【実施例】
【0020】
本実施例では、プレスレス法を用いる場合を中心に説明する。本実施例の焼結磁石製造方法は
図1に示すように、粉砕工程(ステップS1)、充填工程(ステップS2)、配向工程(ステップS3)及び焼結工程(ステップS4)の4つの工程を有する。これら各工程のうち、粉砕工程(ステップS1)内には、粗粉砕工程(ステップS1−1)と微粉砕工程(ステップS1−2)の2つの工程が含まれている。また、焼結工程(ステップS4)内には、加圧不活性ガス中焼結工程(ステップS4−1)と真空中焼結工程(ステップS4−2)の2つの工程が含まれている。以下、各工程について説明する。
【0021】
粗粉砕工程の前に、焼結磁石の原料であるNdFeB系やSmCo系等の合金塊を用意する。この合金塊には、ストリップキャスト法により作製される板片状のものを好適に用いることができる。粗粉砕工程(ステップS1−1)では、焼結磁石の原料であるNdFeB系やSmCo系等の合金の塊を水素ガスに晒すことにより、合金塊中に水素ガスの分子を吸蔵させる。この時、水素ガス分子は、主相にも吸蔵されるが、主に、合金塊中に含まれる希土類リッチ相に吸蔵される。希土類リッチ相は、合金塊中の主相(Nd
2Fe
14B、SmCo
5、Sm
2Co
17等)よりも希土類(Nd、Sm等)の含有量が多い相のことをいい、主相同士の間に存在する。このように水素が主に希土類リッチ相に吸蔵されることで、希土類リッチ相が体積膨張して脆化する。これにより合金塊を自然に崩壊させたり、あるいはさらに機械力を加えて粉砕することにより、平均粒径が数十〜数百μmである粗粉が得られる。この粗粉砕工程において、合金塊中に水素ガスを吸蔵させた後に有機潤滑剤を添加することにより、粗粉の粒子が再凝集することを防止することができる。
【0022】
その後、微粉砕工程(ステップS1−2)において、ジェットミル等を用いて粗粉がさらに粉砕され、平均粒径が数〜十数μmである微粉末(合金粉末)が得られる。この微粉砕工程において有機潤滑剤をさらに添加することにより、微粉末の粒子が凝集することが防止される。
【0023】
充填工程(ステップS2)では合金粉末を容器に充填し、配向工程(ステップS3)では該容器内の合金粉末に磁界を印加することにより該合金粉末を磁気配向させる。本実施例ではプレスレス法を用いているため、これら充填工程及び配向工程では、合金粉末の圧縮成形は行わない。プレスレス法における充填工程及び配向工程の詳細は、特許文献1に記載されている。なお、プレス法を用いる場合には、配向工程における合金粉末への磁界の印加と同時、又は配向工程後に、プレス機によりプレス成形を行うことにより、合金粉末の圧粉体を作製する。
【0024】
焼結工程(ステップS4)では、磁気配向させた合金粉末を容器に充填した状態のまま焼結室内に配置する。なお、プレス法の場合には、容器に充填された合金粉末の代わりに、圧粉体を焼結室内に配置する。
【0025】
焼結室内の温度は、以下のように変化させる。まず(i)焼結温度(通常、900〜1100℃)まで昇温させ(以下、「昇温過程」と呼ぶ)、次いで(ii)その焼結温度で数時間維持し(「高温過程」と呼ぶ)、その後(iii)冷却する(「冷却過程」と呼ぶ)。これら(i)〜(iii)の期間中における焼結室内の雰囲気について、以下に説明する。
【0026】
本実施例では、昇温開始から所定の温度(加圧維持温度)に達するまで、焼結室内に大気圧よりも高い圧力の不活性ガスを導入した状態(加圧状態)で合金粉末の熱処理を行う(加圧不活性ガス中焼結工程:ステップS4−1)。また、本実施例では、焼結温度まで加圧状態を維持(すなわち焼結温度を加圧維持温度と)してもよく、この場合には高温過程が終了するまで加圧状態を維持してもよい。
【0027】
不活性ガスには、アルゴンガス等の希ガスや窒素ガス、あるいはそれらを混合したものを用いることができる。
【0028】
加圧状態の終了後、高温過程が終了するまでの間、焼結室内を真空ポンプで真空引きし、圧力10Pa以下の真空雰囲気に維持する(真空中焼結工程:ステップS4−2)。なお、高温過程が終了するまで不活性ガスによる加圧を維持した場合には、真空中焼結工程は行わない。冷却過程では、真空引きを止めたうえで、焼結室内に低温(室温)の不活性ガスを導入する。なお、この不活性ガスは大気圧で導入してもよいし、大気圧よりも加圧して導入してもよい。
【0029】
焼結工程の後、必要に応じて、焼結温度よりも低い温度(例えば520℃)で合金粉末又は圧粉体を加熱することにより主相の結晶組織を適正化する時効処理等の後処理を行う。
【0030】
本実施例では、粗粉砕工程における水素解砕により合金粉末に吸蔵されていた水素ガス分子が、焼結工程において加熱されることにより該合金粉末から放出される。その際、加圧維持温度に達するまでは、合金粉末の周囲の雰囲気が大気圧以上の不活性ガス雰囲気中に維持されているため、水素ガス分子は急激に放出されることが抑えられ、徐々に合金粉末から脱離してゆく。そのため、これにより、水素ガス分子の急激な脱離に起因する焼結磁石の割れの発生を抑えることができる。
【0031】
また、本実施例では、粉砕工程において原料の合金塊に添加された有機潤滑剤が、焼結工程において、合金粉末から脱離した水素ガスの分子と反応し(炭化水素のクラッキング反応)、蒸発しやすくなる。これにより、焼結磁石に含有される炭素原子の量を減少させることができ、保磁力を向上させることができる。
【0032】
以下、本実施例の焼結磁石製造方法により焼結磁石を作製した実験の結果を説明する。本実験では、プレスレス法によりNdFeB系焼結磁石を作製した。粉砕工程において添加した潤滑剤はミリスチン酸メチルである。また、焼結工程においては、
図2に示した温度履歴になるように合金粉末を加熱した。すなわち、(I)室温から400℃まで2時間で昇温、(II)400℃を2時間維持、(III)400℃から600℃まで2時間で昇温、(IV)600℃を2時間維持、(V)600℃から800℃まで2時間で昇温、(VI)800℃を2時間維持、(VII)800℃から1000℃まで2時間で昇温、(VIII)1000℃(焼結温度)を3時間維持、(IX)室温まで3時間で降温、という順で温度を変化させた。
【0033】
本実験では、室温において焼結室内に120kPa(約1.2気圧)のアルゴンガスを導入した後、焼結室内の温度を上昇させた。アルゴンガスによる加圧は(a)上記(I)の終了まで(加圧維持温度:400℃)、(b)上記(III)の終了まで(600℃)、(c)上記(V)の終了まで(800℃)、(d)上記(VII)の終了まで(1000℃、すなわち焼結温度)の4種類の実験を行った。更に、(e)上記(VIII)の終了まで、すなわち焼結温度の維持が終了するまでアルゴンガスによる加圧を継続する実験を併せて行った。(e)の場合には、真空引きは行わなかった。なお、温度の上昇中には焼結室内のアルゴンガスの一部をバルブから放出し、温度下降中にはアルゴンガスを補給することにより、焼結室内の圧力を上記の値に維持した。
【0034】
比較のために、アルゴンガスによる加圧を行うことなく、昇温開始から上記(VIII)の終了まで焼結室内を真空引きする実験(比較例)も行った。
【0035】
(a)〜(e)及び比較例の各実験では、焼結磁石を500枚ずつ作製し、割れが発生した焼結磁石の枚数を作製枚数で除することにより、割れの発生率を求めた。また、各実験において、作製された焼結磁石から任意に1枚ずつ選択し、炭素含有率(重量百分率)及び保磁力を測定した。
【0036】
図3に、割れの発生率を求めた結果をグラフで示す。比較例では、作製された焼結磁石のうちの21.0%に割れが発生していた。それに対して本実施例では、加圧維持温度が他の実施例よりも低い(a)の場合において、2.5%の焼結磁石に割れが発生したが、この発生率は比較例の約1/10という低い値になった。また、(b)〜(e)においては、焼結磁石の割れは全く発生しなかった(発生率0%)。以上のように、本実施例により、焼結磁石の割れの発生を大幅に抑制又は根絶することができることが明らかになった。
【0037】
この実験結果において、(a)では、(主相からの)脱離開始温度(70℃)以上ではあるものの、Ndリッチ相からの脱離がピークになる温度(600℃)よりも低いことから、Ndリッチ相からの水素ガスの脱離を抑えることができないため、若干数の焼結磁石に割れが発生した、と考えられる。それに対して、(b)〜(e)では加圧維持温度がNdリッチ相からの脱離がピークになる温度よりも高いか又は同じであることから、主相からだけではなくNdリッチ相からの水素ガスの脱離も抑えることができるため、焼結磁石の割れを根絶することができる、と考えられる。
【0038】
図4に、炭素含有率及び保磁力を測定した結果をグラフで示す。比較例では、炭素含有率が0.11重量%、保磁力は16.1kOeであった。それに対して本実施例の(a)では、炭素含有率が比較例よりもわずかに低い0.10重量%、保磁力が比較例と同じ16.1kOeであった。従って、(a)では、上記のように焼結磁石の割れの発生に関しては顕著な抑制効果が見られたものの、炭素含有率の低減及び保磁力の向上に関しては有意な効果は見られなかった。それに対して、本実施例の(b)〜(e)ではいずれも、炭素含有率が0.03重量%((b)〜(e)全て同じ)という比較例よりも低い値になると共に、保磁力が17.8〜18.0kOeという比較例よりも高い値になった。このように、(b)〜(e)では焼結磁石の割れの発生に関してだけではなく、炭素含有率の低減及び保磁力の向上に関しても顕著な効果が見られた。(a)と(b)〜(e)の間で相違が生じる理由は、焼結磁石の割れの場合と同様に、加圧維持温度がNdリッチ相からの脱離がピークになる温度よりも低い((a))か、同じ又は高いか((b)〜(e))によると考えられる。