【実施例】
【0048】
以下、実施例により、本発明についてさらに具体的に説明を行うが、本発明の趣旨を超えない限り何ら以下の実施例に限定されるものではない。まず最初に、温感積層体に利用する温感剤による温感効果の確認を行った。
【0049】
(遠赤外線発生剤および赤外線吸収剤による温感効果の確認)
本発明に係る温感積層体10は、赤外線の吸収を高めるとともに遠赤外線による輻射エネルギーを利用して、温感効果を得ている。そこで下記条件で、遠赤外線発生剤および赤外線吸収剤による温感効果の確認を行った。
・試験方法
10cm×10cmに裁断した試料を発砲スチロール板の上に設置する。試料に対してレフランプによる照射を行い、試料表面温度をサーモグラフィーを用いて15分間測定する。
・環境条件
室温 :20±2℃
湿度 :65±4%RH
測定時間:照射15分間
ランプと試験片の間隔:50cm
ランプ :レフランプ(500W)
照射面 :プリント面
測定面 :プリント面
サーモグラフィー :日本アビオニクス(株) TVS−200EX
※測定値は並べた試料(約10cm×10cm)中央部の直径約5cm円の平均値
とする。
[表1]
時間(分) 測定温度(℃)
加工品 未加工品
0 20.1 20.0
1 30.9 24.9
2 35.2 27.6
3 37.6 29.5
4 39.0 30.8
5 39.8 31.5
6 40.2 31.9
7 40.9 32.6
8 41.1 32.4
9 41.4 32.8
10 41.3 32.8
11 41.4 32.9
12 41.7 33.1
13 41.6 33.1
14 41.9 33.4
15 41.9 33.5
【0050】
表1に示すように、加工品(遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤を含む生地)と未加工品(遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤を含まない生地)では測定温度に明らかな温度差が生じているのが分かる。3分経過後にはすでに8℃以上の温度差が生じており、この状態が15分経過後まで保たれている。このように、温感剤として遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤とを合わせて使用することで、確かな温感効果が得られることが分かった。
【0051】
(赤外線吸収剤による温感効果)
上記試験結果より、遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤を含むことで、良好な温感効果が得られることが分かった。ここで、赤外線吸収剤を含むことによる蓄熱性についての確認を行った。
・試験方法
加工布の上方26cmにランプを設置し、照射中の加工布表面の温度測定を行った。ランプはレフランプRF100V90W/D(Panasonic製)を用いた。また、生地なし(段ボール表面)の温度測定を行った場合との温度差(10分後)について表2にまとめた。
加工品1〜加工品4の条件
加工品1:赤外線吸収剤(生地に30%混合)
加工品2:赤外線吸収剤(生地に50%混合)
加工品3:赤外線吸収剤(生地に10%混合)+遠赤外線発生剤(生地に10%混合)
加工品4:遠赤外線発生剤(生地に10%混合)
[表2]
加工品1 加工品2 加工品3 加工品4
温度差(℃) 1.9 2.6 2.9 1.9
【0052】
表2に示すように、赤外線吸収剤と遠赤外線発生剤の両方を含む加工品3が生地なしに対して1番温度差があった。このことから、遠赤外線発生剤のみ(加工品1、加工品2)、または、赤外線吸収剤のみ(加工品4)を温感剤とするよりも、含有量が少なくても遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤の両方を温感剤とするほうが、良好な温感効果が得られることが明らかとなった。
【0053】
(吸湿発熱剤による温感効果の確認)
本発明に係る温感積層体10は、遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤に加えて温感剤16として吸湿発熱剤を入れることで、温感効果を得ている。そこで下記条件で、吸湿発熱剤による温感効果の確認を行った。
・試験方法
試験片を4つ折りにして内部に熱電対温度センサーを取り付け、恒温恒湿機の中で20℃、40%RHの環境下で2時間処理した後、20℃、90%RHの環境に変化させたときの温度変化を1分ごとに15分間測定する。加工品と未加工品を同時に測定し、上昇温度を比較する。
・環境条件
測定時間:30分間
試験室温度:20±2℃
湿度 :初期 40±3%RH
加湿時 90±5%RH
測定面 :プリント面
[表3]
加工品 未加工品
試験開始温度(℃) 20.2 20.3
最高到達温度(℃) 21.3 21.1
上昇温度(℃) 1.1 0.8
【0054】
表3に示すように、未加工品に比べて加工品のほうが温度上昇が高い結果となった。このように吸湿発熱剤を利用することで、従来の衣類用積層体よりも良好な温感効果が得られることが分かった。
【0055】
(消臭剤による消臭効果の確認)
本発明に係る温感積層体は、温感剤とともに銀ゼオライトのような消臭剤を温感積層体に入れることで、吸着作用を利用して消臭効果を得ることが出来る。そこで下記条件で、銀ゼオライトによる消臭効果の確認を行った。
※(社)繊維評価技術協議会の機器分析実施マニュアルに基づく。
・試験方法
(A)ガスクロマトグラフ法
試験片を入れた500mL容三角フラスコに臭気成分溶液を滴下し密閉後、2時間放置後のピーク面積を測定する。
(B)検知管法
試験片を入れたサンプリングバッグに3Lの臭気ガスを封入し、2時間放置後のガス濃度を検知管で測定する。
消臭剤 :銀ゼオライト
初期ガス濃度:アンモニア 100ppm 検知管法による測定
酢酸 30ppm 検知管法による測定
イソ吉草酸 約38ppm ガスクロマトグラフィー法による測定
測定時間 :2時間後
試料サイズ :アンモニア、酢酸 100cm2
イソ吉草酸 50cm2
[表4]
試料 減少率(%)
アンモニア 酢酸 イソ吉草酸
温感積層体 95 98 98
【0056】
表4に示すように臭気としてのアンモニア、酢酸、イソ吉草酸それぞれに対して95%以上の減少率が得られた。このように本発明の温感積層体に銀ゼオライトのような消臭剤を入れることによって、温感効果と同時に消臭効果も得ることが出来る。
【0057】
次に、本発明に係る温感積層体の本実施例において使用した評価方法について説明する。
(温感効果試験)
温感積層体の温感効果を確認するための試験を行った。試験には衣類に用いられる生地を使用し、下記にて詳しく説明する実施例1および比較例1、比較例2の温感積層体と一体化した生地を制作する。10cm×10cmの試料を断熱材上に設置し、試料に対してレフランプによる照射を行い、サーモグラフィーを用いて試料表面温度の測定を行った。
・環境条件
室温 :20±2℃
湿度 :65±4%RH
測定時間:照射15分間、消灯15分間
ランプ :レフランプ(500W)
サーモグラフィー:日本アビオニクス(株) TVS−200EX
照射面 :プリント面
測定面 :プリント面
※測定値は試料(10cm×10cm)中央部の直径約5cm円の平均値とした。
【0058】
(耐洗濯性試験)
温感積層体の耐洗濯性を確認するための試験を行った。実施例1および比較例1、比較例2の温感積層体10を貼り付けた生地に対して、以下の条件による洗濯試験を行った。
・試験方法
洗濯方法:JIS L 0217 103法
洗濯機:二層式家庭用電気洗濯機
洗濯方法詳細:浴比 :1:30
水流 :強
洗い :5分(水温:40℃)
すすぎ回数 :2回(水温:30℃以下)
洗濯洗剤 :洗濯用合成洗剤(市販品)
乾燥 :脱水後、吊干し
【0059】
実施例1
熱硬化性樹脂(ウレタン樹脂(PU))とパウダー状の熱可塑性樹脂(ポリウレタン樹脂(TPU))との樹脂混合物(ユニ化成株式会社製:UNIBINDERシリーズ(商標)のSA−BA)に温感剤16として遠赤外線発生剤(オーケム通商株式会社製:遠赤パウダーOC−Si(商標))と赤外線吸収剤(明成化学工業製:メイカフレッシュSSK(商標))と吸湿発熱剤(日本エクスラン工業製:エクス(登録商標))を入れて、表面層をシルクスクリーン印刷により制作する(具体的な配合量)。この時、剥離可能なフィルム上に表面層を印刷する。その後、
図1に示すような積層として接着層をシルクスクリーン印刷により製作し、乾燥工程を経て、温感ラベル10を製作した。この時の表面層12の厚さは50μm、接着層の厚さは120μmとした。このようにして製作した温感積層体10を、150℃に熱したアイロンで15秒間〜20秒間かけて熱圧着することで、温感積層体10を貼り付けた生地が得られた。また、温感積層体10はシルクスクリーン印刷に限らず、例えばロールコーターやグラビア印刷等の別の方法で製作しても良い。
比較例1
表面層12に熱硬化性樹脂を使用して、温感剤16として遠赤外線発生剤(オーケム通商株式会社製:遠赤パウダーOC−Si(商標))と赤外線吸収剤(明成化学工業製:メイカフレッシュSSK(商標))と吸湿発熱剤(日本エクスラン工業製:エクス(登録商標))を入れて温感ラベルを製作し、150℃に熱したアイロンで15秒〜20秒かけて熱圧着することで、温感ラベル10を貼り付けた生地を得た。それ以外の工程は実施例1と同様である。
比較例2
表面層12が熱硬化性樹脂とパウダー状の熱可塑性樹脂との樹脂混合物(ユニ化成株式会社製:UNIBINDERシリーズ(商標)のSA−BA)として、温感剤16である遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤と吸湿発熱剤を入れずに温感積層体10を製作し、150℃に熱したアイロンで15秒〜20秒かけて熱圧着することで、温感積層体10を貼り付けた生地を得た。それ以外の工程は実施例1と同様である。
【0060】
実施例1〜比較例2の条件
実施例1:熱硬化性樹脂/パウダー状の熱可塑性樹脂あり/温感剤あり
比較例1:熱硬化性樹脂/パウダー状の熱可塑性樹脂なし/温感剤あり
比較例2:熱硬化性樹脂/パウダー状の熱可塑性樹脂あり/温感剤なし
【0061】
−涼感効果の試験結果−
[表5]
時間(分) 測定温度(℃)
上昇時(照射) 下降時(消灯)
実施例1 比較例1 比較例2 実施例1 比較例1 比較例2
0 20.5 20.8 20.7
1 25.1 25.8 25.2 30.0 29.7 29.4
2 28.0 29.0 28.6 27.4 27.1 26.8
3 30.0 31.0 30.9 25.9 25.6 25.3
4 31.6 32.2 32.3 24.9 24.6 24.2
5 32.7 32.8 33.0 24.3 23.9 23.5
6 32.5 33.6 33.7 23.7 23.5 23.1
7 34.1 34.0 34.1 23.4 23.2 22.7
8 34.4 34.2 34.1 23.1 23.0 22.5
9 34.5 34.4 33.9 22.8 22.8 22.3
10 34.9 34.6 34.4 22.6 22.6 22.1
11 35.3 34.8 34.6 22.4 22.5 22.0
12 35.0 34.9 34.2 22.4 22.4 21.9
13 35.5 34.8 34.8 22.2 22.3 21.8
14 35.5 34.8 34.6 22.1 22.3 21.7
15 35.2 35.0 34.4 22.0 22.1 21.6
【0062】
上記表5に示すように、温度上昇時(照射時)において、比較例1および比較例2に比べて実施例1の温感効果が一番良好であることが分かる。そして温度下降時(消灯時)においても、比較例1、比較例2に比べて実施例1は温度を高く維持しているのが分かる。これは、比較例1に使用している樹脂は熱硬化性樹脂のみであるため、温感剤としての吸熱発熱剤に水分が届くことがないため、実施例1と比べて、その分の効果が得られていないものと考えられる。また、実施例1に使用している樹脂では、熱圧着によって熱硬化性樹脂が硬化する際に、パウダー状の熱可塑性樹脂の隙間のある状態で硬化しているため、厳密に言えば遠赤外線効果を遮る部分が減少していることとなる。もともと遠赤外線効果は微弱なエネルギーであるため、このわずかな隙間の影響により、本試験結果に影響を及ぼしているものと推測出来る。そして比較例2は、表面層(樹脂層)として熱硬化性樹脂とパウダー状の熱可塑性樹脂を使用しているが、温感剤を何も入れていないため、実施例1に比べて低い数値となったと言える。
【0063】
このように、上記の試験結果によって、熱硬化性樹脂とパウダー状の熱可塑性樹脂が混合されている場合であって、且つ、温感剤として遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤と吸湿発熱剤が樹脂層(表面層12)に含まれている場合にのみ、安定した温感効果が得られることが分かった。
【0064】
−耐洗濯性の試験結果−
[表6]
洗濯回数 温感効果
実施例1 比較例1 比較例2
0 ○ ○ ○
1 ○ ○ ○
5 ○ ○ ○
10 ○ ○ ○
全体評価 良い 良い 良い
○:洗濯後に洗濯前と同等の温感効果が得られていることを指す。
×:洗濯後に洗濯前の温感効果がほとんど得られていないことを指す。
【0065】
上記表6に示すように、実施例1および比較例2は洗濯回数が5回、10回の時でも、洗濯をしていない状態(洗濯回数が0回の時)と変わらず、良好な温感効果を得られており、耐洗濯性に優れていることが分かった。当然ながら、比較例1(従来の熱硬化性樹脂を使用している積層体)も良好な結果となった。これは、熱処理や湿度、乾燥等の影響による硬化(被膜化)によって、温感積層体の耐洗濯性および耐摩耗性(堅牢度)がしっかりと維持されていることをあらわしている。また、一般的に、生地に温感加工が施されている温感生地では、洗濯をするたびに温感剤が少しずつ落ちてしまい、温感効果が弱くなる傾向があると言われている。
これに対し、上記試験結果から、本発明の温感積層体は、表面層に耐水性の優れた被膜を施した従来の積層体と同様な耐洗濯性が得られていることが分かる。
【0066】
以上のように本発明の温感積層体は衣類に簡単に印刷や貼り付けが可能であるとともに、遠赤外線効果や空気中の水分や着ている人の汗等により温感効果が得られ、且つ、耐洗濯性も維持している。また本発明の温感積層体は、衣類内側への貼り付けも可能であり、この場合は従来の衣類の意匠性を変えずに、良好な温感効果が得られる衣類を得ることが出来る。
さらに、本発明の温感積層体に消臭剤を加えることで、温感効果と共に消臭効果も同時に得ることが出来る。つまり、上記実施例1に消臭剤を加えることで、衣類等に対する消臭対策も温感効果と同時に得ることが出来る。そして本発明の温感積層体は洗濯・乾燥をすることで、良好な温感効果および消臭効果を維持することが可能となる。