10に示され、図上の記述に記載されている。
【0188】
材料および方法
50−ポリT5’リーダーをPhiX dsDNAの約900塩基断片にライゲーションすることによって、DNAを形成した。リーダーは、DNAが二重層に挿入されるようにするためにCholタグを有する配列番号69がハイブリダイズされた相補性セクションも含有する。最後にACGTの4nt 3’−オーバーハングを得るためにPhiX dsDNAの3’末端をAatII消化酵素で消化した。
【0189】
配列決定:配列番号67−5’リーダーおよびテザーを含む900塩基長センス鎖;配列番号68−アンチセンスマイナス4塩基対リーダー5’;およびいくつかのスペーサーおよび3’末端にChol−タグを有する配列番号69。
【0190】
緩衝溶液:400mM〜2NaCl、10mMフェロシアン化カリウム、10mMフェリシアン化カリウム、100mM Hepes、pH8.0、1mM ATP、1mM MgCl2、
ナノポア:MS−(B1−G75S−G77S−L88N−Q126R)8(ONT Ref B2C)
酵素:Hel308Mbu最終1000nMまたはHel308Tga最終400nM
【0191】
脂質二重層に挿入された単一ポアを達成するために、電気的実験を実施例1に記載のとおり準備した。二重層中での単一ポアを達成した後に、ATP(1mM)およびMgCl(1mM)をチャンバーに加えた。+140mVでの対照記録を2分間実行した。次いでDNAポリヌクレオチド配列番号:67、68および69(DNA=0.15nM)を添加し、DNA事象を観察した。最後にHel308ヘリカーゼ(Mbu 1000nMまたはTga、400nM)を電気生理学的チャンバーのcisコンパートメントにMspAナノポアでのヘリカーゼ−DNA複合体の捕捉を開始するために添加した。実験は、+140mVの一定電位で実行した。
【0192】
結果および考察
図10に示すとおり、ヘリカーゼ−DNA基質のMspAナノポアへの添加は、ヘリカーゼがポアを通るDNAの移行を制御することから特徴的電流遮断を生じる。図11は、Hel308ヘリカーゼ相同体MbuがMspAポアを通るDNA鎖の移行を制御したときに900塩基長の位置がどのように変化したかを示す追跡事象例を示す。このヘリカーゼは、DNA移行の制御を調節することが見いだされたが、ヘリカーゼがDNAから脱離すると、外部から印加された電位によってかかる力のために鎖がポアを通って戻ることが観察された。Hel308ヘリカーゼ相同体Mbuの場合では、900塩基長鎖はヘリカーゼが離れるごとに多くの位置(およそ100〜200塩基)が滑り戻る。位置におけるこれらの急速な変化は、図11に点線円で示されている。この実験に関してHel308ヘリカーゼ相同体Mbuが分子モーターとして用いられた場合は、検出された全事象の32%が900塩基長鎖配列の全長を読み取ったことが見いだされた。図12は、Hel308ヘリカーゼ相同体TgaがMspAポアを通るDNA鎖の移行を制御した場合に900塩基長の位置がどのように変化したかを示す同様の追跡事象例を示す。Tgaヘリカーゼが離れた場合(図12において黒から灰色への色の変化によって示される)にDNA鎖が比較的少ない距離(<50塩基)だけポアを通って戻ることから、この酵素はMbu相同体よりも内部に結合するより大きな傾向を示した。この実験に関して、Hel308ヘリカーゼ相同体Tgaが分子モーターとして用いられた場合は、検出された全事象の74%が900塩基長鎖配列の全長を読み取ったことが見いだされた。これは、内部に結合する傾向の増大のためにMbuヘリカーゼ相同体と比較してTgaヘリカーゼ相同体が1本鎖DNAの読み取り長さの増大を提供できることを意味する。
【実施例6】
【0193】
本実施例は、Hel308ヘリカーゼ相同体Tgaを使用することによってDNAの5kb鎖の移行を制御できることを例示する。
【0194】
実施例5に記載のものと類似の実験手順に従った。Hel308Tgaを使用することによってMS−(B1−G75S−G77S−L88N−Q126R)8を通るDNAの5kb鎖全体の制御された移行を検出できたことを観察した。Hel308Mbuを用いる同一の実験では、5kB鎖全体の移行を検出できなかった。
【実施例7】
【0195】
本実施例は、蛍光に基づくアッセイを用いてHel308Mbuヘリカーゼ(配列番号10)の酵素前進性をHel308Mok(配列番号29)と比較する。
【0196】
通例の蛍光基質をハイブリダイズされたdsDNAを置換するヘリカーゼの能力をアッセイするために用いた(図3)。蛍光基質(最終50nM)は、3’ssDNAオーバーハングならびにハイブリダイズされたdsDNAの80および33塩基対セクション(図13セクションA、配列番号70)を有する。主要な下部「テンプレート」鎖は、80nt「ブロッカー」鎖(配列番号71)にハイブリダイズし、その3’オーバーハングおよび33nt蛍光プローブに隣接し、その5’および3’末端をカルボキシフルオレセイン(FAM)およびブラックホールクエンチャー(BHQ−1)塩基でそれぞれ標識される(配列番号72)。ハイブリダイズされると、FAMはBHQ−1から離れ、基質は基本的に蛍光性である。ATP(1mM)およびMgCl(10mM)の存在下でヘリカーゼ(20nM)は、図13セクションBに示すとおり基質の3’オーバーハング(配列番号70)に結合し、下部鎖に沿って移動し、80ntブロッカー鎖(配列番号71)を置換し始める。前進性である場合、ヘリカーゼは、蛍光プローブ(その5’末端をカルボキシフルオレセイン(FAM)でおよびその3’末端をブラックホールクエンチャー(BHQ−1)で標識された配列番号72)も置換する(図13セクションC)。蛍光プローブは、その5’および3’末端が自己相補的であり、それにより一度置換されると動力学的に安定なヘアピンを形成し、プローブのテンプレート鎖への再アニーリングを防ぐように設計される(図13セクションD)。ヘアピン産物の形成ではFAMはBHQ−1の近傍に運ばれ、その蛍光は消光される。80塩基長「ブロッカー」(配列番号71)および蛍光(その5’末端をカルボキシフルオレセイン(FAM)でおよびその3’末端をブラックホールクエンチャー(BHQ−1)で標識された配列番号72)鎖を置換できる前進性酵素は、したがって経時的な蛍光における減少をもたらす。しかし酵素が80nt未満の前進性を有する場合は、蛍光鎖(その5’末端をカルボキシフルオレセイン(FAM)でおよびその3’末端をブラックホールクエンチャー(BHQ−1)で標識された配列番号72)を置換することができず、それにより「ブロッカー」鎖(配列番号71)は主要な下部鎖(図13セクションE、配列番号70)に再アニールする。
【0197】
追加的な通例の蛍光基質も制御目的で用いた。陰性対照として用いた基質は、図13に記載されたものと同一であったが、3’オーバーハング(図14セクションA、(配列番号71、72(その5’末端をカルボキシフルオレセイン(FAM)でおよびその3’末端をブラックホールクエンチャー(BHQ−1)で標識された)および73))を欠失している。図13に記載されたものと同様だが80塩基対セクションを欠失している基質を活性ヘリカーゼの(しかし前進性である必要はない)陽性対照として用いた(図14セクションB、(配列番号72(その5’末端をカルボキシフルオレセイン(FAM)でおよびその3’末端をブラックホールクエンチャー(BHQ−1)で標識された)、ならびに74))。
【0198】
図15は、緩衝溶液(400mM NaCl、10mM Hepes pH8.0、1mM ATP、10mM MgCl、50nM蛍光基質DNA(配列番号70、71および72(その5’末端をカルボキシフルオレセイン(FAM)でおよびその3’末端をブラックホールクエンチャー(BHQ−1)で標識された)中での図13に示す前進性基質に対するHel308Mbuヘリカーゼ(配列番号10)およびHel308Mokヘリカーゼ(配列番号29)の試験での時間依存性蛍光変化のグラフを示す。Hel308Mokによって示された蛍光の減少は、Hel308Mbu(配列番号10)と比較したこれらの複合体の前進性の増大を示す。図16は、全ての試料に関して蛍光が減少したことから全てのヘリカーゼが実際に活性であったことを実証する陽性対照を示す。
配列番号10、13、16、19、22、25、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54および55(表4)を下に配列比較する。
*の下の数字は配列番号を示す。「−」は、配列比較目的のためだけに示されており、配列の部分を形成しない。

本発明は、以下の態様を包含し得る。
[1]
標的ポリヌクレオチドを特性決定する方法であって、
(a)標的ポリヌクレオチドを膜貫通ポアおよびHel308ヘリカーゼに接触させて、ヘリカーゼがポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御し、標的ポリヌクレオチド中のヌクレオチドがポアと相互作用するようにするステップ;および
(b)1つまたは複数の相互作用の間に標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特性を測定し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するステップ
を含む、方法。
[2]
1つまたは複数の特性が、(i)標的ポリヌクレオチドの長さ、(ii)標的ポリヌクレオチドの同一性、(iii)標的ポリヌクレオチドの配列、(iv)標的ポリヌクレオチドの二次構造および(v)標的ポリヌクレオチドが修飾されているか否か、から選択される、上記[1]に記載の方法。
[3]
標的ポリヌクレオチドがメチル化によって、酸化によって、損傷によって、1つまたは複数のタンパク質でまたは1つまたは複数の標識、タグもしくはスペーサーで修飾されている、上記[2]に記載の方法。
[4]
標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特性が電気的測定および/または光学的測定によって測定される、上記[1]から[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]
電気的測定が電流測定、インピーダンス測定、トンネル測定または電界効果トランジスタ(FET)測定である、上記[4]に記載の方法。
[6]
(a)標的ポリヌクレオチドを膜貫通ポアおよびHel308ヘリカーゼに接触させて、ヘリカーゼがポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御し、標的ポリヌクレオチド中のヌクレオチドがポアと相互作用するようにするステップ;および
(b)1つまたは複数の相互作用の間にポアを通過する電流を測定して、標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特性を測定し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するステップ
を含む、上記[1]に記載の方法。
[7]
ポアに電圧を印加して、ポアとヘリカーゼとの複合体を形成するステップをさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
[8]
ポリヌクレオチドの少なくとも一部が2本鎖である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
[9]
ポアが、膜貫通タンパク質ポアまたはソリッドステートポアである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
[10]
膜貫通タンパク質ポアが、ヘモリジン(hemolysin)、ロイコシジン(leukocidin)、スメグマ菌(Mycobacterium smegmatis)ポリン(porin)A(MspA)、外膜ポリン(porin)F(OmpF)、外膜ポリン(porin)G(OmpG)、外膜ホスホリパーゼA、ナイセリア(Neisseria)オートトランスポーターリポタンパク質(NalP)およびWZAから選択される、上記[9]に記載の方法。
[11]
膜貫通タンパク質が、(a)配列番号2に示す8個の同一のサブユニットから形成されている、または(b)7個のサブユニットの1つもしくは複数が配列全体にわたるアミノ酸同一性に基づいて配列番号2に対して少なくとも50%の相同性を有し、ポア活性を保持しているその変種である、上記[10]に記載の方法。
[12]
膜貫通タンパク質が、(a)配列番号4に示す7個の同一サブユニットから形成されているα−ヘモリジンである、または(b)7個のサブユニットの1つまたは複数が配列全体にわたるアミノ酸同一性に基づいて配列番号4に対して少なくとも50%の相同性を有し、ポア活性を保持しているその変種である、上記[10]に記載の方法。
[13]
Hel308ヘリカーゼが、アミノ酸モチーフQ−X1−X2−G−R−A−G−R(配列番号8)を含む(式中、X1はC、MまたはLであり、X2は任意のアミノ酸残基である)、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
[14]
X2が、A、F、M、C、V、L、I、S、TまたはPである、上記[13]に記載の方法。
[15]
Hel308ヘリカーゼが、表4もしくは5に示すヘリカーゼの内の1つまたはその変種である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
[16]
Hel308ヘリカーゼが、(a)配列番号10、13、16、19、22、25、28、29、32、33、34、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55および58のいずれか1つに示す配列、または(b)配列全体にわたるアミノ酸同一性に基づいて関連配列に対して少なくとも40%の相同性を有し、ヘリカーゼ活性を保持しているその変種を含む、上記[15]に記載の方法。
[17]
Hel308ヘリカーゼが、(a)配列番号10もしくは33に示す配列、または(b)配列全体にわたるアミノ酸同一性に基づいて配列番号10もしくは33に対して少なくとも40%の相同性を有し、ヘリカーゼ活性を保持しているその変種を含む、上記[16]に記載の方法。
[18]
Hel308ヘリカーゼが、アミノ酸同一性に基づいて配列番号10の残基20から211または20から727に対して少なくとも70%の相同性を有する配列を含む、上記[17]に記載の方法。
[19]
Hel308ヘリカーゼが標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合できる、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
[20]
少なくとも0.3Mの塩濃度を用いて実行され、塩が場合によりKClである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
[21]
塩濃度が、少なくとも1.0Mである、上記[20]に記載の方法。
[22]
ポアとHel308ヘリカーゼとの複合体を形成し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのセンサーを形成するステップを含む、標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのセンサーの形成方法。
[23]
複合体が、(a)標的ポリヌクレオチドの存在下でポアとヘリカーゼとを接触させるステップおよび(a)ポアに電位を印加するステップによって形成される、上記[22]に記載の方法。
[24]
電位が、電圧電位または化学電位である、上記[23]に記載の方法。
[25]
複合体が、ポアをヘリカーゼに共有結合的に付着するステップによって形成される、上記[22]に記載の方法。
[26]
ポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御するためのHel308ヘリカーゼの使用。
[27]
(a)ポアおよび(b)Hel308ヘリカーゼを含む、標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのキット。
[28]
複数のポアおよび複数のHel308ヘリカーゼを含む、試料中の標的ポリヌクレオチドを特性決定するための分析装置。
[29]
複数のポアを支持でき、前記ポアおよびヘリカーゼを用いてポリヌクレオチド特性決定を実施するために作動可能であるセンサーデバイス;
特性決定を実施するための材料を保持するための少なくとも1つのリザーバー;
前記少なくとも1つのリザーバーから前記センサーデバイスに材料を制御可能に供給するように構成された流体系;および
各試料を受けるための複数の容器
を含み、前記流体系が前記容器から前記センサーデバイスに前記試料を選択的に供給するように構成されている、上記[28]に記載の分析装置。
[30]
標的ポリヌクレオチドを特性決定する方法であって、
(a)標的ポリヌクレオチドを膜貫通ポアおよび分子モーターに接触させて、標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合できる分子モーターがポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御し、標的ポリヌクレオチド中のヌクレオチドがポアと相互作用するようにするステップ、および
(b)1つまたは複数の相互作用の間に標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特性を測定し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するステップ
を含む方法。
[31]
分子モーターが、ヘリカーゼまたはHel308ヘリカーゼである、上記[30]に記載の方法。
[32]
上記[2]から[21]のいずれか一項に記載のとおりである、上記[30]または[31]に記載の方法。
[33]
標的ポリヌクレオチドが少なくとも5000ヌクレオチドを含む、上記[30]から[32]のいずれか一項に記載の方法。
[34]
分子モーターが、(a)配列番号22、33もしくは52に示す配列、または(b)配列全体にわたるアミノ酸同一性に基づいて配列番号22、33もしくは52に対して少なくとも40%の相同性を有し、ヘリカーゼ活性を保持しているその変種を含む、上記[30]から[33]のいずれか一項に記載の方法。
[35]
ポアと標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合できる分子モーターとの複合体を形成し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのセンサーを形成するステップを含む標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのセンサーの形成方法。
[36]
ポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御するための、標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合できる分子モーターの使用。
[37]
(a)ポアおよび(b)標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合できる分子モーターを含む、標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのキット。
[38]
複数のポアおよび標的ポリヌクレオチドに内部ヌクレオチドで結合できる複数の分子モーターを含む、試料中の標的ポリヌクレオチドを特性決定するための分析装置。
[39]
標的ポリヌクレオチドを特性決定する方法であって、
(a)標的ポリヌクレオチドを膜貫通ポアおよび少なくとも0.3Mの塩濃度に耐性があるヘリカーゼに接触させて、ヘリカーゼがポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御し、標的ポリヌクレオチド中のヌクレオチドがポアと相互作用するようにするステップ、および
(b)1つまたは複数の相互作用の間に標的ポリヌクレオチドの1つまたは複数の特性を測定し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するステップ
を含み、少なくとも0.3Mの塩濃度を用いて実行される方法。
[40]
ポアと少なくとも0.3Mの塩濃度に耐性があるヘリカーゼとの複合体を形成し、それにより標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのセンサーを形成するステップを含む、標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのセンサーの形成方法。
[41]
ポアを通る標的ポリヌクレオチドの移動を制御するための、少なくとも0.3Mの塩濃度に耐性があるヘリカーゼの使用。
[42]
(a)ポアおよび(b)少なくとも0.3Mの塩濃度に耐性があるヘリカーゼを含む、標的ポリヌクレオチドを特性決定するためのキット。
[43]
複数のポアおよび少なくとも0.3Mの塩濃度に耐性がある複数のヘリカーゼを含む、試料中の標的ポリヌクレオチドを特性決定するための分析装置。
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図4c
図4d
図5a
図5b
図6a
図6b
図7a
図7b
図7c
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]