(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
それぞれ正側アームと負側アームとが直列接続され、各相交流線に接続される複数のレグ回路を正負の直流母線間に並列接続して備え、三相交流と直流との間で電力変換を行う電力変換器と、
該電力変換器を制御する制御装置とを備えた電力変換装置において、
前記各レグ回路の前記正側アーム、前記負側アームのそれぞれは、互いに直列接続された複数の半導体スイッチング素子の直列体とこの直列体に並列接続された直流コンデンサとから成る変換器セルを備え、
前記制御装置は、前記正側アームに対する正側アーム電圧指令と前記負側アームに対する負側アーム電圧指令とを生成する電圧指令生成部を有して、前記正側アーム、前記負側アーム内の前記各変換器セルをPWM制御により出力制御し、
前記電圧指令生成部は、
前記各相交流線に流れる交流電流成分を制御する交流制御指令を演算する交流電流制御部と、前記正側アーム内の前記直流コンデンサの電圧である正側コンデンサ電圧と前記負側アーム内の前記直流コンデンサの電圧である負側コンデンサ電圧とに基づいて、前記正側コンデンサ電圧と前記負側コンデンサ電圧とを均衡させる第1電圧調整値を演算するアームバランス制御部と、前記各相交流線に出力する交流電圧の交流電圧指令を出力する交流側指令演算部と、前記交流電圧指令および前記直流母線間の直流電圧指令に基づいて前記正側アーム電圧指令および前記負側アーム電圧指令を決定する指令分配部とを備え、
前記交流側指令演算部は、前記交流制御指令を前記第1電圧調整値を用いて調整することにより前記交流電圧指令を演算する、
電力変換装置。
前記アームバランス制御部は、前記正側コンデンサ電圧と前記負側コンデンサ電圧との電圧差を小さくするように演算した演算結果から零相成分を演算し、前記演算結果から前記零相成分を減算することにより前記第1電圧調整値を演算する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
前記アームバランス制御部は、前記正側コンデンサ電圧と、前記負側コンデンサ電圧と、さらに前記正側アーム、前記負側アーム内の零相電流の極性情報とに基づいて、前記第2電圧調整値を演算する、
請求項3に記載の電力変換装置。
前記アームバランス制御部は、前記電力変換器を流れる直流電流、有効電力の少なくとも一方の極性を前記極性情報として判定し、前記正側コンデンサ電圧と前記負側コンデンサ電圧との電圧差を小さくするように演算した演算結果から零相成分を演算し、該零相成分に前記極性情報を乗算することで、前記第2電圧調整値を演算する、
請求項6に記載の電力変換装置。
前記中性点指令演算部は、前記電力変換器を流れる直流電流、有効電力の少なくとも一方の大きさがそれぞれに設定された閾値以下の場合は、前記第2電圧調整値を用いずに検出された前記中性点電圧のみを基に前記中性点電圧指令を演算する、
請求項3に記載の電力変換装置。
前記交流側指令演算部は、前記電力変換器を流れる直流電流、有効電力の少なくとも一方の大きさがそれぞれに設定された閾値を超える場合は、前記交流制御指令の前記第1電圧調整値を用いた調整をせずに前記交流電圧指令を演算する、
請求項3または請求項8に記載の電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1による電力変換装置100について図を用いて説明する。
図1は、本発明の実施の形態1による電力変換装置100の概略構成図である。
図1に示すように、電力変換装置100は主回路である電力変換器1と、電力変換器1を制御する制御装置20とを備える。電力変換器1は、三相交流と直流との間で電力変換を行うものである。この電力変換器1の交流側は、連系変圧器13を介して三相交流回路としての系統である三相の交流電源14に接続される。そして、電力変換器1の直流側は、インピーダンス15を介して直流系統である直流電源16に接続される。
電力変換器1は、各相にレグ回路4を備える。各レグ回路4は、正側アーム5と負側アーム6とが、接続点である交流端子7において直列接続されて構成される。各相のレグ回路4は正負の直流母線2、3間に並列接続され、そして交流端子7は各相交流線に接続される。
【0014】
各レグ回路4の正側アーム5、負側アーム6のそれぞれは、1以上の変換器セル10を直列接続したセル群5a、6aで構成される。そして正側アーム5には、正側リアクトル9pが直列に接続されており、負側アーム6aには、負側リアクトル9nが直列に接続されている。この場合、正側リアクトル9pと負側リアクトル9nは、正負のアーム5、6の交流端子7側に接続されて、3端子のリアクトル8を構成している。
なお、正側リアクトル9pと負側リアクトル9nとは、互いにリアクタンスが異なっていてもよい。
また、制御装置20は、正側アーム電圧指令Vp+と負側アーム電圧指令Vp−とを生成する電圧指令生成部21と、PWM回路22とを備えて、ゲート信号22aを生成する。生成されたゲート信号22aにより、各相の正側アーム5、負側アーム6内の各変換器セル10が制御される。
【0015】
各相の正側アーム5、負側アーム6に流れる正側アーム電流ip+、負側アーム電流ip−、各相交流線に流れる交流電流ipは、それぞれ図示しない電流検出器により検出されて制御装置20に入力される。
さらに、図示しない電圧検出器により検出される交流電源14の各相電圧(以降、交流電圧Vspと称す)、電力変換器1の中性点電圧Vsn、正負の直流母線2、3間の電圧である直流電源16の電圧の指令値(以降、直流電圧指令Vdcと称す)、が制御装置20に入力される。
なお、各相の交流電流ipは、各相の正側アーム5、負側アーム6にそれぞれ流れる正側アーム電流ip+、負側アーム電流ip−とから演算して用いても良い。
【0016】
制御装置20では、電圧指令生成部21が、入力された上記の電圧、電流の情報に基づいて、各相の正側アーム5に対する正側アーム電圧指令Vp+と、各相の負側アーム6に対する負側アーム電圧指令Vp−とを生成する。そして、PWM回路22は、正側アーム電圧指令Vp+、負側アーム電圧指令Vp−に基づいてパルス幅変調制御(PWM制御)によるゲート信号22aを生成する。
なお、正側アーム電圧指令Vp+、負側アーム電圧指令Vp−を生成するための、制御装置20の構成および動作の詳細は後述する。
【0017】
各変換器セル10の構成例を
図2に示す。
図2は、ハーフブリッジ構成を採用した変換器セル10の回路構成図である。
図2の変換器セル10は、それぞれダイオード31が逆並列に接続された複数(この場合2個)の半導体スイッチング素子30(以降、単にスイッチング素子と称す)の直列体32と、この直列体32に並列接続され直流電圧を平滑化する直流コンデンサ34とから構成される。
【0018】
スイッチング素子30は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やGCT(Gate Commutated Turn−off thyristor)等の自己消弧型のスイッチング素子から成る。このスイッチング素子30に、それぞれダイオード31が逆並列に接続されて、スイッチ33P、33Nが構成される。
そして、
図2に示すように、変換器セル10は、スイッチ33Nのスイッチング素子30の両端子を出力端とし、スイッチング素子30をオン、オフさせることにより、この出力端から、直流コンデンサ34の両端電圧およびゼロ電圧を出力する。
【0019】
各変換器セル10の構成の別例を
図3に示す。
図3は、フルブリッジ構成を採用した変換器セル10を示す回路構成図である。
図3の変換器セル10は、並列接続された2つの直列体42と、直列体42に並列接続され直流電圧を平滑化する直流コンデンサ44とを備える。
各直列体42は、それぞれダイオード41が逆並列に接続された複数(この場合2個)のスイッチング素子40を直列接続して構成される。
スイッチング素子40は、IGBTやGCT等の自己消弧型のスイッチング素子から成る。このスイッチング素子40に、それぞれダイオード41が逆並列に接続されて、スイッチ43P、43Nが構成される。
【0020】
そして、
図3に示すように、変換器セル10は、それぞれの直列体42の中間接続点となるスイッチング素子40の端子を出力端とし、スイッチング素子40をオン、オフさせることにより、この出力端から、直流コンデンサ44両端の正電圧、負電圧およびゼロ電圧を出力する。
なお、変換器セル10は、複数のスイッチング素子により構成された直列体と、この直列体に並列に接続された直流コンデンサとから成り、スイッチング動作により直流コンデンサの電圧を選択的に出力する構成であれば、
図2、
図3で示した構成に限定されるものではない。
【0021】
電力変換器1は直流および交流を出力するため、直流側と交流側の両側の制御が必要となる。さらに、交流側出力にも直流側出力にも寄与しないで正側アーム5、負側アーム6間を還流する循環電流izpが電力変換器1内を流れる。このため、直流側制御、交流側制御に加え循環電流izpの制御が必要となる。この場合、交流端子7が系統の交流電源14に連系されているため、交流側制御に必要な交流電圧を電力変換器1から出力する必要があり、交流連系点の各相の交流電圧Vspをフィードフォワードすることにより制御する。
【0022】
図4は、本発明の実施の形態1による電力変換装置100における、制御装置20の構成例を示すブロック図である。
制御装置20は、上述したように電圧指令生成部21とPWM回路22とを備える。
電圧指令生成部21は、交流電流ipを制御するための交流電流制御部26と、正側アーム5内の直流コンデンサ34(44)の電圧(以降、正側コンデンサ電圧Vcppと称す)と負側アーム6内の直流コンデンサ34(44)の電圧(以降、負側コンデンサ電圧Vcpnと称す)とのばらつきを抑制するためのアームバランス制御部27と、電力変換器1内で循環する各相の循環電流izpを制御するための循環電流制御部28と、交流電圧指令Vacpを演算する交流側指令演算部24と、中性点電圧指令Vnを演算する中性点指令演算部25と、さらに各相の正側アーム電圧指令Vp+および負側アーム電圧指令Vp−を決定する指令分配部23とを備える。
【0023】
交流電流制御部26は、検出された交流電流ipと、設定された交流電流指令ip*との偏差が0になるように電圧指令である交流制御指令Vcpを演算する。即ち、各相交流線に流れる交流電流ipを交流電流指令ip*に追従制御するための交流制御指令Vcpを演算する。
循環電流制御部28は、各相の循環電流izpを、設定された循環電流指令値izp*(例えば0)に追従制御するための循環制御指令Vzpを演算する。
【0024】
この場合、アームバランス制御部27は、各相において、正側アーム5内のすべての直流コンデンサ34(44)の検出電圧の平均値を正側コンデンサ電圧Vcppに用い、負側アーム6内のすべての直流コンデンサ34(44)の検出電圧の平均値を負側コンデンサ電圧Vcpnに用いる。
そして、アームバランス制御部27は、正側コンデンサ電圧Vcppと負側コンデンサ電圧Vcpnとを均衡させて正側アーム5と負側アーム6との間における電圧ばらつきを抑制するため、交流側電圧調整値である第1電圧調整値ΔVcと、中性点電圧Vsnを調整するための中性点電圧調整値である第2電圧調整値ΔVsnとを演算する。
【0025】
交流側指令演算部24は、交流電流制御部26にて演算された交流制御指令Vcpを、アームバランス制御部27にて演算された第1電圧調整値ΔVcを用いて調整する。
さらに、交流側指令演算部24は、フィードフォワードされる各相の交流電圧Vspを用いて、各相交流線に出力する交流電圧の交流電圧指令Vacpを演算する。
中性点指令演算部25は、アームバランス制御部27にて演算された第2電圧調整値ΔVsnと、検出された中性点電圧Vsnとを基に、中性点電圧指令Vnを演算する。
【0026】
指令分配部23には、交流電圧指令Vacp、中性点電圧指令Vn、循環制御指令Vzpと、正負の直流母線2、3間の電圧の直流電圧指令Vdcとが入力される。
そして指令分配部23は、これら入力情報に基づいて、正側アーム5、負側アーム6がそれぞれ出力分担する電圧から、正側アーム5、負側アーム6内のインダクタンス成分による電圧降下分をそれぞれ差し引いて、電圧成分を分配する。
これにより、指令分配部23は、各相の正側アーム5に対する正側アーム電圧指令Vp+と、各相の負側アーム6に対する負側アーム電圧指令Vp−とを決定する。
【0027】
このように電圧指令生成部21が生成する各相の正側アーム電圧指令Vp+、負側アーム電圧指令Vp−は、直流電源16の電圧を直流電圧指令Vdcに制御し、交流電圧を交流電圧指令Vacpに制御し、中性点電圧を中性点電圧指令Vnに制御する出力電圧指令となる。
なお、中性点電圧Vsnは直流電源16の電圧により演算された値でも、検出した値でもよい。また、直流電圧指令Vdcは、直流出力制御により与えられても、一定値でもよい。
【0028】
PWM回路22は、正側アーム電圧指令Vp+、負側アーム電圧指令Vp−に基づいて、各相の正側アーム5、負側アーム6内の各変換器セル10をPWM制御するゲート信号22aを生成する。
生成されたゲート信号22aにより各変換器セル10内のスイッチング素子30(40)が駆動制御され、電力変換器1の出力電圧は所望の値に制御される。
【0029】
以下、正側コンデンサ電圧Vcppと負側コンデンサ電圧Vcpnとのばらつきを抑制するための、本実施の形態の要部となるアームバランス制御部27について詳細を説明する。
図5は、本発明の実施の形態1によるアームバランス制御部27の詳細構成を示すブロック図である。
アームバランス制御部27は、第1電圧調整値ΔVcを演算する交流側調整値演算部50と、第2電圧調整値ΔVsnを演算する中性点調整値演算部51とを備える。
【0030】
始めに、交流側調整値演算部50の演算手法について説明する。
図に示すように、交流側調整値演算部50は、U相、V相、W相の各相個別に第1電圧調整値ΔVc(ΔVcu、ΔVcv、ΔVcw)を演算する構成を有している。以下にて説明する第1電圧調整値ΔVcの演算手法は各相共通である。
【0031】
まず、減算器55により、検出された正側コンデンサ電圧Vcpp(Vcpp−u、Vcpp−v、Vcpp−w)と、検出された負側コンデンサ電圧Vcpn(Vcpn−u、Vcpn−v、Vcpn−w)との差であるΔVcppn(ΔVcppn−u、ΔVcppn−v、ΔVcppn−w)を演算する。
【0032】
次に、フィルタ56によりΔVcppnから特定の周波数成分を除去する。これは、正側コンデンサ電圧Vcppと負側コンデンサ電圧Vcpnとの電圧差であるΔVcppnには、基本波周波数成分や基本波周波数の2倍の周波数成分が含まれており、これらの特定の周波数成分は制御対象としないため、このようにフィルタ56により除去する。
フィルタ56は、例えば基本波周波数や基本波周波数の2倍の周波数などの特定の周波数を除去するようなバンドストップフィルタでよく、制御対象の周波数帯域をパスさせるようなフィルタを用いればよい。
【0033】
次に、補償器57は、上記のように不要な周波数成分を除去されたΔVcppnが、ゼロとなるような電圧調整値57aを演算する。この電圧調整値57aは各相個別に演算されるため、正相成分、逆相成分、零相成分のすべての成分が含まれている。
次に、各相の電圧調整値57aを加算器59にて加算して1/3を掛けることにより零相成分ΔVczを演算する。
次に、減算器58は、演算された各相の電圧調整値57aより零相成分ΔVczを減算して、各相毎に第1電圧調整値ΔVc(ΔVcu、ΔVcv、ΔVcw)を演算する。
このように零相成分ΔVczを除去する理由は、零相成分ΔVczを別途制御するためであり、詳細は後述する。
【0034】
次に、中性点調整値演算部51の演算手法について説明する。
まず、極性判定部61にて、直流電流Idcから正側アーム5、負側アーム6内の零相電流の方向、即ち極性61aを判定する。
次に、乗算器60は、交流側調整値演算部50により演算された零相成分ΔVczに、零相電流の極性61aを乗算し、第2電圧調整値ΔVsnを演算する。
なお、直流電流Idcは、直接検出してもよいし、演算により求めてもよい。
【0035】
このように、交流側調整値演算部50は、検出された各相の正側コンデンサ電圧Vcppと、検出された各相の負側コンデンサ電圧Vcpnとから、各相の電圧調整値57aのうち、零相成分であるΔVczと、零相成分ΔVczを除去した第1電圧調整値ΔVc(ΔVcu、ΔVcv、ΔVcw)とを演算する。
また、中性点調整値演算部51は、交流側調整値演算部50で演算された零相電圧成分ΔVczと、正側アーム5、負側アーム6内の零相電流の極性情報(極性61a)とに基づいて、第2電圧調整値ΔVsnを演算する。
【0036】
上記のようなアームバランス制御部27による制御が、正側コンデンサ電圧Vcppと負側コンデンサ電圧Vcpnとを均衡させ、正側アーム5と負側アーム6との間の電圧ばらつきを抑制することについて以下に説明する。
【0037】
まず、電力変換器1に流れる電流成分について説明する。
電力変換器1は直流および交流を出力するため、電力変換器1に流れる電流は直流成分と交流基本波成分との2つの成分が主成分となる。よって、正側アーム電流ip+、負側アーム電流ip−の主成分も直流成分と交流基本波成分との2成分となる。
電流の直流成分は、正側アーム電流ip+と負側アーム電流ip−とで大きさおよび極性が等しい成分であり、電流の交流基本波成分は正側アーム電流ip+と負側アーム電流ip−とで大きさが等しく逆極性の成分である。
【0038】
次に電力変換器1が出力する電圧成分について説明する。
電力変換器1は直流および交流を出力するため、電力変換器1が出力する電圧についても、直流成分と交流基本波成分との2つの成分が主成分となる。よって、正側アーム5内のセル群5aが出力する電圧と、負側アーム6内のセル群6aが出力する電圧の主成分も、直流成分と交流基本波成分との2成分となる。
正側アーム5内のセル群5aが出力する電圧と負側アーム6内のセル群6aが出力する電圧の直流成分は、それぞれ大きさおよび極性が等しい成分であり、交流基本波成分はそれぞれ大きさが等しく逆極性の成分である。
【0039】
正側コンデンサ電圧Vcppと負側コンデンサ電圧Vcpnとがアンバランスな状態である場合、例えば、正側コンデンサ電圧Vcppが負側コンデンサ電圧Vcpnより高い状態であるとする。この場合、正側アーム5内の直流コンデンサ34(44)を放電し、負側アーム6内の直流コンデンサ34(44)を充電することで、正側コンデンサ電圧Vcppと負側コンデンサ電圧Vcpnとを均衡させることができる。つまり、正側アーム5内の直流コンデンサ34(44)と負側アーム6内の直流コンデンサ34(44)とで、それぞれ充放電を逆極性とする必要がある。
【0040】
正側アーム5内の直流コンデンサ34(44)と、負側アーム6内の直流コンデンサ34(44)の充放電を逆極性とするには、正側アーム5と負側アーム6との間で同極性の交流基本波成分の電圧を発生させるか、同極性の交流基本波成分の電流を流すか、逆極性の直流成分の電圧を発生させるか、逆極性の直流成分の電流を流すか、のいずれかをすればよい。
本実施の形態では、交流端子における電圧位相が不要となる、逆極性の直流成分の電圧を発生させる手法を用いる。
【0041】
上述のとおり、電圧の交流基本波成分は正側アーム5と負側アーム6との間で逆極性の成分である。そのため、正側コンデンサ電圧Vcppと負側コンデンサ電圧Vcpnとを均衡させるために必要な逆極性の直流成分の電圧を発生させるためには、各相交流線に出力する交流電圧の電圧指令に、直流成分の調整値を与える。
この直流成分の調整値には、アームバランス制御部27の交流側調整値演算部50で演算された第1電圧調整値ΔVcを用い、交流制御指令Vcpをこの第1電圧調整値ΔVcで調整して交流電圧指令Vacpを演算する。
【0042】
次に、中性点調整値演算部51が、すべての相の正側コンデンサ電圧Vcppと負側コンデンサ電圧Vcpnとの電圧バランスを一括で制御する手法について詳述する。
すべての相の正側コンデンサ電圧Vcppと負側コンデンサ電圧Vcpnとの電圧バランスを一括で制御するためには、中性点電圧Vsn(零相電圧)を調整すればよい。
よって交流側調整値演算部50で演算された各相の交流側の電圧調整値57aから、零相成分であるΔVczを演算し、演算された零相成分ΔVczを中性点電圧Vsnの調整値としての第2電圧調整値ΔVsnに用いる。
【0043】
ただし、中性点電圧Vsnを調整するための極性は、零相電流の極性つまり直流電流Idcの極性61aに依存するため、零相成分ΔVczに対して直流電流Idcの極性61aを付加したΔVsnを、第2電圧調整値ΔVsnとする。
このように、第2電圧調整値ΔVsnを用いて中性点電圧Vsn(零相電圧)を別途調整する制御のため、上述した電圧調整値57aから零相成分ΔVczを減算している。
【0044】
こうして、正側コンデンサ電圧Vcppと負側コンデンサ電圧Vcpnとを均衡させるための、第1電圧調整値ΔVcと第2電圧調整値ΔVsnとが演算される。
そして、第1電圧調整値ΔVcが与えられた交流電圧指令Vacpと、第2電圧調整値ΔVsnが与えられた中性点電圧指令Vnとに基づいた、正側アーム電圧指令Vp+および負側アーム電圧指令Vp−が決定される。
こうして各変換器セル10内のスイッチング素子30(40)が駆動制御され、正側コンデンサ電圧Vcppと負側コンデンサ電圧Vcpnとが均衡される。
【0045】
上記のように構成された本実施の形態の電力変換装置100によると、位相を検出する演算などを不要として演算量を低減しつつ、正側アーム5内の直流コンデンサ34(44)の電圧Vcppと、負側アーム6内の直流コンデンサ34(44)の電圧Vcpnとを均衡させることができる。これにより、直流コンデンサ34(44)の過電圧を防止することができ、系統異常時にも安定的な動作が可能になる。また、このように、系統異常時にも安定的な動作が可能になるため、高調波の流出を抑制できると共に、電力変換効率を向上させることができる。
【0046】
さらに、中性点調整値演算部51により演算された第2電圧調整値ΔVsnを用いることにより、すべての相の正側アーム5と負側アーム6との間の直流コンデンサ34(44)の電圧バランスを一括で容易に制御することができる。
また、第1電圧調整値ΔVcは、各相毎に演算される。そのため、例えば相毎に正側コンデンサ電圧Vcppと負側コンデンサ電圧Vcpnとの電圧バランスが異なる場合でも、各相の状態に対応した制御が可能となる。これにより、さらにアームバランス制御の精度が向上する。
【0047】
なお、本実施の形態では、正側コンデンサ電圧Vcppと負側コンデンサ電圧Vcpnとして、それぞれ正側アーム5内の直流コンデンサ34(44)の検出電圧の平均値と、負側アーム6内の直流コンデンサ34(44)の検出電圧の平均値とを用いた。
しかしながら、平均値に限るものではなく、例えば任意に選出した直流コンデンサ34(44)の電圧を用いてもよい。
【0048】
なお、正側リアクトル9p、負側リアクトル9nが挿入される位置は、正側アーム5、負側アーム6内のいずれの位置でも良く、それぞれ複数個であっても良い。また、正側アーム5または負側アーム6のいずれか一方にのみリアクトルを備える構成でもよい。
図6は、本発明の実施の形態1の他の構成による電力変換装置100aを示す概略構成図である。
図6に示すように、負側アーム6のみに、セル群6aの負極側に負側リアクトル9nが直列に挿入されてもよい。
【0049】
また、
図1で示した電力変換装置100では、正側アーム5と負側アーム6との接続点である交流端子7を各相交流線に接続することで、三相の交流電源14と電力授受を行うものであったが、この構成に限定するものではない。
例えば、正側アーム5と負側アーム6とが直列接続され、トランスを介して各相交流線に接続することで、三相の交流電源14と電力授受を行う構成としてもよい。
【0050】
上記で示した電力変換装置100では、アームバランス制御部27が、第1電圧調整値ΔVcを演算する交流側調整値演算部50と、第2電圧調整値ΔVsnを演算する中性点調整値演算部51とを備える構成とした。しかしこの構成に限るものではなく、アームバランス制御部27が、交流側調整値演算部50のみを備える構成としてもよい。この場合、中性点指令演算部25は、第2電圧調整値ΔVsnを用いず、検出された中性点電圧Vsnのみを基に中性点電圧指令Vnの演算をおこなう。
【0051】
実施の形態2.
以下、本発明の実施の形態2を、上記実施の形態1と異なる箇所を中心に図を用いて説明する。上記実施の形態1と同様の部分は同一符号を付して説明を省略する。
図7は、本発明の実施の形態2によるアームバランス制御部227の詳細構成を示すブロック図である。
実施の形態1との違いは、実施の形態1では直流電流Idcから正側アーム5、負側アーム6内の零相電流の極性61aを判定したが、本実施の形態では有効電力Pから正側アーム5、負側アーム6内の零相電流の極性61aを判定して検出する点が異なる。
【0052】
まず、極性判定部61にて、有効電力Pから正側アーム5、負側アーム6内の零相電流の方向、即ち極性61aを判定する。
次に、乗算器60は、交流側調整値演算部50により演算された零相成分ΔVczに、零相電流の極性61aを乗算し、第2電圧調整値ΔVsnを演算する。
ここで有効電力Pは、交流側出力電力でもよいし、直流側出力電力でもよい。
【0053】
上記のように構成された本実施の形態の電力変換装置100によると、実施の形態1と同様の効果を奏し、位相を検出する演算などを不要として演算量を低減しつつ、正側アーム5内の直流コンデンサ34(44)の電圧Vcppと負側アーム6内の直流コンデンサ34(44)の電圧Vcpnとを均衡させることができる。これにより、直流コンデンサ34(44)の過電圧を防止することができ、系統異常時にも安定的な動作が可能になる。また、このように、系統異常時にも安定的な動作が可能になるため、高調波の流出を抑制できると共に、電力変換効率を向上させることができる。
【0054】
実施の形態3.
以下、本発明の実施の形態3を、上記実施の形態1と異なる箇所を中心に図を用いて説明する。上記実施の形態1と同様の部分は同一符号を付して説明を省略する。
図8は、本発明の実施の形態3によるアームバランス制御部327の詳細構成を示すブロック図である。
本実施の形態による中性点調整値演算部351は、電力変換器1を流れる直流電流Idcの大きさを、設定された閾値と比較する選択判定部80を備える。
【0055】
直流電流Idcの大きさが閾値以下の場合は、選択判定部80は「0」を判定情報80a1として出力し、「1」を判定情報80a2として出力する。
乗算器81は、乗算器60の出力60aに判定情報80a1を乗算する。この場合、判定情報80a1は0であるため、乗算器81から出力される第2電圧調整値ΔVsnは0となり、無効となる。
乗算器82は、減算器58の出力58aに、判定情報80a2を乗算する。この場合、判定情報80a2は1であるため乗算器82から出力される第1電圧調整値ΔVcは有効となる。
【0056】
そして、中性点指令演算部25は、第2電圧調整値ΔVsnを用いず、検出された中性点電圧Vsnのみを基に中性点電圧指令Vnを演算する。
一方、交流側指令演算部24は、実施の形態1、2と同様に、交流制御指令Vcpを第1電圧調整値ΔVcで調整して交流電圧指令Vacpを演算する。
すなわち第2電圧調整値ΔVsnを用いた調整をおこなわず、第1電圧調整値ΔVcのみを用いたアームバランス制御をおこなう。
【0057】
直流電流Idcの大きさが閾値を超える場合は、選択判定部80は「1」を判定情報80a1として出力し、「0」を判定情報80a2として出力する。
この場合、判定情報80a1は1であるため第2電圧調整値ΔVsnは有効となり、判定情報80a2は0であるため第1電圧調整値ΔVcは無効となる。
そして、交流側指令演算部24は、交流制御指令Vcpの第1電圧調整値ΔVcを用いた調整をせずに交流電圧指令Vacpを演算する。
一方、中性点指令演算部25は、実施の形態1、2と同様に、第2電圧調整値ΔVsnと検出された中性点電圧Vsnとを基に中性点電圧指令Vnを演算する。
すなわち第1電圧調整値ΔVcを用いた調整をおこなわず、第2電圧調整値ΔVsnのみを用いたアームバランス制御をおこなうことができる。
【0058】
このように、電力変換器1を流れる直流電流Idcの大きさが閾値以下の場合では、第2電圧調整値ΔVsnを無効とした制御としている。
これは通常、中性点調整値演算部51は、直流電流Idcを用いて第2電圧調整値ΔVsnを演算するものであって、電力変換装置100に電流が流れている場合のみに有効な演算である。そのため直流電流Idcの値が閾値以下のような小さい値の場合では、第2電圧調整値ΔVsnが正常に演算されないおそれが生ずるため、第2電圧調整値ΔVsnを用いない制御としている。
一方、第1電圧調整値ΔVは、直流電流Idcを用いて演算される値ではない。このため、直流電流Idcが小さい場合であっても第1電圧調整値ΔVの演算に支障はなく、交流側指令演算部24は第1電圧調整値ΔVcを用いた演算をおこなう。
【0059】
なお、上記では、直流電流Idcの大きさが閾値を超える場合においては、第2電圧調整値ΔVsnのみを有効とし、第1電圧調整値ΔVcを無効としたが、これに限るものではない。第1電圧調整値ΔVcと第2電圧調整値ΔVsnとの両方を有効にして、実施の形態1と同様に、第1電圧調整値ΔVcと第2電圧調整値ΔVsnとの両方を用いる制御としてもよい。
また、上記では、直流電流Idcの大きさを閾値と比較する制御を示したが、有効電力Pの大きさを用いて比較判定をするものでもよい。
【0060】
上記のように構成された本実施の形態の電力変換装置100によると、実施の形態1、2と同様の効果を奏し、位相を検出する演算などを不要として演算量を低減しつつ、正側アーム5内の直流コンデンサ34(44)の電圧Vcppと負側アーム6内の直流コンデンサ34(44)の電圧Vcpnとを均衡させることができる。これにより、直流コンデンサ34(44)の過電圧を防止することができ、系統異常時にも安定的な動作が可能になる。また、このように、系統異常時にも安定的な動作が可能になるため、高調波の流出を抑制できると共に、電力変換効率を向上させることができる。
さらに、電力変換器1を流れる直流電流Idcや有効電力Pの大きさが小さい場合でも、安定したアームバランス制御を提供できる。
【0061】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。