(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記各プリプレグシートの少なくとも一枚には、前記プリプレグシートの両端部に亘って連続した繊維が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスプール。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したように、隣り合うプリプレグシートの端部を重ねて接合した場合には、各プリプレグシートの繊維が交差する角度によって、プリプレグシートの接合部の剛性が変化する。そして、各接合部の剛性が異なると、胴部の剛性が偏るという問題がある。
【0005】
本発明は、前記した問題を解決し、胴部の剛性をバランス良く高めることができる釣り用のスプールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、魚釣用リールに装着されるスプールであって、釣り糸が巻回される円錐台形状の胴部が形成されたスプール本体を備えている。前記胴部は、複数のプリプレグシートを重ね巻いた積層体を加圧加熱成形することで形成されている。前記各プリプレグシートは、同一の円弧形状かつ同一の繊維方向である
。前記各プリプレグシートはそれぞれ円錐台形状に巻かれている。そして、前記プリプレグシートの両端部を重ね合わせた接合部が、前記胴部の周方向に等間隔に配置され
、前記胴部の周方向において前記各接合部の間の壁部では、前記各プリプレグシートの繊維が交差する角度が同一である。
【0007】
この構成では、複数のプリプレグシートを重ね巻くことで、胴部の剛性を高めることができる。
また、各プリプレグシートが同一の円弧形状かつ同一の繊維方向であるため、各プリプレグシートの接合部では、繊維が同じ重なり方となる。すなわち、各接合部では繊維が交差する角度が同一になる。これにより、各プリプレグシートの接合部の剛性が同一になる。そして、各接合部は、胴部の周方向に等間隔に配置されているため、胴部の剛性をバランス良く高めることができる。
また、各プリプレグシートが同一の円弧形状かつ同一の繊維方向であり、さらに
、各プリプレグシートは胴部の周方向に等間隔にずれて重なる。そのため、胴部の周方向において各接合部の間の壁部は、各プリプレグシートの繊維が同じ重なり方となる。すなわち、胴部の周方向において各接合部の間の壁部は、繊維が交差する角度が同一になる。これにより、胴部の剛性をバランス良く高めることができ、胴部の周方向の剛性を大きくすることができるため、胴部をねじれや潰れに対して強くすることができる。
【0008】
前記したスプールにおいて、前記プリプレグシートの一端の縁部と繊維方向とが交差する角度と、前記プリプレグシートの他端の縁部と繊維方向とが交差する角度とが同一である場合には、接合部における繊維方向の角度と、接合部に隣接する壁部における繊維方向の角度とが同一になる。これにより、接合部の剛性と、接合部に隣接する壁部との剛性との差を小さくすることができ、胴部の剛性をバランス良く高めることができる。
【0009】
前記したスプールにおいて、前記各プリプレグシートの少なくとも一枚に、前記プリプレグシートの両端部に亘って連続した繊維を設けた場合には、胴部の周方向の剛性を大きくすることができ、胴部をねじれや潰れに対して強くすることができる。
特に、各プリプレグシートの全てに、プリプレグシートの両端部に亘って連続した繊維を設けた場合には、胴部の周方向の剛性をより高めることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスプールでは、胴部の剛性をバランス良く高めることができ、胴部の周方向の剛性を高めることができるため、胴部をねじれや潰れに対して強くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態の魚釣用リール1は、
図1に示すように、スピニングリールであり、リール本体2と、リール本体2の前方に回転可能に設けられたロータ3と、リール本体2の前方に前後動可能に設けられたスプール10と、を主として備えている。
なお、以下の説明において、「前後」を言うときは、
図1に示した方向を基準とする。
【0013】
リール本体2の上部には、図示しない釣竿に装着される脚部2aが設けられている。また、リール本体2の前端部から前方に向けてスプール軸5(
図2(b)参照)が突出している。さらに、リール本体2には、スプール軸5を前後動させるためのオシレーティング機構(図示せず)が収容されている。
【0014】
魚釣用リール1では、リール本体2の側部に設けられたハンドル6を回転させることで、ロータ3を回転させることができる。また、ロータ3の回転運動に同期してスプール10が前後動するように構成されている。
そして、スプール10が前後動する間に、ロータ3の一対の腕部3a,3aに設けられたベール7で釣り糸が案内され、スプール10の外周面上に釣り糸が均等に巻回される。
【0015】
なお、リール本体2の後部に設けられた切換レバー8を切り替えることで、ロータ3が逆転不能な状態と、正逆転可能な状態とに切り替えることができる。
また、ベール7を
図1に示す巻取り位置から反対側に倒し、釣り糸の放出を阻害しない位置に保持することで、例えばキャスティングのときに、スプール10から釣り糸を放出することができる。
【0016】
スプール10は、
図2(a)に示すように、円筒状のスプール本体11と、スプール本体11の前端開口部に取り付けられた前壁部材12と、を備えている。
前壁部材12は、円板状の金属部材であり、本実施形態ではアルミニウム合金を用いて形成されている。前壁部材12の後端部は、スプール本体11の前端開口部に接着されている。
【0017】
前壁部材12の中心部には、
図2(b)に示すように、スプール軸5の前端部が連結される。そして、リール本体2内のオシレーティング機構(図示せず)によって、スプール軸5と共にスプール10が前後動するように構成されている。
【0018】
スプール本体11には、
図2(a)に示すように、円錐台形状の胴部13と、胴部13の後端側に形成されたスカート部14と、が形成されている。胴部13の外周面は釣り糸が巻回される部位である。
【0019】
胴部13は、前端部から後端部に向かうに従って漸次拡径されている。胴部13の外周面が円錐台形状(テーパ状)に形成されることで、釣り糸の放出がスムーズになる。
【0020】
スカート部14は、胴部13の後端部に連続して形成されており、胴部13よりも拡径されている。スカート部14は、釣り糸がスプール10内に入り込むのを防止するための部位である。
【0021】
本実施形態の胴部13は、四枚の本体用シート21〜24(
図5(d)参照)および二枚の外装用シート31,32(
図6(c)参照)を重ね巻いた積層体を加圧加熱成形することで形成されている。
【0022】
各本体用シート21〜24は、
図3(a)に示すように、円弧状に形成されたプリプレグシート(繊維強化樹脂シート)である。各本体用シート21〜24は、同一形状に形成されている。
本実施形態の各本体用シート21〜24は、エポキシ樹脂に炭素繊維を含有させたプリプレグシートを用いて形成されている。
【0023】
本実施形態の各本体用シート21〜24は、一枚のシートS1から切り出されたものである。シートS1は、繊維方向SF,SFが一方向(
図3(a)の上下方向)に配設されたプリプレグシートである。
【0024】
シートS1内の各本体用シート21〜24は、繊維方向SFに直交する方向に並べられている。また、各本体用シート21〜24は同じ向きに配置されている。
そして、シートS1から切り出された各本体用シート21〜24は、繊維方向SFが同一になる。因みに、本実施形態の各本体用シート21〜24では、長手方向の一端の縁部21b〜24bと繊維方向SFとが直交し、他端の縁部21c〜24cと繊維方向SFとが斜めに交差している。
【0025】
二枚の外装用シート31,32は、
図6(a)に示すように、円弧状に形成されたプリプレグシート(繊維強化樹脂シート)である。各外装用シート31,32は、同一形状に形成されている。
本実施形態の各外装用シート31,32は、エポキシ樹脂に炭素繊維を含有させたプリプレグシートを用いて形成されている。
【0026】
各外装用シート31,32は、繊維方向SFが縦横に直交しており、表面に格子状の模様が形成されている。各外装用シート31,32は、
図6(c)に示すように、各本体用シート21〜24の外側に重ね巻かれる部材である。
各外装用シート31,32は、各本体用シート21〜24(
図3(a)参照)と同様に、一枚のシートS2から切り出されており、繊維方向SFが同一である。
本実施形態の各外装用シート31,32では、長手方向の一端の縁部31b,32bと繊維方向SFとが直交および平行し、他端の縁部31c、32cと繊維方向SFとが斜めに交差している。
【0027】
次に、胴部13を形成する手順について説明する。
図5(a)〜(d)および
図6(b),(c)では、各本体用シート21〜24および各外装用シート31,32の積層状態を分かり易く説明するために、各本体用シート21〜24および各外装用シート31,32の厚みを誇張して示している。
【0028】
本実施形態では、
図4に示すように、スプール本体11(
図2(a)参照)の形状を摸倣した内金型Mを用いて、各本体用シート21〜24(
図5(d)参照)および各外装用シート31,32(
図6(c)参照)を成形する。内金型Mには、前工程において、スカート部14となるプリプレグシートが巻き付けられている。
【0029】
まず、最内層となる第一本体用シート21を内金型Mの外周面に巻き付ける。このとき、
図5(a)に示すように、Aの位置から第一本体用シート21を巻き始め、Aの位置において第一本体用シート21の両端部を重ね合わせる。これにより、第一本体用シート21は円錐台形状に巻かれた状態となる。
第一本体用シート21の両端部を重ね合わせた接合部21aでは、
図3(c)に示すように、両端部の繊維方向SF,SFが交差する。
【0030】
続いて、
図5(b)に示すように、第一本体用シート21の外周面に第二本体用シート22を巻き付ける。このとき、Cの位置から第二本体用シート22を巻き始め、Cの位置において第二本体用シート22の両端部を重ね合わせる。Cの位置は、Aの位置に対して周方向(
図5(b)の右回り)に90度ずれた位置である。
これにより、第二本体用シート22の両端部を重ね合わせた接合部22aは、第一本体用シート21の接合部21aに対して周方向に90度ずれた位置に配置される。
【0031】
第二本体用シート22の接合部22aでは、第一本体用シート21の接合部21a(
図3(c)参照)と同様に、両端部の繊維方向SF,SFが交差する。
なお、第二本体用シート22の接合部22aにおいて繊維方向SF,SFが交差する角度は、第一本体用シート21の接合部21a(
図3(c)参照)において繊維方向SF,SFが交差する角度と同じになる。
【0032】
また、
図5(c)に示すように、第二本体用シート22の外周面に第三本体用シート23を巻き付ける。このとき、Eの位置から第三本体用シート23を巻き始め、Eの位置において第三本体用シート23の両端部を重ね合わせる。
Eの位置は、Cの位置に対して周方向(
図5(c)の右回り)に90度ずれた位置である。したがって、第三本体用シート23の接合部23aは、第二本体用シート22の接合部22aに対して周方向に90度ずれた位置に配置される。
第三本体用シート23の接合部23aにおいて繊維方向SF,SFが交差する角度は、第一本体用シート21の接合部21a(
図3(c)参照)において繊維方向SF,SFが交差する角度と同じになる。
【0033】
さらに、
図5(d)に示すように、第三本体用シート23の外周面に第四本体用シート24を巻き付ける。このとき、Gの位置から第四本体用シート24を巻き始め、Gの位置において第四本体用シート24の両端部を重ね合わせる。
Gの位置は、Eの位置に対して周方向(
図5(d)の右回り)に90度ずれた位置である。したがって、第四本体用シート24の接合部24aは、第三本体用シート23の接合部23aに対して周方向に90度ずれた位置に配置される。
第四本体用シート24の接合部24aにおいて繊維方向SF,SFが交差する角度は、第一本体用シート21の接合部21a(
図3(c)参照)において繊維方向SF,SFが交差する角度と同じである。
【0034】
このようにして、各本体用シート21〜24を重ね巻いて径方向に積層する。
続いて、
図6(b)に示すように、各本体用シート21〜24の積層体の外周面に第一外装用シート31を巻き付ける。このとき、Bの位置から第一外装用シート31を巻き始め、Bの位置において第一外装用シート31の両端部を重ね合わせる。Bの位置は、Aの位置に対して周方向(
図6(b)の右回り)に45度ずれた位置である。
第一外装用シート31の接合部31aでは、第一外装用シート31の両端部の繊維方向SF,SFが交差する。
【0035】
また、
図6(c)に示すように、第一外装用シート31の外周面に第二外装用シート32を巻き付ける。このとき、Fの位置から第二外装用シート32を巻き始め、Fの位置において第二外装用シート32の両端部を重ね合わせる。
Fの位置は、Bの位置に対して周方向(
図6(c)の右回り)に180度ずれた位置である。したがって、第二外装用シート32の接合部32aは、第一外装用シート31の接合部31aに対して周方向に180度ずれた位置に配置される。
第二外装用シート32の接合部32aにおいて繊維方向SF,SFが交差する角度は、第一外装用シート31の接合部31aにおいて繊維方向SF,SFが交差する角度と同じである。
【0036】
このようにして、各本体用シート21〜24の積層体に、両外装用シート31,32を重ね巻いて径方向に積層した後に、第二外装用シート32の外周面に緊締テープを連続的に巻き付けた後に、各本体用シート21〜24および各外装用シート31,32を加圧加熱成形して、各外装用シート31,32と、各本体用シート21〜24と、スカート部14(
図4参照)と、を一体化する。
これにより、四枚の本体用シート21〜24および二枚の外装用シート31,32を径方向に積層した胴部13(
図2(a)参照)が形成される。
【0037】
以上のようなスプール10では、
図6(c)に示すように、四枚の本体用シート21〜24および二枚の外装用シート31,32を径方向に積層して胴部13(
図2(a)参照)が形成されているため、胴部13の剛性を高めることができる。
【0038】
また、スプール10では、
図3(a)に示すように、各本体用シート21〜24が同一の円弧形状かつ同一の繊維方向SFである。したがって、各本体用シート21〜24の接合部21a〜24a(
図5(d)参照)では、繊維が同じ重なり方となる。すなわち、各接合部21a〜24a(
図5(d)参照)では繊維が交差する角度が同一になる。
さらに、
図6(a)に示すように、各外装用シート31,32も同一の円弧形状かつ同一の繊維方向SFである。したがって、各外装用シート31,32の接合部31a,32a(
図6(c)参照)においても繊維が同じ重なり方となり、繊維が交差する角度が同一になる。
【0039】
これにより、スプール10では、
図5(d)に示す各本体用シート21〜24の接合部21a〜24aの剛性が同一になるとともに、
図6(c)に示す各外装用シート31,32の接合部31a,32aの剛性も同一になる。
そして、
図5(d)および
図6(c)に示すように、各本体用シート21〜24の各接合部21a〜24aおよび各外装用シート31,32の各接合部31a,32aは、胴 部13(
図2(a)参照)の周方向に等間隔に配置されている。
【0040】
さらに、
図5(d)に示すように、各本体用シート21〜24は巻く方向が同一であるとともに、各本体用シート21〜24は胴部13の周方向に等間隔にずれて重なる。そのため、胴部13の周方向において各接合部21a〜24aの間の壁部(AからCの間の壁部、CからEの間の壁部、EからGの間の壁部、GからAの間の壁部)は、各本体用シート21〜24の繊維が同じ重なり方となる。すなわち、胴部13の周方向において各接合部21a〜24aの間の壁部は、繊維が交差する角度が同一になる。これにより、胴部13の周方向において各接合部21a〜24aの間の壁部の剛性が同一になる。
【0041】
同様に、
図6(c)に示すように、各外装用シート31,32は巻く方向が同一であるとともに、各外装用シート31,32は胴部13の周方向に等間隔にずれて重なる。そのため、胴部13の周方向において各接合部31a,32aの間の壁部(BからFの間の壁部、FからBの間の壁部)は、各外装用シート31,32の繊維が同じ重なり方となる。すなわち、胴部13の周方向において各接合部31a,32aの間の壁部は、繊維が交差する角度が同一になる。これにより、胴部13の周方向において各接合部31a,32aの間の壁部の剛性が同一になる。
【0042】
したがって、本実施形態のスプール10では、
図2(a)に示す胴部13の剛性をバランス良く高めることができ、胴部13の周方向の剛性を高めることができるため、胴部13をねじれや潰れに対して強くすることができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
例えば、
図7(a)に示すように、各プリプレグシート21〜24の一端の縁部21b〜24bと繊維方向SFとが交差する角度θ1と、各プリプレグシート21〜24の他端の縁部21c〜24cと繊維方向SFとが交差する角度θ2とを同一に形成してもよい。
この構成では、
図7(c)に示すように、接合部21aにおける繊維方向SFの角度と、接合部21aに隣接する壁部における繊維方向SFの角度とが同一になる。したがって、接合部21aの剛性と、接合部21aに隣接する壁部との剛性との差を小さくすることができ、胴部13(
図2(a)参照)の剛性をバランス良く高めることができる。
【0044】
また、
図7(b)に示すように、プリプレグシート21の両端部に亘って連続した繊維SF1を設けた場合には、プリプレグシート21を巻いたときに、周方向に連続した繊維SF1が設けられることになる。
この構成では、胴部13(
図2(a)参照)の周方向の剛性を高めることができ、胴部13をねじれや潰れに対して強くすることができる。
特に、
図7(a)に示すように、四枚のプリプレグシート21〜24の全てに、プリプレグシート21〜24の両端部に亘って連続した繊維SF1を設けた場合には、胴部13(
図2(a)参照)の周方向の剛性をより高めることができる。
【0045】
また、本実施形態では、
図5(c)に示すように、四枚の本体用シート21〜24を積層するとともに、
図6(c)に示すように、二枚の外装用シート31,32を積層しているが、本体用シートおよび外装用シートの枚数は限定されるものではない。
【0046】
また、本実施形態では、エポキシ樹脂に炭素繊維を含有させたプリプレグシートによって、各本体用シート21〜24および各外装用シート31,32が形成されているが、樹脂および強化繊維の種類は限定されるものではない。