(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、発熱抵抗比を高くすると、発熱部の昇温速度が上がるため、発熱抵抗体が配設されたセラミック基体が急速に加熱される。しかし、タングステンとアルミナとでは、熱膨張率の差がそれほど大きくないことから、特許文献1に記載のヒータでは、急速加熱と冷却の繰り返しに伴って発熱抵抗体とセラミック基板とが剥離することに対する耐久性は特に問われなかった。これに対して、貴金属(例えば、白金やパラジウム、ロジウム)を主成分とする発熱抵抗体と、アルミナを主成分とするセラミック基体とを備えるヒータでは、貴金属とアルミナの熱膨張率の差が大きいため、発熱抵抗比を高くすると、熱衝撃によって発熱抵抗体とセラミック基板とが剥離してしまう可能性が高くなる。よって、アルミナを主成分とするセラミック基体と貴金属を主成分とする発熱抵抗体とを備えるヒータにおいて、消費電力の低減と熱衝撃に対する耐久性の向上とを両立可能な技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
本発明の第1の形態は、
アルミナを主成分とするセラミック基体と、
発熱部とリード部とを有し、前記セラミック基体に配設される発熱抵抗体であって、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)の群から選ばれる1種以上の金属又はその合金を主成分とし、前記セラミック基体を構成するセラミックを含んでなる発熱抵抗体と、
を備え、
前記発熱部の抵抗値と前記リード部の抵抗値の合計に対する、前記発熱部の抵抗値の割合が、76〜95%となるヒータであって、
前記発熱部の厚みが1〜4μmであることを特徴とするヒータである。
本発明の第
2の形態は、
固体電解質層と、
前記固体電解質層の表面に形成された一対の電極を備え、被測定ガス中の特定ガス成分を検知するセンサセルと、
前記センサセルに直接または他部材を介して積層され、前記センサセルを加熱する請求項1から請求項
3までのいずれか一項に記載のヒータと、を備えるガスセンサ素子である。
また、本発明は以下の形態としても実現できる。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、ヒータが提供される。このヒータは、アルミナを主成分とするセラミック基体と;発熱部とリード部とを有し、前記セラミック基体に配設される発熱抵抗体であって、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)の群から選ばれる1種以上の金属又はその合金を主成分とし、前記セラミック基体を構成するセラミックを含んでなる発熱抵抗体と;を備え、前記発熱部の抵抗値と前記リード部の抵抗値の合計に対する、前記発熱部の抵抗値の割合が、76〜95%となるヒータであって、前記発熱部の厚みが1〜6μmであることを特徴とする。このような形態のヒータであれば、消費電力の低減のために発熱抵抗比を76〜95%と比較的高くしても、発熱部の厚みが1〜6μmと比較的薄いため、セラミック基体と発熱抵抗体とに熱膨張率の差に起因して大きな応力が発生することを抑制することができる。よって、消費電力の低減と熱衝撃に対する耐久性の向上とを両立することが可能になる。
【0007】
(2)上記形態のヒータにおいて、前記発熱部の厚みが1〜4μmであってもよい。このような形態のヒータであれば、発熱部の厚みをより薄くするため、セラミック基体と発熱抵抗体とに熱膨張率の差に起因して大きな応力が発生することを抑制することができる。よって、熱衝撃に対する耐久性をより向上させることができる。
【0008】
(3)上記形態のヒータにおいて、前記発熱部のセラミック含有率が、10〜35体積%であってもよい。このような形態のヒータであれば、発熱部とセラミック基体との密着性を向上させつつ、発熱部から白金等の主成分が昇華して断線等が発生してしまうことを抑制することができる。よって、ヒータの耐久性を向上させることが可能になる。
【0009】
(4)上記形態のヒータにおいて、前記発熱部の厚みが、前記リード部の厚みの50%以下であってもよい。このような形態のヒータでも、発熱部168の厚みを薄くすることができるため、セラミック基体と発熱抵抗体とに熱膨張率の差に起因する応力が発生することを抑制することができる。よって、熱衝撃に対する耐久性を向上させることが可能になる。
【0010】
(5)本発明の他の形態によれば、ガスセンサ素子が提供される。このガスセンサ素子は、固体電解質層と;前記固体電解質層の表面に形成された一対の電極を備え、被測定ガス中の特定ガス成分を検知するセンサセルと;前記センサセルに直接または他部材を介して積層され、前記センサセルを加熱する上記いずれかの形態のヒータと、を備える。このような形態のガスセンサ素子によっても、消費電力の低減と熱衝撃に対する耐久性の向上を図ることができる。
【0011】
本発明は、上述したヒータあるいはガスセンサ素子としての形態に限らず、ガスセンサ素子を備える内燃機関や車両など、種々の形態によって実現することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.ガスセンサの構成:
図1は、ガスセンサ100の断面図である。
図1において、図中下方が軸線AX方向の先端側を、図中上方が軸線AX方向の基端側を示す。このガスセンサ100は、内燃機関から排出される排気ガス中の酸素の濃度を検出する全領域空燃比センサとして構成されている。
【0014】
図1に示すように、ガスセンサ100は、主体金具110と、ガスセンサ素子120と、金属外筒103と、接続体180と、を備える。
【0015】
主体金具110は、軸線AX方向に延びる筒状をなし、その内部には、径方向内側に突出する棚部111が形成されている。主体金具110内には、アルミナからなる筒状のセラミックホルダ113、滑石粉末からなる第1粉末充填層114、同じく滑石粉末からなる第2粉末充填層115、及び、アルミナからなる筒状のセラミックスリーブ170が、この順に先端側から基端側に向けて配設されている。主体金具110内には、セラミックホルダ113及び第1粉末充填層114と共にガスセンサ素子120と一体化された筒状の金属カップ116が配設されている。更に、セラミックスリーブ170と主体金具110の基端部110kとの間には、加締リング117が配置されている。
【0016】
セラミックホルダ113は、金属カップ116内に配置され、その先端側で金属カップ116を介して主体金具110の棚部111に係合している。セラミックホルダ113は、ガスセンサ素子120を内挿している。また、第1粉末充填層114の全体と、第2粉末充填層115の先端側の一部が、金属カップ内116に配置されている。なお、主体金具110とガスセンサ素子120との間の気密性は、第2粉末充填層115の存在によって確保されるようになっている。
【0017】
ガスセンサ素子120は、軸線AX方向に延びる板状の形状を呈しており、主体金具110の内部に配置されている。ガスセンサ素子120は、その先端部が主体金具110から先端側に突出し、基端部が主体金具110から基端側に突出している。ガスセンサ素子120は、排気ガス中の酸素濃度を検出可能に構成されたセンサセル130(
図2参照)と、センサセル130を加熱可能に構成されたヒータ160(
図2参照)とを備える。ガスセンサ素子120の詳細な構成については後述する。
【0018】
セラミックスリーブ170は、軸線AXに沿い、矩形状の開口をなす軸孔170cを有する筒状をなす。セラミックスリーブ170は、その矩形状の軸孔170cに板状のガスセンサ素子120を内挿して、ガスセンサ素子120を支持している。セラミックスリーブ170は、主体金具110の基端部110kを径方向内側に屈曲させ、加締リング117を介して、セラミックスリーブ170の基端面に向けて加締めることにより、主体金具110内に固定されている。
【0019】
主体金具110の先端側には、主体金具110から突出するガスセンサ素子120の先端部を覆うように、二重の有底筒状のプロテクタ101がレーザ溶接により固設されている。プロテクタ101には、排ガスを内部に導入できるように、複数の導入孔101cが所定位置に形成されている。
【0020】
主体金具110の基端側には、筒状の金属外筒103がレーザ溶接により固設されている。金属外筒103の内側には、接続体180が配設されている。接続体180は、セラミック製のセパレータ181と、3つのセンサ用接続端子182,183,184と、2つのヒータ用接続端子185,186とから構成されている。セパレータ181は、センサ用接続端子182,183,184及びヒータ用接続端子185,186が互いに接触しないように、これらを隔離した状態で収容している。
【0021】
接続体180は、前述のセラミックスリーブ170と離間した状態で、ガスセンサ素子120の基端側に取り付けられている。セラミックスリーブ170の基端側から突出するガスセンサ素子120は、その基端部が、セパレータ181の開口181c内に挿入されている。そして、センサ用接続端子182,183,184が、ガスセンサ素子120のセンサ用電極パッド125,126,127(
図2参照)と弾性的に接触して電気的に接続している。また、ヒータ用接続端子185,186が、ガスセンサ素子120のヒータ用電極パッド128,129(
図2参照)と弾性的に接触して電気的に接続している。接続体180は、その周囲に配置された概略筒状をなす付勢金具190によって、後述するグロメット191に付勢された状態で、金属外筒103内に保持されている。
【0022】
金属外筒103の基端側内部には、3本のセンサ用リード線193,194,195と2本のヒータ用リード線196,197を内挿するフッ素ゴム製のグロメット191が配設されている。センサ用リード線193,194,195は、その先端側がセンサ用接続端子182,183,184に加締められた状態で接続体180内に内挿され、電気的に接続している。また、ヒータ用リード線196,197も、その先端側がヒータ用接続端子185,186に加締められた状態で接続体180内に内挿され、電気的に接続している。センサ用リード線193は、センサ用接続端子182を介して、ガスセンサ素子120のIp電極パッド125(
図2参照)に接続され、センサ用リード線194は、センサ用接続端子183を介して、ガスセンサ素子120のCOM電極パッド126(
図2参照)に接続される。また、センサ用リード線195は、センサ用接続端子184を介して、ガスセンサ素子120のVs電極パッド127(
図2参照)に接続される。
【0023】
B.ガスセンサ素子の構成:
図2は、ガスセンサ素子120の分解斜視図である。ガスセンサ素子120は、軸線方向(
図2では左右方向)に延びる板状のセンサセル130と、同じく軸線方向に延びる板状のヒータ160とが積層されることにより構成されている。センサセル130とヒータ160とは一体焼成されている。なお、
図2においては、図中左側が
図1における先端側、図中右側が基端側に対応する。
【0024】
センサセル130は、それぞれ板状をなす保護層131、ポンプセル139、スペーサ145、起電力セル154が、この順番で第1板面120a側から第2板面120b側に向かって積層されることで構成されている。
【0025】
保護層131は、アルミナを主体に形成されている。この保護層131の先端部には、多孔質体132が埋設されている。ガスセンサ素子120の第1板面120aをなす保護層131の第1面131aには、その基端近傍に、3つのセンサ用電極パッドとして、Ip電極パッド125、COM電極パッド126、Vs電極パッド127が軸線方向と直交する方向に所定間隔に並んで形成されている。Ip電極パッド125、COM電極パッド126、Vs電極パッド127は、保護層131の基端近傍に貫通形成された3つのビア導体133,134,135と、それぞれ図中に破線で示すように電気的に接続している。
【0026】
ポンプセル139は、ジルコニアを主体に形成された固体電解質層137、後述する第1電極部138及び第2電極部140とから主に構成される。この固体電解質層137の基端近傍には、2つのビア導体142,143が貫通形成されている。これらのビア導体142,143は、上記保護層131に貫通形成されたビア導体134,135と電気的に接続している。
【0027】
固体電解質層137の第1面137a(図中上方)には、白金(Pt)を主体とし多孔質で長方形状をなす第1電極部138が形成されている。この第1電極部138は、上記保護層131に貫通形成されたビア導体133と電気的に接続している。そのため、第1電極部138は、ビア導体133を通じて、Ip電極パッド125と導通している。第1電極部138は、保護層131に埋設された多孔質体132を通じて、排気ガスに晒される。
【0028】
固体電解質層137の第2面137b(図中下方)にも、Ptを主体とし多孔質で長方形状をなす第2電極部140が形成されている。この第2電極部140は、固体電解質層137に貫通形成されたビア導体142に電気的に接続されている。そのため、第2電極部140は、ビア導体142およびビア導体134を通じて、COM電極パッド126に導通している。
【0029】
スペーサ145は、アルミナを主体に形成され、先端部に長方形状の開口を有する。この開口は、スペーサ145がポンプセル139と起電力セル154との間に挟まれて積層されることによってガス検出室145cを構成する。ガス検出室145cの両側壁の一部は、ガス検出室145c内と外部との間の通気を確保する多孔質体146によって構成されている。この多孔質体146は、多孔質のアルミナから形成されている。スペーサ145の基端近傍には、2つのビア導体147,148が貫通形成されている。ビア導体147は、上記第2電極部140と電気的に接続している。また、ビア導体148は、上記固体電解質層137に貫通形成されたビア導体143と電気的に接続している。
【0030】
起電力セル154は、ジルコニアを主体に形成された固体電解質層150、後述する第3電極部151及び第4電極部153とから主に構成される。この固体電解質層150の基端近傍には、ビア導体155が貫通形成されている。このビア導体155は、上記スペーサ145に貫通形成されたビア導体148と電気的に接続している。
【0031】
固体電解質層150の第1面150a(図中上方)には、Ptを主体とし多孔質で長方形状をなす第3電極部151が形成されている。この第3電極部151は、上記スペーサ145に貫通形成されたビア導体147に電気的に接続している。そのため、第3電極部151は、ビア導体147、第2電極部140、ビア導体142、ビア導体134を通じて、COM電極パッド126に導通している。つまり、COM電極パッド126に共通して接続された第3電極部151と第2電極部140とは、電気的に同じ電位となる。
【0032】
固体電解質層150の第2面150b(図中下方)にも、Ptを主体とし多孔質で長方形状をなす第4電極部153が形成されている。この第4電極部153は、上記固体電解質層150に貫通形成されたビア導体155に電気的に接続している。そのため、第4電極部153は、ビア導体155、ビア導体148、ビア導体143、ビア導体135を通じて、Vs電極パッド127に導通している。
【0033】
ヒータ160は、それぞれ板状をなしアルミナを主成分とした第1セラミック基体161と第2セラミック基体162とを備える。第1セラミック基体161は第1板面120a側に配置され、第2セラミック基体162は第2板面120b側に配置されている。第1セラミック基体161と第2セラミック基体162との間には、発熱抵抗体163が配設されている。
【0034】
図3は、発熱抵抗体の構成を示す説明図である。発熱抵抗体163は、主成分として貴金属を含み、更に、第1セラミック基体161および第2セラミック基体162を構成するセラミックと同種のセラミック成分を含んでいる。発熱抵抗体163に用いる貴金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)の群から選ばれる1種以上の金属又はその合金(例えば、Pt−Pd合金、Pt−Rh合金、Pt−Pd−Rh合金)を採用することができる。発熱抵抗体163は、発熱部168とリード部164,165とを備える。発熱部168は、発熱抵抗体163の中で主として発熱する部分であり、蛇行した形状の電路によって形成されている。発熱部168は、軸線方向の先端側に配置されている。リード部164,165は、発熱部168の両端にそれぞれ電気的に繋がり、基端側に向けて直線状に延びる電路である。
【0035】
第2セラミック基体162(
図2参照)の基端近傍には、2つのビア導体166,167が貫通形成されている。更に、ガスセンサ素子120の第2板面120bをなす第2面162bには、その基端近傍に、前述の2つのヒータ用電極パッド128,129が軸線方向と直交する方向に並んで形成されている。このうちヒータ用電極パッド128は、ビア導体166を介して、リード部164と電気的に接続している。また、ヒータ用電極129パッドは、ビア導体167を介して、リード部165と電気的に接続している。ヒータ用電極パッド128またはヒータ用電極パッド129からリード部164,165を通じて電圧が印加されると、発熱部168が発熱する。
【0036】
本実施形態では、発熱部168の抵抗値R1とリード部164,165の抵抗値R2の合計R3(=R1+R2)に対する、発熱部168の抵抗値R1の割合(発熱抵抗比)が、76〜95%である。発熱部168の厚みは1〜6μmであり、好ましくは、1〜4μmである。発熱部168のセラミック含有率は、好ましくは10〜35体積%である。発熱部168の厚みは、好ましくは、リード部164,165の厚みの50%以下である。なお、発熱抵抗比、発熱部168の厚み、および、発熱部168のセラミック含有率をこれらの値に設定した根拠については、後述する性能評価試験の結果に基づいて説明する。
【0037】
発熱部168は、例えば、特開2013−96888に記載された手法によって形成することができる。この手法では、まず、印刷用ペーストが用意される。印刷用ペーストは、貴金属と、セラミック粒子と、バインダーと、溶剤とを含む。バインダーとしては、例えば、エチルセルロース(例えば、日進化成工業社製のエトセル(登録商標))、ポリビニルブチラール(例えば、積水化学社製の商品名BH−S)、酢酸セルロース、アルキド、フェノール、アクリル、エポキシ、ポリウレタンなどの粘度が150Pa・S以上の高重合度バインダーを使用することができる。また、溶剤としては、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオール、エチルカルビトールアセテートの単体または混合溶剤が使用される。これらのバインダーおよび溶剤を用いれば、貴金属およびセラミック粒子からなる固形分の比率を、30〜70重量%に調整することができる。このような印刷用ペーストが用意されると、続いて、発熱部168の蛇行した形状がくり抜かれたメタルマスクの上からそのペーストが対象物(第1セラミック基体161または第2セラミック基体162)に印刷される。上記のように、高重合度バインダーを用いれば、印刷用ペーストへの溶剤比率を高めることができるので、印刷用ペーストを対象物に対して薄く塗ることが可能になる。そして、印刷したペーストが乾燥させられ、所定温度で焼成されると、薄膜化された発熱部168が形成される。なお、発熱部168は、ここで示した形成方法以外にも、例えば、高メッシュのスクリーンマスク印刷や、タンポ印刷、メッキ工法、インクジェット工法などによっても形成することが可能である。
【0038】
以上のように構成されたガスセンサ100の動作を参考までに説明する。ガスセンサ100の使用時には、まず、ヒータ160を所定温度(例えば、700〜800℃)に加熱してセンサセル130を活性化させ、更に、Vs電極パッド127を通じて起電力セル154に微少電流Icp(概ね15μA)を流して、第4電極部153を酸素基準室として機能させる。この状態において、ガス検出室145c内の雰囲気が、理論空燃比に保たれるとき、酸素濃度がほぼ一定に保たれている酸素基準室と起電力セル154との間には、450mVの電圧が発生する。そこで、公知の電気回路を用いて、起電力セル154の電圧Vsが450mVになるようにポンプセル137に流す電流Ipを適時調整して、ガス検出室145c内の雰囲気を理論空燃比に保つ制御を行う。このように、ガスセンサ100を動作させれば、ガス検出室145c内を理論空燃比に保つための電流Ipの値に基づいて、排気ガス中の酸素の濃度を測定することが可能になる。
【0039】
以上で説明した本実施形態のガスセンサ100によれば、消費電力の低減、すなわちリード部164,165での発熱の低減のために発熱抵抗比を76〜95%と比較的高くしても、発熱部の厚みが1〜6μm(好ましくは、1〜4μm)と比較的薄いために、セラミック基体と発熱抵抗体とに熱膨張率の差に起因する応力が発生することを抑制することができる。よって、ガスセンサ100(ヒータ160)の消費電力を低減させることが可能になり、更に、ヒータ160の熱衝撃に対する耐久性(熱衝撃耐性)を向上させることができる。なお、本実施形態では、発熱部168の厚みを、リード部164,165の厚みの50%以下としたため、発熱部168の厚みが薄くなる。よって、このことからも、セラミック基体と発熱抵抗体とに熱膨張率の差に起因する応力が発生することを抑制することができるので、ヒータ160の熱衝撃耐性を向上させることができる。
【0040】
また、本実施形態のガスセンサ100によれば、発熱部168のセラミック含有率を10〜35体積%としたため、発熱部168とセラミック基体161,162との密着性を向上させつつ、発熱部168から貴金属が昇華して耐久性が低下してしまうことを抑制することができる。
【0041】
C.性能評価試験:
表1には、ガスセンサ100に対して性能評価試験を行った結果を示した。この評価試験では、発熱抵抗比と、発熱部168のセラミック含有率と、発熱部168の厚みと、を様々な条件に変化させたガスセンサ100のサンプルを各条件について10本ずつ用意し、それぞれの条件のサンプルについて熱衝撃耐性と消費電力と耐久性とを評価した。表1に示した試験結果では、各サンプルのセラミック含有率を20体積%に固定し、発熱抵抗比と発熱部168の厚みとを様々な値に変化させている。なお、発熱抵抗比は、ガスセンサ素子120の第2セラミック基体162にミニター等で穴をあけ、発熱部168とリード部164,165の抵抗値を測定して算出することができる。また、発熱部168の厚みは、発熱部168の断面を研磨し、その断面をSEMによって観察することで測定することができる。また、セラミック含有量は、発熱部168の断面を研磨し、その断面をSEMによって画像解析することで測定することができる。
【0043】
熱衝撃耐性については、ガスセンサ100に、定格電圧の1.5倍の電圧(例えば、21V)を印加して、ヒータ160を1000℃まで加熱して、その後冷却するサイクルを10000サイクルまで繰り返し、その間に、発熱部168とセラミック基体161,162とに剥離やクラックが生じたか否かを判定することによって評価した。表1において、「×」は、100サイクル以内に1本以上、剥離やクラックが生じたことを示している。「△」は、100サイクルでは全数OKだが、1000サイクル以内に1本以上、剥離やクラックが生じたことを示している。「○」は、1000サイクルでは全数OKだが、10000サイクル以内に1本以上、剥離やクラックが生じたことを示している。「◎」は、10000サイクルの間で、剥離やクラックが10本全てについて生じなかったことを示している。
【0044】
消費電力については、サンプルNo.1のガスセンサ100の温度が800℃になるように通常の制御を行った場合の消費電力を基準として、各条件のサンプルの消費電力を測定することで評価を行った。「△」は、サンプルNo.1のガスセンサ100に対して、消費電力の改善率が10本すべてについて30%未満であったことを示し、「○」は、消費電力の改善率が10本すべてについて30%以上であったことを示している。
【0045】
耐久性については、ガスセンサ100が、その定格温度(例えば、800℃)になるように、ヒータ160に電圧を印加し、500時間以内に断線が生じるか否かを判定することにより評価を行った。「×」は、500時間以内に10本中、1本でも断線が生じたことを示している。「○」は、500時間以内に10本全てについて断線が生じなかったことを示している。
【0046】
表1に示したサンプルNo.1〜3,8〜10の評価結果によれば、発熱抵抗比は、76%以上であれば消費電力が改善するが、発熱部168の厚みが厚いまま(8μm)だと、発熱抵抗比が高くなるにつれ、熱衝撃耐性が悪化していることがわかる。特に、サンプルNo.10のように、発熱抵抗比が97%まで高くなると、熱衝撃耐性や耐久性の評価が最も低くなった。これは、発熱部168の先端に発熱が集中して剥離やクラックが発生しているからだと考えられる。
【0047】
また、発熱抵抗比が80%の場合において、発熱部168の厚みを検討すると、サンプルNo.4のように、発熱部168の厚みが0.7μmの場合には、耐久性の評価が低くなった。これは、発熱部168が薄すぎるために、発熱部168中の貴金属が昇華し、断線が生じたためだと考えられる。更に、サンプルNo.8のように、発熱部168の厚みが8μmの場合には、熱衝撃耐性の評価が低くなった。これは、発熱部168の厚みが厚すぎるために、発熱部168の応力が大きくなり、発熱部168とセラミック基体161,162の間に剥離やクラックが生じたからだと考えられる。
【0048】
以上で説明したように、表1に示した熱衝撃耐性、消費電力、および、耐久性の評価結果によれば、発熱抵抗比は、76〜95%が好ましいことが確認された。また、発熱部168の厚みは、1〜6μmが好ましく、1〜4μmがより好ましいことが確認された。
【0049】
表2には、発熱抵抗比と発熱部168の厚みとを、表1において確認された好ましい値にそれぞれ固定した上で(発熱抵抗比80%、厚み4μm)、発熱部168のセラミック含有率を様々に変化させたサンプルの評価結果を示している。
【0051】
表2に示した評価結果によれば、発熱部168のセラミックの含有量が少ないサンプルNo.11については、熱衝撃耐性が低かった。これは、発熱部168とセラミック基体161,162との密着性が不足するためだと考えられる。逆に、セラミックの含有量が多すぎる場合(35体積%を超える場合)には、表2には示されていないが、発熱部168内において貴金属同士のつながりが悪化し、導電性が不足することで、発熱性能が低下することになる。
【0052】
以上で説明したように、表2に示した熱衝撃耐性、消費電力、および、耐久性の評価結果によれば、発熱部168のセラミック含有量は、10〜35体積%が好ましいことが確認された。
【0053】
D.他の実施形態:
上記実施形態のヒータ160は、全領域空燃比センサとして構成したガスセンサ100に限らず、ジルコニア酸素センサや、NOxセンサなど、他の種々のセンサに適用することができる。
【0054】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。