特許第6227497号(P6227497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

特許6227497燃料電池システム及び燃料電池システムの制御方法
<>
  • 特許6227497-燃料電池システム及び燃料電池システムの制御方法 図000002
  • 特許6227497-燃料電池システム及び燃料電池システムの制御方法 図000003
  • 特許6227497-燃料電池システム及び燃料電池システムの制御方法 図000004
  • 特許6227497-燃料電池システム及び燃料電池システムの制御方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227497
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】燃料電池システム及び燃料電池システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04746 20160101AFI20171030BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20171030BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20171030BHJP
【FI】
   H01M8/04 A
   H01M8/04 J
   H01M8/10
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-154745(P2014-154745)
(22)【出願日】2014年7月30日
(65)【公開番号】特開2016-31878(P2016-31878A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2016年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】水本 和也
(72)【発明者】
【氏名】高久 晃一
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−146923(JP,A)
【文献】 特開2007−317597(JP,A)
【文献】 特開2013−239351(JP,A)
【文献】 特開2003−317764(JP,A)
【文献】 特開2004−022366(JP,A)
【文献】 特開2008−041265(JP,A)
【文献】 特開2011−138790(JP,A)
【文献】 特開2007−200561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00− 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、
燃料ガスを貯蔵する燃料ガス貯蔵手段と、
前記燃料電池と前記燃料ガス貯蔵手段とを接続する燃料ガス供給配管と、
前記燃料ガス供給配管に設けられたインジェクタと、
前記燃料ガス貯蔵手段と前記インジェクタとの間に設けられた圧力調整手段と、
前記圧力調整手段を制御する制御手段と、
を備える燃料電池システムであって、
前記制御手段は、
前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を所定圧に設定する通常発電モードと、
前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を前記所定圧よりも低く設定する低負荷発電モード、を有し、
要求発電量が所定値以上の場合、前記通常発電モードで前記圧力調整手段を制御し、
前記要求発電量が所定値未満の場合、前記低負荷発電モードで前記圧力調整手段を制御し、前記インジェクタの作動音を前記燃料電池システムのうち前記インジェクタ以外の部品の作動音よりも小さくし、
前記所定値は、前記燃料電池システムのうち前記インジェクタ以外の部品の作動音が、前記通常発電モード時のインジェクタの作動音と同じ大きさとなるときの要求発電量であることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
燃料電池と、
燃料ガスを貯蔵する燃料ガス貯蔵手段と、
前記燃料電池と前記燃料ガス貯蔵手段とを接続する燃料ガス供給配管と、
前記燃料ガス供給配管に設けられたインジェクタと、
前記燃料ガス貯蔵手段と前記インジェクタとの間に設けられた圧力調整手段と、
前記圧力調整手段を制御する制御手段と、
を備える燃料電池システムであって、
前記制御手段は、
前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を所定圧に設定する通常発電モードと、
前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を前記所定圧よりも低く設定する低負荷発電モード、を有し、
要求発電量が所定値以上の場合、前記通常発電モードで前記圧力調整手段を制御し、
前記要求発電量が所定値未満の場合、前記低負荷発電モードで前記圧力調整手段を制御し、前記インジェクタの作動音を前記燃料電池システムのうち前記インジェクタ以外の部品の作動音よりも小さくし、
前記圧力調整手段は、
前記燃料ガス貯蔵手段と前記インジェクタとの間に設けられた第1減圧装置と、
前記第1減圧装置と前記インジェクタとの間に設けられた開閉弁と、
前記開閉弁をバイパスして設けられた第2減圧装置と、
を備え、
前記制御手段は、前記低負荷発電モード時、前記開閉弁を閉弁する
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
前記圧力調整手段は、前記燃料ガス貯蔵手段と前記インジェクタとの間に設けられ、二次側圧力を可変可能な可変減圧装置を備え、
前記制御手段は、前記低負荷発電モード時、前記インジェクタに供給される燃料ガスの圧力を前記通常発電モード時よりも低くなるように前記可変減圧装置を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
燃料電池と、
燃料ガスを貯蔵する燃料ガス貯蔵手段と、
前記燃料電池と前記燃料ガス貯蔵手段とを接続する燃料ガス供給配管と、
前記燃料ガス供給配管に設けられたインジェクタと、
前記燃料ガス貯蔵手段と前記インジェクタとの間に設けられた圧力調整手段と、
前記圧力調整手段を制御する制御手段と、
を備える燃料電池システムの制御方法であって、
前記制御手段は、
前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を所定圧に設定する通常発電モードと、
前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を前記所定圧よりも低く設定する低負荷発電モード、を有し、
前記制御手段は、
要求発電量が所定値以上であるか否か判定する判定工程と、
前記要求発電量が所定値以上でないと判定した場合、前記低負荷発電モードで前記圧力調整手段を制御し、前記インジェクタの作動音を、前記燃料電池システムのうち前記インジェクタ以外の部品の作動音よりも小さくする圧力低減工程と、
を有し、
前記所定値は、前記燃料電池システムのうち前記インジェクタ以外の部品の作動音が、前記通常発電モード時のインジェクタの作動音と同じ大きさとなるときの要求発電量である
ことを特徴とする燃料電池システムの制御方法。
【請求項5】
燃料電池と、
燃料ガスを貯蔵する燃料ガス貯蔵手段と、
前記燃料電池と前記燃料ガス貯蔵手段とを接続する燃料ガス供給配管と、
前記燃料ガス供給配管に設けられたインジェクタと、
前記燃料ガス貯蔵手段と前記インジェクタとの間に設けられた圧力調整手段と、
前記圧力調整手段を制御する制御手段と、
を備える燃料電池システムの制御方法であって、
前記制御手段は、
前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を所定圧に設定する通常発電モードと、
前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を前記所定圧よりも低く設定する低負荷発電モード、を有し、
前記制御手段は、
要求発電量が所定値以上であるか否か判定する判定工程と、
前記要求発電量が所定値以上でないと判定した場合、前記低負荷発電モードで前記圧力調整手段を制御し、前記インジェクタの作動音を、前記燃料電池システムのうち前記インジェクタ以外の部品の作動音よりも小さくする圧力低減工程と、
を有し、
前記圧力調整手段は、
前記燃料ガス貯蔵手段と前記インジェクタとの間に設けられた第1減圧装置と、
前記第1減圧装置と前記インジェクタとの間に設けられた開閉弁と、
前記開閉弁をバイパスして設けられた第2減圧装置と、
を備え、
前記制御手段は、前記低負荷発電モード時、前記開閉弁を閉弁する
ことを特徴とする燃料電池システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム及び燃料電池システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムでは、燃料電池への水素供給手段として、インジェクタが利用されている。このインジェクタは、制御手段からの信号に応じてプランジャが作動し、高圧の水素を断続的に噴射することができる装置である。
ところで、下記特許文献1によれば、要求発電量が小さくなるにつれて、インジェクタの駆動周期を長く設定し(デューティ比は不変)、一周期あたりの噴射量を増加させる制御方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−165186号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記特許文献1の技術のように、一周期あたりの噴射量を増加させると、インジェクタの作動音(プランジャの打音や噴射音など)が大きくなる。
一方で、要求発電量が小さい低負荷発電時では、通常発電時よりも燃料電池システム全体の作動音(例えば、コンプレッサの駆動音など)が小さくなり、インジェクタの作動音の方が大きくなってしまうおそれがある。
このため、低負荷発電時において、通常発電時に聞こえなかったインジェクタの作動音がユーザに聞こえてしまい、違和感を与える。
【0005】
そこで、本発明は、前記する背景に鑑みて創案された発明であって、低負荷発電時にユーザに違和感を与え難い燃料電池システム及び燃料電池システムの制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係る燃料電池システムは、燃料電池と、燃料ガスを貯蔵する燃料ガス貯蔵手段と、前記燃料電池と前記燃料ガス貯蔵手段とを接続する燃料ガス供給配管と、前記燃料ガス供給配管に設けられたインジェクタと、前記燃料ガス貯蔵手段と前記インジェクタとの間に設けられた圧力調整手段と、前記圧力調整手段を制御する制御手段と、を備える燃料電池システムであって、前記制御手段は、前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を所定圧に設定する通常発電モードと、前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を前記所定圧よりも低く設定する低負荷発電モード、を有し、要求発電量が所定値以上の場合、前記通常発電モードで前記圧力調整手段を制御し、前記要求発電量が所定値未満の場合、前記低負荷発電モードで前記圧力調整手段を制御し、前記インジェクタの作動音を前記燃料電池システムのうち前記インジェクタ以外の部品の作動音よりも小さくし、前記所定値は、前記燃料電池システムのうち前記インジェクタ以外の部品の作動音が、前記通常発電モード時のインジェクタの作動音と同じ大きさとなるときの要求発電量であることを特徴とする。
【0007】
前記する発明によれば、要求発電量が小さく低負荷発電モードが選択された場合、インジェクタの上流側の圧力が低くなり、インジェクタの作動音が通常発電時よりも小さくなる。よって、燃料電池システム全体の作動音よりもインジェクタの作動音の方が大きくなるという事態が回避され、ユーザに違和感を与え難い。
【0009】
また、前記する発明において、前記圧力調整手段は、前記燃料ガス貯蔵手段と前記インジェクタとの間に設けられ、二次側圧力を可変可能な可変減圧装置を備え、前記制御手段は、前記低負荷発電モード時、前記インジェクタに供給される燃料ガスの圧力を前記通常発電モード時よりも低くなるように前記可変減圧装置を制御してもよい。
【0010】
また、本発明に係る燃料電池システムは、燃料電池と、燃料ガスを貯蔵する燃料ガス貯蔵手段と、前記燃料電池と前記燃料ガス貯蔵手段とを接続する燃料ガス供給配管と、前記燃料ガス供給配管に設けられたインジェクタと、前記燃料ガス貯蔵手段と前記インジェクタとの間に設けられた圧力調整手段と、前記圧力調整手段を制御する制御手段と、を備える燃料電池システムであって、前記制御手段は、前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を所定圧に設定する通常発電モードと、前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を前記所定圧よりも低く設定する低負荷発電モード、を有し、要求発電量が所定値以上の場合、前記通常発電モードで前記圧力調整手段を制御し、前記要求発電量が所定値未満の場合、前記低負荷発電モードで前記圧力調整手段を制御し、前記インジェクタの作動音を前記燃料電池システムのうち前記インジェクタ以外の部品の作動音よりも小さくし、前記圧力調整手段は、前記燃料ガス貯蔵手段と前記インジェクタとの間に設けられた第1減圧装置と、前記第1減圧装置と前記インジェクタとの間に設けられた開閉弁と、前記開閉弁をバイパスして設けられた第2減圧装置と、を備え、前記制御手段は、前記低負荷発電モード時、前記開閉弁を閉弁することを特徴とする
【0012】
また、前記課題を解決するための手段として、本発明に係る燃料電池システムの制御方
法は、燃料電池と、燃料ガスを貯蔵する燃料ガス貯蔵手段と、前記燃料電池と前記燃料ガス貯蔵手段とを接続する燃料ガス供給配管と、前記燃料ガス供給配管に設けられたインジェクタと、前記燃料ガス貯蔵手段と前記インジェクタとの間に設けられた圧力調整手段と、前記圧力調整手段を制御する制御手段と、を備える燃料電池システムの制御方法であって、前記制御手段は、前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を所定圧に設定する通常発電モードと、前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を前記所定圧よりも低く設定する低負荷発電モード、を有し、前記制御手段は、要求発電量が所定値以上であるか否か判定する判定工程と、前記要求発電量が所定値以上でないと判定した場合、前記低負荷発電モードで前記圧力調整手段を制御し、前記インジェクタの作動音を、前記燃料電池システムのうち前記インジェクタ以外の部品の作動音よりも小さくする圧力低減工程と、を有し、前記所定値は、前記燃料電池システムのうち前記インジェクタ以外の部品の作動音が、前記通常発電モード時のインジェクタの作動音と同じ大きさとなるときの要求発電量であることを特徴とする。

また、本発明に係る燃料電池システムの制御方法は、燃料電池と、燃料ガスを貯蔵する燃料ガス貯蔵手段と、前記燃料電池と前記燃料ガス貯蔵手段とを接続する燃料ガス供給配管と、前記燃料ガス供給配管に設けられたインジェクタと、前記燃料ガス貯蔵手段と前記インジェクタとの間に設けられた圧力調整手段と、前記圧力調整手段を制御する制御手段と、を備える燃料電池システムの制御方法であって、前記制御手段は、前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を所定圧に設定する通常発電モードと、前記インジェクタに供給される前記燃料ガスの圧力を前記所定圧よりも低く設定する低負荷発電モード、を有し、前記制御手段は、要求発電量が所定値以上であるか否か判定する判定工程と、前記要求発電量が所定値以上でないと判定した場合、前記低負荷発電モードで前記圧力調整手段を制御し、前記インジェクタの作動音を、前記燃料電池システムのうち前記インジェクタ以外の部品の作動音よりも小さくする圧力低減工程と、を有し、前記圧力調整手段は、前記燃料ガス貯蔵手段と前記インジェクタとの間に設けられた第1減圧装置と、前記第1減圧装置と前記インジェクタとの間に設けられた開閉弁と、前記開閉弁をバイパスして設けられた第2減圧装置と、を備え、前記制御手段は、前記低負荷発電モード時、前記開閉弁を閉弁することを特徴とする。
【0013】
前記する発明によれば、要求発電量が所定値よりも低い場合、圧力低減工程によってインジェクタの上流側の圧力が低くなり、インジェクタの作動音が通常発電時よりも小さくなる。よって、燃料電池システム全体の作動音よりもインジェクタの作動音の方が大きくなるという事態が回避され、ユーザに違和感を与え難い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低負荷発電時にユーザに違和感を与え難い燃料電池システム及び燃料電池システムの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る燃料電池システムの構成を示す図である。
図2】システムの作動音とインジェクタの作動音との関係を説明するための図である。
図3】本実施形態に係る燃料電池システムの通常時の動作を示すフローチャートである。
図4】変形例に係る燃料電池システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、本実施形態では、モータにより駆動する燃料電池車(移動体)に燃料電池システムが搭載された例を挙げて説明するが、本発明は移動体に限らず、据え置き型などの固定設備に備え付けてもよく、特に限定されない。
【0017】
≪燃料電池システムの構成≫
図1に示すように、燃料電池システム1は、燃料電池スタック10と、燃料電池スタック10のアノードに対して水素(燃料ガス)を給排するアノード系と、燃料電池スタック10のカソードに対して酸素を含む空気(酸化剤ガス)を給排するカソード系と、燃料電池スタック10の発電電力を消費する電力消費系と、これらを電子制御するECU70(Electronic Control Unit:電子制御装置)と、を備えている。
【0018】
<燃料電池スタック>
燃料電池スタック10は、複数(例えば200〜400枚)の固体高分子型の単セル11を積層することで構成されている。単セル11は、MEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)と、MEAを挟むアノードセパレータ及びカソードセパレータと、を備えている。
【0019】
MEAは、1価の陽イオン交換膜(例えばパーフルオロスルホン酸型)からなる電解質膜(固体高分子膜)と、電解質膜を挟むアノード及びカソードと、を備えている。アノード及びカソードは、カーボンペーパ等の導電性を有する多孔質体から主に構成され、アノード及びカソードにおける電極反応を生じさせるための触媒(Pt、Ru等)を含んでいる。
【0020】
アノードセパレータには、各MEAのアノードに対して水素を給排するため、単セル11の積層方向に延びる貫通孔や単セル11の面方向に延びる溝が形成され、貫通孔及び溝が内部アノード流路12として機能している。
同様に、カソードセパレータには、各MEAのカソードに対して空気を給排するため、単セル11の積層方向に延びる貫通孔や単セル11の面方向に延びる溝が形成され、貫通孔及び溝が内部カソード流路13として機能している。
【0021】
内部アノード流路12を介して各アノードに水素が供給されると、式(1)の電極反応が起こり、内部カソード流路13を介して各カソードに空気が供給されると、式(2)の電極反応が起こる。この結果、各単セル11で電位差(OCV(Open Circuit Voltage)、開回路電圧)が発生する。次いで、燃料電池スタック10とモータ52等の外部負荷とが電気的に接続されて電流が取り出されると、燃料電池スタック10が発電する。
【0022】
2H→4H+4e…(1)
+4H+4e→2HO …(2)
【0023】
<アノード系>
アノード系は、高圧タンク(燃料ガス貯蔵手段)20と、高圧タンク20から燃料電池スタック10のアノードに水素を供給する水素供給配管21(21a〜21e)と、アノードオフガスを循環させるアノードオフガス循環配管22aと、アノードオフガスを排出するアノードオフガス排出配管22b、22cと、水素供給配管21上に配設された圧力調整手段24、インジェクタ23及びエゼクタ25と、アノードオフガス排出配管22b上に配設されたパージ弁26と、を備えている。
【0024】
高圧タンク20は、例えば最大で70MPaなど、極めて高い圧力で水素を貯蔵することができるタンクである。高圧タンク20には、ECU70の制御により開弁又は閉弁する主止弁(不図示)が設けられており、主止弁が開弁した場合に高圧タンク20内に充填された水素が水素供給配管21に流れ込む。
【0025】
インジェクタ23は、ECU70のPWM制御によりプランジャが進退し、高圧タンク20からの新規な水素をノズルから断続的に噴射する電子制御式の水素噴射装置である。そして、インジェクタ23が水素を噴射することで、内部アノード流路12を通流する水素の圧力、流量が調整される。
【0026】
圧力調整手段24は、インジェクタ23よりも上流に配置されてインジェクタ23に供給される水素の圧力を調整するための構成である。
本実施形態の圧力調整手段24は、高圧タンク20の下流側に配設される第1レギュレータ(第1減圧装置)24aと、第1レギュレータ24aとインジェクタ23との間に配設される切り替えバルブ(開閉弁)24bと、切り替えバルブ24bをバイパスするバイパス管24d上に配設された第2レギュレータ(第2減圧装置)24cと、を備えている。
【0027】
第1レギュレータ24a及び第2レギュレータ24cは、1次側(水素供給配管21の上流側)から2次側(水素供給配管21の下流側)に流れる水素の圧力を所定圧に調圧(減圧)するための装置である。
また、第1レギュレータ24a及び第2レギュレータ24cには、2次側に流れる水素を所定圧の設定するためのハンドルが設けられている。
本実施形態では、第1レギュレータ24aの2次側の圧力が、例えば1MPaとなるように設定され、第2レギュレータ24cの2次側の圧力が、例えば0.5MPaとなるように設定されている。
【0028】
切り替えバルブ24bは、ECU70の制御により開弁又は閉弁する常時開型の開閉弁である。切り替えバルブ24bが開弁すると、第1レギュレータ24aにより1MPaに減圧された水素が切り替えバルブ24bを通過してインジェクタ23に供給される。
一方で、切り替えバルブ24bが閉弁すると、第1レギュレータ24aにより1MPaに減圧された水素が第2レギュレータ24cを通過し、インジェクタ23には、第2レギュレータ24cにより0.5MPaに減圧された水素が供給される。
なお、切り替えバルブ24bの閉弁により、インジェクタ23に供給される圧力が低くなると、インジェクタ23のプランジャの打音や噴射音等も小さくなり、インジェクタ23の作動音が小さくなる(図2の「0.5MPa時」と「1MPa時」を参照)。
【0029】
アノードオフガス循環配管22aは、内部アノード流路12の出口とエゼクタ25の吸気口を接続し、内部アノード流路12から排出された水素を含むアノードオフガスをエゼクタ25に吸気させるための配管である。
【0030】
エゼクタ25は、インジェクタ23からの新規水素をノズルで噴射することで負圧を発生させ、この負圧によって、アノードオフガス循環配管22aのアノードオフガスを吸引し、新規水素とアノードオフガスとを混合し、内部アノード流路12に向けて噴射するものである。
【0031】
パージ弁26は、システムの起動時や燃料電池スタック10の発電時おいて、アノードオフガス循環配管22aを循環する水素に同伴する不純物(水蒸気、窒素等)を排出(パージ)する場合、ECU70により開くようになっている。
【0032】
<カソード系>
カソード系は、コンプレッサ30と、コンプレッサ30と燃料電池スタック10とを接続する空気供給配管31と、燃料電池スタック10からカソードオフガスを排出するカソードオフガス排出配管32と、を備えている。
【0033】
コンプレッサ30は、ECU70の指令に従って作動すると、車外の酸素を含む空気を吸気圧縮して空気供給配管31に送り込み、所定圧の空気が内部カソード流路13に供給される。
【0034】
<電力消費系>
電力消費系は、燃料電池スタック10の出力端子(不図示)に接続する電力制御器51を備えている。電力制御器51は、DC/DCチョッパ等の電子回路を備えており、ECU70からの指令に従って燃料電池スタック10を出電電力(出力電圧、出力電流)を制御するものである。
【0035】
<その他機器>
モータ52は、燃料電池車の駆動力を発生する電動機であり、電力制御器51の出力端子(不図示)に接続されている。
IG61は、燃料電池車(燃料電池システム1)の起動スイッチであり、運転席周りに配置されている。IG61は、ECU70と接続されており、ECU70は、IG61のON信号/OFF信号を検知するようになっている。
アクセル開度センサ62は、アクセル開度(アクセルの踏み込み量)を検出し、ECU70に出力するようになっている。
【0036】
<ECU70>
ECU70は、燃料電池システム1を電子制御する制御装置であり、CPU、ROM、RAM、各種インタフェイス、電子回路などを含んで構成されている。そして、ECU70は、その内部に記憶されたプログラムに従って、各種機器を制御し、各種処理を実行し、各種機器を制御するようになっている。
【0037】
<ECU70−発電制御機能>
ECU70は、要求発電量に対応して燃料電池スタック10の発電を制御する発電制御機能を有している。
ECU70は、要求発電量に関し、アクセル開度センサ62に検出されるアクセル開度(アクセルの踏み込み量)に基づいて判断している。具体的に、アクセル開度が大きくなると、目標アノード圧力、目標カソード圧力が高くなり、目標アノードガス流量(目標水素流量)、目標カソードガス流量(目標空気流量)が多くなる関係になっている。
なお、要求発電量が大きくなるにつれて、燃料電池システム1全体の作動音が大きくなる、という関係にある(図2参照)。
【0038】
また、ECU70は、要求発電量が所定値以上の場合に実行する通常発電モードと、要求負荷が所定値未満の場合に実行する低負荷発電モードと、を備えている。
【0039】
通常発電モードでは、インジェクタ23に供給される水素の圧力を比較的高めに設定するためのモードであり、具体的には、切り替えバルブ24bを開弁させるような制御を行う。なお、本実施形態における切り替えバルブ24bは、常時開型であるため、ECU70は、特に指令を出さない。
【0040】
一方で、低負荷発電モードは、インジェクタ23に供給される水素の圧力を比較的低めに設定するためのモードであり、具体的には、制御信号を発信して切り替えバルブ24bを閉弁させるような制御を行う。
この低負荷発電モードによれば、アイドリング時など、燃料電池スタック10の要求発電量が小さい場合に低負荷発電モードが選択され、インジェクタ23に供給される水素の圧力が0.5MPaとなり、インジェクタ23の作動音が小さくなる(図2参照)。
【0041】
また、図2に示すように、通常発電モードと低負荷発電モードとを区分けするための所定値とは、インジェクタ23の作動音(供給される水素の圧力が1MPa時)と、燃料電池システム1の作動音とが略同じ大きさの場合の要求発電量に設定されている。
このような所定値によれば、インジェクタ23の作動音(供給される水素の圧力が1MPa時)よりも、燃料電池システム1の作動音の方が小さい場合に、低負荷発電モードが選択され、インジェクタ23の作動音が小さくなる。このため、インジェクタ23の作動音が運転者に聞こえないようになる。
一方で、燃料電池車両の走行中などの燃料電池スタック10の要求発電量が高い場合、通常発電モードが選択され、インジェクタ23に高圧(1MPa)の水素が供給される。このため、インジェクタ23は、要求発電量に対応した高圧で大量の水素をアノードに供給することができる。
なお、通常発電モード選択時において、燃料電池システム1の作動音は、供給される水素の圧力が1MPaで駆動するインジェクタ23の作動音よりも大きく、インジェクタ23の作動音は運転者に聞こえない。
【0042】
≪燃料電池システムの動作≫
次に、燃料電池システム1の動作を説明する。
【0043】
図3を参照しながら、IG61が継続してONされ、水素と空気とが燃料電池スタック10に供給している場合について説明する。
【0044】
ステップS101において、ECU70は、要求発電量が所定値以上であるか否か判定する(判定工程)。
【0045】
要求発電量が所定値以上であると判定した場合(S101で「Yes」の場合)、ECU70の処理は、ステップS102に進み、通常発電モードを実行する。
具体的に、ステップS102で、ECU70は、切り替えバルブ24bに対して特に制御信号を出さない。この結果、切り替えバルブ24bの開弁が維持され、インジェクタ23に、第1レギュレータ24aにより1MPaに減圧された水素が供給される。
【0046】
また、ステップS102において、ECU70は、燃料電池スタック10の発電量が要求発電量となるように、インジェクタ23とコンプレッサ30とに制御信号を出す。
これにより、インジェクタ23は、高圧で大量の水素をアノードに供給し、コンプレッサ30は、駆動量を増大させて高圧で大量の空気をカソードに供給し、燃料電池スタック10の発電量が要求発電量となる。
【0047】
一方で、要求発電量が所定値以上でないと判定した場合(S101で「No」の場合)、ECU70の処理はステップS103に進み、低負荷発電モードを実行する(圧力低減工程)。
具体的にステップS103において、ECU70は、切り替えバルブ24bに対して制御信号を発信して切り替えバルブ24bを閉弁させる。これにより、第1レギュレータ24aにより1MPaに減圧された水素が第2レギュレータ24cを通過し、0.5MPaに減圧された水素がインジェクタ23に供給される。
【0048】
また、ステップS103において、ECU70は、燃料電池スタック10の発電量が要求発電量となるように、インジェクタ23とコンプレッサ30とに制御信号を出す。
そして、インジェクタ23は、低圧で少量の水素をアノードに供給し、コンプレッサ30は、駆動量を低減させて低圧で少量の空気がカソードに供給する。
【0049】
そして、ステップS102、ステップS103のそれぞれの処理後、ECU70の処理は、リターンを経由してスタートに戻る。
【0050】
以上、本実施形態に係る燃料電池システム1及びこの制御方法によれば、要求発電量が所定値よりも小さい場合に低負荷発電モードが実行され、インジェクタ23の作動音が燃料電池システム1の作動音よりも小さくなる。このため、低負荷発電時においてインジェクタ23の作動音がユーザに聞こえるという事態が回避されるため、ユーザに違和感を与え難い。
【0051】
以上、実施形態に係る燃料電池システム1及びこの制御方法について説明したが、本発明は、実施形態で説明した例に限定されない。
例えば、第2レギュレータ24cに関し、2次側の圧力が0.5MPaに設定されているが、本発明は、第1レギュレータ24aの2次側の圧力(1MPa)よりも低く減圧できればよい。
ただし、第2レギュレータ24cの2次側の圧力が低すぎると、インジェクタ23による水素供給が適切に実施されないおそれがあり、インジェクタ23による音速供給が可能範囲である必要がある。
【0052】
また、本発明に係る圧力調整手段24は、図4に示すように、ECU70の制御により2次側の圧力を変更することができる可変減圧装置24Aであってもよい。
このような構成によっても実施形態の燃料電池システム1と同様な効果を発揮することができると共に、実施形態よりも部品点数が低減し、燃料電池システム1Aの小型化を図ることができる。
なお、可変減圧装置24Aの具体的な構成としては、ECU70の制御信号を受けて2次側の流路幅を変更することで2次側の圧力を調圧するものや、弁の開閉するデューティ比を変更することで2次側の圧力を調圧するものが挙げられる。
【0053】
また、本発明に係る圧力調整手段24は、切り替えバルブ24b(開閉弁)と、第2レギュレータ24c(減圧装置)とから構成されるものであってもよい。このような構成であっても、第2レギュレータ24cによりインジェクタ23の上流側の圧力を低くすることができ、インジェクタ23の作動音を通常発電時よりも小さくすることができる。
【符号の説明】
【0054】
1、1A 燃料電池システム
10 燃料電池スタック(燃料電池)
21 水素供給配管(燃料ガス供給配管)
21 高圧タンク(燃料ガス貯蔵手段)
23 インジェクタ
24、24A 圧力調整手段
24a 第1レギュレータ(第1減圧装置)
24b 切り替えバルブ(開閉弁)
24c 第2レギュレータ(第2減圧装置、減圧装置)
24d バイパス管
図1
図2
図3
図4