(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227304
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】オルニチン又はその塩由来の異風味マスキング方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/20 20160101AFI20171030BHJP
【FI】
A23L5/20
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-140636(P2013-140636)
(22)【出願日】2013年7月4日
(65)【公開番号】特開2015-12819(P2015-12819A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2015年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002447
【氏名又は名称】キリン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391058381
【氏名又は名称】キリンビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(72)【発明者】
【氏名】西岡 晶子
(72)【発明者】
【氏名】若林 英行
(72)【発明者】
【氏名】小泉 英樹
【審査官】
高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−235512(JP,A)
【文献】
特開平02−128670(JP,A)
【文献】
特開平03−047829(JP,A)
【文献】
特表2007−507509(JP,A)
【文献】
特表2007−534766(JP,A)
【文献】
特開昭64−023851(JP,A)
【文献】
特開2011−115100(JP,A)
【文献】
特許第4785750(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルニチン又はその塩を含有させた容器詰め飲料において、オルニチンとして100重量部のオルニチン又はその塩に対して、0.5〜25重量部の割合で、バニリン、エチルバニリン、及び、メチルバニリンからなるバニリン類の1乃至2以上を配合し、かつ、前記容器詰め飲料全量に対する前記バニリン類の含有量を0.01重量%以下に調整することを特徴とする、オルニチン又はその塩を含有させた容器詰め飲料におけるオルニチン又はその塩由来の異風味をマスキングする方法。
【請求項2】
健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた容器詰め飲料において、オルニチンとして100重量部の該オルニチン又はその塩に対して、0.5〜25重量部の割合で、バニリン、エチルバニリン、及び、メチルバニリンからなるバニリン類の1乃至2以上を配合し、かつ、前記容器詰め飲料全量に対する前記バニリン類の含有量を0.01重量%以下に調整することを特徴とする、健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた容器詰め飲料におけるオルニチン又はその塩由来の異風味をマスキングする方法。
【請求項3】
健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた容器詰め飲料の製造において、オルニチンとして100重量部の該オルニチン又はその塩に対して、0.5〜25重量部の割合で、バニリン、エチルバニリン、及び、メチルバニリンからなるバニリン類の1乃至2以上を配合し、かつ、前記容器詰め飲料全量に対する前記バニリン類の含有量を0.01重量%以下に調整することを特徴とするオルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた容器詰め飲料の製造方法。
【請求項4】
オルニチン又はその塩を含有させた容器詰め飲料が、容器詰め飲料全量に対して、オルニチン又はその塩を、オルニチンとして0.002重量%以上5重量%以下含み、バニリン類を0.0005重量%以上0.01重量%以下含むことを特徴とする請求項3に記載のオルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた容器詰め飲料の製造方法。
【請求項5】
容器詰め飲料が、健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた容器詰め飲料であることを特徴とする請求項3又は4に記載のオルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた容器詰め飲料の製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の容器詰め飲料の製造方法によって製造されたオルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた容器詰め飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品等の組成物において、オルニチン又はその塩を健康機能成分等の目的から添加した場合に問題となるオルニチン又はその塩由来の特有の異風味をマスキングする方法に関する。すなわち、オルニチン又はその塩を健康機能成分として含有する飲食品等の組成物において、オルニチン又はその塩を経口摂取する際に感じられる特有の臭み(炊飯米様の生臭さ)である異風味をマスキングすることにより、香味に優れた飲食品等を提供する方法に関する。特に、本発明はオルニチン又はその塩を添加、含有させ、健康機能を付与した容器詰め飲料等において、オルニチン又はその塩由来の異風味を効果的にマスキングして、香味に優れた容器詰め飲料等を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
オルニチン(2,5−ジアミノペンタン酸)は、アミノ酸の一種であり、尿素カイロを構成する物質のひとつである。オルニチンは、様々な健康機能を有することが知られている。例えば、抗疲労効果(特許文献1)、血中アルコール濃度低減効果(特許文献2)、睡眠改善の効果(特許文献3)、血流改善効果(特許文献4)、筋肉量増加効果(特許文献5)、アルコール性疲労改善効果(特許文献6)、持久力向上効果(特許文献7)、疲労臭抑制効果(特許文献8)等様々な生理機能が知られており、該成分を各種飲食品に添加して、或いは、通常は、錠剤化することにより健康食品等として利用に供されてきた。
【0003】
しかし、オルニチンには、経口摂取する際に感じられる特有の異風味があるため、オルニチンを配合した飲食品等として提供する場合には、そのオルニチン由来の異風味が影響して、飲食品本来の香味が損なわれるという問題があった。特に、容器詰め飲料等の飲料においてはその繊細な味覚が重要となることから、健康機能の付与の目的から、オルニチンやその塩を飲料の製造において添加する場合には、オルニチンやその塩由来の異風味の影響に細心の注意を払う必要があった。
【0004】
従来より、オルニチン等のアミノ酸やペプチドを含有させた飲食品等の組成物においては、オルニチン等のアミノ酸やペプチドに由来する異風味を低減する方法が開示されている。例えば、特許文献9には、イソロイシンや、ロイシン、リジン、オルニチン等のアミノ酸と、糖類とを褐変反応のない条件下で含有させ、かつ、カカオ或いはコーヒー風味を付与させて苦味に対する抵抗感を低減させた飲食品組成物が、特許文献10には、キサンタンガム、グアーガムのような増粘剤と、ポリ−γ−グルタミン酸とを含有させたアミノ酸の苦みの抑制方法が開示されている。これらは、オルニチン等のアミノ酸を飲食品組成物に含有させた場合に問題となる異風味を低減する方法に関わるものであるが、該方法は、オルニチンや、その塩を飲食品組成物中に含有させた場合に問題となる特有の異風味の問題を解消するというものではない。
【0005】
一方で、飲食品や医療製品、或いは香水等の多くの適用分野でフレーバー及び/又は香料として広く使用されている生成物として、バニリン類が知られている。バニリン類は、バニラの香りの主要な成分であるバニリン(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンズアルデヒド)及び、バニリンの類縁体であるエチルバニリン(3−エトキシ−4−ヒドロキシベンズアルデヒド)や、メチルバニリン(3,4−ジメトキシベンズアルデヒド)などからなり、同様にバニラの香りを持っている。バニリンの製造は、バニラ豆のさやからの抽出のような植物原料からの抽出や、合成法、或いは、微生物を用いた製造法等各種の製造法が知られているが(特許文献11)、結晶粉末形態等で市販もされている。
【0006】
バニリンは多くの適用分野で、フレーバー及び/又は香料として、各種の方法で使用されている(特許文献12)。例えば、特許文献13には、衛生シート等に用いる、β−サイクロデキストリン包接香料と吸着性粉体とを含有させた異臭抑制用の組成物が開示されており、かかる組成物に用いる異臭のマスキング作用を有している香料の1つとして、バニリンが列挙されている。また、特許文献14には、グルクロノラクトン及び/又はグルクロン酸を配合した組成物の不快な味を改善した経口用組成物が開示されており、該不快な味を改善するために用いる化合物として列挙されている化合物の1つとして、エチルバニリンが記載されている。
【0007】
また、バニリンを、飲食品等における不快臭の低減に用いる方法も開示されている。例えば、特許文献15には、チアミン又はその塩を配合した飲料組成物において、チアミン類に固有の経時的な不快臭を低減するために、多価フェノール化合物及びアルデヒド系化合物を配合する方法が開示されており、該アルデヒド系化合物として、バニリンが例示されている。更に、特許文献16には、畜肉臭のマスキング剤として、バニリンと、メース、ガーリック、タイム、シナモン及びペパーミント等の香辛料を配合した組成物が開示されている。
【0008】
このように、バニリン類は、フレーバー及び/又は香料として、各種分野において、不快臭の低減や、改善のための組成物の成分の一つとして用いられているが、該成分をオルニチンのような成分の異風味の改善に用いた例は開示されておらず、ましてや、バニリン類が、飲食品組成物の本来の味覚をそこなうことなく、オルニチン又はその塩を経口摂取する際に感じられる特有の異風味を効果的にマスキングすることができることについては、何も知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2004/078171号パンフレット。
【特許文献2】国際公開第2007/023931号パンフレット。
【特許文献3】特開2006−342148号公報。
【特許文献4】国際公開第2007/049628号パンフレット。
【特許文献5】国際公開第2007/077995号パンフレット。
【特許文献6】特開2011−105698号公報。
【特許文献7】特開2011−132174号公報。
【特許文献8】特開2012−144458号公報。
【特許文献9】特公平3−47829号公報。
【特許文献10】特開2009−118743号公報。
【特許文献11】特表2000−512483号公報。
【特許文献12】特表2012−506399号公報。
【特許文献13】特開平9−299464号公報。
【特許文献14】特開2007−153833号公報。
【特許文献15】特開2004−305088号公報。
【特許文献16】国際公開第2006/062174号パンフレット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、飲食品等の組成物において、オルニチン又はその塩を健康機能成分等の目的から添加した場合に問題となるオルニチン又はその塩由来の特有の異風味をマスキングする方法、及び、該方法を用い、オルニチン又はその塩を経口摂取する際に感じられる特有の異風味をマスキングすることにより、香味に優れた飲食品等の組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、オルニチン又はその塩を健康機能成分等の目的から添加した場合に問題となる、オルニチン又はその塩を経口摂取する際に感じられる特有の異風味をマスキングする方法について鋭意検討する中で、オルニチン又はその塩とバニリン類とを特定の割合で配合することにより、オルニチン又はその塩に由来する特有の異風味を効果的にマスキングすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の課題の解決において、オルニチンの持つ独特の異風味を低減するために、従来の柑橘系等の香料を用いることにより、特有の異風味のマスキングを試みたが、該香料で、オルニチンの口に含んだ際の異風味低減に多少の効果は見られたが、飲用後の戻り香と残存する呈味のマスキング等、効果的なマスキング効果は得られず、これに対して、バニリン類を特定割合で配合することにより、嗅覚で認識されるオルニチンの異風味に対して、特に顕著なマスキング効果を得ることができることを見出した。
【0012】
本発明においては、飲食品の製造において、該オルニチン又はその塩に由来する特有の異風味のマスキング方法を用い、前記オルニチン及びその塩のオルニチンの、オルニチンとしての合計濃度(オルニチン換算の合計濃度)と、前記バニリン類の合計濃度とを特定範囲の比で配合することにより、オルニチンの持つ健康機能を具備し、しかも、飲食品組成物の本来の味覚をそこなうことなく、オルニチン又はその塩を経口摂取する際に感じられる特有の異風味を改善した味覚に優れた飲食品組成物等を提供する。
【0013】
すなわち、本発明は、オルニチンとして100重量部のオルニチン又はその塩に対して、0.5〜25重量部の割合で、バニリン、エチルバニリン、及び、メチルバニリンからなるバニリン類の1乃至2以上を配合することを特徴とする、オルニチン又はその塩由来の異風味をマスキングする方法からなる。また、本発明は、健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた飲食品組成物において、オルニチンとして100重量部の該オルニチン又はその塩に対して、0.5〜25重量部の割合で、バニリン、エチルバニリン、及び、メチルバニリンからなるバニリン類の1乃至2以上を配合することを特徴とする健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた飲食品組成物におけるオルニチン又はその塩由来の異風味をマスキングする方法からなる。
【0014】
更に、本発明は、健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた飲食品組成物の製造において、オルニチンとして100重量部の該オルニチン又はその塩に対して、0.5〜25重量部の割合で、バニリン、エチルバニリン、及び、メチルバニリンからなるバニリン類の1乃至2以上を配合することを特徴とするオルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた飲食品組成物の製造方法からなる。本発明のオルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた飲食品組成物の製造方法における、飲食品組成物中におけるオルニチン又はその塩の配合量は、飲食品組成物全量に対して、オルニチンとして0.002重量%以上5重量%以下を採用することができ、バニリン類の配合量は、飲食品組成物全量に対して0.0005重量%以上0.025重量%以下を採用することができる。本発明のオルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた飲食品組成物の製造方法における飲食品組成物としては、健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた容器詰め飲料を好ましく挙げることができる。かかる製造方法により、健康機能を具備し、しかも、オルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた高香味の容器詰め飲料を提供することができる。
【0015】
本発明の飲食品組成物は、本発明のオルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた飲食品組成物の製造方法によって製造されたオルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた飲食品組成物である。
【0016】
すなわち、具体的には本発明は、(1)オルニチンとして100重量部のオルニチン又はその塩に対して、0.5〜25重量部の割合で、バニリン、エチルバニリン、及び、メチルバニリンからなるバニリン類の1乃至2以上を配合することを特徴とする、オルニチン又はその塩由来の異風味をマスキングする方法や、(2)健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた飲食品組成物において、オルニチンとして100重量部の該オルニチン又はその塩に対して、0.5〜25重量部の割合で、バニリン、エチルバニリン、及び、メチルバニリンからなるバニリン類の1乃至2以上を配合することを特徴とする健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた飲食品組成物におけるオルニチン又はその塩由来の異風味をマスキングする方法からなる。
【0017】
また、本発明は、(3)健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた飲食品組成物の製造において、オルニチンとして100重量部の該オルニチン又はその塩に対して、0.5〜25重量部の割合で、バニリン、エチルバニリン、及び、メチルバニリンからなるバニリン類の1乃至2以上を配合することを特徴とするオルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた飲食品組成物の製造方法や、(4)オルニチン又はその塩を含有させた飲食品組成物が、飲食品組成物全量に対して、オルニチン又はその塩を、オルニチンとして0.002重量%以上5重量%以下含み、バニリン類を0.0005重量%以上0.025重量%以下含むことを特徴とする上記(3)に記載のオルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた飲食品組成物の製造方法や、(5)飲食品組成物が、健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた容器詰め飲料であることを特徴とする上記(3)又は(4)に記載のオルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた飲食品組成物の製造方法や、(6)上記(3)〜(5)のいずれかに記載の飲食品組成物の製造方法によって製造されたオルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた飲食品組成物からなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、飲食品等の組成物において、オルニチン又はその塩を健康機能成分等の目的から添加した場合に問題となるオルニチン又はその塩由来の特有の異風味をマスキングする方法、及び、該方法を用い、オルニチン又はその塩を経口摂取する際に感じられる特有の異風味をマスキングすることにより、香味に優れた飲食品等の組成物を提供することができる。本発明のオルニチン又はその塩由来の特有の異風味をマスキングする方法は、飲食品組成物(特に、容器詰め飲料)の製造に適用して、オルニチン又はその塩の健康機能を具備し、しかも、オルニチン又はその塩由来の異風味をマスキングした味覚に優れた飲食品組成物(特に、容器詰め飲料)を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、オルニチンとして100重量部のオルニチン又はその塩に対して、0.5〜25重量部の割合で、バニリン、エチルバニリン、及び、メチルバニリンからなるバニリン類の1乃至2以上を配合することを特徴とする、オルニチン又はその塩由来の異風味をマスキングする方法や、健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた飲食品組成物において、オルニチンとして100重量部の該オルニチン又はその塩に対して、0.5〜25重量部の割合で、バニリン、エチルバニリン、及び、メチルバニリンからなるバニリン類の1乃至2以上を配合することを特徴とする健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた飲食品組成物におけるオルニチン又はその塩由来の異風味をマスキングする方法や、健康機能成分としてオルニチン又はその塩を含有させた飲食品組成物の製造において、オルニチンとして100重量部の該オルニチン又はその塩に対して、0.5〜25重量部の割合で、バニリン、エチルバニリン、及び、メチルバニリンからなるバニリン類の1乃至2以上を配合することを特徴とするオルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた飲食品組成物の製造方法からなる。
【0020】
本発明で用いられるオルニチンとしては、L−オルニチン及びD−オルニチンが挙げられる。オルニチンは、発酵生産する方法、素材から抽出する方法等公知の製造方法により、製造し、取得することができる。また、オルニチンは、市販品を購入することにより取得することもできる。L−オルニチンを発酵生産する方法としては、例えば、特開昭53−24096号公報、及び特開昭61−119194号公報に記載の方法を挙げることができる。また、L−オルニチン及びD−オルニチンは、市販のもの(シグマ−アルドリッチ社等)を購入することもできる。
【0021】
オルニチンの塩としては、酸付加塩、金属塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。該酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、α−ケトグルタル酸塩、グルコン酸塩、カプリル酸塩等の有機酸塩が挙げられる。該金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等があげられる。また、アミノ酸付加塩としては、グリシン、フェニルアラニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の塩が挙げられる。該オルニチンの塩のうち、塩酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、α−ケトグルタル酸塩、アスパラギン酸塩が好ましく用いられるが、他の塩、又は2以上の塩を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明で用いられるバニリン類としては、バニリン、エチルバニリン、メチルバニリン等が挙げられる。バニリン類は、サフロール、オイゲノール、リグニンスルホン酸、グアイアコールから選択されるいずれかの化合物を原料として化学合成する方法や、バニラ豆、安息香等の天然物から抽出する方法などにより取得することができる。また、バニリン類は、市販品を購入することにより取得することもできる。かかる市販品には、バニリン類を香料として含有する市販品も含まれる。
【0023】
本発明において、オルニチン及びその塩と、バニリン類との配合比は、オルニチンとして100重量部のオルニチン又はその塩に対して、バニリン類0.5〜25重量部の割合、好ましくはバニリン類1〜10重量部の割合で、配合することができる。該バニリン類としては、バニリン、エチルバニリン、及び、メチルバニリンからなるバニリン類の1乃至2以上が選択される。本発明の飲食品組成物において、該飲食品組成物中に含有させるオルニチン又はその塩の合計濃度は、飲食品の本来の味覚をそこなわないことなどを考慮して適宜決定することができるが、該オルニチン又はその塩に対して、バニリン類を本発明で特定する割合で配合することにより、飲食品組成物のオルニチン又はその塩由来の異風味を効果的にマスキングすることができる。
【0024】
本発明のオルニチン又はその塩由来の異風味マスキング方法を、飲食品組成物の製造に適用して、オルニチン又はその塩を含有させた飲食品組成物を製造する場合や、本発明の飲食品組成物の製造方法により飲食品組成物を製造する場合には、例えば飲食品組成物の原材料にオルニチン又はその塩を、飲食品組成物全量に対して、オルニチンとして0.002重量%以上5重量%以下(好ましくは0.01重量%以上1重量%以下)含有させ、バニリン類を飲食品組成物全量に対して0.0005重量%以上0.025重量%以下(好ましくは0.001重量%以上0.01重量%以下)含有させることで、オルニチン又はその塩由来の異風味がマスキングされた飲食品組成物を製造することができる。
【0025】
本発明の飲食品組成物において、該飲食品組成物中に含有させるオルニチン又はその塩の合計濃度は、飲食品の本来の味覚をそこなわないことなどを考慮して適宜決定することができるが、該オルニチン又はその塩に対して、バニリン類を本発明で特定する割合で配合することにより、飲食品組成物のオルニチン又はその塩由来の異風味を効果的にマスキングすることができる。
【0026】
本発明の飲食品組成物は、飲食品組成物中に、オルニチン又はその塩と、バニリン類を特定割合で配合して、含有させる点を除いて、公知の飲食品組成物と変わるところはなく、その製造に際しては、一般に飲食品の製造に用いられる添加剤、例えば甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物等を用いることができる。
【0027】
本発明の飲食品組成物を用いて製造する飲食品の形態や種類に特に限定はないが、繊細な味覚がより重要となり、本発明の意義がより多く享受し得る観点から、容器詰め飲料を好ましく挙げることができ、かかる容器詰め飲料としては、果汁飲料、炭酸飲料、機能性飲料、スポーツ飲料、ノンアルコール飲料、ビールテイスト飲料等の清涼飲料水や、ビール等のアルコール飲料や、緑茶、紅茶等の茶系飲料や、加工乳、脱脂乳、発酵乳、乳飲料、コーヒー飲料などを挙げることができる。また、上記容器詰め飲料の中でも、酸性飲料を好ましく挙げることができる。本発明の酸性飲料とは、該飲料のpHが2〜5の範囲内、好ましくは2.5〜4.5の範囲内の飲料をいう。
【0028】
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
[オルニチンに対する、バニリンのマスキング効果の検討・評価]
【0030】
<方法>
オルニチンに対する、バニリンのマスキング効果を検討及び評価するために、以下の試験を行った。まず、砂糖及びクエン酸を用いて、糖度10゜Bx、酸度0.160% as C.A.、pH3.5に調整した糖酸液を調製した。この糖酸液に、L−オルニチン L−アスパラギン酸塩(協和発酵バイオ株式会社製)を、オルニチンとして100mg/100g(すなわち1000ppm)となるように配合して、オルニチン溶解液を調製した。このオルニチン溶解液に、バニリンを含む香料を後述の表1に示すとおり添加して、各サンプル液1〜6を作製した。また、前述のオルニチン溶解液自体(バニリン無添加のもの)を基準サンプル液とした。前述のサンプル液1〜6について、10名の酸性飲料専門パネラーが官能評価を実施した。官能評価は、オルニチンに対する、バニリンのマスキング効果の有無及び程度を評価し、具体的には、基準サンプル液におけるオルニチンの異風味を基準としたときに、サンプル液1〜6におけるオルニチンの異風味がマスキングされているかどうか、及びそのマスキングの程度を以下の3段階で評価して行った。
【0031】
×:マスキング効果なし(パネラー中にマスキング効果の実感者なし);
△:効果の傾向あり(パネラー中のマスキング効果の実感者が1人以上4人以下);
○:効果あり(パネラー中のマスキング効果の実感者が5人以上)
【0032】
かかる官能評価の結果を以下の表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1の結果から分かるように、バニリン濃度が最も低いサンプル液1ではマスキング効果が得られなかったが、サンプル液2ではマスキング効果の傾向が認められ、サンプル液3〜6では、マスキング効果が認められた。これらの結果から、オルニチンに対する、バニリンのマスキング効果の傾向を少なくとも得るには、オルニチンとして100重量部のオルニチンに対して、バニリンを0.5重量部以上とすることが必要であり、前述のマスキング効果を得るには、オルニチンとして100重量部のオルニチンに対して、バニリンを1重量部以上とすることが必要であることが示された。
【実施例2】
【0035】
[オルニチンに対する、エチルバニリンのマスキング効果の検討・評価]
【0036】
<方法>
前述の実施例1では、オルニチンに対する、バニリンのマスキング効果について検討及び評価した。今回の試験では、バニリン以外のバニリン類であるエチルバニリンでも同様のマスキング効果が得られるかどうか、及び、オルニチン濃度に対するエチルバニリン濃度の割合をさらに高くすると、どのようになるかについて、検討及び評価するために、以下の試験を行った。
【0037】
実施例1で調製したものと同じオルニチン溶解液を用意した。このオルニチン溶解液に、エチルバニリンを後述の表2に示すとおり添加して、各サンプル液7〜14を作製した。また、前述のオルニチン溶解液自体(エチルバニリン無添加のもの)を基準サンプル液とした。前述のサンプル液7〜14について、実施例1と同じ10名の酸性飲料専門パネラーが同じ基準で官能評価を実施した。かかる官能評価の結果を以下の表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2の結果から分かるように、エチルバニリン濃度が最も低いサンプル液7ではマスキング効果が得られなかったが、サンプル液8ではマスキング効果の傾向が認められ、サンプル液9〜13では、マスキング効果が認められた。これらの結果から、オルニチンに対する、エチルバニリンのマスキング効果の傾向を少なくとも得るには、オルニチンとして100重量部のオルニチンに対して、エチルバニリンを0.5重量部以上とすることが必要であり、前述のマスキング効果を得るには、オルニチンとして100重量部のオルニチンに対して、エチルバニリンを1重量部以上とすることが必要であることが示された。エチルバニリンを用いて得られたかかる割合とマスキング効果とのこのような関係は、バニリンを用いて得られた実施例1における、割合とマスキング効果との関係と同様であった。ただし、エチルバニリン濃度が最も高いサンプル液14では、エチルバニリンの香味が増加し過ぎてサンプル液全体の香味バランスが若干低下したため、△と評価した。
【0040】
実施例1の表1及び実施例2の表2の結果をまとめると、オルニチンに対する、バニリンのマスキング効果又はその傾向を得る観点からは、オルニチンとして100重量部のオルニチンに対してバニリン類を0.5〜25重量部の範囲内とし、前述のマスキング効果を明確に得る観点からは、オルニチンとして100重量部のオルニチンに対してバニリン類を1〜10重量部の範囲内とすることが考えられた。また、バニリン類の濃度は250ppmを超えないこと、より好ましくは100ppm以下とすることが好ましいと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、飲食品等の組成物において、オルニチン又はその塩を健康機能成分等の目的から添加した場合に問題となるオルニチン又はその塩由来の特有の異風味をマスキングする方法、及び、該方法を用い、オルニチン又はその塩を経口摂取する際に感じられる特有の異風味をマスキングすることにより、香味に優れた飲食品等の組成物を提供することができる。本発明のオルニチン又はその塩由来の特有の異風味をマスキングする方法は、飲食品組成物(特に、容器詰め飲料)の製造に適用して、オルニチン又はその塩の健康機能を具備し、しかも、オルニチン又はその塩由来の異風味をマスキングした味覚に優れた飲食品組成物(特に、容器詰め飲料)を提供することができる。