特許第6227325号(P6227325)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社貝印刃物開発センターの特許一覧

<>
  • 特許6227325-鋏 図000002
  • 特許6227325-鋏 図000003
  • 特許6227325-鋏 図000004
  • 特許6227325-鋏 図000005
  • 特許6227325-鋏 図000006
  • 特許6227325-鋏 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227325
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】鋏
(51)【国際特許分類】
   B26B 13/16 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   B26B13/16
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-175699(P2013-175699)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-43823(P2015-43823A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001454
【氏名又は名称】株式会社貝印刃物開発センター
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】黄 鴻泰
【審査官】 中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0144015(US,A1)
【文献】 実開昭54−141583(JP,U)
【文献】 特開2000−262776(JP,A)
【文献】 特開2005−052246(JP,A)
【文献】 特開平09−313752(JP,A)
【文献】 特開昭60−130313(JP,A)
【文献】 特開平9−173659(JP,A)
【文献】 特開昭58−152583(JP,A)
【文献】 特開平8−331979(JP,A)
【文献】 特開平1−308583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26B 13/00−13/28
B25B 7/00− 7/22
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の刀身を回動支持部で互いに開閉可能に支持し、その回動支持部の回動中心線より基端側で両刀身に柄部を設けるとともに、その回動支持部の回動中心線より先端側で両刀身に刃部を設けた鋏において、
この回動支持部は両刀身のうち一方の刀身に設けた軸部と他方の刀身に設けた軸孔とを有し、その軸部と軸孔とは両刀身を所定開き角度だけ互いに開いた際に挿脱されて、両刀身をこの回動支持部における回動中心線の方向へ互いに着脱させることができ、
両刀身のうち一方の刀身の柄部に設けた収容部には一方の刀身の柄部に設けた把持部と前記回動支持部の回動中心線との間で可動伝達部材をこの回動支持部の回動中心線に対し所定距離離間した回動中心線を中心に回動可能に支持し、
この可動伝達部材の外周には歯列を可動伝達部材の回動中心線を中心とする円弧状に形成するとともに、他方の刀身の柄部には歯列を前記回動支持部の回動中心線を中心とする円弧状に形成して、それらの歯列を互いに着脱可能に噛み合わせ、前記収容部で可動伝達部材の回動中心線の周囲に嵌め込んだねじりコイルばねによる付勢力をこの可動伝達部材の歯列を介して他方の刀身の柄部の歯列に伝達して、両刀身の刃部及び柄部をそれぞれ互いに開くように付勢する
ことを特徴とする鋏。
【請求項2】
前記収容部は一方の刀身の柄部に形成した凹所であって、前記可動伝達部材とねじりコイルばねとは、凹所内でその凹所の開口縁の内側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の鋏。
【請求項3】
前記両刀身の柄部のうち、一方の刀身の柄部にはロックレバーを取り付けるとともに、他方の刀身の柄部にはこのロックレバーが係脱されるロック孔を形成し、
前記ねじりコイルばねの付勢力により一方の刀身の柄部に対し他方の刀身の柄部が開くようにロックレバーがロック孔に対し離脱したロック解除状態と、前記ねじりコイルばねの付勢力に抗して一方の刀身の柄部に対し他方の刀身の柄部が開くのを阻止するようにロックレバーがロック孔に係入されたロック状態とを取り、
このロックレバー及びロック孔には、前記ロック状態で前記ねじりコイルばねの付勢力に抗して一方の刀身の柄部に対し他方の刀身の柄部を閉じる向きに回動させた際にロックレバーがロック孔から離脱して前記ロック解除状態を取るようにカム面を形成した
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋏。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柄部と刃部とを有する一対の刀身を回動支持部で互いに開閉可能に支持した鋏に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記の特許文献1にかかる鋏では、一対の刃部を互いに噛み合わせる方向に付勢して両刀身の開閉を補助するばねが一対の柄部間に止着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭59−109417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1にかかる鋏では、一方の柄部に対し他方の柄部を開閉させる際に、その開閉の動きによりばねが大きく変形して使用者がばねに触れ易くなるため、ばねが邪魔になって両柄部を円滑に開閉させにくくなり、使い勝手が悪くなることがある。また、刀身の洗浄などのメンテナンスを容易にするために一対の刀身を互いに組付けたり分解したりすることができるように連結する場合、刀身に対するばねの着脱を容易にする必要がある。しかし、特許文献1にかかる鋏では、ばねが両柄部間に止着されて懸架されているため、両刀身を容易に着脱することができない。
【0005】
この発明は、両刀身の開閉の動きにより付勢部材が影響を受けにくくして両刀身を円滑に開閉させ易くするとともに、開閉を補助する付勢部材を設けた両刀身を互いに組付けたり分解したりすることができるように連結する場合、一方の刀身に対し他方の刀身を容易に着脱することができる鋏を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
後記実施形態の図面(図1〜6)の符号を援用して本発明を説明する。
請求項1の発明にかかる鋏は、下記のように構成されている。
一対の刀身(1,2)を回動支持部(3)で互いに開閉可能に支持し、その回動支持部(3)の回動中心線(14a)より基端側で両刀身(1,2)に柄部(4,5)を設けるとともに、その回動支持部(3)の回動中心線(14a)より先端側で両刀身(1,2)に刃部(6,7)を設けている。この回動支持部(3)は両刀身(1,2)のうち一方の刀身(1)に設けた軸部(14)と他方の刀身(2)に設けた軸孔(15)とを有し、その軸部(14)と軸孔(15)とは両刀身(1,2)を所定開き角度(θ)だけ互いに開いた際に挿脱されて、両刀身(1,2)をこの回動支持部(3)における回動中心線(14a)の方向へ互いに着脱させることができる。両刀身(1,2)のうち一方の刀身(1)の柄部(4)に設けた収容部(11)には一方の刀身(1)の柄部(4)に設けた把持部(12)と前記回動支持部(3)の回動中心線(14a)との間で可動伝達部材(16)をこの回動支持部(3)の回動中心線(14a)に対し所定距離離間した回動中心線(17a)を中心に回動可能に支持している。この可動伝達部材(16)の外周には歯列(19)を可動伝達部材(16)の回動中心線(17a)を中心とする円弧状に形成するとともに、他方の刀身(2)の柄部(5)には歯列(20)を前記回動支持部(3)の回動中心線(14a)を中心とする円弧状に形成して、それらの歯列(19,20)を互いに着脱可能に噛み合わせている。前記収容部(11)で可動伝達部材(16)の回動中心線(17a)の周囲に嵌め込んだねじりコイルばね(18)による付勢力をこの可動伝達部材(16)の歯列(19)を介して他方の刀身(2)の柄部(5)の歯列(20)に伝達して、両刀身(1,2)の刃部(6,7)及び柄部(4,5)をそれぞれ互いに開くように付勢している。
【0007】
請求項1の発明は下記(イ)〜(ヌ)の特徴を有している。
(イ) 一方の刀身(1)側に可動伝達部材(16)及びねじりコイルばね(18)を設けたので、一方の刀身(1)に対し他方の刀身(2)を開閉させる際に、その開閉の動きによりねじりコイルばね(18)が影響を受けにくくなって両刀身(1,2)を円滑に開閉させ易くすることができる。また、一対の刀身(1,2)を互いに組付けたり分解したりすることができるように連結する場合、他方の刀身(2)に対するねじりコイルばね(18)の連係がないので、一方の刀身(1)に対し他方の刀身(2)を容易に着脱することができる。
【0008】
(ロ) 前記可動伝達部材(16)は一方の刀身(1)の柄部(4)に取り付けられている。前記ねじりコイルばね(18)はこの可動伝達部材(16)とこの一方の刀身(1)の柄部(4)との間に設けられている。前記回動支持部(3)は前記両刀身(1,2)を互いに組付けたり分解したりすることができる連結部(軸部14、軸孔15)を有している。このねじりコイルばね(18)による付勢力をこの可動伝達部材(16)を介して他方の刀身(2)の柄部(5)に伝達し得る連動部(歯列19、歯列20)は、この可動伝達部材(16)と他方の刀身(2)の柄部(5)とに設けられ、前記両刀身(1,2)を互いに組付けたり分解したりする際に互いに着脱可能である。従って、一方の刀身(1)の柄部(4)側に可動伝達部材(16)及びねじりコイルばね(18)を設けたので、他方の刀身(2)に対するねじりコイルばね(18)の連係がなく、一方の刀身(1)に対し他方の刀身(2)を容易に着脱することができる。
【0009】
(ハ) 前記可動伝達部材(16)は、一方の刀身(1)の柄部(4)に設けた把持部(12)と前記回動支持部(3)との間に取り付けられている。従って、可動伝達部材(16)を把持部(12)と回動支持部(3)との間に配置して柄部(4)の把持部(12)を支障なく把持することができる。
【0010】
(ニ) 前記可動伝達部材(16)は一方の刀身(1)の柄部(4)に回動可能に支持されている。従って、ねじりコイルばね(18)による付勢力を可動伝達部材(16)の回動により他方の刀身(2)に対し円滑に伝達することができる。
【0011】
(ホ) 前記可動伝達部材(16)の連動部と他方の刀身(2)の柄部(5)の連動部とは、互いに着脱可能に噛み合う歯列(19,20)である。従って、ねじりコイルばね(18)による付勢力を可動伝達部材(16)と他方の刀身(2)の柄部(5)との間で円滑に連動させることができる。
【0012】
(ヘ) 前記ねじりコイルばね(18)は可動伝達部材(16)と一方の刀身(1)の柄部(4)との間に設けた収容部(11)に嵌め込まれている。従って、ねじりコイルばね(18)を一方の刀身(1)側にコンパクトに配置することができる。
【0016】
(ト) 前記可動伝達部材(16)における回動中心線(17a)は、前記両刀身(1,2)間の回動支持部(3)における回動中心線(14a)に対し所定距離離間している。従って、回動支持部(3)の回動中心線(14a)を中心とする両刀身(1,2)の開閉動作と、回動中心線(17a)を中心とする可動伝達部材(16)の回動とを互いに円滑に連動させることができる。
【0017】
(チ) 前記両刀身(1,2)間の回動支持部(3)における連結部(軸部14、軸孔15)は、両刀身(1,2)を所定開き角度(θ)だけ互いに開いた際に、両刀身(1,2)をこの回動支持部(3)における回動中心線(14a)の方向へ互いに着脱させることができる。従って、両刀身(1,2)を所定開き角度(θ)だけ互いに開いた状態で両刀身(1,2)を互いに組付けたり分解したりすることができるので、その所定開き角度(θ)以外の状態で両刀身(1,2)を円滑に開閉させることができる。
【0018】
(リ) 前記連結部は、両刀身(1,2)のうち一方に設けた軸部(14)と他方に設けた軸孔(15)であって、その軸部(14)と軸孔(15)とは両刀身(1,2)を互いに組付けたり分解したりする際に互いに挿脱される。従って、軸部(14)と軸孔(15)とにより両刀身(1,2)間の連結部を回動支持部(3)における回動中心線(14a)の方向へ互いに容易に着脱させることができる。
【0019】
(ヌ) 前記回動支持部(3)より基端側で両刀身(1,2)に柄部(4,5)を設けるとともに、その回動支持部(3)より先端側で両刀身(1,2)に刃部(6,7)を設けた。従って、両刀身(1,2)をX状に交差させた洋鋏において、上記の効果を発揮させることができる。
請求項1の発明を前提とする請求項2の発明にかかる収容部は、一方の刀身(1)の柄部(4)に形成した凹所(11)であって、前記可動伝達部材(16)とねじりコイルばね(18)とは、凹所(11)内でその凹所(11)の開口縁(11a)の内側に配置されている。請求項2の発明では、可動伝達部材(16)とねじりコイルばね(18)とを凹所(11)内に収容して一方の刀身(1)側にコンパクトに配置することができる。
【0020】
請求項1または請求項2の発明を前提とする請求項3の発明においては、前記両刀身(1,2)の柄部(4,5)のうち、一方の刀身(1)の柄部(4)にはロックレバー(21)を取り付けるとともに、他方の刀身(2)の柄部(5)にはこのロックレバー(21)が係脱されるロック孔(22)を形成し、前記ねじりコイルばね(18)の付勢力により一方の刀身(1)の柄部(4)に対し他方の刀身(2)の柄部(5)が開くようにロックレバー(21)がロック孔(22)に対し離脱したロック解除状態(A)と、前記ねじりコイルばね(18)の付勢力に抗して一方の刀身(1)の柄部(4)に対し他方の刀身(2)の柄部(5)が開くのを阻止するようにロックレバー(21)がロック孔(22)に係入されたロック状態(B)とを取り、このロックレバー(21)及びロック孔(22)には、前記ロック状態(B)で前記ねじりコイルばね(18)の付勢力に抗して一方の刀身(1)の柄部(4)に対し他方の刀身(2)の柄部(5)を閉じる向きに回動させた際にロックレバー(21)がロック孔(22)から離脱して前記ロック解除状態(A)を取るようにカム面(21a,22a)を形成した。請求項3の発明では、両刀身(1,2)をX状に交差させた洋鋏において両刀身(1,2)のロックを容易に解除させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、柄部(4,5)と刃部(6,7)とを有する一対の刀身(1,2)を回動支持部(3)で互いに開閉可能に支持し、両刀身(1,2)間に鋏の開閉を補助する付勢部材(18)を設けた鋏において、両刀身(1,2)の開閉の動きにより付勢部材(18)が影響を受けにくくなり、両刀身(1,2)を円滑に開閉させ易くして使い勝手を良くすることができる。また、一対の刀身(1,2)を互いに組付けたり分解したりすることができるように連結する場合、一方の刀身(1)に対し他方の刀身(2)を容易に着脱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】鋏全体を組み付けて閉じた状態を示す斜視図である。
図2】(a)は鋏全体を分解して示す斜視図であり、(b)は(a)において可動伝達部材とねじりコイルばねとを互いに組み付けて示す部分斜視図である。
図3】鋏を閉じた状態を示す一部切欠き正面図である。
図4】鋏を開いた状態を示す一部切欠き正面図である。
図5】鋏の両刀身の離脱可能位置まで鋏を開いた状態を示す一部切欠き正面図である。
図6】鋏の両刀身を離脱させた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、鶏の骨肉を切断する際に使用する鋏について図面を参照して説明する。
図1及び図2に示すように、一対の刀身1,2が回動支持部3で開閉可能に支持され、この回動支持部3より基端側で両刀身1,2に柄部4,5が設けられているとともに、この回動支持部3より先端側で両刀身1,2には刃縁6a,7aと刃先6b,7bとを有する刃部6,7が設けられている。刀身2の刃部7には回動支持部3の付近で刃縁7aに連続する凹刃7cが形成されている。両刃部6,7の表面は粗面処理されている。両刀身1,2を互いに閉じた状態で、両刃部6,7の刃先6b,7bは少しずれている。
【0024】
両刀身1,2の柄部4,5においては、両刀身1,2の刃部6,7の金属製刃板8から延びる金属製支持板9に樹脂製の外被部10が設けられている。外被部10は、支持板9を金型内にインサートした状態でその金型に樹脂を注入して、その支持板9に対し一体成形される。両柄部4,5の外被部10のうち、一方の柄部4の外被部10には回動支持部3に隣接する凹所11を介して環状に延びる把持環12(把持部)が形成され、他方の柄部5の外被部10には回動支持部3から棒状に延びる把持部13が形成されている。
【0025】
回動支持部3においては、両刀身1,2のうち、一方の刀身1で刃板8と支持板9との境界部に連結部としての軸部14が取着されているとともに、他方の刀身2で刃板8と支持板9との境界部に連結部としての軸孔15が形成され、軸部14が軸孔15に挿入されて図3,4に示すように両刀身1,2が軸部14の回動中心線14aを中心に回動して互いに開閉し得る。通常の使用時に両刀身1,2を開閉させても軸部14と軸孔15とが互いに係止されて両刀身1,2が回動支持部3で互いに分離されないが、図5に示すように軸部14と軸孔15とが互いに合致するまで両刀身1,2を最大の所定開き角度θだけ互いに開いて分離させることができる。なお、最大の所定開き角度θは約50度に設定されている。
【0026】
一方の柄部4の外被部10において回動支持部3と把持環12との間で凹所11(収容部)には、樹脂製の可動伝達部材16が回動支持部3の回動中心線14aに対し平行で所定距離離間した支軸17の回動中心線17aを中心にして回動可能に支持されている。また、可動伝達部材16の内側で凹所11にはねじりコイルばね18が可動伝達部材16の回動中心線17aの周囲に嵌め込まれ、ねじりコイルばね18の両腕18a,18bのうち一方の腕18aが可動伝達部材16に掛止めされているとともに他方の腕18bが凹所11内で支持板9に掛止めされて、ねじりコイルばね18の付勢力が可動伝達部材16に付与されている。可動伝達部材16とねじりコイルばね18とは凹所11内でその凹所11の開口縁11aの内側に配置されている。
【0027】
可動伝達部材16の外周には樹脂製の歯列19(連動部)が回動中心線17aを中心とする円弧状に形成され、他方の柄部5の外被部10には樹脂製の歯列20(連動部)が回動支持部3の回動中心線14aを中心とする円弧状に形成され、それらの歯列19,20が互いに噛み合わされている。ねじりコイルばね18の付勢力は、可動伝達部材16を介してそれらの歯列19,20に伝達され、両刀身1,2の刃部6,7及び柄部4,5をそれぞれ互いに開くように作用する。
【0028】
図3,4に示すように、一方の刀身1の柄部4の外被部10の端部にはロックレバー21が回動可能に支持されているとともに、他方の刀身2の柄部5の外被部10の端部にはロック孔22が形成され、ロックレバー21がロック孔22に係脱される。図4に示すようにロックレバー21がロック孔22に対し離脱したロック解除状態Aでは、ねじりコイルばね18の付勢力により一方の刀身1の柄部4に対し他方の刀身2の柄部5が開く。図3に示すようにロックレバー21がロック孔22に係入されたロック状態Bでは、ねじりコイルばね18の付勢力に抗して一方の刀身1の柄部4に対し他方の刀身2の柄部5が開くのを阻止する。ロックレバー21及びロック孔22には、ロック状態Bでねじりコイルばね18の付勢力に抗して一方の刀身1の柄部4に対し他方の刀身2の柄部5を閉じる向きに若干回動させた際にロックレバー21がロック孔22から離脱してロック解除状態Aを取るようにカム面21a,22aが形成されている。
【0029】
次に、鋏の開閉作用と両刀身1,2の分解及び組付けについて説明する。
図4に示すようにねじりコイルばね18の付勢力により一方の刀身1の柄部4に対し他方の刀身2の柄部5が開いたロック解除状態Aで、両刀身1,2の柄部4,5を互いに閉じるように回動支持部3の回動中心線14aを中心にして回動させると、可動伝達部材16が両柄部4,5の歯列19,20を介して回動中心線17aを中心に回動してねじりコイルばね18が蓄圧される。両柄部4,5を閉じる力を緩めると、ねじりコイルばね18の付勢力により可動伝達部材16が回動中心線17aを中心に回動し、両柄部4,5が歯列19,20を介して回動支持部3の回動中心線14aを中心に回動して互いに開く。このようにして両柄部4,5を開閉させる際に、ねじりコイルばね18は両柄部4,5を互いに開くように補助する。
【0030】
図5に示すように回動支持部3において軸部14と軸孔15とが互いに合致するまで両刀身1,2を最大の所定開き角度θ(約50度)だけ互いに開き、図6に示すように軸部14を軸孔15から抜いて両刀身1,2を互いに分解する。両刀身1,2の柄部4,5を互いに分解させる際には、一方の柄部4に支持された可動伝達部材16の歯列19と他方の柄部5の歯列20とを互いに離脱させる。また、回動支持部3において軸部14を軸孔15に挿入するとともにこれらの歯列19,20を互いに噛み合わせて両刀身1,2を互いに組み付けると、その最大所定開き角度θより小さい開き角度で両刀身1,2を互いに開閉させることができる。ねじりコイルばね18の付勢力は最大の所定開き角度θ(約50度)より若干小さい所定開き角度まで両刀身1,2に付与される。
【0031】
本実施形態は下記の効果を有する。
(1) 回動支持部3より基端側で両刀身1,2に柄部4,5を設けるとともに、回動支持部3より先端側で両刀身1,2に刃部6,7を設けて、両刀身1,2をX状に交差させた洋鋏において、一方の刀身1の柄部4側に可動伝達部材16及びねじりコイルばね18を設けたので、一方の刀身1に対し他方の刀身2を開閉させる際に、その開閉の動きによりねじりコイルばね18が影響を受けにくくなるとともに、ねじりコイルばね18が邪魔にならず、両刀身1,2を円滑に開閉させ易くなって使い勝手を良くすることができる。
【0032】
(2) 前記洋鋏において、一方の刀身1の柄部4側に可動伝達部材16及びねじりコイルばね18を設けたので、他方の刀身2の柄部5に対するねじりコイルばね18の連係がなく、一方の刀身1に対し他方の刀身2を容易に着脱することができる。従って、鶏の骨肉を切断した際に刀身1,2に付着した汚れを容易に洗浄することができる。
【0033】
(3) 一方の刀身1の柄部4側において把持環12と回動支持部3との間で可動伝達部材16及びねじりコイルばね18を凹所11内に収容して、把持環12の把持に支障なくコンパクトに配置することができるとともに、ねじりコイルばね18の付勢力を可動伝達部材16の回動により他方の刀身2に対し円滑に伝達することができる。
【0034】
前記実施形態以外にも例えば下記のように構成してもよい。
【0035】
・ 一方の刀身1側に配設されたねじりコイルばね18による付勢力を、可動伝達部材16を介して他方の刀身2に伝達し得るように設けた連動部については、前述した歯列19,20が平歯車の一部を利用して構成され、それらの歯列19,20の基準ピッチ円直径については、歯列19が30mm、歯列20が24mmで、歯列19の方が大きく、歯数も歯列19の方が多くなっている。なお、歯列20の基準ピッチ円直径の方を大きくしたり、歯数も歯列20の方を多くしたり、歯列19,20の基準ピッチ円直径及び歯数を両者で等しくしたりしてもよい。また、前述した平歯車である歯列19,20以外の歯車を利用することができる。
【0040】
・ 両刀身1,2においては刃部6,7の金属製刃板8から延びる金属製支持板9に樹脂製外被部10が設けられているが、両刀身の全体を金属または樹脂により成形してもよい。
【0041】
図5に示すように軸部14と軸孔15とを互いに合致させて両刀身1,2を最大の所定開き角度θだけ互いに開いて分離させることができる位置より若干小さい所定開き角度までねじりコイルばね18の付勢力が付与されるので、その位置ではねじりコイルばね18の付勢力を他方の刀身2に伝達し得る付勢力伝達可能状態から伝達できなくなる付勢力伝達不能状態に変換されるが、その位置またはその位置を超えた位置までねじりコイルばね18の付勢力を付与してもよい。なお、最大の所定開き角度θについては40度〜120度に設定することができる。
【0042】
・ 両刀身1,2の開きを規制する回動規制部を歯列19,20による回動範囲内で設けてもよい。その回動規制部からさらに他方の刀身2を回動させた位置で軸部14と軸孔15とを互いに合致させるようにしてもよい。その回動規制部は、付勢力伝達可能状態で設けてもよいし、付勢力伝達不能状態で設けてもよい。さらに、歯列19,20による最大回動範囲位置を回動規制部として兼ねてもよい。なお、回動規制部としては、例えば、実公昭60−14440号公報に示すように規制手段としての両柄部の当接突部や、実開平1−69472号公報に示すように規制手段としての係止突部を採用することができる。
【0043】
・ 柄部については、例えば両柄部を共に環状または棒状に成形して、実施形態の両柄部4,5以外の形態に変更してもよい。また、両柄部を形状記憶合金や形状記憶樹脂で成形し、使用者の手の大きさや持ち方に合わせて両柄部の形態を変更できるようにしてもよい。
【0044】
・ 両刀身1,2の刃部6,7にふっ素樹脂コーティングやDLCコーティングなどを施して、汚れを落とし易くしたり、刃部6,7同士の摺動を円滑にするようにしたりしてもよい。また、刃部6,7の刃先6b,7bの先端にDLCコーティングや窒化チタンコーティング行って、刃先6b,7bの先端を硬化させてもよい。
【0045】
・ 鶏の骨肉を切断する際に使用する鋏について例示したが、鶏の骨肉以外の切断対象物を切断する際に使用する鋏に応用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1,2…刀身、3…回動支持部、4,5…柄部、6,7…刃部、11…凹所(収容部)、11a…凹所の開口縁、12…把持環(把持部)、14…回動支持部の軸部(連結部)、15…回動支持部の軸孔(連結部)、16…可動伝達部材、18…ねじりコイルばね(付勢部材)、19,20…歯列(連動部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6