【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、多関節ロボットを装備した医学的分析機器を用いる医学的分析方法であって、上記多関節ロボットは少なくとも6つの回転軸を定める関節部を備えるとともに末端部材を6つの自由度に従って移動させるおよび/または方向づけるように構成され、上記末端部材は容器を把持するのに適した把持部材を有する、少なくとも以下の一連の工程を含む医学的分析方法によって達成される。
ヒトまたは動物由来の処理対象のサンプルが予め充填された容器を供給する工程、
上記容器を医学的分析機器の少なくとも1つの処理ステーションへ上記多関節ロボットを用いて移送する工程、
サンプルを処理ステーションにおいて処理する工程、および
容器を画像を撮影するためのステーションへ移送し、処理の結果をユーザーインターフェースに表示する工程。
【0012】
換言すれば、本発明は、少なくとも6つの回転軸を定める関節部を備えるとともに末端部材を6つの自由度に従って移動させるおよび/または方向づけるように構成された多関節ロボットであって、該末端部材が容器を把持するのに適した把持部材を有する多関節ロボットの医学的分析機器における使用に関し、該医学的分析機器は、ヒトまたは動物由来の処理対象のサンプルが予め充填された容器を供給し、容器を医学的分析機器の少なくとも1つの処理ステーションへ多関節ロボットを用いて移送し、サンプルを処理ステーションにおいて処理し、容器を画像を撮影するためのステーションへ移送し、次いで処理の結果をユーザーインターフェースに表示することから成る工程群を少なくとも含む医学的分析方法の適用に適している。
【0013】
本開示において、「処理ステーション」によって意味されるのは、容器、より詳細には容器が収容しているサンプル、が処理されるあらゆるステーションである。「処理」によって一般に意味されるのは、容器を視覚的にチェックすることもしくは管理すること、容器に物質、特に試薬、を導入すること、または容器の内容物の物性(温度、均質性など)を変更することを目的としたあらゆる行為である。
【0014】
従って、処理工程時、容器は、例えば、その中に試薬を導入するためにピペット操作領域へ運ばれる、インキュベートされるためにインキュベーターへ運ばれる、または遠心分離にかけられるために遠心分離機へ運ばれるなどしてもよい。
【0015】
さらに、本開示において、画像を撮影するためのステーションとは、例えば容器の写真画像、特に処理済みのサンプルの写真画像などの画像の撮影を可能にするあらゆる装置として理解されるべきである。処理結果の画像を撮影するためのステーションは、特に、画像を撮影するためのカメラを備えていてもよい。
【0016】
最後に、ユーザーインターフェースとは、オペレーターが交信し得る装置であって、スクリーンなどの表示部材を備えるあらゆる装置として理解されるべきである。ユーザーインターフェースは、医学的分析機器の一部でなくてもよい。画像を撮影するためのステーションによって撮影された処理済みの容器の画像がユーザーインターフェースへ送られ、それにより、容器特にサンプルの視覚的なチェック、または撮影された画像に基づいてソフトウェアパッケージによって解析される反応結果の視覚的なチェックが可能となる。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、サンプルの処理は、処理対象のサンプルと反応するのに適した試薬の容器への導入を含む。
【0018】
試薬を容器に導入し、処理対象のサンプルと接触させ、必要に応じて混合させると、サンプルと試薬との間で反応が起きるが、該反応は陽性でも陰性でもあり得る。
【0019】
次いで、画像を撮影するためのステーションが、容器内において処理対象のサンプルと容器に導入された試薬との間で行われた反応の結果の画像を撮影する。撮影された画像は、従って、いわゆる「陽性」反応またはいわゆる「陰性」反応の証拠であってもよい。これらの撮影された画像、またはソフトウェアパッケージによるこれらの画像の解析から推論された結果が、前述したように、ユーザーインターフェースの表示装置に表示される。特に、これらの撮影された画像、またはソフトウェアパッケージによるこれらの画像の解析から推論された反応結果は、サンプルと試薬との間の反応度の証拠であってもよい。
【0020】
ある実施形態では、サンプルを収容している容器を供給して処理する工程の前段階で、多関節ロボットを用いて工程が実施される。例えば、上記方法は、多関節ロボットを用いて、サンプルを保存容器、特にチューブ、から採取し、容器に導入する予備工程を含んでもよい。
【0021】
上記方法はまた、サンプルを容器に導入する前に容器を処理するための工程、特に、例えば印刷されたバーコードなどの容器の識別子を視覚的にチェックすることによって該容器を識別する工程、容器の寸法を把握する工程などを含んでもよい。
【0022】
ある実施形態では、上記方法は、表示された処理結果の分析、特に自動分析、のための工程を含む。特に、この方法は、情報、特に対象者の生理学的もしくは病理学的状態または先天性異常に関する情報、を提供することを目的とした解析のための工程を含んでもよい。
【0023】
例えば、サンプルの処理の結果の画像を撮影するためのステーションは、処理結果の分析に適したソフトウェアパッケージと連動していてもよい。このようなソフトウェアパッケージは、特に、ユーザーインターフェースのコンピューターに設定されていてもよい。
【0024】
サンプルを処理するための工程が容器への試薬の導入を含む場合、例えばソフトウェアパッケージによる反応結果の分析により、特に、反応の陽性または陰性に関する自動判断が可能であってもよい。
【0025】
本発明に係る医学的分析方法は、特に、免疫血液学、例えば血液型検査、不規則凝集素などの抗体を探索するための検査、またはドナーとレシーバーの適合性を決定するための検査に適用される。
【0026】
本発明に係る方法を適用し得る他の分野は、生物学、微生物学、細菌学、菌類学、寄生虫学、インビトロの診断検査室のための品質管理、自己免疫疾患の検出、糖尿病のモニタリング、遺伝病の検出、毒物学、および、生理学的または病理学的状態、特に治療的処置の結果としての生理学的または病理学的状態のモニタリングである。
【0027】
本発明に係る方法において、好ましくは、固定ベースに取り付けられた、回転式の関節部のみを備える多関節ロボットを使用する。
【0028】
多関節ロボットによって把持され移動される容器は、例えば、ゲルカード(une carte gel)であってもよい。典型的には、ゲルカードは、一列に配置された、蓋で塞がれる複数の隣り合う反応ウェルが形成された本体を備える容器である。ゲルカードのウェルは一般に、ウェルで起こった反応の結果の解析のために用いられるゲルを収容している。例えば、ゲルカードの本体はプラスチック製である。さらに、一般に、ゲルカードは6〜8つのウェルを備える。このことから、検査対象のサンプルはこのようなゲルカードの少なくとも1つのウェルに導入されることが理解される。
【0029】
試薬が処理対象のサンプルと相互作用する必要がある場合、試薬は、ゲルカードの少なくとも1つのウェルに導入されてもよい。試薬は、例えば、検査対象の血漿を含む容器に分注される検査用赤血球の懸濁液であってもよく、または検査対象の赤血球の懸濁液を収容している容器に分注される検査用血清であってもよい。
【0030】
本発明に係る方法の一実施形態によれば、容器を、処理結果の画像を撮影するためのステーションへ多関節ロボットを用いて運ぶ。
【0031】
この場合、処理結果の画像を撮影するためのステーションは、医学的分析機器に一体化されている。これらの撮影された画像が、その後、これらの画像を表示するためのユーザーインターフェースへ送られることが理解される。
【0032】
一実施形態によれば、処理結果を表示するための工程の前に、上記容器またはその他の容器が、ユーザーインターフェースに接続された管理ステーションへ多関節ロボットを用いて運ばれる。
【0033】
本開示において、管理ステーションとは、容器の管理を可能にすることを目的とした画像の撮影を可能にするあらゆる装置であって、医学的分析機器の一部である装置として理解されるべきである。
【0034】
「管理」によって意味されるのは、例えば、容器の識別、特に容器についている印刷されたバーコードなどの容器の識別子の識別、容器内の液位の管理、容器の寸法、特にその高さおよび直径の把握、エアギャップ、すなわち容器に分注された1つまたは複数の液体を分離している気泡の状態の管理、または容器の内容物、特にゲルの性質の管理である。管理ステーションはまた、多関節ロボットによって操作される容器以外の対象物の画像を撮影してもよい。例えば、管理ステーションは、試薬フラスコ内の液位の決定を可能にしてもよい。
【0035】
ある実施形態では、処理の結果の画像を撮影するためのステーションと管理ステーションとは一体的な同一のステーションであって、処理の結果、すなわち撮影された画像またはこれらの画像のソフトウェアパッケージによる解析により得られる結果、を表示するためのユーザーインターフェースに接続されている。
【0036】
1つの例によれば、管理ステーションは、カメラを備える。これにより、撮影された管理のための画像がユーザーインターフェースに表示されるか、またはこれらの画像に関連するメッセージがユーザーインターフェースに表示される。
【0037】
ある実施形態では、容器を医学的分析機器の遠心分離機まで多関節ロボットを用いて運ぶ。
【0038】
ある実施形態では、容器を医学的分析機器のインキュベーターまで多関節ロボットを用いて運ぶ。
【0039】
ある実施形態では、容器を、その中に試薬を導入するために、医学的分析機器における容器に対するピペット操作のための領域へ多関節ロボットを用いて移動させる。
【0040】
ある実施形態では、多関節ロボットの把持部材が試薬フラスコを把持するために用いられる。
【0041】
ある実施形態では、試薬フラスコが、試薬に対するピペット操作のための領域へロボットを用いて移動される。
【0042】
ある実施形態では、試薬フラスコを、再懸濁させるために、多関節ロボットを用いて逆さにしてもよく、および/または振ってもよい。
【0043】
ある実施形態では、多関節ロボットは、管理ステーションおよび/または処理の結果の画像を撮影するためのステーションのカメラの鮮明さ(シャープネス)を調整する。
【0044】
ある実施形態では、多関節ロボットは、容器の各面の写真を撮るために、容器を180°回転させる。
【0045】
ある実施形態では、機器は、多関節ロボットの周囲360°にわたって配置された複数の処理ステーションを備える。
【0046】
ある実施形態では、多関節ロボットは、機器の各処理ステーションに到達可能である。
【0047】
ある実施形態では、容器を、多関節ロボットを用いて、廃棄物を回収することを目的とした収集容器へ移動させる。
【0048】
ある実施形態では、上記方法は、特に医学的分析機器の特定の領域の上方を多関節ロボットが通過することを防止するために、多関節ロボットが移動可能な領域とロボットが進入不可能な領域とを事前に決定する予備のパラメータ化工程を含む。この機能は、異なるサンプル、希釈剤、および/または試薬を取り扱うことによる交差汚染のリスクを低減するために特に重要である。
【0049】
ある実施形態では、ロボットの末端部材は、圧電型のタッチプローブを備える。
【0050】
ある実施形態では、サンプルは、ヒトまたは動物由来の体液、細胞、生体組織および器官の組織から選ばれる物質の1つを含む。
【0051】
特定の実施形態では、上記方法は、以下の工程を含む。
処理対象のサンプルが予め充填された容器を、その中に試薬を導入するために、容器に対するピペット操作のための領域へ多関節ロボットを用いて運ぶ工程、
試薬を容器に導入する工程、
容器をインキュベーターへ多関節ロボットを用いて運ぶ工程、
容器をインキュベートする工程、
容器をインキュベーターから遠心分離機へ多関節ロボットを用いて運ぶ工程、
容器を遠心分離にかける工程、および
容器を処理反応の画像を撮影するためのステーションへ移送し、結果をユーザーインターフェースによって表示する工程。
【0052】
ある実施形態では、試薬を容器に導入する工程の前に、多関節ロボットを用いて試薬フラスコを逆さにするおよび/または振ることにより、試薬を再懸濁させる。
【0053】
ある実施形態では、遠心分離工程の前に、エアギャップを点検するために、容器を多関節ロボットを用いて管理ステーションへ移送する。
【0054】
ある実施形態では、多関節ロボットが、医学的分析機器の要素を作動させるために用いられる。
【0055】
ある実施形態では、特にロボットが液体が充填された容器を移動させる場合に液体があふれ出たり撹拌されたりすることを回避するために、多関節ロボットの向きが移動対象物の性質に応じて制御される。
【0056】
ある実施形態では、特にロボットが液体が充填された容器を移動させる場合に液体があふれ出たり撹拌されたりすることを回避するために、多関節ロボットの速度が移動対象物の性質に応じて制御される。
【0057】
ある実施形態では、移動対象物に把持部材によって加えられる力が測定される。
【0058】
ある実施形態では、多関節ロボットは、対象物(例えば希釈剤入りの容器)を振るため、特に対象物が液体が充填された容器である場合にその液体を再懸濁させるまたは混ぜるために、用いられる。
【0059】
本発明はまた、上に規定した方法を適用するために用いられ得る医学的分析機器、特に、例えば免疫血液学におけるインビトロの医学的分析機器であって、少なくとも6つの回転軸を定める関節部を備えるとともに末端部材を6つの自由度に従って移動させるおよび/または方向づけるように構成された多関節ロボットを備える医学的分析機器に関する。
【0060】
本発明に係る医学的分析機器は、上記のような多関節ロボットに加えて、特に容器類(サンプルチューブ、希釈剤容器、試薬容器など)の保管および/または画像特に処理結果の画像の撮影を可能にする保管部材および/または分析部材を備える。
【0061】
本発明で用いられるロボットは、ヒトの腕のように多関節であって、6つの自由度(3つの移動の自由度および3つの向きの自由度)を有し、それにより、所与の作業空間において、アームの遠位端すなわち末端部材の移動および方向づけが可能である。
【0062】
これにより、ロボットは、球によって概ね表象し得る作業領域(すなわち末端部材の動作の領域)をカバーし、ロボットは、この球の中心に配置される。末端部材の6つの自由度を利用することにより、機器の構成要素および機器によって取扱われる容器類の実際の位置だけでなく、それらの空間における向きも考慮に入れ得る。従って、ロボットの末端部材は、空間のすべての方向に関して、ロボットのベースの周囲の任意の箇所に位置している作業ステーションに到達し得る。
【0063】
これにより、機器の作業空間の稠密性を増大させ、作業ステーション同士を互いに近づけ得る。
【0064】
作業空間の予備学習を行いかつ各対象物の現実の空間座標を記憶すれば、多関節ロボットは機器の実際の非仮想の像を所有することになり、これにより、組み立ての不正確さによる幾何学的欠陥の補正が可能になる。
【0065】
本発明の好ましい実施形態では、多関節ロボットは、固定ベースに取り付けられているとともに、回転式の関節部のみを備えている。従って、ロボットの移動は、回動関節部のみによって確保される。
【0066】
ある実施形態では、容器が、多関節ロボットを用いて容器類の取出マガジン(un magasin de sortie des recipients)へ移動される。この操作は、容器を管理するためまたは後で容器を再利用するために容器を回収することが望まれる場合(例えば容器がゲルカードであって、該ゲルカードのすべてのウェルが処理されているわけではない場合)に特に有用である。
【0067】
本開示では、複数の実施形態または適用例が記載されている。しかし、他に特に定めのない限り、ある実施形態に関連して記載されている特徴は、他の実施形態または適用例に適用し得る。
【0068】
限定事項としてではなく例として示される本発明の例示的な実施形態に関する以下の記載を読めば、本発明の他の特徴および利点が明らかになるであろう。この記載は、添付の図面を参照する。