(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227425
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法及び蛍光検出装置の評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【請求項の数】20
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-7225(P2014-7225)
(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2015-135291(P2015-135291A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2016年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 倫男
【審査官】
横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−535807(JP,A)
【文献】
実開昭60−188359(JP,U)
【文献】
特開2012−127726(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/032844(WO,A1)
【文献】
特開2007−014955(JP,A)
【文献】
特開2014−002170(JP,A)
【文献】
特開2009−168500(JP,A)
【文献】
米国特許第5540494(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−21/74
G01N 15/00−15/14
G01N 33/48−33/98
G02B 21/00−21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の粒子塊のそれぞれの表面に対して励起光を斜入射させることと、
前記励起光の進行方向に対して垂直方向から前記複数種類の粒子塊のそれぞれの表面の一定面積の範囲内における蛍光強度を測定することと、
測定された前記複数種類の粒子塊の蛍光強度を比較することにより、前記複数種類の粒子塊のそれぞれを構成する複数種類の単一粒子の蛍光強度を比較したときの結果を予測することと、
を含む、複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法であって、
前記粒子塊のそれぞれは複数の粒子からなる、
複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法。
【請求項2】
前記複数種類の粒子塊のそれぞれの表面に焦点を有する光学系を介して、前記複数種類の粒子塊のそれぞれの表面における蛍光強度を測定する、請求項1に記載の複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法。
【請求項3】
前記複数種類の粒子塊のそれぞれが基板上に配置されている、請求項1又は2に記載の複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法。
【請求項4】
前記基板が透明であり、前記複数種類の粒子塊のそれぞれの前記基板に接している前記表面における蛍光強度を測定する、請求項3に記載の複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法。
【請求項5】
前記基板が石英からなる、請求項4に記載の複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法。
【請求項6】
蛍光分光光度計で、前記複数種類の粒子塊のそれぞれの表面における蛍光強度を測定する、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法。
【請求項7】
前記複数種類の粒子塊のそれぞれが微生物塊である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法。
【請求項8】
前記複数種類の粒子塊が、微生物塊と、非生物粒子塊と、を含む、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法。
【請求項9】
前記複数種類の粒子塊のそれぞれが細胞塊である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法。
【請求項10】
前記複数種類の粒子塊が、細胞塊と、非生物粒子塊と、を含む、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法。
【請求項11】
複数種類の粒子塊のそれぞれの表面に対して励起光を斜入射させることと、
前記励起光の進行方向に対して垂直方向から前記複数種類の粒子塊のそれぞれの表面の一定面積の範囲内における蛍光強度を測定することと、
測定された前記複数種類の粒子塊の蛍光強度を比較することと、
蛍光検出装置で、前記複数種類の粒子塊のそれぞれを構成する単一粒子に励起光を照射することと、
前記蛍光検出装置で、前記複数種類の単一粒子のそれぞれの蛍光強度を測定することと、
測定された前記複数種類の単一粒子の蛍光強度を比較することと、
前記複数種類の粒子塊の表面における蛍光強度を比較したときの結果と、前記蛍光検出装置で測定した前記複数種類の単一粒子の蛍光強度を比較したときの結果と、が相関するか確認することと、
を含む、蛍光検出装置の評価方法であって、
前記粒子塊のそれぞれは複数の粒子からなる、
蛍光検出装置の評価方法。
【請求項12】
前記複数種類の粒子塊のそれぞれの表面に焦点を有する光学系を介して、前記複数種類の粒子塊のそれぞれの表面における蛍光強度を測定する、請求項11に記載の蛍光検出装置の評価方法。
【請求項13】
前記複数種類の粒子塊のそれぞれが基板上に配置されている、請求項11又は12に記載の蛍光検出装置の評価方法。
【請求項14】
前記基板が透明であり、前記複数種類の粒子塊のそれぞれの前記基板に接している前記表面における蛍光強度を測定する、請求項13に記載の蛍光検出装置の評価方法。
【請求項15】
前記基板が石英からなる、請求項14に記載の蛍光検出装置の評価方法。
【請求項16】
蛍光分光光度計で、前記複数種類の粒子塊のそれぞれの表面における蛍光強度を測定する、請求項11ないし15のいずれか1項に記載の蛍光検出装置の評価方法。
【請求項17】
前記複数種類の粒子塊のそれぞれが微生物塊である、請求項11ないし16のいずれか1項に記載の蛍光検出装置の評価方法。
【請求項18】
前記複数種類の粒子塊が、微生物塊と、非生物粒子塊と、を含む、請求項11ないし16のいずれか1項に記載の蛍光検出装置の評価方法。
【請求項19】
前記複数種類の粒子塊のそれぞれが細胞塊である、請求項11ないし16のいずれか1項に記載の蛍光検出装置の評価方法。
【請求項20】
前記複数種類の粒子塊が、細胞塊と、非生物粒子塊と、を含む、請求項11ないし16のいずれか1項に記載の蛍光検出装置の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学技術に関し、特に複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法及び蛍光検出装置の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンルームにおいては、粒子検出装置を用いて、飛散している粒子が検出され、記録される(例えば、特許文献1、2、3及び非特許文献1参照。)。光学式の粒子検出装置は、例えば、クリーンルーム中の気体を吸引し、吸引した気体に光を照射する。気体に微生物粒子や非微生物蛍光粒子が含まれていると、光を照射された気体中の単一粒子が蛍光を発する。粒子検出装置は、例えば、検出した蛍光強度から、粒子の種類を特定する。
【0003】
単一粒子が発する蛍光の強度を比較することは、複数種類の粒子の特性を把握するために有用である。しかし、上述したような粒子検出装置は高価であり、単一粒子が発する蛍光を測定することは容易ではない。超高感度のフローサイトメータ(例えば、非特許文献2参照。)や大規模なチャンバを備えたバイオエアロゾル検出装置(例えば、非特許文献3参照。)を用いても細菌細胞のような細かな粒子の自家蛍光を測定可能であるが、これらも高価である。
【0004】
これに対し、比較的安価である蛍光顕微鏡で一定の大きさを有す単一粒子の蛍光を測定することは可能である。しかし、例えば単一粒子が細菌細胞である場合、細菌細胞は極めて小さいため、蛍光顕微鏡による蛍光強度の解析は困難である。また、分光蛍光光度計で粒子の懸濁液の蛍光強度を測定し、単一粒子あたりの蛍光強度を算出するために、懸濁液の蛍光強度を懸濁液中の粒子数で割ることが提案されている(例えば、特許文献4及び非特許文献4、5参照。)。しかし、懸濁液中の粒子数を求めることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−83214号公報
【特許文献2】特表2008−530583号公報
【特許文献3】特開2013−146263号公報
【特許文献4】特許3842492号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】長谷川倫男他,「気中微生物リアルタイム検出技術とその応用」,株式会社山武,azbil Technical Review 2009年12月号,p.2-7,2009年
【非特許文献2】ヤン、L.ら、「Detection and quantification of bacterial autofluorescence at the single-cell level by a laboratory-built high-sensitivity flow cytometer」、アナリティカル・ケミストリ、2012年、第84巻、p.1526−1532
【非特許文献3】アグラノブスキ、V.ら、「Real-Time Measurement of bacterial aerosols with the UVAPS: performance evaluation」、ジャーナル・オブ・エアロゾル・サイエンス、2003年、第34巻、p.301−317
【非特許文献4】ブロンク、B.V.ら、「Variability of steady-state bacterial fluorescence with respect to growth conditions」、アプライド・スペクトロスコピ、1993年、第47巻、p.436−440
【非特許文献5】ダルテリオ、R.A.ら、「The steady-state and decay characteristics of primary fluorescence from live bacteria」、アプライド・スペクトロスコピ、1987年、第41巻、p.234−241
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、複数種類の粒子の蛍光強度を容易に比較可能な方法を提供することを目的の一つとする。なお、蛍光は、自家蛍光を含む。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の末、粒子塊の表面における蛍光強度と、単一粒子の蛍光強度と、が相関することを見出した。粒子塊の蛍光強度は、単一粒子の蛍光強度よりも強いため、粒子塊の蛍光強度を測定するほうが、単一粒子の蛍光強度を測定するよりも容易であり、コストもかからない。そのため、本発明者は、複数種類の単一粒子の蛍光強度を比較することに代えて、複数種類の粒子塊の表面における蛍光強度を比較すれば、複数種類の粒子の蛍光特性を容易に比較可能であることを見出した。
【0009】
本発明の態様によれば、(a)複数種類の粒子塊のそれぞれに励起光を照射することと、(b)複数種類の粒子塊のそれぞれの表面における蛍光強度を測定することと、(c)測定された複数種類の粒子塊の蛍光強度を比較することと、を含む、複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法が提供される。
【0010】
また、本発明の態様によれば、(a)複数種類の粒子塊のそれぞれに励起光を照射することと、(b)複数種類の粒子塊のそれぞれの表面における蛍光強度を測定することと、(c)蛍光検出装置で、複数種類の粒子塊のそれぞれを構成する単一粒子に励起光を照射することと、(d)蛍光検出装置で、複数種類の単一粒子のそれぞれの蛍光強度を測定することと、(e)複数種類の粒子塊の表面における蛍光強度と、蛍光検出装置で測定した複数種類の単一粒子の蛍光強度と、が相関するか確認することと、を含む、蛍光検出装置の評価方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粒子の蛍光強度を容易に比較可能な方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る基板上に配置された粒子塊の模式図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係る粒子塊の蛍光強度を測定する装置の模式図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係る粒子塊の蛍光強度を測定する装置の模式図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態に係る粒子塊と、粒子塊の表面の蛍光が測定される範囲の面積と、を示す模式図である。
【
図6】本発明の第2の実施の形態に係る蛍光検出装置の評価方法のフローチャートである。
【
図7】本発明の第2の実施の形態に係る試験室の模式図である。
【
図8】本発明の第2の実施の形態に係る蛍光検出装置の模式的な断面図である。
【
図9】本発明のその他の実施の形態に係る粒子塊の蛍光強度を測定する装置の模式図である。
【
図10】本発明の実施の形態の実施例に係る粒子塊の蛍光強度と、単一粒子の蛍光強度との、の関係を示すグラフである。
【
図11】本発明の実施の形態の比較例に係る粒子塊の蛍光強度と、単一粒子の蛍光強度との、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0014】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る複数種類の粒子の蛍光強度の比較方法は、
図1に示すように、複数種類の粒子塊のそれぞれに励起光を照射するステップS102と、複数種類の粒子塊のそれぞれの表面における蛍光強度を測定するステップS103と、測定された複数種類の粒子塊の蛍光強度を比較するステップS104と、を含む。
【0015】
粒子塊は、例えば、
図1のステップS101で、遠心分離装置等で同一種類の粒子を凝集させることにより形成される。粒子は、生物粒子及び非生物粒子を含む。生物粒子は、微生物及び細胞を含む。微生物は、細菌等及びカビ胞子を含む真菌等を含む。細菌の例としては、グラム陰性菌、及びグラム陽性菌が挙げられる。グラム陰性菌の例としては、大腸菌が挙げられる。グラム陽性菌の例としては、表皮ブドウ球菌、枯草菌芽胞、マイクロコッカス、及びコリネバクテリウムが挙げられる。カビ胞子を含む真菌の例としては、アスペルギルスが挙げられる。
【0016】
非生物粒子は、ポリスチレン粒子等の樹脂粒子を含む。ポリスチレン粒子は、例えばポリスチレンからなる。あるいは、ポリスチレン粒子は、ポリスチレンと、添加物と、からなる。またあるいは、ポリスチレン粒子は、例えば98質量パーセントのポリスチレンと、2質量パーセントのジビニルベンゼンと、からなる。
【0017】
粒子が微生物である場合、粒子塊は微生物塊である。微生物塊は、同一種類の微生物から形成される。例えば、グラム陰性菌のみからなる微生物塊、グラム陽性菌のみからなる微生物塊、カビ胞子のみからなる微生物塊、大腸菌のみからなる微生物塊、表皮ブドウ球菌のみからなる微生物塊、枯草菌芽胞のみからなる微生物塊、マイクロコッカスのみからなる微生物塊、コリネバクテリウムのみからなる微生物塊、アスペルギルスのみからなる微生物塊が形成される。
【0018】
粒子が細胞である場合、粒子塊は細胞塊である。細胞塊は、同一種類の細胞から形成される。
【0019】
粒子が非生物粒子である場合、粒子塊は非生物粒子塊である。非生物粒子塊は、同一種類の非生物粒子から形成される。例えば、同一商品のポリスチレン粒子のみからなる非微生物粒子塊が形成される。
【0020】
図2に示すように、複数種類の粒子塊のそれぞれ1は、例えば、透明な基板2上に塗布され、配置される。透明な基板は、例えば石英からなるスライドガラスである。粒子塊は、所定の厚みをもって、粒子塊を構成する粒子が密となる状態で、基板上に配置される。これにより、粒子塊の表面における粒子の密度が、ほぼ均一となる。粒子塊は、蛍光強度の測定の際に、励起光の透過を妨げる程度の厚みを有することが好ましい。
【0021】
図1のステップS102及びステップS103で、表面における蛍光強度を測定される複数種類の粒子塊のそれぞれは、例えば微生物塊、細胞塊、又は非生物粒子塊である。あるいは、表面における蛍光強度を測定される複数種類の粒子塊は、微生物塊と細胞塊を含む。またあるいは、表面における蛍光強度を測定される複数種類の粒子塊は、微生物塊と非生物粒子塊を含む。さらにあるいは、表面における蛍光強度を測定される複数種類の粒子塊は、細胞塊と非生物粒子塊を含む。なお、複数種類の粒子塊は、別々に、表面における蛍光強度を測定される。また、励起光の強度、及び蛍光強度が測定される部分の面積等の蛍光強度の測定条件は、複数種類の粒子塊のそれぞれに対して同一であることが好ましい。
【0022】
微生物及び細胞は、励起光を照射されると、微生物及び細胞に含まれるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)及びフラビン等が、蛍光を発する。NADH由来の蛍光の波長は、480nm近傍である。また、フラビン由来の蛍光の波長は、530nm近傍である。ポリスチレン粒子も励起光を照射されると蛍光を発し、その後退色する。なお、蛍光は、自家蛍光を含む。励起光は、可視光であっても、紫外光であってもよい。励起光が可視光である場合、励起光の波長は、例えば400乃至410nmの範囲内であり、例えば405nmである。励起光が紫外光である場合、励起光の波長は、例えば310乃至380nmの範囲内であり、例えば340nmである。ただし、励起光の波長は、対象となる粒子によって任意選択される。
【0023】
基板が透明である場合、
図3に示すように、複数種類の粒子塊のそれぞれ1の基板2に接している表面における蛍光強度を測定してもよい。ここで、複数種類の粒子塊のそれぞれ1の表面に対して励起光源3から励起光を斜入射させ、励起光の進行方向に対して垂直方向から蛍光検出器4によって複数種類の粒子塊のそれぞれ1の表面における蛍光強度を測定する、表面測光法を採用すると、測定される蛍光強度が粒子塊1の厚みに実質的に影響されない。
図4に示すように、複数種類の粒子塊のそれぞれ1の表面における蛍光強度は、複数種類の粒子塊のそれぞれ1の表面に焦点を有する光学系5を介して測定されてもよい。複数種類の粒子塊のそれぞれの表面における蛍光強度を測定する装置としては、蛍光分光光度計等が使用可能であるが、これに限定されない。
【0024】
図5において、第1の粒子塊11は、第1の粒子111からなる。第2の粒子塊12は、第2の粒子112からなる。第1の粒子111は相対的に大きく、第2の粒子112は相対的に小さい。第1の粒子塊11の表面の蛍光が測定される範囲の面積Sと、第2の粒子塊12の表面の蛍光が測定される範囲の面積Sと、は、同じに設定される。
【0025】
蛍光測定器から単一の第1の粒子111を見た場合の単一の第1の粒子111の投影面積をs
111、単一の第1の粒子111が発する蛍光の単位面積あたりの強度(蛍光密度)をd
111とすると、単一の第1の粒子111の蛍光強度i
111は、下記(1)式で与えられる。
i
111=d
111×s
111 (1)
面積Sに含まれる第1の粒子111の数をn
111とすると、第1の粒子塊11の表面の面積Sの範囲内の蛍光強度I
111は、下記(2)式で与えられる。
I
111=i
111×n
111=i
111×S/s
111=d
111×s
111×S/s
111
=d
111×S (2)
【0026】
蛍光測定器から単一の第2の粒子112を見た場合の単一の第2の粒子112の投影面積をs
112、単一の第2の粒子112の蛍光密度をd
112とすると、単一の第2の粒子112の蛍光強度i
112は、下記(3)式で与えられる。
i
112=d
112×s
112 (3)
面積Sに含まれる第2の粒子112の数をn
112とすると、第2の粒子塊12の表面の面積Sの範囲内の蛍光強度I
112は、下記(4)式で与えられる。
I
112=i
112×n
112=i
112×S/s
112=d
112×s
112×S/s
112
=d
112×S (4)
【0027】
上記(2)式及び(4)式の結果から明らかなように、表面測光法によれば、励起光を照射された粒子塊の表面の一定面積Sの範囲内の蛍光強度は、粒子塊を構成する粒子の数n
111,n
112や大きさs
111,s
112に依存せず、蛍光密度d
111,d
112のみに依存すると近似可能である。なお、粒子が球等の対称的な形状を有しておらず、非対称的な形状を有していても、粒子塊を形成することで、形状の非対称性が打ち消しあい、粒子は対称的な形状を有するとみなしてもよい。
【0028】
図1のステップS104で、複数種類の粒子塊の蛍光強度を比較する。例えば、第1の粒子塊の蛍光強度と、第2の粒子塊の蛍光強度と、第3の粒子塊の蛍光強度と、を比較する。第1の粒子塊の蛍光強度と、第2の粒子塊の蛍光強度と、第3の粒子塊の蛍光強度は、第1の粒子塊を構成する第1の粒子1つの蛍光強度と、第2の粒子塊を構成する第2の粒子1つの蛍光強度と、第3の粒子塊を構成する第3の粒子1つの蛍光強度に相関する。したがって、単一粒子の蛍光強度を測定しなくとも、第1の粒子塊の蛍光強度と、第2の粒子塊の蛍光強度と、第3の粒子塊の蛍光強度と、を比較することにより、第1の粒子1つの蛍光強度と、第2の粒子1つの蛍光強度と、第3の粒子1つの蛍光強度と、を比較したときの結果を予測することが可能となる。
【0029】
上記例において、第1の粒子塊、第2の粒子塊、及び第3の粒子塊は、全て微生物塊であってもよいし、全て細胞塊であってもよいし、全て非微生物粒子塊であってもよい。あるいは、第1の粒子塊及び第3の粒子塊が非微生物粒子塊で、第2の粒子塊が微生物塊であってもよい。その他、複数の粒子塊の組み合わせは、種々選択可能である。
【0030】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る蛍光検出装置の評価方法は、
図6に示すように、複数種類の粒子塊のそれぞれに励起光を照射するステップS202と、複数種類の粒子塊のそれぞれの表面における蛍光強度を測定するステップS203と、蛍光検出装置で、複数種類の粒子塊のそれぞれを構成する単一粒子に励起光を照射するステップS205と、蛍光検出装置で、複数種類の単一粒子のそれぞれの蛍光強度を測定するステップS206と、複数種類の粒子塊の表面における蛍光強度と、蛍光検出装置で測定した複数種類の単一粒子の蛍光強度と、が相関するか確認するステップS208と、を含む。
【0031】
図6のステップS201ないしステップS204は、
図1のステップS101ないしステップS104と同様である。例えば、第1の粒子塊の蛍光強度と、第2の粒子塊の蛍光強度と、第3の粒子塊の蛍光強度と、が測定され、比較される。
図6のステップS205ないしステップS206で、評価の対象となる蛍光検出装置によって、第1の粒子塊を構成する第1の粒子1つの蛍光強度と、第2の粒子塊を構成する第2の粒子1つの蛍光強度と、第3の粒子塊を構成する第3の粒子1つの蛍光強度と、が測定される。
【0032】
図7に示すように、評価の対象となる蛍光検出装置は、例えばエアロゾル検出装置220であり、エアロゾル検出装置220は、例えば試験室201に設置されている。試験室201は、骨格をなす例えばアルミニウム製のフレームと、フレームにはめ込まれた、側壁をなすポリカーボネート製の透明パネルと、を備えるチャンバである。試験室201には、例えば給気装置211A、211Bが設けられている。給気装置211A、211Bは、HEPA(High Efficiency Particulate Air Filter)及びULPA(Ultra Low Penetration Air Filter)等の超高性能エアフィルタを通して、試験室201内部に清浄な空気を送り込む。試験室201の側壁には、扉が設けられていてもよい。
【0033】
粒子は、試験室201に設けられた噴霧装置202から、試験室201内部に放出される。噴霧装置202は、例えばジェット式ネブライザであり、所定の濃度で粒子を含む流体を保管する。噴霧装置202は、所定の流量で圧縮ガス等の気流を供給され、気流を、粒子を含む流体に吹きつけることによってエアロゾルを発生させ、試験室201内部に粒子を含む流体をミスト状にして噴霧する。なお、
図7においては、噴霧装置202は試験室201内部に配置されているが、噴霧装置202を試験室201の外部に配置し、噴霧装置202が噴霧したエアロゾルを、配管等で試験室201内部に誘導してもよい。
【0034】
試験室201内には、攪拌装置としての攪拌ファン210A、210B、210C、210Dが配置されている。攪拌ファン210A−210Dは、試験室201内部の空気を攪拌し、試験室201内部に散布された粒子の自重による自然沈降を防止する。
【0035】
また、試験室201内には、清浄化装置としてのエアクリーナ206が配置されている。エアクリーナ206は、試験室201内部の空気等の気体に含まれる微粒子や微生物を除去して、気体を清浄化する。例えば、噴霧装置202から試験室201内に粒子を含む流体を噴霧する前に、エアクリーナ206を運転することによって、噴霧装置202が噴霧する粒子以外の微粒子や微生物をあらかじめ試験室201内部から除去することが可能である。なお、
図7においては、エアクリーナ206は試験室201内部底面に配置されているが、エアクリーナ206を試験室201の壁面または天井部に配置してもよい。
【0036】
エアロゾル検出装置220は、例えば
図8の模式的な断面図に示すように、筐体221と、試験室201の内部から筐体221の内部に、空気を吸引する第1の吸引装置222と、を備える。第1の吸引装置222で吸引された空気は、筐体221内部のノズル223の先端から放出される。ノズル223の先端から放出された空気は、ノズル223の先端と対向して筐体221の内部に配置された第2の吸引装置224で吸引される。エアロゾル検出装置220は、レーザ等の光源225をさらに備える。光源225は、ノズル223の先端から放出され、第2の吸引装置224で吸引される空気に向けて、レーザ光226を照射する。
【0037】
空気中に粒子が含まれる場合、レーザ光226を照射された粒子のそれぞれが、蛍光を発する。エアロゾル検出装置220は、蛍光検出器227をさらに備える。蛍光検出器227は、単一粒子が発した蛍光を検出し、蛍光強度を計測する。
【0038】
図6のステップS207で、評価対象の蛍光検出装置で測定された第1の粒子1つの蛍光強度と、第2の粒子1つの蛍光強度と、第3の粒子1つの蛍光強度と、を比較する。さらに、ステップS208で、複数種類の粒子塊の表面における蛍光強度と、蛍光検出装置で測定した複数種類の単一粒子の蛍光強度と、が相関するか確認する。例えば、ステップS204で、第1の粒子塊の蛍光強度が最も高く、第2の粒子塊の蛍光強度が2番目に高く、第3の粒子塊の蛍光強度が最も弱いという結果が出た場合に、ステップS207で、単一の第1の粒子の蛍光強度が最も高く、単一の第2の粒子の蛍光強度が2番目に高く、単一の第3の粒子の蛍光強度が最も弱いという結果が出たか否かを確認する。
【0039】
単一の第1の粒子の蛍光強度が最も高く、単一の第2の粒子の蛍光強度が2番目に高く、単一の第3の粒子の蛍光強度が最も弱いという結果が出た場合、相関があると判定する。単一の第1の粒子の蛍光強度が最も高く、単一の第2の粒子の蛍光強度が2番目に高く、単一の第3の粒子の蛍光強度が最も弱いという結果が出なかった場合、あるいは、いずれかの粒子の蛍光強度が測定できなかった場合、相関がないと判定する。さらに、相関があった場合は、エアロゾル検出装置は正常であり、第1ないし第3の粒子の蛍光の検出に適していると判定する。相関がなかった場合、エアロゾル検出装置は異常である、あるいは第1ないし第3の粒子の蛍光の検出に適していないと判定する。
【0040】
なお、評価対象となる蛍光検出装置は、エアロゾル検出装置に限られない。評価対象となる蛍光検出装置は、単一粒子の蛍光を測定可能な全ての装置を含み、例えば、蛍光顕微鏡、微生物検出装置、ラマン分光光度計、及びフローサイトメータ等を含む。
【0041】
(その他の実施の形態)
上記のように本発明を実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになるはずである。例えば、
図9に示すように、基板302は不透明であってもよい。基板302が不透明である場合、複数種類の粒子塊のそれぞれ1の基板302に接していない表面における蛍光強度を測定する。このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。
【実施例】
【0042】
(微生物の入手)
入手した微生物は、大腸菌(Escherichia coli、略称E.coli、ATCC 13706)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis、ATCC 12228)、マイクロコッカス(Micrococcus lylae、ATCC 27566)、及びコリネバクテリウム(Corynebacterium afermentans、ATCC 51403)であった。なお、ATCCは、アメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)の略である。
【0043】
(微生物塊の調製)
−80℃でストックされた大腸菌、表皮ブドウ球菌、及びマイクロコッカスを300mLの三角フラスコ中150mLのトリプトソイ液体培地(Becton, Dickinson and Company,Ref:211825)に植菌し、定常期に達するまで32℃で一夜、好気的に培養した。また、コリネバクテリウムについては、液体培地としてR培地(ペプトン10g、酵母エキス5g、麦芽エキス5g、カザミノ酸5g、ビーフエキス2g、グリセリン 2g、ツイーン80 50mg、MgSO
4・7H
2O 1g、蒸留水1L、pH7.2)、を使用した。培養液を遠心機(久保田商事株式会社 2410)で2,100gx10分で遠心して集菌し、上清の培地を取り除いた後、PBSに再懸濁した。さらに同条件で遠心し、上清を取り除くことで洗浄した。同様に計3回洗浄を繰り返した。得られたペレットを微生物塊とした。
【0044】
(分光光度計による蛍光強度の測定)
上述した大腸菌からなる微生物塊、表皮ブドウ球菌からなる微生物塊、マイクロコッカスからなる微生物塊、及びコリネバクテリウムからなる微生物塊のそれぞれをスライドガラス上に十分量塗布した。スライドガラスを、蛍光の表面測定が可能な蛍光分光光度計FP8500(日本分光株式会社)のフィルム測定ホルダに固定し装置にセットした。蛍光スペクトルの測定は、励起波長を405nmとし、励起光源側に390−410nm透過のバンドパスフィルター、蛍光測定器側に420nmカットオンのロングパスフィルターを使用して行われた。微生物塊のそれぞれの表面における蛍光強度は、440−700nmの範囲のピーク面積を計算して求めた。
【0045】
(空中浮遊菌検出機による蛍光強度の測定)
−80℃でストックされた大腸菌、表皮ブドウ球菌、及びマイクロコッカスを15mL容量のテストチューブ中3mLのトリプトソイ液体培地(Becton, Dickinson and Company, Ref:211825)に植菌し、32℃で一夜、好気的に培養した。さらに、培養した菌液からトリプトソイ寒天培地(栄研化学株式会社、E−MP25)上に画線し、32℃で一夜、好気的に培養した。なお、コリネバクテリウムについては、液体培地としてR培地(ペプトン10g、酵母エキス5g、麦芽エキス5g、カザミノ酸5g、ビーフエキス2g、グリセリン2g、ツイーン80 50 mg、MgSO
4・7H
2O 1g、蒸留水1L、pH7.2)、寒天培地として羊血液寒天培地(栄研化学株式会社 M−58)を使用した。培養終了後、寒天培地上のコロニーをかきとり、5mLの滅菌蒸留水中に懸濁した。軽くボルテックスして細胞を分散させた後、2,100gx3分で遠心して集菌し、上清を取り除くことで洗浄した。最終的に5mLの滅菌蒸留水に再懸濁した。
【0046】
HEPAフィルターユニットを設置した3m
3容量の密閉したチャンバ内で、HEPAフィルターユニットを運転して内部の空気を清浄化した後、適当な濁度に調整した微生物の懸濁液のそれぞれをネブライザ(Salter Labs製 Ref:8900)で、5L/分の流量で20秒噴霧し、空中浮遊させた。次に30秒間内部の空気を攪拌し、水滴を乾燥させるとともに微生物を均一に拡散させた。その後60秒間、空中浮遊菌検出機(Azbil BioVigilant社製IMD−A)で、浮遊する微粒子のそれぞれ1つずつが発する蛍光の蛍光強度を測定した。
【0047】
(微生物塊の蛍光強度と、単一微生物の蛍光強度との相関)
図10に示すように、微生物塊表面の単位面積あたりの蛍光強度は、単一微生物の蛍光強度と相関していた。
【0048】
(比較例)
実施例と同様に微生物の懸濁液を得た後、懸濁液の蛍光強度を測定した。
図11に示すように、濁度の測定値から単位細胞数あたりに換算した懸濁液の蛍光強度と、単一微生物の蛍光強度とは、相関していなかった。
【符号の説明】
【0049】
1 粒子塊
2 基板
3 励起光源
4 蛍光検出器
5 光学系
11 第1の粒子塊
12 第2の粒子塊
111 第1の粒子
112 第2の粒子
201 試験室
202 噴霧装置
206 エアクリーナ
210A、210B、210C、210D 攪拌ファン
211A、211B 給気装置
220 エアロゾル検出装置
221 筐体
222 吸引装置
223 ノズル
224 吸引装置
225 光源
226 レーザ光
227 蛍光検出器
302 基板