(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227232
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】放熱塗料及びそれを塗布した発熱体
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20171030BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20171030BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/00 Z
C09D7/12
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-153062(P2012-153062)
(22)【出願日】2012年7月6日
(65)【公開番号】特開2014-15520(P2014-15520A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年4月10日
【審判番号】不服2016-9141(P2016-9141/J1)
【審判請求日】2016年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166372
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 博明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武志
(72)【発明者】
【氏名】森永 彰
(72)【発明者】
【氏名】川添 公美子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 浩之
【合議体】
【審判長】
佐々木 秀次
【審判官】
井上 能宏
【審判官】
原 賢一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−208124号公報(JP,A)
【文献】
特開2004−074412号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーに対して放熱フィラーを含有させてなる放熱塗料において、
前記バインダーとして透光性を有する樹脂を用い、
前記放熱フィラーとして900℃から黒鉛化しない温度までの範囲の焼成温度で焼成した2.4μm〜60μmの粒径の植物焼成体を用い、
前記樹脂に対して前記植物焼成体を、0.5%〜5.0%で含有させている透光性を有する放熱塗料。
【請求項2】
前記植物焼成体は、その焼成温度と粒径との少なくとも一方が制御されている、請求項1記載の放熱塗料。
【請求項3】
前記植物焼成体は、米糠、籾殻、大豆皮、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハル、大豆殻、カカオハスクのいずれかの焼成体である、請求項1記載の放熱塗料。
【請求項4】
前記樹脂は、放熱効果を有する、請求項1記載の放熱塗料。
【請求項5】
請求項1記載の放熱塗料によって形成される放熱被膜が10μm〜40μmの膜厚となる条件で塗布されている発熱体。
【請求項6】
請求項1記載の放熱塗料に用いられる植物焼成体であって、
米糠、籾殻、大豆皮、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハル、大豆殻、カカオハスクのいずれかを焼成し、粒径が30μm〜60μmである、植物焼成体。
【請求項7】
前記樹脂は、透光性を有し、かつ、極性基を有している請求項1記載の放熱塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱塗料及びそれを塗布した発熱体に関し、特に、透明性に優れた放熱塗料及びそれを塗布した発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料として必要な塗布性及び塗膜後の形状維持性を備えた上で、放熱体に塗布することで放熱量を増大させられる放熱塗料が特許文献1に開示されている。この放熱塗料は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)100質量部と、膨張化黒鉛粉5質量部以上180質量部以下と、(メタ)アクリル酸エステル重合体(AP1)を溶かす溶媒100質量部以上1000質量部以下とを含む、とされている。
【0003】
【特許文献1】特開2012−46620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている放熱塗料は、放熱効果が限定的であり、更なる改善が求められている。また、特許文献1に開示されている放熱塗料は、黒鉛粉の含有量が相対的に多い。そうすると、放熱塗料を塗布した発熱体は、黒鉛粉の色の影響を受けて、その塗布された表面が典型的には黒色になってしまう。
【0005】
そうすると、放熱塗料の塗布対象が、電化製品の内部のように人目につかない場合であれば、見た目としての悪影響は生じ得ないが、電化製品の外面のように人目に付く場合であれば、見た目としての悪影響が生じ得る。
【0006】
極端に言えば、発熱体が、例えば電球などの照明機器のように、透光性が要求されるものである場合には、特許文献1に開示されている放熱塗料をガラス球体に塗布することによって放熱対策を施すことは、光源からの出射光がガラス球体表面で遮られるので非現実的である。
【0007】
そこで、本発明は、従来の放熱塗料以上の放熱効果が得られる、好ましくは透光性に優れた放熱塗料及びそれを塗布した発熱体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、
バインダーに対して放熱フィラーを含有させてなる放熱塗料において、
前記バインダーとして樹脂を用い、
前記放熱フィラーとして植物焼成体を用い、
前記樹脂に対して前記植物焼成体を10重量%以下で含有させている。
【0009】
前記植物焼成体は、その焼成温度と粒径との少なくとも一方を制御するとよい。
【0010】
前記植物焼成体は、米糠、籾殻、大豆皮、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハル、大豆殻、カカオハスクのいずれかの焼成体とすることができる。
【0011】
前記樹脂は、放熱効果を有するものを採用するとよい。また、前記樹脂は、透光性を有するものとしてもよい。
【0012】
また、本発明の発熱体は、上記放熱塗料によって形成される放熱被膜がたとえば100μm以下の膜厚となる条件で塗布されている。この膜厚は、好ましくは70μm以下、より好ましくは、10μm〜30μmである。
【0013】
さらに、本発明は、上記放熱塗料に用いられる植物焼成体であって、
米糠、籾殻、大豆皮、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハル、大豆殻、カカオハスクのいずれかを焼成し、メディアン径が30μm〜85μmである。
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面及び表を参照して説明する。
【0015】
まず、本実施形態の放熱塗料の概要について説明する。本実施形態の放熱塗料は、バインダーに対して放熱フィラーを含有させており、この点は、既知の放熱塗料の場合と同じである。
【0016】
本実施形態の放熱塗料は、バインダーとして、透光性樹脂を含む樹脂を用いている。本実施形態に係るバインダーは、好ましくは透光性を有していて、かつ、放熱フィラーが含有させられるものであればよい。したがって、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂のいずれも使用できる。樹脂の種別としても、上記のバインダーに要求される条件さえ満たせば不問であり、アクリル系、ビニル系、ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系、ウレタン系、エポキシ系などの単独重合体、または共重合体などを広く用いることができる。
【0017】
付言すると、本実施形態に係る透光性樹脂は、極性基を有していると好ましく、塗布対象との密着性が高いものを用いることができる。ただし、後述するように、用途によっては、それほどの密着性を要しない場合もあるので、この種の要件は必須ではない。
【0018】
また、本実施形態の放熱塗料は、放熱フィラーとして植物焼成体を用いている。後述の測定結果からすれば、植物焼成体の原料は不問と考えることができるが、それでも、原料によって、放熱効果に差異があることはわかった。いずれにしても、本実施形態の放熱塗料は、放熱フィラーとして植物焼成体を用いることが重要である。
【0019】
本実施形態では、植物焼成体の原料として、米糠、籾殻、大豆皮を選択して、具体的な放熱効果測定を実施した。ただ、これらの焼成体と、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハル、大豆殻、カカオハスクなどの各焼成体とでは、物理的特性、電気的特性などが似通っていることから、同様の放熱効果があると考えられる。
【0020】
また、本実施形態の放熱塗料は、放熱フィラーとして植物焼成体の焼成温度、粒径によって放熱効果が異なることがわかった。さらに、放熱塗料によって発熱体に形成される塗膜の厚さによっても、放熱効果が異なることが分かった。
【0021】
ところで、特許文献1において、放熱フィラーとして黒鉛粉を用いることが記載されているように、カーボンは、一般的に放熱作用を有している。したがって、例えばカーボンブラックを放熱フィラーとして用いることができ、この点は既知である。
【0022】
しかし、驚くべきことに、放熱フィラーとして植物焼成体を用いる場合には、特許文献1などに開示されている一般的なカーボンブラックを用いる場合に比して、バインダーに対する含有量が僅かであっても、優れた放熱効果を得ることができることがわかった。当該含有量については、汎用的なカーボンブラックと対比すると全く異なるものとなった。通常、放熱フィラーは、バインダーよりも高価であることから、少量の放熱フィラーによって放熱塗料をすることができるので、本実施形態の放熱塗料は、コスト面でも利点がある。
【0023】
しかも、カーボンは、通常、程度の差こそあれ黒色をしているが、バインダーに対する含有量が非常に微量で、カーボン自体が微細であり、バインダーに対して十分に拡散させることができれば、放熱フィラー自体の色を人間が肉眼で視認できないし、バインダーとして透光性樹脂を選択すれば、透光性に優れた放熱塗料を得ることができる。
【0024】
本実施形態では、透光性樹脂に対して植物焼成体を10重量%以下で含有させている。後述するように、植物焼成体の種別によっては、3%でも優れた放熱効果を得ることができ、最少となる条件では0.5%でも優れた放熱効果を得ることができた。
【0025】
つぎに、本実施形態に係る植物焼成体の製造方法について、大豆皮を原料とした場合を例に説明する。
【0026】
ここで、大豆を原材料として食用油等を製造すると、大量の大豆皮が発生する。これらの大半は牧畜用の飼料や農業用の肥料に再利用されているが、更なる用途も模索されていた。エコロジーの観点から日夜研究した結果、大豆皮の更なる再利用として、大豆皮焼成体が放熱フィラーとして有益に用いられることを見出した。なお、食物残差であるか否かは別として、植物焼成体の原料として大豆以外のものを用いる場合の製造工程についても、以下説明する工程と同様とすればよい。
【0027】
図1は、本実施形態に係る大豆皮焼成体の模式的な製造工程図である。まず、食用油等の製造時に発生する生大豆皮を炭化装置にセットして、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下或いは真空中で、1分当たり約2[℃]ずつ温度を上昇させ、700[℃]〜1500[℃](たとえば900[℃])といった所定の温度まで到達させる。それから、到達温度で3時間程度、炭化焼成処理を施す。炭化装置は、静置炉、ロータリーキルンなどを用いることができる。
【0028】
なお、各植物焼成体の製造にあたり、レゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂を含有させてから、それを炭化装置にセットすることも一法である。レゾール型フェノール樹脂等を混合すると、大豆皮焼成物の強度、炭素量の向上を図ることができる。もっとも、当該混合自体は、本実施形態の熱伝導部材の製造上、必ずしも必要ではない点に留意されたい。
【0029】
つぎに、焼成した大豆皮を粉砕してから、例えば106μm四方のメッシュを用いて篩分けする。篩分処理を経て、メディアン径が例えば約4μm〜約85μm(たとえば60μm)の大豆皮焼成体が得られる。本実施形態では、以上の各工程を経ることによって、大豆皮焼成体を製造した。なお、上記の篩分処理条件では、大豆皮等の焼成体全体のうち、その80%程度が85μm以下となるものが得られる。この場合のメディアン径は、例えば約30μm〜約60μmとなる。以下、特に断りのない限り、大豆皮焼成体等の粒径については、メディアン径として説明する。
【0030】
なお、メディアン径は、島津製作所社のレーザ回折式粒度分布測定装置SALD−7000などを用いて測定した。本実施形態では、メディアン径が例えば30μm〜約60μmの大豆皮焼成体、及び、それを選択的に更に微粉砕して、最小のメディアン径で約1μmとした大豆皮焼成体を得た。
【0031】
なお、本明細書でいう微粉砕とは、微粉砕前のもののメディアン径を約1桁オーダー程度下げるように粉砕することをいう。したがって、例えば、粉砕前のメディアン径が30μmであれば、3μmとなるように粉砕することをいう。もっとも、微粉砕は、微粉砕前のもののメディアン径を厳密に約1桁オーダー下げるという意味ではなく、微粉砕前のもののメディアン径が、例えば、1/5〜1/20となるように粉砕することも含む。なお、本実施形態では、微粉砕後のメディアン径が最小の場合で1μmとなるような態様で粉砕を行った。
【0032】
つぎに、こうして製造した大豆皮焼成体に対して、ZAF定量分析法による成分分析を行った。また、C,H,N元素については有機元素分析法による成分分析も行った。なお、焼成温度は約900[℃]、メディアン径は、約30μm〜約60μmの範囲に納まるものを分析対象とした。また、
図1で示した工程で製造した、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハル、カカオハスクの各焼成体についても成分分析を行った。
【0033】
分析結果としては、各植物焼成体に含まれている有機元素の割合は、同様であると評価することができる。これは、大豆皮も菜種粕等も植物であることには変わりがないことに起因するものと思われる。それでも、菜種粕、胡麻粕、綿実粕の各焼成体については、油粕という共通点があるためか、「N」が相対的には多く、焼成前後の「C」の増加率は相対的には低いといえる。
【0034】
一方、大豆皮、コットンハルの各焼成体についても、外皮という共通点があるためか、同様の結果が得られ、具体的には、「N」が相対的には少なく、焼成前後の「C」の増加率は相対的には高いといえる。これに対して、カカオハスク焼成体は、大豆皮焼成体に比して、「N」が相対的には少ない点は共通するが、焼成前後の「C」の増加率は相対的には低いといえる。なお、「C」に着目すると、コットンハルが最も高く(約83%)、胡麻粕が最も低い(約63%)。
【0035】
つぎに、本実施形態の放熱塗料の製造方法について説明する。まず、バインダーであるところの透光性樹脂として、アクリルウレタン系樹脂を用いた。この透光性樹脂に対して、米糠、籾殻、大豆皮の各焼成体を10重量%以下となる割合で、所要の添加剤とともに含有させた。それから、これらを十分に撹拌させて、透光性樹脂内に植物焼成体を十分に拡散させた。こうして、本実施形態の放熱塗料を完成させた。
【0036】
図2は、本実施形態の放熱塗料の放熱効果を調べるための測定系統図である。
図2には、放熱効果を高精度で測定するための風防ケース100と、風防ケース100内に収容されている発熱体であるところの抵抗器10と、抵抗器10に第一の面が貼付された熱伝導両面テープ20と、熱伝導両面テープ20の第二の面が貼付される放熱板30と、放熱板30に塗布された本実施形態の放熱塗料からなる放熱被膜40とを示している。
【0037】
以下、
図2に示す測定系統図に従って行った測定結果を比較例とともに、実施例として示す。
【実施例】
【0038】
【表1】
【0039】
表1は、
図2に示す放熱被膜40となる放熱塗料における放熱フィラーの種別と、透光性樹脂に対する植物焼成体の含有量と、放熱フィラーの粒径、これらに対応する膜厚との関係を示す表である。
【0040】
表1に示すように、
実施例1:焼成温度を約900℃とした、粒径が30μmの大豆皮焼成体を、透光性樹脂に対して3.0%含有させた放熱塗料によって、40μmの厚さの放熱被膜を形成したもの、
実施例2:焼成温度を約3000℃とした、粒径が24μmの大豆皮焼成体を、透光性樹脂に対して3.0%含有させた放熱塗料によって、30μmの厚さの放熱被膜を形成したもの、
実施例3:粒径が60μmの米糠焼成体を、透光性樹脂に対して3.0%含有させた放熱塗料によって、40μmの厚さの放熱被膜40を形成したもの、
実施例4:粒径が60μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して5.0%含有させた放熱塗料によって、40μmの厚さの放熱被膜40を形成したもの、
実施例5:粒径が60μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して3.0%含有させた放熱塗料によって、40μmの厚さの放熱被膜40を形成したもの、
実施例6:粒径が60μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して1.0%含有させた放熱塗料によって、30μmの厚さの放熱被膜40を形成したもの、
実施例7:粒径が60μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して0.5%含有させた放熱塗料によって、30μmの厚さの放熱被膜40を形成したもの、
実施例8:粒径が2.4μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して1.0%含有させた放熱塗料によって、30μmの厚さの放熱被膜40を形成したもの、
を用意した。実施例1〜8は、全て植物焼成体を放熱フィラーとしており、しかも、後述する光透過率の測定結果から明らかなように、全てが透光性に優れたものである。
【0041】
また、比較例として、
比較例1:放熱被膜40を形成せずに放熱板30だけで放熱したもの、
比較例2:他社の放熱塗料を30μmの厚さとなるように、放熱板30に対して塗布したもの、
を用意した。
【0042】
放熱効果の測定は、放熱板30として、40mm×40mm×0.5mmの大きさのアルミニウム板を用意した。実施例1〜8の場合には、放熱板30に各種放熱塗料を、所望の膜厚となるように塗布して、放熱被膜40を形成した。また、抵抗器10は、抵抗値が1Ωであるアルファ・エレクトロニクス社製、PDX1R0000D、10mm×15mmを使用した。抵抗器10には、1.5Vの電圧を約30分間印加して、発熱体となった状態で、抵抗器自体の表面中央部付近の温度を測定した。
【0043】
【表2】
【0044】
表2は、実施例1〜8と、比較例1〜3の温度結果を示す表である。各実施例及び比較例に対しては、いずれも3回の温度測定を行い、表2にはこれらの温度測定結果の平均値を掲載している。なお、表2には、放熱板30を取り付けていない場合の温度結果を1段目に付記し、さらに、比較例1の温度結果を基準とした温度差と、表1に示した膜厚も付記している。
【0045】
まず、放熱板30を取り付けていない抵抗器10自体の温度は98.4℃であった。これに対して、比較例1に示すように、放熱板30を取り付けた抵抗器10の温度は58.5℃であった。したがって、放熱板30を取り付けると、約40℃の放熱効果が得られることがわかる。
【0046】
なお、放熱分野の当業者であれば理解されるように、放熱板30を取り付けることで低下できた温度から更に5℃程度を、何らかの付加要素とともに(例えば、安価に、透光性を有して、或いは、更に低温に)低下させるかが業界の課題である。
【0047】
ちなみに、現在市販されている放熱塗料は、放熱板30を取り付けた状態から3℃程度しか温度低下が実現できないものが大半であり、この種のもののほぼ全ては透光性がほとんどないものばかりである。
【0048】
したがって、現在の市販品と実施例1〜8のものとを対比すると、実施例1〜8のものは、表2に示すように、3℃以上の温度低下を実現できているので、透光性に優れるという有用な効果を奏する。
【0049】
つぎに、比較例2を参照されたい。市販されている他社製品である比較例2は、比較例1に対して3.4℃の温度低下しか実現できなかった。
【0050】
つぎに、実施例1を参照されたい。焼成温度を900℃とした大豆皮焼成体を採用した実施例1に示す温度結果は、比較例1に対して5.7℃もの温度低下を実現できた。しかも、実施例1のものは透光性樹脂に対する植物焼成体の含有量を極めて少量で実現できていることから透光性の点で優れ、しかも、放熱被膜40を安価にできるという利点がある。
【0051】
つぎに、実施例2を参照されたい。焼成温度を3000℃とした大豆皮焼成体を採用した実施例2に示す温度結果は、比較例1に対して4.4℃の温度低下しか実現できなかった。しかも、実施例2のものは実施例1に比して、高温焼成をしていることから、その分、植物焼成体自体の生産コストがアップしてしまう。もちろん、実施例2のものは、透光性樹脂に対する植物焼成体の含有量を極めて少量で実現できていることから透光性の点で優れ、しかも、放熱被膜40を安価にできるという利点はある。
【0052】
つぎに、実施例3を参照されたい。米糠焼成体を採用した実施例3に示す温度結果は、比較例1に対して6.6℃もの温度低下が実現できた。これは、実施例1〜8の中では、最も優れた温度低下である。もちろん、実施例3のものは実施例1,2と同様の利点も有する。
【0053】
つぎに、実施例4〜7を参照されたい。籾殻焼成体を採用した実施例4〜7は、透光性樹脂に対する籾殻焼成体の含有量と、放熱被膜40の厚さとを変更しただけで、放熱フィラーの原料は同じである。実施例4〜7のいずれのものも実施例1〜3と同様の利点を有する。
【0054】
つづいて、実施例4〜7での相互対比をしてみると、膜厚が同じ40μmの実施例4,5の間では、透光性樹脂に対する含有量が5.0%の実施例4よりも、3.0%の実施例5の方が温度低下は優れているから、含有量が少ない方がよさそうである。一方、膜厚が同じ30μmの実施例6,7の間でみると、透光性樹脂に対する含有量が0.5%の実施例7よりも、1.0%の実施例6の方が温度低下は優れているから、含有量の多少のみが、温度低下を決定させるための要因とはならないことが推測される。
【0055】
つぎに、膜厚の差に着目すると、温度低下が優れた順番に並べると、40μmとした実施例5、30μmとした実施例6、30μmとした実施例7、40μmとした実施例4であったことから、膜厚の多少のみが、温度低下を決定させるための要因とはならないこともわかる。
【0056】
ただし、膜厚を70μmよりも増やし、他の条件については実施例1〜8の場合と同様とすると、温度低下が劣る結果となった。この理由としては、放熱被膜40が厚くなるにつれて、放熱塗膜40内に熱が蓄えられてしまうことで、放熱効果が低下することに起因すると想定される。もっとも、温度低下を防止するためには、膜厚を70μm以下とすることが必須というわけではなく、放熱フィラーの大きさ等の他の条件次第では、膜厚が100μm程度であっても、さほど温度低下しない場合もある点に留意されたい。
【0057】
一方、実施例6に対して、膜厚を40μm、10μm、20μmに変更し、籾殻焼成体の粒径を26.6μm、5.8μm、5.8μmとした。この結果、それぞれ、比較例1に係る温度に対して、3.6℃、4.1℃、2.9℃の温度低下が得られた。
【0058】
つづいて、実施例8を参照されたい。微粉砕した籾殻焼成体を採用した実施例8は、実施例6との関係では、微粉砕の有無が相違する。実施例6,8の測定結果を対比すると、微粉砕させたことによって温度低下が劣っていることがわかる。したがって、この結果によれば、植物焼成体の粒径は、ある程度の大きさが必要であるといえる。この理由としては、放熱被膜40の厚さと植物焼成体の粒径との関係によるものと想定される。
【0059】
すなわち、植物焼成体の粒径が放熱被膜40の厚さを超える場合、その植物焼成体は、放熱板30の表面に一部が直接接触するかそれに近似した状態となる。そして、その接触点と逆側の位置は、放熱被膜40の表面から突出して大気に直接接触するかそれに近似した状態となる。
【0060】
そうすると、植物焼成体、つまり、放熱フィラーを通じて、直接的に、放熱板30の熱が大気に放出されることとなる。本実施形態に係る透光性樹脂の放熱効果が優れているとはいえども、放熱フィラーのそれの方が優れていることは明白であるから、植物焼成体の粒径と放熱被膜40の厚さとを制御することは重要である。
【0061】
ただ、植物焼成体の粒径が大きくなるつれて、放熱効果が向上すると考えられるが、その一方で、人間が肉眼で植物焼成体を視認できるようになる大きさとなれば、意匠性が低下してしまう。したがって、放熱効果と透光性との関係から、植物焼成体の粒径を決定することが好ましいといえる。
【0062】
以上を纏めると、既述のように、実施例1〜8は、現在の市販品に比して透光性が優れているという利点があるが、放熱被膜40の蓄熱による放熱効果の低下を避けるために70μm以下とするとよく、植物焼成体の粒径は、放熱効果と透光性との関係から、小さすぎても大きすぎてもよくなく、また、触れたときの質感との関係からあまりに大きくするのもよくなく、メディアン径でいえば、放熱被膜40の膜厚の60%〜120%程度とするとよく、植物焼成体を製造するための焼成温度は黒鉛化するほどの高温でないことがよい、ということになる。
【0063】
実施例1〜8の放熱塗料に係る透光性樹脂を用いると、金属、樹脂に対する密着性もあるので、放熱性能が求められる様々な発熱体に対して用いることができる。特に、常温乾燥も可能であることから、加温が不適な発熱体にも用いることができる。ただ、この透光性樹脂にも耐熱温度があることから、例えば数百℃にもなる発熱体に対しては、その温度でもバインダー機能を有していて、透光性に優れた紫外線硬化型樹脂などを選択するとよい。
【0064】
つづいて、30mm×110mm×1mmのサイズの透明ポリカーボネイト板を基板として用意し、透光性樹脂に対して含有させる植物焼成体の粒径、及び、その含有量を種々変更したものを基板に塗布することによって放熱被膜40を形成し、各々の光透過率を計測した。
【0065】
【表3】
【0066】
表3は、本実施例の放熱塗料に係る光透過率の測定結果を示す表である。具体的には、島津製作所社製の紫外線可視分光光度計UV mini−1240を用いて、光透過率を測定した。なお、ここでは、植物焼成体の種別としては、全て籾殻焼成体とした。
【0067】
表3に示すように、本実施例におけるサンプルは、以下のとおりである。
サンプルA:粒径が60μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して1.0%含有させた放熱塗料によって、基板に対して30μmの厚さの放熱被膜を形成したものである。
サンプルB:粒径が60μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して0.5%含有させた放熱塗料によって、基板に対して30μmの厚さの放熱被膜を形成したものである。
サンプルC:粒径が23μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して1.0%含有させた放熱塗料によって、基板に対して20μmの厚さの放熱被膜を形成したものである。
サンプルD:粒径が5.8μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して1.0%含有させた放熱塗料によって、基板に対して10μmの厚さの放熱被膜を形成したものである。
サンプルE:粒径が5.8μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して1.0%含有させた放熱塗料によって、基板に対して20μmの厚さの放熱被膜を形成したものである。
サンプルF:粒径が2.4μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して3.0%含有させた放熱塗料によって、基板に対して10μmの厚さの放熱被膜を形成したものである。
サンプルG:粒径が2.4μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して3.0%含有させた放熱塗料によって、基板に対して20μmの厚さの放熱被膜を形成したものである。
サンプルH:粒径が2.4μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して1.0%含有させた放熱塗料によって、基板に対して10μmの厚さの放熱被膜を形成したものである。
サンプルI:粒径が2.4μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して1.0%含有させた放熱塗料によって、基板に対して20μmの厚さの放熱被膜を形成したものである。
【0068】
表3に示すように、紫外線可視分光光度計に設定される波長条件に拘わらず、サンプルBの光透過率が高いことがわかる。ついで、同様に、サンプルC、サンプルAの順に、光透過率が高いことがわかる。
【0069】
植物焼成体の粒径が小さいと、光透過率が下がった。したがって、透光性樹脂に対して粒径が大きい植物焼成体を含有させるとよいといえる。
【0070】
植物焼成体の含有率が高いと、光透過率が下がった。したがって、透光性樹脂に対して少量の植物焼成体を含有させるとよいといえる。
【0071】
放熱被膜の膜厚が厚いと、光透過率が下がった。したがって、放熱被膜を薄くするとよいといえる。
【0072】
図3〜
図8は、サンプルA等の顕微鏡写真である。
図3にはサンプルAの顕微鏡写真、
図4にはサンプルBの顕微鏡写真、
図5にはサンプルCの顕微鏡写真、
図6にはサンプルDの顕微鏡写真、
図7にはサンプルFの顕微鏡写真、
図8にはサンプルBにおける放熱被膜の厚さを10μmに変更したもの、すなわち、粒径が40μmの籾殻焼成体を、透光性樹脂に対して1.0%含有させた放熱塗料によって、基板に対して10μmの厚さの放熱被膜を形成したものの顕微鏡写真を示している。
【0073】
まず、
図3と
図4とを対比すると、これらは含有率差が0.5%あるだけで、他の条件は変わらないところ、これらの間では、視認レベルによる明るさに大きな相違は見受けられなかった。つぎに、
図3と
図8とを対比すると、これらは膜厚差が20μmあるだけで、他の条件は変わらないところ、これらの間では、視認レベルによる明るさに大きな相違は見受けられなかった。
【0074】
さらに、
図3と
図5とを対比すると、
図3のものに比して
図5のものが膜厚が10μm薄い点と、粒径が37μm大きい点とが異なる。これらの間では、視認レベルによる明るさに大きな相違は見受けられなかった。
【0075】
図5と
図6とを対比すると、
図5のものに比して
図6のものが膜厚が10μm薄い点と、粒径が17.2μm小さい点とが異なる。これらの間では、視認レベルによる明るさに大きな相違が見受けられた。また、
図6と
図7とを対比すると、
図6のものに比して
図7のものが粒径が4μm小さい点と含有率が2%多い点とが異なる。これらの間では、視認レベルによる明るさに大きな相違が見受けられた。
【0076】
以上をまとめると、視認による場合においても、分光光度計を用いて測定した場合と同様に、植物焼成体の粒径が小さいと光透過率が下がることが確認できた。ただ、0.5%程度の含有率の相違、10μm程度の放熱被膜の膜厚の相違では、光透過率の低下は確認できなかった。
【0077】
本実施形態の放熱塗料は、白熱電球、OLED(Organic light emitting diode)を含むLED(light emitting diode)電球などの照明機器、携帯電話機、スマートフォン、PDA(Personal Digital Assistant)、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラなどの通信端末、テレビ受信機、パーソナルコンピュータ、自動車を含む電子機器に好適に用いることができる。
【0078】
また、本明細書における発熱体には、太陽熱などを受けて大気に比して高温となるものも含むものとし、そうすると、本実施形態の放熱塗料は、屋根材、床材又は壁材などを含む建材、自動車の車体、フロントガラスなど、静電気帯電防止体として作業服の一部にも好適に用いることができる。さらに、屋根材の内面、すなわち、太陽光の照射面に対する裏面にのみ放熱塗料を塗布すると、屋根材の内面の温度が低下すると推測できる。
【0079】
上記の用途は、一例であり、本実施形態の放熱塗料は、透光性に優れていることから、塗布対象を選ばない。また、本実施形態の放熱塗料は、放熱性のみならず、熱伝導性、電磁吸収特性も有しているので、特に、このような特性と放熱特性との双方が求められる分野に好適に用いることができる。
【0080】
ただ、人間が普段、直接的に接する可能性が高いもの、上記の例でいえば、自動車の車体、作業服などは、夏場であれば放熱すべきであるが、逆に、冬場であればその必要性は乏しい。したがって、この種の発熱体に対しては、数カ月程度で放熱被膜が取れることが望ましい。係る場合には、バインダーには強固な密着性は不要であり、寧ろ、数カ月程度の結着ができるようなバインダーを選択するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【
図1】本実施形態に係る大豆皮焼成体の模式的な製造工程図である。
【
図2】本実施形態の放熱塗料の放熱効果を調べるための測定系統図である。
【符号の説明】
【0082】
10 抵抗器
20 熱伝導両面テープ
30 放熱板
40 放熱被膜
100 風防ケース