(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記無灰炭を配合する石炭が強粘結炭及び非微粘結炭を含み、上記配合炭における強粘結炭の割合が20質量%以上50質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の高炉用コークスの製造方法。
【背景技術】
【0002】
高炉での製鉄で使用されるコークスには、鉄鉱石(酸化鉄)の還元材としての機能、熱源(燃料)としての機能、及びコークス自体と鉄鉱石との荷重に耐えて炉内の通気性を確保するための充填材としての機能の大きくは3つの機能が期待される。これらの機能を果たすため、上記コークスには一定の強度と反応性(還元性及び燃焼性)とが求められる。
【0003】
一般に、コークスは石炭を1000℃ないしそれ以上の高温で蒸し焼きにする(以下、「乾留する」ということがある。)ことにより製造される。強度の高いコークスを得る場合、粘結性の高い、いわゆる強粘結炭が使用されるが、このような強粘結炭は比較的高価である。そのため、コークスの製造コストの低減を目的として、強粘結炭よりも粘結性の低い弱粘結炭に加え、粘結性に乏しい微粘結炭や粘結性のほとんど無い非粘結炭(以下、微粘結炭と非粘結炭とをあわせて「非微粘結炭」ということがある。)もコークス原料として一定量配合される。高強度のコークスが生成するメカニズムはかなりの程度明らかになっており、高強度コークスを効率的に得るための方法が種々提案されている(例えば、国際公開第2010/103828号公報参照)。
【0004】
ここで、乾留過程での石炭粒子の変化について説明する。
図1(a)はこの変化を模式的に表現した図であり、左側が乾留前の石炭粒子(強粘結炭粒子1及び非微粘結炭粒子2)が炉体10の中に存在する状態を示し、右側が乾留後に強粘結炭粒子1が膨張して形成された連続相1aと非微粘結炭粒子2の変質成分2aとが存在する状態を示す。強粘結炭粒子1は乾留過程で溶融し、発生するガスを内包して膨張し、隣接する強粘結炭粒子1と結合することで気泡Aを含む連続相1aを形成する。強粘結炭の割合が一定以上で非微粘結炭の割合が小さい場合には、非微粘結炭粒子2は上記連続相形成過程で強粘結炭に取り込まれるため、欠陥は生じにくい。ところが、
図1(a)のように非微粘結炭の割合が高い場合、強粘結炭粒子1同士の接着が阻害され、内部に粗大欠陥Bをもつ強度の低いコークスが生成する。
【0005】
これに対し、コークスの強度を高める方策の一つとして(1)原料石炭の充填密度を通常より高くする方法がある(
図1(b)参照)。このように充填密度を高めて粒子間の距離を小さくすることで、膨張する強粘結炭により空隙が充填され、欠陥の少ない高強度コークスが生成できる。また、(2)高膨張性の強粘結炭を配合することによっても、コークスの強度を改善できる(
図1(c)参照)。すなわち、膨張率の極めて大きな高膨張性強粘結炭粒子3を配合することにより、その膨張により非微粘結炭粒子2間に押圧力が作用し、また、粒子空隙がこの高膨張性強粘結炭粒子3に由来する連続相3aで効果的に充填されるため、コークス強度が改善される。
【0006】
ところが、上述の高強度コークスの製造方法は、以下のような操業上の問題、あるいは困難性を有する。まず、上記(1)の充填密度を高める方法は、石炭を高度に乾燥させること、石炭の一部を成形して高密度化させること、スタンプチャージなどの機械的処理を行うこと等の特殊な作業が必要であり、いずれもコストがかかる。また、原料石炭を高密度にすることはコークス炉壁に高い圧力を及ぼすおそれがある。
【0007】
次に、(2)高膨張性の強粘結炭を使用する方法は、過剰な膨張が発生することにより、コークス炉壁の損傷や破壊、コークス炉からのコークスの排出の困難化等の予測できない操業上のトラブルを発生させる確率が高まるおそれがある。このような(2)の方法の問題点を改善する対策として、(3)タール等の粘結剤を使用することによって石炭の溶融状態での粘性を抑える方法(特開2001−214171号公報参照)や、(4)非微粘結炭の膨張率を制御する方法(特開2008−156661号公報参照)が提案されている。しかしながら、(3)の方法では粘結剤の添加によるコークスの製造コストの増加が避けられない。また、(4)の方法では、石炭の配合工程が複雑化し、コークスの製造コストが増加し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、膨張によるコークス炉への影響を抑えつつ低コストで高強度のコークスが得られる高炉用コークスの製造方法及びそのような高炉用コークスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、石炭の溶剤抽出処理により得られる抽出成分であり、溶融状態で高い流動性及び膨張性を示す無灰炭を原料石炭に一定値以上配合することで原料石炭の膨張率を20%以下として、原料石炭の膨張によるコークス炉の損傷等を抑制しつつ、高強度の高炉用コークスを得られることを見出した。
【0011】
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、石炭の溶剤抽出処理により得られる無灰炭を石炭に配合する工程、及び上記配合炭を乾留する工程を備える高炉用コークスの製造方法であって、上記配合工程における上記無灰炭の配合量を3質量%以上、かつ配合炭の膨張率を20%以下とすることを特徴とする。
【0012】
当該高炉用コークスの製造方法は、上記範囲の配合量で無灰炭を石炭に配合することで、この無灰炭が乾留時に溶融し原料石炭の隙間を充填するため、得られるコークスの強度を高めることができる。また、当該高炉用コークスの製造方法は、配合炭の膨張率を上記範囲とすることで、配合炭の膨張によるコークス炉への影響を抑制することができる。さらに、この配合炭の膨張率の調整は、無灰炭の配合によって容易に達成することができるため、当該高炉用コークスの製造方法では他の粘結剤等を必要としない。その結果、当該高炉用コークスの製造方法は、炉体の長寿命化を図りつつ低コストで高強度の高炉用コークスを得ることができる。なお、「膨張率」とは、JIS−M8801:2004に準拠して測定される値である。
【0013】
上記配合工程における配合炭の膨張率を10%以上とするとよい。このように配合炭の膨張率を10%以上とすることで、乾留時の粗大な欠陥の発生を抑制し、得られるコークスの強度をさらに高めることができる。
【0014】
上記無灰炭を配合する石炭が強粘結炭及び非微粘結炭を含むとよく、上記配合炭における強粘結炭の割合としては20質量%以上50質量%以下が好ましい。強粘結炭の割合をこのような範囲とすることで、低コストで高強度の高炉用コークスをより容易かつ確実に得ることができる。なお、「強粘結炭」とは、一般に平均最大反射率Roが1.3%以上1.6%以下かつ最高流動度MF(ddpm)の対数(logMF)が0.8以上2.5以下、あるいはRoが1.0%以上1.3%以下かつlogMFが1.5以上4以下の石炭を意味する。「非微粘結炭」とは、一般に微粘結炭及び非粘結炭の総称であり、例えばRoが0.85未満かつlogMFが2.5以下、あるいはRoが0.85以上かつlogMFが2以下の石炭を意味する。ここで、「平均最大反射率Ro」は、JIS−M8816:1992に準拠して測定される値であり、「最高流動度MF」は、JIS−M8801:2004のギーセラープラストメータ法に準拠して測定される値である。
【0015】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、石炭の溶剤抽出処理により得られる無灰炭を石炭に配合した配合炭を乾留してなる高炉用コークスであって、上記配合炭における上記無灰炭の配合量が3質量%以上、かつ配合炭の膨張率が20%以下であることを特徴とする。
【0016】
当該高炉用コークスは、上述の理由により、高い強度を有しながら、膨張によるコークス炉への影響を抑えつつ低コストで製造できる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の高炉用コークスの製造方法は、膨張によるコークス炉への影響を抑えつつ低コストで高強度の高炉用コークスが得られる。このような高炉用コークスは、製鉄材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る高炉用コークスの製造方法及び高炉用コークスの実施形態について説明する。
【0020】
[高炉用コークスの製造方法]
当該高炉用コークスの製造方法は、石炭の溶剤抽出処理により得られる無灰炭を石炭に配合する工程(配合工程)、及び上記配合炭を乾留する工程(乾留工程)を備える。
【0021】
<配合工程>
配合工程において、無灰炭をコークスの原料である石炭に配合し、配合炭を得る。
【0022】
(石炭)
当該高炉用コークスの製造方法でコークスの原料として用いる石炭は特に限定されず、強粘結炭、準強粘結炭、弱粘結炭、微粘結炭、非粘結炭等を乾留により石炭全体の融着が可能となる適度な割合で組み合わせて用いることができる。特に、原料石炭は強粘結炭及び非微粘結炭を含むとよい。
【0023】
原料石炭における強粘結炭の割合の上限としては、より安価に高品質のコークスを製造する観点から、50質量%が好ましく、40質量%がより好ましい。一方、原料石炭における強粘結炭の割合の下限としては、20質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。強粘結炭の割合が上記上限を超える場合、コークスの製造コストが増大するおそれがある。逆に、強粘結炭の割合が上記下限未満の場合、得られるコークスの強度が不十分となるおそれがある。
【0024】
原料石炭は、微細に粉砕された粒状とすることが好ましい。原料石炭を粒状とする場合、原料石炭の平均粒子径D20としては3mm以下が好ましい。平均粒子径D20が3mmを超える場合、無灰炭との混合性や、得られるコークスの強度が不十分となるおそれがある。なお、「平均粒子径D20」とは、全粒子をJIS−Z8801−1:2006に規定される金属製網篩で目の大きな篩から順に篩分けした際に、篩の上に残った粒子の累積体積が全粒子の体積の20%になったときの篩の目の大きさを意味する。
【0025】
なお、原料石炭は、風乾等により乾燥炭としてもよいが、水分を含んだ状態のものを用いてもよい。
【0026】
(無灰炭)
無灰炭(ハイパーコール、HPC)は、石炭を改質した改質炭の一種であり、溶剤を用いて石炭から灰分と非溶解性成分とを可能な限り除去した改質炭である。しかしながら、無灰炭の流動性や膨張性を著しく損ねない範囲で、無灰炭は灰分を含んでもよい。一般に石炭は7質量%以上20質量%以下の灰分を含むが、当該高炉用コークスの製造方法に用いる無灰炭においては2%程度、場合によっては5%程度の灰分を含んでもよい。なお、「灰分」とは、JIS−M8812:2004に準拠して測定される値を意味する。
【0027】
このような無灰炭は、石炭をこの石炭と親和性の高い溶剤に混合し、灰分等の溶剤に不溶な成分を分離した抽出液を得て、この抽出液から溶剤を除去する溶剤抽出処理により得ることができる。溶剤抽出処理の具体的な方法としては、例えば特許第4045229号公報に開示された方法を用いることができる。このような溶剤抽出処理で得られる無灰炭は、実質的に灰分を含まず、溶剤に可溶で軟化溶融性を示す有機物を多く含有し、構造的には縮合芳香環が2又は3環の比較的低分子量の成分から縮合芳香環が5又は6環程度の高分子量の成分まで広い分子量分布を有する。そのため、無灰炭は、加熱下で高い流動性を示し、その原料とした石炭の品質に関わらず一般的に150℃以上300℃以下で溶融する。加えて、無灰炭は、300℃以上500℃以下程度の乾留初期過程で多量の揮発分を生成しながら膨張する。また、無灰炭は、石炭と溶剤との混合物(スラリー)の脱水を経て得られるため、水分が0.2質量%以上3質量%以下程度であり、発熱量を十分に有する。
【0028】
このように無灰炭は、熱流動性に優れると共に粘結性が高いため、非微粘結炭の粘結性を補填することができる。具体的には、
図2に示すように、無灰炭粒子4を原料石炭粒子(強粘結炭粒子1及び非微粘結炭2)に分散配合することで、コークス炉内で無灰炭粒子4が原料石炭粒子よりも低い温度で流動し始め、温度上昇の遅いコークス炉中心部も含めて無灰炭粒子4に由来する連続相4aが略均一に形成される。これにより、強粘結炭粒子1に由来する連続相1a及び非微粘結炭粒子2の変質成分2aが連結され、粒子間の空隙が充填される。さらに無灰炭は膨張性が強粘結炭よりも高いために、大きな荷重がかかるコークス炉の下部においても無灰炭粒子4が膨張することで石炭粒子が連結され粒子間の空隙が充填される。その結果、コークスの破壊の起点になり得る石炭粒子間の接着不良(マクロな亀裂)や過剰膨張(粗大な気孔)の発生等の欠陥が軽減され、コークス炉内の位置によるコークスの品質のばらつきを抑制することができる。一方で、無灰炭の溶融状態の粘度は強粘結炭に比べて小さいため、原料石炭に無灰炭を配合した配合炭の膨張率は過度に大きくならない。そのため、無灰炭を配合することで、配合炭の膨張率の増加抑制とコークスの強度向上とを両立することができる。このように無灰炭を粘結剤として用いることで、コークス炉の寿命を延長させながら、高強度の高炉用コークスを低コストで得ることができる。
【0029】
本配合工程における無灰炭の配合量の下限としては、3質量%であり、4質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。一方、無灰炭の配合量の上限としては、15質量%が好ましく、12質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましい。無灰炭の配合量が上記下限未満の場合、上述した石炭粒子の連結効果が十分得られず、コークスの強度が不十分となるおそれがある。逆に、無灰炭の配合量が上記上限を超える場合、配合炭の膨張率が高くなり過ぎ炉体に影響を与えるおそれがあるほか、コークスの製造コストが増大する。
【0030】
なお、上記下限の3質量%は以下のように算出できる。まず、無灰炭を含まない原料石炭を乾留した際の空隙率はおおよそ10体積%である。この空隙を無灰炭が満たすことができるかどうかが問題となる。ここで無灰炭は、溶融状態での流動性が通常の石炭に比べて著しく高いため、JIS法による膨張率測定は適用できない。そこで、無灰炭の膨張率は以下の方法で測定される。まず、内径15mmの石英試験管に、粒径2mm以下に粉砕した無煙炭1.8gと、粒径200μm以下に粉砕した無灰炭0.2gとを詰め、3℃/minで500℃まで加熱処理し、加熱前の試料の高さに対する加熱後の試料の高さの比から膨張率V
10%(%)を求める。つぎに、同じく内径15mmの石英試験管に、粒径2mm以下に粉砕した無煙炭1.6gと、粒径200μm以下に粉砕した無灰炭0.4gとを詰め、3℃/minで500℃まで加熱処理し、加熱前の試料の高さに対する加熱後の試料の高さの比から膨張率V
20%(%)を求める。無灰炭の膨張率D(%)は下記式(1)で求められる。
D=(V
20%−V
10%)/(20−10)×100(%) ・・・(1)
【0031】
この方法で測定された無灰炭の膨張率は、無灰炭の原料や製造条件にもよるが、およそ300%程度(200%以上500%以下)である。従って、空隙の大部分、例えば空隙の80%を充填するのに必要な無灰炭の体積は、10×0.8/300×100%=2.6体積%となる。無灰炭の比重と原料石炭の比重とは略同じと見なせるため、上記空隙を充填するための無灰炭の質量割合は3質量%とされる。なお、上記測定方法で無煙炭を使用する理由は以下による。無煙炭は、石炭のうちでも石炭化度がもっとも高い部類のものであり、製鉄コークス製造用原料石炭の一部としてしばしば使用されるが、粘結性や流動性を全く持たない。上記測定方法で無煙炭を使用するのはまさにそれが理由であり、すなわち、無煙炭は乾留過程で溶融したり、膨張したりすることがないため、無灰炭が石炭粒子と混合されて乾留される過程での膨張率をより高い精度で推定できると期待されるからである。
【0032】
当該高炉用コークスの製造方法に用いる無灰炭の原料となる石炭については、特に品質を問わない。また、無灰炭は分散性を高めコークスの強度を大きくする観点から粒径の小さい粒子状であることが好ましい。無灰炭粒子の最大径の上限としては、1mmが好ましい。無灰炭粒子の最大径が上記範囲を超える場合、上述した石炭粒子の連結効果が十分得られず、コークスの強度が不十分となるおそれがある。なお、無灰炭粒子の最大径とは、例えば電子顕微鏡等で撮影した無灰炭粒子の外形の最大長さ(2点間の最大距離)を意味する。
【0033】
(配合炭)
原料石炭に無灰炭を配合した配合炭の最高流動度の対数(logMF)の下限としては、1.8が好ましく、2がより好ましく、2.1がさらに好ましい。一方、配合炭のlogMFの上限としては、3が好ましく、2.5がより好ましく、2.3がさらに好ましい。配合炭のlogMFが上記下限未満の場合、配合炭の流動度が不足し、得られるコークスの強度が不十分となるおそれがある。逆に、配合炭のlogMFが上記上限を超える場合、流動度が過剰となってコークス内に気泡が発生し易くなるおそれがある。なお、最高流動度MFは熱流動性の大きさを主に示し、配合炭のlogMFは、原料石炭に含まれる全石炭及び無灰炭のlogMFを加重平均した値を意味する。
【0034】
配合炭の平均最大反射率Roの下限としては、0.95が好ましく、1がより好ましい。一方、配合炭の平均最大反射率Roの上限としては、1.3が好ましく、1.2がより好ましい。配合炭の平均最大反射率Roが上記下限未満の場合、配合炭の石炭化度の低さに起因して石炭又は無灰炭の膨張及び融着が不十分となり、得られるコークスの強度が不十分となるおそれがある。逆に、配合炭の平均最大反射率Roが上記上限を超える場合、膨張率が高くなり過ぎ炉体に影響を与えるおそれがある。なお、平均最大反射率Roは石炭化度を主に示し、配合炭のRoは、原料石炭に含まれる全石炭及び無灰炭のRoを加重平均した値を意味する。
【0035】
配合炭の膨張率の上限としては、20%であり、19%が好ましく、18%がより好ましい。一方、配合炭の膨張率の下限としては、10%が好ましく、12%がより好ましく、14%がさらに好ましい。配合炭の膨張率が上記上限を超える場合、配合炭の膨張によるコークス炉の損傷が発生するおそれがある。逆に、配合炭の膨張率が上記下限未満の場合、石炭又は無灰炭の膨張及び融着が不十分となり、得られるコークスの強度が不十分となるおそれがある。なお、石炭の膨張現象は、石炭粒子間の相互作用に影響を受けるため、配合炭の膨張率は、配合炭に含まれる石炭及び無灰炭の膨張率の加重平均とはならず、正確に予測することは困難とされている。
【0036】
原料石炭への無灰炭の配合方法は、特に限定されず、例えば公知のミキサーに原料石炭及び無灰炭をそれぞれホッパーから投入して、常法で粉砕しながら攪拌する方法を用いることができる。この方法を用いることで、無灰炭が凝集した二次粒子を粉砕すると共に、原料石炭を粒状に粉砕することができる。また、予め粉砕した石炭及び無灰炭を混合してもよい。
【0037】
また、原料石炭に無灰炭以外の粘結剤を添加してもよいが、当該コークスの製造方法では上述のように無灰炭によって石炭粒子が連結されるため、粘結剤を入れる必要性がない。そのため、コスト低減の観点から配合炭が無灰炭以外の粘結剤を含まないことが好ましい。
【0038】
<乾留工程>
乾留工程において、上記配合炭をコークス炉に装入し乾留することでコークスを得る。このコークス炉としては例えば1門あたり30ton程度を装入可能な炉体を有するものを用いることができる。
【0039】
配合炭のコークス炉への装入時の充填密度の下限としては、720kg/m
3が好ましく、730kg/m
3がより好ましい。一方、上記充填密度の上限としては、850kg/m
3が好ましく、800kg/m
3がより好ましい。上記充填密度が上記下限未満の場合、コークスの強度が不十分となるおそれがある。逆に、上記充填密度が上記上限を超える場合、炉体に加わる圧力が高くなり炉体を損傷するおそれや、配合炭の充填密度を向上させる作業によりコークスの製造コストが上昇するおそれがある。なお、「充填密度」とは、JIS−K2151:2004に準拠して測定されるかさ密度を意味する。
【0040】
配合炭の乾留温度の下限としては、950℃が好ましく、1000℃がより好ましい。一方、乾留温度の上限としては、1200℃が好ましく、1050℃がより好ましい。乾留温度が上記下限未満の場合、石炭の溶融が不十分となりコークスの強度が低下するおそれがある。逆に、乾留温度が上記上限を超える場合、炉体の耐熱性や燃料消費の観点から製造コストが上昇するおそれがある。
【0041】
配合炭の乾留時間の下限としては、8時間が好ましく、10時間がより好ましい。一方、乾留時間の上限としては、24時間が好ましく、20時間がより好ましい。乾留時間が上記下限未満の場合、石炭の溶融が不十分となりコークスの強度が低下するおそれがある。逆に、乾留時間が上記上限を超える場合、燃料消費の観点から製造コストが上昇するおそれがある。
【0042】
<利点>
当該高炉用コークスの製造方法は、無灰炭の配合量が上記範囲となるよう石炭に配合することで、この無灰炭が乾留時に溶融し原料石炭の隙間を充填するため、得られるコークスの強度を高めることができる。また、当該高炉用コークスの製造方法は、配合炭の膨張率を上記範囲とすることで、配合炭の膨張によるコークス炉への影響を抑制することができる。さらに、この配合炭の膨張率の調整は、無灰炭の配合によって容易に達成することができるため、当該高炉用コークスの製造方法では他の粘結剤等を必要としない。その結果、当該高炉用コークスの製造方法は、炉体の長寿命化を図りつつ低コストで高強度の高炉用コークスを得ることができる。
【0043】
[高炉用コークス]
本発明の高炉用コークスは、石炭の溶剤抽出処理により得られる無灰炭を石炭に配合した配合炭を乾留してなる。当該高炉用コークスは、上記配合炭における上記無灰炭の配合量及び配合炭の膨張率がそれぞれ上述した範囲とされる。そのため、当該高炉用コークスは低コストながら高い強度を有する。
【実施例】
【0044】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
<無灰炭の製造>
ハイパーコール連続製造設備(Bench Scale Unit)を用い、以下の方法により無灰炭を製造した。まず、オーストラリア産瀝青炭を無灰炭の原料石炭とし、この原料石炭5kg(乾燥炭換算質量)と、溶剤としての4倍量(20kg)の1−メチルナフタレン(新日鉄化学社製)とを混合して、スラリーを調製した。このスラリーを内容積30Lのバッチ式オートクレーブ中に入れ窒素を導入して1.2MPaに加圧し、370℃で1時間加熱した。このスラリーを上述の温度及び圧力を維持した重力沈降槽内で上澄液と固形分濃縮液とに分離し、上澄液から蒸留法で溶剤を分離及び回収して、2.7kgの無灰炭Aを得た。得られた無灰炭Aは、灰分が0.9質量%であり、最高流動度の対数logMF及び平均最大反射率Roが表1に示す通りであった。この無灰炭Aをその全て(100質量%)が最大径3mm以下になるように粉砕した。
【0046】
<実施例1〜4及び比較例8>
上述のように製造した無灰炭Aを用いて、以下の手順で実施例1〜4及び比較例8の高炉用コークスを製造した。
【0047】
(配合工程)
上記無灰炭A及び表1に示す特性の各種原料石炭をそれぞれ水分7.5質量%に調整し、乾燥炭基準で表2に示す配合にて混合し配合炭を得た。このとき、原料石炭はその全て(100質量%)が最大径3mm以下になるように粉砕したものを用いた。なお、表1に示す石炭及び無灰炭の最高流動度MF(dppm)は、JIS−M8801:2004に準拠しギーセラープラストメータ法にて測定した。また、平均最大反射率Ro(%)は、JIS−M8816:1992に準拠して測定し、膨張率(%)は、JIS−M8801:2004に準拠して測定した。
【0048】
上記配合炭について、各種原料石炭及び無灰炭のそれぞれの配合比から、最高流動度MFを算出した。さらに、JIS−M8801:2004に準拠して配合炭の膨張率を測定した。これらの値を表2に示す。
【0049】
(乾留工程)
上記配合炭を鋼製のレトルトに並べて入れて、このレトルトに振動を与え表2に示す充填密度に調整した後、両面加熱式電気炉に入れ、窒素気流中で乾留した。乾留条件は、3℃/分で昇温した後、1000℃で20分間加熱するものとした。乾留後、レトルトを電気炉から取り出して自然放冷し、高炉用コークスを得た。
【0050】
<比較例1〜7>
無灰炭を配合しない点以外は、上記実施例1〜4及び比較例8と同様の手順で、表2に示す配合で原料石炭を配合し、この配合炭を乾留することで比較例1〜7の高炉用コークスを得た。
【0051】
<比較例9〜11>
上記無灰炭Aと同様の手順で得た表1に示す性状の無灰炭Mを用いた点、並びに表1に示す上記実施例1〜4及び比較例1〜8で用いたものとは異なる原料石炭を用いた点以外は、上記実施例1〜4及び比較例8と同様の手順で、表2に示す配合で原料石炭を配合し、この配合炭を乾留することで比較例9〜11の高炉用コークスを得た。なお、これらの比較例9〜11は、特開2014−015502号公報に記載の実施例の一部である。
【0052】
<評価>
上記実施例1〜4及び比較例1〜11の高炉用コークスについて、ドラム強度指数DIを測定した。具体的には、JIS−K2151:2004に準拠し、高炉用コークスをドラムで150回転させた後にJIS−Z8801−2:2006に規定される目開き15mmの金属板篩で選別し、篩上に残存した高炉用コークスの質量比(DI
15015)を求めた。また、強度の合格基準はDI>84.5%とし、これを満たす高炉用コークスを合格としてA、満たさない高炉用コークスを不合格としてBと評価した。これらの結果を表2に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1に示されるように、無灰炭を3質量%以上配合した実施例1〜4の高炉用コークスは、ドラム強度指数DIが84.5%以上であり高い強度を有すると共に、配合炭の膨張率が20%以下であるため、コークス炉への損傷が防止される。さらに、実施例1〜4は、充填密度が740kg/m
3と比較的小さいため、製造コストに優れる。
【0056】
一方、強粘結炭の割合が高い比較例1の高炉用コークスは強度には優れるが配合炭の膨張率が34%と高く、コークス炉を損傷させるおそれがある。非微粘結炭の割合を増加した比較例2、6、7の高炉用コークスは、配合炭の膨張率は小さいが強度が不十分である。高膨張性の強粘結炭Aの割合を高めた比較例3の高炉用コークスは、高い強度が得られるものの、配合炭の膨張率が26%と高くコークス炉を損傷させるおそれがあるほか、強粘結炭Aを多く使うため高コストである。充填密度を増加させた比較例4の高炉用コークスは、十分な強度を有しコークス炉に損傷を与えるおそれも小さいが、充填処理が必要となるためコスト上昇が避けられない。同じく充填密度を上昇させた比較例5の高炉用コークスは、強度が不足すると共に、比較例4と同様、コスト上昇が避けられない。比較例8の高炉用コークスは、無灰炭を配合しているものの、その配合量が3質量%未満であるため、十分な強度が確保できていない。比較例9〜11の高炉用コークスも無灰炭を配合しているものの、強粘結炭Gの膨張率が非常に高いため、配合炭の膨張率も高く、長期的にみるとコークス炉にダメージを与えるおそれが大きくなる。
【0057】
なお、表2の結果からは、logMFと膨張率及びドラム強度指数との間には直接的な相関関係がないことがわかる。そのため、logMFを指標として高強度かつ低コストでコークス炉への影響の小さい高炉用コークスを得ることは困難である。