(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6227612
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】モータブレーキの寿命予測機能を備えたモータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/74 20060101AFI20171030BHJP
B60T 17/22 20060101ALI20171030BHJP
F16D 66/00 20060101ALI20171030BHJP
F16D 55/28 20060101ALI20171030BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20171030BHJP
F16D 121/22 20120101ALN20171030BHJP
【FI】
B60T13/74 G
B60T13/74 F
B60T17/22 Z
F16D66/00 Z
F16D55/28 B
F16D65/18
F16D121:22
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-202838(P2015-202838)
(22)【出願日】2015年10月14日
(65)【公開番号】特開2017-74837(P2017-74837A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2016年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 総
(72)【発明者】
【氏名】鹿川 力
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 樹一
【審査官】
谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】
特開平9−71239(JP,A)
【文献】
特開平6−284766(JP,A)
【文献】
特開2015−466(JP,A)
【文献】
特開2006−17471(JP,A)
【文献】
特表2002−528681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/74
B60T 17/22
F16D 55/28
F16D 65/18
F16D 66/00
F16D 121/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バネの弾性力にてアマチュアをモータシャフトが結合した摩擦板に押し付けることによりモータにブレーキをかけ、ブレーキコイルにブレーキコイル電圧を印加することで発生する電磁力にて前記摩擦板から前記アマチュアを引き離すことでモータのブレーキを解除するブレーキ装置を備えるモータ駆動装置であって、
前記モータに流れるモータ電流を検出するモータ電流検出部と、
ブレーキ解除指令を受信したとき、前記ブレーキコイルにブレーキコイル電圧を印加した状態において所定負荷にてモータを運転したときに前記モータ電流検出部が検出したモータ電流が、予め記憶されたブレーキ正常解除時電流よりも大きい場合、ブレーキは解除されていないと判定し、前記ブレーキ正常解除時電流以下の場合、ブレーキは解除されたと判定するブレーキ解除判定部と、
前記ブレーキ解除判定部がブレーキは解除されていないと判定したとき、前記ブレーキコイルに印加するブレーキコイル電圧を、前記ブレーキ解除指令を前回受信したときに印加したときよりも大きい値に変更するブレーキコイル電圧変更部と、
前記ブレーキコイル電圧変更部による変更後のブレーキコイル電圧およびその変更日時を記憶する変更履歴記憶部と、
前記変更履歴記憶部に記憶された前記ブレーキコイル電圧および前記変更日時と、予め記憶された故障時ブレーキコイル電圧とに基づいて、前記ブレーキ装置の予測寿命を計算する寿命予測部と、
を備えることを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記モータのブレーキが正常に解除されている状態において前記所定負荷にてモータを運転したときに前記モータ電流検出部が検出したモータ電流である前記ブレーキ正常解除時電流が予め記憶されたモータ電流記憶部と、
前記ブレーキコイルにブレーキコイル電圧を印加することで発生する電磁力によっても前記摩擦板から前記アマチュアを引き離すことができないときの当該ブレーキコイル電圧である前記故障時ブレーキコイル電圧が予め記憶された故障時ブレーキコイル電圧記憶部と、
をさらに備える請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記寿命予測部により計算された予測寿命を表示する表示部をさらに備える請求項1または2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記ブレーキコイル電圧変更部による変更後のブレーキコイル電圧が、前記故障時ブレーキコイル電圧を超えたとき、前記ブレーキ装置が故障したと警報する警報部をさらに備える請求項1〜3のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記寿命予測部は、前記変更履歴記憶部に記憶された前記ブレーキコイル電圧および前記変更日時と、予め記憶された故障時ブレーキコイル電圧とに基づいて、線形近似もしくは最小二乗法を用いて前記ブレーキ装置の予測寿命を計算する請求項1〜4のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦板を用いてモータにブレーキをかける摩擦式ブレーキ装置を備えるモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ駆動装置では、摩擦板をアマチュアと端板とで挟むことでモータにブレーキをかける摩擦式ブレーキ装置が従来より用いられている。
図3は、一般的な摩擦式ブレーキ装置の構造を示す断面図である。
【0003】
摩擦式ブレーキ装置100において、アマチュア112と端板113との間には摩擦板111が配置される。摩擦板111にはハブ122がスプライン結合され、さらにハブ122とモータのシャフト121とは焼き嵌めにより一体化されているので、モータのシャフト121の回転に連動して摩擦板111も回転する。端板113とスペーサ117とはボルト118によって結合され、アマチュア112が摩擦板111に近づく方向および遠ざかる方向に移動可能となるようにスペーサ117に結合される。コア116内にはバネ114およびブレーキコイル115が設けられる。ブレーキコイル115にブレーキコイル電圧が印加されていない状態においては、アマチュア112はバネ114の弾性力により摩擦板111に強く押し付けられ、摩擦板111がアマチュア112と端板113とで挟まれて回転できない。この結果、摩擦板111に結合されたシャフト121も回転できなくなり、モータにブレーキがかかった状態となる。一方、ブレーキコイル115にブレーキコイル電圧が印加されると、アマチュア112を摩擦板111に押し付けていたバネ114の弾性力に打ち勝つ電磁力がコア116に発生し、これによりアマチュア112がコア116に引きつけられて摩擦板111はアマチュア112および端板113との接触から解放される。この結果、摩擦板111ひいてはシャフト121は自由に回転できるようになり、モータのブレーキが解除された状態となる。
【0004】
上述のように、摩擦式ブレーキ装置100では、ブレーキコイル115にブレーキコイル電圧を印加しないことでモータにブレーキをかけ、ブレーキコイル115にブレーキコイル電圧を印加することでモータのブレーキを解除する。摩擦板111とアマチュア112および端板113との摩擦によりブレーキをかけるので、ブレーキの度に摩擦板111は摩耗していき、その結果、ブレーキ解除状態におけるアマチュア112とコア116との間の距離が徐々に広がっていく。摩擦板111が摩耗しすぎると、より大きなブレーキコイル電圧をブレーキコイル115に印加して大きな吸引力を発生させなければ摩擦板111をアマチュア112および端板113との接触から解放されなくなり、つまりはブレーキを解除できなくなる。このようにブレーキが解除できない状態は、一般的には「摩擦式ブレーキ
装置100に寿命が到来した状態」あるいは「摩擦式ブレーキ
装置100が故障した状態」と認識されている。
【0005】
ブレーキを解除できなくなる状況を回避するために、摩擦板111が薄くなっても十分な吸引力を発生できるようブレーキコイル115に大きなブレーキコイル電圧を印加するといった方法を採用することも可能である。しかしながら、この方法によると、摩擦式ブレーキ装置100の使用日数がまだ浅い摩擦板111の摩耗が少ない状態において無駄に大きなブレーキコイル電圧を印加してブレーキ解除を行っていることになり、電力を無駄に消費しており、好ましいとはいえない。
【0006】
このような理由から、摩擦式ブレーキ装置においては、摩擦板の摩耗の度合いひいては摩擦板の寿命到来の時期を的確に把握し、ブレーキ解除を確実にかつ効率よく行えるようにすることが重要である。
【0007】
例えば、ブレーキが正常に解除された状態においてモータに所定負荷をかけてこのときのモータ電流を予め記憶しておき、ブレーキの解除毎に上記所定負荷をかけてこのときのモータ電流が、予め記憶したモータ電流よりも大きい場合にブレーキ故障が発生したと判定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この方法は、ブレーキが解除できていない状態でモータを無理やり動かそうとする場合には、モータに大きな電流を流す必要があるという性質を利用するものである。
【0008】
また例えば、ブレーキ解除指令後にモータが回転しないとき、ブレーキに印加する電圧を上げ、これにモータが回転した場合はブレーキは正常に解除されたと判定する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
また例えば、車両用ブレーキ素子の寿命を知ることができる装置として、ブレーキ素子のライニングが所定量摩耗した事を検知する検出回路と車両の走行距離を測定する測定回路をブレーキ装置に備え、ブレーキ素子のライニングが所定量摩耗した時点での残り厚さと、この所定量摩耗するまでの車両の走行距離とから、摩耗許容限度厚さに達するまでの寿命を求める装置が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3192817号公報
【特許文献2】特開2015−466号公報
【特許文献3】特開2002−303344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、摩擦板とアマチュアおよび端板との摩擦によりブレーキをかける摩擦式ブレーキ装置においては、ブレーキの回数が増えるにつれ摩擦板は徐々に摩耗していき、摩擦板が摩耗しすぎるとブレーキを解除できなくなるので、摩擦板の摩耗を的確に把握することが重要である。
【0012】
しかしながら、特許文献1および2に記載された発明によれば、摩擦式ブレーキ装置における摩擦板の摩耗による寿命到来(換言すれば、故障の発生)を検知することはできるものの、摩擦式ブレーキ装置の寿命到来の時期を前もって予測することができない。例えば、摩擦式ブレーキ装置の寿命到来の時期を予測できれば、業務終了時などの摩擦式ブレーキ装置を使用しない時間帯に修理や交換などの保守作業を行うことができるので効率的であるが、特許文献1に記載された発明によると、摩擦式ブレーキ装置の故障の発生を検知してから保守作業を行うことになり、効率が悪い。また、特許文献1に記載された発明によれば、摩擦板の劣化状態に関わらずブレーキコイルに印加するブレーキコイル電圧は一定であるので、特に、摩擦式ブレーキ装置の使用日数がまだ浅く摩擦板の摩耗が少ない状態においても無駄に大きなブレーキコイル電圧を印加して故障検知を行うことになるので、電力を無駄に消費しており、好ましいとはいえない。また、特許文献3に記載された発明によれば、車両用ブレーキ素子
の寿命を予測するために、摩擦板の厚さに対応する車両の走行距離を測定する回路をブレーキ装置に別途設けなければならず、部品点数が増え、装置の大型化およびコストの増大を招くという問題がある。
【0013】
従って本発明の目的は、上記問題に鑑み、摩擦式ブレーキ装置の寿命を低消費電力で予測することができる小型で低コストのモータ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を実現するために、本発明においては、バネの弾性力にてアマチュアをモータシャフトが結合した摩擦板に押し付けることによりモータにブレーキをかけ、ブレーキコイルにブレーキコイル電圧を印加することで発生する電磁力にて摩擦板からアマチュアを引き離すことでモータのブレーキを解除するブレーキ装置を備えるモータ駆動装置は、モータに流れるモータ電流を検出するモータ電流検出部と、ブレーキ解除指令を受信したとき、ブレーキコイルにブレーキコイル電圧を印加した状態において所定負荷にてモータを運転したときにモータ電流検出部が検出したモータ電流が、予め記憶されたブレーキ正常解除時電流よりも大きい場合、ブレーキは解除されていないと判定し、ブレーキ正常解除時電流以下の場合、ブレーキは解除されたと判定するブレーキ解除判定部と、ブレーキ解除判定部がブレーキは解除されていないと判定したとき、ブレーキコイルに印加するブレーキコイル電圧を、ブレーキ解除指令を前回受信したときに印加したときよりも大きい値に変更するブレーキコイル電圧変更部と、ブレーキコイル電圧変更部による変更後のブレーキコイル電圧およびその変更日時を記憶する変更履歴記憶部と、変更履歴記憶部に記憶されたブレーキコイル電圧および変更日時と、予め記憶された故障時ブレーキコイル電圧とに基づいて、ブレーキ装置の予測寿命を計算する寿命予測部と、を備える。
【0015】
また、モータ駆動装置は、モータのブレーキが正常に解除されている状態において所定負荷にてモータを運転したときにモータ電流検出部が検出したモータ電流であるブレーキ正常解除時電流が予め記憶されたモータ電流記憶部と、ブレーキコイルにブレーキコイル電圧を印加することで発生する電磁力によっても摩擦板からアマチュアを引き離すことができないときの当該ブレーキコイル電圧である故障時ブレーキコイル電圧が予め記憶された故障時ブレーキコイル電圧記憶部と、をさらに備えてもよい。
【0016】
また、モータ駆動装置は、寿命予測部により計算された予測寿命を表示する表示部をさらに備えてもよい。
【0017】
また、モータ駆動装置は、ブレーキコイル電圧変更部による変更後のブレーキコイル電圧が、故障時ブレーキコイル電圧を超えたとき、ブレーキ装置が故障したと警報する警報部をさらに備えてもよい。
【0018】
また、寿命予測部は、変更履歴記憶部に記憶されたブレーキコイル電圧および変更日時と、予め記憶された故障時ブレーキコイル電圧とに基づいて、線形近似もしくは最小二乗法を用いてブレーキ装置の予測寿命を計算してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、摩擦式ブレーキ装置の寿命を低消費電力で予測することができる小型で低コストのモータ駆動装置を実現することができる。
【0020】
本発明によれば、作業者は、摩擦式ブレーキ装置の摩擦板の予測寿命を知ることができるので、摩擦板の寿命が到来する前に(換言すれば、摩擦式ブレーキ装置が故障する前に)、摩擦板を交換することができる。求められた予測寿命を参考にして、例えば業務終了時などの摩擦式ブレーキ装置を使用しない時間帯に摩擦板の修理や交換などの保守作業を行うといったことが可能となる。摩擦板の交換を適切な時期に行うことができるようになることで、保守作業の効率化を図ることができるとともに、予備用の摩擦板の在庫を減らすこともできる。
【0021】
また、本発明によれば、摩擦式ブレーキ装置の摩擦板の摩耗の度合いに応じてブレーキコイル電圧を徐々に変更してブレーキ解除および摩擦板の寿命予測を行うので、従来のようにブレーキ解除のためにあるいいは摩擦板の寿命予測のために無駄に電力を消費することはない。また、ブレーキコイルに無駄なブレーキコイル電圧を印加しないため、従来に比べてブレーキコイルの寿命が延びるという利点もある。
【0022】
また、本発明によれば、特に追加のハードウェア部品を必要としないので、寿命予測のために装置が大型化したりコストが増大するといったことはない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施例によるモータ駆動装置の原理ブロック図である。
【
図2】本発明の実施例によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。
【
図3】一般的な摩擦式ブレーキ装置の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の実施例によるモータ駆動装置の原理ブロック図である。ここでは、モータ2をモータ駆動装置1で制御する場合について説明する。なお、
図1に示す実施例ではモータ2を交流モータとしたが、モータ2の種類は本発明を限定するものではなく、直流モータであってもよい。また、モータ2が交流モータである場合は、誘導モータであっても同期モータであってもよい。また、モータ2の駆動方法は本発明を限定するものではなく、公知の駆動方法でよい。
【0025】
モータ駆動装置1は、モータ電力供給部20および摩擦式ブレーキ装置100を備える。
【0026】
モータ電力供給部20は、直流電力を交流電力に変換してモータ2へ供給する。これにより、モータ2は、供給された交流電力に基づいて動作することになる。モータ電力供給部20は、例えばPWMインバータがある。ここでは図示しないが、PWMインバータからなるモータ電力供給部20の直流側であるDCリンクには、交流電源側から供給された交流電力を直流電力に変換してDCリンクへ出力する整流器が設けられる。なお、モータ2が直流モータである場合は、モータ電力供給部20は直流電源、または、交流電源側から供給された交流電力を直流電力に変換して出力する順変換器(整流器)で構成される。
【0027】
摩擦式ブレーキ装置100は、バネの弾性力にてアマチュアをモータシャフトが結合した摩擦板に押し付けることによりモータ2にブレーキをかけ、ブレーキコイル115にブレーキコイル電圧を印加することで発生する電磁力にて摩擦板からアマチュアを引き離すことでモータ2のブレーキを解除する。摩擦式ブレーキ装置100の構成およびその動作は
図3を参照して説明した通りである。
【0028】
本実施例によるモータ駆動装置1は、モータ電流検出部11と、ブレーキ解除判定部12と、ブレーキコイル電圧変更部13と、変更履歴記憶部14と、寿命予測部15と、モータ電流記憶部16と、故障時ブレーキコイル電圧記憶部17と、表示部18と、警報部19とを備える。
【0029】
モータ電流検出部11は、モータ電力供給部20からモータ2へ流れ込むモータ電流を検出する。モータ電流検出部11により検出されたモータ電流の値は、ブレーキ解除判定部12へ送られる。
【0030】
モータ電流記憶部16は、ブレーキ正常解除時電流の値を記憶する。ブレーキ正常解除時電流の値は、モータ駆動装置1を実際に運用する前に、予め実験により取得されるものである。実験は、摩擦式ブレーキ装置100が新品状態(すなわち摩擦板の摩耗が無い状態)もしくはそれに近い状態にあるときに行われるのが好ましい。実験では、モータ2のブレーキが正常に解除されている状態において所定負荷にてモータ2を運転し、このときモータ電力供給部20からモータ2へ流れ込むモータ電流をモータ電流検出部11により検出し、この検出値に所定のマージンを加えた値を「ブレーキ正常解除時電流」として設定し、これをモータ電流記憶部16に記憶する。ブレーキ正常解除時電流を、モータ電流検出部11により電流検出値に所定のマージンを加えた値として設定するのは、ブレーキ正常解除時電流をブレーキ解除の判断基準に用いる際に、ブレーキ解除の誤検出を防ぐためである。
【0031】
ブレーキ解除判定部12は、モータ2の駆動を統括制御する制御部(図示せず)からブレーキ解除指令を受信したとき、ブレーキコイル
115にブレーキコイル電圧を印加した状態において所定負荷にてモータ2を運転したときにモータ電流検出部11が検出したモータ電流が、モータ電流記憶部16に予め記憶されたブレーキ正常解除時電流よりも大きい場合、ブレーキは解除されていないと判定し、ブレーキ正常解除時電流以下の場合、ブレーキは解除されたと判定する。ブレーキ解除判定部12による判定結果は、ブレーキコイル電圧
変更部13へ送られる。ここで、「所定負荷」とは、モータ電流記憶部16に記憶されたブレーキ正常解除時電流の値を取得する際に用いられたものと同一のものである。上述のように摩擦式ブレーキ装置100の摩擦板が摩耗して薄くなるにつれ、バネにより摩擦板がアマチュアおよび端板を押し付ける力がより一層強くなるので、ブレーキ解除の際には、ブレーキコイル115により大きなブレーキコイル電圧を印加しなければ摩擦板をアマチュアおよび端板から引き離す電磁力を発生させることができなくなる。すなわち、摩擦板の摩耗の度合いが、ブレーキ解除指令受信時に所定負荷にてモータ2を運転したときにモータ電流検出部11が検出したモータ電流の大きさにそのまま現れる。そこで、本発明では、ブレーキ解除指令を受信したときブレーキコイル115にブレーキコイル電圧を印加した状態において所定負荷にてモータ2を運転したときのモータ電流を観測し、これとブレーキ正常解除時電流との大小関係に基づいてブレーキが解除できたか否かを判定する。
【0032】
ブレーキコイル電圧変更部13は、ブレーキ解除判定部12がブレーキは解除されていないと判定したとき、ブレーキコイル115に印加するブレーキコイル電圧を、ブレーキ解除指令を前回受信したときに印加したときよりも大きい値に変更する。摩擦板が摩耗して薄くなるにつれてブレーキ解除にはより大きなブレーキコイル電圧が必要となるので、本発明においては、ブレーキコイル電圧変更部13は、ブレーキ解除判定部12がブレーキは解除されていないと判定する度に、ブレーキコイル電圧を、前回よりも大きな値に変更する。変更後のブレーキコイル電圧は、ブレーキを解除できる値に設定され、当該「ブレーキを解除できる値」と「前回印加したブレーキコイル電圧の値」との差分は小さいほど好ましい。このように、本発明では、摩擦板の摩耗の度合いに応じてブレーキコイル電圧を徐々に大きな値に変更していくので、従来のようにブレーキ解除のためにあるいいは摩擦板の寿命予測のために無駄に電力を消費することはない。また、不必要に大きなブレーキコイル電圧をブレーキコイル115に印加しないため、従来に比べてブレーキコイル115の寿命が延びるという利点もある。変更後のブレーキコイル電圧の値は、変更履歴記憶部14、警報部19およびブレーキコイル115へ送られる。なお、ブレーキコイル115に関しては、ブレーキコイル電圧変更部13は、ブレーキコイル115にブレーキコイル電圧を印加する直流電源装置(図示せず)に対し、ブレーキ解除指令を前回受信したときに印加したときよりも大きい値のブレーキコイル電圧を出力するような指令を行うことになる。
【0033】
変更履歴記憶部14は、ブレーキコイル電圧変更部13による変更後のブレーキコイル電圧およびそのときの変更日時を記憶する。変更履歴記憶部14に記憶する「変更日時」としては、例えば「年」、「年月」もしくは「年月日」に関する情報であり、より詳細に変更履歴を記録するとすれば、これに加えてさらに「時」、「時分」もしくは「時分秒」に関する情報を含めてもよい。
【0034】
故障時ブレーキコイル電圧記憶部17は、ブレーキコイル115にブレーキコイル電圧を印加することで発生する電磁力によっても摩擦板からアマチュアを引き離すことができないときの当該ブレーキコイル電圧を、故障時ブレーキコイル電圧として記憶する。故障時ブレーキコイル電圧は、摩擦式ブレーキ装置100内の摩擦板の寿命に対応するものである。例えば、過去に寿命が到来した(すなわち摩擦板が薄くなってブレーキ解除ができなくなった)摩擦式ブレーキ装置100について、実験により、摩擦板からアマチュアを引き離すことができたときのブレーキコイル電圧を測定し、この測定値よりも少し小さい値を、「故障時ブレーキコイル電圧」として設定すればよい。故障時ブレーキコイル電圧の設定の際には、摩擦式ブレーキ装置100の規格表に規定された寿命データについても参考にしてもよい。
【0035】
寿命予測部15は、変更履歴記憶部14に記憶されたブレーキコイル電圧および変更日時と、故障時ブレーキコイル電圧記憶部17に予め記憶された故障時ブレーキコイル電圧とに基づいて、摩擦式ブレーキ装置100の予測寿命を計算する。すなわち、
寿命予測部15は、変更履歴記憶部14に記憶されたブレーキコイル電圧V
xおよび変更日時t
xについて情報に基づき、ブレーキコイル電圧変更部13により変更されるブレーキコイル電圧が、いつ、故障時ブレーキコイル電圧V
fに達するかを予測計算する。予測計算には、線形近似もしくは最小二乗法などの統計学的手法を用いればよい。線形近似を予測計算に用いた例を説明すると、故障時ブレーキコイル電圧V
fを30[V]としたときにおいて、ブレーキコイル電圧V
1=24[V]およびこのときの変更日時t
x1=2015年4月、ブレーキコイル電圧V
2=25[V]およびこのときの変更日時t
x2=2015年10月の場合、線形的に考えるとブレーキコイル電圧が1[V]上昇に6ヶ月かかっているため、寿命が到来するのは5[V]上昇する30ヶ月後であると予測できる。ここでは、線形近似について説明したが、この線形近似において例えばある電圧区間は重み付けをするとった変形を加えてもよい。
【0036】
表示部18は、寿命予測部15により計算された予測寿命を表示する。またさらに、表示部18は、寿命予測部15により計算された予測寿命に基づき、摩擦式ブレーキ装置100の摩擦板の交換を促す情報を表示するようにしてもよい。表示部18により、作業者は、摩擦式ブレーキ装置100の摩擦板の予測寿命を知ることができるので、摩擦板の寿命が到来する前に(摩擦式ブレーキ装置100が故障する前に)、摩擦板を交換することができる。摩擦板の交換を適切な時期に行うことができるようになることで、保守作業を効率化することができるとともに、予備用の摩擦板の在庫を減らすこともできる。表示部18として、例えば、パソコン、携帯端末、タッチパネルなどのディスプレイやモータ駆動装置1に付属のディスプレイなどがあり、例えば予測寿命を文字や絵柄にてディスプレイに表示する。またあるいは、表示部18について、プリンタを用いて紙面等にプリントアウトして表示させる形態をとってもよい。また、表示部18に代えて、もしくは表示部18とともに、スピーカ、ブザー、チャイムなどのような音を発する音響機器にて予測寿命を作業者に通知してもよい。
【0037】
警報部19は、ブレーキコイル電圧変更部13による変更後のブレーキコイル電圧が、故障時ブレーキコイル電圧記憶部17に予め記憶された故障時ブレーキコイル電圧を超えたとき、「ブレーキ装置が故障した」と警報する。警報は表示や音によって行われる。警報部19の具体例としては、パソコン、携帯端末、タッチパネルなどのディスプレイやモータ駆動装置1に付属のディスプレイ、スピーカ、ブザー、チャイムなどのような音を発する音響機器などがある。また例えば、警報部19を、上述の表示部18と一体のものとして実現してもよい。
【0038】
なお、本実施例では、モータ駆動装置1に表示部18および警報部19の両方を設けたが、いずれか一方を省略してもよい。
【0039】
図2は、本発明の実施例によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。
【0040】
まず、ステップS101において、ブレーキ正常解除時電流の値をモータ電流記憶部16に記憶する。上述のようにブレーキ正常解除時電流の値は、モータ駆動装置1を実際に運用する前に、予め実験により取得されるものである。実験では、モータ2のブレーキが正常に解除されている状態において所定負荷にてモータ2を運転し、このときモータ電力供給部20からモータ2へ流れ込むモータ電流をモータ電流検出部11により検出し、この検出値に所定のマージンを加えた値を「ブレーキ正常解除時電流」として設定し、これをモータ電流記憶部16に記憶しておく。
【0041】
次いで、ステップS102において、ブレーキコイル115にブレーキコイル電圧を印加することで発生する電磁力によっても摩擦板からアマチュアを引き離すことができないときの当該ブレーキコイル電圧を、故障時ブレーキコイル電圧として故障時ブレーキコイル電圧記憶部17に記憶する。例えば、過去に寿命が到来した(すなわち摩擦板が薄くなってブレーキ解除ができなくなった)摩擦式ブレーキ装置100について、実験により、摩擦板からアマチュアを引き離すことができたときのブレーキコイル電圧を測定し、この測定値よりも少し小さい値を、「故障時ブレーキコイル電圧」として設定し、これを故障時ブレーキコイル電圧記憶部17に記憶しておく。
【0042】
なお、上述のステップS101とS102とは入れ替えて実行してもよい。
【0043】
ステップS103では、ブレーキ解除判定部12は、モータ2の駆動を統括制御する制御部(図示せず)からブレーキ解除指令を受信したか否かを判定する。ブレーキ解除指令を受信した場合、ステップS104へ進む。
【0044】
ステップS104において、モータ電力供給部
20は、ブレーキコイル115にブレーキコイル電圧を印加した状態において、モータ2に交流電力を供給してモータ2を所定負荷にて運転する。ここで、「所定負荷」とは、ステップS101においてモータ電流記憶部16に記憶されたブレーキ正常解除時電流の値を取得する際に用いられたものと同一のものである。
【0045】
ステップS105では、モータ電流検出部11は、モータ電力供給部20からモータ2へ流れ込むモータ電流を検出する。
【0046】
ステップS106は、警報部19は、ブレーキコイル電圧が、故障時ブレーキコイル電圧記憶部17に予め記憶された故障時ブレーキコイル電圧より大きいか否かを判別する。ブレーキコイル電圧が、故障時ブレーキコイル電圧より大きいと判定された場合はステップS119へ進み、故障時ブレーキコイル電圧以下と判定された場合はステップS107へ進む。
【0047】
ステップS119では、警報部19は、「ブレーキ装置が故障した」と警報する。
【0048】
ステップS107では、ブレーキ解除判定部12は、ステップS105においてモータ電流検出部11が検出したモータ電流が、モータ電流記憶部16に予め記憶されたブレーキ正常解除時電流よりも大きいか否かを判別する。ステップS105においてモータ電流検出部11が検出したモータ電流がブレーキ正常解除時電流よりも大きいと判定された場合はブレーキは解除されていないと判定してステップS108へ進む。ステップS105においてモータ電流検出部11が検出したモータ電流がブレーキ正常解除時電流以下と判定された場合、ブレーキは解除されたと判定してステップS113へ進み、ステップS113においてモータ電力供給装置20によりモータ2に交流電力を供給してモータ2を通常運転する。
【0049】
ステップS108では、ブレーキコイル電圧変更部13は、ブレーキコイル115に印加するブレーキコイル電圧を、ブレーキ解除指令を前回受信したときに印加したときよりも大きい値に変更する。上述のように、変更後のブレーキコイル電圧は、ブレーキを解除できる値に設定されるので、当該「変更後のブレーキコイル電圧」により、摩擦式ブレーキ装置100の摩擦板はアマチュアおよび端板からの接触から解放され、モータ2は交流電力が供給されれば自由に回転できる(ステップS113の通常運転)。
【0050】
続くステップS109では、変更履歴記憶部14は、ステップS108におけるブレーキコイル電圧変更部13による変更後のブレーキコイル電圧およびそのときの変更日時を記憶する。
【0051】
ステップS110では、寿命予測部15は、寿命予測指令を受信したか否かを判別する。寿命予測指令は、例えば、作業者によるキーボード、マウスもしくはタッチパネルなどの入力装置の操作またはスイッチ押下によって出力される。寿命予測指令を受信したと判定された場合はステップS111へ進む。寿命予測指令を受信しなかったと判定された場合はステップS113へ進む。なお、ステップS110を省略し、ステップS109の後は直接ステップS111へ進むようにしてもよい。
【0052】
ステップS111では、寿命予測部15は、変更履歴記憶部14に記憶されたブレーキコイル電圧および変更日時と、故障時ブレーキコイル電圧記憶部17に予め記憶された故障時ブレーキコイル電圧とに基づいて、摩擦式ブレーキ装置100の予測寿命を計算する。
【0053】
ステップS112では、表示部18は、寿命予測部15により計算された予測寿命を表示する。その後、ステップS113へ進む。
【0054】
ステップS113の開始時点では、ブレーキコイル115にブレーキコイル電圧が印加されているので、摩擦式ブレーキ装置100の摩擦板はアマチュアおよび端板からの接触から解放されており、モータ2の通常運転として交流電力が供給されればモータ2は自由に回転できる。
【0055】
ステップS114では、摩擦式ブレーキ装置110は、モータ2の駆動を統括制御する制御部(図示せず)からブレーキ指令を受信したか否かを判別する。ブレーキ指令を受信したと判定された場合、ステップS115において、摩擦式ブレーキ装置110は、ブレーキコイル115へのブレーキコイル電圧の印加を止める。これにより、アマチュアはバネの弾性力により摩擦板に強く押し付けられることになり、摩擦板はアマチュアと端板とで挟まれて回転できなくなり、モータ2にブレーキがかかった状態となる。
【0056】
ステップS116では、寿命予測部15は、寿命予測指令を受信したか否かを判別する。寿命予測指令を受信したと判定された場合はステップS117へ進む。寿命予測指令を受信しなかったと判定された場合はステップS103へ戻る。なお、ステップS116を省略し、ステップS115の後は直接ステップS117へ進むようにしてもよい。
【0057】
ステップS117では、寿命予測部15は、変更履歴記憶部14に記憶されたブレーキコイル電圧および変更日時と、故障時ブレーキコイル電圧記憶部17に予め記憶された故障時ブレーキコイル電圧とに基づいて、摩擦式ブレーキ装置100の予測寿命を計算する。
【0058】
ステップS118では、表示部18は、寿命予測部15により計算された予測寿命を表示する。その後、ステップS103へ戻る。なお、本実施例では、ステップS116〜S118の処理群を、ステップS115の後に実行するものとしたが、これに代えて、ステップS113とステップ
S114との間、あるいはステップS114とステップ
S115との間で実行するようにしてもよい。
【0059】
なお、本実施例では、寿命予測処理として、ステップS110〜S112の処理群とステップS116〜S118の処理群の2つを設けたが、いずれか一方の処理群を省略してもよい。
【0060】
上述のブレーキ解除判定部12、ブレーキコイル電圧変更部13、および寿命予測部15は、例えばソフトウェアプログラム形式で構築されてもよく、あるいは各種電子回路とソフトウェアプログラムとの組み合わせで構築されてもよい。例えばこれらをソフトウェアプログラム形式で構築する場合は、モータ駆動装置1がモータ2を駆動制御するためにモータ駆動装置1内に設けられる演算処理装置をこのソフトウェアプログラムに従って動作させることで、上述の各部の機能を実現することができる。また、上述の変更履歴記憶部14、モータ電流記憶部16、および故障時ブレーキコイル電圧記憶部17は、モータ駆動装置1がモータ2を駆動制御するためにモータ駆動装置1内に設けられるメモリ(記憶装置)内に構築すればよい。また、上述のモータ電流検出部11も、モータ駆動装置1がモータ2を駆動制御するためにモータ駆動装置1内に設けられるものである。また、上述の表示部18および警報部19についても、モータ駆動装置1に既に設けられているものを流用してもよい。このように、本発明は、特に追加のハードウェア部品を必要としないので、装置が大型化することはなく低コストである。また、新たなハードウェア部品を別途設ける必要がないことから、既存のモータ駆動装置にも後付けで適用することも可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 モータ駆動装置
2 モータ
11 モータ電流検出部
12 ブレーキ解除判定部
13 ブレーキコイル電圧変更部
14 変更履歴記憶部
15 寿命予測部
16 モータ電流記憶部
17 故障時ブレーキコイル電圧記憶部
18 表示部
19 警報部
20 モータ電力供給部
100 摩擦式ブレーキ装置
115 ブレーキコイル