(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記HLB値14以上のショ糖脂肪酸エステル含量が0.05〜0.6質量%、並びに酵素分解レシチン及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステル含量が0.01〜1質量%である、請求項1又は2のいずれかに記載の耐酸性クリーム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の調理用クリームをはじめとするクリームは総じて耐酸性に欠ける。従って、pH5以下の酸性食品と接触した状態で加熱した場合や、pH5以下の酸性食品と接触した状態で長期保存する場合に、オイルオフやクリームの凝集、固化が生じる。オイルオフ、クリームの凝集又は固化は商品価値を著しく低下させる。クリームの凝集は外観上問題視されない場合であっても食感のざらつきを生じ、結果として商品価値の低下に繋がる。
本発明では、かかる課題に鑑み、pH5以下の酸性食品と接触した状態で加熱する場合であってもオイルオフの発生が顕著に抑制され、また、pH5以下の酸性食品と接触した状態で長期保存する場合であっても、クリームが凝集、固化することなく、滑らかな食感を有するクリームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記のごとき課題を解決すべく鋭意研究した結果、融点が30℃以下である油脂、HLB値14以上のショ糖脂肪酸エステル、並びに酵素分解レシチン及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを併用することで、上記課題を解決することができ、滑らかな食感を保持することが可能な耐酸性クリームを提供できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
本発明は以下の態様を有する耐酸性クリームに関する;
項1.融点30℃以下の油脂、
HLB値14以上のショ糖脂肪酸エステル、並びに
酵素分解レシチン及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、
耐酸性クリーム(但し、ホイップクリームを除く)。
項2.油脂がヤシ油、精製ヤシ油、パーム油、ナタネ油、サフラワー油、コーン油、ひまわり油、大豆油及び綿実油からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する、項1に記載の耐酸性クリーム。
項3.リン酸塩を実質的に含有しないものである、項1又は2に記載の耐酸性クリーム。
項4.前記HLB値14以上のショ糖脂肪酸エステル含量が0.05〜0.6質量%、並びに
酵素分解レシチン及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステル含量が0.01〜1質量%である、項1〜3のいずれかに記載の耐酸性クリーム。
項5.少なくとも一層がクリーム層であり、少なくとも一層が酸性食品の層である多層食品に用いられることを特徴とする、項1〜4のいずれかに記載の耐酸性クリーム。
項6.加熱調理用のクリームである、項1〜4のいずれかに記載の耐酸性クリーム。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、トマトソースやワイン等の酸性食品と接触した状態(混合含む、以下同じ)で加熱した場合に生じるオイルオフの発生を顕著に抑制することができる。
また、本発明により、フルーツゼリー、マンゴープリン等のpH5以下の酸性食品と接触した状態で長期保存した場合であっても、凝集、固化することなく滑らかな食感を有するクリームを提供することが可能となる。以上のように、本発明を用いることで、苛酷な酸性条件下であっても、クリームのオイルオフ、凝集又は固化の発生が有意に抑制され、非常に汎用性の高いクリームを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の耐酸性クリームは、融点が30℃以下である油脂、HLB値14以上のショ糖脂肪酸エステル、並びに酵素分解レシチン及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する。
【0010】
本発明の耐酸性クリームで用いる油脂は、融点が30℃以下、好ましくは28℃以下であることを特徴とする。本発明において「融点」とは、食品添加物公定書第8版、「38.融点測定法」、第2種物質の測定方法に従って測定した融点をいう。
本発明では、上記融点を有する油脂であれば種類は限定されず、各種油脂を使用することができる。例えば、ヤシ油、精製ヤシ油、パーム油、ナタネ油、サフラワー油、コーン油、ひまわり油、大豆油、綿実油などである。好ましくは精製ヤシ油、又は混合油である。混合油の種類は、融点が30℃以下の油脂であれば特に制限されない。例えば、上述のヤシ油、精製ヤシ油、パーム油、ナタネ油、サフラワー油、コーン油、ひまわり油、大豆油、綿実油などの油脂を少なくとも2種以上混合した油脂、好ましくはヤシ油、パーム油及びナタネ油から選択される少なくとも2種以上の混合油を例示できる。クリーム中における油脂含量は、特に制限されない。通常、5〜45質量%、好ましくは7〜30質量%とすることが望ましい。
【0011】
本発明では、HLB値が14以上、好ましくは15以上、更に好ましくは16以上のショ糖脂肪酸エステルを用いることを特徴とする。HLB値が14未満のショ糖脂肪酸エステルを用いた場合、酸性食品と接触した場合に生じるクリームの凝集、固化や加熱時のオイルオフを抑制することができないばかりか、クリーム自体の安定性を十分に保持することができない。HLB値の上限は特に制限されないが、20、好ましくは18、更に好ましくは17を例示できる。
ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、例えば炭素数12〜24、好ましくは16〜22の飽和又は不飽和脂肪酸が挙げられ、ステアリン酸、パルミチン酸等を例示できる。本発明のショ糖脂肪酸エステルは、モノエステル含量が50%を超えるものであり、ジエステル、トリエステル及びポリエステル含量の合計が50%未満の配合比であることが好ましい。
【0012】
クリームにおける、HLB値14以上のショ糖脂肪酸エステルの含量は、通常0.05〜0.6質量%、好ましくは0.075〜0.5質量%、更に好ましくは0.1〜0.4質量%である。本範囲内でHLB14以上のショ糖脂肪酸エステルを用いることで、クリームの風味を悪化させることなく安定性の高いクリームを調製でき、加熱した場合であってもクリームの乳化が壊れて生じるオイルオフを顕著に抑制することができる。更に酸性食品と接触した場合に生じるクリームの凝集、固化を有意に抑制することができる。
【0013】
本発明では、HLB値14以上のショ糖脂肪酸エステルに加え、酵素分解レシチン及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを併用することを特徴とする。
酵素分解レシチンは、レシチンにホスホリパーゼA2を作用させ、2−位の脂肪酸のエステル結合を加水分解したものである。原料となるレシチンは種類を問わない。例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン等である。本発明では、酵素分解レシチンを使用することを特徴とし、酵素分解レシチンでないレシチンを用いた場合には本発明の効果を得ることができない。
【0014】
本発明で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンを重合させたポリグリセリンに脂肪酸をエステル化したものであれば特に制限されない。好ましくは重合度が2〜11であるものを使用できる。ポリグリセリン脂肪酸エステルとして特に好ましくはデカグリセリンステアリン酸エステル、ペンタグリセリンステアリン酸エステル又はジグリセリンパルミチン酸エステルを使用することができる。
【0015】
クリームにおける、酵素分解レシチン及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルの含量は特に制限されない。好ましくは、0.01〜1質量%である。
中でも、酵素分解レシチンを使用する場合の含量が通常、0.05〜0.6質量%、好ましくは0.075〜0.5質量%、更に好ましくは0.1〜0.4質量%である。ポリグリセリン脂肪酸エステルの場合は、通常、0.01〜1質量%、好ましくは0.01〜0.6質量%、更に好ましくは0.02〜0.4質量%である。
上記範囲内で酵素分解レシチン及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることで、酸性条件下で加熱した場合であってもクリームの乳化が壊れ、オイルオフが生じることなく、また、凝集、固化防止に有意に優れ、更に風味にも優れたクリームを調製できる。
【0016】
本発明では、酵素分解レシチンを、HLB値14以上のショ糖脂肪酸エステル100質量部に対して20〜200質量部、好ましくは30〜100質量部の範囲で使用することが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLB値14以上のショ糖脂肪酸エステル100質量部に対し、5〜300質量部、好ましくは8〜70質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0017】
本発明の耐酸性クリームはタンパク質を含有する。タンパク質の種類は特に制限されず、食品に使用可能なタンパク質を使用できる。例えば、乳タンパク質(牛乳、脱脂粉乳、全粉乳、乳清タンパク質、カゼイン等)、大豆タンパク質(豆乳等)、小麦タンパク質、米タンパク質等が挙げられる。好ましくは乳タンパク質である。
本発明の耐酸性クリームにおけるタンパク質含量は特に制限されない。しかし、一般的にはタンパク質含量が0.1質量%以上であると、酸性食品と接触した場合に生じるクリームの凝集、固化や加熱時に生じるオイルオフが問題視されやすい。本発明では、耐酸性クリームにおけるタンパク質含量が0.2〜1.5質量%の範囲内であっても、クリームの凝集、固化や加熱時に生じるオイルオフが抑制され、滑らかな食感を有するクリームを提供できるという利点を有する。
【0018】
タンパク質は、少量の方が凝集性は少なくクリームの安定性が良いが、風味の観点からは乳タンパク質を多く用いることが望ましい。通常であれば、乳タンパク質含量が、0.5〜1質量%程度あれば、ミルクの風味を呈することができる。乳タンパク質含量が多いと風味はよくなるが、酸性食品と接触した場合に安定性を損ない乳タンパク質が凝集してクリームの固化を招いてしまう、加熱時にオイルオフが生じる等の問題を抱える。かかるところ、本発明ではタンパク質含量が0.5質量%以上であっても、またタンパク質が乳タンパク質であっても、酸性食品と接触した場合のクリームの凝集、固化や加熱時に生じるオイルオフが有意に抑制され、滑らかな食感を有するクリームを提供できる。目安として、牛乳に含まれるタンパク質は約3質量%、脱脂粉乳は約35質量%、全粉乳は約25質量%、豆乳は約3.5質量%である。なお、本発明においてタンパク質とはペプチドも含む。
【0019】
本発明の耐酸性クリームは、リン酸塩含量が0.15質量%未満、好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくはリン酸塩を実質的に含有しないものであることが望ましい。
一般的にクリームにリン酸塩を用いることで、クリームの粘度上昇や固化を抑制しやすいが、一方でリン酸塩特有の呈味がクリームの呈味、風味に悪影響を与えることが多い。本発明では、リン酸塩含量を0.15質量%未満、好ましくは0.1質量%以下まで低減した場合、更に好ましくはリン酸塩を実質的に含有しない場合であっても、酸性条件下におけるクリームの凝集、固化が有意に抑制されているという利点を有する。
【0020】
本発明の耐酸性クリームは、上記成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲内において、任意に乳化剤、糖類、香料、色素等を含有することができる。
【0021】
本発明の耐酸性クリームは、融点が30℃以下である油脂、HLB値14以上のショ糖脂肪酸エステル、並びに酵素分解レシチン及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する以外は常法に従って調製可能である。
例えば、水、タンパク質(乳原料、大豆原料等)、HLB値14以上のショ糖脂肪酸エステル、並びに酵素分解レシチン及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを混合した水相と、油相とを混合し、必要に応じて均質化処理を行なうことで調製することができる。水相を調製する際には、必要に応じて水相を75〜90℃程度に加温しても良い。均質化処理の条件としては、例えば、一段階目5〜15MPa、二段階目2〜5MPaの二段階の均質化工程を例示できる。好ましくは均質化による圧力(二段階で均質化工程を行なう場合には、合計圧力)が15MPa以上、更に好ましくは18MPa以上であることが好ましい。
【0022】
本発明の耐酸性クリームは、必要に応じて殺菌工程を経ることが可能である。例えば、UHT殺菌処理であれば130〜140℃、2〜60秒間の殺菌条件を例示できる。
かくして得られる本発明の耐酸性クリームは、1週間経過後も一部が分離して下スキが生じることなく、安定性を有するクリームである。
【0023】
本発明の耐酸性クリームは、調製直後の乳化粒子のメジアン径が0.7〜3μmであることが好ましい。より好ましくは0.7〜1.5μm、更に好ましくは0.7〜1.3μmである。本メジアン径に乳化粒子を調製する手段としては、均質化処理の調整を行なうか、あるいは、用いる乳化剤(HLB値14以上のショ糖脂肪酸エステル、酵素分解レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル等)の添加量を調整する等の各種手段が挙げられる。
本発明において乳化粒子のメジアン径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した値をいう。レーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えば島津製作所製の「SALD−2100−WJA1」がある。
【0024】
本発明の耐酸性クリームは、酸性食品と接触した状態で加熱した場合や長期間接触した場合等の苛酷な条件下であっても、クリームのオイルオフや凝集、固化が有意に抑制され、滑らかで良好な食感を保持できるという利点を有する。
酸性食品はpH5以下の食品であれば特に制限されない。例えば、pH5以下の調味料(例.パスタソース等のソース類等)、スープ、ワイン、ゼリー、ヨーグルト、ババロア、杏仁豆腐、プリン、ジャム、グミ、ドリンクゼリー、流動食等を例示できる。
特にpHが5未満、更にはpHが4.5以下と低pHであっても、本発明の耐酸性クリームはオイルオフや凝集、固化が生じることなく、且つ滑らかで良好な食感を保持できるという極めて優れた利点を有する。pHの下限は特に制限されない。例えばpH3である。
【0025】
本発明の耐酸性クリームは上記利点を有するため、調理用クリーム、デザート用クリームに好適に使用できる。なお、本発明の耐酸性クリームにはホイップクリームは含まれない。本発明の耐酸性クリームを調理用クリームとして用いる場合、フライパンによる直火によってもクリームのオイルオフや凝集、分離が有意に抑制されている。従って、トマトソース、ワイン等の酸性食品を混合した状態で加熱処理した場合であっても、乳化が壊れオイルオフを生じることもなく滑らかなクリームソースを提供することができる。かかる点、特に加熱調理用クリーム(更に好ましくは酸性食品と接触した状態で加熱される調理用クリーム)として有用である。
本発明の耐酸性クリームをデザート用クリームとして用いる場合、好適には、多層食品に使用することができる。例えば、少なくとも一層がクリーム層であり、少なくとも一層が酸性食品の層である多層食品は、クリームと酸性食品が接触した状態で流通、保存されるため、長期間クリームが酸性条件下に曝される。かかる場合であっても、本発明の耐酸性クリームを用いることで、クリームの凝集、固化抑制に優れ、滑らかな食感を有する多層食品(例.デザート)を提供することが可能である。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製であることを意味する。
【0027】
実験例1 耐酸性クリーム及び多層食品(1)
(耐酸性クリームの調製)
表1及び表2の処方に従って耐酸性クリームを調製した。具体的には、イオン交換水に予め粉体混合しておいた脱脂粉乳及び乳化剤を添加し、80℃にて10分間撹拌溶解して水相を調製した。当該水相に、溶融した精製ヤシ油を加えて5分間撹拌した。イオン交換水を用いて全量が100質量%となるように全量補正し、UHT殺菌を行った(138℃で15秒間)。次いで、75℃にて均質化処理を行ない(第一段9MPa、第二段3MPa)、均質液を10℃以下まで冷却し、耐酸性クリームを調製した(クリームのタンパク質含量は約0.7%質量%)。
【0028】
(クリームの評価)
表3の基準に従って、調製したクリームを評価した。評価結果を表2に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
注1)HLB16のショ糖脂肪酸エステル(モノエステル含量が約70%、ジエステル、トリエステル及びポリエステル含量の合計が約30%)を使用
注2)重合度が10のデカグリセリンステアリン酸エステルを使用
【0032】
【表3】
【0033】
(耐酸性試験)
表3中、耐酸性の評価は、下記表4の処方に従って調製したpH4のマンゴープリンの上層にクリーム層を積層し、10日経過後の状態を評価した。
【0034】
【表4】
【0035】
(酸性食品 製法)
水及び精製ヤシ油を撹拌しながら、砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び乳化剤の粉体混合物を加えて80℃で10分間撹拌溶解した。次いで、マンゴーピューレ、クエン酸、色素及び香料を加え、全量が100質量部となるようイオン交換水で全量補正した。ホモゲナイザーにて均質化処理を行ない(第一段10MPa、第二段5MPa)、容器に75g充填した。5℃の冷蔵庫にて約10分間放置して表面を固化した後、マンゴープリンの上にクリーム約10gを載せ、シールして冷蔵庫で保存した。
【0036】
(結果)
HLB値16のショ糖脂肪酸エステルと、酵素分解レシチン又はポリグリセリン脂肪酸エステルを併用した実施例1−1及び1−2のクリームは、調製後10日経過後も安定であり、pH4の酸性食品(マンゴープリン)と接触した状態で10日間経過後もクリームが凝集、固化することなく、その食感も滑らかで良好であった。
HLB値16のショ糖脂肪酸エステルのみを使用した比較例1−1は、酸性食品と接触することでクリームが凝集、固化し、商品価値のないものであった。HLB値16のショ糖脂肪酸エステルを用いるものの、併用素材がレシチン、蒸留モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、又はソルビタン脂肪酸エステルである比較例1−2〜1−5のクリームは、pH4の酸性食品(マンゴープリン)と接触することによりクリームが一部固化し、商品価値が著しく低下してしまった。HLB値16のショ糖脂肪酸エステルを使用することなく、酵素分解レシチン及びポリグリセリン脂肪酸エステルのみを併用した比較例1−6のクリームも、酸性食品との接触によりクリームが凝集、固化してしまった。
【0037】
実験例2 耐酸性クリーム及び多層食品(2)
(耐酸性クリームの調製)
表5及び表6の処方に従って耐酸性クリームを調製した。具体的には、イオン交換水に予め粉体混合しておいた脱脂粉乳、及び乳化剤を添加し、80℃にて10分間撹拌溶解して水相を調製した。当該水相に、溶融した油脂を加えて5分間撹拌した。イオン交換水を用いて全量が100質量%となるように全量補正し、UHT殺菌を行った(138℃で15秒間)。次いで、75℃にて均質化処理を行ない(第一段15MPa、第二段5MPa)、均質液を10℃以下まで冷却し、耐酸性クリームを調製した(クリームのタンパク質含量は約0.7質量%)。
(クリームの評価)
表3の基準に従って、調製したクリームを評価した。評価結果を表6に示す。
【0038】
【表5】
【0039】
【表6】
【0040】
(耐酸性試験)
表6中、耐酸性の評価は実験例1と同様、表4の処方に従って調製したpH4のマンゴープリンの上層にクリーム層を積層し、10日経過後の状態を評価した結果である。
【0041】
(結果)
融点24℃の精製ヤシ油を利用した実施例2−1及び2−2のクリームは、調製後10日経過後も安定であり、pH4の酸性食品(マンゴープリン)と接触した状態で10日間経過後もクリームが凝集、固化することなく、その食感も非常に滑らかで良好であった。
一方、融点33℃の硬化ヤシ油を利用した比較例2−1及び2−2のクリームは、酸性食品と接触することでクリームが凝集、固化し、商品価値のないものであった。
更に、実施例2−2で用いたポリグリセリン脂肪酸エステルの種類をペンタグリセリンステアリン酸エステル(実施例2−3)又はジグリセリンパルミチン酸エステル(実施例2−4)に変更する以外は実施例2−1と同様にして耐酸性クリーム及び多層食品を調製した。実施例2−3及び2−4のクリームは、調製後10日経過後も安定であり、pH4の酸性食品(マンゴープリン)と接触した状態で10日間経過後もクリームが凝集、固化することなく、その食感も滑らかで良好な食感であった。
【0042】
実験例3 耐酸性クリーム及び多層食品(3)
(耐酸性クリームの調製)
表7及び表8の処方に従って耐酸性クリームを調製した。具体的には、イオン交換水に予め粉体混合しておいた脱脂粉乳、及び乳化剤を添加し、80℃にて10分間撹拌溶解して水相を調製した。当該水相に、溶融した精製ヤシ油を加えて5分間撹拌した。イオン交換水を用いて全量が100質量%となるように全量補正し、UHT殺菌を行った(138℃で15秒間)。次いで、75℃にて均質化処理を行ない(第一段9MPa、第二段3MPa)、均質液を10℃以下まで冷却し、耐酸性クリームを調製した(クリームのタンパク質含量は約0.7質量%)。
(クリームの評価)
表3の基準に従って、調製したクリームを評価した。評価結果を表8に示す。
【0043】
【表7】
【0044】
【表8】
【0045】
(耐酸性試験)
表8中、耐酸性の評価は、表4のマンゴープリン処方におけるクエン酸量を変化して調製したpH3.5のマンゴープリンの上層にクリーム層を積層し、10日経過後の状態を評価した結果である。
【0046】
(結果)
HLB値16のショ糖脂肪酸エステル及び酵素分解レシチンを併用した実施例3−1の耐酸性クリームは、調製後10日経過後も安定であり、pH3.5の酸性食品(マンゴープリン)と接触した状態で10日間経過後もクリームが凝集、固化することなく、その食感も滑らかで良好な食感であった。一方、HLB値が11又は9であるショ糖脂肪酸エステルを用いた比較例3−1及び3−2は、酸性食品と接触せずともクリーム自体に下層スキが生じ、酸性食品と接触した場合にはクリームの凝集、固化が生じた。
【0047】
実験例4 耐酸性クリーム及びパスタソース
(耐酸性クリームの調製)
表9及び表10の処方に従って耐酸性クリームを調製した。具体的には、イオン交換水に予め粉体混合しておいた脱脂粉乳、及び乳化剤を添加し、80℃にて10分間撹拌溶解して水相を調製した。当該水相に、溶融した油脂を加えて5分間撹拌した。イオン交換水を用いて全量が100質量%となるように全量補正し、UHT殺菌を行った(138℃で15秒間)。次いで、70℃にて均質化処理を行ない(第一段15MPa、第二段5MPa)、均質液を10℃以下まで冷却し、耐酸性クリームを調製した(クリームのタンパク質含量は約1.4質量%)。
(クリームの評価)
表11の基準に従って、調製したクリームを評価した。評価結果を表10に示す。
【0048】
【表9】
【0049】
【表10】
【0050】
【表11】
【0051】
(結果)
融点24℃の精製ヤシ油、HLB値14以上のショ糖脂肪酸エステル、並びに酵素分解レシチン及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた実施例4−1及び4−2のクリームは、調製後10日経過後も安定であり、pH5以下の酸性食品(トマトピューレ、白ワイン)と接触した状態で加熱した場合であっても、オイルオフが生じることなく、またクリームの凝集、固化が生じることなく、滑らかで良好な食感を有するクリームであった。本結果より、本発明の耐酸性クリームはパスタソース等の調理用クリームとして優れていることが判明した。
一方、HLB値14以上のショ糖脂肪酸エステル、酵素分解レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルモノグリセリドを各々使用した比較例4−1〜4−4のクリームは、いずれも酸性食品と接触した状態で加熱することでオイルオフが生じ、商品価値が低いものであった。またその食感も多数はざらつきを有する食感となり、オイルオフを生じることなく、滑らかで良好な食感を有するクリームを提供することはできなかった。