特許第6227524号(P6227524)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6227524低親水−親油バランス界面活性剤を含んでなる噴霧ドリフト減少剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227524
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】低親水−親油バランス界面活性剤を含んでなる噴霧ドリフト減少剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/30 20060101AFI20171030BHJP
   A01M 7/00 20060101ALI20171030BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   A01N25/30
   A01M7/00 Z
   A01P13/00
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-506438(P2014-506438)
(86)(22)【出願日】2012年4月5日
(65)【公表番号】特表2014-512383(P2014-512383A)
(43)【公表日】2014年5月22日
(86)【国際出願番号】US2012032265
(87)【国際公開番号】WO2012145177
(87)【国際公開日】20121026
【審査請求日】2015年3月2日
【審判番号】不服2016-13293(P2016-13293/J1)
【審判請求日】2016年9月6日
(31)【優先権主張番号】61/477,251
(32)【優先日】2011年4月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505318547
【氏名又は名称】ハンツマン ペトロケミカル エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Huntsman Petrochemical LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エルシク, カーテイス・エム
【合議体】
【審判長】 佐藤 健史
【審判官】 加藤 幹
【審判官】 冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第6797673(US,B1)
【文献】 英国特許出願公開第2107987(GB,A)
【文献】 特表2005−527596(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/111482(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/
A01M 7/
A01P 13/
CAPlus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均で3モルのエチレンオキシド基を有する直鎖状C10〜C12もしくはC12〜C16又は分枝鎖状C13アルコールエトキシレート界面活性剤からなる、農業用水溶液組成物の噴霧ドリフト減少剤
【請求項2】
1種もしくはそれより多い水溶性除草剤及び1種もしくはそれより多い請求項1記載の噴霧ドリフト減少剤を含んでなる噴霧のための除草剤水溶液組成物
【請求項3】
水溶性除草剤及び請求項1記載の噴霧ドリフト減少剤を含んでなる除草剤水溶液組成物を準備し、該組成物を噴霧することを含んでなる、除草剤水溶液組成物を噴霧した場合における噴霧ドリフトを減少させる方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般的に農業用途における使用のためのドリフト減少剤に関するが、標的−外付着(off−target deposition)を減少させることが有益である他の用途においても適用され得る。
【背景技術】
【0002】
背景
噴霧ドリフトは、適用時又はそのすぐ後における空気輸送(airborne)噴霧粒子の空気を介する標的−外部位への物理的な動きとしてを定義され得る。農業の状況において、より大きい噴霧ドリフト特性を有する調剤は、標的部位と相互作用する調剤がより少量であるので、典型的に好ましくない。噴霧ドリフトに対抗するために、典型的にドリフト減少剤を噴霧混合物に加えて、起こる噴霧ドリフトの量を減少させる。
【0003】
現在、多くのドリフト減少法(DRT)タンク混合補助剤(TMA)が市場にある。それらの個々の化学に基づいて、それらを広い部門にまとめることができる。アラビアゴム及び他の多糖類のような天然ポリマーがある。ポリアクリルアミドのような合成ポリマーがある。これらは両方とも伸び又は動粘度を増加させるように働き、この増加した粘度は通常粒度を増加させ、微粒子を減少させる。微粒子の減少は一般に噴霧ドリフトを減少させる。しかしながら、ポリマー系は平均粒度を増加させ、且つ粒度分布(PSD)を広げる傾向がある。平均粒度が広くなりすぎると、生物有効性は悪影響を受け得る。
【0004】
利用できる油製品もあり、それらはエステル化された種子油のように鉱油又は天然油に基づいていることができる。これらの油はエマルション又は逆エマルション(invert emulsions)を生じ、それらは、存在するエマルション相の故に噴霧発生の間に小滴が生成するのを防ぐことによって機能すると思われる。
【0005】
生物有効性を向上させるために、多くの有害生物防除性噴霧溶液に典型的に界面活性剤が加えられる。界面活性剤を噴霧溶液に加えると、表面張力及び動的表面張力を低下させることができる。この表面張力の低下は、より小さい液滴の生成をより容易にすると思われる。界面活性剤の添加は、典型的に平均粒度を減少させ、且つもっと重要なことに、一般的に噴霧の間に生成する微粒子の量を増加させる。典型的に最もドリフトするのは、より微細な粒子である。従って、界面活性剤の他の恩恵にかかわらず、それらは典型的に噴霧ドリフトを減少させるための薬剤と思われない。
【発明の概要】
【0006】
本発明の詳細な説明
驚くべきことに、比較的低い親水−親油バランス(HLB)の界面活性剤を噴霧ドリフト減少剤として使用できることが見出された。そのような界面活性剤は一般に、噴霧の間に生成する微粒子の量を減少させる。確かに、他の界面活性剤は通常、噴霧タンクに加えられると、低下した張力が噴霧滴の破壊をより容易にするので、微粒子の量を増加させる。
【0007】
界面活性剤は両親媒性分子であり、それは2つの相の間の界面に濃縮されてその界面の性質を改変する。界面活性剤のリストをMcDutcheon’s Emulsifiers & Detergents又はIndustrial Surfactants Handbook中に見出すことができる。界面活性剤の親水−親油バランス(HLB)
は、Griffin(W.C.Griffin,J.Cosmet.Chem.,1,311,1949)により開発された実験的スケール基づいて測定される。このスケールは0から20の範囲であり、0は完全に親油性の分子の場合であり、20は完全に親水性の分子の場合である。界面活性剤の機能を一般にそれらのHLB数により記述することができる。脱泡性界面活性剤は1〜3のHLB範囲を有する。油中水型乳化剤は3〜6のHLB範囲を有する。湿潤剤は7〜9のHLB範囲を有する。水中油型乳化剤は8〜18のHLB範囲を有する。洗剤は13〜15のHLB範囲を有する。可溶化剤は15〜18のHLB範囲を有する。
【0008】
低HLBを有する界面活性剤は水中で可溶性と考えられない。それらは水中で分散性であると考えられる。それらはこの分散相を撹拌なしで自然に形成することができる。言い換えると、低HLBの界面活性剤は、水に加えられると界面活性剤の豊富な分散相を形成する。分散された界面活性剤の豊富な相の存在は、スプレー噴霧法(spray atomization process)の間に形成される微粒子の量を減少させると思われる。この新規なDRT TMA化学は、高分子DRT剤が行ったように粒度分布を有害に広げると思われない。
【0009】
本出願の場合、「低HLB」は、標的化された噴霧系において測定される時に、系が噴霧される温度より低い界面活性剤の曇り点を生ずるであろう界面活性剤のHLBとして定義される。いくつかの態様において、このHLBは約7〜約9である。しかしながら必要な実際のHLBは、従って噴霧系成分及びそれらの濃度の関数であろう。界面活性剤の曇り点より高い温度における噴霧の場合、分散された界面活性剤の豊富な相が形成され、この分散相は、分散された界面活性剤の相の存在の故に表面張力が低下しても、生成する微粒子を減少させるように働く。より高いHLBの界面活性剤も、それらの曇り点より高い温度で用いられると、微粒子を減少させるはずである。これは通常、曇り点を低下させるように設計される調製添加剤の不在下では、高い温度を必要とした。
【0010】
本発明の低HLB界面活性剤の例には、アルコールアルコキシレート、アルキルアミンアルコキシレート、ポリエーテルアミンアルコキシレート、エチレンオキシド/プロピレンオキシドブロックポリマー、ホスフェートエステル、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、アルキル及びアルキルベンゼンスルホネート、脂肪酸エステル、脂肪油アルコキシレート、糖類誘導体、ソルビタン誘導体、アルキルフェノールアルコキシレート、アリールフェノールアルコキシレート、スルホスクシネート及びスルホスクシナメートならびにそれらの組み合わせが含まれ得るが、これらに限られない。界面活性剤は非イオン性、アニオン性、カチオン性又は両性イオン性であることができる。
【0011】
そのような低HLB界面活性剤の市販の例にはHuntsman Corporation of The Woodlands,Texasから商業的に入手可能なSURFONIC(R)界面活性剤が含まれる。SURFONIC(R) L12−3界面活性剤は、平均で3モルのエチレンオキシド(EO)を有する直鎖状C10−12アルコールエトキシレートであり、HLB=9.0である。SURFONIC(R) L24−3界面活性剤は、平均で3モルのエチレンオキシド(EO)を有する直鎖状C12−16アルコールエトキシレートであり、HLB=8.0である。SURFONIC(R) TDA−3B界面活性剤は、平均で3モルのエチレンオキシド(EO)を有する分枝鎖状C13アルコールエトキシレートであり、HLB=8.0である。SURFONIC(R) DA−4界面活性剤は、平均で4モルのエチレンオキシド(EO)を有する分枝鎖状C10アルコールエトキシレートであり、HLB=10.5である。SURFONIC(R) CO−15界面活性剤は、平均で15モルのエチレンオキシド(EO)を有するひまし油エトキシレートであり、HLB=8.2である。SURFONIC(R) N−60界面活性剤は、平均で6モルのEOを有するノニルフェノールエトキシレートであり、HLB=
10.9である。SURFONIC(R) T−5界面活性剤は、平均で5モルのEOを有するタロウアミンエトキシレートであり、HLB=9.0である。
【0012】
本発明の態様は、1種もしくはそれより多い活性成分及び1種もしくはそれより多い低親水−親油バランス界面活性剤を含む噴霧ドリフトを減少させるための有害生物防除性組成物も開示する。1つの態様において、1種もしくはそれより多い活性成分は除草剤(herbicides)、殺虫剤(insecticides)、殺菌・殺カビ剤(fungicides)又はそれらの組み合わせであることができる。そのような除草剤は水溶性除草剤又は2,4−Dエステルのような他の除草剤であることができる。他の態様において、1種もしくはそれより多い活性成分はグリホセート又はその1種もしくはそれより多い塩もしくはエステルであることができる。
【0013】
本発明の態様は、有害生物防除剤及び低親水−親油バランス界面活性剤を含む噴霧のための組成物を準備し、組成物を噴霧することにより噴霧ドリフトを減少させる方法を開示する。
【0014】
さらに別の態様は、そのような有害生物防除性組成物を雑草又は土壌に接触させることにより雑草を抑制する方法;そのような有害生物防除性組成物を昆虫、土壌又は作物に適用することにより昆虫を抑制する方法;ならびにそのような有害生物防除性組成物を菌・カビ、作物又は土壌に適用することにより菌・カビを抑制する方法を含む。
【0015】
本発明の態様は、界面活性剤を含む噴霧のための組成物を準備し、噴霧混合物において測定される界面活性剤の曇り点より高い温度で噴霧混合物を噴霧することを含んでなる、噴霧ドリフトを減少させる方法を開示する。
【0016】
本発明の態様は、二種もしくはそれより多い界面活性剤のブレンドを含んでなる噴霧組成物を開示し、ここでブレンドは低い親水−親油バランスを有する。
【0017】
本発明の他の態様において、低HLB界面活性剤を第2の界面活性剤(より高いHLBの界面活性剤のような)と配合して低親水−親油バランスを有するブレンドを与えることにより、噴霧ドリフト減少組成物を調製する方法を開示する。より高いHLBの界面活性剤の通常の有害な噴霧ドリフト効果に対抗するために、使用者は噴霧タンク混合物に低HLB界面活性剤を加えることができる。この場合、有害生物防除性組成物は二種もしくはそれより多い界面活性剤のブレンドを有し、ここで有効な界面活性剤ブレンドは組み合わされた低いHLBレベルを有する。
【0018】
この方法の主な用途は、有害生物防除剤調製物の噴霧の間にドリフトを減少させるためであう。しかしながら、ポリウレタンもしくはポリウレア噴霧、ペイント吹付け又は標的−外付着を減少させることが有益である他の噴霧系のような他の領域においても方法を適用することができる。
【0019】
本発明の種々の例示的態様をさらに示すために、以下の実施例を与える。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施例
表1は粒度データを示す。噴霧粒子の粒度分布(spray particle size distribution)及び微粒子のパーセントを、ASTM Standard Test Method E2798:“Characterization of Performance of Pesticide Spray Drift Reduction Adjuvants for Ground Applicatio
n.”を用いて測定することができる。40psigにおいてノズル(XR8004VS)を介して試料溶液を噴霧した。
【0021】
実施例1、有害生物防除剤組成物は、342ppmの硬度の水中に希釈された1.7v/v%のPOWERMAX(R)除草剤(The Monsanto Company of St.Louis,Missouriから商業的に入手可能。POWERMAXはMonsanto Companyの登録商標である)を含有する。実施例2は、Huntsman Corporation of The Woodlands,Texasから商業的に入手可能である0.5v/v%のSURFONIC(R) L24−3界面活性剤もそれが含有することを除いて、実施例1と同じ基本組成物である。SURFONIC(R) L24−3界面活性剤は、平均で3モルのエチレンオキシド(EO)を有する直鎖状C12−16アルコールエトキシレートであり、HLB=8.0である。実施例3は、Huntsman Corporation of The Woodlands,Texasから商業的に入手可能である0.5%のSURFONIC(R) L12−3界面活性剤もそれが含有することを除いて、実施例1と同じ基本組成物である。SURFONIC(R) L12−3界面活性剤は、平均で3モルのエチレンオキシド(EO)を有する直鎖状C10−12アルコールエトキシレートであり、HLB=9.0である。実施例4は、Huntsman Corporation of The Woodlands,Texasから商業的に入手可能である0.5%のSURFONIC(R) TDA−3B界面活性剤もそれが含有することを除いて、実施例1と同じ基本組成物である。SURFONIC(R) TDA−3B界面活性剤は、平均で3モルのエチレンオキシド(EO)を有する分枝鎖状C13アルコールエトキシレートであり、HLB=8.0である。実施例5は、Huntsman Corporation of The Woodlands,Texasから商業的に入手可能である0.5%のTERMIX(R) 5910タンク混合補助剤もそれが含有することを除いて、実施例1と同じ基本組成物である。
【0022】
【表1】
【0023】
表1は、微粒子の量を減少させながら動的(10mSec)及び静的(1s)表面張力の両方も低下させるいくつかの低HLB界面活性剤を示す。表1は、低HLB界面活性剤SURFONIC TDA−3Bが、DRT補助剤を用いずに<105ミクロンの微粒子の%を16.0v/v%からわずか8.7%の値に減少させたことも示す。これは微粒子におけるほとんど50%の減少であり、同時に動的表面張力は51.3mN/mから48.8mN/mに低下し、静的表面張力は42.9mN/mから26.9mN/mに低下し
た。通常、張力における低下は噴霧の間に生成する微粒子の体積を増加させる。
【0024】
本発明及びその利点を詳細に記載してきたが、添付の請求項により定義される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書で種々の変更、置き換え及び改変を行い得ることが理解されるべきである。