【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のホットメルト接着剤は、メルトインデックスが950g/10分以上であるエチレン−α−オレフィン共重合体100重量部、粘着付与樹脂90〜150重量部、及び融点が70〜90℃であるワックス50〜100重量部を含むことを特徴とする。
【0012】
ホットメルト接着剤の糸曳きやフックの発生は、ベース樹脂であるエチレン−α−オレフィン共重合体や粘着付与樹脂などの高分子鎖の絡み合いが一因であると考えられる。すなわち、高分子鎖の絡み合いが生じることで、ノズルからの吐出時に溶融させたホットメルト接着剤が糸状に伸長するようになり、糸曳きやフックを発生すると考えられる。
【0013】
一方、優れた接着性を有するホットメルト接着剤を得るためには、上述した通り、分子量が大きく、メルトインデックスが小さいエチレン−α−オレフィン共重合体を用いる必要がある。しかしながら、本発明のホットメルト接着剤では、このような知見に反して、メルトインデックスが高いエチレン−α−オレフィン共重合体を使用することで、エチレン−α−オレフィン共重合体や粘着付与樹脂の高分子鎖の絡み合いを抑制して、糸曳きやフックの発生を高く低減させることを可能とした。
【0014】
さらに、本発明では、融点が70〜90℃であるワックスを用いることにより、メルトインデックスが高いエチレン−α−オレフィン共重合体による糸曳きやフックの発生の低減効果を阻害することなく、ホットメルト接着剤に優れた接着性を付与している。
【0015】
したがって、本発明によれば、糸曳きやフックの発生が高く低減されており、130〜150℃と低い塗工温度であっても塗工が可能なホットメルト接着剤を提供することが可能となる。さらに、本発明のホットメルト接着剤は、ベース樹脂としてメルトインデックスが高いエチレン−α−オレフィン共重合体を用いているにも関わらず、接着性の低下が抑制されており、優れた接着性を呈することができる。
【0016】
また、本発明のホットメルト接着剤は、130〜150℃と低温な塗工温度であっても、溶融粘度が低く、塗工後の温度の低下に伴って急激に硬化せずに緩やかに硬化することができる。したがって、本発明のホットメルト接着剤を塗工してからケーサー内で被接着体同士を貼り合わせるまでの設定時間が長くなったとしても、十分な接着強度で被接着体同士を接着一体化することができる。
【0017】
以下に、本発明のホットメルト接着剤について順を追って説明する。
【0018】
(エチレン−α−オレフィン共重合体)
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレンと少なくとも1種のα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、及び1−エイコセンなどが挙げられる。α−オレフィンの炭素数は、3〜20が好ましく、6〜8がより好ましい。
【0019】
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレン−1−オクテン共重合体が特に好ましい。エチレン−1−オクテン共重合体によれば、凝集力が高く、接着性に優れるホットメルト接着剤を提供することができる。
【0020】
エチレン−α−オレフィン共重合体のメルトインデックス(MI)は、950g/10分以上に限定され、950〜1500g/10分が好ましく、1000〜1400g/10分がより好ましい。エチレン−α−オレフィン共重合体のMIが低過ぎると、ホットメルト接着剤の糸曳きやフックの発生を十分に低減できない虞れがある。また、エチレン−α−オレフィン共重合体のMIが高過ぎると、ホットメルト接着剤の凝集力が低下して高温時の接着性が低下したり、耐クリープ性が低下したりする虞れがある。
【0021】
なお、本発明において、エチレン−α−オレフィン共重合体のメルトインデックスとは、JIS K7210に準拠して、温度190℃、荷重21.18Nの条件にて測定された値を意味する。
【0022】
(粘着付与樹脂)
粘着付与樹脂としては、石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。これらの粘着付与樹脂は、一種単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0023】
粘着付与樹脂としては、石油樹脂が好ましい。石油樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族成分と芳香族成分との共重合石油樹脂、脂環族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂、脂環族系成分と脂肪族成分との共重合石油樹脂、及び、これらの水添石油樹脂などが挙げられる。なかでも、石油樹脂としては、水添石油樹脂が好ましく、脂肪族系石油樹脂の水添石油樹脂、芳香族系石油樹脂の水添石油樹脂、脂環族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の水添石油樹脂がより好ましい。これらの石油樹脂は、ベース樹脂であるエチレン−α−オレフィン共重合体との相溶性が良く、ケーサー内で被接着体同士を貼り合わせるまでの設定時間が長くなったとしても、十分な接着強度で被接着体同士を接着一体化することができるホットメルト接着剤を提供することができる。
【0024】
脂肪族系石油樹脂とはC5系石油樹脂をいう。C5系石油樹脂とは、ナフサの熱分解によって副生されたC5留分を重合して得られる樹脂をいう。C5留分としては、例えば、イソプレン、トランス−1,3−ペンタジエン、シス−1,3−ペンタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンなどの炭素数4〜6の共役ジエン類;ブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、シクロペンテンなどの炭素数4〜6のオレフィンなどが挙げられる。又、脂肪族系石油樹脂は、マレイン酸などのカルボン酸、無水マレイン酸などの酸無水物で変性されていてもよい。
【0025】
脂環族系石油樹脂とは、C5留分からシクロペンタジエン留分を抽出し、得られたシクロペンタジエン留分から得られるジシクロペンタジエン類を含む留分を重合して得られる樹脂をいう。ジシクロペンタジエン類としては、特に限定されず、例えば、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン及びこれらの誘導体などが挙げられる。なお、脂環族系石油樹脂は、マレイン酸などのカルボン酸、無水マレイン酸などの酸無水物で変性されていてもよい。
【0026】
芳香族系石油樹脂とはC9系石油樹脂をいう。C9系石油樹脂とは、ナフサの熱分解によって副生されたC9留分を重合して得られる樹脂をいう。なお、芳香族石油樹脂の物性を損なわない範囲内において、C9留分にフェノール類が含有されていてもよい。芳香族系石油樹脂は、マレイン酸などのカルボン酸、無水マレイン酸などの酸無水物で変性されていてもよい。
【0027】
C9留分としては、例えば、スチレン、そのアルキル誘導体であるα−メチルスチレン、β−メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン及びそのアルキル誘導体等に代表される炭素数8〜10のビニル芳香族炭化水素類;ジシクロペンタジエン及びその誘導体等に代表される環状不飽和炭化水素類;その他炭素数10以上のオレフィン類、炭素数9以上の飽和芳香族類等が挙げられる。
【0028】
フェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、p−tert−ブチルフェノール,p−オクチルフェノール,ノニルフェノールなどのアルキル置換フェノール類などの分子中にフェノール性水酸基を有する、炭素数が6〜20のフェノール類などが挙げられる。
【0029】
脂肪族成分と芳香族成分との共重合石油樹脂、脂環族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂、及び、脂環族系成分と脂肪族成分との共重合石油樹脂において、脂肪族成分とは上記C5留分をいい、芳香族成分とは上記C9留分をいい、脂環族系成分とは、C5留分からシクロペンタジエン留分を抽出し、得られたシクロペンタジエン留分から得られるジシクロペンタジエン類を含む留分をいう。なお、脂肪族成分と芳香族成分との共重合石油樹脂、脂環族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂、及び、脂環族系成分と脂肪族成分との共重合石油樹脂は、マレイン酸などのカルボン酸、無水マレイン酸などの酸無水物で変性されていてもよい。
【0030】
石油樹脂の臭素価は、10g/100g以下が好ましく、7g/100g以下がより好ましく、5g/100g以下が特に好ましい。臭素価が高過ぎる石油樹脂は、ベース樹脂であるエチレン−α−オレフィン共重合体との相溶性が悪く、ホットメルト接着剤の加熱安定性や接着性を低下させる虞れがある。なお、本発明において、石油樹脂の臭素価は、JIS K2605に準拠して測定された値とする。
【0031】
石油樹脂の軟化点は、80〜150℃が好ましく、90〜130℃がより好ましく、105〜130℃が特に好ましい。石油樹脂の軟化点が低過ぎると、ホットメルト接着剤の凝集力が不足して接着性や耐クリープ性が低下する虞れがある。また、石油樹脂の軟化点が高過ぎると、硬化後にホットメルト接着剤が硬くて脆い硬化物となって接着力が低下する虞れがある。
【0032】
なお、本発明において石油樹脂の軟化点とは、JIS K2207に準拠して測定された値とする。
【0033】
水添石油樹脂としては、市販品を用いることもできる。例えば、脂環族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の部分水添石油樹脂としては、出光興産社製 商品名「アイマーブ(imarv)S−100(軟化点:100℃)」、及び「アイマーブ(imarv)S−110(軟化点:110℃)」などが挙げられる。また、脂環族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の完全水添石油樹脂としては、出光興産社製 商品名「アイマーブ(imarv)P−90(軟化点:90℃)」、「アイマーブ(imarv)P−100(軟化点:100℃)」、「アイマーブ(imarv)P−125(軟化点:125℃)」、及び「アイマーブ(imarv)P−140(軟化点:140℃)」などが挙げられる。脂肪族系石油樹脂の完全水添石油樹脂としては、イーストマンケミカル社製 商品名「イーストタックH−130W(軟化点:130℃)」などが挙げられる。芳香族系石油樹脂の部分水添石油樹脂としては、荒川化学社製 商品名「アルコンM−100(軟化点:100℃)」などが挙げられる。芳香族系石油樹脂の完全水添石油樹脂としては、荒川化学社製 商品名「アルコンP−100(軟化点:100℃)」、「アルコンP−125(軟化点:125℃)」などが挙げられる。
【0034】
本発明のホットメルト接着剤中における粘着付与樹脂の含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体100重量部に対して、90〜150重量部に限定されるが、90〜120重量部が好ましい。石油樹脂の含有量が低過ぎると、溶融状態のホットメルト接着剤の粘度が高くなり過ぎて、糸曳きやフックが発生する虞れがあり、又、高温接着力が低下する虞れがある。また、石油樹脂の含有量が高過ぎると、硬化後のホットメルト接着剤が脆くなって、低温接着力が低下する虞れがある。
【0035】
(ワックス)
ワックスとしては、フィッシャートロプシュワックス、及びポリエチレンワックスなどの合成ワックス、パラフィンワックス、及びマイクロクリスタリンワックスなどの天然ワックス等が挙げられる。ワックスは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。なかでも、フィッシャートロプシュワックス、及びパラフィンワックスが好ましい。これらのワックスは、エチレン−α−オレフィン共重合体との相溶性が良く、ホットメルト接着剤の糸曳きやフックの発生を低減することができる。
【0036】
ワックスの融点は、70〜90℃に限定されるが、70〜85℃が好ましい。ワックスの融点が低過ぎると、ホットメルト接着剤の凝集力が低下して高温時の接着性が低下する虞れがある。また、ワックスの融点が高過ぎると、特に低温での塗工時にノズルから被着体間でホットメルト接着剤に含まれているワックスが早期に分離・固化しやすくなり、フックの発生が増加したり、オープンタイムが短くなったりする虞れがある。
【0037】
なお、本発明において、ワックスの融点とは、下記測定条件に基づき、示差走査熱量計を用いて、ワックスを30℃から150℃まで加熱速度5℃/分で昇温した時の吸熱ピークの温度とする。
<測定条件>
示差走査熱量計:島津製作所製 示差走査熱量計 DSC−60
セル:アルミニウム
雰囲気ガス:空気
測定温度:30〜150℃
加熱速度:5℃/分
【0038】
本発明のホットメルト接着剤中におけるワックスの含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体100重量部に対して、50〜100重量部に限定されるが、70〜90重量部が好ましい。ワックスの含有量が低過ぎると、溶融状態のホットメルト接着剤の粘度が高くなり過ぎて、糸曳きやフックが発生する虞れがある。さらに、ワックスの含有量が低過ぎると、ホットメルト接着剤の硬化速度が遅くなったり耐熱性能が低下したりする場合もある。一方、ワックスの含有量が高過ぎると、硬化後のホットメルト接着剤が脆くなって、接着力が低下する恐れがある。
【0039】
(酸化防止剤)
本発明のホットメルト接着剤は、酸化防止剤をさらに含んでいることが好ましい。酸化防止剤を用いることにより、加熱溶融させたホットメルト接着剤の保存安定性を向上させることができる。
【0040】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、及びホスファイト系酸化防止剤などが挙げられる。酸化防止剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。ホットメルト接着剤中における酸化防止剤の含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合体100重量部に対して、0.5〜10重量部が好ましく、0.5〜5重量部がより好ましい。
【0041】
また、ホットメルト接着剤は、充填剤、増量剤、粘度調整剤、揺変性付与剤、軟化剤(可塑剤)、プロセスオイル、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、及び帯電防止剤などの他の添加剤を含んでいてもよい。
【0042】
ホットメルト接着剤の製造方法としては、例えば、エチレン−α−オレフィン共重合体、粘着付与樹脂、及びワックスなどの各成分を、120〜190℃で加熱溶融させ、均一に撹拌混練する方法などが挙げられる。本発明のホットメルト接着剤は、低温であっても粘度が低く、各成分を十分に溶融混練することができる。したがって、各成分を120〜150℃、特に130〜150℃で加熱溶融させることが好ましい。
【0043】
ホットメルト接着剤の塗工方法としては、従来公知の方法が好ましく用いられる。例えば、ホットメルト接着剤を溶融タンク内で120〜190℃で加熱溶融させた後、溶融タンクからホースを介してノズルへ送り、ノズルから連続的又は間欠的に吐出させて被接着物の接着面に塗工する方法などが用いられる。本発明のホットメルト接着剤は、上述した通り、糸曳きやフックの発生が高く低減されており、塗工温度が低温であっても塗工することができる。したがって、溶融タンク内のホットメルト接着剤の加熱溶融温度は、120〜150℃が好ましく、130〜150℃がより好ましい。また、ホースやノズルの温度も、120〜190℃が好ましく、120〜150℃がより好ましく、130〜150℃が特に好ましい。
【0044】
本発明のホットメルト接着剤は、包装、製本、繊維加工、金属工業、電気、電子工業など広い範囲の用途に使用することができ、種々の被着体を接着することができる。被着体を構成する材料としては、例えば、鉄、アルミニウムなどの金属及びその合金;ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリメタクリレート、及びポリカーボネートなどの合成樹脂;セルロース系材料;皮革などが挙げられる。セルロース系材料からなる被着体としては、例えば、紙、ボード、段ボール、及びセロハンなどが挙げられる。