(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
供給される流体から熱を回収し、その熱を再利用することで、運転効率の向上等を図る技術が広く普及している。
【0003】
下記特許文献1には、熱交換器(熱回収部)において、乗用車のエンジンから排出される排ガスと、冷却水流路内を流される冷却水との間で熱交換を行わせることで、排気熱を回収するシステムが記載されている。この冷却水は、走行時のエンジンの冷却を主な目的として用いられるものであるが、エンジンの始動時には、その暖機のために、排ガスからエンジンへと排気熱を移動させる役割を果たしている。このような暖機システムは、寒冷地仕様の乗用車等で採用されている。
【0004】
この暖気システムのような熱回収システムでは、所定量の熱を回収し、その後の回収が不要となった場合は、冷却水が著しく高温となって沸騰することや、必要以上に高温になることを防止するために、排ガスとの熱交換を抑制又は停止させるように制御する必要がある。
【0005】
下記特許文献1記載のシステムでは、この熱交換の制御を、開閉動作するバルブによって行っている。詳細には、排ガスを熱交換器へと導く流路の開放及び閉止を行うバルブが設けられており、排気熱の回収を行う場合は、当該バルブを開放して排ガスを熱交換器に導入する一方、排気熱の回収を行わない場合は、当該バルブを閉止して熱交換器を迂回させるように排ガスを流している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1記載のシステムでは、機械的動作を行うバルブによって熱回収の制御を行うため、構成が複雑になるとともに、長期間使用する際の耐久性や信頼性に関する懸念があった。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構成によって長期間の使用にも高い耐久性や信頼性を発揮しながらも、熱回収の制御を行うことが可能な熱回収器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る熱回収器は、供給される流体から熱を回収して排出する熱回収器であって、前記流体が流れる管状のインナーパイプと、前記インナーパイプを通過した前記流体が当たるように、前記インナーパイプの下流側端部の開口と対向する位置に配置され、前記流体から熱を回収する熱交換器と、を備え、前記インナーパイプの途中には連通口が形成されており、前記インナーパイプを流れる前記流体の流量が大きい場合は、流量が小さい場合に比べて、前記熱交換器に当たることなく前記連通口を介して外部に流出する前記流体の流量が大きくなるように構成されていることを特徴としている。
【0010】
本発明に係る熱回収器によれば、インナーパイプを流れる流体の流量が大きい場合は、流量が小さい場合に比べて、熱交換器に当たることなく連通口を介して外部に流出する流体の流量が大きくなるように構成されているため、流体からの熱回収が過度に行われることを抑制することが可能となる。さらに、機械的動作を行うバルブ等の構成を用いることなく熱回収の制御を行うため、長期間の使用に対しても高い耐久性や信頼性を発揮することが可能となる。
【0011】
また本発明に係る熱回収器では、前記インナーパイプは、その下流側端部の開口と前記熱交換器との間に隙間を設けて配置されていることも好ましい。
【0012】
この好ましい態様では、インナーパイプを流れる流体の流量が増加した場合に、インナーパイプの下流側端部の開口と熱交換器との間に設けられる隙間に流体を滞留させ、それにより下流側端部の開口における静圧を高め、連通口を介して流体を流出させることが可能となる。
【0013】
また本発明に係る熱回収器では、前記インナーパイプは、その下流側端部の開口から流体が流出する方向に沿って見た場合に、その下流側端部の開口の全体が前記熱交換器と重合するように配置されていることも好ましい。
【0014】
この好ましい態様では、インナーパイプを流れる流体の流量が増加した場合に、インナーパイプの下流側端部の開口の全体にわたって静圧を高め、流体を開口から流出し難くすることができるため、より確実に連通口を介して流体を外部に流出させることが可能となる。
【0015】
また本発明に係る熱回収器では、前記インナーパイプは、上流側から下流側にかけてその流路断面積が減少する狭窄部を有するとともに、前記狭窄部よりも上流側の部位に前記連通口が形成されていることも好ましい。
【0016】
この好ましい態様では、インナーパイプの下流側端部と熱交換器との間に設けられる隙間において静圧が高まった場合に、狭窄部と下流側端部との間で特に静圧が高まるため、狭窄部よりも上流側から流れてくる流体を、より確実に連通口を介して外部に流出させることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な構成によって長期間の使用にも高い耐久性や信頼性を発揮しながらも、熱回収の制御を行うことが可能な熱回収器を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
まず、
図1乃至
図3を参照して、本発明の実施形態に係る排気熱回収器100の概略を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る排気熱回収器100の側面視断面図である。
図2は、本発明の実施形態に係る排気熱回収器100の排ガスの流量が比較的小さい状態における平面視断面図である。
図3は、
図2のA−A断面図である。
【0021】
図1に表すように、排気熱回収器100は、パイプ10と、熱交換器20と、インナーパイプ30と、を有している。
【0022】
パイプ10は、入口部11と、拡径部(縮径部)12と、大径部13と、縮径部(拡径部)14と、出口部15とを有する金属製の管状部材であり、その内部に主流路17を有している。パイプ10の上流側は乗用車のエンジン(図示せず)に接続されており、主流路17は、エンジンから供給される高温の排ガスを、入口部11側から出口部15側にかけて流す流路となる。
【0023】
熱交換器20は、主流路17に配置されており、複数のプレート21と、冷却水供給管23と、冷却水排出管24とを有している。複数のプレート21は、それぞれ内部に冷却水を流す流路(図示せず)が形成されており、互いに所定間隔を空けて一列に配列されている。複数のプレート21は、それぞれの内部の流路を連通させて、一連の冷却水流路が形成されるように連結されており、隣り合うプレート21、21の間に形成される隙間は、後述するように排ガスを通過させるためのプレート間流路21aとなる。冷却水は、冷却水供給管23によって熱交換器20内に供給され、複数のプレート21の内部流路を流れた後、冷却水排出管24から熱交換器20外に排出される。
【0024】
インナーパイプ30は、大径部31と、狭窄部32と、小径部33とを有する管状部材であり、その内部に流路30aを有している。このうち狭窄部32は、大径部31から小径部33にかけて、流路30aの流路断面積を漸次減少させる傾斜した管壁である。インナーパイプ30は、熱交換器20よりも上流側の主流路17に配置されている。インナーパイプ30の大径部31は、その外径寸法がパイプ10の入口部11の内径寸法とほぼ等しくなるように形成されており、大径部31が入口部11に対し固定されることで、主流路17におけるインナーパイプ30の位置決めがなされている。これにより、パイプ10の入口部11に流入する排ガスは、インナーパイプ30の上流側端部30bから流路30aに流入し、下流側端部30cから流出する。
また、インナーパイプ30の大径部31の管壁であって、狭窄部32の近傍の部位には、インナーパイプ30の内外を貫通するスリット状の連通口35a、35bが設けられている。
図2に表すように、連通口35a、35bは、インナーパイプ30の大径部31の管壁のうち、互いに対抗する部位に、それぞれ2つずつ設けられている。
また、インナーパイプ30は、その下流側端部30cと熱交換器20の上流側端面20aとの間に、隙間17aを設けて配置されている。このため、インナーパイプ30の下流側端部30cの開口30dから流出した排ガスは、まずこの隙間17aに導入され、その後、熱交換器20に当たることとなる。
また、
図3に表された熱交換器20の下流側端面20bとインナーパイプ30との関係からわかるように、インナーパイプ30は、正面視した場合(下流側端部30cから排ガスが流出する方向に沿って見た場合)に、その下流側端部30cの開口30dの全体が熱交換器20と重合するように配置されている。
ここでは、インナーパイプ30をシームレス管としているが、これに限らず、軸方向や径方向に分割された複数の分割体を、溶接や接着により接合して構成される管としてもよい。
【0025】
ここで、熱交換器20は、主流路17のうち、大径部13によって形成される部位に配置されている。
図2に表すように、平面視において、熱交換器20と大径部13の管壁との間には隙間が形成されている。熱交換器20の両側部に形成されるこの隙間が、主流路17のうち熱交換器20よりも上流側の部位から、熱交換器20を迂回させて熱交換器20よりも下流側の部位へと排ガスを流すバイパス流路40a、40bとなる。インナーパイプ30の連通口35a、35bは、インナーパイプ30の内部の流路30aと、バイパス流路40a、40bとを連通させている。
【0026】
排ガスが熱交換器20に当たり、複数のプレート間流路21aを流れて通過することにより、熱交換器20のプレート21の内部を流れる冷却水と、プレート21の外側面を流れる排ガスとの熱交換が行われる。このため、冷却水供給管23によって供給された冷却水は、熱交換器20内を流れることで排ガスから熱を回収して温度が上昇し、冷却水排出管24によって熱交換器20外に排出される。一方、排ガスは、熱交換器20を通過することで冷却水に熱を奪われて温度が低下し、パイプ10の出口部15から排出される。このようにして冷却水が排ガスから回収した熱は、乗用車のエンジンの暖機や、触媒(図示せず)の加熱等に利用される。
【0027】
次に、
図2及び
図4を参照して、以上のように構成された排気熱回収器100の動作原理を説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る排気熱回収器100の排ガスの流量が比較的大きい状態における平面視断面図である。
【0028】
まず、
図2に表すように、乗用車のエンジンの運転が比較的穏やかで、パイプ10の入口部11に流入する排ガスの流量が比較的小さい場合、すなわち、インナーパイプ30の内部の流路30aを流れる排ガスの流量が比較的小さい場合について説明する。
【0029】
インナーパイプ30の内部の流路30aを流れた後、下流側端部30cの開口30dから流出する排ガスは、開口30dと熱交換器20の上流側端面20aとの間の隙間17aに、比較的小さな流量で導入される。隙間17aに導入されたこの排ガスは、熱交換器20の上流側端面20aから、熱交換器20の複数のプレート間流路21a(
図1参照)に流入し、その後、熱交換器20の下流側端面20bから流出することで、熱交換器20を通過する。
【0030】
ここでは、インナーパイプ30の下流側端部30cから隙間17aに導入され、熱交換器20に当たる排ガスの流量が比較的小さいため、その流れの乱れは比較的小さなものとなる。このため、排ガスは熱交換器20をスムーズに通過することができる。
【0031】
隙間17aに導入された排ガスが熱交換器20をスムーズに通過できることにより、隙間17aにおいて排ガスは殆ど滞留することがない。このため、インナーパイプ30の下流側端部30cにおける静圧も比較的小さくなり、流路30aを流れる排ガスは、下流側端部30cから容易に流出することができる。したがって、流路30aを流れる排ガスは、連通口35a、35bからは殆ど流出しない。
【0032】
以上のように、インナーパイプ30を流れる排ガスの流量が比較的小さい場合は、排ガスを連通口35a、35bを介してバイパス流路40a、40bに殆ど導入することなく、その大半を熱交換器20に当て、積極的に冷却水との熱交換を行わせることが可能となる。
【0033】
続いて、
図4に表すように、乗用車のエンジンの運転が比較的活発で、パイプ10の入口部11に流入する排ガスの流量が比較的大きい場合、すなわち、インナーパイプ30の内部の流路30aを流れる排ガスの流量が比較的大きい場合について説明する。
【0034】
インナーパイプ30の内部の流路30aを流れた後、下流側端部30cから流出する排ガスは、下流側端部30cと熱交換器20の上流側端面20aとの間の隙間17aに、比較的大きな流量で導入される。隙間17aに導入されたこの排ガスは、熱交換器20の上流側端面20aから、熱交換器20の複数のプレート間流路21a(
図1参照)に流入し、その後、熱交換器20の下流側端面20bから流出することで、熱交換器20を通過する。
【0035】
ここでは、インナーパイプ30の下流側端部30cから隙間17aに導入され、熱交換器20に当たる排ガスの流量が比較的大きいため、その流れの乱れは比較的大きなものとなる。このため、排ガスは熱交換器20をスムーズに通過することが困難となる。
【0036】
隙間17aに導入された排ガスが熱交換器20をスムーズに通過することが困難となることにより、隙間17aにおいて排ガスの滞留が生じる。このため、インナーパイプ30の下流側端部30cにおける静圧も比較的大きくなり、流路30aを流れる排ガスは、下流側端部30cから流出し難くなる。したがって、流路30aを流れる排ガスは、その一部が連通口35a、35bを介して外部に流出するようになる。
【0037】
連通口35a、35bを介して外部に流出した排ガスは、矢印B1で表すように、拡径部(縮径部)12の傾斜する管壁に沿って熱交換器20の両側部へと流れ、バイパス流路40a、40bに導入される。バイパス流路40a、40bを流れる排ガスは、熱交換器20内の冷却水に殆ど熱を奪われることなく、その下流側へと流れる。バイパス流路40a、40bの下流側において、矢印B2で表すように、排ガスは縮径部(拡径部)14の傾斜する管壁に沿って出口部15に向かって流れることで、排ガスは熱交換器20よりも下流側の主流路17へと流れることになる。
【0038】
以上のように、インナーパイプ30を流れる排ガスの流量が比較的大きい場合は、排ガスを連通口35a、35bを介して外部に流出させてバイパス流路40a、40bに導入することができるため、熱交換器20に当たって通過する排ガスの流量の増加を抑制し、熱交換器20において冷却水による熱回収が過度に行われることを抑制することが可能となる。
【0039】
この排気熱回収器100では、機械的動作を行うバルブ等の構成を用いることなく、排ガスの流量に応じてインナーパイプ30の下流側端部30cの開口30dにおける静圧が変化することを利用して、熱回収の制御を行っている。このため、長期間の使用に対しても高い耐久性や信頼性を発揮することが可能となる。
【0040】
また、
図3に表したように、インナーパイプ30は、その下流側端部30cの開口30dから排ガスが流出する方向に沿って見た場合に、その開口30dの全体が熱交換器20と重合するように配置されている。これにより、インナーパイプ30を流れる排ガスの流量が増加した場合に、開口30dの全体にわたって静圧を高め、排ガスを開口30dから流出し難くすることができるため、より確実に連通口35a、35bを介して排ガスを外部に流出させることが可能となる。
【0041】
また、インナーパイプ30は、上流側から下流側にかけて流路30aの流路断面積が減少する狭窄部32を有するとともに、狭窄部32よりも上流側の部位に連通口35a、35bを有している。これより、インナーパイプ30の下流側端部30cと熱交換器20との間に設けられる隙間17aにおいて静圧が高まった場合に、流路30aでは狭窄部32と下流側端部30cとの間で特に静圧が高まるため、狭窄部32よりも上流側から流れてくる排ガスを、より確実に連通口35a、35bを介して外部に流出させることが可能となる。
【0042】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
【0043】
例えば、前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
前述した排気熱回収器100においては、バイパス流路40a、40bは、主流路17と同様にパイプ10の内部に形成されるものとしているが、これに限らず、パイプ10とは独立した別の管状部材を用いて、熱交換器20を迂回させて熱交換器20よりも下流側へと排ガスを流す流路を形成してもよい。
また、排気熱回収器100においては、インナーパイプ30の狭窄部32は、傾斜する管壁によって形成しているが、これに限らず、傾斜することなく大径部31の下流側端部から小径部33の上流側端部にかけて垂直に延びる管壁によって形成してもよい。
また、排気熱回収器100においては、インナーパイプ30とパイプ10とを別部材として制作しているが、これに限らず、インナーパイプ30とパイプ10とを一体として制作してもよい。
また、排気熱回収器100は、排ガスからの熱回収を行うものとしているが、これに限らず、気体か液体かを問わず、他の流体から熱回収を行うものとしてもよい。
また、排気熱回収器100においては、連通口35a、35bはスリット状としているが、これに限らず、円形状としてもよい。
また、排気熱回収器100においては、パイプ10の大径部13の断面形状を楕円形とし、熱交換器20の外形形状を略直方体としているが、これに限らず、排気熱回収器100が搭載される乗用車の要求に応じて、これら以外の種々の形状を採用し得る。
【0044】
また、前述した各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。