特許第6227045号(P6227045)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227045
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】温感積層体
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/005 20060101AFI20171030BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20171030BHJP
   B32B 27/26 20060101ALI20171030BHJP
   D06M 17/00 20060101ALI20171030BHJP
   A41D 31/00 20060101ALN20171030BHJP
【FI】
   A41D13/005 101
   B32B27/18 Z
   B32B27/26
   B32B27/18 F
   D06M17/00 K
   D06M17/00 B
   !A41D31/00 501A
   !A41D31/00 501J
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-83020(P2016-83020)
(22)【出願日】2016年4月18日
(65)【公開番号】特開2017-193788(P2017-193788A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2016年12月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000141222
【氏名又は名称】株式会社丸仁
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(74)【代理人】
【識別番号】100188260
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 愼二
(72)【発明者】
【氏名】雨森 正次郎
(72)【発明者】
【氏名】石原 由隆
【審査官】 笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−069869(JP,A)
【文献】 特開2013−177721(JP,A)
【文献】 特開2007−146323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 1/00
A41D 13/005
A41D 27/00 〜 27/08
A41D 31/00
B32B 1/00 〜 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣類に一体化させて使用する温感積層体であって、
当該温感積層体は、1層以上の樹脂層から形成されており、
前記樹脂層のうち少なくとも1層は、50〜80質量%の固体状の熱硬化性樹脂と50〜20質量%のパウダー状の熱可塑性樹脂との樹脂混合物を含む層であって、
前記樹脂混合物を含む層のうち少なくとも1層に遠赤外線発生剤および赤外線吸収剤の両方またはいずれか一方を含むことを特徴とする温感積層体。
【請求項2】
請求項1に記載の温感積層体であって、
前記樹脂層のうち少なくとも1層に吸湿発熱剤を含むことを特徴とする温感積層体。
【請求項3】
請求項1および請求項2の何れかに記載の温感積層体であって、
前記樹脂層のうち少なくとも1層は、熱可塑性樹脂と架橋剤を含むことを特徴とする温感積層体。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかに記載の温感積層体であって、
当該温感積層体は、表面層と接着層の2層から形成されており、
前記接着層が、衣類と接する方向へ接着可能であって、
前記表面層は前記樹脂混合物であり、該表面層は遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤と吸湿発熱剤のうちの何れかを含むことを特徴とする温感積層体。
【請求項5】
請求項4に記載の温感積層体であって、
前記接着層は、ウレタン系又はポリエステル系樹脂の何れか1つを含み、
100℃から180℃の熱を前記接着層に加えることによって、衣類と、当該温感積層体とを、接着することを特徴とする温感積層体。
【請求項6】
請求項4および請求項5の何れかに記載の温感積層体であって、
前記接着層の積層方向の厚さは、150μm以下であることを特徴とする温感積層体。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れかに記載の温感積層体であって、
当該温感積層体は、衣類へ直接印刷して形成されることを特徴とする温感積層体。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れかに記載の温感積層体であって、
前記樹脂層のうち少なくとも1層は1液型樹脂を含み、
前記1液型樹脂は、遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤と吸湿発熱剤のうちの何れかを有し、
当該温感積層体は、衣類へ直接印刷して形成することを特徴とする温感積層体。
【請求項9】
請求項1から請求項8の何れかに記載の温感積層体であって、
前記樹脂層のうち少なくとも1層に消臭剤を含むことで消臭効果が得られることを特徴とする温感積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衣類に一体化させて使用する積層体に関し、特に、良好な温感を体感できる積層体の開発に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冬用の肌着や靴下などの衣類において、身に着けている人を可能な限り温かくするためのさまざまな工夫がなされている。例えば、遠赤外線効果を利用して温感効果が得られる衣類や、水蒸気などの水分を含むことにより部分的に温感を体感出来る衣類などがあり、さまざまな工夫がなされた衣類が実現されている。これら技術を使用した衣類について具体的な例を以下に示す。
【0003】
・遠赤外線を放射する熱転写マーク:遠赤外線を放射する平均粒径約5μm以下のセラミックス粉末を樹脂に混合させることによって、柔軟性を有するとともに温感が体感出来る熱転写マーク(特許文献1)が開示されている。この熱転写マークを衣類へ貼り付けることにより、衣類を着ている人は温感を得ることが出来る。
【0004】
・吸湿発熱を利用した繊維製品:アクリル繊維に架橋処理を施した架橋アクリル繊維を含む生地を衣類等に縫い付けることによって、吸湿発熱による温感効果や血行促進効果を部分的に体感できる衣類(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−69869号
【特許文献2】実用新案登録第3196381号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、衣類に上記のような工夫をすることで温感は体感出来るものの、例えば遠赤外線を放射する熱転写マーク(特許文献1)では、近赤外線に比べて遠赤外線は波長が長いとは言え、実際には温感効果が得られる輻射エネルギーは体の表面までしか届かない。そもそも遠赤外線による温感効果は、セラミックス粉末などが着ている人からの体温を熱エネルギーとして吸収し、暖められた熱を輻射エネルギーとして着ている人に戻すことによるものである。したがって、寒さの影響などで体温が低くなってしまった場合や、あるいは着ている人から体温を吸収しても熱をすぐに放出してしまうような生地では、遠赤外線による温感効果は著しく減少してしまう。さらに、特許文献1の熱転写マークでは、耐久性を得るために遠赤外線を発生するセラミックス粉末が生地(および保護層)に完全に覆われているため、生地自体に温感効果のある輻射エネルギーが奪われてしまう可能性があり、実際に体感出来る温感は微量なものになってしまう恐れがある。
【0007】
そして、吸湿発熱による温感効果が部分的に得られる衣類(特許文献2)のように、単純に吸湿発熱による温感機能を有する繊維を衣類に使用することは可能であるが、洗濯耐久性が良いとは言え、過度な洗濯により吸湿作用が衰えて、温感効果が低下してしまう可能性がある。仮に耐洗濯性を上げるために一般的な衣類用の積層体と同じように耐水性の優れた被膜化を施してしまうと、水分を含むことが出来ずに吸湿発熱による温感効果を得ることが出来なくなってしまう。
【0008】
そこで、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、従来の衣類用の積層体に遠赤外線効果や吸湿発熱効果を維持させつつ、さらに赤外線によるエネルギーを吸収しやすくするとともに耐洗濯性を向上させることで、良好な温感効果が得られることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みて行われたものであって、その目的は、温感積層体を衣類に印刷または貼り付けた後に、当該温感積層体から良好な温感が体感でき、且つ、洗濯や伸縮に対しての堅牢度も維持している温感積層体を提供することにある。さらに、本発明は、衣類等の臭気対策も考慮し、温感効果とともに消臭効果も同時に得られる温感積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、衣類に一体化させて使用する温感積層体であって、
当該温感積層体は、1層以上の樹脂層から形成されており、
前記樹脂層のうち少なくとも1層に遠赤外線発生剤および赤外線吸収剤の両方またはいずれか一方を含むことを特徴とする。
【0011】
すなわち、本発明に係る温感積層体は、1層以上の樹脂層で形成されており、該樹脂層に各種の温感剤を入れることで、良好な温感を体感でき、且つ、洗濯や伸縮に対しての堅牢度も維持している。ここで、温感積層体とは、例えば転写ラベルのように衣類へ転写して使用するものや、衣類へ直接印刷して形成されるラベルのようなものであり、また、これらに限定されるものではない。
【0012】
また、上記発明に係る温感積層体は、
前記樹脂層のうち少なくとも1層は、熱硬化性樹脂とパウダー状の熱可塑性樹脂との樹脂混合物であって、
前記樹脂混合物のうち少なくとも1層に遠赤外線発生剤および赤外線吸収剤の両方またはいずれか一方を含むことを特徴とする。
【0013】
すなわち、本発明に係る温感積層体は、1層以上の樹脂層に熱硬化性樹脂とパウダー状の熱可塑性樹脂を混合した樹脂混合物を使用し、該樹脂混合物に各種の温感剤を入れることで、温感を体感でき、且つ、洗濯や伸縮に対しての堅牢度も維持している。また樹脂混合物の割合は、熱硬化性樹脂10〜90質量%とパウダー状の熱可塑性樹脂90〜10質量%とすることが好ましく、特に好ましくは熱硬化性樹脂50〜80質量%とパウダー状の熱可塑性樹脂50〜20質量%であることが好適である。
【0014】
また、上記発明に係る温感積層体は、
前記樹脂層のうち少なくとも1層に吸湿発熱剤を含むことを特徴とする。
【0015】
すなわち、本発明に係る温感ラベルは、1層以上の樹脂層に吸湿発熱剤を含むことで、上記遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤のみを温感剤とした温感積層体よりも、さらに良好な温感効果が期待でき、且つ、洗濯や伸縮に対しての堅牢度も維持している。
【0016】
また、上記発明に係る温感積層体は、
前記樹脂層のうち少なくとも1層は、熱可塑性樹脂と架橋剤を含むことを特徴とする。
【0017】
すなわち、本発明に係る温感積層体は、1層以上の樹脂層に熱可塑性樹脂と架橋剤を使用し、さらに該樹脂層に各種の温感剤を入れて熱圧着または熱処理を行うことにより、温感を体感でき、且つ、洗濯や伸縮に対しての堅牢度も維持している。また、架橋剤の割合は、樹脂層に対して1〜15質量%とすることが好ましく、特に好ましくは2〜10質量%であることが好適である。
【0018】
また、上記発明に係る温感積層体は、
当該温感積層体は、表面層と接着層の2層から形成されており、
前記接着層が、衣類と接する方向へ接着可能であって、
前記表面層は前記樹脂混合物であり、該表面層は遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤と吸湿発熱剤のうちの何れかを含むことを特徴とする。
【0019】
すなわち、本発明に係る温感積層体は、表面層と接着層の2層を有しており、該接着層によって衣類への貼り付けが可能となる。
【0020】
また、上記発明に係る温感積層体は、
前記接着層は、ウレタン系又はポリエステル系樹脂の何れか1つを含み、
100℃から180℃の熱を前記接着層に加えることによって、衣類と、当該温感積層体とを、接着することを特徴とする。
【0021】
すなわち、本発明に係る温感積層体の接着層は、100℃〜180℃で加熱することで、衣類と温感積層体とを接着させることが出来る。また、衣類と温感積層体とを接着させた後は、再度、接着層に熱を加えない限り、衣類から当該温感積層体を簡単にはがすことは出来ない。
【0022】
また、上記発明に係る温感積層体は、
前記接着層の積層方向の厚さは、150μm以下であることを特徴とする。
【0023】
すなわち、接着層の厚さを150μm以下にすることで、適度に衣類に絡みつき、且つ、衣類に貼り付けた際の柔軟性も保たれ、特に好ましくは50μm〜120μmが好適である。
【0024】
また、上記発明に係る温感積層体は、
衣類へ直接印刷して形成されることを特徴とする。
【0025】
すなわち、本発明に係る温感積層体は、各樹脂層を衣類へ直接印刷することにより形成され、該温感積層体が汗等の水分を含むことにより、衣類に後付けした温感積層体と同様の温感効果を発揮する。
【0026】
また、上記発明に係る温感積層体は、
前記樹脂層のうち少なくとも1層は1液型樹脂を含み、
前記1液型樹脂は、遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤と吸湿発熱剤のうちの何れかを有し、
当該温感積層体は、衣類へ直接印刷して形成することを特徴とする。
【0027】
すなわち、本発明に係る温感積層体は、1液型樹脂を使用した樹脂層を衣類へ直接印刷することにより形成され、印刷後の後処理として硬化反応待機時間を設けることにより、適度な被膜化が実現出来る。
【0028】
また、上記発明に係る温感積層体は、
前記樹脂層のうち少なくとも1層に消臭剤を含むことで消臭効果が得られることを特徴とする。
【0029】
すなわち、本発明に係る温感積層体は、消臭剤の吸着作用によりアンモニアなどの臭気成分を吸着することで、温感効果と共に消臭効果も得られる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の温感積層体は、1層以上の樹脂層において、それぞれ特定組成の樹脂および樹脂混合物を使用することによって、該樹脂混合物に含まれる赤外線吸収剤によって吸収した赤外線エネルギーを当該温感積層体に維持し、遠赤外線発生剤による遠赤外線効果を利用することで、従来の衣類用積層体と比べて良好な温感が得られる効果を奏する。そして本発明の温感積層体は、吸湿発熱剤を含むことにより、空気中の水分や汗等の水分を含むことによって、吸湿発熱効果による温感を体感できる効果を奏する。
さらに、本発明の温感積層体は、衣類へ貼り付ける際の熱圧着や衣類へ直接印刷した際の後処理によって適度な被膜化をするため、上記良好な温感効果を得られるとともに、一般的な衣類用の積層体と同様の堅牢度を維持する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る温感積層体の断面図である。
図2】本発明に係る温感積層体がバックアップ層を有する場合の断面図である。
図3】本発明に係る温感積層体を衣類に貼り付ける工程の概略である。
図4】本発明に係る温感積層体の拡大断面図である。
図5】衣類へ直接印刷して形成された温感積層体の断面図および印刷工程の概略である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の温感積層体について、図面を用いて説明するが、本発明の趣旨を超えない限り何ら以下の例に限定されるものではない。
【0033】
図1に、本発明に係る温感積層体10の断面図を示す。図1に示すように、本発明に係る温感積層体10は、2層で構成されており、表面層12、接着層14を有している。また、表面層12には温感剤16として遠赤外線効果のある遠赤外線発生剤と、赤外線を吸収しやすくするための赤外線吸収剤と、水分を含むことで温感効果が得られる吸湿発熱剤を有しており、場合によっては遠赤外線発生剤、赤外線吸収剤、吸湿発熱剤のうちのいずれか1種のみまたは2種のみを有していても良い。ここで、実際には各種の温感剤が別々に樹脂中に混合されていることもあるが、図1では、説明を分かりやすくするために数種類の温感剤を区別することなく温感剤16として表現している。表面層12は色層としての役割を果たしており、色材には、一般的な蛍光剤、絵具、染料、アルミ粉末、アルミペースト、パール粉末等が使用できる。また本発明では表面層12が色層としての役割を果たしているが、表面層12と接着層14の間に色層、あるいは温感効果を補助する層としてのバックアップ層18を設けて、色材や温感剤を含ませても良い(図2を参照)。
【0034】
図3に、本発明に係る温感積層体10を衣類1に貼り付ける工程の概略を示す。温感積層体10を衣類1の所定位置に配置させた後、表面層12から熱が加えられる(図3(a))。その熱によって、接着層14を溶かした後、冷却することで、温感積層体10を備えた衣類を得ることが出来る(図3(b))。
【0035】
ここで、表面層12は、熱圧着することで、生地に絡みつきながら継時的に硬化(被膜化)するため、洗濯時に温感剤16が流れ落ちることはなく、また、熱圧着による被膜化は、結果として適度な被膜化となり、水分が温感剤16に届く程度のわずかな隙間を有しているため水分が浸透可能であり、温感剤16(吸湿発熱剤を有する場合)による温感効果が得られると推測される(図4の温感積層体10の拡大断面図を参照)。さらに上記被膜化はわずかな隙間20を有しており、一般的な樹脂に比べて遠赤外線による輻射エネルギーを遮る樹脂が減少していることから、もともと微弱なエネルギーである遠赤外線による輻射エネルギーに対しても結果的に良好な温感効果を与えていると推測される。そして、温感剤16である赤外線吸収剤が表面層12に均一に混ざっている場合において、当該温感積層体10の表面層12が被膜化する際に、図4に示すようにわずかであるが表面積を大きくしていることから、より多くの赤外線を吸収出来るものと推測される。つまり、本発明に係る温感積層体10の表面層12は後述する樹脂混合物を利用することで、微弱なエネルギーである遠赤外線効果を回復させるとともに吸湿発熱効果も得られ、さらに衣類用の積層体に必要な堅牢度も維持するという相乗効果が得られるのである。
【0036】
図5に、本発明に係る温感積層体20の衣類1への印刷工程の概略および断面図を示す。衣類1の所定位置へ樹脂層である表面層12を印刷する(図5(b))。そして衣類1に直接印刷することで完成した温感積層体20に、使用する樹脂に応じた後処理(例えば、ベーキング乾燥や空気中の湿気による硬化反応待機等)を行い、図3と同様の被膜化を施すことにより温感積層体20の堅牢度を上げている。ここで、温感積層体20は、衣類1へ直接印刷することで形成されることから、図1の温感積層体10のように接着層14に相当する層はなくてもよい。
【0037】
樹脂層
本発明の温感積層体10において、樹脂層である表面層12は、熱硬化性樹脂と、パウダー状の熱可塑性樹脂の樹脂混合物からなることを特徴としている。加えて表面層12は温感剤16を有しており、温感剤16には遠赤外線発生剤、赤外線吸収剤、吸湿発熱剤を含んでいる。また、熱硬化性樹脂とパウダー状の熱可塑性樹脂の樹脂混合物の他に、熱可塑性樹脂と架橋剤や、1液型樹脂等を用いることも出来る。
【0038】
<熱硬化性樹脂>
ここで言う熱硬化性樹脂とは、初期重合物を加熱することで架橋反応を起こし、硬化する樹脂をあらわしている。したがって、熱硬化性樹脂は架橋反応後(加熱後)に再度加熱をしても軟化しなくなる性質を持つ。前記熱硬化性樹脂としては、例えばウレタン樹脂(PU)、エポキシ樹脂(EP)、フェノール樹脂(PF)、ユリア樹脂(UF)、メラミン樹脂(MF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、シリコン樹脂(SI)などを挙げることができる。その中でも、温感剤およびパウダー状の熱可塑性樹脂との相性やコスト等の観点から特にウレタン樹脂(PU)が好適である。なお、上記熱硬化性樹脂は単独に限定されるものではなく、2種類以上を併用しても良い。
【0039】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂とは、熱硬化性樹脂のように高分子間で架橋する構造ではなく、一定の温度以上(100℃〜300℃)に加熱することで軟化して可塑性をもち、冷却すると固化する樹脂をあらわしている。前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂(TPU)、ABS樹脂(ABS)、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネイト(PC)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリスルホン(PSF)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)などを挙げることができる。その中でも特に樹脂特性やコスト等の観点からポリウレタン樹脂(TPU)が好適である。なお、上記熱可塑性樹脂は単独に限定されるものではなく、2種類以上を併用しても良い。
【0040】
<1液型樹脂>
1液型樹脂とは、空気中の湿気を吸湿して、あるいは蒸発・乾燥して架橋反応を起こし、硬化する樹脂をあらわしている。したがって、1液型樹脂は架橋反応後は再度軟化しなくなる性質を持つ。1液型樹脂としては、例えば湿気効果型樹脂、蒸発乾燥型樹脂などを挙げることができる。その中でも特に樹脂特性やコスト等の観点から蒸発乾燥型樹脂が好適である。なお、上記1液型樹脂は単独に限定されるものではなく、2種類以上を併用しても良い。
【0041】
<遠赤外線発生剤>
ここで言う遠赤外線発生剤とは、加熱することで、赤外線のうち、特に遠赤外線領域(およそ3μm〜1mm程度)の波長の電磁波を放射する材質のものをあらわしている。遠赤外線発生剤としては、例えば、セラミックス、ガラス類、鉱石、木材、ゴムなどを挙げることができる。その中でも特に樹脂特性や温感効果等の観点からセラミックスが好適である。また、セラミックスの形状はどのようなものでも構わないが、特にパウダー状であることが好ましい。なお、上記遠赤外線発生剤は単独に限定されるものではなく、2種類以上を併用しても良い。
【0042】
<赤外線吸収剤>
ここで言う赤外線吸収剤とは、太陽熱などの輻射エネルギーによる赤外線を吸収することで発熱するとともに、その熱を維持する効果があるものである。また、赤外線吸収剤は、遠赤外線に限らず、近赤外線や中赤外線なども含む0.7μm〜1000μm程度の波長領域にある赤外線を吸収することで発熱するとともに、熱を維持する効果があるものである。赤外線吸収剤としては、例えば、有機色素としてナフタロシアニン化合物、フタロシニアン、アンスラキノンなどを挙げることができる。また、炭化ジルコニウム等の炭化物や、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物、シリカ等の特殊セラミックや合成金雲母等を挙げることが出来る。その中でも特に酸化亜鉛、合成金雲母、酸化チタン、シリカが好適である。なお、上記赤外線吸収剤は単独に限定されるものではなく、2種類以上を併用しても良い。
【0043】
<吸湿発熱剤>
吸湿発熱剤とは、空気中の水分などを吸収することによる吸湿発熱作用で、温感を体感できるものを言う。吸湿発熱剤としての繊維製品として各メーカーが製品化しており、例えば、ミズノ製のブレスサーモ(登録商標)日本エクスラン工業製のエクス(登録商標)東洋紡製モイスケア(登録商標)、ユニクロ製のヒートテック(登録商標)東レ製のボディヒーター(登録商標)ジャパーナ製のアイヒート(登録商標)などの繊維製品を挙げることができ、その中でも特に日本エクスラン工業製のエクス(登録商標)が好適である。
【0044】
<消臭剤>
本発明における消臭剤は、アンモニアや酢酸やイソ吉草酸などの臭気成分に対して消臭効果を発揮出来ればよく、例えば吸着作用による消臭剤としては、活性炭、ゼオライトなどを挙げることが出来る。また、例えば化学作用による消臭剤としては、光触媒、金属イオンなどを挙げることが出来る。これらの消臭剤のうち、金属イオンとゼオライトが好ましく、特に好ましくは吸着作用と化学作用とを兼ね備えた銀ゼオライトが好適である。なお、上記消臭剤は、単独に限定されるものではなく、2種類以上を併用し、あるいは消臭剤以外の他物質と混合して使用しても良い。
【0045】
<架橋剤>
本発明における架橋剤は、一定条件下でポリマー樹脂と架橋反応を起こす物質のことを言う。架橋剤の量により、架橋反応後の樹脂の効果を調整できる。本発明において架橋剤にはポリイソシアネート、特にブロックイソシアネートを使用するのが好適である。
【0046】
接着層
本発明における接着層14は、温感積層体10を衣類1に貼り付けるための接着作用を発揮すればよく、市販されている接着剤などを利用することも出来る。
但し、温感積層体10は洗濯時の負荷および洗濯時に使用する洗剤への耐薬剤性を有している必要があり、接着層14には熱可塑性材料またはホットメルト材料を使用することが好ましい。さらに、その熱可塑性材料の中でも、表面層12との相溶性の観点から、接着層14にはウレタン系樹脂が好ましく、特に熱可塑性ポリウレタン系樹脂を使用することが好適である。
【0047】
具体的な熱可塑性材料としては、ホットメルトフィルム、ホットフィルムシート(エーテル系、エステル系)が使用できる。また、接着層14の形態は、例えば加熱により流動化可能な熱可塑性材料を表面層12に塗布することも可能であるが、本発明では熱可塑性ポリウレタン系樹脂を厚さ30μm〜150μm、特に好ましくは50μm〜120μm程度の範囲となるように塗工する。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により、本発明についてさらに具体的に説明を行うが、本発明の趣旨を超えない限り何ら以下の実施例に限定されるものではない。まず最初に、温感積層体に利用する温感剤による温感効果の確認を行った。
【0049】
(遠赤外線発生剤および赤外線吸収剤による温感効果の確認)
本発明に係る温感積層体10は、赤外線の吸収を高めるとともに遠赤外線による輻射エネルギーを利用して、温感効果を得ている。そこで下記条件で、遠赤外線発生剤および赤外線吸収剤による温感効果の確認を行った。
・試験方法
10cm×10cmに裁断した試料を発砲スチロール板の上に設置する。試料に対してレフランプによる照射を行い、試料表面温度をサーモグラフィーを用いて15分間測定する。

・環境条件
室温 :20±2℃
湿度 :65±4%RH
測定時間:照射15分間
ランプと試験片の間隔:50cm
ランプ :レフランプ(500W)
照射面 :プリント面
測定面 :プリント面
サーモグラフィー :日本アビオニクス(株) TVS−200EX
※測定値は並べた試料(約10cm×10cm)中央部の直径約5cm円の平均値
とする。

[表1]
時間(分) 測定温度(℃)
加工品 未加工品
0 20.1 20.0
1 30.9 24.9
2 35.2 27.6
3 37.6 29.5
4 39.0 30.8
5 39.8 31.5
6 40.2 31.9
7 40.9 32.6
8 41.1 32.4
9 41.4 32.8
10 41.3 32.8
11 41.4 32.9
12 41.7 33.1
13 41.6 33.1
14 41.9 33.4
15 41.9 33.5
【0050】
表1に示すように、加工品(遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤を含む生地)と未加工品(遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤を含まない生地)では測定温度に明らかな温度差が生じているのが分かる。3分経過後にはすでに8℃以上の温度差が生じており、この状態が15分経過後まで保たれている。このように、温感剤として遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤とを合わせて使用することで、確かな温感効果が得られることが分かった。
【0051】
(赤外線吸収剤による温感効果)
上記試験結果より、遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤を含むことで、良好な温感効果が得られることが分かった。ここで、赤外線吸収剤を含むことによる蓄熱性についての確認を行った。
・試験方法
加工布の上方26cmにランプを設置し、照射中の加工布表面の温度測定を行った。ランプはレフランプRF100V90W/D(Panasonic製)を用いた。また、生地なし(段ボール表面)の温度測定を行った場合との温度差(10分後)について表2にまとめた。

加工品1〜加工品4の条件
加工品1:赤外線吸収剤(生地に30%混合)
加工品2:赤外線吸収剤(生地に50%混合)
加工品3:赤外線吸収剤(生地に10%混合)+遠赤外線発生剤(生地に10%混合)
加工品4:遠赤外線発生剤(生地に10%混合)

[表2]
加工品1 加工品2 加工品3 加工品4
温度差(℃) 1.9 2.6 2.9 1.9
【0052】
表2に示すように、赤外線吸収剤と遠赤外線発生剤の両方を含む加工品3が生地なしに対して1番温度差があった。このことから、遠赤外線発生剤のみ(加工品1、加工品2)、または、赤外線吸収剤のみ(加工品4)を温感剤とするよりも、含有量が少なくても遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤の両方を温感剤とするほうが、良好な温感効果が得られることが明らかとなった。
【0053】
(吸湿発熱剤による温感効果の確認)
本発明に係る温感積層体10は、遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤に加えて温感剤16として吸湿発熱剤を入れることで、温感効果を得ている。そこで下記条件で、吸湿発熱剤による温感効果の確認を行った。

・試験方法
試験片を4つ折りにして内部に熱電対温度センサーを取り付け、恒温恒湿機の中で20℃、40%RHの環境下で2時間処理した後、20℃、90%RHの環境に変化させたときの温度変化を1分ごとに15分間測定する。加工品と未加工品を同時に測定し、上昇温度を比較する。

・環境条件
測定時間:30分間
試験室温度:20±2℃
湿度 :初期 40±3%RH
加湿時 90±5%RH
測定面 :プリント面

[表3]
加工品 未加工品
試験開始温度(℃) 20.2 20.3
最高到達温度(℃) 21.3 21.1
上昇温度(℃) 1.1 0.8
【0054】
表3に示すように、未加工品に比べて加工品のほうが温度上昇が高い結果となった。このように吸湿発熱剤を利用することで、従来の衣類用積層体よりも良好な温感効果が得られることが分かった。
【0055】
(消臭剤による消臭効果の確認)
本発明に係る温感積層体は、温感剤とともに銀ゼオライトのような消臭剤を温感積層体に入れることで、吸着作用を利用して消臭効果を得ることが出来る。そこで下記条件で、銀ゼオライトによる消臭効果の確認を行った。
※(社)繊維評価技術協議会の機器分析実施マニュアルに基づく。

・試験方法
(A)ガスクロマトグラフ法
試験片を入れた500mL容三角フラスコに臭気成分溶液を滴下し密閉後、2時間放置後のピーク面積を測定する。
(B)検知管法
試験片を入れたサンプリングバッグに3Lの臭気ガスを封入し、2時間放置後のガス濃度を検知管で測定する。

消臭剤 :銀ゼオライト
初期ガス濃度:アンモニア 100ppm 検知管法による測定
酢酸 30ppm 検知管法による測定
イソ吉草酸 約38ppm ガスクロマトグラフィー法による測定
測定時間 :2時間後
試料サイズ :アンモニア、酢酸 100cm2
イソ吉草酸 50cm2

[表4]
試料 減少率(%)
アンモニア 酢酸 イソ吉草酸
温感積層体 95 98 98
【0056】
表4に示すように臭気としてのアンモニア、酢酸、イソ吉草酸それぞれに対して95%以上の減少率が得られた。このように本発明の温感積層体に銀ゼオライトのような消臭剤を入れることによって、温感効果と同時に消臭効果も得ることが出来る。
【0057】
次に、本発明に係る温感積層体の本実施例において使用した評価方法について説明する。
(温感効果試験)
温感積層体の温感効果を確認するための試験を行った。試験には衣類に用いられる生地を使用し、下記にて詳しく説明する実施例1および比較例1、比較例2の温感積層体と一体化した生地を制作する。10cm×10cmの試料を断熱材上に設置し、試料に対してレフランプによる照射を行い、サーモグラフィーを用いて試料表面温度の測定を行った。
・環境条件
室温 :20±2℃
湿度 :65±4%RH
測定時間:照射15分間、消灯15分間
ランプ :レフランプ(500W)
サーモグラフィー:日本アビオニクス(株) TVS−200EX
照射面 :プリント面
測定面 :プリント面
※測定値は試料(10cm×10cm)中央部の直径約5cm円の平均値とした。
【0058】
(耐洗濯性試験)
温感積層体の耐洗濯性を確認するための試験を行った。実施例1および比較例1、比較例2の温感積層体10を貼り付けた生地に対して、以下の条件による洗濯試験を行った。
・試験方法
洗濯方法:JIS L 0217 103法
洗濯機:二層式家庭用電気洗濯機
洗濯方法詳細:浴比 :1:30
水流 :強
洗い :5分(水温:40℃)
すすぎ回数 :2回(水温:30℃以下)
洗濯洗剤 :洗濯用合成洗剤(市販品)
乾燥 :脱水後、吊干し
【0059】
実施例1
熱硬化性樹脂(ウレタン樹脂(PU))とパウダー状の熱可塑性樹脂(ポリウレタン樹脂(TPU))との樹脂混合物(ユニ化成株式会社製:UNIBINDERシリーズ(商標)のSA−BA)に温感剤16として遠赤外線発生剤(オーケム通商株式会社製:遠赤パウダーOC−Si(商標))と赤外線吸収剤(明成化学工業製:メイカフレッシュSSK(商標))と吸湿発熱剤(日本エクスラン工業製:エクス(登録商標))を入れて、表面層をシルクスクリーン印刷により制作する(具体的な配合量)。この時、剥離可能なフィルム上に表面層を印刷する。その後、図1に示すような積層として接着層をシルクスクリーン印刷により製作し、乾燥工程を経て、温感ラベル10を製作した。この時の表面層12の厚さは50μm、接着層の厚さは120μmとした。このようにして製作した温感積層体10を、150℃に熱したアイロンで15秒間〜20秒間かけて熱圧着することで、温感積層体10を貼り付けた生地が得られた。また、温感積層体10はシルクスクリーン印刷に限らず、例えばロールコーターやグラビア印刷等の別の方法で製作しても良い。
比較例1
表面層12に熱硬化性樹脂を使用して、温感剤16として遠赤外線発生剤(オーケム通商株式会社製:遠赤パウダーOC−Si(商標))と赤外線吸収剤(明成化学工業製:メイカフレッシュSSK(商標))と吸湿発熱剤(日本エクスラン工業製:エクス(登録商標))を入れて温感ラベルを製作し、150℃に熱したアイロンで15秒〜20秒かけて熱圧着することで、温感ラベル10を貼り付けた生地を得た。それ以外の工程は実施例1と同様である。
比較例2
表面層12が熱硬化性樹脂とパウダー状の熱可塑性樹脂との樹脂混合物(ユニ化成株式会社製:UNIBINDERシリーズ(商標)のSA−BA)として、温感剤16である遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤と吸湿発熱剤を入れずに温感積層体10を製作し、150℃に熱したアイロンで15秒〜20秒かけて熱圧着することで、温感積層体10を貼り付けた生地を得た。それ以外の工程は実施例1と同様である。
【0060】
実施例1〜比較例2の条件
実施例1:熱硬化性樹脂/パウダー状の熱可塑性樹脂あり/温感剤あり
比較例1:熱硬化性樹脂/パウダー状の熱可塑性樹脂なし/温感剤あり
比較例2:熱硬化性樹脂/パウダー状の熱可塑性樹脂あり/温感剤なし
【0061】
−涼感効果の試験結果−
[表5]
時間(分) 測定温度(℃)
上昇時(照射) 下降時(消灯)
実施例1 比較例1 比較例2 実施例1 比較例1 比較例2
0 20.5 20.8 20.7
1 25.1 25.8 25.2 30.0 29.7 29.4
2 28.0 29.0 28.6 27.4 27.1 26.8
3 30.0 31.0 30.9 25.9 25.6 25.3
4 31.6 32.2 32.3 24.9 24.6 24.2
5 32.7 32.8 33.0 24.3 23.9 23.5
6 32.5 33.6 33.7 23.7 23.5 23.1
7 34.1 34.0 34.1 23.4 23.2 22.7
8 34.4 34.2 34.1 23.1 23.0 22.5
9 34.5 34.4 33.9 22.8 22.8 22.3
10 34.9 34.6 34.4 22.6 22.6 22.1
11 35.3 34.8 34.6 22.4 22.5 22.0
12 35.0 34.9 34.2 22.4 22.4 21.9
13 35.5 34.8 34.8 22.2 22.3 21.8
14 35.5 34.8 34.6 22.1 22.3 21.7
15 35.2 35.0 34.4 22.0 22.1 21.6
【0062】
上記表5に示すように、温度上昇時(照射時)において、比較例1および比較例2に比べて実施例1の温感効果が一番良好であることが分かる。そして温度下降時(消灯時)においても、比較例1、比較例2に比べて実施例1は温度を高く維持しているのが分かる。これは、比較例1に使用している樹脂は熱硬化性樹脂のみであるため、温感剤としての吸熱発熱剤に水分が届くことがないため、実施例1と比べて、その分の効果が得られていないものと考えられる。また、実施例1に使用している樹脂では、熱圧着によって熱硬化性樹脂が硬化する際に、パウダー状の熱可塑性樹脂の隙間のある状態で硬化しているため、厳密に言えば遠赤外線効果を遮る部分が減少していることとなる。もともと遠赤外線効果は微弱なエネルギーであるため、このわずかな隙間の影響により、本試験結果に影響を及ぼしているものと推測出来る。そして比較例2は、表面層(樹脂層)として熱硬化性樹脂とパウダー状の熱可塑性樹脂を使用しているが、温感剤を何も入れていないため、実施例1に比べて低い数値となったと言える。
【0063】
このように、上記の試験結果によって、熱硬化性樹脂とパウダー状の熱可塑性樹脂が混合されている場合であって、且つ、温感剤として遠赤外線発生剤と赤外線吸収剤と吸湿発熱剤が樹脂層(表面層12)に含まれている場合にのみ、安定した温感効果が得られることが分かった。
【0064】
−耐洗濯性の試験結果−
[表6]
洗濯回数 温感効果
実施例1 比較例1 比較例2
0 ○ ○ ○
1 ○ ○ ○
5 ○ ○ ○
10 ○ ○ ○
全体評価 良い 良い 良い
○:洗濯後に洗濯前と同等の温感効果が得られていることを指す。
×:洗濯後に洗濯前の温感効果がほとんど得られていないことを指す。
【0065】
上記表6に示すように、実施例1および比較例2は洗濯回数が5回、10回の時でも、洗濯をしていない状態(洗濯回数が0回の時)と変わらず、良好な温感効果を得られており、耐洗濯性に優れていることが分かった。当然ながら、比較例1(従来の熱硬化性樹脂を使用している積層体)も良好な結果となった。これは、熱処理や湿度、乾燥等の影響による硬化(被膜化)によって、温感積層体の耐洗濯性および耐摩耗性(堅牢度)がしっかりと維持されていることをあらわしている。また、一般的に、生地に温感加工が施されている温感生地では、洗濯をするたびに温感剤が少しずつ落ちてしまい、温感効果が弱くなる傾向があると言われている。
これに対し、上記試験結果から、本発明の温感積層体は、表面層に耐水性の優れた被膜を施した従来の積層体と同様な耐洗濯性が得られていることが分かる。
【0066】
以上のように本発明の温感積層体は衣類に簡単に印刷や貼り付けが可能であるとともに、遠赤外線効果や空気中の水分や着ている人の汗等により温感効果が得られ、且つ、耐洗濯性も維持している。また本発明の温感積層体は、衣類内側への貼り付けも可能であり、この場合は従来の衣類の意匠性を変えずに、良好な温感効果が得られる衣類を得ることが出来る。
さらに、本発明の温感積層体に消臭剤を加えることで、温感効果と共に消臭効果も同時に得ることが出来る。つまり、上記実施例1に消臭剤を加えることで、衣類等に対する消臭対策も温感効果と同時に得ることが出来る。そして本発明の温感積層体は洗濯・乾燥をすることで、良好な温感効果および消臭効果を維持することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る温感積層体は、印刷や熱圧着によって、スポーツウェア、ジャージ、ユニフォーム、Tシャツ類、シャツ類、パジャマ、タンクトップ、キャミソール、アンダーウェア、靴下、帽子、マフラー、スリッパなどの衣類や装飾類に簡単に形成することができ、且つ、従来の衣類用の積層体に比べて、良好な温感効果を得られ、且つ、耐洗濯性も維持している特徴を持つものである。
【符号の説明】
【0068】
1 衣類
10 110 温感積層体
12 表面層
14 接着層
16 温感剤
18 バックアップ層
20 熱可塑性樹脂による隙間
図1
図2
図3
図4
図5