(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226903
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】形状保持用糸を有する手芸糸
(51)【国際特許分類】
D02G 3/38 20060101AFI20171030BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20171030BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
D02G3/38
D02G3/36
D02G3/04
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-57930(P2015-57930)
(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公開番号】特開2016-176163(P2016-176163A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2016年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000111605
【氏名又は名称】ハマナカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱中 知子
【審査官】
春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−046186(JP,A)
【文献】
実公昭49−036113(JP,Y1)
【文献】
特開平07−173732(JP,A)
【文献】
特公昭48−020179(JP,B1)
【文献】
特開昭60−199947(JP,A)
【文献】
特開2001−131838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H1/00−37/00
D02G1/00−3/48
D02J1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に芯糸が通された状態で一方向に強い撚りがかけられた手芸糸と、形状保持用糸とを引き揃えて他方向に交撚することで、前記形状保持用糸によって前記手芸糸が前記一方向に緩やかに撚りをかけられた状態で保持されていることを特徴とする形状保持用糸を有する手芸糸。
【請求項2】
請求項1に記載の形状保持用糸を有する手芸糸であって、
前記他方向に交撚後、高温の染料で染色されていることを特徴とする形状保持用糸を有する手芸糸。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の形状保持用糸を有する手芸糸であって、
前記芯糸及び前記形状保持用糸は前記手芸糸に対して滑り易い素材とされたことにより前記手芸糸から前記芯糸及び前記形状保持用糸が抜き取り容易であることを特徴とする形状保持用糸を有する手芸糸。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一つに記載の形状保持用糸を有する手芸糸であって、
前記手芸糸が天然繊維であり、前記芯糸及び前記形状保持用糸が合成繊維であることを特徴とする形状保持用糸を有する手芸糸。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一つに記載の形状保持用糸を有する手芸糸から前記芯糸及び前記形状保持用糸が抜き取られて撚りがかけられた状態で保持されたことを特徴とする手芸糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羊毛フェルトを用いた手芸の中でも、特にニードルフェルトという分野の手芸に用いられる手芸糸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から羊毛フェルトを用いたニードルフェルト手芸が盛んに行われている。ニードルフェルト手芸は、フェルトに針を刺していくことで例えば動物のぬいぐるみに似せて造形するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、羊毛繊維をフェルト状にさせて芯材表面に被着することにより、芯材の外皮をフェルトで覆ってフェルト人形を製作することが記載されている。
【0004】
具体的には、芯材に被着してフェルト化させる羊毛として、スライバータイプと呼ばれる、繊維が一定方向に揃っていて束になっている状態の羊毛を用い、ニードルフェルト技法による芯材への被着作業に当たっては、この羊毛から順次適宜量をつまみ出して使用するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−249741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
羊毛フェルトでは、見た目や手触りを如何に本物に近づけるかがポイントとなる。例えば、本物の犬の毛は天然のカールがかかっており、例えばトイプードルやキャバリア、シーズー等は、独特のカールを持った犬種の代表である。
【0007】
このような独特のカールを表現するのに、従来は、ループ状の羊毛を時間をかけてほぐしたり、上記のようなスライバータイプの羊毛にヘアアイロンで強制的にカールを付けたりしているため、作製までに多大な時間と労力がかかっていた。
【0008】
また、そのようにしてカールを付けたとしても、本物の動物の毛の自然なカール感をリアルに表現することは難しかった。
【0009】
本発明はかかる問題点を解決すべく創案されたもので、その目的は、動物の毛の自然なカール感を予め付与した手芸糸を作製することにより、多大な時間や労力をかけることなく、動物の毛の独特なカール感を容易かつリアルに表現することのできる形状保持用糸を有する手芸糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の形状保持用糸を有する手芸糸は、中心に芯糸が通された状態で一方向に強い撚りがかけられた羊毛フェルトに用いられる手芸糸と、形状保持用糸とを引き揃えて他方向に交撚することで、前記形状保持用糸によって前記手芸糸が前記一方向に緩やかに撚りをかけられた状態で保持されていることを特徴としている。
【0011】
この構成によれば、手芸糸が常にカール状に保持されているので、使用時に必要な長さ分を用意し、芯糸と形状保持用糸を抜き取るだけで、動物の毛の自然なカールを表現する糸として利用することができる。また、すでにカール状に形成されているので、少しのほぐし作業程度で種々のカール感を表現することができる。
【0012】
また、本発明の形状保持用糸を有する手芸糸によれば、前記他方向に交撚後、高温の染料で染色されている。高温で染色することで、芯糸や形状保持用糸を抜いた後も、手芸糸の撚り状態が維持される。
【0013】
また、本発明の形状保持用糸を有する手芸糸によれば、前記芯糸及び前記形状保持用糸は前記手芸糸から抜き取り容易とされている。すなわち、前記芯糸及び前記形状保持用糸は手芸糸に対して滑り易い素材で形成されている。
【0014】
より具体的には、前記手芸糸が天然繊維であり、前記芯糸及び前記形状保持用糸が合成繊維で形成されている。
【0015】
また、本発明の手芸糸は、上記構成の形状保持用糸を有する手芸糸から
前記芯糸及び前記形状保持用糸が抜き取られて撚りがかけられた状態で保持されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、手芸糸が形状保持用糸によって常にカール状に保持されているので、使用時に芯糸及び形状保持用糸を抜き取るだけで、動物の毛の自然なカール感を表現する糸としてそのまま利用することができる。また、すでにカール状に形成されているので、少しのほぐし作業程度で種々のカール感を表現することができるため、初心者であっても、本物に近い毛並みの動物などの作品を容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の形状保持用糸を有する手芸糸の一部を拡大して示す斜視図である。
【
図2A】本発明の形状保持用糸を有する手芸糸から形状保持用糸を抜き取る途中の状態を一部拡大して示す斜視図である。
【
図2B】本発明の形状保持用糸を有する手芸糸から形状保持用糸を抜き取った状態を一部拡大して示す斜視図である。
【
図3】種々の撚り数の手芸糸を例示する斜視図である。
【
図4】本発明の形状保持用糸を有する手芸糸を用いて作製した動物の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態にかかる形状保持用糸を有する手芸糸の一部を拡大して示す斜視図である。
【0020】
本実施の形態にかかる形状保持用糸を有する手芸糸は、中心に芯糸2aが通された状態で一方向に強い撚り(例えば、下撚り)がかけられた手芸糸1と、形状保持用糸2bとを引き揃えて他方向に交撚(例えば、上撚り)することで、形状保持用糸2bによって手芸糸1が一方向に緩やかに撚りをかけられた状態で保持されているものである。
【0021】
カール形状の羊毛を維持する方法として、ループ形状を作って形状保持のための別糸で撚る方法と、カール形状を作って形状保持のための別糸で撚る方法(いわゆる壁撚り)の2つの方法があるが、本実施の形態では、壁撚りの方法を採用している。
【0022】
すなわち、本実施の形態では、中心に芯糸2aが通された状態で下撚りをかけた太い手芸糸1と、細い形状保持用糸2bを引き揃えて、下撚りと反対の上撚りをかけることにより、太い手芸糸1は撚りが戻って(緩やかな撚りとなって)伸び、細い形状保持用糸2bは撚りが増えて縮むことで、形状保持用糸2bに、芯糸2aによって保持された手芸糸1が波状にからみついた状態となる。
【0023】
また、本実施の形態では、手芸糸1に強い撚りをかける段階で、伸縮性のない芯糸2aを入れている。これにより、次の段階である撚糸の工程まで、手芸糸1である羊毛の膨らみを維持するとともに、素抜け(糸切れ)を防止することができる。
【0024】
また、本実施の形態では、手芸糸1は、他方向に交撚後、高温の染料で染色されている。高温で染色することで、芯糸2aと形状保持用糸2bとを抜いた後も、手芸糸1は、撚りがかけられた状態(すなわち、ウェーブ状態)で維持されることになる。
【0025】
ここで、従来の壁撚りは、これらの糸を交撚することで、その後、交撚糸を一体物の糸として用いることを目的としているが、本実施の形態では、羊毛フェルトに用いられる手芸糸(すなわち、羊毛)1のみを使用することを目的としていることから、手芸糸1と芯糸2a及び形状保持用糸2bとの組み合わせに特徴を有している。
【0026】
すなわち、本実施の形態では、手芸糸1の中心に通した芯糸2a、及び交撚状態の形状保持用糸2bを手芸糸1から簡単に抜き取ることができる構造とした点に特徴を有している。そのため、芯糸2a及び形状保持用糸2bは手芸糸1に対して滑り易い素材で形成されている。
【0027】
より具体的に説明すると、手芸糸1が羊毛等の太い天然繊維であり、芯糸2a及び形状保持用糸2bがナイロン、ポリエステル、アクリル等の細い合成繊維で形成されている。本実施の形態では、このような芯糸2aを有する手芸糸1と形状保持用糸2bとが緩やかに交撚された状態で保持されている。ここで、芯糸2a及び形状保持用糸2bは、同じ素材であってもよいし、異なる素材(例えば、芯糸がナイロン、形状保持用糸がアクリル等)であってもよい。
【0028】
図2Aは、
図1に示す手芸糸1から芯糸2a及び形状保持用糸2bを抜き取る途中の状態を一部拡大して示す斜視図であり、
図2Bは、手芸糸1から芯糸2a及び形状保持用糸2bを完全に抜き取った状態を一部拡大して示す斜視図である。
【0029】
上記したように、芯糸2a及び形状保持用糸2bは、細く、しかも摩擦の少ない抜き取り易い素材で形成されているので、芯糸2a及び形状保持用糸2bの一端部を指で保持して、長手方向に引っ張るだけで、芯糸2a及び形状保持用糸2bを手芸糸1から簡単に抜き取ることができる。そして、抜き取った後も、手芸糸1は、その撚りがかけられた状態で保持されることになる。
【0030】
従って、ユーザは、この撚りのかかった手芸糸1を使うことによって、トイプードルやキャバリア、シーズー等といった毛並みが独特なカールを持った犬等を、見た目だけでなく手触り感でも、より本物に近いぬいぐるみを簡単に作製(造形)することができる。
【0031】
本実施の形態では、下撚りの撚り数と上撚りの撚り数とを種々変更する(種々組み合わせる)ことで、手芸糸1の撚り状態、すなわちカール状態を種々用意することができる。例えば、下撚りの撚り数をより多くし、上撚りの撚り数を少なくすると、
図3(a)に示すように、よりきついカール状態の手芸糸1を作製することができる。また、下撚りの撚り数を少なくし、上撚りの撚り数も少なくすると、
図3(b)に示すように、より緩やかなカール状態の手芸糸1を作製することができる。
【0032】
従って、種々の撚り数の手芸糸1をユーザに提供することで、ユーザ側では、作製するぬいぐるみの種類等によって最適な撚りの手芸糸1を選択して使用することができる。
【0033】
図4は、本実施の形態の手芸糸1を用いてトイプードルのぬいぐるみ10を作製した例を示している。この例では、トイプードルを作製するために3種類の毛並みを作製している。一つは、独特の毛並みである胴体部分11であり、この部分は、芯糸2a及び形状保持用糸2bを抜いた状態の緩やかな撚りがかかった手芸糸1をそのまま使用している。また、耳部分12は、この手芸糸1を少しほぐして使用している。さらに、顔部分13は、この手芸糸1をさらにほぐして使用している。
【0034】
すなわち、本実施の形態では、
図1に示す手芸糸1のみを使ってトイプードルの体毛の全てを作製することができる。しかも、出来上がったぬいぐるみ10は、見た目といい手触り感といい、本物に近いリアルな状態を表現することができる。
【0035】
なお、今回開示した実施の形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。従って、本発明の技術的範囲は、上記した実施の形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、羊毛フェルトを用いた手芸の中でも、特にニードルフェルトという分野の手芸に好適に用いられるが、羊毛フェルトに限らず、手芸の分野全般に寄与するところは大きい。
【符号の説明】
【0037】
1 手芸糸
2a 芯糸
2b 形状保持用糸
10 ぬいぐるみ
11 胴体部分
12 耳部分
13 顔部分