(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227255
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】ダイオード及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/868 20060101AFI20171030BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20171030BHJP
H01L 21/329 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
H01L29/91 D
H01L29/91 B
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-14959(P2013-14959)
(22)【出願日】2013年1月30日
(65)【公開番号】特開2014-146721(P2014-146721A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】株式会社 日立パワーデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】若木 政利
(72)【発明者】
【氏名】豊田 善章
【審査官】
棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−016265(JP,A)
【文献】
特開平01−258476(JP,A)
【文献】
特開2007−158320(JP,A)
【文献】
特開2009−176892(JP,A)
【文献】
特開2009−188336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/861
H01L 21/329
H01L 29/868
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェハ厚340から380μmのSiウェハにおいて、一方の面にカソード電極、他方の面にアノード電極を有し、アノード面にp+層、カソード面にn+層を具備し、同じ面から5×1011から1×1013cm-2のドーズ量のn型ドーパントを深さ50から130μmの範囲で拡散して深いnバッファ(nB)層を形成し、さらに前記カソード面からn型ドーパントを20μm以下拡散して浅いnバッファ(nB)層を形成した
ことを特徴とするダイオード。
【請求項2】
請求項1において、
前記n型ドーパントはPである
ことを特徴とするダイオード。
【請求項3】
請求項1において、
前記Siウェハの抵抗率は200Ωcm以上である
ことを特徴とするダイオード。
【請求項4】
前記p+層、前記n+層を形成する前に、n型ドーパントをイオン注入し、1290℃以上で50μm以上拡散して前記深いnバッファ(nB)層を形成し、その後さらにn型ドーパントを注入して拡散することによって深さ20μm以下の前記浅いnバッファ(nB)層を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載のダイオードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオードに係り、特に、車両、産業用装置などの高電圧、大電流IGBTモジュールなどに適用されるダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
大電流のスイッチング素子として利用されるダイオードは、数千V以上の高耐圧が要求される。この素子では、特にn−層の厚さなどを規定し耐圧を保持している。この場合、n−層が厚いほど耐圧が向上する。
【0003】
しかし、一方では、順方向電圧やIGBTモジュールなどのリカバリー時に発生するリカバリ損失を低減するには、n−層の厚さを薄くするのが有効である。したがって、損失の低減のためには、耐圧を確保しながらn−層を薄くする。
【0004】
特許文献1(特開2010−40562号公報)や特許文献2(特開平1−258476号公報)では、深いnB(nバッファ)層を導入してn−層の厚みを薄くして、順方向電圧や損失を低減することが開示されている。また、特許文献1には、緩やかに不純物濃度が減小するnB層の導入により、発振現象が抑制されることも開示されている。ダイオードを組み込んだ、IGBTモジュールでは、この発振現象を抑制することで安定した動作が確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−40562号公報
【特許文献2】特開平1−258476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これら従来技術では、Siウェハの厚さおよびこれとnB層との関係に関して配慮されていない。したがって、耐圧を確保しながら、損失を低減できる構造や不純物プロファイル構造を構築することが難しかった。
【0007】
本発明は、上記問題点を考慮してなされたものであり、耐圧特性を確保しながらも損失を低減できるダイオード構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明によるダイオードは、ウェハ厚340から380μmのSiウェハにおいて、一方の面
にカソード電極、他方の面にアノード電極を有し、アノード面にp+層、カソード面にn+層を具備し、同じ面から5×10
11から1×10
13cm
-2のドーズ量のn型ドーパントを深さ50から130μmの範囲で拡散して
深いnバッファ(nB)層を形成し、さらに前記
カソード面からn型ドーパントを20μm以下拡散して
浅いnバッファ(nB)層を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高耐圧で低損失のダイオードを提供することが可能となる。これによりIGBTモジュールの動作温度を拡大することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例1であるダイオードの断面図。
【
図3】nB層深さとリカバリ損失(Err)の関係。
【
図5】nB層深さと発振開始電源電圧(Vring)の関係。
【
図7】本発明の実施例2であるダイオードの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は、
図1に示した断面構造を有するダイオードについて検討を進めた。
【0012】
図2にこのダイオードの不純物プロファイルを示す。nB層の拡散深さは、ベースのn−濃度に対して10%増加している点のアノードからの距離とした。n−濃度はウェハの抵抗値で決まる。ダイオードの宇宙線耐量を確保する観点から200Ωcm以上に設定する。
【0013】
まず、拡散深さとリカバリ損失(Err)について検討した。検討の結果を
図3に示す。この図から、Errは拡散深さに依存せず、ウェハ厚の減少にともなって減少していることがわかる。深いnB層を適用していないウェハ厚400μmのダイオードと比較してErrが10%低減できると、ダイオードを組み込んだIGBTモジュールにおいて、ダイオードの発熱が低減できるため、使用可能温度を25℃拡大することが可能となる。したがって、最高接合温度(Tjmax)を、例えば125℃から150℃に上昇することが可能となる。このため、ウェハ厚は380μm以下にすることが好適である。ただし、ウェハ厚は仕様値に対して10μm変動することがある。このため、ウェハ厚370μmに対して耐圧特性を確保することが好適である。
【0014】
拡散深さと耐圧(Vb)の関係を
図4に示す。この図から、Vbはウェハ厚の減小とともに減小することがわかる。また、同じウェハ厚で同一のnBドーズ量の場合、拡散深さが増加するにしたがってVbが減少する傾向にある。この傾向は本発明者の検討から明らかになったもので、単純に深いnB層の導入により耐圧が増加するということではないことがわかった。また、本発明者の検討から、VbはnB層のドーズ量とともに減少することも明らかになっている。
【0015】
一方、発振が開始する電源電圧(Vring)とウェハ厚の関係を
図5に示した。Vringは、ウェハ厚の増加とともに増加する。さらに、Vringは拡散深さの増加とともに増加することがわかる。また、本発明者の検討で、VringはnB層のドーズ量の増加とともに増加することが明らかになっている。
【0016】
Vbは、−40℃で室温の値から約2割低下する。したがって、室温におけるVbは、3300VIGBTモジュール用途では、3900V以上に設定する。一方、Vringも同様に常用の電圧1650Vより約2割高い2000V以上に設定する。
【0017】
したがって、370μmのウェハを適用した場合、拡散深さは、50μm以上130μm以下に設定する。ただし、外部電荷により耐圧や発振特性が劣化する場合がある。このため、さらに好適には拡散深さを60μm以上110μm以下に設定するのが良い。
【0018】
VbとVringの関係のウェハ依存性を
図6に示す。図には、nBドーズ量依存性もあわせて示した。この図から、少なくともウェハ厚を340μm以上に設定すれば、VbとVringが同時に上記条件を満たすことがわかる。前述のように、nB層のドーズ量によって、VbとVringのトレードオフが生じている。このため、厚さ340μmのウェハで1×10
12cm
-2のドーズ量が好適であることがわかる。また、350μmのウェハで8×10
11から2×10
12cm
-2、360μmのウェハで6×10
11から4×10
12cm
-2、370μmのウェハで5×10
11から1×10
13cm
-2のドーズ量が好適となる。ウェハ厚は、仕様値に対して±10μmずれることがある。このため、10μm薄いウェハ厚でVb及びVringの条件を満たすことが好ましい。ただし、ウェハ厚が下限値より薄い場合、耐圧検査により選別することが可能となる。
【0019】
したがって、340−380μmのウェハでドーズ量5×10
11から1×10
13cm
-2、さらに好適には340−370μmのウェハでドーズ量6×10
11から4×10
12cm
-2、またさらに好適には、340−360μmのウェハでドーズ量8×10
11から2×10
12cm
-2でnB層を形成することにより、低損失で信頼性の高いダイオードを形成することが可能となる。低損失のダイオードほど、それを組み込んだIGBTモジュールの損失を低減できるとともに動作可能な温度範囲を拡大することができる。
【0020】
このnB層を形成する場合、他のプロセスや装置への影響の観点からドーパントとしてPを用いることが望ましい。Asの場合拡散係数が小さく拡散に時間を要する。また、Pの場合アウトディフュージョンなどによりウェハから排出され装置などを汚染しても、n+層などにPを使用していることから炉体などまとめて管理することが可能となる。その他の元素の場合、アウトディフュージョンなどによる汚染はライン管理上問題となることが多い。
【0021】
Pの場合、深いnB層を形成するためには、比較的長時間の拡散処理を施す。拡散温度1290℃以上で拡散することにより10日以内で処理可能となる。したがって、この温度以上で拡散することが望ましい。また、この後の工程でp層、n+層を形成する場合、この温度以下で処理することが可能となる。例えばBを拡散しp層を形成する場合、1200℃という高温を適用することが可能で、拡散時間を短縮することが可能となる。
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の第1実施例のダイオードの要部断面図である。
【0024】
厚さ360μmのn型Siウェハ1の裏面に、熱酸化により50nmの酸化膜を形成した後、Pを1×10
12cm
-2の濃度でイオン注入した。この後、1300℃で120h拡散を実施し深さ80μmの深いnB層2を形成する。
【0025】
ついで、アノードとなる表面のp+層3を形成するため、Bをイオン注入する。本実施例では、Bのドーズ量としては5×10
13cm
-2とした。この後、表面のBを拡散するため、1200℃で拡散を実施する。
【0026】
裏面のn+層4を形成するため、裏面にPを1×10
15cm
-2のドーズ量で注入する。ついで、Pを活性化するため1000℃で熱処理する。以上の工程によりnB層形成からn+層形成まで拡散及び活性化の熱処理温度を順次下げていくため、精度よく不純物プロファイルを形成することが可能となる。
【0027】
ついでアノード電極としてAlを成膜し、マスクプロセスでアノード電極パッドに加工する。さらに、フォトプロセスを用いてポリイミド保護膜を形成する。さらに、カソード電極としてAu/Ni/Ti/AlSiを成膜形成する。
【0028】
上記製造工程により複数のダイオードチップが形成されたSiウェハをダイシングして、ダイオードチップを切り出す。本実施例のダイオードをIGBTと組合せたIGBTモジュールは耐圧及び発振特性が向上し、リカバリ損失を極めて小さくすることができる。
【実施例2】
【0029】
図7は、本発明の第2実施例のダイオードの要部断面である。また、
図8にこのダイオードの不純物プロファイルを示す。
【0030】
厚さ370μmのn型Siウェハ1の裏面に、実施例1と同様の方法で50nmの酸化膜を形成した後、Pを2×10
12cm
-2のドーズ量でイオン注入する。この後、1300℃で120h拡散を実施し深さ80μmの深いnB層2を形成する。
【0031】
ついで、裏面にPを2×10
12cm
-2のドーズ量でイオン注入する。この後、1200℃で深さ15μmの深さまで拡散し浅いnB層5を形成する。浅いnB層は、耐圧特性に影響しないように20μm以下であることが望ましい。このようにnB層を2段にすることで、n+欠損や裏面電極のAlスパイクによる耐圧劣化を防止することができる。
【0032】
ついで、アノードとなる表面のp+層3及びp−層6を形成するため、Bをイオン注入する。本実施例ではマスクプロセスを適用し、Bを2種類のドーズ量で注入している。Bのドーズ量としては5×10
13cm
-2と5×10
12cm
-2を適用している。この後、表面のBを拡散するため、1100℃で拡散を実施する。
【0033】
裏面のn+層4を形成するため、裏面にPを1×10
15cm
-2のドーズ量で注入した。ついで、Pを活性化するため1000℃で熱処理する。以上の工程によりnB層形成からn+層形成まで拡散及び活性化の熱処理温度を順次下げていくため、精度よく不純物プロファイルを形成することが可能となる。
【0034】
ついでアノード電極としてAlを成膜し、マスクプロセスでアノード電極パッドに加工する。さらに、フォトプロセスを用いてポリイミド保護膜を形成する。さらに、カソード電極としてAu/Ni/Ti/AlSiを成膜形成する。
【0035】
上記製造工程により複数のダイオードチップが形成されたSiウェハをダイシングして、ダイオードチップを切り出す。本実施例のダイオードをIGBTと組合せたIGBTモジュールは、耐圧及び発振特性が向上し、リカバリ損失を極めて小さくすることができる。
【符号の説明】
【0036】
1…n−層
2…nB層
3…p+層
4…n+層
5…nB層
6…p−層