特許第6227276号(P6227276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227276
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】保護素子
(51)【国際特許分類】
   H01H 37/76 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   H01H37/76 F
   H01H37/76 P
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-96753(P2013-96753)
(22)【出願日】2013年5月2日
(65)【公開番号】特開2014-220044(P2014-220044A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(72)【発明者】
【氏名】向 幸市
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 芳奈
【審査官】 岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−003665(JP,A)
【文献】 特開平05−290700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/76
H01H 69/02
H01H 85/00−87/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
上記絶縁基板に積層された発熱体と、
少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、
上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、
上記発熱体と重畳するように上記絶縁部材の上に積層され、上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、
上記発熱体引出電極から上記第1及び第2の電極にわたって積層され、熱により溶断することにより、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を遮断する可溶導体と、
上記可溶導体に発生する酸化膜を除去する酸化膜除去材とを備え、
上記酸化膜除去材は、活性化温度の異なる第1及び第2のフラックスからなり、該第1及び第2のフラックスの活性化温度は、上記発熱体による加熱温度よりも低い保護素子。
【請求項2】
相対的に活性化温度の低い第1のフラックスが上記可溶導体上に積層され、相対的に活性化温度の高い第2のフラックスが上記第1のフラックス上に積層されている請求項1記載の保護素子。
【請求項3】
相対的に活性化温度の低い第1のフラックスが上記可溶導体の内部に充填され、相対的に活性化温度の高い第2のフラックスが上記可溶導体上に積層されている請求項1記載の保護素子。
【請求項4】
相対的に活性化温度の低い第1のフラックスが上記可溶導体と上記絶縁基板との間に配設され、相対的に活性化温度の高い第2のフラックスが上記可溶導体上に積層されている請求項1記載の保護素子。
【請求項5】
相対的に活性化温度の低い第1のフラックスと、相対的に活性化温度の高い第2のフラックスとが、上記可溶導体上に併設して積層されている請求項1記載の保護素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過充電、過放電等の異常時に、電流経路を遮断する保護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
充電して繰り返し利用することのできる二次電池の多くは、バッテリパックに加工されてユーザに提供される。特に重量エネルギ密度の高いリチウムイオン二次電池においては、ユーザ及び電子機器の安全を確保するために、一般的に、過充電保護、過放電保護等のいくつもの保護回路をバッテリパックに内蔵し、所定の場合にバッテリパックの出力を遮断する機能を有している。
【0003】
この種の保護素子には、バッテリパックに内蔵されたFETスイッチを用いて出力のON/OFFを行うことにより、バッテリパックの過充電保護又は過放電保護動作を行うものがある。しかしながら、何らかの原因でFETスイッチが短絡破壊した場合、雷サージ等が印加されて瞬間的な大電流が流れた場合、あるいはバッテリセルの寿命によって出力電圧が異常に低下したり、逆に過大異常電圧を出力した場合であっても、バッテリパックや電子機器は、発火等の事故から保護されなければならない。そこで、このような想定し得るいかなる異常状態においても、バッテリセルの出力を安全に遮断するために、外部からの信号によって電流経路を遮断する機能を有するヒューズ素子からなる保護素子が用いられている。
【0004】
図10(A)及び図10(B)に示すように、このようなリチウムイオン二次電池等向けの保護回路の保護素子80としては、電流経路上に接続された第1及び第2の電極81,82間に亘って可溶導体83を接続して電流経路の一部をなし、この電流経路上の可溶導体83を、過電流による自己発熱、あるいは保護素子80内部に設けた発熱体84によって溶断するものがある。このような保護素子80では、溶融した液体状の可溶導体83を第1及び第2の電極81,82上に集めることにより電流経路を遮断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−003665号公報
【特許文献2】特開2004−185960号公報
【特許文献3】特開2012−003878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10に記載されているような保護素子80においては、リフローはんだ付け等により実装される際の加熱により溶融しないように、一般的に、可溶導体83として融点が300℃以上のPb入り高融点半田が用いられている。また、可溶導体83を加熱すると酸化が進み溶断を阻害するため、可溶導体83に生成された酸化膜を除去するためにフラックス85を積層することも行われている。
【0007】
ここで、例えばリチウムイオン二次電池の熱暴走は重大な事故を招く恐れもあることから、この種の保護素子としては、可溶導体をできる限り速やかに溶断することが求められる。そのため、保護素子内部の発熱体に印加する電力を大きくして加熱温度を急激に高める方法も考えられる。
【0008】
しかし、発熱体の加熱により可溶導体の温度を急激に上げた場合、酸化がより早く進行し、フラックスによる酸化膜の除去機能が発揮しえないばかりか、フラックスが過剰に加熱されることで酸化膜除去機能を失活してしまい、かえって溶断時間が伸びてしまい、そのためにさらに加熱による昇温が続くという悪循環を招く。
【0009】
また、フラックスが酸化膜除去機能を発揮する活性温度帯は、フラックスに添加する活性剤によって決まっており、リフローはんだ付け時における酸化膜除去を目的とした場合、100℃〜260℃である。
【0010】
しかし、保護素子の発熱体の加熱温度は、一瞬(コンマ何秒)で数百度まで達するため、フラックスの活性温度帯と加熱温度との間に大きな差が生じ、酸化膜除去機能を十分に発揮できていない。また、保護素子が搭載される電子機器の電力状態は様々で、発熱体による加熱温度も印加される電力に応じて変わる。そのため、使用される電子機器に応じて異なる活性温度帯を有するフラックスを用いた複数種類の保護素子を用意しなければならず、製造工程が煩雑となり、また製造コストの上昇を招く。
【0011】
さらに、同じ電子機器においても、例えばリチウムイオン二次電池の搭載個数や充放電状態、劣化状態が変わってくるため、保護素子の発熱体に印加される電力も変化しうる。したがって、一定の活性温度帯を有するフラックスでは、使用される電子機器の電力状況に対応することができない恐れがある。
【0012】
そこで、本発明は、発熱体の加熱温度を急激に上げた場合や緩やかに上げた場合等、様々な加熱状態においても、フラックスの酸化膜除去機能を発揮し、可溶導体の速溶断を可能とする保護素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、本発明に係る保護素子は、絶縁基板と、上記絶縁基板に積層された発熱体と、少なくとも上記発熱体を覆うように、上記絶縁基板に積層された絶縁部材と、上記絶縁部材が積層された上記絶縁基板に積層された第1及び第2の電極と、上記発熱体と重畳するように上記絶縁部材の上に積層され、上記第1及び第2の電極の間の電流経路上で該発熱体に電気的に接続された発熱体引出電極と、上記発熱体引出電極から上記第1及び第2の電極にわたって積層され、熱により溶断することにより、該第1の電極と該第2の電極との間の電流経路を遮断する可溶導体と、上記可溶導体に発生する酸化膜を除去する酸化膜除去材とを備え、上記酸化膜除去材は、活性化温度の異なる第1及び第2のフラックスからなり、該第1及び第2のフラックスの活性化温度は、上記発熱体による加熱温度よりも低いものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、様々な温度プロファイルで加熱される場合に対応することができ、搭載される電子機器の種類や電力状態の変化等に左右されることなく可溶導体の酸化を防止することができ、安定して電流経路の速やかな遮断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る保護素子を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
図2】本発明に係る保護素子を示す平面図である。
図3】本発明に係るフラックスの活性化温度及び活性温度帯と、加熱プロファイルとの関係を示すグラフである。
図4】バッテリパックの回路構成を示す回路図である。
図5】本発明が適用された保護素子の等価回路である。
図6】本発明に係る他の保護素子を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
図7】本発明に係る他の保護素子を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
図8】本発明に係る他の保護素子を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
図9】印加電力と溶断時間との関係を示すグラフであり、(A)は実施例、(B)は比較例を示す。
図10】従来の保護素子を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明が適用された保護素子について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがある。具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0017】
[保護素子の構成]
図1(A)(B)及び図2に示すように、本発明が適用された保護素子10は、絶縁基板11と、絶縁基板11に積層され、絶縁部材15に覆われた発熱抵抗体14と、絶縁基板11の両端に形成された電極12(A1),12(A2)と、絶縁部材15上に発熱抵抗体14と重畳するように積層された発熱体引出電極16と、両端が電極12(A1),12(A2)にそれぞれ接続され、中央部が発熱体引出電極16に接続された可溶導体13と、可溶導体13上に設けられ、可溶導体13に発生する酸化膜を除去する酸化膜除去材17とを備える。
【0018】
絶縁基板11は、たとえば、アルミナ、ガラスセラミックス、ムライト、ジルコニアなどの絶縁性を有する部材を用いて略方形状に形成されている。絶縁基板11は、その他にも、ガラスエポキシ基板、フェノール基板等のプリント配線基板に用いられる材料を用いてもよいが、ヒューズ溶断時の温度に留意する必要がある。
【0019】
発熱抵抗体14は、比較的抵抗値が高く通電すると発熱する導電性を有する部材であって、たとえばW、Mo、Ru等からなる。これらの合金あるいは組成物、化合物の粉状体を樹脂バインダ等と混合して、ペースト状にしたものを絶縁基板11上にスクリーン印刷技術を用いてパターン形成して、焼成する等によって形成する。
【0020】
発熱抵抗体14を覆うように絶縁部材15が配置され、この絶縁部材15を介して発熱抵抗体14に対向するように発熱体引出電極16が配置される。発熱抵抗体14の熱を効率良く可溶導体に伝えるために、発熱抵抗体14と絶縁基板11の間に絶縁部材15を積層しても良い。絶縁部材15としては、例えばガラスを用いることができる。
発熱体引出電極16の一端は、発熱体電極18(P1)に接続される。また、発熱抵抗体14の他端は、他方の発熱体電極18(P2)に接続される。
【0021】
可溶導体13は、発熱抵抗体14の発熱により速やかに溶断される低融点金属からなり、例えばSnを主成分とするPbフリーハンダを好適に用いることができる。また、可溶導体13は、低融点金属と、Ag、Cu又はこれらを主成分とする合金等の高融点金属との積層体であってもよい。
【0022】
高融点金属と低融点金属とを積層することによって、保護素子10をリフロー実装する場合に、リフロー温度が低融点金属層の溶融温度を超えて、低融点金属が溶融しても、可溶導体13として溶断するに至らない。かかる可溶導体13は、高融点金属に低融点金属をメッキ技術を用いて成膜することによって形成してもよく、他の周知の積層技術、膜形成技術を用いることによって形成してもよい。
【0023】
なお、可溶導体13は、発熱体引出電極16及び電極12(A1),12(A2)へ、ハンダ接続されている。可溶導体13は、リフローはんだ付けによって容易に接続することができる。また、このとき、下層に設けられた低融点金属をPbフリーハンダによって構成することにより、この低融点金属を用いて発熱体引出電極16及び電極12(A1),12(A2)へ接続することができる。
なお、保護素子10は、内部を保護するために、絶縁基板11上に図示しないカバー部材を載置してもよい。
【0024】
[第1の形態]
保護素子10は、可溶導体13の酸化防止のために、可溶導体13上のほぼ全面に酸化膜除去材17が設けられている。酸化膜除去材としては、フラックスを好適に用いることができる。以下では、酸化膜除去材17としてフラックスを用いた場合を例に説明する。
【0025】
図1(A)(B)に示すように、本発明に係るフラックス20は、相対的に活性化温度の低い第1のフラックス層21と、相対的に活性化温度の高い第2のフラックス層22とを有する。フラックス20は、活性化温度の異なる第1、第2のフラックス層21,22を有することにより、第1のフラックス層21の活性温度帯と第2のフラックス層22の活性温度帯とを合わせた活性温度帯を有する。
【0026】
ここで、フラックスの活性化とは、フラックスが可溶導体13の酸化膜を除去する機能を発揮している状態をいい、活性化温度とは、固形状のフラックスが加熱により溶融し、可溶導体13の酸化膜を除去する機能を発揮する温度をいうものとする。そして、フラックスは、所定の活性温度を超えて加熱されると、酸化膜を除去する機能が失活する。このフラックスが活性化している温度帯を活性温度帯と定義する。
【0027】
第1、第2のフラックス層21,22は、ロジンベースに活性剤を添加することにより、所定の活性化温度を有する。活性剤としては、例えばパルミチン酸(融点63℃)、ステアリン酸(同70℃)、アラキン酸(同76℃)、ベヘニン酸(同80℃)、マロン酸(同135℃)、グルタル酸(同97.5℃)、ピメリン酸(同106℃)、アゼライン酸(同106℃)、セバシン酸(同134℃)、マレイン酸(同130℃)などの有機酸、又は臭化水素酸のアミン塩を用いることができる。
【0028】
図3に示すように、フラックス20は、第1のフラックス層21の活性温度帯R1と第2のフラックス層22の活性温度帯R2とを合わせた総活性温度帯(R1+R2)を有することにより、発熱抵抗体14による可溶導体13の加熱温度が急激に上昇した場合にも、幅広い温度帯域で可溶導体13の酸化を防止することができる。したがって、保護素子10は、急激な加熱によっても可溶導体13の酸化を防止することができ、電流経路を速やかに遮断することができる。すなわち、保護素子10は、急激な加熱を行いつつ、フラックス20の酸化膜除去機能を発揮させることができ、これら2つの相乗効果により、速溶断性を向上することができる。
【0029】
フラックス20の複数の活性化温度は、発熱抵抗体14による加熱温度より低ければよく、図3に示すように、発熱抵抗体14の発熱による温度プロファイルから、低温域での活性化温度T1を有する第1のフラックス層21と、高温域での活性温度T2を有する第2のフラックス層22とを組み合わせることがこのましい。これにより、フラックス20は、長時間にわたって各フラックス層21,22の活性温度帯R1,R2を合わせた総活性温度帯(R1+R2)を有することとなり、発熱抵抗体14が発熱している間、長時間にわたって可溶導体13の酸化膜を除去することができる。
【0030】
したがって、フラックス20は、発熱抵抗体14の発熱による温度プロファイルがなだらかなケース1においては、第1のフラックス層21が活性化することで可溶導体13の酸化膜を除去し、発熱抵抗体14の温度プロファイルが急激に上昇するケース2においては、第1のフラックス層21の活性化に引き続き、第2のフラックス層22が活性化することで、長時間にわたって可溶導体13の酸化膜を除去することができ、速やかに溶断することができる。
【0031】
これにより、保護素子10によれば、様々な温度プロファイルで加熱される場合に対応することができ、搭載される電子機器の種類や電力状態の変化等に左右されることなく可溶導体13の酸化を防止することができ、安定して電流経路の速やかな遮断を行うことができる。一方、一つの酸化膜除去材(フラックス)のみの場合、活性化温度及び活性温度帯は限定的であり、あらゆる温度プロファイルに対応することができず、特にケース2においては活性温度帯が短く、酸化膜除去機能を十分に発揮させることができない。
【0032】
なお、各フラックス層21,22の活性化温度T1、T2は、可溶導体13の融点よりも高くてもよく、低くてもよく、また第1のフラックス層21の活性化温度T1と第2のフラックス層22の活性化温度T2との間に可溶導体13の融点が設けられてもよい。これは、発熱抵抗体14の加熱温度は、各フラックス層21,22の活性化温度T1、T2及び可溶導体13の融点よりも高いため、いずれの場合も、可溶導体13の酸化と、各フラックス層21,22の活性化による酸化膜除去の効果を奏することとなるためである。
【0033】
なお、酸化膜除去材17は、フラックス20として、相対的に活性化温度の異なる2つのフラックス層21,22を有する他、相対的に活性化温度の異なる3つ以上のフラックス層によって構成してもよい。
【0034】
フラックス20は、相対的に活性化温度の低いフラックス層から順に可溶導体13上に積層されていることが好ましい。例えば、フラックス20は、図1に示すように、相対的に活性化温度の低い第1のフラックス層21が可溶導体13上に積層され、相対的に活性化温度の高い第2のフラックスが第1のフラックス層21上に積層されている。これにより、熱源となる発熱抵抗体14のより近くに活性化温度の低い第1のフラックス層21を配置することとなり、可溶導体13の加熱開始後、早期に、第1のフラックス層21を活性化させることができる。また、加熱開始後、早期に活性化する第1のフラックス層21を可溶導体13上に積層することにより、加熱開始後、早期に発生する可溶導体13の酸化膜を効率的に除去し、溶断を促進することができる。そして、加熱温度が上昇すると、相対的に活性化温度の高い第2のフラックス層22が活性化し、可溶導体13に生成される酸化膜を除去する。すなわち、保護素子10は、発熱抵抗体14による加熱が開始されると、活性化温度の低いフラックス層から順番に活性化させることができる。
【0035】
このような活性化温度の異なる複数のフラックス層が積層されたフラックス20は、例えば、絶縁基板11上に可溶導体13を形成したのち、第1のフラックス層21を構成する樹脂を印刷し、乾燥させることにより第1のフラックス層21を形成し、その後、第2のフラックス層22を構成する樹脂を印刷し、乾燥させることにより容易に形成することができる。また、同工程を繰り返すことにより、3層以上のフラックス層を形成することもできる。
【0036】
[保護素子の使用方法]
このような保護素子10は、図4に示すように、例えばリチウムイオン二次電池のバッテリパック30内の回路に組み込まれて用いられる。バッテリパック30は、例えば、合計4個のリチウムイオン二次電池のバッテリセル31〜34からなるバッテリスタック35を有する。
【0037】
バッテリパック30は、バッテリスタック35と、バッテリスタック35の充放電を制御する充放電制御回路40と、バッテリスタック35の異常時に充電を遮断する本発明が適用された保護素子10と、各バッテリセル31〜34の電圧を検出する検出回路36と、検出回路36の検出結果に応じて保護素子10の動作を制御する電流制御素子37とを備える。
【0038】
バッテリスタック35は、過充電及び過放電状態から保護するための制御を要するバッテリセル31〜34が直列接続されたものであり、バッテリパック30の正極端子30a、負極端子30bを介して、着脱可能に充電装置45に接続され、充電装置45からの充電電圧が印加される。充電装置45により充電されたバッテリパック30の正極端子30a、負極端子30bをバッテリで動作する電子機器に接続することによって、この電子機器を動作させることができる。
【0039】
充放電制御回路40は、バッテリスタック35から充電装置45に流れる電流経路に直列接続された2つの電流制御素子41、42と、これらの電流制御素子41、42の動作を制御する制御部43とを備える。電流制御素子41、42は、たとえば電界効果トランジスタ(以下、FETと呼ぶ。)により構成され、制御部43によりゲート電圧を制御することによって、バッテリスタック35の電流経路の導通と遮断とを制御する。制御部43は、充電装置45から電力供給を受けて動作し、検出回路36による検出結果に応じて、バッテリスタック35が過放電又は過充電であるとき、電流経路を遮断するように、電流制御素子41、42の動作を制御する。
【0040】
保護素子10は、たとえば、バッテリスタック35と充放電制御回路40との間の充放電電流経路上に接続され、その動作が電流制御素子37によって制御される。
【0041】
検出回路36は、各バッテリセル31〜34と接続され、各バッテリセル31〜34の電圧値を検出して、各電圧値を充放電制御回路40の制御部43に供給する。また、検出回路36は、いずれか1つのバッテリセル31〜34が過充電電圧又は過放電電圧になったときに電流制御素子37を制御する制御信号を出力する。
【0042】
電流制御素子37は、たとえばFETにより構成され、検出回路36から出力される検出信号によって、バッテリセル31〜34の電圧値が所定の過放電又は過充電状態を超える電圧になったとき、保護素子10を動作させて、バッテリスタック35の充放電電流経路を電流制御素子41、42のスイッチ動作によらず遮断するように制御する。
【0043】
以上のような構成からなるバッテリパック30において、本発明が適用された保護素子10は、図3に示すような回路構成を有する。すなわち、保護素子10は、発熱体引出電極16を介して直列接続された可溶導体13と、可溶導体13の接続点を介して通電して発熱させることによって可溶導体13を溶融する発熱抵抗体14とからなる回路構成である。また、保護素子10では、たとえば、可溶導体13が充放電電流経路上に直列接続され、発熱抵抗体14が電流制御素子37と接続される。保護素子10の2個の電極12のうち、一方は、A1に接続され、他方は、A2に接続される。また、発熱体引出電極16とこれに接続された発熱体電極18は、P1に接続され、他方の発熱体電極18は、P2に接続される。
【0044】
このような回路構成からなる保護素子10は、発熱抵抗体14の発熱により可溶導体13を溶断することにより、確実に電流経路を遮断することができる。
【0045】
なお、本発明の保護素子は、リチウムイオン二次電池のバッテリパックに用いる場合に限らず、電気信号による電流経路の遮断を必要とする様々な用途にももちろん応用可能である。
【0046】
[第2の形態]
次いで、本発明に係る他の保護素子の形態について説明する。なお、以下の説明において、上述した保護素子10と同一の構成については、同一の符号を付してその詳細を省略する。図6(A)(B)に示す保護素子50は、可溶導体51の内部に相対的に活性化温度の低い第1のフラックス層21が充填され、相対的に活性化温度の高い第2のフラックス層22が可溶導体31上に積層されている。
【0047】
可溶導体51は、上記可溶導体13と同様の材料で形成することができる。また、保護素子50は、上述した保護素子10と同様に、絶縁基板11、電極12、発熱抵抗体14、絶縁部材15、発熱体電極18を有する。
【0048】
保護素子50は、可溶導体51の内部に第1のフラックス層21が充填されているため、相対的に活性化温度の低い第1のフラックスと可溶導体51との接触面積が広く、発熱抵抗体14の加熱により可溶導体51に生じる酸化膜を効率よく除去することができる。
【0049】
また、保護素子50は、可溶導体51の内部に第1のフラックス層21が充填されているため、第1のフラックス層21が空気に触れることがなく、長期にわたって劣化を防止することができる。
【0050】
さらに、保護素子50は、相対的に活性化温度の低い第1のフラックス層21が、相対的に活性化温度の高い第2のフラックス層22よりも、熱源となる発熱抵抗体14の近傍に配置されているため、発熱抵抗体14による加熱が開始されると、先ず第1のフラックス層21が活性化し、さらに温度が上昇すると、第2のフラックス層22が活性化する。すなわち、保護素子50は、発熱抵抗体14による加熱が開始されると、活性化温度の低いフラックス層から順番に活性化させることができる。
【0051】
[第3の形態]
図7(A)(B)は、本発明に係るさらに他の保護素子の形態を示す図である。図7に示す保護素子60は、絶縁基板11上の、電極12(A1)と発熱体引出電極16の間及び電極12(A2)と発熱体引出電極16の間に、第1のフラックス層21が形成され、可溶導体13上に第2のフラックス層22が積層されたものである。なお、保護素子60は、上述した保護素子10と同様に、絶縁基板11、電極12、発熱抵抗体14、絶縁部材15、発熱体電極18を有する。
【0052】
保護素子60においても、相対的に活性化温度の低い第1のフラックス層21が、相対的に活性化温度の高い第2のフラックス層22よりも、熱源となる発熱抵抗体14の近傍に配置されているため、発熱抵抗体14による加熱が開始されると、先ず第1のフラックス層21が活性化し、さらに温度が上昇すると、第2のフラックス層22が活性化する。すなわち、保護素子60は、発熱抵抗体14による加熱が開始されると、活性化温度の低いフラックス層から順番に活性化させることができる。
【0053】
保護素子60は、以下のように形成することができる。先ず、絶縁基板11上に電極12(A1)(A2)と発熱体引出電極16を形成する。次いで、第1のフラックス層21を構成する樹脂組成物を、電極12(A1)と発熱体引出電極16の間及び電極12(A2)と発熱体引出電極16の間に印刷等により塗布し、乾燥させる。次いで、可溶導体13を電極12(A1)(A2)、発熱体引出電極16及び第1のフラックス層21上にわたって形成する。最後に、可溶導体13上に、第2のフラックス層22を構成する樹脂組成物を印刷等により塗布し、乾燥させる。
【0054】
[第4の形態]
図8(A)(B)は、本発明に係るさらに他の保護素子の形態を示す図である。図8に示す保護素子70は、可溶導体13の上に第1、第2のフラックス層21,22が併設して積層されたものである。第1のフラックス層21は、可溶導体13の電極12(A1)側において、電極12(A1)と発熱体引出電極16との間にわたって積層されている。また、第2のフラックス層22は、可溶導体13の電極12(A2)側において、電極12(A2)と発熱体引出電極16との間にわたって積層されている。なお、保護素子70は、上述した保護素子10と同様に、絶縁基板11、電極12、発熱抵抗体14、絶縁部材15、発熱体電極18を有する。
【0055】
保護素子70は、可溶導体13の溶断箇所を制御することができる。すなわち、保護素子70は、発熱抵抗体14による加熱が開始されると、先ず活性化温度の低い第1のフラックス層21が活性化し、電極12(A1)側の酸化膜を除去し溶断を促進させる。次いで、さらに温度が上昇すると、活性化温度の高い第1のフラックス層22が活性化し、電極12(A2)側の酸化膜を除去し溶断を促進させる。
【0056】
保護素子70は、仮に発熱抵抗体14によって急激に加熱され、第1のフラックス層21が可溶導体13の溶断前に失活した場合にも、第2のフラックス層22が活性化し、可溶導体13の酸化を防止して溶断を促進させることができるため、電極12(A2)と発熱体引出電極16との間にわたって確実に電流経路を遮断することができる。
【実施例】
【0057】
次いで、本発明の実施例について説明する。本実施例では、可溶導体の上に、相対的に活性化温度の低い第1のフラックス層を積層し、この第1のフラックス層の上に相対的に活性化温度の高い第2のフラックス層を積層した保護素子サンプル(実施例)と、可溶導体の上にフラックス層を1層だけ積層した従来の保護素子サンプル(比較例)とを、それぞれ8個用意し、発熱抵抗体14に所定の電力を印加して、溶断までに要する時間を計測した。
【0058】
実施例に係る第1のフラックス層は、ロジンベースに活性剤としてパルチミン酸(融点63℃)を添加し、また、第2のフラックス層は、ロジンベースに活性剤としてアゼライン酸(融点106℃)を添加したものを用いた。一方、比較例に係るフラックス層は、ロジンベースに活性剤としてアゼライン酸(融点106℃)を添加したものを用いた。
【0059】
また、実施例及び比較例に係る保護素子サンプルの発熱抵抗体に印加する電力は、5W、45W、50Wとした。結果を表1に示す。また、図9(A)に実施例に係る保護素子の印加電力(W)と溶断時間(秒)との関係を表すグラフを示し、図9(B)に比較例に係る保護素子の印加電力(W)と溶断時間(秒)との関係を表すグラフを示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1、図9(A)(B)に示すように、実施例では、発熱抵抗体14への印加電力が5W、45W,50Wのいずれの場合も、比較例に比して溶断時間が短くなり、また、サンプル間における溶断時間のばらつきも小さかった。これは、印加電力が大きいほど、温度が急激に上昇するため、比較例に係る保護素子においては、フラックスの活性温度帯が短く、十分に可溶導体の酸化膜除去機能を発揮しえなかったことによる。
【0062】
一方、実施例に係る保護素子では、印加電力が大きく、温度が急激に上昇した場合にも、活性化温度の高い第2のフラックス層を備えているため、高温領域でも可溶導体の酸化膜を除去することができ、速やかに溶断することができた。
【符号の説明】
【0063】
10 保護素子、11 絶縁基板、12 電極、13 可溶導体、14 発熱抵抗体、15 絶縁部材、16 発熱体引出電極、17 酸化膜除去材、18 発熱体電極、19 カバー部材、20 フラックス、21 第1のフラックス層、22 第2のフラックス層、30 バッテリパック、31〜34 バッテリセル、35 バッテリスタック、36 検出回路、37 電流制御素子、40 充放電制御回路、41,42 電流制御素子、43 制御部、45 充電装置、50 保護素子、51 可溶導体、60 保護素子、70 保護素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10