(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227598
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】後段にDC−DCコンバータを備えるデジタル制御電源
(51)【国際特許分類】
H02M 3/00 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
H02M3/00 P
H02M3/00 U
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-141566(P2015-141566)
(22)【出願日】2015年7月15日
(65)【公開番号】特開2017-28754(P2017-28754A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2016年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】土本 将孝
(72)【発明者】
【氏名】小林 尚平
【審査官】
小原 正信
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−359970(JP,A)
【文献】
特開2008−099439(JP,A)
【文献】
米国特許第08222772(US,B1)
【文献】
特開2004−297983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧を数値に変換するA/Dコンバータと、該A/Dコンバータで変換された数値をデジタル演算する演算処理装置と、該演算処理装置からの指令値に基づいたPWM信号を生成するPWM生成部と、該PWM生成部から出力されたPWM信号に基づいた電圧値を出力するスイッチング電源回路と、を備え、出力端子の先にDC−DCコンバータが接続されたデジタル制御電源において、
前記DC−DCコンバータの出力電圧を、前記演算処理装置にて監視する電圧監視手段と、
前記デジタル制御電源の出力電圧設定値を予め出力電圧の許容範囲内の略上限値に設定しておき、前記電圧監視手段により前記DC−DCコンバータの出力電圧値が予め設定した閾値を超えたことを検出したとき、前記演算処理装置からの指令値を変更し出力電圧設定値を出力電圧の規定値に変更する変更手段と、
を有することを特徴とするデジタル制御電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル制御電源に関する。
【背景技術】
【0002】
後段に1チャネル以上のDC−DCコンバータを備える電源回路では、後段のDC−DCコンバータの起動電流により、瞬間的な電圧低下が発生する場合がある。このような瞬間的な電圧低下を抑える技術として、例えば、特許文献1,2に開示される電源回路では、コンデンサやツェナーダイオードを用いて、入力が一定電圧となるまでDC−DC回路の起動を抑えることにより、出力電圧値を規定内に抑えるようにしている。また、特許文献3に開示される電源回路では、制御電源1とDC−DCコンバータとの間にサーミスタなどの起動電流抑制回路を挿入することで起動電流の影響を抑え、瞬間的な電圧低下を抑えている。
【0003】
図3は、従来技術におけるデジタル制御電源による電源回路の概略構成図である。図に示す電源回路においては、演算処理装置4はA/Dコンバータ5を介してフィードバックされてくる出力電圧V
out1の値に基づいてデジタル演算を行い、該演算の結果に基づいた指令値をPWM生成部3に対して出力する。PWM生成部3は、演算処理装置4からの指令値に基づいてPWM信号を生成して出力し、出力された該PWM信号に基づいてスイッチング電源回路2が電圧V
out1を出力する。そして、スイッチング電源回路2から出力された電圧V
out1によりDC−DCコンバータ12aに起動電流I
out1が流れて電圧V
out2が出力される。起動電流抑制回路11は、瞬間的に流れる電流の量に対して制限を加えるために設けられている。
【0004】
図4は、
図3に示した電源回路において、サーミスタなどの起動電流抑制回路11を組み込んでいない場合の起動時の電流・電圧の変化を示すグラフ(
図4(a))と、起動電流抑制回路11を組み込んだ場合の起動時の電流・電圧の変化を示すグラフ(
図4(b))を示している。起動電流抑制回路11を組み込んでいない電源回路の場合、
図4(a)に示すように、後段のDC−DCコンバータ12aの起動電流I
out1の突入電流により、デジタル制御電源1の出力電圧V
out1に瞬間的な電圧低下が発生する場合がある。これに対して、起動電流抑制回路11を組み込んだ電源回路においては、
図4(b)に示すように、起動電流I
out1に制限を設けることによりデジタル制御電源1の出力電圧V
out1の電圧低下を抑えることができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4595179号公報
【特許文献2】特許第4093185号公報
【特許文献3】特許第3804057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、起動電流抑制回路を設けることにより起動電流に対して制限を設けた場合、電源の立ち上がり時間が長くなるため、起動時の要求シーケンスを満たせなくなる場合があるという課題がある。また、起動時の電圧変動をコンデンサで抑えるという方法では大容量のコンデンサが必要となり、電源の小型化の妨げとなるという課題が発生する。
【0007】
そこで本発明の目的は、電源回路の出力コンデンサの容量を増やすことなく立ち上がり時間を短くすることが可能なデジタル制御電源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の請求項1に係る発明は、電圧を数値に変換するA/Dコンバータと、該A/Dコンバータで変換された数値をデジタル演算する演算処理装置と、該演算処理装置からの指令値に基づいたPWM信号を生成するPWM生成部と、該PWM生成部から出力されたPWM信号に基づいた電圧値を出力するスイッチング電源回路と、を備え、出力端子の先にDC−DCコンバータが接続されたデジタル制御電源において、前記DC−DCコンバータの出力電圧を、前記演算処理装置にて監視する電圧監視手段と、前記デジタル制御電源の出力電圧設定値を予め出力電圧の許容範囲内の略上限値に設定しておき、前記電圧監視手段により前記DC−DCコンバータの出力電圧値が予め設定した閾値を超えたことを検出したとき、前記演算処理装置からの指令値を変更し出力電圧設定値を出力電圧の規定値に変更する変更手段と、を有することを特徴とするデジタル制御電源である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、後段のDC−DCコンバータの起動電流による電圧降下が大きい場合でも、出力電圧設定値を変動許容範囲内で上限値付近に設定しているのでデジタル制御電源の出力電圧値を変動許容範囲に収めることができる。そのため、大容量の出力コンデンサは不要となり、電源回路の出力コンデンサの容量を減らすことが可能となる。また、後段のDC−DCコンバータの起動電流を抑える必要が無く大きく出来る為、立ち上がり時間を短くすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態における電源回路の概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態における電源回路の出力電圧の変化を示すグラフである。
【
図3】従来技術における電源回路の概略構成図である。
【
図4】従来技術における電源回路の出力電圧の変化を示すグラフである。
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。なお、従来技術と同一または類似する構成は同じ符号を用いて説明する。
本発明のデジタル制御電源では、予めデジタル制御電源の出力電圧設定値を変動許容範囲内での上限値付近に設定しておく。このように設定しておくことにより、後段のDC−DCコンバータの立ち上がり時に流れる起動電流による電圧降下が発生したとしても、出力電圧設定値が予め高めに設定されているため、出力電圧値を変動許容範囲内に収めることができる。したがって、DC−DCコンバータの起動電流を制限することなく大きくすることが可能となり、電源の立ち上がり時間を短くすることができる。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態におけるデジタル制御電源を含む電源回路の概略構成を示した図である。
図1に示す電源回路では、入力電圧V
inがコンデンサ8を介してデジタル制御電源1に入力されると、該入力電圧V
inがスイッチング電源回路2により変換された出力電圧V
out1が出力される。デジタル制御電源1の後段にはチャネル数の分だけDC−DCコンバータ12a,12b,12c,…が接続されており、コンデンサ9を介して入力されたデジタル制御電源1の電圧V
out1がそれぞれのDC−DCコンバータ12a,12b,12c,…により変換され、出力電圧V
out2,V
out3,V
out4,…が、コンデンサ10a,10b,10c,…を介してそれぞれ出力される。
【0013】
本実施形態のデジタル制御電源1には出力電圧設定値が設定されており、演算処理装置4は、A/Dコンバータ5aを介してフィードバックされてくる出力電圧V
out1の値に基づいて、出力電圧V
out1が出力電圧設定値となるように指令値を演算してPWM生成部3に対して出力する。そしてPWM生成部3は、演算処理装置4からの指令値に基づいてPWM信号を生成して出力し、出力された該PWM信号に基づいてスイッチング電源回路2から電圧V
out1が出力される。
【0014】
また演算処理装置4は、電圧監視手段6、変更手段7を備えており、A/Dコンバータ5b,5c,5d,…を介してフィードバックされてくる各DC−DCコンバータ12a,12b,12c,…からの出力電圧V
out2,V
out3,V
out4,…の値を電圧監視手段6が監視し、監視した各DC−DCコンバータ12a,12b,12c,…からの出力電圧値に基づいて、変更手段7がデジタル制御電源1の出力電圧設定値を変更する。変更手段7は、電源回路の起動時には出力電圧設定値をデジタル制御電源1にあらかじめ設定されている出力電圧V
out1の変動許容範囲内の略上限値へと変更し、各DC−DCコンバータ12a,12b,12c,…からフィードバックされてくる出力電圧V
out2,V
out3,V
out4,…が、それぞれの出力電圧の予め設定されている閾値を超えた時点で出力電圧設定値を通常の出力電圧値の規定値へと変更する。
【0015】
図2は、本実施形態の電源回路における出力電圧V
out1、DC−DCコンバータ12aの出力電圧V
out2および起動電流I
out1をグラフで示した図である。図に示すように、本発明の電源回路では、電源の起動時にデジタル制御電源1の出力電圧設定値が出力電圧V
out1の変動許容範囲内の略上限値に設定される。そのため、DC−DCコンバータ12aに流れる起動電流I
out1に突入電流が発生し、出力電圧V
out1に電圧降下が発生した場合であっても出力電圧V
out1の値を変動許容範囲内に収めることができるようになる(
図2A)。
その後、DC−DCコンバータ12aの出力電圧V
out2の値が予め設定された閾値を超えると(
図2B)電源回路の起動が完了したと判定し、デジタル制御電源1の出力電圧設定値が通常の出力電圧値の規定値へと変更される(
図2C)。なお、DC−DCコンバータが複数設けられている場合には、全てのDC−DCコンバータの出力電圧値がそれぞれの閾値を超えた場合に電源回路の起動が完了したと判定するようにすれば良い。
【0016】
本実施形態のデジタル制御電源の構成により、後段のDC−DCコンバータの起動電流による電圧低下が大きい場合でも、電圧設定値を変動許容範囲内で上限値付近に設定しているため、電源回路の出力コンデンサの容量を減らすことが可能となる。また、後段のDC−DCコンバータの起動電流を大きく出来る為、立ち上がり時間を短くすることが出来る。
【0017】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態の例のみに限定されることなく、適宜の変更を加えることにより様々な態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0018】
1 デジタル制御電源
2 スイッチング電源回路
3 PWM生成部
4 演算処理装置
5,5a,5b,5c,5d A/Dコンバータ
6 電圧監視手段
7 変更手段
8 コンデンサ
9 コンデンサ
10 コンデンサ
11 起動電流抑制回路
12a,12b,12c DC−DCコンバータ