特許第6227313号(P6227313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227313
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】ホイップヨーグルト
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/13 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   A23C9/13
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-153202(P2013-153202)
(22)【出願日】2013年7月24日
(65)【公開番号】特開2014-39542(P2014-39542A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2016年7月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-164281(P2012-164281)
(32)【優先日】2012年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 允
(72)【発明者】
【氏名】中村 正明
【審査官】 池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−037248(JP,A)
【文献】 特開2009−291081(JP,A)
【文献】 特開2009−278905(JP,A)
【文献】 特開2013−192533(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/010368(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 1/00−23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
AGRICOLA(STN)
BIOTECHNO(STN)
CABA(STN)
FSTA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチン発酵セルロース、並びにアルギン酸プロピレングリコールエステル、アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群から選択される一種以上を含有
ゼラチン1質量部に対する発酵セルロースの含量が0.02〜0.16質量部である
ホイップヨーグルト。
【請求項2】
脂肪含量が0.1〜5質量%である、請求項1に記載のホイップヨーグルト。
【請求項3】
乾燥こんにゃく加工品を含有する、請求項1又は2に記載のホイップヨーグルト。
【請求項4】
ゼラチン、発酵セルロース、並びにアルギン酸プロピレングリコールエステル、アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群から選択される一種以上を含有し、
ゼラチン1質量部に対する発酵セルロースの含量が0.02〜0.16質量部である、
ホイップヨーグルトの製造方法であって、
乳原料、ゼラチン及び発酵セルロースを含有する乳原料溶液を発酵後、起泡することを特徴とするホイップヨーグルトの製造方法。
【請求項5】
ゼラチン、発酵セルロース、並びにアルギン酸プロピレングリコールエステル、アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群から選択される一種以上を含有し、
ゼラチン1質量部に対する発酵セルロースの含量が0.02〜0.16質量部である、
ホイップヨーグルトの製造方法であって、
ゼラチン及び発酵セルロースを含有する溶液と発酵乳を混合後、起泡することを特徴とするホイップヨーグルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイップヨーグルトに関する。具体的には、ムースに類似する滑らかな食感を有するヨーグルトであり、気泡の長期安定性に優れたホイップヨーグルトに関する。本発明はまた、ムースに類似する滑らかな食感を有するホイップヨーグルトを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気泡を含有するホイップヨーグルトに関する従来技術として、乳酸菌で発酵した乳質原料に、乳化安定剤、甘味料、ゼラチン及び脂質原料を加えてホイップする技術(特許文献1)、ゲル化剤を含むヨーグルトベースとホイップ済みクリームを混合装置に供給し、密閉下で短時間連続混合する技術(特許文献2)、精製後に作ったゼラチン溶液をゲル化させずにゾル状のまま乾燥して得られた冷水可溶性ゼラチンを主体とする素材を、粘度のある糊状のヨーグルトに混合して、生地に気泡を抱かせ、該生地を冷蔵してゲル化させる技術(特許文献3)等が知られている。
【0003】
特許文献1〜3はいずれもゼラチンを用いた技術であるが、ゼラチンを用いて形成される気泡は粗く、ムースに類似する滑らかな食感を付与することはできない。更に、ゼラチンを用いて調製されたホイップヨーグルトは、経時的に気泡同士が合一して成長するため、ヨーグルト上部の気泡が更に粗いものとなり、ヨーグルト中での気泡分布状態が不均一になるといった問題を抱えていた。更に、特許文献2に開示された技術は、ヨーグルトベース及びホイップ済みクリームを混合することでホイップヨーグルトを調製する技術である。本製法に基づけば、得られるホイップヨーグルトのオーバーランを高めるためには、添加するホイップ済みクリーム量を増加せざるを得ず、必然と得られるヨーグルト(最終製品)の脂肪含量が高くなってしまうという問題も抱えていた。
【0004】
特許文献4には、天然の脱脂可溶性乳漿タンパク質(ホエータンパク質)と安定化微結晶セルロースとを含有する微細気泡含有フレッシュ乳製品であって、オーバーランが20%未満、気泡の平均径が200μm未満であり、かつ1〜10℃の温度で少なくとも12日から6週間の範囲内の期間安定である微細気泡含有フレッシュ乳製品が開示されている。
【0005】
特許文献4で用いられている微結晶セルロースは、高純度の木材パルプを酸分解し、セルロース中に存在する非結晶領域を除去して純粋な結晶部分だけを取り出して精製、乾燥した特殊なセルロースである。しかし後述の実施例に示すように、かかる微結晶セルロースを用いた場合であってもゼラチンを併用した場合は、調製直後であっても気泡が粗くなり易く、わずか1週間程度で気泡分布が不均一になるなど、気泡が安定化されたホイップヨーグルトを調製することができない。
また、特許文献4に開示された技術は、脂肪を含有しない「脱脂」された乳漿タンパク質を用いることを特徴とし、実施例で開示されたヨーグルトの脂肪含量も約0.07%と極めて少ない。一般的に、油(脂肪含む)は泡膜の表面張力を低下させ、消泡する作用がある。従って、通常の脂肪含量を有するホイップヨーグルトを調製することは極めて困難であった。
【0006】
特許文献5には、澱粉を添加することで従来にない粘性及びソフトでクリーミーな食感を付与した、ホイップ性を有する発酵乳が開示されている。しかし、澱粉含量が1.5〜8重量%と高く、得られるヨーグルトの食感が重くなる、澱粉特有の糊っぽい食感になる等の問題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭49−30563号公報
【特許文献2】特公平07−28657号公報
【特許文献3】特許第3466892号公報
【特許文献4】特許第4623213号公報
【特許文献5】特開平11−276068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術を用いて得られたホイップヨーグルトは気泡が粗く、ムースに類似する滑らかな食感を付与することはできない、経時的に気泡分布状態が不均一になる等の問題を抱えていた。また、予め起泡させたクリームとヨーグルトを混合して調製されるホイップヨーグルトは、必然的に得られる最終製品の脂肪含量が高くなるなど、処方設計に制限を受ける等の問題を抱えていた。
本発明では、かかる従来技術の課題に鑑み、ムースに類似する滑らかな食感を有するヨーグルトであり、気泡の長期安定性に優れたホイップヨーグルトを提供することを目的とする。また、ヨーグルト中の脂肪含量など、処方設計に制限を受けることなく、ホイップヨーグルトを簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のごとき課題を解決すべく鋭意研究した結果、ゼラチン及び発酵セルロースを併用することで、ムースに類似する滑らかな食感を有し、気泡の長期安定性に優れたホイップヨーグルトを提供できることを見出した。更に、ゼラチン及び発酵セルロースを用いることで、ヨーグルト中の脂肪含量などの処方設計に制限を受けることもなく、ホイップヨーグルトを簡便に製造できることを見出して本発明に至った。
【0010】
本発明は以下の態様を有するホイップヨーグルト、及びホイップヨーグルトの製造方法に関する;
項1.ゼラチン及び発酵セルロースを含有する、ホイップヨーグルト。
項2.脂肪含量が0.1〜5質量%である、項1に記載のホイップヨーグルト。
項3.乾燥こんにゃく加工品を含有する、項1又は2に記載のホイップヨーグルト。
項4.アルギン酸プロピレングリコールエステル、アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群から選択される一種以上を含有する、項1〜3のいずれかに記載のホイップヨーグルト。
項5.乳原料、ゼラチン及び発酵セルロースを含有する乳原料溶液を発酵後、起泡することを特徴とするホイップヨーグルトの製造方法。
項6.ゼラチン及び発酵セルロースを含有する溶液と発酵乳を混合後、起泡することを特徴とするホイップヨーグルトの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ムースに類似する滑らかな食感を有し、気泡の長期安定性に優れたホイップヨーグルトを提供することができる。更に本発明によれば、ヨーグルト中の脂肪含量などの処方設計に制限を受けることもなく、ホイップヨーグルトを簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(I)ホイップヨーグルト
本発明のホイップヨーグルトはゼラチン及び発酵セルロースを含有することを特徴とする。ゼラチンは、動物の皮膚や骨、腱などの結合組織の主成分であるコラーゲンに熱を加え、抽出した多糖類であり、ゼリー用のゲル化剤として多用されている。本発明では、由来原料などに特に制限されず、各種市販されているゼラチンを用いることができる。本発明のホイップヨーグルトにおけるゼラチンの含量は、通常、0.1〜2質量%、好ましくは0.2〜1.5質量%、更に好ましくは0.4〜1質量%の範囲内である。ゼラチン含量が0.1質量%未満であると、ヨーグルトが十分にセットせず、気泡が経時的に上昇、成長し、上層は気泡が粗く、下層は気泡が細かいという不均一な状態になる場合があり、一方でゼラチン含量が2質量%を超えると口溶けが悪くなり、気泡感を感じにくくなる場合がある。
【0013】
本発明で用いる発酵セルロースは、セルロース生産菌(例.アセトバクター属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属等に属する細菌)が産生するセルロースである。発酵セルロースは、植物由来の一般的なセルロース繊維の繊維径に比べて非常に微細な繊維径を有する。一方でその繊維長は長く、純粋な結晶領域のみを取得して得られる結晶セルロースとは大きく異なる。
【0014】
本発明では発酵セルロースとして、好ましくは当該発酵セルロースと他の高分子物質との複合化体である発酵セルロース複合体を使用できる。当該複合体は、発酵セルロースと他の高分子物質とから実質的になり、好ましくは発酵セルロース繊維の表面に他の高分子物質が付着している。このような複合化に使用される「他の高分子物質」は、食品に使用可能な高分子物質であれば特に限定されない。例えば、ガラクトマンナン、カルボキシメチルセルロース(CMC)とその塩、タマリンド種子ガム、ペクチン、トラガントゴム、カラヤガム、カラギナン、寒天、アルギン酸とその塩、ジェランガム、カードラン、プルラン、サイリウムシードガム、グルコマンナン、キチン、キトサン等が挙げられる。
【0015】
なかでも好ましくは、ガラクトマンナン、並びにカルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩が挙げられる。ガラクトマンナンとして好ましくはグァーガムが挙げられ、CMC又はその塩として好ましくはCMCナトリウムが挙げられる。
本発明では特に、グァーガムと、CMC又はその塩を用いて複合化された発酵セルロースを好適に使用できる。
【0016】
発酵セルロース複合体は、例えば、発酵セルロースを含有する液体(所望により、本液体が含有し得る発酵セルロース生産菌体をアルカリ処理等によって溶解することが可能である)と他の高分子物質の溶液とを混合し、その後、イソプロピルアルコール等のアルコール沈殿又はスプレードライ等によって発酵セルロース複合体を取得する方法、発酵セルロースのゲルを他の高分子物質の溶液に浸漬させる方法、又は特開平09−121787号公報に開示されている方法、具体的には、発酵セルロース産生微生物の培養において、用いる培地中に他の高分子物質を添加する方法等を用いて、発酵セルロースの複合化が可能である。なお、所望により、発酵セルロース複合体を乾燥させて、乾燥粉末を得ることができる。
【0017】
かかる発酵セルロース複合体の乾燥粉末は商業上入手可能であり、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンアーティスト[登録商標]PG(グァーガム、CMCナトリウム及び発酵セルロースの複合体製剤)」を例示できる。
【0018】
本発明のホイップヨーグルトにおける発酵セルロース(単体として)の含量は、通常、0.02〜0.16質量%、好ましくは0.02〜0.12質量%、更に好ましくは0.03〜0.08質量%の範囲内である。発酵セルロース含量が0.02質量%未満であると、気泡が粗く、経時的に気泡分布も不均一となる場合があり、一方で発酵セルロース含量が0.16質量%を超えるとヨーグルト自体の風味が悪くなる場合がある。また、本発明では、ゼラチン1質量部に対して、0.02〜0.16質量部、更に好ましくは0.05〜0.12質量部の発酵セルロースを用いることが望ましい。
【0019】
本発明のホイップヨーグルトはゼラチン及び発酵セルロースを含有する以外は、通常のヨーグルトに用いられる原料を使用することができる。
(乳原料)
ホイップヨーグルトに使用できる乳原料としては、例えば「乳及び乳製品の成分規等に関する省令」の「発酵乳」等に例示されている原料を使用できる。具体的には、牛乳、脱脂粉乳、全粉乳、乳清タンパク質、カゼイン等を例示できる。ホイップヨーグルト中の乳原料の含量としては、無脂乳固形分換算で8〜20質量%を例示できる。
【0020】
(その他原料)
その他、ホイップヨーグルトに使用できる原料として、砂糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖、異性化糖、オリゴ糖、キシロース、トレハロース、パラチノース、水あめ等の糖類及びソルビトール、ラクチトール、キシリトール、パラチニット、還元澱粉糖化物等の糖アルコール類、甘味料、色素、香料、多糖類、乳化剤等を例示できる。これらは最終製品(ホイップヨーグルト)の目的に応じて、適宜処方設計することが可能である。
【0021】
本発明のホイップヨーグルトは好ましくは脂肪含量が0.1〜5質量%、更に好ましくは0.1〜3質量%の範囲内である。従来のホイップヨーグルトの製法、例えば、予め起泡させたホイップクリーム及び発酵乳を混合する方法によれば、最終製品(ホイップヨーグルト)のオーバーランはホイップクリームの混合量に依存する。オーバーランが高く、滑らかな食感を有するホイップヨーグルトを提供するためには、混合するクリーム含量を増加させる必要があり、結果として最終製品の脂肪含量は5質量%を超える場合が大半である。一方、本発明では脂肪含量が5質量%以下であっても、滑らかな食感を有するホイップヨーグルトを提供できるという利点を有する。
【0022】
別の側面によれば、一般的に脂肪は泡膜の表面張力を低下させ、消泡する作用がある。
従って、上記製法(予め起泡させたホイップクリーム及び発酵乳を混合する方法)以外の製造方法においては、脂肪分を有し、かつムースのような滑らかな食感と気泡の長期安定性を兼ね備えたホイップヨーグルトを調製することは困難であった。かかるところ、本発明では脂肪分を含有し、また脂肪含量が1質量%以上、更には5質量%を超える場合であっても、滑らかな食感及び気泡の長期安定性を兼ね備えたホイップヨーグルトを提供できるという利点を有する。なお、脂肪含量の上限は特に制限されないが、15質量%を例示できる。
【0023】
本発明において脂肪含量とは、乳脂肪含量をいう。例えば、一般的な牛乳の乳脂肪含量は約3.5質量%、全脂肪粉乳の乳脂肪含量は約25質量%である。
【0024】
本発明のホイップヨーグルトは、好ましくはオーバーランが20〜150%、更に好ましくは50〜100%に調整されていることが望ましい。また、本発明のホイップヨーグルトに含まれる気泡は200〜500μmの粒子径を有することが好ましい。
【0025】
本発明のホイップヨーグルトは、更に、こんにゃく粉、糖質及び澱粉を合わせて調製した乾燥こんにゃく加工品を含有することが好ましい。乾燥こんにゃく加工品を併用することで、ホイップヨーグルトの経時安定性(食感、気泡保持性)が向上する。
【0026】
乾燥こんにゃく加工品は、こんにゃく粉、糖質及び澱粉を合わせて複合組成物としたものであり、粒状、糸状、粉末状等の任意形状を有するように加工されたものである。
用いる糖質としては、例えば、ショ糖、乳糖、水飴等の糖類や糖アルコールなどを例示でき、好ましくは水飴である。澱粉は、加工の有無に関わらず各種食品に使用可能な澱粉を用いることができる。乾燥こんにゃく加工品中のこんにゃく粉、糖質及び澱粉の組成は特に制限されない。好ましい例として、乾燥こんにゃく加工品中、こんにゃく粉5〜30重量%、水飴30〜90重量%及び澱粉5〜30重量%を例示できる。
【0027】
乾燥こんにゃく加工品は、こんにゃく粉、糖質及び澱粉を合わせて複合物として乾燥加工品としたものであり、水中で膨潤できるようなものに加工されていれば、どのような製法を採ってもよい。好ましい製造方法として、コンニャク芋から常法にてグルコマンナンを抽出して乾燥し、澱粉と混合し、水を添加して膨潤し、少量のアルカリを添加することによる脱アセチル化処理を行った後、成型、加熱ゲル化、中和、糖質溶液浸漬、乾燥することで製造する例を挙げることができる。更には、特許第2866609号或いは特許第3159104号に記載の方法で製造することができる。
【0028】
乾燥こんにゃく加工品の形態は任意であるが、通常、50メッシュ篩過、好ましくは80メッシュ篩過、更に好ましくは120メッシュ篩過の粉末形態の乾燥こんにゃく加工品を用いることが望ましい。このような製剤は、商業上入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のサンスマート[登録商標]400等のサンスマートシリーズを挙げることができる。本発明のホイップヨーグルトにおける乾燥こんにゃく加工品の含量は、通常、0.1〜1質量%、好ましくは0.1〜0.5質量%、更に好ましくは0.1〜0.3質量%の範囲内である。
【0029】
本発明のホイップヨーグルトはまた、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アラビアガム、ガティガム、及び大豆多糖類からなる群から選択される一種以上を含有することが好ましい。アルギン酸プロピレングリコールエステル、アラビアガム、ガティガム、及び大豆多糖類からなる群から選択される一種以上を用いることで、より気泡保持性(気泡安定力)に優れ、且つ気泡感を十分に感じるムース様食感をホイップヨーグルトに付与することができる。本発明のホイップヨーグルトにおける、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アラビアガム、ガティガム、及び大豆多糖類からなる群から選択される一種以上の含量は、通常、0.1〜2質量%、好ましくは0.2〜1質量%、更に好ましくは0.3〜0.5質量%の範囲内である。
【0030】
(II)ホイップヨーグルトの製造方法
本発明はまた、下記に掲げるホイップヨーグルトの製造方法にも関する。
(II―I)乳原料、ゼラチン及び発酵セルロースを含有する乳原料溶液を発酵後、起泡することを特徴とするホイップヨーグルトの製造方法。
(II―II)ゼラチン及び発酵セルロースを含有する溶液と発酵乳を混合後、起泡することを特徴とするホイップヨーグルトの製造方法。
【0031】
(製造方法II―I)
本製法では、乳原料、ゼラチン及び発酵セルロース、必要に応じて乾燥こんにゃく加工品や、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群から選択される一種以上を含有する乳原料溶液を発酵後、起泡することで、ホイップヨーグルトを製造することを特徴とする。本製法によれば、いわゆるオールミックス法を用いて、極めて簡便にホイップヨーグルトを製造できるという利点を有する。
【0032】
乳原料溶液は、水に、上記「(I)ホイップヨーグルト」に記載の乳原料、ゼラチン及び発酵セルロースを添加及び混合することで得られる。所望により、本乳原料溶液は70〜90℃に加熱される。発酵工程は、例えば、乳原料溶液にスターターを添加し、40〜45℃でpH4.6となるまで発酵することで達成し得る。
かくして得られたヨーグルトを起泡することで、ホイップヨーグルトを製造できる。起泡工程は、例えば、ミキサー等の攪拌機械を用いて約30〜120秒間ホイップすることで実施できる。所望により、起泡後のヨーグルトを容器に充填、冷却することでホイップヨーグルトが得られる。
【0033】
(製造方法II―II)
本製法では、ゼラチン及び発酵セルロース、必要に応じて乾燥こんにゃく加工品や、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アラビアガム、ガティガム及び大豆多糖類からなる群から選択される一種以上を含有する溶液と発酵乳を混合後、起泡することを特徴とする。ゼラチン及び発酵セルロースを含有する溶液は、水にゼラチン及び発酵セルロースを添加することで得られる。所望により、本溶液は70〜90℃に加熱される。
発酵乳は、乳原料を含有した溶液を発酵することで得られる。例えば、乳原料を含有した溶液にスターターを添加し、40〜45℃でpH4.6となるまで発酵することで得られる。ゼラチン及び発酵セルロースを含有する溶液と発酵乳は、混合時に所望により15〜20℃に調整される。起泡工程は、上記(製造方法II−I)と同様の工程をとることができる。所望により、起泡後のヨーグルトを容器に充填、冷却することでホイップヨーグルトが得られる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%
」、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製であることを意味する。
【0035】
実験例1 ホイップヨーグルト
表1及び表2の処方に基づき、ホイップヨーグルトを製造した。
具体的には、イオン交換水及び牛乳に、全脂粉乳、脱脂粉乳、砂糖及び多糖類の粉体混合物を加え、70℃で10分間撹拌溶解した。全量が100質量部となるようにイオン交換水にて蒸発水を補正後、均質化処理を行なった(150kgf/cm)。
次いで90℃にて10分間加熱殺菌後、約40℃まで冷却し、スターターを添加した。
40℃の恒温器内でpH4.6となるまで発酵した。発酵したヨーグルトを10℃まで冷却し、カードを破砕した。オーバーランが50%程度になるまで、ミキサー(スタンドミキサー型式KSM5(Kitchen Aid Inc.製))を用いて、1分間ホイップすることで起泡させ、容器に充填後、冷却することでホイップヨーグルトを調製した。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
注1)発酵セルロース複合体製剤「サンアーティスト※PG*」を使用。
(発酵セルロース、CMCナトリウム及びグァーガムの複合体製剤、製剤中の発酵セルロース含量は20質量%)
注2)結晶セルロース製剤として「セオラス SC−900(旭化成(株))」を使用。
(製剤中の微結晶セルロース含量は73質量%)
【0039】
得られたホイップヨーグルトについて、調製後1日経過時点、並びに1週間経過時点での気泡分散状態及び食感について評価した。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
ゼラチン及び発酵セルロースを含有した実施例1−1のホイップヨーグルトは、細かい気泡が均一に分布し、気泡感を感じながらもムースに類似する滑らかな食感を有していた。ゼラチン単独使用の比較例1−1は気泡が若干粗く、また1週間経過後には気泡分布が不均一となってしまった。発酵セルロース単独使用の比較例1−2は、調製1日後から既に容器底部に離水が発生し、気泡分布も不均一であった。結晶セルロース及びゼラチンを併用した比較例1−3も調製直後から気泡が若干粗く、1週間経過後には気泡分布が不均一となってしまった。
【0042】
実験例2 ホイップヨーグルト
表4及び5の処方に基づきホイップヨーグルトを製造した。
(発酵乳の調製)
表4の処方に基づき発酵乳を調製した。具体的には、イオン交換水に脱脂粉乳及び砂糖の粉体混合物を加え、70℃で10分間撹拌溶解した。150kgf/cmで均質化処理を行なった後、90℃にて10分間加熱溶解した。42℃まで冷却した後、スターターを添加し、40℃の恒温室内でpH4.6まで発酵した。10℃まで冷却してカードを破砕し、発酵乳を調製した。
【0043】
【表4】
【0044】
(多糖類溶液(ゼラチン及び発酵セルロースを含有する溶液)の調製)
表5の処方に基づき多糖類溶液を調製した。具体的には、80℃のイオン交換水にゼラチン、発酵セルロース及び乾燥こんにゃく加工品を加え、80℃で10分間撹拌溶解した。150kgf/cmで均質化処理を行なった後、20℃まで冷却し、多糖類溶液を調
製した。
【0045】
【表5】
【0046】
注3)「サンスマート※400*(120メッシュ篩過)」を使用。
【0047】
(ホイップヨーグルトの調製)
調製した発酵乳及び多糖類溶液を8:2の比率で混合し、10℃まで冷却した。10℃にてオーバーランが70%程度になるまで、ミキサー(スタンドミキサー型式KSM5(Kitchen Aid Inc.製))を用いて、70秒間ホイップすることで起泡させた。容器に充填、冷却することでホイップヨーグルトを調製した。
得られたホイップヨーグルトについて、調製後1日経過時点、並びに1週間経過時点での気泡分散状態及び食感について評価した。結果を表6に示す。
【0048】
【表6】
【0049】
実験例3 ホイップヨーグルト
表7の処方に基づき、ホイップヨーグルトを製造した。
具体的には、イオン交換水及び牛乳に、全脂粉乳、脱脂粉乳、砂糖及び多糖類の粉体混合物を加え、70℃で10分間撹拌溶解した。全量が100質量部となるようにイオン交換水にて蒸発水を補正後、均質化処理を行なった(150kgf/cm)。
次いで90℃にて10分間加熱殺菌後、約40℃まで冷却し、スターターを添加した。
40℃の恒温器内でpH4.6となるまで発酵した。発酵したヨーグルトを10℃まで冷却し、カードを破砕した。オーバーランが50%程度になるまで、ミキサー(スタンドミキサー型式KSM5(Kitchen Aid Inc.製))を用いて、1分間ホイップすることで起泡させ、容器に充填後、冷却することでホイップヨーグルトを調製した。
【0050】
【表7】
【0051】
得られたホイップヨーグルトについて、調製後1日経過時点、並びに1週間経過時点での気泡分散状態及び食感について評価した。結果を表8に示す。
【0052】
【表8】
【0053】
実験例4 ホイップヨーグルト
表9の処方に基づき、ホイップヨーグルトを製造した。
具体的には、イオン交換水に、脱脂粉乳、砂糖及び多糖類の粉体混合物を加え、70℃で10分間撹拌溶解した。全量が100質量部となるようにイオン交換水にて蒸発水を補正後、均質化処理を行なった(150kgf/cm)。
次いで90℃にて10分間加熱殺菌後、約40℃まで冷却し、スターターを添加した。
40℃の恒温器内でpH4.6となるまで発酵した。発酵したヨーグルトを10℃まで冷却し、カードを破砕した。オーバーランが50〜60%程度になるまで、ミキサー(スタンドミキサー型式KSM5(Kitchen Aid Inc.製))を用いて、1分間ホイップすることで起泡させ、容器に充填後、冷却することでホイップヨーグルトを調製した。
【0054】
【表9】
【0055】
得られたホイップヨーグルトについて、調製後1日経過時点、並びに1週間経過時点での気泡分散状態及び食感について評価した。結果を表10に示す。
【0056】
【表10】
【0057】
ゼラチン及び発酵セルロースに加え、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アラビアガム、ガティガム又は大豆多糖類を併用した実施例4−2〜4−5のホイップヨーグルトは、実施例4−1に比べて、より気泡安定力が向上し、更に気泡感を十分に感じる、ムース様の軽い食感を有していた(より細かな気泡感を感じるものであった)。特に、アルギン酸プロピレングリコールエステルを併用した実施例4−2のホイップヨーグルトが最も気泡感を感じる食感であった。