特許第6227570号(P6227570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227570
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】焼結磁石製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20171030BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20171030BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20171030BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20171030BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   H01F41/02 G
   H01F1/057 170
   B22F3/00 D
   B22F3/10 B
   C22C38/00 303D
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-560753(P2014-560753)
(86)(22)【出願日】2014年2月3日
(86)【国際出願番号】JP2014052413
(87)【国際公開番号】WO2014123079
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2015年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-20343(P2013-20343)
(32)【優先日】2013年2月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591044544
【氏名又は名称】インターメタリックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐川 眞人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 紀夫
【審査官】 小池 秀介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−274306(JP,A)
【文献】 特開2007−234953(JP,A)
【文献】 特開2002−246253(JP,A)
【文献】 特開2006−019521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00−8/00
C22C1/04−1/05
33/02
38/00
H01F1/00
1/032−1/04
1/055−1/057
1/06−1/117
1/40
41/00−41/04
41/08
41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結磁石の原料の合金塊を水素解砕法を含む方法で粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程で得られた合金粉末を圧縮成形することなく容器のキャビティに充填する充填工程と、
前記合金粉末が前記キャビティに充填されている状態のままで該合金粉末に磁界を印加することにより該合金粉末を磁気配向させる配向工程と、
磁気配向させた前記合金粉末が前記キャビティに充填されている状態のままで所定の焼結温度まで加熱することにより該合金粉末を焼結させる工程であって、水素脱離温度以上且つ所定の焼結温度以下である所定の加圧維持温度までを大気圧よりも高い圧力の不活性ガス雰囲気中で該合金粉末を加熱する焼結工程と
を有することを特徴とする焼結磁石製造方法。
【請求項2】
前記焼結工程において、前記不活性ガス雰囲気中での加熱処理の後で、真空雰囲気中で加熱処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の焼結磁石製造方法。
【請求項3】
前記合金粉末の材料がNd2Fe14Bであり、前記加圧維持温度が400℃以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の焼結磁石製造方法。
【請求項4】
前記加圧維持温度が600℃以上であることを特徴とする請求項3に記載の焼結磁石製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素Rを含有するRFeB系(R2Fe14B)やRCo系(RCo5, R2Co17)等の焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結磁石を製造する際には、従来より、出発合金の塊を粉砕することにより、平均粒径が数〜十数μmの微粉末(以下、「合金粉末」とする)を作製し(粉砕工程)、合金粉末を容器のキャビティに充填し(充填工程)、キャビティ内の合金粉末に磁界を印加することにより該合金粉末の粒子を磁気配向させ(配向工程)、合金粉末に圧力を印加することで圧縮成形体を作製し(圧縮成形工程)、その圧縮成形体を加熱して焼結させる(焼結工程)、という方法が取られている。ここで、配向工程で整えられた合金粉末の粒子の向きが圧縮成形の際に乱れてしまうため、配向工程の際にも合金粉末に機械的圧力を印加しておく必要がある。あるいは、合金粉末をキャビティに充填した後に、合金粉末にプレス機で圧力を加えつつ磁界を印加することにより、上記配向工程及び圧縮成形工程を同時に行う方法も取られている。いずれにせよ、プレス機を用いて圧縮成形を行うことから、本願ではこれらの方法を「プレス法」と呼ぶ。
【0003】
それに対して、最近、キャビティに充填した合金粉末をそのまま磁界中で磁気配向させた後に焼結工程を行うことにより、圧縮成形工程を行わなくとも、キャビティに対応した形状を有する焼結磁石が得られることが見出された(特許文献1)。本願では、このように圧縮成形工程を行うことなく焼結磁石を製造する方法を「プレスレス法」と呼ぶ。プレスレス法では、合金粉末粒子の磁気配向が機械的圧力によって妨げられることがないため、磁気特性が向上するという特長を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-019521号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. M. D. Coey編、「Rare-earth Iron Permanent Magnets」, Clarendon Press, オックスフォード大学出版局発行、1996年、第353頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プレス法、プレスレス法のいずれの場合にも、合金粉末を作製する工程では、まず、出発合金塊に水素ガス分子を吸蔵させることにより該出発合金塊を脆化させ、自然崩壊させるか機械力を加えて粉砕することにより、平均粒径が数十〜数百μmである粗粉を作製する(水素解砕法)のが一般的である。次いで、その粗粉をジェットミル法等の方法により、平均粒径が数〜十数μmである微粉末(合金粉末)を作製する。しかし、このように水素解砕法を用いて作製された合金粉末を用いると、得られた焼結磁石に割れが発生する確率が高くなることが知られていた。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、製造される焼結磁石の割れが発生し難い焼結磁石製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る焼結磁石製造方法は
焼結磁石の原料の合金塊を水素解砕法を含む方法で粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程で得られた合金粉末を圧縮成形することなく容器のキャビティに充填する充填工程と、
前記合金粉末が前記キャビティに充填されている状態のままで該合金粉末に磁界を印加することにより該合金粉末を磁気配向させる配向工程と、
磁気配向させた前記合金粉末が前記キャビティに充填されている状態のままで所定の焼結温度まで加熱することにより該合金粉末を焼結させる工程であって、水素脱離温度以上且つ所定の焼結温度以下である所定の加圧維持温度までを大気圧よりも高い圧力の不活性ガス雰囲気中で該合金粉末を加熱する焼結工程と
を有することを特徴とする
【0009】
本発明において「水素脱離温度」は以下のように定義する。水素が吸蔵された合金粉末を真空中に配置すると、室温においても水素がわずかに合金粉末から脱離する。そして、真空中で該合金粉末を加熱すると、ある温度を超えたときに、室温の場合よりも急激に水素が脱離し始める。このときの温度を「水素脱離温度」と定義する。水素脱離温度は合金粉末の成分により異なる。例えばNd2Fe14Bの合金粉末では、水素脱離開始温度は約70℃である(非特許文献1参照)。
【0010】
本発明によれば、水素脱離温度から前記加圧維持温度に達するまでの間、大気圧よりも高い圧力の不活性ガス雰囲気中で加熱処理を行うことによって、合金粉末に吸蔵された水素ガス分子が急激に合金粉末から脱離することが防止される。これにより、水素ガス分子の急激な脱離に起因する焼結磁石の割れの発生を抑えることができる。
【0011】
不活性ガスには、ヘリウムガスやアルゴンガス等の希ガス、及びそれらの混合ガスを用いることができる。なお、不活性ガス以外のガスは、合金粉末との反応を防止するため、使用しない。
【0012】
焼結磁石製造方法では一般に、配向工程中又は配向工程と焼結工程の間に、合金粉末をプレス成形する工程を行う方法(プレス法)、プレス成形を行わない方法(プレスレス法)があるが、本発明ではプレスレス法を用いる。
【0013】
プレス法、プレスレス法のいずれの場合にも、粉砕工程(特に、微粉砕工程)や配向工程において、合金粉末の微粉末(粒径数〜十数μm程度)の再凝集を防止するため、界面活性剤を添加することが多く行われる。界面活性剤としては、市販の有機潤滑剤が用いられるが、この有機潤滑剤が焼結まで除去されることなく、焼結工程においてそのまま合金粉末と一緒に加熱されると、有機潤滑剤中の炭素原子が焼結磁石の主相に混入し、保磁力が低下する原因となる。
本発明において、粉砕工程や配向工程において有機潤滑剤が添加された合金粉末を用いる場合には、上記のように焼結工程において水素ガス分子を徐々に合金粉末から脱離させることにより、水素ガスと有機潤滑剤を反応させ、有機潤滑剤の分子を水素化分解(炭化水素のクラッキング反応)をさせることもできる。これにより、有機潤滑剤が蒸発し易くなるため、焼結磁石に含有される炭素原子の量を減少させることができ、保磁力を向上させることもできる。
【0014】
本発明に係る焼結磁石製造方法において、前記加圧維持温度に達した後の加熱処理は、真空雰囲気中で行うことが望ましい。これにより、焼結密度を高めることができる。
【0015】
前記合金粉末の材料がNd2Fe14Bである場合には、合金粉末の粒子内には通常、Nd2Fe14Bを成分とする主相の間に、Ndを主成分とするNdリッチ相が形成されている。このような合金粉末を真空中で加熱すると、まず、主相からの脱離が、温度が前述の70℃付近に達したときに室温の場合よりも激しく発生し始め、120℃付近のときに最も激しくなる。次いで、Ndリッチ相からの水素分子の脱離が、温度が200℃付近に達したときに発生し始め、温度が600℃付近のときに最も激しくなる。そこで、前記合金粉末の材料にNd2Fe14Bを用いる場合には、温度が少なくとも200℃以上、望ましくは400℃以上、より望ましくは600℃以上になるまで、大気圧よりも高い圧力の不活性ガス雰囲気中で処理を行うことが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、焼結工程において、合金粉末に残留する水素ガス分子が急激に合金粉末から脱離することが防止され、それにより、焼結磁石の割れの発生を抑えることができる。
【0017】
また、粉砕工程や配向工程において有機潤滑剤(界面活性剤)が添加された合金粉末を用いる場合には、焼結工程において徐々に合金粉末から脱離する水素ガス分子と有機潤滑剤を反応させることができ、それにより、炭素原子の影響による保磁力の低下を抑えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る焼結磁石製造方法の実施例における工程の流れを示す図。
図2】本実施例の焼結磁石製造方法における焼結工程時の温度履歴を示すグラフ。
図3】本実施例及び比較例の焼結磁石製造方法で作製した焼結磁石における割れの発生率を示すグラフ。
図4】本実施例及び比較例の焼結磁石製造方法で作製した焼結磁石における炭素含有率及び保磁力を測定した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る焼結磁石製造方法の実施例を、図1図4を用いて説明する。
【実施例】
【0020】
本実施例では、プレスレス法を用いる場合を中心に説明する。本実施例の焼結磁石製造方法は図1に示すように、粉砕工程(ステップS1)、充填工程(ステップS2)、配向工程(ステップS3)及び焼結工程(ステップS4)の4つの工程を有する。これら各工程のうち、粉砕工程(ステップS1)内には、粗粉砕工程(ステップS1−1)と微粉砕工程(ステップS1−2)の2つの工程が含まれている。また、焼結工程(ステップS4)内には、加圧不活性ガス中焼結工程(ステップS4−1)と真空中焼結工程(ステップS4−2)の2つの工程が含まれている。以下、各工程について説明する。
【0021】
粗粉砕工程の前に、焼結磁石の原料であるNdFeB系やSmCo系等の合金塊を用意する。この合金塊には、ストリップキャスト法により作製される板片状のものを好適に用いることができる。粗粉砕工程(ステップS1−1)では、焼結磁石の原料であるNdFeB系やSmCo系等の合金の塊を水素ガスに晒すことにより、合金塊中に水素ガスの分子を吸蔵させる。この時、水素ガス分子は、主相にも吸蔵されるが、主に、合金塊中に含まれる希土類リッチ相に吸蔵される。希土類リッチ相は、合金塊中の主相(Nd2Fe14B、SmCo5、Sm2Co17等)よりも希土類(Nd、Sm等)の含有量が多い相のことをいい、主相同士の間に存在する。このように水素が主に希土類リッチ相に吸蔵されることで、希土類リッチ相が体積膨張して脆化する。これにより合金塊を自然に崩壊させたり、あるいはさらに機械力を加えて粉砕することにより、平均粒径が数十〜数百μmである粗粉が得られる。この粗粉砕工程において、合金塊中に水素ガスを吸蔵させた後に有機潤滑剤を添加することにより、粗粉の粒子が再凝集することを防止することができる。
【0022】
その後、微粉砕工程(ステップS1−2)において、ジェットミル等を用いて粗粉がさらに粉砕され、平均粒径が数〜十数μmである微粉末(合金粉末)が得られる。この微粉砕工程において有機潤滑剤をさらに添加することにより、微粉末の粒子が凝集することが防止される。
【0023】
充填工程(ステップS2)では合金粉末を容器に充填し、配向工程(ステップS3)では該容器内の合金粉末に磁界を印加することにより該合金粉末を磁気配向させる。本実施例ではプレスレス法を用いているため、これら充填工程及び配向工程では、合金粉末の圧縮成形は行わない。プレスレス法における充填工程及び配向工程の詳細は、特許文献1に記載されている。なお、プレス法を用いる場合には、配向工程における合金粉末への磁界の印加と同時、又は配向工程後に、プレス機によりプレス成形を行うことにより、合金粉末の圧粉体を作製する。
【0024】
焼結工程(ステップS4)では、磁気配向させた合金粉末を容器に充填した状態のまま焼結室内に配置する。なお、プレス法の場合には、容器に充填された合金粉末の代わりに、圧粉体を焼結室内に配置する。
【0025】
焼結室内の温度は、以下のように変化させる。まず(i)焼結温度(通常、900〜1100℃)まで昇温させ(以下、「昇温過程」と呼ぶ)、次いで(ii)その焼結温度で数時間維持し(「高温過程」と呼ぶ)、その後(iii)冷却する(「冷却過程」と呼ぶ)。これら(i)〜(iii)の期間中における焼結室内の雰囲気について、以下に説明する。
【0026】
本実施例では、昇温開始から所定の温度(加圧維持温度)に達するまで、焼結室内に大気圧よりも高い圧力の不活性ガスを導入した状態(加圧状態)で合金粉末の熱処理を行う(加圧不活性ガス中焼結工程:ステップS4−1)。また、本実施例では、焼結温度まで加圧状態を維持(すなわち焼結温度を加圧維持温度と)してもよく、この場合には高温過程が終了するまで加圧状態を維持してもよい。
【0027】
不活性ガスには、アルゴンガス等の希ガスや窒素ガス、あるいはそれらを混合したものを用いることができる。
【0028】
加圧状態の終了後、高温過程が終了するまでの間、焼結室内を真空ポンプで真空引きし、圧力10Pa以下の真空雰囲気に維持する(真空中焼結工程:ステップS4−2)。なお、高温過程が終了するまで不活性ガスによる加圧を維持した場合には、真空中焼結工程は行わない。冷却過程では、真空引きを止めたうえで、焼結室内に低温(室温)の不活性ガスを導入する。なお、この不活性ガスは大気圧で導入してもよいし、大気圧よりも加圧して導入してもよい。
【0029】
焼結工程の後、必要に応じて、焼結温度よりも低い温度(例えば520℃)で合金粉末又は圧粉体を加熱することにより主相の結晶組織を適正化する時効処理等の後処理を行う。
【0030】
本実施例では、粗粉砕工程における水素解砕により合金粉末に吸蔵されていた水素ガス分子が、焼結工程において加熱されることにより該合金粉末から放出される。その際、加圧維持温度に達するまでは、合金粉末の周囲の雰囲気が大気圧以上の不活性ガス雰囲気中に維持されているため、水素ガス分子は急激に放出されることが抑えられ、徐々に合金粉末から脱離してゆく。そのため、これにより、水素ガス分子の急激な脱離に起因する焼結磁石の割れの発生を抑えることができる。
【0031】
また、本実施例では、粉砕工程において原料の合金塊に添加された有機潤滑剤が、焼結工程において、合金粉末から脱離した水素ガスの分子と反応し(炭化水素のクラッキング反応)、蒸発しやすくなる。これにより、焼結磁石に含有される炭素原子の量を減少させることができ、保磁力を向上させることができる。
【0032】
以下、本実施例の焼結磁石製造方法により焼結磁石を作製した実験の結果を説明する。本実験では、プレスレス法によりNdFeB系焼結磁石を作製した。粉砕工程において添加した潤滑剤はミリスチン酸メチルである。また、焼結工程においては、図2に示した温度履歴になるように合金粉末を加熱した。すなわち、(I)室温から400℃まで2時間で昇温、(II)400℃を2時間維持、(III)400℃から600℃まで2時間で昇温、(IV)600℃を2時間維持、(V)600℃から800℃まで2時間で昇温、(VI)800℃を2時間維持、(VII)800℃から1000℃まで2時間で昇温、(VIII)1000℃(焼結温度)を3時間維持、(IX)室温まで3時間で降温、という順で温度を変化させた。
【0033】
本実験では、室温において焼結室内に120kPa(約1.2気圧)のアルゴンガスを導入した後、焼結室内の温度を上昇させた。アルゴンガスによる加圧は(a)上記(I)の終了まで(加圧維持温度:400℃)、(b)上記(III)の終了まで(600℃)、(c)上記(V)の終了まで(800℃)、(d)上記(VII)の終了まで(1000℃、すなわち焼結温度)の4種類の実験を行った。更に、(e)上記(VIII)の終了まで、すなわち焼結温度の維持が終了するまでアルゴンガスによる加圧を継続する実験を併せて行った。(e)の場合には、真空引きは行わなかった。なお、温度の上昇中には焼結室内のアルゴンガスの一部をバルブから放出し、温度下降中にはアルゴンガスを補給することにより、焼結室内の圧力を上記の値に維持した。
【0034】
比較のために、アルゴンガスによる加圧を行うことなく、昇温開始から上記(VIII)の終了まで焼結室内を真空引きする実験(比較例)も行った。
【0035】
(a)〜(e)及び比較例の各実験では、焼結磁石を500枚ずつ作製し、割れが発生した焼結磁石の枚数を作製枚数で除することにより、割れの発生率を求めた。また、各実験において、作製された焼結磁石から任意に1枚ずつ選択し、炭素含有率(重量百分率)及び保磁力を測定した。
【0036】
図3に、割れの発生率を求めた結果をグラフで示す。比較例では、作製された焼結磁石のうちの21.0%に割れが発生していた。それに対して本実施例では、加圧維持温度が他の実施例よりも低い(a)の場合において、2.5%の焼結磁石に割れが発生したが、この発生率は比較例の約1/10という低い値になった。また、(b)〜(e)においては、焼結磁石の割れは全く発生しなかった(発生率0%)。以上のように、本実施例により、焼結磁石の割れの発生を大幅に抑制又は根絶することができることが明らかになった。
【0037】
この実験結果において、(a)では、(主相からの)脱離開始温度(70℃)以上ではあるものの、Ndリッチ相からの脱離がピークになる温度(600℃)よりも低いことから、Ndリッチ相からの水素ガスの脱離を抑えることができないため、若干数の焼結磁石に割れが発生した、と考えられる。それに対して、(b)〜(e)では加圧維持温度がNdリッチ相からの脱離がピークになる温度よりも高いか又は同じであることから、主相からだけではなくNdリッチ相からの水素ガスの脱離も抑えることができるため、焼結磁石の割れを根絶することができる、と考えられる。
【0038】
図4に、炭素含有率及び保磁力を測定した結果をグラフで示す。比較例では、炭素含有率が0.11重量%、保磁力は16.1kOeであった。それに対して本実施例の(a)では、炭素含有率が比較例よりもわずかに低い0.10重量%、保磁力が比較例と同じ16.1kOeであった。従って、(a)では、上記のように焼結磁石の割れの発生に関しては顕著な抑制効果が見られたものの、炭素含有率の低減及び保磁力の向上に関しては有意な効果は見られなかった。それに対して、本実施例の(b)〜(e)ではいずれも、炭素含有率が0.03重量%((b)〜(e)全て同じ)という比較例よりも低い値になると共に、保磁力が17.8〜18.0kOeという比較例よりも高い値になった。このように、(b)〜(e)では焼結磁石の割れの発生に関してだけではなく、炭素含有率の低減及び保磁力の向上に関しても顕著な効果が見られた。(a)と(b)〜(e)の間で相違が生じる理由は、焼結磁石の割れの場合と同様に、加圧維持温度がNdリッチ相からの脱離がピークになる温度よりも低い((a))か、同じ又は高いか((b)〜(e))によると考えられる。
図1
図2
図3
図4