特許第6227382号(P6227382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6227382コンクリートにおける塩分浸透量の推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227382
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】コンクリートにおける塩分浸透量の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20171030BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   G01N33/38
   G01N17/00
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-233701(P2013-233701)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-94650(P2015-94650A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年9月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2013年11月8日発行 「コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集」第13巻 119−124頁に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】宮里 心一
(72)【発明者】
【氏名】羽渕 貴士
(72)【発明者】
【氏名】網野 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】花岡 大伸
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0012470(US,A1)
【文献】 特開昭52−012245(JP,A)
【文献】 特開2008−298567(JP,A)
【文献】 遠藤裕丈 ほか,表面含浸材を施工したコンクリートの塩化物イオンの拡散係数に関する基礎的検討,寒地土木研究所 平成19年度技術研究発表会,2008年 2月 1日
【文献】 黒岩大地 ほか,けい酸塩系表面含浸材による改質部の見かけの拡散係数の推定と発錆遅延期間の試算,コンクリート工学年次論文集,2013年 6月15日,Vol. 35, No. 1,1669-1674
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
G01N 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面含浸材を表面に塗布したコンクリートから、前記表面含浸材が含浸した部分と含浸していない部分とを含んだ表層部サンプルと、前記表面含浸材が含浸していない部分のみからなる深層部サンプルとを採取して、前記表層部サンプルの塩化物イオンの拡散係数D’および前記深層部サンプルの塩化物イオンの拡散係数Dcを電気泳動法または拡散セル法により算出し、前記表層部サンプルについて、(1)式のフィックの拡散方程式の解に対して前記表面含浸材による等価かぶりを考慮して(2)式を導出し、(2)式および(3)式から導出した(4)式により見掛けのかぶり増加量Sを算出し、(1)式のDに前記拡散係数Dcを代入した曲線を、算出した見掛けのかぶり増加量Sだけx座標でマイナス方向に移動させた曲線により、前記コンクリートにおける表面から任意の深さ位置の任意の時刻での塩分浸透量を推定することを特徴とするコンクリートにおける塩分浸透量の推定方法。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
C(x、t):コンクリート表面からの深さx(mm)、時刻t(年)における塩化物イオン濃度(kg/m3
D:コンクリートの塩化物イオンの拡散係数(mm2/年)
0:コンクリート表面における塩化物イオン濃度(kg/m3
C’:表層部サンプルの厚さ(mm)
Cc:表層部サンプルでの表面含浸材が含浸していない部分の厚さ(mm)
Cs:表層部サンプルでの表面含浸材が含浸した部分の厚さ(mm)
Ds:表層部サンプルでの表面含浸材が含浸した部分の拡散係数(mm2/年)
erf:誤差関数
【請求項2】
表面含浸材を表面に塗布したコンクリートから、前記表面含浸材が含浸した部分と含浸していない部分とを含んだ表層部サンプルと、前記表面含浸材が含浸していない部分のみからなる深層部サンプルとを採取して、前記表層部サンプルの塩化物イオンの拡散係数D’および前記深層部サンプルの塩化物イオンの拡散係数Dcを電気泳動法または拡散セル法により算出し、前記表層部サンプルについて、(1)式のフィックの拡散方程式の解に対して前記表面含浸材による等価かぶりを考慮して(2)式を導出し、(2)式および(3)式から導出した(4)式により見掛けのかぶり増加量Sを算出し、前記表層部での表面含浸材が含浸した部分の厚さCsを、前記表面含浸材が撥水効果を有する材料の場合は前記表層部サンプルでの撥水層の厚さを測定することにより把握し、前記表面含浸材が撥水効果を有していない材料の場合は前記表層部サンプルでの硬度測定の結果に基づいて把握し、この把握した厚さCsを(4)式に代入することにより、表層部サンプルでの表面含浸材が含浸した部分の塩化物イオンの拡散係数Dsを算出し、(1)式を表面含浸材が含浸したコンクリートと含浸していないコンクリートの2層モデルに適用させた(5)式または(6)式により、前記コンクリートにおける表面から任意の深さ位置の任意の時刻での塩分浸透量を推定することを特徴とするコンクリートにおける塩分浸透量の推定方法。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
C(x、t):コンクリート表面からの深さx(mm)、時刻t(年)における塩化物イオン濃度(kg/m3
D:コンクリートの塩化物イオンの拡散係数(mm2/年)
0:コンクリート表面における塩化物イオン濃度(kg/m3
C’:表層部サンプルの厚さ(mm)
Cc:表層部サンプルでの表面含浸材が含浸していない部分の厚さ(mm)
Cs:表層部サンプルでの表面含浸材が含浸した部分の厚さ(mm)
Ds:表層部サンプルでの表面含浸材が含浸した部分の拡散係数(mm2/年)
erf:誤差関数
【請求項3】
前記コンクリートは塩分が浸透していないコンクリートである請求項1または2に記載のコンクリートにおける塩分浸透量の推定方法。
【請求項4】
前記コンクリートは既に塩分が浸透している既設のコンクリートである請求項1または2に記載のコンクリートにおける塩分浸透量の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートにおける塩分浸透量の推定方法に関し、さらに詳しくは、コンクリートにシラン系やけい酸塩系をはじめとする表面含浸材を塗布した場合にも塩分浸透量を精度よく推定できる高い汎用性を有し、簡便な推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩害を受けるコンクリート構造物では、その対策として、種々の表面被覆工法が施工されている。この工法では、表面被覆材として主に有機系材料や無機系材料が使用されているが、近年、安価かつ施工性に優れ、塩化物イオンの浸透を抑制できる材料として表面含浸材が注目されている。表面含浸材は、シラン系(撥水系)とけい酸塩系(非撥水系)とに大別される。シラン系の表面含浸材を塗布したコンクリートにおける塩分浸透量については、表面含浸材が表面に塗布され、塩分が浸透したコンクリートサンプルを用いて、電子線マイクロアナライザ(以下、EPMAという)により測定した塩分濃度分布に対する回帰分析で、シラン系表面含浸材が含浸している部分と含浸していない部分のコンクリートの拡散係数を求め、これらを用いて塩分浸透量を推定する方法が提案されている(非特許文献1参照)。
【0003】
この提案の推定方法では、シラン系の表面含浸材が含浸した表層の含浸部と、表面含浸材が含浸していない内部の未含浸部とにおけるコンクリートの塩化物イオンの拡散係数を、EPMAにより測定した塩分濃度分布に対する回帰分析で求め、別途、表面含浸材の含浸深さを把握し、これらを用いて塩分浸透量を推定する。したがって、この推定方法では、必ず表面含浸材の含浸深さCsを求めなければならないという問題があった。ここで、シラン系の表面含浸材が含浸した部分は撥水層として目視により確認できるので、含浸深さを把握することは比較的容易にできる。しかしながら、けい酸塩系の表面含浸材を用いた場合には、表面含浸材がコンクリート中の水酸化カルシウムと反応して固化し、或いは、表面含浸材自身が固化する特性を有しているので、表面含浸材の含浸深さを単純に把握することできない。また、この方法では、表面含浸材が含浸していないコンクリートにまで塩分が浸透していないコンクリートサンプルに対しては、未含浸部のコンクリートの拡散係数を求めることができないため、適用できないという問題があった。
【0004】
また、表面含浸材が含浸した部分の塩化物イオンの拡散係数は、EPMAによる高度な分析結果などから推定されているのが現状である。それ故、塩分浸透量を推定するには多大なコストおよび手間を要するという問題がある。また、既に塩分が浸透した既設コンクリートに対しては、EPMAより測定した塩分濃度分布に対する回帰分析では、既に浸透している塩分量と表面含浸材を塗布した後に浸透した塩分量を区別できないため、表面含浸材が含浸した部分の塩化物イオン拡散係数を求めることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】田中博一、他2名、「シラン系表面含浸材を用いたコンクリートの塩化物イオン浸透予測手法に関する研究」、公益社団法人日本材料学会発行、コンクリート構造物の補修、補強、アップグレード論文報告集、第12巻、2012年11月、P439〜444
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、コンクリートにシラン系やけい酸塩系をはじめとする表面含浸材を塗布した場合にも塩分浸透量を精度よく推定することができる高い汎用性を有し、簡便な塩分浸透量の推定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のコンクリートにおける塩分浸透量の推定方法は、表面含浸材を表面に塗布したコンクリートから、前記表面含浸材が含浸した部分と含浸していない部分とを含んだ表層部サンプルと、前記表面含浸材が含浸していない部分のみからなる深層部サンプルとを採取して、前記表層部サンプルの塩化物イオンの拡散係数D’および前記深層部サンプルの塩化物イオンの拡散係数Dcを電気泳動法または拡散セル法により算出し、前記表層部サンプルについて、(1)式のフィックの拡散方程式の解に対して前記表面含浸材による等価かぶりを考慮して(2)式を導出し、(2)式および(3)式から導出した(4)式により見掛けのかぶり増加量Sを算出し、(1)式のDに前記拡散係数Dcを代入した曲線を、算出した見掛けのかぶり増加量Sだけx座標でマイナス方向に移動させた曲線により、前記コンクリートにおける表面から任意の深さ位置の任意の時刻での塩分浸透量を推定することを特徴とする。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
C(x、t):コンクリート表面からの深さx(mm)、時刻t(年)における塩化物イオン濃度(kg/m3
D:コンクリートの塩化物イオンの拡散係数(mm2/年)
0:コンクリート表面における塩化物イオン濃度(kg/m3
C’:表層部サンプルの厚さ(mm)
Cc:表層部サンプルでの表面含浸材が含浸していない部分の厚さ(mm)
Cs:表層部サンプルでの表面含浸材が含浸した部分の厚さ(mm)
Ds:表層部サンプルでの表面含浸材が含浸した部分の拡散係数(mm2/年)
erf:誤差関数
【0008】
また、本発明のコンクリートにおける塩分浸透量の別の推定方法は、表面含浸材を表面に塗布したコンクリートから、前記表面含浸材が含浸した部分と含浸していない部分とを含んだ表層部サンプルと、前記表面含浸材が含浸していない部分のみからなる深層部サンプルとを採取して、前記表層部サンプルの塩化物イオンの拡散係数D’および前記深層部サンプルの塩化物イオンの拡散係数Dcを電気泳動法または拡散セル法により算出し、前記表層部サンプルについて、(1)式のフィックの拡散方程式の解に対して前記表面含浸材による等価かぶりを考慮して(2)式を導出し、(2)式および(3)式から導出した(4)式により見掛けのかぶり増加量Sを算出し、前記表層部での表面含浸材が含浸した部分の厚さCsを、前記表面含浸材が撥水効果を有する材料の場合は前記表層部サンプルでの撥水層の厚さを測定することにより把握し、前記表面含浸材が撥水効果を有していない材料の場合は前記表層部サンプルでの硬度測定の結果に基づいて把握し、この把握した厚さCsを(4)式に代入することにより、表層部サンプルでの表面含浸材が含浸した部分の塩化物イオンの拡散係数Dsを算出し、(1)式を表面含浸材が含浸したコンクリートと含浸していないコンクリートの2層モデルに適用させた(5)式または(6)式により、前記コンクリートにおける表面から任意の深さ位置の任意の時刻での塩分浸透量を推定することを特徴とする。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
C(x、t):コンクリート表面からの深さx(mm)、時刻t(年)における塩化物イオン濃度(kg/m3
D:コンクリートの塩化物イオンの拡散係数(mm2/年)
0:コンクリート表面における塩化物イオン濃度(kg/m3
C’:表層部サンプルの厚さ(mm)
Cc:表層部サンプルでの表面含浸材が含浸していない部分の厚さ(mm)
Cs:表層部サンプルでの表面含浸材が含浸した部分の厚さ(mm)
Ds:表層部サンプルでの表面含浸材が含浸した部分の拡散係数(mm2/年)
erf:誤差関数
【発明の効果】
【0009】
本発明の前者の塩分浸透量の推定方法によれば、表面含浸材を表面に塗布したコンクリートから採取した表層部サンプルおよび深層部サンプルについて、電気泳動法または拡散セル法の試験結果に基づき、前記表層部サンプルの塩化物イオンの見かけの拡散係数D’および前記深層部サンプルの塩化物イオンの見かけの拡散係数Dcを算出し、これら拡散係数D’、Dcおよび既知のデータである表層部サンプルの厚さC'と(1)式、(2)式、(3)式、(4)式に基づいて、表面含浸材を塗布したコンクリートにおける表面から任意の深さ位置の任意の時刻での塩分浸透量を推定することができる。この推定方法では、表層部サンプルにおける表面含浸材が含浸した部分の厚さCs(即ち、含浸深さCs)を測定する必要がない。それ故、シラン系表面含浸材のような撥水効果を有する材料だけでなく、含浸深さCsを容易には把握し難いけい酸塩系をはじめとする撥水効果をもたない材料の表面含浸材を塗布した場合であっても、容易に精度よく塩分浸透量を推定でき、高い汎用性を有している。EPMAによる高度な塩分分析を行なう必要もないので、簡便に低コストで塩分浸透量を推定することができる。
【0010】
本発明の後者の塩分浸透量の推定方法によれば、表面含浸材を表面に塗布したコンクリートから採取した表層部サンプルおよび深層部サンプルについて、電気泳動法または拡散セル法の試験結果に基づき、前記表層部サンプルの塩化物イオンの見かけの拡散係数D’および前記深層部サンプルの塩化物イオンの見かけの拡散係数Dcを算出し、これら拡散係数D’、Dcと表層部サンプルを用いて把握した表面含浸材が含浸した厚さCs(即ち、含浸深さCs)とその他既知のデータである表層部サンプルの厚さC'と(1)式、(2)式、(3)式、(4)式、(5)式、(6)式に基づいて、表面含浸材を塗布したコンクリートにおける表面から任意の深さ位置の任意の時刻での塩分浸透量を推定することができる。この推定方法では、表面含浸材が浸透した部分の厚さCs(即ち、含浸深さCs)を表層部サンプルから実測により把握するので、含浸深さCsをより高精度で把握できる。これにより、塩分浸透量の推定精度の向上が期待でき、また、シラン系、けい酸塩系をはじめとするいずれの表面含浸材であっても適用できる高い汎用性を有している。EPMAによる高度な塩分分析を行なう必要もないので、簡便に低コストで塩分浸透量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の塩分浸透量の推定方法の手順を例示するフロー図である。
図2】コンクリートから採取したサンプルを例示する説明図である。
図3】表層部サンプルにおける表面からの深さ位置と塩化物イオン量との関係を例示するグラフ図である。
図4】深層部サンプルにおける深さ位置と塩化物イオン量との関係を例示するグラフ図である。
図5】表面含浸材による等価かぶりを考慮したコンクリートにおける深さ位置と塩化物イオン量との関係を例示するグラフ図である。
図6】本発明の別の塩分浸透量の推定方法の手順を例示するフロー図である。
図7】表面含浸材が含浸したコンクリートと含浸していないコンクリートの2層モデルによるコンクリートにおける表面からの深さ位置と塩化物イオン量との関係を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のコンクリートにおける塩分浸透量の推定方法は、例えば、沿岸部のコンクリート構造物や凍結防止剤が散布される地域のコンクリート構造物など、塩分の影響を受ける状況下にあるコンクリートの表面に表面含浸材を塗布した場合、そのコンクリートにおける表面から任意の深さ位置xで任意の時刻tでの塩化物イオン濃度C(位置および時間の関数となる)を推定する。任意の時刻tとは、例えば、表面含浸材を塗布してからの経過時間である。
【0013】
以下、本発明の塩分浸透量の推定方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。例えば、未だ塩分が浸透していない新設コンクリートの表面に表面含浸材を塗布した場合は、図1に例示する手順によって塩分浸透量の推定を行なう。
【0014】
ステップ1では、図2に例示するように、表面含浸材Aを塗布したコンクリート構造物のコンクリート1からコンクリートコア2を取り出す。コンクリートコア2は、表面含浸材Aが含浸した部分(厚さCs)と含浸していない部分(厚さCc)とを含んだ表層部3と、表面含浸材Aが含浸していない部分のみからなる深層部4とを有する厚さで取り出す。次いで、コンクリートコア2から、表層部3からなる表層部サンプル3S(厚さC’=Cs+Cc)と、深層部4からなる深層部サンプル4Sとを採取する。
【0015】
ステップ2では、採取したそれぞれのサンプル3S、4Sを用いて、表層部サンプル3Sの塩化物イオンの見かけの拡散係数D’、深層部サンプル4Sの塩化物イオンの見かけの拡散係数Dcを算出する。各々のサンプルにおける見かけの拡散係数D’、Dcは、電気泳動法または拡散セル法により求めた表層部サンプル3Sの実効拡散係数De'および深層部サンプル4Sの実効拡散係数Decに、補正係数k1・k2を乗じて算出する。即ち、D’=De'×k1・k2、Dc=Dec×k1・k2となる。補正係数k1・k2は、コンクリート表面における塩化物イオンのつり合い、およびセメント水和物中への塩化物イオン固定化現象に関する係数であり、電気泳動法または拡散セル法から求めた実効拡散係数を見かけの拡散係数に補正する係数である。
【0016】
電気泳動法は、2010年制定 コンクリート標準示方書「規準編」土木学会規準および関連規準(土木学会編)に記載されている方法である。拡散セル法は、「コンクリートの塩化物イオン拡散係数試験方法の制定と規準化が望まれる試験方法の動向」(土木学会編2003年9月9日発行)に記載されている方法である。拡散セル法は、電気泳動法と同様のセルを用いて、電場を負荷することなく、濃度勾配のみを駆動力として拡散係数を得る試験方法である。
【0017】
ステップ3では、表面含浸材Aが含浸した部分のコンクリートの塩化物イオンの浸透低減効果を表面含浸材が含浸していない部分のコンクリートのかぶり増加とみなして見かけのかぶり増加量Sを算出する。ここで、コンクリート中における塩分浸透量を推定するフィックの拡散方程式の解として上記(1)式が知られている。そこで、表層部サンプル3Sのデータを(1)式に代入すると上記(2)式の左辺となる。一方、表面含浸材Aが含浸した部分のコンクリートにおけるによる塩化物イオンの浸透低減効果をコンクリート1のかぶり増加とみなし、等価かぶりを考慮して表層部サンプル3Sを、表面含浸材Aが含浸した部分(厚さCs)と含浸していない部分(厚さCc)との2層に分けたモデルとして考えることができる。そして、それぞれの層に対応するデータを(1)式に代入すると(2)式の右辺になり、左辺と右辺が等しいとして(2)式が成立する。
【0018】
(2)式および(3)式を整理すると上記(4)式が導出される。(4)式は表面含浸材Aが含浸した部分のコンクリートにおける塩化物イオンの浸透低減効果をコンクリート1のかぶり増加とみなして算出した見掛けのかぶり増加量Sを示している。この場合、等価かぶりCiは、Ci=Cs×(√Dc/√Ds)であり、Ci=S+Csである。
【0019】
図3は(2)式を概念的に示している。即ち、表層部サンプル3Sとしては、塩化物浸透量の推定式は破線で示した拡散係数D’に支配される曲線になるが、表面含浸材Aが含浸した部分では実線で示した拡散係数Dsに支配される曲線、表面含浸材Aが含浸していない部分では実線で示した拡散係数Dcに支配される曲線になるとみなすことができる。ここで、拡散係数Dcは深層部サンプル4Sを用いて電気泳動法または拡散セル法によって、図4に例示するように把握されているので既知となる。また、拡散係数D’は表層部サンプル3Sを用いて電気泳動法または拡散セル法によって把握されていて既知となる。表層部サンプル3Sの厚さC’も既知である。したがって、これらデータを(4)式に代入することによって、表面含浸材Aによる見掛けのかぶり増加量Sを算出することができる。
【0020】
ステップ4では、(1)式によりコンクリート1における表面から任意の深さ位置xで任意の時刻tでの塩化物イオン濃度Cを推定する。ここで、表面含浸材Aによる塩化物イオンの浸透低減効果をコンクリート1のかぶりの増加とみなして考えると、コンクリート1の表面に表面含浸材Aを塗布した場合の塩化物イオン濃度Cは図5に実線で示した曲線C(x+S、t)で表せる。図5に破線で示した曲線C(x、t)は、表面含浸材Aを塗布していない場合のコンクリート1における塩化物イオン濃度を示す。即ち、曲線C(x+S、t)は、曲線C(x、t)を見掛けのかぶり増加量Sだけx座標でマイナス方向に移動したものとなる。そして、曲線(x、t)における拡散係数Dcは既知である。それ故、曲線(x、t)をx座標でマイナス方向に見掛けのかぶり増加量Sだけスライドさせた曲線(x+S、t)を用いて、コンクリート1における表面から任意の深さ位置xの任意の時刻tでの塩化物イオン濃度Cを推定することができる。
【0021】
この実施形態の推定方法では、表面含浸材Aが含浸した部分の厚さCsを表層部サンプル3Sを用いて実測して把握する必要がない。それ故、表面含浸材Aが含浸した部分の厚さCs(即ち、含浸深さCs)を把握し難いけい酸塩系の表面含浸材Aをコンクリート1の表面に塗布した場合であっても、容易に精度よく塩化物イオン濃度Cを推定できる。シラン系の表面含浸材Aをコンクリート1の表面に塗布した場合にも同様に、含浸深さCsを測定しなくても、塩化物イオン濃度Cを推定できるので高い汎用性を有している。また、EPMAによる高度な塩分分析を行なう必要もないので、簡便に低コストで塩化物イオン濃度Cを推定することができる。
【0022】
次に、塩分浸透量の推定方法の別の実施形態を説明する。例えば、塩分が既に浸透している既設のコンクリート1の表面に表面含浸材Aを塗布した場合は、図6に例示する手順によって塩分浸透量の推定を行なう。
【0023】
ステップ1〜ステップ3は、上述した実施形態と同様である。ステップ1では、既に塩分が浸透している既設のコンクリート1から、表層部サンプル3Sおよび深層部サンプル4Sを採取することになる。ステップ4では、コンクリート1の表面に塗布した表面含浸材Aが、シラン系であるのか、けい酸塩系であるのかを選択する。
【0024】
シラン系の表面含浸材Aを塗布した場合は、ステップ5Aとして、表層部サンプル3Sの撥水層の厚さを測定し、その測定結果を含浸した部分の厚さCs(含浸深さCs)として把握する。シラン系の表面含浸材Aは撥水性を有するので、表層部サンプル3Sを縦割りにして水に浸漬させた後に、分割面の撥水している部分の厚さをメジャー等で測定することで含浸した部分の厚さCsを把握する。
【0025】
けい酸塩系の表面含浸材Aを塗布した場合は、ステップ5Bとして、表層部サンプル3Sについて硬度測定を行なって、その測定結果に基づいて含浸した部分の厚さCs(含浸深さCs)として把握する。けい酸塩系の表面含浸材Aが含浸した場合は表面組織が緻密化されるので、この性質を利用して、硬度が大きく変化した位置を、表面含浸材が含浸した部分と含浸していない部分との境界とみなすことができる。例えば、表層部サンプル3Sを縦割りにして表面側から順次深さ方向に測定位置を変化させてビッカース硬度試験を行ない、その結果から含浸した部分の厚さCsを把握する。硬度測定は、ビッカース硬度試験に限らず、その他の硬度測定方法を用いることもできる。
【0026】
ステップ6では、ステップ5Aまたはステップ5Bにて把握した含浸した部分の厚さCsを(4)式に代入することにより拡散係数Dsを算出する。(4)式では見掛けのかぶり増加量S、拡散係数D’とCcが既知なので、含浸した部分の厚さCsを代入することにより、拡散係数Dsを算出することができる。
【0027】
(1)式を、表面含浸材Aが含浸した部分(含浸深さCs)と含浸していない部分との2層モデルに適用させると(5)式および(6)式を導出することができる。図7は(5)式および(6)式を概念的に示している。コンクリート1の表面に表面含浸材Aを塗布した場合の塩化物イオン濃度Cは図7に実線で示した曲線C(x、t)で表せる。図7に破線で示した曲線は、表面含浸材Aを塗布していない場合のコンクリート1における塩化物イオン濃度Cを示す。曲線C(x、t)は、表面含浸材Aが含浸した部分(0≦x≦Cs)では拡散係数Dsに支配される曲線、即ち、(6)式を用いて、コンクリート1における表面から任意の深さ位置xの任意の時刻tでの塩化物イオン濃度Cを推定することができる。表面含浸材Aが含浸していない部分(Cs≦x)では拡散係数Dcに支配される曲線、即ち(5)式を用いて、コンクリート1における表面から任意の深さ位置xの任意の時刻tでの塩化物イオン濃度Cを推定することができる。
【0028】
この実施形態の推定方法では、表層部3での表面含浸材Aが含浸した部分の厚さCsを表層部サンプル3Sで実測して把握するので、厚さCs(即ち、含浸深さCs)をより高精度で把握でき、塩分浸透量の推定精度の向上も期待できる。また、シラン系、けい酸塩系のいずれの表面含浸材Eに対しても塩分浸透量を推定できるので高い汎用性を有している。既設のコンクリート1に限らず、新設のコンクリート1に対しても適用できる。EPMAによる高度な塩分分析を行なう必要もないので、簡便に低コストで塩分浸透量を推定することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 コンクリート
2 コンクリートコア
3 表層部
3S 表層部サンプル
4 深層部
4S 深層部サンプル
A 表面含浸材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7