特許第6227385号(P6227385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227385
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】自動車用タイヤの摩耗量検知装置
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/24 20060101AFI20171030BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20171030BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20171030BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20171030BHJP
   B60C 23/06 20060101ALN20171030BHJP
【FI】
   B60C11/24 Z
   B60C11/13 D
   B60C19/00 H
   G01M17/02
   !B60C23/06 A
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-241125(P2013-241125)
(22)【出願日】2013年11月21日
(65)【公開番号】特開2015-101122(P2015-101122A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亨
(72)【発明者】
【氏名】西川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】正木 信男
(72)【発明者】
【氏名】若尾 泰通
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−255230(JP,A)
【文献】 特開2005−186702(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/147004(WO,A1)
【文献】 特表2008−534355(JP,A)
【文献】 特開2002−173954(JP,A)
【文献】 特開2006−131137(JP,A)
【文献】 特開2005−170065(JP,A)
【文献】 特開2006−327368(JP,A)
【文献】 特開2006−224757(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/050710(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/24
B60C 11/13
B60C 19/00
G01M 17/02
B60C 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の回転を検出する回転センサと、この回転センサの検出した回転信号から回転に同期した回転速度の変動を抽出し、この回転速度の変動から複数回転に渡る回転に同期した回転速度変動パターンを抽出する信号処理ユニットと、この抽出した回転速度変動パターンから、前記車輪のタイヤに設けられている摩耗状態を示す特徴構造部によって誘起される成分の値を求め、その求めた値に基づいて前記タイヤの摩耗状態を推定し出力する摩耗状態判断ユニットと、を備えた自動車用タイヤの摩耗量検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車用タイヤの摩耗量検知装置において、前記摩耗状態判断ユニットは、タイヤに設けられている摩耗状態を示す特徴構造部によって誘起される成分の値と、前記タイヤの摩耗の進行状況との関係を設定した関係設定手段を有し、この関係設定手段に前記関係を設定した前記タイヤの前記特徴構造部が、次のいずれかである自動車用タイヤの摩耗量検知装置。
・特定部分の材質を変えたもの。
・摩耗が進むとブロック間がつながって面積またはパターンが変化する形態のもの。
・摩耗量に応じて複数段階のタイヤ回転速度変動発生パターンを形成するもの。
・一回転内で特定のパターンを示す特徴的なパターンとするもの。
・タイヤのトレッドパターンが摩耗に伴って変化するように構成されていて、その形状特徴部がトレッドを横断する方向に形成されているもの。
・前記特徴構造部が、タイヤの回転方向の複数の位置に形成され、それぞれの位置関係が回転方向に等間隔とはならないようにされたもの。
・前記特徴構造部が、トレッドの形成材料を部分的に変えて構成されたもの。
・摩耗が進んだときに、特徴的な回転変動パターンが発生するように構成されたもの。
・検出対象パターンの溝を形成した状態を初期状態として、摩耗に伴って特徴となる回転変動パターンが減少するように構成されたもの。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の自動車用タイヤの摩耗量検知装置において、前記摩耗状態判断ユニットは、前記回転速度変動パターンの抽出を、複数回転にわたる回転信号を、回転に同期させた平均化処理または積算処理によって行うものである自動車用タイヤの摩耗量検知装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれ1項に記載の自動車用タイヤの摩耗量検知装置において、前記摩耗状態判断ユニットは、前記回転速度変動パターンの抽出を、一つ以上設定された走行速度範囲にある状態のときに選択的に実施する自動車用タイヤの摩耗量検知装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれ1項に記載の自動車用タイヤの摩耗量検知装置において、前記摩耗状態判断ユニットは、前記回転速度変動パターンの抽出および摩耗状態の推定の処理を、複数設定した走行速度範囲についてそれぞれ行ない、これら複数の走行速度範囲における摩耗状態の走行速度範囲別推定結果から摩耗状態を総合判断する自動車用タイヤの摩耗量検知装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の自動車用タイヤの摩耗量検知装置において、前記摩耗状態判断ユニットは、検出された回転速度変動パターンから周波数成分を分析し、摩耗状態の特徴が現れる特定の回転次数成分のレベルを求めて摩耗状態を判別する自動車用タイヤの摩耗量検知装置。
【請求項7】
請求項6に記載の自動車用タイヤの摩耗量検知装置において、検出した速度変動パターンの周波数スペクトルに含まれている、摩耗状態の特徴の寄与する周波数成分の大きさを抽出し、それを評価値として摩耗状態を判別する自動車用タイヤの摩耗量検知装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の自動車用タイヤの摩耗量検知装置において、前記回転センサが零相を備え、前記信号処理ユニットは、検出した速度変動パターンの位相を合わせた状態で、基準パターンとの差分を求め、変化の大きさを検出するものである自動車用タイヤの摩耗量検知装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれ1項に記載の自動車用タイヤの摩耗量検知装置において、前記回転センサが、磁気エンコーダもしくはパルサギヤと、これら磁気エンコーダもしくはパルサギヤを検出する磁気センサとを有し、前記磁気センサの検出信号を逓倍した回転パルスを出力する逓倍回路を備えたものである自動車用タイヤの摩耗量検知装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれ1項に記載の自動車用タイヤの摩耗量検知装置において、前記摩耗状態判断ユニットが出力した摩擦の情報に基づいて、運転者への警告または車両の制御状態を変更する摩耗推定結果利用手段を設けた自動車用タイヤの摩耗量検知装置。
【請求項11】
請求項10に記載の自動車用タイヤの摩耗量検知装置において、前記摩耗推定結果利用手段は、前記摩耗状態判断ユニットが出力した摩擦の情報に基づいて、運転席の警告報知手段に表示させる機能を有する自動車用タイヤの摩耗量検知装置。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の自動車用タイヤの摩耗量検知装置において、前記摩耗推定結果利用手段は、前記摩耗状態判断ユニットが出力した摩擦の情報に基づいて、車両制御コンピュータの制御パラメータを変更し、タイヤの能力を考慮した安全制御を行う機能を有する自動車用タイヤの摩耗量検知装置。
【請求項13】
請求項10ないし請求項12のいずれか1項に記載の自動車用タイヤの摩耗量検知装置において、前記摩耗推定結果利用手段は、前記摩耗状態判断ユニットが出力した摩擦の情報と走行時の天候に基づいて、特定の天候時に警告を出す機能を有する自動車用タイヤの摩耗量検知装置。
【請求項14】
請求項10いし請求項13のいずれ1項に記載の自動車用タイヤの摩耗量検知装置において、前記摩耗推定結果利用手段は、前記摩耗状態判断ユニットが出力した摩擦の情報に基づいて、車両に搭載されたコンピュータが通信回線を通じて摩耗状態を、車両の点検またはタイヤの交換が可能な定められた営業所に発信する機能を有する自動車用タイヤの摩耗量検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車のタイヤの摩耗状態を走行中に検知する自動車用タイヤの摩耗量検知装置に関し、安全性に関する警告やタイヤの交換時期の到来を知らせる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トレッド部に導電ゴム抵抗体を埋め込み、摩耗によって抵抗体が離脱して抵抗値が変化するのを信号送信し、受信した検出信号を処理することにより摩耗状態を判定する装置が提示されている。
特許文献2には、トレッド部のブロック列を、タイヤの摩耗に伴って周方向のブロック数が変化するような断面形状として形成し、ばね下に配置された部材の振動を検出して回転同期成分を周波数分析することにより、摩耗のレベルを推定する方法が提示されている。
特許文献3には、タイヤの周方向に沿って深さの異なる凹部をそれぞれ周期的に配列されるように形成し、ばね下の部材の振動信号から凹部による振動成分を抽出して、振動成分の大きさから摩耗状態を推定する方法が提示されている。
【0003】
特許文献4には、自動車の車輪用軸受に回転検出装置を取り付け、信号を逓倍する機能を設けた高分解能回転検出装置が提示されている。
特許文献5には、自動車の車輪用軸受に回転検出装置を取り付けた、絶対角検出を可能とした回転検出装置が提示されている。
特許文献6には、タイヤの回転センサ信号からスリップ率等を推定する方法が提示されており、数回転にわたるタイヤの回転信号から回転同期成分を平均化して検出する方法も提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−028950号公報
【特許文献2】特開2005−186702号公報
【特許文献3】特開2011−053027号公報
【特許文献4】特開2011−002357号公報
【特許文献5】特開2008−232426号公報
【特許文献6】特開2006−126164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
摩耗が進んだタイヤで走行すると、雨天時にスリップしやすくなり、ハイドロプレーニング現象も発生しやすくなるなど、危険性が高くなる。これを予防するため、タイヤのトレッド溝部に設けられたにスリップサインの露出を点検し、溝の深さが浅くなってきているかを確認することが推奨されている。
【0006】
しかしながら、スリップサインの露出状態を目視点検する場合、一般ユーザには状態を判別しにくい場合もあり、定期的に点検しないと見逃してしまう恐れがある。これと同様に、スタッドレスタイヤにおける溝の摩耗量を示すプラットフォームを目視で確認するときに、摩耗している状態にあることに気が付かず、滑り止め効果が低下している状態で走行してしまう恐れもある。
【0007】
特許文献1のように、タイヤにセンサを埋め込んで摩耗状態を直接的に検出する方法が提案されているが、タイヤから車体への信号の伝達方法やセンサの耐久性が問題となるため、タイヤ部にセンサを設けずに検出できることが望まれている。
【0008】
特許文献2、3のように、ナックルなどに取り付けた振動センサの信号を分析することで摩耗状態を検出する方法では、特許文献1のようなタイヤから車体へ信号を伝達する場合の問題はないが、通常の装備に加えて振動センサおよびアナログ信号の伝送や増幅回路が必要になるため、コストが増加してしまうという問題がある。
【0009】
従来の上記各提案例は、いずれも課題があり、特殊なセンサを設けることなく、それほど大きくコストが増加することなしにタイヤが摩耗した状態にあることを検出し、運転者にタイヤ交換が必要なことを知らせることを可能にして、不安全な状態での走行による事故を未然に防ぐことが望まれている。特に、給油を必要としない電動車両などでは、ガソリンスタンド等でのサービスマンによるタイヤの状況確認機会も少なくなることから、摩耗状態を検知して運転者に注意を促すことが望まれる。
【0010】
この発明の目的は、特殊なセンサを設けることなく、コストの増加を抑えながら、タイヤが摩耗した状態にあることを走行中に検出でき、運転者にタイヤ交換が必要なことを知らせることを可能にして、不安全な状態での走行による事故を未然に防ぐことができる自動車用タイヤの摩耗量検知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の自動車用タイヤ1aの摩耗量検知装置は、車輪1の回転を検出する回転センサ2と、この回転センサ2の検出した回転信号から回転に同期した回転速度の変動を抽出し、この回転速度の変動から複数回転に渡る回転に同期した回転速度変動パターンを抽出する信号処理ユニット3と、この抽出した回転速度変動パターンから、前記車輪1のタイヤ1aに設けられている摩耗状態を示す特徴構造部によって誘起される成分の値を求め、その求めた値に基づいて前記タイヤ1aの摩耗状態を推定し出力する摩耗状態判断ユニット4とを備える。
【0012】
前記回転センサ2は、車輪用軸受やドライブシャフト等に設置され、車輪1の回転を検出する。前記信号処理ユニット3は、前記回転センサ2で検出された回転信号を用い、回転に同期した回転速度の変動を抽出する。
信号処理においては、前記回転速度の変動から複数回転に渡る回転に同期した速度変動パターンを抽出する。1回転分のみの回転速度の変動には路面の凹凸などによる影響があるが、ある程度の回転回数にわたる期間の回転信号を収集し、平均化または積算処理等をすることで、路面の凹凸などによる影響が排除された特定の回転速度変動パターンが抽出される。
摩耗によってスリップサイン等のタイヤ1aに設けられている摩耗状態を示す特徴構造部が出てくる状態になると、路面との接地面の形状が変化するため回転速度変動のパターンが変化する。前記摩耗状態判断ユニット4は、この回転速度変動パターンから、摩耗状態を示す特徴構造部によって誘起される成分の値を求め、この求めた値を、予め求めて設定しておいた前記成分の値と摩耗の進行状況との関係を示す関係曲線、テーブル、マップ、閾値等の情報と比較することによって、タイヤ1aの摩耗状態を推定し出力し、その推定した摩耗状態の情報を出力する。
【0013】
より積極的には、タイヤ回転時に特定の回転同期の回転速度変動が発生するような特徴構造部を、下記に挙げたような手法でタイヤトレッドに埋め込んでおき、この特定のパターンの発生を検出してもよい。ただし、振動や騒音が発生して乗り心地が悪化することがないように、埋め込まれる形状誤差はごくわずかなものとする。
すなわち、この発明の自動車用タイヤ1aの摩耗量検知装置において、前記摩耗状態判断ユニット4は、タイヤ1aに設けられている摩耗状態を示す特徴構造部によって誘起される成分の値と、前記タイヤ1aの摩耗の進行状況との関係を設定した関係設定手段12aを有し、この関係設定手段12aに前記関係を設定した前記タイヤ1aの前記特徴構造部を、次のa〜iのいずれかの構造とする。
a.特定部分の材質を変えたもの。
b.摩耗が進むとブロック間がつながって面積またはパターンが変化する形態のもの。
c.摩耗量に応じて複数段階のタイヤ回転速度変動発生パターンを形成するもの。
d.一回転内で特定のパターンを示す特徴的なパターンとするもの。
すなわち、発生するパターンは、路面からのノイズや小石などの噛み込み、タイヤ1aのフラットスポットなどと区別するために、一回転に一回発生するような単調なパターンでなく、一回転内で特定のパターンを示す特徴的なパターンとする。
【0014】
前記タイヤ1aの前記特徴構造部は、より具体的には、次のいずれかの構造とする。
e.タイヤ1aのトレッドパターンが摩耗に伴って変化するように構成されていて、その特徴構造部がトレッドを横断する方向に形成されているもの。
f.前記構造特徴部が、タイヤ1aの回転方向の複数の位置に形成され、それぞれの位置関係が回転方向に等間隔とはならないようにされたもの。
g.前記特徴構造部が、トレッドの形成材料を部分的に変えて構成されたもの。
h.摩耗が進んだときに、特徴的な回転変動パターンが発生するように構成されたもの。
i.もしくはこれとは逆に、検出対象パターンの溝を形成した状態を初期状態として、摩耗に伴って特徴となる回転変動パターンが減少するように構成されたもの。
【0015】
この発明において、前記摩耗状態判断ユニット4は、前記回転速度変動パターンの抽出を、一つ以上設定された走行速度範囲にある状態のときに選択的に実施するようにしても良い。
タイヤ1aが同じ摩耗状況であっても、車両の走行速度によって前記回転センサ2で検出される回転信号の特徴が変わる。そのため、設定された走行速度範囲にある状態のときに前記回転速度変動パターンの抽出を行うことで、精度良く回転速度変動パターンの抽出が行える。
【0016】
この発明において、前記摩耗状態判断ユニット4は、前記回転速度変動パターンの抽出および摩耗状態の推定の処理を、複数設定した走行速度範囲についてそれぞれ行ない、これら複数の走行速度範囲における摩耗状態の走行速度範囲別推定結果から摩耗状態を総合判断するようにしても良い。
上記のように、タイヤ1aが同じ摩耗状況であっても、車両の走行速度によって前記回転センサ2で検出される回転信号の特徴が変わる。そのため、摩耗状態の推定の処理を、複数設定した走行速度範囲についてそれぞれ行ない、これら複数の走行速度範囲における結果から摩耗状態を総合判断することにより、より一層精度良く回転速度変動パターンの抽出による摩耗検知が行える。
【0017】
この発明において、前記摩耗状態判断ユニット4は、検出された回転速度変動パターンから周波数成分を分析し、摩耗状態の特徴が現れる特定の回転次数成分のレベルを求めて摩耗状態を判別するようにしても良い。周波数分析によると、摩耗状態の判別が簡単にかつ精度良く行える。
【0018】
周波数分析する場合に、検出した速度変動パターンの周波数スペクトルに含まれている、摩耗状態の特徴の寄与する周波数成分の大きさを抽出し、それを評価値として摩耗状態を判別するようにしても良い。これより、より一層精度良く摩耗状態の判別が行える。
【0019】
この発明において、前記信号処理ユニット3は、検出した速度変動パターンの位相を合わせた状態で、基準パターンとの差分を求め、変化の大きさを検出するものとしても良い。
基準パターンに初期の回転変動パターンを記憶しておけば、センサの固有の誤差パターンやタイヤ1aのアンバランスなどの情報も含めた初期状態からの変化分を検出することができ、より検出感度を高めることができる。
【0020】
この発明において、前記回転センサ2が、磁気エンコーダ2aもしくはパルサギヤと、これら磁気エンコーダ2aもしくはパルサギヤを検出する磁気センサ2bとを有し、前記磁気センサ2bの検出信号を逓倍する回転パルスを出力する逓倍回路2caを備えたものであってもよい。
検出対象とする特定の回転速度変動パターンを精度よく検出するために、車輪1に搭載される回転センサ2には十分な検出精度と、十分な空間分解能を備えたものを使用することが必要である。上記のように磁気エンコーダ2aまたはパルサギヤと磁気センサ2bを組み合わせ、検出した磁界信号を逓倍して分解能を高めた回転センサ2は、温度変化や汚れなどの劣悪な環境に強く、かつ1回転あたり100パルス以上の回転分解能を有するものとできる。そのため、回転センサ2が温度変化や汚れなどの劣悪な環境に置かれ、また1回転中の回転速度変動を抽出することが必要な回転センサ2として、上記構成のものが適している。
【0021】
この発明において、前記摩耗状態判断ユニット4が出力した摩擦の情報に基づいて、運転者への警告または車両の制御状態を変更する摩耗推定結果利用手段17を設けても良い。摩耗推定結果利用手段17は、具体的には、例えば次のいずれかの機能を持つものとされる。
【0022】
前記摩耗推定結果利用手段17は、前記摩耗状態判断ユニット4が出力した摩擦の情報に基づいて、運転席の警告報知手段19に表示させる機能を持つものとしても良い。前記警告報知手段19は、例えば警告ランプ19aや、液晶表示装置等の画像表示装置である。摩耗量に応じて警告ランプ19aを点灯させることなどで、運転者にスリップサインの確認や点検を促すことができる。
【0023】
前記摩耗推定結果利用手段17は、前記摩耗状態判断ユニット4が出力した摩擦の情報に基づいて、車両制御コンピュータ22の制御パラメータを変更し、タイヤ1aの能力を考慮した安全制御を行う機能を持つものとしても良い。
タイヤ1aの能力低下に応じて、車両姿勢制御などの安全制御システム22aのパラメータを変更し、タイヤ1aの能力低下を考慮して安全制御システム22aを調整することで、無駄な安全制御を無くし、必要な場合の安全制御が確実に行える。
【0024】
前記摩耗推定結果利用手段17は、前記摩耗状態判断ユニット4が出力した摩擦の情報と走行時の天候に基づいて、特定の天候時に警告を出す機能を持つものとしても良い。例えば、検出されている摩耗状態に応じて、晴天時には警告は出さないが、雨天時の走行中には警告を出すようにするなど、危険が高いと判断される場合の注意を促すこともできる。これにより、警告の出し過ぎが回避され、運転者による警告についての信頼性向上、警告の尊重が期待できる。
【0025】
前記摩耗推定結果利用手段17は、前記摩耗状態判断ユニット4が出力した摩擦の情報に基づいて、車両に搭載されたコンピュータが通信回線を通じて摩耗状態を、車両の点検またはタイヤ1aの交換が可能な定められた営業所20に発信するものとしても良い。
このように摩耗に対する点検,交換の情報が営業所20に発信させることで、営業所20におけるタイヤ1aの在庫確認等を早期に行い、迅速かつ適切な点検,交換が期待できる。
【発明の効果】
【0026】
この発明の自動車用タイヤの摩耗量検知装置は、車輪の回転を検出する回転センサと、この回転センサの検出した回転信号から回転に同期した回転速度の変動を抽出し、この回転速度の変動から複数回転に渡る回転に同期した回転速度変動パターンを抽出する信号処理ユニットと、この抽出した回転速度変動パターンから、前記車輪のタイヤに設けられている摩耗状態を示す特徴構造部によって誘起される成分の値を求め、その求めた値に基づいて前記タイヤの摩耗状態を推定し出力する摩耗状態判断ユニットと備えるため、特殊なセンサを設けることなく、コストの増加を抑えながら、タイヤが摩耗した状態にあることを走行中に検出でき、運転者にタイヤ交換が必要なことを知らせることを可能にして、不安全な状態での走行による事故を未然に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】この発明の一実施形態に係る自動車用タイヤの摩耗量検知装置の概念構成を示すブロック図である。
図2】同摩耗量検知装置の処理ユニットの概念構成のブロック図である。
図3】同摩耗量検知装置の摩耗状態判断ユニットの概念構成のブロック図である。
図4】同摩耗量検知装置の摩耗状態判断ユニットの変形例を示す概念構成のブロック図である。
図5】同摩耗量検知装置の利用形態を示すブロック図である。
図6】同摩耗量検知装置の検出対象となるタイヤのトレッドのパターン構成例を示す部分平面図である。
図7】同摩耗量検知装置の検出対象となるタイヤの他のトレッドのパターン構成例を示す部分平面図、破断側面図、およびVII-VII 矢視断面図である。
図8】同摩耗量検知装置で検出した特徴パターンの検出信号例の説明図である。
図9】回転変動の速度依存性を示すグラフである。
図10】同摩耗量検知装置で検出される回転変動データの例を示すグラフである。
図11】同摩耗量検知装置で検出される回転次数スペクトルの例を示すグラフである。
図12】同摩耗量検知装置の検出対象とする基準パターンによる回転変動波形の例を示すグラフである。
図13】同摩耗量検知装置の検出対象パターンの基準スぺクトルの例を示すグラフである。
図14】同摩耗量検知装置の摩耗特徴パターンの周波数成分抽出例を示す説明図である。
図15】同摩耗量検知装置で用いる回転センサを装備した車輪用軸受の一例の断面図である。
図16】同車輪用軸受をインボードから見た図である。
図17】同摩耗量検知装置で用いる回転センサを装備した車輪用軸受の他の例の断面図である。
図18】同車輪用軸受をインボードから見た図である。
図19】同摩耗量検知装置で用いる回転センサを装備した車輪用軸受のさらに他の例の断面図である。
図20】同車輪用軸受をインボードから見た図である。
図21】同摩耗量検知装置が用いる回転センサの一例を示す断面図および斜視図である。
図22】同摩耗量検知装置が用いる回転センサの他の例を示す断面図および斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明の第1の実施形態を図面と共に説明する。図1に示すように、この自動車用タイヤの摩耗量検知装置は、摩耗の検知対象となるタイヤ1aを有する車輪1の回転速度を検出する回転センサ2を、車輪用軸受もしくはドライブシャフト外輪等に設置し、出力される回転信号を処理するための信号処理ユニット3を設ける。この信号処理ユニット3の出力を用いてタイヤ1aの摩耗を検知する摩耗状態判断ユニット4を設ける。回転センサ2は、換言すれば車輪速センサである。図15〜20に回転センサ付きの車輪用軸受を例示するが、これについては後に説明する。
【0029】
図1において、信号処理ユニット3は、回転センサ2の検出した回転信号から回転に同期した回転速度の変動を抽出し、この回転速度の変動から複数回転に渡る回転に同期した回転速度変動パターンを抽出する。摩耗状態判断ユニット4は、信号処理ユニット3により抽出した回転速度変動パターンから、車輪1のタイヤ1aに設けられている摩耗状態を示す特徴構造部によって誘起される成分の値を求め、その求めた値に基づいて前記タイヤ1aの摩耗状態を推定し出力する。以下、各部を具体的に説明する。
【0030】
図2に信号処理ユニット3の概念構成を示す。信号処理ユニット2では、回転センサ2が検出した回転信号を用いて走行中の車輪1の回転速度を回転速度判別部5で測定し、車輪1の回転に同期した回転速度の変動、つまり1回転毎の回転速度変動パターンを、回転変動パターン抽出部6で抽出する。ここで、回転センサ2に用いられる磁気エンコーダなどの検出ターゲットには、製造上のばらつきなどによるピッチ誤差が含まれている。そのため、初期状態の正常な状態の回転速度変動パターンを基準の速度パターンP0として、基準速度パターン記憶部7に記憶しておき、回転センサ2の回転信号に重畳する微小な誤差成分を、誤差補正部8で補正する構成としてもよい。
【0031】
回転変動パターン抽出部6による信号処理においては、路面の凹凸による影響を排除するために、ある程度の回転回数にわたる期間の回転信号を処理して、特定の回転速度変動パターンを抽出する。例えば、数回転にわたる車輪1の回転信号から回転同期成分を平均化して検出する。抽出処理に平均化処理や積算処理を適用することで、効果的に車輪1の回転に同期しないランダムな回転変動の影響が排除される。
【0032】
図1の摩耗状態判断ユニット4の機能につき説明する。タイヤ1の摩耗によってスリップサインが出て来る状態になると、タイヤ接地面の形状の変化などにより回転速度変動の発生状態のパターンが変化する。これを摩耗状態判断ユニット4が検出することで摩耗状態を検出する。
より積極的には、タイヤ回転時に特定の回転同期の回転速度変動が発生するような形状等の特徴構造部を、次に挙げるような手法でタイヤトレッドに埋め込んでおき、この特定のパターンの発生を検出してもよい。ただし、振動や騒音が発生して乗り心地が悪化することがないように、埋め込まれる形状誤差はごくわずかなものとする。
【0033】
摩耗量を検出するためにタイヤ1aに施す特徴構造部の形成例を以下に例示する。
・タイヤ1aの特定部分の材質を変える。例えば、特定部分を他の部分よりも硬くしたり、または柔らかくしたりする。
・摩耗が進むとブロック間がつながって、面積や配置ピッチが変化する形態とする。
・摩耗が進むとブロックが分割されて、面積や配置ピッチが変化する形態とする。
・摩耗量に応じて数段階に変化するタイヤ回転速度変動発生パターンを形成してもよい
・発生するパターンは、路面からのノイズや小石の噛み込み、タイヤのフラットスポットの影響などと区別するために、単調なパターンでなく特定パターンを示すように配置するのがよい
【0034】
トレッド面を横断する方向に形状特徴を設けると、回転速度変動パターンが発生しやすいため、摩耗を示すパターンはトレッド面を横断する方向に設けるのがよい。振動や騒音を抑えるため、初期摩耗状態には部分的に横断する方向のパターンになるようにしておき、摩耗が進むと横断する方向の長さが長くなって、検出・認知されやすくなるような段階的なパターンとするのもよい。
【0035】
トレッドに形成する特徴構造部のパターンの例を図6に示す。タイヤ1aが特定の摩耗量に到達すると、溝21の内部に設けた特徴的構造部であるスリップサイン部23が露出するため、ブロック22間がつながってパターンが変化する。スリップサイン部23を硬質な材料で形成しておけば、この部分で回転変動が発生しやすくなる。
【0036】
図6の例とは逆に、図7に示すようにして、あらかじめ特徴を示す特徴構造部である溝24をタイヤ1aのトレッドに形成しておいてもよい。この場合、正常状態では特定の回転位相で速度変動が観測されるが、摩耗に伴って溝24が消滅すると変動波形が小さくなるため、この変化から摩耗状態を推定することができる。
【0037】
また、回転方向に独特な位相間隔で特徴構造部となる特徴パターンを配置するとよい。例えば位相が0°と90°と180°の3か所に特徴構造部を配置すると、回転に伴って図8のような速度変動パターンが観測される。1回転のなかに90°間隔で3個の特徴波形が回転に同期して観測されるため、路面の凹凸や小石の噛み込みなどの外乱があっても、特徴パターンを検出しやすくなる。等配とならないように配置することで、ノイズに影響されずに特徴パターンを検出し易くなり、誤検出を抑えることができる。
【0038】
回転速度によるパターン変化に対する対応につき説明する。
回転速度変動の発生状況はタイヤの状態に応じて変化するため、走行速度によって影響を受けることが示されている。図9に示す波形の点線で示した部分は、回転変動の発生する回転位置で観測された速度変動波形であり、(a) 〜(c) に示されるように走行速度によって波形が変化している。すなわち、回転速度変動成分はタイヤ1aの伝達特性により周波数特性を示し、走行速度によってその位相や振幅が変化する。そのため、回転速度変動パターンを抽出する際には、回転速度が特定の範囲にある状態の信号を用いて処理するのが望ましく、信号処理ユニット3(図2)には回転速度判別部5を設けることで、回転速度の判別機能を備えておく。
【0039】
より好ましくは、回転速度判別部5による回転速度判別処理では複数の回転速度領域を分類するのが望ましい。すなわち、それぞれの回転速度領域に対して、比較対象とする基準の回転速度変動パターンを基準速度パターン記憶部7に記憶しておき、回転変動パターン抽出部6は、それぞれの領域で摩耗状態を判別し、その結果から総合判断するように構成する。複数の速度領域で回転速度変動パターンを検出することにより、一つに限定された速度範囲のデータだけを抽出して判別する場合と比較して、より多くの走行データに基づいて総合的な判断が可能になるため、摩耗検出の精度が向上する。
【0040】
疑似的な特徴パターンを形成して試験したデータ例を図10に示す。タイヤトレッド面にトレッドを横切るようにして厚さ約0.3mmのビニールテープを貼り付けた状態で、約15km/hの速度でアスファルト路面を数十メートル走行し、一回転あたり960回の分解能で回転速度データを収集した。このとき、ビニールテープ表面では摩擦係数が減少するため、接地面に作用する力が変化して回転変動が発生する。また、その大きさはビニールテープの幅によって変化する。抽出された一回転分の速度変動パターンの例を図10に示す。各グラフは、(a) テープ無し、(b) テープ幅6mm、(c) テープ幅12mm、における回転速度変動を規格化してプロットしたものである。特徴構造部を設けたことにより、特定の回転変動パターンが発生していることがわかる。
【0041】
特徴構造部による回転変動パターンを検出して摩耗の進行状況を検知する方法の例を、図3を参照して説明する。同図は摩耗状態判断ユニット4の概念構成の例を示す。走行中に検出した回転速度変動について回転次数スペクトルをFFT処理部9によって求め、比較演算部11では、摩耗を示す回転速度変動パターンが示す特定の次数成分P(n)に注目して、その出力レベルを監視し、出力レベルの比較演算を行い、その比較の結果から摩耗量推定部12により摩耗状態の進展を判断する。比較演算部11では、あらかじめ決めておいたしきい値レベルと比較してもよいし、初期状態のレベルP0(n)を記憶しておいて、変化量P(n)/P0(n)を用いて判断してもよい。
【0042】
図10の波形から求めた回転次数スペクトルを図11に示す。この例では、25〜35次周辺と60〜64次付近の変化が大きく出ているので、例えば30次と、33次、および62次にしきい値を設けておき、検出されたスペクトルP(30), P(33), P(62)が、それぞれのしきい値を超えた場合に摩耗が進展したと判断する。
【0043】
また、検出対象とする回転速度変動パターンの空間周波数(次数)領域を複数設け(すなわち複数の演算窓を設定し)、対応する領域における周波数成分のレベルを抽出し、その結果から総合的に摩耗状態を判断してもよい。
【0044】
例えば、摩耗検出用に設けた特徴パターンp1によって誘起される回転速度変動を、図12に示す波形P1とし、そのスペクトルを図13に示すR1(f)とする。なお、速度変動波形P1は図10(c)の波形から路面外乱と考えらえる低周波成分を除去した波形としている。このとき、検出された回転速度変動パターンの周波数スペクトルPin(f)に含まれるP1(f)成分の大きさを求め、その値を評価値とする。
【0045】
具体的には、図14に示すように、正規化した検出対象の既知のスペクトル(B)を R1(f) = P1(f) /|P1(f)|とし(|P1(f)|は対象領域のスペクトルの総和を表す)、検出されたスペクトル(A)との内積演算により評価値E=Pin(f) * R1(f)を求める。求まった評価値Eの大きさに応じて摩耗状態を判断する。この処理によると、より多くの情報を用いて摩耗状態を判断するため、ノイズに強く、確実な摩耗状態の検出が可能になる。
【0046】
また別の方法として、回転センサ2に基準を設けて、走行中の回転速度変動パターンの回転位相を合わせることができるようにしておき、回転速度変動パターンの変化を直接検出してもよい。例えば、図4に示すように、検出した回転速度変動パターンと、基準パターン記憶部13に記憶されている基準の速度変動パターンとを、回転位相を合わせた状態で両者の差分を差分検出部14でとり、あらかじめ設定しておいた基準パターンからの変化分を求める。その変化分の中に、検出用に設けた特徴パターンp1による摩耗時の速度パターンP1が抽出されていれば摩耗が進んでいると判断する。この場合、抽出された摩耗時のパターンの大きさに応じて摩耗の進展度合いも推測される。
【0047】
基準パターンとして初期の回転変動パターンを記憶しておけば、回転センサ2の固有の誤差パターンやタイヤ1aのアンバランスなどの情報も含めた初期状態からの変化分を検出することができ、より検出感度を高めることができる。ただし、タイヤ1aや車輪1を交換したときには基準パターンが変化するため、精度が劣化することになる。そのため、基準パターン記憶部13につき、初期パターンを更新する機能を備えてもよい。
【0048】
図3の摩耗状態判断ユニット4における摩耗量推定部12には、上記のようにタイヤ1aに設けられている摩耗状態を示す特徴構造部によって誘起される成分の値と、前記タイヤ1aの摩耗の進行状況との関係を、前記しきい値などで設定した関係設定手段12aを有し、比較演算部11による比較の結果を、関係設定手段12aに設定された関係を用いて摩耗の進行状況を推定する。関係設定手段12aは、特定の特徴構造部のみに対して前記成分の値と前記タイヤ1aの摩耗の進行状況との関係を設定したものであっても、また複数種類の特徴構造部についての前記関係を記憶しておき、車両に使用されたタイヤ1aに対応する関係を、タイヤ1aの初期設置時や交換時に所定の選択操作手段(図示せず)により選択して用いるようにしても良い。
【0049】
回転センサ2につき説明する。回転センサ2は、回転位相の判別を容易にするために、Z相(零相)信号を加えた回転角センサを使用しても良いし、レゾルバやその他の絶対角センサを使用しても良い。
検出対象とする特定の回転速度変動パターンを精度よく検出するために、車両に搭載される回転センサ2には十分な検出精度と、十分な空間分解能を備えたものとするのが望ましい。たとえば、少なくとも0.5%の回転速度変動を検出できる精度を備え、1回転あたりのパルス数を40以上とする。より高い次数の回転変動成分を含む低速回転時に十分なデータを取得するためには、回転センサ2の分解能をさらに高いものにするのが望ましい。タイヤ1aのブロックサイズなどの構造を考慮すると、接地長20mm程度の分解能を確保できるように、回転センサ2の1回転あたりの出力パルス数を最低100以上にするのが望ましい。
【0050】
なお、回転センサ2の出力はパルス出力である必要はなくアナログ信号であってもよい。回転に伴って出力されるアナログ信号を分析すれば、信号に含まれている波形の歪みなどから回転速度の変動を抽出できるため、パルス出力の場合と同様の処理が可能である。特に、回転パルスの分解能(逓倍能力)が低い場合には、アナログ信号を積極的に利用することにより、高い分解能での信号処理を実行するのが望ましい。
【0051】
回転センサ2として具体例を挙げると、例えば、図21図22に示すように、磁気エンコーダ2aもしくはパルサギヤからなるターゲットと、このターゲットを検出する磁気センサ2bとで構成され、前記磁気センサ2bの検出信号を逓倍した回転パルスを出力する逓倍回路2caを備えたものが好ましい。
検出対象とする特定の回転速度変動パターンを精度よく検出するために、車輪に搭載される回転センサには十分な検出精度と、十分な空間分解能を備えたものを使用することが必要である。上記のように磁気エンコーダ2aまたはパルサギヤからなるターゲットと磁気センサ2bを組み合わせ、検出した磁界信号を逓倍して分解能を高めた回転センサ2は、温度変化や汚れなどの劣悪な環境に強く、かつ1回転あたり100パルス以上の回転分解能を有するものとできる。そのため、回転センサ2が温度変化や汚れなどの劣悪な環境に置かれ、また1回転中の回転速度変動を抽出することが必要な回転センサ2として、上記構成のものが適している。回転センサ2の具体例は、後に図21図22と共に説明する。
【0052】
摩耗状態判断ユニット4により検出した摩耗状態の情報を利用する例につき説明する。図5はその一例を示す。検出されたタイヤの摩耗状態は、前記信号処理ユニット3および摩耗状態判断ユニット4からなる摩耗量検知装置本体15から、車両の上位コンピュータ16に伝達され、上位コンピュータ16に設けられた摩耗推定結果利用手段17は、摩耗量に応じて運転席の警告報知手段19に表示させる。例えば警告ランプなどの表示ランプ19aを点灯させる。これにより、運転者にスリップサインの確認や点検を促す。警告報知手段19は、表示ランプ19aの他、液晶表示装置等の画像表示装置19bに注意表示の画像を表示するものであっても良い。
【0053】
摩耗推定結果利用手段17は、前記警告報知手段19への表示と同時に、上位コンピュータ16から車両と通信可能な通信回線網18を通じて情報を発信し、必要に応じて車両販売店やサービス店などの営業所20を通じた点検・交換の促進が行われるようにする。
【0054】
この場合に、摩耗推定結果利用手段17は、検出されている摩耗状態に応じて、晴天時には警告は出さないが、雨天時の走行中には警告を出すようにするなど、危険が高いと判断される場合の注意を促すようにしてもよい。摩耗推定結果利用手段17は、特に危険な状態と判断された場合には、ECU(電機制御ユニット)等のコンピュータ式の車両制御装置22に、走行速度を自動的に制限する機能を有するようにしても良い。また、摩耗推定結果利用手段17は、検出された摩耗状態に応じて、車両制御装置22における車両姿勢制御などの安全制御システム22aのパラメータを変更し、タイヤの能力低下を考慮して安全制御システムを調整してもよい。
【0055】
この実施形態に係る自動車用タイヤの摩耗量検知装置の効果を整理して次に示す。
・ タイヤ1aの摩耗量を、走行中に検出することができるため、特殊なセンサを設ける必要がない。そのため、大幅にコストアップすることなく、車両に実装することができる。
・ 従来は目視による点検のため見逃す可能性があったが、車両の回転センサ2によって検出するため、適切な警告を発信して安全確認を促し、予防安全を実現できる。
・タイヤ1aが摩耗した状態で運転していることを忘れてしまった場合であっても、検出信号によって車両が警告を発信できるため、スリップを避けるような運転操作が可能になり、交通事故を防止することができる。
・摩耗状態を考慮した車両制御が可能になるため、走行条件に応じて適切な運転補助や安全制御を施し、交通事故を防止することができる。
【0056】
・回転同期成分を積算もしくは平均化して抽出することにより、ごくわずかな回転変動パターンを検出できるため、わずかな摩耗検知用のパターンを設けるだけでよく、乗り心地に影響しないような範囲で機能を実装することができる。
・また、特徴パターンを生じさせる特徴構造部を一定の回転位相の位置に配置して、回転変動パターンの中から特徴パターンを抽出し易くしているため、タイヤ1aに設ける摩耗検知用の特徴構造部を最小限の大きさにすることができ、乗り心地に影響しないように構成できる。
・車輪用軸受に回転センサ2が組み込まれているため、検出誤差が小さくなり、わずかな回転速度変動も検出することができる。そのため、乗り心地に影響を与えないようなレベルで形成された摩耗量検出用の形状特徴を、精度よく検出することができる。
・さらに高分解能な回転センサと組み合わせることで、低速走行状態における回転変動成分を、高い分解能で検出できるため、摩耗検知用のパターン抽出精度が高くなる。
【0057】
図21は、回転センサ2の具体例を示す。この回転センサ2は、ラジアルタイプの磁気式であり、ターゲットとなる環状の磁気エンコーダ2aと、この磁気エンコーダ2aの外周面に対面してこの磁気エンコーダ2aの磁気を検出する磁気センサ2bとを有する。磁気エンコーダ2aは、N,Sの磁極2aaを交互に有し、磁気センサ2bからは正弦波状の回転信号を出力する。この正弦波状の回転信号は信号処理手段2cで矩形に整形され、矩形波のパルス信号として出力される。信号処理手段2cは、逓倍回路2caを有していても良く、その場合、逓倍された高分解能の回転信号を出力する。
【0058】
磁気エンコーダ2aは、前記磁極2aaに軸方向に並んで、円周上の1か所にZ相(零相)検出用の磁極2abを有するものであっても良く、その場合、磁気センサ2bは、前記N,S交互の磁極2aaの検出用のセンサ部2baに加えて、Z相検出用の磁極2abを検出するセンサ部2bbが設けられる。このセンサ部2bbは、1回転で1回のZ相(零相)信号を出力する。
【0059】
図22は、回転センサ2の他の例を示す。この回転センサ2は、アキシアルタイプの磁気式であり、環状の磁気エンコーダ2aと磁気センサ2bとがアキシアル方向に対面する。磁気エンコーダ2aは、断面L字状のセンサ取付リング2dのフランジ部に取付けられている。その他の構成は、図21に示したラジアルタイプの回転センサ2と同様である。なお、図22の例では図示を省略したが、このラジアルタイプの回転センサ2においても、前記と同様に零相用の磁極およびセンサ部、並びに逓倍回路は図示を設けても良い。
【0060】
なお、図21図22は、いずれも磁気エンコーダ2aを有する回転センサ2を示したが、回転センサ2は、ターゲットがギヤ型の磁性体からなるパルサリング(図示せず)であっても良い。その場合、磁気センサはパルサリングの歯部を検出して回転信号を出力する。
これら磁気エンコーダ2aやギヤ型のパルサリングを用いた磁気式の回転センサ2によると、温度変化や汚れなどの劣悪な環境に強い。磁気式の場合、光学式に比べて磁極を細かく設けることが困難であるが、逓倍回路2caを有すると、回転速度変動パターンを検出するために必要な分解能の回転信号が得られる。
【0061】
図15図20は、前記回転センサ2が設けられる車輪用軸受の各例を示す。図15図16に示す車輪用軸受30は、第3世代型の内輪回転タイプで、かつ駆動輪支持用であり、複列の中央に回転センサ2を設けた例を示す。この車輪用軸受30は、内周に複列の転走面33を形成した外方部材31と、これら各転走面33に対向する転走面34を形成した内方部材32と、これら外方部材31および内方部材32の転走面33,34間に介在した複列の転動体35とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する。この車輪用軸受30は、複列外向きアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体35はボールからなり、各列毎に保持器36で保持されている。内方部材32は、ハブ輪32aと、このハブ輪32aのインボード側端の外周に嵌合した内輪32bとでなり、各輪32a、32bの外周に前記転走面34が設けられている。外方部材31と内方部材32の間の軸受空間の両端は、シール37,38によりそれぞれ密封されている。
【0062】
この車輪用軸受30において、内方部材32の両転走面34,34間の外周に、回転センサ2のエンコーダ2aが設けられ、このエンコーダ2aに対面する磁気センサ2bが、外方部材31に設けられた半径方向のセンサ取付孔内に設置されている。回転センサ2は、例えば図21と共に前述したラジアルタイプのものである。
【0063】
図17図18に示す車輪用軸受30は、第3世代型の内輪回転タイプで、かつ駆動輪支持用であり、インボード側端に回転センサ2を設けた例を示す。この例では、回転センサ2には、図22と共に前述したアキシアルタイプのものが用いられている。具体的にはインボード側端のシール38における、内方部材32の外周面に圧入固定されるスリンガが、図22の例のセンサ支持リング2dを兼ねている。磁気センサ2bは、リング状の金属ケース39内に樹脂モールドされ、金属ケース39を介して外方部材31に固定される。その他の構成は、図15図16に示した例と同様である。
【0064】
図19図20に示す車輪用軸受30は、第3世代型の内輪回転タイプで、かつ従動輪支持用であり、インボード側端に回転センサ2を設けた例を示す。この例では、外方部材31のインボード側端部の端面開口がカバー29で覆われており、このカバー29に回転センサ2の磁気センサ2bが取付けられている。その他の構成および作用効果は図15図16に示した例と同様である。
【0065】
なお、この発明の自動車用タイヤの摩耗量検知装置は、乗用車やタクシーなど小型の自動車から、トラックやトレーラー、バスなどの大型自動車まで幅広く適用できる。
最も好ましい形態は、トラックやトレーラー、バスなどの大型自動車への適用である。
これら自動車では、乗客や貨物を安全に効率よく運搬することが要求されるため、 常に車両を正常な状態に保つことが重要になる。日常の運行前点検に加えて、走行中にもタイヤの摩耗量をモニタすることにより、 運行に影響が出る前にその兆候をつかむことが必要になっている。
【符号の説明】
【0066】
1…車輪
1a…タイヤ
2…回転センサ
2a…ターゲット
2b…磁気センサ
2c…逓倍手段
3…信号処理ユニット
4…摩耗状態判断ユニット
5…回転速度判別部
6…回転変動パターン抽出部
8…誤差補正部
9…FFT処理部
11…比較演算部
12…摩耗量推定部
16…上位コンピュータ
17…摩耗推定結果利用手段
19…警告報知手段
20…営業所
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22