(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
発明の背景
黒色クロムめっき皮膜への関心は、その高い耐食耐摩耗性及び高い熱伝導性及び導電性のために6価クロムからのクロムめっき皮膜の開発と共に既に高まっていた。黒色クロムコーティングは、装飾目的で且つ太陽光集光装置用の太陽放射線吸収コーティングとして使用されてきた。
【0003】
3価クロム由来のクロムめっき皮膜は、そのより良好な環境耐性のために注目された。興味深いことには、最初に商業的に適用可能な3価クロムめっき浴がクロムコーティングを生成することが判明し、これは既に6価クロムめっき浴から得られるコーティングよりもわずかに暗い色であった。
【0004】
しかしながら、3価クロムから得られたコーティングの色は、装飾部分への期待に応えるか又は太陽光集光装置の要求を満たすのに十分に暗くなかった。主に太陽光集光装置の分野である、3価クロムから黒色クロムコーティングを製造するために2〜3の戦略が開発された。
【0005】
Barnes及びWardによる米国特許第4,196,063号は、コバルトイオン又は鉄IIイオン及びリン酸イオン、あるいは鉄III及び次亜リン酸塩を含有する3価クロムめっき浴に関し、これは6価クロム浴からの黒色めっき皮膜よりも良好な導電性、熱伝導性、良好な耐摩耗性及び良好な靭性を有する黒色クロムめっき皮膜を生成する。
【0006】
Selvamら(Metal Finishing, 1982, 107 - 112)は、3価クロム浴の組成物と、太陽熱装置での用途に用いられるこれらの浴からの黒色クロムコーティングを電気めっきする条件に関するシステマチックな調査を実施した。6価クロムめっき浴から得られる黒色めっき皮膜と同等の特性を有する黒色めっき皮膜が、塩化クロム、塩化アンモニウム及びオキサル酸を含有する浴組成物のために得られた。更に、著者は、組成物及びめっき法、例えば、塩素の形成、オキサル酸の高い消費、臨界pH調整、及び非接着性の黒色めっき皮膜の欠点を記載している。
【0007】
Abbottら(Trans Inst Met Fin, 2004, 82(1-2), 14 - 17)は、3価塩化クロムと追加的に塩化リチウムを含有する塩化コリンで出来たイオン液体からこれを電気めっきすることによって黒色クロムコーティングを生成できることを報告している。黒色クロムめっき皮膜は、特に厚く、接着性で、クラックフリーであり且つナノ結晶構造を有すると仮定されている。
【0008】
Abdel Hamid(Surface & Coatings Technology 203, 2009, 3442-3449)は、3価クロムイオン、コバルトイオン及びヘキサフルオロケイ酸(H
2SiF
6)を酸化剤として含有する溶液から鋼上にめっきされた黒色クロムめっき皮膜を表す。得られた層は、主にクロム、酸化クロム及び酸化コバルトからなっていた。それらは、太陽エネルギーの良好な吸収特性及び良好な熱安定性を示すので、太陽熱用途に適したものであると見なされた。
【0009】
技術水準の上記された黒色クロムめっき皮膜が太陽熱用途にとって良好な特性を示す。しかしながら、これらの黒色クロムめっき皮膜は、明るい表面にめっきされる時でさえ、無光沢なので装飾目的には適していない。実際に、装飾的なクロムめっき皮膜の場合、光沢のある黒色のクロムコーティングが要求されている。
【0010】
更に、硫黄化合物を含有する複数の3価クロムめっき浴が報告された。
【0011】
Barclay及びMorganによる特許GB1431639号は、クロムの源が3価クロムチオシアネート複合体を含むクロム電気めっき溶液に関する。クロム−チオシアネート複合体は、良好な耐食性を有する、明るく、比較的硬く、亀裂のないクロム層を形成し、めっきプロセスは、従来のクロム酸浴よりも良好な均一電着性及び電流効率を有していた。
【0012】
Deemanによる米国特許第4,473,448号は、3価クロムイオン及び低濃度のチオシアネートを含有する電解質からのクロムの電着又は他の硫黄含有化合物のスペクトルに関する。これらの電解質による被めっき物の電気めっきにより、明色のクロム電着物が得られた。
【0013】
Barclayらによる米国特許第4,448,648号は、3価状態からのクロムめっき用の電気めっき溶液を開示している。電気めっき溶液は、更に、クロムめっきを促進させるS−S結合又はS−O結合を有する硫黄含有種を含有している。結果として、低いクロム濃度が電解質内で必要とされている。
【0014】
米国特許出願第2010/0243463号は、装飾的なクロムコーティングのための電解質及び方法に関する。電解質は更に硫黄含有有機化合物を含有する。この電解質を利用することで、特に、塩化カルシウムを含有する環境においてより耐食性のあるクロム−硫黄合金めっき皮膜が得られる。
【0015】
Rousseau及びBishopによる米国特許出願US2009/0114544A1号及びUS2007/0227895A1号は、ナノ粒子の結晶機能性クロムめっき皮膜を堆積させるための方法及び電気めっき浴を開示している。電気めっき浴としては、3価クロム、2価硫黄の源、及び任意に第一鉄イオンが挙げられる。本発明者らの、チオサリチル酸及び硫酸鉄を含有する記載された電解質T7から装飾的なクロムめっき皮膜を製造する試みは成功しなかった。実際に、電解質内にて10、20、30及び40A/dm
2の電流密度で2.8〜4.2のpH値を利用する時に、めっき皮膜を生成することができなかった。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上記の電気めっき浴による式(I)又は式(II)による硫黄含有化合物から選択される着色剤の添加によって非常に魅力的な黒色のクロムめっき皮膜が得られる。2種以上の着色剤の添加によって黒色が更に濃くなるか又は黒色の色相が変化する。
【0022】
発明の詳細な説明
本発明は、被めっき物上に黒色のクロム層を堆積させるための電気めっき浴及び前記電気めっき浴の適用方法に関する。被めっき物上に黒色のクロム層を堆積させるための電気めっき浴は、
(A)3価クロムイオン;
(B)カルボキシレートイオン;
(C)少なくとも1種のpH緩衝剤物質;及び
(D)一般式(I)
【化3】
(式中、
n、p、qは互いに独立して0〜4の整数であり;
R
1は−H、−OH、−COOH、−CO−OCH
3、−CO−OCH
2−CH
3、−(−O−CH
2−CH
2−)
m−OH、−CH(−NH
2)−COOH、−CH(−NH−CH
3)−COOH、−CH(−N(−CH
3)
2)−COOH、−CH(−NH
2)−CO−OCH
3、−CH(−NH
2)−CO−OCH
2−CH
3、−CH(−NH
2)−CH
2−OH、−CH(−NH−CH
3)−CH
2−OH、−CH(−N(−CH
3)
2)−CH
2−OH、−SO
3Hを表し;
mは5〜15の整数を表し;
R
2は−H、−OH、−(CH
2−)
p−OH、−(CH
2−)
p−C(−NH
2)=NH、−CH
2−CH
2−(−O−CH
2−CH
2−)
m−OH、−R
5、−(CH
2−)
q−COOH、−(CH
2−)
q−CO−OCH
3、−(CH
2−)
q−CO−OCH
2−CH
3、−(CH
2−)
q−S−(CH
2−)
2−OH、−CS−CH
3、−CS−CH
2−CH
3、−CS−CH
2−CH
2−CH
3、−CN
【化4】
であり;
R
1及びR
2は一緒に、式(I)の中央の硫黄原子を含む以下の環構造
【化5】
のうちの1つを構成するための直鎖構造を表し、
R
5は−H、−CH
3、−CH
2−CH
3、−CH
2−CH
2−CH
3、−CH
2−CH
2−CH
2−CH
3を表し;
R
6、R
7、R
8、R
9は互いに独立して−H、−NH
2、−SH、−OH、−CH
3、−CH
2−CH
3、−COOH、−SO
3Hを表す)
を有するか又は一般式(II)
【化6】
(式中、
=Xは=O、孤立電子対を表し;
R
3は−R
5、−CH=CH
2、−CH
2−CH=CH
2、−CH=CH−CH
3、−CH
2−CH
2−CH=CH
2、−CH
2−CH−CH−CH
3、−CH=CH−CH
2−CH
3、−C≡CH、−CH
2−C≡CH、−C≡C−CH
3、−CH
2−CH
2−C≡CH、−CH
2−C≡C−CH
3、−C≡C−CH
2−CH
3、−C(−NH
2)=NH、
【化7】
を表し;
R
4は−R
5、−OR
5、−(CH
2−)
r−CH(−NH
2)−COOH、−(CH
2−)
r−CH(−NH−CH
3)−COOH、−(CH
2−)
r−CH(−N(−CH3)
2)−COOH、−(CH
2−)
r−CH(−NH
2)−CO−OCH
3、−(CH
2−)
r−CH(−NH
2)−CO−OCH
2−CH
3を表し;
rは0〜4の整数であり;
R
3及びR
4は一緒に式(II)の中央の硫黄原子を含む以下の環構造
【化8】
のうちの1つを構成するための直鎖構造を表し;
R
10は−H、−CH
3、−CH
2−CH
3、−CH
2−CH
2−SO
3Hを表す)
を有する硫黄含有化合物又はその塩、互変異性形、ベタイン構造;又は式(I)の化合物又はその塩、互変異性形、ベタイン構造の混合物;又は式(II)の化合物又はその塩、互変異性形、ベタイン構造の混合物;及び式(I)及び(II)の化合物又はその塩、互変異性形、ベタイン構造の混合物から選択される少なくとも1種の着色剤;
を含む。
【0023】
本発明の好ましい実施態様では、黒色クロム層を被めっき物の上に堆積させるための電気めっき浴は更に塩化物イオンを含む。この本発明の浴の実施態様は、本発明全体にわたり塩化物ベースの浴又は電解質と呼ばれる。黒色クロム層を被めっき物の上に堆積させるための塩化物ベースの電気めっき浴は、更に臭化物イオン及び/又は第一鉄イオンを含み得る。
【0024】
本発明の更に好ましい実施態様では、黒色のクロム層を被めっき物の上に堆積させるための電気めっき浴は、ハロゲン化物イオン、特に塩化物イオンを含んでいない。この本発明の浴の実施態様は、本発明全体にわたり硫酸ベースの浴又は電解質と呼ばれる。黒色のクロム層を被めっき物の上に堆積させるための硫酸ベースの電気めっき浴は、ハロゲン化物イオン、特に塩化物イオン及び/又は臭化物イオンがない。黒色のクロム層を被めっき物の上に堆積させるための硫酸ベースの電気めっき浴は、更に硫酸イオン及び/又は第一鉄イオンを含み得る。
【0025】
本発明の更に好ましい実施態様では、黒色のクロム層を被めっき物の上に堆積させるための硫酸ベースの電気めっき浴は、式(I)の化合物又はその塩、互変異性形、ベタイン構造の混合物を含む。本発明の更に好ましい実施態様では、黒色のクロム層を被めっき物の上に堆積させるための硫酸ベースの電気めっき浴は、式(II)の化合物又はその塩、互変異性形、ベタイン構造の混合物を含む。
【0026】
本発明の更に好ましい実施態様では、黒色のクロム層を被めっき物の上に堆積させるための硫酸ベースの電気めっき浴は、式(I)及び(II)の化合物又はその塩、互変異性形、ベタイン構造の混合物を含む。
【0027】
本発明の更に好ましい実施態様では、少なくとも1種の着色剤は、一般式(I)で示され、その式中、R
2がHである場合、R
1はHではないか;又はR
1がHである場合、R
2はHではない、硫黄含有化合物から選択されている。
【0028】
本発明の更に好ましい実施態様では、少なくとも1種の着色剤は、一般式(Ia)
【化9】
(式中、
R
11は−COOH、−CO−OCH
3、−CO−OCH
2−CH
3、−CH
2−OHを表し;
R
12及びR
13は互いに独立して−H、−CH
3を表し;
R
14は−H、−CH
3、−CH
2−CH
3、−CH
2−CH
2−CH
3、−(CH
2−)
q−COOHを表し;
n及びqは式(I)で定義された意味を有する)
を有する硫黄含有化合物から選択されている。
【0029】
本発明の更に好ましい実施態様では、少なくとも1種の着色剤は、一般式(IIa)
【化10】
(式中、
R
15が−H、−CH
3、−CH
2−CH
3、−CH
2−CH
2−CH
3を表し;
R
16及びR
7が互いに独立して−H、−CH
3を表し;
R
18が−COOH、−CO−OCH
3、−CO−OCH
2−CH
3を表し;
=X及びrが式(II)で定義された意味を有する)
を有する硫黄含有化合物から選択されている。
【0030】
本発明の更に好ましい実施態様では、少なくとも1種の着色剤は、一般式(I)で示され、その式中、
R
1が−OHであり、且つ
R
2が−(CH
2−)
q−OH、−(CH
2−)
q−S−(CH
2−)
2−OHからなる群から選択され;且つ
qが式(I)で定義された意味を有する、硫黄含有化合物から選択されている。
【0031】
本発明の更に好ましい実施態様では、少なくとも1種の着色剤が、一般式(II)で示され、その式中、
R
3及びR
4が一緒に式(II)の中央の硫黄原子を含む以下の環構造
【化11】
のうちの1つを構成するための直鎖構造を表し;
R
10が−H、−CH
3、−CH
2−CH
3及び−CH
2−CH
2−SO
3Hを表す、硫黄含有化合物から選択されている。
【0032】
本発明の最も好ましい実施態様では、少なくとも1種の着色剤が、
(1)2−(2−ヒドロキシ−エチルスルファニル)−エタノール、
(2)チアゾリジン−2−カルボン酸、
(3)チオジグリコールエトキシラート、
(4)2−アミノ−3−エチルスルファニル−プロピオン酸、
(5)3−(3−ヒドロキシ−プロピルスルファニル)−プロパン−1−オール、
(6)2−アミノ−3−カルボキシメチルスルファニル−プロピオン酸、
(7)2−アミノ−4−メチルスルファニル−ブタン−1−オール、
(8)2−アミノ−4−メチルスルファニル−酪酸、
(9)2−アミノ−4−エチルスルファニル−酪酸、
(10)3−カルバムイミドイルスルファニル−プロパン−1−スルホン酸、
(11)3−カルバムイミドイルスルファニル−プロピオン酸、
(12)チオモルホリン、
(13)2−[2−(2−ヒドロキシ−エチルスルファニル)−エチルスルファニル]−エタノール、
(14)4,5−ジヒドロ−チアゾール−2−イルアミン、
(15)チオシアン酸、
(16)2−アミノ−4−メタンスルフィニル−酪酸、
(17)1,1−ジオキソ−1,2−ジヒドロ−1ラムダ
*6
*−ベンゾ[d]イソチアゾール−3−オン、
(18)プロプ−2−イン−1−スルホン酸、
(19)メタンスルフィニルメタン、及び
(20)2−(1,1,3−トリオキソ−1,3−ジヒドロ−1ラムダ
*6
*−ベンゾ[d]イソチアゾール−2−イル)−エタンスルホン酸
を含む硫黄含有化合物の群から選択されている。
【0033】
チオジグリコールエトキシレートはLugalvan(登録商標)HS1000の商品名でBASF SEによって市販されている。これは130℃の温度でKOH触媒の下でチオジグリコールのエトキシ化によって製造されている。使用される水酸化カリウムは、エトキシ化が完了する時に酢酸の添加によって中和される。エトキシ化は当業者に公知である。チオジグリコールエトキシレートは以下の一般式を有する:
OH−(CH
2−CH
2−O)
m−CH
2−CH
2−S−CH
2−CH
2−(O−CH
2−CH
2)
m−OH。
【0034】
チオジグリコールエトキシレートの分子量は、US2011/0232679A1号に開示される通り、約1000g/モルであり、mは約10である。
【0035】
本発明の硫黄含有化合物の置換基に応じて、酸又は塩基との塩を形成できることもある。従って、例えば、硫黄含有分子中に塩基性置換基又は基が存在する場合、塩は有機酸及び無機酸で形成され得る。かかる酸添加塩の形成に適した酸の例は、塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、及び当業者に公知の他の鉱酸又はカルボン酸である。塩は、遊離塩基形を、従来の方法で、十分な量の所望の酸と接触させて塩を生成することによって製造されている。
【0036】
更に、酸性置換基又は基が硫黄含有分子中に存在する場合、塩は無機塩基並びに有機塩基、例えば、LiOH、NaOH、KOH、NH
4OH、水酸化テトラアルキルアンモニウム等を用いて形成され得る。
【0037】
本発明の文脈では、本発明の硫黄含有化合物の全ての立体異性形、並びにそれらの第4級アミン、塩、溶媒和物、ベタイン構造及び互変異性形が本発明の硫黄含有化合物について可能な場合、前記形及び構造を含むことが意図されている。
【0038】
本願明細書に使用される「立体異性体」との用語は、全ての可能な立体異性体形、例えば、全てのキラル、ジアステレオマー、ラセミ形及び硫黄含有化合物の全ての幾何異性体形を含む。
【0039】
本願明細書に使用される「互変異性体」との用語は、本発明の硫黄含有化合物の全ての可能な互変異性体形を含む。
【0040】
本願明細書に使用される「ベタイン構造」との用語は、特別な種類の両性イオン、即ち、正電荷のカチオン性官能基、例えば、水素原子を全く有していない第4級アンモニウムイオンと、負電荷の官能基、例えば、カチオン性部位に隣接していない、カルボキシレート基を有する中性の化学化合物を含む。
【0041】
本発明の電気めっき浴中の式(I)又は(II)による少なくとも1種の着色剤の濃度は、少なくとも0.01g/L、好ましくは少なくとも0.05g/L、更に好ましくは少なくとも0.1g/L、更に一層好ましくは0.5g/L、及び最も好ましくは1g/Lである。本発明の電気めっき浴中の式(I)又は(II)による少なくとも1種の着色剤の濃度は、100g/L以下、好ましくは50g/L以下、更に好ましくは25g/L以下、更に一層好ましくは10g/L以下、最も好ましくは5g/L以下である。
【0042】
式(I)又は式(II)による硫黄含有化合物から選択される着色剤又は式(I)及び/又は式(II)による硫黄含有化合物から選択される着色剤の混合物を、上記の電気めっき浴に添加することによって、非常に魅力的な暗い色のクロムめっき皮膜が得られる。
【0043】
本発明の電気めっき浴内で使用される硫黄含有化合物又は硫黄含有化合物の混合物に応じて又は本発明の電気めっき法によって、得られるクロムめっき皮膜の黒色は、暗さ又は明るさ及び色相で異なる。得られるクロムめっき皮膜の黒色は、色度計によって測定され、その色はL
*a
*b
*色空間系(Commission Internationale de I'Eclairageによって1976年に導入された)によって記載されている。値L
*は明るさを示し、a
*及びb
*は色方向を示す。a
*の正の値は赤色を示すが、a
*の負の値は緑色を意味する。b
*の正の値は黄色を示すが、b
*の負の値は青色を意味する。a
*及びb
*の絶対値が上昇する時に、色の彩度も上昇する。L
*の値の範囲はゼロから100であり、その際、ゼロは黒色を示し且つ100は白色を意味する。従って、本発明のクロムめっき皮膜の場合、低いL
*値が望ましい。
【0044】
明るいニッケル層の上にある従来の6価クロム浴からのクロムめっき皮膜のL
*値は、88〜87の間の範囲に測定された。明るいニッケル層の上の120ppm未満の鉄IIイオンを含有する従来の3価クロム浴からのクロムめっき皮膜のL
*値は84〜80の間の範囲に測定された。明るいニッケル層の上の120ppm〜450ppmの間の鉄IIイオンを含有する3価クロム浴からのクロムめっき皮膜のL
*値は82〜78の間の範囲に定量化された。
【0045】
本発明の黒色クロムめっき皮膜のL
*値は<78〜50の範囲、好ましくは75〜55の範囲、更に好ましくは70〜60、更に一層好ましくは65〜55、最も好ましくは60〜50の範囲である。従って、本発明の黒色クロムめっき皮膜の暗色は、グレーがかった黒色から暗灰色の範囲である。
【0046】
本発明の黒色クロムめっき皮膜のb
*値は−7.0〜+7.0の範囲、好ましくは−5.0〜+5.0の範囲、更に好ましくは−3.0〜+3.0の範囲である。従って、本発明の黒色クロムめっき皮膜の黒色の色相は、黄色がかった又は茶色がかった〜青みをおびた又は灰色がかった範囲である。
【0047】
本発明の黒色クロムめっき皮膜のa
*値は−2.0〜+2.0の範囲である。従って、本発明の黒色クロムめっき皮膜の黒色の色相は、a
*値によって殆ど影響を受けず且つ黒色クロムめっき皮膜の色内のa
*の小さな偏差はヒトの目には見えない。本発明の方法によって電気めっき浴で生成されたクロムめっき皮膜のL*値、a*値及びb*値は、単一の着色剤のスペクトルについて第1表に示されている。
【0048】
着色剤を1種のみ含有する本発明の電気めっき浴で得られるクロムコーティングのL
*値は、常に78より低い。従って、1種の着色剤を含有する本発明の電気めっき浴で得られるクロムコーティングは、本発明の着色剤を全く用いずに電気めっき浴から得られるクロムコーティングよりも常に暗い。更に、1種の着色剤を含有する本発明の電気めっき浴で得られるクロムコーティングも、従来の6価又は3価クロム浴から得られる又は上記の鉄IIイオンを含有するクロム浴から得られるコーティングよりも暗い。
【0049】
2種以上の着色剤を含有する電気めっき浴から得られる黒色クロムめっき皮膜の黒色は、同程度の濃度で適用される時にのみ、1種の着色剤を含有する電気めっき浴で得られるクロムめっき皮膜よりも常に暗い。
【0050】
本発明の更に好ましい実施態様では、電気めっき浴は、式(I)による硫黄含有化合物の群から選択される2種以上の着色剤の混合物を含む。更に好ましいのは、少なくとも1種の着色剤が硫黄含有化合物:(1)、(7)、(8)、(9)、(10)、(13)、(14)、及び(15)の群から選択される、式(I)による硫黄含有化合物の群から選択される2種以上の着色剤の混合物である。最も好ましいのは、少なくとも1種の着色剤が硫黄含有化合物:(1)、(8)、(13)、及び(15)の群から選択される、式(I)による硫黄含有化合物の群から選択される2種以上の着色剤の混合物である。
【0051】
本発明の更に好ましい実施態様では、電気めっき浴は、式(II)による硫黄含有化合物の群から選択される2種以上の着色剤の混合物を含む。更に好ましいのは、少なくとも1種の着色剤が硫黄含有化合物:(16)、(17)及び(20)の群から選択される、式(II)による硫黄含有化合物の群から選択される2種以上の着色剤の混合物である。最も好ましいのは、少なくとも1種の着色剤が硫黄含有化合物:(16)及び(17)の群から選択される、式(II)による硫黄含有化合物の群から選択される2種以上の着色剤の混合物である。
【0052】
本発明の更に好ましい実施態様では、電気めっき浴は、式(II)による硫黄含有化合物の群から選択される1種以上の着色剤と式(I)による硫黄含有化合物の群から選択される1種以上の着色剤との混合物を含む。更に好ましいのは、少なくとも1種の着色剤が硫黄含有化合物:(1)、(7)、(8)、(9)、(10)、(13)、(14)及び(15)の群から選択される、式(I)及び式(II)による硫黄含有化合物の群から選択される2種以上の着色剤の混合物である。その上、更に好ましいのは、少なくとも1種の着色剤が硫黄含有化合物:(16)、(17)及び(20)の群から選択される、式(I)及び式(II)による硫黄含有化合物の群から選択される2種以上の着色剤の混合物である。更に一層好ましいのは、化合物(1)、(7)、(8)、(9)、(10)、(13)、(14)、及び(15)と任意の化合物(16)、(17)及び(20)との混合物である。最も好ましいのは、化合物(1)及び/又は(8)と(15)及び/又は(17)との混合物である。
【0053】
2種以上の着色剤、即ち、上記の電気めっき浴による式(I)及び/又は式(II)による硫黄含有化合物から選択される、着色剤の混合物の添加によっても同様に非常に魅力的な黒色のクロムめっき皮膜が得られる。式(I)及び/又は式(II)による硫黄含有化合物の混合物が本発明の電気めっき浴中に存在する場合、本発明のクロムめっき皮膜の黒色は、着色剤を1種のみ含有する本発明の電気めっき浴と比較して更に暗くなるか又は色相が変化する。
【0054】
着色剤の混合物を使用する本発明の方法によって塩化物ベースの電気めっき浴で生成されるクロムめっき皮膜のL
*値、a
*値及びb
*値を第2表〜第5表及び第7表に示す。
【0055】
着色剤の混合物を使用する本発明の方法によって硫黄ベースの電気めっき浴で生成されるクロムめっき皮膜のL
*値、a
*値及びb
*値は、実施例8及び第8表に示される。
【0056】
更に、電気めっき浴によるクロムのめっき及び本発明の電気めっき法によって、平板めっきされた被めっき物の上に並びに複雑に構造化された表面を有する被めっき物の上に黒色の均一な分布が得られる。これを実施例3及び第5表に示す。
【0057】
更に、構造、即ち、被めっき物の表面の、又は被めっき物の表面の上にあり且つ本発明の黒色クロム層の下にある追加の少なくとも1つの金属層の、光沢又は無光沢の外観は、ここに記載されるようにある濃度範囲内で本発明の電気めっき浴の構成及び本発明の電気めっき法を利用することによって保護される。従って、本発明の電気めっき浴及び電気めっき法も、被めっき物の上に黒色クロム層を生成するのに適しており、その際、黒色クロム層は種々のグレードの無光沢又は艶消しの外観を示す。好ましくは、本発明の電気めっき浴及び電気めっき法は、光沢又は艶のある黒色クロム層を被めっき物の上に生成するために利用される。
【0058】
本発明の電気めっき浴は更に3価のクロムイオンを含む。電気めっき浴中の3価のクロムイオンの濃度は、5g/L〜25g/L、更に好ましくは5g/L〜20g/L、最も好ましくは8g/L〜20g/Lの範囲である。塩化物ベースの電気めっき浴中の3価のクロムイオンの濃度は、15g/L〜25g/L、更に好ましくは18g/L〜22g/Lの範囲であり、最も好ましくは20g/Lである。硫酸ベースの電気めっき浴中の3価のクロムイオンの濃度は、5g/L〜20g/L、更に好ましくは5g/L〜15g/L、最も好ましくは8g/L〜20g/Lの範囲である。3価のクロムイオンは、塩化クロム六水和物、硫酸クロム、ギ酸クロム、酢酸クロム、塩基性硫酸クロム(Cr
2(SO
4)
312(H
2O))、クロムミョウバン(KCr(SO
4)
212(H
2O))等の浴溶解性及び相溶性の塩の形で導入され得る。好ましくは、クロムイオンが塩基性硫酸クロムとして導入される。
【0059】
好ましくは、電気めっき浴は実質的に6価クロムがなく、好ましくは溶液中のクロムはめっき前に実質的に3価クロムとして存在する。
【0060】
本発明の電気めっき浴は更にカルボキレートイオンを含む。カルボキシレートイオンは、溶液中にそれらを維持して存在するクロムイオンを錯化するための錯化剤として作用する。カルボキレートイオンは、ギ酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、マレイン酸イオン又はそれらの混合物を含み、その中ではギ酸イオン又はマレイン酸イオンが好ましい。塩化物ベースの電気めっき浴では、カルボキレートがギ酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン又はそれらの混合物を含み、その中ではギ酸イオンが好ましい。硫酸ベースの電気めっき浴では、カルボキレートイオンがクエン酸イオン、マレイン酸イオン又はその混合物を含み、その中ではマレイン酸イオンが好ましい。カルボキレートイオンが、5g/L〜35g/L、更に好ましくは8g/L〜30g/L、最も好ましくは8g/L〜25g/Lの範囲の濃度で利用されている。塩化物ベースの電気めっき浴では、カルボキレートイオンが15g/L〜35g/L、更に好ましくは20g/L〜30g/Lの範囲の濃度で利用されている。硫酸塩ベースの電気めっき浴では、カルボキレートイオンが5g/L〜35g/L、更に好ましくは8g/L〜20g/Lの範囲の濃度で利用されている。1:1〜1.5:1のカルボキレート基とクロムイオンとのモル比が使用されており、その際、1.1:1〜1.2:1の比が好ましい。例えば、グリシン又はアスパラギン酸のようなアミノ酸も錯化剤として利用され得る。
【0061】
本発明の電気めっき浴は更に少なくとも1種のpH緩衝剤物質を含む。電気めっき浴中で使用される少なくとも1種のpH緩衝剤物質は、pH緩衝特性を示す物質、例えば、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、カルボン酸、錯化剤、アミノ酸、及び硫酸アルミニウム、更に好ましくはホウ酸又はホウ酸ナトリウムであってよい。電気めっき浴中のpH緩衝剤物質の濃度は50g/L〜250g/L、更に好ましくは50g/L〜150g/Lの範囲である。ホウ酸又はホウ酸ナトリウムの場合、ホウ酸イオンの濃度は50g/L〜70g/L、更に好ましくは55g/L〜65g/Lの範囲である。
【0062】
本発明の更に好ましい実施態様では、塩化物ベースの電気めっき浴は更に塩化物イオンを含む。量は、溶解性を考慮して許される最大値まで変動し得る。塩化物は、一般的に、導電性の塩、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウムのアニオンとして:任意にクロムの要求量の少なくとも1部を供給するために使用されてよい塩化クロムとして、及び/又は塩化水素酸として、浴中に導入されており、これは浴のpHを調整する従来の手段である。塩化物の含有量は、50g/L〜200g/L、更に好ましくは100g/L〜150g/Lの範囲である。
【0063】
本発明の更に好ましい実施態様では、塩化物ベースの電気めっき浴は更に臭化物イオンを含む。電気めっき浴中の臭化物イオンの濃度は5g/L〜20g/L、更に好ましくは10g/L〜15g/Lの範囲である。臭化物イオンは、浴溶解性の塩、例えば、臭化アンモニウム、臭化カリウム、及び臭化ナトリウムの形で導入され得る。
【0064】
本発明の更に好ましい実施態様では、電気めっき浴は更に第一鉄イオンを含む。電気めっき浴中の第一鉄イオンの濃度は40mg/L〜280mg/Lの範囲である。第一鉄イオンは、浴溶解性の塩、例えば、硫酸鉄の形で導入され得る。第一鉄イオンは、好ましくは本発明の塩化物ベースの3価クロムの電気めっき浴中で使用されている。
【0065】
第一鉄イオンは、本発明の電気めっき浴によって達成されるめっき性能に及びクロムめっき皮膜に複数の利益的な効果を与える。
【0066】
本発明の電解質が更に第一鉄イオンを含有する場合、クロムのめっき速度が高められる。これは実施例6によって示されており、その際、更に着色剤(17)を含有する実施例1の塩基性電解質(塩化物ベース)が使用された。それぞれの得られたクロム層の厚さ及び共析した鉄のその含有量は、当業者に公知の、X線蛍光分光分析法(XRF分光法)によって測定された。XRF分光法測定の詳細は、実施例6に記載されている。
【0067】
電解質が第一鉄イオンを含有しない場合、得られるクロム層はわずか0.06μmの厚さであった(第6表)。電解質が200mg/Lの第一鉄イオンを含有するが、着色剤を含有しない場合、クロム層は0.88μmの遙かに高い厚さを達成した。興味深いことに、電解質が同じ量の第一鉄イオン+着色剤(17)を含有した場合、得られるクロム層も第一鉄イオンを含有しないものよりも高い厚さ(0.21μm)を有していた。従って、着色剤はクロムのめっき速度を低下させると思われる。対照的に、第一鉄イオンはめっき速度を高め、この効果は着色剤の存在下で活性なままである。従って、第一鉄イオンは、着色剤のめっき速度への効果を有益に打ち消し且つ支配する。
【0068】
更に、本発明の電解質中の第一鉄イオンの存在が、堆積したクロム層に有益な影響を及ぼす。本発明の電解質、特に塩化物ベースの電解質が、更に第一鉄イオンを含有する場合、クロム層の高い電流密度の面積での白色ヘイズ及びすじの入った又は着色した外観等のクロム層の複数の欠点が回避される。その代わり、クロム層が良好な均一電着性で均質に堆積されて、均一な色と色相を示す。
【0069】
更に、本発明の電解質中に存在する第一鉄イオンはクロムめっき皮膜の黒色に寄与する。明るいニッケル層の上に第一鉄イオンを含有する3価クロム浴からのクロムめっき皮膜のL
*値が84〜78の間の範囲であることが既に記載された。実施例7では、実施例1の塩基性電解質が、異なる濃度の第一鉄イオンで使用されたが、1種以上の着色剤の濃度が一定に維持された。更に、クロム層が、比較例として着色剤又は第一鉄イオンのいずれも有していない実施例1の塩基性電解質から堆積された。これらの電解質から堆積されたクロム層のL*値、a*値及びb*値が測定された(第7表)。比較例のL
*値は82.6であった。1種以上の着色剤(第一鉄イオンなし)を含有する電解質からのめっき皮膜のL
*値は、通常、約10単位であるか又は対照実験のL
*値よりも更に一層低い。従って、着色剤を含有するが第一鉄イオンを含有しない電解質から得られるクロムめっき皮膜は、既に比較例よりも遙かに暗い。着色剤に加えて第一鉄イオンを含有する電解質からのめっき皮膜のL*値は、クロムめっき皮膜が第一鉄イオン濃度の上昇に伴って暗くなることを示す。従って、第一鉄イオンは、着色剤の存在下でもクロムめっき皮膜の黒色に寄与している。
【0070】
これは実施例6で示された発見によって更に支持されている。この実施例でも、クロム層中に共析した鉄の濃度が測定された。クロム層は200mg/Lの第一鉄イオンを含有する電解質から堆積したが、着色剤は全く7.5%〜7.8%の間の鉄濃度を示さなかった。第一鉄イオンの他に着色剤を含有する同じ電解質によって、鉄を約3倍多く含有するクロムめっき皮膜が得られた。本発明の着色剤が電解質中に存在する時に、クロムめっき皮膜中の鉄の共析のこの予想外に高い増加は、本発明のクロムめっき皮膜の黒色に更に寄与している。
【0071】
従って、第一鉄イオンの本発明のクロムめっき皮膜の黒色への寄与は、クロムめっき皮膜中により暗い色相を生成する第一鉄イオンの既に知られた効果のためだけではない。本発明のクロムめっき皮膜の黒色も、本発明の浴内の第一鉄イオンと着色剤との間の相乗効果に基づいており、かなり高い量の共析した鉄が得られる。
【0072】
本発明の電気めっき浴中の第一鉄イオンの利益的な効果は、第一鉄イオンが上記の濃度範囲である時に主に観察される。本発明の電解質からの黒色クロム層の堆積も、記載された濃度範囲を下回る又は上回る第一鉄イオンを用いずに又は第一鉄イオンを用いて可能である。しかしながら、塩化物ベースの電解質の場合、得られたクロム層は、しばしば上記の欠点を示す。
【0073】
更に、電気めっき浴は、通常、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩並びに強酸、例えば、塩化水素酸及び硫酸を含む制御された量の導電性塩を更に含む。中でも適した導電性塩は、硫酸及び塩化カリウム及びナトリウム並びに塩化アンモニウム及び硫酸アンモニウムである。導電性塩は、通常、必要な導電性を得るために、1g/L〜300g/Lの範囲又はそれ以上の量で利用されている。
【0074】
電気めっき浴は更に少なくとも1種の界面活性剤を含み得る。電気めっき浴中で使用される少なくとも1種の界面活性剤は、通常、カチオン性又は好ましくはアニオン性の、例えば、スルホコハク酸、例えば、ジアミルスルホコハク酸ナトリウム、8〜20個の脂肪族炭素原子を有するアルキルベンゼンスルホネート、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム;8〜20個の炭素原子を有するアルキルスルフェート、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム;アルキルエーテル硫酸塩、例えば、ラウリルポリエトキシ硫酸ナトリウム;及び脂肪アルコール、例えば、オクチルアルコールである。しかしながら、界面活性剤の正確な性質は、本発明の電気めっき浴の性能にとってあまり重要ではないことが判明した。電気めっき浴中の界面活性剤の濃度は、0.001g/L〜0.05g/L、更に好ましくは0.005g/L〜0.01g/Lの範囲の量で利用されている。
【0075】
電気めっき浴のpH値は2.0〜4.0の間である。本発明の電気めっき浴がハロゲン化物イオン、特に塩化物イオンを含まない場合、pH値は好ましくは3.0〜4.0の間、更に好ましくは3.4〜3.6の間である。本発明の電気めっき浴が塩化物イオンも含有する場合、pH値は好ましくは2.5〜3.2の間、更に好ましくは2.6〜3.1の間である。電気めっき浴のpH値は、塩化水素酸、硫酸、アンモニア、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用いて調整される。
【0076】
本発明の電気めっき浴は、コバルト、ニッケル、フッ化物又はリン酸イオンを含まない。本発明の電気めっき浴はフッ素又はリンを含有する化合物も含まない。本発明の黒色クロムめっき皮膜は、式(I)及び(II)による着色剤及び任意に第一鉄イオンを含む本発明の電気めっき浴によって単独で得られる。ニッケル、コバルト、フッ素又はリン含有化合物のいずれも本発明の電気めっき浴及び方法によって黒色クロムめっき皮膜を得ることを必要としない。
【0077】
本発明の電気めっき浴の上記の成分は水に溶解する。
【0078】
電気めっき浴は、要求される種の水溶性の塩を、所望の濃度を提供するのに十分な量で水に溶解することによって作られ得る。カチオン性の種は、所望される場合、全体的に又は部分的に塩基として、例えば、水性アンモニアとして添加されてよい。アニオン種は、酸、例えば、塩酸、硫酸、ギ酸、酢酸、マレイン酸又はクエン酸として少なくとも部分的に添加されてよい。浴は高められた温度で調製されてよい。
【0079】
本発明の更に好ましい実施態様では、電気めっき浴は以下のように作られる。まず、pH緩衝剤物質は、60℃では要求される水の2/3で溶解する。次に、導電性の塩及びクロム塩が添加されるが、溶液は35℃まで冷却される。そして、カルボン酸、任意に鉄塩及び界面活性剤が添加されて、pHは、塩化物ベースの電気めっき浴の場合、2.6〜3.2の間の範囲に調整され、硫酸ベースの電気めっき浴の場合、3.0〜4.0に調整される。電解質は、硫黄含有化合物の添加後にすぐに使用でき、その後、pHは上記の範囲まで調整される。
【0080】
本発明は更に、被めっき物の上に黒色クロム層を電気めっきする方法に関する。黒色クロム層を電気めっきする方法は、上に規定された本発明の電気めっき浴を用いて前記被めっき物を電気めっきすることを含む。黒色クロム層を電気めっきする方法は、上記のようなL
*、b
*及びa
*値を有する被めっき物の上に黒色クロム層を生成する。
【0081】
更に詳細には、本発明の黒色クロム層を電気めっきする方法は、以下の工程
(i)被めっき物を提供する工程、
(ii)該被めっき物と上に規定される本発明の電気めっき浴とを接触させる工程、及び
(iii)被めっき物に陰極通電する工程
を含む。
【0082】
黒色クロム層を電気めっきする方法は、追加の工程、例えば、被めっき物を洗浄する工程、活性化のための前処理、少なくとも1種の追加の金属層を被めっき物の上に提供するための前処理、耐食性を高めるための黒色クロムめっき皮膜の後処理も含んでよい。
【0083】
従って、本発明の黒色クロム層を電気めっきする方法は、以下の工程:
(i)被めっき物を提供する工程、
(ii)電解質又は無電解の手段によって少なくとも1種の追加の金属層で被めっき物を被覆する工程、
(iii)該被めっき物と上に規定される本発明の電気めっき浴とを接触させる工程、及び
(iv)被めっき物を陰極通電する工程
を含み得る。
【0084】
工程(ii)は、本発明の黒色クロム層を電気めっきする前に、被めっき物の上に被覆された望ましい数の追加の金属層によって繰り返されてよい。
【0085】
被めっき物は、電解脱脂によって洗浄されてよい。
【0086】
あるいは、被めっき物は、本発明による電気めっき浴と接触させる前に、活性化のために10体積%の硫酸に曝露され得る。黒色クロム層の堆積のために電気めっきされるべき被めっき物は、公知の先行技術の慣例に従って、慣例の前処理に供される。前処理は、被めっき物を、電解質又は無電解手段によって、少なくとも1つの追加の金属層、即ち、1つの金属層又は一連の複数の異なる金属層を用いて被覆することを含んでよい。少なくとも1つの追加の金属層は、クロム、パラジウム、銀、錫、銅、亜鉛、鉄、コバルト又はニッケル又はそれらの合金、好ましくはニッケルを含んでよい。少なくとも1つの追加の金属層の表面は、光沢又は輝きのある;無光沢の、艶消し又は粗い、微孔性又は微小亀裂などの異なる外観又は構造を示し得る。最後の追加の金属層の外観又は構造は、本発明の電気めっき浴及び本発明の電気めっき法によって得られる黒色クロム層によって保護される。最後の追加の金属層は、被めっき物の表面の上に又は既に被めっき物の上に被覆された複数の追加の金属層のスタックの上に、且つ本発明の黒色クロム層の下に直接置かれているものである。本発明の黒色クロム層が、被めっき物の表面の上に又は無光沢の構造又は外観を有する最後の追加の金属層の表面の上に堆積する場合、本発明の黒色クロム層は、下にある表面の無光沢の構造又は外観を保護する。無光沢の構造又は外観を有する最後の追加の金属層の例は、無光沢のニッケル層又は無光沢の銅層である。本発明の黒色クロム層が被めっき物の表面の上に又は光沢のある構造又は外観を有する最後の追加の金属層の表面の上に堆積する場合、本発明の黒色クロム層は下にある表面の光沢のある構造又は外観を保護する。
【0087】
本発明の電気めっき浴及び方法は、少なくとも1つの従来のニッケルめっき操作にかけられた被めっき物の上に黒色クロム層を電気めっきするのに特に有効である。本発明の電気めっき浴及び方法は、従来の輝きのあるニッケルめっき操作にかけられた被めっき物の上に輝きのある黒色クロム層を電気めっきするのに特に有効である。
【0088】
従って、被めっき物を公知技術による好適な前処理にかけて、本発明による電気めっき浴と接触させる前に、電解質又は無電解手段によって少なくとも1つのニッケル層を提供することができる。
【0089】
任意に、黒色クロムめっき皮膜は、後浸漬で後処理され、その後、耐食性を高めるために乾燥される。
【0090】
それぞれの処理工程の間に水で濯ぐのが適しており、最後に濯いでから乾燥させる。
【0091】
被めっき物は、異なる基材、例えば、導電性の基材又は非導電性の基材を含んでよい。本発明の方法は、従来の鉄又はニッケル基材、ステンレス鋼並びに非鉄金属基材、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、又はそれらの合金の上に黒色のクロム層を電気めっきするために使用できる。本発明の方法は、公知技術によって好適に前処理されたプラスチック基材の上に黒色クロム層を電気めっきして、その上にニッケル層又は銅層などの導電性のコーティングを付与するためにも利用できる。かかるプラスチックとしては、ABS、ポリオレフィン、PVC、及びフェノールホルムアルデヒドポリマーが挙げられる。
【0092】
被めっき物は、基材を電気めっき浴中に浸漬させることによって本発明による電気めっき浴と接触する。
【0093】
被めっき物は、黒色クロム層を電気めっきするために陰極通電され、電気めっきは、所望の黒色が得られるまで及び/又は所望の厚さが得られるまで続けられる。これは、被めっき物と本発明の電気めっき浴とを接触させ、被めっき物を2分〜7分間、好ましくは3分〜5分間、陰極通電することによって得られる。
【0094】
得られる黒色クロム層の厚さは、0.05μm〜1μm、好ましくは0.1μm〜0.7μm、更に好ましくは0.15μm〜0.3μm、更に一層好ましくは0.3μm〜0.5μmの範囲である。
【0095】
黒色クロム層を電気めっきする間の陰極電流密度は、5〜25アンペア/平方デシメートル(A/dm
2)の範囲、好ましくは、5A/dm
2〜20A/dm
2の範囲の電流密度であってよい。塩化物ベースの電気めっき浴から黒色クロム層を電気めっきする間の陰極電流密度は、5〜25A/dm
2、好ましくは10A/dm
2〜20A/dm
2の範囲であってよい。硫酸ベースの電気めっき浴から黒色クロム層を電気めっきする間の陰極電流密度は5〜10A/dm
2の範囲であってよい。
【0096】
通常、黒色クロム層を電気めっきするために利用されるアノードは、不活性アノード、例えば、グラファイト、白金化チタン、白金、又は白金又は酸化イリジウムで被覆されたチタンアノードである。通常、塩化物ベースの電気めっき浴から黒色クロム層を電気めっきするために利用されるアノードは、グラファイト、白金化チタン、又は白金アノードである。通常、硫酸ベースの電気めっき浴から黒色クロム層を電気めっきするために利用されるアノードは、白金化チタン又は白金若しくは酸化イリジウム被覆チタンアノードである。
【0097】
電気めっき浴の温度は、電気めっきの間、30℃〜60℃、好ましくは30℃〜40℃、好ましくは50℃〜60℃の範囲に維持される。塩化物ベースの電気めっき浴の温度は、電気めっきの間、30℃〜40℃、好ましくは30℃〜35℃の範囲に維持される。硫酸ベースの電気めっき浴の温度は、電気めっきの間、50℃〜60℃、好ましくは53℃〜57℃の範囲に維持される。
【0098】
詳細な説明及び特許請求の範囲において、他の場合と同様この場合も、範囲及び比の限界が組み合わされてよいことが理解されるべきである。
【0099】
本発明は更に上記の被めっき物の上に黒色のクロム層を電気めっきするための方法によって得られる被めっき物に関する。
【0100】
本発明は、被めっき物の上に黒色クロム層を電気めっきするための方法によって得られる上記の被めっき物上の黒色クロム層にも関する。
【0101】
本発明は更に、黒色クロム層が<78〜50の範囲のL
*値、−7.0〜+7.0の範囲のb
*値、−2.0〜+2.0の範囲のa
*値の黒色を有する、被めっき物上の黒色クロム層に関する。
【0102】
更には、本発明は、黒色クロムめっき皮膜及び黒色クロムめっき皮膜を有する被めっき物並びにそれらの装飾目的の用途に関する。黒色クロムめっき皮膜並びに本発明の黒色クロムめっき皮膜を有する被めっき物の用途としては、売場装備品、衛生器具(例えば、蛇口、コック及びシャワー固定器具)、自動車部品(例えば、バンパー、ドアハンドル、グリル及び他の装飾的なトリム)、家の内装、金物、宝石、オーディオ及びビデオのコンポーネント、手工具、楽器が挙げられる。
【0103】
本発明の組成物及び方法を更に例示するために、以下の特定の例が提供されている。実施例が例示目的で提示されているが、本願明細書に開示され且つ添付の特許請求の範囲に記載された本発明を限定することを意図するものではないことが理解される。
【実施例】
【0104】
実施例1
それぞれ1種の着色剤を含有する塩化物ベースの電気めっき浴による黒色クロム層の堆積。
銅パネル(99mm×70mm)を被めっき物として使用した。
【0105】
洗浄:
銅パネルを最初に、室温(RT)にて100g/LのUniclean(登録商標)279(Atotech Deutschland GmbHの製品)を用いて電解脱脂することによって洗浄した。その後、銅パネルを10体積%のH
2SO
4で酸洗いし、水で濯いだ。
【0106】
ニッケルめっき:
洗浄した銅パネルを、Makrolux(登録商標)NF電解質(Atotech Deutschland GmbHの製品)を用いて輝きのあるニッケル層で4A/dm
2で10分間めっきした。
【0107】
輝きのある黒色クロム層の堆積:
以下の成分からなる塩基性電気めっき浴を調製した:
60g/Lのホウ酸
12g/Lの臭化アンモニウム
100g/Lの塩化アンモニウム
110g/Lの塩化カリウム
128g/Lの塩基性硫酸クロム
22g/Lのギ酸
0.1g/Lのジアミルスルホコハク酸ナトリウム
0.43g/LのFeSO
47H
2O。
【0108】
pH値を32%の塩酸又は33%のアンモニアを用いて2.7に調整した。
【0109】
本発明の着色剤を、塩基性電気めっき浴に第1表で概説された濃度で添加した。
【0110】
着色剤を含有する電気めっき浴を、グラファイトアノードを有するハルセル中に導入し、ニッケルめっきされた銅パネルを陰極として取り付けた。5Aのめっき電流が、3分間35℃で溶液を通った。黒色クロムが、約10A/dm
2からニッケルめっきされた銅パネルの上面に堆積した。その後、クロムめっきされたパネルを水で濯いだ。
【0111】
比較例として、クロム層を、上記と同じ条件を用いるが着色剤の不在下で、ニッケルめっきされた銅パネルの上に堆積させた。
【0112】
ニッケルめっきされた銅パネルの上で得られたクロム層の色を、色度計(Dr. Lange LUCI 100)によって測定した。較正を黒色及び白色の標準を用いて行った。色測定は、パネルの中央領域で行った。測定領域は、パネル上で下縁から2cm〜3cm及びアノードに隣接するパネルの縁から3cm〜4cmにある。パネルの中央は、パネルの中電流密度(MCD)領域に相当する。得られたL
*、a
*及びb
*値を第1表に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0113】
比較例として着色剤を含有しない電気めっき浴で得られるクロム層は82.8のL
*値を有する。着色剤を1種含有する本発明の電気めっき浴で得られるクロムコーティングのL
*値は常に78より低い。従って、着色剤を1種含有する本発明の電気めっき浴で得られるクロムコーティングは、常に、比較例から得られるものよりも暗い。更に、着色剤を1種含有する本発明の電気めっき浴で得られたクロムコーティングも、従来の6価又は3価のクロム浴から又は第15頁に記載された鉄IIイオンを含有するクロム浴から得られたコーティングよりも暗い。
【0114】
着色剤を1種含有する本発明の電気めっき浴で得られるクロムコーティングも同様に光沢がある。
【0115】
実施例2:
式(I)による着色剤の混合物を含有する塩化物ベースの電気めっき浴による黒色クロム層の堆積
式(I)による着色剤の混合物(第2表)を、実施例1に記載されるように塩基性電気めっき浴に添加した。実施例1に記載された塩基性電気めっき浴とは異なって、この実施例2の塩基性電気めっき浴は1.1g/LのFeSO
47H
2Oを含有した。得られた浴を使用して、光沢のある黒色クロム層を、実施例1に記載されたのと同じ方法でニッケルめっきされた銅パネルの上に堆積させた。パネルのMCD領域で得られた光沢のある黒色クロムめっき皮膜について測定されたL
*値、a
*値及びb
*値を第2表に示す。
【表4】
【0116】
式(I)による着色剤の混合物を含有する電気めっき浴で得られたクロム層のL
*値は70を大きく下回る。従って、式(I)による着色剤の混合物を含有する本発明の電気めっき浴で得られたクロム層は、常に、比較例から得られたクロム層よりも暗い。更に、式(I)による着色剤の混合物を含有する本発明の電気めっき浴で得られたクロム層は、着色剤を1つだけ含有する本発明の電気めっき浴で得られたクロムめっき皮膜よりも遙かに暗い。
【0117】
その上、式(I)による着色剤の混合物を含有する本発明の電気めっき浴で得られたクロム層も同様に光沢がある。
【0118】
実施例3:
式(II)による着色剤の混合物を含有する塩化物ベースの電気めっき浴による黒色クロム層の堆積
式(II)による着色剤の混合物(第3表)を、実施例1に記載の塩基性電気めっき浴に添加した。実施例1に記載された塩基性電気めっき浴とは異なり、この実施例の塩基性電気めっき浴は、1.1g/LのFeSO
47H
2Oを含有した。得られた浴を使用して、光沢のある黒色クロム層を、実施例1に記載されたのと同じ方法で、ニッケルめっきされた銅パネルの上に堆積させた。パネルのMCD領域で得られた光沢のある黒色クロムめっき皮膜について測定されたL
*値、a
*値、及びb
*値を第3表に示す。
【表5】
【0119】
式(II)による着色剤の混合物を含有する電気めっき浴で得られたクロム層のL*値は70を大きく下回る。従って、式(II)による着色剤の混合物を含有する本発明の電気めっき浴で得られるクロム層は、比較例から得られるクロム層よりも常に暗い。更には、式(II)による着色剤の混合物を含有する本発明の電気めっき浴で得られるクロム層は、着色剤を1種のみ含有する本発明の電気めっき浴で得られるクロムめっき皮膜よりも遙かに暗い。
【0120】
その上、式(II)による着色剤の混合物を含有する本発明の電気めっき浴で得られるクロム層も同様に光沢がある。
【0121】
実施例4:
式(I)による着色剤と式(II)による着色剤との混合物を含有する塩化物ベースの電気めっき浴による暗いクロム層の堆積
式(I)による着色剤と式(II)による着色剤との混合物(第4表)を、実施例1に記載される塩基性電気めっき浴に添加した。実施例1に記載された塩基性電気めっき浴とは異なり、この実施例の塩基性電気めっき浴は、1.1g/LのFeSO
47H
2Oを含有した。得られた浴を使用して、光沢のある黒色クロム層を、実施例1に記載されたのと同じ方法で、ニッケルめっきされた銅パネルの上に堆積させた。パネルのMCD領域で得られた光沢のある黒色クロムめっき皮膜について測定されたL
*値、a
*値、及びb
*値を第4表に示す。
【表6】
【0122】
式(I)及び式(II)による着色剤の混合物を含有する電気めっき浴で得られたクロム層のL
*値は70を大きく下回る。従って、式(I)及び式(II)による着色剤の混合物を含有する本発明の電気めっき浴で得られるクロム層は、比較例から得られるクロム層よりも常に暗い。更には、式(I)及び式(II)による着色剤の混合物を含有する本発明の電気めっき浴で得られたクロム層は、着色剤を1つだけ含有する本発明の電気めっき浴で得られたクロムめっき皮膜よりも遙かに暗い。
【0123】
その上、堆積実験は、クロムめっき皮膜が暗くなるほど、更に異なる着色剤が電気めっき浴内に存在することを示す。2種及び3種の着色剤を含有する混合物E及びFは、それぞれ、約66のL
*値を生じるが、4種の着色剤を含有する混合物Hは、60よりも更に低く、従って非常に暗い、59.5のL
*値を有するクロムめっき皮膜をもたらす。
【0124】
更に、電気めっき浴内の着色剤の濃度又は比も得られたクロム層の明度に影響を与える。混合物F及びGは同じ着色剤を含有するが、着色剤の濃度は混合物ごとに異なる。混合物Fによって得られるL
*値も約66であり、混合物Gは61のL
*値を有するクロムめっき皮膜をもたらし、これも非常に暗い。
【0125】
式(I)及び式(II)による着色剤の混合物を含有する本発明の電気めっき浴で得られるクロム層も同様に光沢がある。
【0126】
実施例5:
めっきされた被めっき物の表面上の黒色の分布
式(I)又は式(II)による着色剤1種又は式(I)及び式(II)による着色剤の混合物(第5表)を、実施例1に記載された塩基性電気めっき浴(塩化物ベース)に添加した。着色剤の混合物を含有するこの実施例の塩基性電気めっき浴は、1.1g/LのFeSO
47H
2Oを含有した。得られた浴を使用して光沢のある黒色クロム層を、実施例1に記載されたのと同じ方法でニッケルめっきされた銅パネルの上に堆積させた。
【0127】
色測定を、アノードに隣接するパネルの縁の領域で行い、パネルの中央の領域で行った。パネルの縁の測定領域は、下端から2cm〜3cm、アノードに隣接するパネルの縁から0.5cm〜1.5cmにある。パネルの中央の測定領域は、下端から2cm〜3cm、アノードに隣接するパネルの縁から3cm〜4cmにある。アノードに隣接するパネルの縁は、パネルの高電流密度(HCD)領域に相当する。パネルの中央はパネルの中電流密度(MCD)領域に相当する。HCD及びMCD領域で得られた光沢のある黒色クロムめっき皮膜について測定されたL
*値、a
*値及びb
*値を第5表に示す。
【表7】
【0128】
パネルのHCD及びMCDで測定されるクロム層のL
*値のみがわずかな変化を示す。従って、本発明の電気めっき浴及び本発明の電気めっき法によって広範囲の電流密度にわたって黒色の均質な分布が得られる。従って、本発明の電気めっき浴及び本発明の電気めっき法は、平板めっきされた被めっき物並びに複雑に構造化された表面を有する被めっき物の上に均一な黒色のクロムめっき皮膜を生成するのに非常によく適している。
【0129】
実施例6
異なる濃度の第一鉄イオンを含有する塩化物ベースの電気めっき浴による黒色のクロム層の堆積。
式(II)による着色剤1種を、実施例1に記載された塩基性電気めっき浴(塩化物ベース)に添加した。この実施例の塩基性電気めっき浴は、異なる濃度の第一鉄イオンを含有する点で実施例1とは異なっていた。得られた浴を使用して、実施例1に記載されたのと同じ方法でニッケルめっきされた銅パネルの上に光沢のある黒色クロム層を堆積させた。
【0130】
第一鉄イオンを、FeSO
47H
2Oの形で、塩基性電気めっき浴に添加した。第一鉄イオンの濃度は第6表に概説された範囲であった。
【0131】
pH値を、32%の塩酸又は33%のアンモニアを用いて2.7に調整した。
【0132】
本発明の着色剤(17)1,1−ジオキソ−1,2−ジヒドロ−1ラムダ
*6
*−ベンゾ[d]イソチアゾール−3−オンを、2.1g/Lの濃度で塩基性電気めっき浴に添加した。
【0133】
対照実験として、上記と同じ条件を用いるが着色剤の不在下で、ニッケルめっきされた銅パネルの上にクロム層を堆積させた。
【0134】
それぞれの得られたクロム層の厚さ及びその共析した鉄の含有率を、フィッシャースコープX線XDALスペクトロメータでX線蛍光分光法(XRF分光法)によって測定した。XRF分光法は、高エネルギーX線又はガンマ線を当てることによって励起された材料が特徴的な「第2の」(又は蛍光)X線を発する現象に基づいている。このX線蛍光は、材料の分析に使用できる。この場合、得られたクロム層が分析された。測定スポットは、色測定の領域の場合、実施例1に記載されたパネルのMCD領域にあった。それぞれの測定スポットを2回試験し、平均値を計算した。コリメータを、最も大きなサイズに調整し、測定時間を30秒に設定し、X線照射は50kVのエネルギーを有していた。生じたX線の蛍光をファンダメンタルパラメーター法によって分析した。得られたクロム層の厚さ及び鉄含有率のデータを第6表にまとめる。
【表8】
【0135】
電解質が第一鉄イオンを含有しない場合、達成されるクロム層はたった0.06μmの厚さであった(第6表)。電解質が200mg/Lの第一鉄イオンを含有するが、着色剤を含有しない場合、クロム層は0.88μmの遙かに高い厚さを達成した。興味深いことに、電解質が同じ量の第一鉄イオン+着色剤(17)を含有した場合、得られたクロム層も第一鉄イオンのないものよりも高い厚さ(0.21μm)を有していた。従って、着色剤は、クロムのめっき速度を低下させると思われる。対照的に、第一鉄イオンがめっき速度を高め、この効果は、着色剤の存在下でも未だ活性であり、従って、着色剤のめっき速度への影響を有益に抑制し且つ打ち消している。
【0136】
この実施例では、クロム層中に共析した鉄の含有率も測定した。200mg/Lの第一鉄イオンを含有するが着色剤を含有しない電解質から堆積したクロム層は、7.5〜7.8%の間の鉄含有率を示した。同じ電解質が第一鉄イオンの他に着色剤を含有することで、3倍を上回る鉄(27.5%)を含有するクロムめっき皮膜が得られた。これは、本発明の着色剤が電解質中に存在する時の、クロムめっき皮膜中の鉄の共析の予想外に高い増加である。
【0137】
実施例7
異なる濃度の第一鉄イオンを含有する塩化物ベースの電気めっき浴による黒色クロム層の堆積。
式(I)による着色剤1種又は式(I)及び(II)による着色剤の混合物(第5表)を、実施例1に記載された塩基性電気めっき浴(塩化物ベース)に添加した。この実施例の塩基性電気めっき浴は、異なる濃度の第一鉄イオンを含有する点で実施例1とは異なっていた。得られた浴を使用して、実施例1に記載されたのと同じ方法でニッケルめっきされた銅パネルの上に光沢のある黒色クロム層を堆積させた。
【0138】
第一鉄イオンを、FeSO
47H
2Oの形で塩基性電気めっき浴に添加した。第一鉄イオンの濃度は、第7表に概説された範囲であった。
【0139】
pH値を、32%の塩酸又は33%のアンモニアを用いて2.8に調整した。
【0140】
本発明の単一の着色剤又は着色剤の混合物を、第7表に概説された濃度で塩基性電気めっき浴に添加した。
【0141】
比較例として、上記と同じ条件を用いるが着色剤及び第一鉄イオンの不在下で、ニッケルめっきされた銅パネルの上にクロム層を堆積させた。
【0142】
ニッケルめっきされた銅パネルの上で得られたクロム層の色を、実施例1に記載されたMCD領域で測定した。得られたL*値、a*値及びb*値を第7表に示す。
【表9】
【表10】
【表11】
【0143】
着色剤及び第一鉄イオンのない電解質から堆積したクロム層は、82.6のL
*値をもたらす(比較例)。1種以上の着色剤だけを含有する電解質(第一鉄イオンなし)からのめっき皮膜のL
*値は、通常、約10単位であるか又は対照実験のL
*値よりも更に一層低かった。従って、第一鉄イオンを含有せずに着色剤だけを含有する電解質から得られるクロムめっき皮膜は既に対照実験よりも遙かに暗い。着色剤の他に第一鉄イオンを含有する電解質からのめっき皮膜のL*値は、クロムめっき皮膜が、第一鉄イオンの濃度の増加に伴って暗くなることを示す。
【0144】
実施例8
着色剤の混合物を含有する硫酸ベースの電気めっき浴による黒色クロム層の堆積
銅パネル(99mm×70mm)を被めっき物として使用した。
【0145】
洗浄:
銅パネルを最初に、室温(RT)にて100g/LのUniclean(登録商標)279(Atotech Deutschland GmbHの製品)を用いて電解脱脂することによって洗浄した。その後、銅パネルを10体積%のH
2SO
4で酸洗いし、水で濯いだ。
【0146】
ニッケルめっき:
洗浄した銅パネルを、Makrolux(登録商標)NF電解質(Atotech Deutschland GmbHの製品)を用いて輝きのあるニッケル層で4A/dm
2で10分間めっきした。
【0147】
輝きのある黒色クロム層の堆積:
以下の成分からなる塩基性電気めっき浴を調製した:
56g/Lのホウ酸
67.2g/Lの硫酸ナトリウム
156.8g/Lの硫酸カリウム
10g/Lのマレイン酸
0.13g/Lのビニルスルホン酸ナトリウム
54g/Lの塩基性硫酸クロム
【0148】
pH値を、25%の硫酸又は25%の水酸化ナトリウムの溶液を用いて3.5に調整した。
【0149】
本発明の着色剤を、第8表に概説された濃度で塩基性電気めっき浴に添加した。
【0150】
着色剤を含有する電気めっき浴を、白金化チタンアノードを有するハルセル中に導入し、ニッケルめっきされた銅パネルを陰極として取り付けた。2Aのめっき電流が、5分間55℃で溶液を通った。黒色クロムを、約4A/dm
2からニッケルめっきされた銅パネルの上に堆積させた。その後、クロムめっきされたパネルを水で濯いだ。
【0151】
ニッケルめっきされた銅パネルの上で得られたクロム層の色を、色度計(Dr. Lange LUCI 100)によって測定した。較正を黒色及び白色の標準を用いて行った。色測定をパネルの中央の領域で行った。測定領域は、パネル上で下縁から2cm〜3cm及びアノードに隣接するパネルの縁から3cm〜4cmにある。パネルの中央は、パネルの中電流密度(MCD)領域に相当する。得られたL
*値、a
*値及びb
*値を第8表に示す。
【表12】
【0152】
式(I)及び式(II)による着色剤の混合物を含有する硫酸ベースの電気めっき浴で得られたクロム層のL
*値は70を大きく下回る。従って、式(I)及び式(II)による着色剤の混合物を含有する本発明の電気めっき浴で得られたクロム層は、常に、従来の6価又は3価のクロム浴から又は第15頁に記載された鉄IIイオンを含有するクロム浴から得られたクロム層よりも暗い。