特許第6227399号(P6227399)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227399
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 11/06 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   C01B11/06 AZAB
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-268974(P2013-268974)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-124110(P2015-124110A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】谷本 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】村川 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】加賀 一有
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−169129(JP,A)
【文献】 特開2009−132583(JP,A)
【文献】 特開2000−290003(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/043203(WO,A1)
【文献】 特表2010−514659(JP,A)
【文献】 特開昭59−102806(JP,A)
【文献】 特開昭62−270406(JP,A)
【文献】 特開2006−143571(JP,A)
【文献】 特開平11−255503(JP,A)
【文献】 特開昭60−081004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 11/00 − 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
30〜60質量%の水酸化ナトリウム水溶液を反応槽に供給する工程(1)と、
該反応槽に供給された水酸化ナトリウム水溶液に、希ガス類元素のガスおよび窒素ガスから選ばれる不活性ガスで希釈した塩素ガスを導入して反応温度20℃〜50℃で塩素化反応を行わせる工程(2)と、
前記工程(2)で析出した副生塩化ナトリウムを反応液から分離して除去することにより次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る工程(3)と
を含むことを特徴とする低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記不活性ガスで希釈された塩素ガスの濃度が5〜95体積%である、請求項1に記載の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記塩素化反応において、導入される水酸化ナトリウムと塩素ガスとのモル比(NaOH/Cl2)が2.0〜2.5である、請求項1または2に記載の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記工程(2)の反応温度が30〜50℃である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記工程(3)で得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液の塩化ナトリウム濃度が5.0質量%以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記工程(3)で得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液の塩素酸イオン濃度が1.5質量%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記工程(3)で得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液の次亜塩素酸ナトリウム濃度が30〜40質量%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法で得られた低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液を水で希釈して所定の有効塩素濃度とする工程を含むことを特徴とする希薄次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【請求項9】
前記有効塩素濃度が1〜20質量%である、請求項8に記載の希薄次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ナトリウム濃度および塩素酸濃度の低い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)は、優れた殺菌作用や漂白作用を有することが知られており、一般的には水溶液の状態で、一般工業薬品として、プール、上水道、下水道及び家庭用等の殺菌用途として、または、製紙工業や繊維工業等における漂白用途もしくは排水処理用薬品として、広く用いられている。
【0003】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液としては、一般に、有効塩素濃度12質量%を基準とし、反応副生物である塩化ナトリウムを10質量%程度含有している汎用の次亜塩素酸ナトリウム水溶液と、塩化ナトリウム濃度が4質量%以下の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液とが市販されている。
【0004】
低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造する方法として、特許文献1には、濃度34〜38重量%の苛性ソーダ水溶液を使用し、反応温度を24〜29℃に維持しながら前記苛性ソーダと塩素ガスを反応させ、有効塩素濃度が26.5〜29重量%の高濃度次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造し、次いで、前記高濃度次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に析出した食塩を分離し、水で希釈することで、有効塩素濃度が12重量%以上、食塩濃度が4重量%以下、かつ塩素酸濃度が0.2mg/L以下の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る方法が提案されている。なお、特許文献1におけるmg/L単位は、水道水1リットルに対し、次亜塩素酸ナトリウム100mgを添加したときの塩素酸濃度を表しており、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の塩素酸濃度としては2000wtppmに相当する。
【0005】
ここで、塩素化は発熱反応であり、かつ塩化ナトリウムの結晶が副生することから、反応温度が高いほど除熱にかかるエネルギーは低く抑えられ、冷却用コイルへの食塩結晶のスケーリングを防ぐことができる。しかしながら、反応温度が高いと次亜塩素酸ナトリウムの分解量が多くなり、特に40℃以上では急激に分解が進行するため、大幅に原単位が悪化する(非特許文献1参照)。また、特許文献1には、30℃以上の温度では次亜塩素酸ナトリウムが速やかに分解してしまう旨が記載されている。その他の文献においても、30℃より高い反応温度、特に35℃より高い反応温度において、90%を超える収率で次亜塩素酸ナトリウムを得ている例は存在しない。
【0006】
特許文献2には、洗浄された精製塩素ガスを用いて次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造する方法が開示されており、その0042段落には、「塩素ガスと水酸化ナトリウム水溶液との反応は、好ましくは15〜45℃、より好ましくは20〜40℃、さらに好ましくは25〜30℃で行なわれる。反応温度を15〜45℃とすることにより、食塩濃度の低い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を安定的に製造することが可能となる。」と記載されている。しかしながら、本発明者らが、特許文献2の方法で塩素ガスと水酸化ナトリウム水溶液とを反応温度40℃で反応させる実験を行ったところ、副反応や分解反応が進行し、大幅に原単位が減少してしまうことが確認された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−132583号公報
【特許文献2】特許第4308810号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本ソーダ工業会 ソーダハンドブック編集ワーキンググループ編、「ソーダ技術ハンドブック 2009」、日本ソーダ工業会発行、212頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、比較的高い反応温度、好ましくは30℃以上の反応温度で、かつ、高収率で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、水酸化ナトリウム水溶液に塩素ガスを導入する次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法において、窒素等の不活性ガスで塩素ガスを希釈することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0011】
[1] 30〜60質量%の水酸化ナトリウム水溶液を反応槽に供給する工程(1)と、該反応槽に供給された水酸化ナトリウム水溶液に、不活性ガスで希釈した塩素ガスを導入して反応温度20℃〜50℃で塩素化反応を行わせる工程(2)と、前記工程(2)で析出した副生塩化ナトリウムを反応液から分離して除去することにより次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る工程(3)とを含むことを特徴とする低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【0012】
[2] 前記不活性ガスで希釈された塩素ガスの濃度が5〜95体積%である、項[1]に記載の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
[3] 前記塩素化反応において、導入される水酸化ナトリウムと塩素ガスとのモル比(NaOH/Cl2)が2.0〜2.5である、項[1]または[2]に記載の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【0013】
[4] 前記工程(2)の反応温度が30〜50℃である、項[1]〜[3]のいずれか1項に記載の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
[5] 前記工程(3)で得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液の塩化ナトリウム濃度が5.0質量%以下である、項[1]〜[4]のいずれか1項に記載の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【0014】
[6] 前記工程(3)で得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液の塩素酸イオン濃度が1.5質量%以下である、項[1]〜[5]のいずれか1項に記載の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【0015】
[7] 前記工程(3)で得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液の次亜塩素酸ナトリウム濃度が30〜40質量%である、項[1]〜[6]のいずれか1項に記載の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【0016】
[8] 項[1]〜[7]のいずれか1項に記載の製造方法で得られた低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液を水で希釈して所定の有効塩素濃度とする工程を含むことを特徴とする希薄次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【0017】
[9] 前記有効塩素濃度が1〜20質量%である、項[8]に記載の希薄次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、コスト面および設備整備面で有利な高温の反応温度で低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法について詳細に説明する。
本発明の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法は、
30〜60質量%の水酸化ナトリウム水溶液を反応槽に供給する工程(1)と、
該反応槽に供給された水酸化ナトリウム水溶液に、不活性ガスで希釈した塩素ガスを導入して反応温度20℃〜50℃で塩素化反応を行わせる工程(2)と、
前記工程(2)で析出した副生塩化ナトリウムを反応液から分離して除去することにより次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る工程(3)と
を含むことを特徴とする。
【0020】
工程(1)で反応槽に供給される原料水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、通常30〜60質量%、好ましくは35〜55質量%、より好ましくは40〜50質量%である。原料水酸化ナトリウム水溶液の濃度が前記範囲より低いと、所望の低食塩濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造することが困難になる傾向にある。一方、原料水酸化ナトリウム水溶液の濃度が前記範囲より高いと、所定の濃度の水酸化ナトリウム水溶液を調整するために、蒸留等の繁雑な操作が必要となることがある。
【0021】
工程(2)の塩素化反応における反応温度は、通常20℃〜50℃、好ましくは30℃〜50℃、より好ましくは30℃〜40℃である。反応温度が前記範囲より低いと、冷却用コイルのスケーリングが生じやすくなる。一方、反応温度が前記範囲より高いと、次亜塩素酸ナトリウムの分解の進行速度が速く、原単位が減少する傾向にある。
【0022】
工程(2)の塩素化反応における反応時間は、好ましくは10〜200分、より好ましくは50〜150分、特に好ましくは70〜130分である。
工程(2)の塩素化反応において、導入される水酸化ナトリウムと塩素ガスとのモル比(NaOH/Cl2)は、好ましくは2.0〜2.5、より好ましくは2.01〜2.30、さらに好ましくは2.02〜2.20である。水酸化ナトリウムと塩素ガスとのモル比が前記範囲より低いと、過塩素化が進行しやすくなる一方で、前記範囲より高いと、得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に残存する水酸化ナトリウム濃度が高くなるので、品質上好ましくない。
【0023】
工程(2)において、水酸化ナトリウム水溶液に塩素ガスを導入することによって、下記式の反応が進行して、次亜塩素酸ナトリウムが生成する。
2NaOH+Cl2 → NaClO+NaCl+H2
【0024】
この塩素化反応では、次亜塩素酸ナトリウムと等モルの塩化ナトリウム(食塩)が生ずるが、原料として上記濃度の水酸化ナトリウム水溶液を使用した場合、溶解度の低い塩化ナトリウムの結晶が析出する。これを除去することで低食塩濃度高濃度次亜塩素酸ナトリウム水溶液が得られる。
【0025】
ここで、水道法では、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の不純物として、上記の塩化ナトリウムだけでなく、塩素酸も規制が強くなる傾向がある。この塩素酸を低減させるためには、例えば、特許文献1のように、反応温度を26〜29℃に保つ必要があるとされている。これは、塩素酸が生成する原因が、以下に述べるような「自然分解」および「副反応」にあると考えられているからである。
【0026】
前記「自然分解」は、次亜塩素酸ナトリウムが自然に分解する現象のことであり、特に40℃以上で急激に分解が進行するとされている(非特許文献1参照)。この分解は下記の反応で表され、これにより塩素酸ナトリウム(NaClO3)が生成する。
NaClO → NaCl+O
2NaClO → NaCl+NaClO2
NaClO+NaClO2 → NaCl+NaClO3
【0027】
前記「副反応」は水酸化ナトリウムと塩素とを反応させた場合に起こる副反応のことであり、下記に示す反応によって塩素酸ナトリウムが副生するとされている。
6NaOH + 3Cl2 → NaClO3 + 5NaCl + 3H2
【0028】
このような自然分解および副反応は、いずれも反応系中において、次亜塩素酸ナトリウムの塩素に対する原単位を減少させるものである。つまり、塩素酸ナトリウムの生成は原単位を減少させるものであり、塩素酸ナトリウムの生成を抑えることは原単位を向上させることを意味する。
【0029】
これら二つの現象はいわば不可避の反応であり、特にコスト面および設備整備面で有利である高温状態においては、自然分解が急激に進行するため、塩素酸の生成を抑え、収率良く次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得ることは非常に困難であると考えられていた。
【0030】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、水酸化ナトリウム水溶液に撹拌翼で撹拌を行いながら塩素ガスを吹き込む方法では、「自然分解」および「副反応」のいずれも塩素酸を生成して原単位を低下させる主要因ではないことが判明した。すなわち、「自然分解」および「副反応」以外に、塩素酸生成および原単位低下を引き起こす反応が起こっていると考えられる。
【0031】
そこで、本発明者らは「過塩素化」に着目した。前記「過塩素化」とは、非特許文献1によれば、塩素化反応が終了してカセイソーダがなくなると、下記分解反応が連鎖的に発生し、全ての次亜塩素酸ソーダが急激に分解する現象のことである。
NaClO + Cl2 + H2O → NaCl + 2HClO
NaClO + 2HClO → NaClO3 + 2HCl
NaClO + 2HCl → NaCl + H2O + Cl2
【0032】
この過塩素化は、水酸化ナトリウムに対し塩素を必要以上に供給した際に起こる暴走反応と考えられているが、本発明者らは、そのような条件に限らず、塩素ガスの吹込口付近で局所的に過塩素化が起こっていると考えた。つまり、塩素ガスの吹込口付近で水酸化ナトリウム濃度が低下して次亜塩素酸ナトリウム濃度が上昇することにより、塩素ガスが次亜塩素酸ナトリウムと反応していると考えられる。そうすると、上記反応式により次亜塩素酸ナトリウムが分解して塩素酸ナトリウムが生成するとともに、過塩素化により塩素が再生する。なお、塩素ガスの吹込口付近以外では、水酸化ナトリウム濃度は十分にあるので、再生された塩素は消費される。そのため、全ての次亜塩素酸ナトリウムが急激に分解することはないが、吹込口付近の次亜塩素酸ナトリウムが塩素酸に分解されて原単位の低下を招く。
【0033】
このような本発明者らが見出した知見に基づいて、本発明では、上述した局所的な過塩素化を抑制するために、導入する塩素ガスを不活性ガスで希釈する。これにより、吹込口付近の塩素濃度が減少し、局所的な過塩素化を抑制することができる。また、希釈用の不活性ガスは反応溶液中を撹拌する効果も有するために、系内の分散度を高め、より過塩素化を抑制することが可能である。
【0034】
本発明における不活性ガスとは、塩素や酸素と化学反応を起こしにくい気体である。具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガス類元素のガスや、窒素ガスなどが挙げられ、さらに、本発明では、空気や炭酸ガスも不活性ガスとみなす。
【0035】
原料の塩素ガスを希釈する方法としては、例えば、予め所定濃度に希釈した塩素を調整する方法や、100%の塩素ガスと不活性ガスとを別々のラインから同一の吹き込みノズルに合流させる方法などが挙げられる。
【0036】
不活性ガスで希釈された塩素ガスの濃度は、塩素濃度として、好ましくは5〜95体積%、より好ましくは20〜80体積%、特に好ましくは30〜70体積%である。希釈塩素ガスの濃度が前記範囲よりも高いと十分な過塩素化抑制効果が得られないことがある。一方、希釈塩素ガスの濃度が前記範囲よりも低いと、塩素化反応の効率が低減する傾向にあるとともに、経済的でなく、さらに、不活性ガスの吹き出しにより反応液が反応槽内に飛び散ることがある。
【0037】
工程(3)では、例えば遠心分離器やろ過器などの固液分離装置を用いて、工程(2)で析出した副生塩化ナトリウムを反応液から分離して除去する。これにより、次亜塩素酸ナトリウム濃度が、好ましくは30〜40質量%、より好ましくは32〜38質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液が得られる。
【0038】
工程(3)で得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液の塩化ナトリウム濃度は、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは1.0〜5.0質量%、特に好ましくは3.0〜4.8質量%である。
【0039】
また、工程(3)で得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液の塩素酸イオン濃度は、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは0.01〜1.2質量%、特に好ましくは0.05〜1.0質量%である。このように、本発明の製造方法により得られた低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、不純物である塩素酸濃度が低いため、低塩素酸次亜塩素酸ナトリウム水溶液として充分に製品価値がある。
【0040】
本発明の希薄次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法は、上述した本発明の低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法により得られた低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液を水で希釈して所定の有効塩素濃度とする工程を含むことを特徴とする。
【0041】
前記有効塩素濃度は、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは2〜17質量%、特に好ましくは3〜15質量%である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
撹拌器、コイル冷却器及び外部循環型冷却器を備えた反応槽に、攪拌を行いながら原料として45質量%の水酸化ナトリウム水溶液を1514kg/hrで供給し、この水酸化ナトリウム水溶液を40℃に維持しながら、560kg/hrの塩素ガスを窒素ガスで50体積%に希釈して導入し、滞留時間が約100分となるように塩素化反応を行った。
【0043】
反応槽から反応物スラリー2074kg/hrを抜き出し、遠心分離器で固液分離することにより、析出した塩化ナトリウム682kg/hrと、次亜塩素酸ナトリウム濃度が34.5質量%であり、塩化ナトリウム濃度が4.5質量%であり、塩素酸イオン濃度が0.41質量%である低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液1390 kg/hrとを得た。このときの収率は95.9%であった。なお、収率は、導入した塩素ガスを基準に、得られた次亜塩素酸ナトリウムのモル数から算出した値である(以下同様)。
【0044】
得られた低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液を純水で希釈して有効塩素濃度13質量%に調整した希薄次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、塩化ナトリウム濃度が1.8質量%、塩素酸イオン濃度が0.16質量%であった。
【0045】
[実施例2]
撹拌器、コイル冷却器及び外部循環型冷却器を備えた反応槽に、攪拌を行いながら原料として45質量%の水酸化ナトリウム水溶液を1512kg/hrで供給し、この水酸化ナトリウム水溶液を35℃に維持しながら、560kg/hrの塩素ガスを窒素ガスで50体積%に希釈して導入し、滞留時間が約100分となるように塩素化反応を行った。
【0046】
反応槽から反応物スラリー2072kg/hrを抜き出し、遠心分離器で固液分離することにより、析出した塩化ナトリウム680kg/hrと、次亜塩素酸ナトリウム濃度が35.4質量%であり、塩化ナトリウム濃度が4.2質量%であり、塩素酸イオン濃度が0.29質量%である低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液1390kg/hrとを得た。このときの収率は97.3%であった。
【0047】
得られた低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液を純水で希釈して有効塩素濃度13質量%に調整した希薄次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、塩化ナトリウム濃度が1.6質量%、塩素酸イオン濃度が0.11質量%であった。
【0048】
[実施例3]
撹拌器、コイル冷却器及び外部循環型冷却器を備えた反応槽に、攪拌を行いながら原料として45質量%の水酸化ナトリウム水溶液を1513kg/hrで供給し、この水酸化ナトリウム水溶液を30℃に維持しながら、556kg/hrの塩素ガスを窒素ガスで95体積%に希釈して導入し、滞留時間が約100分となるように塩素化反応を行った。
【0049】
反応槽から反応物スラリー2069kg/hrを抜き出し、遠心分離器で固液分離することにより、析出した塩化ナトリウム642kg/hrと、次亜塩素酸ナトリウム濃度が33.3質量%であり、塩化ナトリウム濃度が4.4質量%であり、塩素酸イオン濃度が0.84質量%である低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液1427kg/hrとを得た。このときの収率は93.1%であった。
【0050】
得られた低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液を純水で希釈して有効塩素濃度13質量%に調整した希薄次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、塩化ナトリウム濃度が1.8質量%、塩素酸イオン濃度が0.34質量%であった。
【0051】
[実施例4]
撹拌器、コイル冷却器及び外部循環型冷却器を備えた反応槽に、攪拌を行いながら原料として45質量%の水酸化ナトリウム水溶液を1503kg/hrで供給し、この水酸化ナトリウム水溶液を30℃に維持しながら、556kg/hrの塩素ガスを窒素ガスで80体積%に希釈して導入し、滞留時間が約100分となるように塩素化反応を行った。
【0052】
反応槽から反応物スラリー2059kg/hrを抜き出し、遠心分離器で固液分離することにより、析出した塩化ナトリウム672kg/hrと、次亜塩素酸ナトリウム濃度が34.5質量%であり、塩化ナトリウム濃度が4.1質量%であり、塩素酸イオン濃度が0.41質量%である低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液1387kg/hrとを得た。このときの収率は95.6%であった。
【0053】
得られた低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液を純水で希釈して有効塩素濃度13質量%に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、塩化ナトリウム濃度が1.6質量%、塩素酸イオン濃度が0.16質量%であった。
【0054】
[実施例5]
撹拌器、コイル冷却器及び外部循環型冷却器を備えた反応槽に、攪拌を行いながら原料として45質量%の水酸化ナトリウム水溶液を1505kg/hrで供給し、この水酸化ナトリウム水溶液を30℃に維持しながら、552kg/hrの塩素ガスを窒素ガスで67体積%に希釈して導入し、滞留時間が約100分となるように塩素化反応を行った。
【0055】
反応槽から反応物スラリー2057kg/hrを抜き出し、遠心分離器で固液分離することにより、析出した塩化ナトリウム649kg/hrと、次亜塩素酸ナトリウム濃度が34.2質量%であり、塩化ナトリウム濃度が4.2質量%であり、塩素酸イオン濃度が0.37質量%である低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液1408kg/hrとを得た。このときの収率は96.8%であった。
【0056】
得られた低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液を純水で希釈して有効塩素濃度13質量%に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、塩化ナトリウム濃度が1.7質量%、塩素酸イオン濃度が0.15質量%であった。
【0057】
[実施例6]
撹拌器、コイル冷却器及び外部循環型冷却器を備えた反応槽に、攪拌を行いながら原料として45質量%の水酸化ナトリウム水溶液を1484kg/hrで供給し、この水酸化ナトリウム水溶液を30℃に維持しながら、556kg/hrの塩素ガスを窒素ガスで50体積%に希釈して導入し、滞留時間が約100分となるように塩素化反応を行った。
【0058】
反応槽から反応物スラリー2040kg/hrを抜き出し、遠心分離器で固液分離することにより、析出した塩化ナトリウム630kg/hrと、次亜塩素酸ナトリウム濃度が36.2質量%であり、塩化ナトリウム濃度が4.2質量%であり、塩素酸イオン濃度が0.17質量%である低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液1410kg/hrとを得た。このときの収率は98.7%であった。
【0059】
得られた低食塩次亜塩素酸ナトリウム水溶液を純水で希釈して有効塩素濃度13質量%に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、塩化ナトリウム濃度が1.6質量%、塩素酸イオン濃度が0.06質量%であった。
【0060】
[比較例1]
撹拌器、コイル冷却器及び外部循環型冷却器を備えた反応槽に、攪拌を行いながら原料として45質量%の水酸化ナトリウム水溶液を1520kg/hrで供給し、この水酸化ナトリウム水溶液を40℃に維持しながら、塩素ガスを560kg/hrで導入し、滞留時間が約100分となるように塩素化反応を行った。
【0061】
反応槽からは反応物スラリー2080kg/hrを抜き出し、遠心分離器で固液分離することにより、析出した塩化ナトリウム624kg/hrと、次亜塩素酸ナトリウム濃度が28.9質量%であり、塩化ナトリウム濃度が6.3質量%であり、塩素酸イオン濃度が2.04質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液1456kg/hrとを得た。このときの収率は81.5%であった。
【0062】
得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液を純水で希釈して有効塩素濃度13質量%に調整した希薄次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、塩化ナトリウム濃度が3.0質量%、塩素酸イオン濃度が0.96質量%であった。
【0063】
[比較例2]
撹拌器、コイル冷却器及び外部循環型冷却器を備えた反応槽に、攪拌を行いながら原料として45質量%の水酸化ナトリウム水溶液を1516kg/hrで供給し、この水酸化ナトリウム水溶液を35℃に維持しながら、塩素ガスを560kg/hrで導入し、滞留時間が約100分となるように塩素化反応を行った。
【0064】
反応槽から反応物スラリー2076kg/hrを抜き出し、遠心分離器で固液分離することにより、析出した塩化ナトリウム621kg/hrと、次亜塩素酸ナトリウム濃度が30.9質量%であり、塩化ナトリウム濃度が5.4質量%であり、塩素酸イオン濃度が1.84質量%である次亜塩素酸ナトリウム水溶液1455kg/hrとを得た。このときの収率は85.1%であった。
【0065】
得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液を純水で希釈して有効塩素濃度13質量%に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、塩化ナトリウム濃度が2.4質量%、塩素酸イオン濃度が0.81質量%であった。
【0066】
[比較例3]
撹拌器、コイル冷却器及び外部循環型冷却器を備えた反応槽に、攪拌を行いながら原料として45質量%の水酸化ナトリウム水溶液を1471kg/hrで供給し、この水酸化ナトリウム水溶液を30℃に維持しながら、塩素ガスを552kg/hrで導入し、滞留時間が約100分となるように塩素化反応を行った。
【0067】
反応槽から反応物スラリー2023kg/hrを抜き出し、遠心分離器で固液分離することにより、析出した塩化ナトリウム654kg/hrと、次亜塩素酸ナトリウム濃度が32.1質量%であり、塩化ナトリウム濃度が4.4質量%であり、塩素酸イオン濃度が1.63質量%である次亜塩素酸ナトリウム水溶液1369kg/hrとを得た。このときの収率は88.7%であった。
【0068】
得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液を純水で希釈して有効塩素濃度13質量%に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、塩化ナトリウム濃度が1.9質量%、塩素酸イオン濃度が0.69質量%であった。
【0069】
比較例1〜3において、次亜塩素酸ナトリウムの収率が低下し、塩化ナトリウム濃度および塩素酸ナトリウム濃度が増大した理由は、塩素ガスの吹込口付近で局所的な過塩素化が起こり、次亜塩素酸ナトリウムが分解されたからであると考えられる。
上述した実施例および比較例の結果を下記表1に示す。
【0070】
【表1】