特許第6227561号(P6227561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227561
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】オーステナイト合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 30/02 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   C22C30/02
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-552606(P2014-552606)
(86)(22)【出願日】2013年1月16日
(65)【公表番号】特表2015-506415(P2015-506415A)
(43)【公表日】2015年3月2日
(86)【国際出願番号】EP2013050723
(87)【国際公開番号】WO2013107763
(87)【国際公開日】20130725
【審査請求日】2015年11月16日
(31)【優先権主張番号】12151566.2
(32)【優先日】2012年1月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】グオカイ シャイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ホーグベルイ
(72)【発明者】
【氏名】ソフィア オーケッソン
(72)【発明者】
【氏名】ウルバン フォルスベルイ
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−509751(JP,A)
【文献】 特開2005−023353(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/003953(WO,A1)
【文献】 特開2009−084668(JP,A)
【文献】 特開2009−167502(JP,A)
【文献】 特開2010−163669(JP,A)
【文献】 特表2003−534456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00 − 49/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
0.01〜0.05のC、
0.05〜0.80のSi、
1.5〜2のMn、
26〜34.5のCr、
30〜35のNi、
3〜4のMo、
0.5〜1.5のCu、
0.05〜0.15のN、
0.15以下のV、
を含み、
残部がFe及び不可避な不純物である、
オーステナイト合金であって、
40≦%Ni+100×%N≦50
であることを特徴とする、オーステナイト合金。
【請求項2】
40≦%Ni+100×%N≦45
である、請求項1に記載のオーステナイト合金。
【請求項3】
Siが0.3〜0.55である、請求項1又は2に記載のオーステナイト合金。
【請求項4】
Cが0.01〜0.018である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のオーステナイ
ト合金。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のオーステナイト合金を含むことを特徴とする、燃
焼プラント用部材。
【請求項6】
過熱器、再熱器又は蒸発器である、請求項5に記載の燃焼プラント用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部によるオーステナイト合金に関する。本発明はまた、本発明のオーステナイト合金を含む、燃焼プラント用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスの燃焼に基づく発電は、持続可能でかつカーボンニュートラルであると考えられており、ますます重要なエネルギー源となってきている。
【0003】
バイオマス燃焼における問題は、使用される広範囲のバイオマス燃料の燃焼生成物が腐食性であり、バイオマス発電プラントにおける部材上に堆積物をもたらす可能性があることである。バイオマス発電プラント並びに従来の蒸気ボイラーにおいては、過熱器、再熱器及び蒸発器が特にさらされる。バイオマス発電プラントにおけるさらなる問題は、当該発電プラントにおける高温高圧により、当該部材における材料がクリープし始めることである。今日、バイオマスプラントは圧力150〜200bar温度500〜550℃で作動している。将来、バイオマス発電プラントの温度は今日よりもますます高く、600〜650℃にまでなることが想定される。これにより、発電プラントの構造部品の高温耐食性及びクリープ強さに対する需要がますます高まろう。
【0004】
鋼における耐食性を上昇させる試みが行われている。例えば米国特許第4876065号明細書及び国際公開第0190432号は、石油及びガス産業における腐食環境での用途のために設計された鋼を記載している。
【0005】
更に、次の研究、すなわち、James R.Keisler,Oak ridge National laboratory,NACE Corrosion 2010,No 10081により、高いMo含有量を有するオーステナイトステンレス鋼が高温腐食に対する良好な耐性を示すことがわかっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの鋼はバイオマス発電プラントにおいて適切なものとするのに必要なクリープ強さを示さない。
【0007】
したがって、高い耐食性及び高いクリープ強さを示すオーステナイト合金を得ることが本発明の目的である。本発明の合金を含む蒸気ボイラープラント用部材を得ることも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この目的は、重量%で、
0.01〜0.05のC、
0.05〜0.80のSi、
1.5〜2のMn、
26〜34.5のCr、
30〜35のNi、
3〜4のMo、
0.5〜1.5のCu、
0.05〜0.15のN、
0.15以下のV、
残部のFe、及び
不可避な不純物
を含むオーステナイト合金であって、
40≦%Ni+100×%N≦50
であることを特徴とする、オーステナイト合金により達せられる。
【0009】
本発明のオーステナイト合金は、高温腐食に対する良好な耐性、特に火炎側腐食に対する良好な耐性を有する。条件40≦%Ni+100×%N≦50を満足するようにニッケル及び窒素の合金への添加を調整することにより、合金において高いクリープ強さ及び高い延性が更に得られる。高温腐食に対する良好な耐性は、高いクリープ強さと組み合わせて本発明のオーステナイト合金を、蒸気ボイラーにおける構造部品用の材料として非常に適切なものとする。本発明の合金は、高温高圧における腐食条件下で作動するバイオマス発電プラントにおいて特に有用である。
【0010】
好ましくは、上記のオーステナイト合金は条件40≦%Ni+100×%N≦45を満足する。そうすると、当該合金は非常に良好なクリープ強さ及び高い延性を示す。これは、材料が蒸気ボイラーにおいて使用される場合に有利である。というのは、それがボイラーの起動及び停止時の材料の高い熱可塑性の拡張及び収縮を可能とするためである。したがって、当該材料は破損することなく繰り返し加熱及び冷却にさらすことができる。
【0011】
好ましくは、オーステナイト合金中のシリカ(Si)の含有量は0.3〜0.55重量%である。それにより、脆性シグマ相の生成を最小限にし、酸素を含有する含有物の生成を最小限にすることで合金において非常に高いクリープ強さが得られる。
【0012】
好ましくは、耐食性を最適なものとするため、上記オーステナイト合金中の炭素(C)
の含有量は0.01〜0.018重量%である。
【0013】
本発明は、燃焼プラント用の、好ましくはバイオマス発電プラント又はバイオマス蒸気ボイラー用の、本発明のオーステナイト合金を含む部材にも関する。
【0014】
上記部材は、例えば過熱器、再熱器又は蒸発器、好ましくはそのような過熱器、再熱器又は蒸発器の管であることができ、当該部材は作動位置にある場合に排気ガス及び高温にさらされる。それゆえ、本発明は代替態様として、燃焼プラント、好ましくはバイオマス発電プラントであって、ボイラー、好ましくはバイオマス蒸気ボイラーを含んでおり、当該ボイラーに配置されておりかつ上記ボイラーによりその作動中に生み出される排気ガス及び熱にさらされる部材、好ましくは過熱器管、再熱器管又は蒸発器管を含んでおり、上記部材が本発明による合金を含む、燃焼プラントとして定義することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のオーステナイト合金は、以下の合金元素を含む。
【0016】
〈炭素(C)〉
炭素はオーステナイト安定化元素であり、従って本発明の合金には少なくとも0.01重量%の量で含有されているべきである。炭素は更に、炭窒化物の生成により材料のクリープ強さを上昇させるために重要である。しかし、クロムの存在中において、炭素は粒界腐食の危険性を高めるクロム炭化物を生成する。高い炭素含有量は更に溶接性を低減させる。クロム炭化物の生成を最小化し、良好な溶接性を保証するため、炭素含有量は0.05重量%を超えるべきではない。クロム炭化物の生成を抑制するためには更に、炭素の含有量が好ましくは0.01〜0.018重量%の範囲にあるべきである。
【0017】
〈ケイ素(Si)〉
ケイ素は鋼の製造において酸素除去元素として使用される。しかし、高含有量のケイ素は溶接性に悪影響を及ぼす。鋼中の低い酸素含有量及びそれにより少ない含有物を保証するため、ケイ素の含有量は少なくとも0.05重量%であるべきである。しかし、鋼の溶接性を保証するためには、ケイ素の含有量は0.80重量%を超えるべきではない。ケイ素の含有量が0.30〜0.55重量%の範囲にある場合、非常に高いクリープ強さが本発明の合金において得られることが見出された。ケイ素レベルが0.55重量%を超えた場合にはシグマ相の生成が増大すると考えられる。シグマ相は本発明の合金の延性を低減させ、従ってクリープ強さも低減させる。0.30重量%を下回った場合、酸素を含有する含有物の生成が増大するため、クリープ強さが低減する。
【0018】
〈マンガン(Mn)〉
マンガンは、Siのように酸素除去元素であり、熱間加工性を向上させるのに効果的でもある。本発明の合金の室温での延性及び靱性を制御するためには、マンガンの最大含有量を制限することが必要である。従って、マンガンの含有量は1.50〜2.0重量%の範囲にあるべきである。
【0019】
〈クロム(Cr)〉
クロムは、火炎側の耐食性及び耐水蒸気酸化性を向上させるのに効果的な元素である。例えばバイオマス燃焼発電プラントにおけるボイラー管としての使用のために十分な高温耐食性を得るため、少なくとも26%のクロム含有量が必要である。しかし、クロムが34.5%よりも多い場合、ニッケル含有量を更に増加させなければならない。というのは、より高いCr含有量は金属間相、例えばシグマ相の生成の危険性を高める可能性があるためである。したがって、クロム含有量は26.0重量%〜34.5重量%であるべきである。本発明の場合、26.0〜29.0重量%の範囲にあるクロム含有量により非常に良好な材料特性が得られた。従って、この範囲は、本発明の技術的効果が得られる好ましい範囲と、又は少なくともより一層制限された範囲とみなされる。
【0020】
〈ニッケル(Ni)〉
ニッケルは、本発明の安定したオーステナイト構造を保証する目的のために必須の元素であり、シグマ相のような金属間相の生成を抑制するようにする。シグマ相はクロム及びモリブデンによる硬く脆い金属間相であり、高温で生成する。シグマ相は、鋼の延性及び伸長性に悪影響を及ぼす。合金におけるオーステナイト相を安定化することにより、シグマ相の生成を最小限にする。従って、ニッケルは鋼の十分な延性及び伸長性を保証するために重要である。ニッケルはまた、本発明の合金の耐食性にプラスの効果をもたらす。というのは、酸化物のさらなる成長、すなわちスケール生成を抑制する不活性の酸化Cr膜の生成をニッケルが促進するためである。構造安定性、耐食性及び延性を保証するためには、本発明の合金においてニッケルの含有量は少なくとも30重量%であるべきである。しかし、ニッケルは比較的高価な合金元素であり、低い生産コストを維持するためにはニッケルの含有量を制限すべきである。更に、ニッケルは合金における窒素の溶解性を低減させる。従って、ニッケルの含有量は35重量%を超えるべきではない。
【0021】
〈モリブデン(Mo)〉
モリブデンは、ボイラー管の火炎側の高温耐食性を向上させるために本発明の合金に含有される。Moの添加は、本発明の合金の耐全面腐食性を更に向上させる。しかし、Moは高価な元素である上に、シグマ相の析出を促進し、その結果鋼の靱性の劣化をもたらす。鋼における良好な高温耐食性を保証するため、モリブデンの含有量は少なくとも3重量%であるべきである。シグマ相の析出を回避するため、モリブデンの上限は4重量%であ
る。
【0022】
〈銅(Cu)〉
銅の添加は、母材中に微細かつ均一に析出する銅に富む相を析出させることにより、クリープ強さを向上させることができる。しかし、過剰な量の銅は加工性の低減をもたらす。多量の銅はまた、延性及び靱性の低減をもたらす可能性がある。従って、本発明の合金における銅の含有量は0.5〜1.5重量%であるべきである。本発明の場合において、特に良好な結果は銅含有量が0.8〜1.2重量%の範囲である状態で得られた。従って、この範囲は、少なくともこの理由により本発明の技術的効果が得られる好ましい範囲と、又は少なくともより一層制限された範囲とみなされる。
【0023】
〈窒素(N)〉
窒素はオーステナイト構造に強い安定効果をもたらし、従ってシグマ相の生成を低減させる。これは、鋼の延性にプラスの効果をもたらす。本発明の合金において、窒素の主な効果は、炭素と共に炭窒化物の形態の析出物を生成することである。炭窒化物の小さい粒子は、一般的に鋼の粒界で析出し、鋼の結晶粒子中で転位が伝播するのを抑える。これは、鋼の耐クリープ性を大きく上昇させる。安定なオーステナイト構造を保証し、十分な量の炭窒化物を生成するため、本発明の合金における窒素の含有量は少なくとも0.05重量%であるべきである。しかし、窒素が大量に存在する場合、窒化物の大きな一次析出物が現れる可能性があり、この析出物は本発明の合金の延性及び靱性を低減させる。従って、本発明の合金における窒素の含有量は0.15重量%までに制限すべきである。
【0024】
〈バナジウム(V)〉
バナジウム、チタン又はニオブの添加は、MX相の析出によりクリープ破断強度の向上に寄与する。しかし、過剰な量のバナジウムは溶接性及び熱間加工性を低減させる可能性がある。従って、バナジウムは本発明の合金において0.15重量%以下の量で加えることができる。
【0025】
〈リン(P)及び硫黄(S)〉
リン及び硫黄は、典型的には本発明の合金の原料中に不純物として含有され、量が多いと溶接割れをもたらす可能性がある。従って、リンは0.035%を超えるべきではない。硫黄は0.005%を超えるべきではない。
【0026】
〈条件40≦%Ni+100×%N≦50〉
本発明の合金において、条件40≦%Ni+100×%N≦50を満足するようにニッケルの含有量及び窒素の含有量を調整すべきである。この範囲内であれば非常に良好なクリープ強さ及び延性が得られることがわかった。良好なクリープ強さはニッケル及び窒素からの相乗効果によりもたらされると考えられる。好ましくは、条件40≦%Ni+100×%N≦45を満足するようにニッケルの含有量及び窒素の含有量を調整すべきである。
【0027】
上述のように、窒素は、合金中のクリープ歪みを増加させることによりクリープ強さを増進させる炭窒化物を生成する。しかし、クリープ強さは全ての脆性相、例えばシグマ相により悪影響を受ける。ニッケル及び窒素の添加はいずれも鋼におけるシグマ相の生成を抑え、それにより合金の破断伸度又は延性を上昇させる。これは、応力の集中並びに可能性のある亀裂の開始及び伝播を低減させる。その結果、これはクリープ強さの上昇をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】合金の組成に関する表である。
図2】600℃での本発明の合金及び比較の合金のクリープ試験の結果を示す図表である。
図3】650℃での本発明の合金及び比較の合金のクリープ試験の結果を示す図表である。
【実施例】
【0029】
具体例を参照し、以下で本発明の合金を説明する。
【0030】
10個の鋼ヒートを従来の製鋼法により作製した。それぞれの鋼ヒートの組成を表1に示す。ヒートを作製する従来の冶金工程は次の通り、すなわち、AOD法による溶融−熱間圧延−押出加工−冷間ピルガー圧延(cold pilgring)(冷間変形)−溶体化焼なまし−水焼入れであった。熱間押出加工した後、中空の棒材を次いで冷間ピルガー圧延して40〜80%冷間変形させ、引き続き寸法に応じて1050〜1180℃の温度で溶体化焼なましを行った。詳細を次の表に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
合金1、7〜9は比較のサンプルであり、比較的低い濃度の窒素を含有する。合金2、3及び10は比較のサンプルであり、比較的高い濃度の窒素を含有する。合金4〜6は条件40≦%Ni+100×%N≦50を満足する本発明のサンプルである。合金1及び10はケイ素含有量が低い。
【0033】
各鋼ヒートの試験サンプルを作製した。これらのサンプルについてクリープ試験を行い、それらのクリープ特性を決定した。クリープ試験は2つの異なる温度、すなわち600℃及び650℃で、各サンプルに一定の応力を適用して各サンプルの破断までの時間及び破断伸度を決定することにより実施した。破断伸度は、各サンプルの公称長さの百分率として表現される、破断までに伸びた長さである。適用した応力は合金のクリープ破断強度に等しい。クリープ破断強度は、所与の温度において所与の時間で材料の破断をもたらす応力と定義される。
【0034】
クリープ試験を従来の試験法に従って行い、結果を外挿するために従来の数学モデルを使用した。
【0035】
図2は、本発明の合金4〜6についての600℃でのクリープ強さを、比較の合金1、7及び9のクリープ強さと比較して示す。図3は、本発明の合金4〜6についての650℃でのクリープ強さを、比較の合金1、8及び9のクリープ強さと比較して示す。図1及び2から、本発明の合金は所与のクリープ応力について比較の合金よりも長い破断までの時間を示すことが明らかである。
【0036】
クリープ試験の幾つかの他の結果を表2及び3に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2は、各合金の600℃での破断までの時間及びクリープ強さ又は適用した応力を示す。表2は更に、破断伸度、すなわち各サンプルについての公称長さの百分率として表現される、破断までに伸びた長さを示す。
【0039】
試験結果から、クリープ強さの大きさ、すなわち適用した応力を考慮した場合、本発明の合金4〜6が最も長い破断までの時間を示すと断定できる。合金4は、160MPaの応力を適用したときに117561時間のピーク値を示す。合金4〜6は更に、非常に高い破断伸度を示す。
【0040】
合金4〜6における破断までの時間の高い結果は、窒素及びニッケルの両方の添加の相乗効果に依存すると考えられる。窒素の添加は、炭窒化物の生成によって侵入型溶体を強化し、更には析出物を強化することにより破断までの時間を上昇させる。材料中に析出する濃密で小さな炭窒化物は、合金材料の粒子を通る転位運動を効果的に妨げ、その結果耐変形性を上昇させる。ニッケル、及びさらには窒素の添加は、延性に悪影響を及ぼす金属間相、例えばシグマ相の生成を抑え、その結果材料の延性を向上させる。向上した延性は応力集中、亀裂の開始及び亀裂の伝播を低減させる。これらの特性の相乗効果は非常に高いクリープ強さをもたらす。
【0041】
高い延性は、表2及び3において破断伸度として表現されており、材料が蒸気ボイラーにおいて使用された場合に更に有利である。というのは、それがボイラーの起動及び停止時の材料の高い熱可塑性の拡張及び収縮を可能とするためである。したがって、当該材料は破損することなく繰り返し加熱及び冷却にさらすことができる。
【0042】
比較の合金1〜3、9及び10は比較的高い破断伸度を有し、例えばそれぞれ71%及び72%の破断伸度を示す比較の合金2及び3に見られる。しかし、これらの合金は破断までの時間が本発明の合金よりも短い。合金1〜3、9及び10における破断までの時間が短いのは、これらの合金が含有する窒素が比較的少量であることによると考えられる。低い窒素含有量は、これらの材料中に析出する炭窒化物が本発明の合金においてよりも少なくなる。合金1〜3、9及び10に含まれる炭窒化物が少ないため、転位がより容易にこれらの材料を通って移動することができる。これは、引き続き材料中のより速い歪み速度をもたらす。すなわち、材料がより速く変形する。
【0043】
比較の合金7及び8はある程度高い耐クリープ性を示し、これは所与の適用した応力でのより長い破断までの時間として表れている。しかし、これらの合金についてのより長い破断までの時間は、160MPaの応力で評価した本発明の合金よりも低い応力、すなわち150MPaで決定したことに着目すべきである。その結果、比較の合金7及び8の破断までの時間は、本発明の合金4及び6の破断までの時間よりも短い。合金7及び8の短い破断までの時間は、金属間相の析出により誘起された脆性によりもたらされると考えられる。表2に見られるように、合金7及び8はそれぞれ僅か38%及び46%の破断伸度を有する。
【0044】
表3は、荷重を幾らか適用したときの650℃の温度におけるクリープ試験の結果を示す。
【0045】
【表3】
【0046】
表3は、本発明の合金4〜6は破断までの時間、クリープ強さ及び破断伸度で表現されるクリープ特性が比較の合金よりも良好であることを示す。600℃における延性と比較すると、650℃においては全ての合金についての延性、すなわち破断伸度が低い。延性の低減は、より高い温度においてより多い析出物が生成するということ、及びより高い温度におけるより速い粒子成長によりもたらされる。
図1
図2
図3