特許第6227309号(P6227309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227309
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】電池状態検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/36 20060101AFI20171030BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20171030BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   G01R31/36 A
   H01M10/48 P
   H02J7/00 Q
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-148278(P2013-148278)
(22)【出願日】2013年7月17日
(65)【公開番号】特開2015-21774(P2015-21774A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100060690
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 秀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100070002
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100110733
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥野 正司
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【弁理士】
【氏名又は名称】朴 志恩
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信之
【審査官】 續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−214843(JP,A)
【文献】 特開昭60−144675(JP,A)
【文献】 特開2014−044149(JP,A)
【文献】 特開2013−088148(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/073997(WO,A1)
【文献】 特開平03−182063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の状態を検出する電池状態検出装置であって、
前記二次電池における離散した複数の周波数に対応する複数の内部複素インピーダンスを検出するインピーダンス検出手段と、
前記インピーダンス検出手段によって検出された前記複数の内部複素インピーダンスにについて、当該内部複素インピーダンスの値、及び、前記複数の内部複素インピーダンスの差分値を用いて、前記二次電池の状態を検出する電池状態検出手段と、を備え、
前記複数の周波数が、前記二次電池の所定の周波数範囲にわたる内部複素インピーダンスを複素平面上にプロットしたグラフにおける前記二次電池の複数の構成部分の状態を示す複数の部分グラフのそれぞれに対応する複数の部分周波数範囲のうち少なくとも2つ以上の前記部分周波数範囲に振り分けられており、
前記電池状態検出手段が、前記二次電池の状態の検出に用いられる前記内部複素インピーダンスの値、及び、前記複数の内部複素インピーダンスの差分値の両方に重み付けをして用いている、
ことを特徴とする電池状態検出装置。
【請求項2】
前記インピーダンス検出手段が、前記複数の内部複素インピーダンスとして、前記二次電池における離散した複数の周波数に対応する複数の内部複素インピーダンスを検出するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電池状態検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の状態を検出する電池状態検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電動モータを用いて走行する電気自動車(EV)や、エンジンと電動モータとを併用して走行するハイブリッド自動車(HEV)などの各種車両には、電動モータの動力源として、リチウムイオン充電池やニッケル水素充電池などの二次電池が搭載されている。
【0003】
このような二次電池は、充電及び放電を繰り返すことにより劣化が進み、蓄電可能容量(電流容量や電力容量など)が徐々に減少することが知られている。そして、二次電池を用いた電気自動車などにおいては、二次電池の劣化の度合を検出することにより蓄電可能容量を求めて、二次電池によって走行可能な距離や二次電池の寿命などを算出している。
【0004】
二次電池の劣化の度合を示す指標の一つとして、初期蓄電可能容量に対する現在蓄電可能容量の割合であるSOH(State of Health)がある。このSOHは二次電池の内部インピーダンスと相関があることが知られており、二次電池の内部インピーダンスを求めることにより当該内部インピーダンスに基づいてSOHを検出することができる。
【0005】
二次電池の内部インピーダンスは、例えば、二次電池に対して、波形が一定となる交流信号を印加して、その応答に基づいて求めることができる。このような二次電池の内部インピーダンスを検出する技術の一例が、特許文献1等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−251625号公報
【特許文献2】特開2012−220199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、二次電池のSOHは、当該二次電池の正極や負極、電解質などの各構成部分の劣化の状態が組み合わさることにより定まるものであるところ、例えば、特定の周波数(1000Hzなど)のみについて二次電池の内部インピーダンスを検出する構成では、当該周波数に比較的反応しやすい特定の部位についての状態が主に検出されるので、この検出結果は二次電池の全体の状態を精度良く表すものではなく、そのため、検出精度が低いという問題があった。
【0008】
また、二次電池について所定の周波数範囲にわたり内部複素インピーダンスを計測して複素平面上にプロットすることにより、二次電池の各構成部分の状態を示す部分グラフが連なったグラフ(「コールコールプロット」とも呼ばれる)が得られることが知られており、このグラフに基づいて、二次電池の等価回路を求めることで検出精度を高めることができる(特許文献2参照)。しかしながら、このようなグラフを描けるだけの多くの周波数に対応する内部インピーダンスの計測が必要であり、また、このグラフから二次電池の等価回路を求めることが難しく、二次電池のSOH等を容易に精度よく検出することができないという問題があった。
【0009】
本発明は、かかる問題を解決することを目的としている。即ち、本発明は、二次電池の状態を比較的容易に精度よく検出できる電池状態検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、二次電池について所定の周波数範囲にわたり内部複素インピーダンスを計測して複素平面上にプロットしたグラフを鋭意検討したところ、当該グラフにおける二次電池の複数の構成部分の状態を示す複数の部分グラフについて、劣化の前後において同じ周波数であれば同じ構成部分の状態を示すことを見出し、本発明に至った。
【0011】
請求項1に記載された発明は、上記目的を達成するために、二次電池の状態を検出する電池状態検出装置であって、前記二次電池における離散した複数の周波数に対応する複数の内部複素インピーダンスを検出するインピーダンス検出手段と、前記インピーダンス検出手段によって検出された前記複数の内部複素インピーダンスにについて、当該内部複素インピーダンスの値、及び、前記複数の内部複素インピーダンスの差分値を用いて、前記二次電池の状態を検出する電池状態検出手段と、を備え、前記複数の周波数が、前記二次電池の所定の周波数範囲にわたる内部複素インピーダンスを複素平面上にプロットしたグラフにおける前記二次電池の複数の構成部分の状態を示す複数の部分グラフのそれぞれに対応する複数の部分周波数範囲のうち少なくとも2つ以上の前記部分周波数範囲に振り分けられており、前記電池状態検出手段が、前記二次電池の状態の検出に用いられる前記内部複素インピーダンスの値、及び、前記複数の内部複素インピーダンスの差分値の両方に重み付けをして用いている、ことを特徴とする電池状態検出装置である。
【0014】
請求項に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記インピーダンス検出手段が、前記複数の内部複素インピーダンスとして、前記二次電池における離散した複数の周波数に対応する複数の内部複素インピーダンスを検出するように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載された発明によれば、インピーダンス検出手段が、二次電池における離散した複数の周波数に対応する複数の内部複素インピーダンスを検出し、電池状態検出手段が、インピーダンス検出手段によって検出された複数の内部複素インピーダンスに基づいて、二次電池の状態を検出する。そして、複数の周波数が、二次電池の所定の周波数範囲にわたる内部複素インピーダンスを複素平面上にプロットしたグラフにおける二次電池の複数の構成部分の状態を示す複数の部分グラフのそれぞれに対応する複数の部分周波数範囲のうち少なくとも2つ以上の前記部分周波数範囲に振り分けられている。このようにしたことから、インピーダンス検出手段によって検出される複数の内部複素インピーダンスは、少なくとも2つ以上の部分周波数範囲に対応し、即ち、二次電池の少なくとも2つ以上の構成部分の状態を示し、そのため、これら複数の内部複素インピーダンスを用いることにより、二次電池の所定の周波数範囲にわたって内部複素インピーダンスを検出することなく、比較的少ない離散した複数の内部複素インピーダンスのみを用いて二次電池の複数の構成部分の状態を検出することができる。したがって、二次電池の状態を比較的容易に精度よく検出できる。
【0016】
また、電池状態検出手段が、複数の内部複素インピーダンスについて、当該内部複素インピーダンスの値、及び、複数の内部複素インピーダンスの差分値を用いて、二次電池の状態を検出するように構成されている。このようにしたことから、内部複素インピーダンスの値は、複素平面上での原点(0)からの距離を表し、複数の内部複素インピーダンスの差分値は互いの距離又はそれに準ずる値を表しているので、これらを用いることで二次電池の状態をより容易に検出できる。
【0017】
また、電池状態検出手段が、二次電池の状態の検出に用いられる内部複素インピーダンスの値、及び、複数の内部複素インピーダンスの差分値に重み付けをして用いている。このようにしたことから、二次電池の状態について影響の大きいものについては重みを大きくし、影響の小さいものについては重みを小さくすることで、二次電池の状態をより精度よく検出できる。
【0018】
請求項に記載された発明によれば、インピーダンス検出手段が、複数の内部複素インピーダンスとして、二次電池における離散した複数の周波数に対応する複数の内部複素インピーダンスを検出するように構成されている。このようにしたことから、内部複素インピーダンスは、例えば、内部インピーダンスの大きさ(即ち、複素平面上における原点(0)からの距離)に比べて上記グラフの部分グラフの形状(即ち、二次電池の構成部分の状態)をより正確に示しているので、内部インピーダンスの大きさを用いた構成に比べて二次電池の状態を精度よく検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態の電池状態検出装置の概略構成を示す図である。
図2】二次電池の所定の周波数範囲にわたる内部複素インピーダンスを複素平面上にプロットしたグラフを模式的に示す図である。
図3図1の電池状態検出装置の充電部から出力される第2充電電流の波形の一例を模式的に示す図である。
図4図1の電池状態検出装置が備える制御部によって実行される充電処理の一例を示すフローチャートである。
図5図1の電池状態検出装置が備える制御部によって実行されるインピーダンス検出処理の一例を示すフローチャートである。
図6】市販の二次電池における所定の周波数範囲にわたる内部複素インピーダンスを実測して複素平面上にプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態の電池状態検出装置について、図1図6を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態の電池状態検出装置の概略構成を示す図である。図2は、二次電池の所定の周波数範囲にわたる内部複素インピーダンスを複素平面上にプロットしたグラフを模式的に示す図である。図3は、図1の電池状態検出装置の充電部から出力される第2充電電流の波形の一例を模式的に示す図である。
【0022】
電池状態検出装置は、例えば、電気自動車に搭載され、当該電気自動車が備える二次電池の電極間に接続されて、当該二次電池の状態として初期蓄電可能容量に対する現在蓄電可能容量の割合であるSOH(State of Health)を検出するものである。勿論、これ以外にも、電気自動車に搭載せずに車両給電施設等に設置してもよく、または、電気自動車以外の二次電池を備えた装置、システムなどに適用してもよい。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の電池状態検出装置(図中、符号1で示す)は、図示しない電気自動車に搭載された二次電池BのSOHの検出を行う。
【0024】
二次電池Bは、電圧を生じる起電力部eと内部インピーダンスZとを有している。この内部インピーダンスZは二次電池BのSOHと相関があり、二次電池Bの内部インピーダンスZを求めることにより当該内部インピーダンスZに基づいてSOHを検出することができる。
【0025】
二次電池Bに所定の周波数範囲にわたる交流信号を与えることにより当該周波数範囲における内部複素インピーダンスが得られ、この内部複素インピーダンスを複素平面上にプロットすると、図2に一例を模式的に示すコールコールプロットと呼ばれるグラフKが得られる。このグラフKは、二次電池の正極や負極、電解質などの各構成部分の状態を示す円弧となる部分グラフK1及び部分グラフK2が連なって構成されており、図2に示す例では、グラフKにおいて部分グラフK1及び部分グラフK2がそれぞれ負極の状態及び正極の状態を示している。
【0026】
そして、二次電池の劣化の度合いが変化すると、各部分グラフK1、K2が概ね相似形状(即ち、円弧形状)を保ったまま大きさが変化して部分グラフK1’、K2’となり、例えば、円弧の曲率が変化したり、複素平面の原点(0)からの距離が変化したりする。劣化が進むと、曲率が小さくなり、また、原点(0)からの距離が大きくなる傾向がある。このとき、部分グラフK1を構成する内部複素インピーダンスのそれぞれに対応する複数の周波数を含む部分周波数範囲は、部分グラフK1’を構成する内部複素インピーダンスのそれぞれに対応する複数の周波数を含む部分周波数範囲と一致する。部分グラフK2と部分グラフK2’についても同様である。即ち、負極の状態を示す部分グラフK1及び部分グラフK1’は、同じ部分周波数範囲に含まれる内部複素インピーダンスのプロットで構成されており、正極の状態を示す部分グラフK2及び部分グラフK2’も、同じ部分周波数範囲に含まれる内部複素インピーダンスのプロットで構成されている。
【0027】
このことから、部分グラフK1に対応する部分周波数範囲に含まれる周波数に対応する内部複素インピーダンスに基づいて二次電池Bの負極の状態を検出することができ、部分グラフK2に対応する部分周波数範囲に含まれる周波数に対応する内部複素インピーダンスに基づいて二次電池Bの正極の状態を検出することができ、これらを用いて二次電池Bの複数の構成部分についての状態を検出することで、二次電池Bの状態を容易に精度良く検出することができる。
【0028】
そして、本実施形態の電池状態検出装置は、上述した方法を応用して二次電池BのSOHを検出する。
【0029】
図1に示すように、本実施形態の電池状態検出装置(図中、符号1で示す)は、増幅器11と、基準電圧発生部12と、充電部15と、アナログ−デジタル変換器21と、マイクロコンピュータ40(以下、「μCOM40」という)と、を有している。
【0030】
増幅器11は、例えば、オペアンプなどで構成されており、2つの入力端子(第1入力端子In1及び第2入力端子In2)と1つの出力端子(出力端子Out)を備え、これら2つの入力端子に入力された電圧の差分値を所定の増幅率Gで増幅した増幅電圧Vmを出力端子から出力する。第1入力端子In1には、二次電池Bの正極Bpが接続されている。第2入力端子In2には、後述する基準電圧発生部12の出力が接続されている。即ち、増幅器11は、二次電池Bの両電極間の電圧Vbと基準電圧発生部12の基準電圧Vrefとの差分値に増幅率Gを乗じた電圧を増幅電圧Vmとして出力する。この増幅率Gは、電池状態検出装置1の構成や二次電池Bの種類などに応じて、例えば、数十倍〜数万倍程度の範囲で設定される。または、増幅の必要が無ければ、増幅率Gを1(増幅なし)に設定してもよい。
【0031】
基準電圧発生部12は、例えば、電池状態検出装置1の電源電圧を分圧する複数の抵抗器からなる分圧回路、又は、ツェナーダイオードなどで構成されており、一定の基準電圧Vrefを増幅器11に出力している。
【0032】
充電部15は、二次電池Bの正極Bpと基準電位G(即ち、二次電池Bの負極Bn)との間に接続されており、二次電池Bの充電に際して、当該二次電池Bに任意の充電電流を流すことができるように設けられている。充電部15は、後述するμCOM40に接続されており、μCOM40からの制御信号に応じて、二次電池Bに充電電流を流して充電する。充電部15は、充電手段に相当する。
【0033】
アナログ−デジタル変換器21(以下、「ADC21」という)は、増幅器11から出力された増幅電圧Vmを量子化して、当該増幅電圧Vmに対応するデジタル値を示す信号を出力する。本実施形態において、ADC21は、個別の電子部品として実装されているが、これに限定されるものではなく、例えば、後述するμCOM40に内蔵されたアナログ−デジタル変換部などを用いてもよい。本実施形態において、ADC21の入力許容電圧範囲は、0V〜5Vである。勿論、これ以外の入力許容電圧範囲となるものを用いてもよい。
【0034】
温度センサユニット25は、例えば、サーミスタ等の温度検知素子を備えており、温度検知素子による検知温度に応じたデジタル信号を出力するように構成されている。温度センサユニット25は、二次電池Bの周囲の雰囲気温度を検知可能なように、二次電池Bに近接して配置されている。温度センサユニット25は、後述するμCOM40に接続されており、二次電池Bの周囲の雰囲気温度を示す信号をμCOM40に出力する。
【0035】
μCOM40は、CPU、ROM、RAMなどを内蔵して構成されており、電池状態検出装置1全体の制御を司る。ROMには、CPUをインピーダンス検出手段、電池状態検出手段などの各種手段として機能させるための制御プログラムが予め記憶されており、CPUは、この制御プログラムを実行することにより上記各種手段として機能する。ROMには、後述する第1充電電流I1、第2充電電流I2、増幅器11の増幅率G、SOH検出温度範囲W、切替判定値Hをそれぞれ示す情報が記憶されており、これら情報は、二次電池BのSOHの検出に用いられる。本実施形態において、SOH検出温度範囲Wは、20℃±1℃、切替判定値Hは、ADC21の入力許容電圧範囲の中央値(2.5V)に設定されている。また、二次電池Bに第1充電電流I1が流れている状態において当該二次電池Bの両電極間の電圧Vbが、二次電池Bの電圧範囲の中央値(例えば、二次電池Bにリチウムイオン電池を用いた場合、その電圧範囲が3.0V〜4.2Vとするとその中央値は3.6Vとなり、この電圧値は二次電池Bの現在の蓄電可能容量に対して50%の蓄電状態(充電状態)に対応する)になったときに、増幅器11から出力される増幅電圧Vmが2.5Vとなるように、基準電圧Vref及び増幅率Gが設定されている。勿論、これら値は一例であって、電池状態検出装置や二次電池の構成などに応じて適宜設定される。
【0036】
また、μCOM40のROMには、後述する第2充電電流I2に含まれる交流成分iaの周波数として設定される離散した複数の検出周波数f1、f2、f3を示す情報が記憶されている。ここで、「離散した」とは、二次電池Bの内部複素インピーダンスの検出に用いる所定の周波数範囲内で連続しているとみなせる程度に互いに近い周波数でないことを意味する。これら複数の検出周波数f1、f2、f3は、次のように設定される。
【0037】
二次電池Bの初期状態において所定の周波数範囲にわたる交流信号を与えることにより当該周波数範囲における内部複素インピーダンスを得、これら内部複素インピーダンスを複素平面上にプロットしてグラフ(二次電池Bについてのコールコールプロット)を得る。そして、このグラフから、二次電池Bの複数の構成部分に対応する複数の部分グラフを特定して、検出周波数f1、f2、f3が、複数の部分グラフのそれぞれに対応する複数の部分周波数範囲に振り分けられるように設定する。一般的に、上述したグラフにおいて、複数のグラフ部分の境界は目視により区別可能な特徴のある点(特徴点)として現れる。この特徴点は、例えば、虚数平面の実軸との交点や、曲率が大きくなる点(尖っている点)などである。本実施形態では、二次電池Bについての図2に示すグラフKを、例えば予備計測やシミュレーションなどを用いて予め取得すると共に、このグラフKに基づいて、検出周波数f1として、複素平面の実軸との交点である特徴点Aに対応する周波数を設定し、検出周波数f2として、部分グラフK1と部分グラフK2の境界である特徴点Bに対応する周波数を設定し、検出周波数f3として、部分グラフK2における部分グラフK1と反対側の境界である特徴点Cに対応する周波数を設定している。勿論、これに限定されるものではなく、例えば、検出周波数f3として、部分グラフK2における中間点Dに対応する周波数を設定するなど、本発明の目的に反しない限り、検出周波数f1、f2、f3が少なくとも2つ以上の部分周波数範囲に振り分けられていれば、それら値は任意である。なお、初期状態でない二次電池Bを用いた場合でも、上記特徴点A、B、Cはグラフ上の同一周波数に現れるので、初期状態でない二次電池Bを用いて検出周波数f1、f2、f3を設定してもよい。また、二次電池の構成が同じであれば上記グラフKの形状も同様になるものと考えられるので、例えば、1つの製造ロットに含まれる複数の二次電池のうちの1つについて検出周波数を求めれば、当該製造ロットの他の二次電池Bについても同一の検出周波数を用いることができる。
【0038】
また、μCOM40のROMには、複数の検出周波数についての複数の内部複素インピーダンスを当てはめることにより二次電池のSOHが得られる算出式又は情報テーブルの情報が記憶されている。
【0039】
μCOM40は、充電部15に接続された出力ポートPOを備えている。μCOM40のCPUは、出力ポートPOを通じて充電部15に制御信号を送信して、充電部15から二次電池Bに所定の直流成分idのみからなる第1充電電流I1(I1=id)及びこの直流成分id及び当該直流成分idの電流値以下の振幅αとなる正弦波の交流成分iaを含む第2充電電流I2(I2=id+ia(ia=αcos(2πft)、但し、α≦id))が流れるように充電部15を制御する。第2充電電流I2において、交流成分iaの振幅を直流成分idの電流値以下としているので、交流成分iaが最小値に振れたときでも、第1充電電流I1及び第2充電電流I2が負の値(即ち、二次電池Bから放電される方向)になることはない。即ち、第2充電電流I2は、図3に模式的に示すように、充電方向のみに流れ、放電方向には流れない。
【0040】
μCOM40は、ADC21から出力された信号が入力される入力ポートPI1、及び、温度センサユニット25から出力された信号が入力される入力ポートPI2を有している。入力ポートPI1に入力された信号は、μCOM40のCPUが認識できる形式の情報に変換されて当該CPUに送られる。μCOM40のCPUは、当該情報に基づいて、増幅電圧Vmに含まれる交流成分vaを検出する。また、CPUは、増幅電圧Vmの交流成分va、及び、第2充電電流I2の交流成分iaに基づいて検出周波数f1、f2、f3についての二次電池Bの内部複素インピーダンスを検出し、これら複数の内部複素インピーダンスに基づいて、二次電池BのSOHを検出する。また、入力ポートPI2に入力された信号は、μCOM40のCPUが認識できる形式の情報に変換されて当該CPUに送られる。μCOMのCPUは、二次電池BのSOHの検出に先立ち、当該情報に基づいて、二次電池Bの周囲の雰囲気温度を検出して、SOHの検出に適した温度であるか否かを判定する。
【0041】
μCOM40は、図示しない通信ポートを有している。この通信ポートは、図示しない車両内ネットワーク(例えば、CAN(Controller Area Network)など)に接続されており、当該車両内ネットワークを通じて車両メンテナンス用の端末装置などの表示装置に接続される。μCOM40のCPUは、通信ポート及び車両内ネットワークを通じて、検出したSOHを示す信号を表示装置に送信し、この表示装置において当該信号に基づき二次電池BのSOHを表示する。または、μCOM40のCPUは、通信ポート及び車両内ネットワークを通じて、検出したSOHを示す信号を車両に搭載されたコンビネーションメータなどの表示装置に送信し、この表示装置において当該信号に基づき二次電池BのSOHを表示するようにしてもよい。
【0042】
次に、上述した電池状態検出装置1が備えるμCOM40における充電処理の一例について、図4図5のフローチャートを参照して説明する。
【0043】
図4は、図1の電池状態検出装置が備える制御部によって実行される充電処理の一例を示すフローチャートである。図5は、図1の電池状態検出装置が備える制御部によって実行されるインピーダンス検出処理の一例を示すフローチャートである。
【0044】
μCOM40のCPU(以下、単に「CPU」という)は、例えば、車両に搭載された電子制御装置から通信ポートを通じて二次電池Bの充電開始命令を受信すると、図4に示す充電処理に進む。
【0045】
充電処理において、始めに、二次電池Bの周囲の雰囲気温度がSOHの検出に適した温度か否かを判定する(S110)。具体的には、CPUは、入力ポートPI2に入力された信号から得られた情報に基づいて、二次電池Bの周囲の雰囲気温度を検出し、この雰囲気温度が、SOHの検出に適したSOH検出温度範囲Wに含まれるか否かを判定する。
【0046】
そして、雰囲気温度がSOH検出温度範囲Wに含まれていないと判定したとき(S110でN)、二次電池Bに第1充電電流I1を流す(S170)。具体的には、CPUは、出力ポートPOを通じて充電部15に対し第1充電電流I1で充電を行うための制御信号を送信する。充電部15はこの制御信号に応じて、二次電池Bに上記第1充電電流I1を流す。これにより、二次電池Bの充電が開始され、その後、二次電池Bの充電が完了すると、充電処理を終了する。
【0047】
または、雰囲気温度がSOH検出温度範囲Wに含まれていると判定したとき(S110でY)、二次電池Bに第1充電電流I1を流す(S120)。具体的には、CPUは、出力ポートPOを通じて充電部15に対し第1充電電流I1で充電を行うための制御信号を送信する。充電部15はこの制御信号に応じて、二次電池Bに予め定められた直流成分idのみを含む第1充電電流I1を流す。これにより、二次電池Bの充電が開始される。
【0048】
次に、増幅器11から出力される増幅電圧Vmが切替判定値Hになるまで待つ(S130)。即ち、二次電池Bがその容量の半分(50%)まで充電された状態となるまで待つ。具体的には、CPUは、入力ポートPI1に入力された信号から得られた情報に基づいて増幅器11から出力される増幅電圧Vmを周期的(例えば、1秒毎)に検出して、切替判定値H(2.5V)になったか否かを判定する。
【0049】
増幅電圧Vmが切替判定値Hになると、次に、図5に示すインピーダンス検出処理を複数回実行して、二次電池Bにおける検出周波数f1、f2、f3についての複数の内部複素インピーダンスを検出する(S140、S150、S160)。
【0050】
図5に示すインピーダンス検出処理では、まず、指定された検出周波数となる交流成分iaを含む第2充電電流I2を二次電池Bに流す(T110)。具体的には、CPUは、出力ポートPOを通じて充電部15に対し第2充電電流I2で充電を行うための制御信号を送信する。充電部15はこの制御信号に応じて、二次電池Bに直流成分id及び交流成分iaを含む第2充電電流I2を流す。ここで交流成分iaの周波数は、指定された検出周波数に設定されている。
【0051】
次に、二次電池Bの両電極間の電圧Vbが安定するまで待つ(T120)。具体的には、二次電池Bに流れる充電電流を切り替えると、二次電池Bの両電極間の電圧Vbが過渡状態となってその値が変動しながら一定の波形に収束するところ、CPUは、この収束のための予め設定された電圧安定待ち時間(例えば、1〜3秒程度)が経過するのを待ち、この電圧安定待ち時間を経過したとき二次電池Bの両電極間の電圧Vbが一定の波形に収束して安定する。本実施形態において、二次電池Bに第2充電電流I2が流れても、二次電池Bが充電されず、充電状態(即ち、二次電池Bの電圧Ve)が内部複素インピーダンスの検出に影響を与える程度の変化をしないように、当該第2充電時間I2の通電時間を十分に短く、又は、第2充電時間I2の値を十分に小さく設定してある。
【0052】
次に、増幅電圧Vmの交流成分vaを検出する(T130)。具体的には、CPUは、二次電池Bの両電極間の電圧Vbが安定したとき(即ち、上記電圧安定待ち時間を経過した時点)、入力ポートPI1に入力された信号から得られた情報に基づいて、増幅器11の増幅電圧Vmについて、少なくとも第2充電電流I2の交流成分iaの1周期以上の期間にわたって当該1周期より十分に短い間隔(当該交流成分iaの波形が概ね再現可能な程度であり、例えば、1周期の20分の1から100分の1程度)で周期的にサンプリングして計測する。この増幅電圧Vmには、第2充電電流I2の直流成分id及び交流成分iaに応じて生じる直流成分vd及び交流成分vaが含まれる(Vm=vd+va(va=βcos(2πft−θ)、但し、θは第2充電電流I2の交流成分iaに対する位相差)。
【0053】
次に、CPUは、増幅電圧Vmの交流成分va及び第2充電電流I2の交流成分iaに基づいて、二次電池Bの内部複素インピーダンスを検出する(T140)。これら交流成分va及び交流成分iaを複素数で表現すると、以下の式(i)、式(ii)となり、
va=βcos(2πft−θ)=Re[βej(2πft-θ)] ・・・(i)
ia=αcos(2πft)=Re[αej(2πft)] ・・・(ii)
但し、Re[ ]は実数部を示す。
これら、(1)式、(2)式より、内部複素インピーダンスzは、式(iii)で求められる。
z=((β/G)×(ej(2πft-θ)))/(αej(2πft)
=((β/G)/α)×e-jθ ・・・(iii)
但し、Gは増幅器11の増幅率を示す。
そして、CPUは、上記(iii)式を用いて二次電池Bの内部複素インピーダンスzを検出する。
【0054】
または、より簡易的には、第2充電電流I2の交流成分iaについては既知であるので、当該交流成分iaがα(即ち、iaの最大値であり、このとき2πft=(π/2)×(2n−1)、nは自然数)のときの増幅電圧Vmの交流成分vaを増幅率Gで除した値を実数部とし、当該交流成分iaが0(即ち、図3における時間軸との交点であり、このとき2πft=(π/2)×2n)のときの増幅電圧Vmの交流成分vaを増幅率Gで除した値を虚数部とする二次電池Bの内部複素インピーダンスとして検出してもよい。
【0055】
そして、インピーダンス検出処理を終了し、図4の充電処理に復帰する。以下、検出周波数f1、f2、f3に対応する内部複素インピーダンスをそれぞれz1、z2、z3として示す。
【0056】
各検出周波数f1、f2、f3についての複数の内部複素インピーダンスz1、z2、z3を検出した後、これら複数の内部複素インピーダンスz1、z2、z3に基づいて、二次電池BのSOHを検出する(S170)。具体的には、CPUは、ステップS140〜S160において検出した内部複素インピーダンスz1、z2、z3を複素平面上にプロットした点A、B、Cを用いて、原点(0)から点Aまでの距離|OA|、点Aから点Bまでの距離|AB|、及び、点Bから点Cまでの距離|BC|を算出し、これらをROMに記憶されたSOHの算出式に当てはめることによりSOHを検出する。この算出式は、距離|OA|、距離|AB|、及び、距離|BC|について所定の重み付けがされている。算出式の実施例については後述する。そして、CPUは、通信ポートを通じて、検出した二次電池BのSOHを他の装置等に送信する。
【0057】
そして、再度、二次電池Bに第1充電電流I1を流す(S180)。具体的には、CPUは、出力ポートPOを通じて充電部15に対し第1充電電流I1で充電を行うための制御信号を送信する。充電部15はこの制御信号に応じて、二次電池Bに上記第1充電電流I1を流す。これにより、二次電池Bの充電が再開され、その後、二次電池Bの充電が完了すると、充電処理を終了する。
【0058】
ここで、上述した充電処理のステップS170においてSOHの算出に用いられる算出式の実施例(実施例1)について説明する。
【0059】
発明者は、市販されている同一の製造ロットの複数の二次電池(18650形リチウムイオン電池、三元素係正極、グラファイト負極)の中から1つの二次電池Bを選択し、この二次電池Bの初期状態において所定の周波数範囲にわたる交流信号を与えることにより当該周波数範囲における内部複素インピーダンスを得、これら内部複素インピーダンスを複素平面上にプロットして、図6に示すグラフ(二次電池Bについてのコールコールプロット)を得た。このとき、二次電池Bの充電状態は50%とし、雰囲気温度は20℃とした。そして、このグラフから、目視により特徴点A(実軸との交点)、B、C(曲率の大きい点)を検出して、これら特徴点A、B、Cに対応する周波数をそれぞれ検出周波数f1(500Hz)、f2(30Hz)、f3(0.08Hz)として設定した。
【0060】
次に、複数の二次電池のそれぞれについて、充放電を繰り返したり(サイクル劣化)、満充電状態で高温下に放置したり(高温放置劣化)するなどして、複数の二次電池の状態を劣化させた。そして、劣化後の複数の二次電池Bのそれぞれについて、(1)完全放電状態から満充電状態まで充電を行うことにより現在の蓄電可能容量を測定して、この現在の蓄電可能容量を初期の蓄電可能容量で除することにより実測に基づくSOHを算出し、また、(2)上記検出周波数f1、f2、f3についての内部複素インピーダンスz1、z2、z3を検出して、距離|OA|、距離|AB|、距離|BC|を算出した(それぞれ単位はmΩ)。これら結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
そして、表1の各値について、重回帰分析を行い、SOHと距離|OA|、距離|AB|、距離|BC|との相関を表す、以下のSOHの算出式である式(1)を得た。
SOH=110.47735−0.986679×|OA|
+0×|AB|
−0.249165×|BC| ・・・ (1)
【0063】
式(1)において、距離|OA|、距離|AB|、距離|BC|の係数が、即ち、重み付けである。そして、この式(1)に、表1に示された距離|OA|、距離|AB|、距離|BC|を当てはめて算出したSOHを、表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示すように、式(1)を用いて算出することで、実測のSOHと誤差±4%以下の精度となるSOHを算出することができる。
【0066】
また、1つの周波数に対応する内部インピーダンスを用いてSOHを検出することは、例えば、表1の距離|OA|、距離|AB|、距離|BC|のうちのいずれか1つを用いて内部インピーダンスを検出することに等しい。そして、例えば、距離|OA|に着目すると、表1において、高温放置劣化により実測したSOHが92%となった電池と、サイクル劣化により実測したSOHが85%となった電池とでは、それぞれSOHが92%と85%とで大きく異なるにもかかわらず、距離|OA|が11.536と12.076と比較的近い値となり、距離|OA|のみを用いた場合、SOHの検出精度が低くなることが分かる。距離|AB|や距離|BC|についても同様のことがいえる。このことからも、本願発明は、比較的精度よくSOHを検出できることが分かり、各値に重み付けをすることで、さらに精度よくSOHを検出できることが分かる。
【0067】
図4のフローチャートにおけるステップS140〜S160(即ち、図5のインピーダンス検出処理)の処理を実行するCPUが、インピーダンス検出手段として機能し、ステップS170の処理を実行するCPUが、電池状態検出手段として機能する。
【0068】
以上より、本実施形態によれば、インピーダンス検出手段が、二次電池Bにおける離散した複数の検出周波数f1、f2、f3に対応する複数の内部複素インピーダンスz1、z2、z3を検出し、電池状態検出手段が、インピーダンス検出手段によって検出された複数の内部複素インピーダンスz1、z2、z3に基づいて、二次電池BのSOHを検出する。そして、インピーダンス検出手段によって検出される複数の内部複素インピーダンスz1、z2、z3に対応する複数の周波数f1、f2、f3が、二次電池Bの所定の周波数範囲にわたる内部複素インピーダンスを複素平面上にプロットしたグラフKにおける二次電池Bの複数の構成部分の状態を示す複数の部分グラフK1、K2のそれぞれに対応する2つの部分周波数範囲に振り分けられている。このようにしたことから、インピーダンス検出手段によって検出される複数の内部複素インピーダンスz1、z2は部分グラフK1に対応する部分周波数範囲に含まれ、内部複素インピーダンスz2、z3は部分グラフK2に対応する部分周波数範囲に含まれ、即ち、二次電池Bの2つの構成部分の状態を示し、そのため、これら複数の内部複素インピーダンスz1、z2、z3を用いることにより、二次電池Bの所定の周波数範囲にわたって内部複素インピーダンスを検出することなく、比較的少ない離散した複数の内部複素インピーダンスz1、z2、z3のみを用いて二次電池Bの複数の構成部分の状態を検出することができる。したがって、二次電池BのSOHを比較的容易に精度よく検出できる。また、内部複素インピーダンスは、内部インピーダンスの大きさ(即ち、複素平面上における原点(0)からの距離)に比べて上記グラフの部分グラフの形状(即ち、二次電池Bの構成部分の状態)をより正確に示しているので、内部インピーダンスの大きさを用いた構成に比べて二次電池BのSOHを精度よく検出できる。
【0069】
また、電池状態検出手段が、複数の内部複素インピーダンスz1、z2、z3について、当該内部複素インピーダンスz1、z2、z3の値、及び、複数の内部複素インピーダンスz1、z2、z3の差分値を用いて、二次電池BのSOHを検出するように構成されている。このようにしたことから、内部複素インピーダンスの値は、即ち、複素平面上での原点(0)からの距離|OA|であり、複数の内部複素インピーダンスの差分値は、即ち、内部複素インピーダンス間の距離|AB|及び距離|BC|であり、これら距離を用いることで、二次電池BのSOHをより容易に検出できる。
【0070】
また、電池状態検出手段が、二次電池の状態の検出に用いられる内部複素インピーダンスの値及び複数の内部複素インピーダンスの差分値の両方に重み付けをして用いている。このようにしたことから、二次電池Bの状態について影響の大きいものについては重みを大きくし、影響の小さいものについては重みを小さくすることで、二次電池BのSOHをより精度よく検出できる。
【0071】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態の電池状態検出装置について説明する。
【0072】
第2の実施形態の電池状態検出装置は、二次電池Bの内部複素インピーダンスに代えて、内部インピーダンスの値(大きさ)を用いて、二次電池BのSOHを検出するものである。具体的には、第2の実施形態は、上述した第1の実施形態において、二次電池Bの内部複素インピーダンスを検出する処理(図5のステップT140)及び二次電池BのSOHを検出する処理(図4のステップS170)が異なる以外は、第1の実施形態と同一である。そのため、以下では、第1の実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0073】
上述した第1の実施形態では、検出周波数f1、f2、f3に対応する複数の内部複素インピーダンスz1、z2、z3についての複素平面上での原点(0)からの距離|OA|、及び、内部複素インピーダンス間の距離|AB|及び距離|BC|を用いてSOHを検出するものであった。
【0074】
そして、以下に説明する第2の実施形態では、検出周波数f1、f2、f3に対応する複数の内部インピーダンスZ1、Z2、Z3を用いてSOHを検出するものである。即ち、内部複素インピーダンスは、実数部及び虚数部を有し、これらが複素平面上の座標となるものであり、これに対して、内部インピーダンスの大きさは、原点(0)から内部複素インピーダンスに示される座標位置までの距離を示すものである。このことを第1の実施形態にあてはめて考えると、原点からの距離|OA|、距離|OB|、距離|OC|を用いてSOHを検出することに等しい。そして、図2において、△AOB及び△BOCが、∠OAB及び∠OBCを鈍角とする鈍角三角形であれば、|AB|≒|OB|−|OA|、|BC|≒|OC|−|OB|で近似できる。第2の実施形態においては、内部複素インピーダンス間の距離|AB|及び距離|BC|に代えて、これらの近似値である差分値|OB|−|OA|、差分値|OC|−|OB|を用いてSOHを検出する。
【0075】
第2の実施形態において、二次電池Bの内部複素インピーダンスを検出する処理(図5のステップT140)は次のように行う。
【0076】
CPUは、直前の処理(ステップT130)で時系列的に計測した増幅電圧Vmの値の最大値から最小値を差し引いた値の半分値を増幅電圧Vmの交流成分vaの振幅βとして検出する。そして、CPUは、増幅電圧Vmの交流成分vaの振幅βを増幅器11の増幅率Gで除し、さらに第2充電電流I2の交流成分iaの振幅αで除することにより、二次電池Bの内部インピーダンスZとして検出する(z=(β/G)/α)。
【0077】
これにより、検出周波数f1、f2、f3に対応する二次電池Bの内部インピーダンスZ1、Z2、Z3が検出される。
【0078】
そして、第2の実施形態において、二次電池BのSOHを検出する処理(図4のステップS170)は次のように行う。
【0079】
上述した内部インピーダンスZ1、Z2、Z3は、即ち、複素平面上における原点(0)から上記点A、B、Cまでの距離を示している。即ち、内部インピーダンスZ1、Z2、Z3は、それぞれ距離|OA|、距離|OB|、距離|OC|を示している。そして、第1の実施形態において算出式に当てはめた上記距離|AB|、距離|BC|に代えて、距離|OB|から距離|OA|を差し引いた値(|OB|−|OA|)、距離|OC|から距離|OB|を差し引いた値(|OC|−|OB|)を用いて二次電池BのSOHを検出する。
【0080】
この構成におけるSOHの算出に用いられる算出式の実施例(実施例2)について説明する。
【0081】
発明者は、上記で説明した実施例1と同様に、市販されている同一の製造ロットの複数の二次電池(18650形リチウムイオン電池、三元素係正極、グラファイト負極)の中から1つの二次電池Bを選択し、この二次電池Bの初期状態において所定の周波数範囲にわたる交流信号を与えることにより当該周波数範囲における内部複素インピーダンスを得、これら内部複素インピーダンスを複素平面上にプロットして、図6に示すグラフ(二次電池Bについてのコールコールプロット)を得た。このとき、二次電池Bの充電状態は50%とし、雰囲気温度は20℃とした。そして、このグラフから、目視により特徴点A(実軸との交点)、B、C(曲率の大きい点)を検出して、これら特徴点A、B、Cに対応する周波数をそれぞれ検出周波数f1(500Hz)、f2(30Hz)、f3(0.08Hz)として設定した。
【0082】
図6に示されるように、特徴点A、B、Cは、複素平面上において実軸近傍で当該実軸方向に順に並んで位置している。ここで、仮に特徴点A、B、Cが実軸上に位置していると考えた場合、距離|OB|から距離|OA|を差し引いた値(|OB|−|OA|)は、距離|AB|に一致し、距離|OC|から距離|OB|を差し引いた値(|OC|−|OB|)は、距離|BC|に一致する。そのため、図6に示すように、特徴点A、B、Cが複素平面上において実軸近傍で当該実軸方向に並ぶ構成(即ち、△AOB及び△BOCが、∠OAB及び∠OBCを鈍角とする鈍角三角形)においては、距離|AB|及び距離|BC|の近似値として、距離|OB|から距離|OA|を差し引いた値(|OB|−|OA|)及び距離|OC|から距離|OB|を差し引いた値(|OC|−|OB|)を用いることができる。
【0083】
次に、複数の二次電池のそれぞれについて、充放電を繰り返したり(サイクル劣化)、満充電状態で高温下に放置したり(高温放置劣化)するなどして、複数の二次電池の状態を劣化させた。そして、劣化後の複数の二次電池Bのそれぞれについて、(1)完全放電状態から満充電状態まで充電を行うことにより現在の蓄電可能容量を測定して、この現在の蓄電可能容量を初期の蓄電可能容量で除することにより実測に基づくSOHを算出し、また、(2)上記検出周波数f1、f2、f3についての内部複素インピーダンスz1、z2、z3を検出して、距離|OA|、距離|OB|、距離|OC|を算出し、さらに、これら距離の差分値である|OB|−|OA|、|OC|−|OB|を算出した(それぞれ単位はmΩ)。これら結果を表3に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
そして、表3の各値について、重回帰分析を行い、SOHと距離|OA|、差分値|OB|−|OA|、差分値|OC|−|OB|との相関を表す、以下のSOHの算出式である式(2)を得た。
SOH=110.46−0.99×|OA|
+0×(|OB|−|OA|)
−0.25×(|OC|−|OB|) ・・・ (2)
【0086】
式(2)において、距離|OA|、差分値|OB|−|OA|、差分値|OC|−|OB|の係数が、即ち、重み付けである。そして、この式(2)に、表3に示された距離|OA|、差分値|OB|−|OA|、差分値|OC|−|OB|を当てはめて算出したSOHを、表4に示す。
【0087】
【表4】
【0088】
表4に示すように、式(2)を用いて算出することで、実測のSOHと誤差±4%以下の精度となるSOHを算出することができる。このことからも、本願発明は、比較的精度よくSOHを検出できることが分かり、各値に重み付けをすることで、さらに精度よくSOHを検出できることが分かる。
【0089】
このように、二次電池Bの内部複素インピーダンスに代えて、単なる内部インピーダンスを用いた第2の実施形態においても、上述した第1の実施形態と同様の作用効果が得られ、さらには、単なる内部インピーダンスは、内部複素インピーダンスに比べて検出が容易であるため、より容易に二次電池BのSOHを検出することができる。
【0090】
以上、本発明について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の電池状態検出装置はこれらの実施形態の構成に限定されるものではない。
【0091】
例えば、上述した実施形態では、電池状態検出装置が1つの二次電池BのSOHを検出する構成であったが、これに限定されるものではない。例えば、上述した電池状態検出装置の先にマルチプレクサを設けて、当該マルチプレクサを切り換えることにより、複数の二次電池Bと接続して、これら複数の二次電池BのそれぞれのSOHを検出する構成としてもよい。
【0092】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の電池状態検出装置の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0093】
1 電池状態検出装置
11 増幅器
12 基準電圧発生部
15 充電部
21 アナログ−デジタル変換器
25 温度センサユニット
40 マイクロコンピュータ(インピーダンス検出手段、電池状態検出手段)
B 二次電池
Bp 二次電池の正極
Bn 二次電池の負極
Vm 増幅電圧
G 増幅率
e 起電力部
A、B、C 特徴点
f1、f2、f3 検出周波数(離散した複数の周波数)
z1、z2、z3 内部複素インピーダンス
図1
図2
図3
図4
図5
図6