特許第6227417号(P6227417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227417
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】車両用変速機の潤滑装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20171030BHJP
【FI】
   F16H57/04 J
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-757(P2014-757)
(22)【出願日】2014年1月7日
(65)【公開番号】特開2015-129540(P2015-129540A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】592058315
【氏名又は名称】アイシン・エーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 紀幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴文
(72)【発明者】
【氏名】中村 一平
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−163146(JP,A)
【文献】 実開平07−029354(JP,U)
【文献】 実開平07−023855(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/00−57/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用変速機の変速機本体を収容する本体ケースと、
前記本体ケース内に設けられ潤滑油貯留部に貯留された潤滑油が導入されるオイルパイプと、
前記本体ケースのうち前記オイルパイプのパイプ出口に対向し且つ前記パイプ出口よりも下方に位置するケース内壁面に設けられ所定の潤滑油供給領域に向けて延在するオイル誘導溝と、を備える車両用変速機の潤滑装置であって、
前記オイル誘導溝は、
前記オイルパイプの前記パイプ出口から車両下方に延在する上流溝部と、
前記上流溝部の溝出口に連続して設けられ前記上流溝部の延在方向及び前記オイルパイプの延在方向の双方に交差する方向に沿って延在する下流溝部と、
前記オイルパイプのパイプ軸中心が前記上流溝部の溝幅方向の溝中心よりも前記下流溝部側に外れるように構成されるオフセット構造と、
を含む、車両用変速機の潤滑装置。
【請求項2】
請求項1に記載の、車両用変速機の潤滑装置であって、
前記オイルパイプの前記パイプ出口と、前記オイル誘導溝の互いに対向する2つの溝側面のうちの当該オイルパイプがオフセットされる側の一方の溝側面とが車両上下方向について重なるように構成されている、車両用変速機の潤滑装置。
【請求項3】
請求項2に記載の、車両用変速機の潤滑装置であって、
前記オイル誘導溝の前記一方の溝側面は、当該一方の溝側面に対向する他方の溝側面を上回る表面積が確保されるように前記他方の溝側面に向けて突出する凸部を備える、車両用変速機の潤滑装置。
【請求項4】
請求項3に記載の、車両用変速機の潤滑装置であって、
前記オイル誘導溝の前記一方の溝側面は、前記下流溝部において前記凸部が下向きに凸となるように構成されている、車両用変速機の潤滑装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の、車両用変速機の潤滑装置であって、
前記オイル誘導溝の前記一方の溝側面には、前記上流溝部から前記下流溝部まで前記凸部が連続的に設けられている、車両用変速機の潤滑装置。
【請求項6】
請求項3〜5のうちのいずれか一項に記載の、車両用変速機の潤滑装置であって、
前記凸部は、前記一方の溝側面に設けられた段差面を利用して構成される、車両用変速機の潤滑装置。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の、車両用変速機の潤滑装置であって、
前記本体ケースの前記ケース内壁面に前記オイル誘導溝に連接して設けられ前記オイルパイプの前記パイプ出口が挿入されるパイプ挿入穴を備え、
前記パイプ挿入穴の内壁面のうち前記パイプ出口の底部と対向する対向面は、前記パイプ出口から流出した潤滑油を前記オイル誘導溝へと誘導するための誘導路として構成される、車両用変速機の潤滑装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される車両用変速機の潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トランスミッションケース内に潤滑油供給経路を備える車両用変速機が開示されている。この潤滑油供給経路は、潤滑油を所望の供給先へ供給する機能を果たすものであり、特に微小クリアランスを隔てて配置された2つの潤滑回路(第1潤滑回路及び第2潤滑回路)を備えている。微小クリアランスの間隔は、上流側の第1潤滑回路の潤滑油出口から流出した潤滑油が表面張力のみによって下流側の第2潤滑回路の潤滑油入口に受け渡されるように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2695651号公報
【発明の概要】
【0004】
上記の車両用変速機では、潤滑油供給経路を構成する2つの潤滑回路の間に微小クリアランスを介在させる必要がある。この場合、第1潤滑回路から第2潤滑回路へ潤滑油を円滑に受け渡すために微小クリアランスの大きさが限定されるため、潤滑油供給経路の設計の自由度が低くなる。また、この種の変速機の設計に際しては、潤滑油供給経路を低コストで構築するのが好ましい。
【0005】
そこで本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、車両用変速機の潤滑装置において、潤滑油を供給するための潤滑油供給経路の設計の自由度を高め、且つ潤滑油供給経路を低コストで実現することである。
【0006】
この目的を達成するために、本発明に係る車両用変速機の潤滑装置は、本体ケース、オイルパイプ及びオイル誘導溝を備える。本体ケースは、車両用変速機の変速機本体を収容する機能を果たす。本体ケース内に設けられ潤滑油貯留部に貯留された潤滑油がオイルパイプに導入される。オイル誘導溝は、本体ケースのうちオイルパイプのパイプ出口に対向し且つパイプ出口よりも下方に位置するケース内壁面に設けられ所定の潤滑油供給領域に向けて延在する。このオイル誘導溝は、上流溝部、下流溝部及びオフセット構造を含む。上流溝部は、オイルパイプのパイプ出口から車両下方に延在する。下流溝部は、上流溝部の溝出口に連続して設けられ上流溝部の延在方向及びオイルパイプの延在方向の双方に交差する方向に沿って延在する。これにより、潤滑油貯留部に貯留された潤滑油は、オイルパイプを通じてオイル誘導溝に流入し、更にこのオイル誘導溝において重力にしたがって上流溝部及び下流溝部を順次流れることによって、所定の潤滑油供給領域に誘導される。オフセット構造は、オイルパイプのパイプ軸中心が上流溝部の溝幅方向の溝中心よりも下流溝部側に外れるように構成される。このオフセット構造によれば、オイルパイプのパイプ出口から流出した後の潤滑油は特に、オイル誘導溝の上流溝部において互いに対向する2つの溝側面のうちオイルパイプがオフセットされる側の一方の溝側面側に偏って流入し易くなり、上流溝部では一方の溝側面に沿って所定の潤滑油供給領域まで流れ易くなる。その結果、潤滑油を車両の向きや傾斜等に影響されることなくその流れ方向を変えつつ所定の潤滑油供給領域まで誘導したい場合に、オイル誘導溝のような簡便な構造を使用することができる。例えば、本体ケースに穴開け加工を施すことによって潤滑油の供給路を形成する場合に比べて、潤滑油供給経路を低コストで実現することができる。また、オイル誘導溝では、下流溝部が上流溝部に連接して設けられていればよく、上流溝部に対する下流溝部の向きは限定されないため、潤滑油供給経路の設計の自由度を高めることが可能になる。
【0007】
上記の潤滑装置では、オイルパイプのパイプ出口と、オイル誘導溝の互いに対向する2つの溝側面のうちの当該オイルパイプがオフセットされる側の一方の溝側面とが車両上下方向について重なるように構成されているのが好ましい。これにより、オイルパイプのパイプ出口から流出した潤滑油を一方の溝側面に直接的に作用させることができる。その結果、潤滑油は一方の溝側面に沿って所定の潤滑油供給領域までより流れ易くなる。
【0008】
上記の潤滑装置では、オイル誘導溝の一方の溝側面は、当該一方の溝側面に対向する他方の溝側面を上回る表面積が確保されるように他方の溝側面に向けて突出する凸部を備えるのが好ましい。これにより、他方の溝側面よりも一方の溝側面の方に潤滑油が被着し易くなる。
【0009】
上記の潤滑装置では、オイル誘導溝の一方の溝側面は、下流溝部において凸部が下向きに凸となるように構成されているのが好ましい。これにより、オイル誘導溝の下流溝部では凸部の先端領域に潤滑油を集め易くなる。その結果、潤滑油が下流溝部から外れて流れるのを阻止することができる。
【0010】
上記の潤滑装置では、オイル誘導溝の一方の溝側面には、上流溝部から下流溝部まで凸部が連続的に設けられているのが好ましい。これにより、上流溝部から下流溝部まで一方の溝側面に沿って連続して潤滑油を流すことができる。
【0011】
上記の潤滑装置では、凸部は一方の溝側面に設けられた段差面を利用して構成されるのが好ましい。この場合、凸部を本体ケースの鋳抜き加工によって安価に形成することができる。
【0012】
上記の潤滑装置では、本体ケースのケース内壁面にパイプ挿入穴を備えるのが好ましい。このパイプ挿入穴には、オイル誘導溝に連接して設けられオイルパイプのパイプ出口が挿入される。この場合、パイプ挿入穴の内周面のうちパイプ出口の底部と対向する対向面は、パイプ出口から流出した潤滑油をオイル誘導溝へと誘導するための誘導路として構成されるのが好ましい。これにより、オイルパイプのパイプ出口から流出した潤滑油をパイプ挿入穴の対向面を用いてオイル誘導溝まで確実に誘導することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、車両用変速機の潤滑装置において、潤滑油を供給するための潤滑油供給経路の設計の自由度を高め、且つ潤滑油供給経路を低コストで実現することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、変速機本体10を収容する本体ケース13内に潤滑装置100が設けられた車両用変速機の部分断面図である。
図2図2は、図1中の潤滑装置100の断面構造を模式的に示す図である。
図3図3は、図2中のA−A線に関する断面図である。
図4図4は、図3中のオイル誘導溝130のB−B線に関する断面図である。
図5図5は、図3中のオイル誘導溝130のC−C線に関する断面図である。
図6図6は、図3中のD−D線に関する断面図である。
図7図7は、図4に示すオイル誘導溝130の上流溝部131を潤滑油Lが流れる様子を示す断面図である。
図8図8は、図5に示すオイル誘導溝130の下流溝部132を潤滑油Lが流れる様子を示す断面図である。
図9図9は、図8中の下流溝部132の変形例を示す断面図である。
図10図10は、変更例に係る潤滑装置200について図6に対応した断面図である。
図11図11は、変更例に係る潤滑装置200について図8に対応した断面図である。
図12図12は、変更例に係る潤滑装置300について図6に対応した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る一実施形態の車両用変速機(以下、単に「変速機」ともいう)の潤滑装置について図面を参照しつつ説明する。図面において、車両前方及び車両後方をそれぞれ矢印X1及び矢印X2で示し、車両上方及び車両下方をそれぞれ矢印Y1及び矢印Y2で示し、また車両右方及び車両左方をそれぞれ矢印Z1及び矢印Z2で示している。車両に搭載される前の状態の変速機に対して、また車両に搭載された後の状態の変速機に対して、これらの方向を適用することができる。
【0016】
図1に示す潤滑装置100は、変速機の変速機本体10の出力軸11を本体ケース13に対して回転可能に支持する軸受部12に向けて潤滑油(「オイル」ともいう)を供給する装置である。出力軸11は、エンジン等の駆動源から入力軸に入力された駆動トルクを車軸に出力するための出力シャフトである。軸受部12は、出力軸11の両端部を回転可能に支持する2つの軸受部のうちの車両後方側の軸受部である。この軸受部12には、ベアリング12a及びオイルシール12bが含まれる。ベアリング12aは、典型的には、すべり軸受(ブッシュ)、玉軸受(ボールベアリング)、転がり軸受(ローラーベアリング)の中から適宜に選択され得る。オイルシール12bは、典型的には、出力軸11の軸まわりに設けられた金属環にシールリップを構成する合成ゴムを焼付け接着した部材として構成され得る。本体ケース13は、変速機本体10を収容するために1又は複数の部材によって構成されるケーシング(ハウジング)である。この本体ケース13が本発明の「本体ケース」に相当する。
【0017】
図2に示すように、潤滑装置100は、本体ケース13内に設けられ、オイルパイプ110と、本体ケース13にそれぞれ設けられたパイプ挿入穴120及びオイル誘導溝130とを含む。要するに、オイルパイプ110と、本体ケース13のうちパイプ挿入穴120及びオイル誘導溝130に相当する部位とによって、潤滑装置100が構成されている。
【0018】
オイルパイプ110は、内部空間を有する管状(筒状)の部材であり、車両前後方向X1,X2に沿って長尺状に延在している。このオイルパイプ110のパイプ入口(第1端部)110aは、変速機本体10を収容する本体ケース13内の潤滑油Lを貯留可能なオイルレシーバ(潤滑油貯留部)15に接続されている。このため、オイルレシーバ15に貯留された潤滑油Lは、パイプ入口110aからオイルパイプ110に導入される。そして、オイルパイプ110に導入された潤滑油Lは、パイプ出口110bに向けて車両後方X2(「第1方向F1」ともいう)に流通する。このオイルパイプ110が本発明の「オイルパイプ」に相当する。
【0019】
パイプ挿入穴120は、本体ケース13のうちケース内壁面14を車両後方X2に凹ませることによって構成されている。ケース内壁面14は、オイルパイプ110のパイプ出口(第2端部)110bに対向してオイルパイプ110のパイプ軸方向と交差するように延在している。この場合、パイプ挿入穴120は、本体ケース13の成型時に形成される鋳抜き穴として構成されるのが好ましい。オイルパイプ110は、そのパイプ出口110bがパイプ挿入穴120に挿入されることによって本体ケース13に保持される。即ち、パイプ挿入穴120は、オイルパイプ110のパイプ出口110bを保持する機能を果たす。また、パイプ挿入穴120の内周面のうちパイプ出口110bの底部111と対向する対向面(潤滑油を受けるための受け面(上面))121は、パイプ出口110bから流出した潤滑油をオイル誘導溝130へと誘導するための誘導路として構成される。このパイプ挿入穴120が本発明の「パイプ挿入穴」に相当する。これにより、オイルパイプ110のパイプ出口110bから流出した潤滑油をパイプ挿入穴120の対向面121を用いてオイル誘導溝130まで確実に誘導することができる。
【0020】
図3に示すように、オイル誘導溝130は、パイプ挿入穴120に連接するようにケース内壁面14に設けられた溝部分である。このオイル誘導溝130は、ケース内壁面14の一部が車両後方X2に凹んだ溝部分であり、互いに連続する上流溝部131及び下流溝部132を含む。オイル誘導溝130は、出力軸11の軸受部12(所定の潤滑油供給領域)に向けて延在している。このオイル誘導溝130が本発明の「オイル誘導溝」に相当する。この場合、オイル誘導溝130は、本体ケース13の成型時に形成される鋳抜き溝として構成されるのが好ましい。上流溝部131は、オイル誘導溝130のうちオイルパイプ110のパイプ出口110bの下方から車両下方Y2(「第2方向F2」ともいう)に延在する部位である。この上流溝部131の溝出口が下流溝部132の溝入口に合致している。下流溝部132は、オイル誘導溝130のうち上流溝部131の溝出口に連続して上流溝部131の延在方向及びオイルパイプ110の延在方向の双方に交差する交差方向(「第3方向F3」ともいう)に出力軸11の軸受部12まで延在する部位である。このため、上流溝部131内を重力にしたがって第2方向F2(車両下方Y2)に流れた潤滑油は、上流溝部131を通じて下流溝部132に導入される。この潤滑油は、下流溝部132内を重力にしたがって第3方向F3に流れた後、出力軸11の軸受部12に到達する。ここでいう上流溝部131及び下流溝部132がそれぞれ本発明の「上流溝部」及び「下流溝部」に相当する。
【0021】
図3が参照されるように、上記のオイル誘導溝130では、溝底面133及び2つの溝側面134,135が、上流溝部131及び下流溝部132にわたって形成されている。2つの溝側面134,135は、溝底面133に連接してその両側に互いに対向しつつ立設する立設壁面である。図4及び図5が参照されるように、溝側面134は、上流溝部131において一方の溝側面を形成し、且つ下流溝部132において溝上側面を形成する立設壁面である。これに対して、溝側面135は、上流溝部131において他方の溝側面を形成し、且つ下流溝部132において溝下側面を形成する立設壁面である。この場合、溝側面134が本発明の「一方の溝側面」に相当し、溝側面135が本発明の「他方の溝側面」に相当する。
【0022】
2つの溝側面134,135のうちの他方の溝側面135が平坦面であるのに対して、一方の溝側面134は互いに段差状に配置された第1延在面134a及び第2延在面134bを有する構造(以下、「段付き構造」ともいう)になっている。具体的には、溝側面134は、第1延在面134aが第2延在面134bよりも溝側面135に近い位置に配置されている。これにより、溝側面134の第1延在面134aと第2延在面134bとの段差面を利用して凸部134cが形成される。この凸部134cは、溝側面135に向けて突出しており、上流溝部131から下流溝部132まで連続的に設けられている。従って、溝側面134では溝側面135を上回る表面積が確保されている。この場合、第1延在面134aと第2延在面134bとの段差面を利用することによって、凸部134cを本体ケース13の鋳抜き加工によって安価に形成することができる。
【0023】
また、図5が参照されるように、オイル誘導溝130の下流溝部132では、溝側面134が溝側面135の斜め上方に位置する。この場合、オイル誘導溝130は、下流溝部132において溝側面134の凸部134cが車両下方Y2に向けて下向きに凸となるような構造(以下、「下向き凸部構造」ともいう)を有するのが好ましい。即ち、下流溝部132では、溝側面134の凸部134cが下向きに凸となるように湾曲しているのが好ましい。本構成は、オイル誘導溝130の下流溝部132を、上流溝部131から例えば車両右方Z1に湾曲させつつ、且つ車両後方X2と車両右方Z1との間に設定される所定方向(図4中の斜め方向Z3)に湾曲させる構造によって達成され得る。
【0024】
更に、図6が参照されるように、上記構成の潤滑装置100では、オイルパイプ110を上方から視た場合、オイルパイプ110のパイプ軸中心(中心線)C1がオイル誘導溝130の上流溝部131の溝幅方向の溝中心(上流溝部131における車両左右方向Z1,Z2の溝開口幅の中央を通る中心線)C2よりも下流溝部132側に外れるように構成された構造(以下、「オフセット構造」ともいう)を有する。具体的には、潤滑装置100は、オイルパイプ110に関する中心線C1が上流溝部131に関する中心線C2に対して車両右方に距離dだけ離間するようにシフトされている。この場合、距離dは、オイルパイプ110のパイプ出口110bと、上流溝部131においてオイルパイプ110がオフセットされる側の一方の溝側面134とが車両上下方向にX1,X2ついて重なるように設定されるのが好ましい。このオフセット構造が本発明の「オフセット構造」に相当する。
【0025】
上記構成の潤滑装置100によれば、オイルレシーバ15に貯留された潤滑油Lは、オイルパイプ110、パイプ挿入穴120及びオイル誘導溝130からなる潤滑油供給経路を通じて、出力軸11の軸受部12に供給される。この場合、前述のオフセット構造によれば、オイルパイプ110のパイプ出口110bから流出した後の潤滑油Lは特に、オイル誘導溝130の上流溝部131の溝側面134側に偏って流入し易くなり、上流溝部131においては溝側面134に沿って流れ易くなる(図7参照)。また、オイルパイプ110のパイプ出口110bと溝側面134とが車両上下方向にX1,X2ついて重なるため、オイルパイプ110のパイプ出口110bから流出した潤滑油Lを溝側面134に直接的に作用させることができ、潤滑油Lは溝側面134に沿ってより流れ易くなる。更に、前述の段付き構造(凸部134c)を有する溝側面134の表面積が溝側面135の表面積を上回るため、潤滑油Lが溝側面134の方に特に被着し易くなる。また、溝側面134の凸部134cを上流溝部131から下流溝部132まで連続的に設けることによって、上流溝部131から下流溝部132まで潤滑油Lを溝側面134に沿って連続して流すことができる。その結果、潤滑油を車両の向きや傾斜等に影響されることなくその流れ方向を変えつつ所定の潤滑油供給領域まで誘導したい場合に、オイル誘導溝130のような簡便な構造を使用することができる。例えば、本体ケース13に穴開け加工を施すことによって潤滑油の供給路を形成する場合に比べて、潤滑油供給経路を低コストで実現することができる。また、オイル誘導溝130では、下流溝部132が上流溝部131に連接して設けられていればよく、上流溝部131に対する下流溝部132の向きは限定されないため、潤滑油供給経路の設計の自由度を高めることが可能になる。
【0026】
更に、図8が参照されるように、オイル誘導溝130では、下流溝部132の溝側面134に沿って流れる潤滑油Lは、前述の下向き凸部構造によって第1延在面134a及び第2延在面134bの双方から凸部134cの先端領域に集まり易い(図8中の2つの方向についての矢印参照)。そして、凸部134cの先端領域に集められた潤滑油Lは表面張力によって先端領域に保持され易い。従って、上流溝部131から下流溝部132に流れた潤滑油Lを、下流溝部132の延在方向から外れることなく下流溝部132の延在方向に沿って出力軸11の軸受部12まで選択的に流すことができる。要するに、潤滑油Lが下流溝部132から外れて流れるのを阻止することができる。
【0027】
本発明は、上記の典型的な実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0028】
上記の実施形態の潤滑装置100のオイル誘導溝130では、下流溝部132を上流溝部131から車両右方Z1に湾曲させつつ、且つ斜め方向Z3に湾曲させた構造を用いる場合について記載したが、本発明では別の構造を用いることもできる。例えば、図9が参照されるように、下流溝部132を上流溝部131から車両右方Z1に湾曲させた構造のみを用いることができる。下流溝部132では溝側面135の真上に溝側面134が配置される。この場合も、図8に示す実施形態と同様に、溝側面135を上回る表面積を有する溝側面134の方に潤滑油Lが被着し易くなる。
【0029】
上記の実施形態の潤滑装置100のオイル誘導溝130では、オイルパイプ110のパイプ出口110bと上流溝部131の溝側面134とが車両上下方向にX1,X2ついて重なるようなオフセット構造を用いる場合について記載したが、本発明では、上流溝部131において溝側面134側にパイプ出口110bがオフセットされた構造であれば、パイプ出口110bと溝側面134とが必ずしも重なる必要はない。本構成の場合も、オイルパイプ110のパイプ出口110bから流出した後の潤滑油Lが上流溝部131の溝側面134側に偏って流入し易くなるという作用効果が得られる。
【0030】
上記の実施形態の潤滑装置100のオイル誘導溝130では、上流溝部131及び下流溝部132の双方の溝側面134に段差面を利用して凸部134cを設ける場合について記載したが、本発明では、下流溝部132のみの溝側面134に凸部134cを設けることもできる。この場合、凸部134cについては、第1延在面134aと第2延在面134bとの段差面を利用した形状以外の他の形状を採用することもできる。
【0031】
本発明では、図10に示す潤滑装置200が参照されるように、オイル誘導溝130の上流溝部131及び下流溝部132の双方の溝側面134を平坦面することもできる。この場合、前述のオフセット構造によって上流溝部131では溝側面135よりも溝側面134の方に潤滑油が付着し易くなる。また、下流溝部132では、図11が参照されるように溝底面133と溝側面134とによって形成される溝上面(直角面)は平坦面に比べて表面積が大きい。このため、上流溝部131から下流溝部132へと流れた潤滑油は表面張力によって下流溝部132の溝上面に保持され易い。
【0032】
上記の各実施形態の潤滑装置100,200では、オイルパイプ110のパイプ出口110bからパイプ挿入穴120の対向面(受け面)121を経てオイル誘導溝130に潤滑油が流れる場合について記載したが、本発明ではパイプ挿入穴120を省略することもできる。この場合、図12に示す潤滑装置300が参照されるように、出力軸11の軸受部12オイルパイプ110のパイプ出口110bから流出した潤滑油はオイル誘導溝130に直接的に導入される。本構成によれば、潤滑装置の構造の更なる簡素化を図ることができる。
【0033】
上記の各実施形態の潤滑装置100,200,300では、潤滑油の供給先が出力軸11の軸受部12である場合について記載したが、本発明では、潤滑油の供給先はこれに限定されるものではない。例えば、エンジン等の駆動源からの駆動トルクが入力される入力軸の軸受部に潤滑油を供給する構造に対して本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0034】
10…変速機本体、11…出力軸、12…軸受部、12a…ベアリング、12b…オイルシール、13…本体ケース、14…ケース内壁面、15…オイルレシーバ、100,200,300…潤滑装置、110…オイルパイプ、110a…パイプ入口、110b…パイプ出口、111…底部、120…パイプ挿入穴、130…オイル誘導溝、131…上流溝部、132…下流溝部、133…溝底面、134,135…溝側面、134a…第1延在面、134b…第2延在面、134c…凸部、C1…パイプ軸中心、C2…溝中心
図1
図2
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図5
図6
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図9
図10
図11
図12