(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227537
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】リーク検査を行うシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01M 3/04 20060101AFI20171030BHJP
G01M 3/32 20060101ALI20171030BHJP
G01M 3/40 20060101ALI20171030BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20171030BHJP
G01N 27/64 20060101ALI20171030BHJP
G01M 3/20 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
G01M3/04 Z
G01M3/32 A
G01M3/40 Z
G01N27/62 G
G01N27/64 B
G01M3/20 L
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-534193(P2014-534193)
(86)(22)【出願日】2013年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2013005228
(87)【国際公開番号】WO2014038192
(87)【国際公開日】20140313
【審査請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-193683(P2012-193683)
(32)【優先日】2012年9月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】ムルティ プラカッシ スリダラ
【審査官】
東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】
実公平02−030747(JP,Y2)
【文献】
特開2004−340844(JP,A)
【文献】
特開2011−179975(JP,A)
【文献】
米国特許第05361626(US,A)
【文献】
特開2009−198322(JP,A)
【文献】
特開2005−134382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00− 3/40
G01N 27/62−27/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体に含まれる成分をイオン化するイオン化ユニットと、
イオン化された成分を検出する検出ユニットと、
リーク検査の対象物が収納される容器と、
前記対象物および前記容器の一方に前記イオン化ユニットによりイオン化されない第1の成分の第1の気体を供給し、前記対象物および前記容器の一方の内部の気体を、前記イオン化ユニットを介して前記検出ユニットに供給する第1の経路と、
前記対象物および前記容器の他方の内部からの、前記イオン化ユニットによりイオン化される第2の成分を含む第2の気体のリークを前記検出ユニットの検出結果により判断する判定ユニットとを有し、
前記イオン化ユニットは、波長が120−95nmの紫外線を放出するUVイオン化ユニットであり、前記第1の成分は二酸化炭素であり、前記第2の気体は空気であり、前記第2の成分は酸素であるシステム。
【請求項2】
請求項1において、
前記検出ユニットから排出される前記第1の気体を前記第1の経路に繋がる前記第1の気体の供給ユニットに回収する循環ユニットを有する、システム。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記対象物および前記容器の他方に前記第2の気体を供給または封入する第2の経路を有する、システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記イオン化ユニットは、波長が120−110nmの紫外線を放出するUVイオン化ユニットである、システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記検出ユニットはイオン移動度センサーを含む、システム。
【請求項6】
気体に含まれる成分をイオン化ユニットによりイオン化して検出する検出ユニットを含むシステムを用いて対象物のリーク検査を行うことを含む方法であって、
前記リーク検査を行うことは、
前記対象物および前記容器の一方に前記イオン化ユニットによりイオン化されない第1の成分の第1の気体を供給し、前記対象物および前記容器の一方の内部の気体を、前記イオン化ユニットを介して前記検出ユニットに供給することと、
前記対象物および前記容器の他方の内部からの、前記イオン化ユニットによりイオン化される第2の成分を含む第2の気体のリークを前記検出ユニットの検出結果により判断することとを含み、
前記イオン化ユニットは、波長が120−95nmの紫外線を放出するUVイオン化ユニットであり、前記第1の成分は二酸化炭素であり、前記第2の気体は空気であり、前記第2の成分は酸素である、方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記リーク検査を行うことは、前記対象物および前記容器の他方に前記第2の気体を供給または封入することをさらに含む、方法。
【請求項8】
請求項6または7において、
前記第1の気体を供給することは、前記検出ユニットから排出される前記第1の気体を回収して循環することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リーク検査を行うシステムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本国特開2011−107036号公報の漏洩検知システムは、真空ポンプに接続されたテストチャンバと、試験体TPにヘリウムガスを封入する封入手段と、テストチャンバに試験体を移送し得る検知準備位置と、封入手段によるヘリウムガスの封入操作が行われる封入操作位置との間で試験体を搬送する搬送手段と、検知準備位置からテストチャンバ内の検知位置に試験体を移送する移送手段と、ヘリウムガス封入済みの試験体が検知位置に存する状態でテストチャンバを密閉する密閉手段と、密閉手段によりテストチャンバを密閉した後、真空ポンプによりテストチャンバを所定圧力まで真空引きしたときに、この試験体から漏洩するヘリウムを検知する漏洩検知手段とを備える。
【0003】
国際公開WO2012/056709号公報には、本件出願人が提案しているサンプルを分析するユニットを有するシステムが開示されている。この分析するユニットは、少なくとも2つのパラメータにより制御される電界をイオン化された化学物質が通過するイオン強度を測定するイオン移動度センサーにサンプルを供給して得られた測定データに含まれるデータの2次元表現であって、第1のパラメータを変化させ、他のパラメータを固定したときのイオン強度を示す2次元表現の中に存在するピークを検出する機能ユニットと、検出されたピークと他の2次元表現の中に存在するピークとの連続性および生滅に基づいて検出されたピークを分類する機能ユニットと、分類されたピークに基づいてサンプルに含まれる化学物質を推定する機能ユニットとを有する。
【発明の概要】
【0004】
ヘリウムを消費する漏洩検知システムはランニングコストが高い。このため、低コストで、精度の高いリーク検査システムおよび方法が求められている。
【0005】
本発明の一態様は、気体に含まれる成分(分子)をイオン化するイオン化ユニットと、イオン化された成分を検出する検出ユニットと、リーク検査の対象物が収納される容器と、対象物および容器の一方にイオン化ユニットによりイオン化されない第1の成分の第1の気体を供給し、対象物および容器の一方の内部の気体を、イオン化ユニットを介して検出ユニットに供給する第1の経路と、対象物および容器の他方の内部からの、イオン化ユニットによりイオン化される第2の成分を含む第2の気体のリークを検出ユニットの検出結果により判断する判定ユニットとを有するシステムである。リーク方向が対象物から容器であれば、容器からイオン化ユニットを通して検出ユニットに第1の成分の気体を導くことにより、対象物からの第2の気体のリーク(漏洩)がなければ検出ユニットはなにも検知しない。一方、対象物から第2の気体のリークがあれば、第2の成分がイオン化ユニットでイオン化され、検出ユニットで検出される。したがって、判定ユニットはリークの有無を簡単に、そして確実に判断できる。リーク方向が容器から対象物であれば、対象物を第1の経路に繋ぐことにより上記と同様に対象物内部へのリークを検出できる。
【0006】
リーク検査のために対象物を収納する容器を真空引きするシステムにおいては、容器から検出ユニットに至るフローが確保できないので容器やそれに続く配管系の不純物の除去が容易でない。また、そのようなシステムでは、フローがないので容器からの漏洩物が検出ユニットに到達するのに時間を要する。
【0007】
このシステムにおいては、イオン化ユニットによりイオン化されない第1の成分の気体(キャリアガス)により、たとえば、容器を含む第1の経路を満たすことができる。また、第1の経路に所定の流量の気体の流れを形成でき、その気体の流れは検出ユニットでは検出されない。このため、容器または対象物を含む第1の経路のパージが容易であり、さらに、対象物に微量なリークがあると、リークした成分は第1の気体に搬送され、短時間で検出ユニットに到達する。したがって、検出ユニットのバックグランドを小さくでき、対象物のリークの有無を短時間で精度よく検出できる。
【0008】
イオン化ユニットは
波長が120−95nmの紫外線を放出するUVイオン化ユニットであり、第1の成分は二酸化炭素であり、第2の気体は空気であり、第2の成分は酸素である。
【0009】
このシステムは、さらに、検出ユニットから排出される第1の気体を第1の経路に繋がる第1の気体の供給ユニットに回収する循環ユニットを有することが望ましい。ランニングコストをさらに削減できる。
【0010】
このシステムは、対象物または容器にイオン化ユニットによりイオン化される第2の成分を含む第2の気体を供給または封入する第2の経路を有することが望ましい。対象物からのリークをさらに精度よく検出できる。第2の気体の一例は空気(ドライエアー)である。ドライエアーは低コストであり、空気に含まれている微量成分あるいは酸素分子がUV(紫外線)のエネルギーによりイオン化されることにより検出される。第2の気体は、アセトンなどのUVによりイオン化されやすい分子を微量(0.1〜10%)含む気体であってもよい。
【0011】
検出ユニットは質量分析装置、ガスクロマトグラフィなどであってもよいが、FAIMSなどのイオン移動度センサーであれば、真空雰囲気が不要で、ほぼリアルタイムで検出できる。したがって、低コストおよび短時間でリークを検出できるシステムを供給できる。
【0012】
本発明の他の態様の1つは、気体に含まれる分子をイオン化ユニットによりイオン化して検出する検出ユニットを含むシステムを用いて対象物のリーク検査を行うことを含む方法である。リーク検査を行うことは、以下のステップを含む。
1.対象物および容器の一方にイオン化ユニットによりイオン化されない第1の成分の第1の気体を供給し、対象物および容器の一方の内部の気体を、イオン化ユニットを介して検出ユニットに供給すること。
2.対象物および容器の他方の内部からの、イオン化ユニットによりイオン化される第2の成分を含む第2の気体のリークを検出ユニットの検出結果により判断すること。
【0013】
リーク検査を行うことは、対象物または容器の他方にイオン化ユニットによりイオン化される分子を含む第2の気体を供給または封入することを含んでいてもよい。供給するステップは、検出ユニットから排出される第1の気体を回収して循環することを含むことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】リーク検査システムの概略構成を示すブロック図。
【
図3】リーク検査システムによりリーク検査する工程を示すフローチャート。
【0015】
図1にイオン移動度センサーを備えたリーク検査システムの概要を示している。イオン移動度センサー11の一例はFAIMS(FAIMS、Field Asymmetric waveform Ion Mobility Spectrometry、フィールド非対称質量分析計、またはDIMS、Differential Ion Mobility Spectrometry)である。FAIMS(FAIMS技術)では、測定対象となる化学物質(成分)はFAIMS11の上流に配置されたイオン化ユニット12によりイオン化できる化合物、組成物、分子、その他の生成物である。FAIMS11では、イオン移動度が化学物質毎にユニークである性質を利用して、イオン化された化学物質を電界中を移動させながら、イオン化された化学物質に対し差動型電圧(DV、Dispersion Voltage、Vd電圧、電界電圧、交流電圧、以降ではVf)と補償電圧(CV、Compensation Voltage、補償電圧、直流電圧、以降ではVc)とを印加する。検出目標のイオン化された化学物質は、VfおよびVcの値が適切に制御されれば、検出用の電極に到達して電流値として検出される。
【0016】
このリーク検査システム1は、上流から、キャリアガス29を供給する供給ユニット(キャリアガス供給ユニット)20と、リーク検査の対象物35を収納する密閉容器(チャンバ)30と、イオン化ユニット12および検出ユニットであるFAIMS11とを含むセンサーユニット10と、吸気用のポンプ40とを含む。リーク検査の対象物(試験体TP、被試験デバイスDUT)35は、ラジエターなどの熱交換器、ボンベ、圧力容器、耐圧容器などさまざまである。以下においては、リーク方向が対象物35から容器30である例を説明する。すなわち、対象物35がラジエターなどの外界に対して内部圧力が高くなるものであり、対象物35から外界へのリークを検査することが必要なケースである。
【0017】
リーク検査システム1は、キャリアガス29がイオン化ユニット12によりイオン化されない二酸化炭素であり、キャリアガス29を、イオン化ユニット12を介して検出ユニットのFAIMS11に供給する第1の経路5を含む。第1の経路5は、キャリアガス供給ユニット20、容器30、容器30とセンサーユニット10とを連通する配管39、およびセンサーユニット10を含む。
【0018】
リーク検査システム1は、さらに、第1の経路5を介して対象物35の内部からの、イオン化ユニット12によりイオン化される第2の成分を含む第2の気体のリークをFAIMS11の検出結果により判断する判定ユニット71を含む。判定ユニット71は、FAIMS11の通過流量を制御したり、FAIMS11から得られた測定データの分析機能を含むデバイス(臭覚プロセッサ、OLP、Olfaction Processor)60に含まれていてもよく、リーク検査システム1の全体を制御する制御ユニット70に含まれていてもよい。制御ユニット70は、パーソナルコンピュータなどの汎用的なハードウェア資源(CPUおよびメモリを含む)により実現され、プログラム(プログラム製品)により提供されるリーク検査アプリケーション72が稼働する。本例では判定ユニット(判定機能)71はリーク検査アプリケーション72に含まれており、リーク検査アプリケーション72は、リーク検査システム1を制御し、リークの有無を示す結果を出力する。
【0019】
OLP60は、1つの集積化されたデバイス(半導体チップ、ASIC、LSI)または複数の集積化されたチップ(チップセット)として提供され、FAIMS11の測定条件または環境を制御する機能や、測定条件または環境により測定された結果を解析(解釈)する機能などを含み、詳細は、たとえば、本件出願人の出願(国際公開WO2012/056709号公報)に開示されている。
【0020】
キャリアガス供給ユニット20は、二酸化炭素からなる気体をキャリアガス29として供給する。そのため、供給ユニット20は、二酸化炭素のボンベ21と、キャリアガス29の貯蔵タンク23と、貯蔵タンク23の圧力が大気圧よりも若干高い値、たとえば1barになるようにボンベ21からキャリアガス(二酸化炭素)29を供給するフィーダー(圧力コントローラ)22と、キャリアガス29のピュリファイアー(フィルタ、清浄装置)25とを含む。市販されている高純度二酸化炭素の純度は99.995%以上であり、このシステム1においては、ピュリファイアー25を設け、より純度の高い二酸化炭素(CO2、第1の成分)のガスをキャリアガス29としてチャンバ30に供給する。
【0021】
図2にピュリファイアー25の一例を示している。このピュリファイアー25は、透過選択性の高い拡散膜(透過膜、多孔質高分子膜)26を用いてキャリアガス29に含まれている不純物27を排出し、キャリアガス29の純度をさらに向上する。拡散膜26の一例はPDMS(ポリジメチルシロキサン)、ハイブリッドシリカなどである。たとえば、平均細孔径が0.1ないし0.6nmで、数種類の媒体内で少なくとも200℃まで熱水的に安定であるシリカをベースとする微孔質有機−無機ハイブリッド膜が、短鎖架橋シランのゾル−ゲル処理を使用して製造することができ、気体の分離ならびに低分子量アルコールなどの様々な有機化合物からの水および他の小分子化合物の分離に適していることが報告されている。
【0022】
ピュリファイアー25は、拡散膜26の入力側26aにキャリアガス29を導入する入力管27aと、拡散膜26の入力側26aに接触して純度が向上したキャリアガス29を出力する出力管27bと、拡散膜26の出力側26bから拡散膜26を透過した水などの不純物を放出する排気管28とを含む。
【0023】
リーク検査システム1は、さらに、センサーユニット10を通過したキャリアガス29をキャリアガス供給ユニット20に回収して再利用する循環ユニット45を含む。循環ユニット45は、吸気ポンプ40の排気をフィルタリングするフィルタユニット46を含み、フィルタリングされたキャリアガス29はキャリアガス供給ユニット20の貯蔵タンク23に回収される。フィルタユニット46は、不純物を吸着するモレキュラシーブ46aと、水分を分離するカーボンスクラバ46bとを含む。ピュリファイアー25により純度を向上したキャリアガス29を供給ユニット20に回収することにより高純度の二酸化炭素の消費を抑制でき、リーク検査に要するランニングコストを低減できる。
【0024】
リーク検査システム1は、さらに、チャンバ30に収納される検査対象物35にリークガス59を供給する第2の経路(第2の供給ユニット、リークガス供給ユニット)50を有する。このシステムではリークガスとして空気(乾燥空気)59が用いられ、第2の経路50は、エアーリザーバ51と検査対象物35とを接続する。リークガス59は、チャンバ30に収納された検査対象物35に連続して供給されてもよい。また、チャンバ30に検査対象物35を収納する前に、検査対象物35にリークガス59を封入し、供給口を封止しておいてもよい。リークガス59は、乾燥空気に限定されないが、空気を使用することでランニングコストを低減できる。
【0025】
検出ユニットであるFAIMS11の一例はオウルストーン(Owlstone)社製のMEMSセンサーである。イオン化ユニット12の一例はUV(紫外線)によりガスをイオン化するものである。イオン化ユニット12は、Ni
63(555MBqのβ線源、0.1μSv/hr)を使用したもの、コロナ放電を用いたものであってもよい。本例のイオン化ユニット12は、紫外発光ダイオード(UV−LED)、紫外線ランプ(UV Low pressure lamp)などの紫外線源を含み、280nm以下の短波長の光を放出してキャリアガス29の中に含まれる成分をイオン化する。
【0026】
イオン化ユニット12は、さらに波長が200〜10nmのVUV(真空紫外線)領域、または、波長が121〜10nmの短(延)紫外光(Extra Ultraviolet、EUV)の紫外光を放出するものであることが望ましく、波長が120〜95nmでイオン化エネルギーが10〜13eV程度の紫外線を放出する紫外線であることが望ましい。このリーク検査システム1のセンサーユニット10では、波長が120〜110nmでイオン化エネルギーが10〜10.6eV程度の紫外線を放出する紫外線源を備えたイオン化ユニット12が採用されている。
【0027】
このエネルギーレベルの紫外線を照射するイオン化ユニット12を使用する場合、二酸化炭素のイオン化エネルギーは13.79−14.4eVとの報告があり、二酸化炭素はイオン化されない。同様に、窒素分子(N2)のイオン化エネルギーは15−20eVとの報告があり、窒素もイオン化されない。一方、酸素(酸素分子、O2)は、オゾンの形成などを含めて波長130nm以下の紫外線でイオン化が始まるとの報告があり、空気中の酸素の一部はイオン化されると考えられる。その他の空気中に浮遊することの多い有機系高分子は10eVあるいはそれ以下でイオン化される。たとえば、ベンゼンのイオン化エネルギーは9.24eVであり、アセトンのイオン化エネルギーは10.5eV前後である。
【0028】
このリーク検査システム1においては、キャリアガス29として高純度の二酸化炭素が検査対象物35を収納するチャンバ(容器)30に供給され、配管39を介してセンサーユニット10に供給される。センサーユニット10では、キャリアガス29に含まれる分子のうち、UVイオン化ユニット12によりイオン化された分子が検出ユニットであるFAIMS11により検出される。このリーク検査システム1のキャリアガス29は二酸化炭素なので、UVイオン化ユニット12ではイオン化されず、FAIMS11では検出されない。したがって、チャンバ30に封入(収納)された検査対象物35にリークがなければ、FAIMS11では何も検出されずフラットなスペクトラムまたはある程度のホワイトノイズがのったスペクトラムが出力され、OLP60からは検出物がないことを示す結果が出力される。その結果を受けて、リーク検査アプリケーション72の判定ユニット71は、検査対象物35にリークが見られないことを示す検査結果を出力する。
【0029】
一方、検査対象物35にリークがあると、検査対象物35に封入または供給されているリークガス(空気)59がチャンバ30に放出される。空気59はキャリアガス29により第1の経路5を通ってセンサーユニット10に供給される。キャリアガス29に含まれる空気59の中の酸素あるいはその他の微量な有機物質などの成分がUVイオン化ユニット12によりイオン化され、FAIMS11に到達する。したがって、FAIMS11では、ポジティブおよび/またはネガティブなイオンのピークを含むスペクトラムが出力され、OLP60からは何等かの検出物があることが出力される。OLP60は、検出された分子を特定する必要はなく、判定ユニット(判定機能)71は、OLP60が何らかの分子を検出したことを受けて、検査対象物35にリークがあることを示す検査結果を出力する。
【0030】
FAIMS11は、供給されるキャリアガス29に含まれる微量成分、たとえば、ppt〜ppbの濃度でキャリアガス29に存在する成分を検出できる。したがって、このリーク検査システム1は、検査対象物35の微量なリークを高精度で検出できる。さらに、FAIMS11で測定するために1〜1000mL/分程度のキャリアガス29を供給する必要があるが、UVイオン化ユニット12によりイオン化されない二酸化炭素をキャリアガス29として使用することによりFAIMS11の感度を下げずにキャリアガスフローを確保できる。キャリアガスフローが確保されるので、検査対象物35にリークがあると、リークした成分はキャリアガス29により短時間でFAIMS11に供給される。したがって、このリーク検査システム1においては、短時間で、ほぼリアルタイムでリークの有無を判断でき、検査時間を大幅に短縮できる。
【0031】
また、第1の経路5に含まれるチャンバ30および配管39を流れるキャリアガスフローを常に確保できる。このため、チャンバ30およびチャンバ30とセンサーユニット10とを接続する配管39をキャリアガス29でパージできる。したがって、チャンバ30や配管39への不純物の付着を抑制でき、リーク検査の精度を向上できる。
【0032】
さらに、リークチェックに用いるガスは、二酸化炭素(第1の気体)29と空気(第2の気体)59とであり、従来のヘリウムを用いたリーク検査に比較すると、ランニングコストを大幅に削減できる。また、このリーク検査システム1においては、循環ユニット45によりキャリアガス29を回収して再利用することにより、さらにランニングコストを削減できる。また、このリーク検査システム1は、全体が大気圧前後の圧力で制御され、チャンバ内部を真空にする必要がない。したがって、容器および配管の機械的な強度を大幅に高める必要はなく、真空ポンプを用意する必要もない。このため、設備費用も削減できる。また、チャンバ30を加熱することも可能であり、高温でリーク検査を行うことも可能である。
【0033】
図3に、リーク検査システム1を用いてリーク検査するプロセスをフローチャートにより示している。ステップ81において、キャリアガス(二酸化炭素、第1の気体)29およびリークガス(空気、第2の気体)59の準備を行う。キャリアガス供給ユニット20ではリザーバ23が所定の圧力になるまでキャリアガス(二酸化炭素)29を供給し、ピュリファイアー25を稼働させる。リークガス供給ユニット50においては、リークガス(ドライエアー)59をリザーバ51に準備する。ステップ82においてチャンバ30に検査対象物(DUT)35を収納し、チャンバ30を密閉する。測定用のチャンバ30の搬入前後に、二重ドア方式などの搬入搬出用のチャンバ(エアーロック)を設け、ベルトコンベアなどにより連続的にチャンバ30へ検査対象物35を次々とセットできるようにしてもよい。
【0034】
チャンバ30に検査対象物35が収納され、チャンバ30が密閉されると、ステップ83でキャリアガス29のフロー(流量)をチェックし、ステップ84でキャリアガス29の状態をFAIMS11によりチェックする。キャリアガス29の流量が安定し、キャリアガス29の純度が十分に高く、水分やVOCなどの不純物がFAIMS11により検出されなくなると、ステップ85においてチャンバ30の中の検査対象物35にリークガス59を供給し、FAIMS11による測定を開始する。すなわち、対象物35が収納されたチャンバ(容器)30にイオン化ユニット12によりイオン化されないキャリアガス29を供給し、キャリアガス29を、イオン化ユニット12を介してFAIMS11に供給する。
【0035】
検査対象物35にリークガス59が封入されている場合は、ステップ83および84の条件が確認されるか、適当な時間が経過すると、それ以降のFAIMS11の測定データによりリークの有無を判断する。
【0036】
ステップ86において、リーク検査アプリケーション72は、OLP60から得られたデータを解析し、検査対象物35のリークの有無を判断する。すなわち、リーク検査アプリケーション72の判定ユニット71は、対象物35の内部からの、イオン化ユニット12によりイオン化される成分を含むドライエアー59のリークをFAIMS11の検出結果により判断し、アラームなどの適当な手段により出力する。リーク検査アプリケーション72は、検査結果を適当な記録媒体87に記録したり、コンピュータネットワークを介して出力する機能を含んでいてもよい。
【0037】
ステップ88において、次の検査対象物35があれば、ステップ82に戻ってチャンバ30の検査対象物35を入れ替えて、再びリーク検査を開始する。
【0038】
上記の例はリーク方向が対象物35から容器30の場合を説明しているが、リーク方向が容器30から対象物35であれば、対象物35をキャリアガス供給ユニット20に接続し、対象物35を、配管39を介してセンサーユニット10に接続することによりリーク検査を行うことができる。
【0039】
また、上記の例において、リークガス59は乾燥空気を採用している。リークガス59は通常の空気であってもよい。ただし、ドライエアーでない場合、チャンバ30および配管39に水分が付着すると除去するために時間がかかり、次のリークテストの条件が確立するまでの待ち時間が長くなる。したがって、リークガス59は乾燥空気であることが好ましい。リークガス59は、アセトンあるいはその他の揮発性が高く、UVでイオン化されやすい特定の成分を微量、たとえば0.1〜10%程度含むガスであってもよい。チャンバ30あるいは配管39にリークが発生した場合や、チャンバ30あるいは配管39のパージに時間を要するような場合に、そのような事態の発生をFAIMS11の測定結果により判断しやすい。また、リークガス59の中の特定の成分の濃度は、検査対象物35にリークがある場合に、FAIMS11の感度が最も高くなる濃度、たとえば、ppbまたはサブppbになることを想定して設定することが望ましい。
【0040】
リークした成分を検出するセンサーはFAIMSに限らず、他のタイプのイオン移動度センサーであってもよく、質量分析器であってもよい。しかしながら、イオン移動度センサーは空気中でリークした成分を測定できるので、管理が容易で、低コストのリーク検査システムに好適である。