【実施例】
【0027】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
試験例1:アナグリプチン投与における脂質低下作用の検討
2型糖尿病患者(HbA1cの平均値が8.12±1.00%)に対してアナグリプチン投与群には、アナグリプチン1回100mgを1日2回食前又は食後に投与した。対照群には、プラセボを投与した。
被験者の血清脂質(総コレステロール(TC)、HDLコレステロール(HDL-C)、トリグリセリド(TG))を測定し、LDLコレステロール(LDL-C)はFriedewaldの式より算出した。対照群及びアナグリプチン投与群における、12週後のTC及びLDL-Cの値を表1に示した。また、群間比較は一元配置分散分析(ANOVA)を用いて行った。
【0028】
【表1】
【0029】
表1から明らかなように、アナグリプチン投与群は、対照群と比較してLDL-C(プラセボ差:-5.1%、p=0.002)及びTC(プラセボ差:-2.4%、p=0.03)を有意に低下した。また、アナグリプチン投与群は対照群と比較して、HDL-Cについては特に有意な上昇、TGについては有意な低下が認められなかった(データ示さず)。したがって、アナグリプチンは、高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症の予防及び/又は治療剤として、有用であることがわかった。
【0030】
試験例2:アナグリプチン長期間投与における脂質低下作用の検討(I)
2型糖尿病患者(HbA1cの平均値が8.18±1.04%)に対して、アナグリプチン1回100 mgを1日2回食前又は食後に投与した。なお、アナグリプチン1回100 mgの1日2回投与では糖尿病の治療効果が不十分な(HbA1c値が6.9%以上を示す)患者に対しては、28週以後、アナグリプチンを1回200mgに増量した。アナグリプチン投与は52週間行った。
脂質に関する臨床検査値が異常値を示していた患者を、異常値を示した脂質の種類に応じて、種々群分けして、その臨床成績を表2に示した。すなわち、アナグリプチン投与前の血清中LDL-C濃度が140mg/dL以上の被験者の群(高LDL-C血症群)、アナグリプチン投与前の血清中HDL-C濃度が40mg/dL以下の被験者の群(低HDL-C血症群)、アナグリプチン投与前の血清中TGの血清中濃度が150mg/dL以上の被験者の群(高TG血症群)に分けて、各臨床検査値及びTCの結果を表2に示した。各種血清中濃度の測定、算出は、試験例1と同様に行った。
なお、TGの値は正規分布を示さなかったため、中央値(中央四分位)で示した。また、被験者が試験から脱落した場合等で、52週時の測定値が欠測した場合は、最終測定値(Last Observation Carried Forward:LOCF)を用いた。アナグリプチン投与前後のLDL-C濃度等の臨床検査値について、一標本t検定を用いて評価した。
【0031】
【表2】
【0032】
表2から明らかなように、アナグリプチンを投与することにより、LDL-C、TG及びTCに有意な低下が認められた。また、HDL-Cに有意な増加が認められた。したがって、アナグリプチンは、高LDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、高コレステロール血症の予防及び/又は治療剤として、有用であることがわかった。
【0033】
試験例3:アナグリプチン長期間投与における脂質低下作用の検討(II)
試験例2で実施した試験に基づき、脂質異常症治療薬の服薬の有無における血清中LDL-C濃度の推移について検討した。結果を表3に示した。血清中濃度の測定、算出は、試験例1と同様に行った。
患者が服薬していた脂質異常症治療薬は、アトルバスタチンカルシウム水和物、シンバスタチン、ピタバスタチンカルシウム、フルバスタチンナトリウム、ロスバスタチンカルシウム等のHMG-CoA還元酵素阻害薬、フェノフィブラート、ベザフィブラート等のフィブラート系薬剤、コレスチミド、コレスチラミン等の陰イオン交換樹脂、イコサペント酸エチル、エラスターゼ、エゼチミブ、トコフェロールニコチン酸であった。
【0034】
【表3】
【0035】
表3から明らかなように、脂質異常症治療薬の服薬の有無にかかわらず、アナグリプチンはLDL-Cを低下した。したがって、アナグリプチンは、高LDL-C血症を合併している糖尿病患者において、その症状の程度に依存するものの、アナグリプチンの単独療法又は既存の脂質異常症治療薬との併用療法のいずれにおいても、高LDL-C血症の予防及び/又は治療剤として、有用であることがわかった。
【0036】
試験例4:アナグリプチン長期間投与における脂質低下作用の検討(III)
血清中LDL-C濃度が140mg/dL以上の高LDL-C血症に罹患し、脂質異常症治療薬を服薬している被験者の血清中LDL-C濃度の推移について、試験例2で実施した試験に基づき検討した。
すなわち、被験者が服薬していた既存の脂質異常症治療薬に基づき、HMG-CoA還元酵素阻害薬(アトルバスタチンカルシウム水和物、シンバスタチン、ピタバスタチンカルシウム、フルバスタチンナトリウム、ロスバスタチンカルシウム等)服薬群、フィブラート系薬剤(フェノフィブラート、ベザフィブラート等)服薬群、エゼチミブ服薬群、その他(ニコチン酸トコフェロール、パンテチン、エラスターゼ、ポリエンホスファチジルコリン)服薬群の4群に群分けし、結果を表4に示した。
【0037】
【表4】
【0038】
表3と表4の結果を併せ考察すると、アナグリプチンは、脂質異常症治療薬を服薬しているにもかかわらず、血清中LDL-C濃度の高い被験者のLDL-Cを低下させた。したがって、アナグリプチンを既存の脂質異常症治療薬と併用すると、より有効に高LDL-C血症を予防及び/又は治療することができ、アナグリプチンは高LDL-C血症の予防及び/又は治療剤として有用であることがわかった。
【0039】
試験例5:C.KOR/StmSlc-Apoeshlマウス(以下、C.SHLマウスと略記する)の血清脂質濃度に対するアナグリプチン投与の影響
高脂血症モデル動物であるC.SHLマウス(9週齢,雄性,日本エスエルシー)を、以下のように2群に分けて実験を実施した。
(1) 対照群:CRF-1固形飼料(オリエンタル酵母工業)を自由摂取
(2) アナグリプチン群:アナグリプチンをCRF-1に0.3%の濃度で混合した固形飼料を自由摂取
各群のC.SHLマウスに、上記(1)及び(2)に記載のとおりに16週間固形飼料を自由摂取させ、(2)群でアナグリプチンを反復混餌投与した。投与前及び投与開始後4週毎に眼窩静脈叢より採血を行い、12000rpmで5分間遠心して血清を得た。得られた血清のコレステロール濃度(TC及びHDL-C)をコレステロールE-テストワコー及びHDL-コレステロールE-テストワコー(和光純薬工業)にて測定した。血清TC濃度の結果を
図1に、血清HDL-C濃度の結果を
図2に、TC濃度よりHDL-C濃度を減じた血清non HDL-C濃度の結果を
図3に示した。図中の各マーカーは、平均値(n=8)±標準偏差を示す。
【0040】
図1〜3から明らかなように、アナグリプチンの投与は、C.SHLマウスの血清TC濃度を対照群に比べ低下させ、投与開始後12週間以降で有意な低下作用を示した。一方、血清HDL-C濃度はアナグリプチンの投与によって上昇し、投与開始後4週間及び16週間で有意な上昇作用を示した。さらに、血清non HDL-C濃度は、アナグリプチンの投与によって、投与開始後4、12、及び16週間において有意に減少した。したがって、アナグリプチンは、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、及び高コレステロール血症の予防及び/又は治療剤として効果が期待できる。
【0041】
試験例6:B6.KOR/StmSlc-Apoeshlマウス(以下、B6.SHLマウスと略記する)の血清脂質濃度に対するアナグリプチン投与の影響(シタグリプチンとの比較)
高脂血症モデル動物であるB6.SHLマウス(9週齢,雄性,日本エスエルシー)を、以下のように3群に分けて実験を実施した。
(1) 対照群:CRF-1固形飼料(オリエンタル酵母工業)を自由摂取
(2) アナグリプチン群:アナグリプチンをCRF-1に0.3%の濃度で混合した固形飼料を自由摂取
(3) シタグリプチン群:シタグリプチンリン酸塩水和物をCRF-1に0.3%(フリー体として)の濃度で混合した固形飼料を自由摂取
各群のB6.SHLマウスに、上記(1)〜(3)に記載のとおりに4週間固形飼料を自由摂取させ、(2)群でアナグリプチンを、(3)群でシタグリプチンを反復混餌投与した。投与前及び投与開始後4週に尾部より採血を行い、12000rpmで5分間遠心して血清を得た。得られた血清のコレステロール濃度(TC)をコレステロールE-テストワコー(和光純薬工業)にて測定した。血清TC濃度の結果を表1に示した。表中の各数値は、平均値(n=14-15)±標準偏差を示す。
【0042】
【表5】
【0043】
表5から明らかなように、B6.SHLマウスにおいて、シタグリプチンの投与では、血清TC濃度低下作用は認められなかったが、アナグリプチンの投与では、血清TC濃度を対照群に比べ11%低下させた。この結果は、アナグリプチンは脂質異常改善作用が期待できるが、DPP-IV阻害剤であれば脂質異常改善作用が期待できるというわけではないことを示している。