特許第6227513号(P6227513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6227513高張力鋼のサブマージアーク溶接用焼成型フラックス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227513
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】高張力鋼のサブマージアーク溶接用焼成型フラックス
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/362 20060101AFI20171030BHJP
   B23K 35/30 20060101ALN20171030BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20171030BHJP
   C22C 38/44 20060101ALN20171030BHJP
【FI】
   B23K35/362 310B
   B23K35/362 310C
   !B23K35/30 320F
   !C22C38/00 301B
   !C22C38/44
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-217338(P2014-217338)
(22)【出願日】2014年10月24日
(65)【公開番号】特開2016-83674(P2016-83674A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】302040135
【氏名又は名称】日鐵住金溶接工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105441
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 久喬
(74)【代理人】
【識別番号】100107892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 俊太
(72)【発明者】
【氏名】横尾 友美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽一郎
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−064641(JP,A)
【文献】 特開平07−303991(JP,A)
【文献】 特開平07−171695(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/072835(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
B23K 35/30
B23K 35/362
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高張力鋼用のサブマージアーク溶接用焼成型フラックスにおいて、
焼成型フラックス全質量に対する質量%で、
SiO2:10〜20%、
CaO:8〜20%、
MgO:20〜30%、
Al23:21〜35%、
CaF2:10〜18%、
Li2CO3:0.2〜1.8%、
前記Li2CO3のCO2換算とCaCO3およびMgCO3の1種または2種のCO2換算の合計:2〜7%、
Si:0.3〜1.0%、
Mn:0.2〜0.9%、
Na2OおよびK2Oの1種または2種の合計:0.8〜4.5%を含有し、
その他はFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする高張力鋼のサブマージアーク溶接用焼成型フラックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、690MPa級以上の高張力鋼のサブマージアーク溶接用焼成型フラックスに関し、拡散性水素量が低く、溶接作業性が良好で溶接欠陥が無く健全で優れた機械性能の溶接金属が得られる高張力鋼のサブマージアーク溶接用焼成型フラックスに関する。
【背景技術】
【0002】
サブマージアーク溶接は、高能率で良好な溶接作業性および優れた機械性能を有する溶接金属が得られることから、造船、鉄骨、造管、橋梁、車両など幅広い分野で適用されている。
【0003】
近年、エネルギー産業の発展に伴い、鋼材の高強度化および高靭性化、また構造物の大型化に伴う板厚の極厚化などが検討されており、品質および生産性の面からサブマージアーク溶接の適用比率が年々増加している。このような高張力鋼のサブマージアーク溶接では、溶接施工における生産性の向上や安全性、耐久性の確保のため、更なる品質向上が求められており、その中でも溶接の高能率化と鋼材特性に見合った溶接金属の強度および靭性、さらに低温割れ防止のために溶接金属の拡散性水素量の低減が要望されている。
【0004】
高張力鋼のサブマージアーク溶接は、鋼材に見合った溶接金属の強度および靭性を確保するため、溶接金属の化学成分を自由に調整することができる焼成型フラックスが適用されており、従来から種々の技術開発が行われてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、焼成型フラックス組成とワイヤ組成を適正化することにより0.2%耐力が690MPa以上、引張強さが780MPa以上、−60℃における吸収エネルギーが69J以上の優れた低温靭性を有する溶接金属が得られるサブマージアーク溶接用焼成型フラックスおよびワイヤが開示されている。しかし、特許文献1に記載の焼成型フラックスにはAl23が少量しか添加されていないため、多層盛溶接した場合の良好なスラグ剥離性およびビード外観を得ることはできない。
【0006】
また、特許文献2には、ソリッドワイヤと焼成型フラックスとの組合せで得られる溶接金属の成分を適正化することで、溶接金属の強度と安定した靭性が得られ、溶接時の作業性も良好で溶接欠陥のないサブマージアーク溶接で多層盛溶接される溶接金属が開示されている。しかし、特許文献2に記載の焼成型フラックスは、MgOが多いのでスラグ剥離性およびビード外観が不良となるという問題がある。
【0007】
特許文献3は、高張力鋼のサブマージアーク溶接用ボンドフラックスに関し低水素で高靭性の溶接金属が得られることが開示されている。しかし、特許文献3に記載の焼成型フラックスはAl23が少ないのでスラグ剥離性が悪く、CaF2が多いのでビード形状も不良となるという問題がある。
【0008】
さらに、特許文献4には、780MPa級高張力鋼のサブマージアーク溶接に関し、焼成型フラックスのSiO2、CaF2、及び金属炭酸塩のCO2換算値を適正範囲とし、さらに合金元素(Si、Mn、Al、Ti)を規定し、また組合せるソリッドワイヤのSi、Nを低く、炭素当量(Ceq)が適正範囲にあるワイヤを組合せることによって高靭性で良好な強度を有する溶接金属が得られる技術が開示されている。しかし、特許文献4に記載の焼成型フラックスは、Siが多く含まれているのでスラグ巻込み欠陥が発生しやすくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013−39604号公報
【特許文献2】特開2007−260696号公報
【特許文献3】特開平6−328291号公報
【特許文献4】特開平5−212583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、引張強さが690MPa以上の高張力鋼のサブマージアーク溶接で、溶接金属の拡散性水素量が低く、溶接欠陥が無く良好な溶接作業性および優れた機械性能の溶接金属が得られる高張力鋼のサブマージアーク溶接用焼成型フラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために、焼成型フラックスの化学組成について種々試作して検討した。その結果、焼成型フラックスの組成と含有量を限定することによって溶接金属の拡散性水素量が低く、スラグ剥離性やビード形状など良好な溶接作業性が得られ、スラグ巻込みなどの溶接欠陥がなく、高強度で良好な低温靭性の溶接金属を得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち本発明の要旨は、高張力鋼のサブマージアーク溶接用焼成型フラックスにおいて、焼成型フラックス全質量に対する質量%で、SiO2:10〜20%、CaO:8〜20%、MgO:20〜30%、Al23:21〜35%、CaF2:10〜18%、Li2CO3:0.2〜1.8%、前記Li2CO3のCO2換算とCaCO3およびMgCO3の1種または2種のCO2換算の合計:2〜7%、Si:0.3〜1.0%、Mn:0.2〜0.9%、Na2OおよびK2Oの1種または2種の合計:0.8〜4.5%を含有し、その他はFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする高張力鋼のサブマージアーク溶接用焼成型フラックスにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高張力鋼のサブマージアーク溶接用焼成型フラックスによれば、溶接金属の拡散性水素量が低く、溶接作業性が良好で溶接欠陥がなく優れた機械性能の溶接金属が得られるなど、高能率に高品質な溶接部を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、690MPa級以上の高張力鋼のサブマージアーク溶接方法において、溶接作業性が良好で溶接欠陥が無く健全で優れた機械性能の溶接金属を得るため焼成型フラックスの組成について詳細に検討を行った。
【0015】
その結果、Li2CO3を含有させることによってフラックスの耐吸湿性が向上し、Li2CO3、およびCaCO3やMgCO3のCO2換算含有量(以下単にCO2換算という)との相乗効果で溶接金属の拡散性水素量を低減でき、アークの安定性には焼成型フラックスのAl23およびNa2OとK2Oの適量化、ビード外観およびビード形状にはSiO2、CaO、MgOおよびCaF2の適量化、さらにスラグ剥離性にはAl23、SiO2を適量含有することによってこれらの溶接作業性が良好になることを見出した。
【0016】
また、溶接金属の靭性はSi、Mn、前記CO2換算およびCaF2を適量化することで効果があることを知見した。本発明はこれらの知見に基づいて焼成型フラックス成分組成を決定した。
【0017】
以下に本発明の焼成型フラックス成分組成の限定理由について説明する。なお、以下成分についての%は、焼成型フラックス全質量に対する質量%を示す。
【0018】
[SiO2:10〜20%]
SiO2は、スラグの粘性を増加させ、良好な溶接ビードを形成するための重要な成分である。また、スラグをガラス質の性状にして、砕けやすく剥離性の良好なスラグが得られる。SiO2が10%未満では、ビード止端部のなじみが悪くなり、スラグ剥離性が劣化する。一方、SiO2が20%を超えると、溶接金属の酸素量が増加して靭性が劣化する。したがって、SiO2は10〜20%とする。
【0019】
[CaO:8〜20%]
CaOは、スラグの融点および流動性を調整するために重要な成分である。CaOが8%未満では、ビード止端部のなじみが悪くビード外観が不良でアンダーカットも生じる。一方、CaOが20%を超えると、スラグ流動性が不良となり、ビード高さが不均一でスラグ剥離性も不良になる。したがって、CaOは8〜20%とする。
【0020】
なお、CaOは、CaCO3のCaO分を含む。
【0021】
[MgO:20〜30%]
MgOは、スラグの耐火性および塩基度を向上させる効果がある。MgOが20%未満では、フラックスの塩基度が低くなり、溶接金属中の酸素量が増加して靭性が劣化する。一方、MgOが30%を超えると、フラックスの軟化溶融点が高くなり、ビード表面に突起物の発生や波目が粗くなり、スラグ剥離性およびビード外観が不良となる。したがって、MgOは20〜30%とする。
【0022】
なお、MgOは、MgCO3のMgO分を含む。
【0023】
[Al23:21〜35%]
Al23は、良好なスラグ剥離性およびビード外観を得るためには極めて重要な成分である。また、アークの安定性を良好にする効果もある。Al23が21%未満では、アークが不安定で、スラグ剥離性および溶接ビードの波が荒くビード外観が不良となる。一方、Al23が35%を超えると、凸ビードとなりスラグ剥離性も不良になる。したがって、Al23は21〜35%とする。
【0024】
[CaF2:10〜18%]
CaF2は、靭性改善に効果があるが、融点が低いため過多になるとビードの平滑性が損なわれる。CaF2が10%未満では、靭性改善の効果がない。一方、CaF2が18%を超えると、ビードの平滑性がなく形状が不良となる。したがって、CaF2は10〜18%とする。
【0025】
[Li2CO3:0.2〜1.8%]
Li2CO3は、フラックスの耐吸湿性を向上し、後述のCaCO3およびMgCO3のCO2換算との併用によって溶接金属の拡散性水素量を低減し、高張力鋼の溶接において低温割れ感受性を低下する。Li2CO3が0.2%未満であると、前記効果が得られず溶接金属の拡散性水素量が多くなって低温割れ感受性が高くなる。一方、Li2CO3が1.8%を超えると、アークが不安定となってビード止端部が不揃いで外観が不良となる。したがって、Li2CO3は0.2〜1.8%、好ましくは0.3〜1.5%とする。
【0026】
[Li2CO3のCO2換算とCaCO3およびMgCO3の1種または2種のCO2換算の合計:2〜7%]
Li2CO3、CaCO3およびMgCO3からのCO2換算の合計は、溶接金属の靭性向上に重要な元素であり、溶接中にLi2CO3、CaCO3およびMgCO3が分解してCOまたはCO2ガスがアーク雰囲気中の窒素分圧を下げ、溶接金属の窒素量を低減する効果がある。また、前記Li2CO3との併用によって溶接金属の拡散性水素量を低減する。Li2CO3のCO2換算とCaCO3およびMgCO3の1種または2種のCO2換算の合計が2%未満では、溶接金属中の窒素量が高くなり靭性が低下する。また、溶接金属の拡散性水素量が多くなって低温割れ感受性が高くなる。一方、Li2CO3のCO2換算とCaCO3およびMgCO3の1種または2種のCO2換算の合計が7%を超えると、溶接ビード表面にポックマークやピット、アンダーカットなどの溶接欠陥が発生するとともに溶接金属中の酸素量が増加して靭性が低下する。したがって、Li2CO3のCO2換算とCaCO3およびMgCO3の1種または2種のCO2換算の合計は2〜7%とする。
【0027】
[Si:0.3〜1.0%]
金属Si、Fe−SiおよびFe−Si−Mn等を原料とするSiは、脱酸元素であり溶接金属の酸素量を低減する。Siが0.3%未満では、脱酸効果が得られず靭性が低下する。また、ビード表面にポックマークが生じるようになる。一方、Siが1.0%を超えると、スラグ巻き込みを生じるようになる。したがって、Siは0.3〜1.0%とする。
【0028】
[Mn:0.2〜0.9%]
金属Mn、Fe−MnおよびFe−Si−Mn等を原料とするMnは、Siと同様に脱酸剤として作用して溶接金属の酸素量を低減する。Mnが0.2%未満であると、脱酸効果が得られず靭性が低下する。一方、Mnが0.9%を超えると、溶接金属に過剰に歩留って強度が高くなり靭性が低下する。したがって、Mnは0.2〜0.9%とする。
【0029】
[Na2OおよびK2Oの1種または2種の合計:0.8〜4.5%]
水ガラス(珪酸ソーダ、珪酸カリウム)を主原料とするNa2OおよびK2Oは、アークを安定にする。Na2OおよびK2Oの1種または2種の合計が0.8%未満であると、アークが不安定になる。一方、Na2OおよびK2Oの1種または2種の合計が4.5%を超えると、アンダーカットが生じてビード外観が不良となる。したがって、Na2OおよびK2Oの1種または2種の合計は0.8〜4.5%とする。
【0030】
焼成型フラックスのその他の成分は、SiとMnの鉄合金等からのFeおよびP、S等の不可避不純物であり、PおよびSは共に低融点の化合物を生成して靭性を低下させるので、できるだけ低いことが好ましい。
【0031】
なお、焼成型フラックスの粒度はビード形状を良くするために1.4mmを超える粒度が焼成型フラックス全質量に対して15質量%以下であることが好ましい。
【0032】
本発明の高張力鋼のサブマージアーク溶接用焼成型フラックスと組合せるソリッドワイヤの成分は、目標とする強度に合せて選択することができるが、C:0.04〜0.12%、Si:0.1〜0.4%、Mn:1.5〜2.5%、Ni:0.8〜3.0%、Cr:0.4〜1.2%、Mo:0.3〜0.9%、Ti:0.15%以下、N:0.007%以下の範囲であることが強度および靭性の確保から好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明の効果をさらに詳細に説明する。
【0034】
表1に示す各種成分の焼成型フラックス(フラックス記号のF1〜F10は本発明例で、F11〜20は比較例である。)を試作し、表2に示す3種のソリッドワイヤと焼成型フラックスとを組み合せて拡散性水素量の測定をした後、溶接作業性および機械性能評価をするために表3に示す化学成分からなる板厚25mmの780MPa級高張力鋼板を、開先角度を30°、ルート間隔を13mmの開先形状に加工し、裏当金を当てて表4に示す溶接条件で多層盛溶接試験を実施した。
【0035】
なお、表1に示す焼成型フラックス(フラックス記号F1〜F10は本発明例、F11〜F20は比較例である)は各種鉱物原材料を配合、混合した後、水ガラスを固着剤として造粒した後、400〜550℃で2時間焼成して1.4×0.15mmに整粒した。また、表2に示すソリッドワイヤは原線を縮径、焼鈍、めっきして素線とし、それらの素線を4.0mmまで伸線して用いた。なお、表2中ワイヤ記号W1は690MPa高張力鋼級用ワイヤ、ワイヤ記号W2は780MPa高張力鋼級用ワイヤ、ワイヤ記号W3は980MPa高張力鋼級用ワイヤである。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
溶接金属の拡散性水素量の測定は、JIS Z 3118に準じて行った。溶接金属の拡散性水素量は3ml/100g以下を良好とした。溶接作業性は、多層盛溶接時のアークの安定性、スラグ剥離性およびビード外観・形状を調べた後、X線透過試験により溶接欠陥の有無を調査し、さらに溶接金属の引張強さおよび靭性を調査した。
【0041】
溶接金属の機械的性能評価は、溶接試験体の鋼板板厚の中央から引張試験片(JIS Z 2241 10号)および衝撃試験片(JIS Z 2242 Vノッチ試験片)を採取して機械試験を実施した。引張強さの評価は、ワイヤ記号W1と組み合わせたフラックスは690MPa以上、ワイヤ記号W2と組み合わせたフラックスは780MPa以上およびワイヤ記号W3と組み合わせたフラックスは980MPa以上を良好とした。また、靭性の評価は−60℃における衝撃試験により行い、繰り返し3本の平均により評価した。なお、衝撃試験の吸収エネルギーは80J以上を良好とした。これらの調査結果も表5にまとめて示す。
【0042】
【表5】
【0043】
表5中フラックス記号F1〜F10本発明例、フラックス記号F11〜F20は比較例である。本発明例であるフラックス記号F1〜F10は、フラックスの成分が適量であるので、拡散性水素量が少なく、溶接作業性として評価するアークが安定でスラグ剥離性およびビード外観・形状が良好で、3種のワイヤと組み合わせた溶接金属機械的性能も優れており、極めて満足な結果であった。総合評価として○で示してある。これに対して、比較例のフラックス記号F11〜F20は、試験結果が本発明例よりも劣っているので、総合評価として×で示してある。
【0044】
すなわち、比較例中フラックス記号F11は、SiO2が少ないので、ビード止端部のなじみが悪くスラグ剥離性も不良であった。また、Mnが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0045】
フラックス記号F12は、SiO2が多いので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。また、Al23が少ないので、アークが不安定でビードの波が荒く、スラグ剥離性も不良であった。
【0046】
フラックス記号F13は、CaOが少ないので、ビード止端部のなじみが不良でアンダーカットが生じた。また、Mnが多いので、溶接金属の引張強さが高くなり吸収エネルギーが低値であった。
【0047】
フラックス記号F14は、CaOが多いので、ビードの高さが不均一となりスラグ剥離性も不良であった。また、Siが少ないので、ビード表面にポックマークが生じ、溶接金属の吸収エネルギーも低値であった。
【0048】
フラックス記号F15は、MgOが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。また、Al23が多いので、ビードが凸状となりスラグ剥離性も不良であった。
【0049】
フラックス記号F16は、MgOが多いので、ビード表面に突起が生じスラグ剥離性が不良であった。また、Na2OとK2Oの合計が少ないので、アークが不安定であった。
【0050】
フラックス記号F17は、CaF2が少ないので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。また、Li2CO3が多いので、アークが不安定でビード止端部が不揃いとなり外観が不良であっ。
【0051】
フラックス記号F18は、CaF2が多いので、ビードに平滑性がなく形状が不良であった。また、Li2CO3が少ないので、拡散性水素量が多かった。
【0052】
フラックス記号F19は、Li23のCO2換算とCaCO3およびMgCO3のCO2換算の合計が多いので、ビード表面にポックマークおよびビード止端部にアンダーカットが生じ、溶接金属の吸収エネルギーも低値であった。また、Siが多いので、スラグ巻き込み欠陥が生じた。
【0053】
フラックス記号F20は、Li23のCO2換算とCaCO3およびMgCO3のCO2換算の合計が少ないので、拡散性水素量が多く、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。また、Na2OとK2Oの合計が多いので、アンダーカットが生じた。