(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
金属材料の切断・切削工具用の素材として超硬合金が広く利用されている。超硬合金とは、鉄系金属(Fe、Co、Ni)を結合材として、周期律表の第4族、第5族、第6族金属であるTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wの炭化物粒子を焼結させた合金である。特に、切削工具用としてはWC−Co系が最も広範に使用されている。
この超硬合金では、WC等の炭化物粒子を含む硬質相の粒成長を抑制することで、より高い硬度を得ることができる。この粒成長抑制剤としては、VC、Cr
3C
2、TaC等の炭化物が知られている。
引用文献1では、Coを3〜13%、VCを0.05〜0.5%、Alを0.1〜1.0%含有し、残部がWC及び不可避不純物からなる高硬度超硬合金が開示されている。
引用文献2では、重量比で、Co及び/又はNiが5〜12%、Cr
3C
2、VC、TaC、Mo、Ru、Siの少なくとも2種以上の合計量が0.1〜3%、残部がWC及び不可避の不純物からなる組成を有する超微粒超硬合金が開示されている。
【0003】
特に、近年は、炭窒化物相を添加し、WC相の粒子成長を抑制する超硬合金が開発されている。引用文献3では、WC相と炭窒化物相と結合相の合計は100vol%であり、WC相の平均粒径が0.05〜0.8μmであり、炭窒化物相の平均粒径が0.03〜1.1μmである超硬合金が開示されている。また、引用文献4では、第4族元素、第5族元素および第6族元素からなる群より選択される1種または複数種の元素の炭窒化物を主成分とする第2相を設ける超硬合金が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の超硬合金は、WC相とCo、NiおよびFeから成る群から選択された少なくとも1種類を含む結合相からなり、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo及びWからなる群から選択された少なくとも1種類の金属からなる炭窒化物相を有する。
【0010】
WC相は、超硬合金全体に対して70wt%未満になると、相対的に結合相が多くなりWC相の粒成長の制御が困難となり超硬合金の硬さが低下することから、WC相を超硬合金全体に対して70〜99.4wt%とした。この要件を達成するためには、この範囲に入る量の原料粉末を配合すれば良い。その中でも、WC相を超硬合金全体に対して80〜95wt%とするとさらに好ましい。発明のWC相の原料平均粒径を0.05μm未満にすることは焼結中の粒成長により製造が困難であり、本発明のWC相の原料平均粒径が2.0μmを超えて大きくなると超硬合金の硬さと強度が低下することから、本発明のWC相の原料平均粒径は0.05〜2.0μmと定めた。この要件を達成するためには、焼結後にこの範囲に入るサイズの原料粉末を使用すれば良い。その中でも、WC相の平均粒径は0.1〜1.0μmであるとさらに好ましい。
【0011】
本発明の超硬合金における炭窒化物相は、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、MoおよびWから選択された少なくとも1種類の炭窒化物であり、強度を低下させずに、高硬度な超微粒超硬合金を作製することができ、耐摩耗性を向上させる。
その中でも、炭窒化物相は、金属元素がTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、MoおよびWから成る2種以上からなる複炭窒化物であってもよい。特に、炭窒化物相は、Tiを必須として、その他にZr、Hf、Nb、Ta、Cr、MoおよびWから選択された少なくとも1種からなる複炭窒化物であるとさらに好ましい。
また、炭窒化物の具体例としては、Ti(C,N)、(Ti,Mo)(C,N)、(Ti,W)(C,N)等が挙げられる。
更に前述の炭窒化物相に加えてTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo等の炭化物を微量に含むことが好ましく、特にCrの炭化物を含むことが好ましい。これによって、より硬質相の粒成長を抑制することできる。
【0012】
超硬合金におけるWC相の粒成長は、焼結における高温時、結合相中に溶解したWC相が、他のWC相に析出し、WC粒子が粒成長するものと、冷却工程時に溶解しきらなかったWC相をコアとして再析出することで起こる。そこで、本発明の超硬合金では、炭窒化物相をWC相と結合相との界面に、点状に存在させることにより、冷却工程中にもWC相をコアとした析出を起こりにくくさせることで、WC相の粒成長を抑制するものである(ピン止め効果)。
ここでより高い粒成長抑制効果を得るためには、炭窒化物相がWC相の周囲に多数存在している必要がある。しかし、炭窒化物相を多量に添加するとこれが凝集し、強度が低下してしまう恐れがある。このため、高い強度を維持したまま、十分な粒成長抑制効果を得るためには、少ない添加量で多数の炭窒化物相が必要ということになる。
この要求を満たすために、炭窒化物相は微粒であることが好ましい。このために、炭窒化物相の平均粒径が5〜100nmの範囲にあることがよい。炭窒化物相の平均粒径が100nmを越えると、前述の通り多量に添加しなければ、十分な粒成長抑制効果が得られず、強度と硬度を高い水準で両立することが困難となる。また、5nm未満の炭窒化物相は、粉末混合中に凝集してしまい、強度の低下を招くものと思われる。この要件を達成するためには、焼結後にこの範囲に入るサイズの原料粉末を使用すれば良い。
【0013】
また、本発明の超硬合金における炭窒化物相は、超硬合金全体に対して、30wt%を超えて多くなると、炭窒化物相の凝集により強度が低下してしまう。また、0.1wt%未満では、十分な粒成長抑制効果を得ることができない。したがって、本発明の炭窒化物相は、0.1〜30wt%の範囲に入る量の原料粉末を配合すれば良い。
【0014】
炭窒化物相は微粒であるほど、高い粒成長抑制効果が得られるが、一般に生産されているTiC、TaC、Ti(C,N)などの炭窒化物粒子の粒径は1μm以上である。また、炭窒化物の粒子でこれよりも小さな粒径となるとコンタミなどの不純物が増加し、材料の焼結性を著しく損ね、満足のいく材料を作ることが困難となる。そこで、より微粒である酸化物を添加し、焼結中に炭窒化させることで、一般に生産されているTiCやTi(C,N)などよりも微粒な炭窒化物粒子を得ることができる。これにより、大きな粒成長抑制効果を得ることができ、高強度と高硬度を両立させることが可能となる。
図1は、液相焼結法におけるWC相の粒成長抑制について示す模式図である。
(a)は、粒成長抑制剤を添加してないWC相とCo相とで構成されている超硬合金である。(b)は、(a)に粒成長抑制剤としてVCを添加している超硬合金である。(c)は、(a)に粒成長抑制剤として(Ti,Mo)(C,N)を添加している超硬合金である。(d)は、(a)に粒成長抑制剤としてTiO
2を添加している超硬合金である。
ここで、(a)に示すように、粒成長抑制剤を添加してない超硬合金では、焼結における高温時にCo相に溶解したWC相が、溶解していない粗いWC相をコアとして再析出することで、著しく粒成長してしまう。(b)に示すように、VCを添加した材料は、高温時にCo相にVCが溶解し、再析出する際、VCがWCのステップに吸着することで粒成長を抑制する。WC粒子表面にVCが存在し、WC/Co界面強度を低下させる。また、この際(W,V)C相が発生し、材料の強度を低下させてしまう恐れもある。
(c)に示すように、(Ti,Mo)(C,N)粒成長抑制剤を添加した場合、粒成長抑制効果はあるが、粒成長抑制剤の粒子径が大きいため、粒成長抑制効果はVC添加やTiO
2添加合金に比べて劣る傾向がある。そこで、(d)に示すように、高温時にも結合相および硬質相にほとんど溶解しないTiO
2粉末を添加することで、有害相を発生させず、材料の強度を低下させることなく、超微粒合金を得ることができる。またTiO
2は、一般的な炭窒化物よりも粒度が細かいため少量で大きな粒成長抑制効果を得ることができる。しかし、TiO
2は酸化物であり、真空中で焼結したのでは緻密な焼結体を得ることができない。そこで、焼結中に窒素ガスを流すことで炭窒化させ、Ti(C,N)とすることで焼結性を改善する。
【0015】
Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、MoおよびWから選択された少なくとも1種類の金属からなる酸化物を用いる。特に、酸化物としては、窒素雰囲気中で液相焼結しているときに、炭窒化物に変化するものが良好で、微粒であることが好ましい。また、切削工具等に使用した場合、優れた性能を示すものがさらに望ましい。このために、酸化物としてはTiO
2が特に好ましい。
【0016】
本発明の結合相は、Co、NiおよびFeから成る群より選択された少なくとも1種類を主成分とする金属である。本発明において、Co、NiおよびFeから成る群より選択された少なくとも1種類を主成分とする金属とは、Co、NiおよびFeから成る群より選択された少なくとも1種類を合計して50wt%以上含む金属を意味する。
本発明の結合相はCo、NiおよびFeから成る群より選択された少なくとも1種類を合計して70〜100wt%含むことが好ましい。
本発明の結合相は、Coを主成分とすると耐熱性、靭性、被膜との密着性に優れるので、さらに好ましい。本発明のCoを主成分とする結合相とは、Coを結合相全体に対して50wt%以上含む結合相を意味する。
また、本発明の結合相にCrまたはCr
3C
2が、結合相全体に対して0.1wt%以上含まれると、結合相の硬さ、強度および耐酸化性が向上し、WC相と炭窒化物相の粒成長が抑制され、超硬合金の硬さおよび強度が向上する。しかしながら、本発明の結合相にCrまたはCr
3C
2が、結合相に対して、20wt%を超えて溶解することは困難である。そのため、本発明の結合相に含まれるCr量またはCr
3C
2は、結合相全体に対して0.1〜20wt%であると好ましい。
本発明の結合相は、超硬合金全体に対して、30wt%を超えて多くなると超硬合金の強度が低下することから、本発明の結合相を0.5〜30wt%とした。この要件を達成するためには、この範囲に入る量の原料粉末を配合すれば良い。
【0017】
本発明の超硬合金の製造方法として、例えば、以下の方法を挙げることができる。原料粉として、平均粒径0.05〜2.0μmのWCを超硬合金に対して70〜99.4wt%になるように秤量し、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、MoおよびWから選択された少なくとも1種類の金属の酸化物を超硬合金に対して、0.1〜30wt%になるように秤量する。また、結合相として、Co、NiおよびFeから成る群より選択された少なくとも1種類を主成分とする金属をWC相と炭窒化物相と結合相の合計が100wt%となるように秤量する。また、焼結後に遊離炭素や脱炭相を生じないように原料粉末に1wt%以下の炭素粉末または、1wt%以下のタングステン粉末を加えても良い。これらを有機溶剤ともに、ボールミルまたはアトライタに投入し、所定の時間、粉砕・混合する。その後、乾燥を経て、所定の形状に成形する。
【0018】
次に窒素雰囲気中で、1300〜1500℃の温度にし、60〜120分で焼結する。これにより、添加した酸化物は材料中の炭素と焼結時の窒素により、炭窒化する。焼結温度が1300℃未満の場合、超硬合金の緻密化が不十分である恐れがある。また、1500℃よりも高くなるかまたは、120分を超えて焼結するとWC相と炭窒化物相の粒成長を抑制することが困難となる。さらに、これを、不活性ガス雰囲気中で、1300〜1500℃の温度にし、60〜120分の時間でHIP処理をする。
【実施例】
【0019】
添加材としてTiO
2、TaC、Cr
3C
2を添加した超硬合金および炭窒化物を添加していない超硬合金の硬さを測定した。組成および硬さを以下に示す。
【表1】
表1に示すように、TiO
2を添加した超硬合金は、比較例1、2、3よりも硬さが高くなっている。
図2にこれら超硬合金のSEM組織を示す。炭窒化物無添加の材料は、著しく粒成長しているのに対し、炭窒化物を添加した材料はWC相の粒成長が抑制されていることが分かる。その中でもTiO
2を添加した材料は、特に粒成長が抑制され、微粒な超硬合金となっている。
【0020】
さらにTiO
2の添加量を変化させた超硬合金の硬さおよび組織について評価を行った。
【表2】
表2からTiO
2の添加量が増えるほど硬さが高くなることが分かる。また、
図3に示すように、極わずかな添加量でも粒成長抑制効果を示すことが分かる。さらに添加量を増やすことでより高い粒成長抑制効果が得られることが分かる。
【0021】
より高い粒成長抑制効果を得るために、TiO
2とCr
3C
2を複合添加した超硬合金を作製した。これらについて硬さと強度を測定した。さらにCr
3C
2単体添加品と比較した。
【表3】
表3よりCr
3C
2を複合添加することで、高硬度かつ高強度な超硬合金が得られることが分かる。Cr
3C
2単体添加で3vol%添加したものよりも、TiO
2とCr
3C
2を複合添加して合計3vol%添加した材料のほうが高硬度かつ高強度になっている。
図4にそれぞれのSEM組織を示す。複合添加により高い粒成長抑制効果が得られ、材料が微粒かつ均一な組織になっていることが分かる。