特許第6226887号(P6226887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226887
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】多重デジタルPCR
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20171030BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20171030BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20171030BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   C12Q1/68 A
   C12M1/00 A
   C12N15/00 F
   G01N37/00 101
【請求項の数】18
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-555228(P2014-555228)
(86)(22)【出願日】2013年2月1日
(65)【公表番号】特表2015-506692(P2015-506692A)
(43)【公表日】2015年3月5日
(86)【国際出願番号】EP2013052063
(87)【国際公開番号】WO2013113889
(87)【国際公開日】20130808
【審査請求日】2016年1月13日
(31)【優先権主張番号】102012100824.8
(32)【優先日】2012年2月1日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513196315
【氏名又は名称】アルベルト−ルートヴィヒ−ウニベルシタット フライブルク
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100152319
【弁理士】
【氏名又は名称】曽我 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン,ヨッヘン
(72)【発明者】
【氏名】ロート,ギュンター
【審査官】 星 浩臣
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/077618(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/111265(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/019388(WO,A2)
【文献】 Anal. Bioanal. Chem., 2009, Vol.394, No.2, pp.457-467
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C12N 15/00−15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの標的分子及び/又は生成物分子を検出する方法であって、
a)以下の(i)〜(iii)を準備する工程、
(i)開口キャビティ、該キャビティの周縁部を形成する液体障壁、及び反応溶液を利用する領域含むベース面、
(ii)被覆デバイス、
(iii)前記ベース面のキャビティの規定領域内反応成分、及び/又は前記被覆デバイス上の規定領域内反応成分、
ここで少なくとも2つの規定領域が存在し、各規定領域は、互いに異なる第1及び第2反応成分を含み、
各規定領域内反応成分は前記被覆デバイスに結合している少なくとも1つのプライマーを含む、
b)少なくとも1つの標的分子を含有する反応溶液を、前記反応溶液を利用する領域上に添加する工程、
c)前記被覆デバイスを前記液体障壁内で前記ベース面上に載せることによって前記反応溶液を前記キャビティに分配する工程、
ここで、該反応溶液が前記キャビティに入り込み、各々のキャビティが前記被覆デバイスとともに閉鎖反応空間を形成する、
d)前記閉鎖反応空間内で、前記反応溶液が前記反応成分と接触し、増幅反応、検出反応及び/又は誘導体化反応が起こり、生成物分子が形成る工程、及び、
e)少なくとも1つの標的分子及び/又は生成物分子を検出する工程であって、該標的分子及び/又は生成物分子の少なくとも2つの異なる部分が別個の反応空間で検出され、及び/又は少なくとも2つの異なる標的分子及び/又は生成物分子が別個の反応空間で検出される、工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記被覆デバイスがマイクロアレイであり、前記規定領域が前記マイクロアレイのスポットであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記規定領域が前記ベース面の前記キャビティに位置することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応成分がプライマー及び/又はプローブを含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記被覆デバイスのスポットが前記ベース面の複数のキャビティを覆うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応成分又はその一部が前記ベース面及び/又は前記被覆面に固定化されていることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応成分がマトリックス、又はゲル、又はアガロースゲル中で利用され、前記反応溶液を添加し及び/又は熱を供給した場合に前記反応成分が放出されることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記増幅工程がデジタルPCR及び/又はデジタル固相PCRであることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応溶液が核酸、タンパク質、天然物質、挿入顔料、酵素、添加剤、ウイルス、原核生物、真核生物、合成分子及び/又は生体分子の断片を含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ベース面が2個〜1010個、又は10個〜10個、又は10個〜10個のキャビティを有し、及び/又は該キャビティの容量が1fL〜1mLであることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記液体障壁が化学的及び/又は物理的な障壁であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ベース面が過剰な反応溶液を収容するリザーバを更に有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ベース面が非晶質、結晶性、準結晶性及び/又は繊維状の半導体材料からなることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記被覆デバイスが非晶質、結晶性、準結晶性及び/又は繊維状の半導体材料、又はガラス若しくはポリマーからなることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記生成物分子を続いて分析、シークエンシング及び/又は誘導体化することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法を行う装置であって、
該装置がキャビティ、該キャビティの周縁部を形成する液体障壁、及び反応溶液を利用する領域含むベース面と、
被覆デバイスと、を含み、
前記被覆デバイスがマイクロアレイであり、
前記被覆デバイスが該被覆デバイスに固定化された捕捉分子を含み、
前記ベース面及び前記被覆デバイスが、反応空間が形成されるように互いに対向して配置される、
ことを特徴とする、装置。
【請求項17】
前記液体障壁が化学的及び/又は物理的な障壁であることを特徴とする、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記ベース面が過剰な反応溶液を収容するリザーバを更に有することを特徴とする、請求項16または17に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの標的分子及び/又は生成物分子を検出する方法であって、反応成分をベース面及び/又は被覆デバイスの規定領域内で利用し、異なる反応成分を有する少なくとも2つの規定領域が存在し、増幅反応を行う、方法に関する。本発明は更に上記方法を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術では、生体サンプルの検出、及び適用可能な場合に分析を可能にする分子生物学の多数の調査方法が記載されている。これらの方法の1つは、少量の生体サンプル材料中でマイクロアレイを用いた検出及び数千回の個別検出の並行分析である。種々の形態のマイクロアレイが存在し、これらはコンピューターチップのように非常に小さな空間に大量のデータを含むことができることから、「遺伝子チップ」又は「バイオチップ」と称される場合もある。
【0003】
マイクロアレイは、典型的には平面の基板上での異なる標的分子の高度に並行した検出を可能にする。マイクロアレイの固定化プローブ分子は、作製プロセスの過程で、好適な基板上の格子(アレイ)の規定の位置(スポット)に少量の液体の移動によって固定化又は合成される。この局所分解による捕捉分子の二次元固体化は、核酸又はペプチド、すなわちタンパク質が検出され得るように構造化することができる。概して、in situリソグラフィー法では、短いオリゴヌクレオチド鎖又はアミノ酸鎖の合成しか可能ではない。しかしながら、作製されるDNAマイクロアレイは好適な条件下で数ヶ月間保管することができるが、タンパク質アレイは機能的に短期間しか保管することができない。
【0004】
DNAマイクロアレイ分析については、調査対象のサンプルを好適なバッファーと混合し、典型的には相補配列部分がある場合にハイブリダイゼーション事象が起こるように、適切にマイクロアレイを用いてインキュベートする。マイクロアレイシステムの感度の低さから、核酸を検出する場合にサンプルを先の反応工程において(例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、RT−PCR又は全ゲノム増幅(WGA)を用いて)増幅し、検出用の蛍光マーカーで標識するか、又は例えばマイクロアレイ上で付加的な検出プローブとインキュベートする。ペプチド及びタンパク質は酵素的に増幅することができず、調査対象のサンプルの精製によって濃縮される。対照的に、例えばローリングサークル増幅(RCA)を用いて、ハイブリダイゼーションを行った後にシグナル増幅をマイクロアレイ上で行うアプローチが存在する。この手順の方法は複数の時間のかかる作業工程を伴い、不正確さ及び汚染のリスクを増大させる。発現分析及び病原体又は耐性マーカーの検出においてマイクロアレイが典型的に使用される。様々な生成技法及び適用の概要が従来技術において当業者に知られている。
【0005】
マイクロアレイ分析は複数の作業工程、すなわち典型的には固定化捕捉分子の配列の選択、サンプルの調製及び増幅、ハイブリダイゼーション又はインキュベーション、後続の洗浄工程、並びにシグナル測定及びデータ処理を含む。これまでの従来技術に記載のマイクロアレイは、標的分子と固定化捕捉分子との間の直接的な相互作用の原理に基づくものであり、したがって逸脱した標的分子が検出され次第、修飾捕捉分子を使用しなければならない。このことから修飾アレイの作製が基本的に必要とされ、これが重要な時間及びコスト因子となっている。複雑な作製プロセスのために、より多数の配列レイアウトが経済的理由で作製される。したがって、配列レイアウトの修飾が結果として高いコスト及び多大な処理労力を伴うため、マイクロアレイを用いた作業には検出対象の標的分子に関するフレキシビリティがほとんどない。
【0006】
さらに、汎用マイクロアレイが従来技術で開示されている。固定化捕捉分子の配列が標的配列とは独立した汎用核酸マイクロアレイが市販されている(例えば、Affymetrixの「GeneChip Universal Tag Arrays」)。これらの方法は、固定化オリゴヌクレオチド(ZIPコード又はUniversal Tag)が検出対象の配列とは独立し、この配列に干渉しない汎用マイクロアレイ配列レイアウトに基づく。典型的な検出反応では、標的配列は一般的に別個の反応容器で増幅され、必要に応じて精製される。続いて、標的配列の存在下で、標的配列の塩基配列に特定の検出プローブ及び蛍光プローブが直接隣り合ってハイブリダイズするライゲーション工程が行われる。検出プローブは、アドレス指定配列として機能し、マイクロアレイのZIPコードプローブに相補的な標的配列(相補的ZIPコード、cZIPコード)に特異的でないオーバーハングを有する。ライゲーションの結果として、検出プローブ及び蛍光プローブの生成物が生じ、これをZIPコードマイクロアレイでのハイブリダイゼーションに使用する。特定のZIPコードスポットでの蛍光シグナルは、反応ミックス中の標的配列の存在の間接的な指標である。コード化されたマイクロビーズ(ビーズ)を固相として使用してもよい。これに関連して、明らかに識別可能なビーズを各々の捕捉分子に割り当てるが、これは規定のヌクレオチド配列、又は着色若しくは強度を用いて達成される。この割当ての結果として、後の作業工程でビーズの自動検出及び並行分析を行うことができる。この方法は、ビーズが液相中に均質化形態で存在し、得られる反応動態が同等な液相/固相相互作用の場合よりも高いという利点を有する。
【0007】
さらに、PCRが従来技術で記載されている。PCRは、存在するDNA(サンプル断片)の増幅産物を生じることができる、好ましくは温度制御された酵素反応である。増幅は基本的に酵素、エネルギー及びdNTP(デオキシリボヌクレオシド三リン酸)を使用して行われる。dNTPは、増幅中のDNA鎖の合成に必要とされる分子モノマー、すなわちdATP(デオキシアデノシン三リン酸)、dGTP(デオキシグアノシン三リン酸)、dTTP(デオキシチミジン三リン酸)、dCTP(デオキシシチジン三リン酸)である。RNAが増幅のサンプル断片として存在する場合、RNAポリメラーゼがDNAポリメラーゼの代わりに使用され、dUTP(デオキシウリジン三リン酸)がdTTPの代わりに使用される。
【0008】
PCRの一形態がデジタルPCR(dPCR)である。デジタル性を達成する可能性は、反応容量(又はリアクター若しくはマイクロリアクター)中に存在するDNA分子がなし(=0)又は1つ(=1)となり、多数のPCR反応を行うことができるようにサンプルを希釈することである。酵素的PCR増幅及び増幅産物の定量化によって、反応容量が陰性(=0)であるか又は陽性(=1)であるかを決定することが可能である。少なくとも単一のDNA分子が反応空間に存在していた場合にのみ、反応空間で増幅産物が生成する。陽性シグナルをカウントすることによって、増幅対象のサンプルを定量化することができる。さらに、dPCRが固相PCRと関連する場合、増幅産物を(例えばプライマー伸長反応によって)固相に結合することもできる。
【0009】
文献では、基本的にデジタルPCRを行う2つの異なるシステムが記載されている。第1のシステムは、液滴ベースのシステムである、いわゆる油/エマルションPCR(emPCR)を含む。これに関連して、個々のDNA分子を含有する無数の液滴がPCR反応空間を形成し、液滴が油マトリックス中にマイクロ流体で生成する。PCR反応後に、液滴における陽性シグナルの定量化によって標的分子を決定することができる。emPCRバッチを2つ以上のゲノムセグメントの検出に使用するため、言い換えればemPCRの多重化を可能にするために、増幅DNAをシークエンシングするか(費用及び時間がかかる)、又はTaqmanプローブミックスを用いて配列を区別する。しかしながら、この方法は現在5つ未満の標的分子に制限されている。油ベースの増幅方法では多数の可能な反応が達成されるが、emPCRシステムには増幅効率が不十分であり、実行が複雑であるという欠点がある。例えば、多数の、とりわけ時間のかかる方法工程及び高価な設備が必要とされる。emPCRの更なる固有の欠点は、液滴の作製に非常に時間がかかり、液滴が融合し、間違った結果につながる可能性があるということである。
【0010】
デジタルPCRを行う従来技術の第2のシステムは、チップに実装され、閉鎖構造を特徴とする、いわゆるPCRマイクロリアクターを含む。マイクロリアクターは機械的に又は第2の液相(例えば油)を用いて密閉される。対照的に、開放システムでは膜、シリコーン層、鉱油又はSlipChipシステムを用いて閉鎖されたマイクロリアクターが使用される。オンチップデジタルPCRシステムの重大な欠点は、1つのチップ及びサンプル当たり1つの標的配列しかシステムで分析することができないということである。
【0011】
従来技術に開示されるシステムの更なる欠点は、その構造のために多重化の可能性がほとんどなく、更には特別な実験装置に依存することである。別の欠点は、従来技術では一般的に特別なデバイスが処理に必要とされることである。主な欠点は、僅かな標的配列(「標的」)の検出しか可能でないことである。システムに応じて、検出可能な標的配列の数は1個又は最大で144個の標的(Applied Bioscience)に限られる。
【0012】
さらに、従来技術のシステムは、異なる標的配列に対するシステムの修飾に更なる労力を伴うという点で柔軟性がなく、複雑である。現在、評価可能な結果を得るには、デジタルPCRの前にサンプル溶液を定量化することが依然として必要である。
【0013】
従来技術の大抵のシステムでは、リアクター又はリアクター空間は均一な大きさを有するため、キャビティ1つ当たり1つ未満のDNA配列の反応レジームを正確に達成するには、濃度を初めに決定しなければならない。過度に高いDNA濃度では陽性キャビティしか生じず、飽和する。過度に低いDNA濃度では僅かな個別シグナルしか生じず、統計が非常に悪くなる。
【0014】
従来技術では、センサーアレイを用いてDNA分子を検出する方法及び装置が特許文献1に更に開示されている。このアレイは、バイオセンサーが個別位置に固定化された構造化マルチウェルアレイである。しかしながら、増幅反応は起こらない。
【0015】
反応のリアルタイム検出には、はるかに複雑かつ高価な設備が必要とされ、これは付加的な欠点である。現在のシステムの構成要素は或る程度複雑であり、作製コストが高い。多くの場合、使い捨て用品は利用可能でない。
【0016】
個々の反応コンパートメントの作製に油を使用する従来技術のシステムは、個々の液滴が反応中に互いに融合する可能性があり、反応全体の情報価値が失われることから、そのようにして作製される反応コンパートメントの不安定さという欠点を有する。複数の標的配列の同定を可能にするために、従来技術の多くのシステムでシークエンシングが行われる。これには費用がかかり、非常に時間がかかる。
【0017】
さらに、多くのシステムで反応効率が悪く、又は複雑な反応管理を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第6,482,593号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、従来技術の欠点又は欠陥を示さない方法及び装置を利用可能とすることが本発明の課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的は独立請求項によって達成される。有利な実施の形態は従属請求項から明らかである。
【0021】
第1の好ましい実施の形態では、本発明は、少なくとも1つの標的分子及び/又は生成物分子を検出する方法であって、
a)装置を利用する工程であって、
(i)上記装置がキャビティを有するベース面と、
(ii)被覆デバイスと、を含み、ここで、
(iii)上記ベース面及び/又は上記被覆デバイス上の規定領域内で、反応成分が利用され、異なる反応成分を有する少なくとも2つの規定領域が存在する、工程と、
b)上記ベース面及び被覆デバイスを互いに対向して配置する工程と、
c)反応溶液を上記ベース面に添加する工程であって、該反応溶液が上記キャビティに入り込み、該反応溶液が上記標的分子を含有する、工程と、
d)増幅反応、検出反応及び/又は誘導体化反応を行う工程であって、上記反応溶液が上記反応成分と接触し、生成物分子が形成される、工程と、
e)少なくとも1つの標的分子及び/又は生成物分子を検出する工程であって、該標的分子及び/又は生成物分子の少なくとも2つの異なる部分が別個の規定領域で検出され、及び/又は少なくとも2つの異なる標的分子及び/又は生成物分子が別個の規定領域で検出される、工程と、
を含む、方法に関する。
【0022】
被覆デバイス及びベース面を互いに対向して配置すると、それらは複数の反応空間を形成する。反応空間は好ましくは一部がキャビティによって形成される。これに関連して、反応空間が互いに分離され、混合が起こらないことが好ましい。得られる反応空間が閉鎖され、各々のキャビティが反応空間を形成することが好ましい。
【0023】
被覆デバイスがマイクロアレイであり、規定領域がマイクロアレイのスポットであることが特に好ましい。本発明におけるマイクロアレイは、好ましくは基板材料上のスポットの規則的配置を特徴とする。スポットの直径が0.1μm〜10cmであるのが好ましい。スポットの形状は好ましくは正方形、長方形、円形、楕円形、三角形、六角形、八角形又は多角形であり得る。しかしながら、本明細書で明示的に言及されない任意の他の形が或る特定の条件下で望ましく、有利である場合がある。スポットが被覆デバイスのノッチであってもよく、スポットは深さ又は他の特徴の点で異なり得る。さらに、スポットは互いに対して規則的又は不規則な種々の配置で配置され得る。マイクロアレイを被覆デバイスとして使用する場合、反応成分がマイクロアレイ、特に好ましくはマイクロアレイのスポットで利用され、非常に特に好ましくはそこに供給されることが好ましい。
【0024】
しかしながら、本発明は、反応成分がベース面のキャビティで利用される、好ましくは供給される方法にも関する。このような場合には、単純な基板をマイクロアレイの代わりに被覆デバイスとして使用することができる。
【0025】
これに関連して、反応成分は種々の構成要素及び機能を有してもよく、それにより例えばPCRを用いて、1つの装置(ベース面又は被覆デバイス)で標的分子の種々の領域を分析することが可能である。したがって、種々の反応を1つの装置で行うことができるため、作業労力及びコストが顕著に低減し、例えば診断の実用的手段が更にもたらされる。
【0026】
規定領域がベース面のキャビティに位置するのが更に好ましい。ベース面のキャビティの形状は好ましくは正方形、長方形、円形、楕円形、三角形、六角形、八角形又は多角形であり得る。しかしながら、本明細書で明示的に言及されない任意の他の形が或る特定の条件下で望ましく、有利である場合がある。キャビティが深さ又は他の特徴の点で異なっていてもよい。さらに、キャビティは互いに対して規則的又は不規則な種々の配置で配置され得る。本発明におけるベース面はチップと称される場合もあり、キャビティはリアクターと称される場合もある。本発明におけるキャビティは好ましくは個々のコンパートメントである。このため、標的分子が存在する場合に別個の検出反応、例えばPCRを全てのキャビティで行うことができる。
【0027】
上記ベース面が1個〜1010個、好ましくは10個〜10個、特に好ましくは10個〜10個のキャビティを有し、及び/又は該キャビティの容量が1fL〜1mLであることが更に好ましい。
【0028】
ベース面がベース面のキャビティの周縁部を形成する液体障壁を有するのが更に好ましい。本発明における液体障壁は特に、導入された反応溶液がベース面の縁を越えて出ないようにする、その溶液の障壁を指す。障壁は有利には物理的及び/又は化学的な障壁であり得る。これに関連して、障壁は好ましくはベース面を取り囲み、環境に対する境界となる疎水性の領域又はフレームであり得る。被覆デバイスは、装置内に閉鎖反応空間を生じるために障壁の内部領域の上又は中に位置し得る。したがって、被覆デバイスは好ましくはキャビティの少なくとも一部の上に位置する。障壁は反応溶液のみがキャビティ内に入ることを確実にする働きをする。このようにして反応溶液が目的の領域に入り込むことができることから、本発明において、障壁は特に液体ガイドレールと称される場合もある。
【0029】
キャビティを充填し、被覆デバイスで閉鎖した後、障壁が被覆デバイスを囲み、したがって被覆デバイスが隆起フレームで取り囲まれることが好ましい。この実施の形態によって、特に十分に密閉された装置が利用される。各々のキャビティが被覆デバイスとともに閉鎖反応空間を形成するのが更に好ましい。
【0030】
反応成分が被覆デバイス及び/又はベース面上の全面積にわたって又は或る特定の領域に存在するのが好ましい。或る特定の領域で利用可能な場合、1つのスポット又はキャビティ当たり1つ、2つ又はそれ以上の異なる反応成分が供給される。
【0031】
反応成分は好ましくはプライマー、プローブ、挿入顔料、ポリメラーゼ、更なる酵素及び/又は反応改善成分を含む。これに関連して、反応成分がベース面のキャビティ及び/又は被覆デバイスのスポットに供給されるのが特に好ましい。これらの反応成分は、スポッティング法(例えばTopSpotシステム)を用いてベース面及び/又は被覆デバイスの空間的に区切られた領域に導入することができる。
【0032】
反応改善成分は好ましくは「ウシ血清アルブミン」(BSA)、アガロース、Tween、超音波処理した核酸及び/又はUNG消化系を含む。
【0033】
プライマーの長さは、通常は個々の分子が1個〜10個という長さである。本発明におけるプライマーは好ましくは標的分子、好ましくはDNA分子の結合位置を有する。プライマーは、1つ又は複数の末端に表面への配向結合のための化学カップリング基を含有していてもよい。この基は、とりわけビオチン、ダブルビオチン、NH2、SH、acrydite又はポリヌクレオチド配列であり得る。さらに、プライマーはストレプトアビジン、Hisタグ、ニッケルNTA、myc又はflagタグ等の通常のタグ又はバインダーであり得る。プライマーは検出特異的配列に加えて標識配列を更に含有し得る。これらの標識配列はDNA、フルオロフォアだけでなく、他の分子であってもよい。
【0034】
プライマーは液相プライマー又は固相プライマーであり得る。プライマーが固相プライマーである場合、プライマーは直接又は間接的に固定化することができる。核酸を直接固体化する方法は、好ましくはヒドロゲル、UV架橋、アクリルアミドゲルでの共重合、親和性結合(アビジン−ストレプトアビジン)、イオン結合又は吸収結合であり得る。間接的に固体化する方法ではリンカー分子、例えばホモ二官能性又はヘテロ二官能性リンカー分子を使用する。ホモ二官能性リンカーは例えばPCITCであり得る。概して、得られるプライマーの固相への結合は、その後に行われ得る増幅反応及び誘導体化に適合する。
【0035】
さらに、スペーサー分子がカップリング基と核酸配列との間に存在していてもよい。スペーサーは、とりわけ炭素鎖又はポリヌクレオチド配列(ポリT配列)からなり得る。
【0036】
プライマーは、RNAポリメラーゼ又は無細胞発現系のプロモーター位置及び/又は結合位置を更に有し得る。
【0037】
さらに、プライマーの一方のみが表面に結合し、他方が可溶型で存在していてもよく(通常の固相PCR)、又は両方のプライマーが表面に結合していてもよい(ブリッジ増幅に相当)。しかしながら、これらの方法は空間的に制限されるという点で従来技術とは異なる。ブリッジ増幅はキャビティの内部領域のみで行われ、空間的分離のためにキャビティを離れることはないが、キャビティの周囲の全表面がブリッジ増幅を行ってもよい。
【0038】
好ましくは、反応成分又はその一部はベース面及び/又は被覆面に固定化される。反応成分又はその一部が表面及び/又は被覆デバイスに共有結合するのが特に好ましい。プライマーがベース面及び/又は被覆デバイスに固定化される場合、ブリッジ増幅を行うことが更に可能である。この場合、この反応は固相プライマーのみを用いて行われ、好ましくは、液相プライマーはシステム内に存在しない。
【0039】
したがって、この方法は好ましくは固相PCR(SP−PCRとも呼ばれる)でもある。これは、2つのプライマーの一方が固相(例えば被覆デバイス)に固定化されるPCR反応である。PCRに従って生成するPCR生成物は、この固相プライマーによって固相に結合する。
【0040】
本発明におけるベース面はリアクターチップと称される場合もある。かかるリアクターチップは好ましくは使い捨て用品として販売される「簡便製品(convenient product)」であるのが好ましい。
【0041】
被覆デバイス及びベース面を互いに対向して配置した後に被覆デバイスのスポットがベース面の複数のキャビティを覆うのが更に好ましい。これにより、複数のキャビティの生成物分子及び/又は標的分子を1つのスポットで分析することができる。
【0042】
この方法はデジタル方法であるのが特に好ましい。本発明において、デジタル性とは、好ましくは概して規定領域に入る標的分子が1つであるか又はないことを意味する。しかしながら、本発明におけるデジタル性は、異なる標的分子が検出される場合、概して1種類の標的分子のみが規定領域中に存在し、1種類の標的分子につき標的分子よりも多くの規定領域が存在することも意味する。本発明におけるデジタル性は更に好ましくは、標的分子の複数の部分を検出すべき場合、概して標的分子の一部分のみが規定領域で検出されることも意味する。したがってこの場合、標的分子の数は必ずしも規定領域の数より少ない訳ではないが、同じ反応成分が各々の規定領域に供給されないことから、供給される反応成分がデジタル性をもたらす。
【0043】
これに関連して、デジタル方法を行う方法は、とりわけキャビティ及び/又はスポットの形状、又は更にはキャビティ及び/又はスポットの数によって影響を受ける可能性がある。
【0044】
本発明は、被覆デバイスの全スポット又はベース面の全キャビティでデジタルPCRを行うことが可能となるように、DNAマイクロアレイ技術とデジタル反応、好ましくはデジタルPCR反応とを組み合わせたものである。これにより、2つ以上の標的分子又は標的分子の複数の部分の検出が可能となる。デジタルPCRの利点を維持しながらマイクロアレイに対応するこの多重化により、この方法を本発明において、特に好ましくは診断に使用することができる。本発明における多重化は、特に結果をもたらす多数の個々の反応の分析を指す。
【0045】
上記増幅工程がデジタルPCR及び/又はデジタル固相PCRであることが特に好ましい。
【0046】
この方法を用いてデジタルPCR(dPCR)を行うのが特に好ましい。これに関連して、ベース面に本発明における反応溶液中にも含まれ得るサンプルを充填し、被覆デバイスで閉鎖する。続いてデジタルPCRを行う。使用後、ベース面を廃棄することができる。
【0047】
本発明におけるデジタルPCRは、デジタル性を種々の方法で達成することができる反応を意味する。一例を挙げると、規定領域(キャビティ又はスポット)の数を規定領域全体に分配される標的分子の数よりも多くすることが可能である。種々の標的分子を検出する場合、規定領域(キャビティ又はスポット)の数をそれぞれの種類の標的分子の数よりも多くすることでデジタル性を達成することもできる。しかしながら、反応成分が供給され、(例えば、特定の標的分子又は標的分子の特定のセグメントについて)1種類のプライマーが、いずれの場合にも例えば規定領域(キャビティ又はスポット)の数よりも少ない数で存在することも好ましい。
【0048】
かかる強力(omnipotent)かつ柔軟な検出システムを、確立されたDNAマイクロアレイと、デジタルPCR用のキャビティを含有するベース面との組合せを用いて作製することができることは実に驚くべきことであった。技術的観点から考えると、デジタルPCRの独自の可能性が選択的にマイクロアレイの多重化特性と結び付けられる。上記組合せにより、このシステムは従来技術から既知のシステムをはるかに凌ぐ顕著な特徴を有する。
【0049】
本発明の装置及び方法について高濃度の標的分子を含む反応溶液であっても何ら制限されず、デジタルPCRを行うこともできることは非常に驚くべきことであった。標的分子、好ましくはDNA標的分子が大幅に希釈された形態で存在する場合であっても、驚くべきことに、大量に分析することでデジタルPCRを行うことができる。統計的方法(特にMPN/最確数法)を用いると、大容量の装置から評価され得るデータを抽出することが更に可能である。この方法は、好ましくは結果が0及び1だけでなく、「より多くの」DNAを含む場合にも用いられる。この目的で、この方法により希釈系列の正の結果を決定し、容量当たりの初期DNA濃度の最確数をそれから算出する。このようにして、統計的妥当性が極めて改善し得る。好ましい実施の形態では、デジタル方法はMPN法の下位概念である。キャビティの容量を分析対象のサンプル中のDNA量と容易に適合させることができることから、任意の考え得るDNAサンプル又は濃度の分析が可能である。したがって、従来技術に記載の方法の重大な欠点、すなわち全てのPCR法がDNA濃度によって制限されるという欠点を排除することができる。この欠点は、好ましくはキャビティでの希釈工程によって回避することができる。
【0050】
ベース面がマイクロアレイとなるように、反応成分がベース面のキャビティ内に供給されることが好ましい場合もある。この場合、反応成分(例えばプライマー及び/又はプローブ)が被覆デバイスの全面積にわたって適用されることも可能である。
【0051】
したがって、本発明は好ましくは組み合わせ発明である。これは、好ましくはPCR及びマイクロアレイの既知の要素を互いに組み合わせるためである。これによりもたらされる驚くべき効果は例えば、本発明を用いて初めて単純かつコスト的に有利な形で可能となる、行なわれる方法の正確さ及び高度の多重化である。
【0052】
本発明における標的分子の検出は種々の方法で行うことができる。例えばPCR反応の増幅産物を検出する種々の方法が当業者には知られている。一例を挙げると、反応を被覆デバイス又はベース面の表面上で行うことができる。しかしながら、被覆デバイスとベース面との間の閉鎖領域によって形成される容量で反応を行うことも可能である。また、3つ全ての機構を互いに組み合わせてもよい。
【0053】
被覆デバイス又はベース面の表面上での検出については、表面に結合したPCR生成物を例えば挿入顔料によって検出することができる。検出をストレプトアビジン結合フルオロフォアのカップリング又はハイブリダイゼーション反応によって行うことも可能である。さらに、デジタルPCRでは、シグナルを表面上で生成することができる。これは例えば、RCA(ローリングサークル増幅)、蛍光PCR生成物の相補的な固相プライマーへのハイブリダイゼーション、又は特別な検出アッセイを用いて行うことができる。これら全ての方法を、増幅反応後のエンドポイント測定として行うことができる。しかしながら、リアルタイム測定を表面感受性方法、例えば共焦点レーザー顕微鏡検査、ATR測定、Biacore等を用いて反応中に既に行ってもよい。これには或る特定の反応について、依然として反応に影響を与えることができるという点で利点がある。反応生成物の検出を行うことができる方法が当業者には知られており、これに関連するいかなる発明的活動も行う必要なしに、当業者は標的分子又は生成物分子に応じて好適な方法を選択することが可能である。
【0054】
例えば、検出は、増幅反応中の挿入顔料(例えばSybr Green又はエチジウムブロマイド)又はフルオロフォアで標識したプライマーを用いた任意の特異的な検出反応なしに、増幅反応の直後に行うことができる。この目的で、ベース面及び/又は被覆デバイスを洗浄することができるように、洗浄工程及び分解が続いて必要とされる。
【0055】
検出を表面上で行わない場合、挿入顔料又は好適なプローブ系を用いて増幅反応中にリアルタイムで行うことができる。この目的で、従来のリアルタイムPCRの全ての方法が、直接挿入顔料(エチジウムブロマイド、Sybr Green)、Taqman又はhigh−probeプローブ等のように可能である。このため、蛍光の増大を反応中に既に測定することができる。しかしながら、生成した増幅産物を最終生成物として測定してもよい。上述の方法をここで用いてもよい。どちらの場合も、蛍光シグナルをそれぞれのキャビティ又はスポットで検出することができる。
【0056】
Taqman PCRで可能であるように、着色多重化に基づいて、ここでは最大10個の異なる標的分子又は標的分子セグメントを規定領域内で並行して増幅することも可能である。したがって、この場合、デジタル増幅反応を種々の色で行うことにより、システムの占有密度を使用する色の数に従って増大することが可能である。色の1つを、増幅反応が起こったか否か及び増幅シグナルの強さについての情報をもたらす参照として更に使用することができる。
【0057】
したがって、内部較正と同時に正の制御が可能であり、弱いシグナルであってもそれ自体を認識し、強いシグナルをアーチファクト又は真の測定値として評価することが可能である。
【0058】
反応溶液は標的分子を含有する。上記反応溶液が核酸、タンパク質、天然物質、挿入顔料、酵素、添加剤、ウイルス、原核生物、真核生物、合成分子及び/又は生体分子の断片を含むことが更に好ましい。
【0059】
反応溶液は反応成分とともに、好ましくは標的分子、特にDNAサンプル断片の増幅産物の産生を可能にする全ての分子を含有する。反応溶液及び反応成分の組成により、どの標的分子又は標的分子のどの部分がどのように増幅されるかが明らかに確立される。反応溶液は、好ましくは増幅産物の合成、エネルギー系及び/又は合成系のための個々の構成要素を含む。好ましくは、DNAポリメラーゼ、特にPfu又はTaqポリメラーゼがdNTP、又はdATP、dCTP、dGTP、dTTP及びdUTPのミックス、特にUNG消化系とともに含まれる。さらに、反応改善成分が好ましくは反応溶液中に存在し得る。これらは好ましくは「ウシ血清アルブミン」(BSA)、アガロース、Tween、超音波処理した核酸及び/又はUNG消化系である。反応溶液がRNAポリメラーゼを含有するのが好ましい場合もある。これは特に標的分子を入れた市販のPCR増幅ミックスであってもよい。
【0060】
標的分子はDNA分子、cDNA分子又はRNA分子等のポリ核酸だけでなく、タンパク質、抗体、合成有機分子又は天然物質であってもよい。標的分子がポリ核酸ではない場合、これらを直接又はDNA若しくはRNAの組み込み標識を用いて間接的に増幅及び/又は誘導体化することができる。最も一般的な場合では、標的分子はDNAである。DNA分子はとりわけウイルス、原核生物及び/又は真核生物から得ても、及び/又は合成のものであってもよい。標的分子の長さは、個々のモノマーが1個〜1010個という長さであり得る。かかる標的分子は種々の方法に従って個々の断片に分けてもよい。断片は更に一本鎖又は二本鎖であり得る。本発明において、標的分子はサンプル又は標的と称される場合もある。
【0061】
標的分子がDNA又はRNAではない場合、標的分子がDNA又はRNAの組み込み標識を有するのが好ましい。その場合、この標識は記載の方法によって検出することができる。
【0062】
標的分子が少なくとも1つの末端に一様な配列を有するアダプターを有するのが好ましい。アダプターの好ましい長さは、個々の分子が1個〜1000個という長さである。アダプターは種々の機能単位を有し得る。アダプターは好ましくは一様かつ明らかな配列の形態で標的分子の最初及び最後に存在する。アダプターは増幅される標的分子のこれらの領域を規定する。アダプターは特にPCRのプライマーとして機能する。標的分子全体の全てのサブユニット又は特定のサブユニットのみがアダプターによって増幅され得る。さらに、アダプターは好ましくは特にRNAポリメラーゼ又は無細胞発現系の結合位置であり得る複数の異なる機能単位を並んで有し得る。アダプター配列は例えば一般的なシークエンシング系(とりわけApplied Biosystems/Life Technologies、IonTorrent/Life Technology、Roche、Illumina、GeorgeChurch/Dover Systems)に由来することができ、これに関連して配列が同一であるか、又は更なる配列若しくは修飾を含有し得る。このようにして、アダプター配列はシークエンシング可能な表面を生じることができる。増幅標的分子が捕捉分子に結合している場合に、表面はシークエンシング可能である。増幅産物を続いて更なる研究に利用可能である。
【0063】
分析対象のサンプルを特にベース面に導入する前に希釈するのが好ましい。サンプル溶液をベース面に導入することによって、サンプルを多くのキャビティ間で分配する。これは当業者に「アリコーティング」としても知られている。
【0064】
本発明における生成物分子は、好ましくは本発明による方法において標的分子の増幅及び/又は誘導体化によって形成される分子である。このようにして、標的分子の存在を生成物分子の検出によって検出することもできる。
【0065】
1個〜1010個の生成物分子、好ましくは増幅産物を生成するのが好ましい。
【0066】
反応溶液は、ベース面のキャビティにとりわけ遠心分離、真空、噴霧化、浸漬、ディップコーティング又は塗布によって導入することができる。反応溶液に導入される標的分子の数に応じて、1個〜1010個の標的分子を装置に導入する。さらに、各々のキャビティが1個〜10個の標的分子を含有するのが好ましい。
【0067】
反応溶液が反応成分を含有することも可能である。代替的には、反応成分を装置、被覆デバイス及び/又はベース面に供給することができる。この供給(provisioning)は多くの異なる方法で行うことができる。
【0068】
これに関連して、上記反応成分がマトリックス、好ましくはゲル、特に好ましくはアガロースゲル中で利用され、上記反応溶液を添加し及び/又は熱を供給した場合に上記反応成分が放出されることが特に好ましい。
【0069】
加熱した場合にのみ溶解するゲル又はゲル様マトリックスによる供給が、特に非常に有利である。このため、標的分子を含む反応溶液を、初めにプライマー又は検出プローブを排除することなく充填することができる。この目的で、低融点アガロースの使用が特に好ましい。いずれの場合にもPCRのために加熱を行う必要があるため、増幅工程の初めに加熱によって反応成分を放出させる。さらに、ポリメラーゼ並びに検出及び/又は増幅用の全ての化学物質をこのマトリックスに供給することもできる。この場合、必要な試薬の全てを反応成分として供給するため、反応溶液は標的分子以外の任意の更なる試薬を含有する必要はない。しかしながら、試薬の一部、例えばプライマー又はプローブのみが反応成分として供給され、他の試薬が標的分子とともに反応溶液に含まれ、続いて装置に適用されることも可能である。
【0070】
充填したベース面のキャビティは、好ましくは被覆デバイスを適用することによって区画化又は互いに単離される。結果として、所望の反応が可能となり、望ましくない反応又は阻害が防がれる。
【0071】
さらに、キャビティは多層複合材又はトラックエッチ膜からなるものであってもよい。ベース面は基本単位が光ファイバーである多繊維アレイであり得る。表面は、好適なプロセス管理によって互いに分離してコンパートメントを形成することができる個々の領域、例えば先端で増幅が行われる小カラムを含有する三次元微細構造であり得る。材料は好ましくは、阻害又は汚染が起こらないようにPCR反応及び/又は他のDNA/RNA増幅法に適合する。材料は大量生産に適合する方法で作製することができるのが好ましい。
【0072】
ベース面が非晶質、結晶性、準結晶性及び/又は繊維状の半導体材料から作製されるのが好ましい。そのようにして安定したベース面をコスト的に有利な方法で作製することができるため、これらの材料は有利であることが判明している。好ましくは、ベース面のキャビティはエッチング法、とりわけ例えばドライエッチング/反応性方法(DRIE、Boschプロセス、ICPを含む)、湿式化学法(塩基、酸、HFを含む)又は物理的方法(ドリリング、スパッタリング、イオンエッチング、又は射出成形及び「熱エンボス加工」等の成形プロセス、LIGA法、微細精密削り(micro-precision milling)を含む)によって実現することができる。ベース面及び/又は被覆デバイスは、好ましくは生体分子(DNA、RNA、タンパク質)、金属、金属酸化物又はプラスチックによる任意の所望のコーティングを含有し得るのが好ましい。
【0073】
被覆デバイスはDNAマイクロアレイ又は単純な基板であり得る。被覆デバイスが非晶質、結晶性、準結晶性及び/又は繊維状の半導体材料、特に好ましくはガラス、ポリマー、PDMS、PP、COC又はCOPからなるのが更に好ましい。さらに、被覆デバイスは2つの材料の複合体であってもよい。基板は接着フィルム、好ましくはPCRに使用することができるマイクロタイタープレート用の接着フィルムであってもよい。さらに、基板を更なる材料(例えばPDMS)でコーティングすることができる。これに関連して、材料がPCR反応に適合し、いかなる阻害又は汚染も引き起こさないよう注意すべきである。
【0074】
DNAマイクロアレイが好ましくはスポットの形態で存在する試薬、好ましくはDNA配列を含むことが当業者には知られている。DNAマイクロアレイが被覆デバイス上又はキャビティ内に存在することが好ましい場合があり、PCRに必要とされる更なる成分が同様に被覆デバイス上又はキャビティ内にスポット又は表面の形態で導入されることが好ましい場合もある。
【0075】
DNAマイクロアレイは、特に、特定の遺伝子のmRNA量又は特定の生物のrRNAを検出する働きをする。一方でmRNAに対応するcDNA、オリゴヌクレオチド又はPCR生成物の断片が担体材料にインプリントされるDNAマイクロアレイ(「スポットマイクロアレイ」)、及び合成的に作製されたオリゴヌクレオチドをベースとするDNAマイクロアレイ(「オリゴヌクレオチドマイクロアレイ」)という本質的に2つの異なるタイプのDNAマイクロアレイが存在する。これらは、例えばガラス媒体上の格子の規定の位置に適用されるプローブとして働く。
【0076】
反応成分は任意に被覆デバイスに適用してもよく、又はベース面上、好ましくはキャビティ内に既に直接スポットされていてもよい。したがって、この特定の反応成分の事前保管により、DNAアレイを被覆デバイス又はベース面自体を用いて実現することができる。
【0077】
プローブ、特に好ましくは種々のプローブがベース面のキャビティ内に反応成分として供給されるのが好ましい。同時に、1種類のプライマーが被覆デバイスに供給される。この場合、ベース面の異なる規定領域により多重化が可能である。
【0078】
標的分子は、ベース面及び/又は被覆デバイスの表面に結合することができる。標的分子を大まかにアレイの形態で局在させて利用することも可能である。
【0079】
ベース面自体がDNAマイクロアレイと同様の特性、言い換えれば上に挙げた特性を有し得る。本発明による好ましい方法については、ベース面は、反応の活性成分を全く含有しないマイクロアレイ又は基板(例えば、マイクロアレイフォーマットの単純なポリマーチップ)によって被覆デバイスで閉鎖される。
【0080】
マイクロアレイを被覆デバイスとして使用する場合、任意の通常の方法を用いて作製することができる。これらの方法は、好ましくはAffymetrix社、Agilent社、LC Sciences社、Combimatrix社、Nimlgen社、Febit社、Biofluidix社による方法である。プライマーを(例えばBiomer、IBA、IDTから)合成した後、種々のスポッティング法(ドットマトリックスプリンター、ピンプリンター、TopSpot(商標)システム)を用いてマイクロアレイの基板に適用するのが更に好ましい。
【0081】
ベース面が反応溶液を利用する領域を更に有するのが更に好ましい。これに関連して、反応溶液を利用する領域に反応溶液を適用し、被覆デバイスをキャビティ上に置くことによって反応溶液をキャビティ間で分配することが好ましい。この目的でエネルギー又は更なる作業工程を費やす必要なしに、キャビティの充填が本発明によるベース面の設計を用いて達成されることは完全に驚くべきことであった。好ましくは、標的分子を含有する反応溶液を、反応溶液の調整を目的とするベース面の特定の領域の中又は上に適用する。続いて、被覆デバイスの一端をこの領域上に設置し、折り重ねるか又は押しつけてベース面上に配置し、被覆デバイスを液体障壁内に配置することができる。さらに、被覆デバイスを初めに垂直に押し付けるか又は傾斜して押し付け、次いで折り重ねて蓋のように閉めるか、又はベース面上を水平に押し引きしてもよい(スリッピング)。折重ねの場合には、反応溶液をチップから移動させ、それにより全てのキャビティを充填することができる。押付けの場合には、反応溶液を先端で押し進めることにより、それが完全に使い果たされるまでベース面を充填する。
【0082】
ベース面を、死容量なく又は僅かな死容量で反応溶液を充填することができるように構造化する。これは、とりわけベース面の縁の障壁を用いて、自己充填を可能にするキャビティの形状によって実現する。Concus−Finn条件が好ましくは満たされる。
【0083】
ベース面が過剰な反応溶液を調整するリザーバを更に有するのが更に好ましい。この実施の形態によって、清浄作業が可能となり、作業域における全体的な汚染リスクが低減する。
【0084】
ベース面及び被覆デバイスを互いに対向して配置した後、被覆デバイスがキャビティを覆うのが好ましく、被覆デバイスが全てのキャビティを覆わず、選択したキャビティのみを覆うことが有利である場合もある。分析対象の標的分子を含む好ましくは親水性の液体である反応溶液を、好ましくはキャビティに自律的に輸送する。充填装置(例えばピペット)を用いて反応溶液をキャビティに導入する必要はない。これは従来技術と比較して大きな利点である。このことは、本発明によって反応成分をキャビティ内及び/又は被覆デバイス上に供給することが可能となり、標的分子、必要に応じて増幅反応又は誘導体化反応の更なる試薬のみを導入する必要があることを意味する。これに関連して、反応成分は種々の構成要素及び機能を有し得るため、標的配列の種々の領域を例えばデジタルPCRを用いてベース面で分析することができる。したがって、種々の反応をベース面で行うことができ、それにより「多重化」が可能となり、作業労力及びコストが顕著に低減する。
【0085】
さらに、標的分子及び/又は生成物分子を続いて分析、シークエンシング及び/又は誘導体化するのが好ましい。これに関連して、装置は再び被覆デバイス及びベース面に分けられる。この場合、反応成分を供給する装置の一部、好ましくはプローブが更なる分析方法に利用可能である。
【0086】
更に好ましい実施の形態では、本発明は、上記の(named)方法の1つを行う装置であって、
該装置がキャビティを有するベース面と、
被覆デバイスと、を含み、
上記被覆デバイスが好ましくはマイクロアレイであり、
上記ベース面及び上記被覆デバイスが、反応空間が形成されるように互いに対向して配置され得る、
ことを特徴とする、装置に関する。
【0087】
被覆デバイスが被覆デバイスに固定化された捕捉分子を含むのが好ましい。
【0088】
これに関連して、装置がベース面及び被覆デバイスを調整することができ、それらを反応に有利な状態にするカセットを更に備えることが特に好ましい。さらに、この装置は充填デバイスを利用することができる。装置全体が、更に反応溶液及び反応成分による汚染を防ぐ。増幅系PCRの場合、装置は良好な熱の導入を保証する。機械的キャッピングの場合、装置は反応中のベース面と被覆デバイスとの間の密接な機械的接触を維持する。
【0089】
記載の方法の特別な実施の形態を装置で実行することが特に好ましい。上記装置のベース面が上記キャビティの周縁部を形成する液体障壁を有し、該液体障壁が好ましくは化学的及び/又は物理的な障壁であることが特に好ましい。
【0090】
本発明の多大な利点は反応容量の低減にあり、それにより一般コストが低下し、汚染リスク及びフロースルー(through-flow)が最小限に抑えられる。したがって、本発明は例えば、個々の分子の高分解能分析及びこれらの個々の分子の増幅が必要とされることから、非侵襲的診断における突然変異の決定に用いることができる。1つの標的分子又は好ましくは1つのDNA配列がそれぞれ、反応容量又はキャビティのそれぞれに存在することが好ましい。このようにして、特別な配列がPCRで好まれることなく、望ましくないプライマー二量体の形成が低減する。本発明は、特に好ましくは点突然変異に関連する病気の検出に用いることができる。このため、例えばデジタルPCRと親(parental)DNA下での胎児DNAの濃縮との組合せにより、点突然変異に起因する病気の単純な検出が可能となる。従来技術では、例えば親DNA下で胎児DNAを濃縮するシステムを用いて異数性の検出が可能であることは記載されていなかった。胎児DNAの事前濃縮の技法と後続の本発明による多重PCRシステムにおけるその分析との組合せにより、本発明は、小児の病気の非侵襲的検出に用いることができる奏功したシステムを初めて提供する。
【0091】
本発明による方法の更に好ましい適用分野は、単一ヌクレオチド多型(SNP)及び遺伝子異常の検出である。この目的で、それぞれのSNPを有する1つの配列のみが特異的に拡張されるようにプライマー及びプローブを生成する。検出は色コード(言い換えれば、例えばA=緑色、C=赤色、G=青色、T=暗赤色)又は個々の4つのスポットの空間的分離によって行うことができる。これに関連して、陽性スポットにより定量化が可能となる。好ましくは、1つのスポットのみが反応するか(SNPのホモ遺伝、母性及び父性が同一)、又は好ましくはおおよそ同じ数の陽性シグナルをもたらす正確に2つのスポットが反応する(ヘテロ遺伝、50%父性、50%母性)。この方法を用いて、トリソミー形態(2/3のスポット1及び1/3のスポット2、又は各々1/3のシグナルを有する3つのスポット)、重複又は欠失等の遺伝子異常を検出することもできる。
【0092】
さらに、本発明による方法を特定の核酸配列の検出(遺伝子型決定)に用いるのが好ましい。ここで、適合するプライマー及びプローブをそれぞれのスポット、例えば耐性遺伝子及び内部「ハウスキーピング遺伝子」等に供給する。陽性シグナルにより定量化が可能となる。ハウスキーピング遺伝子及び耐性遺伝子の相対比較によって、試験したゲノムのうち幾つが、またそのいずれが耐性を示すかを提示することが可能となる。
【0093】
この方法を1つ又は複数のDNA濃度の定量化に用いるのが更に好ましい。この実施の形態では、容量系列をベース面に導入し、キャビティを種々の容量で充填する。さらに、一般的なプライマー及びプローブの系をベース面に導入する。サンプルのみを添加する。表面はプライマー系で均一にコーティングするか、又は参照遺伝子に幾らかのストリップ/スポットを含有することができる。容量の漸減により、特定の容量から始めて或る時点で概してキャビティ1つ当たり正確に1つ以下のDNA鎖が存在することになる。ここでデジタルPCRを行う。次いで、DNA濃度の決定を陽性だけではなくなったキャビティに基づいて行うことができる。
【0094】
複数の異なる種/サブタイプを「デジタル化する」のも好ましい。これにより、単一のバッチ中の例えば大腸菌(E. coli)集団の総細菌数及び有害なサブタイプ、例えばEHEC等の数を決定することが可能となる。ここで、キャビティよりも少ない標的分子しか存在せず、好ましくは種々のサブタイプの標的分子がキャビティ内で増幅及び検出されるという点でデジタル性は達成されない。
【0095】
本発明の更なる利点は、既知の全てのデジタルPCRの用途が上記方法に包含されることである。
【0096】
更に好ましい実施の形態では、本発明はベース面及び被覆デバイス、並びに反応溶液(サンプルを含まない)を含むキットに関する。この場合必要なのは、標的分子を、サンプルを含有しない反応溶液に入れ、完成した反応溶液をベース面に適用することだけである。したがって、本発明はdPCRを行うキットにも関する。本発明による方法を行うことができるキットを作製可能であることは完全に驚くべきことであった。これに関連して、反応成分がその機能を失うことなく、供給された反応成分とともに装置を恒久的に保管することができることは予期し得なかった。したがって、本発明によるキットは長期にわたって保管することができるため、本発明による方法を何度も行うことがより容易になる。
【0097】
本発明による方法を用いて、最大10個の標的を検出することができる。これに関連して、その数は個々のキャビティの大きさ及びアレイ上のスポットの大きさによって異なる。
【0098】
本発明の利点は標準的な設備しか必要とされないことである。例えば、既に市販されているデバイス、例えばスライドホルダー用のPCRサイクラー(Slide−Cycler)又はマイクロタイタープレートのインサート等をPCRに使用することができる。検出については、例えば、標準的なデバイスをDNAマイクロアレイの読み出しに使用することができる(アレイスキャナ)。
【0099】
アレイ上のDNAプローブの単純な再設計(DNA配列の修飾)によって、検出システムを種々の標的分子に合わせることができ、この方法を普遍的に用いることができる。さらに、スポット1つ当たりのキャビティの数を確立することによって感度を規定することができる。
【0100】
ベース面のキャビティはベース面内で種々の大きさを有することができ、この理由から、反応溶液を事前の定量化なしに調査することができる。リアクター容量の巧妙な選択によって、「デジタル」である領域を常に見出すことが可能である。また、MPN法を用いて他の領域から付加的な情報を得ることができる。チャンバの大きさの増大によって広い濃度範囲のサンプル溶液をカバーすることができる。このようにして、サンプル中のDNAの事前の定量化なしに意味ある結果を達成することができる。結果として、時間及び取扱い工程が省かれる。
【0101】
シグナルは好ましくはデジタル的に読み出されるため、分析の最終結果を評価するだけでよく、反応デバイス及び検出デバイスをこの目的で連結することができる。このようにして、装置の費用を最小限に抑えることができる。
【0102】
ベース面は例えば射出成形又は熱エンボス加工を用いて作製することができ、数十年間確立されている作製システムを被覆デバイスに使用することができる。したがって、有利な作製方法を用いてベース面を利用可能とすることができる。
【0103】
反応コンパートメントの生成に油を使用する従来技術の一部の方法とは対照的に、本方法では、サンプルの多くのキャビティへの分割は機械的に(油なしに)、好ましくは被覆デバイスを用いて行われる。このようにして、従来技術に記載される欠点の全てが回避される。
【0104】
生成物分子、好ましくは増幅産物をベース面内及び/又は被覆デバイス表面上に結合することができ、またそれにより、その後の例えばシークエンシング等の詳細な分析又は対応する遺伝子材料の回収(例えば、生成したPCR生成物の回収、反応後のDNAマイクロアレイのシークエンシング可能性)も必要又は所望に応じて可能であることが有利である。
【0105】
本願による教示は特に以下の特性を特徴とする:
本発明によって達成される問題解決についての長い間未解決のままであった緊急の必要性の存在;
解決策の単純さが、特に複雑な教示に取って代わることにより進歩性(inventive activity)を示すこと;
改善、性能の向上、コストの削減、時間、材料、作業工程及びコストの節約;
信頼性の増大、誤差の排除、品質改善、維持管理からの解放、有効性の増大、収率の上昇。
【0106】
特に、本発明の有利な実施の形態は上記利点の少なくとも1つ又は複数を示す。
【0107】
以下、図面及び実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0108】
図1】好ましい方法及び対応する装置の例示的な実施形態を示す図である。
図2】装置の好ましい設計を示す図である。
図3】dCPRを用いる好ましい方法を示す図である。
図4】モデルシステムでのPCRプライマーの固定化及び後続の固相PCRを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0109】
固相PCRについては、対応する表面がPCRプライマーでコーティングされ、PCRプライマーがDNAポリメラーゼによる伸長に接近可能/利用可能であることが必須条件である。ベース面の表面及び被覆デバイスの表面の両方をPCRプライマーでコーティングした(図3a)。被覆デバイスは好ましくはPDMSスライドである。DNA標的配列をPCR反応混合物と混合し、ベース面に導入した。ベース面を被覆デバイス、この場合はDNAマイクロアレイで覆った(図2)。デジタルPCRを行うために、DNA標的配列を、個々のキャビティが各々1つのDNA分子を含有するか又は含有しないように希釈する。後続のPCR反応により、事前に1つのDNA分子を含有していた各々のキャビティでPCR増幅生成物が生成し、この生成物は特にベース面の表面に結合する(図1)。本例では、被覆デバイスに固相プライマーも設けられているため、DNA増幅産物も被覆デバイスに固定化された。このようにして、ベース面の生成物分子の分配の正確なコピーがマイクロアレイ(被覆デバイス)で利用可能となる(図1D)。増幅産物を可視化するために、ハイブリダイゼーションをPTP(ピコタイタープレート)及び被覆デバイスで行う。
【0110】
GS FLXチタンチップ、GS FLXチップから構成されるベース面、更にはマイクロ流体工学で使用される典型的な材料への、完全に機能的な固相PCRに好適なPCRプライマーの固定化を検出することが可能であった。これらの材料としてはガラス、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)及びポリプロピレン(PP)が挙げられる。
【0111】
デジタル性の場合にこの方法を行うために、1×10個より十分に少ない標的分子を大きさが13×13mmのベース面上の1×10個のキャビティに入れた。GS FLXチタンチップをベース面として使用した。50回の熱サイクルの後、ベース面及び被覆デバイス上でのシグナルを自動的に計測した。PDMSスライドを被覆デバイスとして使用した。2つの異なるDNA配列を用いてデジタル固相PCRを行う場合、2色画像をハイブリダイゼーション後に生成した(図3のb)。これに関連して、ベース面及び被覆デバイスの良好な比較可能性が常に達成された。
【0112】
本実験は2つの異なるDNA標的分子の濃度の並行分析の一例である。それぞれの濃度を赤色及び緑色について算出することができる。黄色は赤色及び緑色が同時であるとみなされる。各々の標的分子の総DNA濃度は、陽性キャビティの数/全てのキャビティの数/キャビティの容量である。
【0113】
図1.1は本発明の好ましい実施形態を示す。(A)に、DNAマイクロアレイである被覆デバイス2を示す。その下にキャビティ4を有するベース面1を示し、キャビティ4は希釈DNA標的分子を含有するPCR反応ミックスで充填される。(B)にマイクロアレイ2のスポット3又はキャビティ4のそれぞれの拡大図を示す。(C)に装置を組み立てる方法を示す。これに関連して、被覆デバイス2及びベース面1は、キャビティ4及びマイクロアレイ2のスポット3が互いに接触するように対向して配置される。示されるケースでは、いずれの場合もマイクロアレイ2のスポット3がベース面1の複数のキャビティ4を覆う。増幅反応もこの工程で行われる。温度サイクルプロトコルを用い、DNA増幅産物5を作製する。これに関連して、増幅産物5が標的分子を導入したキャビティ4のみに生じる。示される例示的な実施形態では、PCR生成物5(=本発明における生成物分子)がマイクロアレイ2の捕捉分子に共有結合的に固定化される。ここで好ましい機構は固相PCRである。続いて、被覆デバイス2及びベース面1を再び互いに分離する。被覆デバイス2を洗浄し、好ましくは2色ハイブリダイゼーションによって染色し、スキャンする。(D)にこの方法の結果を示す。2つの異なるDNA配列(1500塩基対長及び350塩基対長)のPCR生成物5がマイクロアレイ2で検出される。
【0114】
図1.2に本発明の更に好ましい実施形態を示す。(A)に、単純な基板である被覆デバイス2を示す。その下にキャビティ4を有するベース面1を示し、キャビティ4は希釈DNA標的分子を含有するPCR反応ミックスで充填される。さらに、反応成分がベース面1に供給されるように、マイクロアレイをベース面1上にスポットした。これに関連して、常に複数のキャビティ4が1つのスポット3内に存在するように、スポット3はキャビティ4よりも大きい。(B)にベース面1のスポット3及びキャビティ4の拡大図を示す。(C)に装置を組み立てる方法を示す。これに関連して、被覆デバイス2及びベース面1は、キャビティ4が被覆デバイス2によって閉鎖されるように対向して配置される。増幅反応もこの工程で行われる。温度サイクルプロトコルを用い、DNA増幅産物5を作製する。これに関連して、増幅産物5が標的分子を導入したキャビティ4のみに生じる。示される例示的な実施形態では、PCR生成物5(=本発明における生成物分子)がベース面1の捕捉分子に共有結合的に固定化される。ここで好ましい機構は固相PCRである。続いて、被覆デバイス2及びベース面1を再び互いに分離する。ベース面1を洗浄し、好ましくは2色ハイブリダイゼーションによって染色し、スキャンする。(D)にこの方法の結果を示す。2つの異なるDNA配列(1500塩基対長及び350塩基対長)のPCR生成物5がベース面1で検出される。
【0115】
図2は本発明におけるベース面1の考え得る設計を示す。示されるベース面1は調査対象の反応溶液を導入する領域6を有する。キャビティ4を充填し、被覆デバイス2で閉鎖すると、被覆デバイス2は隆起障壁7で囲まれる。装置は過剰なサンプル容量を保持するリザーバ8を更に有する。
【0116】
図3:(a)に、希釈DNA標的分子9を含有するPCR反応ミックスで充填され、被覆デバイス2を用いて閉鎖されたベース面1を示す。増幅反応を行うと、標的分子9を含有するキャビティ4でPCR生成物5が生じる。PCR生成物5は、ベース面1及び被覆デバイス2の両方で固定化されたDNA捕捉分子、この場合は固相プライマーに共有結合する。被覆デバイス2及びベース面1を再び互いに分離し、両方の表面を洗浄し、好ましくは2色ハイブリダイゼーションによって染色し、スキャンする。
【0117】
図3(B)はデジタルPCRの結果を示す。2つの異なるDNA配列(1500塩基対長及び350塩基対長)のPCR生成物5が被覆デバイス2(d)及びベース面1(e)で検出される。赤色(暗)、緑色(中間)及び黄色(明)の3色で、陽性キャビティ4及び被覆デバイス2上の陽性キャビティ4の「鏡像」のそれぞれが示される。
【0118】
図4は、Cy5標識プライマーを伸長可能でないスポット対照として(カラムa)、伸長可能なプライマーを伸長対照として(カラムb)、非標識の伸長可能でないプライマーを陰性対照として(カラムc)含有するDNAマイクロアレイのCy5スキャンを示す。1つの反応溶液当たり4つのスポット列を使用した。アレイを固相PCR及び染色の前(系列A)及び後(系列B)にスキャンした。全てのポリマー、更にはガラスでの伸長可能なプライマーの高度に特異的な伸長を観察することが可能であった。
【0119】
2つの結果をまとめると(図3及び図4)、一例としてPCR生成物を固相に固定化するデジタルPCRを行うことが可能であることが示される(図3Bのd及びe)。さらに、従来のDNAマイクロアレイフォーマットで固定化されたプライマーを用いて固相PCRを行うことができることが示された(図4)。これら2つの結果の組合せから、多重デジタルPCRの新たな方法の好ましい実施形態が得られる。このことは従来技術では既知でも明らかでもなかった。
【符号の説明】
【0120】
1 ベース面
2 被覆デバイス
3 被覆デバイス上の規定の領域(スポット)
4 キャビティ
5 生成物分子
6 サンプルの適用領域
7 障壁
8 可能な限り過剰なサンプル容量を保持するリザーバ
9 DNA標的分子
図1
図2
図3
図4