特許第6226979号(P6226979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6226979摩擦クラッチのトルクリミッタに用いられる絞りユニット、その絞りユニットを備える摩擦クラッチ、及び、その摩擦クラッチを備える自動車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226979
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】摩擦クラッチのトルクリミッタに用いられる絞りユニット、その絞りユニットを備える摩擦クラッチ、及び、その摩擦クラッチを備える自動車
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20171030BHJP
   B60K 17/02 20060101ALI20171030BHJP
   F16K 47/10 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   F16D48/02 600B
   B60K17/02 F
   F16K47/10
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-522021(P2015-522021)
(86)(22)【出願日】2013年6月25日
(65)【公表番号】特表2015-524542(P2015-524542A)
(43)【公表日】2015年8月24日
(86)【国際出願番号】EP2013063255
(87)【国際公開番号】WO2014012751
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2016年6月22日
(31)【優先権主張番号】102012212450.0
(32)【優先日】2012年7月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【復代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(72)【発明者】
【氏名】ヤン グラーベンシュテッター
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−326017(JP,A)
【文献】 特開平2−261929(JP,A)
【文献】 実開昭62−46881(JP,U)
【文献】 実開昭55−82528(JP,U)
【文献】 実開昭55−78835(JP,U)
【文献】 独国特許出願公開第19811337(DE,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第2423529(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/02
B60K 17/02
F16K 47/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦クラッチ(3)のトルクリミッタ(2)に用いられる絞りユニット(1)であって、該絞りユニット(1)が、以下の構成要素:すなわち、
流体のための流入部(4)を有しており、該流入部(4)が、流出部(5)に入口(29)を介して流れ接続されており;
絞り体(7)と弾性的なエレメント(8)とを収容するためのハウジング(6)を有しており、該ハウジング(6)が、前記流入部(4)と前記流出部(5)との間に配置されており、
前記絞り体(7)が、1つのメインオリフィス(9)と、2つのサブオリフィス(10,11)とを有しており、(a)前記絞り体(7)が、前記流出部(5)の入口(29)に接触することによって、前記流入部(4)と前記流出部(5)との間に前記1つのメインオリフィス(9)を介してのみ流れ接続部が提供されるようになっている第1の切換状態と、(b)前記絞り体(7)が、弾性的なエレメント(8)によって入口(29)から間隔を置いて配置されている第2の切り替え状態との間を移動可能である、絞りユニットにおいて、
弾性的なエレメント(8)に対する対向受け部材を成すスリーブ(12)がさらに設けられており、該スリーブ(12)が、弾性的なエレメント(8)に応力を加えるために位置調整可能であることを特徴とする、絞りユニット。
【請求項2】
前記ハウジング(6)が、外側ハウジング(13)によって取り囲まれており、前記ハウジング(6)と前記外側ハウジング(13)との間に通路(14)が形成されており、
前記スリーブ(12)は、前記ハウジング(6)内に位置固定されており、かつ、前記通路(14)への流れ接続部を成す通流可能な開口(15)を有しており、
前記流出部(5)は、前記通流可能な開口(15)と連通しており、
前記流入部(4)と前記流出部(5)との間での圧力降下に基づき、前記ハウジング(6)が、前記外側ハウジング(13)内部で、前記外側ハウジング(13)に対して、前記流入部(4)または前記流出部(5)の方向に移動させられることによって前記通路(14)が開閉可能である、請求項1記載の絞りユニット。
【請求項3】
前記流出部(5)の前記入口(29)が、前記流入部(4)内に押し込まれると、前記ハウジング(6)が、前記流出部(5)に設けられたシール部材(18)と接触することによって、前記通路(14)が密封可能である、請求項2記載の絞りユニット。
【請求項4】
前記絞り体(7)が前記入口(29)に接触している前記第1の切換状態の間には、絞り体(7)が、第1の流体衝突可能な面積(31)を有しており、絞り体(7)が入口(29)から離反している第2の切換状態の間には、絞り体(7)が、第2の流体衝突可能な面積(16)を有しており、該第2の流体衝突可能な面積(16)に対する第1の流体衝突可能な面積(31)の比が、0.5よりも小さく、前記1つのメインオリフィス(9)は、前記絞り体(7)の前記第1の流体衝突可能な面積(31)の領域に設けられており、前記2つのサブオリフィス(10,11)は、前記絞り体(7)の、前記第1の流体衝突可能な面積(31)を除く前記第2の流体衝突可能な面積(16)の領域に設けられている、請求項1または2記載の絞りユニット。
【請求項5】
前記第2の流体衝突可能な面積(16)に対する第1の流体衝突可能な面積(31)の比が0.25以下である、請求項4記載の絞りユニット。
【請求項6】
絞り体(7)が、ハウジング(6)内回転しないようにされている、請求項1からまでのいずれか1項記載の絞りユニット。
【請求項7】
前記1つのメインオリフィス(9)と、前記2つのサブオリフィス(10,11)のうちの少なくとも1つのサブオリフィス(10,11)とが、流入部(4)から流出部(5)に向かって先細りにされている、請求項1から6までのいずれか1項記載の絞りユニット。
【請求項8】
出力軸(19)をパワートレーン(20)に液圧式の作動システム(21)によって解離可能に接続するための摩擦クラッチ(3)において、液圧式の作動システム(21)が、スレーブシリンダ(22)と、マスタシリンダ(23)と、請求項1から7までのいずれか1項記載の絞りユニット(1)とを有しており、流入部(4)が、スレーブシリンダ(22)に向けられており、流出部(5)が、マスタシリンダ(23)に向けられていることを特徴とする、摩擦クラッチ。
【請求項9】
自動車(24)において、該自動車(24)が、出力軸(19)を備えた駆動ユニット(25)と、パワートレーン(20)と、請求項8記載の摩擦クラッチ(3)とを有しており、駆動ユニット(25)が、自動車(24)内でキャビン(26)の前方にかつ自動車(24)の長手方向軸線(27)に対して横方向に配置されていることを特徴とする、自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦クラッチのトルクリミッタに用いられる絞りユニットであって、該絞りユニットが、摩擦クラッチの可能な限り迅速な切換を許容するのと同時に過度に迅速な係合によって過剰のトルクが伝達されることを阻止するために調整されている、絞りユニットに関する。
【0002】
先行技術に基づき、液圧管路が公知である。この公知の液圧管路では、スレーブシリンダに接続された流入部側およびマスタシリンダに接続された流出部側が、切換絞り体を備えている。このような切換絞り体は多数のオリフィスを有している。これらのオリフィスのうちの少なくとも1つが中心に配置されている。スレーブシリンダが係合解除される場合には、作動液が、流出部側を介して多数のオリフィスを通って流入部側に流れ、したがって、スレーブシリンダを操作する。これに対して、スレーブシリンダが係合し、その際、たとえば高い係合速度に基づき、絞り体を介した圧力降下が大きい場合には、絞り体を流出部側から間隔を置いて配置するばねが圧縮され、ひいては、少なくとも1つの中心のオリフィスだけが通流可能となる。これによって、逆流が遅延させられる。この場合、圧力降下に対する抵抗としてのばね力が、絞り体の切換挙動に大きな影響を与えてしまうことが不利である。ばねはその長さと力との間の比において大きな変動を受けることが多い。これによって、先行技術の液圧管路では、感じ取ることができるほどの差が生じてしまう。特に係合解除力に対して制限値で設計されているシステムでは、ばね力の誤差を無視することができない。
【0003】
これらのことを出発点として、本発明の課題は、先行技術に基づき公知の欠点を少なくとも部分的に克服することである。この課題は、独立請求項の特徴によって解決される。有利な改良態様は、従属請求項の対象である。
【0004】
本発明は、液圧式の摩擦クラッチのトルクリミッタに用いられる絞りユニットであって、該絞りユニットが、以下の構成要素:すなわち、
流体のための流入部を有しており、該流入部が、流出部に流れ接続されており;
絞り体と弾性的なエレメントとを収容するためのハウジングを有しており、該ハウジングが、流入部と流出部との間に配置されており、
絞り体が、少なくとも1つのメインオリフィスと、少なくとも1つのサブオリフィスとを有しており、絞り体が、流出部の入口にもたらされるようになっていて、流入部と流出部との間に少なくとも1つのメインオリフィスによってのみ流れ接続部が提供されるようになっているか、または絞り体が、弾性的なエレメントによって入口から間隔を置いて配置されている、絞りユニットに関する。この絞りユニットは、弾性的なエレメントに対する対向受け部材を成すスリーブがさらに設けられており、該スリーブが、弾性的なエレメントに応力を加えるために位置調整可能であることを特徴としている。
【0005】
絞りユニットは、過剰な(動的な)圧力降下を阻止するために調整されており、これによって、1つには、液圧的なエレメントが損傷せず、もう1つには、摩擦クラッチの過度に急激な切換挙動が阻止される。トルクリミッタによって、マスタシリンダの切換力に抗してスレーブシリンダを遅延させて係合させ、ひいては、過剰のトルクの伝達を阻止することが可能となる。この動作は、たいてい急激であるので、その結果として生じる作動液の速度を絞りユニットを介して減少させたい。このために、流入部と流出部との間に、1つのメインオリフィスと、少なくとも1つのサブオリフィスとを備えた絞り体が設けられている。この絞り体は、弾性的なエレメントによって予荷重力で流入部側のストッパに向かって押圧される。したがって、絞り体は、流入部側の圧力が、少なくとも流出部側の圧力と予荷重力との総和よりも少ない場合には、入口に対して間隔を置いて位置している。このように補償された圧力状況の状態では、また、スレーブシリンダの係合時、すなわち、流出部に流入部よりも高い(動的な)圧力が加えられている場合でも、絞り体が流出部の入口から間隔を置いて配置されて、絞り体と入口との間に絞り体室が形成されるようになっている。したがって、少なくとも1つのメインオリフィスだけでなく、少なくとも1つのサブオリフィスも、入口から流入部へと、逆に、流入部から入口へと通流可能となる。流入部内の(動的な)圧力が、流出部内の圧力と予荷重力との総和よりも大きい逆のケースでは、絞り体が予荷重力に抗して流出部の方向で入口に向かって押圧され、これによって、少なくとも1つのメインオリフィスだけが、流入部から流出部への流れを許容するようになっている。これによって、時間あたりの流れ体積が大幅に制限され、液圧的な構成要素の損傷が阻止される。絞り体はハウジング内に配置されている。このハウジング内では、弾性的なエレメントが絞り体に予荷重力を加える。この予荷重力は、絞りユニットの特性において重要な因子を成している。弾性的なエレメントの予荷重力を正確に調整することができるようにするために、スリーブがさらに設けられている。このスリーブは、弾性的なエレメントに対する対向受け部材を成していて、ひいては、絞りユニットを通常の場合に流出部から間隔を置いて配置している。スリーブは組付け時に位置調整可能であり、これによって、弾性的なエレメントの所望のばね力を調整することができる。スリーブは、たとえばハウジング内にねじ込まれてもよいし、弾性的なエレメントに所要の予荷重力が加えられるまで、プレス嵌めによって押し込まれてもよい。また、スリーブは、規定された組付け位置を有していて、複数の部分から形成されていて、たとえばディスクによって所望の予荷重力が少なくとも無段階に調整可能であってもよい。弾性的なエレメントの予荷重力は、運転中、流入部から流出部への動的な圧力降下を介して上回ることができ、別のエレメント、たとえば磁気切換部材によって達成することができる。
【0006】
絞りユニットの別の態様では、ハウジングが、外側ハウジングによって取り囲まれており、ハウジングと外側ハウジングとの間に通路が形成されており、流入部と流出部との間での圧力降下に基づき、ハウジングによって通路が開閉可能である。
【0007】
ハウジングは外側ハウジング内で案内される。ハウジングの案内部には、切欠きが設けられており、これによって、この切欠きが作動流体に対して通流可能となる。たとえば、外側ハウジングまたはハウジングが歯列を有しており、これによって、ハウジングの周方向にわたって、多数の流れ接続部が通路を形成している。流出部側における増圧または流入部側における減圧に基づき、流出部と流入部との間での圧力降下が大きくなると、ハウジングが外側ハウジング内で移動させられ、通路を開放する。したがって、流出部と流入部との間の流れ接続部が、少なくとも1つのメインオリフィスと、少なくとも1つのサブオリフィスとを介して付与されているだけでなく、ハウジングと外側ハウジングとの間の通路を介しても付与されている。したがって、スレーブシリンダの方向への過剰に迅速な流速が生じてしまうことなしに、スレーブシリンダを迅速に操作することができる。
【0008】
絞りユニットの別の態様では、スリーブが、ハウジング内に位置固定されていて、通路への流れ接続部を成す通流可能な開口を有している。
【0009】
弾性的なエレメントに対する位置調整可能な対向受け部材を成すスリーブは、有利には流出部の流出開口の下流側に配置されているので、スリーブに開口が設けられていない限り、スリーブが、ハウジングと外側ハウジングとの間の通路に対する出入を遮断してしまう。開口によって、ハウジングと、絞り体と、弾性的なエレメントと、スリーブとから成る予め組付け可能なアッセンブリを形成することが可能となる。このアッセンブリは、次いで、外側ハウジング内に挿入されさえすればよい。
【0010】
絞りユニットの別の態様では、絞り体が入口に接触している第1の切換状態の間には、絞り体が、第1の流体衝突可能な面積を有しており、絞り体が入口から離反している第2の切換状態の間には、絞り体が、第2の流体衝突可能な面積を有しており、該第2の流体衝突可能な面積に対する第1の流体衝突可能な面積の比が、0.5よりも小さく、特に0.25以下であり、好適には、1つのメインオリフィスと、2つのサブオリフィスとが設けられている。
【0011】
絞り体がハウジングから離反している場合の第2の状態における第2の流体衝突可能な面積は、絞り体の外側横断面積と、通流可能な面積との差から得られる。絞り体がハウジングに接触している場合の第1の切換状態における第1の流体衝突可能な面積は、絞り体の、流入部に向かって露出した面積と、通流可能な面積との差から得られる。先行技術では、絞りユニットの所望の特性を達成することができるようにするために、大きな第2の流体衝突可能な面積を形成することが必要であった。しかし、本発明に係る絞りユニットによって、絞り体の第1の流体衝突可能な面積を少なく保つことが可能となる。これによって、先行技術に対して、離反した状態における第2の流体衝突可能な面積を変えずに、スリーブと絞り体との間の狭い誤差を排除することができる。つまり、ギャップを介した最大限に許容される減圧(ΔPmax)は、第1の(接触した状態で)流体衝突可能な面積(A)と、第2の(離反した状態で)流体衝突可能な面積(A)との間の比と逆の関係:すなわち、
ΔPmax=ΔP(1−A/A
にある。
【0012】
したがって、より少ない製造誤差で、絞りユニットの改善された特性を達成することが可能となる。
【0013】
絞りユニットの別の態様では、絞り体が、ハウジング内に回転に対して位置固定されている。
【0014】
たとえばハウジングおよび絞り体に設けられた相応の溝と嵌合形状とによる回転に対する位置固定によって、少なくとも1つのメインオリフィスと少なくとも1つのサブオリフィスとの配置をハウジングの1つの開口に向けて持続的に位置決めすることが可能となる。
【0015】
絞りユニットの別の有利な態様では、入口が、流入部内に押し込まれていて、シール部材によって密封されており、ハウジングが、シール部材によって流出部側で密封可能である。
【0016】
有利には、入口が、流入部内に押し込まれていて、シール部材、たとえばシールリングを介して静的に密封されている。ハウジングは、シール部材に向かって押圧されてよく、これによって、ハウジングが流出部側で密封可能となる。これによって、付加的な構成部材なしに、ハウジングの外側の作動液のオーバフローが付加的に接続可能となることが達成される。
【0017】
絞りユニットの別の有利な態様では、少なくとも1つのメインオリフィスと、少なくとも1つのサブオリフィスとが、流入部側から流出部側に向かって先細りにされている。
【0018】
少なくとも1つのメインオリフィスと少なくとも1つのサブオリフィスとの先細りによって、流入部側から流出部側に過圧が加えられる場合には、絞り効果が最小限に抑えられる。なぜならば、絞り体の通流深さが、最も狭幅の横断面に減じられるからである。絞り効果によって、液体の粘度ひいては温度に関連した圧力降下が発生させられる。これに対して、(理想的な)絞り体での圧力降下には、粘度によって影響が与えられない。これによって、温度に関して絞り体の不変の切換特性が得られる。
【0019】
本発明の別の観点によれば、出力軸をパワートレーンに液圧式の作動システムによって解離可能に接続するための摩擦クラッチも提案される。液圧式の作動システムは、スレーブシリンダと、マスタシリンダと、上述した絞りユニットとを有しており、流入部が、スレーブシリンダに向けられており、流出部が、マスタシリンダに向けられている。
【0020】
トルクは、駆動ユニットから出力軸を介して放出され、パワートレーンによって運動または力に変換される。摩擦クラッチは、出力軸とパワートレーンとの間に接続を形成するかもしくはこの接続を解除可能にする。摩擦クラッチのこの解除もしくは切換は、液圧式の作動システムを介して実現される。この液圧式の作動システムは、摩擦クラッチの摩擦セットの摩擦パートナ同士を分離するかまたは結合し、これによって、トルクが伝達されるかまたは分離されるようになっている。このためには、液圧式の作動システムが、摩擦セットに作用するスレーブシリンダと、更には、所望の切換力を発生させるマスタシリンダとを有している。スレーブシリンダとマスタシリンダとの間には、上述した絞りユニットが設けられており、これによって、体積流量が通流時に制限される。マスタシリンダが、増加させられた圧力を設定している場合には、流出部から流入部への正の圧力降下が生じる。これによって、絞り体が流出部の入口から間隔を置いて位置し、全てのオリフィスを通って通流可能となる。有利な態様では、同じくハウジングも押圧され、これによって、ハウジングと外側ハウジングとの間の通路が開放されており、通流が、正の圧力降下の大幅な増大を発生させないようになっている。負の圧力、すなわち、流入部もしくはスレーブシリンダに、流出部もしくはマスタシリンダに比べて増加させられた圧力が加えられると、好適な態様では、ハウジングが押し戻され、これによって、ハウジングと外側ハウジングとの間の通路が閉鎖される。さらに、絞り体が、弾性的なエレメントの予荷重力の超過時に押し戻され、これによって、もはや少なくとも1つのメインオリフィスしか通流可能とならない。負の圧力降下が再び減少して、弾性的なエレメントの力がより大きくなると、絞り体が再び流出部から押し離され、オリフィスが再び全て通流可能となる。これによって、過剰な負の圧力降下が強力に絞られるのと同時にスレーブシリンダの迅速な係合が可能となることが達成される。
【0021】
本発明の別の観点によれば、自動車も提案される。この自動車は、出力軸を備えた駆動ユニットと、パワートレーンと、上述した摩擦クラッチとを有しており、駆動ユニットが、自動車内でキャビンの前方にかつ自動車の長手方向軸線に対して横方向に配置されている。
【0022】
液圧式の摩擦クラッチは、特に小さなサイズの自動車、たとえば小型車の場合に有利である。それにもかかわらず、小さな構成サイズの摩擦クラッチにおいて、この摩擦クラッチの良好な切換挙動を達成するためには、本発明に係る絞りユニットを使用することが有利である。
【0023】
今日、大部分の自動車は前輪駆動式であるので、好適には、駆動ユニット、たとえば内燃機関または電気モータをキャビンの前方にかつ主走行方向に対して横方向に配置している。このような配置形態の場合には、まさに構成スペースが特に少ないので、小さな構成サイズのクラッチを使用することが特に有利となる。
【0024】
欧州の分類による小型車(Bセグメント)クラスの乗用車における構成スペース状況は厳しくなっている。小型車クラスの乗用車に使用されるユニットは、これよりも大型の車両クラスの乗用車に比べてそれほど縮小されていない。それにもかかわらず、小型車において提供される構成スペースは著しく小さくなっている。上述した絞りユニットは、小さな構成スペースに対して少ないクリアランスでクラッチを許容する。なぜならば、絞りユニットによって、クラッチの極めて精確な切換が可能となるからである。乗用車は、たとえばサイズ、価格、重量、性能に応じて車両クラスに分類される。この定義は、市場の要求による絶え間ない変遷を免れない。合衆国市場では、欧州の分類による小型車および最小型車(Aセグメント)のクラスの車両が、サブコンパクトカーのクラスに対応しており、英国市場では、これが、スーパーミニ、たとえばシティーカーのクラスに対応している。最小型車クラスの例は、Volkswagen社のFox(登録商標)またはRenault社のTwingo(登録商標)である。小型車クラスの例は、Alfa Romeo社のMito(登録商標)、Volkswagen社のPolo(登録商標)、Ford社のFiesta(登録商標)またはRenault社のClio(登録商標)である。
【0025】
特許請求の範囲に個々に記載した特徴は、科学技術的に有利な任意の形式で互いに組合せ可能であり、明細書に基づき説明する実態および図面に基づく詳細によって補われてよい。この場合には、本発明の更なる変化形態が挙げられる。
【0026】
本発明ならびに技術的な周辺を図面に基づき以下に詳しく説明する。図面には、特に好適な複数の実施の形態が示してある。しかしながら、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。特に指摘しておくと、図面、特に図示のサイズ状況は概略的なものでしかない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】絞りユニットの断面図である。
図2】絞り体を備えたハウジングの正面図である。
図3図1に示したような絞り体を備えたハウジングを90°だけ回動させた断面図である。
図4】トルクリミッタを示す図である。
図5】自動車を示す図である。
【0028】
図1には、流入部4と流出部5とを備えた絞りユニット1が示してある。流入部4と流出部5との間には、絞り体7を備えたハウジング6が設けられている。絞り体7は、1つの中心のメインオリフィス9と、2つのサブオリフィス10,11とを有している。絞り体7は弾性的なエレメント8によって、ハウジング6に設けられたストッパに向かって押圧される。このとき、弾性的なエレメント8に対する対向受け部材をスリーブ12が成している。図1では、弾性的なエレメント8に所要の予荷重が発生させられるまで、スリーブ12がプレス嵌めによってハウジング6内に押し込まれている。絞り体7は、流出部5の入口29から間隔を置いて配置されており、これによって、絞り体室30が形成されている。この絞り体室30によって、サブオリフィス10,11が入口29を介して流出部5に流れ接続されている。これに対して、たとえば流入側におけるより高い動的な圧力によって、弾性的なエレメント8に加えられている予荷重力が超過されると、絞り体7が入口29に向かって押圧され、これによって、メインオリフィス9だけが入口29を介して流出部5に流れ接続される。この圧力降下は、絞りユニット1の動的な切換状態でのみ生じる。
【0029】
ハウジング6は外側ハウジング13内に収納されている。ハウジング6と外側ハウジング13との間には、通路14が形成されている。図示の状態では、この通路14が、流出部5に設けられたシール部材18へのハウジング6の接触によって閉鎖されている。流出部5の側に(動的な)圧力が加えられると、スリーブ12に設けられた通流可能な開口15によって、ハウジング6が流入部4の方向に移動させられて、通路14が開放され、作動液が、通流可能な開口15と通路14とを通って流入部4に通流することができる。上述した逆の圧力降下時には、ハウジング6がシール部材18に向かって押圧され、これによって、通路14が閉鎖されている。
【0030】
図2には、ハウジング6の正面図が示してある。この正面図には、絞り体7のメインオリフィス9と、第1のサブオリフィス10と、第2のサブオリフィス11とを認めることができる。メインオリフィス9と、第1のサブオリフィス10と、第2のサブオリフィス11とは、通流可能な面積17を形成している。図2では、絞り体7の第2の面積16がハウジング6によって隠されているので、破線で示してある。第2の面積16は、絞り体7の、ハウジング6のストッパから離反している第2の切換状態において流過される。ハウジング6のストッパに接触している第1の切換状態では、絞り体7の第1の流体衝突可能な面積31しか流過されない。この第1の流体衝突可能な面積31はハウジング6によって露出されている。
【0031】
図3には、図1に示した絞り体7を備えたハウジング6が、90°だけ回動させた断面図で示してある。この断面図に認めることができるように、絞り体7はハウジング6内に回動に対して位置固定された状態で支承されており、絞り体7の、流入部4に向かって露出している面積、すなわち、第1の流体衝突可能な面積31の割合が、ハウジング6に接触している位置では、ハウジング6から離反している位置に比べて小さくなっている。
【0032】
図4には、たとえば図1に示した絞りユニット1を中央に有するトルクリミッタ2が概略的に示してある。図4では、流入部4がスレーブシリンダ22に接続されており、流出部5がマスタシリンダ23に接続されている。
【0033】
図5には、駆動ユニット25を備えた自動車24が示してある。駆動ユニット25は、入力軸19を介して摩擦クラッチ3によって、純粋に概略的に図示したパワートレーン20に結合されている。図5では、駆動ユニット25が、自動車24の長手方向軸線27に対して横方向のエンジン軸線28を備えて、自動車24のキャビン26の前方に配置されている。摩擦クラッチ3は、絞りユニット1(図示せず)を有していてよい液圧式の作動システム21を有している。絞りユニット1によって、小さな横断面にもかかわらず、十分な切換圧および切換速度を達成することが可能となるのと同時にトルク制限が可能となり、これによって、より小さな構成サイズを有する摩擦クラッチ3を使用することができる。
【0034】
本発明に係る絞りユニットによって、より大きな構成スペースを必要とすることなしに、ばねの誤差範囲を補償すること、絞り体とハウジングとに、より大きな遊びを与えること、加えて、外側ハウジングとハウジングとの間の通路による大きな通流容積に基づき、スレーブシリンダの迅速な係合解除を達成することが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
1 絞りユニット
2 トルクリミッタ
3 摩擦クラッチ
4 流入部
5 流出部
6 ハウジング
7 絞り体
8 弾性的なエレメント
9 メインオリフィス
10 第1のサブオリフィス
11 第2のサブオリフィス
12 スリーブ
13 外側ハウジング
14 通路
15 通流可能な開口
16 離反している第2の切換状態における第2の流体衝突可能な面積
17 通流可能な面積
18 シール部材
19 出力軸
20 パワートレーン
21 液圧式の作動システム
22 スレーブシリンダ
23 マスタシリンダ
24 自動車
25 駆動ユニット
26 キャビン
27 長手方向軸線
28 エンジン軸線
29 入口
30 絞り体室
31 接触している第1の切換状態における第1の流体衝突可能な面積
図1
図2
図3
図4
図5