特許第6227535号(P6227535)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227535
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】脂質異常症の予防又は治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20171030BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20171030BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   A61K31/519
   A61P3/06
   A61K45/00
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-533120(P2014-533120)
(86)(22)【出願日】2013年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2013073370
(87)【国際公開番号】WO2014034871
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年8月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-189344(P2012-189344)
(32)【優先日】2012年8月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000144577
【氏名又は名称】株式会社三和化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(72)【発明者】
【氏名】友山 日出生
(72)【発明者】
【氏名】石田 力
(72)【発明者】
【氏名】後藤 守兄
(72)【発明者】
【氏名】井村 太
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 聡
(72)【発明者】
【氏名】谷川 亮平
【審査官】 常見 優
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/067509(WO,A1)
【文献】 特表2009−520032(JP,A)
【文献】 特表2009−536954(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/106545(WO,A1)
【文献】 特表2010−505956(JP,A)
【文献】 特開昭60−231679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
38/00−38/55
41/00−45/08
48/00
51/00
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有する、脂質異常症の予防及び/又は治療に用いる医薬。
【化1】
(式中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ、水素原子、トリフルオロメチル基、又はC1-3アルキル基を示す。)
【請求項2】
前記有効成分がN-[2-({2-[(2S)-2-シアノピロリジン-1-イル]-2-オキソエチル}アミノ)-2-メチルプロピル]-2-メチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-6-カルボキサミド又はその塩である、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
前記有効成分がアナグリプチンである、請求項1記載の医薬。
【請求項4】
前記脂質異常症が、高コレステロール血症又は高LDLコレステロール血症である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項5】
前記脂質異常症が、低HDLコレステロール血症である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項6】
前記脂質異常症が、高トリグリセライド血症である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項7】
前記脂質異常症が、糖尿病性脂質異常症である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項8】
前記糖尿病性脂質異常症が、糖尿病性高コレステロール血症又は糖尿病性高LDLコレステロール血症である、請求項7に記載の医薬。
【請求項9】
前記糖尿病性脂質異常症が、糖尿病性低HDLコレステロール血症である、請求項7に記載の医薬。
【請求項10】
前記糖尿病性脂質異常症が、糖尿病性高トリグリセライド血症である、請求項7に記載の医薬。
【請求項11】
一般式(I)で表される化合物又はその塩を1日あたり1〜400mg投与するものである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項12】
さらに、フィブラート系薬剤、HMG-CoA還元酵素阻害薬、陰イオン交換樹脂、小腸コレステロールトランスポーター阻害剤、エラスターゼ、ニコチン酸製剤及びイコサペント酸エチル、パンテチン、及びポリエンホスファチジルコリンからなる群より選ばれる1種以上を組み合わせてなる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラゾロピリミジン誘導体を有効成分とする、脂質異常症の予防及び/又は治療のための医薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脂質異常症とは血液中の脂質濃度が異常に増加又は減少した状態をいう。血清脂質にはコレステロール、リン脂質、トリグリセライド(中性脂肪)等があるが、特に臨床上問題となるのは、コレステロールとトリグリセライドであり、高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症といった種類がある。脂質異常症は、LDLの代謝異常等先天的要因による家族性脂質異常症の他、喫煙や食生活の乱れ、運動不足等生活習慣に起因する脂質異常症が認められる。高コレステロール血症が、高血圧、喫煙と共に心筋梗塞、狭心症、脳梗塞等の動脈硬化性疾患の三大危険因子の一つであることは、数多くの疫学調査によって明らかにされているが、心血管リスクとの関連は高LDLコレステロール血症でもっとも相関が高い。従って、血中コレステロール値の適切なコントロールは、虚血性心疾患を初めとする動脈硬化性疾患の予防又は治療に極めて重要である。
【0003】
現在、脂質異常症の治療には、例えば、フィブラート系薬剤(フェノフィブラート、ベザフィブラート等)、HMG-CoA還元酵素阻害薬(アトルバスタチンカルシウム水和物、シンバスタチン、ピタバスタチンカルシウム、プラバスタチンナトリウム、フルバスタチンナトリウム、ロスバスタチンカルシウム等)、陰イオン交換樹脂(コレスチミド、コレスチラミン等)、小腸コレステロールトランスポーター阻害剤(エゼチミブ等)、エラスターゼ、ニコチン酸製剤(ニコチン酸トコフェロール、ニコモール等)、イコサペント酸エチル、パンテチン、ポリエンホスファチジルコリンなどが用いられている。しかしながら、これらが脂質異常症の治療薬として必ずしも満足されているとは言えず、新たな脂質異常症治療薬が望まれている。
【0004】
DPP-IV阻害作用を有する化合物の脂質異常症に対する作用・効果については、例えば、テネリグリプチンの脂質代謝異常の予防及び/又は治療効果(特許文献1)が報告されている。また、リナグリプチンの糖尿病性高脂血症又は糖尿病性異常脂質血症への効果についての報告があるが、具体的なデータの開示は一切ない(特許文献2)。一方で、ヒトに投与した場合の副作用としては、シタグリプチンリン酸塩水和物は、血中コレステロール増加及び血中トリグリセリド増加が(非特許文献1)、アログリプチン安息香酸塩は、高脂血症、高コレステロール血症、及び高トリグリセリド血症が(非特許文献2)、リナグリプチンは、高脂血症及び高トリグリセリド血症が(非特許文献3)、それぞれ報告されている。
【0005】
上述したように、DPP-IV阻害作用を有する化合物の脂質に対する作用・効果は種々様々である。ところで、WO2004/067509(特許文献3)に記載された本発明にかかる化合物であるN-[2-({2-[(2S)-2-シアノピロリジン-1-イル]-2-オキソエチル}アミノ)-2-メチルプロピル]-2-メチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-6-カルボキサミド(一般名:アナグリプチン)はDPP-IV阻害作用を有する化合物として知られているが、このものが脂質に対しどのような影響を及ぼすかについてはまったく知られておらず、さらに脂質異常症の予防及び/又は治療効果の有無については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/118127号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/128761号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/067509号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】医薬品インタビューフォーム 選択的DPP−4阻害剤 糖尿病用剤 ジャヌビア(登録商標)錠25mg(2012年4月改訂)
【非特許文献2】医薬品インタビューフォーム 選択的DPP−4阻害剤 2型糖尿病治療剤 ネシーナ(登録商標)錠25mg(2012年4月改訂)
【非特許文献3】医薬品インタビューフォーム 胆汁排泄型選択的DPP−4阻害剤 2型糖尿病治療剤 トラゼンタ(登録商標)錠5mg(2012年6月改訂)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、脂質異常症の予防及び/又は治療に用いる新たな医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、上記の課題を解決すべく研究を行った結果、下記ピラゾロピリミジン誘導体が、脂質異常症の予防及び/又は治療に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、次の通りである。
<1> 下記一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有する、脂質異常症の予防及び/又は治療に用いる医薬。
【化1】
(式中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ、水素原子、トリフルオロメチル基、又はC1-3アルキル基を示す。)
<2> 前記有効成分が、N-[2-({2-[(2S)-2-シアノピロリジン-1-イル]-2-オキソエチル}アミノ)-2-メチルプロピル]-2-メチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-6-カルボキサミド又はその塩である、<1>に記載の医薬。
<3> 前記有効成分がアナグリプチンである、<1>に記載の医薬。
【0011】
<4> 前記脂質異常症が、高コレステロール血症又は高LDLコレステロール血症である、<1>〜<3>のいずれか1つに記載の医薬。
<5> 前記脂質異常症が、低HDLコレステロール血症である、<1>〜<3>のいずれか1つに記載の医薬。
<6> 前記脂質異常症が、高トリグリセライド血症である、<1>〜<3>のいずれか1つに記載の医薬。
<7> 前記脂質異常症が、糖尿病性脂質異常症である、<1>〜<6>のいずれか1つに記載の医薬。
【0012】
<8> 前記糖尿病性脂質異常症が、糖尿病性高コレステロール血症又は糖尿病性高LDLコレステロール血症である、<7>に記載の医薬。
<9> 前記糖尿病性脂質異常症が、糖尿病性低HDLコレステロール血症である、<7>に記載の医薬。
<10> 前記糖尿病性脂質異常症が、糖尿病性高トリグリセライド血症である、<7>に記載の医薬。
【0013】
<11> 一般式(I)で表される化合物又はその塩を1日あたり1〜400mg投与するものである、<1>〜<10>のいずれか1つに記載の医薬。
<12> さらに、フィブラート系薬剤、HMG-CoA還元酵素阻害薬、陰イオン交換樹脂、小腸コレステロールトランスポーター阻害剤、エラスターゼ、ニコチン酸製剤、イコサペント酸エチル、パンテチン、及びポリエンホスファチジルコリンからなる群より選ばれる1種以上を組み合わせてなる、<1>〜<11>のいずれか1つに記載の医薬。
【発明の効果】
【0014】
本発明の医薬は、血中脂質濃度の改善作用を有する。したがって、本発明の医薬は、脂質異常症の予防及び/又は治療に有効であり、このことから、動脈硬化症の予防又は治療、並びに、虚血性心疾患及び脳血管障害の予防又は治療にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】C.SHLマウスの血清総コレステロール濃度の経時的推移に対する、アナグリプチン反復混餌投与の作用を示す図である。
図2】C.SHLマウスの血清HDLコレステロール濃度の経時的推移に対する、アナグリプチン反復混餌投与の作用を示す図である。
図3】C.SHLマウスの血清non HDLコレステロール濃度の経時的推移に対する、アナグリプチン反復混餌投与の作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を更に詳細に説明する。本発明の脂質異常症の予防及び/又は治療に用いる医薬は、以下の一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を有効成分として含有する。中でも、N-[2-({2-[(2S)-シアノピロリジン-1-イル]-2-オキソエチル}アミノ)-2-メチルプロピル]-2-メチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-6-カルボキサミド(一般名:アナグリプチン(anagliptin))が好ましい。これらの化合物は、特許文献3(WO2004/067509)記載の化合物であり、その実施例1の化合物の製造法又は実施例2の化合物の製造法等により製造することができる。
【0017】
【化2】
(式中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ、水素原子、トリフルオロメチル基、又はC1-3アルキル基を示す。)
【0018】
塩を形成する場合、該塩としては、薬理学的に許容される塩が好ましく、例えば無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性又は酸性アミノ酸との塩等が挙げられる。無機酸との塩の好適な例としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩が挙げられる。有機酸との塩の好適な例としては、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、安息香酸、トルエンスルホン酸塩等との塩が挙げられる。塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、アルギニン等との塩が挙げられる。酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸等との塩が挙げられる。
【0019】
本発明の医薬は脂質異常症に対して有効である。すなわち、本発明の医薬は、脂質異常症の予防及び/又は治療のための医薬としての用途を有している。ここで「脂質異常症」とは、血液(血清)中の脂質濃度が異常に増加又は減少した状態をいい、高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症といった疾患が臨床上知られている。脂質異常症は、LDLの代謝異常等先天的要因による家族性脂質異常症の他、喫煙や食生活の乱れ、運動不足等生活習慣に起因する脂質異常症が知られる。高コレステロール血症、中でも高LDLコレステロール血症は特に、狭心症・心筋梗塞等の虚血性心疾患や脳梗塞・脳卒中等の脳血管障害の危険因子の一つであることが明らかにされているため、血液中脂質濃度の是正は虚血性心疾患及び脳血管障害の予防又は治療を行う上で極めて重要である。
【0020】
高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症は、臨床検査値に基づき診断される。高LDLコレステロール血症は、LDLコレステロールの血清中濃度が140mg/dL以上の場合、低HDLコレステロール血症は、HDLコレステロールの血清中濃度が40mg/dL以下の場合、高トリグリセリド血症は、トリグリセリドの血清中濃度が150mg/dL以上の場合をいうものである。脂質異常症は、糖尿病合併の有無により、糖尿病性脂質異常症と非糖尿病性脂質異常症に大別できる。
【0021】
一般式(I)で表される化合物又はその塩の投与量は、症状、年齢、性別、投与法、剤形等により異なるが、通常の場合には、成人に対し本発明化合物として1日当たり0.1〜1000mgの範囲内、好ましくは1〜400mgを1日当たり1回又は数回に分けて連日投与するのが好ましい。
【0022】
本発明の医薬は、通常の製剤技術により、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液剤、若しくはシロップ剤として経口的に、又は注射剤若しくは点耳剤等として非経口的に投与することができる。
【0023】
製剤化については、固形剤の場合には、製剤化に際して薬理学的に認容し得る賦形剤、例えば、澱粉、乳糖、精製白糖、グルコース、結晶セルロース、カルボキシセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、燐酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、及び/又はアラビアゴム等を用いることができ、必要であれば、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、被覆剤、及び/又は着色剤等を配合することができる。また、液剤の場合には、安定剤、溶解助剤、懸濁化剤、乳化剤、緩衝剤、及び/又は保存剤等を用いることができる。
【0024】
本発明の医薬には、その有効成分たる一般式(I)で表わされる化合物又はその塩に加えて、さらに、脂質異常症の既存薬であるフィブラート系薬剤、HMG-CoA還元酵素阻害薬、陰イオン交換樹脂、小腸コレステロールトランスポーター阻害剤、エラスターゼ、ニコチン酸製剤、イコサペント酸エチル、パンテチン、及びポリエンホスファチジルコリンからなる群より選ばれる1種以上を組み合わせることができる。これら既存薬は、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩と同時に投与してもよく、また、複数回に分けて投与してもよい。
【0025】
既存薬と組み合わせた本発明の医薬の形態としては、一般式(I)で表わされる化合物又はその塩と既存薬の両成分を共に含有する単一製剤(いわゆる配合剤)の形態と、既存薬と一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を別々に投与するための形態、好ましくは、既存薬と一般式(I)で表わされる化合物又はその塩を単一包装中に含む組み合わせキット製剤が挙げられる。
【0026】
脂質異常症の既存薬の投与量は、それぞれの薬物の定められた投与量に従えばよい。例えば、フィブラート系薬剤の場合は、通常、成人に対し1日あたり100〜2000mgの範囲内で投与、HMG-CoA還元酵素阻害薬の場合は、通常、成人に対し1日あたり0.5〜200mgの範囲内で投与、陰イオン交換樹脂の場合は、通常、成人に対し1日あたり1〜20gの範囲内で投与、ニコチン酸製剤の場合は、通常、成人に対し1日あたり100〜1000mgの範囲内で投与する。小腸コレステロールトランスポーター阻害剤の場合は、通常、成人に対し1日あたり、1〜100mgの範囲内で投与する。エラスターゼの場合は、通常、成人に対し1日あたり、100〜50000EL.U.の範囲内で投与する。イコサペント酸エチルの場合は、通常、成人に対し1日あたり、100〜5000mgの範囲内で投与する。パンテチンの場合は、通常、成人に対し1日あたり、10〜2000mgの範囲内で投与する。ポリエンホスファチジルコリンの場合は、通常、成人に対し1日あたり、100〜5000mgの範囲内で投与する。
【実施例】
【0027】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
試験例1:アナグリプチン投与における脂質低下作用の検討
2型糖尿病患者(HbA1cの平均値が8.12±1.00%)に対してアナグリプチン投与群には、アナグリプチン1回100mgを1日2回食前又は食後に投与した。対照群には、プラセボを投与した。
被験者の血清脂質(総コレステロール(TC)、HDLコレステロール(HDL-C)、トリグリセリド(TG))を測定し、LDLコレステロール(LDL-C)はFriedewaldの式より算出した。対照群及びアナグリプチン投与群における、12週後のTC及びLDL-Cの値を表1に示した。また、群間比較は一元配置分散分析(ANOVA)を用いて行った。
【0028】
【表1】
【0029】
表1から明らかなように、アナグリプチン投与群は、対照群と比較してLDL-C(プラセボ差:-5.1%、p=0.002)及びTC(プラセボ差:-2.4%、p=0.03)を有意に低下した。また、アナグリプチン投与群は対照群と比較して、HDL-Cについては特に有意な上昇、TGについては有意な低下が認められなかった(データ示さず)。したがって、アナグリプチンは、高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症の予防及び/又は治療剤として、有用であることがわかった。
【0030】
試験例2:アナグリプチン長期間投与における脂質低下作用の検討(I)
2型糖尿病患者(HbA1cの平均値が8.18±1.04%)に対して、アナグリプチン1回100 mgを1日2回食前又は食後に投与した。なお、アナグリプチン1回100 mgの1日2回投与では糖尿病の治療効果が不十分な(HbA1c値が6.9%以上を示す)患者に対しては、28週以後、アナグリプチンを1回200mgに増量した。アナグリプチン投与は52週間行った。
脂質に関する臨床検査値が異常値を示していた患者を、異常値を示した脂質の種類に応じて、種々群分けして、その臨床成績を表2に示した。すなわち、アナグリプチン投与前の血清中LDL-C濃度が140mg/dL以上の被験者の群(高LDL-C血症群)、アナグリプチン投与前の血清中HDL-C濃度が40mg/dL以下の被験者の群(低HDL-C血症群)、アナグリプチン投与前の血清中TGの血清中濃度が150mg/dL以上の被験者の群(高TG血症群)に分けて、各臨床検査値及びTCの結果を表2に示した。各種血清中濃度の測定、算出は、試験例1と同様に行った。
なお、TGの値は正規分布を示さなかったため、中央値(中央四分位)で示した。また、被験者が試験から脱落した場合等で、52週時の測定値が欠測した場合は、最終測定値(Last Observation Carried Forward:LOCF)を用いた。アナグリプチン投与前後のLDL-C濃度等の臨床検査値について、一標本t検定を用いて評価した。
【0031】
【表2】
【0032】
表2から明らかなように、アナグリプチンを投与することにより、LDL-C、TG及びTCに有意な低下が認められた。また、HDL-Cに有意な増加が認められた。したがって、アナグリプチンは、高LDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、高コレステロール血症の予防及び/又は治療剤として、有用であることがわかった。
【0033】
試験例3:アナグリプチン長期間投与における脂質低下作用の検討(II)
試験例2で実施した試験に基づき、脂質異常症治療薬の服薬の有無における血清中LDL-C濃度の推移について検討した。結果を表3に示した。血清中濃度の測定、算出は、試験例1と同様に行った。
患者が服薬していた脂質異常症治療薬は、アトルバスタチンカルシウム水和物、シンバスタチン、ピタバスタチンカルシウム、フルバスタチンナトリウム、ロスバスタチンカルシウム等のHMG-CoA還元酵素阻害薬、フェノフィブラート、ベザフィブラート等のフィブラート系薬剤、コレスチミド、コレスチラミン等の陰イオン交換樹脂、イコサペント酸エチル、エラスターゼ、エゼチミブ、トコフェロールニコチン酸であった。
【0034】
【表3】
【0035】
表3から明らかなように、脂質異常症治療薬の服薬の有無にかかわらず、アナグリプチンはLDL-Cを低下した。したがって、アナグリプチンは、高LDL-C血症を合併している糖尿病患者において、その症状の程度に依存するものの、アナグリプチンの単独療法又は既存の脂質異常症治療薬との併用療法のいずれにおいても、高LDL-C血症の予防及び/又は治療剤として、有用であることがわかった。
【0036】
試験例4:アナグリプチン長期間投与における脂質低下作用の検討(III)
血清中LDL-C濃度が140mg/dL以上の高LDL-C血症に罹患し、脂質異常症治療薬を服薬している被験者の血清中LDL-C濃度の推移について、試験例2で実施した試験に基づき検討した。
すなわち、被験者が服薬していた既存の脂質異常症治療薬に基づき、HMG-CoA還元酵素阻害薬(アトルバスタチンカルシウム水和物、シンバスタチン、ピタバスタチンカルシウム、フルバスタチンナトリウム、ロスバスタチンカルシウム等)服薬群、フィブラート系薬剤(フェノフィブラート、ベザフィブラート等)服薬群、エゼチミブ服薬群、その他(ニコチン酸トコフェロール、パンテチン、エラスターゼ、ポリエンホスファチジルコリン)服薬群の4群に群分けし、結果を表4に示した。
【0037】
【表4】
【0038】
表3と表4の結果を併せ考察すると、アナグリプチンは、脂質異常症治療薬を服薬しているにもかかわらず、血清中LDL-C濃度の高い被験者のLDL-Cを低下させた。したがって、アナグリプチンを既存の脂質異常症治療薬と併用すると、より有効に高LDL-C血症を予防及び/又は治療することができ、アナグリプチンは高LDL-C血症の予防及び/又は治療剤として有用であることがわかった。
【0039】
試験例5:C.KOR/StmSlc-Apoeshlマウス(以下、C.SHLマウスと略記する)の血清脂質濃度に対するアナグリプチン投与の影響
高脂血症モデル動物であるC.SHLマウス(9週齢,雄性,日本エスエルシー)を、以下のように2群に分けて実験を実施した。
(1) 対照群:CRF-1固形飼料(オリエンタル酵母工業)を自由摂取
(2) アナグリプチン群:アナグリプチンをCRF-1に0.3%の濃度で混合した固形飼料を自由摂取
各群のC.SHLマウスに、上記(1)及び(2)に記載のとおりに16週間固形飼料を自由摂取させ、(2)群でアナグリプチンを反復混餌投与した。投与前及び投与開始後4週毎に眼窩静脈叢より採血を行い、12000rpmで5分間遠心して血清を得た。得られた血清のコレステロール濃度(TC及びHDL-C)をコレステロールE-テストワコー及びHDL-コレステロールE-テストワコー(和光純薬工業)にて測定した。血清TC濃度の結果を図1に、血清HDL-C濃度の結果を図2に、TC濃度よりHDL-C濃度を減じた血清non HDL-C濃度の結果を図3に示した。図中の各マーカーは、平均値(n=8)±標準偏差を示す。
【0040】
図1〜3から明らかなように、アナグリプチンの投与は、C.SHLマウスの血清TC濃度を対照群に比べ低下させ、投与開始後12週間以降で有意な低下作用を示した。一方、血清HDL-C濃度はアナグリプチンの投与によって上昇し、投与開始後4週間及び16週間で有意な上昇作用を示した。さらに、血清non HDL-C濃度は、アナグリプチンの投与によって、投与開始後4、12、及び16週間において有意に減少した。したがって、アナグリプチンは、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、及び高コレステロール血症の予防及び/又は治療剤として効果が期待できる。
【0041】
試験例6:B6.KOR/StmSlc-Apoeshlマウス(以下、B6.SHLマウスと略記する)の血清脂質濃度に対するアナグリプチン投与の影響(シタグリプチンとの比較)
高脂血症モデル動物であるB6.SHLマウス(9週齢,雄性,日本エスエルシー)を、以下のように3群に分けて実験を実施した。
(1) 対照群:CRF-1固形飼料(オリエンタル酵母工業)を自由摂取
(2) アナグリプチン群:アナグリプチンをCRF-1に0.3%の濃度で混合した固形飼料を自由摂取
(3) シタグリプチン群:シタグリプチンリン酸塩水和物をCRF-1に0.3%(フリー体として)の濃度で混合した固形飼料を自由摂取
各群のB6.SHLマウスに、上記(1)〜(3)に記載のとおりに4週間固形飼料を自由摂取させ、(2)群でアナグリプチンを、(3)群でシタグリプチンを反復混餌投与した。投与前及び投与開始後4週に尾部より採血を行い、12000rpmで5分間遠心して血清を得た。得られた血清のコレステロール濃度(TC)をコレステロールE-テストワコー(和光純薬工業)にて測定した。血清TC濃度の結果を表1に示した。表中の各数値は、平均値(n=14-15)±標準偏差を示す。
【0042】
【表5】
【0043】
表5から明らかなように、B6.SHLマウスにおいて、シタグリプチンの投与では、血清TC濃度低下作用は認められなかったが、アナグリプチンの投与では、血清TC濃度を対照群に比べ11%低下させた。この結果は、アナグリプチンは脂質異常改善作用が期待できるが、DPP-IV阻害剤であれば脂質異常改善作用が期待できるというわけではないことを示している。
図1
図2
図3