(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2スライダは、前記中間部と前記移動部との間に位置し、前記中間部を前記シリンダ軸直交方向に相対的に移動自在に前記移動部に支持するための前記機械要素の前記スライド部として機能するように構成された請求項5に記載の回転機械。
前記少なくとも一つのピストンは、第1グループに属する一以上の第1ピストンと、前記回転軸を挟んで前記第1グループとは反対側に配置された第2グループに属する一以上の第2ピストンとを含み、
前記移動部は、前記第1グループと前記第2グループとの間に位置し、前記一以上の第1ピストン及び前記一以上の第2ピストンに対して設けられた1個の共有移動部である請求項8に記載の回転機械。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、回転機械のピストンには、ピストンと回転軸との間に設けられるクランク機構やカム機構等の機械要素から、シリンダ軸直交方向の力に起因した荷重(以下、サイドフォースという)がピストンに加わることがある。この場合、ピストン側面とシリンダ壁面との間の円滑な摺動が損なわれ、ピストンの摩擦、摩耗、発熱等の問題が生じうる。
また、回転機械のピストンには、ピストンと回転軸との間に設けられるクランク機構やカム機構等の機械要素からモーメント荷重が加わることがある。この場合においても、ピストン側面とシリンダ壁面との間の円滑な摺動が損なわれ、ピストンの摩擦、摩耗、発熱等の問題が生じうる。
【0006】
この点、特許文献1に記載のXY分離クランク機構では、XY分離クランク機構からピストンに伝わる力は基本的にはシリンダ軸方向に沿った成分のみであり、シリンダ軸直交方向の成分の力はピストンには伝わらないようになっている。そのため、特許文献1に記載のXY分離クランク機構によれば、前述したサイドフォースに起因した問題を解消できるかもしれない。
しかしながら、特許文献1には、XY分離クランク機構からピストンに加わるモーメント荷重に起因した前述の問題への対策は開示も示唆もされていない。
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態の目的は、回転軸とピストンとの間に設けられる機械要素からピストンに加わるサイドフォース及びモーメント荷重を低減しうる回転機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械は、
回転軸と、
少なくとも一つのピストンと、
前記少なくとも一つのピストンをシリンダ軸方向に往復運動可能にそれぞれ案内するための少なくとも一つのシリンダと、
前記少なくとも一つのピストンの前記シリンダ軸方向に沿った往復運動と前記回転軸の回転運動との間で運動モードを変換するように構成された機械要素と、を備え、
前記機械要素が、
前記回転軸の軸方向に対する直交平面内において、前記シリンダ軸方向の第1速度成分とシリンダ軸直交方向の第2速度成分とを合成した速度ベクトルで前記回転軸に連動して移動可能に前記回転機械の静止部に支持された移動部と、
前記少なくとも一つのピストンと前記移動部との間に設けられる中間部と、
前記中間部と前記移動部との間に設けられ、前記移動部に対して相対的に前記シリンダ軸直交方向に移動可能に前記中間部を前記移動部に支持するためのスライド部と、
前記少なくとも一つのピストンと前記中間部との間に設けられ、前記直交平面内における前記少なくとも一つのピストンに対する前記中間部の相対的な傾動を許容するための傾動許容部と、を含む。
【0009】
上記回転機械によれば、回転軸に連動する移動部とピストンとの間に位置する中間部が、スライド部によって、移動部に対してシリンダ軸直交方向に相対的に移動可能に移動部に支持されるため、機械要素からピストンに伝わる力は基本的にはシリンダ軸方向に沿った成分のみである。すなわち、回転軸からピストンに向かって機械要素内を伝わる力はスライド部においてシリンダ軸方向成分とシリンダ軸直交成分とに分離されるので、ピストンには、中間部を介してスライド部からシリンダ軸方向成分の力のみが伝わることになる。したがって、回転軸とピストンとの間に設けられる機械要素からピストンに作用するサイドフォースを低減できる。
また、ピストンからの力が中間部に作用する作用点と、スライド部からの力が中間部に作用する作用点とがシリンダ軸直交方向においてずれているときは、スライド部から中間部に作用するシリンダ軸方向成分と、ピストンから中間部に作用する力とが偶力となって、この偶力により中間部を回転させようとするモーメントが発生する。このような場合であっても、傾動許容部によって、ピストンに対する中間部の相対的な傾動が許容されるので、基本的には、ピストンにモーメント荷重が加わらず、ピストンの往復運動の方向がシリンダ軸方向に平行である状態を維持できる。したがって、回転軸とピストンとの間に設けられる機械要素からピストンに加わるモーメント荷重を低減できる。
上記回転機械によれば、上述のように機械要素からピストンに作用するサイドフォースやモーメント荷重を低減できるので、これらサイドフォースやモーメント荷重に起因する摩擦、摩耗、発熱の発生を抑制することができる。したがって、ピストンのシリンダ軸方向に沿った往復運動と回転軸の回転運動との間の運動モード変換の高効率化及びピストンの長寿命化が図れる。
【0010】
幾つかの実施形態では、前記傾動許容部は、前記中間部に向き合う前記ピストンの第1表面又は前記ピストンに向き合う前記中間部の第2表面に設けられたポケットと、前記ポケットに加圧流体を導入するための流体導入部と、を含む静圧パッドである。
この場合、ピストン又は中間部に設けた静圧パッドのポケット内に加圧流体を導入することで、ポケット内の加圧流体によりピストンを中間部に、又は中間部をピストンに非接触の状態で支持することができる。この際ピストン又は中間部は加圧流体の膜を介して非接触で支持されるので、中間部のピストンに対する相対的な傾動が許容される。
【0011】
幾つかの実施形態では、前記流体導入部は、各々の前記ピストンの内部に設けられ、各々の前記ピストンと各々の前記シリンダにより形成される油圧室と前記ポケットを連通させる連通路を含み、前記加圧流体としての高圧油を前記油圧室から前記ポケットに導入可能に構成される。
回転機械としての油圧機械の場合、油圧作動油である高圧油を油圧室から静圧パッドのポケットに導入可能であるので、ポケットに外部から高圧流体を導入しなくとも効率的に静圧パッドを形成することができる。
また、ピストンの往復運動の1サイクルにおける油圧室内の圧力が高い期間では、中間部に加わるモーメントは比較的大きくなる。一方、ピストンの往復運動の1サイクルにおける油圧室内の圧力が低い期間では、中間部に加わるモーメントはそれほど大きくない。そこで、上述のように、流体導入部として油圧室をポケットに連通させる連通路を設けることで、比較的大きなモーメント荷重がピストンに作用する可能性がある期間(すなわち、油圧室内が高圧の期間)について選択的に、ピストンに対する中間部の相対的な傾動を許容できる。
【0012】
幾つかの実施形態では、前記傾動許容部は、各々の前記ピストン又は前記中間部の一方の端部に設けられた凸球面形状の球面状部と、前記球面状部と係合可能であり、各々の前記ピストン又は前記中間部の他方の端部に設けられた凹球面形状の球面座部と、を含む。
この場合、凸球面形状の球面状部が凹球面形状の球面座部上を滑ることで、ピストンに対する中間部の相対的な傾動が許容される。
【0013】
幾つかの実施形態では、前記ピストンは、少なくとも部分的なクラウン形状の外周面を有する。
ピストンにクラウニング処理を施し、外周面を少なくとも部分的にクラウン形状とすることで、仮に中間部の傾動に伴ってピストンも少なからず傾動してしまう場合であっても、ピストンとシリンダ壁面との接触を防止することができる。
【0014】
幾つかの実施形態では、前記機械要素は、前記移動部と前記静止部との間に設けられる第1スライダ及び第2スライダを含み、前記移動部は、前記第1スライダを介して前記シリンダ軸方向に移動自在に前記静止部に支持され、且つ、前記第2スライダを介して前記シリンダ軸直交方向に移動自在に前記静止部に支持される。
このような構成とすることで、移動部は、回転軸と連動してシリンダ軸方向及びシリンダ軸直交方向に移動可能であるとともに、静止部に支持される。
【0015】
幾つかの実施形態では、前記第2スライダは、前記中間部と前記移動部との間に位置し、前記中間部を前記シリンダ軸直交方向に相対的に移動自在に前記移動部に支持するための前記機械要素の前記スライド部として機能するように構成される。
この構成によれば、シリンダ軸直交方向に相対移動自在に移動部を静止部に支持するための第2スライダを、シリンダ軸直交方向に相対移動自在に中間部を移動部に支持するためのスライダ部として兼用することで、機械要素の構成を簡素化できる。
【0016】
幾つかの実施形態では、前記少なくとも一つのピストンは、前記回転軸の周方向にラジアル状に配列された複数のピストンを含む。
【0017】
幾つかの実施形態では、前記少なくとも一つのピストンは、互いに平行に配置された複数のピストンを含む。
【0018】
幾つかの実施形態では、前記少なくとも一つのピストンは、第1グループに属する一以上の第1ピストンと、前記回転軸を挟んで前記第1グループとは反対側に配置された第2グループに属する一以上の第2ピストンとを含み、前記移動部は、前記第1グループと前記第2グループとの間に位置し、前記一以上の第1ピストン及び前記一以上の第2ピストンに対して設けられた1個の共有移動部である。
回転軸を挟んで両側に配置される2つのピストングループで1つの移動部を共有するので、1つの移動部により、回転軸の回転運動と多くのピストンの往復運動との間での運動モードの変換が可能になる。このため、ピストンのグループごとに移動部を設ける場合に比べて回転機械をコンパクト化することが可能である。
【0019】
前記の実施形態において、前記移動部は、前記回転軸の中心軸に対して偏心した位置に設けられるディスク部材を含み、前記スライド部は、前記第シリンダ軸直交方向に沿って延在し、前記ディスク部材の外周面に摺接するように構成されたパッド部材を含んでもよい。
このように移動部としてのディスク部材の外周面に摺接するパッド部材をスライド部として用いることで、機械要素の構成の簡素化を図ることができる。
また、複数のピストンに対して1個の移動部を共通的に設ける場合、前記複数のピストンが共有する1個のパッド部材(スライド部)を1個のディスク部(移動部)に摺接させれば、機械要素を介して複数のピストンに回転軸から作用する力のシリンダ軸方向成分をピストン間で平準化できる。
【0020】
幾つかの実施形態では、前記機械要素は、前記移動部を前記回転軸に連結するクランクシャフトをさらに含み、前記クランクシャフトは、前記回転軸の中心軸に対して偏心した位置に設けられ、前記移動部が取り付けられるクランクピンを有する。
【0021】
幾つかの実施形態では、前記機械要素は、前記回転軸に取り付けられるカムをさらに含み、前記移動部が、前記カムのカム表面に摺接するように設けられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、回転軸とピストンとの間に設けられる機械要素からピストンに加わるサイドフォース及びモーメント荷重を低減しうる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0025】
以下の実施形態では、回転機械の一例として油圧機械を挙げ、この油圧機械を備えた装置の一例として発電装置について説明する。ただし、本発明は、油圧ポンプや油圧モータ等の油圧機械だけでなく、舶用エンジン、自動車用エンジン、発電用エンジン等の種々のエンジンを含む任意の回転機械にも適用可能である。
【0026】
図1は、一実施形態に係る回転機械を備えた発電装置を示す図である。同図に示すように、発電装置1は、原動機2と、回転シャフト6を介して原動機2に接続される油圧トランスミッション3と、回転シャフト11を介して油圧トランスミッション3に接続される発電機16とを備える。
【0027】
一実施形態では、油圧トランスミッション3は、回転シャフト6を介して原動機2に連結される油圧ポンプ8と、回転シャフト11を介して発電機16に連結される油圧モータ10とを備える。油圧ポンプ8と油圧モータ10とは、高圧油ライン12及び低圧油ライン14を介して互いに接続される。具体的には、油圧ポンプ8の出口が高圧油ライン12を介して油圧モータ10の入口に接続され、油圧ポンプ8の入口が低圧油ライン14を介して油圧モータ10の出口に接続される。油圧ポンプ8は、回転シャフト6によって駆動されて作動油を昇圧し、高圧の作動油(圧油)を生成する。油圧ポンプ8で生成された圧油は高圧油ライン12を介して油圧モータ10に供給され、この圧油によって油圧モータ10が駆動される。油圧モータ10で仕事をした後の低圧の作動油は、油圧モータ10の出口と油圧ポンプ8の入口との間に設けられた低圧油ライン14を経由して、油圧ポンプ8に再び戻される。
【0028】
幾つかの実施形態では、油圧ポンプ8又は油圧モータ10の少なくとも一方は、以下で説明する回転機械である。
【0029】
図2及び
図3は、一実施形態に係る回転機械の構成の概略を示す図である。
【0030】
図2に示す油圧機械20は、回転軸22と、ピストン24と、ピストン24をシリンダ軸方向に往復運動可能に案内するためのシリンダ26と、後述する機械要素30とを備えた回転機械である。機械要素30は、ピストン24のシリンダ軸方向に沿った往復運動と回転軸22の回転運動との間で運動モードを変換するように構成される。
【0031】
ピストン24は、シリンダ26内に摺動可能に設けられる。ピストン24は、シリンダ26によって案内され、シリンダ軸方向に沿って、下死点と上死点との間で往復運動するようになっている。ピストン24の往復運動の結果、ピストン24とシリンダ26とで囲まれた油圧室27の容積は周期的に変化する。
【0032】
油圧機械20は、油圧室27と高圧油ライン12との間に設けられる高圧バルブ28と、油圧室27と低圧油ライン14との間に設けられる低圧バルブ29とをさらに備えていてもよい。油圧機械20が油圧ポンプである場合、低圧バルブ29は低圧油ライン14から油圧室27に低圧の作動油を供給するために用いられ、高圧バルブ28は油圧室27で生成された高圧の作動油を高圧ライン12に供給するために用いられる。一方、油圧機械20が油圧モータである場合、高圧バルブ28は高圧油ライン12から油圧室27に高圧油を供給するために用いられ、低圧バルブ29は仕事をして圧力が低下した作動油を油圧室27から低圧油ライン14に排出するために用いられる。
【0033】
機械要素30は、油圧機械20の静止部21に支持された移動部32と、ピストン24と移動部32との間に設けられる中間部33と、中間部33と移動部32との間に設けられるスライド部34と、ピストン24と中間部33との間に設けられる傾動許容部38とを含む。
【0034】
図2に示す例示的な実施形態では、移動部32は、クランク機構65を介して回転軸22に連結される。クランク機構65は、回転軸22に一端が連結されるクランクアーム64と、クランクアーム64の他端を移動部32に連結するためのクランクピン67とを含む。
クランク機構65を介して回転軸22に連結された移動部32は、回転軸22の軸方向に対する直交平面内において、シリンダ軸方向の第1速度成分V
1とシリンダ軸直交方向の第2速度成分V
2とを合成した速度ベクトルVで回転軸22の回転に連動して移動する。すなわち、回転軸22の回転に伴って、クランクピン67は、軌跡81を描くように、回転軸22の軸中心の周りを移動する。ここで、軌跡81は、半径がクランクアーム64の長さ(回転軸22とクランクピン67との間の距離)の回転軸22を中心とする円である。そのため、クランクピン67に連結された移動部32は、クランクピン67の移動に伴って、回転軸22の軸方向に対する直交平面内において速度ベクトルVで回転軸22の回転に連動して移動することになる。
【0035】
上述した移動部32、中間部33、スライド部34を備える機械要素30により、ピストン24のシリンダ軸方向に沿った往復運動と回転軸22の回転運動との間で運動モードが変換される。
例えば、油圧機械20が油圧ポンプ8である場合、油圧機械20の回転軸22の回転運動が、機械要素30によりピストン24の往復運動に変換され、油圧室27の周期的な容積変化が起こり、油圧室27で高圧の作動油(圧油)が生成される。これに対し、油圧機械20が油圧モータ10である場合、油圧室27への圧油の導入によってピストン24の往復運動が起こり、この往復運動が機械要素30により油圧機械20の回転軸22の回転運動に変換される。
こうして、機械要素30の働きにより、油圧機械20の回転軸22の回転エネルギー(機械的エネルギー)と作動油の流体エネルギーとの間でエネルギーが変換され、油圧機械20が油圧ポンプ8又は油圧モータ10としての所期の役割を果たすようになっている。
【0036】
移動部32は、移動部32と静止部21との間に設けられる第1スライダ35及び第2スライダ36を介して静止部21に支持される。第1スライダ35は移動部32のシリンダ軸方向の自在な移動を可能とし、第2スライダ36は移動部32のシリンダ軸直交方向の自在な移動を可能とする。
このように、第1スライダ35と第2スライダ36により、移動部32は回転軸22の軸方向に対する直交平面内でシリンダ軸方向及びシリンダ軸直交方向に移動可能である。したがって、移動部32は、第1スライダ35と第2スライダ36を介して静止部21に支持されながら、回転軸22の回転に連動して回転軸22の軸方向に対する直交平面内を移動することができる。
【0037】
スライド部34は、移動部32に対して相対的にシリンダ軸直交方向に移動可能に、中間部33を移動部32に支持する。
図2に示す例示的な実施形態では、スライド部34はローラで形成される。他の実施形態では、スライド部34は、例えば後述するパッド部材で形成される。
【0038】
ところで、スライド部34は中間部33を移動部32に、第2スライダ36は移動部32を静止部21に、それぞれシリンダ軸直交方向に移動可能に支持するものである。そこで、
図2に示すように、スライド部34と第2スライダ36の両方の役割を、移動部32と中間部33の間に配置した1つのスライダ部材に担わせることもできる。また、スライド部34と第2スライダ36を別々に設けることもでき、
図3に示す実施形態では、スライド部34は移動部32と中間部33との間に配置され、第2スライダ36は移動部32及び第1スライダ35と静止部21の間に配置される。
【0039】
静止部21は、油圧機械20において固定され静止している部材である。例えば、シリンダ26を囲むシリンダブロックや、シリンダブロックに固定されるように接続された部材を静止部21とすることができる。
【0040】
ピストン24と中間部33の間には、後ほど詳述する傾動許容部38が設けられる。傾動許容部38において、回転軸22の軸方向に対する直交平面内でのピストン24に対する中間部33の相対的な傾動が許容される。
図2に示すように、傾動許容部38のシリンダ軸直交方向の近傍には、ピストン24に対する中間部33の傾動を超えたシリンダ軸直交方向のずれを規制するための規制部39を設けてもよい。
【0041】
上述の機械要素30を備える油圧機械20において、ピストン24に加わるサイドフォース及びモーメント荷重を低減しうる原理を以下に説明する。
【0042】
図4は、サイドフォースの発生原理について説明するための図である。
図4に示すピストンクランク機構は、ピストン24と、回転軸62と、クランクアーム66と、クランクピン67によりクランクアーム66に連結されたコンロッド68を備える一般的なピストンクランク機構である。クランクアーム66は回転軸62の回転に連動して回転軸62を中心として回転し、クランクピン67は前述の軌跡81を描くように運動する。
図4に示すピストンクランク機構を備える油圧機械が油圧ポンプである場合、回転軸62の回転運動が、クランクアーム66及びコンロッド68によりピストン24の往復運動に変換される。また、
図4に示すピストンクランク機構を備える油圧機械が油圧モータである場合は、ピストン24の往復運動が、クランクアーム66及びコンロッド68により回転軸62の回転運動に変換される。
コンロッド68とシリンダ軸とがなす角度がθであるとき、ピストン24がコンロッド68から受ける力のシリンダ軸方向成分をFとすると、ピストン24がコンロッド68から受ける力のシリンダ軸直交方向成分はF/tanθである。このF/tanθの力は、サイドフォースとしてピストン24に作用し、ピストン24とシリンダ壁面との摩耗等の一要因になりえる。
【0043】
図2及び
図3に示す油圧機械20においては、回転軸22に連動する移動部32とピストン24との間に位置する中間部33が、スライド部34によって、移動部32に対してシリンダ軸直交方向に相対的に移動可能に移動部32に支持される。このため、機械要素30からピストン26に伝わる力は基本的にはシリンダ軸方向に沿った成分のみである。すなわち、回転軸22からピストン26に向かって機械要素30内を伝わる力はスライド部34においてシリンダ軸方向成分とシリンダ軸直交成分とに分離されるので、ピストン24には、中間部33を介してスライド部34からシリンダ軸方向成分の力のみが伝わることになる。したがって、回転軸22とピストン24との間に設けられる機械要素30からピストン24に作用するサイドフォースを低減できる。
【0044】
図5は、モーメント荷重の発生原理について説明するための図である。
図5に示す油圧機械20は、ピストン22と中間部33の間に傾動許容部38が設けられていない点を除いて、
図2に示した油圧機械20と同一のものである。
図5に示す油圧機械においては、ピストン24は中間部33に固定される。
図5に示す油圧機械20が油圧ポンプ又は油圧モータとして作動する場合、中間部33には、ピストン24からのシリンダ軸方向の力(大きさF)と、スライド部34からのシリンダ軸方向の力(大きさF)が作用する。
図5に示す油圧機械20の場合、ピストン24は中間部に固定されている。このため、ピストン24からの力が中間部33に作用する作用点と、スライド部34からの力が中間部33に作用する作用点とがシリンダ軸直交方向においてずれているときは、スライド部34から中間部33に作用するシリンダ軸方向成分と、ピストン24から中間部33に作用する力とが偶力となって、この偶力により回転軸22の軸方向に対する直交平面内で中間部33を回転させようとするモーメントMが発生する。その結果、ピストン24には機械要素30からモーメント荷重が加えられる。
【0045】
図2及び
図3に示す油圧機械20においては、ピストン22と中間部33の間に設けられた傾動許容部38によって、ピストン24に対する中間部33の相対的な傾動が許容されるので、基本的には、ピストン24にモーメント荷重が加わらず、ピストン24の往復運動の方向がシリンダ軸方向に平行である状態を維持できる。したがって、回転軸22とピストン24との間に設けられる機械要素30からピストン24に加わるモーメント荷重を低減できる。
【0046】
次に、傾動許容部について説明する。
図6(a)〜(c)は、回転軸の軸方向に対する直交平面に沿った傾動許容部の拡大断面図である。
図6(a)〜(c)に示す傾動許容部38は、中間部33に向き合うピストン24の第1表面58に設けられたポケット52と、ポケット52に加圧流体を導入するための流体導入部54とを含む静圧パッド50である。流体導入部54は、ピストン24の内部に設けられ、ピストン24とシリンダ26により形成される油圧室27とポケット52を連通させる連通路56を含む。加圧流体としての高圧油を油圧室27からポケット52に導入可能に構成される。
ピストン24の油圧室27から静圧パッド50のポケット52内に加圧流体を導入することで、ポケット52内の加圧流体によりピストン24を中間部33に非接触の状態で支持することができる。この際ピストン24は加圧流体の膜を介して非接触で支持されるので、中間部33のピストン24に対する相対的な傾動が許容される。
図6(a)〜(c)に示す傾動許容部38は、油圧作動油である高圧油を油圧室27から連通路56を通じて静圧パッド50のポケット52に導入可能であるので、ポケット52に外部から高圧流体を導入しなくとも効率的に静圧パッド50を形成することができる。
また、ピストン24の往復運動の1サイクルにおける油圧室27内の圧力が高い期間では、中間部33に加わるモーメントは比較的大きくなる。一方、ピストン24の往復運動の1サイクルにおける油圧室27内の圧力が低い期間では、中間部33に加わるモーメントはそれほど大きくない。したがって、
図6(a)〜(c)に示す傾動許容部38では流体導入部54として油圧室27をポケット52に連通させる連通路56を設けたので、比較的大きなモーメント荷重がピストン24に作用する可能性がある期間(すなわち、油圧室27内が高圧の期間)について選択的に、ピストン24に対する中間部33の相対的な傾動を許容できる。
【0047】
図6(a)に示す傾動許容部38では、ピストン24の第1表面58と該第1表面58に向き合う中間部33の第2表面59はともに平面状である。平面状の第1表面58にポケット52が形成され、ポケット52は連通路56を介して油圧室27に連通される。
加圧流体としての高圧油が油圧室27から連通路56を経由してポケット52に導入されると、第1表面58と第2表面59との間に加圧流体の膜が形成される。この加圧流体の膜は流動可能であるので、中間部33が膜を押して回転軸の軸方向に対する直交平面内で傾いても非接触支持が維持される。このため、ピストン24に対する中間部33の相対的な傾動が可能である。こうして、
図6(a)に示すように、中間部33が、シリンダ軸直交方向に平行である状態から、符号33’で示す状態まで傾動可能である。
この場合、中間部33がピストン24に対して相対的に傾動する場合の中間部33の傾動許容量は、ピストン24と中間部33の間に形成される加圧流体の膜の膜厚dに依存する。この膜厚が厚いほど中間部33の傾動許容量が大きくなる。
【0048】
図6(b)に示す傾動許容部38では、ピストン24の第1表面58は凸球面形状の球面状部41であり、中間部33の第2表面59は凹球面形状の球面座部42である。球面状部41にポケット52が形成され、ポケット52は連通路56を介して油圧室27に連通される。
この場合、凸球面形状の球面状部41が凹球面形状の球面座部42上を滑ることで、ピストン24に対する中間部33の相対的な傾動が許容される。このため、
図6(b)に示す傾動許容部38によれば、傾動許容量がピストン24と中間部33の間に形成される加圧流体の膜の膜厚dに依存する
図6(a)の場合と比較して、より大きな傾動が許容される。こうして、
図6(b)に示すように、中間部33が、シリンダ軸直交方向に平行である状態から、符号33’で示す状態まで傾動可能である。
【0049】
図6(b)に示す球面どうしのすべりを利用した傾動許容部38以外にも、すべりを利用した傾動許容部を構成することができる。
例えば、
図6(c)に示す傾動許容部38では、ピストン24の第1表面58は凸状曲面であり、中間部33の第2表面59は前記凸状曲面に係合可能な凹状曲面である。凸状曲面を有する第1表面58にポケット52が形成され、ポケット52は連通路56を介して油圧室27に連通される。
この場合、凸状曲面を有する第1表面58が凹状曲面を有する第2表面上を滑ることで、回転軸22の軸方向に対する直行平面内において、中間部33のピストン24に対する相対的な傾動が許容される。こうして、
図6(c)に示すように、中間部33が、シリンダ軸直交方向に平行である状態から、符号33’で示す状態まで傾動可能である。
図6(a)〜(c)では、油圧室27からの供給油による静圧パッドの例を示したが、グリース等の潤滑剤を塗布した場合でも同様にピストン24に対する中間部33の相対的な傾動を可能とすることができる。
【0050】
図7は、一実施形態に係る回転機械(油圧機械)の構成の概略を示す図である。
【0051】
図7に示す例示的な実施形態では、ピストン24のうち、シリンダ26と向き合う外周面のピストン軸方向における両端部にクラウニング処理を施すことによって、ピストン24にクラウン形状の外周面44が形成されている。
移動部32を静止部33に支持するための第1スライダ35が内部に有する部品間の隙間の大きさ等によって定まる最大傾動量(角度φ)だけ中間部33が傾動しうるが、この最大傾動量が傾動許容部38による傾動許容限度を超える場合もあり得る。このような場合には、傾動許容部38を設けたにもかかわらず、中間部33とともにピストン24が少なからず傾動する結果、ピストン24とシリンダ26の壁面とが接触してしまう。
そこで、上述のようにピストン24の外周面をクラウン形状にすることで、傾動許容部38による傾動許容限度を超えて中間部33が傾動した場合であっても、ピストン24とシリンダ26の壁面との非接触状態を維持できる。中間部33が最大傾動量だけ傾動すると、それ以上の傾動は第1スライダ35が許容しないため、中間部33に加わるモーメント荷重は専ら第1スライダ35によって負担される。こうして、中間部33が傾動する際のモーメント荷重がピストン24に加わらないようにする。
【0052】
次に、複数のピストンを含む回転機械(油圧機械)の実施形態について説明する。
図8及び
図9は、それぞれ、一実施形態に係る回転機械(油圧機械)の構成の概略を示す図である。
【0053】
図8に示す例示的な実施形態に係る油圧機械20は、油圧機械20の半径方向に沿った断面において、6つのピストン24がラジアル状に配列される。そして、油圧機械20は、各々のピストン24に対応するシリンダ26と、移動部32と、中間部33と、スライド部34(第2スライダ36)と、第1スライダ35と、静止部31を備え、ピストン24と中間部33との間には傾動許容部38が設けられる。各々のピストン24とシリンダ26はそれぞれ油圧室27を形成し、油圧室27と高圧ライン12との間には高圧バルブ28が設けられ、油圧室27と低圧ライン14との間には低圧バルブ29が設けられる。
各々の移動部32は、回転軸22の中心軸に対して偏心した位置に設けられる円盤状のクランク接続部37に接続される。各々の移動部32は、円盤状のクランク接続部37の中心に対して対称にラジアル状に配置される。クランク接続部37は、クランクピン67を介してクランクアーム64の一端に回動可能に接続され、クランクアーム64の他端は回転軸22に連結される。
クランク接続部37は、回転軸22の回転と連動して、クランクピン67の軌跡81に沿って移動する。この際各々の移動部32もクランク接続部37とともに移動する。
クランク接続部37は回転軸22の中心軸に対して偏心した位置に設けられているため、各々の移動部32は異なる位相で移動する。このため、移動部32を介して回転軸22からの力を受ける各々のピストンも異なる位相で往復運動する。
【0054】
図9に示す例示的な実施形態に係る油圧機械20は、油圧機械20の半径方向に沿った断面において、3対のピストン24Aとピストン24Bが互いに平行に配置される。
3つのピストン24Aは第1ピストンとして第1グループを形成し、3つのピストン24Bは第2ピストンとして第2グループを形成する。第2グループは、回転軸22を挟んで第1グループとは反対側に配置される。油圧機械20は、各々のピストン24A,24Bに対応するシリンダ26A,26Bと、静止部21を備える。各々のピストン24A,24Bとシリンダ26A,26Bはそれぞれ油圧室27A,27Bを形成し、各々の油圧室27A,27Bと高圧ライン12との間には高圧バルブ28が設けられ、各々の油圧室27A,27Bと低圧ライン14との間には低圧バルブ29が設けられる。なお、他の実施形態では、第1グループの全油圧室27Aのために1個の共通の高圧バルブ28を設け、第2グループの全油圧室27Bのために1個の共通の高圧バルブ28を設けてもよい。同様に、第1グループの全油圧室27Aのために1個の共通の低圧バルブ29を設け、第2グループの全油圧室27Bのために1個の共通の低圧バルブ29を設けてもよい。
油圧機械20は、ピストン24Aを含む第1グループと、ピストン24Bを含む第2グループのそれぞれについて、中間部33A,33Bと、スライド部34A,34B(第2スライダ36A,36B)と、第1スライダ35A,35Bを備える。それぞれのピストン24A,24Bと中間部33A,33Bとの間には傾動許容部38A,38Bが設けられる。
ピストン24Aを含む第1グループとピストン24Bを含む第2グループの間には、第1グループと第2グループの共有移動部として1個の移動部32が設けられる。すなわち、
図9に示す例示的な実施形態では、第1グループと第2グループとで1個の移動部32を共有している。また、
図9に示す例示的な実施形態では、移動部32のみが第1グループと第2グループとで共有されており、中間部33A,33B及び第1スライダ35A,35Bはグループごとに別々に設けられているが、他の実施形態では、移動部32に加えて、中間部33と第1スライダ35とを第1グループと第2グループとで共有する構成としてもよい。この場合、第1グループと第2グループとで共有される1個の中間部33は、第1グループ側の第1セクション(中間部33A)と第2グループ側との第2セクション(中間部33B)とに分割可能であってもよい。
【0055】
上記の構成を有する油圧機械20によれば、回転軸22を挟んで両側に配置される2つのピストングループで1つの移動部32を共有するので、1つの移動部32により、回転軸22の回転運動と多くのピストン24A,24Bの往復運動との間での運動モードの変換が可能になる。このため、ピストン24のグループごとに移動部32を設ける場合に比べて油圧機械20をコンパクト化することが可能である。
また、上記の構成を有する油圧機械20によれば、中間部33Aと、中間部33Bとが分割してそれぞれ別個に取り外し可能に構成することができるので、油圧機械の有するすべての中間部33を取り外さなくともメンテナンス可能となる。このため、油圧機械20のメンテナンス性が向上する。
また、
図9に示す例示的な実施形態では、油圧機械20が、ピストンのグループごとに中間部33A,33Bと、スライド部34A,34B(第2スライダ36A,36B)と、第1スライダ35A,35Bを有する。したがって、仮に片方のグループのピストン24A又は24Bが故障したとしても、他方のグループのピストン24A又は24Bのみで運転することが可能となる。このため、油圧機械20の耐障害性が向上する。
【0056】
図9に示す例示的な実施形態に係る油圧機械20においては、移動部32は、回転軸22の中心軸に対して偏心した位置に設けられるディスク部材46である。また、スライド部34A,34Bは、シリンダ軸直交方向に沿って延在し、ディスク部材46の外周面47に摺接するように構成されたパッド部材48A,48Bである。
【0057】
図10(a)及び(b)は、
図9のA−A’矢視断面図であり、ディスク部材46とパッド部材48A,48Bが摺接する様子を示す図である。
一実施形態では、
図10(a)に示すように、パッド部材48A,48Bは、ディスク部材46が回転軸22の軸方向に逸脱しないように案内可能である。一方、ディスク部材46は一様な厚さを有し、外周面47はディスク部材46の厚さと同じ幅でパッド部材48A,48Bに摺接する。
他の実施形態では、
図10(b)に示すように、ディスク部材46は、パッド部材48A,48Bと摺接する部分において、断面が段差を有してもよい。
【0058】
このように移動部32としてのディスク部材46の外周面47に摺接するパッド部材48A,48Bをスライド部34A,34Bとして用いることで、ローラ等を複数用いてスライド部34として用いるのに比べ、機械要素30の構成の簡素化を図ることができる。
また、
図10に示すように複数のピストン24A,24Bに対して1個の移動部32を共通的に設ける場合、前記複数のピストン24A又は24Bが共有する1個のパッド部材48A又は48B(スライド部34A又は34B)を1個のディスク部46(移動部32)に摺接させれば、中間部33A,33Bを介して複数のピストン24A又は24B全体を均一に押すことができる。このため、機械要素30を介して複数のピストン24A,24Bに回転軸22から作用する力のシリンダ軸方向成分をピストン間で平準化できる。
【0059】
図11は一実施形態に係る回転機械(油圧機械)の構成の概略を示す図である。
図11に示す例示的な実施形態では、機械要素30は、回転軸22の中心軸に対して偏心して回転軸22に取り付けられるカム72をさらに含み、移動部32が、カム72のカム表面73に摺接するように設けられる。
回転軸22が回転すると、回転軸22の回転に連動してカム中心74が回転軸22の周りを移動し、軌跡83を描く。この際、回転軸22の中心軸に対して偏心して回転軸22に取り付けられたカム72は、回転軸22の軸方向に対する直交平面内において、シリンダ軸方向の速度成分とシリンダ軸直交方向の速度成分とを合成した速度ベクトルで移動する。これに伴い、カム72に摺接する移動部32は、シリンダ軸方向の第1速度成分V
1とシリンダ軸直交方向の第2速度成分V
2とを合成した速度ベクトルVにて、回転軸22の軸方向に対する直交平面内で移動する。一実施形態において、移動部32はカム72のカム表面83に摺接するように設けられたピストンシューであってもよい。
また、
図11に示す例示的な実施形態において、中間部33、スライド部34(第2スライダ36)、第1スライダ35、傾動許容部38の構成については、上述の実施形態と同様であるから、ここではその説明を省略する。