(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記配置工程において、前記クラッドロッドの中心を基準として、前記特定の曲げ方向に前記クラッドと異なる屈折率を有するマーカーを前記クラッドロッドで囲まれるように配置する
ことを特徴とする請求項5または6に記載のマルチコア光ファイバの製造方法。
複数のコアと、それぞれの前記コアの外周面を囲むクラッドと、を有するマルチコア光ファイバの製造方法であって、
前記複数のコアとなる複数のコアロッドを前記クラッドとなるクラッドロッドで囲まれるように配置する場合における前記複数のコアロッドの配置位置に基づいて、前記複数のコアのうち一対のコアのスキュー値Sを下記式で求め、前記複数のコアにおける前記一対のコアの全ての組み合わせにおけるスキュー値Sの絶対値が最大である前記一対のコアの当該スキュー値Sの絶対値が最小となる特定の曲げ方向を求める計算工程と、
前記複数のコアロッドを前記配置位置に配置する配置工程と、
前記配置位置に配置された前記複数のコアロッド及び前記クラッドロッドから成る母材をθ
1からθ
2の角度で連続的に捩じれを加えながら線引きする線引工程と、
を備える
ことを特徴とするマルチコア光ファイバの製造方法。
【数4】
(ただし、0度≦θ
1<θ
2<360度であり、iはm又はnであり、前記クラッドの中心から所定の径方向に延在し前記複数のコアとの相対的位置が前記クラッドの長手方向に沿って一定とされる軸をx軸とし、当該x軸と直交する径方向に延在する軸をy軸とする場合に、θは曲げ方向とx軸とがなす角度であり前記クラッドの長手方向に沿ってθ
1からθ
2まで連続的に変化し、(x
m,y
m)は前記一対のコアのうち一方のコアの座標であり、(x
n,y
n)は前記一対のコアのうち他方のコアの座標であり、Lはマルチコア光ファイバの長さであり、cは真空中の光速であり、N
1mは前記一対のコアのうち一方のコアの群屈折率であり、N
1nは前記一対のコアのうち他方のコアの群屈折率であり、R
bは曲げ半径であり、B
1は前記コアにおける常光線に対する光弾性係数であり、B
2は前記コアにおける異常光線に対する光弾性係数であり、Eはコアのヤング率であり、νはコアのポアソン比である。)
製造される前記マルチコア光ファイバが特定の曲げ方向に曲げられた状態で、前記スキュー値Sの絶対値が最大である前記一対のコアの当該スキュー値Sの絶対値が最小となるように捩じれの角度が定められる
ことを特徴とする請求項9に記載のマルチコア光ファイバの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、マルチコア光ファイバが敷設される場合、一般に、マルチコア光ファイバは曲げられた状態で敷設される。このようにマルチコア光ファイバが曲げられる場合に、特許文献1に記載のマルチコア光ファイバのように互いに隣り合うコアの伝搬定数が異なると、スキューが悪化する場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、非直線的に設置される場合においても、スキューが悪化することを抑制するマルチコア光ファイバ、及び、マルチコア光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のマルチコア光ファイバの一側面は、複数のコアと、それぞれの前記コアの外周面を囲むクラッドと、を備え、以下を特徴するものである。
【0008】
すなわち、前記複数のコアは、前記クラッドが直線状とされる場合に直線状とされ、前記複数のコアのうち一対のコアのスキュー値Sが下記式で示され、前記複数のコアにおける前記一対のコアの全ての組み合わせにおいて前記スキュー値Sの絶対値が最大である前記一対のコアの当該スキュー値が最小となる特定の曲げ方向に曲げられる。
【数1】
(ただし、iはm又はnであり、前記クラッドの中心から所定の径方向をx軸とし当該x軸と直交する径方向をy軸とする場合に、θは曲げ方向とx軸とがなす角度であり、(x
m,y
m)は前記一対のコアのうち一方のコアの座標であり、(x
n,y
n)は前記一対のコアのうち他方のコアの座標であり、Lはマルチコア光ファイバの長さであり、cは真空中の光速であり、N
1mは前記一対のコアのうち一方のコアの群屈折率であり、N
1nは前記一対のコアのうち他方のコアの群屈折率であり、R
bは曲げ半径であり、B
1は前記コアにおける常光線に対する光弾性係数であり、B
2は前記コアにおける異常光線に対する光弾性係数であり、Eはコアのヤング率であり、νはコアのポアソン比である。)
【0009】
上記の式によれば、マルチコア光ファイバを曲げた状態で、一対のコアの全ての組み合わせ毎にスキュー値を求めることができる。しかも、上記式により、それぞれのスキュー値のうち絶対値が最大となるスキュー値を求めることができ、当該スキュー値が最小となる曲げ方向を計算により求めることができる。本発明のマルチコア光ファイバは、当該曲げ方向に曲げられるので、スキューの悪化を抑制することができる。従って、スキューの小さな光通信を行うことができる。
【0010】
また、上記マルチコア光ファイバは、前記特定の曲げ方向に曲がり易いことが好ましい。
【0011】
マルチコア光ファイバがスキューの最大値が最小となる方向に曲がり易いため、マルチコア光ファイバの曲げの方向を然程意識せずとも、マルチコア光ファイバを当該方向に曲げることができる。
【0012】
また、前記特定の曲げ方向に印が付与されていることが好ましい。
【0013】
このような印が付与されることで、マルチコア光ファイバを敷設する際にどの方向にマルチコア光ファイバを曲げるべきか容易に把握することができる。
【0014】
このように印が付与される場合には、前記印は、前記クラッド内に位置し、前記クラッドの屈折率と異なる屈折率のマーカーとされることが好ましい。
【0015】
また、本発明のマルチコア光ファイバの他の側面は、複数のコアと、それぞれの前記コアの外周面を囲むクラッドと、を備え、以下を特徴とするものである。
【0016】
すなわち、前記複数のコアは互いの相対的位置が変わらぬ状態で前記クラッドの中心軸の周りを螺旋状にθ
1からθ
2の角度で連続的に回転し、前記複数のコアのうち一対のコアのスキュー値Sが下記式で示され、前記複数のコアにおける前記一対のコアの全ての組み合わせにおいて前記スキュー値Sの絶対値が最大である前記一対のコアの当該スキュー値Sが最小となる特定の曲げ方向に曲げられる。
【数2】
(ただし、0度≦θ
1<θ
2<360度であり、iはm又はnであり、前記クラッドの中心から径方向に延在し前記複数のコアとの相対的位置が前記クラッドの長手方向に沿って一定とされる軸をx軸とし、当該x軸と直交する径方向に延在する軸をy軸とする場合に、θは曲げ方向とx軸とがなす角度であり前記クラッドの長手方向に沿ってθ
1からθ
2まで連続的に変化し、(x
m,y
m)は前記一対のコアのうち一方のコアの座標であり、(x
n,y
n)は前記一対のコアのうち他方のコアの座標であり、Lはマルチコア光ファイバの長さであり、cは真空中の光速であり、N
1mは前記一対のコアのうち一方のコアの群屈折率であり、N
1nは前記一対のコアのうち他方のコアの群屈折率であり、R
bは曲げ半径であり、B
1は前記コアにおける常光線に対する光弾性係数であり、B
2は前記コアにおける異常光線に対する光弾性係数であり、Eはコアのヤング率であり、νはコアのポアソン比である。)
【0017】
上記の式によれば、360度の範囲内で捩じれを加えられたマルチコア光ファイバを曲げた状態で、一対のコアの全ての組み合わせ毎にスキュー値を求めることができる。しかも、上記式により、それぞれのスキュー値のうち絶対値が最大となるスキュー値に着目し、当該スキュー値が最小となる曲げ方向を計算により求めることができる。本発明のマルチコア光ファイバは、当該曲げ方向に曲げられるので、スキューの悪化を抑制することができ、スキューの小さな光通信を行うことができる。
【0018】
また、本発明のマルチコア光ファイバの製造方法の一側面は、複数のコアと、それぞれの前記コアの外周面を囲むクラッドと、を有するマルチコア光ファイバの製造方法であり、以下を特徴とするものである。
【0019】
すなわち、前記複数のコアとなる複数のコアロッドを前記クラッドとなるクラッドロッドで囲まれるように配置する場合における前記複数のコアロッドの配置位置に基づいて、前記複数のコアのうち一対のコアのスキュー値Sを下記式で求め、前記複数のコアにおける前記一対のコアの全ての組み合わせにおけるスキュー値Sの絶対値が最大である前記一対のコアの当該スキュー値Sが最小となる特定の曲げ方向を求める計算工程と、前記複数のコアロッドを前記配置位置に配置する配置工程と、前記配置位置に配置された前記複数のコアロッド及び前記クラッドロッドから成る母材を捩じれを加えずに線引きする線引工程と、を備える。
【数3】
(ただし、iはm又はnであり、前記クラッドの中心から所定の径方向をx軸とし当該x軸と直交する径方向をy軸とする場合に、θは曲げ方向とx軸とがなす角度であり、(x
m,y
m)は前記一対のコアのうち一方のコアの座標であり、(x
n,y
n)は前記一対のコアのうち他方のコアの座標であり、Lはマルチコア光ファイバの長さであり、cは真空中の光速であり、N
1mは前記一対のコアのうち一方のコアの群屈折率であり、N
1nは前記一対のコアのうち他方のコアの群屈折率であり、R
bは曲げ半径であり、B
1は前記コアにおける常光線に対する光弾性係数であり、B
2は前記コアにおける異常光線に対する光弾性係数であり、Eはコアのヤング率であり、νはコアのポアソン比である。)
【0020】
このようなマルチコア光ファイバの製造方法によれば、製造されるマルチコア光ファイバのそれぞれのスキューの最大値が最小となる特定の曲げ方向を把握して、当該マルチコア光ファイバを製造することができる。従って、製造されるマルチコア光ファイバを当該特定の曲げ方向に容易に曲げることができ、スキューの悪化を抑制することができる。
【0021】
また、前記特定の曲げ方向に前記マルチコア光ファイバを曲げた状態での当該スキュー値Sの大きさが最小となるように前記複数のコアロッドを配置することが好ましい。
【0022】
前記計算工程では、特定の曲げ方向に加えて、マルチコア光ファイバを特定の曲げ方向に曲げた状態でのスキュー値を把握することができる。従って、マルチコア光ファイバを曲げた状態でのスキュー値が小さくなるように複数のコアの配置とすることで、製造されるマルチコア光ファイバのスキュー値をより抑制することができる。
【0023】
前記配置工程において、前記クラッドロッドの中心を基準として、前記特定の曲げ方向に前記クラッドと異なる屈折率を有するマーカーを前記クラッドで囲まれるように配置することが好ましい。
【0024】
また、前記線引工程において、前記計算工程から求められる前記特定の曲げ方向が所定の方向を向くように前記母材を紡糸炉に配置することが好ましい。
【0025】
線引工程において、母材を上記方向を向かせて配置することにより、製造されるマルチコア光ファイバにおけるスキュー値Sの絶対値の最大値が最小となる曲げ方向を容易に把握することができる。
【0026】
また、本発明のマルチコア光ファイバの製造方法の他の側面は、複数のコアと、それぞれの前記コアの外周面を囲むクラッドと、を有するマルチコア光ファイバの製造方法であり、以下を特徴とするものである。
【0027】
すなわち、前記複数のコアとなる複数のコアロッドを前記クラッドとなるクラッドロッドで囲まれるように配置する場合における前記複数のコアロッドの配置位置に基づいて、前記複数のコアのうち一対のコアのスキュー値Sを下記式で求め、前記複数のコアにおける前記一対のコアの全ての組み合わせにおけるスキュー値Sの絶対値が最大である前記一対のコアの当該スキュー値Sが最小となる特定の曲げ方向を求める計算工程と、前記複数のコアロッドを前記配置位置に配置する配置工程と、前記配置位置に配置された前記複数のコアロッド及び前記クラッドロッドから成る母材をθ
1からθ
2の角度で連続的に捩じれを加えながら線引きする線引工程と、を備える。
【数4】
(ただし、0度≦θ
1<θ
2<360度であり、iはm又はnであり、前記クラッドの中心から所定の径方向に延在し前記複数のコアとの相対的位置が前記クラッドの長手方向に沿って一定とされる軸をx軸とし、当該x軸と直交する径方向に延在する軸をy軸とする場合に、θは曲げ方向とx軸とがなす角度であり前記クラッドの長手方向に沿ってθ
1からθ
2まで連続的に変化し、(x
m,y
m)は前記一対のコアのうち一方のコアの座標であり、(x
n,y
n)は前記一対のコアのうち他方のコアの座標であり、Lはマルチコア光ファイバの長さであり、cは真空中の光速であり、N
1mは前記一対のコアのうち一方のコアの群屈折率であり、N
1nは前記一対のコアのうち他方のコアの群屈折率であり、R
bは曲げ半径であり、B
1は前記コアにおける常光線に対する光弾性係数であり、B
2は前記コアにおける異常光線に対する光弾性係数であり、Eはコアのヤング率であり、νはコアのポアソン比である。)
【0028】
このようなマルチコア光ファイバの製造方法によれば、360度の範囲内で捩じれが加えられて製造されるマルチコア光ファイバのそれぞれのスキューの最大値が最小となる特定の曲げ方向を把握して、当該マルチコア光ファイバを製造することができる。従って、製造されるマルチコア光ファイバを当該特定の曲げ方向に容易に曲げることができ、スキューの悪化を抑制することができる。
【0029】
この場合、製造される前記マルチコア光ファイバが特定の曲げ方向に曲げられた状態で、前記スキュー値Sの絶対値が最大である前記一対のコアの当該スキュー値Sが最小となるように捩じれの角度が定められることが好ましい。
【0030】
このような範囲で捩じれが加えられることで、製造されるマルチコア光ファイバにおいて、スキューをより小さくすることができる。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明によれば、非直線的に設置される場合においても、スキューが悪化することを抑制するマルチコア光ファイバ、及び、マルチコア光ファイバの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係るマルチコア光ファイバの好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、理解の容易のため、ぞれぞれの図に記載のスケールと、以下の説明に記載のスケールとが異なる場合がある。
【0034】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るマルチコア光ファイバの様子を示す図である。
図1に示すように、本実施形態のマルチコア光ファイバ1は、複数のコア10〜16と、それぞれのコア10〜16の外周面を隙間なく囲むクラッド20と、クラッド20の外周面を被覆する内側保護層31と、内側保護層31の外周面を被覆する外側保護層32と、を備える。
【0035】
本実施形態においては、コアの数が全体で7つとされ、クラッド20の中心軸に沿って1つのコア10が配置されると共に、この1つのコア10の周りに複数のコア11〜16が等間隔で配置されている。こうして、中心のコア10と外周側のそれぞれのコア11〜16とが三角格子状に配置されている。従って、それぞれのコア10〜16同士の中心間距離は、互いに等しくされている。このように配置された複数のコア10〜16は、クラッド20の中心軸に対して対称とされている。つまり、マルチコア光ファイバ1をクラッド20の中心軸の周りに所定の角度回転させた場合に、外周側のそれぞれのコア11〜16の回転後における位置は、回転前における外周側の他のコア12の位置となる。また、中心に配置されたコア10は、マルチコア光ファイバ1を中心軸の周りに回転させても動かない。このようにそれぞれのコア10〜16がクラッド20の中心軸に対して対称となる位置に配置されることにより、それぞれのコア11、12の配置による光学的性質を均質にすることができる。また、本実施形態のマルチコア光ファイバ1には捩じれが加えら得ておらず、複数のコア10〜16はクラッド20が直線状とされる場合に直線状となる。
【0036】
このマルチコア光ファイバ1を構成するそれぞれの部材の大きさは、特に限定されるわけではないが、クラッド20の直径は、例えば、140μmとされ、内側保護層31の外径は、例えば、205μmとされ、外側保護層32の外径は、例えば、265μmとされる。また、それぞれのコア11、12の中心間距離は、特に限定されないが、例えば、39μmとされている。
【0037】
そして、本実施形態においては、互いに隣り合うそれぞれのコアの伝搬定数が互いに異なるようにされている。例えば、互いに隣り合うコアの直径が互いに−5%〜5%異なるようにされたり、クラッド20に対するコアの比屈折率差が互いに隣り合うコア同士で−5%〜5%異なるようにされている。このように互いに隣り合うコアの直径や比屈折率差が、僅かに異なっていても、それぞれのコア10〜16を伝播する光にしてみれば、それぞれのコアの状態は殆ど変わらず、略同等の光学特性となる。一方、このように互いに隣り合うコアの直径や比屈折率差が僅かに異なることにより、互いに隣り合うコアのクロストークを抑制することができる。
【0038】
次にマルチコア光ファイバ1のスキューの抑制について説明する。
【0039】
モードの群遅延tは、電磁界のエネルギーが完全にコア内に閉じ込められている時、下記式(1)で示される。
【数5】
ただし、Lは光ファイバの長さであり、cは真空中の光速であり、βはコアの伝搬定数であり、kは真空中の光の波数であり、N
1はコアの群屈折率である。
【0040】
従って、一般的なシングルコアの光ファイバの場合、一方の光ファイバの郡遅延をt
1とし、他方の光ファイバの郡遅延をt
2とし、一方の光ファイバのコアの群屈折率をN
1iとし、他方の光ファイバのコアの群屈折率をN
1jとする場合、2つの光ファイバ間のスキュー値Sは、下記式(2)で示される。
【数6】
【0041】
図2は、
図1に示すマルチコア光ファイバ1が曲げられた様子を示す図である。なお、
図2では内側保護層31及び外側保護層32が省略されている。ここで、
図1に示されるように、クラッド20の中心から所定の径方向をx軸とし、x軸と直交する径方向をy軸とし、マルチコア光ファイバが曲げられる方向とx軸とがなす角度をθとする。この様にx軸、y及びθを定義すると、
図2のようにマルチコア光ファイバ1が曲げられる場合、θは180°となる。
【0042】
このようにマルチコア光ファイバ1が曲げられた場合、コア10〜16のうちの特定のコアmの実効的な伝搬定数β’
mは、下記式(3)で示される。
【数7】
ただし、β
mは直線状態におけるコアmの伝搬定数であり、x
m、y
mはコアmの座標位置であり、R
bはマルチコア光ファイバの曲げ半径である。
【0043】
よって、曲げられた状態にあるマルチコア光ファイバ1のコアmの実効的な群屈折率N'
1mは、コアmの群屈折率をN
1mとする場合、式(1)と式(3)とから、下記式(4)で示される。
【数8】
【0044】
すなわち、曲げ半径が一定で曲げられた状態にあるマルチコア光ファイバ1のコアmとコアm以外の他特定のコアnとの間のスキューは、下記式(5)で示される。
【数9】
ただし、x
n、y
nはコアnの座標位置であり、N
1nはコアnの群屈折率であり、N'
1nはコアnの実効的な群屈折率をである。
【0045】
さらに、曲げ応力による光弾性効果の影響を考慮する。マルチコア光ファイバ1が曲げられる場合において、曲げ応力に起因する光弾性によるコアの屈折率の変化量Δn
sは下記式(6.1)で示される。
【数10】
ただし、n
sは応力が印加される状態でのコアの屈折率を示し、n
1は応力が印加されない状態でのコアの屈折率を示し、z軸を光ファイバの長手方向にとると、σ
x,σ
y,σ
zはコアにかかる応力のx軸方向、y軸方向、z軸方向における大きさを示し、B
1はそれぞれのコアにおける常光線に対する光弾性係数であり、B
2はそれぞれのコアにおける異常光線に対する光弾性係数である。B
1,B
2は、材料により定まる係数であるため、コアの位置や構造により変化しない。従って、B
1,B
2は、いずれのコアにおいても同じ値である。なお、石英の場合、B
1は4.22×10
−6であり、B
2は0.65×10
−6[MPa
−1]である。
【0046】
ここで、上記式(6.1)を群屈折率に置き換えて書き直すと、コアの群屈折率の変化量ΔNsは下記式(6.2)となる。ここで、N=n-λ(dn/dλ)の関係であるが、λ(dn/dλ)の項は無視しても問題ないため無視した。
【数11】
【0047】
ここで、σ
x,σ
y,σ
zは下記式(7)で示される。
【数12】
ただし、ε
x、ε
y、ε
zは、それぞれ曲げによるコアのx軸方向、y軸方向、z軸方向における歪の大きさを示す。この歪は圧縮や伸長等である。
【0048】
ガラスのような等方性媒質の場合、各弾性定数テンソルは、下記式で示される。
【数13】
ただし、Eはコアのヤング率であり、νはコアのポアソン比である。なお、合成石英ガラスの場合、Eは76[GPa]であり、νは0.164である。
【0049】
マルチコア光ファイバが曲げられる場合x軸方向及びy軸方向の歪は無視できるほど小さいのでε
x、ε
yを0とし、マルチコア光ファイバの曲げによるz方向の伸び歪みを考えると、ε
zは下記式で示される。
【数14】
ただし、Lはマルチコア光ファイバが直線状態におけるコアの長さであり、ΔLはマルチコア光ファイバが曲げられることによるコアの伸びである。
【0050】
そこで、マルチコア光ファイバ1が曲げられる場合の各コアのε
zは下記式(8)で示される。
【数15】
【0051】
よって、式(7)と式(8)とから、マルチコア光ファイバ1が曲げられる場合にコアにかかる応力の各方向における大きさは下記式(9)で示される。
【数16】
【0052】
従って、式(6)から、曲げ応力による屈折率変化量は下記式(10)で示される。
【数17】
【0053】
式(4)と式(10)とから、光弾性効果を考慮したコアm実効群屈折率N''
1mは下記式(11)で示される。
【数18】
【0054】
よって、マルチコア光ファイバ1におけるコアmの群遅延t
mは下記式(12)で示される。
【数19】
【0055】
コアnについても同様の式が成り立つため、式(5)および式(12)から、コアmとコアnとのスキュー値Sは、iをm又はnとして、下記式(13)で示される。
【数20】
【0056】
式(13)で示されるスキュー値は、マルチコア光ファイバ1のコア10〜16における一対のコアの全ての組み合わせにおいて求めることができる。そこで、コア10〜16における一対のコアの全ての組み合わせのそれぞれにおいてスキュー値Sを求めて、それぞれのスキュー値Sのうち絶対値が最大である一対のコアの当該スキュー値に着目する。そして、マルチコア光ファイバ1をθ方向に曲げる場合に、着目した当該スキュー値Sの大きさが最小となるθの方向を特定の曲げ方向とする。従って、この特定の曲げ方向にマルチコア光ファイバ1を曲げることで、絶対値が最大のスキューを抑えることができ、スキュー値Sの標準偏差を小さくすることができる。つまり、マルチコア光ファイバ1は、複数のコア10〜16における一対のコアの全ての組み合わせにおいてスキュー値Sの絶対値が最大である一対のコアの当該スキュー値Sが最小となる特定の曲げ方向に曲げられて使用されるのである。
【0057】
次に、式(13)を用いて、
図1のマルチコア光ファイバ1における一対のコアのスキュー値Sを具体的に求める。
図3は、
図1のマルチコア光ファイバ1おける曲げ半径と一対のコア間の単位長さ当たりのスキュー値Sとの関係を示す図である。
図3では、マルチコア光ファイバ1のコア11とコア14とのスキュー値S、コア11とコア13とのスキュー値S、コア11とコア12とのスキュー値Sについて示している。なお、
図3を作成するにあたり、曲げ方向はx軸方向、すなわちθ=0とした。また、一対のコアの群屈折率N
1m、N
1nを同じ値とした。つまり、マルチコア光ファイバ1が直線状態の場合にスキュー値Sがゼロとなるようにした。
図3から分かる通り、曲げ半径が小さくなるほどスキュー値Sが大きく、曲げ半径が小さい領域ではスキュー値Sが急激に大きくなることが分かる。従って、マルチコア光ファイバが直線状態におけるスキュー値が小さくなるように、各コアの群屈折率、すなわち伝搬定数を適正化するだけでは、マルチコア光ファイバが曲げられて敷設される場合に、スキュー値が悪化することとなる。そのため、上記のように、式(13)で示されるそれぞれのスキュー値Sのうち絶対値が最大となるスキュー値Sが最小となるθの方向、すなわち特定の曲げ方向にマルチコア光ファイバ1を曲げることで、スキュー値Sを抑制することができる。
【0058】
ここで、
図1のマルチコア光ファイバ1のうち、コア10、コア11、コア14の3つのコアのみを有するマルチコア光ファイバについて検討する。
【0059】
図4は、このような3つのコアを有するマルチコア光ファイバを曲げ方向θと単位長さ当たりのスキュー値Sとの関係を示す図である。なお、
図4では、それぞれのコアの群屈折率N
1mを互いに同じ値としている。
図4より、θ=90°,270°の場合、すなわちy軸の方向に曲げる場合にスキュー値が0となることが分かる。従って、このようなマルチコア光ファイバはθ=90°,270°となる特定の曲げ方向に曲げて敷設する。
【0060】
図5は、上記3つのコアを有するマルチコア光ファイバのそれぞれの群屈折率N
1mを互いに異なる値とする場合の曲げ方向θと単位長さ当たりのスキュー値Sとの関係を示す図である。
図5の例では、コア10の群屈折率をN
110とし、コア11の群屈折率をN
111とし、コア14の群屈折率をN
114とする場合に、N
114>N
110>N
111とされている。
図5に示すように、本例では、θ=180°でスキュー値Sは最大となり、θ=0°においてそれぞれのスキュー値Sが最小となる。それぞれのスキュー値Sのうち絶対値が最大となるスキュー値は、コア11とコア14とのスキューであり、θ=0°において、コア11とコア14とのスキュー値Sが最小となる。従って、本例におけるマルチコア光ファイバはθ=0となる特定の曲げ方向に曲げられて敷設される。なお、本例では、他のスキューもθ=0°で最小となる。
【0061】
以上説明したように本実施形態のマルチコア光ファイバ1は、それぞれのスキュー値のうち絶対値が最大となるスキュー値が最小となる特定の曲げ方向が計算により求められて、当該特定の曲げ方向に曲げられるので、スキューの悪化を抑制することができる。従って、スキューの小さな光通信を行うことができる。
【0062】
次に、マルチコア光ファイバ1の製造方法について説明する。
【0063】
図6は、マルチコア光ファイバ1の製造方法を示すフローチャートである。
図6に示すように、マルチコア光ファイバ1の製造方法は、準備工程P1、計算工程P2、配置工程P3、一体化工程P4、線引工程P5を主な工程として備える。
【0064】
<準備工程P1>
図7は、本工程で準備されるコアロッドとクラッドロッドとを示す図である。本実施形態では、マルチコア光ファイバのコアの数が7つとされるため、7本のコアロッド10r〜16rを準備する。それぞれのコアロッド10r〜16rは概ね円柱状の形状をしている。また、それぞれのコアロッド10r〜16rはコア10〜16となるものであるため、コアロッド10r〜16rはコア10〜16と同様の材料から成る。従って、それぞれのコア10〜16の屈折率が互いに異なる場合には、コアロッド10r〜16rの屈折率も互いに異なり、それぞれのコア10〜16の直径が互いに異なる場合には、コアロッド10r〜16rの直径も互いに異なる。なお、それぞれのコアロッド10r〜16rは、クラッド20の一部となる図示しないガラス膜で被覆されている。
【0065】
クラッドロッド20rは、概ねコアロッドと同じ長さであり、概ね円柱状の形状をしている。また、クラッドロッド20rには、それぞれのコアロッド10r〜16rを挿入するための貫通孔10h〜16hが形成されている。クラッドロッド20rはクラッド20となるため、クラッドロッド20rは、クラッドと同様の材料から成る。
【0066】
<計算工程P2>
本工程では、準備したコアロッド10r〜16rをクラッドロッド20rのそれぞれの貫通孔10h〜16hに挿入してマルチコア光ファイバ1を製造した場合を想定する。そして、上式(13)を用いて、一対のコアのスキュー値Sを求める。本工程では、一対のコアの全ての組み合わせについてスキュー値Sを求める。従って、上記のようにコアロッド10r〜16rをそれぞれの貫通孔10h〜16h内に配置してマルチコア光ファイバ1を製造した場合において、複数のコア10〜16における一対のコアの全ての組み合わせにおいてスキュー値Sの絶対値が最大である一対のコアの当該スキュー値Sが最小となるマルチコア光ファイバ1の特定の曲げ方向をコアロッド10r〜16rとクラッドロッド20rとの組において把握することができる。
【0067】
また、この特定の曲げ方向にマルチコア光ファイバを曲げた状態でのスキュー値Sの絶対値の最大値を求めることができる。この最大値が大きい場合には、少なくとも一部のコアロッドの配置位置を変えても良い。具体的には、コアロッド10r〜16rと貫通孔10h〜16hとを所定の組み合わせとする場合に、上記特定の曲げ方向にマルチコア光ファイバを曲げた状態において、絶対値が最大である当該スキュー値Sの大きさを求める。また、コアロッド10r〜16rと貫通孔10h〜16hとを他の組み合わせとする場合に、上記特定の曲げ方向にマルチコア光ファイバを曲げた状態において、絶対値が最大である当該スキュー値Sの大きさを求める。そして特定の方向に曲げる場合のスキュー値Sの大きさが最小となるように複数のコアロッド10r〜16rと貫通孔10h〜16hとの組み合わせを決定する。なお、本工程のように複数のコアロッド10r〜16rと貫通孔10h〜16hとの組み合わせを決定しなくても良いが、スキューを低減する観点から、上記のように組み合わせを決定することが好ましい。
【0068】
<配置工程P3>
図8は、配置工程P3後の様子を示す図である。本工程では、
図8に示すように、コアロッド10r〜16rをクラッドロッド20rの貫通孔10h〜16hにそれぞれ挿入する。このとき計算工程で決定されたコアロッド10r〜16rと貫通孔10h〜16hとの組み合わせに基づいて、コアロッド10r〜16rを貫通孔10h〜16hにそれぞれ挿入することが好ましい。こうしてそれぞれのコアロッド10r〜16rが配置された状態となる。
【0069】
<一体化工程P4>
図9は、一体化工程P3後の様子を示す図である。
図9に示すように、本工程では、クラッドロッド20r及びコアロッド10r〜16rの組を加熱してクラッドロッド20rとコアロッド10r〜16rとを一体化する。
【0070】
具体的には、クラッドロッド20rと、当該クラッドロッド20rの貫通孔10h〜16hに挿入されたコアロッド10r〜16rとが溶融炉に配置され加熱がなされる。この加熱によりクラッドロッド20rが収縮しそれぞれの貫通孔10h〜16hの直径が小さくなり、貫通孔10h〜16hにおける、コアロッド10r〜16rとクラッドロッド20rの隙間が埋まる。こうして、
図9に示すように、クラッドロッド20rとコアロッド10r〜16rの組とが一体とされてマルチコア光ファイバ用母材1pとされる。なお、上記計算工程P2において、複数のコア10〜16における一対のコアの組み合わせのうちスキュー値Sの絶対値が最大である一対のコアの当該スキュー値Sが最小となる特定の曲げ方向をマルチコア光ファイバ用母材1pにおいて把握することができる。
【0071】
<線引工程P5>
図10は、線引工程P5の様子を示す図である。まず、線引工程P5を行う準備段階として、クラッドロッド20rとコアロッド10r〜16rの組から成るマルチコア光ファイバ用母材1pを紡糸炉110に設置する。このとき上記計算工程P2において、複数のコア10〜16における一対のコアの組み合わせのうちスキュー値Sの絶対値が最大である一対のコアの当該スキュー値Sが最小となる特定の曲げ方向が所定の方向を向くようにマルチコア光ファイバ用母材1pを紡糸炉110に配置する。
【0072】
次に、紡糸炉110の加熱部111を発熱させて、マルチコア光ファイバ用母材1pを加熱する。このときマルチコア光ファイバ用母材1pの下端は、例えば2000℃に加熱され溶融状態となる。そして、マルチコア光ファイバ用母材1pからガラスが溶融して、ガラスが線引きされる。そして、線引きされた溶融状態のガラスは、紡糸炉110から出ると、すぐに固化して、コアロッド10r〜16rがコア10〜16となり、クラッドロッド20rがクラッド20となることで、複数のコア10〜16とクラッド20とから構成されるマルチコア光ファイバ素線となる。その後、このマルチコア光ファイバ素線は、冷却装置120を通過して、適切な温度まで冷却される。冷却装置120に入る際、マルチコア光ファイバ素線の温度は、例えば1800℃程度であるが、冷却装置120を出る際には、マルチコア光ファイバ素線の温度は、例えば40℃〜50℃となる。
【0073】
このとき本実施形態ではマルチコア光ファイバ素線に捩じれを加えない。つまり、本実施形態では、捩じれを加えずに線引きを行うのである。このため、線引きされるマルチコア光ファイバ素線には捩じれが加えられず、複数のコア10〜16は、クラッド20が直線状とされる場合に直線状とされる。
【0074】
冷却装置120から出たマルチコア光ファイバ素線は、内側保護層31となる紫外線硬化性樹脂が入ったコーティング装置131を通過し、この紫外線硬化性樹脂で被覆される。更に紫外線照射装置132を通過し、紫外線が照射されることで、紫外線硬化性樹脂が硬化して内側保護層31が形成される。次にマルチコア光ファイバは、外側保護層32となる紫外線硬化性樹脂が入ったコーティング装置133を通過し、この紫外線硬化性樹脂で被覆される。更に紫外線照射装置134を通過し、紫外線が照射されることで、紫外線硬化性樹脂が硬化して外側保護層32が形成され、
図1に示すマルチコア光ファイバ1となる。
【0075】
そして、マルチコア光ファイバ1は、ターンプーリー141により方向が変換され、リール142により巻取られる。
【0076】
こうして
図1に示すマルチコア光ファイバ1が製造される。
【0077】
以上説明したように本実施形態のマルチコア光ファイバの製造方法によれば、それぞれのスキュー値Sの最大値が最小となる特定の曲げ方向を把握してマルチコア光ファイバを製造することができる。従って、製造されるマルチコア光ファイバを当該特定の曲げ方向に容易に曲げることができ、スキューの悪化を抑制することができる。
【0078】
本工程では、複数のコア10〜16における一対のコアの組み合わせのうちスキュー値Sの絶対値が最大である一対のコアの当該スキュー値Sが最小となる特定の曲げ方向が所定の方向を向くようにマルチコア光ファイバ用母材1pを紡糸炉110に配置するため、出来あがるマルチコア光ファイバにおいて、当該特定の曲げ方向を容易に把握することができる。
【0079】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図11を参照して詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、同一の参照符号を付して特に説明する場合を除き重複する説明は省略する。
【0080】
図11は、本実施形態のマルチコア光ファイバを示す図である。本実施形態のマルチコア光ファイバは、捩じれが加えられている点において、第1実施形態のマルチコア光ファイバ1と異なる。具体的には、マルチコア光ファイバ1は、複数のコア10〜16が互いの相対的位置が変わらぬ状態でクラッド20の中心軸の周りを螺旋状にθ
1からθ
2の角度で連続的に回転するように、捩じれが加えられている。ただし、0度≦θ
1<θ
2<360度とされる。従って、マルチコア光ファイバ1は、所定の長さ毎に(θ
2−θ
1)の角度で一方の回転方向と他方の回転方向の捩じれが繰り返されている。
【0081】
ここで、本実施形態におけるx軸をクラッド20の中心から所定の径方向に延在し複数のコア10〜16との相対的位置がクラッド20の長手方向に沿って一定とされる軸とする。この場合、
図11に示すように、x軸、y軸を基準とすると、マルチコア光ファイバ1の捩じれに伴い、x軸とθ
1の角度をなす曲げ方向から、x軸とθ
2の角度をなす破線で示す曲げ方向に変化することになる。
【0082】
この場合、捩じれを考慮すると式(13)は、下記式(14)のように変形できる。
【数21】
ただし、上記のように0度≦θ
1<θ
2<360度であり、θはθ
1からθ
2まで連続的に変化する。
【0083】
式(14)で示されるスキュー値は、本実施形態のマルチコア光ファイバ1のコア10〜16における一対のコアの全ての組み合わせにおいて求めることができる。そこで、コア10〜16における一対のコアの全ての組み合わせのそれぞれにおいてスキュー値Sを求めて、それぞれのスキュー値Sのうち絶対値が最大である一対のコアの当該スキュー値に着目する。そして、マルチコア光ファイバ1を曲げる場合に、着目した当該スキュー値Sの大きさが最小となる方向を特定の曲げ方向とする。このことは、x軸とそれぞれのコア10〜16との相対的な位置を定めた後においては、着目した当該スキュー値Sの大きさが最小となるθ
1,θ
2を求めることに他ならない。こうして求めた特定の曲げ方向にマルチコア光ファイバ1を曲げることで、絶対値が最大のスキューを抑えることができ、スキュー値Sの標準偏差を小さくすることができる。つまり、本実施形態においても、マルチコア光ファイバ1は、複数のコア10〜16における一対のコアの全ての組み合わせにおいてスキュー値Sの絶対値が最大である一対のコアの当該スキュー値Sが最小となる特定の曲げ方向に曲げられて使用される。
【0084】
このようなマルチコア光ファイバ1を製造するには次のようにすればよい。
【0085】
すなわち、第1実施形態の計算工程P2において、準備したコアロッド10r〜16rをクラッドロッド20rのそれぞれの貫通孔10h〜16hに挿入してマルチコア光ファイバ1を製造した場合を想定する。このとき、θ
1からθ
2の角度で連続的に捩じれが加えられてマルチコア光ファイバ1が製造される前提とする。そして、上式(14)を用いて、一対のコアのスキュー値Sを求める。本実施形態の本工程においても、一対のコアの全ての組み合わせについてスキュー値Sを求める。従って、捩じれを加えてマルチコア光ファイバ1を製造した場合において、複数のコア10〜16における一対のコアの全ての組み合わせにおいてスキュー値Sの絶対値が最大である一対のコアの当該スキュー値Sが最小となるマルチコア光ファイバ1の特定の曲げ方向をコアロッド10r〜16rとクラッドロッド20rとの組において把握することができる。
【0086】
また、第1実施形態の場合と同様に、この特定の曲げ方向にマルチコア光ファイバを曲げた状態でのスキュー値Sの絶対値の最大値を求めることができるので、最大値に応じて少なくとも一部のコアロッドの配置位置を変えて、特定の方向に曲げる場合のスキュー値Sの大きさが最小となるように複数のコアロッド10r〜16rと貫通孔10h〜16hとの組み合わせを決定しても良い。
【0087】
また、特定の曲げ方向にマルチコア光ファイバを曲げた状態でのスキュー値Sの絶対値の最大値が小さくなるように捩じれの角度(θ
2-θ
1)を定めても良い。
【0088】
そして、第1実施形態の線引工程P5において、(θ
2−θ
1)の角度でマルチコア光ファイバ素線に連続的に捩じれを加えながら線引きする。こうして、
図11に示すように複数のコア10〜16がクラッド20の中心軸の周りを螺旋状に(θ
2−θ
1)の角度で連続的に回転するように捩じれが加えられたマルチコア光ファイバ1を得る。
【0089】
以上、本発明について、実施形態を例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0090】
例えば、コアの数や配置は上記実施形態に限らず適宜変更することが出来る。以下に上記実施形態の変形例を示す。なお、下記変形例を説明するにあたり、上記実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0091】
図1に示すように、上記実施形態のマルチコア光ファイバ1の断面における形状は、クラッド20、内側保護層31、外側保護層32のそれぞれで円形とされる。従って、マルチコア光ファイバ1はどの方向に曲げる場合であっても同様に曲がり易さを有している。しかし、マルチコア光ファイバ1は、スキュー値Sの絶対値が最大である一対のコアの当該スキュー値Sが最小となる特定の曲げ方向に曲がり易い構成を有することが好ましい。
図12は、このように特定の曲げ方向に曲がり易いマルチコア光ファイバを示す図である。
図12に示す通り、本変形例のマルチコア光ファイバは、クラッド20、内側保護層31、外側保護層32が楕円形である点において、第1実施形態のマルチコア光ファイバ1と異なる。本実施形態では、上記楕円の短軸方向すなわち
図12で示すy軸方向がスキュー値Sの絶対値が最大である一対のコアの当該スキュー値Sが最小となる特定の曲げ方向であるとする。この場合、短軸方向と特定の曲げ方向が一致するため、マルチコア光ファイバは、特定の曲げ方向に曲がり易い。従って、本変形例のマルチコア光ファイバによれば、特定の曲げ方向を然程意識せずとも、マルチコア光ファイバを適切に特定の曲げ方向に曲げることができる。なお、本変形例の場合には第2実施形態のような捩じれが加えられないことが好ましい。
【0092】
このように適切に特定の曲げ方向に曲げることができる構成として、光ファイバテープ心線とすることもできる。
図13は、マルチコア光ファイバテープ心線の例を示す図である。
図13に示すマルチコア光ファイバテープ心線は、複数の第1実施形態のマルチコア光ファイバ1が基材41上に配置されテープ42によりバンドルされている。この基材41とテープ42の作用により、それぞれのマルチコア光ファイバ1は、y軸方向に曲がり易い。従って、それぞれのマルチコア光ファイバ1において、複数のコアにおける一対のコアの全ての組み合わせにおいてスキュー値Sの絶対値が最大である一対のコアのスキュー値が最小となる特定の曲げ方向がy軸方向であれば良い。このような構成によってもマルチコア光ファイバ1を特定の曲げ方向に容易に曲げることができる。
【0093】
また、特定の曲げ方向に曲がり易いマルチコア光ファイバとしては、鋼線を保護層内に設けたり、クラッドの断面の形状をD型にすることが挙げられる。
【0094】
また、当該特定の曲げ方向に外部から視認可能な印が付加されていても良い。
図13は、特定の曲げ方向に印が付加されたマルチコア光ファイバ1の変形例を示す図である。スキュー値Sの絶対値が最大である一対のコアの当該スキュー値Sが最小となる特定の曲げ方向が
図13におけるθで示される方向であるとする。この場合に、外側保護層32に外周面に当該特定の曲げ方向を示す印33が付加されることで、マルチコア光ファイバの使用者は容易に特定の曲げ方向にマルチコア光ファイバを曲げることができる。しかも、マルチコア光ファイバを敷設する際に目視可能なため取り扱いが容易である。
【0095】
このような印は、マルチコア光ファイバの外側に付加される場合のみでは無い。
図15は、特定の曲げ方向にマーカーが付加されたマルチコア光ファイバを示す図である。
図15のマルチコア光ファイバにおいても
図13の変形例で示した方向が特定の曲げ方向であるとする。本例では、クラッド20の外周面の内側において、クラッド20の中心を基準とする特定の曲げ方向に、クラッドと異なる屈折率を有するマーカー21が配置される。このようにマーカー21を配置するには、配置工程P3において、クラッドロッド20rの中心を基準として、特定の曲げ方向にクラッド20と異なる屈折率を有するマーカーをクラッドロッド20rで囲まれるように配置すればよい。
【0096】
また、上記実施形態におけるマルチコア光ファイバ1の製造方法では、クラッドロッド20rに複数の貫通孔10h〜16hが形成される構成とされたが、例えば、クラッドロッド20rの代わりにクラッド20の一部となるクラッド管とクラッド20の他の一部となる複数のクラッドロッドを準備して、クラッド管の貫通孔内に、コアロッド10r〜16r及び複数のクラッドロッドを配置して、一体化しても良い。
【0097】
また、上記実施形態では、一体化工程P4を備えていたが、一体化工程P4を経ずに、クラッドロッド20rのそれぞれの貫通孔10h〜16h内にコアロッド10r〜16rが挿入された状態で、一体化せずに線引工程P5を行って、コアロッド10r〜16rとクラッドロッド20rとの組をマルチコア光ファイバ用母材として、コアロッド10r〜16rとクラッドロッド20rとを一体化しながら線引きを行っても良い。
【実施例】
【0098】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
図1に示すマルチコア光ファイバ1を作成した。マルチコア光ファイバ1の長さを200mとし、マルチコア光ファイバに捩じれが入らないようにした。そして、複数のコア10〜16における一対のコアの全ての組み合わせにおいてスキュー値Sの絶対値が最大である一対のコアの当該スキュー値Sを測定した。このとき、当該スキュー値Sが最小となる特定の曲げ方向にマルチコア光ファイバ1を曲げて、曲げ径毎にスキュー値Sを測定した。その結果を
図16に示す。
図16に示すようにスキュー値Sは曲げ径に依存することが確認できた。
【0100】
次に式(13)で求められるスキュー値Sと実測によるスキュー値とが整合しているか否かを確かめた。
図17では、すべてのコアの組み合わせのスキュー値について、式(13)で求めた場合と実測による場合の双方を1つの点でプロットして、横軸を実測値とし、縦軸を計算によるスキュー値としている。ここでのマルチコア光ファイバは、全長にわたって捩じれなく、任意のθ方向に曲げられるようにした。曲げ径Rは、R=45、75、155、192mm、それぞれの径について比較した。その結果を
図17に示す。
図17に示すように、式(13)で求められるスキュー値Sと実測によるスキュー値とが整合する結果となった。