特許第6227545号(P6227545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6227545インプリント用光硬化性樹脂組成物、インプリント用モールドの製造方法およびインプリント用モールド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227545
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】インプリント用光硬化性樹脂組成物、インプリント用モールドの製造方法およびインプリント用モールド
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20171030BHJP
   C08F 230/08 20060101ALI20171030BHJP
   C08F 220/26 20060101ALI20171030BHJP
   C08F 220/00 20060101ALI20171030BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20171030BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20171030BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   H01L21/30 502D
   C08F230/08
   C08F220/26
   C08F220/00
   C08F2/50
   B29C59/02 B
   B29C33/38
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-543236(P2014-543236)
(86)(22)【出願日】2013年10月15日
(86)【国際出願番号】JP2013077903
(87)【国際公開番号】WO2014065149
(87)【国際公開日】20140501
【審査請求日】2016年7月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-232883(P2012-232883)
(32)【優先日】2012年10月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000202350
【氏名又は名称】綜研化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】山田 紘子
(72)【発明者】
【氏名】須藤 康夫
【審査官】 赤尾 隼人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−214716(JP,A)
【文献】 特開2008−105414(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/155499(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/069557(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/014961(WO,A1)
【文献】 特開2008−189782(JP,A)
【文献】 特開2001−163939(JP,A)
【文献】 特開2008−019292(JP,A)
【文献】 特開2012−033517(JP,A)
【文献】 特開2008−202022(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/176020(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/076148(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
B29C 33/00−33/76;53/00−53/84;
57/00−59/18
C08F 2/00−2/60;6/00−246/00;301/00
C08C 19/00−19/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系モノマー(A)、(A)成分と共重合可能な反応性基を有するケイ素含有モノマー(B)および光開始剤(C)を含むインプリント用光硬化性樹脂組成物であって、
前記光開始剤(C)が、アルキルフェノン系光開始剤(C1)およびアシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)の組み合わせからなり、
前記アルキルフェノン系光開始剤(C1)が、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オンおよび2−ヒドロキシ−1−{[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル-プロパン−1−オンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記アシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)が、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドおよびビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、かつ、
前記アルキルフェノン系光開始剤(C1)と前記アシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)との配合重量比(C1:C2)が1:99〜25:75の範囲内にあることを特徴とするインプリント用光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系モノマー(A)100重量部に対して、前記ケイ素含有モノマー(B)を0.1〜60重量部、前記アルキルフェノン系光開始剤(C1)を0.01〜20重量部および前記アシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)を0.01〜20重量部含有することを特徴とする請求項1に記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記アルキルフェノン系光開始剤(C1)が、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンであり、アシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)がビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドであり、アルキルフェノン系光開始剤(C1)とアシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)との配合重量比(C1:C2)が、10:90〜25:75の範囲内にあることを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系モノマー(A)が、EO変性トリメチロールプロペントリアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、ノニルフェノールEO変性アクリレート、フェノールEO変性アクリレートおよびトリプロピレングリコールジアクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記インプリント用光硬化性樹脂組成物が、オリゴマーおよび/またはポリマーを含まないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物から得られたインプリント用モールド。
【請求項7】
表面が剥離処理された請求項に記載のインプリント用モールド。
【請求項8】
前記インプリント用モールドに18,000mJ/cm2の光を照射した後の該インプリント用モールドのYI値から光照射前のモールドのYI値を差し引いた値が、0.0〜3.0であることを特徴とする請求項6または7に記載のインプリント用モールド。
【請求項9】
前記インプリント用モールドについて、JIS K5600 5−4で規定される表面硬度が、鉛筆硬度で3B〜3Hであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のインプリント用モールド。
【請求項10】
(I)請求項1〜5のいずれか1項に記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物を基板上に塗布する工程、
(II)前記基板上のインプリント用光硬化性樹脂組成物に、表面に微細パターンの形成されたマスターモールドを当接する工程、
(III)前記基板と前記マスターモールドとの間の前記インプリント用光硬化性樹脂組成物に光を照射して、インプリント用光硬化性樹脂組成物を硬化させる工程、および
(IV)前記硬化したインプリント用光硬化性樹脂組成物から前記マスターモールドを剥離する工程を含むことを特徴とする表面に微細パターンの形成されたインプリント用モールドの製造方法。
【請求項11】
(I)請求項1〜5のいずれか1項に記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物を表面に微細パターンの形成されたマスターモールド上に滴下する工程、
(II)前記インプリント用光硬化性樹脂組成物の表面に基板を被せる工程、
(III)前記基板と前記マスターモールドとの間の前記インプリント用光硬化性樹脂組成物に光を照射して、インプリント用光硬化性樹脂組成物を硬化させる工程、および
(IV)前記硬化したインプリント用光硬化性樹脂組成物から前記マスターモールドを剥離する工程を含むことを特徴とする表面に微細パターンの形成されたインプリント用モールドの製造方法。
【請求項12】
前記マスターモールドの微細パターンに対して、収縮率が10%以下の微細パターンが形成されていることを特徴とする請求項10または11に記載のインプリント用モールドの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント用光硬化性樹脂組成物、この光硬化性樹脂組成物を用いたインプリント用モールドの製造方法およびこの光硬化性樹脂組成物を用いて形成されるインプリント用モールドに関する。
【背景技術】
【0002】
インプリント技術とは、ナノまたはミクロンスケールの微細構造が表面に形成されたマスターモールドを、液状樹脂へ押しつけ、モールドの微細構造を樹脂に転写する技術である。転写により形成された微細構造を有する構造体は、微細構造の形状により、インプリントモールド、ARフィルム、拡散フィルム等として、半導体材料、光学材料、記憶メディア、マイクロマシン、バイオ、環境等、様々な分野に用いられている。
【0003】
インプリントの方法としては、ガラス転移温度以上で溶融した熱可塑性樹脂に表面に所定の形状が形成されているモールドを圧接して、該モールドの表面形状を熱可塑性樹脂に熱インプリントし、冷却後モールドを取り外す熱インプリントと、光硬化性樹脂に同様のモールドを押しつけ、紫外線照射により光硬化性樹脂を硬化させた後、モールドを取り外す光インプリントなどが挙げられる。
【0004】
一方、モールドとしては、従来は石英あるいはシリコン等が用いられていたが、最近は汎用性および費用の点から樹脂製のものが使用されている。しかしながら樹脂製のモールドは、転写対象である熱硬化性樹脂および光硬化性樹脂との相性がよいため、転写対象からの剥離が容易でなく、剥離の際に転写対象に形成されたパターン形状の欠損等が生じることがあった。
【0005】
そこで、樹脂製モールドの表面に、シラン系等のカップリング剤を離型剤として用いて、モールドの表面エネルギーを適正な範囲とすることで剥離性を付与することが知られている(たとえば特許文献1参照)。しかしながら、転写型上に上記離型剤は密着しにくく、離型剤の剥離が生じるため、数回の使用毎に離型剤を塗布し直す必要があった。また、剥離を防止するためには、離型剤層の厚さを制御する必要があり、そのような制御は容易でなかった。
【0006】
また、モールドを形成する樹脂に、シリコーン化合物またはシリコーン樹脂を添加して、剥離性を向上させることが知られている(たとえば特許文献2および3参照)。しかしながら、前記組成物はオリゴマーを含んでいたり、シリコーン化合物およびシリコーン樹脂がオリゴマーおよびポリマーであるため、粘度が高く、基板に薄く塗ることが困難であった。またこの組成物によって得られるモールドの柔軟性に課題があった。
【0007】
次に、光インプリントにより樹脂製のモールドを製造する場合、転写対象の樹脂が硬化する際に硬化収縮して、原版のモールドの形状が正確に反映されていないモールドが製造されるとの問題があった。ナノまたはミクロンスケールの微細構造の転写を対象とする光インプリントにおいては、ナノまたはミクロンスケールの寸法の相違でも問題となる。
【0008】
また光インプリントにより製造された樹脂製モールドは、特に光インプリント用のモールドに用いられる場合に、該モールドが紫外線照射の繰り返しに対して、黄変により光線透過率が低下しないことも重要となる。そして、繰り返されるインプリント操作に対して破損の生じない硬度も要求される。
【0009】
このような樹脂の黄変および樹脂の硬化収縮は、使用する光開始剤によって変動することが多い。
【0010】
特許文献4には、フッ素含有モノマーおよび光開始剤を含有する組成物を光インプリントして形成した樹脂モールドの発明が開示されている。該光開始剤としては、フッ素含有モノマーの分散性および光重合性混合物の硬化性の観点から、2種類の開始剤を組み合わせることが開示されている。この特許文献4の実施例には光硬化性樹脂組成物に含有される光開始剤としてIrgacure184とIrgacure369とを組み合わせた例が示されているが、これらはいずれもアルキルフェノン系の光開始剤であった。
【0011】
したがって、樹脂の硬化収縮ならびに得られるモールドの硬度および黄変の観点から、インプリント用光硬化性樹脂組成物に用いられる光開始剤についてさらなる検討が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−269942号公報
【特許文献2】特表2006−523728号公報
【特許文献3】特開2010−161186号公報
【特許文献4】特開2011−207221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、転写対象の樹脂との剥離性が良好であり柔軟なインプリント用モールドを製造するための光硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、光インプリントの転写対象として光インプリントを受ける際に硬化収縮が抑制された光硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、表面硬度が高く、紫外線等の照射を受けても黄変を生じることが抑制されたインプリント用モールドを製造することのできる光硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、光硬化性樹脂組成物にケイ素含有モノマーを配合すると、該組成物から得られるインプリント用モールドは、転写対象の樹脂との剥離性に優れることを見出した。さらには本発明者らは光硬化性樹脂組成物の光開始剤を複数組み合わせて、該組成物を光インプリントして得られるインプリント用モールドの黄変、硬化収縮および硬度に及ぼす影響について詳細に検討した結果、特定種類に属する光開始剤を特定の比率で組み合わせて使用することにより、光インプリントにより得られるインプリント用モールドの黄変が抑制されるだけでなく、良好な硬度のインプリント用モールドとすることができ、さらにはインプリント用モールドの硬化収縮も著しく小さくすることができることを見出して本発明を完成するに到った。
【0016】
本発明は、たとえば以下の[1]〜[15]に関する。
【0017】
[1](メタ)アクリル系モノマー(A)、(A)成分と共重合可能な反応性基を有するケイ素含有モノマー(B)および光開始剤(C)を含むインプリント用光硬化性樹脂組成物であって、
前記光開始剤(C)が、アルキルフェノン系光開始剤(C1)およびアシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)の組み合わせからなることを特徴とするインプリント用光硬化性樹脂組成物。
【0018】
[2]前記(メタ)アクリル系モノマー(A)100重量部に対して、前記ケイ素含有モノマー(B)を0.1〜60重量部、前記アルキルフェノン系光開始剤(C1)を0.01〜20重量部および前記アシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)を0.01〜20重量部含有することを特徴とする[1]に記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物。
【0019】
[3]前記アルキルフェノン系光開始剤(C1)が、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オンおよび2−ヒドロキシ−1−{[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル-プロパン−1−オンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]または[2]に記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物。
【0020】
[4]前記アシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)が、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドおよびビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物。
【0021】
[5]前記アルキルフェノン系光開始剤(C1)と前記アシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)との配合重量比(C1:C2)が1:99〜90:10の範囲内にあることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物。
【0022】
[6]前記アルキルフェノン系光開始剤(C1)が、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンであり、アシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)がビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドであり、アルキルフェノン系光開始剤(C1)とアシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)との配合重量比(C1:C2)が、10:90〜70:30の範囲内にあることを特徴とする[5]に記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物。
【0023】
[7]前記(メタ)アクリル系モノマー(A)が、EO変性トリメチロールプロペントリアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、ノニルフェノールEO変性アクリレート、フェノールEO変性アクリレートおよびトリプロピレングリコールジアクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物。
【0024】
[8]前記インプリント用光硬化性樹脂組成物が、オリゴマーおよび/またはポリマーを含まないことを特徴とする[1]〜[7]のいずれかに記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物。
【0025】
[9](I)[1]〜[8]のいずれかに記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物を基板上に塗布する工程、
(II)前記基板上のインプリント用光硬化性樹脂組成物に、表面に微細パターンの形成されたマスターモールドを当接する工程、
(III)前記基板と前記マスターモールドとの間の前記インプリント用光硬化性樹脂組成物に光を照射して、インプリント用光硬化性樹脂組成物を硬化させる工程、および
(IV)前記硬化したインプリント用光硬化性樹脂組成物から前記マスターモールドを剥離する工程を含むことを特徴とする表面に微細パターンの形成されたインプリント用モールドの製造方法。
【0026】
[10](I)[1]〜[8]のいずれかに記載のインプリント用光硬化性樹脂組成物を表面に微細パターンの形成されたマスターモールド上に滴下する工程、
(II)前記インプリント用光硬化性樹脂組成物の表面に基板を被せる工程、
(III)前記基板と前記マスターモールドとの間の前記インプリント用光硬化性樹脂組成物に光を照射して、インプリント用光硬化性樹脂組成物を硬化させる工程、および
(IV)前記硬化したインプリント用光硬化性樹脂組成物から前記マスターモールドを剥離する工程を含むことを特徴とする表面に微細パターンの形成されたインプリント用モールドの製造方法。
【0027】
[11][9]または[10]に記載の製造方法により得られたインプリント用モールド。
【0028】
[12]表面が剥離処理された[11]に記載のインプリント用モールド。
【0029】
[13]前記マスターモールドの微細パターンに対して、収縮率が10%以下の微細パターンが形成されていることを特徴とする[11]または[12]に記載のインプリント用モールド。
【0030】
[14]前記モールドに18,000mJ/cm2の光を照射した後の該モールドのYI値から光照射前のモールドのYI値を差し引いた値が、0.0〜3.0であることを特徴とする[11]〜[13]のいずれかに記載のインプリント用モールド。
【0031】
[15]前記インプリント用モールドについて、JIS K5600 5−4で規定される表面硬度が、鉛筆硬度で3B〜3Hであることを特徴とする[11]〜[14]のいずれかに記載のインプリント用モールド。
【発明の効果】
【0032】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、被転写体との剥離性が良好なインプリント用モールドを製造することができる。
【0033】
本発明によれば、光インプリントの転写対象である光硬化性樹脂組成物の光インプリントを受ける際の硬化収縮が抑制され、原版のモールドの形状にナノオーダーのスケールで忠実な構造体を得ることができる。また、本発明の光硬化性樹脂組成物を光インプリントして得られたインプリント用モールドは、表面硬度が高い。さらには、得られたインプリント用モールドは、紫外線等の照射による黄変が抑制されている。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0035】
本発明は、(メタ)アクリル系モノマー(A)および光開始剤(C)を含むインプリント用光硬化性樹脂組成物であって、
前記光開始剤(C)が、アルキルフェノン系光開始剤(C1)およびアシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)の組み合わせからなり、前記アルキルフェノン系光開始剤(C1)と前記アシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)との配合重量比(C1:C2)が1:99〜90:10の範囲内にあることを特徴とする。
【0036】
本明細書において、(メタ)アクリルは、メタクリルおよび/またはアクリルを意味し、(メタ)アクリレートは、メタクリレートおよび/またはアクリレートを意味する。
【0037】
<インプリント用光硬化性樹脂組成物>
1.(メタ)アクリル系モノマー(A)
本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物には、光重合性の(メタ)アクリル系モノマーが用いられる。
【0038】
光重合性の(メタ)アクリル系モノマーとしては、多官能(メタ)アクリル酸エステル、単官能(メタ)アクリル酸エステルおよび官能基含有モノマーが挙げられる。
【0039】
本発明で使用される多官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4‐ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6‐へキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9‐ノナンジオールジ(メタ)アクリレ一ト、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ一ルジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ (メタ)アクリレート、ペン夕エリスリトールトリ (メタ)アクリレート、ペン夕エリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メ夕)アクリレート、ポリエステル (メタ) アクリレートおよびウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0040】
ここで単官能(メタ)アクリル酸エステルの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n‐プロピル(メタ)アクリレート、n‐ブチル(メタ)アクリレート、n‐ペンチル(メタ)アクリレート、n‐ヘキシル(メタ)アクリレート、n‐オクチル(メタ)アクリレート、n‐ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートおよびスチリル(メタ)アクリレートなどの直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート;
iso-プロピル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートおよびイソオクチル(メタ)アクリレートなどの分岐状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
イソボルニル(メタ)アクリレートおよびシクロへキシル(メタ)アクリレートなどの環状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノールEO変性アクリレートおよびフェノールEO変性アクリレートなどの芳香環基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。
【0041】
官能基含有モノマーとしては、水酸基含有モノマー、酸基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、アミド基含有モノマーおよびシアノ基含有モノマーを挙げることができる。
【0042】
ここで水酸基含有モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸とポリプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールとのモノエステルおよびラクトン類と(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチルとの付加物のようなヒドロキシル基含有(メタ)アクリル系モノマーなどの水酸基含有化合物を挙げることができる。
【0043】
また、酸基含有モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸のようなカルボキシル基含有(メタ)アクリル系モノマー、酸無水物基含有(メタ)アクリル系モノマー、リン酸基含有(メタ)アクリル系モノマーおよび硫酸基含有(メタ)アクリル系モノマーを挙げることができる。
【0044】
さらに、アミノ基含有モノマーあるいはアミド基含有モノマーの例としては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有(メタ)アクリル系モノマーならびに(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミドおよびN−ヘキシル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有(メタ)アクリル系モノマーを挙げることができる。
【0045】
またさらにシアノ基含有モノマーの例としては、シアノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0046】
さらに、(メタ)アクリル系モノマー(A)としては、上記のような(メタ)アクリル系モノマーの他に、以下に記載するような上記(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な他の(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。
【0047】
このような共重合可能な他の(メタ)アクリル系モノマーの例としては、グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリレート、アルコキシ(メタ)アクリレートおよびアリル(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0048】
上記(メタ)アクリル系モノマー(A)100重量部の中で、多官能(メタ)アクリル酸エステルは、好ましくは50〜100重量部、より好ましくは70〜100重量部であり、単官能(メタ)アクリル酸エステルは、好ましくは0〜30重量部、より好ましくは0〜20重量部であり、官能基含有モノマーは、好ましくは0〜30重量部、より好ましくは0〜10重量部であり、共重合可能な他の(メタ)アクリル系モノマーは、好ましくは0〜30重量部、より好ましくは0〜10重量部である。
【0049】
上記(メタ)アクリル系モノマー(A)の中でも、EO変性トリメチロールプロペントリアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、ノニルフェノールEO変性アクリレート、フェノールEO変性アクリレートおよびトリプロピレングリコールジアクリレートのモノマーが好ましく、ノニルフェノールEO変性アクリレート、フェノールEO変性アクリレートおよびトリプロピレングリコールジアクリレートのモノマーがより好ましい。これらのモノマーを用いると、本発明のインプリント用光硬化樹脂組成物が塗布される基板がポリエチレンテレフタレート製である場合に、本発明のインプリント用光硬化樹脂組成物から得られるインプリント用モールドが基板との密着性が良好となる。
【0050】
本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物は、(メタ)アクリル系モノマー(A)以外に、本発明の特性を損なわない範囲で前記詳述した他の光重合性モノマーを含んでいてもよい。他の光重合性モノマーとしては、スチレン系単量体、ビニル系単量体が挙げられる。
【0051】
ここでスチレン系単量体の例としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、トリエチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、ヘプチルスチレンおよびオクチルスチレン等のアルキルスチレン;フルオロスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレンおよびヨードスチレンなどのハロゲン化スチレン;ニトロスチレン、アセチルスチレンおよびメトキシスチレンなどを挙げることができる。
【0052】
ビニル系単量体の例としては、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、ビニルカルバゾール、ジビニルベンゼン、酢酸ビニルおよびアクリロニトリル;ブタジエン、イソプレンおよびクロロプレン等の共役ジエンモノマー;塩化ビニルおよび臭化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデンなどを挙げることができる。
【0053】
本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物中の(メタ)アクリル系モノマー(A)以外の上記他の光重合性モノマーの使用量は、前記インプリント用光硬化性樹脂組成物中の(メタ)アクリル系モノマー(A)100重量部に対して、0〜30重量部が好ましく、0〜10重量部がより好ましい。(メタ)アクリル系モノマー(A)以外の光重合性モノマーの使用量が、上記範囲であると精度のよい樹脂モールドを形成することができる。ただし、上記範囲外であると、光線透過率が低下する傾向がある。
【0054】
上記例示した(メタ)アクリル系モノマーおよび他の光重合性モノマーは単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0055】
2.ケイ素含有モノマー(B)
本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物には、(A)成分と共重合可能な反応性基を有するケイ素含有モノマー(B)が用いられる。本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物は、ケイ素含有モノマー(B)を含有することにより、該組成物をインプリントして得られるインプリント用モールドの被転写対象に対する剥離性を向上させることができる。
【0056】
(A)成分と共重合可能な反応性基を有するケイ素含有モノマー(B)としては、ケイ素を含有し、かつ(メタ)アクリル系モノマー(A)と共重合可能な反応性基を有するモノマーであれば、特に制限されない。前記反応性基を有することで、ケイ素含有モノマー(B)は(メタ)アクリル系モノマー(A)等からなるポリマー中に取り込まれるため、本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物から得られるインプリント用モールドの表面にブリードアウトすることがない。前記反応性基としては、(メタ)アクリル系モノマー(A)との反応性を考慮して、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0057】
このようなケイ素含有モノマー(B)としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが挙げられ、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0058】
また、ケイ素含有モノマー(B)はシリコーン化合物でないことが好ましい。シリコーン化合物であると、シリコーン鎖によりインプリント用光硬化性樹脂組成物の粘度が高くなることがあるからである。
【0059】
本発明において、インプリント用光硬化性樹脂組成物中のケイ素含有モノマー(B)の含有量は、インプリント用光硬化性樹脂組成物中の(メタ)アクリル系モノマー(A)100重量部に対して、0.1〜60重量部が好ましく、0.5〜45重量部がより好ましく、1.0〜35重量部がさらに好ましい。インプリント用光硬化性樹脂組成物中のケイ素含有モノマー(B)の含有量が上記範囲であると、組成物から得られるモールドの被転写対象に対する剥離性が良好である。
【0060】
3.光開始剤(C)
本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物では、光開始剤としてアルキルフェノン系光開始剤(C1)およびアシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)を組み合わせて用いる。
【0061】
光開始剤としてアルキルフェノン系光開始剤(C1)およびアシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)を組み合わせて用いることで、重合速度が適度に低くなり、重合して収縮した樹脂とマスターモールドとの間に未重合の樹脂組成物が入り重合していくため、本発明の組成物を光硬化して得られるモールドの硬化収縮を低減することができるとともに、後から重合した樹脂は表面で充分に架橋構造を形成するため、先に重合した樹脂より硬度が高く、その表面硬度を高くすることができると考えられる。
【0062】
本発明において、インプリント用光硬化性樹脂組成物中に配合される2種類の光開始剤の含有量は、インプリント用光硬化性樹脂組成物中の(メタ)アクリル系モノマー(A)100重量部に対して、前記アルキルフェノン系光開始剤(C1)を好ましくは0.01〜20重量部、より好ましくは0.1〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部用いて、前記アシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)を好ましくは0.01〜20重量部、より好ましくは0.1〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部用いる。
【0063】
アルキルフェノン系光開始剤(C1)およびアシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)を上記範囲で使用すると、ラジカルの発生量をコントロールすることができる。
【0064】
また、前記アルキルフェノン系光開始剤(C1)と前記アシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)との重量比(C1:C2)は、1:99〜90:10が好ましく、5:95〜80:20がより好ましく、10:90〜70:30がさらに好ましい。
【0065】
アルキルフェノン系光開始剤(C1)およびアシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)を上記重量比で使用すると、比較的硬質の重合体を適度に重合速度を落として形成することができると共に、得られる重合体の黄変を抑制することができる。
【0066】
アルキルフェノン系光開始剤としては、窒素を含まない化合物が好ましく、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オンおよび2−ヒドロキシ−1−{[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル-プロパン−1−オンであることがより好ましく、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンが最も好ましい。
【0067】
アルキルフェノン系光開始剤の市販品としては、IRGACURE651、IRGACURE184、IRGACURE2959、IRGACURE127、IRGACURE907、IRGACURE369(いずれもBASF社製)、IRGACURE1173(チバ・ジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0068】
アシルフォスフィンオキサイド系光開始剤としては、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドおよびビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドであることが好ましく、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドが最も好ましい。
【0069】
アシルフォスフィンオキサイド系光開始剤の市販品としては、LUCIRIN TPO、IRGACURE819(いずれもBASF社製)が挙げられる。
【0070】
4.その他
本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物は、モノマーのみから構成され、ポリマーおよび/またはオリゴマーを含まないことが好ましい。ポリマーおよび/またはオリゴマーを含まないと、粘度が高くならないため基板上に薄く塗ることができるとともに、柔軟性に優れるインプリント用モールドを得ることができる。柔軟性に優れるインプリント用モールドは、転写対象の樹脂と均一で安定な接触ができる。特に転写対象の樹脂がローラー上にある場合のような曲面を形成している樹脂に対しても均一で安定な接触とすることができる。
【0071】
本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物は、溶剤、連鎖移動剤、酸化防止剤、光増感剤、充填剤、レベリング剤等の成分をインプリント用光硬化性樹脂組成物の性質に影響を与えない範囲で含んでいてもよい。
【0072】
本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物は、上記成分を公知の方法で混合することにより製造することができる。
【0073】
<インプリント用光硬化性樹脂組成物の使用方法>
本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物は、マスターモールド等の表面に微細パターンが形成されたインプリント用モールドを製造するための光インプリントに使用される。
【0074】
光インプリントは、
(I−1)本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物を基板上に塗布する工程、
(II−1)前記基板上のインプリント用光硬化性樹脂組成物に、表面に微細パターンの形成されたマスターモールドを当接する工程、
(III)前記基板と前記マスターモールドとの間の前記インプリント用光硬化性樹脂組成物に光を照射して、インプリント用光硬化性樹脂組成物を硬化させる工程、および
(IV)前記硬化したインプリント用光硬化性樹脂組成物から前記マスターモールドを剥離する工程を含む。
【0075】
上記工程(I−1)および(II−1)は、
(I−2)本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物を表面に微細パターンの形成されたマスターモールド上に滴下する工程、
(II−2)前記インプリント用光硬化性樹脂組成物の表面に基板を被せる工程としてもよい。
【0076】
その結果、表面にマスターモールドの表面の微細パターンが転写されたインプリント用モールドが製造される。
【0077】
工程(I−1)および(II−2)における基板としては、樹脂、ガラス、シリコン、サファイア、窒化ガリウム、カーボンおよび炭化ケイ素などを挙げることができる。
【0078】
上記基板に用いられる樹脂としては、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォンおよびポリエチレンナフタレート等を挙げることができる。
【0079】
また、上記基板に用いられる樹脂の形態としては、上記樹脂が板状である形態とフィルム状である形態が挙げられる。これらの形態は、インプリントの方式に合わせ選択される。
【0080】
工程(I−1)における本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物の上記基板上への塗布方法としては、スピンコート、スプレーコート、バーコート、ディップコート、ダイコートおよびスリットコート等が挙げられる。
【0081】
本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物の工程(I−1)における上記基板上への塗布量および工程(I−2)におけるマスターモールドへの滴下量としては、1×10-4〜1×10-1g/cm2が好ましく、1×10-3〜1×10-2g/cm2がより好ましい。
【0082】
工程(II−1)および(I−2)におけるマスターモールドの表面に形成されている微細パターンとは、通常、凹凸であり、一定の周期で繰り返すパターンである。すなわち凹凸パターンであり、好ましくは、周期10nm〜50μm、深さ10nm〜100μm、転写面1.0〜1.0×106mm2の凹凸パターンである。
【0083】
凹凸の具体的な形状としては、モスアイ、線、円柱、モノリス、円錐、多角錐およびマイクロレンズアレイが挙げられる。
【0084】
工程(II−1)では、マスターモールドを通常1.0×10-3〜1.0MPaの強さで、本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物に当接し、通常1〜300秒間保持する。
【0085】
工程(III)における光としては、紫外線、可視光線、赤外線および電子線のような活性エネルギー線が挙げられる。光の照射条件としては、通常100〜18,000mJ/cm2である。
【0086】
工程(IV)において、マスターモールドと硬化した樹脂とを引き離す操作を行う。
【0087】
上記光インプリントにより、本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物は、表面にマスターモールドの微細パターンが転写されたインプリント用モールドとなる。
【0088】
得られたインプリント用モールドの表面には、さらに剥離処理を行い、インプリント用モールドの転写対象の樹脂との剥離性を向上させることが好ましい。
【0089】
剥離処理に用いられる組成物としては、フッ素を含む組成物およびシリコーンを含む組成物が挙げられる。中でも、末端にケイ素を含む化合物を含む組成物を用いると、ケイ素含有モノマー(B)が導入された樹脂からなるインプリント用モールドへの付着がより良好になる。剥離処理に用いられる、末端にケイ素を含む化合物を含む組成物としては、オプツールDSX(ダイキン工業社製)が挙げられる。
【0090】
剥離処理は、得られたインプリント用モールドを上記組成物に通常0.1〜10分浸漬することにより行うことができる。さらに好ましくは、上記剥離処理したモールドを、30〜140℃、湿度20〜90%の条件下で、10〜300分間加熱すると、上記組成物がインプリント用モールドの表面に強固な化学結合を形成するため剥離性が高まる。
【0091】
<インプリント用光硬化性樹脂組成物から得られるインプリント用モールド>
1.インプリント用モールドの物性
本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物を光インプリントして得られた表面にマスターモールドの微細パターンが転写された前記インプリント用モールドは、以下の物性を有する。
【0092】
前記インプリント用モールドは、被転写体である樹脂との剥離性が良好である。それは、インプリント用モールドの製造に用いられた樹脂組成物がケイ素含有モノマー(B)を含有するからである。
【0093】
前記インプリント用モールドの表面に形成された微細パターンは、前記マスターモールドの微細パターンに対して、実施例記載の方法で測定した収縮率が10%以下であることが好ましく、0〜3%であることがより好ましい。
【0094】
このような収縮率となるのは、本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物に用いられる光開始剤としてアルキルフェノン系光開始剤(C1)およびアシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)の組み合わせを用いるからである。
【0095】
上記光開始剤の組み合わせにより、重合速度が適度に低くなり、重合して収縮した樹脂とマスターモールドとの間に未重合の樹脂組成物が入り重合していくため、硬化収縮を低減することができる。
【0096】
また、前記インプリント用モールドの実施例記載の方法で測定した表面硬度は3B〜3Hであることが好ましく、B〜Hであることがより好ましい。このような表面硬度となるのは、本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物は、多官能モノマーを多く用いているため、その硬化物の架橋密度が高くなるためであると考えられる。
【0097】
さらに、前記インプリント用モールドは、実施例に記載の測定方法で測定したYI値が0.5〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。また、前記インプリント用モールドに18,000mJ/cm2の光を照射した後の該インプリント用モールドのYI値から光照射前のインプリント用モールドのYI値を差し引いた値が、0.0〜3.0であることが好ましく、0.0〜2.0であることがより好ましい。その結果、前記インプリント用モールドは光線透過率が高い。したがって、本発明のインプリント用モールドをインプリントモールドに用いた場合、該モールドは、光照射を繰り返してもモールドの黄変が少なく、光線透過率の低下が抑制される。
【0098】
このように前記インプリント用モールドの黄変が低く抑制できるのは、本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物に用いられる光開始剤としてアルキルフェノン系光開始剤(C1)およびアシルフォスフィンオキサイド系光開始剤(C2)の組み合わせを、上記重量比および量で用いるからである。これらの開始剤の組み合わせを上記重量比および量で用いると、それぞれの光開始剤が共同して作用してラジカルの発生をコントロールでき、黄変を抑制することができると考えられる。
【0099】
2.インプリント用モールドの用途
前記インプリント用モールドは、熱インプリントまたは光インプリントに好適に用いられる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0101】
[実施例1〜3]
トリプロピレングリコールジアクリレート(APG−200)75重量部、ノニルフェノールEO 変性アクリレート(M166)20重量部、フェノールEO 変性アクリレート(M144)5重量部および3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM503)15重量部に、光開始剤として、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(イルガキュア819)および1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(イルガキュア184)を表1に示す量で混合して光硬化性樹脂組成物を調製した。これらの組成を表1に示す。
【0102】
[実施例4〜6]
EO変性トリメチロールプロペントリアクリレート(M−350)75重量部、ノニルフェノールEO 変性アクリレート(M166)20重量部、フェノールEO 変性アクリレート(M144)5重量部および3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM503)15重量部に、光開始剤として、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(イルガキュア819)および1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(イルガキュア184)を表1に示す量で混合して光硬化性樹脂組成物を調製した。これらの組成を表1に示す。
【0103】
[比較例1および2]
比較例として上記実施例1のイルガキュア819に代わり、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン(イルガキュア907)または2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(イルガキュア369)を表1に示す量で混合して光硬化性樹脂組成物を調製した。これらの組成を表1に示す。
【0104】
[比較例3および4]
上記実施例1においてKBM503を含まず、イルガキュア819の代わりに2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン(イルガキュア907)または2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(イルガキュア369)を表1に示す量で混合した以外は実施例1と同様にして光硬化性樹脂組成物を調製した。これらの組成を表1に示す。
【0105】
なお、表1の量の単位は重量部であり、成分(A)、すなわちAPG−200、M−350、M166およびM144の合計を100重量部とする。
【0106】
試料は、以下のように製造した。
【0107】
フッ素系離型剤(ダイキン工業社製、オプツール HD−2100)で剥離処理を施したニッケル製のマスターモールド(モールド外径:□30mm、形状パターン:マイクロホール、形状サイズ:直径1.7μm、周期3.0μm、高さ1.7μm)に実施例1〜6、比較例1〜4で得られた樹脂組成物0.1mlをそれぞれ滴下し、樹脂組成物上にポリエチレンテレフタレート製基板(厚さ188μm)を被せた後、基板上にローラーを転がして樹脂液を均一に伸ばした(2.5×10-3g/cm2)。その後、UV照射装置(テクノビジョン社製 UVC−408)にて積算光量1800mJ/cm2のUV光を照射し、樹脂を硬化させた後、前記ポリエチレンテレフタレートおよび硬化樹脂の積層物をマスターモールドより離型して転写物を得た。
【0108】
上記転写物をオプツールDSX(ダイキン工業社製)に1分間浸漬して、剥離処理を行った。実施例1および4の組成物から得られた転写物は、該剥離処理をした転写物を試料とした。実施例2、3、5および6、ならびに比較例1〜4の組成物から得られた転写物は、上記剥離処理後さらに、60℃、湿度90%の条件下で120分加熱したものを試料とした。
【0109】
【表1】
【0110】
表中の略号は以下の通りである。
APG−200:(トリプロピレングリコールジアクリレート、新中村化学、品名:NKエステルAPG―200)
M−350:(EO変性トリメチロールプロペントリアクリレート、東亜合成社製、品名(アロニックス M−350))
M166(ノニルフェノールEO変性アクリレート、MIWON社製、品名:MIRAMER M−166)
M144(フェノールEO変性アクリレート、MIWON社製、品名:MIRAMER M−144)
KBM503:(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業社製、品名:KBM−503)
イルガキュア369:(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、BASF社製、品名:IRGACURE369)
イルガキュア907:(2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン、BASF社製、品名:IRGACURE907)
イルガキュア819:(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、BASF社製、品名:IRGACURE819)
イルガキュア184:(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、BASF社製、品名:IRGACURE184)
実施例における測定値の測定方法は、以下の通りである。
【0111】
<転写物の剥離性>
上記試料に、ナノインプリント用UV硬化性樹脂(東洋合成工業社製、品名:PAK−02)を0.1ml滴下し、ポリエチレンテレフタレート製基板(厚さ188μm)を被せた後、ローラーで樹脂液を均一に伸ばした(2.5×10-3g/cm2)。その後、UV照射装置(テクノビジョン社製 UVC−408)にて積算光量1800mJ/cm2のUV光を照射し、樹脂を硬化させた。そして、前記ポリエチレンテレフタレートおよび硬化樹脂の積層物を、上記試料から離型するテストを繰り返し行ない、上記積層物が上記試料から破損なく離型可能な回数を数えた。
【0112】
【表2】
【0113】
<寸法測定>
硬化収縮は、形状の高さ方向に顕著に見られるため、マスターモールドおよび得られた試料の各形状の高さ(凸部の頂点とベースとなる面との間の距離)について測定して求めた。
測定は、測定装置にSIIナノテクノロジー社製 L−traceを用いマスターモールド(モールド外径:□30mm、形状パターン:マイクロホール、形状サイズ:直径1.7μm、周期3.0μm、高さ1.7μm)、および前記マスターモールドを実施例1、3、4および6ならびに比較例1および2の光硬化性樹脂組成物に転写して得られた試料について、各5ヶ所の平均を求めた。これらの結果を表3に示す。表3において、マスターモールドに対する収縮率=(マスターモールドの高さ−試料の高さ)/マスターモールドの高さ、である。
【0114】
【表3】
【0115】
<表面硬度>
JIS K5600−5−4で規定される鉛筆硬度にて、試料の表面硬度を測定した。これらの結果を表4に示す。
<黄変度>
上記試料、およびこれらの試料に積算光量18,000mJ/cm2のUV光を照射したものについて、それぞれYI値を測定装置(有限会社 東京電色製 汎用型色差計 カラーエース TC−8600A)で測定した。上記光照射前の試料および光照射後の試料のYI値を表4に示す。表4において、ΔYI=18,000mJ/cm2の光を照射した後の試料のYI値−光照射前の試料のYI値、である。
<透過率>
上記試料、およびこれらの試料に積算光量18,000mJ/cm2のUV光を照射したものについて、それぞれ、測定装置(日本分光株式会社製 V−670紫外可視近赤外分光光度計)で365nmの光を厚み方向に照射して透過率を測定した。上記試料および光照射後の試料の透過率を表4に示す。
【0116】
【表4】
【0117】
表2より、本発明の光硬化性樹脂組成物が硬化した型は、離型性に優れ、転写対象が付着することなく、10回以上の連続転写が可能であることがわかった、
表3より、本発明の光硬化性樹脂組成物にマスターモールドを転写すると、マスターモールドの形状が精度よく転写され、形状寸法精度に非常に優れるモールドが得られることが確認された。
【0118】
表4より、本発明の硬化樹脂は黄変がなく、モールドとして重要な透過率を維持できることが確認された。さらに、構造体の表面硬度がFである。これはモノマーとして多官能モノマーを多く用いており、構造体の架橋密度が高いために高い表面硬度が得られていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明のインプリント用光硬化性樹脂組成物は、インプリント用モールドの製造に用いることができ、工業的に極めて高い有用性を有している。