【文献】
Asian Journal of Transfusion Science,、2010.、Vol.4, No.1、 p.14−24
【文献】
The Journal of Biological Chemistry、1996.、Vol.271, No.22、p.12873−12878
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
単離された哺乳動物幹細胞集団であって、該集団の細胞は、テロメラーゼ、oct−4、Rex−1およびRox−1を発現し、かつ、正常な核型を有し、該集団の細胞は、CD45およびGlyAについて陰性であり、かつ、該集団の細胞は、胚性幹細胞でも、胚性生殖細胞でも、生殖細胞でもなく、該哺乳動物幹細胞は、培養中に40回を超える細胞倍加を経験しているか、または、培養中に10回〜40回の倍加を経験しており、そして、該集団の細胞が、ヒト骨髄から単離されたものであることを特徴とする、集団。
細胞培養培地中にある哺乳動物幹細胞の集団であって、該哺乳動物幹細胞は、テロメラーゼ、oct−4、Rex−1およびRox−1を発現し、かつ、正常な核型を有し、該集団の細胞は、CD45およびGlyAについて陰性であり、かつ、該集団の細胞は、胚性幹細胞でも、胚性生殖細胞でも、生殖細胞でもなく、該哺乳動物幹細胞は、培養中に40回を超える細胞倍加を経験しているか、または、培養中に10回〜40回の倍加を経験しており、そして、該集団の細胞が、ヒト骨髄から単離されたものであることを特徴とする、集団。
テロメラーゼ、oct−4、Rex−1およびRox−1を発現し、正常な核型を有し、かつ、胚性幹細胞でも、胚性生殖細胞でも、生殖細胞でもない、哺乳動物幹細胞の単離されたクローン集団であって、該哺乳動物幹細胞は、培養中に40回を超える細胞倍加を経験しているか、または、培養中に10回〜40回の倍加を経験しており、該哺乳動物幹細胞は、CD45およびGlyAについて陰性であり、そして、該哺乳動物幹細胞は、ヒト骨髄から単離されたものである、集団。
前記哺乳動物幹細胞が、外因性遺伝物質の付加、先在する遺伝物質の欠失、または先在する遺伝物質の改変によって遺伝子改変されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の集団。
前記哺乳動物幹細胞が、心臓組織、神経性組織、眼組織、軟骨組織、骨組織、骨格筋組織、平滑筋組織、骨髄組織、脾臓組織、肝臓組織、肺組織、脳組織、免疫系組織、結合組織、血管組織、膵臓組織、中枢神経系(CNS)組織、末梢神経系(PNS)組織、および腎臓組織のうちの1つ以上に生着する、請求項11に記載の組成物。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
幹細胞からの臓器および組織の発生およびそれに続く移植は、多くの病状のための有望な治療法を提供し、従って、多くの分野において幹細胞を研究の中心とならしめた。移植用の臓器および組織の形成のために幹細胞を用いることは、2〜3例挙げると、糖尿病、パーキンソン病、肝疾患、心疾患、および自己免疫疾患のための有望な代替的治療を提供する。しかしながら、臓器および組織の移植に関連する少なくとも2つの重要な問題がある。第1に、ドナー臓器および組織の不足がある。米国において移植のために必要とされ
る臓器のわずか5%がレシピエントに利用可能となる(Evans,etal., J.Am.Med.Assoc. (1992) 267: 239-146)。米国心臓病協会によると、1997年に新しい心臓を必要とする40,000人のアメリカ人の内、わずか2,300のみが心臓を受け取ることができ、さらに米国肝臓病基金は、肝不全によって毎年死亡するほぼ30,000人の患者のためのドナーは3,000人より少ないことを報告している。第2の重要な問題は、移植される組織とレシピエントの免疫系との潜在的な不適合性である。提供臓器または組織は異物として宿主免疫系によって認識され、経済的および身体的に−負担を強いることを承知で、拒絶反応抑制剤を患者に提供する必要がある。
【0004】
異種移植、すなわち、別の種からの組織または臓器の移植は、ヒト臓器および組織の不足を克服するための代替的手段を提供することができる。異種移植は、まだ健康である間に臓器を採取し、さらに移植手術の前に患者に有益な前処理を受けさせることを可能とする移植の一歩進んだ計画を提供するであろう。残念ながら、異種移植は、組織不適合性の問題を克服することはできず、かえって悪化させる。さらには、疾病対策センターによると、有害なウィルスは種の壁を越えるという証拠がある。ブタが臓器および組織のドナーの有望な候補になっているが、ブタからヒトへの複数のウィルスの異種間感染が証明されている。例えば、70人を越えるヒトに感染した致死的結果をもたらす病気である、ヘンドラ(Hendra)ウィルスの発生を阻止するために、100万頭を超えるブタが最近マレーシアで屠殺された(Butler,D.,Nature(1999) 398: 549)。
【0005】
幹細胞:定義および使用
従って、移植のための臓器および組織の最も有望な供給源は、幹細胞技術の開発にある。理論的に、幹細胞は自己再生細胞分裂を受けて、無期限の間、表現型および遺伝子型において同一である娘細胞を生じさせることができ、最終的に、少なくとも1つの確定的な細胞型に分化することができる。患者自身の幹細胞から組織または臓器を発生させることによって、あるいはレシピエントの免疫系が異物として認識しないように異種細胞を遺伝子組換えすることによって、付随する感染または組織拒絶の危険無しに、異種移植に関連した利点を提供するように移植組織を作成することができる。
【0006】
また、幹細胞は、遺伝子治療の結果を改善する可能性をもたらす。患者自身の幹細胞をin vitroで遺伝子組換えし、in vivoで再導入して、所望の遺伝子産物を産生させることができる。それら遺伝子操作幹細胞は、体の特定部位での移植のためまたは全身的適用のために多数の細胞型を形成するように分化誘導される能力を有するであろう。あるいは、レシピエントの主要組織適合遺伝子複合体(MHC)抗原を発現するように、またはMHCを全く発現しないように、異種幹細胞を遺伝子操作して、付随の拒絶の危険無しに、レシピエントにドナーからのそれら細胞の移植を可能とすることができる。
【0007】
幹細胞は、多数回に及ぶ、人によっては無限回とも云われる分裂能を有し、異なる細胞系に分化し、移植時には組織を再生させる細胞として定義される。幹細胞の典型は、無制限の自己再生能及び多能的分化能を有する胚性幹細胞である。この細胞は胚盤胞の内部細胞塊から得るか、あるいは移植後胚由来の始原生殖細胞(胚性生殖細胞すなわちEG細胞)より得ることが可能である。これまでES及びEG細胞はマウスから得られていたが、最近ではヒト以外の霊長類及びヒトからも得られている。ES細胞はマウスの胚盤胞または他の動物の胚盤胞に導入される場合、マウス(動物)のすべての組織に分化することが可能である。ES及びEG細胞は出生後の動物に移植すると奇形腫を形成するが、このこともやはりその多能性を示すものである。ES(及びEG)細胞はSSEA1及びSSEA4抗体による陽性染色法によって特定が可能である。
【0008】
分子レベルでは、ES及びEG細胞はこれらの未分化細胞に極めて特異的な多くの転写因子を発現する。その例としてoct−4やRex−1がある。その他にLIF−Rやsox−2及びRox−1転写因子も見られるが、後者の2つはES細胞以外の細胞においても発現される。oct−4は原腸形成前の胚、分裂初期段階の胚、胚盤胞の内部細胞塊の細胞、及び胚性腫瘍(EC)細胞において発現される転写因子である。oct−4はin vitroで細胞の分化を誘導するとダウンレギュレートされ、成体の動物ではoct−4は生殖細胞にのみ見られる。幾つかの研究によって、oct−4はES細胞の未分化の表現型の維持に必要とされ、胚形成及び分化の初期段階を決定するうえで重要な役割を担っていることが示されている。oct−4はRox−1とともにジンクフィンガータンパク質であるRex−1の転写を活性化し、ES細胞を未分化の状態に維持するうえでも必要とされる。同様にsox−2はoct−4とともにES/EC細胞の未分化状態を維持し、マウスES細胞(ヒトでは異なる)を維持するうえで必要とされる。ヒト及びマウス始原生殖細胞ではLIFの存在が必要である。ES細胞の別の特徴はテロメラーゼの存在であり、このためこれらの細胞はin vitroでの無制限の自己再生能を有するものである。
【0009】
幹細胞は多くの臓器組織において特定されている。最もよく調べられているものは造血幹細胞である。この細胞は細胞表面のマーカー及び機能的特徴に基づいて単離された中胚葉由来の細胞である。造血細胞は骨髄、血液、臍帯血、胎児肝臓、及び卵黄嚢より単離され、レシピエントの生涯にわたる造血作用を与え、複数の造血細胞系を形成する(参照、Fei,R.,et al., 米国特許第5,635,387号; McGlave, et al., 米国特許第5,
460,964号;Simmons, P., etal., 米国特許第5,677,136号; Tsukamoto,et al., 米国特許第5,750,397号;Schwartz,et al., 米国特許第5,759,793号;DiGuisto, et al., 米国特許第5,681,599号; Tsukamoto,et al., 米国特許第5,716,827号;Hill, B.,et al., Exp. Hematol. (1996) 24 (8): 936-943)。造血幹細胞は致死レベルの放射線を照射した動物やヒトに移植すると赤血球、好中性マクロファージ、骨髄巨核球、及びリンパ様造血細胞プールを再生させる。造血細胞はin vitroにて、少なくともある程度の自己再生細胞分裂を行わせること、及びin
vivoで見られるものと同じ細胞系へと分化させることが可能である。すなわちこの細胞は幹細胞としての基準を満たすものである。しかしながらこの幹細胞は造血系の細胞のみに分化するため、例えば大量の化学療法剤の投与によって損傷した心臓や肺などの他の損傷組織を修復するための細胞の供給源とはなり得ない。
【0010】
よく調べられている幹細胞の第2のものは、神経幹細胞である(Gage FH: Science 287: Science 287:1433-1438,2000; Svendsen CN etal., Brain Path 9: 499-513, 1999; Okabe S et al.,Mech Dev59: 89-102, 1996)。神経幹細胞は胎児脳の脳室下領域及び嗅
球から最初に確認された。最近に至るまで成体の脳には幹細胞の能力を有する細胞は既に含まれていないものと考えられていたが、齧歯類及びより最近ではヒト以外の霊長類及びヒトにおける幾つかの研究によって幹細胞が成体脳にも引き続き存在していることが示された。これらの幹細胞はin vivo増殖が可能であり、またin vivoにて少なくとも一部の神経細胞を継続的に再生することが可能である。神経幹細胞はex vivoでの培養において増殖させ、異なる種類の神経細胞及びグリア細胞に分化させることが可能である。神経幹細胞は脳に移植すると神経細胞及びグリア細胞を生着、形成することが可能である。したがってこの細胞もまた幹細胞の基準を満たすものである。
【0011】
間葉性幹細胞(MSC)は胚の中胚葉より最初に誘導され、成人の骨髄より単離されたものであるが、筋肉、骨、軟骨、脂肪、骨髄間質、及び腱へと分化することが可能である。胚形成において中胚葉は、肢芽中胚葉、骨を形成する組織、軟骨、脂肪、骨格筋、及び可能性として内皮へと発生する。中胚葉はまた、内臓中胚葉へと分化し、内臓中胚葉は心筋、平滑筋、あるいは内皮と造血前駆細胞とからなる血島を生ずる。したがって原始中胚葉性すなわち間葉性幹細胞は多くの異なる細胞及び組織の発生源となり得るものである。間葉性幹細胞は幹細胞として挙げられる第3の組織特異的細胞であり、フリデンシュタイン(Fridenshtein)によって最初に述べられた(Fridenshtein,Arkh.Patol., 44: 3-11, 1982)。これまでに多くの間葉性幹細胞が単離されている(参照、Caplan,A., et al., 米国特許第5,486,359号;Young,H., et al., 米国特許第5,827,735号; Caplan, A., etal., 米国特許第5,811,094号; Bruder,S., etal., 米国特許第5,736,396号; Caplan, A., et
al., 米国特許第5,837,539号;Masinovsky, B., 米国特許第5,873,670号; Pittenger, M., 米国特許第5,827,740号;Jaiswal.N.,et al., J. CellBiochem. (1997) 64 (2): 295-312; Cassiede P., et al.,J.BoneMiner. Res. (1996)11 (9): 1264-1273; Johnstone, B., et al., (1998)238(1):265-272; Yoo, et al., J. Bone Joint Surg. Am. (1998) 80 (12):1745-1757;Gronthos, S., Blood(1994) 84 (12): 4164-4173; Makino, S., et al., J.Clin.Invest. (1999) 103 (5):696-705)。これまでに記述されている多くの間葉性幹細胞のすべては限られた分化能を示し、一般に間葉由来のものと考えられる分化細胞のみに分化する。これまでに報告されている最も多能性の高い間葉性幹細胞はピッテンジャー(Pittenger)等によって単離された細胞であり、この細胞の表現型はSH2
+SH4
+CD29
+CD44
+CD71
+CD90
+CD106
+CD120a
+CD124
+CD14
−CD34
−CD45
−である。この細胞は間葉由来の多くの種類の細胞に分化することが可能であるが、当該細胞を単離した研究チームが増殖培養中に造血細胞を一切確認しなかったと述べているように、その分化能は間葉系の細胞に限定されたものであることは明らかである(Pittenger,etal.,Science (1999) 284: 143-147)。
【0012】
これまでに消化器幹細胞、表皮幹細胞、卵形細胞とも呼ばれる肝幹細胞などの他の幹細胞が特定されている(Potten C, Philos Trans RSocLond B Biol Sci 353:821-30, 1998; Watt F, Philos. Trans R Soc Lond B BiolSci353: 831, 1997;Alison M et al, Hepatol 29: 678-83 1998)。これらの細胞の多くのものについてはあまりよく調べられていない。
【0013】
ES細胞と比較すると組織特異的幹細胞の自己再生能は低く、また複数の細胞系へと分化するが多能性は有さない。組織特異的細胞がES細胞に関して上記に述べたようなマーカーを発現するか否かについては明らかにされていない。更に、組織特異的幹細胞におけるテロメラーゼの活性度に関しても完全には研究し尽くされていないが、これはこれらの細胞の高密度の集団を多数得ることが困難であることに一部起因するものである。
【0014】
最近まで、組織特異的幹細胞は同一組織の細胞にのみしか分化し得ないものと考えられていたが、多くの最近の論文によって成人の組織特異的幹細胞が異なる組織の細胞に分化し得る可能性が示唆されている。また多くの研究によって骨髄移植時に移植された細胞が骨格筋に分化し得ることが示されている(FerrariScience279: 528-30, 1998; GussoniNature 401: 390-4, 1999)。これは骨髄に存在する間葉細胞の潜在的分化能の範囲内であると考えられる。ジャクソン(Jackson)はその論文において、筋衛星細胞が造血細胞に分化し得ることについて述べているが、これもやはり臓側中胚葉内での表現型の変換の一例である(JacksonPNASUSA96: 14482-6, 1999)。胚の1つの層(例 臓側中胚葉)に由来する幹細胞が、胚形成において胚の異なる層から誘導されると考えられる組織に分化し得ることを示した研究もある。例えば、骨髄移植を行ったヒトや動物において検出される内皮細胞またはその前駆細胞は少なくともその一部が骨髄ドナーに由来している(Takahashi,NatMed5: 434-8, 1999; Lin, Clin Invest 105: 71-7, 2000)。すなわち、
MSCなどの臓側中胚葉由来ではない、内臓中胚葉由来の細胞は移植骨髄とともに導入されたものである。更に驚くべき報告として、齧歯類及びヒトにおいて肝上皮細胞及び胆管上皮細胞がドナー骨髄から誘導されることを示した報告がある(Petersen,Science284:1168-1170, 1999; Theise, Hepatology 31: 235-40, 2000; Theise,Hepatology32:11-6, 2000)。同様に3つの研究グループによって、神経幹細胞が造血細胞に分化し得ることが示されている。最後になるが、クラーク(Clarke)等によって、胚盤胞に注入された神経幹細胞がキメラマウスのすべての組織に分化し得ることが報告されている(Clarke,Science288:1660-3, 2000)。
【0015】
ここで、これらの研究の多くは単一の細胞が異なる臓器の組織に分化し得ることを結論的に証明したものではない点を指摘しておく必要がある。実際、殆どの研究者が始原細胞の表現型を特定していない。例外としてワイスマンとグロンペ(Weissman and Grompe)による研究がある。この研究は肝臓に生着した細胞が、造血幹細胞が高度に濃縮されたLin
−Thy
1LowSca
1+骨髄細胞中に存在することを示したものである。同様にミュリガン(Mulligan)の研究グループによって、造血幹細胞が高度に濃縮された骨髄SP細胞が筋肉及び内皮に分化し得ることが示され、またジャクソン(Jackson)等によって造血系の再構成は筋Sp細胞によるものであることが示されている(Gussonietal., Nature 401: 390-4, 1999)。
【0016】
異種の胚性幹細胞から発生した組織や臓器を移植するには、細胞を更に遺伝子改変して特定の細胞表面マーカーの発現を阻害するか、あるいは移植拒絶反応を防ぐために化学療法的免疫抑制剤を継続使用する必要がある。したがって、胚性幹細胞の研究によって移植用臓器の限られた供給量の問題に有望な代替策が与えられるものの、移植された異種細胞及び組織を定着させるための免疫抑制を必要とすることにより問題や危険をともなう。人口の大半をカバーする治療を行えるだけの免疫適合性細胞を得るためには推定で20種類の免疫学的に異なる胚性幹細胞の細胞系を樹立する必要がある(Wadman,M.,Nature (1999) 398: 551)。
【0017】
胚由来ではなく、成体由来の細胞を自己由来または異種遺伝子型幹細胞の供給源として使用することにより、移植胚性幹細胞の使用にともなう組織不適合性の問題が解決されるばかりでなく、胚性幹細胞の研究にともなう倫理的ジレンマの解決も図られる。これまでのところ、組織移植としての自己由来幹細胞の使用にともなう最大の難点は細胞の限定された分化能にある。完全に発育を遂げた生物、特にヒトから多くの幹細胞がこれまでに単離されている。しかしながらこれらの細胞は多能性を有するとの報告もあるものの、異なる種類の細胞への分化能は限定されたものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
すなわち、多分化能を有する幹細胞は本発明者及び他の研究者によってこれまでに単離されているものの、繊維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、骨格筋、内皮、間質、平滑筋、心筋、及び造血細胞などの異なる細胞系の広範な種類の細胞への分化能を有する前駆細胞はこれまで述べられていなかった。細胞及び組織移植、遺伝子治療によって将来的に治療法が進歩を遂げるには、分化能が最も高い幹細胞または前駆細胞が必要である。したがって成体における胚性幹細胞と同等な細胞が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明の概要
本発明は、表面抗原CD44、CD45、ならびにHLAクラスIおよびII陰性である単離多能性哺乳動物幹細胞を提供する。また、細胞は、表面抗原CD34、Muc18、Stro−1、HLAクラスI陰性であり、かつoct3/4 mRNA陽性あって差し支えなく、さらにhTRTmRNA陽性であって差し支えない。特に、本発明の細胞は、表面抗原CD31、CD34、CD36、CD38、CD45、CD50、CD62EおよびCD62P、HLA−DR、Muc18、Stro−1、cKit、Tie/Tec、CD44、HLAクラスI、ならびに2−ミクログロブリン陰性であり、かつCD10、CD13、CD49b、CD49e、CDw90、Flk1、EDF−R、TGF−R1およびTGF−R2、BMP−R1A、PDGF−R1aおよびPDGF−R1b陽性であって差し支えない。本発明は、転写因子oct3/4、REX−1、およびROX−1を発現する、単離された、多能性で非胚性である、非生殖細胞系の細胞を提供する。また、成長因子LIFに反応しかつLIFに対する受容体を有する出生後の哺乳動物由来の単離多能性細胞を提供する。
【0020】
上記に述べた本発明の細胞は、中胚葉、外胚葉、及び内胚葉由来の少なくとも1種類の分化細胞に分化誘導することが可能である。例えば、本発明の細胞は、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、繊維芽細胞、骨髄間質細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、内皮細胞、上皮細胞、造血細胞、グリア細胞、神経性細胞、及び乏突起膠細胞の細胞タイプの細胞に少なくとも分化誘導することが可能である。当該細胞としてはヒト細胞またはマウス細胞を使用することが可能である。当該細胞は胎児、新生児、子供、または成人から得ることが可能である。当該細胞は、骨髄、肝臓や脳などの臓器から得ることが可能である。
【0021】
本発明は更に、上記の多能性成体幹細胞から得られる分化細胞を提供するものであり、その場合の子孫細胞は、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、繊維芽細胞、骨髄間質細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、内皮細胞、上皮細胞、内分泌細胞、外分泌細胞、造血細胞、グリア細胞、神経性細胞、または乏突起膠細胞であり得る。分化した子孫細胞は、皮膚上皮細胞、肝上皮細胞、膵臓上皮細胞、膵臓内分泌細胞または小島細胞、膵臓外分泌細胞、消化管上皮細胞、腎臓上皮細胞、または表皮関連構造(毛嚢など)であり得る。分化した子孫細胞は歯の周囲の軟部組織または歯を形成する場合もある。
【0022】
本発明は上記に述べたような単離形質転換多能性哺乳動物幹細胞を提供するものであり、その場合、当該細胞のゲノムを予め選択された単離DNAの挿入、予め選択された単離DNAによる細胞ゲノムのセグメントの置換、または細胞ゲノムの少なくとも一部の欠失あるいは不活化によって改変しておくことが可能である。この改変は、ウイルスベクターの組み込みによるDNAの挿入や、DNAウイルス、RNAウイルスやレトロウイルスベクターを使用したウイルスによる形質導入によって行うことが可能である。また、細胞ゲノムの不活化したい部分の配列に相補的な配列を有するアンチセンス核酸分子を使用して当該単離形質転換細胞の細胞ゲノムの一部を不活化することも可能である。更に、不活化したい細胞ゲノムの部分の配列を標的としたリボザイム配列を用いて細胞ゲノムの一部を不活化することも可能である。改変ゲノムは、改変ゲノムを有する子孫細胞またはその子孫と、改変していないゲノムを有する子孫細胞との区別を可能とするように発現される、選択可能またはスクリーニング可能なマーカー遺伝子の遺伝子配列を有していてもよい。例えば、マーカーとしては、緑色、赤色、黄色の蛍光タンパク質、β−gal、Neo、DHFR
m、またはヒグロマイシンを使用することが可能である。本発明の細胞は、タンパク質、酵素または他の細胞産物の発現を調節する誘導可能なプロモーターや他の制御機構によって調節することが可能な遺伝子を発現することが可能である。
【0023】
本発明は、テロメラーゼを高レベルで発現し、同じドナーから得られたリンパ球のテロメアと比較して、in vitro培養での増殖後に長いテロメアを維持することが可能な細胞を提供するものである。テロメアはin vitro培養での増殖後に約11〜16KBの長さを有していてもよい。
【0024】
本発明は、oct3/4の発現レベルを調整する因子を含む、未分化の多能性幹細胞の継続的増殖または分化を促進するための細胞分化溶液を提供するものである。
【0025】
本発明は、多能性成体幹細胞(MASC)を単離するための方法を提供するものである。この方法では、骨髄単核細胞からCD45
+グリコフォリンA
+細胞を枯渇させ、CD45
−グリコフォリンA
−細胞を回収し、回収したCD45
−グリコフォリンA
−細胞をマトリクスコーティング上に播種し、播種した細胞を生長因子を補った培地中で培養する。枯渇工程では、モノクローナルまたはポリクローナル抗体を使用したネガティブ選択を行ってもよい。成長因子はPDGF−BB、EGF、IGF、及びLIFから選択することが可能である。最後の工程では更に、デキサメタゾン、リノレイン酸、及び/またはアスコルビン酸を補った培地中で培養することも可能である。
【0026】
本発明は、単離多能性成体幹細胞の培養方法であって、インスリン、セレニウム、ウシ血清アルブミン、リノレイン酸、デキサメタゾン、及び血小板由来成長因子を含有した無血清または低血清培地に細胞を加える工程を含む方法を提供するものである。無血清または低血清培地としては、MCDBと混合した低グルコースDMEMを使用することが可能である。インスリンは約10〜約50μg/mlの濃度で存在すればよい。無血清または低血清培地は、0よりも高く約10μg/mlよりも低い濃度の有効量のトランスフェリンを含有することが可能であり、セレニウムは約0.1〜約5μg/mlの濃度で存在すればよく、ウシ血清アルブミンは約0.1〜約5μg/mlの濃度で存在すればよく、リノレイン酸は約2〜約10μg/mlの濃度で存在すればよく、デキサメタゾンは約0.005〜約0.15μMの濃度で存在すればよい。無血清培地または低血清培地は約0.05〜0.2mMのL−アスコルビン酸を含有することが可能である。無血清培地または低血清培地は約5〜約15ng/mlの血小板由来成長因子、約5〜約15ng/mlの上皮成長因子、約5〜約15ng/mlのインスリン様成長因子、10〜10,000IUの白血病抑制因子を含有することが可能である。本発明は更に、上記の方法に基づいて単離された哺乳動物の多能性成体幹細胞の培養クローン集団を提供するものである。
【0027】
本発明は、MASC由来細胞及び分化した子孫を永久的及び/または条件的に不死化するための方法であって、MASCまたは分化した子孫にテロメラーゼを導入する工程を含む方法を提供するものである。
【0028】
本発明は、完全に同種異系の多能性幹細胞、誘導した造血幹細胞、または子孫細胞を哺乳動物に投与して、後の多能性幹細胞由来の組織移植や他の臓器移植のために哺乳動物に免疫寛容を誘導することにより哺乳動物の造血及び免疫系を再構成するための方法を提供するものである。
【0029】
本発明は、適当な成長因子を投与し、細胞を増殖させることによって、未分化の多能性幹細胞を分化した毛嚢へと増殖させる方法を提供するものである。
【0030】
本発明は上記に述べた細胞の多くの用途を提供するものである。例えば、本発明は、単離細胞を使用するための方法であって、該細胞の集団を子宮内移植して細胞または組織をキメラ化することにより、移植後に出生前または出生後のヒトまたは動物の体内でヒト細胞を産生し、該細胞が治療効果を有する酵素、タンパク質や他の産物をヒトまたは動物体内で産生して遺伝子異常を修正する方法を提供するものである。本発明は更に、治療処置を必要とする患者の遺伝子治療において上記の細胞を使用するための方法であって、所望の遺伝子産物をコードする予め選択した単離DNAを前記細胞に導入することによって細胞を遺伝子改変し、培養中で該細胞を増殖させ、該細胞を前記患者の体内に導入して所望の遺伝子産物を産生させる方法を提供するものである。
【0031】
本発明は、培養中で上記の単離多能性成体幹細胞を増殖させ、増殖させた該細胞の有効量を損傷組織を修復する必要のある患者の損傷組織と接触させることによって、患者の組織を修復する方法を提供するものである。当該細胞は患者の体内に局所的注入または全身的注入により導入することが可能である。当該細胞は適当なマトリクスインプラントとともに患者の体内に導入することが可能である。こうしたマトリクスインプラントは、更なる遺伝子物質、サイトカイン、成長因子や当該細胞の増殖及び分化を促進する他の因子を与えるようなものであってもよい。当該細胞は患者の体内への導入に先立ってポリマーカプセルなどにカプセル化することが可能である。
【0032】
本発明は、ヒト患者において感染因子に対する免疫応答を誘導するための方法であって、多能性成体幹細胞を増殖させたクローン集団を培養中で遺伝子改変することによって感染因子に対する防御免疫応答反応を引き起こす1以上の予め選択した抗原分子を発現させる工程と、患者の体内に免疫応答を誘導するうえで有効量の遺伝子改変細胞を導入する工程とを含む方法を提供するものである。この方法は、多能性成体幹細胞を樹状細胞に分化させる工程を第2工程の前に更に含んでいてもよい。
【0033】
本発明は、生理学的異常に関連した遺伝子多型を特定するためにMASCを使用するための方法であって、表現型データを得ることが可能な個人の統計的に有意な集団からMASCを単離する工程と、前記統計的に有意な個人の集団から得たMASCを培養増殖してMASC培養を樹立する工程と、前記培養MASCにおいて少なくとも1つの遺伝子多型を特定する工程と、前記培養MASCを分化誘導する工程と、正常な遺伝子型を有するMASCが示す分化のパターンと特定された遺伝子多型を有するMASCが示す分化のパターンとを比較することにより前記少なくとも1つの遺伝子多型に関連した異常代謝プロセスを特徴付けする工程とを含む方法を提供するものである。
【0034】
本発明は更に、哺乳動物における癌を治療するための方法であって、多能性成体幹細胞を遺伝子改変して腫瘍障害性タンパク質、抗血管新生タンパク質、または腫瘍細胞表面で発現されるタンパク質を、抗原に対する免疫応答刺激に関連したタンパク質とともに発現させる工程と、前記哺乳動物に前記遺伝子改変多能性成体幹細胞の有効抗癌量を導入する工程とを含む方法を提供するものである。
【0035】
本発明は、生物学的または生理学的因子に対する細胞応答を特徴付けるためにMASCを使用する方法であって、統計的に有意な個人の集団からMASCを単離する工程と、前記統計的に有意な個人集団から得られたMASCを培養増殖して複数のMASC培養を樹立する工程と、前記MASC培養を1以上の生物学的または生理学的因子と接触させる工程と、前記1以上の生物学的または生理学的因子に対する1以上の細胞応答を特定する工程と、前記統計的に有意な集団の個人から得られた複数のMASC培養の前記1以上の細胞応答を比較する工程とを含む方法を提供するものである。
【0036】
本発明は更に、特異的に分化した細胞を治療に使用するための方法であって、特異的に分化した細胞をこれを必要とする患者に投与することからなる方法を提供するものである。本発明は更に、遺伝子操作した多能性幹細胞を内在性遺伝子または導入遺伝子を選択的に発現させるために利用する利用方法、ならびに、病気を治療するためにin vivoで増殖させたMASCを動物への移植/投与に利用する利用方法を提供するものである。例えば、多能性幹細胞すなわちMASCから誘導した神経網膜細胞を利用して、特に黄斑変性、糖尿病性網膜疾患、緑内障、色素性網膜炎などによって生ずる神経網膜疾患などによる失明を治療することが可能である。本発明の細胞は哺乳動物の体内に細胞を定着させるために利用することが可能であり、自家、同種異系、異種の細胞を投与して該哺乳動物の組織特異的な代謝的、酵素的、凝固的、構造的機能などを回復または改変することが可能である。本発明の細胞は哺乳動物の体内に細胞を定着させるために利用することが可能であり、in vivoで細胞分化を誘導することが可能である。本発明の細胞は哺乳動物の体内に分化した幹細胞を投与するために利用することも可能である。本発明の細胞やそのin vitroまたはin vivoでの子孫を利用して遺伝子疾患、変性性疾患、心臓血管疾患、代謝蓄積症、神経疾患または癌などの病態を治療することが可能である。本発明の細胞を用いて歯周病を治療するための歯肉様材料を作成することが可能である。本発明の細胞を用いて皮膚移植や形成手術に利用可能な多能性幹細胞由来の皮膚上皮組織を発生させることが可能である。本発明の細胞を用いて陰茎や心臓などの筋肉を増強することが可能である。本発明の細胞を用いて治療用途の血液をex vivoで作成したり、出生前または出生後の動物の体内でヒトに用いるためのヒト造血細胞及び/または血液を作成することが可能である。本発明の細胞は癌治療や自己免疫疾患の治療において化学療法や放射線療法からの患者の回復を助けたり、レシピエントに免疫寛容を誘導するための治療手段として使用することが可能である。本発明の細胞を利用してAIDSや他の感染症を治療することが可能である。
【0037】
本発明の心筋細胞またはMASCを利用して、特に心筋炎、心筋症、心不全、心臓発作による障害、高血圧、アテローム性動脈硬化、心臓弁機能障害などの心臓疾患を治療することが可能である。遺伝子操作を施した多能性哺乳動物由来幹細胞または分化したその子孫を利用して中枢神経系の欠損または損傷にともなう疾患を治療することが可能である。更に、多能性哺乳動物由来幹細胞または神経関連細胞に分化した該細胞を利用して、脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、AIDSにともなう痴呆、脊椎損傷、脳や他の神経系に影響する代謝性疾患などの神経の欠損や変性にともなう疾患を治療することが可能である。
【0038】
多能性哺乳動物由来幹細胞または間質細胞などに分化したその子孫を利用して、造血細胞、膵臓小島またはβ細胞、肝細胞などの他の細胞の分化や増殖をin vitroまたはin vivoにて支援することが可能である。本発明の幹細胞または軟骨に分化したその子孫を利用して軟骨断裂、軟骨菲薄化、変形性関節炎などの間接や軟骨の疾患を治療することが可能である。更に、本発明の幹細胞または骨芽細胞に分化したその子孫を利用して、骨折、非治癒性骨折、変形性関節炎や、前立腺癌、乳癌、多発性骨髄腫などの骨に転移した腫瘍によって生ずる骨の「孔」などの、骨に悪影響を与える病態を改善することが可能である。
【0039】
本発明は更にヒト患者において防御的免疫応答を誘導するための免疫感作を与えるキットを提供するものである。このキットには、骨髄吸引液から多能性成体幹細胞を単離するための培地及び抗体、単離多能性成体幹細胞を培養するための培地及び細胞因子、及び抗原分子を産生するように多能性成体幹細胞を遺伝子改変するための遺伝子要素が別梱されて含まれている。当該キットには更に、多能性成体幹細胞を組織特異的な細胞に分化させるうえで有効な培地及び細胞因子が含まれる場合もある。遺伝子要素としてはウイルスベクターを使用することが可能であり、このウイルスベクターは細菌またはウイルス由来の1以上の抗原をコードしたヌクレオチド配列を有していてもよい。この遺伝子要素としては、細菌、ウイルス、または寄生虫の抗原をコードしたヌクレオチド配列を有するプラスミドを使用することも可能である。このプラスミドにはリン酸カルシウムトランスフェクション用の要素が同梱される場合もある。遺伝子要素としては、癌細胞に共通する抗原をコードしたヌクレオチド配列を有するベクターを使用することが可能である。更に遺伝子要素として寄生生物の抗原をコードしたヌクレオチド配列を有するベクターを使用することも可能である。
【0040】
本発明は更に上記に述べたような多能性幹細胞の遺伝子プロファイリングのための方法、ならびにデータバンクにおけるこの遺伝子プロファイリングの使用方法を提供するものである。本発明は更に薬の探索を助けるためにデータベースにおいて上記に述べたような遺伝子プロファイルされた多能性幹細胞を使用する使用方法を提供するものである。
・本発明はさらに以下を提供し得る:
・(項目1) 表面抗原CD44、CD45、ならびにHLAクラスIおよびII陰性であることを特徴とする単離多能性哺乳動物幹細胞。
・(項目2) 表面抗原CD34、CD44、CD45、ならびにHLAクラスIおよびII陰性であることを特徴とする項目1記載の単離細胞。
・(項目3) 表面抗原CD34、CD44、CD45、HLA−DR、Muc18、Stro−1、HLAクラスI陰性であり、かつoct3/4mRNA陽性であることを特徴とする項目2記載の単離細胞。
・(項目4) 表面抗原CD34、CD44、CD45、HLA−DR、Muc18、Stro−1、HLAクラスI陰性であり、かつoct3/4mRNAおよびhTRT m
RNA陽性であることを特徴とする項目3記載の単離細胞。
・(項目5) 表面抗原CD31、CD34、CD36、CD38、CD45、CD50、CD62E、およびCD62P、HLA−DR、Muc18、Stro−1、cKit、Tie/Tek、CD44、HLAクラスI、および2−ミクログロブリン陰性であり、かつCD10、CD13、CD49b、CD49e、CDw90、Flk1、EGF−R、TGF−R1およびTGF−R2、BMP−R1A、PDGF−R1aおよびPDGF−R1b陽性であることを特徴とする項目4記載の単離細胞。
・(項目6) 転写因子oct3/4、REX−1及びRox−1を発現する単離多能性非胚性非生殖細胞系細胞。
・(項目7) 成長因子LIFに応答するとともにLIFに対する受容体を有する、出生後の哺乳動物に由来する単離多能性細胞。
・(項目8) 中胚葉、外胚葉、及び内胚葉由来の分化細胞の少なくとも1種類に分化誘導が可能であることを特徴とする項目1、6または7記載の単離細胞。
・(項目9) 少なくとも、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、繊維芽細胞、骨髄間質細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、内皮細胞、上皮細胞、造血細胞、グリア細胞、神経性細胞、及び乏突起膠細胞の細胞タイプの細胞に分化誘導が可能であることを特徴とする項目1、6または7記載の単離細胞。
・(項目10)ヒト細胞であることを特徴とする項目1、6または7記載の単離細胞。
・(項目11)マウス細胞であることを特徴とする項目1、6または7記載の単離細胞。・(項目12)胎児、新生児、子供、または成人から得られることを特徴とする項目1、6または7記載の単離細胞。
・(項目13)新生児、子供、または成人から得られることを特徴とする請求項1、6または7記載の単離細胞。
・(項目14)臓器に由来することを特徴とする項目1、6または7記載の単離細胞。
・(項目15)上記臓器が骨髄、肝臓、または脳であることを特徴とする請求項14記載の単離細胞。
・(項目16)骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、繊維芽細胞、骨髄間質細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、内皮細胞、上皮細胞、内分泌細胞、外分泌細胞、造血細胞、グリア細胞、神経性細胞、または乏突起膠細胞であることを特徴とする、項目1、6または7の単離細胞から得られる分化した子孫細胞。
・(項目17)皮膚上皮細胞、肝上皮細胞、膵臓上皮細胞、膵臓内分泌細胞または小島細胞、膵臓外分泌細胞、消化管上皮細胞、腎臓上皮細胞、または表皮関連構造であることを特徴とする項目16記載の分化した子孫細胞。
・(項目18)上記表皮関連構造が毛嚢であることを特徴とする項目17記載の分化した子孫細胞。
・(項目19)歯の周囲の軟部組織または歯を形成することを特徴とする請求項16記載の分化した子孫細胞。
・(項目20)予め選択された単離DNAの挿入、予め選択された単離DNAによる細胞ゲノムのセグメントの置換、または細胞ゲノムの少なくとも一部の欠失あるいは不活化によってゲノムが改変されている項目1、6または7記載の単離多能性成体幹細胞からなる単離形質転換多能性哺乳動物幹細胞。
・(項目21)ゲノムがウイルスによる形質導入によって改変されることを特徴とする項目20記載の単離形質転換細胞。
・(項目22)ゲノムがウイルスベクターの組み込みによるDNAの挿入によって改変されることを特徴とする項目20記載の単離形質転換細胞。
・(項目23)ゲノムがDNAウイルス、RNAウイルスまたはレトロウイルスベクターを用いて改変されることを特徴とする項目21または22記載の単離形質転換細胞。
・(項目24)不活化したい細胞ゲノムの部分の配列に相補的な配列を有するアンチセンス核酸分子を使用して細胞ゲノムの一部が不活化されることを特徴とする項目20記載の単離形質転換細胞。
・(項目25)不活化したい細胞ゲノムの部分の配列を標的としたリボザイム配列を用いて細胞ゲノムの一部が不活化されることを特徴とする項目20記載の単離形質転換細胞。・(項目26)改変ゲノムを有する子孫細胞またはその子孫と、改変していないゲノムを有する子孫細胞との区別を可能とするように発現される、選択可能またはスクリーニング可能なマーカー遺伝子の遺伝子配列を改変ゲノムは有することを特徴とする項目20記載の単離形質転換細胞。
・(項目27)上記マーカーは、緑色、赤色、黄色の蛍光タンパク質、β−gal、Neo、DHFR
m、またはヒグロマイシンである項目26記載の単離形質転換細胞。
・(項目28)タンパク質、酵素または他の細胞産物の発現を調節する誘導可能なプロモーターや他の制御機構によって調節することが可能な遺伝子を発現することを特徴とする項目20記載の単離形質転換細胞。
・(項目29)テロメラーゼを高レベルで発現し、同じドナーから得られたリンパ球のテロメアと比較して、in vitro培養での増殖後に長いテロメアを維持することを特徴とする項目1、6または7記載の単離細胞。
・(項目30)in vitro培養での増殖後に約11〜16KBの長さのテロメアを維持することを特徴とする項目28記載の単離形質転換細胞。
・(項目31)oct3/4の発現レベルを調整する因子を含む、未分化の多能性幹細胞の継続的増殖または分化を促進するための細胞分化溶液。
・(項目32)多能性成体幹細胞(MASC)を単離するための方法であって、
(a)骨髄単核細胞からCD45
+グリコフォリンA
+細胞を枯渇させる工程と、
(b)CD45
−グリコフォリンA
−細胞を回収する工程と、
(c)回収したCD45
−グリコフォリンA
−細胞をマトリクスコーティング上に播種する工程と、
(d)播種した細胞を生長因子を補った培地中で培養する工程とを含む方法。
・(項目33)上記枯渇工程が、モノクローナルまたはポリクローナル抗体を使用したネガティブまたはポジティブ選択を含むことを特徴とする項目32記載の方法。
・(項目34)上記成長因子が、PDGF−BB、EGF、IGF、及びLIFから選択されることを特徴とする項目32記載の方法。
・(項目35)上記(d)工程が更に、デキサメタゾン、リノレイン酸、及び/またはアスコルビン酸を補った培地中で培養することを含むことを特徴とする項目32記載の方法。
・(項目36)単離多能性成体幹細胞の培養方法であって、インスリン、セレニウム、ウシ血清アルブミン、リノレイン酸、デキサメタゾン、及び血小板由来成長因子を含有した無血清または低血清培地に細胞を加える工程を含む方法。
・(項目37)上記無血清または低血清培地が、MCDBと混合した低グルコースDMEMであることを特徴とする項目36記載の方法。
・(項目38)インスリンが約10〜約50μg/mlの濃度で存在することを特徴とする項目36記載の方法。
・(項目39)上記無血清または低血清培地が0よりも高く約10μg/mlよりも低い濃度の有効量のトランスフェリンを含有することを特徴とする請求項36記載の培養方法。
・(項目40)セレニウムが約0.1〜約5μg/mlの濃度で存在することを特徴とする項目36記載の培養方法。
・(項目41)ウシ血清アルブミンが約0.1〜約5μg/mlの濃度で存在することを特徴とする項目36記載の培養方法。
・(項目42)リノレイン酸が約2〜約10μg/mlの濃度で存在することを特徴とする項目36記載の培養方法。
・(項目43)デキサメタゾンが約0.005〜約0.15μMの濃度で存在することを特徴とする項目36記載の培養方法。
・(項目44)上記無血清培地または低血清培地が、約0.05〜0.2mMのL−アスコルビン酸を含有することを特徴とする項目36記載の方法。
・(項目45)上記無血清培地または低血清培地が、約5〜約15ng/mlの血小板由来成長因子、約5〜約15ng/mlの上皮成長因子、約5〜約15ng/mlのインスリン様成長因子、10〜10,000IUの白血病抑制因子を含有することを特徴とする項目36記載の方法。
・(項目46)項目32の方法に基づいて単離された哺乳動物の多能性成体幹細胞の培養クローン集団。
・(項目47)MASC由来細胞及び分化した子孫を永久的及び/または条件的に不死化するための方法であって、MASCまたは分化した子孫にテロメラーゼを導入する工程を含む方法。
・(項目48)哺乳動物の造血及び免疫系を再構成するための方法であって、完全に同種異系の多能性幹細胞、誘導した造血幹細胞、または子孫細胞を哺乳動物に投与して、後の多能性幹細胞由来の組織移植や他の臓器移植のために哺乳動物に免疫寛容を誘導する工程を含む方法。
・(項目49)未分化の多能性幹細胞を分化した毛嚢へと増殖させるための方法であって、適当な成長因子を投与する工程と、細胞を増殖させる工程とを含む方法。
・(項目50)項目1、6または7記載の単離細胞を使用するための方法であって、上記細胞の集団を子宮内移植して細胞または組織をキメラ化することにより、移植後に出生前または出生後のヒトまたは動物の体内でヒト細胞を産生させる工程を含み、上記細胞が治療効果を有する酵素、タンパク質や他の産物をヒトまたは動物体内で産生して遺伝子異常を修正することを特徴とする方法。
・(項目51)治療処置を必要とする患者の遺伝子治療において項目1、6または7記載の単離細胞を使用するための方法であって、
(a)所望の遺伝子産物をコードする予め選択した単離DNAを上記細胞に導入することによって細胞を遺伝子改変する工程と、
(b)培養中で上記細胞を増殖させる工程と、
(c)上記細胞を上記患者の体内に導入して所望の遺伝子産物を産生させる工程とを含む方法。
・(項目52)損傷した組織を修復する必要のある患者の組織を修復する方法であって、
(a)培養中で項目1、6または7記載の単離細胞を増殖させる工程と、
(b)増殖させた上記細胞の有効量を上記患者の損傷組織と接触させる工程とを含む方法。
・(項目53)上記細胞は上記患者の体内に局所的注入により導入されることを特徴とする項目51または52記載の方法。
・(項目54)上記細胞は上記患者の体内に全身的注入により導入されることを特徴とする51または52記載の方法。
・(項目55)上記細胞は適当なマトリクスインプラントとともに上記患者の体内に導入されることを特徴とする項目51または52記載の方法。
・(項目56)上記マトリクスインプラントは、更なる遺伝子物質、サイトカイン、成長因子や上記細胞の増殖及び分化を促進する他の因子を与えることを特徴とする項目51または52記載の方法。
・(項目57)上記細胞は上記患者の体内への導入に先立ってカプセル化されることを特徴とする項目51または52記載の方法。
・(項目58)上記カプセル化した細胞はポリマーカプセル内に包含されることを特徴とする項目57記載の方法。
・(項目59)ヒト患者において感染因子に対する免疫応答を誘導するための方法であって、
(a)項目1、6または7記載の多能性成体幹細胞を増殖させたクローン集団を培養中で遺伝子改変することによって感染因子に対する防御免疫応答反応を引き起こす1以上の予め選択した抗原分子を発現させる工程と、
(b)上記患者の体内に免疫応答を誘導するうえで有効量の上記遺伝子改変細胞を導入する工程とを含む方法。
・(項目60)多能性成体幹細胞を樹状細胞に分化させる工程を上記(b)工程の前に更に含む項目59記載の方法。
・(項目61)生理学的異常に関連した遺伝子多型を特定するためにMASCを使用するための方法であって、
(a)表現型データを得ることが可能な個人の統計的に有意な集団からMASCを単離する工程と、
(b)上記統計的に有意な個人の集団から得たMASCを培養増殖してMASC培養を樹立する工程と、
(c)上記培養MASCにおいて少なくとも1つの遺伝子多型を特定する工程と、
(d)上記培養MASCを分化誘導する工程と、
(e)正常な遺伝子型を有するMASCが示す分化のパターンと特定された遺伝子多型を有するMASCが示す分化のパターンとを比較することにより上記少なくとも1つの遺伝子多型に関連した異常代謝プロセスを特徴付けする工程とを含む方法。
・(項目62)哺乳動物における癌を治療するための方法であって、
(a)項目1、6または7記載の多能性成体幹細胞を遺伝子改変して腫瘍障害性タンパク質、抗血管新生タンパク質、または腫瘍細胞表面で発現されるタンパク質を、抗原に対する免疫応答刺激に関連したタンパク質とともに発現させる工程と、
(b)上記哺乳動物に上記遺伝子改変多能性成体幹細胞の有効抗癌量を導入する工程とを含む方法。
・(項目63)生物学的または生理学的因子に対する細胞応答を特徴付けるためにMASCを使用する方法であって、
(a)統計的に有意な個人の集団からMASCを単離する工程と、
(b)上記統計的に有意な個人集団から得られたMASCを培養増殖して複数のMASC培養を樹立する工程と、
(c)上記MASC培養を1以上の生物学的または生理学的因子と接触させる工程と、
(d)上記1以上の生物学的または生理学的因子に対する1以上の細胞応答を特定する工程と、
(e)上記統計的に有意な集団の個人から得られた複数のMASC培養の上記1以上の細胞応答を比較する工程とを含む方法。
【発明を実施するための形態】
【0060】
発明の詳細な説明
ある系統にコミットした幹細胞において「クローニングプロセス」または「トランス−分化」において起きるのと同様の遺伝的再プログラミングが起きるか否かは分かっていない。本発明は、多様な臓器(例えば骨髄、肝臓、脳)に発生した後でさえ、それら臓器から精製し、さらにin vitroで培養した場合に残存する多能性幹細胞は、明らかな老化無しに増殖することができ、さらに、その幹細胞が由来する組織とは異なる多様な細胞型に分化することができることを示している。「可塑性」を有する様々な臓器由来の幹細胞の表現型は類似している(CD45
−CD44
−HLA
−DR
−HLAクラスI
−oct3/4mRNA
+およびhTRT
+)。さらには、そのような幹細胞の特徴は、例えば、始原生殖細胞(幹細胞がその直接の子孫であって差し支えない)の特徴に類似する。
【0061】
本発明は、骨髄細胞のごく一部、ならびに脳および肝臓中の細胞が、通常、ESおよびEG細胞でのみ認められる遺伝子(oct−4、Rex−1)を発現することの証拠を有する。さらには、本発明は、oct−4/eGFP構成物に関して形質転換した新生マウスの骨髄および脳においてeGFP
+細胞を検出し、さらに、oct−4発現細胞が、後胚期の生殖細胞以外の組織に存在することを示している。従って、少数の幹細胞が成人してからもずっと残存し、多能性を有する様々な臓器中において生存している。このことは異なる臓器に由来する幹細胞において見られる可塑性を説明するものである。
【0062】
多能性幹細胞の選択及び表現型
本発明は、骨細胞、軟骨、脂肪細胞、繊維芽細胞、骨髄間質細胞、骨格筋、平滑筋、心筋、内皮、上皮細胞(ケラチノサイト)、造血細胞、グリア細胞、神経細胞、及び乏突起膠細胞の前駆細胞へと分化することが可能な、ヒトまたはマウス(または他の生物種)の成体、新生児、または胎児から単離される多能性成体幹細胞(MASC)を提供するものである。これらの細胞はこれまでに述べられているいずれの成体由来幹細胞よりも胚性幹細胞に近い分化表現型を示す。
【0063】
ここに述べられる多能性成体幹細胞は本発明者等によって開発された方法によって単離されたものである。発明者等はMASCを特徴付ける多くの特異的細胞表面マーカーを特定したものである。本発明の方法を利用することにより、ヒト、マウスや他の生物種の成体、幼体または胎児から多能性成体幹細胞を単離することが可能である。更に、マウスではこれらの細胞は脳及び肝臓から単離されている。したがって、骨髄吸引液、脳または肝臓の生体組織及び場合により他の臓器を採取し、本発明者等により特定されたような当該細胞上に発現される表面マーカーに基づいて当業者に周知のポジティブまたはネガティブ選択法を用いることにより、煩瑣な実験を行うことなく当該細胞を単離することがここに至って当業者に可能となったのである。
【0064】
A.ヒト骨髄からの多能性成体幹細胞(MASC)の単離
多能性成体幹細胞(MASC)を選択するためには、当業者に周知の標準的手法(参照、Muschler, G.F., etal., J. BoneJointSurg. Am. (1997) 79 (11): 1699-709, Batinic, D., etal., Bone MarrowTransplant.(1990) 6(2): 103-7)によって得ることが可能
な骨髄吸引液から骨髄単核細胞を得る。多能性成体幹細胞は骨髄(または肝臓や脳などの他の臓器)に存在するが、通常の白血球抗原CD45や赤芽球特異的グリコフォリン−A(Gly−A)は発現しない。この細胞の混合集団をフィコール−ハイパック分離にかける。次いで細胞を抗CD45及び抗Gly−A抗体を用いたネガティブ選択にかけ、CD45
+及びGly−A
+の細胞集団を除去し、残りの約0.1%の骨髄単核細胞を回収する。また、細胞をフィブロネクチンコーティングしたウェルに播種して、下記に述べる要領で2〜4週間培養した後にCD45
+及びGly−A
+細胞を除去することも可能である。あるいは、白血病抑制因子(LIF)受容体などの、本発明者等によって特定されたここに述べる細胞特異的マーカーの組合わせを用いたポジティブ選択を行って細胞を単離する。ポジティブ及びネガティブ選択はいずれも当業者に周知の方法であり、また、ネガティブ選択を行ううえで適当な多くのモノクローナル及びポリクローナル抗体も当該技術分野において周知であって(参照、LeukocyteTypingV, Schlossman, et al.,Eds. (1995) Oxford University Press)、多くの供給元より市販されている。更に、細胞集団の混
合物からの哺乳動物細胞の分離法がシュワルツ(Schwartz)等による米国特許第5,759,793号(磁気的分離)、及び、Basch,et al.,J.Immunol. Methods (1983) 56: 269 (免疫親和性クロマトグラフィ)、ならびにWysocki and Sato,Proc.Natl.Acad. Sci (USA) (1978) 75: 2844) (蛍光発色細胞分析分離法)(
図1A)に述べられて
いる。回収したCD45
−/GlyA
−細胞は5〜115ng/ml(好ましくは約7〜10ng/ml)の血清フィブロネクチンまたは他の適当なマトリクスコーティングにてコーティングした培養皿に播種する。細胞は、1〜50ng/ml(好ましくは約5〜15ng/ml)の血小板由来成長因子−BB(PDGF−BB)、1〜50ng/ml(好ましくは5〜15ng/ml)の上皮成長因子(EGF)、1〜50ng/ml(好ましくは5〜15ng/ml)のインスリン様成長因子(IGF)または100〜10,000IU(好ましくは約1000IU)のLIFを、10
−10〜10
−8Mのデキサメタゾンまたは他の適当なステロイド、2〜10μg/mlのリノレイン酸、及び0.05〜0.15μMのアスコルビン酸とともに補ったダルベッコ最小必須培地(DMEM)または他の適当な細胞培養培地中で維持される。他の適当な培地として、MCDB、MEM、IMDMやRPMIなどが挙げられる。細胞は、無血清下か、1〜2%ウシ胎児血清存在下か、あるいは1〜2%ヒトAB血清または自家血清(
図1B)中に維持することができる。
【0065】
本発明者等は、低密度で培養された多能性成体幹細胞(MASC)は白血病抑制因子受容体(LIF−R)を発現し、CD44を少量発現するかあるいは発現しないが、多能性幹細胞(MSC)の特徴を有する細胞を高密度で培養すると、LIF−Rを発現しなくなるがCD44を発現することを示した。CD45
−GlyA
−細胞の1〜2%がCD44
−であり、CD45
−GlyA
−細胞の内LIF−R
+であるのは0.5%未満である。蛍光発色細胞分析分離法(FACS)により選択された細胞を定量的RT−PCR(リアルタイムPCR)にかけてoct−4のmRNAを定量した。oct−4のmRNAの濃度は、選別されていないCD45
−GlyA
−細胞と比較して、CD45
−GlyA
−CD44
−細胞で5倍高く、CD45
−GlyA
−LIF−R
+細胞で20倍高かった。選別した細胞は10ng/mlのEGF、PDGF−BB、及びLIFを加えたMASC培地に播種した。MASCが増殖を開始した頻度は、選別されていないCD45
−GlyA
−細胞と比較してCD45
−GlyA
−LIF−R
+細胞で30倍高く、CD45
−GlyA
−CD44
−細胞で3倍高かった。
【0066】
このヒト細胞を0.5x10
3細胞/cm
2未満の細胞密度で再播種すると、培養はあまり増殖することなく死滅した。3日毎に10x10
3細胞/cm
2を上回る細胞密度で再播種すると、後述するように30回の分裂を行う以前に細胞は分裂を停止した。またこれにより分化能も失われた。3日毎に2x10
3細胞/cm
2の細胞密度で再播種すると、40回を上回る分裂が普通に見られ、分裂回数が70回を上回る細胞集団も見られた。細胞の倍加時間は最初の20〜30回の分裂では36〜48時間であった。この後、細胞の倍加時間は60〜72時間にまで延びた(
図2)。
【0067】
5人のドナー(2才〜55才)より得た多能性成体幹細胞(MASC)を2x10
3細胞/cm
2の播種密度で23〜26回の分裂を行うまで培養したところテロメアの長さは11〜13kBであった。これは同じドナーから得られた血中リンパ球のテロメアの長さよりも3〜5kB長かった。2人のドナーから得た細胞のテロメアの長さを23回及び25回の細胞分裂後にそれぞれ測定し、更に35回目の細胞分裂後に再測定したところ変化は見られなかった。これらのMASCの核型は正常であった。(
図3)
B.マウス組織からの多能性成体幹細胞(MASC)の単離
C57/BL6マウスから骨髄を得、単核細胞またはCD45及びGlyAポジティブの細胞を除去した細胞をヒトMASCで用いたものと同じ培養条件下(10ng/mLのヒトPDGF−BB及びEGF)で播種した。骨髄単核細胞を播種した場合には、培養開始後14日後にCD45
+細胞を除去することにより造血細胞を除去した。ヒトMASCと同様、2回の細胞分裂毎に2000細胞/cm
2の播種密度で培養に再播種した。ヒト細胞において見られたのと対照的に、0日目にCD45
+細胞を除去した新鮮なマウス骨髄単核細胞をMASC培地に播種した場合、細胞は増殖しなかった。マウス骨髄単核細胞を播種し、14日後に培養細胞からCD45
+細胞を除去すると、ヒトMASCに形態及び表現型において類似した細胞が出現した。
【0068】
PDGF−BB及びEFGのみと培養した場合、細胞の倍加は遅く(6日よりも長い)、10回の細胞分裂を越える時間にわたって培養を維持することはできなかった。100〜10000ng/mL(好ましくは1000IU)のLIFを添加することにより細胞の増殖は大幅に向上し、細胞の分裂回数は70回を上回った。
【0069】
5日齢のFVB/Nマウスから得た骨髄、脳、または肝臓単核細胞をフィブロネクチン上、EGF、PDGF−BB、及びLIFとともにMASC培地に播種した。14日後にCD45
+細胞を除去し、上述したようなMASC培養条件下に細胞を維持した。FVB/Nマウスからの骨髄、脳、または肝細胞にて開始した培養中にヒトMASC及びマウス骨髄C57/B16MASCに形態及び表現型において類似した細胞が増殖した。
【0070】
C.多能性成体幹細胞(MASC)の表現型
1.ヒトMASC
22〜25回目の細胞分裂後に得たヒト多能性成体幹細胞(MASC)に蛍光発色細胞分析分離法(FACS)による免疫表現型分析を行った結果、細胞はCD31、CD34、CD36、CD38、CD45、CD50、CD62E、及び−P、HLA−DR、Muc18、STRO−1、cKit、Tie/Tekは発現せず、CD44、HLA−クラスI、及びβ2マイクログロブリンを低レベルで発現し、CD10、CD13、CD49b、CD49e、CDw90、Flk1を発現することが示された(N>10)。
【0071】
2x10
3個/cm
2の細胞密度にて再播種した培養中で細胞分裂の回数が40回を越えると表現型はより均一となり、HLA−クラスIまたはCD44を発現する細胞は見られなくなった(N=6)。高いコンフルエンスにまで細胞が増殖すると、Muc18、CD44、HLA−クラスI及びβ2−マイクログロブリンを高レベルで発現するようになり、これは多能性幹細胞(MSC)について報告されている表現型と同様のものであった(N=8)(Pittenger,Science(1999) 284: 143-147)。
【0072】
免疫組織化学的分析により、2x10
3個/cm
2の播種密度にて培養されたヒトMASCはEGF−R、TGF−R1及び−2、BMP−R1A、PDGF−R1a及び−Bを発現し、MASCの細胞集団の一部(1〜10%)は抗SSEA4抗体にて染色されることが示された(KannagiR,EMBO J 2: 2355-61, 1983)。
【0073】
本発明者等は、2x10
3個/cm
2の播種密度にて22〜26回の細胞分裂にわたって培養したヒトMASCの発現遺伝子プロファイルをクロンテック社(Clonetech)製cDNAアレイを用いて評価し、以下のプロファイルを得た。
【0074】
A.多能性成体幹細胞(MASC)は、CD31、CD36、CD62E、CD62P、CD44−H、cKit、Tie;ILI、IL3、IL6、IL11、G−CSF、GM−CSF、Epo、Flt3−L、またはCNTFの受容体のmRNAを発現せず、HLA−クラスI、CD44−E及びMuc18のmRNAを低レベルで発現する。
【0075】
B.MASCは、サイトカインであるBMP1、BMP5、VEGF、HGF、KGF、MCP1;サイトカイン受容体であるFlk1、EGF−R、PDGF−R1α、gp130、LIF−R、アクチビンR1及び−R2、TGFR−2、BMP−R1A;接着受容体であるCD49c、CD49d、CD29及びCD10のmRNAを発現する。
【0076】
C.MASCは、hTRT及びTRF1;POU−ドメイン転写因子oct−4 c sox−2(ES/ECの未分化状態を維持するうえでoct−4とともに必要とされる。UwanoghoD,Mech Dev 49: 23-36, 1995)、sox−11(神経発生)、sox−9(
軟骨形成、LefebvreV, Matrix Biol 16:529-40, 1998);ホメオドメイン転写因子であるHoxa4及び−a5(頚部及び胸部骨格の指定;気道の臓器形成、PackerAI,Dev Dyn17: 62-74, 2000)、Hox−a9(骨髄造血、Lawrence H, Blood 89: 1922, 1997)、Dlx4(前脳及び頭部周辺構造の指定、AkimenkoMA,JNeurosci 14: 3475-86, 1994)、
MSX1(胚中胚葉、成人心臓及び筋肉、軟骨及び骨形成、Foerst-Potts L,DevDyn209:
70-84,1997)、PDX1(膵臓、Offield MF, Development 122: 983-95, 1996)のm
RNAを発現する。
【0077】
D.oct−4、LIF−R、及びhTRTのmRNAの存在がRT−PCRにより確認された。
【0078】
E.更にRT−PCRにより、Rex−1のmRNA(ESの未分化状態を維持するうえでoct−4とともに必要とされる。Rosfjord E,BiochemBiophys Res Common 203: 1795-802, 1997)及びRox−1のmRNA(Rex−1の転写にoct−4とともに必
要とされる。Ben-ShushanE,Cell Biol 18: 1866-78, 1998)がMASCにおいて発現されていることが示された。
【0079】
oct−4は原腸形成前の胚、分裂初期段階の胚、胚盤胞の内部細胞塊の細胞、及び胎児性(EC)癌細胞内において発現される転写因子であり(Nichols J, etalCell95: 379-91, 1998)、細胞が分化誘導されるとダウンレギュレートされる。oct−4の発現
は胚形成及び分化の初期段階を決定するうえで重要な役割を担っている。oct−4はRox−1とともに、ESを未分化に維持するうえでやはり必要とされるジンクフィンガータンパク質であるRex−1の転写を活性化させる(RosfjordE,RizzinoA. Biochem Biophys Res Commun 203: 1795-802, 1997; Ben-Shushan E,etal., MolCell Biol 18: 1866-78, 1998)。更に、ES/EC及び他のより分化の進んだ細胞において発現されるso
x−2は、ES/ECの未分化状態を維持するうえでoct−4とともに必要とされる(UwanoghoD,Rex M, Cartwright EJ, PearlG, Healy C, Scotting PJ, Sharpe PT:Embryonicexpression of the chicken Sox2,Sox3 and Sox11 genes suggests aninteractiverole in neuronal development. MechDev 49: 23-36, 1995)。マウスES細胞及び始原生殖細胞の維持にはLIFの存在が必要であるが、ヒト及びヒト以外の霊長類のES細胞についてはこの条件はさほど明確ではない。
【0080】
本発明者等は、oct−4、Rex−1、及びRox−1がヒト及びマウス骨髄由来の多能性成体幹細胞(MASC)及びマウス肝臓及び脳由来のMASC中で発現されていることを観察した。ヒトMASCは白血病抑制因子受容体(LIF−R)を発現し、SSEA−4にて陽性染色される。ヒトMASCの増殖がLIFによって影響されるかは依然明らかではないがヒトMASCはLIF−R
+細胞を選別することによって濃縮されることが初期の実験によって示されている。これに対してマウスMASCの増殖はLIFによって助長される。最後にoct−4、LIF−R、Rex−1及びRox−1のmRNAレベルはヒトMASCの培養において30回目の細胞分裂以降に高くなり、表現型がより均一な細胞を生ずる。これに対して高密度で培養されたMASCではこれらのマーカーは発現しなくなる。このことは40回の細胞分裂以前の老化及び細胞が軟骨芽細胞、骨芽細胞、及び脂肪細胞以外への分化能を失うことに関連している。したがってoct−4の存在は、Rex−1、Rox−1、sox−2、及びLIF−RとともにMASC培養中の最も原始的細胞の存在を示すマーカーとなる。
【0081】
本発明者等はoct−4のプロモーターであるeGFP遺伝子に関してマウスの形質転換体を調べた。これらの動物では始原生殖細胞ならびに生後の生殖細胞中にeGFPの発現が見られる。本発明者等はMASCがoct−4を発現する際に生後のこれらの動物の骨髄、脳、及び肝臓にeGFPポジティブな細胞が見られるか否かについて試験を行った。生後5日目のマウスの骨髄、脳、及び肝臓からeGFP
+細胞(最も明るかった細胞1%)を選別した。蛍光顕微鏡検査法による評価を行ったところ、脳及び骨髄から選別された細胞の内、eGFP
+であったのは1%未満であった。選別した細胞集団においてQ−RT−PCRによりoct−4のmRNAが検出された。選別した細胞をマウスMASCを支持可能な条件下(EGF、PDGF、LIFを補い、フィブロネクチンでコーティングしたウェル)で播種した。細胞は生存したが増殖は見られなかった。マウス胚性繊維芽細胞に移したところ細胞の増殖が見られた。MASC支持条件下に再び播種したところ、MASCの形態及び表現型を備えた細胞が検出された。
【0082】
2.マウスMASC
ヒト細胞におけるのと同様、C57/BL6MASCを、EGF、PDGF−BB及びLIFを添加して培養した場合、CD44及びHLA−クラスIネガティブとなり、SSEA−4にて陽性染色され、oct−4、LIF−R、ROX−1及びsox−2の転写産物を発現した。同様にFVB/Nの骨髄、脳、及び肝臓から得たMASCはoct3/4のmRNAを発現した。
【0083】
多能性成体幹細胞の培養
本明細書中に述べるような単離多能性成体幹細胞(MASC)は本発明の方法を用いて培養することが可能である。簡単に述べれば、低血清もしくは無血清培地中での培養が細胞を未分化状態に維持するうえで好ましい。ここに述べられるような、当該細胞の培養に用いられる無血清培地は表Iに示されるように補ったものである。
【0084】
【表1】
MASCはLIF−Rを発現し、また一部の細胞はoct−4を発現することにより、LIFを添加することによって培養が向上するか否かについて試験を行った。ヒトMASCに10ng/mLのLIFを添加した場合、短期間の細胞増殖に影響は見られなかった(25回の細胞分裂までの細胞倍加時間、oct−4の発現レベルが同じ)。ヒト細胞における場合と比較して、0日目にCD45
+細胞を除去した新鮮なマウス骨髄単核細胞をMASC培養に播種した場合、細胞の増殖は見られなかった。マウス骨髄単核細胞を播種し、培養細胞から14日後にCD45
+細胞を除去した場合、ヒトMASCに形態及び表現型において類似した細胞が出現した。このことは、マウスMASCの初期の増殖には造血細胞によって分泌される因子が必要であることを示している。PDGF−BB及びFEGのみを加えて培養した場合、細胞の倍加時間は遅く(6日よりも長い)、10回の細胞分裂を越える時間にわたって培養を維持することはできなかった。10ng/mLのLIFの添加により細胞の増殖は大幅に向上した。
【0085】
培養中で樹立された細胞は、40%FCS及び10%DMSOを加えたDMEMを用い、凍結して凍結ストックとして保存することが可能である。培養細胞の凍結ストックを調製するための他の方法も当業者に周知である。
【0086】
単分化能前駆細胞及び組織特異的細胞型へのMASCの分化誘導
本発明の多能性成体幹細胞(MASC)は、適当な成長因子、ケモカイン、及びサイトカインを用い、例えば、中胚葉由来の各種細胞、神経外胚葉由来の細胞(グリア細胞、乏突起膠細胞、及びニューロン)や内胚葉由来の細胞などの多くの細胞系を形成するように分化誘導することが可能である。
【0087】
A.臓側中胚葉
1.骨芽細胞:
コンフルエンスに達した多能性成体幹細胞(MASC)を10
−6〜10
−8M(好ましくは約10
−7M)のデキサメタゾン、β−グリセロフォスフェート及び5〜20mM(好ましくは10mM)のアスコルビン酸とともに培養した。骨芽細胞の存在を証明するため、VonKossa染色法(CaPO4の銀還元反応)、または骨シアロタンパク質、オステオネクチン、オステオカルシンに対する抗体(免疫組織化学/ウエスタン)を使用した。培養14日から21日後には細胞の80%を上回るものがこれらの抗体によって陽性に染色された(
図5、6)。
【0088】
2.軟骨芽細胞:
多能性成体幹細胞(MASC)をトリプシン処理し、50〜100ng/mL(好ましくは100ng/mL)のTGF−β1を補った無血清DMEM中、マイクロマス懸濁培養として培養した。試験管の底に微小な軟骨凝集体が形成され、トルイジンブルーにて陽性に染色された。初期にはマイクロマス全体にわたってI型コラーゲンが検出された(5日目)が、14日後では繊維状軟骨の外層においてのみ検出された。5日後にはII型コラーゲンが検出されるようになり、14日後にはマイクロマスは強く染色された。骨シアロタンパク質についての染色は繊維状軟骨の外層において陰性もしくは微弱な陽性であった。オステオネクチン、オステオカルシン、及びオステオポンチンについては異なる染色強度が得られた。II型コラーゲンの存在はウエスタンブロット及びRT−PCRにより確認した。更に、5日後に回収された細胞にRT−PCRを行ったところ、軟骨に特異的な転写因子であるCART1及びCD−RAP1の存在が示された(
図5、6)。
【0089】
3.脂肪細胞:
脂肪細胞の分化を誘導するには、約10
−7〜約10
−6M(好ましくは約10
−7M)のデキサメタゾン、約50〜約200μg/ml(好ましくは約100μg/ml)のインスリン、または約20%のウマ血清を補った培地を使用することが可能である。脂肪細胞の分化は、光学顕微鏡による観察、オイル・レッドによる染色、あるいはリポタンパク質リパーゼ(LPL)、脂肪細胞の脂質結合タンパク質(aP2)、またはペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)の検出によって検出される。細胞マーカー及び産物の検出方法は当業者には公知のものであり、PPARγに結合するトログリタゾン(TRO)及びロシグリタゾン(RSG)などの特定のリガンドを用いた検出法などが挙げられる。
【0090】
4.軟骨及び骨の発現遺伝子プロファイル
本発明者等は、骨芽細胞及び軟骨芽細胞への分化に際して発現される遺伝子を調べた。詳細には、MASC(n=3)及び2日間にわたって骨芽細胞及び軟骨芽細胞培養条件に切り換えたMASCの発現遺伝子プロファイルを調べてこれら2つの特定の細胞系列への均一な相対的転換が見られるか否かを、クロンテック(Clonetech)社及びインビトロゲン(Invitrogen)社のcDNAアレイを用いて判定した。検出された変化の一部を表2に列記した。これは決して、MASC、骨芽細胞、及び軟骨芽細胞の発現遺伝子プロファイルの決定的評価たりうるものではない。しかしながらこの結果は、MASCの骨及び軟骨への分化が発現遺伝子プロファイルに著明かつ多様な変化をもたらすことを示すものであり、培養中の細胞の多くが所定の経路に沿って分化誘導可能であるという所見と符合するものである。
【0091】
【表2】
5.サブトラクティブ
・ハイブリダイゼーションによる骨の発現遺伝子プロファイル: 本発明者等はサブトラクション法を用いて未分化の多能性成体幹細胞(MASC)と単分化能の子孫細胞との間の遺伝子の相違を調べた。ポリアデニル化mRNAを未分化MASCから抽出し、2日間にわたり細胞を骨芽細胞系へと分化誘導した。改変を行うことなく製造者の推奨するところにしたがって、クロンテック(Clonetech)社の販売するPCR−選択キットを使用して発現レベルの異なるcDNAのサブトラクション及び増幅を行った。未分化のMASCではなく、2日目の骨芽細胞培養中で発現した遺伝子から配列の分析を開始した。
【0092】
1)本発明者等は、発現レベルの異なる86個のcDNA配列の配列を決定した。発明者等はノーザンブロッティングによりmRNAがMASCではなく、2日目の子孫骨芽細胞において実際に特異的に発現していることを確認した。得られた配列は以下のデータベースと(BLASTアルゴリズムを用いて)比較した。すなわち、SwissProt,GenBankprotein and nucleotide collections, ESTs, murine andhuman EST contigsである。
【0093】
2)配列は相同性によって分類した。8個が転写因子、20個が細胞の代謝に関与、5個が染色体の修復に関与、4個がアポトーシス経路に関与、8個がミトコンドリアの機能に関与、14個が接着受容体/ECM要素、19個が機能が不明な既知のEST配列、8個が新規な配列であった。
【0094】
3)本発明者等は、3人の個別のドナーより得られた多能性成体幹細胞(MASC)を12h、24h、2d、4d、7d、及び14dにわたって骨に分化誘導したものを用い、新規配列の内の2個についてQ−RT−PCRを行った。2個の遺伝子はそれぞれ分化誘導の最初の2日間及び4日間において発現し、その後はダウンレギュレートされた。
【0095】
4)本発明者は更に未分化のMASCに存在するが2日目の骨芽細胞には存在しない遺伝子について分析を行った。この結果、発現レベルの異なる30個の遺伝子が配列決定され、その内の5個はEST配列または未知の配列であった。
【0096】
B.筋肉
多能性成体幹細胞(MASC)を任意の筋肉の表現型を有する細胞に分化させるには、分化誘導に先立ってMASCがコンフルエンスに達していることが必要である。
【0097】
1.骨格筋:骨格筋分化を誘導するには、コンフルエンスに達した多能性成体幹細胞(MASC)を、MASC増殖培地中、約1〜約3μM(好ましくは約3μM)の5−アザシチジンにて24時間処理する。次いで培養をMASC培地中で維持する。分化はウェスタンブロット及び免疫組織化学法にて評価する。in vitroでの骨格筋への分化は当業者には周知の標準的方法及び市販の抗体を用いたウェスタンブロットまたは免疫組織化学法のいずれかによって、Myf−5、Myo−D、Myf−6、ミオゲニン、デスミン、骨格筋アクチン及び骨格筋ミオシンの一連の活性化を検出することによって証明することが可能である。5−アザシチジンによる誘導の5日後にはMyf5、Myo−D、及びMyf6転写因子が細胞の約50%に検出される。14〜18日後では、Myo−Dの発現レベルは大幅に低下したのに対し、Myf5及びMyf6の発現レベルは高値を維持した。デスミン及び骨格筋アクチンは誘導後4日目と早期に検出され、骨格筋ミオシンは14日目に検出された。免疫組織化学法により14日目には細胞の70〜80%が成熟筋タンパク質を発現していることが確認された。5−シチジンによる処理によって培養の第1週目にGata4及びGata6が発現した。更に2日後には低レベルのトロポニン−Tが検出された。誘導の2日後には平滑筋アクチンが検出され14日間にわたり高値を維持した。20%のウマ血清を添加すると筋原細胞の多核化筋管への融合が見られた(
図7)。発明者等は2重蛍光標識を用い、系統変換した筋原細胞を分化経路の異なる筋細胞と融合させることが可能であることを示した(
図8)。
【0098】
2.平滑筋:成長因子は添加せず、高濃度(約50〜約200ng/ml、好ましくは約100ng/ml)の血小板由来成長因子(PDGF)を補った無血清培地中で多能性成体幹細胞(MASC)を培養することにより平滑筋細胞を誘導することが更に可能である。細胞は分化の開始時点でコンフルエンスに達していることが好ましい。最終分化した平滑筋細胞は、当業者に周知の標準的方法によってデスミン、平滑筋特異的アクチン、及び平滑筋特異的ミオシンの発現を検出することによって同定が可能である。平滑筋アクチンは2日後から、平滑筋ミオシンは14日後から検出された。細胞の約70%が抗平滑筋アクチン抗体及び抗平滑筋ミオシン抗体によって陽性染色された。4日後からミオゲニンの存在が確認され、6日後からデスミンが確認された。2〜4日後に更にMyf5及びMyf6タンパク質が検出され、15日目まで高値を維持した。Myo−Dは検出されなかった(
図7)。
【0099】
3.心筋:心筋分化は、前記に述べたように約5〜約200ng/ml(好ましくは約100ng/ml)の塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)を、成長因子を添加しない標準無血清培地に添加することによって可能である。コンフルエンスに達したMASCをμM(好ましくは約3μM)の5−アザシチジン、次いで10
−5〜10
−7Mの(好ま
しくは10
−6M)のレチノイン酸に露曝した後、MASC増殖培地中で培養した。または、MASCをこれらの誘導因子のいずれか一方または両者の組合わせとともに培養した後、50〜200ng/ml(好ましくは100ng/ml)のFGF2、または5〜20ng/ml(好ましくは10ng/ml)のBMP−4と100ng/mlのFGF2の組合わせを添加した無血清培地中で培養してもよい。発明者等は心筋細胞と一致するタンパク質の発現を確認した。Gata4及びGata6が早くも2日目に発現され、15日まで高値を維持した。心筋トロポニンTが4日目以降に発現され、心筋トロポニンIが6日目以降に発現された。ANPは11日目以降に検出された。免疫組織化学法により15日目にこれらの心筋タンパク質が70%を上回る細胞で検出された。転写因子Myf6は2日目以降に確認された。デスミンの発現が6日目に、ミオゲニンの発現が2日目に始まった。骨格筋アクチンも確認された。培養を3週間以上維持すると細胞はシンシチウムを形成した。発明者等は更に、培養中で稀に自然収縮が生じ、数mmの距離を伝播するのを確認した(
図7)。
【0100】
C.内皮細胞
多能性成体幹細胞(MASC)はFlk1を発現したが、CD34、PECAM、E−及びP−セレクチン、CD36、Tie/Tek及びFlt1は発現しなかった。MASCを20ng/mlVEGFを添加した無血清MASC培地で培養した場合、14日目までに細胞表面にCD34が発現され、細胞がvWFを発現するのを確認した(免疫蛍光法)(
図9、10)。更に細胞は、Tie、Tek、Flk1及びFlt1、PECAM、P−セレクチン及びE−セレクチン、ならびにCD36を発現した。組織化学染色の結果をウェスタンブロットにより確認した。VEGFによって誘導した細胞をマトリゲルまたはIV型コラーゲン上で培養すると血管形成が観察された(
図9、10)。
【0101】
D.造血細胞
多能性成体幹細胞(MASC)がCD34
+の内皮細胞へと分化すること、また最近の研究によってCD34
−FLK
+細胞を内皮細胞及び造血細胞に分化誘導することが可能であることが示されたことから、MASCの造血前駆細胞への分化誘導が可能か否かを調べた。ex vivoでマウス及びヒト再生幹細胞を支持可能な胎児肝臓由来の間葉細胞系であるAFT024フィーダーによって調整し、5%FCS及び100ng/mlのSCFを添加したPDGF−BB及びEGF含有MASC培地中、IV型コラーゲン上にMASCを再播種した。これらの培養から回収した細胞は、cKit、cMyb、Gata2、及びG−CSF−Rを発現したが、CD34は発現しなかった(RT−PCR)。造血作用が胚性内臓内胚葉が放出する因子によって誘発されることから、発明者等はヒトSCF、Flt3−L,Tpo、及びEpoの存在下でβGal
+のマウスEBとヒトMASCとを共培養した。2つの別々の実験において、ヒトCD45を発現するβGal
−細胞の小集団が検出された。
【0102】
E.間質細胞:
発明者等は、多能性成体幹細胞(MASC)をIL−1α、FCS、及びウマ血清とともに培養することにより「間質細胞」分化を誘導した。これらの細胞が造血支持能を有することを証明するため、フィーダーを2,000cGyにて放射線照射し、CD34
+臍帯血細胞をフィーダーと接触させて播種した。1、2、及び5週間後にメチルセルロースアッセイにおいて子孫細胞を再播種してコロニー形成細胞(CFC)の数を求めた。2週間後にCFCは3〜5倍に増加し、5週後においてCFCは維持された。これはマウス胎児肝臓由来のフィーダー細胞であるAFT024と接触させてCD34
+細胞を培養した場合と類似していた。
【0103】
F.神経性細胞
驚くべきことに、造血作用支持フィーダーであるAFT024によって調整したEGF含有MASC培地中で、VEGF、造血性サイトカインSCF、Flt−L、Tpo及びEpoにて誘導した多能性成体幹細胞(MASC)は、グリア繊維性酸性タンパク質(GFAP)陽性アストロサイト、ガラクトセレブロシド(GalC)陽性乏突起膠細胞、及びニューロフィラメント陽性ニューロンに分化した(
図11)。そこで発明者等は、AFT024フィーダーによるFGF2の産生ならびに培養へのEGFの添加がin vitroでの神経系細胞への分化を誘導したものであるとの仮説を立てた。
【0104】
そこで発明者等は、神経発生ならびに神経前駆細胞のex vivo培養において重要な役割を担っていることが知られているFGF2がMASC由来の神経発生に与える影響について調べた。EGF及びPDGF−BBを加えて培養したヒト骨髄由来MASC(n=7)の、コンフルエンスが50%に満たない培養を50〜500ng/mL(好ましくは100ng/mL)のFGF2を含有する培地に切り換えると、2〜4週間後にアストロサイト、乏突起膠細胞、及びニューロンの表現型を有する細胞への分化が確認された(
図11)。培養2週間後において、細胞の26±4%がGFAP陽性であり、28±3%がGalC陽性であり、46±5%がニューロフィラメント−200陽性であった。3週後に再び調べたところ、GFAPまたはGalC陽性細胞の数は減少していたが、20±2%の細胞がβ−チューブリンIIIについて陽性染色され、22±3%がニューロフィラメント−68について陽性染色され、50±3%がニューロフィラメント−160について陽性染色され、20±2%がニューロフィラメント−200について陽性染色され、82±5%がニューロン特異エノラーゼ(NSE)について陽性染色され、80±2%が微小管関連タンパク質2(MAP2)について陽性染色された(
図12)。GABA、パルブアルブミン、チロシンヒドロキシラーゼ、DOPA−デカルボキシラーゼ、及びトリプトファンヒドロキシラーゼは検出されなかった。ニューロン1個当たりの軸索の数は分化後2、3〜4週後に3±1個〜5±1個及び7±2個に増加した。アストロサイト、乏突起膠細胞、及びニューロンの特徴を有する細胞への分化は、ウェスタンブロット及びRT−PCR分析によって、GFAP、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)及びニューロフィラメント−200がFGF2処理細胞には存在するが、MASCには存在しないことを証明して確認した。
【0105】
FGF−9はグリア芽細胞腫細胞系列から最初に単離され、培養中でグリア細胞の分裂を誘導する。FGF−9は、大脳皮質、海馬、黒質、脳幹の運動核、プルキンエ細胞層のニューロンにおいてin vivoに見られる。MASCに5〜50ng/mL(好ましくは10ng/mL)のFGF−9及びEGFを添加して3週間培養すると、アストロサイト、乏突起膠細胞、GABA作動性ニューロン、及びドーパミン作動性ニューロンを生じた。中枢神経系の発生過程では、中/後脳境界において前脳により発現されるFGF−8が、ソニックヘッジホッグとともに中脳及び前脳のドーパミン作動性ニューロンの分化を誘導する。MASCに5〜50ng/mL(好ましくは10ng/mL)のFGF−8及びEGFを添加して3週間培養するとGABA作動性ニューロン及びドーパミン作動性ニューロンの両方を生じることが分かっている。FGF−10は極微量が脳に見出され、その発現は海馬、視床、中脳、及び脳幹に限定され、ニューロン内で選択的に発現し、グリア細胞では発現しない。MASCを5〜50ng/mL(好ましくは10ng/mL)のFGF−10及びEGF中で3週間培養するとアストロサイト及び乏突起膠細胞を生じたが、ニューロンは生じなかった。FGF−4は脊索において発現し、中脳の領域化に必要とされる。MASCを5〜50ng/mL(好ましくは10ng/mL)のFGF−4及びEGFにて3週間処理するとアストロサイト及び乏突起膠細胞に分化したが、ニューロンには分化しなかった。
【0106】
脳において特異的に発現し、in vivo及びin vitroで神経発生に影響する他の成長因子としては、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、及び毛様体神経栄養因子(CNTF)などがある。BDNFは、NSC、ヒト上衣下細胞、及び神経系前駆細胞のニューロンへのin vitro分化を促進し、海馬由来神経幹細胞のin vivoでの軸索生成を促進する神経成長因子ファミリーに属する。黒質のドーパミン作動性ニューロンの生存を支持するというBDNFの既知の機能と符合するものであるが、MASCを5〜50ng/mL(好ましくは10ng/mL)のBDNF及びEGFにて処理すると、チロシンヒドロキシラーゼ陽性ニューロンのみへの分化が見られた。GDNFはTGFスーパーファミリーに属する。神経発生の初期にはGDNFは前神経外胚葉で発現し、神経発生におけるGDNFの重要な役割を示すものである。GDNFは末梢神経及び筋肉の運動ニューロンの生存を促し、神経栄養因子活性及び分化促進能を有する。5〜50ng/mL(好ましくは10ng/mL)のGDNFによりMASCのGABA作動性及びドーパミン作動性ニューロンへの分化が誘導されることが分かっている。CNTFは毛様体神経節から最初に単離され、サイトカインのgp130ファミリーに属する。CNTFは発生初期の神経の生存を促す。CNTFにより、ラット胎児の海馬神経細胞の培養においてGABA作動性及びコリン作動性ニューロンの数が増加する。更にCNTFはGABA作動性ニューロンの細胞死を防止するとともにGABAの取込みを促進する。5〜50ng/mL(好ましくは10ng/mL)のCNTFはMASCに対し同様のGABA作動性誘導効果を示し、MASCはCNTFへの曝露の3週後にGABA作動性ニューロンのみに分化した。
【0107】
ラットの脳に移植されたMASCの運命についても調べた。50,000個のeGFP
+のMASCを、シクロスポリンを継続投与したWister系ラットに誘発させた頭頂部梗塞の周囲に定位的に移植した。生理食塩水、MASC調整培地、またはMASCの移植後6週目に四肢の定位機能について検定した。MASCを移植したラットにおいてのみ擬似移植を行った動物のレベルに比肩する機能改善が見られた(
図15)。
【0108】
2及び6週間後に動物を殺して神経に係る表現型を決定した。eGFP
+細胞の移植後の脳が自己蛍光を発することから、移植片の免疫組織化学的分析を行った。2週目ではeGFP
+細胞の大半が移植領域自体において検出された(
図16)。5週後ではeGFP
+細胞は移植片の外部に移動した。2週目では抗eGFP抗体で染色された細胞は球形状を維持し、その直径は10〜30μmの範囲であった。6週後では抗eGFP抗体で染色された細胞は大幅に縮小しており、移植領域には正常な脳組織へと延出する樹状突起が見られた。ヒト特異的核抗体であるNuMaによる染色によってヒト細胞の存在が確認された。この抗体を利用すれば免疫蛍光抗体による2重及び3重の染色が可能であり、移植片中のヒト細胞を特定することが可能である。
【0109】
本発明者等は、ヒト特異的抗ネスチン抗体を利用してNuMa陽性細胞及びGFP
+細胞と同じ場所にネスチン陽性細胞の小集団を検出した。このことは神経外胚葉の分化を示すものである。更に発明者等は、チューブリンIII、ニューロフィラメント−68及び−160、オリゴマーカー、及びGFAPについて陽性染色を確認した。このことは神経細胞及びグリア細胞への分化を示すものである(図に示されていない)。
【0110】
G.上皮細胞
発明者等はコンフルエンスに達した多能性成体幹細胞(MASC)(n=4)を10ng/mLの肝細胞成長因子(HGF)単独かまたはケラチノサイト成長因子(KGF)との組合わせにて処理した。14日後にHGF受容体、サイトケラチン8、18及び19を発現する大型の類上皮細胞を確認した。サイトケラチン19の存在は胆管上皮細胞への分化が起きている可能性を示すものである。基質をフィブロネクチンからコラーゲンゲルまたはマトリゲルに変更することによって上皮細胞の形態を有するサイトケラチン18発現細胞の発生率が向上した(
図17)。
【0111】
分化した複数細胞系列の単一細胞起源
多能性成体幹細胞(MASC)同士が互いにクローンであるかどうかを確認するため、発明者等はFACS1により選別を行い、MFG−eGFPにより形質導入したeGFP
+細胞をウェル1個当たり10個播種し、10
8個の細胞にまで培養した。形質導入は以下のように行った。24時間前に再播種したMASCを6時間づつ連続2日間にわたってPG13細胞系にパッケージングされたMFG−eGFPまたはMSCV−eGFP及び10μg/mLのプロタミンに曝露した。MASCの40〜70%に形質導入された。eGFPの発現はex vivoにて少なくとも3ヶ月間維持され、分化後も多くの細胞において発現が維持された。1個の細胞を選別した場合、1,000個を上回るウェルにおいて増殖はまったく見られなかったが、ウェル当たり10個の細胞を播種した場合にはウェルの3%において細胞の増殖が見られた。ウェルの0.3%のみに10
7個を越える細胞への更なる増殖が見られた。次いでこれらの細胞を中胚葉由来のすべての種類の細胞に分化誘導した(骨芽細胞、軟骨芽細胞、脂肪細胞、骨格筋及び平滑筋細胞、及び内皮)。ここでもやはり免疫組織化学法及びウエスタンブロッティングによって分化を確認した。細胞を更にinversePCRにかけて挿入されたウイルスDNAを挟み込んだヒトDNAの配列が類似していることを証明した。発明者等はレトロウイルス遺伝子がMASC及び分化した子孫の別々の3つのクローンのヒトゲノムの同じ部位に挿入されていることを確認した。
【0112】
MASCの生着
発明者等は多能性成体幹細胞(MASC)が生着し、in vivoにて維持されるかを調べるため研究を行った。
【0113】
1.発明者等はeGFP
+のMASCをNOD−SCIDマウスに筋肉内注射した。4週間後に動物を殺し、筋肉を調べてヒトES細胞に関し上記に述べたように奇形腫が発生しているかを判定した。5頭中5頭の動物に奇形腫の発生は見られなかった。eGFP陽性の細胞は検出された。
【0114】
2.発明者等はeGFP
+のMASCをSCIDマウス胎児に子宮内IV注入した。出生直後に動物を調べた。PCR分析により心臓、肺、肝臓、脾臓、及び骨髄にeGFP
+細胞の存在が確認された。
【0115】
3.発明者等は無傷または梗塞を発生したラットの脳にMASCを定位的に移植した。MASCは神経細胞の表現型を獲得し、少なくとも6週間にわたって維持された。
【0116】
MASCの応用例
1.骨芽細胞
骨細胞に分化誘導された本発明の多能性成体幹細胞(MASC)は、細胞治療として、または骨粗鬆症における組織再生、ページェット病、骨折、骨髄炎、骨壊死、軟骨形成不全症、骨形成不全症、遺伝性多発性外骨腫、多発性骨端異形成症、マルファン症候群、ムコ多糖症、神経繊維腫症、または脊柱側彎症、限局性奇形、二分脊椎、半側椎骨、融合椎骨、肢奇形の再建術、腫瘍により損傷した組織の再建、中耳炎などの感染症後の再建に使用することが可能である。
【0117】
2.軟骨細胞
本発明の多能性成体幹細胞(MASC)を分化誘導して形成される軟骨細胞は、細胞治療または、年齢関連疾患及び損傷、スポーツ関連損傷、あるいは、慢性関節リウマチ、関節症性乾癬、ライター関節炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、強直性脊椎炎、変形性関節炎などの特定の疾患における組織再生、外耳再建術、鼻再建術、及び輪状軟骨の再建術に利用することが可能である。
【0118】
3.脂肪細胞
多能性成体幹細胞(MASC)より得られた脂肪細胞は、再建手術や美容整形手術における再形成及びII型糖尿病の治療に利用することができる。再建手術においては、本発明の方法により分化させた脂肪細胞を、例えば乳房切除術後の乳房再建や、顔面や手からの腫瘍除去などの他の外科手術による欠損組織の再形成に利用することが可能である。美容整形手術では、本発明の方法によって本発明の細胞から得られた脂肪細胞を、乳房拡大や老化した皮膚の皺取りなど様々な方法において使用することが可能である。更にこのようにして得られた脂肪細胞によって脂肪の制限の研究に有効なin vitroモデルシステムが与えられる。
【0119】
4.繊維芽細胞
MASCから誘導される繊維芽細胞は、細胞治療や組織の修復に利用して外傷の治癒を促したり、美容整形手術用の土台などの連結組織の支持要素を与えることが可能である。
【0120】
5.骨格筋
MASCを分化誘導して得られる骨格筋細胞は、デュシャンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー、骨格筋ミオパシーの治療における細胞療法や組織修復、及び骨格筋損傷を修復するための再建術に利用することが可能である。
【0121】
6.平滑筋
MASCを分化誘導して得られる平滑筋細胞は、細胞治療や、食道閉鎖、腸閉鎖、腸重積症などの消化器系の発生異常の治療における組織修復、及び腸梗塞手術や結腸結腸吻合術後の組織の置換に利用することが可能である。
【0122】
本発明のMASCから形成された平滑筋細胞は更に、膀胱や子宮の再建、新生血管形成、例えばアテローム性動脈硬化症や動脈瘤などによって損傷した血管の修復に利用することが可能である。平滑筋前駆細胞(メサンギウム細胞)を糸球体の疾患や細胞治療のin
vitroモデルとして、または糖尿病性ニューロパシーにおける組織再生に利用することが可能である。平滑筋前駆細胞は更に、血圧の調節において重要な遠位曲尿細管や傍糸球体組織の緻密斑の修復に利用することが可能である。
【0123】
7.心筋細胞
多能性成体幹細胞(MASC)から誘導される心筋細胞は、弁置換術、先天性心異常あるいは心筋症や心内膜炎によるうっ血性心不全や、心筋梗塞により損傷した心組織を治療するための細胞治療や組織修復に有用である。細胞は特に注射により局所的に投与することによって高い効果を得ることが可能である。MASCから分化した小膠細胞は、脊髄損傷、及びハンチントン病、パーキンソン病、多発性硬化症やアルツハイマー病などの神経変性性疾患の治療、ならびに中枢神経系を冒す感染症によって損傷した組織の修復に使用することが可能である。サイトカインを産生するよう遺伝子改変された小膠細胞は、血液脳関門のためにアクセスが困難な中枢神経系の感染症を治療するための移植に利用することも可能である。グリア細胞は、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症や脳腫瘍による発作後の神経組織を再生するため、及び脊髄損傷後に神経組織を再生するための成長因子または成長因子阻害物質を産生するために利用することも可能である。
【0124】
8.間質細胞
本発明の多能性成体幹細胞(MASC)から誘導される間質細胞は、化学療法後の骨髄置換のため、また骨髄移植のための移植細胞として使用することができる。乳癌では強力な化学療法レジメンを行う前に患者から例えば骨髄吸引液を採取する。こうした化学療法は組織、特に骨髄に損傷を与える。患者の骨髄から単離したMASCを培養して増殖させ、骨髄細胞の再定着に充分な自己細胞を得ることが可能である。これらの細胞は異なる組織に分化することが可能であるので局所的または全身的に導入された細胞が他の損傷組織に移動し、その組織環境に存在する細胞因子によってこれらの細胞の分化が誘導されて増殖するという利点が得られる。
【0125】
9.内皮細胞
多能性成体幹細胞(MASC)を前記に述べた方法により内皮細胞に分化させ、この内皮細胞を第VIII因子欠損症の治療、及び新生血管形成のための血管新生因子の産生に利用することが可能である。この内皮細胞は更に血管新生阻害剤を使用した腫瘍抑制のためのin vitroモデル、ならびに脈管炎、過敏症、及び凝固疾患のin vitroモデルを与えるものである。こうした培養内皮細胞と当業者に周知の高速スクリーニング法を用いることにより、治療効果を有する可能性のある数千もの有用化合物をより速やかにかつ高いコスト効率でスクリーニングすることが可能である。
【0126】
10.造血細胞
多能性成体幹細胞(MASC)は造血細胞に分化することが可能である。したがって本発明の細胞を利用して高投与量の化学療法後に骨髄を再生することが可能である。化学療法を行う前に患者から骨髄吸引液を採取する。本発明の方法により幹細胞を単離し、培養、分化誘導する。この後、分化細胞と未分化細胞の混合物を患者の骨髄腔に再導入する。現在この目的で造血幹細胞を用いた臨床試験が行われているが、本発明の幹細胞は骨髄ばかりでなく他の組織の化学療法によって損傷した細胞をも置換することが可能な細胞に更に分化可能であるという更なる利点を有するものである。本発明のMASCから誘導される造血細胞を血液細胞に更に分化させて血液バンクで保管することにより、輸血用血液が不足する問題を解消することが可能となる。
【0127】
11.神経外胚葉細胞
MASCから分化した小膠細胞は、脊髄損傷、及びハンチントン病、パーキンソン病、多発性硬化症やアルツハイマー病などの神経変性性疾患の治療、ならびに中枢神経系を冒す感染症によって損傷した組織の修復に使用することが可能である。サイトカインを産生するよう遺伝子改変された小膠細胞は、血液脳関門のためにアクセスが困難な中枢神経系の感染症を治療するための移植に利用することも可能である。グリア細胞は、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症や脳腫瘍による発作後の神経組織を再生するため、及び脊髄損傷後に神経組織を再生するための成長因子または成長因子阻害物質を産生するために利用することも可能である。乏突起膠細胞及びアストロサイトに分化させたMASCを例えば、脱髄組織、特に脊髄に移植し、脱髄組織中でMASCに周囲の神経組織にミエリン鞘を形成させることが可能である。この方法は、乏突起膠細胞及びアストロサイト前駆細胞の供給源として胚性幹細胞を使用した場合に有効であることがマウスにおいて証明されている(Brustle,O.,et al., Science (1999) 285: 754-756)。本発明のMASCは胚性幹細
胞の幅広い分化特性を有するばかりでなく移植用の自己細胞を与えるという更なる利点を有する。
【0128】
本発明の細胞を細胞置換療法及び/または遺伝子治療に使用して、例えばムコ多糖症、白質ジストロフィー(グロボイド細胞性白質ジストロフィー、キャナヴァン病)、フコシドーシス、GM2ガングリオシドーシス、ニーマン−ピック病、サンフィリポ症候群、ウォルマン病、及びテイ−サックス病などの先天性神経変性性疾患や蓄積症を治療することが可能である。また本発明のMASCは、脳卒中、中枢神経系出血、中枢神経系外傷などの外傷性疾患、脊髄損傷や脊髄空洞症などの末梢神経系疾患、網膜剥離、黄斑変性や他の変性網膜疾患及び糖尿病性網膜疾患などの網膜疾患の治療に使用することが可能である。
【0129】
12.外胚葉性上皮細胞
更に本発明の上皮細胞を細胞置換療法及び/または遺伝子治療に使用して、脱毛症などの皮膚疾患、火傷の傷や白子症などの皮膚欠陥を治療もしくはその症状を緩和することが可能である。
【0130】
13.内胚葉性上皮細胞
本発明のMASCから誘導される上皮細胞を細胞置換療法及び/または遺伝子治療に使用して、複数の臓器疾患を治療もしくはその症状を緩和することが可能である。この細胞を使用して、例えば、ムコ多糖症、白質ジストロフィー、GM2ガングリオシドーシスなどの蓄積症、クリグラー−ナジャー症候群などの高ビリルビン疾患、例えばオルニチンデカルボキシラーゼ欠損症、シトルリン血症、及びアルギニノコハク酸尿症といった尿素回路の先天異常などのアンモニア疾患、フェニルケトン尿症、先天性高チロシン血症、及びα1−アンチトリプシン欠損症などのアミノ酸及び有機酸異常、ならびに第VIII及びIX因子欠損症などの凝固疾患といった先天性の肝疾患を治療もしくは緩和することが可能である。この細胞はまたウイルス感染による後天性肝疾患を治療するために使用することも可能である。本発明の細胞は更に、人口肝臓(腎臓透析に類似)の製造、凝固因子の生成、及び、肝上皮細胞が産生するタンパク質や酵素の生成などのex vivoでの応用例に使用することも可能である。
【0131】
更に本発明の上皮細胞を細胞置換療法及び/または遺伝子治療に使用して、胆汁性肝硬変や胆道閉鎖症などの胆道疾患を治療もしくはその症状を緩和することも可能である。
【0132】
更に本発明の上皮細胞を細胞置換療法及び/または遺伝子治療に使用して、膵臓閉塞症、膵臓炎、及びα1−アンチトリプシン欠損症などの膵臓疾患を治療もしくはその症状を緩和することが可能である。更に、本発明の細胞から膵臓上皮細胞が得られ、また神経細胞が得られることより、β細胞を生成することが可能である。これらの細胞を糖尿病の治療に用いることも可能である(皮下移植、膵臓内または肝臓内移植)。更に本発明の上皮細胞を細胞置換療法及び/または遺伝子治療に使用して、腸閉塞、炎症性腸疾患、腸梗塞、及び腸切除などの腸上皮組織の疾患を治療もしくはその症状を緩和することが可能である。
【0133】
14.非最適培養条件下での不老性を与えるためのMASCの改変
多能性成体幹細胞(MASC)は長いテロメア(12kb)を有し、このテロメア長は異なる年齢のドナーから得られた細胞で異ならない。MASCをex vivo培養するとテロメアはex vivo培養中において4ヶ月以上の長期にわたって(35回の細胞倍加より長い期間)短くならない。これはより長期に及ぶこともある。すべての年齢の人から得られるMASC中にテロメラーゼが存在する。MASCをコンフルエンスに達した状態で培養すると老化が始まりテロメアは短くなりはじめる。生産、商業上の理由などにより比較的高密度の培養中で長期に及ぶ増殖を行うことが好ましいことから、MASCをテロメアーゼを含む構築体により形質導入/トランスフェクトして、これにより細胞の老化を防止することが可能である。これらの細胞はin vivo移植に使用することが可能であるが、移植に先立って細胞からテロメラーゼを除去することが好ましい。これはテロメラーゼが2個のLoxP部位の間に位置するように構築体を構築することによって行うことが可能である。これによりCreリコンビナーゼによってテロメラーゼを切り出すことが可能となる。Creは、第2のベクター/プラスミドを用いるかまたはテロメラーゼ含有構築体の一部として標的細胞に形質導入/トランスフェクトすることが可能である。Creは、構成的活性型として、または、例えば天然エストロゲン受容体(ER)リガンドでは誘導されないが4−ヒドロキシタモキシフェン(OHT)により誘導可能なヒトエストロゲン受容体(ER)の1以上の突然変異リガンド結合ドメインを当該タンパク質に融合するか、またはテトラサイクリンやラパマシン誘導などの薬剤誘導系を用いることにより、誘導可能な酵素として導入することが可能である。
【0134】
15.免疫拒絶反応を防止するための移植アプローチ
a.万能ドナー細胞
多能性成体幹細胞(MASC)を遺伝子操作して細胞及び遺伝子治療のための万能ドナー細胞とし、遺伝病などの疾患の治療や酵素の置換を行うことが可能である。未分化のMASCは、HLA−I型、HLA−II型抗原やβ2マイクログロブリンを発現しないが、分化した子孫の一部には少なくともI型HLA抗原を発現するものがある。MASCは、HLA−I型及びHLA−II型抗原を欠損させ、場合によりレシピエントとなる患者由来のHLA抗原を導入することにより万能ドナー細胞に改変することが可能であり、これにより細胞が容易にNK細胞の媒介する細胞障害の標的となることを防止し、細胞での無制限のウイルス増殖や細胞の悪性転換を防止することが可能となる。HLA抗原は、相同組換え、またはプロモーター領域への点突然変異の導入、または抗原の最初のエクソンへの点突然変異の導入により、キメラ細胞の場合におけるように停止コドンを導入することによって欠損させることが可能である。ホストのHLA抗原は、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ関連ウイルスなどのウイルスによる形質導入やトランスフェクトによってHLA抗原のcDNAを標的細胞に導入することによって移入することが可能である。MASCを利用して特定のタンパク質を体内または血中で所定範囲の量すなわち濃度となるよう調整することが可能である。
【0135】
b.免疫系による認識を回避するための子宮内移植
多能性成体幹細胞(MASC)を子宮内移植生着に使用して遺伝子の異常を修正したり、ホストの免疫系の発達以前にホストの免疫系に認識されなくなるように細胞を導入することが可能である。これは動物の体内で血液などのヒト細胞を大量に生産するための方法を与えるものであり、また正常なタンパク質または酵素を産生する細胞を移植することによってヒト胎児の遺伝的欠陥を修正する方法として利用することも可能である。
【0136】
16.遺伝子治療
現在にいたるまで遺伝子治療に使用されるヒト細胞は、骨髄及び皮膚細胞に基本的に限られていた。これは、他の種類の細胞は、体内から抽出し、培養中で増殖させ、遺伝子改変し、組織が由来する患者に首尾良く再移植することが困難であることによる(Anderson,W.F., Nature (1998) 392: 30; Anderson, W. F., ScientificAmerican (1995) 273:1-5;Anderson, W. F., Science(1992) 256: 808-813)。本発明の多能性成体幹細胞(M
ASC)は、体内から抽出、単離し、培養中で未分化状態にてまたは分化誘導して増殖させ、様々な方法、殊にウイルスによる形質導入を用いて遺伝子改変することが可能である。遺伝物質の取込み及び発現は証明することが可能であり、外来DNAの発現は発生過程の全体を通じて安定的である。幹細胞に外来DNAを挿入するためのレトロウイルスなどのベクターは当業者には周知のものである(Mochizuki,H.,etal., J. Virol (1998) 72 (11): 8873-8883; Robbins, P., et al., J.Virol.(1997) 71(12): 9466-9474; Bierhuizen, M., et al., Blood (1997) 90(9):3304-3315; Douglas,J., et al., Hum. Gene Ther. (1999) 10 (6):935-945; Zhang,G., et al., Biochem.Biophys. Res. Commun. (1996) 227(3): 707-711)。レトロウイルスを用いて形質導入が行われると、緑色蛍光タンパク質(eGFP)の発現が最終分化した筋細胞、内皮細胞、及び単離MASCに由来するc−Kit陽性細胞において持続する。これはMASCに導入されたレトロウイルスベクターの発現が分化の全体を通じて持続することを示すものである。予めレトロウイルスベクターにより形質導入し、最初のMASC培養期間の数週目に選別した10個のeGFP
+細胞にて開始した培養から最終分化が誘導された。
【0137】
造血幹細胞は、その分化能は限定されたものであるが、遺伝子治療において有用であることが示されている(参照、Kohn, D. B., Curr.Opin.Pediatr. (1995) 7: 56-63)。
本発明の細胞は、レトロウイルスベクターが未分化の幹細胞に導入されたにも関わらず、最終分化した筋細胞、内皮細胞及びc−Kit陽性細胞において緑色蛍光タンパク質の発現が持続することによって証明されるように、最終分化した時点で形質導入またはトランスフェクトされたDNAを維持可能な広範な種類の分化細胞を提供するものである。
【0138】
本発明のMASCは、遺伝子治療用の造血幹細胞と比較して他の利点も有する。本発明の幹細胞は局所麻酔下で得られる骨髄吸引液から単離し、培養中で増殖させ、外来遺伝子をトランスフェクトすることが比較的容易に可能である。同様な目的で用いる相応な数の造血幹細胞は、少なくとも1Lの骨髄から単離しなくてはならず、また細胞を培養中で増殖させることも困難である(参照、Prockop, D.J., Science(1997) 276: 71-74)。
【0139】
遺伝子治療用の候補遺伝子の例としては、アポリポタンパク質E(アルツハイマー病や心血管疾患のリスクとの相関が示されている)、MTHFR(高ホモシステイン値及び脳卒中と変異体との相関が示されている)、第V因子(血栓のリスクと相関を有する)、ACE(心疾患のリスクと変異体との相関が示されている)、CKR−5(HIVに対する耐性との相関が示されている)、HPRT(ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、欠損によりレッシュ−ナイハン病を発症)、PNP(プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、欠損により重篤な免疫不全疾患につながる)、ADA(アデノシンデアミナーゼ、欠損により重篤な複合免疫不全疾患につながる)、p21(毛細管拡張性運動失調の治療用候補遺伝子として提唱されている)、p47(欠損と、慢性肉芽腫症の患者の好中球のオキシダーゼ活性の欠落との相関が示されている)、ジェンバンク受託番号M55067及びM38755)Rb(腫瘍形成に関連する網膜芽腫感受性遺伝子、ジェンバンク受託番号M15400)、KVLQT1(カリウムチャンネルタンパク質、異常型と心不整脈との相関が示されている。ジェンバンク受託番号U40990)、ジストロフィン遺伝子(デュシェンヌ型筋ジストロフィーに関連、ジェンバンク受託番号M18533、M17154、及びM18026)、CFTR(嚢胞性繊維症に関連する膜内外伝導度レギュレータ、ジェンバンク受託番号M28668)、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(毛細管拡張性運動失調に関連、ジェンバンク受託番号U26455)、及びVHL(このタンパク質の欠損または突然変異はフォンヒッペル−リンダウ病との関連が示されている)をコードする遺伝子が挙げられる(Latif,F.,et al., Science (1993) 260: 1317-1320)。これらの遺伝子改変細胞の使用により効果的に治療可能な他の疾
患としては、第IV因子欠損症、アデノシンデアミナーゼ欠損症(重篤な複合免疫不全疾患すなわちSCIDに関連)や糖尿病、及びグルコセレブロシダーゼ、α−イヅロニダーゼの血書運症が挙げられる。
【0140】
これらの新規な遺伝子は、酵素レベルが調整可能であるように誘導性プロモーターにより発現調節することが可能である。これらの誘導性プロモーター系は産生させるタンパク質に結合させたヒトエストロゲン受容体(ER)の突然変異リガンド結合ドメインを有していてもよい。そのためには患者はタンパク質を発現させるためにタモキシフェンを摂取する必要がある。あるいは、テトラサイクリン−on/off系、RU486やラパマイシン誘導系を使用することも可能である。相対的選択発現を行う更なる方法は組織特異的プロモーターを使用することである。例えば脳では、ニューロン特異的エノラーゼプロモーター(Ad−NSE)やグリア繊維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーターにより発現調節される導入遺伝子を導入することが可能であり、これにより脳組織においてほぼ当該遺伝子のみの発現が実現される。同様にTecプロモーターやVE−カドヘリンプロモーターを使用することにより内皮細胞のみにおける発現を得ることも可能である。
【0141】
遺伝子改変されたMASCは局所的に導入するか全身的に注入することが可能である。より限定された分化能を有するこうしたヒト幹細胞は、第IX因子の遺伝子をトランスフェクトした場合、SCIDマウスへの全身注入後少なくとも8週間にわたってタンパク質を分泌する(Keating,A.,et al., Blood (1996) 88: 3921)。本発明のMASCは、こ
れまでに報告されているいかなる非胚性幹細胞よりも幅広い分化能を有し、異なる組織に移動してそこでサイトカイン、成長因子などの因子によって細胞分化が誘導されることから、全身的または局所的投与において更なる利点を与えるものである。分化した細胞は周囲の組織の一部となるが、誘導された遺伝子のタンパク質産物を産生する能力は維持したままとなる。
【0142】
例えばパーキンソン病では、ヒト胎児の死体から得られた中脳性ドーパミンニューロンがパーキンソン病の患者の脳内で生存、機能できることが臨床試験により示されている。PET走査により、[
18F]フルオロドーパの細胞移植片周囲の領域での取込み量が移植後に増加し、患者によっては少なくとも6週間はその状態に維持されることが示されている(参照、Dunnett,S and A. Bjorklund, Nature (1999) 399 (Suppl.) A32-A39;Lindvall. O., NatureBiotech.(1999) 17: 635-636; Wagner, J., et al., NatureBiotech.
(1999)17:653-659)。胚性細胞と異なり、本発明が述べるところの単離MASCは、移
植用の細胞の速やかな供給を可能とする一方で、胚性細胞移植を病気の治療の有望な代替策とならしめている分化能を維持している。
【0143】
AIDSの治療においては、本発明のMASCを遺伝子操作して、HIV感染細胞内で産生される野生型Revの機能を阻害するRevのトランスドミナント・ネガティブな突然変異体であるRev10を産生させることが可能である(Bevec,D.et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1992) 89:9870-9874; Ranga, U., etal.,Proc.Natl. Acad. Sci.USA (1998) 95 (3):1201-1206)。MASCは、造血系列の細胞に分化誘導されて患者の体
内に導入されると、欠乏したHIV感染患者のT細胞の供給を回復させる。遺伝子改変されたこれらの細胞は突然変異体であるRevM10を有するために多くのHIV株による感染の致死的影響に対して耐性を獲得する。
【0144】
遺伝子改変されたMASCを不活担体中にカプセル化して細胞をホストの免疫系から保護する一方で分泌タンパク質を産生することが可能である。細胞のマイクロカプセル化の技術は当業者に周知のものである(参照、Chang,P.,et al., Trendsin Biotech. (1999) 17(2): 78-83)。細胞のマイクロカプセル化の材料としては例えば、ポリマーカプセル、アルギネート−ポリ−L−リシン−アルギネートマイクロカプセル、ポリ−L−リシン−アルギン酸バリウムカプセル、アルギン酸バリウムカプセル、ポリアクリロニトリル/ポリ塩化ビニル(PAN/PVC)製中空繊維、及びポリエーテルスルホン(PES)製中空繊維などが挙げられる。例えば米国特許第5,639,275号(ビージ,E.等)(Baetge,E.)には、遺伝子操作した細胞が封入された生体適合性カプセルを用いた生物学的活性分子の長期かつ安定的な発現のための装置及び方法が開示されている。このような生体適合性免疫隔離性カプセルは、本発明のMASCとともに、例えば糖尿病やパーキンソン病などの多くの生理的疾患を治療するための方法を与えるものである。
【0145】
例えば糖尿病の患者では、生理学的に治療効果を奏するレベルでインスリンを産生するように遺伝子改変した異種幹細胞を患者の組織内に送達すべくカプセル化することが可能である。あるいは、患者自身の骨髄吸引液から得られた自家幹細胞に上記に述べたようにレトロウイルスにて形質導入することも可能である。これらの細胞は、生理学的に治療効果を奏するレベルのインスリンを産生するように遺伝子改変した後、チャン(Chang)やビージ(Baetge)により述べられるようにカプセル化して患者の組織内に導入することが可能であり、これにより細胞は組織中に滞留して長期にわたってインスリンを産生する。
【0146】
本発明の細胞のマイクロカプセル化の別の利点は、マイクロカプセル内に生物学的治療効果を奏する分子を産生する各種細胞を封入できる点である。本発明のMASCは、それぞれ治療上有効なレベルの生物学的活性分子を産生するように遺伝子改変可能な、複数の異なる細胞系列に分化誘導することが可能である。異なる遺伝子要素を有するMASCを共にカプセル化して異なる生物学的活性分子を産生することが可能である。
【0147】
本発明のMASCはex vivoにて遺伝子改変することにより、遺伝子治療における最も困難な障壁を克服することが可能である。例えば、患者の骨髄吸引液を採取し、この吸引液からMASCを単離する。このMASCを1以上の所望の遺伝子産物を発現するように遺伝子改変する。このMASCをex vivoにてスクリーニングもしくは選択して首尾良く改変された細胞を特定し、この細胞を局所的あるいは全身的に患者に再導入することが可能である。あるいは、MASCを遺伝子改変して培養により分化誘導し、移植用の特定の細胞系を得ることも可能である。いずれの場合にも、移植されたMASCによって所望の遺伝子産物を発現可能な安定的にトランスフェクトされた細胞の供給源が与えられる。特に患者自身の骨髄吸引液がMASCの供給源である場合、本方法により移植細胞を産生するための免疫学的に安全な方法が与えられる。
【0148】
この方法を、その幾つかを数えあげるだけでも、糖尿病、心筋症、神経変性性疾患、及びアデノシンデアミナーゼ欠損症の治療に用いることが可能である。例えば糖尿病では、MASCを単離し、インスリンを産生するように遺伝子改変し、病気を罹患した患者に移植することが可能である。疾患が自己免疫に関連したものである場合、MASCを、免疫監視機構を免れるように改変MHCを発現するかもしくはMHCを発現しないように遺伝子改変することが可能である。ウイルスゲノムのE3領域を発現するアデノウイルスベクターを利用することにより、移植された膵臓小島細胞においてMHCの発現が抑制された。発明者等が証明したように、本発明の細胞は安定的にトランスフェクトまたは形質導入することが可能であり、したがって糖尿病患者に移植するためのインスリンのより恒久的な供給源を与えるものである。
【0149】
特にMHCの発現を変化させるように遺伝子改変したドナーMASC、及び特に所望のヘモグロビン遺伝子産物を発現するように遺伝子改変した自家MASCは、鎌状赤血球貧血症及びサラセミアの治療のための細胞療法に特に有効である。
【0150】
MASCを遺伝子改変する方法
本明細書中に述べられる方法によって単離される細胞は、当業者に周知の様々な方法により細胞内にDNAやRNAを導入することによって遺伝子改変することが可能である。これらの方法は大まかに4つの大きなカテゴリーに分類される。すなわち、(1)例えばレトロウイルス(レンチウイルスなど)、シミアンウイルス40(SV40)、アデノウイルス、シンドビスウイルス、及びウシパピローマウイルスなどのDNAまたはRNAウイルスの使用を含むウイルスによる導入法、(2)リン酸カルシウムトランスフェクション及びDEAEデキストラントランスフェクション法などの化学的導入法、(3)例えば、リポソーム、赤血球ゴースト、及びプロトプラストなどの、DNAを充填した膜小胞を用いた膜融合導入法、(4)マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、または直接的な「裸」のDNAの導入などの物理的導入法である。多能性成体幹細胞(MASC)は、予め選択した単離DNAの挿入、予め選択した単離DNAによる細胞ゲノムのセグメントの置換、または、細胞のゲノムの少なくとも一部の欠失または不活化によって遺伝子改変することが可能である。細胞ゲノムの少なくとも一部の欠失及び不活化は、例えば、遺伝子組換え、アンチセンス法(ペプチド核酸すなわちPNAの使用を含む)、リボザイム法などの様々な方法によって行うことが可能である。1以上の予め選択されたDNA配列の挿入は相同組換えやホスト細胞のゲノムへのウイルスによる挿入によって行うことが可能である。プラスミド発現ベクターや核局在化配列を用いて所望の遺伝子配列を細胞内、特に細胞核内に導入することも可能である。ポリヌクレオチドを核に誘導する方法は当該技術分野にあっては周知のものである。遺伝物質は、対象遺伝子を特定の化学物質/薬剤の使用によりポジティブまたはネガティブに誘導するか、特定の薬剤/化学物質の投与後に消失させるか、化学物質(タモキシフェン応答性突然変異エストロゲン受容体など)による誘導または特定の細胞区画(細胞膜など)中における発現を可能とするように標識可能であるプロモーターを利用して導入することが可能である。
【0151】
相同組換え
リン酸カルシウムトランスフェクションは、プラスミドDNA/カルシウムイオンの沈殿物を利用したものであり、標的遺伝子またはポリヌクレオチドを組み込んだプラスミドDNAを単離または培養MASCに導入するために用いることできる。簡略に述べると、プラスミドDNAを塩化カルシウムの溶液に混合した後、リン酸緩衝した溶液に加える。沈殿物が形成された時点でこの溶液を培養細胞に直接加える。DMSOまたはグリセロールによる処理を利用してトランスフェクション効率を向上させることが可能であり、ビス−ヒドロキシエチルアミノエタンスルホネート(BES)を使用して安定的トランスフェクタントのレベルを高めることが可能である。リン酸カルシウムトランスフェクションシステムは一般に市販されている(例、ProFection(登録商標)、プロメガ社(Promega Corp)、ウィスコンシン州マディソン)。
【0152】
DEMEデキストラントランスフェクション法はやはり当業者に周知の方法であり、一過性のトランスフェクションが望ましい場合には、しばしばより効率が高いことからリン酸カルシウムトランスフェクション法よりも好ましい。
【0153】
本発明の細胞は単離細胞であるため、細胞内に遺伝物質を導入するにはマイクロインジェクションが特に効果的である。
【0154】
簡略に述べると、細胞をまず光学顕微鏡のステージに乗せる。顕微鏡による拡大像を見ながらガラス製のマイクロピペットを核に穿刺してDNAまたはRNAを注入する。この方法は所望の遺伝物質を直接核に導入することが可能であり、注入されたポリヌクレオチドの細胞質やリソゾームにおける分解が避けられるために有利である。この方法は形質転換動物の生殖細胞の改変に効果的に用いられてきた。
【0155】
本発明の細胞はエレクトロポレーションによって遺伝子改変することができる。まず標的DNAまたはRNAを培養細胞の懸濁液に加える。このDNA/RNA−細胞懸濁液を2個の電極間に置き、電気パルスを加えると、細胞の外膜に小孔が開くことによって膜に一時的に透過性が生じる。この膜に開いた小孔から細胞内に標的ポリヌクレオチドが入り込み、電場を中断すると小孔は約1〜30分で閉鎖する。細胞を遺伝子改変するためのDNAやRNAのリポソームによる導入は、ポリヌクレオチドと安定的な複合体を形成するカチオン性リポソームを利用して行うことができる。リポソーム複合体を安定化させるためにジオレイルフォスファチジルエタノールアミン(DOPE)またはジオレイルフォスファチジルコリン(DOPC)を添加することが可能である。リポソーム導入法用に推奨される試薬は一般に市販されているLipofectin(登録商標)(ライフ・テクノロジー社(Life Technologies,Inc.))である。例えばLipofectin(登録商標)は、カチオン性脂質であるN−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N−N−N−トリメチルアンモニアクロリドとDOPEとの混合物である。線形DNA、プラスミドDNAやRNAの導入は、リポソーム導入法によりin vitroまたはin vivoで行うことが可能である。リポソームは大きなDNA片を包含することが可能であり、ポリヌクレオチドを分解から保護し、特定の細胞または組織を狙って投与することが可能であることからリポソーム導入法は好ましい方法である。リポソーム法に依拠した他の導入システムが数多く市販されており、Effectene(商標)(キアジェン社(Qiagen))、DOTAP(ロシュ・モレキュラーバイオケミカルズ社(Roche Molecular Biochemicals))、FuGene6(商標)(ロシュ・モレキュラーバイオケミカルズ社)、及びTransfectam(登録商標)(プロメガ社(Promega))などがある。カチオン性脂質による遺伝子導入効率は、アベ等の方法(Abe, A.,etal.(J.Virol. (1998) 72: 6159-6163))におけるように、水泡性口内炎ウイルスエンベロープの精製G糖タンパク質(VSV−G)などの精製したウイルスまたは細胞エンベロープ成分を使用することによって高めることが可能である。
【0156】
リポポリアミンコーティングしたDNAを用いた始原及び樹立された哺乳動物細胞系へのDNAの導入において有効であることが示されている遺伝子導入法を用いてMASCに標的DNAを導入することが可能である。この方法はLoeffler,J.及びBehr,J.により一般的に述べられている(Loeffler,J. and Behr, J. Methods in Enzymology (1993) 217:599-618)。
【0157】
裸のプラスミドDNAは単離MASCから分化した細胞からなる組織マス中に直接注入することが可能である。この方法はプラスミドDNAを骨格筋組織に導入するうえで有効であることが示されており、マウス骨格筋内での発現が1回の筋内注入後19ヶ月以上にわたって観察されている。活発に分裂中の細胞はより効率的に裸のプラスミドDNAを取り込む。このため、プラスミドDNAによる処理に先立って細胞分裂を刺激しておくことが有利である。
【0158】
マイクロプロジェクタイルによる遺伝子導入を利用してin vivoまたはin vitroにてMASCに遺伝子を導入することも可能である。マイクロプロジェクタイル遺伝子導入法の基本的な手順についてはJ.WolffによりGene Therapeutics (1994)の195頁に述べられている。簡略に述べると、標的遺伝子をコードしたプラスミドDNAで、通常1〜3ミクロンの粒径を有する金またはタングステン粒子である微小なビーズをコーティングする。コーティングした粒子は発射室の上方に挿入されたキャリアシート上に置く。キャリアシートは発射後保持スクリーンに向かって加速される。保持スクリーンはキャリアシートの更なる運動を阻止するバリアとして機能し、その際、ポリヌクレオチドコーティングされた粒子は、分化MASCからなる組織マスなどの標的表面に向けて通常ヘリウムガスの流れによって推進される。微粒子注入法は既に述べられているものであり、こうした方法は当業者に周知のものである(参照、Johnston,S.A.,et al., Genet. Eng. (NY) (1993) 15: 225-236; Williams,R.S., et al., Proc. Natl.Acad. Sci. USA (1991)88: 2726-2730; Yang,N.S., et al., Proc. Natl. Acad. Sci.USA (1990) 87:9568-9572)。
【0159】
Sevestyen等(Nature Biotech.(1998) 16: 80-85)によって述べられている
ように、プラスミドDNAにシグナルペプチドを結合させてこのDNAを細胞核に取り込ませることでより効率的な発現を図ることが可能である。
【0160】
ウイルスベクターを利用して本発明のMASC及びその子孫を遺伝子改変することが可能である。先に述べた物理的方法と同様、ウイルスベクターを利用して例えば1以上の標的遺伝子、ポリヌクレオチド、アンチセンス分子やリボザイム配列を細胞内に導入する。ウイルスベクター及びそれらを利用して細胞にDNAを導入する方法は当業者に周知のものである。本発明の細胞を遺伝子改変するうえで使用可能なウイルスベクターの例としては、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、レトロウイルスベクター(レンチウイルスベクターなど)、アルファウイルスベクター(例、シンドビスベクター)、及びヘルペスウイルスベクターなどが挙げられる。
【0161】
多くのレトロウイルスベクターが分裂していない細胞に効果的にDNAを導入するために開発されているが、レトロウイルスベクターは活発に分裂中の細胞に形質導入するうえで有効である(Mochizuki,H.,et al., J. Virol. (1998) 72: 8873-8883)。レトロウイルス用のパッケージング細胞系は当業者には周知のものである。パッケージング細胞系はウイルスベクターのカプシドの生成及びウイルス粒子の成熟に必要なウイルスタンパク質を与えるものである。一般にこうしたウイルスタンパク質としては、gag、pol、及びenvといったレトロウイルスの遺伝子によりコードされるタンパク質が含まれる。エコトロピック、ゼノトロピック、またはアンフォトロピックのレトロウイルスベクターを生成するうえで好適なパッケージング細胞系を既知の細胞系から選択することにより、レトロウイルスベクター系に一定の特異性を与えるものである。
【0162】
一般にレトロウイルスDNAベクターはパッケージング細胞系とともに細胞内で所望の標的配列/ベクターの組合わせを産生するために用いられる。簡略に述べると、レトロウイルスDNAベクターは、マルチクローニング部位とSV40プロモーターの近くに2個のレトロウイルスLTR配列を有するプラスミドDNAである。第1のLTRは、マルチクローニング部位にクローニングされた標的遺伝子の配列に機能的に連関しているSV40プロモーターの5’側に位置し、マルチクローニング部位の後に3’側の第2のLTRが位置する。レトロウイルスDNAベクターはその形成後、上述したようなリン酸カルシウムトランスフェクションによってパッケージング細胞系内に導入される。約48時間のウイルス産生後に、標的遺伝子配列を含むウイルスベクターを収穫する。
【0163】
レトロウイルスベクターにより特定の種類の細胞に遺伝子導入する方法はMartin等(J. Virol. (1999) 73: 6923-6929)によって示されている。この方法では、アンフォトロピックなマウス白血病ウイルスのエンベロープに融合させた表面糖タンパクである高分子量メラノーマ関連抗原に対する一本鎖可変フラグメント抗体を利用して、ベクターによりメラノーマ細胞に狙いを絞って標的遺伝子を導入している。例えば、分化細胞を遺伝子改変する場合などのように、標的細胞に狙いを定めた遺伝子導入が望ましい場合には、本発明のMASCから分化した各細胞系列が発現する特異的マーカーに対する抗体フラグメントに融合させたレトロウイルスベクターを使用してこれらの細胞に狙いを絞って遺伝子を導入することが可能である。
【0164】
レンチウイルスベクターを利用して本発明の細胞を遺伝子改変することも可能である。多くのこうしたベクターが文献に述べられており、当業者に周知である(Salmons,B.and
Gunzburg, W.H., "Targeting of RetroviralVectors for GeneTherapy,"Hum. Gene. Therapy (1993) 4: 129-141)。これらのベクターはヒト造血幹細胞を遺伝子改変するうえ
で有効であることが示されている(Sutton,R., et al., J. Virol. (1998) 72: 9683-9697)。レンチウイルスのパッケージング細胞系については既に述べられている(参照、Kafri,T.,etal., J. Virol. (1999) 73: 576-584; Dull, T., et al., J. Virol.(1998) 72:9683-9697)。
【0165】
I型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)などの組換えヘルペスウイルスを利用して、エリスロポエチン受容体を発現している細胞に狙いを絞ってDNAを導入する試みが成功している(Laquerre,S.,et al., J. Virol. (1998) 72: 9683-9697)。これらのベクタ
ーを利用して本発明の細胞を遺伝子改変することも可能であり、ウイルスベクターにより本発明の細胞が安定的に形質転換されたことを発明者等は証明している。
【0166】
アデノウイルスベクターは形質転換効率が高く、最大で8KbのDNAフラグメントの導入が可能であり、分裂中細胞及び分化細胞のいずれにも感染することができる。多くのアデノウイルスベクターが文献に述べられており、当業者に周知である(参照、Davidson,B.L.,et al., Nature Genetics (1993) 3: 219-223;Wagner, E., et al., Proc. Natl.Acad.Sci. USA (1992) 89: 6099-6103)。標的DNAをアデノウイルスベクターに挿入
する方法は、組換えアデノウイルスベクターを利用して標的DNAを特定の種類の細胞に導入するための方法と同様、遺伝子治療の技術分野における当業者にとって周知のものである(参照、Wold,W.,AdenovirusMethods and Protocols, Humana Methods in MolecularMedicine (1998),BlackwellScience, Ltd.)。特定の種類の細胞に対する結合親和性がウイルスベクター繊維の配列の改変によって証明されている。遺伝子導入においてタンパク質の発現を調節するためのアデノウイルスベクター系がこれまでに述べられている(Molin,M.,etal., J. Virol. (1998) 72: 8358-8361)。特定種類の細胞に狙いを絞った形
質転換を可能とすべく遺伝子改変された受容体特異性を有するアデノウイルスベクターを伝播させるための系もこれまでに述べられている(Douglas,J.,etal., Nature Biotech.
(1999) 17: 470-475)。最近の報告に見られるヒツジアデノウイルスベクターは、予め
存在する体液性免疫による遺伝子導入の際の障害の可能性を解消するものである(Hofmann,C., etal., J.Virol. (1999) 73:6930-6936)。
【0167】
更に、分子接合体ベクターを利用して特定細胞を標的とした遺伝子導入及び安定的遺伝子発現を可能とするアデノウイルスベクターが入手可能である。このベクターは標的遺伝子を有するプラスミドDNAをポリリシンとともに濃縮して構築される。このポリリシンは分裂能を失ったアデノウイルスに結合させてある(Schwarzenberger,P.,etal., J. Virol. (1997)71) 8563-8571)。
【0168】
本発明の細胞を形質転換するためのアルファウイルスベクター、特にシンドビスウイルスベクターも入手可能である。これらのベクターは市販されており(インビトロジェン社、カリフォルニア州、カールスバッド)、例として米国特許第5,843,723号、Xiang,C.等(Science(1989)243: 1188-1191)、Bredenbeek,P.J.等(J.Virol. (1993) 67: 6439-6446)及びFrolov,I.等(Proc.Natl.Acad.Sci. USA(1996) 93: 11371-11377)などに述べられている。
【0169】
発明者等は、Robbins等(J. Virol. (1997) 71 (12): 9466-9474)により述べ
られるeGFP−MNDレンチウイルスベクター及びeGFP−MGFベクターを用いた場合にMASCが良好な形質転換能を有することを示した。この方法を用いると、PA3−17パッケージング細胞(Miller,A.D.及びC.Buttimoreにより述べられる(Mol.Cell.Biol.(1986) 6: 2895-2902)NIH3T3繊維芽細胞から誘導されるアンフォトロピックなパッケージング細胞系)とプロタミン(8mg/ml)の組合わせ中で調製された上清を含む緑色蛍光タンパク質(eGFP)ベクターに4.6時間と短時間の露曝後に30〜50%のMASCを形質転換することが可能である。未分化のMASCの培養期間全体を通じてeGFPの発現が見られる。更に、リポフェクタミンを用いたトランスフェクションによって導入遺伝子がMASCに首尾良く導入されている。
【0170】
標的細胞へのトランスフェクションまたは形質導入は当業者に周知の方法において遺伝子マーカーを用いて証明することが可能である。例えばAequorea victoriaの緑色蛍光タンパク質は遺伝子改変された造血細胞の特定及び追跡において有効なマーカーであることが示されている(Persons,D.,et al., Nature Medicine (1998) 4: 1201-1205)。別の選択可能なマーカーとしては、β−Gal遺伝子、truncated
神経成長因子受容体、薬物選択マーカー(NEO、MTX、ヒグロマイシンなど)などが挙げられる。
【0171】
17.MASCは組織の修復に有用である
本発明の幹細胞は組織修復に用いることも可能である。発明者等は、本発明の多能性成体幹細胞(MASC)が、繊維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、骨格筋、内皮、間質細胞、平滑筋、心筋、及び造血細胞などの多くの種類の細胞に分化することを証明した。例えば、本明細書にて先に述べた方法により骨芽細胞へと分化誘導したMASCを骨に移植することにより、修復プロセスを促進し、弱くなった骨を強化し、関節表面を再形成することが可能である。先に述べた方法により軟骨細胞へと分化誘導したMASCを関節に注入して関節軟骨の表面を再形成することが可能である。Caplan等(米国特許第5,855,619号)は、間葉幹細胞を含む収縮ゲルマトリクスからなる生体マトリクスインプラントについて述べている。このインプラントは、特に腱、靱帯、半月板や筋肉といった組織の欠損を修復するように設計されたものである。例えばコラーゲン、合成ポリグリコール酸繊維、または合成ポリ乳酸繊維などから形成される多孔質の立体的足場に接するように軟骨細胞を加えることによって例えば軟骨を形成することが可能である。発明者等は、本発明のMASCを例えば軟骨細胞に分化させ、これをコラーゲン、合成ポリグリコール酸や合成ポリ乳酸などの足場材料の内部もしくは周囲に蓄積することによって組織修復を促すインプラントが得られることを示した。
【0172】
更に、マトリクスにより本発明の細胞を特定の解剖学的部位に導入し、ここでマトリクスに含まれるか、または細胞に取り込まれるようにマトリクスに含ませたプラスミドにコードされた特定の成長因子によって初期の細胞集団の成長を方向付けることが可能である。例えば、特定のポリマーマトリクスを形成する際の発泡工程においてマトリクスの孔内にDNAを取り込ませることが可能である。発泡工程において使用されるポリマーが膨張すると孔内にDNAが閉じ込められ、これによりプラスミドDNAの放出を制御し、DNAを徐放することが可能となる。こうしたマトリクスの調製方法はShea等(NatureBiotechnology(1999) 17: 551-554)によって述べられている。
【0173】
Bonadio,J.等(Nature Medicine (1999) 5: 753-759)に述べられるように
、サイトカイン、成長因子やホルモンをコードするプラスミドDNAを遺伝子活性化ポリマーマトリクス担体に閉じ込めることが可能である。この生分解性ポリマーを例えば折れた骨の近傍に移植し、そこにMASCを移植するとMASCがDNAを取込んでサイトカイン、成長因子やホルモンを産生して局所濃度が高くなり、これにより損傷組織の治癒が早められる。
【0174】
本発明の提供する細胞すなわち本発明の方法によって単離されるMASCを利用して移植用の組織または臓器を製造することが可能である。Oberpenning等(NatureBiotechnology(1999)17: 149-155)によれば、イヌの膀胱の外面より得た筋細胞とイヌ
膀胱の内面より得たライニング細胞を培養し、この培養から組織のシートを調製し、小型のポリマー製球体の外側を筋細胞で、内側をライニング細胞でコーティングすることによって機能する膀胱を形成し得たことが報告されている。この球体をイヌの尿路系に挿入すると、球体は膀胱としての機能を開始した。Nicklason等(Science(1999)284:489-493)によれば、培養した平滑筋及び内皮細胞より所定長の血管グラフト材料を製造
し得たことが報告されている。培養細胞から組織層を形成するための他の方法も当業者に周知である(参照、Vacanti,etal., 米国特許第5,855,610号)。これらの方法
は、これまでに述べられているいずれの非胚性幹細胞と比較してもより幅広い分化能を有する本発明の細胞と組み合わせて使用した場合に特に有効である。
【0175】
本発明のMASCは組織損傷領域に直接注入するかまたは全身的に注入することにより心筋細胞を復元することが可能であり、これにより細胞が心組織に生着する。この方法は血管形成と組み合わせた場合に特に有効である。注入方法及び血管形成の促進方法はいずれも当業者に周知のものである。本発明のMASCは、これらの方法を利用した心または他の組織修復のためのより多様な細胞の供給源を与える幅広い分化能を有するものである。
【0176】
本発明のMASCは、例えば高投与量の化学療法後の骨髄を再生する目的で有用である。化学療法を行う前に患者から骨髄吸引液を採取する。本発明の方法により幹細胞を単離し、培養、分化誘導する。この後、分化細胞と未分化細胞の混合物を患者の骨髄腔に再導入する。現在この目的で造血幹細胞を用いた臨床試験が行われているが、本発明のMASCは骨髄ばかりでなく他の組織の化学療法によって損傷した細胞をも置換することが可能な細胞に更に分化可能であるという更なる利点を有するものである。
【0177】
また、Lawman等(国際特許出願公開公報第WO98/42838号)により述べられる方法を用いて同種異系ドナー由来の幹細胞の組織適合性抗原を変化させることも可能である。この方法を用いることにより、凍結ストックを調製し、これを保存して、例えば白血病患者の場合のように、自身の骨髄を再形成できない患者に投与するために利用可能な移植骨髄のパネルを形成することが可能である。
【0178】
患者の免疫系細胞や血液細胞は、例えば、患者から自家幹細胞を単離し、この細胞を培養して細胞集団を増殖させた後、患者に細胞を再導入することによりその数を復元することが可能である。この方法は、例えば多発性骨髄腫、非ホジキン型リンパ腫、自己免疫疾患や充実性腫瘍を診断された患者のように、治療目的で放射線照射及び/または化学療法によって免疫系や骨髄細胞を減少させる必要がある場合に特に有効である。
【0179】
白血病、自己免疫疾患、鎌状赤血球貧血症やサラセミアなどの遺伝病を治療する目的での、本発明の、もしくは本発明の方法により単離された、同種異系の細胞による患者の血液や免疫系細胞の復元は、特にLawman等(国際特許出願公開公報第WO98/42838号)により述べられる方法によって組織適合性抗原が変化させられている場合に行うことが可能である。
【0180】
本明細書中に述べられる目的の実現のため、本発明の自己由来または同種異系MASCを、分化または未分化の状態で、遺伝子を改変するかまたは改変することなく、組織部位への直接注入、全身注入、許容されるマトリクスの表面上もしくはその近傍に、または薬学的に許容される担体との組合わせとして、患者に投与することが可能である。
【0181】
19.MASCによって分化経路を研究するためのモデル系が与えられる
本発明の細胞は更に発生過程の更なる研究を行ううえでも有用である。例えば、Ruley等(国際特許出願公開公報第WO98/40468号)は特定の遺伝子の発現を阻害するとともに、阻害された遺伝子のDNA配列を得るためのベクター及び方法について述べている。本発明の細胞をRuleyにより述べられるようなベクターで処理し、これによりDNA配列解析によって特定可能な遺伝子の発現を阻害することが可能である。この細胞を分化誘導し、改変された遺伝子型/表現型の影響を調べることが可能である。
【0182】
例えばHahn等(Nature (1999) 400: 464-468)は、正常なヒト上皮繊維芽細胞に以前より癌との相関が示されている遺伝子の特定の組合わせを導入すると細胞が癌化するように分化誘導することが可能であることを証明した。
【0183】
誘導可能な発現エレメントを有するベクターを利用した遺伝子発現の制御によって、特定の遺伝子産物が細胞分化に与える影響を調べるための方法が与えられる。誘導発現系は当業者に周知のものである。このような系の一つにNo,D.等(Proc.Natl.Acad. Sci. USA (1996) 93: 3346-3351)によって述べられるエクジソン誘導系がある。
【0184】
MASCを利用して、特定の遺伝子変化、毒物、化学療法薬や他の薬剤が発生経路に与える影響を調べることが可能である。当業者には周知の組織培養法によれば、異なる個人から得られた数十万もの細胞試料の大量培養が可能となるため、例えば催奇形性または突然変異誘発性が疑われる化合物の高速スクリーニングを行うことが可能となる。
【0185】
発生経路を研究する目的で、催奇形性が疑われる化合物を含む、特定の成長因子、サイトカインなどの薬剤にてMASCを処理することが可能である。MASCはこれまでに述べられている方法及びベクターによって遺伝子改変することも可能である。更に、MASCをアンチセンス技術や細胞に導入されるタンパク質による処理によって改変して天然遺伝子配列の発現を改変することが可能である。例えばシグナルペプチド配列を利用して所望のペプチドやポリペプチドを細胞内に導入することが可能である。ポリペプチド及びタンパク質を細胞内に導入するうえで特に効果的な方法の一つがRojas等(NatureBiotechnology(1998) 16: 370-375)により述べられている。この方法によれば、培地に導入することにより細胞膜を通過して細胞の内部へと移動するポリペプチドまたはタンパク質産物が得られる。任意の数のタンパク質をこのように使用して細胞の分化に対する標的タンパク質の影響を調べることが可能である。また、Phelan等(NatureBiotech.(1998)16: 440-443)によって述べられる方法を用いてヘルペスウイルスタンパク質であるVP22を機能性タンパク質に結合させて細胞内に輸送することも可能である。
【0186】
本発明の細胞は、外来遺伝子の導入またはゲノムDNAの発現の抑制またはDNAの切り出しによって遺伝子操作することにより、化学療法剤や遺伝子治療ベクターとしての潜在的有効性を試験するための欠陥表現型を有する分化細胞を作出することが可能である。
【0187】
20.MASCは高スループットスクリーニング用の多様な種類の分化及び未分化培養細胞を与える
本発明の多能性成体幹細胞(MASC)は、例えば96穴などの多穴培養プレートで培養することにより、例えば、標的サイトカイン、ケモカイン、生長因子、または薬理ゲノミクスや薬理遺伝学における薬理組成物について高スループットスクリーニングを行うための系を得ることが可能である。本発明のMASCは、細胞を同一個体由来の特定の細胞系に分化させることができるという唯一の系を与えるものである。多くの1次培養と異なり、これらの細胞は培養中で維持して長期にわたって観察することができる。同一個体及び異なる複数の個体に由来する細胞の複数の培養を対象となる因子にて処理してその細胞因子が同じ遺伝子組成の異なる種類の分化細胞に与える影響、または遺伝子組成の異なる個体に由来する類似した種類の細胞に与える影響に差異が認められるかを判定することが可能である。したがって、例えばサイトカイン、ケモカイン、薬理組成物、及び成長因子を速やかかつ高いコスト効率にてスクリーニングし、その効果をより明らかに解明することが可能である。大きな個体集団から単離し、遺伝子多型、特に一塩基多型の有無に関して特徴付けられた細胞を細胞培養バンクで保管して各種のスクリーニング法に供することが可能である。例えば、当業者には周知の方法によって決定することが可能な統計的に有意な個体集団から得た多能性成体幹細胞によって、広範な物質に対する陽性または陰性の応答の増強に関連した多型を特定するための高スループットスクリーニング用の理想的な系が与えられる。このような物質の例としては、薬理組成物、ワクチン調製物、細胞障害性物質、突然変異誘発物質、サイトカイン、ケモカイン、生長因子、ホルモン、阻害物質、化学療法剤、及びその他の化合物または因子のホストが挙げられる。こうした研究から得られる情報は、感染症、癌、ならびに多くの代謝性疾患の治療において幅広い応用が考えられる。
【0188】
生物学的、または薬学的物質、またはこうした物質のコンビナトリアルライブラリーに対する細胞応答を特徴付けるためにMASCを利用する方法では、MASCを統計的に有意な個体集団から単離し、培養を増殖させ、1以上の生物学的または薬学的物質に接触させる。MASCは、分化細胞が特定の生物学的または薬学的物質の所望の標的である場合に、培養の増殖の前もしくは後に分化誘導することが可能である。統計的に有意な個体集団の複数の個体から得られたMASC培養間で1以上の細胞応答を比較することにより、当該生物学的または薬学的物質の効果を判定することが可能である。また、遺伝子組成が同一のMASCまたはこの細胞から分化した細胞を利用して、コンビナトリアルライブラリーの化合物などの異なる化合物をスクリーニングすることも可能である。細胞に基づいた高スループットスクリーニングと組み合わせて用いられる遺伝子発現系についてはこれまでに述べられている(参照、Jayawickreme,C.and Kost, T., Curr. Opin.Biotechnol. (1997) 8: 629-634)。内皮細胞活性化の阻害物質を同定するために用いられる高容量
スクリーニング法についてはRice等によって述べられるものがあり、始原ヒト臍静脈内皮細胞についての細胞培養系を利用したものである(Rice,etal.,Anal. Biochem. (1996) 241: 254-259)。本発明の細胞によれば、標的とする多数の生物学的及び薬学的物質を同定するうえで用いられる高スループットスクリーニング法のための、最終分化及び未分化の各種の細胞が与えられる。最も重要な点としては、本発明の細胞によって、生物学的及び薬学的物質に対する応答が異なる多様な遺伝子を有する個体群から培養細胞の供給源が与えられることである。
【0189】
MASCは単独または予めパッケージングされた培地及び培養用の補足物質とともに凍結ストックとして提供され、更には、別個にパッケージングされた、特定の種類の細胞を分化誘導するための有効濃度の適当な因子とともに提供される。また、MASCは、当業者に周知の方法によって調製され、上記に述べた方法により分化誘導された細胞を含む凍結ストックとして提供することも可能である。
【0190】
21.MASCと遺伝子プロファイル
遺伝子の変異は疾病に対する感受性に対して直接、間接の影響を与える。直接的なケースでは、一塩基多型(SNP)を生ずる1個のヌクレオチドの変化によっても、タンパク質のアミノ酸配列は変化し、疾病や疾病に対する感受性に直接影響する。生じたタンパク質の機能的変化はしばしばin vitroにて検出することが可能である。例えば、ある種のAPOリポタンパク質Eの遺伝子型は特定の患者においてアルツハイマー病の発症及び進行との関連が示されている。
【0191】
DNA配列の異常は、動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション、DNAチップ技術、及び当業者に周知の他の方法によって検出することが可能である。ヒトのゲノムにおけるタンパク質のコード領域は約3%程度でしかないと推定されており、コード領域には恐らく200,000〜400,000個の共通のSNPが存在するものと推定されている。
【0192】
SNP関連遺伝子解析を用いたこれまでの研究方法では、表現型の特徴付けを行うことが可能な多数の個体から遺伝子解析用の試料を得ていた。残念なことにこうした方法で得られた遺伝的相関は、容易に特定可能な表現型に関連した特定の多型の同定に限定されており、疾患の原因に関する更なる情報を与えるものではなかった。
【0193】
本発明のMASCは、特定の疾患に関連した遺伝子要素の特定と、その疾患を有する患者に見られる最終的な表現型との間に橋渡しをするうえで必要な要素を与えるものである。簡略に述べると、まず、表現型に関するデータを得ることが可能な統計的に有意な個体集団からMASCを単離する(参照、Collins,etal., Genome Research (1998) 8: 1229-1231)。次いで得られたMASC試料を培養して増殖させ、細胞の2次培養を凍結スト
ックとして保存する。この凍結ストックは後の発生実験で使用する培養を得るために使用することが可能である。増殖させた細胞集団について複数の遺伝子解析を行って遺伝子多型を特定することが可能である。例えば、当業者に周知のDNAチップ技術などの現時点で可能な方法を用いて、大きな標本集団において比較的短時間で一塩基多型を特定することが可能である(Wang,D.,etal., Science (1998) 280: 1077-1082; Chee, M., et al.,
Science(1996) 274:610-614; Cargill, M., et al., Nature Genetics (1999)22:231-238; Gilles, P., etal., Nature Biotechnology (1999) 17:365-370; Zhao,L.P., et al., Am. J. HumanGenet. (1998) 63: 225-240)。SNP解析のための方法についてもS
yvanen、Xiong、Gu、Collins、Howell、Buetow、及びHoogendoornによってこれまでに述べられている(Syvanen,A.,Hum.Mut. (1999) 13: 1-10)、(Xiong, M. and L. Jin, Am. J. Hum.Genet. (1999)64:629-640)、
(Gu, Z., et al., Human Mutation (1998) 12:221-225)、(Collins, F., etal., Science(1997) 278: 1580-1581)、(Howell,W., et al., Nature Biotechnology(1999) 17:
87-88)、(Buetow, K., et al., NatureGenetics (1999) 21: 323-325)、(Hoogendoorn,B.,et al., Hum. Genet. (1999) 104: 89-93)。
【0194】
特定の多型が特定の疾患の表現型に関連している場合、その多型のキャリアであることが特定された個体から得た細胞を、非キャリア個体から得た細胞をコントロールとして用いて、発生異常について調べることが可能である。本発明のMASCは、本明細書中に述べられた所定の方法及び当業者に周知の他の所定の方法を用いて特定の種類の細胞に分化誘導することが可能であることより、特定の遺伝子疾患に関連した発生異常を研究するための実験系を与えるものである。例えば、特定のSNPが特定の神経変性性疾患と関連している場合、未分化のMASC及びニューロン前駆細胞、グリア細胞などの神経由来の細胞に分化したMASCの両方を利用して、その多型の細胞への影響を調べることが可能である。特定の多型を示す細胞を分化の過程で追跡することにより、薬物感受性、ケモカイン及びサイトカイン応答性、成長因子、ホルモン、及び阻害物質に対する応答性、ならびに受容体の発現及び/または機能の変化に対する応答性に影響を与える遺伝子要素を特定することが可能である。この情報は遺伝子を原因とする疾患や遺伝的素因が認められる疾患の治療方法を模索するうえで極めて有用である。
【0195】
MASCを用いた、生理学的異常に関連した遺伝子多型を特定するための本方法においては、表現型に関するデータを得ることが可能な統計的に有意な個体集団からMASCを単離し(統計的に有意な集団とは、少なくとも1個の遺伝子多型を有する要素が含まれる充分なサイズの集団として当業者により定義される)、培養を増殖させてMASC培養を樹立する。次いで培養細胞から得たDNAを用いて集団から得られた培養MASCにおける遺伝子多型を特定し、細胞を分化誘導する。正常な遺伝子型を有するMASCが示す分化のパターンと特定された遺伝子多型を有するかまたは候補薬に対する応答を示すMASCが示す分化のパターンとを比較することにより特定の遺伝子多型に関連した異常代謝プロセスを同定、特徴付けることが可能である。
【0196】
22.MASCによって安全なワクチン投与が可能となる
本発明のMASCを抗原性タンパク質を産生するように遺伝子改変することにより抗原提示細胞として利用することも可能である。例えば複数の遺伝子改変を行った自家または同種異系の前駆細胞を用い、対象細胞をトランスフェクトすべく徐放されるように生分解性マトリクス中に包埋したプラスミドと本発明の前駆細胞とを組み合わせることにより、1乃至複数の抗原に対する免疫応答を刺激することが可能であり、抗原提示細胞が徐放されることによって免疫応答の最大効果が高められる可能性がある。ある種の抗原を長期にわたって複数回投与すると最終抗原チャレンジにおいて免疫応答が高まることが当業者に知られている。また、Zhang等(NatureBiology(1998) 1: 1045-1049)の方法にお
いてMASCを抗原提示細胞として利用して特定の抗原に対するT細胞の寛容を誘導することも可能である。
【0197】
現在使用されている多くのワクチン製剤には添加化学物質や他の物質が用いられている。その例として、抗生物質(ワクチン培養中での細菌の増殖を抑える)、アルミニウム(補助剤)、ホルムアルデヒド(細菌産物をトキソイドワクチンに対して不活化)、グルタミン酸1ナトリウム(安定剤)、卵タンパク質(発育鶏卵を利用して製造されるワクチンの成分)、亜硫酸塩(安定剤)、及びチメロサール(保存剤)などが挙げられる。一部これらの添加成分のため、現在のところワクチン製剤の安全性に関し社会的関心が広く高まっている。例えばチメロサールは水銀を含有し、塩化エチル水銀、チオサリチル酸、水酸化ナトリウム、及びエタノールの組合わせからなる。更に、決定的なものではないが、ある種のワクチン成分と、自己免疫に一般に関連付けられている疾患などの潜在的合併症との関係を示唆する研究もある。したがって、より効果的なワクチン療法が求められており、またワクチン接種の方法の快適度が高まるならばワクチン研究に対する社会的協力が容易に得られるであろう。
【0198】
本発明のMASCは、樹状細胞へと分化させることが可能であり、この樹状細胞がT細胞に抗原を提示することによりT細胞が活性化されて異物に対する応答を生ずる。こうした樹状細胞は、先に述べられた方法を用いて外来抗原を発現するように遺伝子改変することが可能である。こうしたワクチン投与方法の利点は、1個の遺伝子改変細胞によって複数の抗原を提示することが可能な点である。
【0199】
異種由来の分化または未分化MASCワクチンベクターは、外来細胞表面のマーカーによって免疫系が刺激されるという更なる利点を与えるものである。ワクチンの設計実験において、複数の抗原による免疫応答の刺激により、ワクチン製剤中の特定の抗原に対する免疫応答が高められることが示されている。
【0200】
例えば、A型肝炎、B型肝炎、水痘、ポリオ、ジフテリア、百日咳、破傷風、ライム病、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、B型インフルエンザ(Hib)、BCG、日本脳炎、黄熱病、及びロタウイルスについて免疫学的に有効な抗原が特定されている。
【0201】
本発明のMASCを利用してヒト被験者において感染因子に対する免疫応答を誘導する方法は、培養中で多能性成体幹細胞のクローン集団を増殖させ、1以上の所定の抗原性分子を発現するよう、増殖した細胞を遺伝子改変して感染因子に対する防御免疫応答を刺激し、免疫応答を誘導するうえで有効量の遺伝子改変細胞を被験者に導入することによって行うことが可能である。遺伝子改変細胞の投与方法は当業者に周知のものである。免疫応答を誘導するうえで有効量の遺伝子改変細胞とは、当業者に周知の方法により測定可能な抗体反応を生ずるのに充分な量の所望の抗原を発現する細胞の量のことである。好ましくは、抗体反応とは、適当な感染因子によるチャレンジを行った場合の病気に対する耐性によって検出することが可能な防御抗体反応のことである。
【0202】
23.MASCと癌治療
本発明の多能性成体幹細胞(MASC)は、癌治療のための新規なビヒクルを与えるものである。例えば、MASCを内皮細胞、または局所的、全身的に投与した場合に内皮組織に生着する前駆細胞に分化誘導することが可能である。この細胞は、新生腫瘍に血液供給する血管形成(血管新生)に用いられ、ひいては内皮組織内で分裂、増殖する。外部から導入される因子の刺激によって細胞死するようにこの細胞を遺伝子操作することにより、血管新生を阻害して腫瘍への血流を遮断することが可能である。外部から導入される因子の一例としては抗生物質であるテトラサイクリンがあり、その場合、テトラサイクリン応答性因子の制御下で細胞死を誘発するCaspaseやBADなどの遺伝子で細胞をトランスフェクトまたは形質導入する。テトラサイクリン応答性因子についてはこれまでに文献に述べられており(Gossen,M.& Bujard, H., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1992)89:5547-5551)、内皮細胞においてin vivoでの導入遺伝子の発現制御を可能とす
るものであり(Sarao,R. & Dumont, D.,Transgenic Res. (1998) 7: 421-427)、一般に
市販されている(CLONETECHLaboratories, PaloAlto, CA)。
【0203】
また、未分化のMASCまたは組織特異的細胞系に分化させたMASCを、腫瘍細胞を障害するか血管形成を阻害するような所定の産物(Dawson等により述べられる色素上皮誘導因子(PEDF)など(Dawson,etal., Science (1999) 285: 245-248))を産生するように遺伝子改変して、これを細胞外環境へと輸送させることも可能である。例えばKoivunen等は、MMP−2及びMMP−9(腫瘍形成への関連が示されているマトリクスメタロプロテアーゼ)を選択的に阻害する所定のアミノ酸配列を有する環状ペプチドについて述べている。この環状ペプチドは動物モデルにおいて腫瘍の成長及び浸潤を阻止し、in vivoにて新生血管を特異的に標的とすることが示されている(Koivunen,E.,Nat.Biotech. (1999) 17: 768-774)。細胞を腫瘍部位に送達し、腫瘍阻害産物を産生させ、この後破壊することが望ましい場合には、誘導プロモーターの制御下で細胞死を促進する細胞死促進タンパク質を有するように更に細胞を遺伝子改変することが可能である。
【0204】
MASCは、患者から単離し、ex vivoにて培養し、特に適当な抗原に対する高い免疫応答反応に関連が示されてる受容体との組み合わせにおいて該抗原を発現するようにex vivoにて遺伝子改変し、被験者に再導入して腫瘍細胞が発現するタンパク質に対する免疫応答を引き起こすことが可能であることから、癌ワクチンの投与用のベクターを更に与えるものである。
【0205】
24.MASC、またはMASC単離及び培養用の要素の入ったキット
本発明の多能性成体幹細胞(MASC)は、適当な梱包材料とともにキットとして提供される。例えば、MASCは、本明細書中に述べられるような別梱された未分化状態での培養用の適当な因子及び培地とともに凍結ストックの形で提供される。更に上記に述べたような別梱の分化誘導用の因子を提供することも可能である。
【0206】
本発明によれば、患者の幹細胞を単離、培養するうえで有効量の適当な因子を含むキットも提供される。臨床技師は、患者から骨髄吸引液を採取したならば、抗CD45及び抗グリコフォリンAはキットに入っているので、あとは本明細書中に述べられる方法で幹細胞を選択し、キットに入っている培地を使用して本発明の方法に則って細胞を培養するだけでよい。基本培地の組成については上記に述べられている。
【0207】
本発明の一態様は、臨床的状況下でヒト被験者からMASCを単離するためのキットの調製である。同梱されたキットの要素を使用することで、単純な骨髄吸引液からMASCを単離することが可能である。分化因子、培地、及び培養中でMASCを分化誘導するための説明書が入った更なるキット要素を使用することで、患者自身の骨髄サンプルから抗原提示細胞(APC)の集団を得ることが臨床技師にとって可能となる。キットに入れられる更なる材料として、分化したAPCによって発現、提示される適当な抗原をコードしたポリヌクレオチド投与用ベクターを提供することも可能である。例えばB型肝炎の表面抗原、A型肝炎、アデノウイルス、Plasmodium falciparumや他の感染因子の防御抗原の遺伝子配列を有するプラスミドを例えば提供することが可能である。これらのプラスミドは、例えばキットに入っているリン酸カルシウムトランスフェクション用の材料及び使用説明書を使用することで培養APCに導入することが可能である。遺伝子改変されたAPCを患者の体内に再注入するための更なる材料を提供することも可能であり、これにより自家ワクチン投与システムが与えられる。
【0208】
本発明を以下の詳細な実施例にもとづいて更に説明する。
【実施例】
【0209】
実施例1.骨髄単核細胞からのMASCsの単離
80人を越えるボランティアの後部腸骨稜から吸引した骨髄から骨髄単核細胞を得た。
【0210】
表3に示されるように、各被験者から10〜100cm
3の骨髄を得た。表3に、各被験者から単離された単核細胞のおおよその数を示した。単核細胞(MNC)はFicoll−Paque密度勾配(シグマケミカル社、ミズーリ州セントルイス)(SigmaChemicalCo, St Louis, MO)上で骨髄を遠心分離して得た。骨髄MNCはCD45及びグリコフォリンAマイクロビーズ(ミルテニーバイオテック社、カリフォルニア州サニーヴェイル)(MiltenyiBiotec,Sunnyvale,CA)とともに15分インキュベートし、この試料をSuperMACS磁石の前方に置くことでCD45
+/Gly−A
+細胞を除去した。抽出された細胞は99.5%がCD45
−/Gly−A
−であった。
【0211】
表3に示されるように、CD45
+/GlyA
+細胞の除去によって全骨髄単核細胞の約0.05〜0.10%を構成するCD45
−/GlyA
−細胞が回収された。
【0212】
【表3】
一般的な白血球抗原であるCD45、または赤血球前駆細胞のマーカーであるグリコフォリン−A(GlyA)を発現していない細胞を選択した。CD45
−/GlyA
−細胞は骨髄単核細胞の1/10
3を構成する。CD45
−/GlyA
−細胞を、フィブロネクチンにてコーティングし、2%FCS、EGF、PDGF−BB、デキサメタゾン、インスリン、リノレイン酸及びアスコルビン酸を添加したウェルに播種した。7〜21日後に接着細胞の小集団が形成された。我々は限界希釈アッセイを用いて接着細胞集団を生ずる細胞の頻度を求めたところ5x10
3個のCD45
−/GlyA
−細胞につき1個の割合であった。
【0213】
コロニー(約10
3個の細胞)が出現した時点で細胞をトリプシン処理により回収し、同様の培養条件下で3〜5日毎に1:4の希釈率で再播種した。細胞密度は2〜8x10
3細胞/cm
2に保った。細胞の倍加時間は48〜60時間であった。10〜12回の細胞分裂後に蛍光発色細胞分析分離法(FACS)による免疫表現型分析を行った結果、細胞はCD31、CD34、CD36、CD38、CD45、CD50、CD62E及びCD62−P、Muc18、cKit、Tie/Tek、及びCD44を発現していなかった。細胞はHLA−DRまたはHLA−クラスIをまったく発現しておらず、β2マイクログロブリンを低レベルで発現していた。細胞はCD10、CD13、CD49b、CD49e、CDw90、Flk1に対する抗体によって強度に陽性染色された。このMASCの表現型は細胞分裂が30回を越えるまで変化が見られなかった(n=15)。2〜50才のドナーの内、85%を上回るドナーから30回以上の細胞分裂が可能で、すべての中胚葉性細胞(下記参照)に分化可能な細胞を含むMASC培養が樹立された。10人のドナーについて細胞分裂が50回を越えるまでMASCを増殖させた。細胞を10ng/mLのIGFを補った無血清培地で培養したところ、細胞の倍加時間は長くなったが(>60時間)細胞分裂は40回を上回った。IGFを含まず2%FCSを加えた培地で培養した細胞で見られたのと同様、無血清培地で培養した細胞はHLA−クラスI及びCD44について陰性であり、下記に述べるようにすべての中胚葉性表現型に分化可能であった。
【0214】
フィブロネクチンの代わりにI型コラーゲンまたはラミニン上に細胞を播種すると、細胞はCD44及びHLA−DRを発現したが、細胞分裂が30回を越えるまで増殖させることはできなかった。EGFまたはPDGFを省くと細胞は分裂せずに死滅したのに対し、これらのサイトカインを高濃度で添加するとMASCは初期には増殖したが細胞分裂が20〜30回を越えると分裂は停止した。高濃度のデキサメタゾンを添加した場合にも細胞分裂は30回を越えなかった。細胞を2%を越えるFCSを添加した培地で培養するとCD44、HLA−DR、及びHLA−クラスIを発現した。同様に高密度の培養(8x10
3細胞/cm
2)においてもCD44、HLA−DR及びHLA−クラスI、ならびにMuc−18が獲得されたが、これはMASCについて述べられている表現型に類似している。高密度培養または高濃度のFCSを添加しての培養では増殖能が失われ、細胞分裂は25〜30回を越えると停止した。
【0215】
我々は培養が樹立された段階で1細胞/ウェルとなるようにMASCを再播種してMASCのクローン化を試みた。3人のドナーから得た2000個以上の細胞を、FNコーティングを施し、同じ培地を入れた96穴プレートに1個ずつ播種した。どのウェルについても細胞の増殖は見られなかった。注目に値するのは、細胞を10細胞/ウェルで播種したところ約4%のウェルにおいて細胞の増殖が見られたことである。これらのウェルの内の5%の子孫は細胞数が10
7個を越えるまで増殖させることができた。
【0216】
5人のドナー(2〜50才)から得たMASCを15回の細胞分裂にわたって培養したところ、そのテロメアの長さは11〜16kBであった。3人のドナーにおいてこれは同じドナーから得た血中リンパ球のテロメア長よりも3kB長かった。1人のドナーから得た細胞のテロメア長について、15回、30回、及び45回の細胞分裂後にテロメア長を測定したところ変化は見られなかった。30回の細胞分裂後に回収したMASCに細胞遺伝学的分析を行ったところ、正常な核型を示した。
【0217】
実施例2.MASCsの分化
骨芽細胞分化を誘導するために、無血清培地に10
−7Mのデキサメタゾン、10mMのアスコルビン酸、および10mMのグリセロホスフェートを補足した。骨芽細胞分化は、骨発生に比較的特異的である、カルシウムの鉱質化、アルカリホスファターゼ発現、ならびに骨シアロタンパク質、オステオポンチン、オステオカルシンおよびオステオネクチンの産生の検出によって確認した(
図7を参照)。
【0218】
軟骨分化を誘導するために、以前記載したように、無血清培地に、100ng/mlのTG
F−1(P&D Systems, Minneapolis, MN)を補足した。細胞はフィブロネクチンに接
着している状態で、もしくは懸濁培養において分化誘導し、いずれの方法においても分化軟骨細胞が形成された。軟骨細胞を形成する分化は、II型コラーゲン、ならびにグリコサミノグリカンアグリカンの検出によって確認した(
図7を参照)。
【0219】
脂肪細胞分化を誘導するために、10
−7Mデキサメタゾンおよび100μg/mlインシュリンを培地に添加した。また、無血清培地を20%ウマ血清含有培地に置き換えることによって、脂肪細胞分化を誘導した。脂肪細胞分化は、LPLおよびaP2の検出によって検出した。
【0220】
骨格筋細胞分化を誘導するため、コンフルエンスが80%を越えたMASCを3μMの5−アザシチジンで24時間処理した後、EGF及びPDGF−BBを加えたMASC培地中で維持したところ、培養条件を変化させてから5日目には筋特異的タンパク質の発現が見られた。誘導2日目に、Myf5、Myo−D、及びMyf6転写因子を検出した。14〜18日後にはMyo−Dの発現レベルは大幅に低下したが、Myf5及びMyf6は高値に保たれた。誘導後4日目にはデスミン及びサルコメアアクチンを検出し、14日目には速収縮性ミオシン及び遅収縮性ミオシンを検出した(
図7)。免疫組織化学法により、14日後には70〜80%の細胞が成熟筋タンパク質を発現していることが確認された。我々は20%ウマ血清を添加して筋原細胞が多核化された筋管へと融合することを示した(
図7)。注目に値する点として、5−アザシチジン処理によって更に、培養の第1週目にGata4及びGata6の発現が、14日後には心筋トロポニンTの発現が誘導された。更に誘導2日後に平滑筋アクチンが検出され、14日目まで高値を保った。
【0221】
無血清MASC培地中に14日間維持してコンフルエンスに達したMASCに100ng/mLのPDGFを唯一のサイトカインとして添加したところ平滑筋細胞への分化が観察された。これらの細胞は平滑筋のマーカーを発現していた。4日目にミオゲニンの存在が、6日後にデスミンの存在が確認された。2日目以降に平滑筋アクチンが検出され、14日後に平滑筋ミオシンが検出された。14日後では、約70%の細胞が抗平滑筋アクチン及びミオシン抗体により陽性染色された。更に2〜4日後にMyf5及びMyf6タンパク質を検出し、これらは15日目まで高値に保たれたがMyo−Dは検出されなかった(
図7)。
【0222】
心筋分化は本明細書中で先に述べた標準無血清培地に100ng/mlの塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)を添加することによって誘導した。bFGF処理の開始時点で細胞はコンフルエンスに達していた。心組織の更なる発生を誘導するため、100ng/mlの5−アザシチジン、100ng/mlのbFGF、及び25ng/mlの骨形態形成タンパク質2及び4(BMP−2及びBMP−4)を培地に添加した。心組織分化誘導の処理の開始時点で細胞は80%を越えるコンフルエンスに達していた。Gata4及びGata6の発現が2日目には見られ、15日目まで高値を維持した。2日目以降にMyf6及びデスミンの発現が見られ、6日目以降にミオゲニンの発現が見られた。4日目以降に心筋トロポニンTの発現が見られ、11日目以降に心筋トロポニンI及びANPの発現が見られた。15日目には免疫組織化学法により70%を越える細胞においてこれらの成熟心筋タンパク質が検出された。培養を3週間以上継続すると細胞はシンシチウムを形成した。我々は更に、培養中で稀に自然収縮が生じ、数mmの距離を伝播するのを確認した(
図7)。ここでもやはり6日目以降にMyf5、Myf6及び平滑筋アクチンを検出した。
【0223】
15〜20日目までにex vivoで内皮細胞の分化を誘導するため、血管内皮成長因子(VEGF)を20ng/mlの濃度で他の成長因子を含まない無血清培地に添加した。内皮細胞の分化は、内皮細胞分化に関連した細胞タンパク質及び受容体を検出するための免疫蛍光染色によって確認した。結果を
図7に示す。
【0224】
造血細胞の分化は、ex vivoでマウス及びヒト再生幹細胞を支持する胎児肝臓由来の間葉細胞系であるAFT024フィーダーにて調整した、5%FCS及び100ng/mLのSCFを添加したPDFF−BB及びEGF含有MASC培地が入れられるとともにIV型コラーゲンでコーティングされたウェルでMASCを培養することによって誘導した。これらの培養から回収した細胞は、cKit、cMyb、Gata2、及びG−CSF−Rを発現したが、CD34は発現しなかった(RT−PCR)。造血作用が胚性内臓内胚葉が放出する因子によって誘発されることから、発明者等はヒトSCF、Flt3−L,Tpo、及びEpoの存在下でβGal
+のマウスEBとヒトMASCとを共培養した。2つの別々の実験において、ヒトCD45を発現するβGal
−細胞の小集団が検出された。
【0225】
「間質細胞」の分化はMASCをIL−1α、FCS、及びウマ血清とともに培養することにより誘導した。これらの細胞が造血支持能を有することを証明するため、フィーダーを2,000cGyにて放射線照射し、CD34
+臍帯血細胞をフィーダーと接触させて播種した。2週間後にメチルセルロースアッセイにおいて子孫細胞を再播種してコロニー形成細胞(CFC)の数を求めた。CFCは3〜5倍に増殖していた。
【0226】
コンフルエンスに達したMASC培養を肝細胞成長因子(HFG)及びKGFにて処理した。14日後、細胞は、肝上皮細胞の発生に関連が示されているMET(HGF受容体)、サイトケラチン18及び19を発現した。
【0227】
実施例4. 成人骨髄由来MASCへの形質導入
約3〜10代の継代培養後にMASC培養が樹立された後、連続2日間にわたりレトロウイルスによってMASCに緑色蛍光タンパク質(eGFP)保有ベクターを形質導入した。使用したレトロウイルスはMFG−eGFPまたはMND−eGFP−SN構築体であり、Donald Kohn氏の好意により提供されたものである(DonaldKohn,M.D., LA Childrens Hospital, Los Angeles, CA)。いずれのベクターもアンフォトロピックな細胞系であるPA317かテナガザル白血病パッケージング細胞系であるPG13にパッケージングした。このプロデューサーフィーダー細胞をMASC増殖培地で48時間培養してレトロウイルス上清を調製した。上清は濾過して使用時まで−80℃に凍結した。ほぼコンフルエンスに達したMASCをMASC増殖培地中で継代培養した。24時間後、8g/mLプロタミン(シグマ社)(Sigma)を加えたレトロウイルス含有上清にて培
地を置換し、5時間培養した。24時間後にこれを繰り返した。最後の形質導入の2〜3日後、コンソートコンピュータを用いFACSスタープラスフローサイトメーター上で(いずれもベクトン・ディキンソン社製)(BectonDickinsonInc.)、5ng/mLのFNにてコーティングした96穴プレート上のウェル当たりの細胞数10個にてeGFP
+細胞を選択した。接着細胞の40〜85%にeGFPの発現が見られた。蛍光活動化セルソータ上で自動細胞載置ユニット(ACDU)を用い、フィブロネクチンコーティングした96穴プレートにウェル当たり10個のeGFP
+細胞を選別した。細胞はMASC増殖培地中で1〜7ヶ月間培養した。3〜4週間後、3〜4%のウェルにおいて接着細胞がコンフルエンスに達した。この細胞を再び培養して増殖させた。10
7個以上の細胞に増殖した子孫を生じたウェルはプレート当たり1個に満たなかった(更に48時間細胞分裂させた)。したがって、更なる増殖能を有するのは骨髄細胞の1/10
7〜1/10
8ということになる。
【0228】
増殖させたクローン細胞集団を5〜10個の集団に分割した。細胞の一部は未分化の状態で低温保存し、一部を骨芽細胞、軟骨細胞、間質細胞、骨格筋及び平滑筋細胞、ならびに内皮細胞に分化誘導した。所定の経路に沿って分化が起きていることを証明し、組織の種類を同定するため、細胞を免疫組織化学法及び/またはウェスタンブロットによって分化後の細胞中に存在することが知られているタンパク質について調べた。
【0229】
細胞集団が1個の細胞から発生したことを示すため、単個細胞選別法またはリングクローニング法を用いたが、MASCが接着細胞であることから、FACSやリングクローニングによって1個ではなく2個の細胞が選択されている可能性がある。レトロウイルスの組込みがランダムに起きることを利用してすべての分化細胞クローンの起源を調べた。ランダムなウイルス組込みのためにレトロウイルスのLTRの両側に位置するホスト細胞のDNAは細胞特異的である。細胞分裂によって生ずるすべての娘細胞は、ホスト細胞のゲノムの同じ位置にレトロウイルスが存在することに基づいて特定が可能である。
【0230】
Inverseポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、挿入されたレトロウイルスの3’側及び5’側のLTRの両側のフランキングホストDNAを増幅した。InversePCRは、Jan Nolta氏の好意により提供されたプロトコルに則って行った(JanNolta,Ph.D., LA Children Hospital, Los Angeles, CA)。簡略に述べると、DNAを未分化のMASC及び分化した子孫から抽出し、Taq1(インビトロジェン社)(Invitrogen)にて切断し、フラグメントをライゲートしてInversePCRを行うことで5’側のフランキングホスト細胞DNAの配列を得た。こうしたinversePCRまたはサザンブロット分析を重点的に造血幹細胞に用いることにより分化したすべての細胞系が1個の細胞から誘導されたことを証明した。フランキングDNAを増幅した後、200〜300塩基の配列を決定し、フランキングDNAを特異的に認識するプライマーを設計した。次いで未分化細胞及び分化した細胞に、フランキングDNAに特異的なプライマーと5’側のlong terminal repeat(LTR)を認識するプライマーとを使用したPCRを行って分化した子孫からDNAを増幅した。検討した3つの試料のそれぞれにおいて、5’側LTRのフランキング配列として1個の細胞に特異的な配列が特定された。この配列は未分化細胞と分化細胞とで同じであった。このことは、「中胚葉性」の起源を有する細胞のすべてが1個の細胞に由来することを証明するものである。
【0231】
この方法を利用して、本研究では、骨前駆細胞が骨髄に存在し、この細胞が骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、繊維芽細胞、及び骨髄間質細胞へと分化し得ることを確認した。本発明者等は更に、1個の骨髄由来細胞が内臓及び臓側中胚葉からの細胞を生じうることを証明した。更に、9ヶ月以上にわたって培養した細胞の核型が正常であり、その旺盛な増殖能は細胞の幹細胞としての性質によるものであって、腫瘍形成や不死化によるものではないことも証明した。
【0232】
実施例5. 生体骨髄間葉幹細胞からのグリア細胞及び神経細胞の発生
分化したニューロンは分裂が終了しており、in vivoではニューロンの再生はほとんどあるいはまったく観察されていない。分裂能を有する新たな神経幹細胞(NSC)を脳の欠損領域に導入することによって欠損組織の機能を回復させることができるのであれば、脳の神経変性性及び外傷性疾患の治療における大きな進歩となる。すべての中胚葉性細胞に分化する生後骨髄から選ばれたMASCは、ニューロン、乏突起膠細胞、及びアストロサイトにも分化し得ることがこれまでに発見されている。
【0233】
MASCの培養を実施例1に述べた要領で樹立した。神経発生を以下のように誘導した。ニューロン、アストロサイト、及び乏突起膠細胞を神経分化用培地からなる培地中で発生させた。この培地は以下を含む。10〜95%DMEM−LG(好ましくは約60%)、5〜90%MCDB−201(好ましくは約40%)、1xITS、1xLA−BSA、10
−7〜10
−9Mのデキサメタゾン(好ましくは10
−8M)、10
−3〜10
−5Mのアスコルビン酸2−リン酸(好ましくは約10
−4M)、及び0.5〜100ng/mLのEGF(好ましくは約10ng/mL)。この培地は、特定の種類の細胞に分化誘導するため、更に以下のサイトカインの1以上のものを含有していてもよい。
【0234】
5〜50ng/mLのbFGF(好ましくは約100ng/mL)−アストロサイト、乏突起膠細胞、ニューロン(タイプ不明)。
【0235】
5〜50ng/mLのFGF−9(好ましくは約10ng/mL)−アストロサイト、乏突起膠細胞、GABA作動性及びドーパミン作動性ニューロン。
【0236】
5〜50ng/mLのFGF−8(好ましくは約10ng/mL)−ドーパミン作動性、セロトニン作動性、及びGABA作動性ニューロン、グリア細胞への誘導なし。
【0237】
5〜50ng/mLのFGF−10(好ましくは約10ng/mL)−アストロサイト、乏突起膠細胞、ニューロンへの誘導なし。
【0238】
5〜50ng/mLのFGF−4(好ましくは約10ng/mL)−アストロサイト、乏突起膠細胞、ニューロンへの誘導なし。
【0239】
5〜50ng/mLのBDNF(好ましくは約10ng/mL)−ドーパミン作動性ニューロンのみ。
【0240】
5〜50ng/mLのGDNF(好ましくは約10ng/mL)−GABA作動性及びドーパミン作動性ニューロン。
【0241】
5〜50ng/mLのGDNF(好ましくは約10ng/mL)−GABA作動性ニューロンのみ。
【0242】
MASCを神経性細胞に分化誘導するための生長因子は、神経系の胚発生における知見、またはin vitroでのNSC分化を評価した研究から得られた知見に基づき選択した。すべての培地は無血清で、強力な外胚葉誘導因子であるEGFを補った。FGFは神経系の発生において重要な役割を担っている。ヒト生後骨髄由来MASCを100ng/mLのbFGF及び10ng/mLのEGFの存在下で培養すると、アストロサイト、乏突起膠細胞、及びニューロンへの分化が観察された。アストロサイトは、GFAP(glial−fibrilar−acidic−protein)陽性細胞として同定され、乏突起膠細胞はグルコセレブロシド陽性(GalC)として同定され、ニューロンはNeuroD、チューブリンIIIB(Tuji)、シナプトフィジン、及びニューロフィラメント68,160、及び200を順次発現する細胞として同定される。これらの細胞は、GAGA作動性、ドーパミン作動性、セロトニン作動性ニューロンのマーカーは発現しない。
【0243】
FGF−9はグリア芽細胞腫細胞系列から最初に単離され、培養中でグリア細胞の分裂を誘導する。FGF−9は、大脳皮質、海馬、黒質、脳幹の運動核、プルキンエ細胞層のニューロンにおいてin vivoで見られる。MASCに10ng/mLのFGF−9及びEGFを添加して3週間培養すると、アストロサイト、乏突起膠細胞、GABA作動性ニューロン、及びドーパミン作動性ニューロンを生じた。中枢神経系の発生過程では、中/後脳境界において前脳により発現されるFGF−8が、ソニックヘッジホッグとともに中脳及び前脳のドーパミン作動性ニューロンの分化を誘導する。MASCに10ng/mLのFGF−8及びEGFを添加して3週間培養するとGABA作動性ニューロン及びドーパミン作動性ニューロンの両方を生じることが分かっている。FGF−10は極微量が脳に見出され、その発現は海馬、視床、中脳、及び脳幹に限定され、ニューロン内で選択的に発現し、グリア細胞では発現しない。MASCを10ng/mLのFGF−10及びEGF中で3週間培養するとアストロサイト及び乏突起膠細胞を生じたが、ニューロンは生じなかった。FGF−4は脊索において発現し、中脳の領域化に必要とされる。MASCを10ng/mLのFGF−4及びEGFにて3週間処理するとアストロサイト及び乏突起膠細胞に分化したが、ニューロンには分化しなかった。
【0244】
脳において特異的に発現し、in vivo及びin vitroで神経発生に影響する他の成長因子としては、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、及び毛様体神経栄養因子(CNTF)などがある。BDNFは、NSC、ヒト上衣下細胞、及び神経系前駆細胞のニューロンへのin vitro分化を促進し、海馬由来神経幹細胞のin vivoでの軸索生成を促進する神経成長因子ファミリーに属する。黒質のドーパミン作動性ニューロンの生存を支持するというBDNFの既知の機能と符合するものであるが、MASCを10ng/mLのBDNF及びEGFにて処理すると、チロシンヒドロキシラーゼ陽性ニューロンのみへの分化が見られた。GDNFはTGFスーパーファミリーに属する。神経発生の初期にはGDNFは前神経外胚葉で発現し、神経発生におけるGDNFの重要な役割を示すものである。GDNFは末梢神経及び筋肉の運動ニューロンの生存を促し、神経栄養因子活性及び分化促進能を有する。GDNFがMASCのGABA作動性及びドーパミン作動性ニューロンへの分化を誘導することが分かっている。CNTFは毛様体神経節から最初に単離され、サイトカインのgp130ファミリーに属する。CNTFは発生初期の神経の生存を促す。CNTFにより、ラット胎児の海馬神経細胞の培養においてGABA作動性及びコリン作動性ニューロンの数が増加する。更にCNTFはGABA作動性ニューロンの細胞死を防止するとともにGABAの取込みを促進する。CNTFはMASCに対し同様のGABA作動性誘導効果を示し、MASCはCNTFへの曝露の3週後にGABA作動性ニューロンのみに分化した。
【0245】
上記に述べたように、IL−11やLIFなど造血サイトカインのあるものはNSCの栄養因子であることが示されている。更に、神経前駆細胞のin vitroでの研究により、SCF、Flt3L、EPO、TPO、G−SCF、及びSCF−1が神経性細胞の分化の初期段階で作用するのに対して、IL5,IL7,IL9及びIL11は後の神経の成熟段階において作用することが示されている。初期作用性サイトカイン(10ng/mLトロンボポエチン(アムジェン社の好意による)(AmgenInc.,Thousand Oaks, CA))、10ng/mLの顆粒細胞コロニー刺激因子(Amgen)、3Uのエリスロポ
エチン(Amgen)、及び10ng/mLのインターロイキン3(R&Dsystems)の組合わせの後、14ng/mLの胎児肝臓チロシンキナーゼ3リガンド(イミュネックス社の好意による)(ImmunexInc,Seattle,WA)及び15ng/mLのSCF(アムジェン社の好意による)を補ったマウス胎児肝臓フィーダー層AFT024(Dr.Ihor Lemishkaの好意による)(Dr.IhorLemichka,Princeton University, NJ
)により調整した培地中で1ヶ月培養することによってMASCを誘導した。このような条件下で生成したニューロンはニューロフィラメント68を発現しているがニューロフィラメント200は発現しておらず、未成熟である。
【0246】
一部の培養において、レトロウイルスを用いeGFP保有ベクターにてMASCに形質導入した(上記の実施例4に述べた)。分化したグリア及び神経性細胞では引き続きeGFPの発現が見られた。このことは、これらの細胞はその分化を妨害することなく遺伝子改変が可能であることを示すものである。したがって、未分化のMASCは、後にアストロサイト、乏突起膠細胞、及びニューロンを生ずる神経幹細胞を生成することが可能である。
【0247】
MASCは生後骨髄から単離し、ex vivoで増殖させ、in vitroでグリア細胞や特定の神経性細胞に分化誘導することが容易であることから、NSCの移植における主要な問題の1つ、すなわち好適なドナー組織が入手しにくいという問題が解決される。
【0248】
本発明の細胞を細胞置換療法及び/または遺伝子治療に使用して、例えばムコ多糖症、白質ジストロフィー(グロボイド細胞性白質ジストロフィー、キャナヴァン病)、フコシドーシス、GM2ガングリオシドーシス、ニーマン−ピック病、サンフィリポ症候群、ウォルマン病、及びテイ−サックス病などの先天性神経変性性疾患や蓄積症を治療またはその症状を緩和することが可能である。また本発明のMASCは、ハンチントン病、多発性硬化症やアルツハイマー病などの後天性の神経変性性疾患を治療またはその症状を緩和することが可能である。更に本発明のMASCは、脳卒中、中枢神経系出血、中枢神経系外傷などの外傷性疾患、脊髄損傷や脊髄空洞症などの末梢神経系疾患、網膜剥離、黄斑変性や他の変性網膜疾患及び糖尿病性網膜疾患などの網膜疾患の治療に使用することが可能である。
【0249】
実施例6 造血細胞の発生
造血幹細胞(HSC)は中胚葉由来の細胞である。HSCは卵黄嚢中胚葉に由来するものと長い間考えられていた。原始赤血球系細胞が卵黄嚢に由来していることについては充分な証拠が存在する。完成造血細胞がやはり卵黄嚢の細胞に由来しているか否かについては明らかとなっていない。ニワトリ胚、マウス及びヒト胎児における最近の一連の研究によって、完成造血細胞は固有胚、すなわちAGM領域に存在する中胚葉性細胞に由来していることが示された。ヒトでは22〜35日目に背側大動脈においてFlk1
+細胞の小集団が発生し、CD34
+の内皮または造血細胞に分化する。これらは胎児肝臓に定着する細胞であると考えられている。造血能を有する細胞は背側大動脈に由来するが、これらの細胞が成熟造血細胞に分化及びコミットするためには、内皮環境が造血細胞の発生にとって有利な肝臓に細胞が移動する必要がある。これに対し、AGM領域に残留する細胞が造血細胞に発生することはない。
【0250】
本発明のMASC培養中のクローンの中には造血能を持ったものがある。このMASCは内皮細胞に分化して胚様体らしきものを形成する。この細胞集合体が造血細胞へと分化する。この微小な懸濁集合体をトリプシン処理し、FN、IV型コラーゲンまたはECM上に再播種する。培地は、0.5〜1000ng/mLのPDGF−BB(好ましくは約10ng/mL)及び0.5〜1000ng/mLのEGF(好ましくは約10ng/mL)を含有したMASC培地に5〜1000ng/mLのSCF(好ましくは約20ng/mL)を補ったものか、IL3、G−CSF、Flt3−L及びSCF(2〜1000ng/mL、好ましくは約10〜20ng/mL)の組合わせからなるものを使用した。または、0.5〜1000ng/mLのPDGF−BB(好ましくは約10ng/mL)及び0.5〜1000ng/mLのEGF(好ましくは約10ng/mL)を含有したMASC培地に5%FCSと1〜1000ng/mLのSCF(好ましくは約100ng/mL)を補ってAFT024細胞にて調整したものを使用した。これらの培養のいずれから回収された細胞においてもcKit、cMyb、Gata2及びG−CSF−Rの発現が見られ(RT−PCR/免疫組織化学法)、造血細胞への分化が可能であることが示された。
【0251】
実施例7 上皮組織の発生
出願人等は更に上皮組織の発生を証明した。簡略に述べると、まず血管を1〜100ng/mLのフィブロネクチンと、1〜100ng/mLのラミニン、IV型コラーゲンやマトリゲルなどの他のECM産物とにてコーティングした。使用した培地は以下からなる。10〜95%のDMEM−LG、5〜90%のMCDB−201、1xITS、1xLA−BSA、10
−7〜10
−9Mのデキサメタゾン(好ましくは10
−8M)、10
−3〜10
−5Mのアスコルビン酸2リン酸(好ましくは10
−4M)。この培地には以下のサイトカインの内の1以上のものを加えてもよい。
【0252】
0.5〜100ng/mLのEGF(好ましくは約10ng/mL)。
【0253】
0.5〜1000ng/mLのPDGF−BB(好ましくは約10ng/mL)。
【0254】
0.5〜1000ng/mLのHGF(肝細胞成長因子)(好ましくは約10ng/mL)。
【0255】
0.5〜1000ng/mLのKGF(ケラチノサイト成長因子)(好ましくは約10ng/mL)。
【0256】
細胞の中には、汎サイトケラチン陽性、ならびにサイトケラチン18及び19陽性のものが見られ、これらの細胞が内胚葉由来であることが示された(肝上皮細胞、胆管上皮細胞、膵腺房細胞や消化管上皮細胞)。一部の細胞では、肝上皮細胞及び腎臓上皮細胞に特異的なH−Metすなわち肝細胞成長因子受容体の存在が示された。また、皮膚上皮細胞の特徴であるケラチンの存在が示された細胞もあった。
【0257】
本発明の細胞を細胞置換療法及び/または遺伝子治療に使用して、複数の臓器疾患を治療もしくはその症状を緩和することが可能である。この細胞を使用して、例えば、ムコ多糖症、白質ジストロフィー、GM2ガングリオシドーシスなどの蓄積症、クリグラー−ナジャー症候群などの高ビリルビン疾患、例えばオルニチンデカルボキシラーゼ欠損症、シトルリン血症、及びアルギニノコハク酸尿症といった尿素回路の先天異常などのアンモニア疾患、フェニルケトン尿症、先天性高チロシン血症、及びα1−アンチトリプシン欠損症などのアミノ酸及び有機酸異常、ならびに第VIII及びIX因子欠損症などの凝固疾患といった先天性の肝疾患を治療もしくは緩和することが可能である。この細胞はまたウイルス感染による後天性肝疾患を治療するために使用することも可能である。本発明の細胞は更に、人口肝臓(腎臓透析に類似)の製造、凝固因子の生成、及び、肝上皮細胞が産生するタンパク質や酵素の生成などのex vivoでの応用例に使用することも可能である。
【0258】
更に本発明の細胞を細胞置換療法及び/または遺伝子治療に使用して、胆汁性肝硬変や胆道閉鎖症などの胆道疾患を治療もしくはその症状を緩和することも可能である。
【0259】
更に本発明の細胞を細胞置換療法及び/または遺伝子治療に使用して、膵臓閉塞症、膵臓炎、及びα1−アンチトリプシン欠損症などの膵臓疾患を治療もしくはその症状を緩和することが可能である。更に、本発明の細胞から膵臓上皮細胞が得られ、また神経細胞が得られることより、β細胞を生成することが可能である。これらの細胞を糖尿病の治療に用いることも可能である(皮下移植、膵臓内または肝臓内移植)。
【0260】
更に本発明の上皮細胞を細胞置換療法及び/または遺伝子治療に使用して、腸閉塞、炎症性腸疾患、腸梗塞、及び腸切除などの腸上皮組織の疾患を治療もしくはその症状を緩和することが可能である。
【0261】
更に本発明の上皮細胞を細胞置換療法及び/または遺伝子治療に使用して、脱毛症などの皮膚疾患、火傷の傷や白子症などの皮膚欠陥を治療もしくはその症状を緩和することが可能である。
【0262】
実施例8 MASC、軟骨及び骨の発現遺伝子プロファイル
本発明者等は、2x10
3個/cm
2の播種密度にて22〜26回の細胞分裂にわたって培養したヒトMASCの発現遺伝子プロファイルをクロンテック社(Clonetech)及びインビトロジェン(Invitrogen)社製cDNAアレイを用いて評価し、以下のプロファイルを得た。更に発明者等はMASCを2日間にわたって軟骨及び骨に分化誘導した際の遺伝子発現の変化を評価した。
【0263】
−多能性成体幹細胞(MASC)は、CD31、CD36、CD62E、CD62P、CD44−H、cKit、Tie、ILI、IL3、IL6、IL11、G−CSF、GM−CSF、Epo、Flt3−L、またはCNTFの受容体のmRNAを発現せず、HLA−クラスI、CD44−E及びMuc18のmRNAを低レベルで発現する。
【0264】
−MASCは、サイトカインであるBMP1、BMP5、VEGF、HGF、KGF、MCP1;サイトカイン受容体であるFlk1、EGF−R、PDGF−R1α、gp130、LIF−R、アクチビンR1及び−R2、TGFR−2、BMP−R1A;接着受容体であるCD49c、CD49d、CD29及びCD10のmRNAを発現する。
【0265】
−MASCは、hTRT、oct−4、sox−2、sox−11、sox−9、hoxa4、−5、−9、Dlx4、MSX1、PDX1のmRNAを発現する。
【0266】
−軟骨及び骨のいずれにおいても、oct−4、sox−2、Hoxa4、5、9;Dlx4、PDX1、hTRT、TRF1、サイクリン、cdk、シンデカン−4、ジストログリカン、インテグリンα2、α3、β1、FLK1、LIF−R、RAR−α、RARγ、EGF−R、PDGF−R1a及び−B、TGF−R1及び−2、BMP−R1A、BMP1及び4、HGF、KGF、MCP1の発現は失われるかもしくは低下した。
【0267】
−骨芽細胞の分化は、HOx7、hox11、sox22、cdki、シンデカン−4、デコリン、ルミカン、フィブロネクチン、骨シアロタンパク質、TIMP−1、CD44、β8、β5インテグリン、PTHr−P、レプチン−R、VitD3−R、FGF−R3、FGF−R2、エストロゲン−R、wnt−7a、VEGF−C、BMP2の獲得/及び発現の増加に関連していた。
【0268】
−軟骨の分化はSox−9、FREAC、hox−11、hox7、CART1、Notch3、cdki、II型コラーゲン、フィブロネクチン、デコリン、軟骨糖タンパク、軟骨オリゴマー基質タンパク質、MMP及びTIMP、N−カドヘリン、CD44、α1及びα6インテグリン、VitD3−R、BMP2、BMP7の獲得に関連していた。
【0269】
実施例9 MASCと骨芽細胞とで発現レベルが異なる遺伝子のサブトラクティブハイブリダイゼーションによる特徴付け
本発明者等は、未分化のMASCとコミットした子孫との間の遺伝子の差異を特定するためサブトラクション的手法を用いた。ポリアデニル化mRNAを未分化のMASCから抽出し、細胞を2日間にわたり骨芽細胞系に分化誘導した。クロンテック社(Clonetech)より入手されるPCR選択キットを使用し、製造者の推奨するところに何ら変更を行うことなく基づいて、発現レベルの異なるcDNAのサブトラクション及び増幅を行った。2日目の骨芽細胞培養中で発現される遺伝子配列を分析したが未分化のMASC中で発現される遺伝子配列については分析を行わなかった。
【0270】
発現レベルの異なる86個のcDNA配列の配列を決定した。MASCにおいてmRNAの発現は見られず、2日目の骨芽細胞の子孫において実際にmRNAが特異的に発現していることをノーザンブロッティング法により確認した。これらの配列を(BLASTアルゴリズムによって)次のデータベースと比較した。すなわち、SwissProt、GenBankタンパク質及びヌクレオチドコレクション、ESTs、マウス及びヒトESTcontigsである。
【0271】
配列は相同性によって分類した。8個が転写因子であり、20個が細胞の代謝に関与しており、5個がクロマチンの修復に関与しており、4個がアポトーシス経路に関与しており、8個がミトコンドリアの機能に関与しており、14個が接着受容体/ECM成分であり、19個が機能不明な公知のEST配列であり、8個が新規な配列であった。
【0272】
新規配列の内2個について、3人のドナーから得たMASCを骨に分化誘導したものに12時間、24時間、2日、4日、7日及び14日間にわたってQ−RT−PCRを行った。遺伝子はそれぞれ分化の最初の2及び4日間に発現され、その後ダウンレギュレートされた。
【0273】
未分化のMASCに存在するが2日目の骨芽細胞には存在しない遺伝子について分析した。発現レベルの異なる30個の遺伝子の配列が決定され、この内の5個はEST配列または既知配列であった。これらの遺伝子がMASCには存在するが2日目の骨芽細胞には存在しないことをノーザンブロッティングによって確認した。
【0274】
実施例10 MASCの定着
MASCがin vivoにて定着、生存するかを調べるため研究を行った。
【0275】
eGFP
+MASCをNOD−SCIDマウスに筋内注入した。4週後にマウスを殺し、ヒトES細胞について報告されているように筋肉に奇形腫が生じるか否かを調べた。5頭中5頭において奇形腫は見られなかった。eGFP陽性細胞が検出された。更にeGFP
+MASCIVをSCIDマウス胎児に子宮内注入した。出生直後に動物の評価を行った。PCR解析により、心臓、肺、肝臓、脾臓、及び骨髄にeGFP
+細胞の存在が示された。
【0276】
ラットの正常な脳または梗塞を発症した脳にMASCを定位的に移植したところ、細胞は神経細胞に見られる表現型を獲得し、この表現型は少なくとも6週間にわたって維持された。これらの研究によりヒトMASCはin vivoで定着し、奇形腫へと発生することなく臓器特異的に分化することが示された。
【0277】
更にこれらの研究によってMASCが胚性幹細胞や生殖細胞とは大きく異なることが示された。MASCは成人及び子供の異なる臓器から得ることが可能な新たなクラスの多能性幹細胞である。
【0278】
実施例11 マウス由来MASCの選択、増殖、及び特徴付けの実例
多能性成体幹細胞(MASC)はマウスの骨髄から得ることが可能であり、また骨髄以外の臓器にも存在し得る。
【0279】
1.マウス骨髄のMASCの特定
本研究者等はマウス骨髄からMASCを選択した。C57/BL6マウスから骨髄を得て、単核細胞またはCD45及びGlyA陽性細胞を枯渇させた細胞(n=6)をヒトMASCで使用したのと同じ条件下(10ng/mLのヒトPDGF−BB及びEGF)で播種した。骨髄単核細胞を播種した場合には、培養開始後14日後にCD45
+細胞を枯渇させて造血細胞を除去した。ヒトMASCにおけるのと同様、細胞分裂2回毎に培養を2000細胞/cm
2の細胞密度で再播種した。
【0280】
ヒト細胞における観察とは対照的に、0日目にCD45
+細胞を枯渇させた新鮮なマウス単核細胞をMASC培地に播種した場合には増殖は見られなかった。マウス骨髄単核細胞を播種し、14日後に培養細胞のCD45
+細胞を枯渇させると、ヒトMASCに類似の形態及び表現型を有する細胞が出現した。このことは造血幹細胞が分泌する因子がマウスMASCの初期の増殖に必要とされる可能性を示している。PDGF−BB及びEFGのみと培養した場合には、細胞倍加時間は長く(6日より長い)、10回の細胞分裂を越えて培養を維持することはできなかった。10ng/mLのLIFを添加することにより細胞の増殖率が高められ、70回を越える細胞分裂が可能であった。ラミニン、IV型コラーゲン、またはマトリゲル上で培養した場合、細胞の増殖は見られたが細胞はCD44
+かつHLA−クラスI陽性であった。ヒト細胞におけるのと同様、フィブロネクチンコーティングした皿上でLIFを加えて培養したC57/BL6MASCはCD44及びHLA−クラスI陰性であり、SSEA−4により陽性染色され、oct−4、LIF−R、及びsox−2の転写因子を発現した。
【0281】
マウス骨髄から得たMASCは、ヒトMASCの分化誘導にも用いられる方法によって心筋細胞、内皮及び神経外胚葉細胞に分化誘導することが可能である。したがってC57B16マウス由来MASCはヒト骨髄由来のMASCに相当するものであるといえる。
【0282】
2.MASCは骨髄以外の組織にも存在する
発明者等は肝臓や脳などの他の組織にもMASCが存在するかについて調べた。コラゲナーゼ及びトリプシンで処理した生後5日目のFVB/Nマウスから得た骨髄、脳及び肝臓単核細胞をフィブロネクチン上でEGF、PDGF−BB、及びLIFを添加したMASC培地に播種した。14日後にCD45
+細胞を除去して細胞を上記に述べたようなMASCの培養条件下に維持した。骨髄、脳、または肝細胞にて開始した培養中で、ヒトMASC及びC57/B16マウスの骨髄から得られたマウスMASCに類似した形態を有する細胞が増殖した。これらの細胞はoct−4のmRNAを発現していた。
【0283】
発明者等は更にoct−4のプロモーターであるeGFP遺伝子について形質転換したマウスを調べた。これらの動物では生後の生殖細胞と同様、始原生殖細胞においてもeGFPの発現が見られた。MASCはoct−4を発現することから、我々はeGFP陽性細胞が生後のこれらの動物の骨髄、脳、及び肝臓に見られるかについて試験を行った。生後5日目のマウスの骨髄、脳及び肝臓からeGFP
+細胞を選別した(最も明るい1%の細胞)。蛍光顕微鏡法によって調べたところ、脳及び骨髄から選別した細胞の内1%に満たないものがeGFP
+であった。Q−RT−PCRにより、選別した集団においてoct−4のmRNAが検出された。選別した細胞をMASCの支持条件下(フィブロネクチンコーティングし、EGF、PDGF、LIFを加えたウェル)に播種した。細胞は生存したものの増殖はしなかった。マウス胚性繊維芽細胞に移したところ細胞の増殖が見られた。更にMASC培地に移したところ、ヒト骨髄またはC57/B16またはFVB/Nマウスの骨髄から古典的なMASC選択及び培養法によって得たMASCに類似した形態及び表現型を有する細胞が得られた。
【0284】
本発明を特定かつ好適な異なる実施形態及び方法について述べたが、発明の範囲を逸脱することなく多くの変更ならびに改変を加えることが可能である点は了承されよう。参照文献、特許及び特許文献はそのすべてが恰も個々に援用されているかのように援用されるものである。
【0285】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【表17】
【表18】