(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動源から駆動輪に到る動力伝達経路に配設され、クラッチ機構を介して連結される第1回転体と第2回転体とを備え、前記クラッチ機構を締結して前記第1回転体と前記第2回転体との間で回転動力が伝達されるようにする車両用動力伝達機構であって、
前記クラッチ機構はクラッチドラム及びクラッチハブから構成され、該クラッチドラム及び該クラッチハブは前記第1回転体又は前記第2回転体の何れかに別々に取り付けられ、
前記クラッチドラムの径方向外側の外周部には、前記クラッチ機構の締結時に駆動されることがなく且つ、該クラッチ機構の非締結時に互いに同時に駆動されることがない複数のギヤが形成されることを特徴とする車両用動力伝達機構。
前記複数のギヤには、回転動力を伝達する動力伝達ギヤ又は前記第1回転体若しくは第2回転体の回転を拘束する回転拘束ギヤが含まれることを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達機構。
前記クラッチドラムの径方向内側には前記クラッチ機構を断続させるピストンを作動させるための油室が設けられ、該油室の隔壁部と前記複数のギヤの何れかは軸方向において重複するように形成されることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の車両用動力伝達機構。
前記複数のギヤは、前記油室の前記隔壁部に寄った状態で前記クラッチドラムの径方向外側の外周部に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の車両用動力伝達機構。
前記第1回転体はベルト式無段変速機構を構成する一のプーリであると共に、前記第2回転体は前記プーリのプーリ回転軸とは異なる回転軸であることを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達機構。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2に記載されている無段変速機のように、クラッチドラムの軸端部に遊星歯車機構のリングギヤを一体化する場合、クラッチドラムにはクラッチドラムのトルク伝達に係る回転負荷(クラッチ締結に係る回転負荷)に加えて、一体化されたリングギヤのトルク伝達に係る回転負荷が別途負荷されることになる。そのため、板厚増加または形状変更等によりクラッチドラムの強度・剛性を確保する必要が生じる。
【0008】
しかし、クラッチドラムの板厚増加または形状変更等は、クラッチドラムに組み合わされるクラッチハブ、隣接する部品の形状変更あるいは重量増加を伴うため、クラッチドラムの強度・剛性の確保は容易ではなかった。
【0009】
また、上記特許文献3に記載されている自動変速機のように、駆動ギヤのギヤ歯にパーキングギヤのギヤ歯を軸方向に沿って直列に一体に形成する場合、重量増加を抑えるために、駆動ギヤのギヤ歯とパーキングギヤのギヤ歯を隣接して形成する必要がある。
【0010】
しかし、駆動ギヤのギヤ歯とパーキングギヤのギヤ歯を隣接して形成する場合、ギヤ歯成形に係る生産技術(切削)の制約により、駆動ギヤの歯底径よりパーキングギヤ径を大径化することが出来ないという問題がある。なお、駆動ギヤのギヤ歯とパーキングギヤのギヤ歯との間に加工スペースを設けることによりパーキングギヤ径を大径化することは可能である。しかし、この場合、ギヤ全体の寸法が軸方向に拡大されるため、ギヤ全体の重量が増加することになる。
【0011】
従って、主となるギヤ歯(駆動ギヤのギヤ歯)に対し従となるギヤ歯(パーキングギヤのギヤ歯)を軸方向に沿って直列に一体に形成する場合、重量増加を抑えるためには、主となるギヤ歯(駆動ギヤのギヤ歯)と従となるギヤ歯(パーキングギヤのギヤ歯)を隣接して配置する必要があり、これにより従となるギヤ歯(パーキングギヤのギヤ歯)の配置(レイアウト)に係る自由度を狭めていた。
【0012】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであり、その目的は、クラッチドラムに複数のギヤ歯が一体化される場合、一体化されるギヤ歯のレイアウトに係る自由度が大きく且つクラッチドラムの強度・剛性の確保が容易となる車両用動力伝達機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明に係る車両用動力伝達機構では、駆動源から駆動輪に到る動力伝達経路に配設され、クラッチ機構(64)を介して連結される第1回転体(21)と第2回転体(14A)とを備え、前記クラッチ機構(64)を締結して前記第1回転体(21)と前記第2回転体(14A)との間で回転動力が伝達されるようにする車両用動力伝達機構であって、前記クラッチ機構(64)はクラッチドラム(64A)及びクラッチハブ(64B)から構成され、該クラッチドラム(64A)及び該クラッチハブ(64B)は前記第1回転体(21)又は前記第2回転体(14A)の何れかに別々に取り付けられ、前記クラッチドラム(64A)の径方向外側の外周部には、前記クラッチ機構(64)の締結時に駆動されることがなく且つ、該クラッチ機構(64)の非締結時に互いに同時に駆動されることがない複数のギヤ(53C、80)が形成されることを特徴とする。
【0014】
上記構成では、上記複数のギヤ(53C、80)は、クラッチドラム(64A)の径方向外側の外周部(64p)に形成される。クラッチドラム(64)の径方向外側の外周部(64p)は、ギヤ配置に対し十分なスペースを有しているため、ギヤのレイアウトに係る自由度が向上する。
【0015】
また、上記複数のギヤ(53C、80)は、クラッチ機構(64)の締結時に駆動されることがなく且つ、該クラッチ機構(64)の非締結時に互いに同時に駆動されることがない。つまり、クラッチドラム(64A)に伝達される回転負荷は、クラッチ締結に係る回転負荷、または上記複数のギヤの内の何れか一つのギヤ駆動に係る回転負荷である。そのため、上記複数のギヤをクラッチドラム(64A)に一体化する場合でも、クラッチ締結に係る回転負荷に対するクラッチドラム(64A)の現強度・剛性の範囲内あるいは軽微な設計変更(強度・剛性のアップ)によりクラッチドラム(64A)の強度・剛性を確保することが可能となる。すなわちクラッチドラム(64A)の強度・剛性の確保が容易となる。また、上記複数のギヤ(53C、80)がクラッチドラム(64A)の径方向外側の外周部(64p)に一体化されることにより、上記複数のギヤに係る円筒部分が省略されることになり機構全体の軽量化が可能となる。
【0016】
本発明の第2の特徴は、前記複数のギヤ(53C、80)には、回転動力を伝達する動力伝達ギヤ(53C)又は前記第1回転体(21)若しくは第2回転体(14A)の回転を拘束する回転拘束ギヤ(80)が含まれることである。
【0017】
上記構成では、クラッチドラム(64A)の径方向外側の外周部に一体化される複数のギヤとして、上記動力伝達ギヤ(53C)及び上記回転拘束ギヤ(80)が含まれることになる。これらのギヤは、クラッチ機構(64)の締結時に駆動されることがなく且つクラッチ機構(64)の非締結時に互いに同時に駆動されることがないギヤであるため、クラッチドラム(64A)に一体化されるギヤとして上記動力伝達ギヤ(53C)及び上記回転拘束ギヤ(80)が含まれることにより、クラッチドラム(64A)の強度・剛性の確保が容易となる。
【0018】
本発明の第3の特徴は、前記クラッチ機構(64)の径方向外側には前記複数のギヤの何れか(53C)に係合する軸(17)が配置されることである。
【0019】
上記構成では、上記クラッチ機構(64)の径方向外側には上記ギヤ(53C)に係合する軸(17)が配置されるため、上記軸(17)にギヤを別途追加することにより上記ギヤ(53C)の小径化が可能となる。クラッチドラム(64A)に一体化される上記ギヤ(53C)の小径化により、大トルクの伝達が防止され、これによりクラッチドラム(64A)の強度・剛性の確保が容易となる。また、上記ギヤ(53C)の小径化により、機構全体の軽量化に寄与することが可能となる。
【0020】
本発明の第4の特徴は、前記クラッチドラム(64A)の径方向内側には前記クラッチ機構(64)を断続させるピストン(6
4g)を作動させるための油室(64h)が設けられ、該油室(64h)の隔壁部(64q)と前記複数のギヤの何れか(80)は軸方向において重複するよう
に形成されることである。
【0021】
上記構成では、上記油室(64h)の隔壁部(64q)と上記ギヤ(80)は、軸方向において重複するよう
に形成される。つまり、上記ギヤ(80)は上記油室(64h)の隔壁部(64q)の真上(径方向外側)に形成される。上記油室(64h)の隔壁部(64q)は強度・剛性の高い部位(厚肉部)であるため、上記回転拘束ギヤ(80)が上記油室(64h)の隔壁部(64q)の真上(径方向外側)に形成されることにより、クラッチドラム(64A)の強度・剛性の確保が容易となる。
【0022】
本発明の第5の特徴は、前記複数のギヤ(53C、80)は、前記油室(64h)の前記隔壁部(64q)に寄った状態で前記クラッチドラム(64A)の径方向外側の外周部(64p)に形成されていることである。
【0023】
上記構成では、クラッチドラム(64A)に一体化される複数のギヤは上記油室(64h)の隔壁部(64q)に寄った状態で上記クラッチドラム(64A)の径方向外側の外周部(64p)に形成されているため、ギヤが配置されない径方向外側の外周部(64p)の板厚を小さくすることが可能となり、クラッチドラム(64A)の軽量化が可能となる。
【0024】
本発明の第6の特徴は、前記第1回転体(21)はベルト式無段変速機構(20)を構成する一のプーリ(21)であると共に、前記第2回転体(14A)は前記プーリ(21)のプーリ回転軸(14B)とは異なる回転軸(14A)である。
【0025】
上記構成では、ベルト式無段変速機構(20)を構成する一のプーリ(21)と、上記プーリ(21)のプーリ回転軸(14B)とは異なる回転軸(14A)との間におけるクラッチ機構(64)を介しての動力伝達に対し本発明を適用することが可能となる。
【0026】
本発明の第7の特徴は、前記回転軸(14A)は、車両の差動装置(28)に係合する最終駆動ギヤ(26)が設けられた最終駆動軸(14A)である。
【0027】
上記構成では、上記プーリ(21)と最終駆動軸(14A)との間におけるクラッチ機構(64)を介しての動力伝達に対し本発明を適用することが可能となる。
【0028】
本発明の第8の特徴は、前記動力伝達ギヤ(53C)は、車両の後進に係る回転動力を伝達するリバースギヤ(53C)であると共に、前記回転拘束ギヤ(80)は前記最終駆動軸(14A)の回転を拘束するパーキングギヤ(80)である。
【0029】
上記構成では、上記動力伝達ギヤ(53C)はリバースギヤ(53C)であり、上記回転拘束ギヤ(80)はパーキングギヤ(80)である。これらのギヤは、クラッチ機構(64)の締結時、すなわち上記プーリ(21)が駆動力を最終駆動軸(14A)に出力するときに駆動されることがなく且つ、クラッチ機構(64)の非締結時に互いに同時に駆動されることがないギヤであるため、クラッチドラム(64A)の強度・剛性の確保が容易となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の車両用動力伝達機構によれば、クラッチ機構(64)の締結時に駆動されることがなく且つクラッチ機構(64)の非締結時に互いに同時に駆動されることがない複数のギヤ(53C、80)をクラッチドラム(64A)の径方向外側の外周部に一体化することが可能となるため、機構全体に係る部品点数の削減、小型化および軽量化が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る車両用動力伝達機構を備えた変速機のスケルトン図である。同図に示す変速機1は、車両に搭載されたエンジン(駆動源)Eからの駆動力の回転を変速して駆動輪側に出力する変速機であって、エンジンEのクランクシャフト16と入力軸13との間に設置されたトルクコンバータ12を備えている。本実施形態に係る変速機1を備えた車両では、発進時の半クラッチ制御はトルクコンバータ12によって行われる。変速機1は、駆動源Eからトルクコンバータ12を介して接続された入力軸13と、入力軸13に対して平行に配置され内周軸14A及び外周軸14Bから成る同芯二重軸の第一出力軸14と、同じく入力軸13に対して平行に配置された第二出力軸15とを備える。
【0033】
入力軸13は、駆動源Eからの駆動力が入力される主入力軸13Aと、主入力軸13Aと回転中心が同じで第一クラッチ61を介して連結される中空の第一副入力軸13Bと、主入力軸13Aと回転中心が同じで第二クラッチ62を介して連結される第二副入力軸13Cとから構成される。第二副入力軸13Cは、第一副入力軸13Bの内部を貫通している。
【0034】
第一出力軸14の外周軸14Bと第二出力軸15との間には、無段変速機構20が配設される。無段変速機構20は、第一出力軸14の外周軸14Bに設けられた第一プーリ21(第1回転体)と、第二出力軸15に設けられた第二プーリ22と、第一プーリ21と第二プーリ22との間に巻き掛けられた無端ベルト23とを備える。第一プーリ21及び第二プーリ22の溝幅は油圧によって相互に逆方向に増減し、第一出力軸14の外周軸14B及び第二出力軸15間の変速比を連続的に変化させる。第一プーリ(第1回転体)21は、第一出力軸14の外周軸(プーリ回転軸)14Bに固定された第一固定プーリ21Aと、第一固定プーリ21Aに対して接近・離間可能な第一可動プーリ21Bとで構成される。また、第二プーリ22は、第二出力軸15に固定された第二固定プーリ22Aと、第二固定プーリ22Aに対して接近・離間可能な第二可動プーリ22Bとで構成される。
【0035】
入力軸13と第一出力軸14との間には、入力軸13に配設される第一伝達駆動ギヤ51Aと、第一出力軸14の外周軸(プーリ回転軸)14Bに配設される第一伝達従動ギヤ51Bとからなる第一伝達経路51が設けられている。
【0036】
入力軸13と第二出力軸15との間には、入力軸13に配設される第二伝達駆動ギヤ52Aと、第二出力軸15に配設される第二伝達従動ギヤ52Bとからなる第二伝達経路52が設けられている。
【0037】
入力軸13と第一出力軸14との間には、入力軸13に配設される第三伝達駆動ギヤ53Aと、第一出力軸14に配設される第三伝達従動ギヤ(動力伝達ギヤ、リバースギヤ)53Cと、第三伝達駆動ギヤ53Aと第三伝達従動ギヤ53Cとの間に配設される第三伝達アイドルギヤ53Bとからなる第三伝達経路53が設けられている。第三伝達アイドルギヤ53Bはアイドル軸(軸)17上に相対回転自在に支持されている。第三伝達アイドルギヤ53Bがあることによって、上記の3つのギヤ53A,53B,53Cからなるギヤ列は、駆動力の回転方向を逆転させて伝達するギヤ列として機能する。
【0038】
第一出力軸14と第二出力軸15との間には、第二出力軸15に配設される中間伝達駆動ギヤ54Aと、第一出力軸14に配設される中間伝達従動ギヤ54Cと、中間伝達駆動ギヤ54Aと中間伝達従動ギヤ54Cとの間に配設される中間伝達アイドルギヤ54Bとからなる第四伝達経路54が設けられている。中間伝達アイドルギヤ54Bはアイドル軸18上に相対回転自在に支持されている。ここで、
図1において、中間伝達アイドルギヤ54Bと中間伝達従動ギヤ54Cは隣接していないが、実際には、中間伝達アイドルギヤ54Bと中間伝達従動ギヤ54Cとは互いに隣接し、これらは互いに噛合(係合)している。
【0039】
入力軸13と同軸には、前後進切換機構70が配設される。前後進切換機構70は、入力軸13からの駆動力を第二伝達経路52に伝達するか第三伝達経路53に伝達するかを選択的に切り換えるように構成されている。入力軸13の第二副入力軸13Cには、第二伝達駆動ギヤ52A及び第三伝達駆動ギヤ53Aが相対回転自在に支持されており、前後進切換機構70のスリーブ71を中立位置から図中左に動かすと、第二伝達駆動ギヤ52Aと入力軸13の第二副入力軸13Cとが結合し、駆動力が入力軸13から第二伝達経路52側に伝達される。一方、前後進切換機構70のスリーブ71を中立位置から図中右に動かすと、第三伝達駆動ギヤ53Aと入力軸13の第二副入力軸13Cとが結合し、駆動力が入力軸13から第三伝達経路53側に伝達される。
【0040】
第一出力軸14の下流側には、第一出力軸14へ伝達された駆動力が出力される最終出力機構25が配設される。最終出力機構25は、第一出力軸14上に配設される最終駆動ギヤ26と、この最終駆動ギヤ26に噛み合う最終従動ギヤ27が外周に形成されたディファレンシャルギヤ(差動装置)28と、ディファレンシャルギヤ(差動装置)28で配分された駆動力を図示しない左右の駆動輪に伝達するための駆動軸29とを備える。
【0041】
また、本実施形態の変速機1は、動力伝達切替機構として4つのクラッチ(摩擦クラッチ)を備えている。具体的には、入力軸13から第一伝達経路51への動力伝達の有無を切り替える第一クラッチ(LOクラッチ)61と、入力軸13から第二伝達経路52への動力伝達の有無を切り替える第二クラッチ(HIクラッチ)62と、第二プーリ22から最終出力機構25への動力伝達の有無を切り替える第三クラッチ63と、第一プーリ21から最終出力機構25への動力伝達の有無を切り替える第四クラッチ64である。これら第一〜第四クラッチ61〜64は、いずれも油圧回路(図示せず)による油圧(作動油)の給排でその締結・解放の動作が制御されるようになっている。
【0042】
特に、第四クラッチ64のクラッチドラム64A(
図6)は第一出力軸14の内周軸(第2回転体、最終駆動軸)14Aと一体となって回転し、他方、第四クラッチ64のクラッチハブ64B(
図6)は第一プーリ(第1回転体)21の第一固定プーリ21Aと一体となって回転するように構成されている。
【0043】
また、クラッチドラム64Aの径方向外側の外周部には第一出力軸14の内周軸(第2回転体、最終駆動軸)14Aの回転を拘束するパーキングギヤ(回転拘束ギヤ)80が上記第三伝達従動ギヤ53と直列に軸方向に沿って設けられている。パーキングギヤ80はパーキングポール81(
図7)が係合することにより回転を拘束され、これにより第一出力軸14の内周軸(第2回転体、最終駆動軸)14Aの回転が拘束される。
【0044】
図2は、変速機の前進モードにおけるトルクフローを示す説明図である。
前進モードにおいて、エンジンEからの駆動力は
図2に示される通り、主入力軸13A→第二クラッチ62→第二副入力軸13C→前後進切換機構70→第二伝達経路52→第二プーリ22→無端ベルト23→第一プーリ21→第四クラッチ64→内周軸(最終駆動軸)14A→最終出力機構25という駆動力伝達経路に沿って駆動輪(図示せず)へ伝達される。この場合、第三伝達従動ギヤ53C及びパーキングギヤ80は回転駆動されないため、第四クラッチ64のクラッチドラム64Aは、クラッチ締結に係る回転負荷のみを受け、それ以外の回転負荷(第三伝達従動ギヤ53C及びパーキングギヤ80から伝達される回転負荷)を受けることはない。
【0045】
図3は、変速機1の後進モードにおけるトルクフローを示す説明図である。
後進モードにおいて、エンジンEからの駆動力は
図3に示される通り、主入力軸13A→第二クラッチ62→第二副入力軸13C→前後進切換機構70→第三伝達駆動ギヤ53A→第三伝達アイドルギヤ53B→第三伝達従動ギヤ53C→クラッチドラム64A→内周軸(最終駆動軸)14A→最終出力機構25という駆動力伝達経路に沿って駆動輪(図示せず)へ伝達される。この場合、第四クラッチ64は締結されないため、第四クラッチ64のクラッチドラム64Aは、第三伝達従動ギヤ53Cから伝達される回転負荷のみを受け、それ以外の回転負荷(第四クラッチ64の締結に係る回転負荷、並びにパーキングギヤ80から伝達される回転負荷)を受けることはない。
【0046】
図4は、変速機1の駐車モードにおけるトルクフローを示す説明図である。
駐車モードにおいて、駆動輪(図示せず)からの駆動力は
図4に示される通り、駆動輪→最終出力機構25→内周軸(最終駆動軸)14A→クラッチドラム64A→パーキングギヤ80という駆動力伝達経路に沿ってパーキングポール81(
図7)へ伝達される。この場合、第四クラッチ64は締結されないため、第四クラッチ64のクラッチドラム64Aは、パーキングギヤ80から伝達される回転負荷のみを受け、それ以外の回転負荷(第四クラッチ64の締結に係る回転負荷、並びに第三伝達従動ギヤ53Cから伝達される回転負荷)を受けることはない。
【0047】
図2から
図4に示される通り、第四クラッチ64のクラッチドラム64Aは、第四クラッチ64の締結に係る回転負荷(高速モードに係る回転負荷)、第三伝達従動ギヤ53Cから伝達される回転負荷(後進モードに係る回転負荷)、並びにパーキングギヤ80から伝達される回転負荷(駐車モードに係る回転負荷)のうちの何れか一つの回転負荷を受け、2以上の回転負荷を受けることはない。すなわち、第四クラッチ64の締結時においては、クラッチドラム64Aは第四クラッチ64の締結に係る回転負荷のみを受ける一方、第四クラッチ64の非締結時においては、クラッチドラム64Aは第三伝達従動ギヤ53Cから伝達される回転負荷あるいはパーキングギヤ80から伝達される回転負荷の何れか一つの回転負荷を受けることになる。
【0048】
図5は、本発明の車両用動力伝達機構が適用される第四クラッチ64周辺の部分断面図である。また、
図6は、
図5のA部分の拡大図である。
図5に示すように、変速機1の第一出力軸14は、内周軸14Aと外周軸14Bとを備える二重管構造になっている。内周軸14Aは、軸方向の両側の端部がそれぞれボールベアリング101とローラベアリング102とによってケーシング10に対して回転自在に支持されている。外周軸(プーリ回転軸)14Bは、内周軸14Aと同心軸上の外側に配置される中空の回転軸である。
【0049】
外周軸14Bは、ケーシング10に対してその外周側に設置されたボールベアリング105によって回転自在に支持されている。詳細には、外周軸14Bの外周面には、ピストン室111に供給される油圧により外周軸14B上を軸方向に移動する第一可動プーリ21Bと、外周軸14B上に固定されてピストン室111を形成してなるプーリカバー(カバー部材)118とが設置されている。そして、ボールベアリング105は、プーリカバー118の外周面上に設けられて該プーリカバー118を変速機1のケーシング10に対して回転自在に支持している。
【0050】
また、外周軸14B上のプーリカバー118に隣接する位置には、第一伝達従動ギヤ(以下、単に「ギヤ」という。)51Bが設置されている。このギヤ51Bは、外周軸14Bの軸方向の端部(図中右側の端部)14bの近傍における外周面上に設置されている。ギヤ51Bの歯面はハスバギヤで構成されている。これにより、ギヤ51Bが発生するスラスト荷重(軸方向の荷重)は該ギヤ51Bをプーリカバー118側へ付勢している。
【0051】
また、外周軸14Bの外周面には、径寸法が変化する段差部117が形成されている。プーリカバー118における軸方向の一方の端部(図の左側の端部)がこの段差部117に当接している。また、ギヤ51Bの軸方向の他方の端部(図中右側の端部)には、該ギヤ51Bの軸方向への移動を規制するナット(係止具)119が取り付けられている。これにより、段差部117とナット119との間にプーリカバー118とギヤ51Bとが挟まれていることで、それらの固定がなされている。
【0052】
外周軸14B上には、可動プーリ21Bを軸方向に駆動するための作動油の油圧が供給されるピストン室111が設けられている。そして、内周軸14Aの外周面と外周軸14Bの内周面との隙間には、作動油が流通する油路112が形成されている。内周軸14Aの内周側(軸芯部)の油路114から油路112に連通する第一連通路113と、油路112から外周軸14Bの外周側のピストン室111に連通する第二連通路115(115a,115b)とが設けられている。また、ニードルベアリング110に隣接する位置には、内周軸14Aの外周面と外周軸14Bの内周面との隙間(油路112)を密封するシールリング121が設置されている。シールリング121は、ニードルベアリング110に対して軸方向の一方の側(図中右側)に配置されており、第一連通路113及び第二連通路115は、ニードルベアリング110に対して軸方向の他方の側(図の左側)に配置されている。
【0053】
さらに、ニードルベアリング110に対して軸方向の一方(図の左側)で内周軸14Aと外周軸14Bとを相対回転自在に支持する他のニードルベアリング120が設けられている。ニードルベアリング120は、対向する外周軸14Bの内周面と常時接触している構造である。また、軸方向におけるニードルベアリング110とニードルベアリング120との間には、油路112の他方の端部(図の左側の端部)を密封するシールリング122が設置されている。
【0054】
内周軸14Aの内側の油路114に導入された作動油は、第一連通路113を通って内周軸14Aと外周軸14Bとの間の油路112に導かれる。油路112に導かれた作動油は、そこから第二連通路115を通って外周軸14Bの外側に設けたピストン室111に供給される。ここで、油路112は軸方向の両側の端部がそれぞれシールリング121とシールリング122で密封されている。そして、この油路112内にニードルベアリング110が配置されている。
【0055】
図6に示されるように、第四クラッチ64は、内周軸14Aの外周面にスプライン嵌合(結合)する有底円筒状のクラッチドラム64Aと、クラッチドラム64Aの内周面に係合する円形環状の平板からなる複数のクラッチプレート64aと、クラッチドラムに対して同心状に配置されて相対回転可能なクラッチハブ64Bと、クラッチハブ64Bの外周に係合する円形環状の平板からなる複数のクラッチディスク64bとを備える。クラッチプレート64aとクラッチディスク64bは、軸方向で交互に重ね合わされて配列されている。クラッチプレート64aとクラッチディスク64bの積層方向における一方の軸方向端部(図中右側)には、クラッチプレート64aとクラッチディスク64bとの積層体を受けるエンドプレート(図示せず)が設置されている。エンドプレートの右側に隣接する位置には、エンドプレートの軸方向移動を規制する規制部材(図示せず)が設置されている。
【0056】
クラッチドラム64Aの内周面には、軸方向に延びる複数のスプライン溝64eが円周方向に所定間隔で形成されており、クラッチプレート64aの外周には、スプライン溝64eと同数の突起状の歯部(図示せず)が形成されている。そして、クラッチドラム64Aのスプライン溝64eにクラッチプレート64aの歯部が軸方向へ摺動可能かつ相対回転不能に係合している。また、クラッチハブ64Bの外周面には、軸方向に延びる複数のスプライン溝64fが円周方向に所定間隔で形成されており、クラッチディスク64bの内周には、スプライン溝64fと同数の突起状の歯部(図示せず)が形成されている。そして、クラッチハブ64Bのスプライン溝64fにクラッチディスク64bの歯部が軸方向へ摺動可能かつ相対回転不能に係合している。
【0057】
クラッチドラム64A内には、クラッチピストン(押圧部材)64gが収容されている。クラッチピストン64gとクラッチドラム64Aとの隙間には、クラッチピストン室64hが画成されている。クラッチピストン室64hには、内周軸14A中の油路に連通する油路64iが形成され、この油路64iを介して作動油がクラッチピストン室64hに導入されるようになっている。クラッチピストン64gは、クラッチドラム64Aに対して軸方向に沿って相対移動可能に設置されており、その外周面とクラッチドラム64Aとの間には、クラッチピストン室64hを密封するためのシール部材64jが上下に設置されている。
【0058】
また、クラッチピストン64gの内側には、空洞部64nが形成されている。空洞部64nには内周軸14A中の油路に連通する油路64oが形成され、この油路64oを介して作動油が空洞部64nに導入されるようになっている。
【0059】
第1プーリ21の第1固定プーリ21Aには第四クラッチ64のクラッチハブ64Bが一体化(固設)されていると共に、クラッチドラム64Aは内周軸14Aの外周面にスプライン結合している。また、クラッチドラム64Aの一方の軸方向端部(図中右側)が、内周軸14Aの外周面に形成された段差部123に当接していると共に、他方の軸方向端部(図の左側)はボールベアリング101に当接している。なお、
図5に示されるように、ボールベアリング101のクラッチドラム64Aに当接しない側はワッシャ124を介してナット125によって締結されている。これにより、クラッチドラム64A及びボールベアリング101は段差部123とナット125との間に挟まれた状態で軸方向に対し固定されている。
【0060】
クラッチドラム64Aの径方向外側の外周部64pは、ギヤ配置に対し十分な、例えば軸方向長さDのスペースを有している。本実施形態では、クラッチピストン室64hの隔壁部64qの径方向外側(図中上部)に、パーキングギヤ80が形成され、第三伝達従動ギヤ53Cが軸方向に沿って直列に形成されている。つまり、第三伝達従動ギヤ53C及びパーキングギヤ80は、クラッチピストン室64hの隔壁部64qに寄った状態で軸方向に沿って直列に形成されている。このように隔壁部64qは強度・剛性の高い部位(厚肉部)であるため、クラッチピストン室64hの隔壁部64qに寄った状態で第三伝達従動ギヤ53C及びパーキングギヤ80を外周部64pに一体化することにより、クラッチドラム64の強度・剛性を確保することが容易となる。また、上記態様で第三伝達従動ギヤ53C及びパーキングギヤ80を外周部64pに一体化する場合、外周部64pの内、ギヤが配置されていない軸方向長さd1の部分については板厚を小さくして、クラッチドラム64Aを軽量化することが可能となる。なお、第三伝達従動ギヤ53Cは第三伝達アイドルギヤ53Bと常時噛み合っているのに対し、パーキングギヤ80は運転者がシフトレバー(図示せず)をPレンジに設定した場合にのみパーキングポール81(
図7)と係合するようになっている。このパーキングギヤ80とパーキングポール81との係合については
図7を参照しながら後述する。
【0061】
再び
図5に戻って、第三伝達従動ギヤ53Cの径方向外側にはアイドル軸17が配置されている。アイドル軸17の軸方向の一端はケーシング10に回転不能に取り付けられている。他方、軸方向の他端はボルト127によって支持部材126を介してケーシング10に固定されている。つまり、軸方向の他端は支持部材126によって支持されながら、支持部材126はボルト127によってケーシング10とアイドル軸17との間に締結されている。従って、アイドル軸17が支持部材126に当接する部位には、軸方向に直交したネジ穴17aが形成されている。
【0062】
アイドル軸17の外周面には段差17bが形成され、車両の後進モードに係る駆動力を伝達する第三伝達アイドルギヤ53Bが回転自在に取り付けられている。第三伝達アイドルギヤ53Bは段差17bと固定具128および係止具129によって挟まれながらアイドル軸17に対し相対回転自在に取り付けられている。なお、アイドル軸17と第三伝達アイドルギヤ53Bとの間にはニードルベアリング130が取り付けられている。
【0063】
図7は、本実施形態に係るパーキング機構を示す説明図である。
このパーキング機構は、パーキングギヤ80と係合するパーキングポール81と、パーキングポール81をパーキングギヤ80に選択的に係合/非係合させるパーキングロッド82と、パーキングロッド82を前後進させるフック式ロッド83と、パーキングロッド82をパーキングポール81に係合するように案内するロッドガイド84と、パーキングポール81の回動支点となるポールシャフト85と、ポールシャフト85を支持するシャフトホルダ86と、パーキングポール81がパーキングギヤ80に係合しないように付勢するコイルスプリング87と、フック式ロッド83の回転位置を保持するディテント88とを具備して構成される。
【0064】
パーキングポール81は、略細長平板状の形状を有し、パーキングギヤ80に対向する径方向外側にはパーキングギヤ80に係合する爪81aが形成され、爪81aの反対側にはパーキングロッド82と係合する係合部81bが形成されている。また、爪81aと反対側の端部はポールシャフト85によって回動可能に軸支持されながら、コイルスプリング87によって爪81aがパーキングギヤ80と係合しない回転位置に保持されている。
【0065】
パーキングロッド82は、略L字状のシャフト82aと、パーキングポール81の係合部81bと係合する、円柱体と半円錐体が2段に組み合わされた形状のカム体82bとから成る。シャフト82aの一端はフック式ロッド83のプレート83bに点Aを中心に揺動可能に取り付けられている。
【0066】
フック式ロッド83は、運転者のシフトレバー(図示せず)と連動して点Bを中心に回動するマニュアルシャフト83aと、マニュアルシャフト83aの先端に取り付けられた略扇形状のプレート83bとから成る。また、マニュアルシャフト83aの中心Bから離れた点A近傍にはパーキングロッド82が揺動可能に取り付けられている。従って、フック式ロッド83が点Bを中心に図中反時計方向または時計方向に回動することにより、それに応じてパーキングロッド82が点Aを中心に時計方向または反時計方向に揺動しながら図中下方または上方に変位するようになっている。
【0067】
また、プレート83bの外周には、ディテント部83cが形成されている。ディテント部83cは、シフトレバーが投入される各シフトレンジ(例えばPレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ、Lレンジ等)に対応する複数の凹凸を有している。なお、
図7は、シフトレバーがPレンジに投入され、パーキングポール81がパーキングギヤ80に係合している状態を示している。
【0068】
ロッドガイド84は、略円筒の形状を有し、パーキングロッド82のカム体82bがパーキングポール81の係合部81bに係合するように案内する。なお。ロッドガイド84はボルト89によってケーシング10に固定されている。
【0069】
ポールシャフト85は、一端をシャフトホルダ86によって支持され、他端をケーシング10によって支持されている。また、ポールシャフト85にはコイルスプリング87が巻き付けられている。コイルスプリング87の一端はパーキングポール81中に差し込まれ、他端はケーシング10に差し込まれている。
【0070】
シャフトホルダ86は、ボルト90,90によってケーシング10に固定されている。
【0071】
ディテント88は、一端をボルト91,92によってケーシング10に固定され他端を弾性変位可能な自由端とするディテントアーム88aと、ディテントアーム88aの先端部に回転可能に取り付けられフック式ロッド83のディテント部83cの凹部に弾接するディテントローラ88bとから成る。ディテントアーム88aは、図中下方に反った帯状の板バネから形成される。従って、フック式ロッド83のマニュアルシャフト83aの回動に伴いプレート83bが水平面内で回動すると、ディテントローラ88bがディテント部83cの凹部に順次に係合することで、シフトレバーが各シフトレンジに対応した所定位置に固定されるようになっている。
【0072】
以上の通り、本発明に係る車両用動力伝達機構によれば、第一プーリ21が出力する駆動力を第一出力軸14の内周軸14Aに選択的に伝達する第四クラッチ64のクラッチドラム64Aの径方向外側の外周部64pに対し、変速機1の後進モードに係る駆動力を内周軸14Aに伝達する第三伝達従動ギヤ53Cと、変速機1の駐車モードにおいて内周軸14Aの回転を拘束するパーキングギヤ80とが軸方向に沿って直列に一体に形成されている。第三伝達従動ギヤ53C及びパーキングギヤ80は、第四クラッチ64の締結時に駆動されることがなく且つ、第四クラッチ64の非締結時(解放時)に互いに同時に駆動されることがないため、クラッチドラム64Aの強度・剛性を確保することが容易となる。
【0073】
また、第三伝達従動ギヤ53C及びパーキングギヤ80が形成されるクラッチドラム64Aの径方向外側の外周部64pは、ギヤ配置に対し十分なスペースを有しているため、ギヤのレイアウト、特にパーキングギヤのレイアウトに係る自由度が向上する。
【0074】
また、第三伝達従動ギヤ53C及びパーキングギヤ80は、クラッチピストン室64hの隔壁64qに寄った状態で軸方向に沿って直列に形成されている。これによりクラッチドラム64Aの強度・剛性の確保が容易となると共に、ギヤが配置されていない径方向外側の外周部64pの板厚を小さくすることが可能となり、これによりクラッチドラム64Aの軽量化が可能となる。
【0075】
また、第四クラッチ64の径方向外側に第三伝達従動ギヤ53Cに係合するアイドル軸17が配設されていることにより、第三伝達従動ギヤ53Cの小径化が可能となり、これにより変速機1の軽量化に寄与することが可能となる。
【0076】
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態の一例を説明してきたが、本発明の実施形態は上記実施例だけに限定されるものではない。すなわち、本発明に係る技術的特徴の要旨を変更しない範囲において種々の変更・修正を加えることが可能である。例えば、プーリと軸との間の動力伝達機構だけでなく、自動変速機構(AT)に係る歯車と軸との間の動力伝達機構に対しても本発明を適用することが可能である。