特許第6227445号(P6227445)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227445
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】電動オイルポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20171030BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   F04C2/10 341F
   F04C15/00 G
   F04C15/00 H
   F04C2/10 341G
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-41348(P2014-41348)
(22)【出願日】2014年3月4日
(65)【公開番号】特開2015-166570(P2015-166570A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2016年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】近岡 貴行
【審査官】 所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−199849(JP,A)
【文献】 特開2006−316674(JP,A)
【文献】 特開2000−145663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに形成されたポンプ収納部に収納されたポンプロータとアウタロータとから構成されるポンプ部と、永久磁石を備えるロータ部と鉄心と巻線を備えるステータ部から構成される電動機部と、前記ポンプロータと前記ロータ部を結合する駆動回転軸と、前記ポンプ部と連通された吐出ポートと吸入ポートを備え前記ポンプ部を覆うように前記ハウジングに固定されたポンプカバーより構成され、前記ロータを回転させて前記ポンプ部を駆動する電動オイルポンプにおいて、
前記ポンプロータと前記ロータ部の間の前記駆動回転軸を前記ハウジングに設けたすべり軸受よりなる第1の軸受部で軸支すると共に、前記第1の軸受部に作動オイルを供給する第1の作動オイル導入通路と、
前記駆動回転軸の前記ポンプロータが固定された部分より先端側の前記駆動回転軸の先端部を前記ポンプカバーに設けたすべり軸受よりなる第2の軸受部で軸支すると共に、前記第2の軸受部に作動オイルを供給する第2の作動オイル導入通路を設けたことを特徴とする電動オイルポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動オイルポンプにおいて、
前記第1の軸受部の内周面には前記第1の作動オイル導入通路に接続された油溝が形成され、前記第2の軸受部の内周面には前記第2の作動オイル導入通路に接続された油溝が形成されていることを特徴とする電動オイルポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の電動オイルポンプにおいて、
前記第1の作動オイル導入通路は前記吐出ポートから作動オイルが供給され、前記第2の作動オイル導入通路は前記吸入ポートから作動オイルが供給されていることを特徴とする電動オイルポンプ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電動オイルポンプにおいて、
前記第2の軸受部は袋孔状の円形孔から形成され、この円形孔に前記駆動回転軸の前記先端部が収納、配置されていることを特徴とする電動オイルポンプ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の電動オイルポンプにおいて、
前記第2の軸受部の内周径は、前記駆動回転軸の外周径より長く、前記第1の軸受部の内周径より短いことを特徴とする電動オイルポンプ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の電動オイルポンプにおいて、
前記ポンプカバーと前記ハウジングの間には、前記第1の軸受部と前記第2の軸受部の位置を決める位置決め機構が設けられていることを特徴とする電動オイルポンプ。
【請求項7】
請求項6に記載の電動オイルポンプにおいて、
前記位置決め機構は、前記ポンプカバーの前記ハウジングと接触する面に円弧状の突起として形成された位置決め突起部と、前記ハウジングのポンプ収納部に形成され前記位置決め突起部が当接する円弧状の位置決め孔より構成されていることを特徴とする電動オイルポンプ。
【請求項8】
請求項6に記載の電動オイルポンプにおいて、
前記位置決め機構は、前記ポンプカバーの前記ハウジングと接触する面に植立した位置決めピンと、前記ハウジングの前記ポンプカバーと接触する面に形成され前記位置決めピンが挿入される位置決め孔より構成されているか、或いは、前記ハウジングの前記ポンプカバーと接触する面に植立した前記位置決めピンと、前記ポンプカバーの前記ハウジングと接触する面に形成され前記位置決めピンが挿入される前記位置決め孔より構成されていることを特徴とする電動オイルポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動オイルポンプに係り、特に吐出部の作動オイルをポンプの駆動回転軸の軸受部に供給して潤滑する電動オイルポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の低燃費化への要求が高まるにつれ、アイドルストップ機能付きの自動車やハイブリッド車の実用化が進んでいる。これらの車両は、内燃機関の停止時に内燃機関によって駆動される各種ポンプも停止するため、内燃機関以外のポンプ駆動源が必要となる。特に、アイドルストップ機能付きの自動車やハイブリッド車等においては、トランスミッションを制御する油圧機構の油圧を確保するためのオイルポンプが必要とされている。このような背景から、電動機を使用してポンプロータに回転力を付与してポンプ作用を行う電動オイルポンプの使用が増加する傾向にある。
【0003】
従来、自動車のトランスミッションなどに搭載される電動オイルポンプとしては、トロコイド式の内接歯車ポンプが多く採用されている。内接歯車ポンプは、電動機によって駆動される駆動回転軸によってポンプロータが回転し、ポンプロータの外歯と噛み合う内歯を有するアウタロータが回転することで、アウタロータの内歯とポンプロータの外歯との間に形成される複数の容積室の容積を連続的に変化させ、作動オイルを吸入、吐出するものである。このような電動オイルポンプは、例えば特開2012−207638号公報(特許文献1)に記載されている。
【0004】
電動オイルポンプは、電動機への通電を制御する駆動制御部と、駆動制御部からの通電によって起磁力を発生させる巻線と鉄芯を有するステータ部と、ステータ部の内周側空間で永久磁石を有して起磁力により回転するロータ部と、このロータ部へ圧入等の手段で固定されて一体回転する駆動回転軸と、この駆動回転軸に圧入等の手段で固定され駆動回転軸と一体回転するポンプロータ部とを有している。そして、駆動回転軸の軸受部には、駆動回転軸の回転摺動面に油膜を形成するために吐出部からの作動オイルを導入する油溝が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−207638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したようにアイドルストップ機能付きの自動車やハイブリッド車においては、内燃機関が停止されている状態で電動オイルポンプが作動している。したがって、内燃機関の作動音がないため、この時の電動オイルポンプの作動音は車室内の搭乗者に対して耳障りな音になる。このため、電動オイルポンプの作動音をできるだけ低減することが要望されている。
【0007】
そして、本発明者等の検討によると、この電動オイルポンプの作動音の発生要因の一つは駆動回転軸の傾きによって生じていることが判明した。すなわち、駆動回転軸は特許文献1にあるように片持ちのすべり軸受で軸支されており、すべり軸受の内周面と駆動回転軸の外周面との間の隙間で駆動回転軸が傾き、ステータ部とロータ部の間で隙間(エアギャップ)の不均一化が生じ、これによって空間磁束波形に乱れを生じて高調波成分が発生するようになる。この高調波成分は、特に径方向の電磁加振力を増加させて振動の要因となり、結果として騒音が発生することになる。
【0008】
駆動回転軸の傾きを低減するためには、すべり軸受の内周面と駆動回転軸の外周面との間の隙間の距離をできるだけ短くすれば良いが、すべり軸受においてはあまり隙間を短くすると潤滑オイルが供給できないことによる焼き付きや、製造コスト(精密加工による)の上昇といった新たな課題が発生する。一方、ボールベアリングによって駆動回転軸を軸支するようにすれば、駆動回転軸の傾きをある程度防止できるが、ボールベアリングを使用することから部品点数、部品コストの増加や、駆動回転軸部分にボールベアリングの設置空間を確保する必要があるといった新たな課題が発生する。また、場合によってはボールベアリング自身の回転騒音(いわゆる、鳴きと呼ばれている)が加わることもある。
【0009】
本発明の目的は、駆動回転軸の傾きを簡単な構成で抑制することによって騒音の少ない新規な電動オイルポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特徴は、ロータ部とポンプロータの間の駆動回転軸を第1のすべり軸受によって軸支し、駆動回転軸のポンプロータ固定部より先端側の駆動回転軸を第2の滑り軸受で軸支すると共に、第1のすべり軸受と第2のすべり軸受に作動オイルを供給する、ところにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、駆動回転部の先端側を第2のすべり軸受で軸支するようにしたので、駆動回転軸の傾きが第2のすべり軸受の内周面で規制され、これによって騒音の発生を少なくすることができるようになるものである。加えて、すべり軸受を設けるだけなので構成が簡単となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明になる電動オイルポンプの全体斜視図である。
図2図1に示す電動オイルポンプの分解斜視図である。
図3図1に示す電動オイルポンプの縦断面図である。
図4図3に示すA部の拡大断面図である。
図5】特許文献1における駆動回転軸の傾きを説明する説明図である。
図6図3に示す駆動回転軸の傾きを説明する説明図である。
図7】ロータ部とステータ部の径方向断面を示す断面図である。
図8】ロータ部とステータ部の径方向断面におけるX方向の回転角と電磁力の関係を説明する説明図である。
図9】ロータ部とステータ部の径方向断面におけるY方向の回転角と電磁力の関係を説明する説明図である。
図10】ポンプハウジングとポンプカバーの位置決めを行う構成を説明する分解斜視図である。
図11】ポンプハウジングとポンプカバーの位置決めを行う他の構成を説明する分解斜視図である。
図12】ポンプハウジングとポンプカバーの位置決めを行う他の構成を説明する分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0014】
以下、本発明になる電動オイルポンプの実施形態を図面に基づいて説明する。電動オイルポンプは、例えば、アイドルストップ機能を備えた車両の自動変速機用に搭載されるポンプである。この自動変速機はベルト式無段変速機であり、エンジンにより駆動される機械式ポンプを別途備えている。
【0015】
そして、アイドルストップ制御によるエンジンの停止時には、機械式ポンプによる油圧が確保できず、また、ベルト式無段変速機内の摩擦締結要素やプーリからのリーク等によって油圧が低下すると、再発進時に必要な油圧を確保するまでに時間がかかるため運転性の低下を招く。そこで、機械式ポンプとは別に、エンジンの作動状態にかかわらず油圧を吐出可能な電動オイルポンプを備え、摩擦締結要素やプーリからのリーク分の油圧を確保することで、エンジン再始動および再発進時の運転性を向上している。
【0016】
図1は電動オイルポンプの全体構成を示す斜視図であり、図2はこの電動オイルポンプを分解した斜視図である。電動オイルポンプ10は電動機部10Aと、この電動機部10Aに隣接して固定された駆動制御部10Bと、電動機部10Aによって駆動されるポンプ部10Cとより構成されている。
【0017】
図2にあるように、電動機部10Aは少なくともロータ部16とステータ部18とより構成されている。この電動機部10Aは例えば、アルミ合金等で作られた金属製のハウジング20の一方に設けた電動機部収納部24に収納されている。
【0018】
また、このハウジング20の他方にはポンプ部10Cを収納するポンプ部収納部22が形成されている。ポンプ部10Cは少なくとも外歯歯車を有するポンプロータ12と内歯歯車を有するアウタロータ14とから構成されている。このポンプロータ12とアウタロータ14はハウジング20の他方に設けたポンプ収納部22に収納されている。駆動制御部10Bは少なくとも筺体44と、この筺体44に収納された制御基板46と、この制御基板46を収納するように筺体44に固定されるカバー48より構成されている。
【0019】
電動オイルポンプ10の更に詳細な構造について図3を用いて説明する。電動オイルポンプ10は、外歯歯車を有するポンプロータ12と内歯歯車を有するアウタロータ14とから構成されるポンプ部10Cと、ポンプロータ12に結合されたロータ部16とステータ部18とから構成される電動機部10Aとを有する。ステータ部18には巻線18Aが巻回されており、この巻線は駆動制御回路42内に引き込まれている。
【0020】
これらポンプ部10C及び電動機部10Aはハウジング20の一端面に設けたポンプ部収納部22と、他端面に設けた電動機部収納部24に収容されている。つまり、ハウジング20は一端面側の内部にアウタロータ14を回転可能に収納するポンプ部収容部22が形成され、他端面側の開口の内周側においてステータ部18を固定支持すると共に内部にロータ部16等を収容する電動機部収納部24が形成され、更に電動機部収納部24よりも軸方向外側には、自動変速機に取り付けるためのブラケット26が形成されている。
【0021】
また、ハウジング20内部には、ポンプロータ12とロータ部16を連結する駆動回転軸28を回転可能に支持する第1の軸受部30が設けられている。この第1の軸受部30は自身の内周面で駆動回転軸28の中間部の外周面を軸支する構成とされている。ここで、中間部とはポンプロータ12とロータ部16の間のことを意味しており、駆動回転軸28の中央に限定されないものである。
【0022】
そして、第1の軸受部30はポンプ部収容部22と電動機部収納部24との間を隔離する隔壁31に形成されている。この第1の軸受部30はすべり軸受であり、第1の軸受部30の内周面と駆動回転軸28の外周面の間には所定長さの第1の隙間が形成されており、この第1の隙間には第1のオイル導入通路33を介して圧力が高い吐出側の作動オイルが導入されるようになっている。更に、駆動回転軸28と軸受部30の上側には駆動回転軸28をシールするシール部材32が設けられている。
【0023】
ポンプカバー34は、ポンプ部10Cの吐出口と連通する円筒状に延在された吐出ポート36と、ポンプ部10Cの吸入口と連通する吸入ポート38とを有している。吐出ポート36の先端外周には、シールリング40が取り付けられている。
【0024】
ポンプカバー34の吐出ポート36と吸入ポート38を区切るランド部39には、ポンプロータ12が固定された固定部分より先端に位置する駆動回転軸28の先端部29を軸支する第2の軸受部41が形成されている。この第2の軸受部41は袋孔状の円形孔であり、この内部に駆動回転軸28の先端部29が収納、配置されている。この第2の軸受部41はすべり軸受であり、第2の軸受部41の内周面と駆動回転軸28の外周面の間には所定長さの第2の隙間が形成されており、この第2の隙間には第2のオイル導入通路(図示せず)を介して吸入側の作動オイルが導入されるようになっている。尚、楕円形の破線で囲んだA部は本実施例の主要部であり、この部分については図4を用いて更に詳細に説明する。
【0025】
ハウジング20の電動機部収納部24側には駆動制御部42を構成する筺体44が電動機部収納部24を密閉するようにして固定されている。ここで図1図2では駆動制御部10Bと表記しているが、図3で示す駆動制御部42と同じものである。駆動制御部42はハウジング20に固定される合成樹脂からなる筺体44と、この筺体44に収納される制御基板46と、筺体44に固定され制御基板46を覆う合成樹脂からなるカバー48とから構成されている。制御基板46には電動機部10Aのステータ部18に巻かれた巻線18Aに制御された電流を供給するインバータ回路が搭載されている。筺体44とカバー48の間にはコネクタ端子50が取り付けられ、制御基板46に電力を供給している。
【0026】
このような電動オイルポンプ10において、電動機部10Aを構成するステータ部18に巻かれた巻線18Aの巻き始め端部、及び巻き終わり端部は、電動機部収納部24に隣接して固定された駆動制御部42の筺体44に設けた挿通孔(図示せず)を通して筺体44に設けた入力端子(図示せず)と中性端子(図示せず)に接続されている。したがって、インバータ回路で制御された駆動信号が巻線18Aに供給されて電動機部10Aのロータ部16を回転させ、最終的にポンプロータ12を回転させてポンプ作用を行っているものである。
【0027】
さて、次に図3に示すA部の詳細な構造とその作用について図4に基づき説明する。図3に示しているように、ハウジング20の隔壁31の一部に第1の軸受部30が形成されている。この第1の軸受部30はポンプロータ12と電動機部10Aを構成するロータ部16の間に位置しており、ポンプロータ12とロータ部16を結合する駆動回転軸28をこの位置で軸支している。第1の軸受部30はすべり軸受であり、その内周面と駆動回転軸28の外周面とは第1の隙間G1を介して摺動する構成となっている。そして、吐出ポート36と連通された第1のオイル導入通路33から作動オイルが第1の隙間G1に供給される。第1の軸受部30(すべり軸受)の内周面には、駆動回転軸28に沿って油溝30Aが形成されており、この油溝30Aに第1のオイル導入通路33から作動オイルが供給されている。これによって、第1の隙間G1には油膜が形成されてすべり軸受の機能を果たすことになるものである。
【0028】
また、ポンプカバー34の吐出ポート36と吸入ポート38を区切るランド部39には、駆動回転軸28の先端部29を軸支する第2の軸受部41が形成されている。この第2の軸受部41は袋孔状の円形孔であり、この内部に駆動回転軸28の先端部29が挿入、配置されている。この第2の軸受部41はすべり軸受であり、第2の軸受部41の内周面と駆動回転軸28の外周面の間には所定長さの第2の隙間G2が形成されており、この第2の隙間G2には第2のオイル導入通路43を介して吸入ポート側の作動オイルが導入されるようになっている。第2の軸受部41(すべり軸受)の内周面には、駆動回転軸28に沿って油溝41Aが形成されており、この油溝41Aに第2のオイル導入通路43から作動オイルが供給されている。これによって、第2の隙間G2には油膜が形成されてすべり軸受の機能を果たすことになるものである。
【0029】
更に、駆動回転軸28の先端部29の先端面と第2の軸受部41の円形孔の側端面の間には第3の隙間G3が形成されており、この隙間にも吸入ポート側の作動オイルが導入されるようになっている。
【0030】
このように、本実施例においては駆動回転軸28の中間部とその先端部29の2箇所をすべり軸受よりなる軸受部30、41で軸支する構成とされている。このため、駆動回転軸28が第1の軸受部30付近を中心として傾いた場合、駆動回転軸28の先端部29が第2の軸受部41の内周面に当接することで、駆動回転軸28の傾きが規制されることになる。これによって、ステータ部18とロータ部16の間に隙間(エアギャップ)の変動(エアギャップの不均一化)を従来のものより小さくでき、径方向の電磁加振力の増加を小さくして騒音の発生を抑制できるようになる。
【0031】
加えて、2個のすべり軸受よりなる軸受部30、41を形成するだけなので、構成を簡単にすることができるものである。ボールベアリング等の軸受を使用する場合に比べて部品点数や部品コストの増加を抑えることができるので、構成の簡略化と共に製品単価を抑えることができるようになる。
【0032】
次に、特許文献1に記載されている電動オイルポンプと本実施例になる電動オイルポンプの駆動回転軸28の傾きの差について図5及び図6を用いて説明する。尚、この比較において、ポンプロータ12とロータ16の間のすべり軸受の内周径d1と軸受長L1、駆動軸28の外周径ds、ロータ16部の外周径dm、ステータ部18の内周径dcは同じ長さとしている。また、本実施例の第2に軸受部41を構成するすべり軸受では、内周径d2と軸受長L2としている。ここで、両すべり軸受の内周径は同じ長さ(d1=d2)に決められている。また、両すべり軸受の間の長さ(ポンプロータが配置される部分)をL3としている。
【0033】
図5は特許文献1にある電動オイルポンプの場合を示している。回転駆動軸28の傾きθ1は以下の(1)式によって、
θ1=tan-1(C/L1)……(1)
となる。ここで、Cは駆動回転軸28とすべり軸受の間の隙間長さであり、C=d1-d2である。
【0034】
これに対して、図6は本実施例になる電動オイルポンプの場合を示している。回転駆動軸28の傾きθ2は以下の(2)式によって、
θ2=tan−1(C/(L1+L2+L3))……(2)
となる。
【0035】
これからわかるように、本実施例では2個のすべり軸受を使用しているので、見掛け上の軸受長が(L1+L2+L3)となり、図5に示す従来の軸受長L1より長くなっている。このため、駆動回転軸28の傾きはθ2<θ1となり、本実施例の方が傾きを小さく規制できることがわかる。
【0036】
また、この傾きθ1、θ2によってステータ部18とロータ部16の間のエアギャップの最小値AGminは以下のようになる。
【0037】
図5に示す電動オイルポンプの場合では、エアギャップの最小値AG1minは以下の(3)式によって、
AG1min=(dc−dm)/2+C−(CLs/L1−dm(1−cosθ1))……(3)
となる。
【0038】
一方、図6に示す電動オイルポンプの場合では、エアギャップの最小値AG2minは以下の(4)式によって、
AG2min=(dc−dm)/2+C−(CLs/(L1+L2+l3)−dm(1−cosθ2))……(4)
となる。
【0039】
そして、ここで
δ1=CLs/L1−dm(1−cosθ1)
δ2=CLs/(L1+L2+L3)−dm(1−cosθ2)
とすると、δ1>δ2のときにAG1min<AG2minとなり、本実施例の方がエアギャップの変動が小さくなることがわかる。したがって、作動音の原因となるエアギャップの不均一化を抑制できるので、これに基づく作動音を小さくすることができるようになる。
【0040】
尚、図5に示してあるすべり軸受の軸受長を長くして駆動回転軸28の傾きを小さくする方法も考えられるが、このようにすると、ロータ部18とポンプロータ12の間の長さが長くなって電動オイルポンプ全体の軸方向形状が大きくなる不具合が新たに発生する。これは、設置空間が制限されたエンジンルーム内に電動オイルポンプを収納することを考えると得策ではない。
【0041】
本実施例では、駆動回転軸28のポンプロータ12が固定される部分L3を見掛け上の軸受長として利用することで、電動オイルポンプ全体の形状を大きくすることなく、軸受長を長くできるものである。したがって、図6に示すように駆動回転軸28の傾きを小さくすることができ、結果的にロータ部16とステータ部18の間のエアギャップの変動を小さくできるようになる。
【0042】
このように、本実施例においては駆動回転軸28の中間部と、ポンプロータ12を挟んでその先端部29の2箇所をすべり軸受よりなる軸受部30、41で軸支する構成として、軸受長を見掛け上大きくする構成としている。このため、駆動回転軸28が第1の軸受部30付近を中心として傾いた場合、駆動回転軸28の先端部29が第2の軸受部41の内周面に当接することで、駆動回転軸28の傾きが小さく規制されることになる。これによって、ステータ部18とロータ部16の間の隙間(エアギャップ)の変動(エアギャップの不均一化)を従来のものより小さくでき、径方向の電磁加振力の増加を小さくして騒音の発生を抑制できるようになる。
【0043】
次に、ステータ部18とロータ部16の間のエアギャップの変動に基づく電磁力の変化を説明する。図7はスタータ部18とロータ部16の横断面を示しており、ロータ部16が偏心している状態を示している。
【0044】
ステータ部18を構成する鉄心18Bは、積層されたケイ素鋼板等から構成されたもので、内周側に向けて放射状に延びた9個の突極部18Cを有している。突極部の周囲には絶縁性の合成樹脂からなるボビン部が設けられ、このボビン部は自身の周囲に巻回される巻線18Aと突極部18Cとの絶縁を確保するための機能を有している。
【0045】
突極部18Cを覆うボビン部は各相の巻線18Aが巻回されるもので、通常はU相、V相、W相の順番で配置されている。本実施例では各相の巻線を3個に分けて巻き込むため、9個の突極部18Cが鉄心18Bに形成され、これらの9個の突極部18Cは互いに隣り合うように配置されている。
【0046】
そして、突極部18Cの内周にはロータ部16が配置されており、バックヨーク16Aに内部に永久磁石16Bが配置されている。この図7は、駆動回転軸28が傾くことで、ロータ部16のバックヨーク16Aがステータ部18の突極部18Dとの間でX方向に偏心してエアギャップの不均一化が生じている状態を示している。
【0047】
このような状態において、ロータ部16が回転するとX方向とY方向の電磁力は回転角(機械角)によって変動するようになる。
【0048】
図8はロータ部16の1回転の間でのX方向の電磁力の変化を示しており、偏心量=0の場合に比べて、図5に示す従来の構成では大きく電磁力が変動しているのに対し、図6に示す本実施例の構成では電磁力の変動は少なくなっている。このX方向の電磁力の変動は回転1次振動となって音が大きくなるものである。
【0049】
図9はロータ部16の1回転の間でのY方向の電磁力の変化を示しており、偏心量=0の場合に比べて、図5に示す従来の構成では大きく電磁力が変動しているのに対し、図6に示す本実施例の構成では電磁力の変動は少なくなっている。このY方向の電磁力の変動は回転2次振動となって音が大きくなるものである。このように、ロータ部16の偏心量を小さくできれば電磁力の変動も小さくでき、結果として作動音を抑制できるようになるものである。
【0050】
以上述べたように、本実施例においては駆動回転軸28の中間部と、その先端部29の2箇所をすべり軸受よりなる軸受部30、41で軸支する構成とされている。このため、駆動回転軸28が第1の軸受部30付近を中心として傾いた場合、駆動回転軸28の先端部29が第2の軸受部41の内周面に当接することで、駆動回転軸28の傾きが規制されることになる。これによって、ステータ部18とロータ部16の間に隙間(エアギャップ)の変動(エアギャップの不均一化)を従来のものより小さくでき、径方向の電磁加振力の増加を小さくして騒音の発生を抑制できるようになる。
【0051】
また、本実施例では、図6にあるように駆動回転軸28のポンプロータ12が固定される部分L3を見掛け上の軸受長として利用することで、電動オイルポンプ全体の形状を大きくすることなく、軸受長を長くできるものである。
【0052】
加えて、2個のすべり軸受よりなる軸受部30、41を形成するだけなので、構成を簡単にすることができるものである。ボールベアリング等の軸受を使用する場合に比べて部品点数や部品コストの増加を抑えることができるので、構成の簡略化と共に製品単価を低く抑えることができるようになる。
【0053】
ここで、本実施例では、ポンプカバー34のランド部39に形成した第2の軸受部41の内周径とハウジング20の隔壁31に形成した第1の軸受部30の内周径を同じとしたが、第2の軸受部41の内周径を小さくすれば、隙間G2の距離が短くなるので、駆動回転軸28の傾きを更に小さくすることができる。
【0054】
更に、第2の軸受部41を袋孔状の円形孔としたので作動オイルの温度が上昇し易くなる。これによって、作動オイルの粘度を下げることができるので、狭い通路であっても作動オイルが流れ易くなる。この場合、第2の軸受部41の内周径を小さくして隙間G2の距離を短くする時には有利な構成となる。
【0055】
更に、第1の軸受30と第2の軸受41によって駆動回転軸28を軸支しているので、軸受への負荷を低減できるようになっている。これは軸受長さを延長した効果であるが、これによって硬度の低い廉価な金属材料を使用することが可能となり、材料選択の自由度を広げることができるものである。これによって、電動オイルポンプの製品単価を低く抑えることも期待できるようになる。
【0056】
次に、ポンプカバー34とハウジング20を位置決めする構成について説明する。本実施例ではハウジング20に第1の軸受部30を形成し、ポンプカバー34に第2の軸受部41を形成する構成としている。このため、第1の軸受部30と第2の軸受部41の間で位置がずれると、駆動回転軸28が傾いた状態で組み付けられる恐れがある。このように駆動回転軸28が傾くと上述したように作動音が増大する現象が発生する。したがって、ポンプカバー34とハウジング20とを正規の状態で組み付けることが重要であり、以下ではこの位置決め機構について説明する。
【0057】
図10は、ポンプカバー34のハウジング20と接触する面に、円弧状の突起として形成された位置決め突起部51を設けた実施例である。この円弧状の位置決め突起部51は、ハウジング20のアウタロータ14が収納されているポンプ収納部22に形成した円弧状の位置決め孔52の壁面と当接してインロー係合され、ポンプカバー34とハウジング20とを位置決めする位置決め機構である。このような構成によれば、第1の軸受部30と第2の軸受部41の間で位置がずれることが防止され、駆動回転軸28が傾いた状態で組み付けられることを防ぐことができる。
【0058】
図11は、ポンプカバー34のハウジング20と接触する面に、少なくとも2本の位置決めピン53を設けた実施例である。この位置決めピン53は、ハウジング20のポンプカバー34と接触する面に形成した2個の位置決め孔54の内部に挿入されてポンプカバー34とハウジング20とを位置決めする位置決め機構である。このような構成によれば、第1の軸受部30と第2の軸受部41の間で位置がずれることが防止され、駆動回転軸28が傾いた状態で組み付けられることを防ぐことができる。更に、図10に示す実施例ではインロー係合されているので、この分だけポンプ収納部22を軸方向に長くする必要があるが、図11の実施例によればポンプ収納部22の軸方向長さを変更しなくて良いので、電動オイルポンプの軸方向長さを変更しなくて済むようになる。
【0059】
図12は、ポンプカバー34のハウジング20と接触する面に、少なくとも2個の位置決め孔55を設けた実施例である。この位置決め孔55は、ハウジング20のポンプカバー34と接触する面に形成した2個の位置決めピン56が挿入されてポンプカバー34とハウジング20とを位置決めする位置決め機構である。このような構成によれば、第1の軸受部30と第2の軸受部41の間で位置がずれることが防止され、駆動回転軸28が傾いた状態で組み付けられることを防ぐことができる。更に、図11の実施例と同様にポンプ収納部22の軸方向長さを変更しなくて良いので、電動オイルポンプの軸方向長さを変更しなくて済むようになる。
【0060】
本発明を総括すると、本発明の特徴は、ロータ部とポンプロータの間の駆動回転軸を第1のすべり軸受によって軸支し、駆動回転軸のポンプロータ固定部より先端側の駆動回転軸を第2の滑り軸受で軸支すると共に、第1のすべり軸受と第2のすべり軸受に作動オイルを供給するようにしたものである。
【0061】
これによれば、駆動回転部の先端側を第2のすべり軸受で軸支するようにしたので、駆動回転軸の傾きが第2のすべり軸受の内周面で規制され、これによって騒音の発生を少なくすることができるようになるものである。更に、すべり軸受をハウジングとポンプカバーに形成するだけであるので構成が簡単となるものである。
【符号の説明】
【0062】
10…電動オイルポンプ、12…ポンプロータ、14…アウタロータ、16…ロータ部、18…ステータ部、20…ハウジング、22…ポンプ収容部、24…電動機部収容部24、28…駆動回転軸、30…第1の軸受部、30A…油溝、31…隔壁、33…第1のオイル導入通路、34…ポンプカバー、36…吐出ポート、38…吸入ポート、41…第2の軸受部、41A…油溝、43…第2のオイル導入通路。
図1
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図12