特許第6227431号(P6227431)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227431
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】内周面加工用工具
(51)【国際特許分類】
   B24D 5/00 20060101AFI20171030BHJP
   B24D 11/00 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   B24D5/00 Z
   B24D11/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-16304(P2014-16304)
(22)【出願日】2014年1月31日
(65)【公開番号】特開2015-142947(P2015-142947A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2016年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000152675
【氏名又は名称】コマツNTC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】村井 史朗
(72)【発明者】
【氏名】谷崎 啓
(72)【発明者】
【氏名】河津 知之
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 仁志
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭49−115792(JP,U)
【文献】 特開2003−094344(JP,A)
【文献】 特開平03−019774(JP,A)
【文献】 特開昭54−140292(JP,A)
【文献】 実開昭55−115760(JP,U)
【文献】 米国特許第05137098(US,A)
【文献】 特開2009−012129(JP,A)
【文献】 特開2012−101322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D5/00;5/06;7/18;11/00
B24B33/02
B23D77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴の内周面を切削する内周面加工用の切削工具において、
回転駆動するドラム形状の芯材と、前記芯材の外周面に巻き付けられる固定砥粒ワイヤとを備えており、
前記芯材の外周面には、螺旋状に延在するワイヤ収容溝が形成され、
前記固定砥粒ワイヤは、断面の一部が前記ワイヤ収容溝に収容されて前記断面の残部が前記ワイヤ収容溝から突出した状態で、前記芯材に着脱可能に固定されている
ことを特徴とする内周面加工用工具。
【請求項2】
前記固定砥粒ワイヤは、その両端部が前記芯材に固定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の内周面加工用工具。
【請求項3】
前記固定砥粒ワイヤは、ボビンからダンサーローラを介して前記芯材の基端部に延在して前記外周面に巻き付けられており、
前記固定砥粒ワイヤの先端部は前記芯材の先端部に固定され、前記芯材の基端部においては前記固定砥粒ワイヤが前記ダンサーローラによる張力によって前記外周面に引き付けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の内周面加工用工具。
【請求項4】
前記芯材に螺旋状に巻き付けられた前記固定砥粒ワイヤの螺旋外径が加工される穴の仕上げ内径寸法になっており、リーマ加工に用いられる
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の内周面加工用工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内周面加工用工具に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板において、穿孔加工などによって空けられた穴の内周面を切削し、穴を拡大したり形状を整えたりするための工具としてリーマがある。リーマは用途によって様々な形状があるが、円柱形もしくは円錐形の本体の外周面に刃が形成された構造が一般的であった(例えば特許文献1参照)。
【0003】
リーマは、刃の破損や摩耗により加工精度の低下が見られた場合に工具の交換が必要となるところ、工具交換のコストの低減を図るために、例えば特許文献2に示すような構成のリーマもあった。特許文献2のリーマは、刃が形成された加工部とシャンク部とを備えて構成されており、加工部のみをシャンク部から取り外して交換することで、コストの低減を図っているものである。このような工具は穴を内側から切削して広げるエンドミルにも適用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−101322号公報
【特許文献2】特開2009−12129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
難削材を代表とする加工が困難なワークを加工する場合には、加工精度が低下するまでの刃の寿命が短く、また、ダイヤコートされた高価な工具が使用されることが多いため、工具のコストが嵩む。特許文献2のリーマでは、交換部位を小さくしたことで工具交換のコストの低減を図ってはいるものの、シャンク部に取り付けられる加工部に刃が一体化されているため、刃の加工手間に係る時間と手間は、工具全体が一体のリーマと大差はない。したがって、工具交換におけるコスト低減の余地が残されていた。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するために創作されたものであり、工具交換におけるコスト低減を図れる内周面加工用工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、穴の内周面を切削する内周面加工用の切削工具において、回転駆動するドラム形状の芯材と、前記芯材の外周面に巻き付けられる固定砥粒ワイヤとを備えており、前記芯材の外周面には、螺旋状に延在するワイヤ収容溝が形成され、前記固定砥粒ワイヤは、断面の一部が前記ワイヤ収容溝に収容されて前記断面の残部が前記ワイヤ収容溝から突出した状態で、前記芯材に着脱可能に固定されていることを特徴とする内周面加工用工具である。
【0008】
このような構成によれば、固定砥粒ワイヤにて刃が形成されているので、刃が摩耗した際には、固定砥粒ワイヤのみを新しいものに交換すればよい。したがって、芯材は交換することなく何回でも利用可能であるので、工具交換におけるコスト低減を図ることができる。また、固定砥粒ワイヤは螺旋状に巻き付けられているので、切削粉を外部に送り出すことができる。
【0009】
また、本発明において、前記固定砥粒ワイヤは、その両端部が前記芯材に固定されているものが好ましい。このような構成によれば、固定砥粒ワイヤの着脱を容易に行うことができる。
【0010】
さらに、前記固定砥粒ワイヤは、ボビンからダンサーローラを介して前記芯材の基端部に延在して前記外周面に巻き付けられており、前記固定砥粒ワイヤの先端部は前記芯材の先端部に固定され、前記芯材の基端部においては前記固定砥粒ワイヤが前記ダンサーローラによる張力によって前記外周面に引き付けられているものが好ましい。このような構成によれば、固定砥粒ワイヤの交換着脱をより一層容易に行うことができる。
【0011】
また、前記芯材に螺旋状に巻き付けられた前記固定砥粒ワイヤの螺旋外径が加工される穴の仕上げ内径寸法になっており、リーマ加工に用いられるものが好ましい。このような構成によれば、摩耗した固定砥粒ワイヤを交換することで固定砥粒ワイヤの螺旋外径を確保することができるので、リーマ加工される穴の仕上げ内径寸法の精度を容易に高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、工具交換時には、固定砥粒ワイヤのみを交換すればよく、刃を加工した加工部を準備する必要もない。したがって、大幅なコスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る内周面加工用工具を示した側面図である。
図2】本発明の実施形態に係る内周面加工用工具を示した部分拡大断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る内周面加工用工具を示した図であって、図1のA−A線断面図である。
図4】本発明の実施形態に係る内周面加工用工具を用いてリーマ加工を行った状態を示した拡大断面図である。
図5】本発明の実施形態に係る内周面加工用工具を用いてエンドミル加工を行った状態を示した平面図である。
図6】本発明の他の実施形態に係る内周面加工用工具を示した側面図である。
図7】本発明の実施形態に係る内周面加工用工具の変形例を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態に係る内周面加工用工具を説明する。図1に示すように、内周面加工用工具1は、穴2の内周面3を切削するリーマ加工用の切削工具である。内周面加工用工具1は、回転駆動するドラム形状の芯材10と、芯材10の外周面11に巻き付けられる固定砥粒ワイヤ20とを備えている。
【0015】
芯材10は、工具鋼にて形成されており、本実施形態ではドラムの外周径が一定である円柱形状を呈している。芯材10は、加工時の圧力と回転に対して必要な剛性を備えていればよく、刃に求められるような硬度は要求されない。芯材10の外径は、固定砥粒ワイヤ20を巻き付けた状態で穴2の内部に挿入できるように、穴2の内径よりも小さくなっている。芯材10は、基端部が回転駆動軸4に着脱可能に連結されており、回転可能となっている。
【0016】
図2に示すように、芯材10の外周面11には、ワイヤ収容溝12が形成されている。ワイヤ収容溝12は、外周面11に沿って螺旋状に形成されている。ワイヤ収容溝12は内周断面が円弧形状を呈しており、断面円形の固定砥粒ワイヤ20の断面の一部がワイヤ収容溝12の内部に収容される。ワイヤ収容溝12の円弧の中心角は180度より小さい。ワイヤ収容溝12の深さ寸法L1は、固定砥粒ワイヤ20の直径の1/3〜1/2であるのが好ましい。
【0017】
図3に示すように、芯材10の内部には、軸芯(中心線)に沿ってクーラント供給流路14が形成されている。このクーラント供給流路14には、分岐流路15が連通している。分岐流路15は、クーラント供給流路14に対して直交しており、中心のクーラント供給流路14から径方向に沿って芯材10の外周面11まで延在している。分岐流路15は、クーラント供給流路14を中心として、90度ピッチで4本が放射状に設けられており、平面視で十字状に配置されている。分岐流路15は、ワイヤ収容溝12および固定砥粒ワイヤ20に干渉しない位置に配置されており、芯材10の軸芯方向に沿って一定間隔をあけて複数形成されている。なお、クーラント供給流路14および分岐流路15の形状は前記形状に限定されるものではない。
【0018】
固定砥粒ワイヤ20は、ワイヤーソーなどに用いられるものであって、ピアノ線などからなる芯線21に、ダイヤモンド砥粒などからなる硬質砥粒22を固定したものである。硬質砥粒22は、レジンボンドやニッケルメッキなどの化学的手法にて芯線21の表面に固定されている。芯線21と砥粒22の固定方法は、切削されるワークに応じて適宜決定される。
【0019】
固定砥粒ワイヤ20は、ワイヤ収容溝12に沿って配置されており、断面の一部がワイヤ収容溝12に収容されて、断面の残部はワイヤ収容溝12から突出している。この突出した固定砥粒ワイヤ20の残部が、内周面加工を行うための刃を構成する。
【0020】
固定砥粒ワイヤ20は、その両端部が芯材10に着脱可能に固定されている。固定砥粒ワイヤ20は、たとえば接着剤によって固定されている。固定砥粒ワイヤ20を離脱する際には溶剤を用いて接着を取り外す。なお、固定砥粒ワイヤの固定方法は接着剤に限定されるものではない。固定砥粒ワイヤ20は、一端が芯材10に固定された後に、一定のテンションで引っ張られた状態で、ワイヤ収容溝12に螺旋状に巻き付けられる。巻き付けが完了した後に、固定砥粒ワイヤ20の他端が芯材10に固定される。
【0021】
以上のような構成の内周面加工用工具1を用いて内周面加工を行うに際しては、図4に示すように、内周面加工用工具1を回転させながら穴2内に挿入して内周面3を切削する(リーマ加工)。リーマ加工を行う際には、芯材10に螺旋状に巻き付けられた固定砥粒ワイヤ20の螺旋外径が加工される穴2の仕上げ内径寸法L2となっている。内周面加工用工具1は、軸芯を中心として、固定砥粒ワイヤ20が上昇して見える方向に回転させる。このとき、クーラント供給流路14および分岐流路15を介してクーラントをワーク加工面に供給する。以上のリーマ加工によれば、穴2の内径が固定砥粒ワイヤ20の螺旋外径と同等になるところ、螺旋外径が穴2の仕上げ内径寸法L2に設定されているので、穴2の内径寸法の精度を高められる。
【0022】
一方、図5に示すように、内周面加工用工具1の外周面が穴2の内周面に接して移動するように、内周面加工用工具1を回転させながら、穴2の中心周りに公転させると、穴2を内側から切削して広げる加工を行うことができる(エンドミル加工)。なお、ここで形成される穴2の内周形状は公転の軌道によって変化させることができ、円形に限定されるものではない。
【0023】
以上のように、リーマ加工やエンドミル加工などの内周面の切削加工を行うとき、穴2の内周面に接するのは、芯材10の外周面に巻き付けられた固定砥粒ワイヤ20だけであるので、芯材10が摩耗することはない。つまり、固定砥粒ワイヤ20によって刃が形成されている内周面加工用工具1においては、摩耗するのは固定砥粒ワイヤ20だけである。ここで、本発明に係る内周面加工用工具1は、固定砥粒ワイヤ20が芯材10に対して着脱可能に固定されているので、固定砥粒ワイヤ20のみを交換可能である。このように、刃が摩耗した際には、固定砥粒ワイヤ20のみを新しいものに交換すればよいので、芯材10は交換することなく何回でも利用可能である。よって、工具交換におけるコストの大幅な低減を図ることができる。さらに、固定砥粒ワイヤ20は市販品を利用できるので、刃の加工を行う必要がなく、さらなるコストの低減を図ることができる。
【0024】
また、固定砥粒ワイヤ20は、その両端部が芯材10に固定されているので、交換時の着脱を容易に行うことができる。
【0025】
さらに、固定砥粒ワイヤ20は芯材10に螺旋状に巻き付けられているので、固定砥粒ワイヤ20が上昇して見える方向に回転させることで、切削粉を穴2から外部に送り出しやすくなる。
【0026】
また、芯材10は、剛性の他は加工に与える影響は少ないため、安価な部材とすることで製造コストを低減することができる。
【0027】
さらに、固定砥粒ワイヤ20の交換は、工具全体を交換する場合と比較してコストを大幅に低減できるので、頻繁に行うことができる。したがって、加工される穴2の寸法精度を高めることが可能である。特に、リーマ加工を行う際には、固定砥粒ワイヤ20の螺旋外径が穴2の寸法精度に影響を及ぼすので、容易に固定砥粒ワイヤ20を交換できることによる、寸法精度の向上への寄与効果が大きい。
【0028】
次に、他の実施形態に係る内周面加工工具1aについて説明する。かかる内周面加工工具1aは、図6に示すように、固定砥粒ワイヤ20の固定方法が前記実施形態とは異なる。つまり、固定砥粒ワイヤ20は、ボビン25からダンサーローラ26を介して芯材10の基端部に延在して供給されている。芯材10に供給された固定砥粒ワイヤ20は、芯材10の基端部から先端部にかけて外周面11に巻き付けられている。固定砥粒ワイヤ20は、前記実施形態と同様にワイヤ収容溝(図示せず)に収容されている。
【0029】
固定砥粒ワイヤ20の先端部は、芯材10の先端部(ワイヤ収容溝の先端)に接着剤によって固定されている。芯材10の基端部においては、固定砥粒ワイヤ20はワイヤ収容溝の基端から出て、ダンサーローラ26に巻き掛けられている。ダンサーローラ26は、芯材10と共に回転するように保持されており、固定砥粒ワイヤ20は、ダンサーローラ26による張力によって、外周面11に引き付けられて保持されている。
【0030】
このような構成によれば、前記実施形態と同様の作用効果を得られる他に、固定砥粒ワイヤ20が摩耗した場合には、固定砥粒ワイヤ20をボビン25から引き出して新たに供給できるので、固定砥粒ワイヤ20の交換着脱をより一層容易に行うことができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能であるのは勿論である。例えば、前記実施形態では、芯材10が円柱形状を呈しているが、これに限定されるものではない。図7に示すように、加工する穴2の内周面3の形状に応じて、芯材10をドラムの外周径が軸方向に移動するに伴って変化する円錐形状のものであってもよい。この場合も、芯材10の外周面にワイヤ収容溝(図示せず)が形成されるとともに、クーラント供給流路(図示せず)に繋がる分岐流路15が開口している。また、固定砥粒ワイヤ20は、円錐形状の外周面に沿って、螺旋状に巻き付けられている。
【0032】
また、前記実施形態では、固定砥粒ワイヤ20の両端部を芯材10に固定しているが、固定位置は限定されるものではない。また、固定砥粒ワイヤ20の本数は1本に限定されるものではなく、複数本設けて二条螺旋形状、またはそれ以上の複数条螺旋形状としてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 内周面加工用工具
1a 内周面加工用工具
2 穴
3 内周面
10 芯材
11 外周面
12 ワイヤ収容溝
14 クーラント供給流路
15 分岐流路
20 固定砥粒ワイヤ
21 芯線
22 硬質砥粒
25 ボビン
26 ダンサーローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7